ヤヴィンに設けられた特別会議室。前線であるここには、各地から立体映像を通じてリアルタイムで会議を行う環境が備わっていた。
そのメインコンソールに向かって各地に通信を行っていた「フーヴァー」が顔を上げた。
「やはり、第五小隊と第六小隊は手が離せないようだ。それと……」
その言葉の先を「ダ・ヴィンチ」が引き取った。
「まあ、南極は私の方ほど暇じゃないからね」
「そういうことなら、ここにいる連中だけで話を聞くことになる。……まあ、反対意見を述べるホルダーもいなかったからな。あとで全員に共有するとしよう」
「フーヴァー」はそう言い、部屋の中央にいる指令と、土偶の立体映像を見据えた。
すでに準備はできている。まず、「サンソン」が進み出た。
「最初に、今回の戦いと、いままでサンフランシスコで進化してきた侵略体を解剖して得られた情報を通し、見えて来たことを報告したいと思います」
会議室の壁に、今回のサンノゼ防衛線の戦況を示す図が現れた。
「注目すべきは「信長」の動きと、それに対する相手の対応。そして「ジャンヌ」のみを選んで邪魔をしたこと……」
最初に侵略体の群れが第三小隊と衝突し、そこに「信長」が割り込んだ。「サンソン」はそのタイミングで映像を止める。
「ここ。ここで、敵は「装甲地雷型」を投入してきました。何故でしょう? 足が遅く、局所の破壊に向く侵略体を、ここで投じてきたわけは?」
「考えるまでもない。「信長」の注意を引き付けるためだ」
「フーヴァー」がアメをくわえながら言う。
「「装甲地雷型」は「沖田」をやったタイプだ。実際、「信長」は敵の数を減らすより、そいつらを潰すことに注力した。そしてその隙に、前線の侵略体を一度退かせ――ドカンだ」
「ええ。その通りです」
引き付けられた「信長」の前に、丘の上から「水爆型」が転がりおちた。
「更に、ここで「ジャンヌ」が前に出て爆発を防ごうとしたところで、飛行タイプの侵略体を大量に投入しての妨害。その結果、「アヴィケブロン」が体を張ってくれなければ、あうやく全滅するところでした」
「つまりこう言いたいのか、「サンソン」」
当の「アヴィケブロン」が指を立て、結論を口にした。
「奴らはE遺伝子を詳細に見分けることができる。……確かにあの時、他とは違うタイプの侵略体が号令を放っているのが聞こえた」
「サンソン」が模式図ではなく、実際の戦場で撮られた映像を流すと、ほどなくして『ぷきゃあああああああ……!!』という奇妙な声が響いた。
「そう、それだ」
「やはりそうでしたか。このタイプの侵略体は、「斥候型」とでもいうべき能力を持っているようです。数キロ先まで、広い視野で戦場を把握する目と、他の侵略体にはない発達した声帯を持っていました」
画面に映り込んだ侵略体は、他の侵略体のような虚ろな目ではなく、ぎょろぎょろと蠢く巨大な目を備えていた。
それを見て、「フーヴァー」は自分のこめかみをトントンと叩いた。
「私の能力に似ているな」
「ええ。それを踏まえて考えると、相手の目的も推測できます。最初から「水爆型」や飛行タイプの侵略体を投入せず、今回の戦場に不向きな「装甲地雷型」まで持ってきた。それは何故か?」
「サンソン」は一同を見渡した。
「「織田信長」の排除。……これまでのサンフランシスコ市街戦で桁違いのスコアを叩きだしてきた彼女を、確実に倒すための作戦だと考えられます。それから……これは、仮説の域を出ないのですが」
「……言ってみろ」
「フーヴァー」の促しに対し、「サンソン」は深くうなずいた。
「E遺伝子と侵略体とは、本来同質なものなのではないでしょうか」
一同にどよめきが走った。
早速「ネロ」が口を出した。
「何を根拠に? 余たちの力は、奴らと同じものだと?」
「……ま、あり得る話だ」
しかし、チームメイトの「ロビン」と「アマデウス」はどこか納得した様子だった。
「納得いく話だな。毒を以て毒を制す。昔からよくある話じゃねえの」
「じゃあ今回の「斥候型」は僕と「フーヴァー」のハイブリッドってわけだ。いやあ、裏でコツコツ解剖してた甲斐があったねえ、「サンソン」」
「……そうれはどうも」
「サンソン」と「アマデウス」がぎくしゃくし始めたのを見て、「フーヴァー」は話をまとめにかかった。
「同郷同士で盛り上がるのはいいが……そういうわけだ。さあ、土偶。何か間違いはあるか」
『……ないとも。その通りだ』
土偶は無駄な言葉を挟まず、あっさりとそれを認めた。
『E遺伝子は、傑物から採取した遺伝子に、進化侵略体の遺伝子を組み込み……そして、その方向性を調整したものだ』
「いいだろうか」
そして、その発言に対し、「ジェロニモ」が「ロボ」を伴って歩み出た。
「遥かな星から来た民よ。君は、私たちが「ロボ」を保護する時に言ったな。『私にとっても、E遺伝子は未知の部分が多く、実験的な部分が多くある。狼王ロボはその一つだ』と」
『よく、覚えていたものだ』
「それを踏まえたうえで、昨日「信長」の暴走を眼にした。つまり、E遺伝子は完璧なものではないのだな?」
『――ああ。私も、あの時の話をもう一度しよう』
土偶は言った。
『E遺伝子の理論が完成したのは、私の星がもう取り返しがつかなくなってからだ。私の故郷以外の星の生物――つまり君たち人類に適用できるかは半信半疑のまま、計画を実行に移すしかなかった。そのために「ロボ」のような試行錯誤を繰り返しもした。傑物の善悪を考慮せず、一つでも多くの可能性を残そうとした』
その言葉に、それぞれの傑物の名を背負うホルダーが進み出て問いを放った。
「暴君ネロもか」
『そうだ』
「鬼武蔵も?」
『そうだ』
「人殺しのアウトローも」
『そうだ』
「血まみれの復讐者も、か」
『そうだ』
「そして――かの
最後に歩み出たのは「シェイクスピア」だった。
『ああ、そうだ』
「だからこそ、あの悲劇が起こったのですな? ああやはり――
「シェイクスピア」が指を鳴らすと、画面に見知らぬ少年の姿が大写しになった。その姿を見て、指令が動揺を見せた。
「彼は! やはり、そうなのですね?」
『……ああ。君には隠していた。それに、「ダ・ヴィンチ」と「シェイクスピア」にもだ』
キョトンとする一同を代表して「三蔵」が手を挙げた。
「私たちはその人を知らないわ。最初の第一小隊、とか言ってたけど」
「ええ。彼の名は「コロンブス」。吾輩と「ダ・ヴィンチ」の三人で、最初の第一小隊を務めておりました。彼を知るのは、吾輩以外では、「ヴラド」や「ナイチンゲール」などの古参くらいでしょうな」
「……もしかして、「シェイクスピア」が前線を引退したのと関係があるの?」
「ええ。お話しいたしましょう……と、言いたいのですが」
彼の声は震えていた。あの「シェイクスピア」がだ。
「吾輩、スランプでしてな」
「だから私を呼んだんだろう? さあバード、下がるといい」
代わりに「ダ・ヴィンチ」が歩み出た。彼女は自分の胸くらいの高さを示し、静かに語りだした。
「私たちの知っている限りのことを話そう。あれは今から七年前のこと。私がまだこれくらいの女の子だった時だよ」
「それって……」
その言葉に「ビリー」が反応した。
「ああ。君と「ティーチ」はバードが引退したすぐ後に入って来たものね。だったら意識していたとしてもおかしくないか。彼の生まれ故郷はミッドウェー諸島、テグ島だよ」
その名前を聞き、「フーヴァー」がポツリとつぶやいた。
「「地図から消えた島」か」
「ああ」
「ダ・ヴィンチ」がうなずく横で、「シェイクスピア」が震える指先を逆の手で握り、息を漏らした。
「「コロンブス」の故郷はこの世から消えてしまったんだ。進化侵略体の手によってね」