ノッブナガン   作:喜来ミント

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三十四ノ銃 馬防柵

 

「行くぜぇ!」

「承知なり!」

 

 「森長可」と「呂布奉先」、二人の共鳴が最高潮に達したとき、両者のAUウェポンが音を立てて展開し、その質量を増した。

 「森長可」の持つ槍を包む装甲がはじけ飛び、持ち主の体を支える鎧へと転じる。

 「呂布」の下半身を覆う馬を模した四足はより巨大に、また主の巨躯を覆い尽くさんばかりに増大する。

 そして「森長可」が槍を地面に叩きつけ、反動で宙へと舞い上がる。その股下へと「呂布」が駆け込み、少年の足を丸太のような腕でがっちりとホールドする。

 肩車だった。

 子供の遊びのような体勢、と言ってしまえばそれまでだ。しかし上は2mに迫る少年、下は2mを超える巨漢であり、はち切れんばかりのエネルギーがそんな評価を許さなかった。

 AUウェポンは使い手の意志によりその姿を変えてゆく。その二人の身にまとう装甲が音高くかみ合い、煙を噴き上げ、その手に持つ槍が大きく(あぎと)を開いた時。

 

「うおしゃああああ!!」

「■■■■■■■■!!」

 

 合体が完了すると同時に、それは戦場へと飛び出した。

 

  *

 

「まだか!」

 

 「李書文」が叫び、振り返る。だがそこに二人の狂戦士の姿はなく、ひび割れた地面と砂塵が残るばかりだった。

 それを見て「李書文」は一旦胸をなでおろした。

 

「ようやく――か!」

 

 だが、それを見ることができなかった戦車隊は気が気ではない。今も重装甲の新型侵略体――「装甲車型」が敵の前に躍り出てきており、せっかくの特殊弾頭を軽々と弾いているのだ。

 「李書文」と「三蔵」がサポートに回っているが、とても手が足りない。津波のように押し寄せる敵勢に、ついに防衛線が破られそうになる。戦車隊に敵の爪が届きそうになる。

 ついに戦車隊の先頭を務める隊員が通信機に焦りの声を飛ばした。

 

『「李書文」! このままでは――』

「上だ! 来るぞ!」

『う、上――?』

 

 だが、その不安は一瞬で吹き飛んだ。人間離れした()()の影が防衛線の地面に映る。それは縮尺を間違えたかのようにどんどん大きくなり、まだ地面に達せず――。

 

「うらああああ!」

「■■■■■■!」

 

 全長4mを超す人馬が、着地と同時に一面の侵略体を薙ぎ払った。

 装甲の下に詰まった分厚い筋肉の塊が周囲に熱をまき散らす。

 その蹄はあまりに大きく、一歩を踏むごとに地面を揺らす。

 その手に持った槍は展開し、異形の十文字槍として敵の血に濡れている。

 

「待たせたなアア!!」

「■■■■■■!!」

 

 有り余るエネルギーをぶちまけるように二人が進む。蹄が侵略体の頭を踏み砕き、槍が骨ごと肉を絶つ。

 その様子を見て「李書文」と「三蔵」は鋭く声を飛ばした。

 

「遅い! それと、ぬかるなよ!」

「「装甲車型」に注意して! そいつ硬い!」

「アレかあ!」

「■■■■!」

 

 真上からの乱入に驚いたのか、敵が少しだけ迷いを見せた。その先頭にいる、頭から尾まで背の一面が装甲に覆われたその侵略体を見て、「森長可」は喉の奥で笑った。

 

「だけどよ――硬さじゃオレらは止められねえ!」

「■■!!」

「嗤え――人間無骨!」

 

 先ほどまで直槍だった穂先は左右に展開し、その奥に隠していたチェーンソー状の穂先を見せている。その異形の十文字槍がギチギチと獣の牙のように唸りを上げた。

 それと同時に人馬は前足を振り上げ、地面を砕かんばかりに叩きつけた。一瞬、戦車隊すら宙に浮く感触を得た瞬間。その衝撃は破壊力を持った波となって前方の侵略体の群れを襲った。虚ろな五つ眼を光らせた恐竜たちが宙に舞い、爪を噛ませるべき地面を失ってもがく。

 それを人間無骨は見逃さなかった。

 

「八つ裂きだあああ!!」

「■■■■■■――!!」

 

 「呂布」の馬の後ろ足が展開し、ジェットブースターが火を噴いた。

 咆哮と、槍の駆動音と、蹄の撃音と。音と威力の塊となって4mの人馬が突き進む。受け止めるすべのない侵略体たちは全て撫で斬りにされ、二人の叫びを高める踏み台にされた。

 そして辛うじて地面にとどまっていた「装甲車型」へと槍が到達する。

 

「■■■■■■■■ァァ!!」

「■■■■■■■■――!!」

 

 二人そろって、人ならぬ咆哮を伴ってぶち込まれた一撃は、一瞬、敵の鱗で火花を散らしたものの――。

 

「嗤えぇぇ――!!」

「脆弱なり――!!」

 

 一瞬ののち、骨など無いかの如く、敵を真っ二つに切り開いた。

 後ろの戦車隊から歓声が上がる。

 

「進め進め進めえ――!!」

「好機なり!」

 

 人馬が戦車隊のうち、無事なものを伴って前に出た。その隙に「三蔵」が鋭く指示を飛ばす。

 

「今のうちに防衛線の再構築を――!!」

 

 油断はできない。何とか立て直したに過ぎない。今も迫りつつある敵を突き崩しつつ、「李書文」は一層自分の身に鞭を打って構えを鋭くした。

 あと5分は持たせなければいけない。そう思った矢先――。

 

「おい、「李書文」!」

 

 心配していた、小僧の悪い癖が出た。

 

「増援はあとどれくらいだ!?」

 

 その声に顔を上げた先、よりにもよって()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「敵から視線を切るな大莫迦者――!!」

「あん?」

 

 敵の列の間を潜り抜けるようにして、今までに見たことがない小柄な侵略体が出てきていた。

 小さいからと言って油断はできない。わざわざこの状況に出してきたのだ。つまり――。

 

「なんだあの、小さいの――」

「不可解なり」

 

 その四足の侵略体は、丸々と太った尻尾を地面に突き刺すと――爆発させた。

 その勢いが小さな体を丸ごと前方に飛ばす。尾を失った流線型の体が飛来する姿はまるで――。

 

「新型――「対戦車砲型」!!」

 

 咄嗟に「長可」が切り払うも、もう遅い。その虚ろな五つ眼が輝き――。

 

「やっべえ」

「窮地なり」

 

 爆発。更に追うように二発、三発、「対戦車型」の突貫が人馬へと炸裂し、巨体が爆風に踊る。

 

「大莫迦者どもが――!! 「三蔵」!」

「分かってる!」

 

 後先を考える余裕はなくなった。「三蔵」が全力を込めてAUウェポンを発動させる。一瞬、見渡す限りの敵の体に光輪の締め付けが施され、敵の進軍が止んだ。だが長くはもたない。少女の腕に、額に、血管が浮き出、冷や汗がにじんでいた。

 その一瞬で「李書文」は二人のもとへと駆けこむと、槍の柄で二人の巨体を軽々とすくい上げ、後方の戦車隊の後ろへと投げ飛ばした。生きているならいい。これぐらいで死ぬ連中ではない。だが――。

 

「この莫迦者ども!! おかげで完全に余裕がなくなった!」

「「李書文」! もう、限、界――」

 

 「三蔵」の戒めが解ける瞬間。「李書文」の体が敵に応じるべく、考えるまでもなく構えをとった。

 「李書文」は考える。早いものから、近いものから、襲い来る敵を片っ端から突き崩す。果たしてそれがどれほど持つか――。

 思考が体に追いついたその時、不意に宙から降り注いだものが「李書文」の眉間の皺をほんの少しだけ浅くした。

 薙ぎ払いの銃撃。それが意味するものは。

 

「援軍!? まだ来るには早いが――」

「「織田信長」!?」

 

 「三蔵」が叫んだその(E遺伝子)の持ち主が、グライダーで滑空してきた勢いのまま地上へと降り立った。AUウェポンである銃から伸びる帯を長く長くなびかせながら、防衛線と侵略体の間へと滑り込む。

 その小さな身が動きを止めるのと、彼女のAUウェポンから伸びる帯が地面に落ちる瞬間は同時だった。

 一瞬の静寂。

 AUウェポンは使い手の意志によりその姿を変える。長く長く伸び、敵侵略体の前に敷かれた帯を指して「織田信長」が言う。

 

「それが新しい防衛線じゃ――どうする?」

 

 侵略体の答えは、咆哮とともに突撃することだった。

 線など知るかと無遠慮に恐竜たちが帯を踏み越えようとしたとき、帯がその姿を変えた。

 かの三段撃ちの逸話に伴って語られる、武田の騎馬隊を食い止めた馬防柵。

 本来は防御用ではないAUウェポンが転じたその柵は、一瞬敵を絡めとっただけでヒビを生んでいたが――。

 

「超えるか、その線を。ならば是非も無し」

 

 彼女にとっては十分だった。

 容赦なく三段撃ちを叩き込む。勿論自分のAUウェポンごともろともに、銃弾が敵を食い破りハチの巣にする。

 それを見て「三蔵」が絶句する。

 

「そんな、自分のウェポンごと――!!」

 

 そのフィードバックが「信長」の小さな体を襲った。スーツの隙間から血が噴き出る。だが構っている暇はないとばかりに彼女は敵へと踏み出す。

 「信長」の眼が輝く。ヘルメット越しでも間違えようがないほど、赤く、熱く、燃え滾る。その眼の熱量が小さな体を濡らす血を乾き飛ばし、赤い陽炎とともに鉄錆の匂いをばらまいた。

 

「超えさせぬ。()()()()()()()()()()()

 

 戦いは続く。

 

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