ノッブナガン   作:喜来ミント

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《お知らせ》(2018/06/01)
「信長」と「沖田」がDOGOOに入隊してからの日数をそれぞれ「十日」と「八日」に修正しました。流石に三日では短すぎると判断しました。

 また、Fateで史実と違う性別の傑物を、男女どちらともとれる表現に変更しました。信長の場合で言うと、史実通りのヒゲでもFateのノッブでもどちらでもイメージできるようにしました。


七ノ銃 沖田総司

 「メリエス」が大写しにする映像の中。侵略体の脳を撃ち抜き、笑みを浮かべていた真緒が一転して驚愕に目を見開いた。驚きのあまり、その目から燃えるような赤い光が消え失せる。

 

「侵略体は健在です!」

「何が起こってるんですか! 脳を撃ち抜いたはずでは……!」

「いや、「信長」さんの狙撃は成功したんですけど……! 撃ち落としたのは単なる運搬役で……!」

「やはり「やったか?」などとは言ってはいけなかったのです! おお、我が預言者の素質は真なりか!(O my prophetic soul!)

「そうじゃなくてー!」

 

 映像の中で、真緒が気を取り直して再び銃を構える。侵略体は一体ではなかった。二体が合体していたのだ。

 撃ち落としたのは上半分、風を受けて運搬役を担っていた方だった。肝心の卵を抱えている方は健在。そして今、運搬役への狙撃がそちらの警戒を引き出してしまった。

 卵を抱えるのに特化した形態。ヒレも短く、受けられる風も少ない。目に見えて速度が落ちる中、侵略体は無造作に卵を抱えている腹ビレをうごめかせた。粘液に包まれた卵塊のうち、一角が無造作にばらまかれる。

 慌てた真緒から通信が入った。

 

『「シェイクスピア」! 卵を撒かれた! どうしたら……!』

「「ノッブ!」 貴女の腕前では卵を射抜くのは無理です! 本体を先に!」

『はい!』

 

 「メリエス」の映像の中で、真緒が銃口を侵略体の頭に向ける。

 

『目と目の……間!』

 

 しかし、銃弾は侵略体の頭に音高くはじかれた。

 

「コバンザメの吸盤みたいなのが固くてダメみたいですよ!?」

 

 「メリエス」の分析に舌打ちし、「沖田」は鋭く宣言した。

 

「私も出ます!」

「え、ちょ、「沖田」さん!?」

「「メリエス」! 最接近は何秒後ですかな!?」

「「シェイクスピア」さんまで! ああもう、十秒後です! 狙いはこれで見てください!」

 

 一刻の猶予もない。一発で決める。「沖田」はすかさずAUウェポンを起動すると準備を始めた。真似をするようで癪だが、先ほどの真緒のようにカーゴルームの端ぎりぎりまで下がり、平正眼の構えをとる。

 「メリエス」のウェポンから3Dメガネが射出される。それを片手でひっつかみ、顔に押し付けると、現実の視界に侵略体へのガイドが重なった。

 DOGOOに入隊してから八日。ようやく手に馴染んだ真剣の重みを、初めて実戦で振るう。敵への恐れはない。それ以上に、力を発揮できないのではないかという恐れがある。訓練では小馬鹿に扱ってしまった「信長」は先に行った。ならば追いつかねば。

 たった、三歩で。

 

「三、二、一、今です!」

「一歩音越え――」

 

 合図とともにカーゴルームの端を蹴り、一歩。

 

「二歩無間――」

 

 ヘリから飛び出すぎりぎりで床を踏み、二歩。

 

「三歩絶刀――!」

 

 吹き荒れる風を突っ切り、宙を流される侵略体の背中へと飛び乗り、三歩。

 

「無明――三段突き!」

 

 目と目の間。コバンザメのような吸盤を穿ち、突き下ろしの剣先が脳を貫き、一瞬で侵略体の生命を絶った。

 

「お、沖田?」

「ボーっとしてる場合ですか!」

 

 真緒からすれば、一瞬で現れた自分が侵略体の頭を突いただけにしか見えないだろう。だが、いちいち説明している暇はない。崩れ落ちる侵略体の体から真緒へと飛び移りつつ、その身を風に流すパラシュートを一閃で切り離した。

 

「ちょ、落ちっ……」

「落ちなきゃ追いかけられないでしょう! 「メリエス!」」

『は、はーい☆』

 

 速度についてこられなかったのか、3Dメガネはどこかに落としてしまったようだ。仕方なく通信で案内を頼む。

 

「メガネは失くしてしまったので、落ちた卵の数、位置、お願いします!」

「そ、そっか……! 地上に届く前に……!」

「ええ。全部斬ります」

「斬る!?」

 

 言っている間にも、沖田と真緒は手をつないだまま真っ逆さまに落ち始めた。

 

「私が斬ります! あなたはさっきみたいに私たちを運んでください!」

「さっき? え?」

「だー! 覚えてないんですか! 三段撃ちですよ! さっさとしてください!」

「わ、分かった!」

 

 真緒の小柄な体を左腕一本で肩に担ぎ、右腕を自由にする。

 三つの金属音が頭の後ろで響く。準備完了だ。

 

「フルパワーでお願いします!」

「任せて!」

『一つ目の卵まで180m! 方向は3-4-0です!』

「見えた! 少し左です!」

「うん!」

 

 心臓を鷲掴みにするような銃声とともに、二人の少女の体が反動で押しやられる。沖田は崩れそうになる体勢を必死に支えながら、どうにか最初の卵を間合いに捕らえた。確実に一閃を放ち、卵を仕留める。

 

「一つ!」

『次は――』

 

 「メリエス」が指示する。沖田が目視する。真緒が運ぶ。落下しながらの共同作業。切り捨てる卵が十を超えるころには、もはや最低限の合図だけで、銃と剣が一つの装置として機能していた。

 

『おお、まさしく――』

『ちょっと、「シェイクスピア」さん、邪魔です』

『……申し訳ありませんな』

 

 通信の向こうで聞こえるやり取りを尻目に、十一体目を切り捨てた。

 

「十……一っ!」

『次でラストです!』

「見えてます! 右、二時の方向!」

「うん!」

 

 だが、最後の卵に変化が起きた。急速に丸い輪郭がうごめき、卵膜を突き破って虚ろな五つ眼が姿を現す。ちょうど台湾に上陸したタイプのミニチュアのようだ。この世に生を受けて数瞬だというのに、ソレは己の使命を忠実に実行した。爆発性の鱗を、今まさに迫りくる「敵」へと打ち出したのだ。

 

「ちょっ」

「くっ」

 

 沖田と真緒が爆炎に包まれる。だが。

 

「いっ――たいですね!」

「ああ、痛いのう!」

 

 赤い輝きを目に灯した真緒が、仮面の三ノ銃を咄嗟に前に出し、鱗を撃ち落としていた。ゆえに沖田の剣は振られておらず、今まさに――。

 

「十――二ぃ!」

「ラストじゃ!」

 

 もはや地上ぎりぎり。急いで沖田がパラシュートを開き、着陸姿勢に移行する。

 

「はあ……何とか、なった、ね」

「全く、誰かさんが射撃型のくせに後先考えずに飛び出すからですよ」

「し、仕方ないじゃない! あの時はああするのが一番だって思ったから……」

「またおどおどと……! いちいちキャラが違いすぎるんですよ、あなたは! 大体ですね――!」

「キャラって何よ! わけわからないことを! いつもいつもエラそうに――!」

「言いましたね! さっきはちょっ――とだけ見直したけどもう知りませんよ! あなたなんて永久に「ノッブ」で十分です!」

「またその呼び名――! 大体人のE遺伝子を馬鹿にして! じゃあそっちなんて、えーと、えーと、……おき太?」

「口で言ったら一緒です! バカじゃないですか!?」

「あーもう! バカっていう方が――」

 

  *

 

『「シェイクスピア」から本部へ。無事、任務完了いたしました』

「ご苦労だったな、「シェイクスピア」」

 

 短い黒髪にダウナーな表情。制服に身を包んだスタッフたちが肩を並べている指令室に似合わない薄着。見た目からは想像しにくいが、彼女こそがDOGOOの参謀格であるE遺伝子ホルダー「ジョン・エドガー・フーヴァー」だった。

 「シェイクスピア」との通信を終えた「フーヴァー」がこちらに一声かけてくる。

 

「指令、こちらは第四小隊のバックアップへ戻ります」

「ええ、「フーヴァー」。よろしくお願いします」

 

 DOGOO本部。「フーヴァー」がこちらから離れたのを見て、指令は土偶に話しかけた。

 

「何か心配事でも?」

「いや。フロリダ沖はもう大丈夫だろう。ソロモン諸島の方もつつがなく終わりそうだ。だが……」

「……そうですね。今回の敵はフロリダ――大西洋から来ました。パナマを突破した敵がいたのでしょうか」

「それもそうだが――「シェイクスピア」が言っていたな。「やつら、台湾の水際で叩かれたのが痛かったのか――」と」

「……まるで、学習しているようだと?」

「ああ。やつらの第一目的は上陸だ。間違いない。だが、それは台湾の水際で我々に防がれた。()()()、今度は水際で落とされるのを避けてハリケーンで一気に上陸しようとした――確かに学んでいるようだ。しかし、台湾での失敗をどうやってフロリダで知る?」

「情報が、何らかの手段で伝わっている?」

「ああ。奴らは各地でバラバラに進化しているとばかり思っていたが――伝達役がいる。そしておそらく、進化の戦略を決める「ブレーン」もだ」

 

 そういった土偶の言葉に、指令以外の声が賛同した。

 

「私も気になっていたところです」

「……聞いていたのか、「フーヴァー」」

 

 声の方を見れば、すでにAUウェポンを解除した「フーヴァー」がこちらの方を見ていた。

 

「第四小隊の方が早々に片付いたのを報告しようとしたのですが――。申し訳ない」

「いや。どのみち君に相談しようと思っていたところだ」

「食えない人だ。いや、人なのか?」

「「フーヴァー」! 慎みなさい!」

 

 指令の鋭い注意に、「フーヴァー」は身をすくめて謝った。

 

「ごめんなさい、マム」

「全くもう……」

「構わない。それで、何か確かめるすべは?」

 

 「フーヴァー」に憤慨した指令だが、言われた当人の土偶は冷静に話を進めた。

 それに対し、「フーヴァー」は即座に立ち直って不敵に笑うと、AUボールを指先でくるくると回して弄んだ。

 

「我がプロファイリングにかかれば」

 

  *

 

 真緒と沖田がE・リプリーに帰投したのはすでに夕食時を過ぎたころだった。

 

「……お二人とも」

 

 そして、顔と言わずどこと言わず、ひっかき傷やアザだらけの二人を見て、「シェイクスピア」は頭を抱えた。

 

「迎えのヘリに収容されるまでに、何が?」

「「だってこいつが」」

 

 全く同時にお互いを指さしてそういうのを見て、「シェイクスピア」は咳ばらいを一つすると、船中に響かんばかりの大声で二人を叱りつけた。

 

戦い! それに身を投じるに当たっては(A war, when it’s included, for,)その唯一の目的が(you aren’t supposed to forget that)平和であることを忘れてはならない!( the only purpose is here peacefully.) だというのにお二人で喧嘩して傷を増やしてどうなります!」

「「だってこいつが」」

「お二人とも!」

 

 説教は夜半まで続き、二人は夕飯抜きでそれぞれの部屋に戻ることとなった。

 

「あー……お腹すいた。おき太め……」

 

 自分の部屋に戻って早々、真緒はベッドに体を投げ出すと、携帯電話を立ち上げた。

 待ち受け画面では、無邪気に笑う藤丸さんと困惑顔の自分が並んで映っている。

 

「今日もいろんなことがあったよ。いろんなことが……」

 

 訓練のこと。

 初めての実戦のこと。

 お互いに遠慮なく、ある意味対等に接することができるライバルのこと。

 E・リプリーは海の真っただ中。当然、そのスマホは圏外だ。

 

「いろんなこと、話したいなあ……」

 

 

 




ようやく原作の一巻が終わりました。まだまだ続きますので、よろしければお付き合いください。
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