ノッブナガン   作:喜来ミント

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一ノ銃 織田信長 後編

「たくさんたくさん、解体できるね」

 

 ミサイルのような物体――降下ポッドから飛び出した少女は、その左腕の巨大なナイフで一息に怪物の前足を二本とも斬り飛ばした。胸びれを不格好に進化させた支えを失い、怪物が頭から崩れ落ちる。

 

「ちゃんとした足でなきゃ歩けないよ、お魚さん。……うん? 『ジャンヌ』? 大丈夫だよ。おっきいだけでノロマだもん」

 

 少女はこれまた特撮映画のような戦闘服を身に着けており、今は耳に手を当てて、どこかと通信しているようだ。真緒には英語が分からないが、あの怪物を倒す算段を立てているのだろう。

 倒そうと、しているのだ。

 

「何、あの子」

 

 戦車も戦闘機もかなわなかった怪物を、あんなあっさりと。

 

「え? 確かに人がまだいるけど……早くバラバラにしちゃった方がよくない?」

 

 通信を続けている少女の後ろで、怪物が苦し気に頭をもたげ、戦車を一発でスクラップにした鱗を発射した。

 

「危ない!」

 

 思わず叫ぶが、少女の反応は淡泊だった。日本語での叫びが通じなかったのもあるだろうが、全く慌てていない。不機嫌そうに振り返ると、鱗をナイフで真っ二つにした。少女の背後に通りぬけた鱗が爆発し、少女の無造作に切りそろえられた髪を揺らす。

 

「っと、こうしてる場合じゃない」

 

 あの子が怪物の動きを止めている今のうちに。でっかいオッサンへと続く道を進む。藤丸さんを探す。

 

「どこに……」

 

 爆発する鱗が当たったのだろう。でっかいオッサンへと続く橋はあちこちが砕け、水面が足元に見える。怖い。運動神経なんてろくにない。伸ばしっぱなしの髪が重い。けれど。

 友達になれるかもしれない人を失うのは、もっと怖い。

 

「いた!」

 

 藤丸さんだ。友達二人も一緒だ。きっとあの爆発から友達をかばったのだろう。ぐったりとしている藤丸さんを、友達二人が揺らし、起こそうとしている。

 

「藤丸さん! 大丈夫!?」

「え? あ――確か、六天さん?」

「どうしてここに……」

「いいから! そっち支えて! すぐ逃げるよ!」

 

 ろくに話したことがないクラスメイトに啖呵を切り、藤丸さんの体を支える。普段の自分では考えられないことが今はできる。勇気か、テンションがおかしくなっているのかはわからないけど。

 藤丸さんを無事なところに連れていけるまで、どうか。

 

  *

 

 「ジャック」は戦闘を続行していた。

 

「やっぱり解体しちゃおう。それがいいよね」

 

 懲りずに進化侵略体は鱗を打ち出してくる。足を失い、ろくに動けないだろうにご苦労なことだ。

 

「えいっ」

 

 飛んできた鱗にナイフを引っかけ、ぐるりと回った勢いとともにお返しした。進化侵略体の眼前で鱗が爆発し、目くらましとなっている間に、一気にその磯臭い体を駆け上がった。

 

「ばいばい」

 

 身をひるがえし、一気にその巨体をナイフでおろす。子気味いい音とともに肉が裂け、真っ二つになった進化侵略体は水面にたたきつけられた。派手な水しぶきとともに空っぽの体内が――空っぽ?

 

「おかあさん? あっち?」

 

 自分の背後で「ジャック・ザ・リッパー」がささやく。咄嗟に振り向くも、遅かった。

 水面から突き出された鋭い角が「ジャック」の小さな体を貫く。

 

「どう、しよ」

『「ジャック」!? どうしたんですか!?』

「『ジャンヌ』……あの大きいの……『揚陸艇』だった、みたい」

 

 水面からわらわらと顔をのぞかせる小型の侵略体――「歩兵型」とでもいうべきだろうか。その姿は無理やり足のようにしたヒレなど、おおむね「揚陸艇」と変わらない。しかし特徴的なのはその頭部だった。「揚陸艇」とは違う、明確に白兵戦を意識した鋭い上顎はまるでカジキマグロのようだ。

 咄嗟に侵略体の群れから距離を取る。腹からボタボタと血があふれる。しかし、先走った自分のミスだ。自分で何とかしなくては。

 左手のナイフが五指のように展開する。背後でE遺伝子がささやいている。

 

「がんばるよ……おかあさん」

 

  *

 

「もうちょっと!」

「もう、むり」

「無理じゃない!」

 

 くじけそうになる藤丸さんの友達を励ましながら、藤丸さんの体を運ぶ。怪獣に壊されたせいで足元は悪い。けれど構ってはいられない。あと半分で岸まで――。

 

「おわっ」

 

 橋に何かがぶつかった。見れば、小さな怪獣にナイフを突き立てた少女がいる。

 

「うう……もうだめ」

 

 少女が苦しそうに呻く。見れば、腹から血があふれ、ただでさえ痩せ気味な顔から血の気が失せていた。その腕のナイフが消え、少女の手があらわになる。

 

「ごめんなさい……おかあさん」

 

 その手に握られたボールに真緒の目は吸い寄せられた。

 

「これ……どこかで」

「きゃあ! 何こいつら!」

「いっぱいいる!」

 

 藤丸さんの友達が叫ぶ声で我に返る。見れば、周囲に小さな怪獣がたくさん集まってきていた。当然、岸に続く道にも。

 

「ちょ、ちょっと……どうして」

「どうしよう……」

「六天さん……」

 

 藤丸さんは目を覚まさない。岸は遠い。怪獣はじりじりと迫っている。

 

「……イチかバチか。二人とも、藤丸さんをお願い!」

 

 藤丸さんの友達に藤丸さんを預け、橋を飛び降りて少女のもとに向かう。

 

「借りるよ」

 

 少女の手に握られたままのボール。何故だか目が吸い寄せられる。どこかで見たことがある気がする。

 自分にも、あんなナイフみたいなものが出せれば――。

 そんなに都合のいい話じゃないのは分かっている。けれど、試さずにはいられなかった。

 

「No.」

 

 しかし、少女は手を離さない。

 

「Run away. It can‘t be used for ordinary people. ……」

 

 前半だけ、逃げろと言われたのは分かった。けれど。

 

『今度、絶対だからね!』

「絶対って、約束したんだ」

 

 少女の手からボールをもぎ取る。握りしめる。何かを探る。何でもいい。力が欲しい。藤丸さんたちを守れる力を。この状況をどうにかできる力を――。

 

『ほう』

 

 声がする。自分の中から。流れる血潮から。

 

『ならばくれてやろう。是非もなし』

 

  *

 

「13号ボール……再起動しました!」

「『ジャック・ザ・リッパー』が復活したの!?」

 

 オペレーターの声に、指令が鋭く尋ねた。

 

「いえ……違います。これは、未知の『E遺伝子』シグナルです」

「そんな……未知のホルダーがまだいたというの? それもあの場に」

「遺伝子紀元1582年です」

 

 次いでオペレーターが告げた内容に、指令の背後にある装置の中から声が答えた。

 

『1582年。お前か――』

 

 あの日。採取した「命の二重螺旋」と「AUボール」を見せつけられ、彼は冷静に答えたのだ。

 

『確かに受け取ったぞ、お前の「命の二重螺旋」を。これを使い、今から数百年後「奴ら」がこの星に到達するその時目覚めるであろう「戦士」を作る。――お前をはじめ、この星の傑物たちから私が作り、生まれた「戦士」。それが希望となる』

『ほう。して、その球は』

『これは彼らだけに反応し、彼らが望む兵器を形成する核となるものだ。それだけが「侵略体」からこの星を守る唯一の力だ。――お前の生まれ変わりならどんな兵器を望むかな』

 

 その問いに、彼は不敵な笑みを浮かべ、こう答えた。

 

『ふ。決まっておる。銃よ』

 

  *

 

 全身が熱い。手に握ったボールに鼓動が流れ込む。ボールが脈打ち、力を返す。その循環が限りなく自身を高め、奥底に眠る遺伝子を呼び覚ました。

 

「ハッ! はははっ!」

 

 ボールを包み込んだ光が急激に膨れ上がり、自身が望む兵器を形成する。迷うことはない。銃だ。銃だ。それも飛び切りの――。

 

「六天さん!」

 

 声に振り向きざま引き金を引いた。銃口から飛び出した弾が、藤丸さんたちに迫る怪獣をハチの巣にする。その反動で光が散り、銃の全貌が明らかになった。銃の大きさは真緒の身の丈ほどもあり、旗印たる永楽通宝をあしらった銃口は黄金(こがね)の輝き。小札(こざね)板のような意匠の上に、仮面が目を光らせる。

 

「ろ、六天さん……?」

「どうしたの、それ……」

Incredible(信じられない). ……You are also(あなたも)……?」

 

 口々に言うクラスメイトや少女たちの注目を浴び、真緒は顔を伏せるのではなく髪をかき上げた。黒く艶やかな髪が波打って広がり、マントのようにひらめいた。そして赤い輝きを灯した目を細め、笑う。

 

「うっははははははは!! よい! よいぞ! 格別にいい気分じゃ! 一丁踊りたい気分じゃが……まあ先にやることがあるのう」

 

 六天真緒――否。六天魔王と呼ばれた傑物の遺伝子を受け継いだ「戦士」が名乗りを上げる。

 

「我こそは第六天魔王波旬織田信長! 怪物どもよ、三千世界に屍を晒すが良い!」

 




シオチャンが最初から英語ペラペラっぽかったのはやはりミリタリーの資料に強いからでしょうか。
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