ノッブナガン   作:喜来ミント

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この作品を書き始めて一年が経ちました。
もう少しお付き合いください。


五十ノ銃 決戦

 最初に動いたのは「アマデウス」だった。

 

「景気よく行こう!」

 

 勇壮なメロディが場を満たす。味方に鼓舞を、相手に畏怖を与える音色で主導権を握る。

 そして続いて出たのは「ネロ」だ。

 かつて自分が主演を務めた映画で使用したという剣と盾を持ち込み、それらをAUウェポンで強化して振るう。

 彼女が前に出つつ、「ロビン」へと指示を飛ばした。

 

「最初から全力でゆくぞ!」

「はいよ!」

 

 ストーンフォレストからサンフランシスコまでの半年間、この三人に「沖田」をくわえた四人で実戦をこなしているところを、真緒は何度か眼にしている。それは四人組ではあったが、真緒たち第二小隊とは大分違うやり方だった。

 第二小隊は、前に「ジャック」が突っ込み、自分が援護と指示を出し、「アヴィケブロン」と「ジャンヌ」が支える形。

 「ジャック」の身軽さを生かし、後から支えるやり方だ。

 対する第四小隊は「ネロ」が決めた戦術に沿って「アマデウス」や「ロビン」が場を整え、隙をなくしたところで「ネロ」や「沖田」が切り込む形。

 前衛である「ネロ」自ら、前に引っ張っていくやり方だ。

 本来ならば第四小隊のやり方に合わせるべきなのだろう。だが、今は相手が悪い。

 

「――行くぞ」

 

 沖田総司は最初からトップスピードで「ネロ」に肉薄した。最初に真緒の前に現れたときともそうだった。彼女のスピードは、かつて「ネロ」たちと戦っていたときより更に数段速い。

 状況に合わせて前衛の「ネロ」が指示を飛ばし、引っ張っていくやり方では間に合わない。

 黒く輝く大剣が振るわれ、「ネロ」の盾に受け止められる。肌がびりびりと震えるほどの衝撃。「ネロ」の小柄な体格ではあっけなく吹っ飛ばされるかと思ったが、彼女の靴が金色に輝いている――一時的にAUウェポンで靴を強化したのか。

 だが、沖田総司の追撃は止まらなかった。

 「ネロ」が指示を出す暇もない。二度、三度と金属音が響く。

 

「おい、やべえぞ!」

「そのようだ!」

 

 「ロビン」と「アマデウス」が慌てて援護に入ろうとする。だが。

 

「私がやる!」

 

 真緒は沖田総司が刀を引き戻した瞬間を狙い、強めの一発を打ち込んだ。沖田総司が流れるような動きで避ける。その分の隙が生まれる。

 

「ロビン、お願い!」

「あ、あいよ!」

 

 そこに「ロビン」の追撃を要請した。「ネロ」や自分の攻撃範囲でその矢をかわすのは厄介だと判断したのか、一度沖田総司が飛びのいて距離をとる。

 状況が一度リセットされた。

 真緒は「ネロ」の横に並び、油断なく銃を構えた。

 

「「信長」よ。……すまぬ」

「大丈夫。こっちもごめん、仕切っちゃって」

「覚悟はしていたが、やはり、速いな……余のやり方では間に合わぬと見える」

 

 「ネロ」は軽く息を整えると「ロビン」と「アマデウス」に言った。

 

「ここは「信長」のやり方で行こう。貴様らも、ここぞと思う場所で動くがよい。余や「信長」も自分で何とかしよう」

「くれぐれもオレの矢に当たんなよ?」

「好きにしろというなら、そうだね、これなんかどうだろう」

 

 「アマデウス」の奏でる旋律が変化した。後押しをする勇壮な音色から、場を急かすようなアップテンポのヴァイオリン曲へ。知らず知らずのうちに真緒たちの心臓が高鳴り、体が温まっていく。

 「ネロ」が大きくうなずいた。

 

「よき音色だ。情熱的で心が躍る!」

「気に入ってもらえたようでよかったよ」

 

 それを見て沖田総司がポツリとつぶやく。

 

「こういう戦い方もあるのか。皆で剣を持って並ぶのではなく、それぞれの役割でもって――」

 

 その時、傑物は何かを思い出したのだろうか。一瞬だけ、遠い目をして。しかし次の瞬間には前を向き、戦いへと戻った。

 今度は真緒に向かって走り出す。一直線ではない。縦横にステップを入れ、分身しているようにすら見える動き。眼で追っていてはとても間に合わない。

 真緒は自分の背後の影に頼んだ。

 

「信長!」

『人使いの荒い――』

 

 目配せをかわした「ネロ」が一歩引いたのと同時に、真緒の周囲の風景が一坪の灼熱地獄に塗り替わる。沖田総司は構わず真緒に肉薄するが、赤く焼けた領域へと踏み込んだ瞬間、一瞬身が引き釣ったようだった。かろうじて目で追える――銃口を向ける。

 

「これは……」

「そこだ!」

 

 ありったけの銃弾を叩き込む。沖田総司は予想外の出来事に少し驚いたようだったが、銃弾が届くまでに立て直していた。眼にもとまらぬ速さで剣を振るい、()()()()()()()()()()

 

「嘘でしょ……!」

「これは、侵略体を焼く能力か?」

 

 目論見通り、侵略体をその身に取り込んでいる沖田総司にとって、この灼熱地獄はよく効くようだった。だがそれでは足りない。

 

「喰らいやがれ!」

「――そこ!」

 

 「ロビン」の矢も「ネロ」の剣も追加で叩き込まれるが、これさえ凌がれた。またも逃げようとするが――。

 

「その足、待ってもらうよ」

 

 沖田総司の足が不意にもつれた。「アマデウス」の渾身の音色が一瞬だけ体の制御を奪ったらしい。

 

「今だ!」

 

 一層輝きを増した「ネロ」の剣が突きこまれる。その剣先が沖田総司の肩に突き刺さり――がきん、と固い音を立てて弾かれた。

 その肩に、鱗のような装甲がいつの間に備えられていた。

 

「な、に?」

「あまり、好ましくないのだが」

 

 沖田総司の額にある異形の眼――侵略体である証拠のそれがうごめく。

 沖田総司が突き出した左手の先に、突如としてかぎ爪が生えた。よける暇もなく「ネロ」の腕を切り割く。

 

「「ネロ」!」

 

 咄嗟に「アマデウス」が音色を強め、「ネロ」が退く隙を作ろうとする。しかし、沖田総司がそれと同時に叫んだ。

 

「ウオォ――――――――――――!!」

 

 頭を揺さぶるような鬨の声が「アマデウス」の援護の音色をかき消す。このままでは「ネロ」が危うい。真緒と「ロビン」は射撃を打ち込んだが――。

 

「手が足りないな」

 

 沖田総司の髪がうごめくと、矢と銃弾を防ぐ盾となった。

 異形の技を駆使して「ネロ」を追い詰めた沖田総司が大剣を振り下ろす。とうとう受け止め損ねた「ネロ」の盾が砕け、小柄な皇帝が地面に叩きつけられる。

 

「まずいっ……!」

 

 真緒は自分の手足が焦げるのも構わず、灼熱地獄の出力を増した。

 だが沖田総司が一歩地面を踏み込むと、赤黒い炎のようなものがその体を包み、ぎこちなかった動きが滑らかなものに戻った。自分に適した環境を作った、ということか。

 

「「ネロ」!」

 

 今の攻防で見せたのは、おそらく侵略体の使っていた能力だ。体を強化し、放射線に耐性を得ただけではない。その能力の隅々まで沖田総司は取り込んでいる。ただ、好ましくないから使わなかっただけで――。

 そして、満を持しての一撃が「ネロ」に叩き込まれた。

 

  *

 

 その一瞬前、銀灰色の翼が戦場に飛び込んだ。

 沖田総司の大剣を持つ手を、横から割り込む形で斬り飛ばす。

 

「む……」

 

 流石にこれには驚いたのか、沖田総司がいったん距離をとる。

 翼の持ち主は「ネロ」を抱き起すと声をかけた。

 

「大丈夫、「ネロ」?」

「「ジャック」、か。すまぬな」

「ううん。……下がってて」

「不甲斐ない」

 

 おそらく、藤丸さんを「ヤヴィン」に運んだあと、連絡を受けて飛んできてくれたのだろう。

 モード・夜鳴鶯(ナイチンゲール)は本来世界の窮地に駆けつける力だ。そう長く持つものではないのだろう。エヴァが着地するやいなや、限界を迎えたように縮こまり、エヴァのナイフのパーツとなって納まった。

 戦闘は終わっていない。真緒は沖田総司を警戒しつつ、エヴァに礼を言った。

 

「ありがとう、来てくれて!」

「ううん、大丈夫。……それより、本当に「沖田」なんだね。聞いて驚いた」

「油断しないで。あいつは、もう私たちの知ってる「沖田」じゃない」

 

 真緒たちが話している間にも、沖田総司は準備を整えていた。

 切り落とされたはずの右手は嫌な音を立てながら再生していき、服ごと綺麗に元通りとなった。さらに落ちている剣に手を伸ばすと、大剣はひとりでに飛び上がり沖田総司の手に収まった。

 

「この間の、暴走した時の私みたいなものだよ」

「みたいだね」

 

 エヴァは真緒に近づくと、こっそりと言った。

 

「翼が消える一瞬前に見えた。――額の眼が弱点だよ」

「それが分かってもなあ……」

「一応、アテはあるんでしょ?」

 

 そう言ってエヴァは真緒の左手を一瞥した。全く、この目には敵わない。

 

「どうにか隙を作りたい。……行ける?」

「もちろん」

 

 二人同時に沖田総司に向かって駆けだす。すると傑物は大剣を何もないところで横薙ぎに振るった。

 飛ぶ斬撃。そう表現するしかないものが横一直線に真緒たちに迫った。もうなんでもありだ。

 目配せ一つ。エヴァが一歩先に出て、ナイフを立てて斬撃を受け止める。その時には沖田総司自身も大剣の間合いまで迫ってきていた。だがそれは自分が射撃で牽制する。背後からの音と矢も隙を作ろうとしてくれている。

 だが沖田総司の身のこなしは速い。一瞬でも気を抜けばまた崩されてしまう。四人がかりだというのに、余裕すら感じさせる。

 いや、実際そうなのだろう。本気で仕留めるつもりがないのか――あるいは、出来ない理由があるのか。

 今はその余裕に漬け込むほかなかった。

 

「「アマデウス」!」

「了解」

 

 鍵は「アマデウス」だ。高速で繰り広げられる戦闘において、一瞬とはいえ味方にブーストをかけ、敵に隙を作る彼の能力は突破口になる。

 二度、三度。「アマデウス」の音色で隙を作り、そこにナイフや銃弾をねじ込み、沖田総司が異形の技で辛うじてそれを防ぐ。そんな構図が繰り返された。

 あと一歩が詰め切れない。

 

「ごめん、「アマデウス」! 隙を作ってくれているのに……!」

「いいとも」

 

 そして、その言葉に混じって、彼自身の声ではなく、ある旋律が真緒の耳に飛び込んできた。

 それは楽器の旋律だというのに、明確に言葉としての意味を持って聞こえた。

 エヴァの方を見れば、その表情からして彼女にも聞こえたらしい。「アマデウス」の秘密のメッセージは、イチかバチかと言うべき作戦だった。

 ちらりと振り返ると、「アマデウス」の横にいる「ネロ」が大きくうなずいた。剣を地面について何とか立っている状態だが、この策を出してくれたらしい。

 

「よし。行こう」

「何か企んでいるみたいだが」

 

 沖田総司が大きく剣を引き戻し、突きの構えをとった。大剣が段々と赤黒い光を帯び、バチバチと音を立ててエネルギーが蓄えられていくのが分かる。

 あれは――三段突きか? いや。この半年で培ってきた経験が訴えている。アレはもっと違う、とんでもない何かだ。

 

「まとめて、ぶち抜く」

 

 赤黒い光をまとった大剣が突き出された瞬間、極太の光線が発射された。

 

「なっ……!」

 

 咄嗟にエヴァと左右に分かれて飛びのいた。

 背後から悲鳴が上がる。思わず振り返ると、背後の街並みが丸ごと光線でえぐり取られていた。

 ビルが、家々が、ごっそりと消し飛ばされている。ぞっとする。人間の形をしたものが繰り出していい威力ではない。

 しかも、一発で終わりではない。

 

「次だ」

 

 すでに沖田総司は次の準備に取り掛かっていた。

 今までの攻撃と違って多少の溜めがある。それでも一発一発の威力と射程が段違いだ。

 一発、二発、繰り出されるたびに周囲の風景が変わっていく。侵略体によって人の営みから断ち切られたこの街は、それでもビルや道の名残を残していた。だがそれすらも沖田総司の攻撃はえぐり、消し去っていく。

 適応しているだけで、使いこなしているだけで、この沖田総司の本質は、やはりあの暴走した魔王と何ら変わらない。

 

「止めなきゃ!」

「そんじゃ――いっちょやりますか!」

 

 光線を発射してから剣を引き戻すまでの一瞬に、「ロビン」の矢が間に合った。侵略体の体を侵す毒が仕込まれたそれを見逃さず、沖田総司が左手の手刀で叩き落す。そしてまた光線の溜めに入ろうとする。

 

「させないよ!」

 

 だがそこに「アマデウス」の旋律が――。

 

「やはり、お前が一番厄介だ」

 

 沖田総司は、「アマデウス」の旋律を受けて動かなくなった右手から、左手で大剣をむしり取った。そして手先の動きだけで放り投げる。

 まるで空き缶でも捨てるかのような軽い動き。だがそれで人の身の丈ほどもある大剣が宙を飛び、「アマデウス」を襲った。

 

「やはりそう来たか!」

 

 だが、これは予想通りだった。「アマデウス」の存在を沖田総司にアピールして、引き付ける。そうして――。

 「アマデウス」の横で疲労困憊のポーズをとっていたはずの「ネロ」が素早く前に飛び出し、自身の剣で大剣を受け止めた。それだけではない。

 

「この剣、もらい受ける!」

 

 「ネロ」の剣とぶつかってなお勢いの消えないそれに、肩鎧からの声を響かせる。赤黒い剣が黄金の装飾へと塗り替えられ、その勢いが消えた。制御が「ネロ」に渡ったのだ。

 

「何……?」

「今だ、ゆけ! 二人とも!」

「わかった」

「うん!」

 

 剣を失い、がら空きになった沖田総司にエヴァと真緒はとびかかった。勿論素手でも厳しい相手だろう。現に今、両手に赤黒い炎をまとわせて自分たちを迎え撃とうとしている。

 だがこの一瞬が勝負だ。

 狙いは額。銃口をまっすぐに向け、近距離からぶち抜く。

 

「やはり、そう来るのか」

 

 だが沖田総司もそれを読んでいたらしい。

 たとえE遺伝子と言う形になっても、侵略体の力を取り込んでも、そこにいるのは紛れもなく沖田総司、不世出の天才剣士とたたえられた傑物なのだ。

 真緒の身に宿る織田信長が、なおも魔王であるのと同様に。

 

「なっ……?」

 

 反撃は全く予想外の形で行われた。

 先に繰り出されたエヴァのナイフを沖田総司は右手で受け止めた。そして自分は沖田総司の左から――そう思った矢先、空っぽのはずの相手の左手から()()()()()

 腕の中で構築したのだろう。刃渡りこそ脇差程度だが、それは目にもとまらない速度で射出されると、真緒の右手を銃口から肘までざっくりと貫いた。AUウェポンが受けたダメージがフィードバックし、全身に痛みが走る。

 中核のAUボールが砕かれたのか、ウェポンの維持すらできない。痛みで意識が飛びそうだ。

 しかし。

 

「これを、待ってた」

「なに?」

 

 右手はエヴァの対応に、左手は剣の射出に使った形だ。がら空きの胸に真緒は飛びこみ、指鉄砲の形にした左手を沖田総司の額に押し付けた。

 自分にはまだ、力が残っている。

 暴走した時、織田信長が自分の体の中に作った、AUボール代わりの臓器が。

 

「一つの銃で足りないなら、二つ。それでも足りないなら、三つだ」

『だが――これで届かせてくれようぞ』

 

 胸の内から湧き上がった熱が指先に宿る。熱と光がたった一発の銃弾に圧縮され、間違いなく沖田総司の額に叩き込まれた。

 青い血が噴き出す。

 

「が、は……」

 

 沖田総司がよろめく。貫通はしなかったのか、それでも額からだらだらと血を流しながら、異形の剣士が後ずさる。

 

「限界、か……」

 

 そして、自分も。AUウェポンを破壊されたダメージが重い。渾身の一撃を打ち込み、もはや力は残っていない。

 ろくに受け身も取れず、顔から地面に倒れ伏した。

 

「マオ!」

 

 エヴァの悲痛な声が聞こえる。彼女の小さな手が届く前に、真緒は意識を失った。

 

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