ノッブナガン   作:喜来ミント

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三十五ノ銃 爆発

 

 「信長」の援護により、DOGOO陣営はどうにか立て直す時間を得ることができた。

 しかし、その「信長」はすでにその無茶な戦い方で傷を負っていた。たまらず「三蔵」は彼女に声をかける。

 

「「信長」! 一度退いて治療を! あなたが来たってことは、他の第二小隊のメンバーも来てるんでしょう!? その傷じゃ――」

「要らぬ」

「でも」

「要らぬと言った!」

 

 「信長」の体から感じる熱気がさらに高まる。

 

「この程度の傷で退くなど! そのようなことをしておるから、彼奴等(きゃつら)に好き勝手にされるのだ!」

「「信長」!」

 

 そういうが早いか侵略体に向かって突っ込んでいく。

 止めようとするが、「李書文」が冷静に言う。

 

「待て、お師さん。今すべきことをせねば、今度こそ立て直せなくなるぞ」

「……ええ」

 

 自分が言った通り、第二小隊のメンバーが「信長」を追ってきているはずだ。彼らが一刻も早く着くことを祈りつつ、「三蔵」は戦線の立て直しに向かった。

 

「「長可」! 「呂布」! 大丈夫!?」

「なんとか……なぁ」

「健在なり」

 

 二人とも傷は浅くないが、何とか意識は保っている。無理はさせたくないが、貴重な戦力だ。第二小隊の到着が遅れるようなら、まだ頑張ってもらわなくてはいけないかもしれない。

 

「今、「信長」が来てる。第二小隊が割り込みで来てくれるみたい。ヤヴィンの第一小隊も、もうすぐ……」

「「信長」……? それってよ、織田信長か?」

 

 と、「長可」がその名前に反応した。

 

「ええ。それがどうかしたの?」

「知ってるぜぇ……俺の中にいるE遺伝子がよ、知ってる。大殿だ。無茶苦茶怖い殿様でよ……」

 

 「長可」の目線は、今も捨て身の戦いを続ける「信長」を見ていた。

 

「流石、大殿の血を継いでるだけあるぜ……すげえよ、あいつ」

「馬鹿!」

「へぶっ」

 

 応急処置の最中だと言うことも忘れ、「三蔵」は「長可」の顔を張り飛ばした。

 

「何すんだよ!」

「あんなの、全然すごくない! ずっと教えて来たことを忘れたの!?」

 

 血と銃弾をまき散らしながら戦う「信長」は、一歩間違えればいつ死んでもおかしくない。

 

「あんな戦い方! すごくなんて、ないんだから!」

 

  *

 

 「信長」の脳裏を埋め尽くすのは、ただただ憎しみだった。

 進化侵略体たちに対するものだけではない。自分への、侵略体にこの街を滅ぼすことを許してしまった自分への憎しみも絶えなかった。

 この街を守れなかったばっかりに、親友を失った。目の前の敵を倒せなかったばっかりに、戦友を失った。

 その憎しみをぶつける相手はいくらでもいる。撃っても撃っても、倒しても倒しても、後から後から押し寄せる。

 だから。

 

「死ね! 死ね! 一匹残らず――皆殺しじゃ!」

 

 恐竜たちの頭に銃弾を叩き込み続ける。装甲を持たない連中はそれだけで粉みじんに吹き飛ぶ。だが「装甲車型」はダメだ。音高く銃弾が弾かれる。これではダメだ。

 

「ひざまずけ!」

 

 先ほどの馬防柵のせいで、ウェポンから伸びる帯はズタズタにちぎれている。それをあえて、無理やりに刃のように形作り、「装甲車型」の前足に叩きつけた。本来の用途を外れた横暴にウェポンが悲鳴を上げる。だが構うものか。前足に食い込んだ帯を蹴りつけると、「装甲車型」の悲鳴とともに前足が切れ、四足の恐竜がバランスを崩した。

 その目玉に直接、銃口をねじ込み、引き金を引く。

 血肉が飛沫となって降りかかった。視界が悪い。乱暴にヘルメットをぬぐい、次の敵へ。

 「装甲車型」の死骸を駆け上がり、宙へと飛び上がる。眼下にはやはり、虚ろに光る五つの眼、眼、眼。

 

「一匹も残すものかぁ!!」

 

 眼下に向けての全力の三段撃ち。反動のあまり、指折り数えられるほど小さな体が宙に浮く。一つたりとも撃ち損じはない。それほどに敵の密度は濃く、絶えない。

 ついに体が重力につかまった時も、やはり真下に敵がいた。鋭く尖った下顎を持つ首長竜が、ここぞとばかりに武器を突き出してくる。

 身動きの取れない空中。だが自分は仮面の三ノ銃を一発ぶっ放すと、その反動で身をずらした。

 敵の顎が左手に突き刺さる。左手に一体化した二ノ銃が悲鳴を上げるが、これでいい。敵の頭が目の前にある。

 

「この程度の傷――構うものか!」

 

 右手の一ノ銃で敵の頭を吹き飛ばし、地面へと着地する。

 体が重い。疲労と傷と、失った血がそうさせる。

 だが身を焦がす炎は消えない。憎しみと虚しさがそうさせない。

 その怒りを知ってか知らずか、次の敵の手は、よりにもよってと言うものだった。

 

「こやつらは……!!」

 

 分厚い装甲を身にまとった、丸々と太った巨大なトカゲが三体。あの時はまだ両生類といった風情だったが、すでに進化の駒を進めているのか、これまた太い手足には立派なかぎ爪がついており、地面をしっかりとつかんでいた。

 だが間違いない。あの姿は――。

 沖田を殺した連中だ。

 

「貴様らああああああ!!」

 

 怒りに任せて銃弾を叩き込むが、やはり分厚い装甲は射抜けない。これではダメだ。かといって、先ほど「装甲車型」にしたようなごり押しでは、死に際の爆発でこっちがやられる。

 沖田のように。

 ほんの少しだけ残った冷静な部分が判断を下す。手近な侵略体の死骸から牙を引き抜くと、銃弾をばらまいて牽制しながら「装甲地雷型」の一体へと肉薄する。

 恐竜型まで進化していても、やはり格闘は不得手らしい。手足を乱暴に振り回してくるも、それはこちらにはかすりもしない。

 生き物である以上防ぎようがない弱点の一つ、その眼に、侵略体の牙を突き刺す。更にそこを銃口で殴りつけ、無理やり埋め込んだ。

 「装甲地雷型」が悲鳴を上げる。だが構うものか。一気に距離をとると、半壊した家の壁の後ろへと滑り込んだ。

 隠れるためではない。ちょうどいい高さにある壁の残骸に一ノ銃の銃口を乗せる。更にウェポンから伸びる帯を屋根の残骸へと巻き付ける。

 

「……殺す」

 

 威力を高く。銃弾を鋭く。一ノ銃が一気に大きさを増し、自分の小さな体と不釣り合いに感じるほどにまで膨張する。

 敵もこちらの狙いを悟ったらしい。三体の「装甲地雷型」は、あの時のように体を丸めると、巨大なボールとなってこちらに転がって来た。

 

「やはり、そうくるか」

 

 この状態では、眼は隠れてしまう。それに連中がそう来るのも分かっていた。だから誘った。

 屋根の残骸に巻き付けていた帯を強く引き、一気に上へと体を持ち上げる。更に屋根の残骸を蹴って宙へ。

 一方、三体の「装甲地雷型」は家の中へと突っ込み派手に土煙をあげた。空振りだったことを悟ったのか、土煙の中で三匹の恐竜がうごめく気配がする。

 連中は一度そうなると手足を出さざるを得ない。

 「信長」は眼下の土煙の中に、うつろに光る眼を認めた。

 五つ眼。これは違う。

 五つ眼。これも違う。

 四つ眼。これだ。

 

「死ね」

 

 ギリギリまで威力を高めた銃弾をぶっ放す。反動で肩が嫌な音を立てた。だが狙いは正確に、潰しておいた眼を貫いた。

 「装甲地雷型」の死に際の爆発が眼下に広がる。その熱と爆風が小さな体を浮かす。

 どうにか着地し、連中がいた場所を見やると、残りの二匹がボロボロになりながら体を引きずって家の残骸から這い出てきていた。

 その装甲も、やはり大部分が欠けている。

 

「死ね」

 

 冷静に距離を取り、二発。二度の爆発が連中の終わりを告げた。

 沖田を殺した連中を、こうして倒すことができた。

 だが気持ちが晴れることはない。そもそも同型なだけで、直接の(かたき)なわけもない。

 やはり、侵略体を一匹残らず殺さなくては。そうしなければ。失った二人のために、何ができよう。

 次の敵へ――そう思ったとき。

 

「退いて、いく……?」

 

 敵が退いていく。今回の侵攻を諦めたのか? いや。まだそんな段階ではないはず。ならば――。

 視界の奥、丘の上に、動くものを見つけた。

 恐竜たちが群れ、何かを引きずり、転がしている。ぶよぶよとした肉の塊のようなものが押しやられ、ついには坂に達した。

 弾みのついたそれは、よけ損ねた侵略体を巻き込みながら勢いよく転がり、土煙を挙げながらこっちに向かってくる。

 

「あれ、は……」

 

 忘れるはずもない。

 狙いすましたように、自分の眼前で転がるのを止めたそれは、あの時の侵略体に似ていた。

 五つの眼を光らせた、いびつなサンショウウオ。

 サンフランシスコを地獄に変えた最初の一匹。

 あの時よりもだいぶ小さい、精々30メートル程度の大きさだが――。

 

「は、はは」

 

 視界が閃光で埋め尽くされる。

 ぞっとする感覚が背筋を埋める。

 この感覚は――恐怖だ。

 

『やめられるものか! 彼奴らを残らず殺す! それで終いじゃ! 彼奴らが滅べば――さもなくば――』

 

 ここに来る前、「ジャック」に叩きつけた言葉を思い出す。

 これが自分の最期か。あの時の言葉の通りなら、自分は怖くなんてないはずだった。

 殺すだけ殺して、殺しきるか、さもなくば――自分が死ぬ。

 それ以外に、失った二人にしてあげられることがない。だから殺し続けていたのに。

 

「いや、だ」

 

 「信長」の仮面が剥がれ落ちる。

 眼に灯っていた地獄のような熱と炎が、情けない恐怖に吹き消される。

 

「死にたくない」

 

 思わずこぼれた自分の言葉に耳を疑う。

 こんな時になって、どうして――。

 

「私、死ぬのが怖いの?」

 

 真緒は絶望と恐怖のあまり目を閉じた。

 

  *

 

 目を閉じる一瞬前、羽が舞い落ちるのが見えた。

 

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