ノッブナガン   作:喜来ミント

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四十九ノ銃 生存戦略

「沖田、なの?」

「…………」

 

 突然目の前に現れた少女は真緒の疑問に答えはしなかった。ただ、周囲をきょろきょろと見渡している。

 そして、ビルの間から飛び出した敵を見つけると、地面のアスファルトが砕ける勢いで飛び出し、その手に持った長大な剣でもって、あっという間に両断してしまう。そして立ち止まり、周囲を見る。

 まるで本能で動く獣だ。おかげで助かっているともいえるが――。

 

「「信長」! 無事!?」

 

 戸惑っていると、上空を飛ぶ飛行機の影とともに、「ダ・ヴィンチ」の声がかかった。

 

「え、あ、「ダ・ヴィンチ」!? 私は大丈夫! 生存者の方は!?」

「そっちも大丈夫だ! そら、見なよ――」

 

 雄叫びとともに、AUホルダーたちが最後の敵の壁を突破してきた。

 「ジェロニモ」たち第一小隊と「ネロ」たち第四小隊だ。

 真っ先に飛び出してきた「ネロ」がこちらを見つけると、ぱあっと顔を輝かせた。

 

「「信長」! 無事か!」

「あ、うん……大丈夫だよ、「ネロ」」

「おお……! よかったよかった! 余はもう心配で心配で……!」

「ははは……」

 

 本当に心配をかけた。話を聞けば、南極担当の彼女以外は総勢でやってきたという。本当に大事になってしまった。それでも、生存者はみんな助かったという。アルトリアも無事なようだ。

 成功か失敗かで言えば、大成功だ。

 だがそれだけに、これで終わりとはならない一件があった。

 

「おい「ネロ」、隊長さんよ? ちょっとこっち見てみな」

「僕らにとっては、大ニュースだ」

 

 生存者を収容するべく、ホルダーたちが先導してきたトラックが続々と到着する中、第四小隊の「ロビン」と「アマデウス」は「ネロ」に声をかけた。

 彼らにとっては、真緒と同じくらい大事なことだ。

 真緒に抱き着いていた「ネロ」が、彼らの声に振り返ったまま固まった。くちをぱくぱくと開け、いうべき言葉を探しているように見える。

 だが、それより先に沖田らしき存在が動いた。

 またも残像を残す勢いで突っ走り、侵略体を切り捨てる。

 二度、三度。こちらのことなど意に介さず、本能のままに。

 いや、これは――。

 

「E遺伝子に、乗っ取られている……?」

 

 誰かがつぶやいたそれは、ちょうど少し前に見た光景に見ていた。

 真緒の体を乗っ取った魔王とは違う。無理に力を使って我が身を滅ぼすような感じではない。感情を排し、淡々と敵を斬っていく。

 みんな、戸惑いながらも沖田らしき少女に声をかける。だが少女はあくまで敵を倒すことに集中している。

 

「どうする? ……止めるか?」

「いや……今は、現状をどうにかするのが優先だと思う。それに、邪魔したら――どうなるか分からない」

 

 真緒と「ネロ」はそう言ってうなずき合った。

 予定外なことはあったが、それでも計画通りに事は進んだ。生存者の収容は済み、一行はサンフランシスコ湾のすぐそばまでたどり着いた。侵略体も引き上げていく。これ以上は戦力を無駄に消耗するだけと悟ったのだろう。今だけは、その現金さがありがたかった。

 生存者のリーダーだった老人と疲れ切ったアルトリアが乗ったヘリを見送り、真緒は改めて仲間たちに向き直った。

 

「みんな、来てくれてありがとう」

「何を言う。余たちはいつでも貴様の味方だ。それよりも……」

「うん、分かってる」

 

 沖田らしき少女は、周囲に侵略体がいなくなったのを悟ると、再び街の方へと歩き出していた。

 

「沖田!」

 

 止まらない。

 

「沖田ってば! 沖田でしょ!?」

 

 止まる気配すらない。

 

「沖田! 話を聞いて!」

「……「ロビン」!」

「あいよ」

 

 「ネロ」の短い指示を汲んだ「ロビン」が矢を放った。沖田らしき少女の足元に牽制の矢が突き刺さる。

 だが止まらない。

 

「ちょっと、「ネロ」!?」

「このまま見逃せば、次はないやもしれん。「アマデウス」!」

「人使いが荒いなあ」

 

 続いて「アマデウス」が奏でた音色が沖田らしき少女に打ち込まれた。流石にこれは無視できなかったのか、足取りが乱れた。

 そして、こちらにゆっくりと振り返る。

 その眼に宿る感情はやはり乏しかった。

 

「……聞け、「沖田」よ。あるいはそうでないかもしれぬものよ」

「…………」

「貴様は何者だ? 答えよ。答えられぬならば、せめて何か意志を示すがよい」

「…………」

「さあ!」

 

 沈黙が落ちる。一同が固唾を飲んで見守る中、その少女は口を動かした。

 

「……し、……は……」

「……なんて?」

「そ……じ……」

「もしや、口がきけんのか?」

「……わか……た」

 

 沖田らしき少女は息を大きく吸い込むと、眼にかすかな意識を宿した。

 そして、とうとう意味のある言葉を発した。

 

「おもい、出した。……これが、ことばか。会話か」

「意志の疎通はできるみたいだね」

 

 「アマデウス」が言う。

 

「だけど、彼女の体から聞こえる音はどうにも奇妙だ。……人間離れしてる」

「それは、どう判断したもんかね」

「……よし」

 

 「ネロ」が一歩近づいた。

 

「言葉を思い出したというならば、今一度聞こう。貴様は何者だ?」

「……私は、沖田……総司だ」

「やはりか。余のことは覚えているか?」

「……知らない」

「記憶を失っておるのか?」

「沖田。私のことは……?」

 

 真緒も聞くが、沖田総司は首を横に振った。

 

「知らない……覚えていない、のではない」

「それって、やっぱり。……あなたは、E遺伝子なの?」

「そう、だ」

 

 そして、その存在は決定的な言葉を発した。

 

「私は沖田総司だ。お前たちが「沖田」と呼ぶ、この体の持ち主は――すでに死んだ」

 

 淡々と、ただただ事実を告げていく。

 

「沖田桜は、死んだ」

 

  *

 

 その言葉に、真緒もネロたちも動くことができなかった。周囲を取り巻く他のホルダーたちやDOGOOの隊員たちも、ただ見守るしかない。

 そして沖田――沖田総司はただ、淡々と言葉を続けた。

 

「三か月前、瀕死の重傷を負った沖田桜は、何とか敵から逃れたが、もう長くはなかった。だが、無為に死ぬのは嫌だと言った」

 

 そう、それは「沖田」が時折呟いていた言葉。

 

「最後まで戦いたい。私と、同じ願いだった」

「だから、その体を奪ったの?」

「奪った――のだろうか? 私にもわからない。ただ、私と沖田桜は生き残り、戦うために、するべきことをした。……思い出してみれば、と言う感じだが。今の今まで、私はきちんと意志を持っていなかった。ただ、本能的に動いていた」

 

 するべきこと。その結果が、この変貌だというのだろうか。

 

「傷を癒すこと。この街で生きる体を手に入れること。敵を倒す力を得ること。そのために、色々な可能性を試した。気が付いたら、こうなっていた」

 

 そういうと沖田総司は額にかかる髪をかき上げた。そこにあるものを見て周囲からどよめきが起きる。

 浅黒い額には、三つの小さな眼があった。人間離れした存在となったことを示す証拠は、元の眼と合わせれば、ちょうど――。

 

「進化侵略体を、食べたのか」

 

 「アマデウス」が悲痛な面持ちで言う。彼の耳には今、どんな音が聞こえているのだろうか。人間離れした、侵略体のものと同じ心音が届いているのだろうか。

 

「そうだ。侵略体を食べた。その血肉を取り込んで、放射線への耐性を得た。傷を癒し、体は強くなった。AUボール、だったか。アレが無くても戦えるようになった」

「侵略体とE遺伝子が、同じものだから……」

「そうなのか。イチかバチかの賭けだったが、そういう理由なら、まあ」

 

 沖田総司は納得が行ったようだが、普通はあり得ない現象だ。

 侵略体を食い、その力を我が物とする。侵略体の遺伝子をE遺伝子として組み込むという土偶の計画など目ではない。それより遥かに危険で忌まわしい方法だ。

 だがそれが沖田総司と沖田桜の生存戦略だった。

 その結果が、これだ。

 真緒は尋ねた。

 

「沖田総司。本当に、「沖田」は――桜はいないの?」

「沖田桜の存在を感じない。気が付いたら、いなくなっていた。今は私がこの体を動かしている」

「それであなたは、これからどうするの?」

「侵略体を殺す」

 

 即答だった。

 

「そのために私はいる。私と、沖田桜の願いもそれだ。最後まで戦う。一匹残らず、侵略体を殺す」

 

 その言葉は、奇しくも少し前の自分と同じだった。

 最近、こんなことばかりだ。

 命を捨てて闇雲に戦っていた自分が、周りにどれだけ迷惑と心配をかけていたか。そう言うことを思い知らされる。

 

「させない」

 

 止めたくもなる。

 

「それはダメだ」

 

 AUウェポンを発動させる。ここまでの戦闘で疲れ切っているが、今度こそこれで最後だ。気合を入れなおす。右目が燃える。

 

「その体は、返してもらう」

「……断る」

 

 沖田総司が剣を抜いた。前より背が高くなった彼女の身の丈より更に長い、赤黒く輝く刀だ。

 普通の人間ではとても扱いきれない大きさだ。それに色も普通の刀ではない。AUウェポンか、あるいは侵略体としての体の一部に相当するものなのだろう。

 まともに喰らえば命はない。

 それでも。

 そう決心したとき、三人のホルダーが真緒の横に並び立った。

 

「「信長」よ。余たちを置いて話を進めるでない」

「「ネロ」……」

「確かにオタクと「沖田」は訓練時代からの付き合いかもしんないけど、オレらは実戦をともにしてるわけでさ」

「そういうわけだから、僕らも混ぜてほしいね」

「「ロビン」に、「アマデウス」も……」

 

 それを見て沖田総司は周囲を見渡した。

 

「別に、何人で来てもいい。事情は大体わかった。この体は、お前たちにとって大事なものなんだろう。――だが、私は私の願いに従うだけだ。邪魔をするなら、斬る」

 

 何人かは動きを見せた。だが、名乗りを挙げはしない。

 自分と第四小隊の面々の方が「沖田」と縁が深いと理解しているからだろう。それにあまり大勢で動いて乱戦になるのも避けたい。

 結果として、四人だけが沖田総司と向き合うこととなった。

 

「……もういいのか」

 

 沖田総司が確認する。

 

「ああ。余たちだけで行こう」

「あんまり大勢じゃ逆にやりにくいしな」

「音も聞きづらくなるしね」

「……三人とも、ありがとう」

 

 「ネロ」が剣と盾を構え、肩鎧の咆哮で力を与えた。

 「ロビン」がクロスボウに矢をつがえ、姿勢を低くした。

 「アマデウス」が弦楽器型の装置を構えてリズムをとり始めた。

 そして真緒――「織田信長」は右目にありったけの熱を注ぎ込んだ。

 

「止めるよ。絶対に!」

 

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