せっかくバーサーカーに憑依したんだから雁夜おじさん助けちゃおうぜ! 作:主(ぬし)
「わーい!上ミノだ!いただきまーす!」
(カチッ)
「ぐぁああああ―――ッ!!」
みたいなことになったら怖いじゃん。
‡雁夜おじさんサイド‡
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「バーサーカーの姿が変わったと思ったら 桜ちゃんになっていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった…
頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
「いい、バーサーカー?変な人について行っちゃダメなんだよ!わかった!?」
「ぐるる」
「いやいや、バーサーカーは囮なんだからむしろ付いて行かないとダメなんだけど」
桜に変身したバーサーカーを囮にしてキャスター陣営をおびき寄せる、というバーサーカーの作戦に従い、夕刻、彼が間桐邸を出発する。自分そっくりの少女を悪漢に襲わせるという作戦に桜が不満を持つかもしれないと不安になったが、「バーサーカーならいいよ」と快く了承してくれた。でも頬を染めながら言わないで欲しかったな。おじさん凄く不安になっちゃうよ。
「あ、そうだ。お外に出るんだからお化粧もしなくちゃね。ちょっとこっち来て!」
「うごご〜」
桜は自分と同じ姿になったバーサーカーに対して妹のように甲斐甲斐しく接している。やはり、年下の肉親が欲しいという気持ちがあったのだろう。自分も末っ子なのでその気持は良くわかる。見ていて微笑ましいが、片方の中身が全身鎧の大男なのだと思うと非常にシュールだ。
変身後のバーサーカーは本当に桜に瓜二つだ。瞳の色が炎のように揺らめく赤に染まっていることと、声質が少女のソレになっても相変わらず「ぐるる」「うごご」しか話せないこと以外は。
(武器の扱いに長け、手に持ったものを自分の宝具に出来て、しかも変身能力まで持つ騎士の英霊、か。いったい誰なんだ?)
雁夜はフリーライターを生業にしていたため、各地の歴史や伝説、それらに纏わる雑学も人並み以上に諳んじている。幾人か該当しそうな英霊の候補が思い浮かぶものの、目の前の幼女化した騎士に当てはまりそうな者はいなかった。
(そもそも、和食を作ったり、栄養士やら造園技能士の資格を持ってる騎士なんているわけないしな)
そんなに資格をとりまくっているのは暇を持て余しているなんちゃって大学生くらいなものだ。当然、このバーサーカーの中身が大学生だということは有り得ない。
これ以上考えてもわかりそうにないと断じ、雁夜は思考を放棄した。魔術師として未熟な自分が敵による催眠や拷問に屈し、バーサーカーの真名を口にしてしまうという最悪の可能性も考慮し、自分は知らない方がいいとも考えた。知らなくても支障を来すことがないのは、先の港湾区画の戦闘で証明されたバーサーカーの実力でよく理解できた。今、桜に化粧を施されている幼女の姿は仮の姿であり、本当は誰よりも優れた猛者なのだ。
「こうやってベージュのシアーリップで清楚なナチュラルキレイを演出しつつ、同じ色のちょっとマットなリップペンシルで唇の輪郭をなぞるとふっくらして見えてすごく女っぽくなるの。香水もランバンマリーのオードパルファムで艶っぽさを強調して、ホワイトのロングスカートとのギャップを際だたせると男を惹きつけるのに効果的なのよ」
「うごごぉ……(´Д`;)」
「動いちゃダメだよ、バーサーカー!くすぐったいけど我慢して!」
……本当は誰よりも優れた猛者なのだ。
「……ねえ、桜ちゃん。そのオシャレの方法も凛ちゃんから聞いたの?」
「ううん、お母さんから。『いい男を見つけるためには清楚な女を演じればいいのよ』って」
「葵さんんんんんんんんん!!??」
恋焦がれていた幼なじみの思いがけない一面を知って崩れ落ちる雁夜をよそに、ピンクのランドセルを背負わされたバーサーカー(幼女)が玄関の戸を開ける。
「ぐるる!(`・ω・´)」
「行ってらっしゃい!ヘンタイどもの首をねじ切って晒し首にしてやってね!」
「俺には……好きな……人が……」
何とも形容しがたいカオスな出陣式を背に、バーサーカー(幼女)はいざ戦場へと間桐邸を後にした。
‡アサシンサイド‡
あ…ありのまま(ry
間桐邸を一望できる高木の頂上で、間桐邸の監視を下命されたアサシンがあんぐりと口を開けて硬直していた。
それもそのはず。バーサーカーが玄関から出てきたと思ったら、幼女の姿になっていたからである。暗殺者として鍛え抜いた第六感はそれがバーサーカーであると明言しているが、暗殺者として何より信頼してきた観察眼もまた、それが幼女であると宣言している。
(つまり、バーサーカーの中身は幼女だったということか?いやしかし、質量的に無理がある。だが目の前のバーサーカーは幼女の姿をしている。やはりバーサーカーは幼女だったのか?いや、しかし幼女が鎧の大男なのはおかしい。だが目の前の———)
———そのうちアサシンは考えるのをやめた。
時間は戻り、聖杯戦争二日目の夜。
アインツベルンの森
‡セイバーサイド‡
セイバーは駆けていた。闇が立ち込める暗く深い森を獅子のように駆け抜け、倒すべき敵に向かってひたすらに走る。月明かりに照らされ、白銀の鎧と頬を伝う汗がキラリと光る。
『———セイバー、キャスターとバーサーカーを倒して』
バーサーカーがここにいることはセイバーにも切嗣にも完全に想定外だった。キャスターを討滅せよ、という老神父の指示があってからまだ半日しか経っていないというのに、どうやってキャスターの位置を特定できたのか。そも、どのような隠蔽工作を行えばアインツベルンの森を埋め尽くす索敵術式や切嗣の監視装置群を突破できたというのか。その手腕には舌を巻くどころの話ではなく、セイバーはバーサーカーのマスターの途方もない優秀さに感嘆し、そしてそれを恨んでいた。
(それだけの見識がありながら、どうしてバーサーカーを解き放ったのだ……!)
子どもたちという人質を有したキャスターにバーサーカーをぶつければ、間違いなく子どもに被害が及ぶ。一方は底知れぬ狂気に染まり、一方は己を律する理性を失っている。どちらとも、子どもの生命を尊重することなど少しも考えていない。身を守る術すら満足に知らない子どもたちが二人の戦いに巻き込まれればどうなるかは、言うまでもない。一刻も早くつかなければ、手遅れになる。
(せめて、せめて一人だけでも生き残っていてくれ……!)
セイバーとて、子どもの死体を見たことがないわけではない。戦場ではいつも弱い者が先に死ぬ。彼女が騎士として剣を振るった戦場では、いつも小さな骸が横たわっていた。狂気が満ちる戦場では、人はいつでも醜い餓鬼になれてしまう。
だからこそ、『証明』がいるのだ。例えどんな逆境においても、人間は貴く、凛々しく、尊厳を持って立っていられるのだということを身を持って示す見本。簡単に地獄に変わる戦場において、弱き者を背に護る勇猛なその後ろ姿で人々に人間としての矜持を思い出させる勇者。
それが『騎士』だ。戦場の華であり、指針であり、手本であり、餓鬼道に堕ちる者の手を掴む最後の希望なのだ。
(それが、騎士としての義務。騎士の王である私の義務だ!)
怒りよりも義務感に背を押され、セイバーは一陣の風となる。
持ち前の豊富な魔力をジェット噴射のように背から噴出し、立ちはだかる木々を紙一重でかわして突き進む。人の尊厳を守るために。騎士の誇りを護るために。
血臭がひときわ濃くなる。何度嗅いでも不快な、戦場の臭い。チリチリと肌を刺す殺気が、戦いの場が近いことを知らせる。そして鼓膜に滑りこんでくる、年端もいかぬ子どもたちの、切羽詰まった甲高い悲鳴。
セイバーの脳裏を過ぎる、かつての凄惨な戦場の光景。犯され、いたぶられ、弄ばれ、父母に助けを求めて泣きながら死んでいった、いたいけな子どもたちの苦しげな死相。
「お母さん」と小さく呟いて事切れた、腕の中の小さな命———。
「邪魔だあああああああ!!!」
ついに焦燥を抑えられなくなったセイバーが前方を塞ぐ大木の群れを斬撃で切り飛ばす。倒れ行く大木を剣風で吹き飛ばし、怒涛の如き勢いで虐殺の舞台に踏み込む。
次の瞬間、目の前に広がるであろう酸鼻な光景に覚悟を決めて前方を睨み据え、
———そこには、『理想の騎士』の漆黒の背中があった。
焼肉屋さんで出てくる卵スープってなんであんなに加熱してんの?客の舌まで焼肉する必要ないんだよ?