DOGOOの持つ空中要塞の一つ、
自分、「沖田総司」こと沖田桜が第四小隊に入隊し、この要塞に身を置くことになってから、すでに半年が経とうとしている。太平洋上空を常に巡航しているこの要塞に季節感はほとんどないが、要塞で見ることができるアメリカのテレビ番組の中で、季節は順調にめぐっていた。
進化侵略体によって世界は危機に瀕している。それでもこの冬を迎えられたのは自分たちの働きがあるからだと思いたい。
「えいやぁっ!」
「とうぁ!」
「■■!」
ストーンフォレスト作戦以降も、進化侵略体は各地に侵攻を続けていた。あの作戦の時ほどではないが、一つの小隊だけでは対処しきれない局面も何度かあり、一層戦いが厳しさを増すのが肌で感じられた。
第五小隊に配属された「坂本龍馬」の二人と、第六小隊に入った「葛飾北斎」はうまくやれているらしい。その辺りは「フーヴァー」が各小隊の他のメンバーとの相性を考えて人員を配置しているためか、三人ともきちんと馴染めているようだ。自分としては同じ基地内に気軽に話せる日本人が増えることを願っていたが、そうはならなかった。
その原因が彼ら、第三小隊である。
「うおりゃあああぁぁ!!」
「せいっ! はぁ!」
「■■■■■■――!!」
体格は並みかそれ以下ながらも、鋭い気迫が特徴的な赤毛の青年、「李書文」。
身長二メートルを超える巨躯を誇り、獣のような声をあげながら戦う男、「呂布」。
明朗快活ながらもチャレンジ精神にあふれた黒髪の少女、「玄奘三蔵」。
彼らは朝一番だというのに、いやだからこそか、トレーニングルームを半ば貸し切り状態にして激しい稽古を行っていた。かろうじて武道に通じる自分だから稽古とわかるが、そうでない人から見れば本気の殺し合いにしか見えないほどの、だ。
比較的早くに発足した小隊でありながら、第三小隊はその人員が当初からほとんど変わっていない。
「ダ・ヴィンチ」や「ヴラド」といったDOGOOの古株は、頭数が揃っていなかった時期は第一小隊や第二小隊にいたものの、現在は別の部署に属しているという人物が少なくない。その中にあって彼ら第三小隊は、これ以上ない噛みあい方をしているとも、あるいは余人を入れる隙間がないともいえる。
「フーヴァー」が言うには、チームを組むにあたって重要なのは能力の相性もあるが、人としての相性がより大事とのことだ。例えば現在それぞれ第五小隊と第六小隊にいる「ニコラ・テスラ」と「トーマス・アルバ・エジソン」は、入隊の時期が近く、能力の相性もいいとのことだが、人間としての相性が最悪なため別の小隊に振り分けられたという。
ここでもう一度第三小隊を見てみよう。
「うるあぁぁ!」
「■■■■……!」
要塞を丸ごと揺るがしかねない踏み込みとともに放たれた「李書文」の打撃。それを受けた「呂布」が壁際まで吹っ飛んだ。しかし彼もやられてばかりではない。即座に体勢を立て直すと、「李書文」に対して剛腕を振るう。
しかし脇から伸びた「三蔵」の持つ棒が、「呂布」の腕を軽くはたくと、その拳があらぬ方向にそれた。
「■■……」
「ほら「呂布」! まだまだ余計な力が入ってるわよ!」
「
「朝だからこそよ、「李書文」! 一日の始まりから引き締めていかないとね!」
これが日課である。
「そりゃ入る人を選びますよね……」
「あら、「沖田」! おはよう!」
「おはようございます、「三蔵」さん」
「元気ないわね! ちょっと混じってく?」
「遠慮します」
沖田はぴしゃりと言った。低血圧の自分に朝からこのテンションはつらい。
「それより、「李書文」さん」
「ん? 儂か。どうした」
「突然で申し訳ないのですが――」
かく言う自分も、先ほど連絡を受けて寝耳に水なのだ。だから半信半疑のまま、聞いたままを言う。
「これから日本に行きましょう。新人のE遺伝子ホルダーを手懐けに行きます」
*
そもそものきっかけは、例の藤丸さんの努力によるものらしい。
自分こと「沖田総司」、そして「坂本龍馬」と「葛飾北斎」。合計で三組の日本人ホルダーを発掘した彼女の功績は高く評価されており、もしかしたら今後もこれが続くのでないか――という期待がDOGOOの中にあったのは確かだ。
しかし、土偶が日本人からどれほどのE遺伝子を作ったのかは明かされてはいないし、それがどれほど現在に残ったのかもまた不明である。だからすでに出切っている可能性も考えられる。
この半年の空白は、その予想を裏付けるのに十分すぎる期間だった。かくいう藤丸さん本人も諦めかけていたという。
そんな時、とうとう四番目のE遺伝子ホルダーが見つかった。その名は。
「E遺伝子、「森
「おうとも。便利なものよな、この翻訳機とやらは」
日本に降り立った自分と「李書文」は、さっそく待ち合わせの場所に向かっていた。
耳に取り付けた翻訳機がきちんと働いているのだろう。日本語で喋りかけたこちらの内容は伝わっているようだった。この翻訳機さえあれば自分の役目などないのではないか、と思うのだが、「フーヴァー」いわく自分も必要だという。
「それで、どこだったか」
「この先ですよ」
藤丸さんたちは永吉を発見したはいいものの、その場でAUボールを渡して確認をとることはしなかった。以前、「坂本龍馬」の片割れこと、お竜が暴走を起こしたことを反省してだ。一応DOGOOの本部に掛け合えばAUボールを遠隔でシャットダウンさせられるが、時間も手間もかなりかかるため現実的ではない。
しかし今回はそれが違う意味で吉と出た。何せ彼、永吉は――。
「おう、来たか!」
待ち合わせの場所として決めたおいた町の一角。そこにいたぼさぼさ髪の少年、間桐永吉は、人を踏みつけていた。
比喩ではない。ガラの悪そうな少年を足蹴にし、更に他にも二人ほど周囲に倒れ伏しており、一人を手にぶら下げていた。
それを見て、「李書文」が問いただす。
「呵々――これはどうしたことだ? 体を温めるにしては、少々乱暴だが」
「ああん? 知らねえよ。オレがここに居たら因縁つけて来た奴がいたからノしただけだ」
永吉は二メートルに迫ろうかという大柄な体格だ。それゆえか、目線が下の「李書文」に皮肉をぶつけられても悪びれず、へらへらと笑っていた。
一触即発の空気。
思わず沖田はつぶやいた。
「帰りたい……」
*
「では、簡単に調査結果を申し上げますが――」
間桐永吉という少年は十五歳にしてすでに札付きの不良だった。小さいころから血の気が多く、中学に入ってすぐに地元の不良たちに目をつけられるも、これを返り討ちに。更にそれが人を呼び、これも返り討ちに。それを繰り返しているうちに地元の番町のような存在になり、今度は隣町の――。
「待って、待ってください。アルトリアさん」
「いえその、私も調査内容を申し上げているだけなので」
日本に着いてすぐ。自分はとうとう、藤丸立香という恩人と直接会う機会を得ることができた。彼女が住んでいる町から離れた、間桐永吉が住んでいるという町の駅。そこで護衛のアルトリアという人物も交えて待ち合わせをし、近くのファミレスに入って情報交換をした。
何やら長い包みを背負った中国人、金髪碧眼のイギリス人、日本人離れした髪の色をした自分、そして一人だけ一目で日本人とわかる女子高生――という謎の集団であることは自覚していたが、ほかに適当な場所がなかった。
「とんでもない人ですね、彼は。しかしそれが本当だとすると、何故「李書文」さんと私を?」
「彼がそう望んだからです。もし自分を侵略体と戦わせたいなら、強い奴を連れて来い、と」
「少年漫画か何かですか……」
「何はともあれ、今回はいきなりAUボールを渡さなくて正解でした。そう思いませんか、リツカ」
「あ、うん」
そばに座る藤丸さんの顔色は優れない。何かあったのだろうか。彼女とはストーンフォレスト作戦の時に少し電話で話したきりだが、明るい少女であったと思う。せっかく直接会えたので、自分を見出してくれたお礼を改めて言いたかったのだが、それどころではないようだ。
「どうかしましたか? 具合でも……」
「ああうん、何でもないです。とにかく、お願いします。私たちじゃ、ダメみたいなので」
その時、ずっと黙っていた「李書文」が急に口を開いた。
「強い奴を連れて来い――か。そこのアルトリアもなかなか腕がたつようだが」
それは自分も思った。立ち方、歩き方と言い、明らかにそういうものを感じる。駅からこのファミレスに歩いてくるまでの短い間にも、藤丸さんをさりげなく引き立て、段差や自転車から守る仕草を見せていた。精悍な顔立ちのおかげか、どことなく自分と似た雰囲気を感じる彼女も、おそらくかなりの使い手のはずだ。
「いえ。私はあくまで、守るための剣術ですので――。彼とは、事を構えたくはありません」
「ふむ。なるほど、思った通りの答えだ」
「李書文」は得心いったように頷くと、不意に言葉を続けた。
「藤丸よ。おぬしはついてくるか? それとも儂らに任せるか?」
「え……?」
彼は、何を言っているのだろうか。
「理解が及んでおらんようだな、「沖田」。簡単な話よ。藤丸は友のためにE遺伝子ホルダーを探していた。ではこうやって見出した男が、手当たり次第に喧嘩を買い、売る、狂犬であったらどう感ずるか?」
「ああ、確かに」
藤丸さんは真緒――「信長」のためを思って行動している。彼女の助けになると信じてE遺伝子ホルダーを探しているのだ。
しかし、ホルダーが善人とは限らない。こうして、お世辞にも褒められたものではない人間に当たることもある。
果たしてそんな人を、友人のためと言って引っ張り込むことが正解だろうか。
「どうだ? 儂の推測は当たっているか?」
「それは……」
「李書文」の追及に口ごもる藤丸さん。それを見て、アルトリアが彼女をかばうように言った。
「「李書文」。直接的に言い過ぎです」
「ううん。……そうですね。「李書文」さんの言う通りです」
「リツカ……」
「大丈夫、アルトリア。……私は、戸惑ってました。あんな人がいるのは、一応可能性としては考えていたんですけど」
「さて、それでどうする? 儂らに任せて別の善人を探しに行っても、儂らはおぬしを責めないが」
明らかに誘っている言い方だ。沖田はそれを意地悪く感じ、助け舟を出すことにした。
「「李書文」さんはどう思いますか。ホルダーの候補が不良であることについて」
「儂か? 儂は頼まれた仕事をするだけよ。永吉とやらが善でも悪でも構わぬとも。今この場において儂は槍でしかない。そもそも今、迷っておるのは藤丸のみ。儂が知るところではない」
「その言い方は、冷たくないですか」
「ならばどうする。儂が必ず永吉とやらの根性を叩きなおして良い子にしてやろう――とでも言えばいいか。しかしな」
「李書文」は、暖かさも冷たさも排した声色で言う。
「それは、儂に善悪の判断を擦り付ける行いだ」
熟考の末、藤丸さんは絞り出すように言った。
「……見届けたいと思います。自分で、決めたいです」
「――藤丸さん」
そんな様子を見て、「李書文」は立ち上がった。要塞から持ち出してきた細長い包みを手慣れた様子で背負い、さっさと歩き出す。
「ふむ。ならばよし、さっそく行くとするか。この翻訳機を使えばいいのだな?」
「ええ。それでは、よろしくお願いします」
「おうとも」
*
そして今ここに「李書文」と永吉が対峙していた。周囲に倒れていた不良たちは、アルトリアと藤丸さんが離れたところで介抱している。アルトリアがついていれば大丈夫だと思うが――。念のため、自分は彼女たちを守るように立っておく。
話は一応聞いていたが、この荒れ具合は流石に予想以上だった。
「李書文」と沖田の立ち振る舞いを見て、永吉が破顔した。
「言ってみるもんだなあ! 男も女も強そうじゃねえか! で、どうする? 早速始めるか! どっちだ? 両方でもいいぜ!」
「おうとも。始めよう。まずは儂からだ」
「李書文」は包みを解き、木でできた練習用の槍を取り出して構えた。
「が、一つ確認だ。儂が一本取ったら――」
「おう。進化侵略体と戦う。ただ、一つ訂正な。お前が一本取ったらじゃなくて――」
言うが早いか永吉は飛び出してきた。
「勝ったらだ! オレは試合をしに来たんじゃねえんだよ!」
「呵々! 儂もだ!」
永吉の大ぶりのパンチを、「李書文」は無駄のない体重移動でかわして見せた。更にすれ違いざまに足をすくう。しかし永吉はどうにか堪え、転ばなかった。
「おっと! 危ねえ!」
「流石にこれでは転ばんか」
永吉はたたらを踏んだものの、何とか転ばずに堪え、「李書文」から距離をとった。武道の経験はなさそうだが、流石に喧嘩慣れしているのだろう。とっさの判断が早い。
今もそうだ。直接殴りかかっては分が悪いと感じたのか、近くに置いてあった通行止めの看板に手をかけた。
まさかと思う暇もない。力任せに鉄製の立て看板を持ち上げると、「李書文」に向かってぶん投げた。
「「李書文」さん!」
「ふむ」
「李書文」は飛んできた看板に槍をぶつけると、全く同じ軌道で永吉に叩き返した。
「は?」
流石に永吉の経験にもこんなことはなかったのだろう。よけるか、さもなくば受けるか。跳ね返してくるなど。茫然とする彼に看板が激突した。派手な音が響き、永吉がよろめく。
沖田の眼にも何が起きたか分からなかった。木製の槍で、直撃コースの金属の塊をはじき返したのだ。
「いってぇ!」
「これを食らってそれで済むか。元気な奴よ!」
看板の直撃を受け、同時に相手の実力を悟ったのだろう。永吉は露骨に顔をゆがめると、再び「李書文」に殴りかかった。
「呵々!」
「くそ、当たらねえ!」
だがかすりもしない。たまに当たったように見えても、それは「李書文」があえて受けたというだけで、その後の反撃によって永吉の190センチ以上ある体が軽々と宙に吹っ飛んだ。
「くそ! なんでだよ! さっきから似たような動きばっかりのくせに、なんで捕まえられねえ!」
「おお、それが分かるか。ならば目はいいと見える。おうとも。人を相手どるのにそこまで多くの技は要らん。一つの技を磨き上げればそれでよい。それで十分だ」
「何だよそれ。……前に親父に連れてかれた道場のジジイも似たようなこと言ってやがったな」
「ほう。お前の親も見かねたか。それで、どうした。そこの道場に入ったか」
「入るわけねえだろ! ひたすら同じことばっかりやらされて、何がいいんだかさっぱりわからねえ! こうして因縁つけてくる連中を叩きのめしてる方がよっぽどスカッとするし、どんどん腕っぷしが上がってくのが分かった!」
吐き出された彼の内面は、やはり荒々しいものだった。背後の藤丸さんとアルトリアが息をのむのが分かる。
「だからオレは今もこうしてる!」
このままでは埒が明かないと思ったのだろう。永吉はとうとう、近くの家の軒下に腕を突っ込むと、そこから物干しざおを奪い取った。幸い住人はいなかったようだが、なりふり構わないその様子に冷や汗が出る。
「技が何だってんだよ! 勝った方が強え! それでいいじゃねえか!」
「李書文」よりも長く、重い武器で一撃を叩き込む。喧嘩でのし上がってきた彼の、狂犬じみていながら合理的な攻撃。
それに対し、「李書文」はこう呟きながら冷静に対処した。
「そうだな。儂もそう思う」
軽く物干しざおを打ち払い、槍の一撃を永吉の額に叩き込んだ。木製の槍が頭蓋骨を打ちすえる嫌な音が周囲に響く。手加減のない一撃に、自分の背後の藤丸さんの顔が青くなった。
「「李書文」さん!」
「まだ終わっておらん」
思わず藤丸さんが叫ぶが、「李書文」の言う通りだった。永吉は額から血を流しながらも、なんと槍を無理やりつかみ取っていた。
「そうだろ!? とにかく勝った方が強え! だったら文句ねえよなあ!?」
槍を「李書文」の手からもぎ取ると、更に力任せに、反対の手に持っていた物干しざおを振り上げ――。
「死ね!」
「死ねと言ったか、
そのがらあきの胴体に、ぞっとするような呟きとともに、すでに「李書文」は踏み込んでいた。
今朝も見た。踏み込みから指の先まで、混然一体となって放たれる絶招。以前聞いたその名は――。
「――ッ!!」
叫ぶことすら許されず、永吉は吹き飛んだ。だがそれで終わりではない。
地面に転がってなお敵を睨もうとする彼を追って「李書文」が走る。宙に舞っていた槍を捕まえると、大の字になった永吉の胸に――。
「そこまでです」
咄嗟に沖田はAUウェポンを発動し、刀で「李書文」の槍を切り裂いた。一瞬で五つに分かれた槍がバラバラと落ちてアスファルトに弾む。
「――おう。すまんな。ついカッとなった」
「勘弁してくださいよ」
「呵々!」
まさかとは思っていたが、本当にこうなるとは。
やりすぎそうになったら止めろ。それがフーヴァーから言いつけられた自分の役目だった。
「李書文」は息を整えると、地面に伸びたままの永吉に話しかけた。
「生きておるか」
「っは――ぐう。いてえ……」
「うむ。やはり頑丈な奴よ」
「っはあ、はあ、さっきの、殺す気だったろ。なんで――」
「儂の未熟さゆえだ」
「ああ……?」
「猛虎硬爬山は相手の体の門を叩き割り、骨と臓腑を砕く一撃必殺の技。仕留めきれなかったのはおぬしの頑丈さはもとより、儂の未熟さゆえだ」
「未熟って、それでかよ」
「ああ。故郷の祖父は七十近くになるが、それでもまだ未熟も未熟と言っておる。儂なんぞ更に、だ」
「バケモン、どもめ」
その呟きは、心においても永吉が「李書文」に屈した証拠だった。それを聞いて赤毛の青年は
「ほう。儂を認めるか? ならばその力――儂のもとで鍛えてみんか」
「ああ――考えとくぜ」
呵々、と笑うと「李書文」は藤丸さんに向き直った。
「さて、儂の仕事はこれで終わりだ。藤丸よ。答えは出たか」
「あ……」
悪人を味方にすることを良しとするか。それでも友達のためという大義を誇れるか。
「私は――どんな人でも、信じたいと思います」
「ほう?」
「悪人でも、不良でも、地球を守るために力を貸してくれるなら。私の大切な人を守り、助けてくれるなら。私は信じたいです」
「……ひとまず、それでよしとするか。「沖田」よ、帰るぞ」
*
ほどなくして。アルトリアが連絡したDOGOOの部隊が、永吉を収容していった。自分たちは車で最寄りの駅まで送り届けてもらい、ここで別れることとなった。
これで沖田も仕事は終わりだ。とはいえ、ずっと脇で見ていただけのように思うので、何ともすっきりしない。
「全く。私はあなたの見張りだけですか」
「呵々。ならば、家に一度帰るか? それくらいは「フーヴァー」も許してくれるだろう」
「……家、ですか」
今回、日本に立ち寄ることは家族に教えていない。任務を終えたらすぐ帰らなければいけないと思っていたのもあるが、それ以上に――。
「いいえ。全部終わってから、帰りますよ」
「……そうか」
まだ、帰れない。決心が鈍ってしまう気がするから。
沖田は藤丸さんとアルトリアにも別れの挨拶をした。
「では、私はこれで。藤丸さん。これにめげずに「ノッブ」の力になってあげてくださいね。アルトリアさんも、ぜひ」
「……ありがとう、「沖田」さん。こちらこそ、真緒ちゃんをお願いね」
「むむ。ノブナガ様をあだ名で呼ぶとは――あなたもノブナガ様の友達なんですか?」
「友達――どうでしょうね。まあ、腐れ縁ですよ」
「なんですかそれは! ノブナガ様は友達が少ないのですよ! はっきりしてください!」
「いや、アルトリア。その言い方は」
思い返す。ストーンフォレストが終わった夜。彼女を中心に、E遺伝子ホルダーたちが寄り添うように力尽きて眠っていた様子を。
「少なくなんてないですよ。心強い仲間がたくさんいます」
そして、思わず口にして恥ずかしくなった。しかし藤丸さんとアルトリアはその答えに満足したのか、朗らかに微笑んでくれた。
「よかった。真緒ちゃん、大丈夫なんだ」
「ええ、そのようで。それではまた、どこかで」
「ええ」
帰りの飛行機で、なんとなく「李書文」に言ってみる。
「「李書文」さん。私も少し、鍛えようかと思うんですが」
「うむ? トレーニングはしているように思うが」
「いえ、そうではなく。実践的な、と言いますか」
「そうか。ならば0430から準備運動を――」
「やっぱいいです」
窓の外で日本が遠ざかっていく。次に帰るのはいつになるのだろうか。
そして、真緒や、他の日本人のホルダーたちも――。
考えを振り払う。自分が向かうべきは、空だ。
まずは第四小隊の皆と、もっと仲良くなるところから始めようと沖田は思った。