今回は前回の引きの部分からの続きになります。
自分もう何年も祭りの屋台で食べ物食べてないなあ。今年もいきませんでした
俺の目の前に山吹沙綾は居なかった。
「おいおいバックれか〜?紡が挨拶行ったって言ったからないと思うけどな」
「あるはずないだろ沙綾に限って、なんでだよ。」
なにがどうなっているのかわからない。
10分20分前には居たはずなのになぜなのか。
「皆さんこんにちはー!CHiSPAのギターボーカルの海野夏希です!」
舞台上で海野さんはしっかりと挨拶をこなしていた。裏では緊張していたが、舞台ではしっかりとバンドマンとして立ち振る舞っている。
「CHiSPAは本来4人なんですけど、今日はドラムの子が事情で来れてません。……けど!その子の分以上に私たち3人で盛り上げていくんで、お願いしますー!……ではまず一曲目……」
事情。事情ってなんだよ。瞬間的にいなくなったんだ、悪い意味の事情しかないはず。
頭の中はいっぱいいっぱいだ。周りの歓声も、彼女たちが奏でる音楽も、何かに塞がれるように届かない。まるで世界が俺以外全てをかき消したように。
つむ、ぐ……つむぐと微かに聞こえてくる。誰かに呼ばれながら身体を揺すられる感覚がある。
「おい、おい紡!」
「あ……拓海」
「大丈夫かよ。1、2分は呆けてたぞ」
「まじ……?全然気づかなかった」
思考の袋小路で外界を認識していなかった。それよりも自分でああだこうだと考えるよりも真相を聞くのが手っ取り早いものである。
「悪い、ちょい俺舞台裏行ってくる」
「俺もついていくよ」
急ぎ足で舞台裏へ向かう。
人の流れを掻き分ける。人の流れを掻き分けても、同時に心の中に潜む不安までは掻ききれないでいる。不安は身体全体にまとわりつき、それを振り払うように安心を欲し、この身はが急げと命じるばかりであった。
舞台でのCHiSPAのライブが終わると同時に舞台裏へと到着した。
舞台袖から降りてきたCHiSPAのギターボーカルの海野夏希から声をかけらた。
「あれ川崎くんじゃん。ここにまた来てどうしたの?」
「舞台で沙綾を見かけなかったから、何かあったんじゃないかって思ったから」
「……沙綾のお母さんがさ、病院に運ばれたんだって。沙綾のお父さんも居なかったらしくて弟さんと妹さんも泣いてたらしいの」
俺の話を聞いた海野さんたちは俯き、暗い面持ちでゆっくりと小さな声で伝える。
確かに沙綾の母親の千紘さんは元々丈夫な人ではないことをうちの親からそう聞かされていた。
「容体とかは聞いてる?」
「ううん、連絡きてない」
「そうですか……」
そんなにすぐ来るはずもない。
千紘さんの容体も心配だけど、問題とは優しくなくて1つ1つ来るとというルールなんてない。問題が1つで尽きたら困りはしない。
沙綾の精神面。これも重大な問題。
緊張とかに強いけど身内が倒れたんだ、しかもそれが母親と来たら誰でも揺らいでしまう。それがまだ強い心を持たぬ中学生が平常心でいろって話が無理な話。
「……ちょっと俺、様子見に行ってきます」
「でも、今沙綾がどこにいるかわかんないよ?」
「……まずは電話かけてみるか」
試みるものの留守番サービスにつながった。まあわかっていたっちゃいたことだ。
となると手段は1つ。
「居そうなところ、足運んで確認してきます」
「う、うん!あたしたちも行きたいけど……あたしたちが行くとなると徒歩でいくしか」
「ん?そういや紡。お前もこっからなら徒歩で来てるよな近いし」
しまった俺も徒歩で来てたんじゃねえか。
別にチャリで来てもよかったけど、祭りの駐輪って探し出すのと取り出すのが手間かかって仕方ないから徒歩で来た。一旦帰るしかないか?
呆れたようなこえで紡。と後ろから声をかけられる。
「俺のチャリ使え、貸してやるから」
一言付けて拓海は下投げで自転車の鍵を渡す。正直助かる。
「……恩にきる」
「んなこと後でいいから行ってこい。○○の前においてある紺色のクロスバイクだ……よっ!と」
痛っ!拓海の野郎、ケツを蹴るんじゃねえ……。でもありがてえ、たこ焼きに加えて焼きそばでも奢ってやんよ。
「使用料焼きそば一つな〜!」
……やっぱ奢るのをやめたい衝動にかられた。
さて、茶番はここまでだ。行く所に目星をつけるとするならまず家か病院の2つ。多少時間かかるかもしれないけど、まずは沙綾の家に向かってから病院行くほうが手堅いはずだ。
乗り慣れていないサドルの高さとハンドルの低さに戸惑いながらも俺はクロスバイクを漕ぎ出した。
クロスバイクを漕ぎ出してほんの数分で山吹ベーカリーに到着、店前にある黒板を確認するとCLOSEと書かれてあり,既に救急車で運ばれた後だったようだ。そこから自転車を飛ばして20分ほどかけて病院に到着。
到着後に来客用の駐輪場にクロスバイクを置き、病院の入り口の扉を開ける。汗をかいた後の夏の病院の待合室は外気との温度差はかなり激しく寒さすら覚えるほどだった。
「こんにちは、本日はどのようなご用件ですか?」
受付窓越しから看護師に声をかけられる。この場合は面会というのが正しいのだろうか。
「1時間近くほど前にこちらに山吹千紘さんというかたは運び込まれてないでしょうか」
「山吹千紘様ですね、少々お待ちください」
看護師は受付口にあるパソコンを使い検索を始めた。
「山吹千紘様でしたら3階の351号室にございます。エレベータでしたら右手側をまっすぐ行ったところにありますのでそちらをお使いください」
「351号室ですねありがとうございます」
エレベーターを勧められたけど3階だと階段で行くほうが早そうだ。走らないことを意識しながらある程度急ぎ三階に到着。
ここ近辺では比較的に大きな病院のためか、やはり入院している人は多い。
ちなみに俺は病院があまり好きではない。入院をしている患者の姿を見ていると胸に突き刺さる。特にご老体の衰弱している姿は耐えられない。
赤の他人に対して俺はこれほどの精神的揺らぎがきてしまうんだ。それが身内、母親が病院に運び込まれたとなるときっと不安に押しつぶされるだろう。
351号室山吹千紘、ここだな。
部屋を発見し入り口付近にたった部屋から子供の声が聞こえてきた。
「お母さんだいじょうぶ?」
「だいじょうぶ?」
「ええ大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
純と沙南だ。返事をしてるところを聞く限りだと今は意識があるらしい。
今思えば考えなしに病院へ来たけど、俺が見舞いに来るのっておかしい……かな?
まあそれでも千紘さんが一応無事であったことが確認取れたし、大人しく帰ろうか。
「紡……?」
「……あ」
なぜか自分の後ろに沙綾がいた。
確かに純、沙南、千紘さんを確認した。けれどそれは別に視認した訳ではなく声を聞いただけだったし、その時に沙綾の声は聞こえてなかった。だからって後ろから現れるとは……忍びかな?
「なんで俺の背後に居るんだよ」
「売店で果物を買って来たの。でもなんで紡はどうしてここにいるの?」
「それはうみの」
「まあいいや、そんなところに居ないで入りなよ。お母さん、紡が見舞い見に来てくれたよ〜」
理由を言い終える前に病室へと入っていってしまった上にそれに見舞いに来た、と言われたら顔を出さずにはいられないか
「おっ、紡じゃん!」
「紡お兄ちゃんだ〜」
「こら純っ、呼び捨てなんてダメでしょ!」
「いいよいいよ、でも純〜?今度くすぐりの刑だからな」
「ぎゃーやめてー!」
「こら純っ!病院では静かにしなさい!」
いつもの山吹家って感じな気がする。純が悪ふざけして沙綾が怒る。なんかこう、姉と弟をまんま書いたって感じなやりとりを見てきたな。
いつも通りの姿を見ていたら少し安心した。
「紡くんもごめんなさいね?わざわざお見舞いなんか来てくれて。ちょっと貧血だけだったのよ」
「いえいえそんなことは。特に大事に至らなくて本当に良かったです」
「お気遣いありがとう。それに沙綾のライブも見に来てくれてたみたいで」
「こんなことあったら仕方ないですよ。次回は沙綾が演奏してるCHiSPAをー」
「ちょっ、待って紡!」
「ん?」
突然に言葉を遮って俺を呼びかけてきた。そしてその後千紘さんに視線を送ると少し目を大きく見開いていた。
「沙綾……?あなたライブの後に来たって」
「……ちょっと来て紡」
ああ何か地雷を踏んでしまったのだろう。察しの悪い俺でさえわかる。この間と会話の内容。言わなくてもいい、言ってはいけないことを口走ってしまったのだと。
沙綾に手を掴まれながら病室を抜ける。女子と手を握るなんて小学生時代の頃が最後だっただろうか。こうして新たに記録が変えられて嬉しいよ、これがラブコメ的展開だったらの話であることを条件である。
3階からくだり、待合室を抜け、扉部分さえも抜けだしていった。冷房の効いた室内からこの外の暑さに触れる瞬間、全て現実から引き戻されるような感覚がある。
「……その、悪かった。ライブ参加してなかったことは伏せておくべだった」
「別にいいの。お母さんに嫌な気持ちさせたくないと思ってついた嘘だし。気にするほどでもないよ」
あのタイミングでここへ連れてこられたのだ、絶対怒られると思っていたけど全く違く、変な緊張が解かれた。
「ならなんで俺をここに連れて来たの?」
「……紡には先に言っておこうかなって」
どこかもの寂しさがありながらも笑顔でゆっくりと話す、
「私、もうバンドやめるよ」
それは唐突の宣言だった。今回不参加によって未だライブを体験していない人物からの告白だった。
「私はバンドをやめる」
「なんでバンドやめるなんて言うんだ……?やりたいこと見つけて楽しそうに過ごしてたのに」
「練習してるとね、帰りが遅くなるんだ。そうなるとお母さん、1人で無理しちゃうから」
山吹ベーカリーは常駐している従業員が沙綾の父親と母親だけ。学校の後手伝っている沙綾を含めても3人。自営業で直面する問題の過労は、山吹ベーカリーも例外ではない。
「昔から体弱いのに無理をする。でもそれに私は甘えて遅くまで練習してた。そしたらこうなっちゃったんだよ。バンド、続けられないよ」
「でも……」
「でもじゃない!紡にはわかんないよ!」
沙綾は怒鳴りを上げた後、一瞬の沈黙をする。その沈黙のあいだに言葉は風に乗り一瞬で消えた。
沙綾の怒鳴り声を聞いたのは初めてだった。小学生の頃に女子を庇う時とはまた違う、心の叫びがそこにはあった。
「……ごめん」
「……俺のほうこそ悪かった。ごめん、第三者が首突っ込んで」
実際その通りだ。親がまた倒れてしまうという危険の中、自分のやりたいことをやれ。これを第三者に言える権利があるだろうか、いや無い。それに言ったとして、俺には何もしてやれないのだから。
「今日は俺もう帰るよ、千紘さんや純、沙南によろしく伝えといて」
言い逃げるかのように背中を向けながら歩いていく。うん、と微かに聞こえた声に一切反応せず、俺は病院を後にした。
「……もしもし拓海?今どこだ」
「近くの公園で座ってるよ。自転車置いてたところで待っててくれ」
「……了解」
電話をかけた後、指定されたクロスバイクを停めていた位置に戻しにきた。
まず今は祭りの最中で、拓海の付き合いが残ってる。…-楽しそうに振る舞わないとな。
「ほらよ、紡」
「冷たっ!?ちょ、拓海。脅かすなよ」
「飲み物。こんな中チャリ漕いで喉乾いたろ」
「……サンキュー」
「……おら、たこ焼き屋と焼きそば行くぞ。今日の分は貸しにしといてやる。奢ってやるからこいよ」
「……本当サンキューな」
なにも言わない俺に対して、拓海は察してくれたのだろうか。こういう優しさと配慮が俺に足りなかったのかもしれないな。
少しずつ増えていく人の数。祭りはまだおらない、楽しめと言わんばかりの賑わいを見せている。浴衣の彩りは先程までの祭りとはひと味違った味わいを出している。
「今は、楽しむとしよう」
自分に言い聞かせるように呟きながら、俺たちは雑踏の中へと消えていった。
今回はこれにて終了。そして同時入場祭りの話もここまでとなります。次は時期的に秋になりますかね。
残り2話程度で中学編は終わる予定です。あくまでも前座、プロローグ的役割です。やはりバンドリキャラを活かすためには高校生でなくっちゃ!とか思ってたりきてます。
では、9月中旬になり突然気温も下がり始めました。季節の変わり目にはお気をつけください
……また予定してた時間に投稿できなかったよorz