ノッブナガン   作:喜来ミント

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五十四ノ銃 真緒と桜

 

 土偶は言う。

 

「確かに、「彼女」の才能さえあれば、この海に潜む侵略体を滅ぼすことができる。時間はかかるが、一匹残らず探し出して殲滅することが可能だろう。」

「けれど……」

 

 それを聞き、指令は目を伏せた。

 だが真緒は自分と土偶の話がすれ違っているのを感じた。

 

「ああいや、そっちじゃないです」

「なに?」

「あなたはこう言いたいんですよね? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()が必要だと」

「違うのかね? では……」

「私が欲しいのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()ですよ」

「おい、それは」

 

 今度は「フーヴァー」が口をはさんだ。

 

「今、お前が何をするつもりか分かった。だが、いいのか? 土偶の言う方がずっと的確なんだぞ」

「選べないよ。だって、生きててくれるって信じてるから」

「……分かっているんだろうな。その場合、お前がどうなるのか」

「うん。……分かってる、つもり」

 

 真緒は土偶に向き直った。

 

「E遺伝子の作製をお願いします」

「君の考えは分かった。だが、どのみち同じことだ。君は、彼女を死者として扱えるのか?」

 

 あの日、沖田総司に言われたことを思い出す。

 そして、自分が幕を引いたことを。

 決して忘れない。

 

「あいつは……あいつは、死にました。私が撃ったんです」

「――わかった。君にその意志があるのなら、私も力を惜しまないよ」

 

  *

 

 二か月後。

 地上の侵略体は、今日もE遺伝子ホルダーたちが食い止めてくれていた。

 真緒と「フーヴァー」が日々作り出す戦術はどんどん増え、それだけ侵略体が試行錯誤を繰り返しているのが見て取れた。

 今日も、「奴」は地上の虫を蹴散らそうとしている。

 

「E遺伝子は完成させました」

 

 指令が言う。

 

「本来なら、適合する血脈を探し出さなくてはいけませんが――」

「その必要はありませんよ」

 

 真緒は微笑んだ。

 

「私が、あいつと最後まで付き合うって決めましたから」

「では」

 

 指令がA()U()()()()()()()()()、起動した。

 最初のE遺伝子ホルダーこそ彼女だ。彼女の起動したウェポンがどんどん形を作っていく。

 その姿は。

 

「――え」

 

 真緒は不意を突かれた。想像はしていたが、本当に『彼』だったとは。すぐ横で「フーヴァー」が複雑そうな表情をしている。

 指令は磔刑に処された聖者の形をした台座から、E遺伝子の満たされた(さかずき)を取り挙げた。

 

「お飲みなさい」

「パンはないんですか?」

「全く、こんな時まで。あなたという子は」

 

 慈愛に満ちた表情の指令を見て、真緒はこの老女を今までで一番身近に感じた。

 

  *

 

「今日もたくさんだね」

「全くだ」

 

 エヴァ達第二小隊の面々は今日も侵略体の迎撃に出ていた。

 だが、今日はいつもと違う点が一つある。

 

「さてと。やりますか」

 

 真緒が前線にいるのだ。

 

「本当に大丈夫ですか、マオ?」

「うん、レティシア。あくまで慣らしだから。試してダメそうなら、いつも通り皆に任せるよ」

 

 その時、ちょうど上空のヘリから通信が入った。

 

『侵略体、サンノゼ・クレーターに侵入!』

「わかりました」

 

 真緒はみんなが見守る中、右手にAUボールを持って銃を作り出した。そして左手で、自分の身の丈ほどもある巨大な剣を構えた。

 沖田総司の使っていた、異形の大剣だ。

 

「来て」

 

 体の奥底に眠る彼女に語り掛ける。胸の奥から湧き上がる熱を、大剣へと注いでいく。

 そして――。

 

「来た」

 

 左手の大剣にびしびしとヒビが入っていく。ヒビの内側からあふれる桜色の光が剣の先端まで達した時、とうとう弾けるようにして剣が羽化した。

 一回り小さい、ちょうど彼女が扱っていたのと同じような日本刀が真緒の左手にあった。弾けた光の残滓が桜の花びらのようにあたりに散っていく。

 

「うまくいった。――エヴァ、あれを」

「うん」

 

 エヴァが返事とともに真緒の目の前に放り投げたのは、ホルマリン漬けにされた侵略体のサンプルだった。貴重なものだが、必要だからと言って提供してもらったのだ。

 真緒はそれを左手の刀で一閃した。刀は手に吸い付いている。真緒の中の彼女が振るい方を教えてくれている。

 そして、侵略体の肉片を斬った瞬間、ぞわりとする感覚が訪れた。

 

「よし」

 

 その感覚を右手の銃へ。一発の弾丸に込め、宙高く打ち上げる。上空で弾丸が弾けた瞬間、奇妙な声が戦場に響き渡った。

 

『ぷきゃああああああ』

「この声は……」

「うん、うまくいったみたい」

 

 猛烈な勢いで進撃していた侵略体たちが急に立ち止まる。首をのっそりと上げ、戸惑っているようにも見えた。

 

「じゃ、やろうか」

「うん。解体しちゃおう」

 

 真緒はエヴァとともに走り出した。

 

  *

 

 指令室のモニターには、生き生きと戦場を駆ける真緒の姿が映っていた。

 それを見て「フーヴァー」が冷や汗をかいている。

 

「新しいウェポンの性能を確かめたら帰って来い! お前に何かあったら……」

「大丈夫ですよ」

 

 だが、指令が肩を叩かれると、諦めたようにぐったりと椅子に座った。

 「斥候型」の声だけではない。真緒が左手の刀で侵略体を切り伏せるたび、右手の銃がどんどん新たな力を宿していく。

 銃剣に変形して敵を切り裂き、火炎放射を放って敵を焼き、ミサイルを撃って敵の群れを吹き飛ばす。

 侵略体を食らってまで最後まで戦い続けた、一人の少女の力を受け継いだE遺伝子がそれを可能にしていた。

 真緒の様子を見て、カプセルの中で土偶が安堵したように息を吐いた。

 

「うまくいったようだ」

「ええ」

「久々にカプセルから出ての作業は堪えたよ。私の仕事はこれで終わりかもしれないな」

「お疲れさまでした」

「あとは君たち、地球人に任せるとしよう」

 

 体のあちこちにヒビが入った土偶はそんなことを言うが、指令は微笑んで訂正した。

 

「あなたはこの星のために2000年も尽くしたのですから。あなただって地球人ですよ」

「……あー」

 

 土偶の表情は分かりにくい。

 

「確かに2000年は長いな。もう少し、遅く来ればよかった」

「そうしたら、私ではない誰かとここに立っていたかもしれませんね。――ふふっ」

 

 だが確かに、指令は彼が照れているのだとわかった。

 

  *

 

 ミッドウェー諸島、テグ島。別名、地図から消えた島。

 「フーヴァー」の分析は、ここが最も適していると結論を出した。

 太平洋に浮かぶ小さな島での最後の戦いを前にして、真緒は家族への連絡を済ませていた。

 

「うん……うん……分かってるよ。必ず帰るから。背とか、追い抜かれちゃうかもしれないけど」

 

 すでに、現在得ることができる侵略体の能力は片っ端から取り込み終えていた。それこそ、何年も飲まず食わずで戦えるほどに。

 あの沖田総司のように。

 

「それじゃ……うん。元気で」

 

 真緒は電話を切ると、見送りに来てくれていたエヴァに電話を渡した。

 レティシアとマルクも一緒だ。

 ほかにも「ネロ」や「シェイクスピア」たち、希望したメンバーも来てくれている。すでに彼女らとの別れは済ませた。

 あとは――。

 

「じゃあ、行ってきます、レティシア」

「マオ。必ず、必ず帰ってきてくださいね」

「分かってる。髪、また伸ばしてね。綺麗で好きなんだ」

「ええ。願掛けしますから」

「マルク。戻るまで、リーダーをお願い」

「君がリーダーだったとは初耳だが」

「実質そうでしょ」

「そうだな。では、任されたよ」

「それから――エヴァ」

「うん」

「地上の侵略体はお願い」

「うん。マオが帰ってくるまでに、必ず全滅させるから」

「あとね。もし私が帰ってくるときは、戦いが終わったってことだから」

 

 そう。その時ようやく、エヴァを誰よりも思っていた彼女の願いが叶う。

 

「戦う以外のこと、いっぱいしよう。遊びも、おしゃべりも、勉強も、たくさん」

「……そっか。お終いなんだよね」

 

 エヴァ・ミューアヘッドの人生には二つしかない。

 両親と、それを失ってからの戦い。だが、それもこれで終わる。

 これから先に待っているものを彼女自身に探してほしかった。空っぽになってほしくなかった。

 だから、彼女の母の代わりに真緒は言う。

 

「夢を見つけてね」

「うん。マオもね」

 

 みんなを乗せた輸送機が十分遠ざかり、合図が入ったのを見て。

 

「さて、やりますか」

『是非も無し』

 

 胸の内から湧き上がる魔王の声に合わせ、踊り出す。

 

「人間五十年――」

 

 右手に銃を。

 右眼が熱く、赤に染まる。

 

「下天のうちをくらぶれば――」

 

 左手に剣を。

 桜色の光が花びらのように散る。

 

夢幻(ゆめまぼろし)の――如くなり――!!」

 

 真緒は声を高々と響かせながら、全ての能力を解放した。

 

「一度生を()け――滅せぬものの――あるべきか!!」

 

 辺り一面が火の海に染まる。信長単体の時とは比べ物にならない出力だ。

 だが、まだまだ足りない。刀を通して取り込んだ侵略体の力をありったけ引き出し、灼熱地獄を広げていく。

 真緒の作戦は単純だった。

 侵略体とE遺伝子にしか効き目のないこの灼熱地獄で、地球を丸ごと焼く。

 

「目には目を、歯には歯をってね」

『天下に七徳の武を()く――よもやこのような形でとはな』

 

 勿論、信長のE遺伝子が全盛だったとしてもこんなことはできないだろう。だからこそ、侵略体の力を取り込み、最後まで戦い抜く能力が必要だった。

 沖田桜がやってのけたのと同じことをするために。

 すでに近海の脳細胞型侵略体がいくつか火にかかった。その能力も取り込む。それで他の極小侵略体へと信号を送り、手繰り寄せ、焼き、力を取り込み、炎を広げ――。

 侵略体は地球全土を覆っている。それをすべて喰らい尽くせば、同じく星を覆うことができるはずだった。

 何年かかるだろうか。

 終わった時、自分は人の姿でいられるだろうか。

 でも、最後までやり遂げなくては。

 

「さて、と」

 

 もういちいち手を動かす必要もない。ウェポンを発動したまま砂浜に寝転がり、ただ空を見た。

 日が沈んでいく。

 ぽつぽつと星が瞬き始める。することがないので星を一つ一つ数えていたら、いつの間にか満点の星空になっていた。

 ああ――。

 

『本当に、馬鹿ですね』

 

 真緒は跳び起きた。

 うっすらと、本当にうっすらとだが、いる。

 沖田桜がそこにいた。

 真緒は自分の頬が緩むのを感じた。

 

「出てくるの、遅いよ」

『無茶言わないでくださいよ。気が付いたらあなたの中だったんですから』

「あー――どんな気分?」

『案外、悪くはないですね。妙な気分ですよ』

 

 彼女は星空を見上げた。

 

『もう、戦えないと思ってました』

「沖田総司と出くわした時は、本当に驚いたよ」

『あれが思いつく限り最善の方法だったんです』

「あんなになっても、最後まで戦うことが?」

『同じことをしてる人に言われたくないですよ。地球を丸焼きにするとか、ちょっと意味が分からないです』

「まあ、私もこれしかないって思ったからさ」

 

 真緒は選んだ。

 

「桜の願いを叶えて、藤丸さんが生きる可能性に賭けて、なおかつ戦いを終わらせるには、ね?」

『……全く、よく言いますよ。人の額を撃ち抜いておいて』

「あのまま放っておいたら、どこに行くか分からなかったし」

『それでもいいと思ったんです』

 

 桜は目を伏せた。

 

「私はそうして欲しくなかった」

『分かりますよ。だから、責任とって、今度こそ最後まで付き合ってくださいね』

「うん。付き合うよ」

 

 真緒の答えを聞いて、沖田桜は柔らかく微笑んだ。

 

『よろしくお願いします、真緒』

「よろしくね、桜」

 

 最後の戦いが続く。

 数え切れないほど日が昇り、同じだけ日が沈み、そして――。

 





滞りなければ、明日最終話です。
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