ノッブナガン   作:喜来ミント

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十八ノ銃 ストーンフォレスト作戦 その1

『「戦艦型」浮上確認! 本船をロックオンしています!』

『作戦開始まで、あと30秒! 28、27、26……』

 

 とうとう、作戦が始まる。今後の戦局を大きく左右する、「戦艦型」と数千にも及ぶ侵略体に守られた原始細胞を殲滅するための作戦が。

 手は尽くした。使えるものは全て使った。それでも、明確にこちらの戦力と言えるのはたったの八人と一匹。

 「織田信長」、「ジャック・ザ・リッパー」、「ジャンヌ・ダルク」、「アヴィケブロン」、「ジェロニモ」、「ジョルジュ・メリエス」、「ビリー・ザ・キッド」、「ロボ」、「ウィリアム・シェイクスピア」。

 ゆえに、この作戦の名は、かの「偉人」に敬意を表して。

 

『3、2、1、0!』

「ストーンフォレスト作戦――開始じゃ!」

 

 「織田信長」は「戦艦型」の注意を引き付けるべく三段撃ちを叩き込んだ。

 

「まずは第一段階! 「ジェロニモ」よ、頼むぞ!」

『了解した』

 

  *

 

 「ジェロニモ」が任されたのは、敵の進路を確認することだった。「織田信長」が「戦艦型」を引き付けている間に、大西洋側からトンネルに侵入し、ニカラグア湖へ向けて掘られたトンネルの正確なデータを入手する。実際にその役割を負うのは観測機器を積んだ小型潜水艇だが、トンネル内に戦力が残っていたときのための護衛として同伴している。

 

『こちらJ(ジョニー)・リコ。「ジェロニモ」、視界はどうだ?』

「問題ない。トンネルはもぬけの殻だな。……敵の作戦に気づいていなかったらと思うと、ぞっとする」

 

 小型の無人潜水艇を伴い、「ジェロニモ」はトンネルの中を突き進んでいく。時間が惜しい。水中用スーツに増設した水中スクーターを全力で稼働させる。

 しかし、その途中に気になるものがあった。

 

「……これは」

『どうした?』

「「工兵型」の死骸か? 「ビリー」がやったものだな。傷は少ない」

『一応潜水艇のストレージに放り込んでおいてくれ。敵のサンプルは多い方がいい』

「分かった」

 

 少しの寄り道もあったが、とうとう一つのトンネルを探り当てた。同伴の潜水艇のスキャナを起動し、データを送る。

 

『……よし、トンネル開口部の角度と方向のデータは取れた。「ジェロニモ」は急ぎウパラに向かってくれ』

「ああ。……幸運を祈る」

『こちらこそ! 通信終了』

 

  *

 

「諸元データ出ました!」

「分かりました」

 

 ニカラグア湖へと向けて掘られているトンネルの正確な角度と方角のデータを受け取り、車椅子に読み込ませた「ナイチンゲール」は、さっそく解析を開始した。指令室に歯車の回り、かみ合う金属音が奏でられる。

 そして、一際音高い響きとともに、結果が出た。

 

「出ました! ポイントE-6、進路は北西微西です! 「シェイクスピア」、「メリエス」、第二段階をお願いします!」

 

  *

 

 「シェイクスピア」はもう表舞台に出ないと決めていた。後進のホルダーを鍛え、送り出すことが自分の義務であり、できることであると。

 北極海の空を軽やかに飛ぶ「ダ・ヴィンチ」とは違うのだ。

 だというのに、「織田信長」は作戦に参加せよという。いつぶりになるか分からない戦闘用のスーツに身を包み、準備運動をしただけで軋む体に鞭打ってヘリに乗り込んだ。訓練の時に厳しくされた仕返しだろうか。全く、どんな目にあわされることか。

 そして、今は――。

 

「宙吊りとは――! ああ、恩知らずという形で現れる人間ほど(O see the monstrousness of man,)恐ろしいものはない!(When he looks out in an ungrateful shape!) とは言いますが――!」

「はーいオジサマ、じっとしないと見切れますよ☆」

 

 ヘリコプターから宙づりにされた「シェイクスピア」は、AUウェポンの演台ごと、万が一にも落ちないようにがっちりと固定されていた。

 そんな「シェイクスピア」をカメラに収めた「メリエス」が一度、大きく息を吸った。

 

「さあて、空前絶後の長回し。「エルミタージュ幻想」を超えるか否か……」

 

 「メリエス」のカメラが映し出した「シェイクスピア」の姿が四人に分裂した。それぞれの「シェイクスピア」も、やはりその身を固定され、ヘリコプターに宙づりにされる道をたどった。DOGOOのスタッフがてきぱきとその身を固定する間にも、四人の劇作家の口は止まらない。

 

「おお、これはこれは! 吾輩が四人となれば、仕事も四倍、苦労も四倍、締め切りも四倍ですな!」

「それは違いますぞ、吾輩! 四人で一つの脚本に取り組もうとして苦労が更に四倍で十六倍になりますので!」

「まったくですな! 加えて言うならば時間が四倍かかって締め切りは四分の一になりますな! ははは!」

「仕事になりませんな! ここは既にできている脚本を演じてお茶を濁しては? 四大悲劇の同時上演などがよろしいかと!」

『きっちり四人分うるさくなっとらんで仕事せんか――!!』

「「「「承知いたしました」」」」

 

 通信機ごしに「信長」に怒鳴られた四人の「シェイクスピア」は、「ナイチンゲール」に言われた地点に運ばれると、北東から南西へと線を描くように並び、地面すれすれに待機した。

 

「では行きますぞ!」

 

 「シェイクスピア」の能力は周囲百メートルを己の舞台に変え、塗り替えること。それは地形すら無視して行使される。その気になれば、足元の地面に半径百メートルのクレーターを作り出すことすら可能なのだ。

 作戦の概要を昨晩、「信長」はこう述べた。

 

『地中の連中に手を出すのは難しい。海水の満たされたトンネルなどという連中の土俵に踏み込んでやる義理もない。ゆえに――地中を掘り進む連中の進路をふさぐように貴様を四人並べ、堀を作る。「ナイチンゲール」の予測によれば、連中は地下七十メートルを掘り進んどるらしいが、十分じゃな? 奴らを舞台に放り出せ!』

『大変言いにくいのですが。吾輩は足元の地面を消したらどこに居ればよいのでしょう? 下手に地形を戻すと*いしのなかにいる(YOU ARE IN ROCK. )*状態になりかねませんが』

『ああ、それならば抜かりない』

 

 結果、宙づりにされたまま「シェイクスピア」は能力を行使した。それぞれの「シェイクスピア」の足元が百メートルにわたって丸ごとえぐり取られ、その半球が四つ繋がれた即席の堀が出来上がる。

 北西、ニカラグア湖側の地面はあらかじめ、鉄板でコーティングしておく。敵は南東の壁を突き破ってくる計算だ。

 

「さて、いつになるかな」

「ん……。さっき言ってた競争、どうする?」

「どうしようか。「ジェロニモ」は間に合うかな?」

 

 そんな堀のふちギリギリで、「ビリー」と「ジャック」は敵の到来を待っていた。

 敵を最終的に殲滅するのは「ジャック」たちだ。後で何人か合流するが、予測では敵の数は数千。果たして勝てるのか? たった一人で「信長」が「戦艦型」を引き付けている以上、これが最大限の配置だとしても――。

 彼らは飄々とあるいは淡々と敵を倒す。二人とも「シェイクスピア」が教官となるより先に戦場に出ていたために、直接教えたことはないが、優れた戦士であることは知っていた。それと同時に、一人の人間として完璧ではないと言うことも。

 胸の内から湧き上がるものがある。今日まで一度も、そしてこれより先、自分は進化侵略体の一匹も直接殺すことはないのだ。ただ、舞台を整え、送り出すだけで。

 「シェイクスピア」は大きく息を吸い込むと、声を張り上げた。

 

「今日はストーンフォレスト作戦の決行日である!」

 

 いきなりの宣言に、その場にいる皆の耳目が「シェイクスピア」に集まった。

 

「え? 何?」

「『ヘンリー五世』か」

「ホントに自分の作品が好きなんですから」

 

 これを知っているらしい「ビリー」や「メリエス」はともかく、「ジャック」に飽きられてはたまらない。飽きられては劇が泣く。中略し、一番伝えたい部分へとページを進めた。

 

数では劣る我ら、されど幸せな我らは、(We few, we happy few,)兄弟の一団である!(we band of brothers!) なぜならば今日私とともに血を流すものは私の兄弟となるからだ。どんな身分のものも今日からは貴族となるのだ。そして今床に就いている貴族たちは、我々とともに戦ったものがストーンフォレストの手柄話を語る間は、この場にいない我が身の不幸を呪い、男が廃れることになるだろう!」

 

 「シェイクスピア」が台詞を言い終えるとともに、無粋な物音が響いた。南東から飛んできた飛行機の騒音が台詞の余韻をかき消し、「ジェロニモ」を投下して去っていく。

 ぱちぱちと「シェイクスピア」に拍手を送る「ビリー」たちを、到着した「ジェロニモ」は怪訝そうに見た。

 

「間に合ったか? ……なにやら楽しそうだな、「ビリー」」

「惜しいね、「ジェロニモ」。いいものが見れたのに」

「全くですよ☆ タイミング悪かったですね~」

「そうか? 私には、ちょうどに思えるが――!」

 

 気配を感じ、「ジェロニモ」がAUウェポンを展開した。

 今まさに、南東側の壁を突き破り、侵略体が姿を現した。「工兵型」はハサミをうごめかせ、掘り進むべき地面がないことに戸惑っているようにも見えた。しかし、後に控える群れに押されたのか、そのまま開いたトンネルの外へと身を乗り出した。

 

「敵出現! 二番クレーター、深度約67メートルです☆」

『よし! 第二段階の締めじゃ! 絶対に逃がすでないぞ!』

「お任せを! さあ皆々様、鋼鉄の舞台へとご入場くだされ!」

 

 必要なのはトンネル出口の開口部の角度と方位だ。「メリエス」がそれをカメラに収め、合図を送ったのを見て、四人の「シェイクスピア」は指を鳴らした。

 途端に地面がむき出しだったクレーターが、トンネルの開口部を残して隙間なく鋼鉄でコーティングされた。状況を理解して逃げ道を作ろうとしていた「工兵型」のハサミがむなしく擦過音を立てる。

 更にもう一度指が鳴らされ、屋根が出現する。鋼鉄製の板がぴったりと地面を覆い、三人の前衛ホルダーとともに侵略体を逃さない檻を形成する。

 

「行くぞ、「ビリー」!」

「分かってる! それじゃあ――」

 

 彼らが言い終えるより速く駆け出す姿があった。

 トンネルから放り出された侵略体の群れは、敵を察知して進撃を始めていた。しかし、先頭の一団の首が次々に宙に舞う。

 ナイフの鋭い一閃が、彼らの首と体を切り離したのだ

 

「解体の時間だよ」

 

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