ノッブナガン   作:喜来ミント

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四十八ノ銃 再会・その2

 

 真緒は、文字通り飛んできてくれたエヴァに叫んだ。

 

「ありがとう! でも、こっちよりも隣の方――あっちに生存者たちがいる! 私はこいつらを引き付けてるの!」

「そっか。でも……大丈夫!?」

 

 エヴァから見ても真緒の戦いぶりは相当危なっかしいようだ。それもそのはず。この数日療養していくらかマシになったとはいえ、病み上がりなのは間違いない。それにAUウェポンも縮小している。

 しかし、優先するべき方は決まっている。

 

「私は何とかする! だから、お願い! 藤丸さんだけでも!」

「――分かった」

 

 エヴァはランプの光を真緒に浴びせると、地面スレスレを飛んで路地へと消えた。

 いくらか体が軽くなった。まだ行ける。眼が燃えている。

 敵はいくらでもやってくるが、負ける気はしない。

 

「是非も無しだ!」

 

  *

 

 エヴァは二つ隣のブロックへと飛び込むや否や、周囲の状況を認識して片っ端から優先順位を付けた。

 先頭。アルトリアとか言ったか。彼女が小型の侵略体を護身用のロッドで殴りつけている。マオが引き付けきれなかった奴だ。

 ただのロッドでは倒せはしないが、ひるませてはいる。まだ大丈夫だ。

 生存者たちの列の中頃。そこで転んだ老人を、周囲の大人が助け起こしている。

 そして後ろの方――遠くから、飛行タイプの侵略体が迫っている。

 

「まずはこいつらからだ!」

 

 背中の翼はエヴァの意思を受け、体の一部のように自在に動いた。空を飛んだ経験などないはずなのに、どうすればいいかがすべてわかる。

 背中を押されている。手を引かれるのではなく、自分の力で進めると、認めてくれる声がする。

 十体ほどの侵略体の群れの中を縦横無尽に飛びながら、それらの急所を的確に切り裂いていく。最小限の動きで無力化し、今度は生存者たちの列の先頭へ。

 

「お待たせ!」

 

 そんな声とともに、アルトリアが苦戦していた侵略体の首を斬り飛ばした。

 金髪の少女の表情が一瞬ふっと軽くなった。だがまだ油断するには早いと思いなおしたのか、周囲に目を配りつつ声をかけて来た。

 

「あなたは……「ジャック・ザ・リッパー」? なぜここに?」

「説明はあと! フジマルさんはどこ!?」

「列の真ん中に――」

「分かった!」

 

 生存者たちにランプの光を浴びせながら、担架で運ばれている少女のもとに降り立つ。

 専門的なことは自分にはわからないが、付き添っている老人に確認をする。

 

「容体は? 動かして大丈夫?」

「ああ。大きな怪我はない。だが衰弱がひどい。……やはり、放射線か」

「分かった。……他の人たちは、まだ大丈夫?」

「ああ。わしらよりも――」

 

 老人が周囲の生存者をぐるりと見渡すと、彼らは次々に頷いた。

 

「リツカを頼むよ、嬢ちゃん」

「分かった」

 

 フジマルさんを背中のランプの中へと入れる。

 周囲を見渡すが、帰り道は保証されていない。自分が「声」に従って突っ切って来たルートは既に塞がれ、侵略体たちが目を光らせている。

 逃がすつもりはないようだ。だが。

 

「邪魔をするなら、解体するよ!」

 

 どうせ邪魔をされるなら。「ヤヴィン」に向かって一直線に飛び立つ。

 それを見て侵略体たちも一斉に動く。マオを相手にしている連中以外、全てこちらに集中して攻撃してくる。

 ミサイル、砲弾、突撃、瓦礫投げ。覚悟はしていたが、半端ではない密度の攻撃が降り注いでくる。

 だが止まるわけにはいかない。邪魔をするものはナイフで真っ二つにしていく。

 勢いを緩めれば思うつぼだ。最初からトップスピードで、多少の被弾は覚悟で行く。背中のランプは頑丈だ。ちょっとやそっとでは揺るがない。

 細長い体の侵略体の突撃を蹴りで受け流す。

 大型の侵略体が投げ飛ばしてきた小型侵略体の体をナイフで切り開く。

 鱗のミサイルを翼で受ける。

 攻撃は一層激しさを増す。ダメージが重なる。ショックで意識が途絶えそうになる。

 だが、もう少し。もう少しで――。

 

「飛ぶんだ――この翼なら、飛べるんだ!」

 

 前方に回避不可能な弾幕が広がる。これ以上のダメージはマズいが、四の五の言っていられない。もう捨て身で突っ込むしかない。そう覚悟を決めたとき――。

 

「トーマス、大変身、大改造の時である! この人間味あふれた紳士の体を捨てて、今こそ獣の如き雷音強化ブーステッド! トーマス・マズダ・エジソンに変貌してくれよう!」

 

 そんな叫びとともに、目の前の弾幕が電撃で焼き払われた。

 その向こうから登場したものは――何と言えばいいか。

 まず、UFO。

 「エレナ・ブラヴァツキー」の預言装置だ。ここまでやってくるルートを読んだらしい。

 UFOに先導された一行を乗せるのは漆黒の竜。「坂本龍馬」の片割れが変じたものだ。

 その竜の頭でポーズを決めているのは、ライオンの顔をした筋骨隆々の老爺、「トーマス・アルバ・エジソン」だ。いつも以上に膨れ上がった肉体を誇るようにポーズを決め、こちらの翼がびりびりと震えるほどの大声で笑っている。

 そのわきに控える白衣の青年、「パラケルスス」の持つ短剣は、周囲の元素を取り込んで薬品を作り出すプラントだ。それで作った薬を「エジソン」に投与し、彼を強化しているらしい。

 そして和服のような意匠のスーツを着込んだ「葛飾北斎」はせっせと壁を描き、防御に徹していた。

 

「助かったんだけど……気が抜けるなあ」

 

 考えられた編成なのはわかるが、一見イロモノ集団にしか見えない援軍にエヴァは嘆息した。

 

「はーっはっはっはっはっは! 「ジャック」君、この「エジソン」が来たからにはもう安心だ。大船に乗ったつもりでいたまえ!」

『おいこらライオン。お竜さんは船じゃない。リョーマ、こいつ食べていいか』

「だめだよお竜さん。多分お腹を壊す」

「胃薬なら作っておきますよ?」

「ポーズはいいからサ、さっさと敵をぶっ倒しておくれよ。壁書いてばっかじゃ飽きちまう」

「そこ! 右からまた侵略体が来てるわ!」

「気が、抜けるなあ……」

 

 とはいえありがたいのは確かだ。すれ違いざまに、一番話が通じそうな「エレナ」に確認する。

 

「このまままっすぐ行ける?」

「ええ、よくってよ。急いで!」

「ありがとう!」

「他の皆もすぐに追いついてくるわ! あとは任せて!」

「うん!」

 

 「エジソン」たちが切り開いた道を、侵略体がふさがないうちに突っ切る。全力で痛む翼を羽ばたかせ、とうとう敵の包囲を抜けた。

 眼下に後続のホルダーたちが見える。その先頭にいるのは――なんと、「シェイクスピア」だ。

 

「みんな!」

「おや、「ジャック」、改め「フローレンス・ナイチンゲール」! 「信長」はご無事ですかな!?」

「大丈夫! 負傷者を連れて、先に戻ったよ! 「エジソン」たちとも会った!」

「それは重畳! ならば残すは生存者と「信長」との合流のみ! ここが力の入れどころ! 兵よ立て、銃を構えよ!」

 

 その言葉とともに「シェイクスピア」の周囲に大勢の兵士が立ち上がった。だが彼の作る虚像は攻撃力を持たないはず。

 その疑問の答えは、「シェイクスピア」の横にいる「ダ・ヴィンチ」が示してくれた。

 

「さあ、持っていくといい」

 

 「ダ・ヴィンチ」のAUウェポンから射出された無数の紙片が、宙で機関銃を形作った。「シェイクスピア」の兵士とぴったり同じ数のそれらは、あるべくして兵士たちの手に収まった。

 

撃ち方(Commence)――はじめ!(fire!)

 

 無数の弾丸が、AUホルダーたちに襲い掛かる侵略体の群れを襲う。たった二人のホルダーが作り出したとは思えない、まさしく軍勢というレベルの威力が遠慮なくぶちまけられた。

 総崩れになった侵略体たちへ、AUホルダーが一気に突っ込んでいく。

 「シェイクスピア」も軍勢を引き連れて続こうとしたが――。

 

「おっと、足が……」

「無茶をし過ぎたね。まあ、リハビリの第一段階は終了ってことで」

「ははは、不甲斐ない……」

 

 兵士たちから回収した紙片でオーニソプターを作った「ダ・ヴィンチ」が飛び立った。空中ですれ違いざまに「ヤヴィン」の方を示す。

 

「「信長」は私たちがちゃんと助けるからさ、早く行くといい。もう「ヤヴィン」では医療チームがスタンバイしているからさ」

「分かった。ありがとう!」

 

 真緒たちのことは心配だが、これだけの仲間がいるのだ。今は背のランプの中のフジマルさんに、一刻も早く治療を施さないと。

 エヴァは最後の力を振り絞って「ヤヴィン」へと飛んだ。

 

  *

 

 飛び立ったエヴァと入れ替わるように、「龍馬」たちが隣のブロックに飛び込むのを真緒は見た。

 通信も回復した。あとはこの場を切り開くだけだ。

 他の皆はすぐそこまで来ている。

 なんと「シェイクスピア」もスランプを脱して戦場に立ったという。

 追い風が吹いていた。

 

「あと少し!」

 

 だが、侵略体たちもただではやられないようだった。

 ここぞとばかりに大型の侵略体が群れを成してやってくる。戦力を温存するよりも、確実に潰しにかかろうというわけだ。

 ティラノサウルスのような進化侵略体。現在のところ、地上での戦闘能力では最も優れたタイプとされる「重戦車型」だ。ここで出してくるとは。

 「重戦車型」の咆哮が周囲の空気をびりびりと震わせ、辛うじて街の建物に残っていたガラス窓が砕け散った。

 真緒は身を低くして息を整える。

 

「あと少しなんだ……!」

 

 もうすぐそこまで仲間たちが来ている。自分を鼓舞するように叫びながら銃口をその巨大な頭に向けた。

 鋭い牙がびっしりと生えそろった大あごを開け、「重戦車型」が吠える。

 

「絶対に、生きて帰る!」

 

 そう決意をし、一歩を踏み出した瞬間だった。

 

「え……?」

 

 目にもとまらぬ速さで視界の外から飛び出してきた「何か」が、「重戦車型」にとびかかったかと思うと、一瞬でその首を刎ねた。

 「重戦車型」の巨大な首が落ちてアスファルトに弾むのを待たず、突然現れた「それ」は次の敵に向かう。黒い風のようにしか見えない「それ」が過ぎ去るたび、周囲の侵略体たちが首を刎ねられ、体を割られ、次々に地面に倒れていく。

 そして、真緒の目の前で立ち止まった。

 

「……まさか」

 

 すぐそばで続いているはずの戦闘の音が遠くに聞こえる。

 心臓が早鐘を打つ。

 口が渇いて息がつまる。

 そんなはずはない。

 だが、あの時だ。生存者と合流する前の、奇妙な出来事。それと目の前の光景が頭の中で結びついた。

 

「あなた、は」

 

 身を包むのは、血に染まりでもしたのか、黒く変わり果てていたが、確かにダンダラ模様の羽織。

 日本人にしては色が薄い髪は更に色が抜け、ほとんど白髪に見える。

 同じく色が薄かったはずの眼は、少し不気味な金色に輝いている。

 白く病的ですらあった肌は、以前とは逆に浅黒く染まっている。

 骨のように見える不気味な鎧らしきものをあちこちに身に着けており、体格も以前より大きくなっている。

 それに、身の丈を超すような長さで大きな反りが入った刀も見覚えがない。

 だが、それでも。そこにいたのは。

 

「沖田……?」

 

 三か月前、この街で消息を絶ったはずの少女だった。

 

 

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