にじさんじ的な物語   作:ていおう部長

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僕、毎年インフルエンザになるんですよ。


触って確かめて。

「よっこいせ…」

と私は腰を上げる。今日もいつも通り学校へ向かおうと玄関で靴を履いたところだ。

「あ…あれ?」

と急に立ち眩みがする。

「(貧血かな…)」

ともう一歩踏み出そうとするが、足は前へ出ず。

私はその場に座り込んでしまった。

「(なんで?)」

全身に力が入らず、頭がボーっとする。

恐る恐る自分の首元に手を当てると、普段とは比べようのないくらいの温もりがあった。

「こりゃ…熱かな…」

と呟き、私はその日学校を休んだ。

 

 

学校に欠席の連絡を入れて、ベッドで横になる。

今では、横になっていないと気持ちが悪く吐いてしまいそうだ。

「…」

寒気もすごい。これは本格的な熱だ。

「早く寝て、早く復活しましょう!」

委員長の私が長い間、学校を休む訳にはいかない。

早く治して一日でも早く復活しようと、今日は寝て身体を休めることにした。

私はベッドに潜り込んで、天井を見た。

こういう熱のときは、時間が流れるのが非常に遅い。

30分経ったと思いきや、5分も経っていなかったり。

「寝れないなぁ…」

身体は寝る気でいるのに、どうも眠れない。

風邪あるあるなのだろうか。

「そういえば、詩子おねえさんとのコラボ…後で、謝らなくちゃ…」

申し訳ない事をした。待ってくれていた視聴者もいるだろうし。

「はぁ…」

とため息をつくと、

「委員長!」

と詩子お姉さんの声が私の横から聞こえた。

「へ!? あぁ!?」

とそちらを向くと、そこには声の主、詩子お姉さんが居た。

「風邪、辛いですよね…私も結構学生時代は風邪ひいてたんですよ~」

と私の事はお構いなしに、詩子お姉さんは言う。

「それで、学校休んだときはですね。こういう本を読んで過ごしていたんですよ!」

と、彼女が取り出したのは…

「何この本…薄っ!」

と表紙に少年のイラストが描かれた本を私に差し出してきた。

「それでそれで、この本はですね。主人公のAがBの事を好きなんだけど言い出せないっていう典型的なツンデレで!!」

「は、はぁ…」

まずい、ついていけない。

「それで! こっちの本はすっごい純愛系の本でいいんですよ~」

と言って別の同じジャンルの本を差し出してくる。

「えぇ…」

今、私ができることは愛想笑いだけだ。

だが、体調が悪いのに笑顔なんか作るから、余計に気持ちが悪くなってきた。

「それで! それで! こっちが!!!」

と、詩子お姉さんはさらに速度を上げて、完全にショタ本について語る暴走特急と化していた。

「や、や、やめてぇ!!!!」

 

 

「やめて…ハッ!」

と目を開けると天井だった。

「ゆ…夢?」

と辺りを見回すが、詩子お姉さんの姿はない。

気付くと全身が汗でびっしょりだった。

「うわ…悪夢だ…」

熱を出したときは、なぜこんなに変な夢を見るのだろう。

しかも

「うぇ…夢の中での気分の悪さは継続ですか…」

寝てしまう前より、気分が悪くなってる。

と私は机の上に置いてあった水の入ったコップを掴んで、水を飲んだ。

「ふぅ…」

私にできることは今は何もない。こんな真昼間に私の相手をしてくれる人なんて居ないだろう。

「…」

ふと、私は気になった。

熱が治りやすくなる方法はあるのか? 

「調べよう…」

と私は『熱 早く 治す』と検索した。

すると、

『熱が出たときは腹筋をして汗をかけ!』

という記事が何件かヒットした。

「腹筋? バカじゃないの?」

熱の時に腹筋をしたら悪化するに決まってるじゃないか。

なんて思ってると、

「月ノさん? 月ノさん?」

と凛先輩がこちらに歩み寄ってきた。

「え? 凛先輩!? 学校はどうされたんですか…」

「そんなことより! はい!」

と言って、彼女は私の足を押さえ固定した。

「これはどういう…」

「今から腹筋です!」

と先輩は強く叫ぶ。

「えぇ…私今熱なんですけど…」

「やかましい!!!!」

と怒鳴られた。どうやら先輩は私を殺したいらしい。

「ほら、1!」

「いちっ…」

「はい 2!」

「に…ぃ…」

二回目にして早くも死んでしまいそうだ。

この人は悪魔か?

「どうしてこんなことさせるんですか!?」

素朴すぎる疑問だ。

多分誰でも私と同じ状況に陥ったら、こういうだろう。

すると、

「…腹筋しなさい」

と凛先輩は言った。

その声は冷たく、まるで尖った氷柱を投げつけられてるような気持ちになった。

「ほら! 早く! 遅い!」

「ひぃいい! もうやだぁ!!」

 

 

「ごじゅう…ろ…く…」

「ごじゅ…う…なな…」

「もう…死…ぬ…ハッ!?」

夢の中で死ぬ寸前、意識が遠のいたと思うと目が覚めた。

どうやらまた寝てしまっていたようだ。恐ろしすぎる夢だ。

もし夢が現実だったら、私は死んでいる。

「うぅ…気持ち悪いぃ…」

とさっきより気分が悪くなっている。

「悪夢…もう見たくないな…」

寝たら悪夢を見る。

だったら寝なければいいんじゃないか?

いや、それでは体が休まらない。

どうすればいいんだ!?

と脳内で自問自答をしていると…

「無駄ですよ」

と声が聞こえた。

「ヒィ…! 剣持さん!?」

「そう、あなたに名前を…刀をとられた男です」

「なんでここに居るんですか!?」

「あなたはね…これからもっと怖い悪夢を見るんです…」

と刀也はこちらに歩み寄ってくる。

そのスピードに合わせて私も逃げようとするが、体調のせいか身体が動かない。

「身体が…動かない…」

「言ったでしょ? 無駄ですよ」

「ちょっと…少し名前を間違えただけじゃないですか…」

「ちょっと? ふざけたことを言わないでください! あなたのせいで、私は力也という呼び名になってしまったんです!」

と刀也は悲しそうな顔を浮かべる。

確かに私がやってしまったことのせいで、彼は彼の名前で呼ばれる機会を奪ってしまった。

「あなたにね…天誅を下します…」

「ちょ…やめ…」

と彼は顎を近づけてくる。

このままでは彼の殺害者リストに私の名前が載ってしまう。

「動いて…」

と願いながら全身の筋肉に力を入れるが、まったく動けない。

「いやだあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

「うぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!」

「それ以上やったら! いわながさんに言いますよ!」

「もう! やめろ!!」

「ハッ!」

と目が覚める。もう何度この状況に陥ったか…

今回は一瞬で「私が悪夢をみていた」と理解できた。

窓の外を見ると夕方になって、空はオレンジ色に変わっていた。でも私の部屋は朝から変わらず、私一人だけだった。

ピンポーン

「え?」

家のベルが鳴って、来客が来たことを知らせた。

病人だからと言って無視はよくないと思い、玄関に行った。

「はーい」

と玄関を開ける。

そこには、

「やっほー。熱大丈夫?」

「楓ちゃん?」

「熱出たって言ってたから心配になって、お見舞いにきたんよ!」

と彼女は笑顔でいう。

だが、

「まてよ…」

「?」

彼女は不思議そうな顔をする。

「これは夢だな」

「はぁ!?」

今までの経験からして、誰かが私のもとに来ると私は決まって夢を見ていた。

楓ちゃんも例外ではない!

「だまされませんよぉ!」

と私は自信満々に指をさして言い放った。

「何が…」

「とぼけても無駄ですよ! 悪夢め! くらえぇ!!!」

と私は拳を強く握り、楓ちゃんに殴りかかる。

だが、

「う…」

と糸が切れた人形のように、急に全身の力が抜ける。

「ちょっと、美兎ちゃん! 美兎ちゃん!」

と彼女が私を呼ぶ声がどんどん遠のいていった。

「ほら…夢だったでしょ…」

「何わけわからんこと言うてるん…」

 

 

「…」

と目が覚める。私の視界には自室の天井がうつっていた。

「はぁ…」

今日は災難だった。

悪夢をこんなに連続で見るとは…

「もぉー!」

と言うが、私が何もできないのは、さっきと変わらない。

しかし、

「あれ?」

机に目を向けると、剥かれたリンゴが皿に盛られていた。

「誰が…」

と考えてると、自室のドアが開いて、

「あ、起きたんやな!」

「楓ちゃん? 夢? え?」

やばい、困惑してきた。

「何言っとるの…美兎ちゃん、私が来るなり飛び掛かってきて、倒れたんよ?」

どうやら、楓ちゃんは悪夢じゃないらしい。

「ほら、リンゴ食べ?」

と促され、リンゴを食べる。

風邪の時に食べる果物は何故かとても美味しく感じる。

「そういえばさ、私の他にもお見舞い来てたみたいやけど、気付いてた?」

「え?」

私の身に覚えはないが、楓ちゃんが、

「ほら、これ」

と彼女は手紙を二枚と数冊の薄い本を取り出した。

「詩子お姉さんがこれ持ってきて…凛先輩がこの手紙置いて行ってたよ。辛いけど頑張ってだって」

詩子さんと凛先輩は夢の中で出てきた。でも夢じゃなかった?

「あぁ! もう頭がこんがらがってきた…」

誰が居て、誰が居ないのか…

「楓ちゃん…」

「何?」

と私は混乱しすぎて何をしたらいいかわからなかった。

「楓ちゃんは…居るよね?」

と私は尋ねる。

「そりゃあ、おるやろ」

と笑いながら答える。でも、悪夢ばかり見ていた私は何も信じれない。

「ほんと?」

とさらに聞く。

「じゃあ…確かめる?」

と言って、楓ちゃんは私の手を掴んだ。

「ほら! 触れるし、暖かいやろ? 生きとるやろ?」

と楓ちゃんはいう。

「ううん…楓ちゃんの手…冷たいよぉ…」

と私は思わず泣いてしまう。今日初めて現実の人間に触れられた。

「リンゴ剥いてやったんやから…そりゃあ冷たいわな…」

と楓ちゃんは苦笑して、私にリンゴを食べるように促してくれた。

そのリンゴの味はさっきよりおいしく感じた

 

 

「てか美兎ちゃん? このリンゴって…だれが置いていったものなの?」

「え? 楓ちゃんが持ってきてくれたんじゃないの?」

「いや? 玄関に置かれてたで?」

「一体だれが…」

 

 




委員長が見た夢は、ぼくの実態系に基づいています。

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