ロンドン・イーストエンド・ホワイトチャペル地区。
聖マリアに捧ぐ教会から名付けられたこの街は、16世紀後半にはすでに産業革命がもたらした光が生む、もう一つの側面――影と言える負債が流れ込む場所になっていた。
更に19世紀にかけて大量の労働者がロンドンに流入したことによって、その影はますます強まり、あふれかえった貧困者は木賃宿に身を寄せ、それすらできなかった者たちは路上で夜を過ごす。
1888年、そんなホワイトチャペル地区には、今までとは違う恐怖の影が忍び寄っていた。
署名入りの犯行予告状を新聞社へと送りつけたという、大胆不敵かつ正体不明の殺人鬼の存在が、ロンドン全域を騒がせていた。
「はあ……はあ……うう――」
「おい、あんた、大丈夫か?」
「ほっとけよ、どうせ酔っ払いの娼婦だ。それよりあっちの店にうまい酒が入ってな――」
一人の女が、息をぜいぜいと吐きながら壁を伝って歩いていた。顔は冷や汗でびっしょりとぬれ、目は血走り、明らかに様子がおかしい。
しかし、ホワイトチャペルで得体のしれない病気にかかった連中が出るのはおかしなことではない。目抜き通りのホワイトチャペル・ロードは一見整然としていても、そこから一本路地を入れば、多くの娼婦と売人がひしめく街なのだ。性病か、伝染病か、まともに医者を捕まえられない者たちが野垂れ死にするのを、真剣に憂うものなどいなかった。
「うう――苦しい、おかしい。どうして」
女性の足取りはどんどんおぼつかなくなり、ついには人気のない路地で倒れ伏した。誰も手を差し伸べるものはいない。誰にもみとられずに不審な死を遂げる――はずだった。
きい、と車輪の回る音がした。
霞む目を必死に音の方へ向けると、一人の老婆がそこにいた。
ランプが据え付けられた車椅子に身を沈めた老婆は、薄汚れた路地に見合わない綺麗な身なりをしていた。もしかして、と必死に力を振り絞って女性は立ち上がる。
「うう――あんた、助けておくれよ。体が、体がおかしいんだ」
「もう少し、近くへ」
「うう……もう。歩くのも苦しくて」
「本当に、ごめんなさい」
女性が力を振り絞って老婆に近づいた途端、車椅子に据え付けられたランプが牙をむいた。中に仕込まれた刃が駆動し、女性の首をざっくりと切り裂く。
「――」
喉笛を切り裂かれた女性は、声も出せずに絶命して倒れ伏した。
「ごめんなさい。本当に……」
老婆はナイフを取り出すと、傷む体に鞭を打って車椅子から立ち上がった。そして。
ざくり、ざくりとナイフが肉を断つ。野放図な解体ではない。医学的知識に基づいた処置により内臓が摘出された。
「これで、最後」
*
「そして君は――五人の娼婦を手にかけた。そうだな。ミス・
「ええ。お茶をお出ししようと思ったのですが、全てご存知なら」
「ああ。私はお茶をしに来たわけではない。君の
68歳になるナイチンゲールは、ひっそりと構えた隠れ家に珍客を迎えていた。
この場所を知るのは、かつて所属していた
「私の能力――この「声」のことですね」
「そうだ」
1854年。34歳であったナイチンゲールは「声」を聴いた。そしてその「声」に従い、家族の反対を押し切ってクリミア戦争で苦しむ者たちを救うべく全てを投げ打って行動したのだ。
「当時の看護婦と言えば、娼婦とそう変わらない職業と思われていましたから、それはもう反対されました。けれど「声」を聴いた私には、それが世界のために正しいことだとわかっていましたから」
「確かに君の行動で世界は変わった。「クリミアの天使」がもたらした衛生概念は地球人を大きく進歩させることとなった。君は疑いようもなく「傑物」だよ」
「天使、ですか。相変わらずその呼び名には慣れませんね。天使とは、美しい花を撒く者で無く、苦悩する誰かの為に戦う者ですから」
厳しい面持ちでナイチンゲールは言う。そして、脇にあるベッドに横たわるモノを見て溜息をついた。
「けれど、今日あなたが会いに来たのは「天使」ではないのでしょう」
「ああ。君はまた、「声」を聴いたのだろう」
「ええ。とても信じられないようでしたけれど」
「君には必要なことだとわかった」
「摘出した患者の臓器からは、未知の病原菌が検出されました。秘密情報部の化学顧問のモロー博士の見解では、人工的に作り出された、毒性と感染力を併せ持つ病原菌であると」
「バイオテロ――そんなものが娼婦の体内に潜んでいたとは」
「対策をせず、彼女たちが路上で亡くなっていたならば、細菌はその遺体を飛び出してイギリス全土――いえ、ヨーロッパ中に広がっていたかもしれません」
「ホワイトチャペルの現状を鑑みれば、いくばくの金と引き換えに、得体のしれない注射に腕を差し出すものがいるのも責められることではない、か」
「しかし、彼女たちにはかわいそうなことをしてしまいました」
「だが「声」はそれを示し、君は従った」
「ええ。「声」に従えば、どこに病原菌が潜んでいるかがわかりますから。どこを切ればいいかは全て見えました」
脇にあるベッドに横たわるのは、五人目の被害者のなれの果てだった。皮膚や内臓を含め、ほぼ完全にバラバラに処置された遺体から取り除かれた内臓は、病原菌を絶つべく焼却されていた。
「それこそが「ジャック・ザ・リッパー」の正体――そこの彼女が最後の感染者だったんだな」
「ええ。これで終わりです。けれど、「ジャック・ザ・リッパー」という名は後世へとずっと残ることでしょう。正体不明の、ロンドンを恐怖に陥れた殺人鬼。誰かが面白半分で送りつけた予告状に書かれていた名前ですが、私にはこの名前がふさわしい。私は五人の女性たちを、救うことはできなかったのですから」
「その罪を背負おうというわけか。ますます、君は「傑物」だよ」
土偶は傑物の血液を採取すべくフラスコを取り出した。
「君の力をこの星の未来のためにいただこう」
「ええ。けれど、一つ注意してください。この「声」は、私にもいつ聞こえてくるかわかりません。きっと、私の力を継いだものもそうでしょう。それだけは理解しておいてください」
「心得たよ」
*
それから百年以上が過ぎた現代。「声」の導きにしたがって、「ナイチンゲール」は「織田信長」を救うべく翼を広げていた。
「人類にとって重要な局面でのみ働くこの力――あなたがそうとは」
「何を言っておるのだ、「ナイチンゲール」」
「いえ。とにかく、この侵略体を攻略するとしましょう」
ナイフをひらめかせ、「信長」を拘束している触手を断ち切った。そして「信長」に対してランプの光を浴びせる。失った血や傷を回復することはできないが、いくらか楽にはなったはずだ。
「ありがたい」
「いえ。では始めます」
「ナイチンゲール」は侵略体に向き直ると、翼を閉じて車椅子の状態に戻した。集中するためだ。
本来の力を発揮したAUウェポンは、翼を閉じても重力につかまることはない。宙に浮かぶ車椅子を見て「信長」は茫然としていた。
「なにをしているのですか、「織田信長」。援護をしてください」
「ちょ、助けに来たんじゃないんかい!」
言っている間にも触手が襲ってくる。「信長」が不平を言いながらも時間稼ぎをしてくれたので、「ナイチンゲール」は意識を集中した。
この力は人類にとって重要な局面を指し示す。味方ならば救うべき場所を。敵ならば突くべき弱点を。
新型侵略体を見る。戦いの中で急造された敵なためか、装甲の厚さにムラがあるようだ。狙うべきは一番薄いところ。そして――。
「ナイチンゲール」は遠くの空を見上げると、翼に組み込まれた歯車を回転させた。普段以上の速度で統計処理が行われ、結果が音高く弾きだされる。
「今からあの侵略体の弱点をマークします。合図をしたらランプの光を撃ってください」
「なんじゃと!?」
「二度は言いません」
翼のパーツが駆動し、周囲に霧を吐き出し始めた。かつてのロンドンの再現だ。あっというまに近くにいる「信長」の姿さえ見えなくなった。
あの侵略体は頭足類の構造を模している。視覚にかなりのリソースを割いているはずだ。ならばこれで――。
「ナイチンゲール」は翼を羽ばたかせ、侵略体へと迫った。この濃霧の中でも「声」が示した弱点ははっきりと見えている。装甲の一点に、
霧に紛れて侵略体の上に降り立った「ナイチンゲール」は、弱点にナイフの切っ先を突き立てると、ランプの光を強めた。
霧の向こうから銃声が響く。ランプの中の「ジャック」に当たらないように、翼を漏斗状に変形させて弾丸を受け止めた。何十発もの弾丸の勢いが体を押し、ナイフの切っ先を装甲へと食い込ませる。はっきりとそれが分かるようになったとき、鋭く言い放った。
「十分です!」
「う、うむ!」
銃撃が止んだのを見て、「ナイチンゲール」は「信長」の元へと戻った。
「弱点に傷をつけておきました。後は彼女と協力して撃破してください」
「彼女――って誰じゃ」
「すぐ来ます。それと、くれぐれも私のことは内密に」
「な――いきなり来て、おい、どこに行くんじゃ!」
「ジャック・ザ・リッパー」の正体を知られてはならない。「ナイチンゲール」は後を託して飛び去った。
*
一人取り残された「信長」は茫然とするしかなかった。
いきなり「ジャック」と合体した「ナイチンゲール」が現れて助けてくれたと思ったら、敵の弱点だけ教えてどこかに行ってしまった。
「どうしろと」
しかし文句を言っている場合ではない。もうじき霧が晴れる。そうなれば――。
うっすらと巨大なアンモナイトの姿が見え始めたとき、またしても状況が変わった。
『――が。の――なが! 「信長」! 無事ですか!?』
「ん? 指令か! おお、まさか繋がるとは! C・フォレスターは無事か?」
『先ほどの照明弾を確認して見つけることができました。こちらは何ともありません。そちらは?』
「どうにか生きとるが、敵が硬くてかなわん。どうにかならんか」
「ナイチンゲール」には一応口止めされている。ぼかして伝えると、予想外の答えが返ってきた。
『それならば――もうじき増援が到着します』
「なん、じゃと?」
増援はない。だからこそのストーンフォレスト作戦だったはずだ。だというのに、なぜ?
「信長」が思考を巡らすよりも先に答えが来た。高速で飛来した輸送機から
身を包むのはダンダラ模様の浅葱色の羽織。日本人にしては色が薄い髪を風に揺らし、鋭いブレーキで颯爽と到着したのは。
「どうも。苦戦しているようですね、「ノッブ」」
誰であろう、「沖田総司」その人だった。
*
突然現れた「沖田」に、「信長」は茫然とするほかなかった。
「なんで貴様がここにおるんじゃ!」
「増援ですよ。決まってるじゃないですか、「ノッブ」」
「久方ぶりだというのに、相変わらずその呼び名か! ああそれよりも、何故増援が!? それができんから作戦を立てたというのに!」
ぴったり今欲しい人材が今ここにいる。「沖田」の妙な技ならば、あの侵略体の装甲をぶち抜くくらい訳はないだろう。だが、何故ここにいるのかが分からない。
「私も詳しくは知りませんが、急に日本で新しいホルダーが見つかったようですよ。それで浮いた人員をやりくりして、私たちがやってきたというわけです」
「私、たち?」
「ええ。ウパラにも、今頃到着しているはず――」
*
「ジャンヌ」が呼び止める間もなく、「ジャック」が突如として開いた劇場の扉へと消えた。外から差し込む逆光が小さな姿を塗りつぶし、あっという間に見えなくなる。
「って、扉? どうして? まさか、「シェイクスピア」が限界なのか?」
「マズいぞ。今劇場が消えたら、侵略体を抑えきれない!」
「■■――!」
その光が魔法を解いたのか。先ほどまで「ジャンヌ」以外は気づかなかった状況を周囲が知覚した。勿論味方だけではない。侵略体の群れも、我先にと外へと開いた扉へと殺到する。
「まずい! 「ロボ」! 私をあそこに――」
「ジャンヌ」は扉の前に行って防壁を張るべく声を張り上げたが、間に合わない。あっという間に壁を埋めくし、陸上に適応した「機動工兵型」が扉のあるバルコニーへと上がり込む。
「すまないが、これから第二幕のようだ。着席してくれ」
そして、壁や床から突き出た無数の巨大な手に張り飛ばされて宙を舞った。
あんなことができるのは――。
「「アヴィケブロン」!」
「遅れて済まない。ようやくまともに動けるようになったよ」
「よかった――本当に心強い」
「僕だけじゃない。それに、おまけもある」
そう言って、何やら背負っているボンベのようなものを示す「アヴィケブロン」の背後で扉が閉まる。
それだけではない。周囲の風景がどんどん変わっていく。十七世紀イギリスの建築様式にのっとったシックな劇場の檻が変貌していく。
ローマン・コンクリートによる荘厳なつくりの地肌の上に敷かれるのは、目もくらむような深紅の絨毯。あらゆる場所に大理石とモザイク、そして黄金の装飾が施され、篝火に照らされた空間そのものが輝きを放つ。
視界のすべてを使って見よと言わんばかりに、美と芸術に埋め尽くされた空間。そこへ最後の装飾が飛び込んだ。嵐のような薔薇の飛沫が一同の視線を釘付けにする。
「これは――」
「■■……?」
「なるほど、彼女か。しかし、何故ここに?」
*
「レグナム カエロラム エト ジェヘナ――築かれよ我が摩天、ここに至高の光を示せ!」
「シェイクスピア」が作り、限界を迎えようとしていた劇場の檻の上で、麗しい金髪の少女が高らかに謳い上げる。それに応じ、彼女のAUウェポンたる肩鎧に飾られた獅子が吠え、両者の声が劇場を震わせる。創造主の手を離れ、少女のものに塗りつぶされていく。
「我が才を見よ、万雷の喝采を聞け!しかして称えるがよい、黄金の劇場を!」
招き蕩う黄金劇場の落成とともに、あたり一面を薔薇の吹雪が埋め尽くした。それは等しく、地面に座り込む二人のE遺伝子ホルダーへも降り注ぐ。
「クランクアーップ……☆ 本当もう「信長」さん後で覚えてろ……ガクッ」
「まさしく彼女は
それでもなお口を閉じない「シェイクスピア」に対し、劇場の上から「ネロ」が言う。
「「シェイクスピア」よ。まだ喋り足りぬとは、さすがの手並みよ。しかし此度の公演は久方ぶりゆえ、疲れが骨身に応えたであろう。あとは任せて休むがよい」
「これはこれは皇帝陛下、ありがたきお言葉。では最後にもう一言だけ――
それを最後に「シェイクスピア」は倒れ伏した。
*
「ともかくこれで戦場の確保は問題なくなった。あとはこの侵略体の群れをどうにかするだけだ」
「それで「アヴィケブロン」、そのボンベは一体」
「これはまあ――見せた方が早いか」
「アヴィケブロン」はボンベから伸びるホースを無造作に侵略体の群れに向け、ノズルを引いた。何とも言えない色の液体が目の前の侵略体にしとどに降りかかる。
「何ですかこれ――苦、酸っぱ? すごいにおいですけど!」
「毒、ではないな。侵略体に効くとは思えない」
「ああ。しかしある意味、毒より厄介なものだ」
侵略体は自分たちに降りかかる液体を意にも介さず「ジャンヌ」の張った防壁をひっかいていたが、突然ピタリと動きを止めた。そして状況を確認するようにきょろきょろとあたりを見渡し――
侵略体であれば侵略体を倒すことができる。それを証明する光景が次々と目の前で繰り広げられる。一箇所から火が付いたように同士討ちの波が広がる。驚いて目を見張るE遺伝子ホルダーたちをよそに、無数のハサミが肉を割く音が響き渡る。
「え?」
「同士討ち――か? 確かにこれなら。しかし、どうやって?」
「君の働きだ、「ジェロニモ」。作戦の最初に「工兵型」のサンプルを回収しただろう」
「トンネルに放置されていた、あれか?」
「ああ。もともとあれだけの大軍を統率する手段は疑問に挙がっていたんだ。おまけに、後でわかったことだが、水中に適応したやつらの眼は陸上ではほとんど見えていないらしい。ならば何が奴らに敵味方を教えているのか? あのサンプルを
「解剖、それに解析だと?」
「そんなことができるのは――」
*
この瞬間が好きだ。作戦が結実し、万事がうまくいった瞬間が。
『ソロモン諸島の第六小隊のもとへ「葛飾北斎」が到着!』
『「パラケルスス」の対フェロモン試薬、ウパラに到着! 「アヴィケブロン」が劇場内に突入!』
『バンクーバーに「坂本龍馬」が到着! 押し返しています!』
『第四小隊に「パラケルスス」と「呂布」が合流! 戦線維持しています!』
『「信長」を発見! 「沖田総司」が合流しました!』
『「ネロ」のウパラ着を確認! 「シェイクスピア」の劇場を掌握開始!』
次々と飛び込む報告が背筋をぞくぞくさせる。あくどい笑みが顔に浮かんでいるのが自分でもわかった。
「全く、「信長」め。目を覚ましてみれば、大ピンチもいいところだ。私と「サンソン」が伸びたままだったらどうするつもりだったんだ」
指令室に設置したベッドの上で、笑みを浮かべながらも不満を漏らす「フーヴァー」に対し、同じく横で身を休めている「サンソン」がフォローを入れた。
「お役に立てて何よりです。けれど、彼女があなたの目論見を理解して作戦を立てなければ、もっと悪いことになっていたかもしれませんよ」
「ふん。まあそこは評価していいか」
意識を回復した「フーヴァー」が最初に取り掛かったのは、現状の把握だった。
各地の戦況は膠着状態。「信長」が立てた作戦は想定通りに進んでいたが、案の定破綻寸前。ウパラの「シェイクスピア」たちは疲労困憊だったし、劇場の中にいるホルダーたちの状況も芳しくないようだった。
おまけに「信長」も「戦艦型」を撃破したはいいものの、伏兵にやられて消息不明。あとついでに「ナイチンゲール」も行方不明。状況を把握したときの頭痛でもう一度失神しそうだった。
だが、眠ってはいられない。指令が止めるのを遮って作戦を練りつつ、同じく目を覚ました「サンソン」に「工兵型」のサンプルを解剖させ、何でもいいから攻略の手がかりを見つけるよう指示を飛ばした。幸運にもフェロモンの存在が確認できたため、それを打ち消す薬剤の作製を「パラケルスス」に依頼。
そこで更に朗報が飛び込んできた。
日本で二組のE遺伝子ホルダーが見つかったというのだ。藤丸立香の存在は把握していたが、この土壇場で成果を出すとは思っていなかった。とはいえありがたい限りだったので、さっそく作戦を修正し発動した。
日本で見つかったホルダーを日本の近くの戦場へ。そこで浮いた人員を第四小隊のもとへ。そして第四小隊の「ネロ」と「沖田」をストーンフォレスト作戦へ。戦況に適した人材を再配置し、一気に状況をひっくり返す。
「さあ、お膳立てはしてやったぞ、「信長」。これで負けたら殺してやる」
「まあまあ……」
*
「というわけで、二人の働きでここに「ネロ」と薬剤が、「信長」のもとへ「沖田」が合流したわけだ」
「じゃあ、今撒いているのは」
「フェロモンを打ち消すための物質だ。連絡を受けた第六小隊の「パラケルスス」お手製のね」
「アヴィケブロン」は余剰のボンベを「ビリー」と「ジェロニモ」に投げ渡した。
「さあ、もう一仕事だ」
薬剤がばらまかれるたびに、敵の波が乱れていく。生きている敵で埋め尽くされていた地面が、同士討ちした死体で舗装された道へと変わっていく。
そして、その先に「工兵型」とは違う、蜘蛛のような姿の侵略体がいた。
「やっと見つけた! あれが原始細胞を持ってる「輜重兵型」だ!」
「ええ、「ビリー」さん。けれど、アレを守っているのは」
「輜重兵型」へも我を失った「工兵型」が襲い掛かっているが、脇から伸びた鋭い腕に払い落とされていた。地面に落ちた「工兵型」はなおも動こうとしていたが、「輜重兵型」を守る存在は容赦なく脳天を突き刺し、巨大な足で踏みつぶす。
今までの「工兵型」はあくまでもトンネルを掘るために作られた存在だった。しかし今見えている一際巨大な姿は、戦闘に特化した姿であることが一目でわかる。
「近衛兵型」とでもいうべきそれを見て「アヴィケブロン」が唸った。
「あれは「輜重兵型」を守るための存在か。フェロモンも関係なく、近寄ったものは皆殺しにするようになっているようだな」
「なに、後一体だ」
「そうそう。ラストは派手にいかなきゃね」
「ジェロニモ」と「ビリー」がウェポンを構える。
「「さあ、やろうか」」
*
状況は理解した。「フーヴァー」と「サンソン」、そしてなにより。
「藤丸さん、が」
「ええ。あなたの友人なんですよね?」
こんなに嬉しいことはない。思わず素に戻って涙がこぼれそうになる。
「っと、「ノッブ」。泣いてる場合じゃありませんよ!」
「そうじゃったな、沖田」
霧が晴れる。アンモナイトの侵略体が不満げに体をゆすり、身を包む霧の残滓を吹き飛ばした。
「わしと貴様ならば楽勝よ。さあ、片付けようか!」
「ええ!」
「信長」と「沖田」は銃と刀を構えて叫んだ。
「「是非も無し!」」