ノッブナガン   作:喜来ミント

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三十六ノ銃 石と炎

 

 爆発の少し前。

 上空。「信長」を追って飛んでいた「アヴィケブロン」たち第二小隊の面々は、ついにサンノゼ防衛線を視界にとらえた。

 

「第三小隊……戦車隊……無事です!」

「マオは!?」

「見えた。戦っている。あれは……「装甲地雷型」か?」

 

 第三小隊と戦車隊が戦線を立てなおそうとする一方、先に到着した「信長」が敵を引き付けているようだ。

 いや――彼女にそんなつもりはないだろう。ただ、侵略体を残らず殺したいだけだ。

 それを見て、「ジャック」がスピードを上げた。防衛線ではなく、「信長」に向かって一直線だ。「ジャンヌ」が思わず呼び止めるが、聞く耳を持たない。

 

「もう、「ジャック」! あなたまで……!」

「好きにさせておこう。こちらもこちらで大変なようだ」

「え……?」

 

 戦場を俯瞰して気づいた。「信長」より更に前、丘の上で何かが動いている。あれは――。

 

「「水爆型」!!」

「そうだ。やつら、「信長」ごと吹き飛ばすつもりらしい。対処を頼めるか、「ジャンヌ」」

「……分かりました! 私は前方で防壁を張ります。「アヴィケブロン」は第三小隊と戦車隊を防壁の後ろに誘導してください!」

「分かった」

「けれど、「信長」たちは……」

「……「ジャック」が何とかするだろう。そう信じている」

「――! 分かりました! では!」

 

 信じている、などと。ただの方弁だ。自虐しながらもグライダーを操り、第三小隊のもとへ。

 勢いを殺しつつ着地すると、さっそく近くにいた「三蔵」が話しかけてきた。

 

「「アヴィケブロン」! よかった、第二小隊が――」

「話はあとだ。前方に「水爆型」が来ている」

「えっ!?」

「前方で「ジャンヌ」がバリアーを張る。戦車隊をその後ろに――」

 

 そう言いかけたとき、奇妙な鳴き声が戦場にこだました。

 

『ぷきゃあああああああ……!!』

「何だ、この声は?」

「敵の号令?」

「おい、あれ見ろよ!」

 

 傷を負いながらもどうにか戦車隊を誘導していた「長可」が上空を指さした。飛行型、プテラノドンのような侵略体が何かに襲い掛かっている。何か――そう、侵略体の隙間から見えるあれは。

 

「「ジャンヌ」!?」

「どうすんだよ、あれじゃ降りられねえぞ!?」

「馬鹿な、僕や「ジャック」はノーマークだったのに……まさか、連中は――」

 

 いや、考えるのは後だ。あの状況では「ジャンヌ」は降りられない。援護も間に合わない。今まさに「水爆型」が丘の上から転がり落ちようとしている。

 どうする。

 

「どうするか、なんて……考えるまでもないか」

 

 是非も無し、と言うのだったか。

 「アヴィケブロン」はAUウェポンたる籠手に力を込めた。

 

  *

 

「マオ!」

 

 「水爆型」がすでに真緒の眼前にまで迫っている。逃げ場はない。どうにか間に合うか。いや、間に合っても――自分の身を挺しても、守れるのか。

 自分の体の小ささを嘆く。力の小ささを嘆く。こんなちっぽけなナイフじゃ、結局誰も守れない。

 自分の名前は切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)。所詮、殺すのが仕事だ。

 

「でも」

 

 それでも、守りたいと思う人たちがいる。だからこそ、そのための力が欲しい。

 もっと遠くまで届く、もっと早く飛べる力が。

 

「翼が、欲しい!」

 

 唐突に。

 母に抱かれたときのようなまどろみとともに、「ジャック」の意識は途絶えた。

 

  *

 

 爆発が来る。

 「三蔵」はどうにか戦車隊をまとめ終えたが、肝心の「ジャンヌ」がまだ上空でプテラノドンを相手に格闘している。あれでは――。

 

「くれぐれも動かないでくれ」

「「アヴィケブロン」……?」

 

 彼のAUウェポンが変形している。そう、報告で読んだことがある。あれは――。

 

「五大元素接続。土塊に生命と武器を。産み出す楽園にて、受難の民を導き給え」

 

 彼のAUウェポンに刻まれた10のセフィラが全て光り輝いている。本来10体のゴーレムを操る力を全てあそこに結集させているのだ。

 そして、その光が最大に高まった時、彼のAUウェポンが展開し、奥に秘めた11個目の知識(ダアト)を輝かせた。

 

「待って! そんなことをしたら、ダメージのフィードバックであなたは――!」

「他に方法がない」

「だからって、そんな!」

「いいんだ」

 

 仮面をかぶった「アヴィケブロン」の表情はうかがえない。あまり話したことはないが、冷たい人だと思っていた。それでも。

 

「やらせてくれ」

 

 その声は、どこか優しかった。

 

「叡智の光をここに!」

 

 爆発に立ち向かうように、地面から巨大なゴーレムが起き上がった。ひざまずき、両腕を体の前に交差させて衝撃に備える姿勢をとる。

 その姿はどんどん大きくなる。いや――それだけではない。こちらの視点が低くなっている。ゴーレムのいる場所ではなく、自分たちや戦車隊のいる場所に地面の土を吸い込み、その体をどんどん大きなものに変えていく。

 爆発の余波、つまり閃光と衝撃波は地上を伝う。ゴーレム自身が壁となり、更にゴーレムの副産物として作られた塹壕の中でやり過ごそうという作戦なのだろう。

 だが、「アヴィケブロン」はゴーレムの足元から離れられない。あのままでは衝撃波をもろに食らう。

 

「逃げて!」

「ダメだ。僕が離れれば、ゴーレムの力が弱くなる。直接触れているのがベストだ」

「だったら……!」

 

 「三蔵」は自分のウェポンである錫杖を打ち鳴らした。

 本来の使い方ではない。敵を締め付けるのではない、味方を守るためにいくつもの光の輪が「アヴィケブロン」の体を覆い、即席の鎧を作った。

 

「――感謝する」

 

 その言葉をかき消すように閃光と衝撃波が一同を襲った。

 

  *

 

 上空。衝撃波が襲ってくる瞬間、「ジャンヌ」は防壁を全開にして耐えた。

 こんなはずではなかった。だが、巨大な五つ眼を輝かせた侵略体と目が合った。鉄塔にしがみついたそいつが奇妙な鳴き声を響かせると、待ち構えていたようにプテラノドンのような侵略体が飛び出し、あっという間に空中の自分を取り囲んで攻撃し始めた。

 身動きの取れない状況。だが、眼下の光景が見えていた。

 

「「アヴィケブロン」!」

 

 その叫びは、自分を襲っていた侵略体の存在ごと爆風でかき消された。

 容赦ない衝撃と揺れが襲ってくる。「ジャンヌ」は旗を必死に握りしめて耐えた。自分をくるむ防壁ごと、後ろに吹き飛ばされる感覚。そして――着地。二、三回ほど弾み、ようやく止まったのを確認してから、「ジャンヌ」は恐る恐る目を開けた。

 

「これは……」

 

 自分が立っている場所には何もなかった。

 建物も、その瓦礫さえなく、地面はごっそりと削り取られたような跡が残るばかりで、あの爆発の強さを物語っていた。

 周囲に敵はいない。自分を襲っていた侵略体も、あの爆発で死んでしまったのだろう。敵はそう言うことを平気でする。自我や個というものを持たず、全体が一個の生物のように――。

 戦いという点において、それが強みになることが分かっていた。それでも自分はそんな風になりたくない。

 だから名前を呼ぶ。

 

「「信長」! 「ジャック」! 「アヴィケブロン」! 第三小隊のみなさん!」

 

 かろうじて瓦礫の残っている方へと走る。自分の代わりに、「アヴィケブロン」が盾になってくれたはずだ。だからこそ残っている瓦礫――その一部が動いた。

 瓦礫を吹っ飛ばし、「森長可」と「李書文」が顔を出した。

 

「うがあ!」

「なんとも……」

「みんな無事!?」

「危機一髪なり……」

 

 「三蔵」と「呂布」も。第三小隊の面々だ。戦車隊も履帯が瓦礫にうずもれながらもなんとか無事だ。だが――。

 

「「アヴィケブロン」!」

 

 かろうじて残る巨大な人型のそばで彼は倒れていた。

 一見怪我はない。だがピクリとも動かない。エネルギーを全てゴーレムの維持に使ったのだろう。今更のように、ゴーレムの残骸が人型を保てなくなって崩れ始める。それに巻き込まれてはたまらない。「ジャンヌ」は彼の名前を呼びながら、彼の体を引っ張った。

 

「「アヴィ」――え?」

 

 体が軽い。

 元々彼は男性としては背が低めで痩せ型だ。だが、それでも自分の手の感触を疑うほど、彼を引いた手ごたえが軽い。

 

「そんなに、なるまで……!」

 

 急ぎ、後ろを振り返って叫ぶ。

 

「誰か! 栄養――点滴でも、何でもいいです! 彼が!」

「お、おう!」

 

 「三蔵」に背中を叩かれた「長可」が急ぎ、「アヴィケブロン」の体を抱えて後ろに下がる。一刻も早く手当てをしないと危険な状況だ。

 だというのに――。

 

「来ておる、な」

 

 「李書文」が告げる通りの光景があった。

 「水爆型」がこじ開けた空白に雪崩れ込むように、サンフランシスコの方から侵略体の群れがやってくる。あれが本命なのだろう。こちらの部隊を引き付け、「水爆型」で蹴散らし、物量で蹂躙する。嫌になるほど的確な作戦だった。

 「ジャンヌ」は「李書文」に聞いた。

 

「通信はどうですか?」

「ダメだな。先ほどの爆破の余波か」

「……戦力は」

「「長可」と「呂布」がギリギリ。儂とお師さんが疲れてはいるがまだいける。応援に来るはずの第一小隊はまだ姿が見えん。そっちは――」

「「信長」と「ジャック」が行方知れず。「アヴィケブロン」は、さっきのとおりです」

「呵々。全く、敵も容赦ない。だが――凌ぐしかあるまい。どんな手を使っても」

「ええ。奥の手を使うしかないようです」

 

 「李書文」としては、ほんの軽口のつもりだったのだろう。「ジャンヌ」の返答に、彼は怪訝そうな顔をした。

 

「あるのか、奥の手が」

「ええ。……叱られてしまうかもしれませんが」

「……お師さんは儂が止める。お前がそうしたいなら、するがいい」

「ありがとうございます」

 

 「ジャンヌ」は前に出た。地面を揺らしながら敵の大軍が突っ込んでくる。数えるのが嫌になるほど――ストーンフォレストの時の大軍が可愛く見えるほどだ。

 仲間たちも傷つき倒れていく。体も、心も。そんな時、何もできない自分が悔しくなる。

 守るばかりなのだ。

 だから今だけは。

 

「敵を滅ぼす力を、私に」

 

 戦車隊に指示を飛ばしていた「三蔵」がこちらに声をかけてくる。

 

「「ジャンヌ」! 前に出過ぎ! 防壁張ってもあの物量じゃ耐えられないわ! まず戦車隊と「李書文」たちでどうにか削って――」

「そんな暇はありません。奥の手を使います」

「奥の手――まさか! あなたまで!」

 

 飛び出そうとする「三蔵」だったが、横から槍の柄が突き出された。「李書文」だ。

 

「やらせてやれ、お師さん」

「そんな……みんな莫迦よ! 他に手がないからって、そんな」

「他に手がない……ですか。「アヴィケブロン」がそう言ったのですか」

 

 返事はない。だけど、彼なら言いそうなことだ。だったら自分は――。

 

「だったら私はこう言います。私にしか、出来ないことだから」

 

 返事を待たずに旗を突き立てる。自分の前に掲げるのではなく、背に背負う。

 そうすると、旗が音を立てて変形するのが分かった。膨張した柄の中から鎖が何本も飛び出し、自分の体を絡めとる。容赦なく縛り付けられて出来た格好は、まさしく。

 

「火刑台上のジャンヌ・ダルク……」

 

 最期に、旗の一番芯となっていた細身の剣が飛び出してくる。唯一自由になっている手のところへと、発動のスイッチであるそれが収まった。

 剣の柄ではなく刃を握る。赤く滴った血が輝き、最後のセーフティーを解除した。

 息を吸い込む。

 

「主よ、この身を委ねます――」

 

 瞬間。自分の体を中心として爆発するような炎が沸き立った。

 勿論その炎は容赦なくこの身を焼く。一切の防御は捨てられている。自分もろともに、火刑を再現する捨て身の手段。それがこれだ。

 無意味に燃え尽きることはできない。だから、手の中の剣を必死に前に向けて。

 

「どうか――」

 

 紅蓮の炎がほとばしる。侵略体の群れはそれに構わず突き進もうとするが。

 

「どうか――!!」

 

 炎が群れを押しとどめた。飲み込むように、食い破るように、次々と侵略体を消し炭に変えていく。

 津波のように押し寄せる侵略体たちが、やはり怒涛の勢いで押し返す炎と拮抗する。

 敵の勢力が尽きるのが先か、「ジャンヌ」の体が燃え尽きるのが先か。

 

「私が、守って見せる!」

 

 喉が焼けるのも構わず、「ジャンヌ」は力の限りに叫んだ。

 

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