ノッブナガン   作:喜来ミント

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十九ノ銃 ストーンフォレスト作戦 その2

「さて、第二段階の締めと参りましょう」

 

 現在、半径百メートルのクレーターが四つ、一列に連なった形となっているそれを、戦いやすいように組み替える。今回トンネルが開通したのは西から数えて二番目の「シェイクスピア」のクレーターだ。その一人は動かさずに、他の三人は自身を吊るすヘリコプターの動きに応じて配置を変更した。

 横一列から、円を縦横二列ずつに並べた形。それぞれの円を少しずつ重ね合わせ、地面の下に広い空間を作る。こうして生まれたフィールドは上から見るとまるで四つ葉のクローバーのようだった。

 合わせて半径200メートル弱にも及ぶ鉄の地面を見下ろし、「シェイクスピア」は息をついた。それを見て、彼を撮影・コピーして四人に増やす役目を負った「メリエス」が釘をさす。

「「シェイクスピア」さーん、まだ一息つくには早いですよー」

「分かっております。この後にもう一仕事。そしてあとはひたすら長丁場。まったく「ノッブ」もとんでもないことを考えてくれたものです」

「あのハリケーンの時からずっとそうじゃないですか?」

「ははは、全く持ってその通りですな」

 

 この鉄の蓋の下で、今まさに戦いが始まっている。外に出ようとする無数の侵略体が鉄板をひっかく音に混じって、刃物を振るう音や銃声が聞こえてくる。

 

「頼みましたぞ」

 

  *

 

 「ジャック」はひたすらナイフを振るい続けていた。何せ敵は尽きない。すでに「シェイクスピア」の作り出したクレーターを埋め尽くさんばかりの「工兵型」がいるというのに、更に南東にあいたトンネルからはわらわらと後続が湧き出てくるのだ。

 

「たくさんいるね」

「ペースを考えてよ、「ジャック」」

 

 そういう「ビリー」の手も止まらない。残像すら生まれる速度で銃を抜けば、彼の回りの敵が眉間に風穴を作り倒れていく。

 

「ねえ「ジェロニモ」。「ロボ」は大丈夫なのかな?」

「ああ、おそらくは。今回は一本取ったからな。次は「ビリー」にも付き合ってもらうが構わないか」

「ま、彼をDOGOOに引き入れた責任は取るつもりだけど――」

 

 撃ち尽くした拳銃をホルスターに。AUウェポンが弾丸を装填した手ごたえを感じた瞬間、彼の指先が電光となって動き、敵に狙いを定めて引き金を引く。

 銃声に「ビリー」のつぶやきが掻き消された。

 

「「ジャンヌ」たちが仲良くしてくれてればいいんだけど」

 

  *

 

「あのー。ジャーキーとか、食べます?」

「■■■■……」

「「ジャンヌ」。あまり構わない方がいい。彼は役目を分かっている」

「そうですけど……」

 

 ウパラの戦場から南東に3キロの位置で、狼と二人は待機していた。

 AUボールを改良したAUチョーカーとでもいうべきものを首に身に着けた「ロボ」は、目を鋭く細めたまま地面に伏せていた。まるで獲物を待つ体勢だ。

 その横で、水中用のスーツを身に着けた「ジャンヌ」は彼との距離感を掴めずにいた。「信長」が自分の役割を言い渡してきたときは冗談かと思ったが、こうして待機してくれているのを見ると、「ロボ」もきちんとやるべきことをわかっているようだった。

 

「そう怖がらなくてもいい。彼はとても賢い。「信長」からも聞いているだろう」

「そ、そうですが。あなたは平気なのですね、「アヴィケブロン」」

「まあ、僕も昨夜の騒動には一枚噛んでいるからね。そういう意味では――」

『「ジャンヌ」、「アヴィケブロン」、「ロボ」! そこから西へ820メートルの地点です!』

 

 その時、「ナイチンゲール」からの通信が会話を遮った。

 「ジェロニモ」が偵察したトンネルの入り口と、ウパラで「シェイクスピア」が誘導した出口。両者の情報を得た「ナイチンゲール」が車椅子の統計機関でトンネルの進路を割り出したのだ。

 

『急いでください!』

「■■■■■■■■■■!!」

 

 「ジャンヌ」たちに促されるまでもなく、「ロボ」は遠吠えとともに変身を始めていた。途端に全長が三メートルを超す巨躯の狼が顕現する。

 自分も怖がってばかりいられない、と「ジャンヌ」は旗を握りしめた。この力を使うべき時だ。台湾の時に引き続き、無茶苦茶な方法だが、自分にしかできない役割だというならばやって見せる。

 

「では、行きます!」

「■■■■!」

 

 水中用のスーツで身動きをしづらい「ジャンヌ」が「アヴィケブロン」の助けを借りて背中にどうにか乗ったのを確認すると、「ロボ」は最初から全力で駆けだした。Gで振り落とされそうになり、咄嗟に銀色の毛並みに全身でしがみついた。

 

「ちょ、ちょっと!」

「舌をかむぞ、「ジャンヌ」」

 

 一分足らずで目的地に着いた「ロボ」は急制動をかけて背中の二人を振り落とした。

 

「ちょっと――!?」

「まあ予想はしていた」

 

 しかし文句を言う時間はない。どうにか受け身をとると、さっそく二人とも準備に取り掛かった。

 まず「アヴィケブロン」は所定の位置にウェポンの籠手を押し当てると、息を大きく吸い込んだ。

 

「五大元素接続。土塊に生命と武器を。産み出す楽園にて、受難の民を導き給え」

 

 彼のAUウェポンに刻まれた10のセフィラが全て光り輝いている。本来10体のゴーレムを操る力を全てあそこに結集させているのだ。

 そして、その光が最大に高まった時、彼のAUウェポンが展開し、奥に秘めた11個目の知識(ダアト)を輝かせた。

 

「叡智の光をここに!」

 

 あたりを揺れが襲った。「アヴィケブロン」の足元が盛り上がり、彼を宙へと持ち上げる。バラバラと余計な土を落としたその姿は、彼を乗せた巨大な肩と、それにつらなる頭部だった。

 肩までを地上に引きずり出した巨人は、身もだえするような動きで地面を引き裂きながら自身の両腕を宙にぶち上げると、そのできたばかりの手のひらをまだ無事な地面に押し当て、五指までを食い組ませて力をくわえた。

 より地下深くに力が加わったためか、揺れの質が変わる中、とうとう巨人は片膝を地上に乗せることに成功した。後は一息と言わんばかりに、全身を使って体を持ち上げる。一瞬、重力と膂力がつり合い、軽やかな挙動を産んだ。

 しかしそれも一瞬。両足で巨人が降り立ち、とどめと言わんばかりの揺れと衝撃が周囲を襲い、一瞬「ジャンヌ」の体が宙に浮いた。

 高さ15メートルにも及ぶ巨人が大地から誕生した。

 

「よし。では次だ、「ジャンヌ」」

「はい! お願いします!」

 

 「ジャンヌ」は、巨人がその身を起こしたことで出来た深さ10メートルほどのクレーターに滑り込み、一番深くなっているところにAUウェポンである旗を突き立てた。自分をぐるりと取り囲むように球状の防壁を作り上げる。直径は10メートル程度だ。そして更に意識を集中し、防壁の形を変える。横の大きさはそのままに、上下に範囲を伸ばしていく。そしてその先端が上空15メートルに達したとき、防壁はまるで地面に半分埋まったラグビーボールのような形になっていた。

 

「これで――行けます」

「よし」

 

 「アヴィケブロン」の操作に従い、巨人が「ジャンヌ」の防壁を左右から勢いよくつかんだ。その衝撃だけで爆音が生まれ、防壁の中の「ジャンヌ」が思わず顔をしかめる。

 

「すまない。おいそれと使える技では無いので、あまり操作に慣れていなくてね」

「い、いえ! 大丈夫です! それよりも早く、トンネルに横道を掘られる前に!」

「わかった」

 

 巨人が唸り声とともに防壁を地面から持ち上げた。ラグビーボール状の防壁の中には、「ジャンヌ」と、彼女が立つ地面が深さ15メートルまで丸ごと取り込まれていた。

 防壁ごと穴の脇に下ろされた「ジャンヌ」が防壁を解除すると、途端に支えを失った足元の地面が崩れ、その体が宙に浮いた。

 

「おっと」

 

そこへすかさず「アヴィケブロン」が巨人の手のひらを動かして受け止めてくれた。

 

「ありがとうございます」

「ああ。しかし、また土木工事とは。「信長」と組むといつもこうだな」

「ええ、まったく! では次です!」

「ああ」

 

 「ジャンヌ」は巨人の手から地面に降り立つと、先ほどよりも更に15メートル深くなったクレーターに駆け込んで旗を突き立てた。

 

「報告では深さは67メートルだそうだな。単純計算で、あと三回か四回といったところか」

「はい!」

 

 再び防壁を作り、それを巨人が地面ごと引き抜く。更にもう二度巨大なラグビーボールを地面から引き抜いたところで、脇に控えていた「ロボ」がパッと顔を上げた。

 

「どうやら三回で済んだらしい」

「ええ。では、行ってきます!」

「あとで追いつく」

 

 「ジャンヌ」は「ロボ」に駆け寄るとその背に勇ましくまたがった。そして彼が走り出す前にがっちりとその首筋を掴む。

 

「■■■■――」

 

 にやり、と「ロボ」が笑った気がした。しかしそれを目に焼き付ける前に狼は走り出し、クレーターに身を投じていた。

 その深さは、巨人の材料に使われた分とジャンヌがえぐった分を合わせて70メートル弱。人間さえも一撃で肉片に変えてしまいそうな大きな爪で「ロボ」が底を掘ると、あっという間に地面が抜け、海水に満たされたトンネルに放り出された。「ロボ」は海水の臭いを嗅ぎつけていたらしい。

 そして、奴らのことも。

 

「……いますね」

「■■■■!」

「分かっています!」

 

「ロボ」の視線の先にやつらがいた。数え切れないほどの「工兵型」が、背を向けて前に進んでいる。その列は途切れることなく、見渡せないほど続くトンネルの奥へと続いていた。

こいつらを放っておけば、いずれ先頭の状況が伝わり、横道を掘られてしまう。だから、全てトンネルから追い出してしまわなくては。

 

「こちら「ジャンヌ」、敵本体の後ろに出ました! 第三段階、行きます!」

「■■■■――!!」

 

 「ジャンヌ」が防壁を張った瞬間、「ロボ」は吠え声とともに走り出していた。海からくる進化侵略体に対抗するためのAUウェポンであるその身は、海水が満たされたトンネルであろうと問題なく走破した。そしてその勢いのまま、「ジャンヌ」の防壁が敵の最後尾に激突する。更に二体、三体と衝突し、あっという間に視界が防壁越しの侵略体に埋め尽くされ、どんどん重みが増す。

 

「■■■■■■■■■■■■――!!」

 

 「ロボ」が一際大きく吠えると、毛並みが逆立ち筋肉が膨れ上がった。全身のパワーを前に進むことにつぎ込み、スパートをかける。

 狼と聖女は止まらない。全ての敵を、トンネルからウパラの戦場に押し出すのだ。

 

「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「■■■■■■■■■■■!!」

 

 あっという間に3キロを駆け抜け、勢いのままに空中へと飛び出した。

 

「来た来た!」

「うわあ、いっぱい」

「来てくれたか、「ロボ」――」

 

 鋼鉄の地面に爪音を響かせながら着地する「ロボ」の背中で、先行していた面々が口々に言うのを「ジャンヌ」は聞いた。周囲を見渡せば、四つ固まったクレーター状の戦場には、数え切れないほどの侵略体がひしめいていた。予測では数千に迫るというそれらは、それぞれに五つ眼を光らせ、ハサミをガチガチと鳴らし、脚をうごめかせていた。

 巨大な昆虫としか思えないこれらがここまでたくさんいるという気味悪さもあったが、それよりも不安と恐怖で背が震えた。

 これだけの数を、この四人と一匹でどうにかしなくてはいけない。「アヴィケブロン」はあの巨人を動かしたため、かなりの疲労がたまっているはずだ。すぐに駆けつけることはできないし、来たとしても彼は直接的な攻撃手段を持たない。ざっと考えて、自分以外のホルダーたちがそれぞれ千体――無謀な数だ。

 

「いざと、なったら」

 

 密かに決意した「ジャンヌ」だったが、唐突にバランスを崩して宙に放り出された。

 

「■■……!」

「って、わあ! またですか!」

 

 背中の上でのんびりしていたからだろうか。またも「ロボ」に振り落とされてしまった。咄嗟に「ジェロニモ」が受け止めてくれなかったら、今度は受け身をとる暇もなかっただろう。それとも、彼のいる方にわざと振り落としたのだろうか。「ロボ」が笑ったかどうかを見る暇はなかった。

 

「おっと。大丈夫か」

「あ、ありがとうございます、「ジェロニモ」さん」

「いや。二人とも、よくやってくれた。「ビリー」、合図を!」

「了解!」

 

 「ビリー」が鋼鉄の屋根に向けて立て続けに三発の銃弾を撃ち込んだ。途端にその部分の鉄板が変形し、『O.K.』の文字を浮かび上がらせた。

 今まで唯一鉄板に覆われていなかったトンネルの出口がやはり塞がれ、次いで上昇感が一同を襲った。

 

  *

 

「さて、合図が来ましたな!」

「四人一同の大仕事! この大きさの(せり)は史上初では!?」

「この場合劇場ごとせり上がるので別次元ですな! むむ、ひらめきましたぞ! いっそのこと舞台ではなく客席側を動かすというのは!」

「良いですな! 回る客席の周りが360度舞台というのは――」

 

 「シェイクスピア」が少し未来を先取りしたところで、ジト目の「メリエス」が釘を刺した。

 

「いいから仕事してください☆」

「おや、叱られてしまいましたな!」

「ところで吾輩2号、トンネルの封鎖は万全ですかな!?」

「誰に物を言っておられるのですかな!? 吾輩ですぞ!」

「ではこれにて、第三段階の締めといたしましょう!」

 

 四人の「シェイクスピア」が指を鳴らした途端、鋼鉄の舞台が丸ごと地上へと引きずり挙げられた。更に形を変え、安定して地上に設置できる形に変わっていく。それと、「シェイクスピア」のモチベーションの関係で、劇場のような外観へと整えられた。

 作戦指示にない段取りに、「メリエス」の突っ込みが入った。

 

「あのー、なんです、それ」

「『シェイクスピアズ・グローブ』ですな! シェイクスピア(吾輩)の現役当時の劇場を模して造られましてな、現在はテムズ川のほとりにございます。まあ実際は直径30メートルほどなのでこれは拡大版かつ鋼鉄版ですが! 先ほどの『ヘンリー五世』でこけら落としが行われまして――」

「もう! 自分オタクもいい加減にしてください!」

 

 そんな劇作家と映画監督を尻目に、ヘリコプターに乗り込んだ通信士がC・フォレスターに現状を報告した。

 

「こちらウパラ。第三段階終了。作戦地域完全封鎖完了。以降は障壁内との通信が不可能だ。そちら「信長」の様子はどうだ」

『こ、こちらC・フォレスター。状況は――「信長」は、現在――』

 

 その報告に、思わず「シェイクスピア」は目を剥き、呟いた。

 

「「ノッブ」――いや、マオ。信じておりますぞ」

 

 

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