ノッブナガン   作:喜来ミント

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赤兎馬があんなことになってましたが呂布さんは元気です。



三十三ノ銃 森長可

1400(ヒトヨンマルマル)、第一小隊、ヤヴィンでの準戦闘待機に入る」

 

 ヘリコプターの騒音をかいくぐるように、「ジェロニモ」の芯のある声が響いた。

 それに対し、「アヴィケブロン」も声を張り上げる。

 

「了解。1400(ヒトヨンマルマル)、第二小隊、待機を第一小隊に引き継ぐ」

 

 A(アレックス)・ローガンへ向かうヘリに、黙々と第二小隊の面々が乗り込んでいく。それを見て「ジェロニモ」はポツリとつぶやいた。

 

「変わったな」

 

 それに対し、「ビリー」もあくまで軽く返す。

 

「まあね。無理もないよ。なにせ……」

「彼女だけではない。「信長」だけでは」

 

 「ジェロニモ」に賛同したのは、以外にも「メリエス」だった。更に「ロボ」もどことなく肯定的な一吼えをくわえる。

 

「確かに……チーム全体の()といいますか、空気と言いますか……まあ一人変われば周りも影響を受けるものですけれど」

「■■――」

「そういうものかな――いや、そうかもね。僕らも少しずつ変わっている。何より「ロボ」がずっと協力的になったし」

 

 「ビリー」の軽口をたしなめるように「ロボ」が彼の足を踏んだ。

 

「■■!」

「いてっ。ごめんよ」

 

  *

 

 指令室ではさっそく、第二小隊が持ち帰ったデータの解析が進んでいた。

 

「第一小隊、ヤヴィン着任。第二小隊を乗せたヘリはA・ローガンへと向かっています」

「データの解析は?」

「はい、指令。今完了したところです。モニターに出します」

 

 オペレーターの言葉通り、指令室のメインモニターに様々な侵略体の姿が映し出された。今日交戦した「槍騎兵型」を含め、虚ろな五つの眼を輝かせる異形の恐竜たちのデータがその場の全員に共有される。

 それを見て指令と土偶は意見を交わした。

 

「種類も増えて、大型化してきましたね」

『この星の進化の歴史で言えば、三畳紀からジュラ紀と言ったところか。まさに恐竜の天下だな』

「そろそろ、サンフランシスコだけでは手狭になってくるでしょうか」

『そうだな。いつ版図を広げようと考えだすかは分からない』

「来るとすれば、やはり南でしょう。北と東は橋を落としてありますし、沿岸部については定期的に行っている爆撃が効果を出しています」

『奴らの鱗を使用した爆弾や砲弾の開発が間に合ったのは幸いだったな。「エジソン」たちには感謝しなくては』

「相変わらず「テスラ」と手柄を張り合っていましたが――話がそれました」

 

 画面がサンフランシスコを映した地図に切り替わる。指令が手を振ると、サンフランシスコから内海を挟んだところに山脈を示す記号が立ち上がった。

 

「ともかく。爆撃の甲斐もあり、魚竜や首長竜などの、海に適合した爬虫類型の種は現れていません。仮に内海を渡れたとしても、この山脈を超えることも不可能でしょう」

『となると、やはり南か――』

 

 唯一陸続きになった南側に防衛ラインの図が立ち上がる。

 

「南の防衛ラインには定期的な攻撃がありますが、いずれも散発的なものにとどまっています」

『しかし油断はならない。あそこを突破されれば後はない。現状維持が現在の最善だ。「フーヴァー」。現在防衛ラインはどうなっている?』

「…………」

「「フーヴァー」?」

「え? ああ、すみません」

 

 自分が呼ばれるとは思っていなかったらしい。いつも以上にラフな服装の「フーヴァー」は、よほど情報解析に没頭していたのか、弾かれるように顔を上げた。

 

「大丈夫ですか? 病み上がりにこの状況……あなたも相当辛いはずでは」

「こっちは何ともありませんよ。前線に出ている連中に比べれば――現在の防衛ラインでしたね。第三小隊が展開しています」

 

  *

 

 サンフランシスコ南、サンノゼ防衛線。

 進化侵略体の上げる雄叫びに混じり、まだ若さを滲ませる少年の大音声が響いていた。

 

「うらうらうらああああああ! 喰らいやがれえ!」

 

 「森長可」の持つAUウェポンたる大槍が、大型二足歩行恐竜型の侵略体に打ち込まれる。だがその鱗は固く、ほとんど刃が通じていない。

 

「おい「李書文」! こいつ固えよ! さっさと本気出してブッた切っちまおうぜ!」

「慌てるな小僧! いつもと様子が違う! まだ本気は出すな! しっかり芯を捕らえれば、この程度の連中は倒せる!」

「んなこといってもよー!」

 

 そう文句を言いつつも「森長可」は2メートル近い巨体を素早く正し、恐竜に相対した。

 そして相手が突っ込んでくるのに合わせて槍を突き出す。全身の力が無駄なく槍の穂先へと練り上げられ、侵略体のかぎ爪をかいくぐり、その胸元へと威力が叩き込まれた。

 固い鱗を割り、手ごたえが「長可」の手元に帰ってくる。彼はそれを確かめて笑みを深めた。

 

「とった、ぜええ!」

 

 そして衝動に任せ、型などお構いなしに槍を突きこみ、侵略体をバラバラに引き裂いた。

 その様子を見て、彼に日ごろから稽古をつけている「李書文」が深いため息をついた。彼の持つAUウェポンたる六合大槍は、巨漢の弟子とは対照的に、機械のような正確さでもって敵を倒し続けている。

 

「まだまだ功夫(クンフー)が足りんな……っと! 「呂布」! そっちに抜けたぞ!」

 

 ディノニクスのような身軽な侵略体が、その俊足を生かして前衛を抜けていた。

 前衛として槍を振るう二人の後ろ。E遺伝子ホルダーたちをバックアップする戦車隊を守る位置にいた「呂布奉先」が短く「李書文」に応える。

 

「了解なり――■■■■ッ!」

 

 そして、一転して人間とは思えぬ咆哮とともに、そのAUウェポンを発動した。

 見る間に彼の下半身を包み込んだ光が、馬の四足を形作る。ただでさえ2メートルを超える巨躯の彼の上背が更に伸び、巨大な人馬へと変貌した。その蹄はあまりに大きく、地を駆ける以上に、敵を叩きつぶすことに向いていた。

 そして今まさにその威力が振るわれる。

 

「■■■■■■――!!」

 

 ディノニクスのような侵略体が一撃で首をへし折られて沈黙した。

 

「こっちも、相変わらずか」

 

 気持ちを切り替え、「李書文」は後方に控えるもう一人のホルダーに声を飛ばした。

 

「お師さん! 敵の具合はどうだ!」

 

 お師さんこと「玄奘三蔵」は双眼鏡で地平線を見ながら答えた。

 彼女の頬に伝う冷や汗が、敵勢の多さを物語っていた。

 

「マズいわね。今日はいつもの『定期便』とは違うみたい。――司令部! こちら「三蔵」、サンノゼ防衛線! 増援をお願い!」

「おいおいおい! 「三蔵」! そりゃホントか? じゃあよ、じゃあよ、「李書文」! 出し惜しみは無しだよな!?」

 

 増援が必要な事態だと分かってなおはしゃぐ「森長可」に、「李書文」は何度目になるか分からない溜息をついた。

 

「らしい、な。「長可」! 「呂布」! ()()でいけ!」

「待ってたぜぇ!」

「■■■■――!」

 

 二人の狂戦士の雄叫びが戦場に木霊した。

 

  *

 

 A・ローガンへと向かうヘリの中にも「三蔵」の要請は届いていた。

 

『こちら「三蔵」、サンノゼ防衛線! 増援をお願い!』

「……!」

 

 その言葉に真っ先にヘルメットを手に取ったのは「信長」だった。

 

「パイロット! ハッチを開けよ!」

「え? しかし……」

「見える距離じゃ! ヤヴィンの第一小隊よりもこちらの方が近い!」

「マオ!」

 

 思わず「ジャンヌ」が止めるが、「信長」はなおもパイロットをせかした。

 

「急げ!」

「りょ、了解……」

 

 彼女の押しに負け、パイロットがヘリのハッチを開いた。

 「信長」はそれを見て素早く装備を整えると、開きかけたハッチから宙に身を投じた。

 彼女を始め、ホルダーが身にまとう戦闘服もこの三か月の間に進化を続けていた。かつては不格好で重かったそれは、以前から海上戦闘用に使っているものとほとんど変わらないサイズと重さ、取り回しになっていた。そしてサンフランシスコへの迅速な突入のため追加されたグライダーもその一つだ。

 グライダーを展開した「信長」は、さすがの勘の速さで風をつかむと、あっという間にサンノゼの方へと飛び去っていた。

 

「マオ!」

「待ってください!」

 

 続いて、「ジャック」と「ジャンヌ」も彼女を追って飛び出していく。唯一出遅れた「アヴィケブロン」は重いため息を吐いた。

 

「結局こうなるのか……とはいえ。放っても置けない」

 

 三人を追って宙へと飛び出す。

 

「変わったものだな、僕も」

 

  *

 

 再び、サンノゼ防衛線。

 

「さあて! ヤヴィンからここまで10分ってとこか! それまでに何匹殺せるかねぇ!?」

「■■■■■■■■■■■■――!」

 

 その二人の叫びは、同じ方向を向いているだけで、ちっとも噛みあってはいなかった。だが今はそれでいいとばかりに二人の闘志が高まっていく。

 一方、彼らが準備を整えるまでの時間稼ぎに入った「李書文」と「三蔵」は二重の意味でハラハラしていた。

 

「結局、儂らがお守りをせねばならんか」

「まあ、ね! っと! 捕まえた!」

 

 「三蔵」が手に持つ錫杖を鳴らすと、どこからともなく現れた光の輪が目の前の侵略体の体を縛り上げた。その隙に「李書文」の槍は勿論、戦車隊からの砲火も叩き込まれる。

 戦車隊の士気も高い。ストーンフォレストなどの限定的な場面を除き、何もできなかった彼らも今日では一つの戦力だった。

 侵略体の鱗を断芯に使ったM(モロー)・スター弾だ。並みの侵略体ならばこれで十分と言える。だが――。

 

「「装甲車型」だっけ? とびきり固いのが来た! ちょっと二人とも! まだ!?」

「小僧ども!」

 

 新たな侵略体が前に出た。音高く特殊砲弾を弾くそれが進撃を始めたとき、ついにその雄叫びが響く。

 

「行くぜェ!!」

「承知なり!!」

 

 二人の狂戦士が今、一つとなる。

 

「「合・体!!」」

 

 戦いは続く。

 


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