ノッブナガン   作:喜来ミント

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(2018/07/15)
お気に入りが250突破、UAが10000を突破いたしました。ありがたい限りです。


十四ノ銃 シャルル=アンリ・サンソン

 

 状況は最悪だった。

 「フーヴァー」のAUウェポンの端末である「エージェント」が侵略体の触手に捕らえられ、ウェポンの一部が受けたダメージのフィードバックが「フーヴァー」自身を襲っている。

 それを救い出そうにも、海面に戻ってきたばかりの「ジェロニモ」と「ビリー・ザ・キッド」はもう一本の触手に翻弄されており、しかも水中用のスーツを着ているせいで動きが鈍い。

 唯一フリーである「ジョルジュ・メリエス」はカメラのウェポンで特殊撮影(SFX)の効果を発揮することができるが、単体での攻撃力には期待できない。

 応援を要請した第二小隊もまだ到着しない。

 ならば――自分の出番だ。

 

「「フーヴァー」、ウェポンを解除しなさい! このままでは――」

「ダメだ!」

 

 「ナイチンゲール」が鋭く指示するも、「フーヴァー」は首を振った。

 

「今ウェポンを解除すれば、「エージェント」内のデータが消滅する。何としてもアレをウェポン本体に回収せねば……! うう、ぐ――!」

「いけない!」

 

 侵略体の締め付けが増す。「エージェント」がミシミシと音を立て、今にも砕けそうになる。

 

「僕が行きます!」

「「サンソン」! ……仕方ない! 「メリエス」、援護をお願いします!」

「はーい、指令!」

 

 「サンソン」はAUウェポンを展開し、海上に飛び出した。もしもに備え、ほとんど使わない戦闘用のスーツに袖を通しておいてよかった。スーツの足元に組み込まれたホバー装置が足の裏に感触を返す。

 今は解剖用のメスや鉗子は必要ない。解剖道具を収納した処刑人の剣のまま切りかかる。

 自身の名のもととなったシャルル=アンリ・サンソンは、世界史上二番目に人の命を奪った処刑人であり、人体に精通するべく編み出された代々の技術を継ぐ医者でもあった。

 彼がそれほど多くの人間を殺める原因ともなった、迅速かつ簡便な処刑道具――ギロチンが開発されるまで、斬首は処刑人が手ずから振るう剣により行われていたという。突き刺す必要のない、切っ先のない処刑人の剣(エクセキューショナーズソード)によって――。

 刑の執行には相当な技術と経験が必要とされ、必然的にサンソンは処刑人であり、医者であると同時に優れた剣士であったという。だが、今の自分はどうだ。

 

「届け……!」

 

 かすりもしない。タコかイカのような触手は、のたうち、うねり、「メリエス」のカメラによって動きを緩慢(スロー)にされてもなお、柔軟にこちらの斬撃を避け、お返しと言わんばかりに叩きつけてくる。

 

「届けよ……!」

 

 医師の息子として生を受け、自身もまた駆け出しの医師となったころ。何の縁か、その身に宿すE遺伝子を自覚した。フランスに生まれた自分にとっては知らない名前ではなかった。その意志の高潔さも知っていた。だが、名誉に思うと同時に恐ろしかったのだ。

 医師としてではなく、処刑人として働くべく、このAUウェポンを得たのではないかと――。

 

「「サンソン」! 無理をするな! 今そっちに……!」

「「ジェロニモ」! 人の心配してる場合じゃ――ぐぅ!」

 

 それがこのざまだ。前線に立つには胆力が足りない。「シェイクスピア」が下した評価はそれに尽きた。特殊班に組み込まれ、解剖医として侵略体の死体と向き合う日々。こうして万が一の事態に侵略体と向き合っても、触手一本満足に切れず、「ジェロニモ」たちに心配される始末。

 

「それでも!」

 

 逃げるわけにはいかない。役立てないままではダメだ。今この場で「フーヴァー」を助けられるのは自分だけなのだ。

 

「「メリエス」! イチかバチか突っ込みます! 援護を!」

「ああもう、知りませんよ! 止まれ止まれ止まれ~!」

 

 「メリエス」がカメラから照射した光に照らされ、触手の動きが一段とスローになる。周囲に弾ける海水の一滴一滴のうねりすら分かりそうなほど澱んだ時間の中で、懸命に「サンソン」は海面を蹴った。

 ここで決めなくては。E遺伝子ホルダーとして、一人の医師として、高潔なる処刑人の名を背負った男として、

 何より、いけ好かない音楽家の幼馴染に笑われないためにも!

 

「動かないものならば……僕の仕事だ!」

 

 とうとう剣が触手を捕らえた。斬り飛ばされた触手の先端から「エージェント」が解放され、海面へと落ちていく。

 

「やった……」

 

 だが、ほっと息を緩めた「サンソン」の眼前で、触手の傷口から湧き出たものが五つの眼を輝かせた。古代の虫を思わせるフォルムのそれは、バチバチと音を立てて――爆発した。

 

  *

 

「「サンソン」!」

 

 爆発に吹き飛ばされ、血まみれの「サンソン」が海面に叩きつけられた。遠目にもぐったりとして意識がない。

 「エージェント」もまだ、無防備なまま海面を漂っている。なんとか両名を回収しようと周囲のスタッフたちが動き始めるが、それよりも先にさっきの虫型侵略体が襲い掛かろうとする。

 

「どうしてこんな時に、私は――」

 

 「ナイチンゲール」は歯噛みした。今の自分に戦う力はない。車椅子から離れることすらできない。

 こんな時のために、自分はいるというのに――。

 

「お待たせ、おかあさん」

「……! この声は!」

 

 今まさに侵略体に襲われようとしていた「サンソン」と「エージェント」が、海中から飛び出した手に救い出された。水を固めたような、あの巨大な手は――。

 

「「アヴィケブロン」に「ジャック」! 来てくれたのですね!」

「何が何だか分からないが、とにかく回収しておく。「ナイチンゲール」、どうしたらいい」

「「エージェント」を早くこちらに! 「サンソン」は慎重に運んでください!」

「了解だ」

 

 「アヴィケブロン」がAUウェポンの籠手に刻まれたセフィラを操作すると、ゴーレムによって「エージェント」がこちらに投げ渡された。

 「ナイチンゲール」はすかさずキャッチし、「フーヴァー」のウェポンに「エージェント」を取り付けた。黒服の人形が吐き出した情報が、長官たる「フーヴァー」の書斎に納まっていく。

 

「ごく、ろう――何?」

 

 だが、今しがた得た情報を確認した「フーヴァー」は目を見開き、最後の気力を振り絞ってウェポンを操作し始めた。

 

「何をしているのです! 早くウェポンを解除して――」

「頼む、これだけ、は……他の連中にも理解できる形、に――」

 

 「フーヴァー」が限界を迎えて崩れ落ち、ウェポンが強制的に解除されたのは、「サンソン」がC・フォレスターに収容されたのと同時だった。

 

「二人とも……必ず助けます!」

 

 「ナイチンゲール」は表情をますます険しくすると、搬送される「フーヴァー」と「サンソン」の後を追って船内へと姿を消した。

 

  *

 

「あーあ、おかあさん、行っちゃった……」

 

 船内へと消える「ナイチンゲール」の背中を見送りながら「ジャック」がそう呟くのを「信長」は聞いた。先ほども彼女のことを「おかあさん」と言っていたが、彼女が「ジャック」の母親なのだろうか。そうは見えない若さだったように思うが――。

 

「っと。いまはそれより、じゃな」

 

 たった今、自分たち第二小隊は応援として到着した。先ほどまで水中仕様であった第一小隊もようやく仕切り直しが済み、身軽になっている。

 「フーヴァー」と「サンソン」がともに大怪我を負って退場し、「ナイチンゲール」も彼らの治療に向かった。

 ならばこれからは、自分たち戦闘班の仕事だ。

 「アヴィケブロン」が第一小隊を指さして言った。

 

「ああ、「信長」。彼らが第一小隊だ。メンバーは知っているか?」

「おうとも。先ほど「ジャック」から聞いた」

 

 その「ジャック」は、一度海面下に引っ込んだ侵略体の触手を目で追いかけ、うずうずとして今にも飛び出していきそうだ。それを「ジャンヌ」が旗で抑えている。

 

「今回のも大きそうだね――」

「いけません。指示を待って――台湾の時のようにならないように!」

「わかってるってば、もう」

 

 その待望の指示が、C・フォレスターの甲板から響いた。指令だ。

 

「これより私が指揮をとります。ソナーによれば、敵は頭足類に似た侵略体と判明しました! 攻撃用の腕は2本! 本体に打撃を与えるため、まずは腕を無力化します! 向かって左の腕には第一小隊、右の腕には第二小隊が当たってください! また、未確認の爆発性の侵略体も随伴している模様! 注意してください!」

「はーい」

「了解した」

 

 その言葉を受け、「ジャック」と「ジェロニモ」が真っ先に飛び出した。それぞれの小隊の前衛だ。そして、そのあとを「ジャンヌ」たちサポート役が追い、自分と「ビリー」は後方から射撃で援護するという形になる。

 相手が触手を大きく振り上げてこちらに叩き込んできた。「ジャンヌ」が「ジャック」を歩幅で追い抜き、守りの象徴たる旗を掲げた。更に「ジャンヌ」が受け止めた隙を突き、「アヴィケブロン」のゴーレムが足を抑え込んだ。

 

「柔らかい。解体しやすくていいね」

 

 動かない足は格好の獲物だ。身軽に飛び出した「ジャック」がナイフを一振りして文字通り骨のない足を切り飛ばした。

 しかし、敵も切られるままではない。「ジャック」へと先ほどの虫型の侵略体が襲い掛かった。やはり足の中から滑り出て、少女に細長い足で絡みつこうとする。

 

「やらせぬよ」

「「ジャック」、下がって!」

 

 すかさず「信長」が射撃を送り、虫型の侵略体をハチの巣にした。その間に再び「ジャンヌ」が前に出て、侵略体の自爆をガードする。

 結局、「ジャンヌ」たちとは明確に和解できないまま戦場に出ることになったが、今のところうまくかみ合っている。もしかしたら、何とかなる――いや。()()()()()()()。何か嫌な予感が背筋を走る。

 

「体内に虫――しかも爆発するし、「地雷型」とでもいったところか。まだまだいるようだな」

 

 「アヴィケブロン」の言葉通り、斬られて落ちた触手の先端を内側から食い破り、無数の「地雷型」が湧き出した。身の毛のよだつ光景だがボーっとしている暇はない。「ジャンヌ」の壁、「アヴィケブロン」のゴーレム、そして自分の射撃で頭数を減らし――。

 

「後ろ! 回り込まれてる!」

「何ですって!」

 

 地雷型は陽動。海面下で密かに伸びていた触手が、真緒たちの背後で立ち上がり、一撃を加えてきた。かろうじて避けるが、これでは前衛と後衛という陣形を組み立てづらい。

 「信長」はかすかに目を赤く輝かせて指示を飛ばした。

 

「「アヴィケブロン」はゴーレムを等間隔に配置しゲソを抑え込め! 「ジャンヌ」は「ジャック」の二歩後ろに着き、周囲を警戒しつつ前進! わしと「ジャック」でバリアーの隙間から攻撃し、虫どもを蹴散らして本体に向かう! よいな!」

「うん、いいよ」

「了解した」

「わかりま……バリアーって言わないでください!」

「言っとる場合か! 早くせい!」

「わ、分かりました!」

 

 思わず仕切ってしまったが大丈夫だろうか。演技の仮面の下で真緒は内心冷や汗をかいていた。

 それが一瞬の隙となったのか。一匹の地雷型が迫っているというのに対応が遅れた。

 

「零しました! そっちに――」

「まず――」

 

 かろうじて撃ち落とすも近すぎた。小さな体が爆風で煽られ、帽子が吹っ飛び――。

 

「あ!」

「どうした?」

「ぼ、帽子が!」

「帽子? いいから行きますよ! 指示したのは貴女なんですから! さあ!」

「う、うん!」

 

 まずい。帽子がないだけでこんなに心細いとは。自己暗示のスイッチとして便利に使いすぎた弊害か。

 ちっとも集中できない。射撃がぶれる。頭の回転が追いつかない。どうしたら――。

 そんな風に考えていると更にミスを重ねてしまった。通信機から「メリエス」の抗議が飛んできた。

 

『ちょっとちょっと、「信長」さん! 流れ弾来てるんですけど! 射線考えてくれないとお仕置きですよ☆』

「えっ、あっ、ご、ごめんなさい!」

 

 やってしまった。流れ弾が第一小隊に行ってしまったようだ。思わず反対側の腕を相手取っている彼女たちの方を見て――。

 

「あれ?」

 

 「ジェロニモ」が斬りつけた瞬間、その映像を「メリエス」がカメラに収めた。

 

『今のカットいただきです! 「リプレイ」三回行っときますよ☆』

 

 「メリエス」の言葉とともに「ジェロニモ」の分身が三体も現れ、先ほどの光景と寸分狂わない動きでトマホークを振り下ろした。侵略体の足が輪切りにされて吹き飛ぶ。

 

『ご機嫌だね「メリエス」』

『そりゃもう! やっぱりカメラは現場で回してこそですよ☆ あ、そこは「スロー」で! やっちゃってください「ジェロニモ」さん!』

『助かる』

 

 そんなやり取りが通信機ごしに聞こえる――それほどに遠い。

 戦っているうちに腕が開いたのか。

 こちらが前進しているからか。

 いや――違う。

 敵の本体は動いていない。これ見よがしに出した腕につられ、こちらの戦力は左右に分けられ――。

 

「じゃ、「ジャンヌ」!」

「何ですか? 貴女、さっきから変ですよ?」

「え、あ、「アヴィケブロン」!」

「何かね? 手短に頼む」

「あ、え、えーと」

 

 どうしよう。単なるカンだし、自分は新人だし、今は台湾の時やハリケーンの時みたいに信長モードが全開なわけじゃないし、どうやって説得したらいいか分からないし――。

 

「どう、したら」

 

 口で言うより、体が動いていた。

 

  *

 

 両方の腕を排除すべく戦うE遺伝子ホルダーたち。彼らの隙を突くように、頭足類型の侵略体が突然浮上した。

 

「え? いきなり出てきて、何を……」

「何のつもりだ?」

 

 彼らがいぶかしげに見る中、侵略体は額をうごめかせ、そこに開いた穴から何かを打ち出した。

 「地雷型」だ。それも、今まで腕から繰り出してきたものよりもずっと大きい。それが向かう先は――。

 

「撃った!?」

「どこを狙って――まずい!」

「指令!」

 

 両腕につられて左右に展開したE遺伝子ホルダーたちがいない正面。特務艦、C・フォレスターだった。

 

 

 

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