ノッブナガン   作:喜来ミント

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「魚雷型」は原作において初期の侵略体を指す名称に使われていたため、十ノ銃における「魚雷型」の表記を「酸素魚雷型」に変更しました。(2018/06/30)




十二ノ銃 共同作戦

「~~~~♪」

 

 DOGOOの特務艦、C(クレイトン)・フォレスターの一室に鼻歌が響いていた。銀髪の青年が控えめに奏でるものだ。周りに聞かせるためというより、彼の上機嫌さがあふれているからと言える。

 しかし、周囲の光景は平穏とはいいがたいものだった。腐臭と磯臭さが入り混じった悪臭が風通しの悪い船室に立ち込め、さらにはクレーンの機械音と金属音が反響して耳にも優しくない。

 

「~~~~♪」

「ご機嫌だな、「サンソン」」

「おや、「フーヴァー」ですか」

 

 そんな中、銀髪の青年「シャルル=アンリ・サンソン」は自分がこれから手を付ける獲物から目を逸らさず、「フーヴァー」を出迎えた。

 進化侵略体。

 フロリダ沖ハリケーンでの上陸阻止作戦から二日後。厳重な警備のもと、パナマ運河を経て太平洋側に護送された「機雷敷設艇型」――卵を抱えていた侵略体が、今まさに「サンソン」の手によって解剖されようとしていた。

 

「上機嫌だな。珍しく」

「それはそうです! 見てください、この傷を!」

「……ああ」

 

 気乗りしない様子で「フーヴァー」は「サンソン」が示した侵略体の傷口をのぞき込んだ。脳天に一撃。「沖田総司」が仕留めた際についたものだ。

 

「重要な器官をほとんど傷つけず、なんと無駄のない一撃だろう! 侵略体に同情する気はないが、痛みを感じる暇もなかったはずだ。なんて手際。一度会って話をしてみたいものだ」

「お前と話が合うとは思えないがな」

 

 わざわざプロファイリングをせずともわかる。言外にそう滲ませると、「フーヴァー」はAUボールを構えた。

 

「それより――待たせておいてなんだが、早く始めてくれ」

「そうでしたね。脳を見たいんだったかな? 何か気になる点でも?」

「ああ。以前から気になることが多い。この――」

 

 「フーヴァー」のAUウェポンが展開していく。ひじ掛けを備えた椅子。大量の情報を映し出すモニター。大量のファイルを備えた書棚。それらを操る何本ものアーム。複雑怪奇に絡み合った、情報を操ることに特化した書斎(オフィス)を丸ごと乗せたステージが彼女を取り囲むように構築された。

 

「我が書斎に収められた情報によればな」

「それでは始めるとしましょう。しっかり観察して推理してください」

 

 一方の「サンソン」もウェポンを展開した。切っ先のない剣――処刑人の剣を備えた右手の籠手が顕現する。

 しかし今の彼に必要なのは、剣による斬首ではない。処刑人の剣が音を立てて展開すると、中からアームに支えられたメスや鉗子(かんし)の群れが飛び出した。

 

  *

 

「ふむ」

「どうでしょうか」

 

 どことなく晴れやかな顔で解剖を終えた「サンソン」が手を拭きつつ声をかけると、「フーヴァー」は納得いったように何度も頷いた。

 

「やはり。やはりだ」

 

 椅子に深々と座ったまま椅子のひじ掛けを操作すると、一本のアームが素早く動き、書棚からファイルを取り出した。ファイルは開くまでもなくそのまま備え付けのディスプレイに投げ込まれると、記録された映像を自動で再生し始めた。

 

「その映像は?」

「台湾の時、「メリエス」に撮らせたものだ。……ふむ」

「あっ」

 

 「サンソン」が止める間もない。「フーヴァー」はポケットからロリポップを取り出すと、乱暴に包み紙を剥いて口に放り込んだ。

 

「まだ侵略体の死骸が――」

「何をしているのです! 進化侵略体の死骸があたり一面に広がっているというのに! なんと不衛生な――消毒します!」

「あっ」

「しまっ」

 

 「サンソン」が注意しようとしたその時、彼の三倍の声量と気迫で「フーヴァー」を叱責する声が船室の入り口から響いた。それを聞いて二人は冷や汗を垂らした。

 車椅子とは思えない急発進・急停止で「フーヴァー」の眼前に滑り込んできたのは怜悧な美貌をたたえた女性だった。彼女の座る車椅子に備え付けられたランプから発する光が容赦なく「フーヴァー」を包み込み、彼女の周囲のすべての毒あるもの、害あるものを消毒していく。ついでにロリポップも没収された。

 

「これでよし。ミス・「フーヴァー」。このようなところで食事をするのは控えてください。ただでさえ海中の微生物や侵略体に付着している病原菌などに暴露する危険性があるというのに」

「……すまない」

「ミスター・「サンソン」は元医師として流石の衛生管理です。念のため注意しておきますが、手洗い、うがいはこまめに、しっかりと」

「分かっています」

 

 嵐のように言いたいことを言い終え、ようやく「フローレンス・ナイチンゲール」は沈黙した。解剖で汚れた服を着替えるために、そそくさとその場を後にした「サンソン」を横目でにらみながら「フーヴァー」は「ナイチンゲール」に声をかけた。

 

「あー……ここに来たということは、もう「ジャック」はいいのか?」

「ええ。おおむね回復しました。念のため、軽く戦闘テストを行ってから原隊復帰となるでしょう。私のウェポンが消毒のみならず怪我の回復もできたなら、もっと早く復帰させてあげられたのですが……」

「十分だ。今は一人でも戦力を減らさないことが肝要だからな」

 

 「フーヴァー」は軽くそう言ったが、「ナイチンゲール」の表情は重い。

 「ジャック」が怪我を負うのは今回が初めてではない。顔を始めとして、目立つ場所に刻まれて消えない傷も多くある。

 

「……私がもっと、あの子を気にかけてあげられたなら」

「高望みはし過ぎないことだ」

「分かっています。……それでは、また何かありましたら連絡しに来ます」

 

 「ナイチンゲール」の乗る車椅子は彼女の意志を直接受け取って反転すると、船室の出口に向かって車輪を回した。ほっと息をついた「フーヴァー」だったが、そんな彼女の不意を突くように出口の近くで「ナイチンゲール」は再び反転し、「フーヴァー」に声をかけた。

 

「もう一度言っておきますが、食事の際は事前の手洗いと周囲の環境にしっかりと気を付けてください」

「……わかったよ」

 

 今度こそ「ナイチンゲール」が立ち去ったのを見て、「フーヴァー」は新しいロリポップを取り出して口に放り込んだ。

 味がしなかった。

 人工甘味料も消毒対象のようだった。

 

  *

 

「指令。よろしいでしょうか。かねてからの案件ですが」

「何かわかったのですか?」

「ええ。先日ハリケーンの一件の時におっしゃっていた「侵略体のメッセンジャー」の存在を確かめられるかもしれません」

 

 消毒されていないロリポップを舐めつつ、「フーヴァー」は指令と土偶に自身の仮説を伝えた。

 

「先ほど「サンソン」の解剖に立ち会ったのですが、脳函内に隙間が多すぎました。まるで何かが抜け出たかのようです。それから――」

 

 ウェポンに備え付けられたディスプレイの一つを拡大して表示する。台湾での戦闘の最後、「揚陸艇型」が自爆するシーンだ。

 

「台湾で自爆した侵略体から飛び出る破片を拡大してみると、どうにも形がそろいすぎている。何かある、と思い、私が直接観測したデータを見直してみました。「メリエス」の観測は単体ではただの映像ですから」

 

 「フーヴァー」による観測は、「メリエス」のものより解像度や観測距離は劣るが、侵略体の反応も検知できる。三か月ほど前、ウェーク島沖での戦闘に立ち会った時のデータを表示し、そこに検出した侵略体の反応を重ねた。

 

「ここ。撃破された侵略体から飛び散る破片の中に、侵略体の反応があります」

『侵略体の破片なのだから、おかしくないのでは?』

「ところが、この破片には生体反応もあります」

『ということは……』

「証明するために場を整える必要があります。昨日イースター島沖で第六小隊が取り逃がした侵略体――「イースター装甲艦型」とでも呼ぶべきでしょうか。あれを「エレナ・ブラヴァツキー」の預言で追跡しているはずです。ちょうどいいかと」

『手筈は任せる。構わないか?』

「ええ。お願いしますね「フーヴァー」」

「イエス、マム」

 

 早速「フーヴァー」は必要な人材をかき集める準備に取り掛かった。

 

「侵略体の弱点をピンポイントで攻撃できるホルダーと、破片を確保できるホルダー……前者は「ロビン」か「ビリー」で良いだろう。後者は……「呂布」はスタートダッシュがいまいちだな」

 

 書棚から様々なファイルが取り出されては情報を吐き出し、また新たな情報を追加され、整理されつつ書棚に納まっていく。アームの金属音と紙のめくれる音がひっきりなしに響き、「フーヴァー」の集中力を高めていた。

 

「待てよ。足の速いホルダーなら」

 

 ひじ掛けを叩くと、E・リプリーの通信士に参謀権限で直接通信がつながった。

 

「「シェイクスピア」を出してくれ」

『承知しました』

 

 ほどなくして呼ばれた「シェイクスピア」がディスプレイに顔を出した。

 

『何のご用ですかな?』

「「沖田」の仕上がりはどうだ?」

『上々ですな。あと三日もあれば十分かと』

「そうか。ならばいい」

『彼女の能力が必要なことが?』

「まあ、隠すようなことではないか」

 

 作戦の内容を伝えると、「シェイクスピア」は感極まったように手を打って言った。

 

『なんと! それは良い! それならば、侵略体の撃破を「ノッブ」に任せてはいただけませんか?』

「あの半人前にか? 確かにハリケーンの時は予想外の活躍だったが――」

『一週間! 一週間にて仕上げて見せましょう! どうです?』

「待てんな。ターゲットは「エレナ」に追わせているが、いつ再浮上するかも分からない」

『ならば間に合った場合でよいのです。ぜひ彼女と「沖田」をそのシチュエーションで共演させたい!』

「作家根性たくましい奴め。いいだろう。だが、間に合わなければ「ロビン」に任せる。「沖田」は第四小隊に配属予定だしちょうどいい」

『言質は取りましたぞ! さあ忙しくなりますな! やはりここは「ネロ」に協力を仰ぐのがよろしいか。勿論お二人には秘密にして、サプライズで対面と行きたいところ! タイミングは――』

 

 用も伝え終わったし、やかましいので「フーヴァー」は通信を切った。

 

  *

 

 かくして舞台は整った。一週間後、作戦前のブリーフィングにて、二人のライバルが顔を合わせることとなる。

 

「お、「沖田」?」

「ああ、「ノッブ」ですか」

「またその呼び方。相変わらず……」

「さあさあ、お二人とも席へどうぞ」

「全員静かにしろ。作戦を伝える」

 

 「フーヴァー」がアメを噛み砕きながらウェポンの椅子のひじ掛けを指で叩いた。

 

「事前に伝えた通り、目標の「イースター装甲艦型」は体表の90%が堅牢な装甲に覆われている。攻撃が有効なポイントはここだけだ」

 

 ディスプレイにダンクルオステウスという古生物にも似た姿の侵略体の図が表示された。首の後ろの関節に可動のための隙間がある。

 

「これを船の上から狙い撃ちだ。現在ターゲットは――「エレナ・ブラヴァツキー」。感度はどうだ」

『よくってよ! 目標は予定通りのポイントに20分後に出現するわ!』

 

 ディスプレイの一つに幼さを残した女性の顔がアップで映る。しかしそれを見て二人の日本人はひそひそと互いの意見を交換した。

 

「何ですかねアレ。頭の上に浮いてるの。UFOにしか見えないんですが」

「AUウェポン? UFOで有名な人っていたっけ? というか「エレナ」……誰さん?」

 

 日本語の会話が分からず、「エレナ」は首をひねって「フーヴァー」にたずねた。

 

『ねえミス・「フーヴァー」。二人は何を話しているのかしら?』

「私に日本語がわかるわけないだろう。通信終了」

 

 ひじ掛けのスイッチをダアンと音高く押すと通信が切れた。

 

「そして「信長」がこいつを仕留めたところで、「沖田」が目的の破片を回収する。これを着けておけ。私が誘導する」

「3Dメガネの次はサングラスですか」

 

 「フーヴァー」に渡されたウェポンの外部装置を見て「沖田」が言う。

 

「一発勝負だ。失敗すれば次にこのような機会が巡ってくるのがいつかは分からない。心してかかれ」

「はい!」

「うん!」

 

  *

 

『「進化侵略体」高速で接近中!』

「で、あるか」

 

 銃を構えたE遺伝子ホルダーが作戦を告げる声に頷いた。木瓜紋(もっこうもん)で飾られた軍帽を目深にかぶった彼女の目には、かすかに赤い輝きが灯っている。

 

「さあ、かかってくるがよい! 我こそは第六天魔王波旬織田信長である!」

 

 すれ違いざまの一瞬。大口を開けてE・リプリーもろとも粉砕しようと迫る「イースター装甲艦型」に対し、「信長」はただ一度だけ引き金を引いた。

 侵略体の首後ろに血しぶきの花が咲く。体内でとどまった銃弾の威力は、装甲でふさがれた体内で荒れ狂い、出口を求めて内側から侵略体の体を破壊した。

 派手な水しぶきに混じって侵略体の肉片が飛び散った。

 

「反応あり! 数312――方向、速度、これだ! これを追え!」

「はい!」

 

 サングラスをかけた「沖田」がC・フォレスターの甲板からスタートダッシュを切った。視界に映り込んだガイド通りに海面を駆け抜ける。

 

「速く、鋭く!」

 

 誓いの羽織が身を軽くする。ストライドを大きく、身を低く。自分がさながら海面を切る刃になったかのように、一直線に目標に迫る。小さな黒い点にしか見えなかった目標が眼前に迫った。それはまるで――。

 

「と――った!」

 

 海面ぎりぎり。滑り込みでキャッチしたそれは、ハルキゲニアを思わせる小型の侵略体だった。

 

  *

 

『仮説は正しかったようだな』

「ええ。アレは大型の侵略体の脳に寄生し、その脳の記憶を体内に保存する役割があるようです。宿主が死ねば体外に飛び出て海へ。そして普通の魚などにあえて食われ、回遊や食物連鎖を利用して長距離を移動しているようです」

『侵略体ならではだな。AUウェポンでない限り、たとえ丸ごと食われようと普通の生物では侵略体を殺すことはできない』

「全くよくできている。この仕組みにより一か所での敗北の経験が全世界に伝わり、そこから学んだ新たな侵略体が誕生するというわけです。奴らの進化が猛スピードなのも頷ける」

 

 しかし「フーヴァー」の表情はなおも険しい。指令がその原因をたずねた。

 

『何か、気になることがほかにも?』

「ええ。しかし……一度情報を整理したい。「ナイチンゲール」の統計処理能力を借りる必要がありそうです」

『わかりました。では、後ほど』

 

  *

 

 「フーヴァー」との通信を切った指令は振り返ると「シェイクスピア」に話しかけた。

 

「やはり、「織田信長」は――」

「ええ。あの通り。今回もギリギリまで引き付けての一撃。以前申し上げた通り、彼女に狙撃は向いておりません。むしろあのセンスを生かして戦闘班に組み込むのがよろしいかと」

「薄々そんな気はしていたよ」

 

 土偶が半ばあきれたように言う。

 

「織田信長とはそういう傑物だった」

「いやあ、大分前線の要員も増えましたな。インストラクターとして鼻が高い」

「ええ。あなたの働きあってのことです。「シェイクスピア」」

「恐悦至極にございます」

 

 大げさに「シェイクスピア」は礼をした。

 

「これで、我輩の肩の荷もいくらかは降りたというもの」

「本当に、あなたは得難い人材です、ミスター・バード。よくDOGOOに残ってくださいましたね」

「よしてくださいまし、指令。それでは我輩はこれにて! 「ノッブ」に荷物をまとめるよう指示を出しますので!」

 

 そそくさと「シェイクスピア」は立ち去った。

 

  *

 

「どうでしたかな、初めての共同作戦は?」

「驚きましたよ。まさか「ノッブ」とだなんて」

「こっちこそ、やっと卒業と思ったら……」

「まあまあ良いではありませんか」

 

 E・リプリーの甲板。またもや喧嘩になられてはかなわない。「信長」を飛行要塞まで送る飛行機が到着するまで、「シェイクスピア」は二人をなだめるのに徹していた。

 真緒は第二小隊所属となった。「沖田」の属する第四小隊がいるJ・アツミとは別の飛行要塞であるA(アレックス)・ローガンに駐屯することになる。

 

「まあ、そういうことですので、直接会えるのは今回のようなケースくらいになるでしょうな。通信や文通くらいでしたら、制限があるものの可能ですが……。せっかく二人しかいない日本人ホルダーなのですから、再会を喜んでもよいのですよ?」

「「誰が?」」

 

 相変わらずある意味息がぴったりな二人だった。

 

「第二小隊か……。一応、知り合いなんだけど」

「訓練中に言ってましたね。台湾で顔合わせは済んでるとか。「ジャック・ザ・リッパー」に「ジャンヌ・ダルク」それから「アヴィケブロン」でしたか。「アヴィケブロン」はともかく、二人は有名ですよね」

「まあ、信長モードの時だったから、素顔で会うのは初めてなんだけど」

 

 ほどなくして、ティルトローター機が甲板に降り立った。「沖田」の時よりやや多い荷物を背負い、真緒が「シェイクスピア」に頭を下げた。

 

「それじゃ、お世話になりました」

「こちらこそ勉強させていただきました。健闘を祈っておりますぞ」

「私には「沖田」みたいな訓示はないんですか?」

「ふむ? まあ、あえて申し上げるとするならば――。ひとつの顔は神が私に与えてくださった(God gave me one face.)もうひとつの顔は自分で作り上げるものだ(Another face is made with itself.)

「え? どういう意味?」

「生まれつきの顔立ちとは別に、あなたの行為や心がけが、他人から見たあなたの顔というものを作るという意味です」

「自分の行いには気を付けろってこと?なんだか不安だなあ……」

 

 真緒が眉をひそめて「シェイクスピア」の訓示を消化していると、「沖田」がことさらに明るく発破をかけた。

 

「暗いこと言ってると、沖田さんがまたリードしちゃいますよ?」

「それは勘弁。じゃ、私も頑張るから!」

「ええ! お互いに!」

 

 真緒を乗せた飛行機が飛び去って行く。

 

「「シェイクスピア」さん。負けたくないって思うのって、戦う理由になりますかね?」

「十分かと」

 

 この時ばかりは余計な言葉を排して劇作家は言った。

 

  *

 

「着いた――けど」

 

 A・ローガンの離着陸ポートに着いた真緒を出迎えてくれたのは、にこにこと笑う「ジャック」と、任務中でもないのに仮面をかぶった「アヴィケブロン」、そしてむくれた顔の「ジャンヌ」だった。

 

「えっと……どうも」

「あ! 英語喋れるようになったんだ」

 

 「ジャック」が身軽に走り寄り、真緒の手を取った。改めて見ると、やはり幼い。

 

「改めて自己紹介しておこう。僕はマルク。E遺伝子は「アヴィケブロン」だ」

「どうも。「織田信長」の六天真緒です」

「……「ジャンヌ・ダルク」のレティシアです」

「よろしく」

 

 握手を求めて手を差し出したが、その手を握ってくれたのは「ジャック」だけだった。

 

「えっと……」

「では僕は忙しいのでこれで」

「えっ。じゃ、「ジャンヌ」……」

「……私も忙しいので」

「えっ。ちょっと」

 

 二人揃ってどこかに行ってしまう。真緒は茫然とするしかない。

 

「な、何かまずいことしたかな……」

「え? 覚えてないの?」

 

 と「ジャック」が言う。

 

「あの二人、「信長」がここに来るって聞いてからご機嫌斜めだよ。散々バリアー呼ばわりされたとか、囮にされて銃で撃たれたとか、建設業者みたいにこき使われたとか、色々」

「あー……」

 

 そう言えばそんなこともあったような、なかったような。

 

『それと「ジャンヌ」よ、バリアーの強度に自信はあるか?』

『自慢の旗じゃろ! 頑張れ頑張れ!』

『左右にゴーレム。奥にバリアー。袋小路というにはちと隙間が多いが、十分よ!』

 

 あった。絶対あった。

 早速シェイクスピアの訓示が思い出される。けれど違うんです。信長モードの時は私であって私でないと言いますか。

 

「どうしよう……」

「大丈夫? よしよし」

 

 がっくりとうなだれた真緒の頭を「ジャック」が撫でてくれる。この小さな手だけが今は唯一の味方だった。

 

「前途多難だなあ……」

 

 六天真緒、「織田信長」。DOGOO第二小隊に正式配属。

 最初の任務は仲間の信頼を取り戻すことのようだった。

 

 

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