ノッブナガン   作:喜来ミント

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五十三ノ銃 敬意

「進化侵略体は、この地球そのものです」

 

 真緒は高々と宣言した。

 ざわざわとホルダーたちが声を挙げる。しかし、それは真緒の想定とはだいぶ違った。

 

「ええと……どういう意味?」

「いえ、さっぱり」

「どう解釈すればいいんだ」

「ああ、なるほど」

 

 などなど。ごく一部の聡い人々を除いては、きちんと伝わらなかったようだ。

 

「あ、あれ……?」

「はあ――――」

 

 深々としたため息に振り返れば、「フーヴァー」が『何をしてるんだお前は』とでも言いたげな表情だった。くわえているアメがタバコのようにさえ見える。

 

「えっと、ちゃんと説明すると――「メリエス」」

「はいはーい☆」

 

 「メリエス」が歩み出ると、一同の前に地球を模した立体映像が現れた。彼女がはるか上空から撮影した映像をもとにして作られたものだ。

 

「「信長」さんと「フーヴァー」さんの仮説をもとに宇宙から撮影したんですが、前回の大侵攻を止めた後、サンフランシスコ沖に侵略体の反応が見られたんですよね」

「反応?」

 

 「サンソン」がその言葉に疑問符を浮かべる。侵略体の進化については、彼が死体の解剖を通して最もよく知っているだろう。

 

「侵略体はほとんどがサンフランシスコに上陸しており、時折海で見つかる侵略体の進化は頭打ちだったはずですが。まだ侵略体が海に潜んでいると?」

「潜んでいるというか……ずっといたんですよ。小さくて、活性化しないと分からないレベルで」

 

 立体映像の地球の上、サンフランシスコ沖にごくごく小さな侵略体のシルエットが浮かび上がる。

 

「活性化?」

「はい。この極小の侵略体は一瞬だけ電気信号を発して、また沈黙しました。けどその信号が届いた先にも同じような侵略体がいて、それもまた電気信号を発して――」

「これは――」

 

 「メリエス」と「サンソン」の顔が険しくなる。片や撮影した時のことを思い出し、片や自身の本職に関わることと察して力が入ったのだろう。

 立体映像の地球上で、極小の侵略体の反応が次々と連鎖していく。広がり、枝分かれし、大陸を超え、そして――。

 

「72時間のうちに、信号は海全体を駆け巡りました」

「これは、まさしく――!」

「そうだ、「サンソン」。お前の想像通りだよ」

 

 そこで「ジェロニモ」が手を挙げた。

 

「すまない、「フーヴァー」、「サンソン」。どういうことだろうか」

「ああ、お前は科学には疎かったな……「サンソン」、説明してやれ」

「わかりました、「フーヴァー」」

 

 「サンソン」がある映像をリクエストすると、地球の隣に小さな細胞が表示された。木の枝のように伸びた突起と、一点だけ長く尾のように伸びた軸を持っている。

 その伸びた軸は、また別の細胞の樹状突起へとつながっていた。

 

「これは神経細胞(ニューロン)の模式図です。我々の体の神経と言うのは、この細胞によって電気信号が伝達されることで働いているんです」

 

 一つの細胞の長く伸びた軸へと電気が走り、それがまた別の細胞へと伝わり、刺激となり、また別の細胞へと伝わっていく。模式図がズームアウトするたびに、その電気刺激のネットワークがどんどん広がっていく。

 

「このように、神経細胞への刺激が活動電位となり、他の細胞への刺激となり、そうして形作られる一大ネットワークが――」

 

 「サンソン」の追加した映像がズームアウトし終わった時、そこには人間の脳があった。先ほどの映像の名残として、脳には電気刺激のネットワークがびっしりと表示されている。

 それは、隣にある地球とまるっきり同じ姿だった。

 一同がそれを理解したと見て、真緒は切り出した

 

「私たちは、侵略体の戦略を決めるブレーンがどこかにいると思い込んでいました」

「ところが、違ったわけだ」

「この地球の海そのものが文字通りの脳味噌(ブレーン)だったんですよ」

 

 「サンソン」が大きく息を吐く。

 

「人間の脳でさえ、1㎏強といったところ。この海全ての容積が電気信号の交換による『自我』を持っているとするならば――」

「人間など及びもつかない知性を得ているというわけだ。我々は侵略体の最終目標を人間になり替わることだとばかり思っていた。進化の歴史を追いかけ、脊椎動物に至り、やがて知的生命体へと。だが違った」

「知性なら、すでに持っていたんですね。いえ。これが最初の侵略の一手と言うわけですか」

「そういうわけだ」

 

 「フーヴァー」が指を鳴らすと、地球が一度まっさらな状態となった。そして、そこに遠くから飛来した隕石が到達した。

 侵略体の細胞が付着した隕石は海に沈むと、そこから神経細胞をばらまいた。実際に飛来してから何年かかったかは分からないが、それはとうとう電気信号のネットワークを形作り、今日にいたっている。

 

「この堆積にして13億7000万㎞3の脳味噌こそ、連中の最初の一手にして侵略のかなめだ。先日の大侵攻の失敗も、「伝令型」によって海=脳に届けられ、72時間かけて思考を巡らせていたというわけだ」

 

 一同が絶句する。

 そして、何秒かの沈黙の後、「ビリー」たち第一小隊の面々が口を開いた。

 

「これじゃあさ……もう奴らに乗っ取られてるようなものじゃないの?」

「■■……」

「「奴ら」ではない、「奴」だ。「ビリー」」

「え? それってどういうことです?」

 

 「メリエス」の疑問に「アヴィケブロン」が補足し、第二小隊の面々が反応した。

 

「簡単なことだ、「メリエス」。この海=脳は一つの生命体だ。これまで我々が戦って来た連中は、こいつの手先に過ぎない」

「だから、死ぬことも恐れずに戦っていたんですね……」

「解体しても脳味噌小さかったしね」

 

 「長可」たち第三小隊の面々は難しそうな顔をしている。

 

「俺にはさっぱりだぜ、大殿」

「儂もだ」

「不可解なり」

「と、とにかく地上の連中を叩いても仕方ないのよね? ね?」

 

 「ネロ」たち第四小隊の面々も唸る。

 

「こやつからすれば、余たち人類など、獅子の身についた虫のようなものか」

「おまけに地面は掘るし、気候は変えるし。うるさくて仕方ないよね?」

「そりゃ払いたくもなるってか」

 

 「ヴラド」ら第五小隊の面々は視点を切り替えた。

 

「逆に言えば、余たちの目指す敵も見えたと言える」

「しかし、海全部を相手どるなんぞ、想像もつきませんぞ? 拙者のE遺伝子など海賊ですしおすし」

「ぜんぶ食うか」

「お竜さん、落ち着いて。お腹が破裂しちゃうよ」

「ならば全て雷で焼き尽くせばよい!」

 

 「テスラ」の発言に「エジソン」は噛みつき、第六小隊の面々も意見を述べた。

 

「なにを若造! 貴様一人の手柄にはさせん!」

「それよりも、毒を流すのが手っ取り早いのでは?」

「そいつぁ困るサ。魚が食えなくなる」

「そんなスケールの話じゃなくってよ、あなたたち。もっとちゃんと考えて話してちょうだい!」

 

 それに「サンソン」と「シェイクスピア」も補足した。

 

「そうですよ。発見できるような大きさではないうえに、数も計り知れません」

眼前の恐怖など、(Present fears.)想像上の恐怖より恐ろしくはない。(Are less than horrible imaginings.)とはいいますが……これはまた、想像を超えていますな」

 

 ざわつくホルダーたちだったが、ここで満を持して最大の戦力である二人が口を開いた。

 北極と南極をそれぞれたった一人で任されていた規格外のホルダーたちだ。

 

「まあまあ皆。軍師の顔をごらんよ。無理だと言っているかな?」

 

 「レオナルド・ダ・ヴィンチ」。

 そして。

 

「おいおいアンタたち! コイツをぶっ倒すためにやってきたんだろう!? ならシャンと胸を張りな!」

 

 「フランシス・ドレイク」の言葉に一同は背筋を伸ばした。

 

「確かに! こいつはとんでもない敵だ。アタシの船でも、「ダ・ヴィンチ」の発明でもどうにも出来なさそうだ。けどここに良い顔をした軍師がいる!」

 

 「ドレイク」は真緒に歩み寄るとぐいっと顔を寄せた。

 

「考え、あるんだろう?」

「ええ。ちょっとまだ、言えませんけど」

 

 それを聞き、「ドレイク」は笑みを深めた。

 

「何企んでるか知らないが、気楽にやりな。少なくともアタシたちが、恐竜どもには好きにさせないからさ」

 

 「ドレイク」が一同のもとに戻る時には、すでに全員が柔らかい表情を浮かべて真緒を見ていた。

 言葉を待ってくれている。

 

「海は任せてください。当面は、地上の敵をお願いします」

 

 代表するようにエヴァが真緒に尋ねた。

 

「任せていいんだよね、マオ?」

「もちろんだよ、エヴァ」

 

 話が落ち着いたとみて、「フーヴァー」が場を仕切った。

 

「では、全員持ち場に戻れ。追って連絡する」

 

 その言葉とともに、ホルダーたちの立体映像が消えた。

 仮装会議室の本来の姿が戻ってくる。

 今をもって、DOGOO全隊員への通達も終わったはずだ。通信が切れたのを再三チェックしてから、「フーヴァー」は真緒をにらみつけて言った。

 

「で、だ。あれだけ大見得を切ったんだから、何か策があるんだろうな?」

「まあね。ちょっと、準備は必要だけど」

 

 真緒は指令と土偶を見上げた。

 

「私と、彼にですか」

「……やはりな」

 

 真緒は通路を歩き、同じ視点の場所へと上がる。

 

「軍師となったことで、アクセスできる情報が増えました。そこで知ったこと――まだ採取したものの、E遺伝子化していない遺伝子がありますよね。誰の物かは、最重要機密なのでわかりませんでしたが」

「……なぜ、わざわざそうしているかが、分かるか?」

 

 土偶が聞いてきた。

 

「何故、E遺伝子にしないで遺伝子をストックしているか、ですか?」

「そうだ」

「……あなたは、まだ遺伝子の採集を打ち切ってはいない。今も生まれ続ける現代の傑物たちの遺伝子を、いつまで続くか分からない戦いのために、とっておいている」

「そうだ」

 

 真緒ですら、いくつか思い当たる人物達がいる。

 それは、今なお完成しない壮大な教会の設計者。

 それは、非暴力と不服従を掲げた独立運動の父。

 それは、圧倒的な力でリングに君臨した名選手。

 それは、豪快な本塁打で人々に夢を見せた巨人。

 それは、自動車の歴史に革命を起こした発明家。

 それは、戦場の真実をフィルムに刻んだ写真家。

 それは、あの夜空に浮かぶ星に足跡を残した男。

 

「だが、いつ使えるようにしてもいいそれらを、あえて何年も残してきた。それが何故か分かるかい」

「万が一にも、生きている傑物と、出会わないため」

「そうだ。E遺伝子は私にとっても未知の部分が多い。もしそれが起きたとき、どうなるのか分からない。何より」

 

 土偶の表情は分かりにくい。だが、真緒は彼が強い罪の意識を感じていると思った。

 

「私は、彼らの力を私の一存でもって借りている。死者への敬意を。それを忘れてはならないのだ」

「でも、今必要な力があります」

「では聞こう、「織田信長」。いや六天真緒」

 

 土偶は言った。

 

「君は、「彼女」の死を受け入れられるか?」

 





以前より併記していた筆名を完全に移行しました。
今後ともよろしくお願いします。
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