ノッブナガン   作:喜来ミント

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十三ノ銃 ジョン・エドガー・フーヴァー

「ここがトレーニングルーム。いつでも無料で使えるよ。あとこっちが食堂で――どうしたの?」

「何でもない。何でもないから……」

 

 A・ローガンに着き、荷物を置いた真緒はさっそく「ジャック」に空中要塞を案内してもらっていた。

 しかし、先ほど顔を合わせた第二小隊の他のメンバーたちにそっけない態度を取られたことが思ったより響いていた。

 

「大丈夫? ショックだった?」

「まあ、ちょっと」

 

 もともと自分は地元の学校でも友達が少ない。あまり会話が得意でないのもそうだが、流行りについていけなかったり、付き合いを億劫がったり、小さな積み重ねが結果として孤立を産んでいた。

 まさに「シェイクスピア」が言った通り。自分の行いが、「友達のいない自分」という顔を作ったのだ。

 だから、藤丸さんにいきなり声をかけられたときは本当に驚いた。あのあと、普通に日本に戻れていたら、彼女と仲良くなれただろうか。一緒にお昼を食べたりして……。

 

「いや。いけない」

 

 真緒は自分の頬を両手で軽く叩くと背筋を伸ばした。

 こんなことで落ち込んでいられない。第一印象が最悪だったとしても、これからきっと取り返していけるはず。

 

「「ジャック」は私のこと、変だと思わないの?」

「思わないよ? ちょっと戦ってる時と違うけど、「ジャンヌ」もそういうところがあるし」

「そうなの?」

「うん。普段は『好き嫌いをしてはいけません!』とか『廊下を走ってはいけません!』とかうるさいけど、戦ってるときは『なにをグズグズしているのですか!』とか――ちょっと違う方向でうるさい」

「ははは」

 

 「ジャック」にとっては「ジャンヌ」は口やかましい姉のような存在なのだろうか。

 

「それに、あなたには助けてもらったから。ありがとう。お礼はちゃんと言いなさいって、いつも言われているから。言えてよかった」

「どういたしまして。それも「ジャンヌ」に?」

「ううん。これはおかあさ……「ナイチンゲール」にだよ」

「ナイチンゲール……」

 

 有名な人物だ。白衣の天使というイメージが強いから、そのE遺伝子を継いでいる「ナイチンゲール」も、きっと優しい人物なんだろうなと真緒は思った。

 

  *

 

「掃除は念入りに! 書類のホコリやカビ、キーボードの隙間や皮脂、普段使いしているカップ――注意すべき点はいくらでもあります! そこ! 靴の裏が汚れています! モップをかける前に靴の裏を消毒します! 私のランプの前に来てください!」

「なんで私までこんな目に……」

「そこ! 口ではなく手を動かしなさい!」

「はいはい」

 

 DOGOO指令室。指令に調査結果を報告しようと「ナイチンゲール」を呼び出したはいいものの、多くのオペレーターたちが昼夜を問わず働く指令室は衛生の鬼にとって恰好の的だった。逃げることは許されず、掃除を手伝う羽目になった「フーヴァー」はいつも以上にダウナーな表情を見せていた。

 こんなことをしている場合ではないのに、と思いつつ指令を見るが、彼女は彼女で鼻歌交じりでモップがけをしていた。一方の土偶はいつも通り、謎の装置に引きこもって何もしていない。あの二人の過去については、「フーヴァー」をもってしてもほとんど情報を得られていない。「サンジェルマン」と合わせて三人でDOGOOを設立したことは分かっているが、「シェイクスピア」や「ダ・ヴィンチ」ら古株と呼ばれるメンバーたちに聞いても、彼らの出会った切っ掛けまでさかのぼることは不可能だった。

 

「全く、興味が尽きない」

「掃除は高いところから低いところへ!」

 

 掃除が終わり、オペレーターたちが席へと戻っていく。もういいだろうと判断し、「フーヴァー」は「ナイチンゲール」に声をかけた。

 

「「ナイチンゲール」。さっき話した通り、指令に統計結果を見せたい。頼むぞ」

「承知いたしました」

 

 「フーヴァー」はAUウェポンを立ち上げ、ケーブルの一本を「ナイチンゲール」のほうに伸ばした。

 「ナイチンゲール」はそれを受け取ると、自分の車椅子に備え付けられたランプに接続した。鳥の羽のような装飾が施された車椅子とランプには、あちこちに歯車が埋め込まれていた。それらが一斉に動きだし、「フーヴァー」のウェポンから送られてくる演算の要求に応えていく。

 

「一例ですが――侵略体が台湾での失敗を受けて、それを「伝令型」によって伝え、フロリダでリベンジを図ったとしましょう。しかし、あの期間で台湾からフロリダまでたどり着くルートを考えると、どうにも不自然な点があります」

「「伝令型」による情報共有でも間に合わないということか?」

「ええ」

 

 土偶の話に頷きつつ、「フーヴァー」がウェポンを操作した。地球儀を表示したひときわ大きなディスプレイがまず一つ。更に、その周りに展開した小さなディスプレイに、片っ端から「伝令型」の移動に関わったと思われる海洋生物が表示されていく。サメ、タコ、ジュゴン、クジラ、マグロ、サバ、ウミガメ、イルカ――ありとあらゆる生物のデータがウェポンにインプットされていく。

 

「お伝えした通り、「伝令型」は地球の生物の回遊や食物連鎖を利用して移動します。そこでこれらの生物の行動範囲・食性・移動速度を片っ端から我が書斎に収録し、何が何に食べられ、どこまで移動するかの組み合わせを考えられる限りすべて想定し――」

「私の車椅子の統計処理能力で補助し、結論を出すに至りました」

 

 「ナイチンゲール」の車椅子の歯車が音高くかみ合い、それと同時に「フーヴァー」ウェポンが一つの結果を表示した。ディスプレイに映る地球儀を走る矢印。そのルートのどれを使っても――。

 

「不可能です。台湾からフロリダまで、最短ルートを使用しても時間が足りない」

「では、我々が知らないルートがあるということですか?」

「その通りです。指令。さらに言えば、今まで太平洋側に我々が押しとどめていた侵略体が大西洋側に現れた理由も説明がつく」

「……まさか!」

「ええ」

 

 地球儀がクローズアップされ、北アメリカ大陸と南アメリカ大陸の接続点を示した。

 

「海底トンネルですよ。地下を横断するトンネルを使い、大陸を迂回することなく大西洋側に進出したのです」

「調査せねばな」

「ポイントの絞り込みは済んでいます。今回は「メリエス」だけではなく、私の「エージェント」も出したいところです。護衛のホルダーをお借りしたい」

「いいだろう。できる限り早急に対処してくれ」

「承知しました」

 

  *

 

 早速A・ローガンから第一小隊が招集された。

 ネイティブアメリカンの血を引く精悍な顔つきの青年「ジェロニモ」。

 にこやかな笑みを絶やさない小柄な青年「ビリー・ザ・キッド」。

 これまたニコニコと営業スマイルを浮かべるウサ耳の少女「ジョルジュ・メリエス」。

 水中活動用のスーツに身を包んだ彼らがコスタリカ沖にてダイブしたのは、真緒がA・ローガンに着いた頃だった。

 

「第一小隊、準備はいいか。スーツに問題はないか」

『こちら「ジェロニモ」。OKだ』

『こちら「ビリー」。OKだよ』

『こちら「メリエス」。OKでーす☆』

「よし。「エージェント」を下ろす。くれぐれも丁重に扱え」

『分かってまーす☆』

 

 一方、C(クレイトン)・フォレスターの甲板には「フーヴァー」をはじめとする特殊班が勢ぞろいしていた。「サンソン」と「ナイチンゲール」は付き添いのようなものだが――。

 

「そんなに睨むな「ナイチンゲール」。任務中にアメは食べない」

「当然です」

「ははは……」

 

 この前の一件が祟ってか、「ナイチンゲール」の目つきは鋭い。それでもなお悪びれない「フーヴァー」に、「サンソン」は苦笑いするしかなかった。

 

「しかし、海底トンネルとは。聞いた時は驚きました」

「正確には、その可能性が最も高い、だ。それを今から検証する。万が一海上まで敵が来たらお前の出番だ「サンソン」」

「その時は微力ながら。おそらく侵略体にとっても重要なショートカットですし……みんな無事であればよいのですが」

「同感ですね」

「医者に看護師、私の方が仲間外れか」

 

 やれやれと首を振りつつ、すでにAUウェポンを展開済みの「フーヴァー」はサングラスと黒服に身を固めた人形のようなものを水面へと投じた。それはゆっくりと動くと、水中で待機していた「メリエス」のAUウェポンであるカメラへとドッキングした。

 

「いけそうですか、「フーヴァー」」

「イエス、マム。「エージェント」の感度は良好です。……では、行くぞ」

 

 指令も見守る中、三人のE遺伝子ホルダーと「エージェント」が潜航していく。「メリエス」がとらえた高精細の映像が「エージェント」を通して「フーヴァー」のウェポンのディスプレイに表示される。

 

「よし。予想したポイントはその真下だ」

『了解でーす☆……っと、おお?』

『これは……』

 

 「メリエス」と「ビリー」が漏らす呟き。それは「フーヴァー」の予想がピタリと的中した証拠だった。ディスプレイにぽっかりと空いた円形のトンネルの開口部が映る。

 

「ビンゴ。「メリエス」、中の様子を探れ」

「気を付けてください。穴を掘った奴がまだいるかもしれません」

『指令。二つ訂正させてくれないか』

 

 「メリエス」がとらえる映像の中、突然「ジェロニモ」と「ビリー」がAUウェポンを展開した。「ジェロニモ」は右腕を丸ごと覆う巨大なトマホーク、「ビリー」はホルスターを備えたガンベルトだ。

 

『確実にいる。しかも、奴ではなく、奴らが!』

 

  *

 

 「ジェロニモ」が言うか早いか、敵を察知した多量の侵略体が湧き出してきた。トンネルの内壁を埋め尽くさんばかりに群れ、五つ眼を輝かせているのはウミサソリに似た侵略体だ。

 

「ひー! 足がうじゃうじゃあ~」

『無駄口を叩くな「メリエス」。……どういうことだ? こいつらの姿、どう見ても……』

「下がっていろ!」

 

 「ジェロニモ」がトマホークを振るう。踏ん張りの効かない水中だが、AUウェポンは侵略体を断ち切るのに十分な威力を発揮した。侵略体の固い外殻が砕けて肉が裂け、水中に血が漂う。

 

「ちょ、「ジェロニモ」さん、レンズの近くで倒さないで! 血で濁って撮れないでしょ!」

「そんなこと言ってる場合?」

 

 飄々と突っ込みながら「ビリー」も攻撃を開始した。彼が取り出したのはコルトM1877、ダブルアクションリボルバーだ。しかしこれは()()()()である。「ビリー」はそれをAUウェポンであるホルスターに入れると、すかさず引き抜いた。

 

「ファイア!」

 

 目にもとまらぬ連射で六体の侵略体の頭を吹き飛ばすと、再び銃を左腰のホルスターへ。その瞬間、「ビリー」の指先に銃弾が装填された感触が伝わった。これが彼のAUウェポンのもたらす力だった。

 更に立て続けに追加の六発。水中用に変化させたAUウェポンの弾丸が飛び、「ジェロニモ」の攻撃の隙を補った。

 

「すまない」

「お安い御用さ」

「一体一体はたいして強くないですねー。とはいえ、一対何体いるのやら~」

『戻ったら全員消毒しなくては――』

『サンプルを持って帰る余裕は――なさそうですね』

『おかしい。どう考えても……』

『第二小隊に応援要請を!』

 

 通信の向こう、甲板も騒がしくなってきたところで敵の波がやんだ。何が切っ掛けかは分からないが、急速にトンネルの中へと退却していく。

 

「あれ? 逃げてきますよ」

『そう。ならば一度浮上して体制を立て直しましょう。トンネルの存在は確認できたのですし……』

『それはできません、指令』

『「フーヴァー」、何を……』

『中を確かめる必要があります。「メリエス」は艦上へ。ウィンチを用意して「巻き取り」の準備を。トンネル内部では「エージェント」単体で観測を行う』

 

 退却の用意は整えているが、それでも危険だ。たまらず「ジェロニモ」は「フーヴァー」に声をかけた。

 

「「フーヴァー」。君の端末を無防備にトンネルに入れるのは危険だ」

『承知の上だ。お前が守れ、「ジェロニモ」』

「しかし……」

「お二人さん? 僕もいるってこと、忘れてないかい?」

『だ、そうだ。さあ、行け。公私混同するな』

「……了解だ。だが、引き際は私たちが決める」

『ふん。勝手にしろ』

 

 水中用のスーツから酸素供給用のパイプが外され、代わりに撤退用のワイヤーが取り付けられる。ワイヤーはC・フォレスターの甲板に設置されたウィンチにつながっており、「メリエス」が横に控えていた。

 

『こちら「メリエス」、準備完了。いつでも合図してくださいね』

「ああ」

『酸素の量に気を付けろ。AUウェポンを展開しながらでは通常以上に――』

「分かってるって。僕も「ジェロニモ」もその辺弁えてるよ」

『分かっているならいい。……ちっ。やはり「メリエス」なしでは視界が悪いな。もっとよく照らせ』

「注文の多いお姫様だ。ねえ「ジェロニモ」」

「……早く行くぞ」

 

 スーツに備え付けられたライトが照らす中、「エージェント」を護衛しながら慎重に進んでいく。

 トンネルはやや蛇行しながらもほとんどまっすぐに進んでおり、「フーヴァー」の推測が正しければこのまま大西洋まで続いているのだろう。しかし「ジェロニモ」たちの目に映る光景は、ただのショートカット用のトンネルというには奇妙なものだった。

 あちこちに横穴があり、まるでアリの巣のようなのだ。

 

「横穴……いや、小部屋か?」

『中を覗きたい。そう、その手前ので良い。張り付いてくれ』

 

 「エージェント」が横穴の入り口へと顔を寄せて目を光らせた。「ジェロニモ」はすぐ横で何かあったときに備え、「ビリー」はトンネルの奥に注意する。

 酸素の量もあまり多くはない。緊張の時間が続いていた。

 

  *

 

「それでね、このA(アレックス)・ローガンには私たち第二小隊と「ジェロニモ」たち第一小隊がいるの。それ以外にもJ(ジョージ)・アツミには第三小隊と第四小隊が、S(スティーブン)・ヒラーには第五小隊と第六小隊がいて、太平洋の上をぐるぐる回ってるんだよ。それで、進化侵略体が現れたら指令や「フーヴァー」が指示を出して出撃するようになってる」

「第一小隊って「メリエス」のいる?」

「そうだよ。他には「ジェロニモ」と「ビリー・ザ・キッド」。けれどさっき特殊班の手伝いだとかで出撃しちゃった。だからまた今度紹介するね」

「うん」

 

 A・ローガンの中はかなり広い。E遺伝子ホルダーを始めとして、DOGOOの職員たちが不自由なく駐屯できるように気を配られているようだ。それだけに、このような大きさの飛行要塞を作り上げて運用する技術の高さに驚かされる。よくよく考えればAUウェポンやAUボールも、それを作り出した土偶の存在もSFに片足を突っ込んでいるのだから、飛行要塞くらいで驚くべきではないのかもしれないが――。

 

「あっ。こっちは……」

「どうしたの?」

 

 などと考え事をしながら「ジャック」のあとをついて歩いていると、彼女が急に立ち止まった。

 

「戻って。こっちはダメって言われてて――」

「そこで何をしている?」

「言ったそばから。ごめん、「アヴィケブロン」」

 

 背後から歩いてきたのは、やはり仮面で顔を隠した「アヴィケブロン」だった。身長はあまり高くないが、表情が読めないせいか、どうにも威圧感がある。

 

「まったく。目を離すとすぐこれだ。そっちは「ジェロニモ」がいないときは近づいてはいけない」

「ごめんなさい。うっかりしてた」

「分かればいい。さて、そろそろ勉強の時間だ。早めに戻るように。……ああ、君は確か高校生だったか。専攻は?」

「え? り、理数系だけど」

「そうか。ならば一緒にどうだろうか? 「ジャック」だけだと彼女はすぐ音を上げて逃げ出そうとするからね。私ももう一人くらい生徒がいると張り合いがある」

 

 どうやら「アヴィケブロン」は「ジャック」に普段から先生代わりに勉強を押しているらしい。しかし、自分にも授業を?

 先ほど、忙しいと言って愛想無く立ち去ってしまった割には感触が柔らかい。どういうことだろうか。

 

「あの、「アヴィケブロン」」

「どうかしたかね」

「お、怒ってないの? 台湾でのこと」

「台湾の……? ああ」

 

 「アヴィケブロン」が何かを答えようとしたとき、A・ローガン全体に警報が鳴り響いた。思わず背筋が伸びる。

 

『第二小隊の全ホルダーは装備A-3で降下ランチャーに集合せよ。繰り返す。第二小隊の全ホルダーは――』

「何だ?」

「まさか、敵!?」

 

 真緒と「アヴィケブロン」が顔を見合わせる一方、「ジャック」は遠足を控えた子供のような笑みを浮かべていた。

 

「よーし。頑張らなくちゃ。そうしたら、もっともっと……」

 

 背後を振り返り、誰もいないはずのそこに笑いかける。

 

「褒めてくれるよね、おかあさん?」

 

  *

 

「指令。一時映像を落とします」

「ええ。くれぐれも無理はしないように。すでに第二小隊にも応援要請を――」

「分かっています。……集中しますので、失礼」

 

 大事な場面だ。「フーヴァー」はディスプレイを落とすと、すべてのリソースを「エージェント」での観測につぎ込んだ。

 

(やはり、大量の侵略体……どれもこれも……奥のは……?)

 

 小部屋の奥行はそれほど深くない。しかし、その中もやはり大量の侵略体が岩肌を覆い尽くすほどに群れていた。

 手前にいるのは、また新しい姿の侵略体だ。先ほどの侵略体――ハサミが発達していたことから、トンネルを掘り進む役目だろうそれらとは違い、三葉虫に似た姿の侵略体が群れている。しかし、その奥、小部屋の行き止まり。蜘蛛のようなそれ。それにフォーカスを合わせ、詳細な観測を――。

 視界がブレた。

 

  *

 

 「ビリー」が「エージェント」を鷲掴みにすると、通信機に叫んだ。

 

「撤退するよ!」

『なにをする!』

「なにかまずい感じ……。「メリエス」、引いて!」

『は、は~い! 「早送り」行きますよ!』

『おい、勝手に……』

「すまないが、私も同意見だ!」

 

 観測を遮られた「フーヴァー」が文句を言うが、現場の二人の意見が一致した。彼らのスーツに取り付けられたワイヤーが常識では考えられない速度で巻き取られ、スーツから漏れる気泡を取り残して脱出を始める。

 

「見えた、出口だ!」

「どれほど効果があるか分からないが――崩すぞ!」

「オーケイ!」

 

 トンネルから脱出する寸前。「ジェロニモ」たちはAUウェポンによる攻撃をトンネルの開口部へと打ち込んだ。トマホークと銃弾がトンネル上部の岩盤をえぐり、土煙とともに崩落させる。

 急速に背後から手前に飛び去って行く視界。その奥、たった今ふさがれたトンネルが、あっけなく掘り開けられるのを「ビリー」はかろうじて見た。そしてその奥から――。

 

「マズい――」

 

 急浮上の負荷に耐えながら、どうにか海面へとたどり着く。だが、勢い余って海面に飛び出した二人と「エージェント」へと、「それ」はすでに魔手を伸ばしていた。

 

「なっなっ何ですかアレは!」

 

 C・フォレスターの甲板。ウィンチのすぐそばにいた「メリエス」がそれを見て叫び声をあげた。彼女はたった今までAUウェポンの能力によってウィンチを「早回し」し、「ジェロニモ」たちを引っ張り上げる役目を負っていたのだが――彼女に宿る映画監督の血が、その衝撃の瞬間をカメラに捕らえさせた。

 それはタコの足に似ていた。しかしその大きさは尋常ではない。二本の触手は空中に飛び出した「ジェロニモ」たちを追い越すように屹立すると、彼らの死角から容赦ない叩き落としを食らわせた。

 

「ぐっ」

「しまった……!」

 

 「ビリー」の手から零れ落ちた「エージェント」を、触手は器用に確保した。だがしかし、それは――。

 

「ぐう、あっ!」

「「フーヴァー!」」

 

 容赦ない締め付けが「エージェント」にヒビを入れる。そのダメージのフィードバックが「フーヴァー」を襲い、血色の悪い顔から血が吹きあがった。

 

  *

 

 A・ローガンの降下ランチャ―。飛行要塞から腕のように伸びたデッキの床には穴が開いており、降下ポッドの上部へと通じている。

 真緒たちが出撃の準備を終えて駆けつけると、すでに準備を終えて待っていた「ジャンヌ・ダルク」が遅れてやってきた三人を叱り飛ばした。

 

「なにをグズグズしているのですか!」

「すまない」

「ごめんなさい」

「ホントに言った……」

 

 最後の真緒のつぶやきには首を傾げられたが、本人のいないところでの噂話だ。お茶を濁して降下ポッドに飛び乗った。

 

「ポイントはコスタリカ、リモンから南東へ――」

「いいよ。早く出して」

 

 スタッフの言葉を遮って「ジャック」が言う。

 

「降りたところにいる敵をバラバラにすればいいんだよね。早く出してよ」

「わ、分かった。ハッチを閉めろ!」

 

 ポッドのハッチが閉じ、一瞬遅れてライトがポッドの内部を照らした。次いで降下ポッドに振動が伝わる。要塞から切り離されたのだろう。

 

「「ジャック」。また台湾の時のように――」

「分かってるよ。「ジャンヌ」はいちいちうるさいなあ」

「「ジャック」!」

「僕からもお願いしよう。いちいち怪我をされてはたまらない。この間も「ナイチンゲール」に油を絞られたんだ」

「おか……「ナイチンゲール」も、そんな心配しなくていいのに。まだ足りないのかな。もっともっと戦えば――」

 

 「ジャック」もまた、戦闘においては少々雰囲気が変わるようだ。台湾の時先走ったのもこの気質があってのことだろう。

 しかし、何故だろうか? 純粋に戦うのが好きという感じではない。うまく言えないが――。

 

「蘭丸の小さい時を思い出すのう――」

「どうした、「信長」?」

「え? あ、ああ。なんでもない」

『まもなく戦闘海域!』

 

 オペレーターの声がポッドに響き渡る。真緒は軍帽を取り出してかぶり、息を大きく吸い込んだ。

 

「さて、出陣か」

 

 帽子の下の眼が、かすかに赤く輝いた。

 

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