「ジャンヌ」や「アヴィケブロン」たちがトンネルに突入するべく行動していたころ。「信長」も自分の役目を果たすべく動き出していた。
「戦艦型」が十分接近している。「信長」は上空に待機している三基の空中要塞に確認した。
「さて、そろそろ所定の位置じゃな。行けるか?」
『こちら「J・アツミ」。準備良し』
『「S・ヒラー」。了解』
『「A・ローガン」。いつでもOKだ』
「ポッド降下!」
『了解!』
指示とともに、空中の要塞から降下ポッドが降り注ぐ。「戦艦型」の周囲を埋め尽くすように、ありったけだ。
「戦艦型」は一瞬戸惑うようなしぐさを見せたが、すぐに邪魔なポッドを排除しようと手近なものに触手を絡ませた。
「信長」は通信機越しに、自分の背後に並ぶ戦車隊のオペレーターに確認した。
「どうじゃ?」
『諸元確認! いつでも行けるぞ!』
「ならば――放てぇい!」
「信長」の号令とともに、E・リプリーの甲板上に整列した戦車たちの砲塔が火を噴いた。マッハ4.85にも及ぶ初速で発射されたM829APFSDS弾からは装弾筒が剥がれ落ち、巨大なダーツの矢のような侵徹体が「戦艦型」に殺到する。
狙いは今まさに降下ポッドに巻き付いた脚だ。しかし、いかに防弾鋼鉄をぶち抜く威力があったところで、AUウェポンではない兵器では進化侵略体に傷一つつけられない。事実、「戦艦型」の足に突き刺さった砲弾はボスボスという気の抜けた音とともにタコ足を押しつぶすだけだった――が。
APFSDS弾の殺到したタコ足がくぐもった爆音とともに膨れ上がり、ついには火を噴いて千切れ飛んだ。
「よし」
タコ足の中には衝撃で自爆する「地雷型」がみっちりと詰まっている。だから下手に攻撃すれば敵の数が増えるだけだ。だが、それを逆手に取ることができたら? そう考えた「信長」は、昨晩指令に相談したのだ。
*
昨晩、「ロボ」との交渉に先立って、「戦艦型」の対処を話し合った時のことだ。
「こう、砲弾でタコ足を押しつぶしてな、中の「地雷型」を爆発させることはできんか? これまでの戦闘記録を見る限り、侵略体であるならば侵略体を傷つけることができるのじゃろう」
『ああ。「沖田総司」の初陣の時を例に挙げれば、「酸素魚雷型」の爆発や「砲兵型」の砲撃によって他の侵略体が倒されるという事例がある』
「であろう? 流石にわし一人であのタコを相手どるには骨が折れる。奴には骨が無いゆえ、こちらが一方的に骨折り損じゃ。しかし。骨が無いと言うことは、装甲などに砲弾が阻まれることはないと言える」
ストーンフォレスト作戦の前哨戦の映像を引っ張り出す。タコ足自身の防御力は低く、「ジャック」や「ジェロニモ」はもちろん、戦闘に不慣れな「サンソン」であっても切ること自体に不都合はなかったのだ。しかし切った後が問題となる。
「そこでどうにか、あのうねる足を狙撃できないものかのう。わしは兵器には詳しくないが、そこはDOGOO、世界中にコネがあるじゃろ」
『指令。確か以前「フーヴァー」が言っていた、イングランドの彼、名前は何と言ったか』
「ああ。彼ですね」
ほどなくして指令が対談の場を整えてくれた。「ロボ」との追いかけっこを終え、疲労困憊した身で席に着くと、映像の向こうでは気難しそうな顔の長い黒髪の男が煙をふかしていた。いかにも気難しいと顔に書いてあるような男だ。眉間に刻まれた皺は深く、見た目の歳に不釣り合いなほどだった。ぴしりと着込んだ黒スーツはそんな彼に似つかわしいものだったが、その上に羽織った赤い外套は彼自身のセンスからは少し浮いているように感じられた。
「お初にお目にかかる。ええと、名前は――」
『名前はどうでもいい。それよりも、君は日本人か』
「え?」
『日本人か、と聞いている』
「そうじゃが」
「信長」が肯定すると、男は深々とため息をつくと『F○ck』と毒づいた。いきなりの悪態に驚くが、ここでまごついていても仕方ない。相手もそう思ったのか、顔をしかめながらもこちらの話を促してきた。
『頭痛がひどい。さっさと要件を済ませてくれ』
「う、うむ」
どこかの大学の構内なのだろう。こちらが作戦の概要と必要な兵器の条件について相談を進める間にも、何度か生徒らしき人物の割り込みがあった。そのどれもが聞くだけでもさじを投げたくなるような問題児が引き起こした問題らしく、その男はこの会話を理由にしてそれを後回しにしているようだが、問題が積み重なるごとにその眉間の皺を深くしていった。
それでもどうにか伝え終わると、男はポツリと一つの名前を口にした。
『M1A2エイブラムスだ』
「エイブラムス?」
『よく聞け、M1A2だ。A1ではダメだ。IVISが必要だからだ。ついでに言えば艦上からの精密射撃においては水平/垂直2軸のスタビライザーとGPTTS-LOSが必要だろう。A1はGPTTS-LOSを搭載しているがスタビライザーが1軸だ。POS/NAVと連携したFCSが無いのも痛い。弾はもちろんM829APFSDS弾を使え。M830ではダメだ。わかったな』
「うむ、何一つわからん!」
話をかいつまんで言うとこういうことらしい。
降下ポッドで「戦艦型」の周囲を囲み、奴がポッドを引き抜こうと触れたときに作動するセンサーを降下ポッドにあらかじめ取り付けておく。そうすることで、タコ足が今どこにあるかという3Dデータを得ることができる。
そのデータを戦車隊全体で共有し、揺れる艦上から柔らかいタコ足を狙撃する。そのためにはデータ共有システム、砲撃距離射角計算システム、2軸のスタビライザー、貫通力に優れた砲弾が必須だという。
立体映像として傍で会話を聞いていた土偶が口を開いた。
『今の会話は全て記録した。大至急アメリカ陸軍に支援を要請しよう。感謝するよ、エルメロイ卿』
『Ⅱ世、だ。まさかDOGOOの中枢から要請を受けるとはな。軍事の専門家なら他にもいくらでもいるだろうに。私の専門はマケドニアだぞ』
『以前「フーヴァー」がDOGOOの軍備を見直すうえで、誰が最も忌憚と贔屓のない意見を述べられるかというプロファイリングをしていたのだが――君の名前が挙がっていたのでね。彼女は流石にデータ不足と見てアメリカの軍事評論家を頼っていたが、今回は君を頼らせてもらった』
『ふん』
『謝礼は急ぎ振り込んでおく』
『期待しておこう。ああ、それと「織田信長」』
「ん? わしか?」
『日本のサブカルチャーには気を付けろ』
通信が切られた。
『では、さっそくエイブラムスを組み込んだ作戦を協議しようか』
「のう土偶よ。先ほどの最後の発言はどういう意味かの」
『……さあな』
日本のサブカルチャーで、六天真緒というE遺伝子ホルダーがネタにされつつあるのを、この時の「信長」はまだ知らない。
*
ポッドを引き抜こうと伸ばされるタコ足が二度、三度とエイブラムスの餌食になっている様子を見て、「信長」は満足げにうなずいた。
「さて、そろそろ討って出るとするか! 皆の者、タコ足は任せたぞ!」
「おう! 任せとけ!」
「海の上でぶっ放せるとはなあ!」
「嬢ちゃんの道を作るぜ!」
声援と砲声に背を押されて海に踏み出す。周囲に満ちる火薬のにおいが血を騒がせる。自分の眼が赤く熱を帯びているのが分かった。
みるみるうちに「戦艦型」が迫ってきた。相手はポッドを引き抜けばジリ貧になると悟ったのか、降下ポッドの林の中へ踏み込んできた「信長」へと狙いを変えてきた。しかし、巨大なタコ足ではポッドの間を縫いきれない。反応したセンサーがタコ足の位置を教え、戦車隊の一糸乱れぬ集中砲火がタコ足を縫い付け、爆発させる。
「行ける!」
そう思い、軽快にポッドの間をすり抜けてタコの頭に迫ろうとしたとき、足元の海面が不意に揺らいだ。思わずのけぞってかわすと、飛び出してきた「地雷型」のうごめく足がどアップで視界に飛び込んできた。更に周囲を見渡すと二匹、三匹、いやもっと。千切れた足の残骸から湧き出してきたのだろう。小回りの利きやすい二ノ銃でコンパクトに銃撃して自爆させるが追いつかない。気づけば、周囲の海面は水面下にうごめく影で埋め尽くされていた。
「ならば!」
「信長」は、三つの銃を展開し、身を回しながらありったけの銃弾を水面に叩き込んだ。AUウェポンは使い手の意志によってその形と機能に融通が利く。普通の銃弾が着水すると衝撃が殺されてしまうが、「信長」が鋭くとがらせた銃弾は水面下の「地雷型」を的確に射抜き、爆発させた。
途端に足元の海面が膨れ上がる。この勢いを利用しない手はない。一ノ銃から伸びる帯状の装甲を足元に滑り込ませ、爆発の勢いで自分を持ち上げさせる。そのままに空中へと飛ぶと、眼下に足を失った「戦艦型」が見えた。
そのまま手近な降下ポッドの上に着地する。もともと海面に一個小隊を投下するためのポッドは揺るぎもしない。軽い足取りでポッドを渡り歩き、「戦艦型」の顔に迫る。
「おっと」
一番近いポッドから飛び出したが、少し勢いが足りない。そこでハリケーンの時のように空中で三段撃ちをぶっ放し、反動でその身を飛ばした。背中から「戦艦型」の頭に衝突する――が、ぬめっている。思わず滑り、手近なヒダにしがみついた。
「こちら「信長」! 「戦艦型」の本体に到着!」
『ええ。頭足類の弱点は両目の間です。とどめを!』
「ほう。それは好都合」
人間でいえば額にあたる位置のヒダにつかまってぶら下がっているため、今まさに眉間の前に体があった。足をなくし、ただただ睨み付けてくる「戦艦型」に「信長」は笑って返した。
「是非に及ばず。ここがお前の本能寺よ!」
眉間に永楽通宝の銃口を押し当て、あらんかぎりの銃弾を叩き込んだ。
心臓を鷲掴みにするような音が響くたび、銃弾が「戦艦型」の頭を食い破りその輪郭を削っていく。ついには襤褸切れのようになった肉片が支えを失い、海面に落ちて大きなしぶきを上げた。
「討ちとったり!」
背後の戦車隊からも歓声が上がる。「信長」は煙を上げる銃口を息で吹き、呵々と笑って勝利を誇った。
が、その時。
先ほどとは違う。細く、ごつごつとした感触の触手が何本も海面から飛び出し、こちらの身を絡めとる。咄嗟に銃を向けようとするも触手の方が早かった。両腕を優先して絡めとると磔にするように引き延ばし、仮面の三ノ銃も明後日の方を向くように体に縛り付けられる。そのまま空中に持ち上げられ、乱暴に体を締め付け、引き伸ばされた。スーツが耐え切れず破れ、体が軋む。
「馬、鹿な!」
水面の下で、新たな敵が目を光らせていた。