せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
よろしい、ならば救済だ!!!
というわけで、またまた番外編です。読んでも読まなくても本編を読むのには支障はないですが、zeroにさらなる救済を求める人は読んでも問題ないかもしれない。
‡バーサーカーサイド‡
「こら!お前が居眠りしてどうするんだ!」
「……うご?うごご……?(´ε` )」
机で居眠りしてると、雁夜おじさんに後ろ頭を引っぱたかれて起こされた。こっちは寝ずにおじさんのために頑張ってるんだから、ちょっとは労ってくれてもいいじゃない。雁夜おじさんの魔力量が少ないからセーブもしないといけないんだし、もう少し寝かせてよ。
あー、眠気が凄い。波みたいに押し寄せてくる。夢の中でまた寝るってのも妙な話だけど、眠いものは眠いんだから仕方がない。うむむ、やっぱり限界。悪いけどもうちょっとだけ寝かせてくれ。今日の晩飯はいつもより腕を振るうからさ!
「お前なあ、居眠りするサーヴァントなんてきっと前代未聞だぞ!?大食いのサーヴァントくらい有り得ないっつーの!!たまには見張りくらいして―――……おい……」
「また寝ちゃったね。きっと疲れてるんだよ。もう少し寝かせておいてあげよう。それに、なんだかとっても可愛いよ」
「うごご……(-ω-)zzZ」
「はぁ……。あと30分経ったら起こすから、ちゃんと起きるんだぞ」
おkおk。把握しますた。それじゃあ、おやすみ~。
‡ショタ嗣サイド‡
コロシテ―――
大好きな
「シャー、レイ……」
怖いの―――
自分の手じゃ、出来ない―――
だから、お願い。キミが、殺して―――
今ならまだ、きっと間に合う―――
「そんな……」
銀のナイフが切嗣の足元に投げられる。刀身が放つ冷たい輝きに気圧されるように、かぶりを振って後退る。
彼には出来なかった。シャーレイを家族以上の存在と、大切な女性と想っていた彼に、彼女を殺すなど出来なかった。例え、
震える切嗣の目の前で、シャーレイが自らの腕に深く牙を立てる。ブチュリ、と肉を食い千切る音が鼓膜に滑りこむ。
お願いだから―――
もう―――駄目だから―――抑えきれなくなる前に―――早く―――
オネガイ―――
「う―――うわぁああああああああ!!!」
変わり果ててしまった少女から目を背けるように、決断を迫るナイフから逃れるように、切嗣はその場から走り去った。この悪夢を解決してくれる大人がいるはずだと自分を奮い立たせ、ただひたすらに駈けた。冷静な自分が「彼女のことは諦めろ」と囁く声を己の悲鳴で掻き消しながら、必死に神父の教会を目指した。
だから、背後のシャーレイに起きた変化に気付くこともなかった。
‡シャーレイサイド‡
「いったい全体、何がどうなってんだ?雁夜おじさんはどこだ?桜ちゃんは?」
ポニーテールの頭をボリボリと掻いて、よっこらしょと億劫に立ち上がる。眠るまでは兜を被ってたはずなんだけど、今は生身のようだ。なんだか口の中に鉄の味を感じる。ついさっきまで自分の腕を噛んでたせいだろう。どうしてそんなことをしていたのやら。
足元には無残に食い散らかされたケンタッキー(調理前)が散乱してる。近くに落ちていたナイフを拾って刀身を覗けば、赤い目をした少女がこちらを覗き返してきた。
「ははあ、なるほど。今度はシャーレイに憑依する夢か。夢の中で眠ってまた夢を見るってのも変な話だな」
栗色の髪と白蝋のような不気味な肌は、原作の描写そのまんまだ。静脈が浮き上がっている様子は、まるで顔中に亀裂が走ってるみたいだ。バーサーカーとなった俺は雁夜おじさんの家で居眠りをしていたはずが、気付いたら死徒化したシャーレイになっていたというわけだ。まったく訳がわからないぜ!
「夢の中の夢とはいえ、俺の夢には違いない。ここでも好きにさせてもらおうじゃないの!」
そう言い放ち、足元のケンタッキー(調理前)をひょいパクと少しつまみ食いして腹を満たすと鶏小屋を飛び出してすぐさま遁走を開始する。死徒化したこの身体は身体能力が高いから、バーサーカーの時には及ばないまでもそれなりに速く動けるのだ。
原作通りなら、この後すぐに神父からの連絡で聖堂教会がやって来て、その動きを嗅ぎつけた魔術協会が追いかけてくるはずだ。そして二大勢力が屍食鬼殲滅と証拠隠滅のためにこの島を亡き物にして、それから逃れた切嗣は衛宮矩賢―――自分の父ちゃんを殺してナタリアさんと一緒に島を出るんだっけか。
俺は誰かを屍食鬼化させたりなんかしてないけど、俺がシャーレイに憑依する前にすでに誰かを襲ってたのかもしれないし、「屍食鬼化してようがいまいがそんなの関係ねえ!」と問答無用で二大勢力が住人を皆殺しにするかもしれない。それに巻き込まれる前に脱出しなければ命はない。殺されてたまるもんか!シャーレイはクールに去るぜ!
「たしか衛宮父ちゃんがボートを隠してるはずなんだよな。お、あったあった」
海岸をウロウロしていると、迷彩柄のシートに隠された掘っ立て小屋の中に小型のモーターボートを見つけた。闇夜でも視界がハッキリ見えるようになってるから案外簡単に見つけられた。死徒便利すぎワロタ。
「なんじゃこりゃ!ろくに整備もされてないじゃないか!よしよし、ここは舶用機関整備士とマリン船体整備士と船舶電装士の資格を持つ俺が手を加えてやろうじゃないか!」
衛宮父ちゃんは機械には精通していなかったようで、小型のモーターボートは「動けばいい」というような状態で放置されていた。これじゃあ、洋上で動かなくなっても文句は言えない。幸いなことに、掘っ立て小屋の中には工具やガラクタみたいな機械が転がってる。これを役立てないわけにはいくまいて!
「~~♪~~♪」
トンテンカントンテンカンとリズムをつけながらモーターボートを改造していく。機械いじりはいいね。心が洗われるようだ。そうだ、この夢が覚めて雁夜おじさんのところに戻れたら、どこかから車を持ってきて改造しよう。切嗣さんのとこから取ってきた武器も取り付けるなり何なりすれば、もしもの時に良い戦力になりそうだ。ギルガメッシュのヴィマーナもライダーのゴルディアス・ホイールも健在だしね。名前は、そうだなぁ、『バーサーカー・ホイール』なんていいかもしれん。
「んむ?」
ふと、何やら複数の声がこちらに近づいてることに気付いた。
「こっちから物音がしたぞ!」「下手くそな歌も聞こえた!」「魔術協会の連中もいるぞ!先を越されるな!」
「聖堂教会の奴らがいるぞ!」「屍食鬼がいるのかもしれん!」「奴らより先に殺せ!」
ムカッ!カラオケ歌唱力検定で一級をとった俺の美声を下手くそだとな!?耳が腐ってんじゃないのか!!
そっと窓から顔を出してみると、向こうの方からローブを着込んだ男たちとダークスーツの男たちが地面を滑るように駆け寄ってきてた。どちらも人間とは思えないくらい素早い動きだ。両組織から派遣された殺し屋だろう。もうこっちに気付いたのか。今の俺じゃあ太刀打ち出来ずに瞬殺されてしまう。ここはさっさと退散するに限るぜ。あばよ、とっつぁ~ん!
「シャーレイ号、発進!!」
手元のボタンを押した瞬間、ドラム缶を利用して造ったロケットが点火されて炎が一気に噴出する。ズドン!という爆発音を後方に置き去りにして掘っ立て小屋の壁を突き破り、そのまま空中に弧を描いて海面に激しく着地する。
使い終わったロケットを切り離してお手製の安定翼を展開させ、
「逃げたぞーっ!」「追え!逃がすな!」「絶対に殺せ!」
「そう上手くはいかないんだなこれが。3、2、1、」
ドッカーン!!!
「「「「「「ぎゃ――――っ!?」」」」」」
掘っ立て小屋の燃料タンクに仕掛けた手作りの時限爆弾が時間ピッタリに爆発して、海岸に巨大な炎の柱が現れる。海岸が昼間のように明るくなって、島全体が震えるほどの衝撃波を間近から受けた殺し屋の連中が宙高くに吹っ飛んでいくのが微かに見えた。
「ザマーミロ!他人の歌を馬鹿にするからそういう目に遭うんだ。反省しろよ!
……むむ、なんだか吐き気がするな。それに全身が痒い。そういえば死徒って吸血鬼みたいなもんだから水とか苦手なんだっけか?」
急に痒くなった肌をボリボリと掻きながら星座を見て位置と方角を確認して近場に島がなかったかを思い出す。こぐま座があの辺だから、もうちょっと北西に進めば大きな島があったはずだな。燃料はなんとか持ちそうだ。
とりあえず生き延びれそうだということで心に余裕が生まれたら、心配になるのはショタ嗣くんのことだ。凄い悲鳴を上げて俺から逃げていく悲しそうな背中が見えたし、アイツはこれから大変な人生を送ることになるわけだ。子どもの目が死んでいくのは気の毒だし、なんとかしてやりたいという気持ちもある。
「よし、決めた!ボチボチ死徒ライフを楽しんでからチャチャッと助けてやりますか!待ってろよ、ケリィ!!」
夜明け間近の暁の海を爆走しながら、俺は高らかに宣言したのであった!!
―――あちちっ!日光痛ぇ!死徒不便すぎワロタ!!
‡ショタ嗣サイド‡
『ひょっとすると、私ももう、ヤキが廻ったのかも知れないね。
こんなドジを踏む羽目になったのも、いつの間にやら家族ゴッコで気が緩んでたせいかもな。だとすればもう潮時だ。引退するべきかねぇ……』
「―――仕事をやめたら、あんた、その後はどうするつもりだ?」
魔術協会を相手に商売する、フリーランスの女ハンター―――それが、ナタリア・カミンスキーだった。実の父を殺した切嗣は、アリマゴ島から脱出した後はナタリアの元でハンターの助手として過ごした。同年代の少年少女らが多感な思春期を遊戯や勉学で過ごすところを、切嗣は徹底的な殺人の技術を叩きこまれて育った。彼の目から若者の光は消え、沈鬱に枯れたガラス玉のような眼球があるだけだ。
世界ではアリマゴ島で起きた悲劇は珍しくもなく、今この瞬間も身勝手な魔術師たちが災厄を振りまいては二大組織がそれを抹消し、時には利用しようと暗躍して大勢を殺し尽くしている。それを知ってしまった今、たった一人の肉親をこの手で殺したことに価値を見出そうとするのなら、父と同じ異端の魔術師を全て殺し尽くす必要があった。
『失業したら―――ハハ、今度こそ本当に、母親ゴッコぐらいしかやることがなくなるなぁ』
修羅の道を決意した少年を、ナタリアは厳しい師として鍛え続けた。父親を殺させてしまったことを悔いた彼女は、甘やかすことも手抜きもせず、本気になって切嗣に己の技術を仕込み、見守ってきた。血と硝煙に塗れた日々ではあったが、互いが互いを心の中では家族のようだと思っていた。
「あんたは―――僕の、本当の家族だ」
その家族が必死に操縦する旅客機を、切嗣は洋上に浮かべたモーターボートから携帯式ミサイルで狙っていた。ブローパイプ・ミサイルの照準器を覗きこみ、遥か向こうに見える小さな機影―――エアバスA300にレティクルを合致させる。
この日、ナタリアは封印指定の魔術師をジャンボ機の中で暗殺する仕事についていた。しかし、魔術師は死に際に使い魔の蜂を解放させ、乗客を次々に
たった一人を犠牲にして大勢が助かるのなら、そうすべきだ。あの時、自分がシャーレイを殺しておけば大勢が死ぬことはなかった。その失敗を繰り返してはならない。
ナタリアと過ごした日々が瞬く間に脳裏を過るが、引き金にかけられた切嗣の指が狂うことはない。
ついに機影が射程圏内に入った。照準器が小さな電子音を立ててターゲット
―――ゴボゴボゴボ
「……え?」
不意に、船体のすぐ横の海面がボコボコと泡立った。海底火山からの噴出にしては小さいし、海棲生物によるものにしては大きい。例えるなら、これは―――ダイバーが浮き上がってくる際に見られる前兆によく似ている。
その符号に気付いた切嗣は一瞬だけ逡巡し、ロックを解除したミサイルから手を離して腰の9ミリ拳銃を抜き放つと海面に突きつける。睨み据える視界の中で、何者かの黒い影がゆっくりと海面に近づいてくる。
果たして海面から顔を出したのは、
「―――ぷはぁ!やっほー、ケリィ。元気してた?」
「……は?」
かつて恋した女で、かつて殺してやれなかった死徒が、そこにいた。
鬱展開を見ると、無性にぶっ壊したくなる。助けを求めて手を伸ばしながら消えていくキャラクターを見ると、何とかして手を差し伸べたくなる。そんな願望から生まれたのが、この憑依バーサーカーです。
世界の理をくぐり抜け、どんな障害もご都合主義で蹴破り、運命さえも乗り越えて、雁おじの首根っこを掴んで無理やりハッピーエンドの方向にぶん投げる。そんなキャラクターを目指しています。