『サンノゼ防衛線に敵影多数。第54次大規模南下侵攻と確認』
『「フーヴァー」の予測通りだね』
『まあ、これくらいはな。では、第二小隊。頼むぞ』
「了解」
通信機から聞こえた「軍師」と「参謀」のやり取りに第二小隊の面々はうなずいた。
「ジャック」、「ジャンヌ」、「アヴィケブロン」。三人が久々に戦場に戻って来た。
そしてサポートとして「シェイクスピア」と「ダ・ヴィンチ」もそこにいた。
『前衛の敵を何体か撃破して、進撃の方向を変えられる?』
『12体だな。それだけ敵を倒せば脅威判定されるだろう』
「わかった。それじゃ「シェイクスピア」、お願い」
「いいでしょう」
「シェイクスピア」が指を鳴らすと、彼のウェポンが舞台を書き換えた。
侵略体のいる方へとまっすぐに伸びるレーンと、すでに発射準備を終えたカタパルトが形成された。
「では行こうか」
そのカタパルトの上に、鏡文字の手記が集まり、オーニソプターを形成した。「ダ・ヴィンチ」と「ジャック」が乗り込むや否やカタパルトが起動し、二人のアタッカーを射出した。
「全く、吾輩を便利に使いすぎでは……?」
「分かる」
「シェイクスピア」のウェポンは舞台を整えるものだが、半径100mにしか効果がない。ならばその外へ射出する装置を作らせればいい――「軍師」のアイディアに辟易する劇作家に「アヴィケブロン」は同意した。
男二人がそんな会話をしている間にも、「ジャック」と「ダ・ヴィンチ」は仕事を済ませていた。すれ違いざまにナイフとミサイルとを叩き込み、敵の注意を引き付けることに成功した。
上空から敵勢を観測していたヘリコプターから通信が入る。
『敵の進撃方向の転換を確認! 前衛は「装甲車型」を中心とした編成の模様』
『読み通りだ。下がって!』
「了解!」
指示を受け、「ジャック」と「ダ・ヴィンチ」が乗ったオーニソプターが旋回する。
それを見て「シェイクスピア」たちも下がることにした。先ほどとは反対方向に据えられたカタパルトに三人で乗り込む。そのレールは「シェイクスピア」の能力の限界、100m先で途絶えているが――。
「それでは行きますぞ」
「シェイクスピア」の演台を乗せたままのカタパルトが起動した。猛烈な勢いで侵略体たちから遠ざかっていく。
すぐにレールの切れ目までたどり着いたが、そこで「シェイクスピア」が再びウェポンを操作した。現在地を基準としてレールを作り直す。また次のレールの切れ目でも同じことをする。そうやって長距離の移動を可能にした。
『これをストーンフォレストの時に思いついていればなあ……』
『反省はいいことだが、今は目の前の作戦に集中しろ』
『ああ、ごめんごめん』
軍師も板についてきたらしい。通信機から聞こえる声からは大分硬さが取れて来た。
教え子の成長を実感しながらも、「シェイクスピア」は次の指示を仰いだ。
「さて、次はいかがなさいますかな?」
『敵勢はどう?』
「予想通り、横に広く、前面に固い侵略体が多い陣形ですな」
『じゃあ、作戦通りお願い』
「承知いたしました。レオナルド! 「ジャック」!」
「分かったよ、バード」
「タイミングはよろしくね」
通信の向こうで軍師がつぶやく。
『サンノゼ・クレーターはほとんど障害物のない地形。当然連中も手数と突破力で押してくるけど……ここまで勢いがつけば、急に陣形を変えることはできない。――よし、今!』
「わかった」
言葉とともに「ジャック」のウェポンが起動した。「ナイチンゲール」との合一によって本来の力を取り戻したウェポンから猛烈な勢いで霧が吹き出し、あっという間に視界を奪った。敵勢は勢いを保ったまま、濃霧の中に突っ込み――。
「かかった」
突如として現れた高さ100mの
『距離としては大したことなくても、高さとしてなら大したもんでしょ』
異変を察知した敵勢は咄嗟に立ち止まるが、すでに前衛に置いた防御力の高い侵略体たちは堀の中でもがいている。平地を進撃するために選ばれた侵略体たちには、垂直に切り立った崖を上る手段がない。
そして、防御力を失った勢力をミサイルとナイフが再び襲った。
「まったく、バードの能力がこんなに便利とは……」
「行くよ。「ジャンヌ」、「アヴィケブロン」、着いてきて」
「ああ」
「はい!」
*
映像の中で敵勢がどんどん蹴散らされていく。
指令室にて軍師は胸をなでおろした。
「こんなところかな」
「そろそろ「シェイクスピア」の能力も警戒されてくるころだろう。どうする?」
「血液ってE遺伝子の反応残留してたっけ?」
「ああ、見えるぞ」
「じゃあそれ使えるかな……血液を囮にして背後に回り込ませて……」
「それなら先月の戦術135と組み合わせられるだろう」
「ああ、あれか。ならいけるかも……」
そんな風に次を考えていると、通信が入った。
『殲滅完了。堀の中の連中も片付いたよ』
「お疲れさま」
そういうと、軍師「織田信長」こと真緒は帽子を脱いだ。その右目から赤い輝きが消える。
軍師となってそろそろ三か月がたつが、それでも作戦を終えると疲れを感じる。「フーヴァー」からもらったアメをなめていると、指令と土偶が声をかけて来た。
「お疲れさまでした、「信長」」
「本当に、君がDOGOOに残ってくれて助かっているよ」
「勿論。あいつの代わりに、最後まで戦うって決めましたから」
真緒が決意を新たにしていると、待ちに待った通信が入った。
「
「ありがとう、つないでください」
真緒が通信機に耳を当てると、調子はずれに明るい声が飛び込んできた。
『「信長」さーん☆ 反応ありましたよー!』
「「エージェント」の調子はどうだ」
『問題なく動いてますよ、「フーヴァー」さん! けど本当に見えるとはねー?』
現在、「メリエス」はいつぞやのトンネル偵察の時のように、「フーヴァー」の「エージェント」を持って侵略体の反応を追っている。
DOGOO所属シャトル、F・モルダーを使い、衛星軌道上から撮影を行っているのだ。
「よし、そのまま反応が落ち着くまでぶっ続けで撮影だ」
『ああもう、「フーヴァー」さんは人使いが荒いんですからー!』
「私も付き合ってるんだ、文句を言うな」
昨日の打ち上げの時点から、「エージェント」を維持するために「フーヴァー」はウェポンを起動しっぱなしだ。医療スタッフがついているとはいえ、無茶には違いない。
『ま、その甲斐あっていい映像撮れてますけどね☆ 推測通り、小さい侵略体の反応がサンノゼからどんどん広がってますよー』
「やはり、か」
その言葉を聞いて土偶が反応した。
「私の星でも、同じことが起きていたのだろうな。君たちがそれを解き明かしてくれただけでも、私としては感慨深いが――」
「ええ。やっと尻尾を掴んだんですから」
真緒は再び帽子を被ると右目に炎を灯した。
「「メリエス」が帰還し次第、全ホルダーを集める準備を」
「同時に、全DOGOO隊員にも通達だな」
「信長」と「フーヴァー」はうなずき合った。
*
四日後。仮装会議室にすべてのE遺伝子ホルダーの姿があった。
勿論、本当にこの場にいるわけではない。それでも各地を守る彼らが一堂に会するのは滅多にないことだった。
「全員そろった?」
「うん」
代表して「ジャック」がうなずいた。
真緒は大きく息を吸い込むと一同に宣言した。この様子は全てのDOGOO隊員に伝わるはずだから、堂々と言わなくては。
「皆さんにご報告があります。戦闘班の戦いから得られたデータ、特殊班の解析、そして何よりホルダー以外のすべてのDOGOO隊員の力があって、ついに侵略体の正体を突き止めることができました」
真緒は言う。
「進化侵略体は、この地球そのものです」