インフィニット・マクロスF   作:日本人

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オズマが大尉なのは誤字にあらず。原作の3年前なのでまだ大尉なのです。



少し修正入れました。


帰還後の夏は兎と出会う

────夢を、見ていた。

 

それは三年前、忘れもしない、俺がドイツで誘拐され、あの世界へと迷い込んだ日。

その日、俺はドイツで開催される第2回モンド・グロッゾに嘗ての弟である織斑冬二と共に姉の応援に行った時の事だった。

冬二は何でも出来る奴だった。幼い頃から神童だの天才ともてはやされ、更に決してそれをひけらかさずに常に努力を惜しまない、本物の天才だった。

対して俺は何もかもが出来なかった。いや、そう言うと語弊がある。俺は世間一般から見れば充分に高い成績を誇っていたし、努力も惜しまなかった。が、それは側に本物の天才達がいた事によって否定された。織斑千冬と織斑冬二、この二人には何をやっても敵わない。唯一勝てたのは料理ぐらいというなんとも情けない有様だった。

そんな俺を世間は────世界は許さなかった。近所の人間達は四六時中俺に対して侮蔑の言葉を吐きかけた。やれ、「どうして〝織斑〟なのに出来ないのか」だの、「お前の姉弟は出来るのに」だのと抜かしてきやがった。最初はそれを全て聞き流してきた────が、当然俺にも限界はある。ブチ切れた挙句、今までやってきたあらゆる努力を全て止めた。習い事も、勉強も、全て。姉弟達は困惑していた。「あれほど頑張っていたのに何故」と。俺は「何となく」と答えた。俺としては頑張っていた姉弟達に心配をかけたくなかったからだ。そして否定され続け、努力すらも捨てた俺に待っていたのは────言い様のない()()()()()()()だった。道を歩けば暴力を振るわれ、学校では全校一丸となって俺を虐げる。当然最初は抵抗した。だが、それば一月、二月、半年、1年と続く内に俺は抵抗をやめていた。唯々流れに身を任せ、人形の様に振舞っていた。

そんな生活が何年と続き────運命の日がやって来た。モンド・グロッゾ当日、俺は誘拐された。誘拐犯達の目的は織斑千冬のモンド・グロッゾ決勝戦の棄権だった。恐らく何処かの国が日本の一人勝ちを防ぎたいがためにこんな事をしたのだろうと子供ながらに、何処か夢見心地で考えていた。犯人の要求に対して日本政府の回答は────否だった。織斑千冬に確認を取ったがそのような事実は無い、と否定したのだ。その後、犯人達に織斑千冬が決勝戦に出ているのを見せられて、当然だろうと思った。俺のような出来損ないの男と日本国の名誉、どちらを取るかなど女尊男卑に染まった日本政府のクソアマ共の事を考えれば言うまでもなかった。憤怒した犯人達に銃を向けられ射殺されそうになった時だった。突如俺の足元にピンク色の渦のようなものが出現したのだ。犯人達はそれに驚き、後ずさる。身体を縛られて動けなかった俺は、段々と広がっていくピンクの螺旋に、為す術無く飲み込まれた。

 

 

 

気付いた時には、何処かの格納庫の様な場所にいた。そして、この場所こそが俺の恩人であり、大切な家族でもある義父ジェフリー・ワイルダーが艦長を務めるS.M.S所属の戦艦マクロス・クォーターの内部格納庫だったのだ。

俺を発見したのはS.M.Sスカル小隊リーダーのオズマ・リー大尉だった。そりゃあまあ大層驚いていた。当然だろう、機体のチェックに来たら手足を縛られたガキが転がってたんだから。そのまま俺は彼に連れられ、当時から艦長を務めていたジェフリーこと義父の元に行った。まず名前や年齢、何故クォーターの内部に入り込んでいたのかを聞かれた俺は全て正直に答えた。俺の話を聞いた義父とオズマ大尉は奇妙なものを見るような目を俺に向けてきた後、この世界の歴史を話してくれた。

今度は俺が驚く番だった。俺の世界には統合軍だのゼントラーディなどといったものは存在しないし、当然バルキリーなんて機動兵器も存在しない。というかそもそも年代が違った。俺の世界が2025年だったのに対し、こちらの世界は2056年とかなりの差が存在した。何処かの安っぽい小説みたいだがここは異世界なのか?とか大真面目に考えるぐらい追い詰められていた。タイムスリップの線も考えたが聞けば2009年の時点でバルキリーは存在していたらしい。

混乱する俺に対し、義父は「暫くクォーターに滞在すると良い」と言ってくれた上、「自分が面倒を見る」と当時のS.M.Sサマー小隊所属のガルシア・ブロンソン少佐という30半ばの男が名乗り出てきたくれたのだ。そして俺はガルシア預かりとなり、クォーター内部の居住空間に暫し滞在する事となった。

最初は、驚きの連続だった。見たことも無い設備に、聞いたことも無い文化、何もかもが俺の世界と違っていた。初めてゼントラーディを見た時などは腰を抜かし、ガルシアに爆笑されたのはいい思い出である。

その後、何もしないというのも何なので、ガルシアに頼み込んでクォーター内の食堂で働かせて貰っていた(料理長が「何でプロの俺の料理よりアマチュアのお前の料理の方が人気なんだよ」と軽く落ち込んでいたのは笑ってしまった)。それでも暇な時間というのは出来てしまうもので、その事をガルシアに相談したら「シュミレーターでもやってみるか?」と軍人用のバルキリーシュミレーターを空き時間に使わせて貰うことを許可してもらった。

それからというもの俺は、暇さえあればシュミレーターの中に缶詰になるようになった。おかげで一時期〝シュミレーターの妖精〟などというヘンテコな渾名を付けられてしまうくらい通い詰めだった。そんな俺を、義父とガルシアはよく気にかけてくれていた。時間があれば話しかけ、何か不備は無いかと心配してくれていた。俺は父や兄がいればこんな感じなのかと、何処か、嬉しかった。

 

 

クォーターに乗り込んで半年、気がつけば────俺はクォーターの乗組員として皆に認められていた。各小隊の面子ともよく話すようになり、ガルシアは良き兄貴分として俺を助けてくれた。そして正式に義父の養子になり、イチカ・ワイルダーと名を変えた。オズマ大尉の影響でFIRE BOMBERにガルシアと一緒にのめり込んだりもした。結局俺がこちらの世界に来た理由はわからなかった。フォールド技術の専門家によれば時空間フォールドがうんたらかんたら⋯⋯⋯要するに理解出来なかった。そうしてクォーターでの生活を満喫していたある日────突然義父から呼び出された。何事かと艦長室に行くと、何故かガルシアも一緒に義父といた。そして彼らの口から出た言葉に俺は驚愕した。

曰く、「可変戦闘機のパイロットにならないか」。早い話がスカウトだった。だが何故?俺はクォーター内ではコックに過ぎない。当然軍人としての教育など受けた事はなかった。そう言うと二人は呆れたような顔を見せ、俺に二つのデータを見せてきた。それはシュミレーターのスコア表で片方はそこそこのスコアもう片方は俺が出した最高スコアで1つ目のスコアを大きく上回っていた。どう意味か分からず首を捻っていると義父に告げられた。

「1つ目の方はガルシアのスコアだ」

⋯⋯一瞬何を言われたか分からなかった。え?てことは何か?俺はプロの軍人を優に上回るスコアを叩き出したって事か?あまりのショックにポカンとしていると再度パイロットにならないかと問われた。

「もちろん強制はしない。我々はPMC(民間軍事会社)だ。当然作戦中に死亡することだってある。少なくとも私はお前の義父としてはお前がパイロットになる事は望んでいない。が、乗組員の命を預かる艦長としては腕の良いパイロットは1人でも確保しておきたい。どうするかはお前次第だイチカ」

泣いた。そりゃあもうビエンビエン泣いた。あまりの泣き具合に義父とガルシアがビビるくらい泣き叫んだ。恐怖や悲しみではなく、純粋な喜びで泣いた。義父に義息子と呼ばれ、更に俺の腕を頼りたいと暗に告げられた。何をしても出来損ないだった俺を、頼ってくれたのだ。

────悩む必要など、なかった。泣き止んだ俺はその場でS.M.Sのパイロットになる事を承諾。ガルシアが隊長を務めるサマー小隊に配属され、サマー4の呼称を与えられた。そうして俺は────

 

 

 

────────⋯⋯ん。

 

声が、聞こえる。

 

────────⋯⋯っくんっ⋯。

 

どこか懐かしい、もう聞く筈のない声。

 

────────いっくんっ⋯⋯!

 

嘗ての世界で、唯一俺を認めてくれた人。

 

────────いっくん⋯!!

 

()()()⋯⋯⋯()!!

 

 

「いっく「束さん!!!」とわぁっ!!?」

「って⋯⋯⋯え?」

咄嗟に飛び起きた俺は目の前の存在を認識する。うさ耳にメルヘンな格好⋯⋯⋯⋯間違い無い、束さんだった。

何故ここに?そんな疑問が湧いてくるが今はそんな事はどうでもよかった。

「束さん⋯⋯っ!!」

思わず飛び起き抱き着こうとして────ピシリと固まる。⋯⋯⋯⋯妙に下半身がスースーする。身体を見回せば何故か傷一つ無い全裸姿。そう、()()姿()。更に起きたばかりという事もあり、その、なんだ⋯⋯⋯俺のマクロスキャノンが発射用意完了済みというか⋯⋯⋯。

「────キャアアアアアアアアッ!!!!!???」

「────oh⋯⋯」

これが、なんとも間抜けな再開劇。そしてこの世界に帰還してからの初めての他人との接触だった。

 

 

 

 

 

 

「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」

「どうぞ。お茶をお持ちしました」

「あ、あぁ⋯⋯⋯ありがとう」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

あの後とりあえず服を着た俺は束さんと相対していた。正面には赤面した束さんがいる。俺は束さんの助手をやっているという少女、クロエ・クロニクルに入れてもらったお茶を飲みながらひたすら会話の糸口を探そうとする。

いやだってどうするよ?「俺の裸どうでした?」とか感想を求めるとか?⋯⋯ダメだこれ、完全に変態じゃねぇか。「責任⋯⋯とってくださいね(赤面)?」とか?⋯⋯⋯⋯うおぇっ!自分で考えといて何だけど吐き気が⋯⋯。てか今更だけど赤面してる束さんマジで可愛い。結婚してくれ。

アホみたいな事を考えているとクロエが溜息を着きながら、

「はぁ⋯⋯⋯束様?いい加減にしてください。一夏様もお困りですよ?」

「で、でも⋯⋯だって⋯⋯」

めちゃくちゃか細い声で返答する束さん。かわいい。

「だってではありません。高々裸を見ただけで何をそんな乙女な反応をしているのですか」

「だ、だって束さん乙女だよ!?そりゃ男の子の裸を!そ、それも戦闘態勢のモノ見ちゃったらこうもなるよ!」

やめて束さん!俺のライフはもうゼロよ!恥ずかしすぎて死んじゃう!!

「一夏様の【ピーーー】をマジマジと観察していた人の台詞ではありませんね」

⋯⋯⋯What?

「ちょ!?くーちゃんそれは!?」

「一夏様の【ピーーー】を【バキューン】しながら【ユニコーン!】して挙句の果てに【俺の歌を聞けぇ!!】で【往生せいやあぁぁぁぁぁああ!!!】してたじゃ無いですか」

「いやぁぁぁぁあああ!!!!?くーちゃんやめてぇぇぇええ!!!?」

⋯⋯⋯⋯オレハナニモキカナカッタ。イイネ?アッハイ。俺はわざとらしく咳払いをして彼女たちの注意を自分に向ける。

「ゴホンッ⋯⋯⋯それで束さん?どうして俺がこんな所にいるんですか?」

「ハッ⋯⋯えっと、少し長くなるけどいいかな?」

「はい、構いません」

「えっとね、じゃあまずは────」

そうして束さんは俺を見つけた時の事を話してくれた。突如謎の反応が出現したこと。それが傷付いた俺だった事。そして傷だらけの状態の俺を治療した事。

(⋯⋯⋯随分と幸運だったな俺は)

これがもし太平洋のど真ん中だったりしてたら間違い無く鮫の餌になっていただろう。この時ほど神に感謝した時は無いだろう。

「────と、こんな所かな?理解出来た?」

「はい、ありがとうございます束さん」

束さんの説明は物凄くわかりやすい。流石天災といった所だろうか。クロエはこちらの邪魔にならない様に下がってくれていた。

「さて、説明も終わったところで⋯⋯⋯いっくん。これに見覚えは?」

そう言ってポケットから何かを取り出す束さん。

「俺のペンダント?」

それは俺が義父から貰った大切なペンダント。何故束さんが?

「結論から言うとね⋯⋯これ、I()S()なの」

「⋯⋯⋯⋯⋯はっ?」

「このデータを見てくれるかな?」

そう言って束さんは手元の端末を操作する。すると壁に何かのデータ────恐らくこのISのものであろうデータが表示された。だがこれは────、

「俺のVF-25のデータじゃないか⋯⋯」

そこに映し出されていたのは長らく戦場を共にしてきた愛機であるVF-25メサイア改の姿だった。

「やっぱり知ってるんだね⋯」

俺が困惑していると束さんがずいっとよってくる。

「た、束さん?」

「とりあえず、洗いざらい吐いてもらうよ?」

そうメチャクチャ黒い笑顔で告げられた。⋯⋯⋯古来より笑顔は攻撃的な表情であると言われているが、納得してしまうほど良い笑顔だった。

そうして俺は向こうの世界の事を話した。VFシリーズの事やS.M.S、イチカ・ワイルダーになった事も全て。最初、束さんは目を輝かせ、やがて眉間にシワがよって行き、最終的に頭を抱えてしまった。

「何だよ可変戦闘機って⋯⋯⋯何で2009年の時点でIS超えるもん造っちゃってんの?フォールド技術って頭おかしいよ⋯⋯。MDEとかイカレてる⋯⋯⋯」

向こうの技術は束さんをもってしても頭おかしいレベルの様だ。やがて頭を抱えていた束さんはふぅっと息を吐き、落ち着きながら言ってきた。

「とりあえずいっくんの事は秘密にしとくけどいいよね?いっくんも正直会いたくないでしょ?」

⋯本当にありがたい。正直俺も向こうの世界で色々()()してから織斑家には会いたくないと思っていたからだ。

「⋯⋯ありがとうございます」

「気にしないでよ、いっくんの為なんだからね?さて、くーちゃん。いっくんを部屋に案内したげてよ」

「わかりました。いくつか空き部屋を見繕っておいたのでそこに案内致します。それでは一夏様」

「あぁ、わかった」

そう言って立ち上がりついて行こうとした所で束さんに呼び止められた。

「いっくん」

「?束さん?」

「⋯⋯⋯⋯」

束さんは無言で俺を抱き締めてくる。まるで二度と手放さいと言うように、しっかりと。

「た、束さん?」

「⋯⋯おかえりなさい、いっくん」

────一言。唯一言。それが何よりも嬉しかった。

「⋯⋯ただいま、束さん」

そのまま俺は束さんを抱き締める。そのまま俺達は暫し、抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

────なお、クロエに見つかってものすんごくからかわれたのは余談。




機体説明

VF-25メサイア改
・基本は殆ど従来のVF-25と変わらないが、単独で長距離かつ正確なフォールドを可能とするLFS(ロング・フォールド・システム)を搭載。これは機体の各部位に高純度のフォールドクォーツを搭載した事により可能になったのだが、その分コストが増大。試作機と合わせて全4機が製造されそのうちの一機をイチカが受領した。
なお、一部の開発者の間ではプロトデュランダルと呼ばれている。
(機体の見た目はアルトの機体の赤の部分が黒になっただけ)

キャラ説明
イチカ・ワイルダー
・本作主人公。第2回モンド・グロッゾで誘拐された際に謎の次元間フォールドに巻き込まれる。(なお、同時刻クォーターもフォールド中だったのでそれに巻き込まれた可能性が高い)その際にマクロス世界に飛ばされ、クォーター預かりのコックとなる。その後、シュミレーターで現役パイロットを大きく上回るスコアを叩き出し、パイロットとなる。戦況に応じて様々な兵装を使いこなす万能型パイロット。


ガルシア・ブロンソン(CV大塚明夫)
・S.M.Sサマー小隊隊長で階級は少佐。イチカの兄的存在であり、義父のジェフリー並に懐かれていた。作戦中の呼称はサマー1なのだが────?
イチカ同様にオズマの影響でFIRE BOMBERの大ファンに。フォーメーションPLANET DANCEや突撃ラブハートもしっかり小隊メンバーに仕込んでる。

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