仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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かなり久しぶりの投稿になってしまって申し訳ありません
久しぶり過ぎて、ちょっと感覚を忘れてしまったので、申し訳ないんですが特別編を書き直しさせてください(´・ω・)

コンセプトというか、テーマは変わってないんですが、細かいところが結構変わってます

廻天の要素が加わって来るので、まだ見てない人は注意してください
マギレコの要素も加わってきますが、こちらはまあほぼオリジナルになるので、見てなくても問題ないかなと思います。

あと、今回かなりわかりにくい描写があると思うのですが、わざとやってます。
あとから、わかりやすくするので、ご了承ください(´・ω・)




第97話 龍騎(プロローグ)

 

『これまでの、フールズゲームは!』

 

13人の魔法少女と13人の騎士が、それぞれペアを組み、願いを叶えるために最後の一組になるまで殺し合う、フールズゲーム。

 

心優しき魔法少女・鹿目まどかが最終勝利者になるも、ゲームを裏で操っていた魔獣の手によって、魔女に変えられてしまう。

だがその寸前、まどかが抱いた願いを、キュゥべえが受理。復活したパートナー・城戸真司の手によって、ゲームは再び繰り返されることとなった。

 

まどかのために魔法少女となった志筑仁美や、イレギュラーのデッキを手に入れた中沢くん。

香川教授や百江なぎさ、リュウガのデッキを手にした榊原耕一など、新たな参加者が加わり、『フールスゲーム・ジアンサー』が、始まった。

まどかと真司は、15人の魔法少女と15人の騎士が全員生存できる未来を目指し、ミラーモンスターの力を手に入れた魔獣集団・バッドエンドギアとの戦いに挑む。

 

その最中、暁美ほむらから分離した別人格、『暁美焔』が別世界、虚心星原を創造。

鹿目まどかを憎む心を持った焔を、ほむらは受け入れ、悪魔へと覚醒。

世界支配を画策するゼノバイターを撃破したのだった。

 

 

 

特別編 プロローグ

 

 

 

「姫ッ! 本当によろしいのですか!?」

 

「ええ。もはや、迷っている時間はありません」

 

「しかし――ッ!」

 

「こうしている間にも、敵は力をつけている。一刻も早く手を打たなければ、取り返しのつかないことになるわ。私には死んだ父に代わり、民を守るという役目があるのです。どうかわかって、これは王としての命令よ」

 

「わ、わかりました。では準備に取り掛かります!」

 

「お願いね」

 

姫は、空を見上げ、祈るようなポーズをとる。

 

「異世界の勇者たちよ……どうかこの世界を――ッ! フレアルの未来をお守りください!」

 

 

★

 

 

その日は、清清しい青空だった。

 

「……いつも、とても面白い記事で、時間を忘れてみています。真司さんの記事を見て、オレも記者になりたいと思いました。これからも頑張ってください」

 

ニヤニヤとしながら、真司はページをスクロールする。

 

「いつも、とても面白い記事で――」

 

「うるせぇぞ真司! おまッ、何回ッ同じメッセージ見てんだよ!!」

 

編集長、吼える。

というのも、先ほどからブツブツブツブツ、真司は何度も何度も同じ言葉を繰り返していた。

 

「まあまあ、いいじゃないですか編集長。感想をもらえるのは私も嬉しいですし」

 

令子の言葉に、編集長は複雑な表情を浮かべた。

OREジャーナルのホームページに、読者からのメッセージが届いたのだ。

内容は、真司の書く記事が好きで、いつも楽しみにしているというものだ。

新米の真司は、お叱りのメッセージをいただくことはあれど、なかなか褒めてくれる人にはめぐり合えない。

なので今日はもう、それはそれは機嫌がいい。ニッコリである。

真司はそのメッセージをスクショして、保存しておく。

 

「しかもこのメッセージ送ってくれた子、高校生なんですけどね、真志っていうんですよ。俺と同じ名前なんて、親しみを感じるっていうか……」

 

「べつに珍しい名前でもねぇだろ。サッカー選手とか、俳優にもいるじゃねーか。俺だってお前、有名なお笑い芸人に同姓同名がだな」

 

「いつも、とても面白い記事で――」

 

「聞けよ!」

 

「それより編集長。真司くんにあの件、伝えなくていいんですかぁ?」

 

「え? あ、おお、そうだったそうだった」

 

島田に促され、編集長は時計を見る。

 

「同じ名前と言えばだな、真司。お前に伝えなきゃいけないことがあるんだよ」

 

「えっ? なんですか? もしかしてボーナスとか?」

 

「ちげぇよバカ! あのな、実は令子の母親が──」

 

令子の母は、有名な週刊誌の編集長であり、今回OREジャーナルとのコラボ雑誌を発行してくれることが決定したらしい。

 

「その桃井編集長のところからだな、一人のジャーナリストが期間限定でOREジャーナルにやってくるんだ」

 

「はぁ」

 

「つまり真司、お前に後輩ができる」

 

「うぇ!? ま、まじっすか!」

 

「マジマジ、大マジよ。んでまあ、その子とお前がチームを組んでだな、一つの企画を進めてほしいんだよ」

 

編集長は時計を見る。もうすぐ時間だ。

すると、誰かが扉を開けて入ってくる音が聞こえた。

真司が振り向くと、そこには噂の新人くんが立っていた。

 

フード付きの青いパーカーに、同じくフード付きのオレンジ色のジャケットを着ている青年だ。

編集長が手招きをする。

青年は頷くと、傍に立って、一同にお辞儀を。

 

「はじめまして。辰巳(たつみ)シンジです」

 

 

★

 

 

『先輩、ここはいったい?』

 

ジュゥべえは、先程からずっとキョロキョロと辺りを確認していた。

キュゥべえについて来いと言われて、やって来たのは、球体状のモニュメントだ。

十角形の床の周りには、無数の本棚が置かれ、空中にはキュゥべえの眼を模したモニタがいくつも浮遊している。

そこには見滝原の様子が映し出されていた。

 

『ここは"葉脈の図書館"と言って、ボクたちインキュベーターの拠点となる場所さ』

 

『なんと!』

 

ジュゥべえは置いてあったソファに飛び込むと、フカフカのクッションに身を沈める。

するとどうだ。ひとりでにカップとポットが飛来して、あっという間に紅茶の一杯が用意されたではないか。

それだけではなく、すかさずクッキーやカヌレなどの茶菓子も添えられるおまけつきまで。

 

『あんれまあ!』

 

ジュゥべえは思わず己の両手を見た。カップが持てない。

いや、そもそもインキュベーターにとって飲食など意味のないものだ。

時折、魔法少女候補たちの警戒を解くために、食べたフリなどをしてみせることはあるが、ここはインキュベーターたちしか来ない場所のはず。

もちろん、本棚にある無数の本のページを捲ることもできないので、ただの飾りということになる。

 

『どうしたってんだよ先輩! こんなにハイカラな場所を用意しちまってからに!』

 

『ボクも興味はなかったんだけどね。彼が、どうしてもって言うから』

 

『?』

 

ぴょこんと、気配が一つ。

いつのまにか、キュゥべえがもう一匹、向かいのソファに寝転んでいた。

 

『んん? 誰だ、テメェ!』

 

思わず飛び上がる。

無理もない。そのキュゥべえは、明らかに今までのキュゥべえとは違い、初めて見る顔だったからだ。

見た目はキュゥべえとそう変わりないが、目の形がまったく違う。

 

『やあ、はじめましてだね! ジュゥべえくん!』

 

そのキュゥべえは、ニコッとほほ笑んだ。

感情的だ。らしくない。

声も抑揚がつけられ、無機質ぎみなキュゥべえとは違うことがすぐにわかった。

 

『僕はハチべえだよ。キミたちのプロトタイプ、とでも言えばいいかな?』

 

『なん……だと? つまり、なんだ? 先輩の先輩――大先輩ってことか!? こ、こいつぁ失礼したぜ!』

 

『いいんだよ。僕は所詮、前世紀の遺物。キミのほうが宇宙延命に貢献しているさ』

 

ハチべえは肩を竦め、わざとらしく『やれやれ』というジェスチャーを取った。

そんな彼の周囲に、モニタが浮遊する。

そこには、鹿目まどかが願いを叶え、アルティメットまどかに変わる『運命の日・永遠の物語』という映像が流れていた。

 

三つほど。

 

『しかしまあ、繰り返すね。過ちは』

 

同じ映像ではない。

どれも些細な部分が違っている。

 

たとえばマミがシャルロッテに敗北し、死亡するシーン。

ハチべえがいた世界では、マミはおびただしいほどの血を流していた。

 

たとえば、まどかが消えた世界で、鹿目家と話すほむら。

ハチべえがいた世界では、ほむらはツインテールだった。

 

『ははーん、マルチバースか。まあ、しかたねぇさ大先輩。それこそ、愚かな生き物、人間ってヤツなんだ』

 

『僕も宇宙延命のため、これからはゲームの運営を手伝うから、よろしくね!』

 

ハチべえはウインクをひとつ。

 

『うん。じゃあ、さっそく、本題に入ろうか』

 

キュゥべえの一声によって、モニタの映像が切り替わる。

 

『最近、想定外のお客様が多いみたいだ。直接的な妨害をしてこなければ無視してもいいが、ちょっかいを出されるのはボクたちとしてもあまり好ましいものではない』

 

ゲーム盤の外の世界、虚心星原にて。

ゼノバイターを撃破し、帰路につこうとするまどかたちは、シルヴィスの攻撃を受けて佐倉杏子を見捨ててしまった。

だが今まさに魔獣に殺されようとする杏子を、謎のシルエットが助けたわけだが──

 

『まあ、助けたっつーか……』

 

ジュゥべえたちもその光景を目撃はしていたが、世界が閉じようとする間際の話だ。

すべてを観測できたわけではないが、極めて異例な事態が起こったように思える。

というのも、その謎の存在が現れた直後、佐倉杏子は死亡した。

 

『直前でシルヴィスのヤツに腹をぶち抜かれてたからな、死因はそれになるんだが、魔法少女は腹に穴が開いたくらいじゃ死なねーわけで?』

 

『現れた謎の存在が発生させる光に触れた時、佐倉杏子は魔法少女から人間に戻っていたようだ。これは随分と興味深い。魔法少女を人間に戻せる何者がいた。ということだろうか』

 

『というよりバグなんじゃないかな。佐倉杏子が魔法少女じゃない世界のデータがそこに上書きされた、とか』

 

『?』

 

改めて、その謎のシルエットを見てみる。

もともとが暗かったことと、腹部から発生する光のせいで、姿がよく見えない。

 

『騎士に見えるね。少なくとも、ゲームの参加者じゃないみたいだけど』

 

『かと言って、鎧武たちにも見えねぇな。そうなると考えられるのは、ディケイドが連れてきたか、ジオウとかいうのもいたっけか』

 

すると、ハチべえは首を横に振った。

 

『その二人じゃない。そして、それこそ僕が目覚めた理由なんだよねっ』

 

『まだ誰か、混ざってる──ということだね?』

 

キュゥべえの問いかけに、ハチべえはニヤリと笑った。

 

『見たよ、僕はね』

 

ハチべえは眠っている間、宇宙と一体化していたらしい。

言い方を変えれば、世界のシステムの一端となっていたわけだ。

魔獣たちが円環の理を襲撃し、世界そのものを弄り、作り替えた際にハチべえはこねくりまわされ、シェイクされ、打ち砕かれて、また固められ──

その間に、ディケイドによって破壊された龍騎や鎧武の世界破片が吸収されていき、神崎優衣がもたらした隠しデータも溶け込んでいく。

 

『僕はユイデータの中にあった"黄金に輝く輪状の炎"に触れたんだ。するとどうだろう、気がつけば僕は"アガスティアベース"と呼ばれる場所に立っていた』

 

この葉脈の図書館の元となった場所だという。

そこにあった本棚には、無数の騎士と、スーパー戦隊と呼ばれた戦士たちの記録が並んでいたそうだ。

 

そこにある歪な一冊。

龍騎の本の表紙には『魔法少女まどか☆マギカ』の文字があった。

それだけではない。分厚く、ページの素材や厚みもバラバラなそこには鎧武の文字も。

そしてもう一つ、違う名前があったという。

 

『だとするなら随分と長い間、沈黙していたね』

 

『ユイデータが、その騎士が出現するファクターになったようだね。世界の扉を開ける鍵がいくつか解放されたことで、本格的に覚醒したんだ。宇宙が今も広がり続け、新たな星が生まれ、死んでいくのと同じだよ。人間の体にも突然変異によって生まれる細胞があるように、戦いが続くことで生まれた星がある』

 

ハチべえはアガスティアベースが消えかかるのを感じ、素早く龍騎たちの本を確認した。

本を床に落とし、小さな手で必死にページを捲り、情報を吸収していった。

 

『まさに、アカシックレコード。すべてが刻まれていたよ。すべては確認できなかったけど、重要な点はいくつか覚えた。どうやら僕らの世界において、円環の理となった鹿目まどかが、観測できていなかった世界があったみたいだね』

 

一人の少女が石ころを蹴ったから、らしい。

詳細まではわからなかったが、その世界では見滝原と同じように魔法少女がいたと。

 

『鹿目まどかが、あずかり知らぬ魔法少女がいたってことか?』

 

『簡単に言えばそうなるね! でもでもっ、そんな特異点たる魔法少女たちのデータも、きっちりしっかり、ギアの手中にあったようだけど!』

 

『誰かが手引きを?』

 

『騎士の王みたいだ。魔獣が円環を襲撃した際に手を貸していたんだ』

 

『ん? 待てよ? つーことは騎士の王なのに城戸たちが不利になるように動いたってのか?』

 

『だね。王様はゲームが始まることを良しとしたみたいだ。騎士が魔法少女を助けるさまを見たかったみたいで、それが騎士の地位を向上させると思ってるんだって。気をつけた方がいいよ。なかなかの上位存在だ。今は完全に気配がないけど、いつまたちょっかいをかけられるか』

 

『その王様の名前はわかるかい?』

 

『オーマジオウ。そう、記録されていたねぇ』

 

『ハハハ、おもしれぇじゃねぇか。要するに魔獣みたく、フールズゲームをどっかから見てるわけだ。運営としては身が引き締まるねぇ』

 

『ギアはその後、その特異点少女たちのデータをゲームに使用せず、物置みたいな隔離ファイルに入れて闇の奥にしまっておいたんだ。けれども、同じく奥底にあったユイデータの一つ、龍騎、鎧武に続く、"第三の騎士の世界"がそこへ融合し、龍騎たちが戦っている間に一つの大きな世界になるまでに成長した。本来は生まれることのなかった奇跡の王国、僕はそこを"ミラクルワールド"と名付けたよ』

 

未来世界の技術、インキュベーターたち持つ黄金の果実があれば、世界を移動できるという。

 

『ははーん。なるほどなぁ、読めたぜ。つまり大先輩は、そこの担当者ってことだ』

 

『そう。宇宙は僕を指名した。再構成された特異点の少女たちと再契約し、魔法少女に変えていったのさ!』

 

とにかく、ゲーム盤の裏側にはもう一つの世界が生まれていたわけである。

魔獣の中でもそれを知っているのはギアくらいらしい。

 

『ただ、他にも気づきはじめたものはいるだろう。アシナガあたりは確信してそうだった』

 

些細なバグがあった。ワルプルギスの夜が出現する際に流れるカウントダウン。

そこで『3』の数字が抜け落ちるという事態が発生していたが、過去のワルプルギス出現においては『3』が表示されたケースがほとんどだそうだ。

 

ではそのとき『3』はなぜ表示されなかったのか。

実際には、表示されていたのだ。

ミラクルワールドのほうで。

 

『ふぅん、3が表示されないだけでそこまで勘ぐるかね。しかし、わからねぇな。そもそも隔離せず、特異点の魔法少女どもをゲームに組み込むくらいできそうなもんだがな。未来の世界みたく、他の派生に使うつもりだったのか?』

 

『どうやら、また別の上位存在の影があったみたいでね、ギアはそれを危惧したようだ』

 

『別の上位存在?』

 

『ごめんだけど、僕もそこまでは確認できなかった。何かがおかしいんだ。かろうじて読み取れたのは──』

 

 

ジョバンナ

 

ユーホン

 

カムパネルラ

 

テレジア

 

ベアトリーチェ

 

エルフリーデ

 

サンドリオン

 

ゾラ

 

 

『なんだそりゃ?』

 

『女神の名前ということはわかったんだけど……まだ覚えなくても大丈夫だよ。そもそも意味がわからなかった。これが騎士の世界の産物なのか、はたまた僕ら世界の産物なのか、文字化けして読み取れなかったんだ。おそらく再構成されたミラクルワールドは、彼女らが世界の支柱だったみたいだけど、もう死んでいるらしい。原因と思わしきキーワードは蝶──グレゴリー・ジェハ。何かの名前だとは思うけど、ギアはこれを警戒していたのかもしれない。これは僕のほうでも調べてみるよ』

 

『了解したぜぃ。しかしミラクルワールドねぇ、どうりでヘンテコな事態が起こってるわけだ』

 

虚心星原から戻って来てすぐのことだ。

ゲーム盤内部のデータが変わったのをジュゥべえたちは確認している。

彼らの側近である針の魔女・キトリーと、また違う別の魔女の情報がロストしたのだ。

魔獣が何かしたのかと思っていたが、別の可能性を探る必要性があるのかもしれない。

なにより、もう一つ連動して、大きな変化が起こった。

あまりにも、大きな、変化が。

 

『新たなカードデッキが一つ増えやがった。ったく、しゃーねー、騎士担当として会いに行ってくっかな』

 

 

★

 

 

ここは見滝原。

快晴の下を、真司とシンジは歩いていた。

 

「いやぁー! 真司とシンジなんてさぁ、運命感じちゃうよなぁ! 初めて見たときにビビっときたんだよ! 俺たち、いいチームになれるってさあ!」

 

「本当ですか。ありがとうございます」

 

真司のテンションは高い。

なにせ、初めての後輩だ。これからジャーナリズムとはなんたるかを語り合い、時に報道のあるべき姿でぶつかりあい、お互いを高めあい、切磋琢磨し──

 

「とにかく辰巳くん! 俺が先輩ジャーナリストとして、ビシバシ指導するからさ! 分からないことがあったら、何でも聞いてくれよ!」

 

「はい、頼りにしてます!」

 

「ところでさ辰巳くん。さっきから気になってたんだけど、それなに?」

 

「え? あぁ、これですか」

 

シンジはなにやら大きなカバンを持ってきていた。

そこに手を入れると、なにやら大きなカメラを引っ張りだす。

一眼レフ。カメラに詳しくない真司ですら、その代物を見て、喉を鳴らした。

 

「な、なんか凄そうなカメラだねそれ、どうしたの?」

 

「僕は編集部ではカメラ担当なんで。弘法筆を選ばずとは言いますけど、僕はまだまだなんで、ちょっと奮発しちゃいました」

 

「あぁ、ボーボー……筆……? 奮発? 値段とかって」

 

「べつに、たいした額じゃないですけど」

 

聞いてみると、たいした額だった。

真司は空を見る。青い。綺麗だなぁ。

 

「真司さんはどんなカメラを使ってるんですか?」

 

スマホのカメラを使っています。

編集長が商店街の福引で当てた五千円のデジカメを借りてます。

そう口にしても良かったが、声が出なかった。喉が詰まっている。

風邪かもしれない。帰りにドラッグストアで葛根湯を買って、せんべい布団に包まって早めに寝よう。

 

「いや――ッ、まあなんていうかさ、たしかにカメラも大事だよ。うん! でもッ、やっぱりジャーナリストっていうのは、担当した記事も大切だと思うんだよな」

 

「それ、凄くわかります。流石は城戸先輩!」

 

「だ、だよな!? ハハハ! なんだ辰巳くん。キミが話が分かる人間で助かったよ! それで、キミはどんな記事を?」

 

「トクガワの産地偽装事件。覚えてますか?」

 

「あぁ、あの凄いニュースになったヤツ? なんだっけ? アナログな人で、メモが見つかってバレたんだっけ?」

 

「徳川社長が残した手記に、偽装の証拠や、わかっていて取引を行っていた会社のリストが掲載されていたんです」

 

「それそれ。それが何?」

 

「あの俗に言う、トクガワ手記を撮影したのは僕です」

 

「えぇ!? 本当にッ!?」

 

「あとは、ルードセクター誤射事件は、ご存知ですか?」

 

「あっえっと、たしか──えっと、うん! 知ってるよ! 本当だよ」

 

「最新鋭の護衛艦から迎撃ミサイルが誤射されたんですけど、その瞬間を撮影していたんです。それは他の誰もやってなくて、僕のカメラだけが――」

 

「………」

 

「城戸さんは、どんな事件を担当されたんですか?」

 

金色のザリガニを……。

 

金色のカニを……。

 

金色の亀を……。

 

金色のソフトクリームを……。

 

「だ、大丈夫ですか城戸さん? 真っ青ですよ?」

 

「なんか、ちょっと……気分が」

 

「そこで休んでいてください。取材は僕がやっておきますから」

 

そういうとシンジは本当にパパッと話題のスイーツ店の取材を終える。

とてもいいカメラで撮った写真は、とても美味しそうに写っていた。

 

「辰巳くん……飯でも食おうか」

 

「え? 少し早くないですか?」

 

「いや、あの……なんか胃に入れたくて」

 

「そうですか。そうですね。11時前にもやっているお店はありますし、ランチにしましょうか」

 

真司は心の中でやれやれと両手をあげるジェスチャーを取った。

少し怯んでしまったが、なに、焦る必要はなにもない。

べつに、事件の規模がどうとか、カメラの値段とか、そういうことじゃないのだ。

 

ジャーナリズムというものは。記者というものは、街に寄り添い、些細な瞬間を見逃さず、事件を追いかける。そういうものだ。

見滝原には見滝原のルールがある。

牛丼でも食べながらそれを教えてやろう。そうしよう。

 

「オススメの店があるんだ。俺、おごるからさ、なんでも食べてよ」

 

「え? 悪いですよ」

 

「気にしない気にしない。辰巳くんは普段、どんなランチを食べてんの?」

 

最近の若者はきっと菓子パンとか、コーヒーだけとか、そういうのだけで済ませているんだろう。

ここは一つ、おいしい牛丼でも食べてほしい。

そうすればパワーがどんどん湧いてくる。

よし、今日はおしんこもつけてあげよう。味噌汁も豪勢に豚汁に変更して――

 

「普段ですか? なんでも食べますよ。多いのはイタリアンとかお寿司とか蕎麦とか……、いつもだいたい1500円から2000円のランチが多いですね」

 

真司はいきつけの牛丼屋をスルーした。

店長のムロちゃんが笑顔で手を振ってきたが、真司は無視した。

ごめんムロちゃん。心の中で涙を流し、撤退。

かわりに以前、美穂に教えてもらったタイ料理屋・シャムに連れていくことにした。

 

「あれ?」

 

はて、なにかがおかしい。

というのも、いざその店に行ってみると、そこには違う別の店があったのだ。

西洋建築のレストラン。名前は『ウォールナッツω』とある。

 

スマホのマップを見るが、場所はあっているし、店舗情報もウォールナッツωになっている。

何度か美穂に連れてきてもらったが、周囲の景色もあっているように思えた。

閉店して新しいお店に変わったのかと思ったが、口コミを見るに、美穂がおすすめしてきたときよりも前に建っているとある。

 

「???」

 

奇妙ではあるが──

今から美穂に場所を聞くのもなんだし、なによりもウロウロとシンジを連れまわすのも申し訳ない。

営業時間を見ると、もうオープンはしているようだし、ランチの写真もおいしそうなので、飛び込みであるが、ここにしようと提案する。

 

「おや! ようこそおいでくださいました!」

 

扉を開くと、オレンジ色の髪をした少女が出迎えてくれた。

ホールスタッフというよりは、シェフの格好をしているが、子供にしか見えない。

まあ、チェーン店ではないようだし。

もしかしたら家族経営で、娘さんが手伝っているのかもと考えながら、席についた。

 

「あれ、城戸さんじゃないですかぁ」

 

水を持ってきてくれたのは、同じくシェフの格好をした青年だった。

また強烈な違和感。というのも、彼は真司が行こうと思っていたタイ料理屋の店主だからである。

 

「ショウさん! あれぇ?」

 

真司は頭を掻いた。瞬間、フラッシュバックする記憶。

焼き付くような奔流だ。あれはたしか、まだゲームが始まる前だったか。

美穂と一緒に、ショウさんに会ったことがある。

あれもまた、シャムというタイ料理屋だった気がする。

美穂の茶番に付き合って──それで──……

 

「いい雰囲気のお店ですね」

 

「え? あ、ああ!」

 

真司は我に返る。シンジに話しかけられていた。

 

「シェフの方と、お知り合いなんですか?」

 

「友達が常連でさ、ソレ繋がりで」

 

「へぇ、そうだったんですか」

 

するとショウさんは、ニコリとほほ笑んでシンジに話しかける。

 

「城戸さんのお友達ですか?」

 

「いや、僕は真司さんの後輩で。そうだ、なにかおすすめはありますか?」

 

「全部がおすすめですよ。ただ、そうだなぁ、今日はいいトマトが採れたんで、パスタランチがおすすめですよ」

 

「採れた?」

 

「はい。お店の裏で家庭菜園をしてるんです」

 

「すごい! じゃあそれでお願いします。城戸さんは何にしますか?」

 

「あ──えっと、じゃあ、ハンバーグエビフライランチで」

 

しばらくして料理が運ばれてくると、シンジは美味しそうにバクバク食っていた。

良いことだ。真司も料理に手をつける。

美味い。というより──美味すぎる。

 

ハンバーグはナイフを入れたとたん噴き出すように肉汁が溢れ、エビフライはサイズも大きいが、やはり食感が素晴らしい。

プリプリというレベルではなく、ブリンブリンである。

おそらく揚げるときの温度管理が徹底しているのだろう。

自家製のタルタルも、酸味が強すぎず、粗めに潰したタマゴのゴロゴロ感が食べ応えがあっていい。

 

なにより、たしかにつけあわせのオクラとズッキーニとナスのグリルがやたらとうまい。

最初は先輩の面子が保ててよかっただとかいろいろ考えていたが、気づけば真司は次に来たら何を食おうかと、そればかりを考えていた。

 

 

食事が終わると、ショウさんがコーヒーを持ってくれたので、さきほどのハンバーグとエビフライが素晴らしいと褒め称えた。

 

「いやぁ、ありがとうございます。ですって! 料理長」

 

カウンターの向こうから、オレンジ髪の少女が自信満々な笑みを浮かべながら手を挙げる。

 

「ん? 料理長?」

 

「はい。彼女がこのお店の料理長、胡桃(くるみ)シェフです」

 

「えぇ!?」

 

思わず声が出る。慌てて真司もシンジも会釈を返した。

子供に思えたが、童顔なだけかもしれない。

そう言われてみれば、どこか余裕がありそうな佇まいのような。

 

「あ、そうだ城戸さん。この前、霧島さんが来たんですけどね。ビール代を城戸さんにツケておいてくれって」

 

「な、なにぃ!?」

 

「いずれは同じ通帳になるんだからって言ってましたよ。若いっていいですねぇ」

 

「いや嘘! そんなの嘘だって! アイツ、ふざけやがってぇ……!」

 

真司は泣く泣く財布から美穂が飲んだビール代をショウさんに渡した。

するとショウさんはニッコリとほほ笑み、後ろへ下がっていった。

 

「ったくアイツ、なんなんだよ」

 

「霧島さんというのは、城戸さんのパートナーの方ですか?」

 

「いやいやッ、そんなんじゃないよ。そういう辰巳くんは彼女とかいるの?」

 

「一応、まあ、はい……」

 

「へえ、どんな人?」

 

「写真ありますよ。見ます?」

 

シンジは携帯を取り出すと、写真を真司に見せた。

湖白(こはく)というらしい。セミロングの黒髪に、白いワンピースがよく似合っている。

身を犠牲にしてまで世界平和を願う心美しいお嬢様らしい。

 

自分だけが幸せなのが我慢ならないらしく、頻繁にチャリティー活動や、慈善事業にせいを出しているのだとか。

湖白が何かしらのボランティアをやっているのだろうと察する写真もあった。

笑っている顔が上品だ。慈しみに溢れている。

 

「霧島さんの写真はあるんですか? 見せてくださいよ」

 

「………」

 

真司はこっそりスマホを覗く。

写真のフォルダには、美穂が白目をむいて居眠りをしている写真があった。

思い切り中指をおっ立てている写真があった。

エロ本を読みながらお菓子を食べている写真があった。

 

真司は『写真は持っていない』と笑顔で答えた。

彼もすっかり大人の嘘をつけるような年齢になっていたのだ。

なって、いたのだ……。

 

 

 

 

「それじゃあ、ごちそさまでした」

 

コーヒーを飲み終わった真司たちは店を出た。

 

「ぜひぜひ! お待ちしております!」

 

「また来てくださいねぇー」

 

胡桃まなか料理長は、頭を下げてくれた。

ショウさん――津上(つがみ)翔一(しょういち)シェフも、頭を下げてくれた。

 

 

★

 

 

「生おかわり、大で」

 

その美穂は、大学時代の友人と昼間から酒を酌み交わしていた。

 

「うーん」

 

おしゃれな創作居酒屋で、餃子をバクバク食いながら美穂は唸っていた。

向かいに座っていた『黒野(くろの)すみれ』は訝しげな表情を浮かべ、高い白ワインをチビチビ飲んでいる。

 

「なに? さっきから」

 

「いや、この餃子、悪くないんだけどさぁ、なんかちょっと薄くない?」

 

「そう? べつに、おいしいけれど?」

 

「うーん。なんかねぇ。物足りないっていうか」

 

「きっとニンニクとか、臭いの強いものが入ってないからだわ。でも他の具材にはこだわってる。本物志向なの。わかる? 普段ジャンキーなものをバカバカ食ってる人にはわからないでしょうけれど」

 

「悪かったね、バカ舌で」

 

美穂はすみれを睨みながら、ビールをあおった。

 

「てかさ、急に呼び出して、なんなの?」

 

「美穂、保健室の先生はどうなの?」

 

「どうって……普通だよ。見滝原は養護教諭研修制度があるから、今は見習い中って感じ。前任の先生からいろいろ教えてもらって、最近はメンタルを病む子も多いからって、新しくカウンセラーの教室を作るとか。海外だと主流だからとか言ってたけど──あんま覚えてないや」

 

「そうなの。大変ね」

 

「アンタはどうなの? 見滝原を出てって、なんか意識高そうなとこ行ったっていうじゃん」

 

「辞めたわ」

 

「えっ、そうなんだ」

 

「私はね、本物志向なの。あの会社、なんだか流行りの真似事をしてただけで……まあ見抜けなかったのは私の未熟さね」

 

「よくわかんないけど、まあいいんじゃない? それで見滝原に戻って来たってわけ」

 

「そう、今日はその報告」

 

「べつにいいのに。私たち、そんな仲良くもなかったじゃん」

 

「………」

 

すみれは眉を顰めながら、なんとか唇の端だけは釣り上げる。

 

「ま、まあ、そうね。そうよね。そう思うのも当然だわ」

 

「忘れてないよー、アンタが裏垢で私の悪口を書きまくってたこと」

 

「あぁ、はいはい、そういうときも──あったわね。認める。愚かだったわ」

 

すみれは、大学で、アイドルサークルに入っていた。

グループを組んで、コピーダンスをするというもので、当時は大会もあったほどだ。

そんななか、大事なイベントの日に、メンバーが一人欠席してしまった。

そこで助っ人として連れてこられたのが、美穂だった。

 

「三万くれるっていうから、死ぬ気で振り付けを勉強したっけねぇ」

 

たった一回ステージに立っただけで美穂には多くのファンがついた。

それが、すみれにとっては、非常に面白くなかったわけだ。

 

「誤解だったのよ美穂。やっぱり、ほら、私って本物志向でしょ? 真のアイドルとは光り輝くことを望み、ファンのために真摯に真剣に取り組む存在だと疑わなかった。それを貴女ってば、お金ほしさにって言うじゃない? しかも何に使うのかと思えば、酒代だったでしょ? 流石にほら、流石にね、真剣にやっているからこそ湧き上がった怒りがあったのよ」

 

「ふぅん、それで私のことを裏では銭ゲバババアと?」

 

「かわいいものよね。本当の悪口というのは、もっと下品なの。たとえば●●は単位欲しさに教授と寝ただとか、あの頃はそういう噂ポツポツあったじゃない? 私はそんな品のない悪口は言わないわ。だって、私、本物志向だから」

 

「霧島美穂は人の給料をかすめとる。霧島美穂は些細なことでキレてちゃぶ台をひっくり返す。霧島美穂はなんか変な薬を飲ませようとしてくる。霧島美穂は人の私物をなんか変な店に売ろうとしてくる。霧島美穂はランチの終わりに変な入れ墨を入れようとしてくる。霧島美穂は実家の愛犬を干物にしようとしてくる」

 

「ふむ。よく、覚えてるわね……」

 

おかしいな? アカウントは消した筈だが。

すみれはスマホを確認しようとしてやめた。美穂に睨まれている。

 

「と、とにかく!」

 

すみれはワインを一気飲みすると、伝票を掴み取る。

 

「今日は私が! 過去のお詫びということで!」

 

「……ごちそーさま」

 

「じゃあね、美穂、また会えて嬉しかったわ」

 

「………」

 

「また今度も食事に行きましょ」

 

「………」

 

美穂は何も言わない。

一応、ビールのジョッキを口につけていたからという『表向き』の理由は用意していたが──

なんだか急に、面倒になってきた。

 

「ねえ、すみれ、なんで今日誘ってくれたの?」

 

「だから、それは」

 

「ウソはよくないわよ? 本物志向なんでしょ?」

 

すみれは、しばらくポカンとしていたが──

 

「ふむ、それはそうね」

 

やがて、意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「確かめたかったのよ。今のあなたを」

 

「はぁ」

 

すみれは大学のアイドルグループに所属していたとき、確固たる自信があった。

こいつらのなかで、私が一番美しい。私が一番かわいいという、自負だ。

だがしかし、美穂が助っ人でやってきたとき思わず表情を歪めた。

こいつが、こいつだけが、私の地位を脅かす可能性があるのかもしれないと。

 

「で、感想は?」

 

美穂が問う。

すみれは長く美しい黒髪を掻きあげ、出口の扉に手をかけた。

 

「杞憂だったわ。私の方が美しい」

 

カランカランと音がして、すみれは店を出て行った。

美穂は少し固まっていたが、ビールをチビリと飲む。

 

「いや、私のほうが美人だろ」

 

カランカラン。

音がした。すみれが戻って来た。

 

「いや私よ?」

 

「いやいや私だろ」

 

「いやいやいや、私だってば」

 

「え? は? いや、私ですけど」

 

「あの──! あぁ、いいわ。だったらマスターに聞いてみましょう?」

 

「やめな。自分を傷つけるだけだよ。だって私のほうが──」

 

二人は血走った目でマスターを睨みつけた。

どっちが綺麗だと思います?

厄介な質問をすると、マスターは無表情でこう答えた。

 

自分の妻が一番かわいくて綺麗で素敵だと。

 

 

★

 

 

「ちッ! だるいヤツら!」

 

美穂と別れた帰り道、すみれは自宅マンションの真下に併設されたコンビニに寄って、まっさきに冷凍食品コーナーに向かった。

 

「あの店もカス! クソまずい餃子だったわ! 味がありゃしない!」

 

プレミアム餃子と、乾燥生ハム、裂けるチーズと、度数の高いチューハイをポイポイとカゴにぶち込んでいく。

 

(ワインも高いものだけ揃えて温度管理がめちゃくちゃ! 風味が死んでるっての!)

 

パスタとサラダ、激辛ラーメンも買って、レジに並んだ。

 

(ああもう! ムカつく!)

 

最近、どうにも腹が立つことが多い。

オフィスがおしゃれな旅行会社に就職したはいいが、その際の朝礼がこちらである。

 

『おはようございまぁぁぁあぁぁああウすッッッッ!!』

 

『『『『『おはようございまぁぁぁぁすッッ!』』』』』

 

『声がちぃいいいいせええええええええええええ!』

 

『『『『『おはようございまぁぁぁぁすッッッ!!!!』』』』』

 

『うるせぇええええええええええ!!! 死ねぇエ!!』

 

『『『すみませんでしたァア!!!』』』』

 

『誰に謝ってる!? オラぁ! 山下ァ! お前ッ、誰に謝ってるゥー!』

 

『はい! 先輩ですッッ!』

 

『違う! お客様だろうが!!』

 

『はいッ! すみませんでしたァ!』

 

『アホがコラ! ぜんぶ信じるなァ! 客がどこにいる! お前、見ろ、客いるか? いねぇよな! 客なんていねぇんだ! ぜんぶ自分自身との闘いだろうがてなァあ!』

 

『はいッッ! すいあせんでしたあああ!』

 

『しゃっせぇエ!』

 

『『『『シャッセーッ!』』』』

 

『わっッせェええ!』

 

『『『『ワッセーッッ!』』』』

 

『びっせーえッッ!』

 

『『『『ビッセーッ!』』』』

 

『むっせッッ!』

 

『『『『ムッセェエエ!』』』』

 

『らっせええええ!』

 

『『『『ラッセーッッツ!』』』』』

 

『さっきから何言ってるのぉおおおおおおおおおお!?!?!?!?』

 

二日で辞めた。

履歴書の染みになっただけだったが、聞けばあの会社、夏にはシークレット地獄のドッジボール大会があったらしい。

よかった。地獄もドッジも大嫌いだ。

 

そもそもが、つじつまのあわない会社だった。

カフェのようなオフィスには『我が子を食らうサトゥルヌス』が飾ってあった。

でも、あんなノリなら『闘魂一発』とでも書いたかけじくを飾っておいてほしかった。

 

退職したすみれは『クラウド』というプロダクションを作り、『黒澤くろのすちゃん』というブイチューバーを始めた。

サークルで使っていた配信機材があったし、当時のスタッフであったカーラとアンガ(それぞれ今のハンドルネーム)がイラストと、ソフト系に強かったので、コネを利用して比較的安価に始められたというのがある。

大手に比べれば登録者数は少ないが、個人勢なのでスーパーチャットやメンバーシップ、ボイスなどの収益で、とりあえずは生活できるという具合であった。

 

チヤホヤされるのは悪くない。

とはいえ、褒められ、崇められ、慕われているのがアバターである自分というのは、少しのひっかかりを残した。

自尊心が満たされているようで、どこか胸に穴が開いた気分だ。

だからスマホに残っていた、たいして仲良くない美穂なんかに、連絡を取ってしまったのかもしれない。

 

「おねーさん! お肉とお酒ばっかり! バランスが悪いよ! わたしがお野菜を追加してあげるね!」

 

「え? あ、はい」

 

店員が棚からサラダを持ってきた。合計金額が増えた。

 

「は?」

 

「あったかいほうが消化にもいいし、美味しいよ! わたしがレンチンでホカホカにしてあげるねぇー!」

 

「え? は――って! サラダ!」

 

手を伸ばしたがもう遅かった。

ツインテールの先がくるくると曲がった店員によって、サラダと裂けるチーズがホカホカにされていく。

 

「馬鹿かアンタは!」

 

奥から眼鏡の店員が飛び出してきて、すぐに電子レンジを止める。

 

「すみませんお客様! すぐに交換しますので!」

 

「は、はぁ」

 

二人とも見かけない顔だ。かなり幼いように思える。

きっと子供が、初めてのバイトにここを選んだのだろう。

無駄な時間を取られるのは腹立たしいが、商品を変えてもらえるのであれば、なにも問題は──

 

 

むにっ

 

 

「………」

 

よくわからない。

奥からもう一人、髪の長い女が出てきた。

名札にデカデカと『店長』と書いてあるので、店長なのだろう。

このコンビニを何度も利用するなかで一回も見かけたことはなかったが。

 

その店長がほほ笑み、すみれの下唇を掴んだ。

そのまま下にさげ、歯ぐきをチェックする。

 

「本質を愛し、虚構を忌むのは、誠実さが故か、はたまた新参者の性か」

 

店長は親指の腹と、ひとさし指で、すみれの下唇をフニフニと弄ぶ。

 

「いずれにせよ、時代がわたくしたちを招いたのです。是であれ、非であれ」

 

店長は、すみれのポケットに手を入れ、カードデッキを抜き取った。

はて? こんなもの、持っていただろうか?

そもそもこの状況はなんだ? なぜ他の客が消えている?

すみれは、わけがわからずに、ポカンとして立ち尽くす。

 

「所詮ただの概念、ただの余興がために使われる哀れな道化と言い捨てられれば──それまでですわ」

 

店長の衣装が一瞬で変わった。

コンビニの制服から、修道女を思わせる魔法少女の姿へと。

そこに『黒鳥』の紋章が刻まれる。

 

「ああ! なんて愛おしい! パートナー契約、成立ですわ! すみれ様!」

 

「パートナー……?」

 

「ええ! あなた様は我が半身!」

 

少女はカウンターを飛び越え、すみれをしっかりと抱いてホールドする。

 

「わたくしの名を騙り、舞台装置を遂行しようとする愚か者を処刑し、愛する者のぬくもりに包まれることこそが、切望! それが叶うのであれば、忘却の縁にある貴女の願いをくみ取り、叶えてさしあげますわ!」

 

激しいラテンのステップ、情熱的旋回が、商品棚を薙ぎ払う。

それを見ていたバイト少女、"セルマテレーゼ"は熱にあてられて、昂りを沈めるためにアイスケースのなかに寝そべった。

 

「はぁ」

 

呆れたようにため息をつく眼鏡のバイト少女・"紫(し)丁香(ちょうか)"を越えて、店長とすみれは再びカウンターへと舞い戻る。

 

「う──」

 

すみれは、光を纏うかのような店長を見て、思わずつぶやく。

 

「美しい……!」

 

「素晴らしい! 共に咲かせましょう、大輪の華! わたくしが求める本物、本質、それはただ一つ!」

 

すみれが両手を斜めに突き挙げた。

その真下、カウンターに背中を預け仰向けになった店長が床に向かって両手を斜めに伸ばす。

二人は『X』の文字を作り、ポーズを決める。

 

「世界のすべてを照らす愛! その名は、マルグリート!!」

 

そのとき、すみれは棚の上に珍獣を見つけた。

 

『なにやってんだテメェら……』

 

「えっ!?」

 

『よ、オイラはジュゥべえ。よろしくな』

 

「アナグマが喋った……」

 

『アナグマじゃねぇよ。さっき先輩宛にメッセージが届いてな』

 

騎士を一人差し上げますので、どうか使ってください。という内容だったそうだ。

騎士が増えれば、対応する魔法少女が生まれるのが必然だ。

 

『テメェらはお土産みてぇだわ。受け取り拒否ができねぇってのはめんどくせーが、仕方ねぇ、オイラは歓迎してやるよ』

 

ジュゥべえはニヤリと笑う。

 

『お前らが16人目だ、ファタルペア。黒野すみれと、ワス! せいぜいゲームを盛り上げてくれよな』

 

 

★

 

 

ちょうど同じころ、歩いていた中沢くんに場面は移る。

なぎさに頼まれたチーズケーキと、仁美のために買った紅茶を持って帰ろうと歩いていたら、曲がり角でスーツを着た男性とぶつかってしまった。

 

「あっ! ごめんなさい! 大丈夫ですか!」

 

「いえ、私のほうこそ、すみません」

 

男性が去っていく。

中沢も踵を返して歩き出したが──

 

「失礼」

 

「え?」

 

「落としましたよ」

 

振り返ると、先程の男性がいた。

差し出された手を見れば、アビスのカードデッキがあるではないか。

 

「えっ! あっ! ありがとうございます!」

 

ポケットを探ると、デッキが無くなっていた。

ぶつかったときに落としたのだろう。カードデッキは使用者が一定の距離から離れると、自動的に戻ってくるように設定されているらしいが、それまでに魔女や魔獣が現れたらとんでもないことになっていた。

 

「あ、あれ?」

 

顔を上げると、男性の姿がなくなっていた。

デッキに夢中で、男性が去っていくのに気が付かなかったのかもしれないが、それにしてもあっというまに消えた気がする。

 

「???」

 

違和感は他にもあった。

なんとなく、デッキが重くなったような。

すぐにその違和感は消えたため、本当の気のせいの可能性もあったが、念のためカードをすべて出して、確認してみた。

 

「なんだこれ?」

 

アドベントカードに混じって、明らかにデザインの違うカードが混じっていた。

カマキリが描かれており、ハートマークと『K』のマークからして、トランプのカードの一枚であることが察することができる。

 

「ハートのキング? ジュゥべえ! いるか? なんだこれ!」

 

『やあ』

 

「えっ、あっ、キュゥべえ?」

 

『ジュゥべえは今、他の騎士に会いにいっていてね。ボクがその疑問に答えるよ』

 

「あ、ああ……」

 

『混乱するのも無理はないが、それは仕様だと思ってくれていい。ゲームに関わることだから、詳しく説明することはできないが、奇跡の世界が開かれたことによる恩恵だ』

 

「奇跡……? よくわかんないけど、使えるのか?」

 

『いや、そのカードをバイザーにセットしても今はまだ何も起きないよ。とりあえず持っているだけでいい。キミの力になるかどうかはキミ次第かもしれない。というのも、状況によっては、それがキミたちの足を引っ張る可能性もあるとみている』

 

「なんだよそれ! だったらいらないよ!」

 

『なら、そのカードの意味を理解したときに切り捨ててくればいい』

 

そう言ってキュゥべえは消えていった。

中沢は苦い顔をしながらも、デッキをしまってみんなのもとへ戻るのだった。

 

 

★

 

 

「お前なあ! どういうことなんだよ!」

 

「ごめんってば。ショウさんの店、現金しかダメで」

 

夜。飲み足りないと美穂から誘われ、真司は居酒屋にいた。

美穂から、くしゃくしゃのお札を渡され、思わず鼻を鳴らす。

 

「そっちはどうだったの? 後輩くんができたんでしょ?」

 

「それはっ、なんていうか……べつにいいだろどうだって!」

 

「ははーん。さては、相当優秀だったな? 学歴か? フィジカルか? ボコられたか?」

 

「うるさいな! かわいい子だよ。俺をかなり慕ってくれてるんだ」

 

真司はビールジョッキを手にして、ゴクゴクと飲みほした。

テーブルには餃子や漬物が並んでおり、美穂もそれをつまみながらゴクゴクと喉を鳴らす。

 

「うーん、なんかやっぱ餃子はアンタの作るヤツが一番ね」

 

「よくわかってんじゃん」

 

「アンタに味も心も調教されちゃった」

 

「お前、外で変なこと言うなよ!」

 

美穂は笑った。

真司は、複雑な想いを抱く。

シンジには付き合っていないと言ったが、本当は前回のゲームだって、恋人になれるはずだった。

しかし結果として、美穂は死んだ。リュウガに殺されたのだ。

たしか、いつかの日も、そうだったか。

 

(でも、まだ記憶は戻せない──ッ)

 

繊細な問題だ。真司は唇を噛む。酷く胸が痛い。

二人は他愛もない話をしながら、ジョッキが空になったところで店を出た。

夜道を歩き、帰ろうとするが──

 

途中で、真司は足を止めた。

ひとりの少年が立っていた。

その眼は、たしかに、真司を睨んでいる。

 

「城戸真司だな」

 

随分、整った容姿の少年だった。アイドルと言われても不思議ではない。

タレ目で、ピアスをつけており、髪はピンク色で、よく目立つ。

 

「めっちゃイケメンじゃない! なに、真司の知り合い? 紹介してよ」

 

「なんだよ! 浮気者! じゃなくて、えーっと」

 

真司は唸る。まずい、誰かわからない。

困っていると、少年はため息をついて、鼻を鳴らした。

 

「オレは以前、この男の取材を受けたんだ。その件で少し話がしたい。今から時間はあるか?」

 

そう言われても、全く記憶にない。

だが一瞬、まさに一瞬、少年の顔にモザイク状のエネルギーが掛かった。

真司は、間抜けな表情から一転し、少年を激しく睨みつけた。

すると向こうは、少し嬉しそうに笑みを浮かべたではないか。

 

「女を送ってからでいい。それから、同じ場所で」

 

真司は言われたとおり、美穂を送ってから戻って来た。

少年は真司を連れて、人のいない廃線まで移動する。

 

「素直なヤツだな。わざわざ乗ってくるか」

 

「お前こそッ! どうしてわざわざ!」

 

「周りを巻き込むのは、お前の望みではないはずだ。尤も、お前が拒否していれば、あの場で暴れていたが」

 

少年は腕を組んで、真司を睨み付けた。

 

「オレはアグゼル。閃光のアグゼルだ。ゲームじゃ、ずっとお前の勝ちに賭けてた。おかげでいつも損をする」

 

「なんだよそれ、ふざけやがって……ッ!」

 

「だが、オレの目に狂いはなかったようだな。何体もの魔女や魔獣が、お前に戦いを挑み、そして散っていった」

 

アグゼルは拳を握り、ファイティングポーズをとる。

真司も反射的にデッキを取り出した。

アグゼルはニヤリと笑う。

 

「いいぜ。変身しろ」

 

「なにッ?」

 

「オレの目的は、強いヤツと戦い、叩きのめして殺すことだ」

 

「……やっぱりお前らは、許せない! 変身ッ!」

 

ポーズをとってデッキを装填。鏡像が重なり、真司は龍騎へと変心した。

 

「しゃあッ!」

 

龍騎は気合を入れ、アグゼルを睨みつける。

 

「来い龍騎! お前ら人間は、所詮オレたちを楽しませる駒でしかない。未来永劫な!」

 

アグゼルは地面を蹴って走り出した。

龍騎も向かえ打つため、走り出す。

 

一気に距離が詰まっていき、互いの範囲に入った。

先に動いたのは龍騎だ。

フックを打つが、空を切る。

 

「!」

 

アグゼルは上体だけを後ろへそらし、攻撃を回避していた。

瞬間、龍騎の視界が上を向く。痛みと衝撃が遅れてやってきた。

アッパーで顎を殴られていたのだ。

さらにアグゼルは、がら空きになった龍騎の胸に、渾身のストレートを打ち込んだ。

 

「グアァ!」

 

龍騎は背中から倒れ、そのまま地面を滑っていく。

アグゼルは、すぐにボクサーのようなステップで龍騎を追跡する。

 

「お前には感謝してる。オレも実際にこの手で、参加者を殺したいと思ってたところだ。ゲームに飽きてきたところで、いいスパイスをくれたもんだ!」

 

アグゼルはまず、足を上げ、そのまま踵を振り下ろす。

 

「くそッ!」

 

龍騎はなんとか横へ転がって一撃を回避した。

すぐさま膝立ちになるが、目の前にアグゼルの拳が見えた。

 

「ぐぅう!」

 

龍騎はなんとかアグゼルの手首を掴み、拳が顔に触れる前に止めてみせる。

全力を込めてはみるが、龍騎の手はブルブルと震え、一方のアグゼルは顔色一つ変わっていない。

 

「恐怖と怒りが混ざってる。これはいい! 魔獣にとっては最高のスパイスだ」

 

アグゼルは龍騎の脇腹を蹴る。

吹き飛んでくれるかと思ったが、龍騎はふんばり、耐えていた。

しかもアグゼルの足をしっかりと掴んでおり、体を捻りながら倒れた。

アグゼルも一緒になって転倒する。

 

「くそ……!」『ソードベント』

 

両者、すぐに地面を転がり、立ち上がる。

そのなかで龍騎はカードを抜いて、バイザーへ装填していた。

装備されるドラグセイバー、それを見てアグゼルは鼻を鳴らした。

 

「剣か」

 

「こんのォオオ!」

 

龍騎はがむしゃらに走りながら、メチャクチャに剣を振るって、切りかかる。

アグゼルは目を細め、太刀筋を凝視。体を反らして、刃を回避していった。

 

龍騎は踏み込んで、剣を横へ振るった。

アグゼルは体を捻りながら、バックステップ。

跳躍力は凄まじく、完全に剣の範囲からは外れるが──

 

「ドラグレッダー!」

 

咆哮と共に、空から龍が飛来する。

口から出た炎が、ドラグセイバーの刃へと纏わりつく。

龍騎が再び剣を振るうと、炎の斬撃が発射されて、アグゼルに直撃した。

 

「チッ!」

 

アグゼルは不愉快そうに顔を歪め、纏わりついた炎を振り払う。

既に龍騎は目の前だ。

飛び上がり、そのまま真っ直ぐ下に振るった剣を、アグゼルは白刃取りで受け止めた。

 

「強引だな」

 

「うぉお!」

 

アグゼルは掌で剣を挟んだまま、思い切り腕を振るう。

龍騎の手から剣がすっぽ抜け、そのまま投げ飛ばされていく。

 

「剣を使う人間の戦士は……たしか、侍とか言ったか? お前はただの記者だもんな。格闘技を習ってなければ、訓練もしていない」

 

アグゼルはドラグセイバーを地面に落とし、思い切り踏み潰す。

 

「そんな人間が、オレを殺せるとは思えないが、期待してもいいのか?」

 

するとまた電子音が聞こえる。

 

『ストライクベント』

 

立ち上がった龍騎の周りを飛び回るドラグレッダー。

龍騎の手には、ドラグクローが装備されており、昇竜突破の構えを取っていた。

 

「その技は知っているぞ。よく使っていたな」

 

アグゼルは拳を握りしめ、腰を落として、目を細めた。

 

「ハァアアアアアアアア!」

 

龍騎とドラグレッダーが吼える。

突き出したドラグクローの炎と、ドラグレッダーが放つ炎が交じり合い、巨大な炎塊になった。

その炎はアグゼルのもとへ一瞬で届き──

 

「オラァア!」

 

そして拳で打ち返される。

 

「なッ! ウワァアアアアアア!」

 

炎塊は、龍騎の目の前で爆発。

爆風できりもみ状に吹き飛び、線路に叩きつけられた。

 

「うぅぅ! ぐあぁぁ……ッッ」

 

「お前、想像以上に弱いな。ああ、なるほど、わかったぞ。オレの姿が人間だからか」

 

アグゼルは倒れた龍騎の前にしゃがみこむと、仮面を掴んで顔をひっぱり上げる。

 

「がっかりさせんなよ城戸真司。仮の姿だってことは、わかっているはずだ」

 

「うるさいな! 魔獣が俺に説教すんなよ!」

 

「意志も弱い。少し煽られたくらいで熱くなってちゃあ、底が知れるぜ? そんなことだから、シルヴィスに簡単に操られる」

 

「……? な、なんだよ、それ」

 

「なんだそのリアクションは? まさか、覚えていないのか?」

 

「ッ!?」

 

「お前、虚心星原から、どうやって帰って来た?」

 

「それは――ッ、なぎさちゃんに連れてこられて……!」

 

「そこに佐倉杏子はいたか?」

 

「杏子ちゃんは虚心星原でしか生きられないから別れたって!」

 

「フッ、なるほどな。そういうことか」

 

「なんだよ! なにを知ってんだよ!」

 

「暁美ほむらが、固有魔法の精神操作で、お前の記憶を弄ったんだ。理由は分かるよな?」

 

アグゼルは、ひとさし指で、龍騎を示す。

 

「お前が佐倉杏子を突き落とし、それが結果的にヤツの死に繋がったからだ」

 

「なッ、なんだよそれ。なに言ってんだよ……!」

 

龍騎は跳ね起き、アグゼルを振り払った。

だがその力は、弱弱しい。

 

「だから城戸真司、お前が佐倉杏子を殺したようなものだと言っている!」

 

「!!」

 

「まあ、ゲームのルールで洗脳を使って殺すことはできないように設定されてるみたいだからな。お前じゃないといえばそうなんだが、お前はそれで割り切れないだろ? 今までのゲームや、この戦いだけでもわかることだ!」

 

ほら、今だって。分かりやすく龍騎の動きが鈍くなる。

アグゼルは激しい連打で龍騎を攻める。心が打ちのめされた龍騎は、完全なサンドバッグだ。

装甲はボコボコになり、やがて足裏が胴体に入って蹴り飛ばされる。

 

「お前、いい加減にしてくれ」

 

「ぐぁぁ……ッ! うぅぅッゥ!」

 

「今のままなら、ココで死ぬぞ」

 

「………」

 

間。

 

「チッ!」

 

気がつけば、アグゼルの胸から煙があがっていた。燃える傷があった。

汗を浮かべて、後ろへ下がっていく。

 

「まあいい。いい。それでいい」

 

アグゼルは初めて、地面に膝をついた。

前方では、龍騎が燃えるオーラを纏っている。

 

【サバイブ】

 

炎が鏡のように割れて、四散した。そこに立っていたのは龍騎サバイブだ。

 

「俺は死なない。お前らを倒して、絶対に生き残ってやる!」

 

龍騎サバイブのソードベントは、念じるだけで自由に発動することができる。

ドラグバイザーツバイから剣で展開し、龍騎は腰を落とした。

それを見て、アグゼルは再びファイティングポーズを取った。

 

再び両者、睨み合う。

どちらが合図を出したでもなく、ほぼ同時に地面を蹴って走り出した。

 

「ハァア!」

 

龍騎は、アグゼルを斬りつける。

アグゼルも拳や蹴りで応戦するが──変化はすぐに感じとれた。

明らかに剣のスピードが速くなった。攻撃力も、桁違いだ。

ためしに刃を掴んでみたが、激しい熱と痛みを感じて、すぐに手を離してしまった。

 

そこで龍騎は、回し蹴りでアグゼルを弾いた。

バイザーを銃に戻し、炎弾を連射して、アグゼルに直撃させていく。

 

「!」

 

炎がアグゼルを包み込んだとき、突如として爆炎が吹き飛んだ。

何かが飛び出してきた。そう思ったときには、全身へ衝撃が走っていた。

気づけば、龍騎は再び地面を転がっている。

 

「サバイブか、面白い! たしかに俺たちを殺せる力だ! だからこそ殺しがいがある!!」

 

龍騎はアグゼルの突進を受けたのだ。

その姿はもはや人間のそれではなかった。

モチーフはイノシシ、機械的な姿に、両肩には二対の角がある。

 

「こっちも本気でいく。"ワイルドボーダー"、それがオレの取り込んだミラーモンスターの名だ!」

 

ワイルドボーダーが、地面を蹴って走り出す。

体を起こした龍騎は、すぐに炎弾を連射するが、突進の勢いが衰えない。

ワイルドボーダーの両肩にある角からエネルギーが発生し、突進を強化させているのだ。

とはいえ、高速ではあるものの、動きは直進だ。龍騎は真横へ転がって攻撃を回避した。

 

「ハァア!」

 

「!?」

 

ワイルドボーダーはそのままの勢いで、跳んだ。

両肩の角が動き、先端が前方から、真下へ向けられる。

そこから炎が噴き出て、ジェットのように勢いよく上昇していく。

ワイルドボーダーは体を捻り、龍騎のほうを向いた。

 

「死が見えるか、龍騎!」

 

ワイルドボーダーは右手を強く握りしめた。拳が赤く発光し、エネルギーが溢れる。

 

「そこにあるぞ!」

 

角が回転する。

角先が真下から、後ろに向けられると、一気に炎が噴き出て、爆発的な加速が起こった。

アグゼルは拳を前に突き出し、隕石のように飛んでいく。

 

「メテオスウォーム!!」

 

「がぁああああ!」

 

龍騎は横へ回避しようとしたが、それを上回るスピードでアグゼルが到達した。

かろうじてバイザーを盾にしていたが、拳は直撃しており、龍騎はすさまじい勢いで吹っ飛んで、駅の跡地に直撃した。

 

「ぐッッ、がはッ! ぐッ! うゥ! ウウッ!」

 

龍騎は瓦礫を払いのけ、なんとか立ち上がったが、すぐに膝をつく。

だが、すぐにまた力を込めて立ち上がった。アグゼルが迫っているからだ。

 

「嬉しいぜ龍騎! 今のは殺すつもりで殴ったが、いい防御力だ」

 

「こんのッッ!」

 

龍騎は再び剣を展開し、刃に炎を纏わせた。

リーチと威力を上昇さえてアグゼルに向かっていくが──

 

「スピードはいい。威力もいい。だが動きが単調だな!」

 

剣を振るえど、ワイルドボーダーにはまともに当たらない。

体を反らして避けられるか、角か腕でガードされてしまう。

 

「サバイブで強化されていても、お前自身が弱ければ、なんの意味もない!」

 

反対にカウンターの拳が、龍騎の仮面を、装甲を打った。

 

「―――」

 

龍騎は後退していく中で、杏子のことを思い浮かべた。

高威力の一撃を受けて意識が朦朧としているからか、集中しなければならないのに、考えてしまう。

 

(俺のせいで……杏子ちゃんが──ッ)

 

衝撃が、走る。

ワイルドボーダーの握り締めた拳が、龍騎の胸――

心臓部分に、直撃していた。

 

「………」

 

ゆっくりと、龍騎は倒れた。

世界がスローになっていく。杏子を、死なせてしまったのか。

そもそも、なぜ、杏子は、死んでしまったのだろうか。

それは、きっと魔獣に、殺され──

 

「ん?」

 

ワイルドボーダーから、思わず、声が漏れた。

崩れ落ちるはずの龍騎が、なぜか、そのまま立ち上がったのだ。

あまりに速く、あまりに淡々と。そして頭突きを繰り出した。

シンプルな一撃が、ワイルドボーダーの頭を揺らす。

 

(なに……ッ?)

 

拳はクリーンヒットしていたはず。そう簡単に立ち上がれるダメージではなかった。

なのに、龍騎はすぐに、立ち上がった。なぜ――?

 

(わずかに狙いが外れていたか?)

 

ワイルドボーダーは踏みとどまり、左でジャブを放つ。

 

(ワン!)

 

だが当たらない。龍騎が体を反らして回避した。

ならばと、ワイルドボーダーは踏み込み、渾身の右ストレートを放った。

 

(ツー!!)

 

だが、これも当たらない。

龍騎がワイルドボーダーの手首を掴んで、攻撃を止めた。

今度はワイルドボーダーの手が震えていた。どれだけ力を込めても、腕が動かない。

 

「お前らが──だ」

 

「んん?」

 

「お前らがッ! いるからだァアア!」

 

龍騎の拳が、ワイルドボーダーの胴体に入った。

殴られたところが爆発を起こす。

ワイルドボーダーは煙をあげて、後退していった。

 

(なんだ? 拳が見えなかったッ!?)

 

なにより──熱い。痛い!

 

「ウォオオオオオオオオ!」【ストライクベント】

 

龍騎が飛び、ランザークロウを装備した腕で殴りかかって来た。

ワイルドボーダーはステップでそれを回避するが、ランザークロウから炎が放たれ、それが剣の形となる。

龍騎は踏み込み、それを思い切り振るった。

 

「ヅリャアアア!」

 

「なにッ! ぐゥゥ!」

 

剣のリーチが長すぎる。

ワイルドボーダーは回避を諦めて腕を盾にして受け止めるが、凄まじい熱と威力に動きが止まった。

龍騎はその隙に、カードを抜いて、バイザーへと装填した。

 

【シュートベント】

 

光線が直撃し、防御を崩す。

後退していところへ、ドラグランザーが放った炎が直撃した。

 

「ぐぁぁあアア!!」

 

煙をあげて、ワイルドボーダーは地面を滑っていく。

 

「なるほど、なるほどな……ッ! 火事場の馬鹿力だったか? 人間にはそういう機能があると聞いたが」

 

そこで、ワイルドボーダーは、ピタリと止まった。

龍騎の姿が消えたのだ。

かわりに足元にあったのは、警告音を放つ無数の爆弾。

 

「まあ──」

 

魔獣が現れた際には、参加者たちに出現音が流れるわけで。

 

「そうなるか」

 

爆発が起こった。

ワイルドボーダーはすぐに蹴りで爆炎を吹き飛ばす。

離れたところに龍騎がしゃがみこんでいるのが見えた。

かわりにワイルドボーダーの前に、暁美ほむらと、神那ニコが立っている。

 

「うちの城戸くん、いじめんなよー」

 

「消えろ。オレに女を殴る趣味はない」

 

「ガチ? 聞いたか、ほむほむ。相手は無抵抗だぞ」

 

「ええ。ボコボコにしましょう」

 

構える二人を見て、ワイルドボーダーはため息をついた。

すると肩の角が動き、先端が前方に向けられる。

光が生まれ、それがだんだんと大きくなっていく。

 

「ん? なんか、やばくね?」

 

そもそも、ワイルドボーダーのシルエットはアビスハンマーに酷似しているような。

さらに、ワイルドボーダーの両腕に出現する盾。

それもまた、銃口があり、光っている。

 

「殴らないだけかよ!」

 

その通り。

ワイルドボーダーは、角型のキャノンと、腕の盾からエネルギー弾を発射した。

それは猛スピードで飛んでいき、爆発を巻き起こす。

 

「便利だな」

 

もちろんワイルドボーダーは、今までのゲームを見ている。

こんな攻撃が通用しないことは、わかっていた。

 

「時間を止められるのは」

 

爆炎の向こうには、何もない。

一方で、背後では、ニコとほむらがそれぞれバールと剣をワイルドボーダーに突き入れていた。

 

しかし装甲は硬く、さほどダメージは与えられていないようだ。

ワイルドボーダーは回し蹴りでほむら達を牽制すると、人間態に戻る。

 

「は? なんだ?」

 

「見ればわかるだろ。この姿で十分だ」

 

「馬鹿にされたものね」

 

ほむらは悪魔を呼び出そうと、力を込める。

だがそこで、ニコが遮るように前に立つ。

 

「なに?」

 

「ここは私が。そっちは城戸を守っててくれ」

 

ここ最近、時間はあった。

ましてやカンナの登場。ニコにも思うところがある。

今までの戦績。魔獣に通用しなかった攻撃の数々。そろそろ変えねばなるまいて。

 

「新しい力を手に入れたのは、こっちもなのさ」

 

ニコはそう言ってスマホを取り出す。

 

「魔獣、お前で実験してやる」

 

「いいだろう神那ニコ。お前の印象を、ぜひ更新させてくれ」

 

魔法アプリ・レジーナアイの隣に、新しい魔法アプリがあった。

それをタップすると、おふざけで作った企業名が表示され、さらにニコの顔が書いてあるロゴマークが表示された。

続いて『Loading...』の文字と共に、キュゥべえのシルエットが画面の右下で走る。

画面が切り替わり、見滝原の夜景が映し出され、白い羽が落ちてくる。

それが花びらに変わると、青空が表示されてタイトル画面が映し出された。

 

「ででッ! でぇで! ででッ! でっでー! てれれれー、れれれー、てーれれれー」

 

ニコが収録したタイトルコールが流れた。

 

『マギア! レコード!』

 

余裕なのか、興味があるからか、アグゼルは腕を組んで沈黙していた。

 

「まずは、お前を、異空間に隔離する」

 

背景変更。

一覧が表示され、『巣立ちは空を見上げて』をタップした。

すると、周囲の空間が変化。廃線から『公園』の中に変化する。

 

「疑似的な魔法空間だ。これで周りに被害はでないし、お前を閉じ込めておける」

 

「安心しろ、オレはもとより、一般人に興味はない」

 

「そりゃありがたい。でもここなら、周りがどれだけブッ壊れてもいい」

 

ニコはスマホをシェイクするように何度も振った。

シャカシャカシャカとだんだん音が大きくなっていく。

 

そして、思い切りスマホを振るった。

すると画面から、三色の円盤が飛び出していき、フィールドの至るところに浮遊していく。

青い円盤には『アクセル』とあり、黄色い円盤には『チャージ』、赤い円盤には『ブラスト』と記載されていた。

 

「これは……なんだ?」

 

「ディスクだ。アクセルディスクは──」

 

ニコは飛び上がり、浮遊している青色のディスクにバールをひっかけると、ブランコのように勢いをつけて飛び上がる。

一瞬だった。ニコは猛スピードで、アグゼルの背後にある、べつのアクセルディスクまで移動して、そのまま着地する。

 

「このようにディスクからディスクまで一瞬で移動できるわけだ」

 

アグゼルが振り返ったときには、ニコは既にバールで黄色のディスクをひっかけていた。

 

「チャージディスクは──」

 

バールの先端にあったディスクで、アグゼルを殴った。

ディスクが粉々に砕け、アグゼルの体がわずかに黄色く発光する。

 

「このように、エネルギーを蓄積させる」

 

意味を理解したのか、アグゼルは手で銃のジェスチャーを取る。

まっすぐに伸ばした人さし指と、中指から、実際に光弾が発射された。

 

一方で、ニコは、後ろへ跳んでいた。

手をかざすと、チャージディスクたちが飛んできて、前方に集中する。

そこで、生成の魔法の発動だ。ディスクが盾に変わり、光弾を受け止める。

衝撃で割れる盾、その破片を、ニコは魔法でミサイルへと変えた。

 

「プロルンガーレ!」

 

黄色いミサイルがアグゼルの周囲に着弾していく。

爆発が起こり、アグゼルの体がより強く発光していく。

 

「もうわかってると思うけど」

 

ニコが指を鳴らす。

赤いディスクがミサイルに変わり、飛んでいった。

アグゼルはそれを光弾で撃ち落とすが──

 

「!」

 

気づく。ニコが消えている。

素早く周囲を確認するが、いない。

 

「ベルデの力か」

 

「おお」

 

声が、後ろからした。

アグゼルは背中に衝撃を感じた。

透明化を解除したニコが、ボクシングクローブをつけて、アグゼルを殴っていたのだ。

 

「このグローブは、ブラストディスクを再生成してできたも──」

 

説明の途中だが、赤い爆発が巻き起こり、アグゼルがブッ飛んでいった。

 

「期待以上だね」

 

チャージディスクで蓄積させたエネルギーを、ブラストディスクで解放させる。

 

「痛かったか、イノシシ野郎」

 

「そうだな、情報を更新する必要がある」

 

立ち上がったアグゼルからは、血のように瘴気が流れていた。

額から流れる黒いそれを、拳で拭う。

 

「神那ニコも、少しはやるようだ」

 

「そりゃ、素晴らしい。ついでに、記念すべき最初の犠牲者になってもらおうか」

 

ニコは画面をスワイプする。別の機能を使うようだ。

ちょうどフィールド外にいたほむらの前に、ホログラムのモニタが出現する。

なにやら手形が表示されているが──そこでニコからのテレパシーで説明が入った。

ほむらは頷くと、言われたとおりに画面に手を置く。

 

「コネクト!」

 

ニコが魔法名を告げる。

仁美と魔法と同じ名前だが、いろいろな意味を含めたつもりだ。

効果は、対象の魔法少女の力をニコが借りることができるというものだ。

ほむらが画面越しに発動した魔法が、ニコのスマホを中継して放たれる。

馬の姿をした"バティン"と名付けられた悪魔が現れ、ニコに『西洋剣』を与えた。

 

「おほむの悪魔パワーなら──」

 

手をかざすと、チャージディスクが吸い寄せられる。ニコはそれを斬った。

破片が剣に集中し、刃が黄色に染まる。

 

「火力を補えるね」

 

さらにニコは再生成で、アクセルディスクを青い鞘に変えて、剣を収めた。

納刀したままの剣を構え、腰を落とす。

 

「必殺、よくあるヤツ!」

 

剣を抜いた。

アクセルの力が付与されたようで、ニコは一瞬でアグゼルを切り抜けていた。

黄色い斬撃が、幾重にもアグゼルへ刻み付けられていく。

そのままニコは振り返り、ナイフに変えたブラストディスクを──

 

「チッ!」

 

アグゼルは舌打ちと共に、バク宙で距離を取る。

ニコも舌打ちを零した。アグゼルは指から光弾を連射して、ナイフはおろか、周囲にあったブラストディスクをすべて破壊していったのだ。

アグゼルが着地すると同じくして、すべてのブラストディスクが消えてしまった。

 

「どうだ、これで起爆はできないぜ」

 

「と、思うじゃん?」

 

画面にはAPという項目があった。

最大値は100だが、今は30と表示されている。

 

「これを消費してディスクを作ることができる。だからまだちょっと作れるんだなこれが」

 

スマホを振った。ブラストディスクが少量ではあるが、飛び出してくる。

ニコは手をかざし、ディスクを自分の前に一列に並べた。

 

チャージ、チャージ、チャージ、ブラスト、アクセル。

 

意味を理解したのか、アグゼルは掌を前に出して、エネルギーを爆発させる。

爆風で、アグゼルは一気に後退。ニコから距離を取る。

 

「くらえ! レンデレ・オ・ロンペルロ!」

 

バールの先から黄緑色のエネルギービームが放出された。

まずは三つのチャージディスクを破壊し、黄色に染まる。

さらにブラストディスクを破壊したとき、ビームが真っ赤に染まり、太くなる。

最後にアクセルディスクを破壊したことで、ビームのスピードが上昇。

高威力のレーザービームがアグゼルに向かっていった。

 

攻撃を強化させただけではなく、この攻撃自体がブラスト判定のため、アグゼルに与えればさらなるダメージを引き出せるのだが──

 

「ハァアアアア……ッ!」

 

アグゼルは地面を滑りつつ、構えをとっていた。

両手の掌を合わせると、間にエネルギーがチャージされる。

そして両手を前に突き出すと、巨大なビームが発射された。

それは、ニコのレンデオロンペルロに直撃し、かき消してみせる。

 

「かめはめ波かよ! なんだそりゃ」

 

ニコは表情を歪める。

アグゼルの攻撃の勢いがまだ死んでない。

ビームが迫り、回避の道を探ってみるが、ご丁寧にビームが幾重にも分離して枝分かれしていく。

 

「どこに逃げようが、追尾するぞ」

 

アグゼルが教えてくれたので、ニコは回避をやめてスマホをスワイプさせて、画面を突き出した。

 

「メモリア!」

 

ニコの背後に、一枚の写真が現れる。

まどかと一緒に撮った自撮りだ。催促したのだろう。

ピッタリとくっついて、それぞれの手を合わせて、ハートマークを作っている。

そんな写真がニコを通過すると、光が彼女の体を包みこみ、何度か発光を繰り返す。

 

「ピシュン! ピシュン! ビニューン!」

 

口でSEを。

 

「ッ?」

 

ビームがニコに直撃していくが──ニコは、しっかりと立っていた。

 

「なんだ?」

 

「今の私は防御力アップ、状態異常耐性アップ、ダメージカット状態だからな」

 

「???」

 

「まどかとの思い出が、守護魔法を私に与えたのだ」

 

「よくわからないが、いろいろあるな。次は何を見せてくれるんだ?」

 

「ほな、こんなのはどうじゃろか」

 

ニコがスマホを振ると、何かが出てきた。

 

「キュゥべえか……?」

 

そう、ニコが生み出したのは、紛れもないキュゥべえである。

しかしサイズが小さいし、なんだか姿も可愛らしい。

 

『モキュ(愛)!』

 

鳴いた。ニコはニヤリと笑う。

 

「どうだ? 私のアシストアニマル、小さいキュゥべえさ。そもそも一番はじめに、ジュゥべえを作ったのは私なわけで? これくらい、楽勝」

 

名前はミニべえでも良かったが、それではニコのイマジネーションは満足できない。

 

「名は、喪九(もきゅう)とさせてください!」

 

「………」

 

「いけ喪九! あの魔獣に纏わりつけ!」

 

『モキュ(了)!』

 

喪九はテテテと走り出し、アグゼルに向かっていく。

ニコは頷く。喪九は戦闘能力は低いが、ひっかいたり噛み付いたりはできる。

さらに敵はあの愛らしい姿に惑わされ──

その時だった。ピョンと跳ねた喪九、その顔面にアグゼルの拳が叩き込まれたのは。

 

「モギュウェアアアアアアアアアア(死)!!」

 

喪九、消滅。

 

「モキュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」

 

天を仰ぐニコ。アグゼルは鼻を鳴らした。

 

「その機能は削除しておけ。時間の無駄だ」

 

「ざけんな! よくも私のペットを! 修復するのに時間が掛かるんだぞ!」

 

「もう終わりなのか? マギアレコードとやらは」

 

「まあ……おん。終わりだね――」

 

そのとき、アグゼルの背後の空間が歪んだ。

なにもなかったところから、バイオグリーザーが現れる。

 

「ちなみにお前も終わるけど」

 

バイオグリーザーが伸ばした舌の先にはブラストディスクが巻き付けてある。

体を捻り、舌を鞭のように振るってディスクをアグゼルの背中に叩きつけた。

 

「ッッッッ!!!」

 

大爆発が起こり、アグゼルの背中がはじけ飛ぶ。

だが、倒れない。

アグゼルは踏みとどまり、すぐに背中は修復されていった。

 

「フフフフ……ッ! ハハハ! 今のはなかなか痛かったぜ」

 

「チッ、硬いな、お前」

 

「オレは強いぞ」

 

フールズゲームで誰が生き残るかを賭けた際、最後の一組にならずとも、最後の方までの残っていれば、いくらかは褒美のコインが貰える。

たくさんの絶望と瘴気で形成されたそれは、魔獣にとっては最高の嗜好品だ。

とはいえ、それを快楽のために使えば消えてなくなってしまうが、肉体強化のほうに当てることもできたと。

 

「オレは少ない褒美を自身の強化に使っていたからな。城戸真司のせいでハイにはなれなかったが、今こうしてお前たちを苦しめらていると思うと、無駄ではなかったようだ」

 

「イラつくね、その言葉」

 

「お前らがそれだけ繰り返した結果だ」

 

アグゼルは拳を振り落とし、地面を殴る。

えんじ色の光がドーム状に広がり、ニコが作った仮想空間を吹き飛ばす。

廃線に戻ると、ニコを守るように龍騎とほむらがすぐに割り入って来た。

 

「これはいい。最高だ。この調子なら、オレも死ぬ可能性があるな」

 

「なんで嬉しそうなんだよ!」

 

龍騎の苛立ちを感じ、アグゼルはニヤリと笑う。

 

「お前ら少し、バカすぎたからな。そういうのを見て笑うのもよかったが、度が過ぎるのはよくないぜ」

 

アグゼルが指を鳴らすと、左右に従者型の魔獣が三体ずつ、計六体が現れる。

さらに龍騎たちの背後には、新たな姿の下級魔獣が出現した。

 

"ゴウマ型"、顔は髑髏だが肉体は人間の男性である。

下半身はなく、腕を使って移動するようだ。頭には目や口がコラージュされていた。

 

「戦いを止めると何回ほざいても、何も止められなかったバカや──」

 

アグゼルは龍騎を見て笑った。

ゴウマ型が、左右に広げた巨大な腕を閉じて、龍騎たちを押しつぶそうとする。

 

しかしすぐにゴウマ型の悲鳴が聞こえた。

半分に割れたトリケラトプスの盾が左右に出現し、角がゴウマ型の掌を貫通したのだ。

これは、ほむらが召喚した悪魔だ。

 

ほむらが手を叩くと、割れたトリケラトプスが一つに戻る。

ほむらが蹴り飛ばすようなジェスターを取ると、トリケラトプスの頭部がシンクロするように発射されてゴウマを押し出していった。

 

「友達を救うとほざいても、何回も死なせるバカ」

 

アグゼルは、ほむらを見て、嘲笑する。

そんな彼の全身にモザイク状のエネルギーが迸っていく。

 

「逃げるの?」

 

「帰るんだよ。オレも活動時間がある。それに──」

 

まだ殺しあってもいいが、それじゃあアグゼルは満たされない。

 

「もっと強く、賢くなってもらわないと。特に城戸真司、今のお前じゃ魔獣には勝てない。中も、外も、まだまだだ」

 

「はー? 今までをご存知でない!? しっかりばちこり勝ってますがな!」

 

ニコに煽られるが、アグゼルは笑みを崩さない。

 

「大人なんだろ? チューボーのガキにメンタルまで負けてちゃ情けがないぜ? ククク、ハハ!」

 

従者型の顔に張り付けられた、モザイク状のエネルギーが光る。

それを見て、龍騎はデッキからカードを抜いて、バイザーへセットした。

 

【ガードベント】

 

従者型が、一斉にレーザーを発射するが、割り入るドラグランザー。

ガードベント・ファイヤーウォール。全身に炎のエネルギーが纏わりついておりレーザーは炎に触れて蒸発するように消滅した。

それを見て、龍騎は二枚目のカードを装填して走り出す。

 

【ファイナルベント】

 

地面を蹴って一回転。両足を突き出すと、ドラグランザーが炎のエネルギーを与える。

 

「ダアアアアアアアアアアア!」

 

サバイブライダーキックが従者の一体に直撃すると、大爆発を巻き起こして、周囲にいた従者をまとめて消し飛ばす。

ゴウマ型の前にいたほむらも、漆黒の翼を広げて、弓の弦を引き絞る。

黒い光が集中し、手を放つと、強化された光の矢・ダークネスアローが発射される。

 

ゴウマ型は腕をクロスさせて防御態勢をとったが、矢はお構いなしに腕や肉体を貫通。

ゴウマ型は、悲鳴と共に爆散した。

 

「イノシシ野郎は?」

 

ニコが辺りを探るが、アグゼルは既に消えていたようだ。

 

「ん?」

 

ニコは魔獣が消えたところに、ジャラジャラとなにかが落ちているのに気づく。

すると脳内に、キュゥべえの声が。

 

『やあ、それはグリーフキューブだよ』

 

「なん、それ?」

 

『The・ANSWERでは、魔獣を倒してもソウルジェムの穢れが払えることは説明したよね?これからは、下級を含めて魔獣を倒したときにさらに追加でそのキューブが手に入る。グリーフシードには劣るが、穢れを払う力があるから、積極的に使っていってほしい』

 

「それはありがたいが……なんで今になって」

 

『確定要素ではないため混乱はしないでほしいんだが、どうやら想定外の敵が増える可能性が出てきたんだ』

 

「は?」

 

『そうなると当然、戦闘の機会も増えるかもしれない。その埋め合わせと思ってほしい。申し訳ないが、ゲームにも関係することだから、ボクから言えるのはここまでだ。じゃあ、頑張ってくれ』

 

テレパシーが切れた。

 

「やれやれだ。ま、もらっておこうか」

 

ニコはキューブを拾い、ほむらと分けた。

ソウルジェムを近づけると、キューブが吸い込まれていき、穢れが消えるシステムらしい。

三人は変身を解除する。真司はへたりこみ、大きく項垂れた。

 

「ほむらちゃん」

 

「?」

 

「虚心星原で、杏子ちゃんって……どうなったんだっけ」

 

「………」

 

「魔獣のヤツ、俺が、落としたって……」

 

ほむらは頷いた。

真司に、虚心星原でのことを嘘偽りなく語った。

 

「ごめんなさい。城戸真司、佐倉杏子のこと、気にすると思って」

 

「いや、いいんだ。ありがとう、ほむらちゃん。結局、引きずっちゃうから」

 

「貴方のせいではないわ」

 

「でも、俺が落としたのは変わらない……」

 

「杏子は戻ってこれた。でもできなかったのは、次に私が撃ったからよ」

 

「!」

 

「あなたは、私が杏子を殺したと言いたいの?」

 

「違う! それは絶対に違う!」

 

「なら、貴方も絶対に違うわ」

 

ほむらはへたり込んでいる真司に視線を合わせ、肩に手を置く。

 

「落ち込む気持ちは大事だけど、それで杏子は帰ってこない」

 

「ッ」

 

「今いる杏子に思い出してもらうために、私は前に進むわ。貴方はどう?」

 

「それは――ああ、そうかも」

 

「元気を出して、貴方が落ち込んでいたら、まどかも悲しむわ」

 

ほむらはそう言って、歩いていく。

ニコも真司に駆け寄ると、優しくポンポンと肩を叩き、何かを差し出す。

 

「これをあげよう。さっきコンビニでプリンを買ったときにもらったスプーンとおしぼりだ。これで手を拭いて、甘いものを買って、このスプーンで食べなさい」

 

そういってニコは帰っていった。

真司はスプーンを見つめながら、深いため息をついた。

 

 

★

 

 

「どうだ? 世界が融合した感想は」

 

「味わったことのない感覚だ。さっきまですっかり忘れてたわけだし」

 

夜、喫茶店。辰巳シンジがコーヒーのカップを見つめている。

その向かい側では、門矢(かどや)士(つかさ)が、メニューを睨んでいた。

 

「忘却の魔女(イツトリ)の力が不完全ながらも働いているんだろう。世界には、ある程度、適応力もある。それらが合わさって、異物のお前にも居場所ができてるって訳だ」

 

「よく、わからないな。どうすれば元の世界に帰れるんだ?」

 

辰巳シンジは、城戸真司がいる世界の住人ではなかった。

城戸真司たちがいた龍騎の世界とは、べつに存在していた龍騎の世界の住人だったのだ。

 

「ほっとけば、そのうちに妖精共が気づいて、戻されるんじゃないか?」

 

「じゃあ、それを待てばいいのか……」

 

「そもそもなんで来た?」

 

シンジは、士が連れてきたわけではない。

士が感じとっていたのは大きな時空の歪みだ。

虚心星原や、ユイデータ―のせいなのだろうか、世界の壁が薄くなっていた。

今回の来訪も、それが原因なのかもしれないと。

 

「オレも詳しくはわからない。ただ――」

 

シンジは自分の世界で、魔法陣を見つけた。

 

「そこから、助けを求める声が聞こえた気がする」

 

声と言っても聴覚で感じ取るものではない。

よくわからないが、そんな気がしたという漠然なものだ。

しかも見知っている灰色のオーロラではなかったため、戸惑ったという。

とはいえ──飛び込んだ。

 

「我ながら、無謀な行動だったと思うよ」

 

「そうさせる、理由があったのか?」

 

「え?」

 

士は二眼レフでシンジを撮る。

 

「俺は、写真家だ。観察眼をナメるなよ」。

 

「まいったな。気づいてたのか。そういうことには疎いかと思ってたよ」

 

落ち込んでいるのが見通されてたようだ。

シンジは、ばつが悪そうに、けれども少し嬉しそうに笑う。

 

「じつは、また、ライダー裁判に参加していて」

 

シンジ世界では、騎士――ライダーを使った裁判システムが構築されていた。

被告人や被害者の関係者13人がライダーとなって戦い、最後の一人になったものが判決を言い渡すことができるというものだ。

 

「今回は、かなり特殊な裁判だった。被告人の身元が一切わからないみたいで、関係者を割り出そうにも、うまくいかなかったみたいだ」

 

奇妙な事件ではあった。

というのも、被告人が行ったことが殺人教唆であることだけは伝えられたが、具体的に何をしたのかや、被害者の情報が一切公開されなかったのだ。

 

「被害者の関係者もわからなかったから、特例としてかつて裁判に参加したことのある人間がランダムでライダーに選ばれた。それでオレが龍騎に……」

 

被告人との面会は許されたので、事情を聞きにいったが、その女性はひどく混乱していて、自分が何をやったのかはわからないようだった。

そもそも逮捕や、検察、という話でもなかった。

なんでも、気が付いたら留置場にいたという。

他のライダーは、薬でもやっているのかと疑っていたようだが、シンジはそう思わなかった。

とはいえ、なにか決定的なヒントを掴めたわけでもなく、そのまま裁判が始まってしまった。

 

「……で、負けたよ。それも絶対に負けちゃいけない相手に」

 

そのライダーは王蛇として参加していた。

被告人のことなんて、事件のことなんて、まともに考えてはいない人間だった。

彼はコイントスで判決を決めると言う。

 

表が出れば死刑、裏が出れば無罪。

その結果、被告人は死刑になった。

それが許されるのが、ライダー裁判だ。

 

「許されるわけがない。そう思うだろ、士」

 

「ん? ああ」

 

士は、一生懸命にレーズントーストからレーズンをほじくり、除外していた。

 

「おい! 真面目に話してる!」

 

「吼えるな。だいたいわかった」

 

士は、テーブルの上に龍騎のカードデッキを置いた。

 

「どうして……!? 裁判で、砕かれたのに」

 

「仕方ない。それが、お前だ。今は異世界観光でもしておけ。見滝原はどうだ?」

 

「まあ、悪くないよ。城戸真司って人に会った。彼とチームを組んでるんだ。なんだか他人の気がしない」

 

「それはけっこう」

 

士は穴だらけのトーストを掴むと、ガブリと豪快に口に入れた。

 

 

☆

 

 

翌日。今日は、土曜だ。

ファミレスに、まどか、ほむら、マミの姿があった。

 

ほむらは500円のモーニングに、100円を追加して、パンをフレンチトーストにしてもらった。

運ばれてきたそれを睨むと、ナイフで切って、フォークで突き刺す。

そして大きな口をあけると、一気にほお張ってみせる。

 

「……うんまい」

 

「ぶふっ!」

 

思わず吹き出すマミ。ほむらは訝しげな表情で、マミを睨みつけた。

 

「なに? 巴さん、失礼よ」

 

「ごッ、ごめんなさい。そういうの珍しいなって思って」

 

見れば、まどかも笑って頷いている。

ほむらは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めと、気まずそうにコーヒーを飲んだ。

 

「いいじゃない。もっと食というものを楽しもうって決めたの」

 

「いいと思うよ。美味しそうに食べるほむらちゃん、とっても可愛いし!」

 

「恥ずかしいから、やめて。ほら、まどかも食べて、とっても美味しいわ」

 

さて、これからどうしようか。

じつは前日、ほむらはまどかにある相談をしていた。

城戸真司が酷く落ち込んでいるから、なんとか元気付けてあげられないだろうかと。

 

「まあ、あれは、ね……」

 

マミは紅茶を見つめて呟く。彼女も杏子に言ってしまった言葉や、行動は覚えている。

 

「でも、悪いのは全て魔獣よ。落ち込むことと、引きずることは違うわ」

 

「そうですよね……」

 

まどかは窓の外を見る。

落ち込んでいて、また何かを失うよりは、前に進んだほうが良い。

少々、言い聞かせるように無理をしているところはあるが、強引にでも気持ちを立て直さないと、もっと大切なものを失ってしまう。

 

「そう言えば、見滝原にネコちゃんがいるカフェができたみたいなんだ。真司さんワンちゃんは苦手みたいなんだけど、ネコちゃんなら大丈夫かも」

 

「いいわね! 動物と触れ合えば、気分がリフレッシュするかもしれないわ。アニマルセラピーっていうものもあるらしいし! 暁美さんもそれでいい?」

 

ほむらは頷きながら、ナイフで目玉焼きの黄身を潰して、ベーコンと絡ませて口に入れる。

 

「……おいしい」

 

「ふふっ、よかったねほむらちゃん」

 

「なにか複雑な味がするわ」

 

「スパイスハーブじゃないかしら。あ、ちょっと暁美さん、口周りが凄いわよ」

 

黄身が垂れに垂れまくっている。マミは紙ナプキンで、ほむらの口を拭った。

少し気まずそうにしながらも、抵抗せずにグニグニとされるがままに拭かれている様を見て、まどかは再びほほ笑んだ。

そこでハッとして、まどかはスマホを覗く。

 

「そうだ。今日は真司さん、お仕事があるみたいなんだよね」

 

「あら、取材かしら?」

 

「そうなんですよ。たしか――」

 

 

 

真司とシンジ。

二人は現在、見滝原の駅前にいた。

 

「ようし、じゃあ辰巳くん、行こうか」

 

「はい。良い人が見つかるといいですね」

 

今日もコラボ雑誌のワンコーナーの取材である。

編集長の提案なのだが──真司は少し呆れた表情で企画名を見た。

 

『YOUは何しにレッラーイww』

 

「なーんか、どっかで見たことあるんだよなぁ」

 

企画内容としては、見滝原にやってきた海外からの観光客に密着して、いろいろ話を聞こうというものだ。

 

「マギチューブでも人気があるコンテンツですよね。おいしいものを食べてもらうときのリアクションがとくに好まれるみたいなんで、それは撮りたいかも」

 

「だったら! この前の洋食屋に連れていけばオッケーかもな!」

 

休日ということもあって、行きかう人は多い。

外国人を見つけるまでに、時間はそう掛からなかった。

一人、赤いラインが二本入った黒いジャケットを着て、リュックを背負った青年がいたので声をかけてみる。

 

「ア、アノ、ハジメマシテ、ワタシ、キドシンジ……」

 

「き、城戸さん。それ全部日本語です!」

 

青年は笑みを浮かべて、サムズアップを。

 

「大丈夫。日本語できるよ、ボク」

 

「ぉ、おお! ナイス! センキュー!」

 

「城戸さん! 今度は城戸さんが英語になってます!」

 

「そ、そっか。すんません。あ、っと! 日本の雑誌記者なんですが、今、少しインタビューをしてて、お時間いいですか?」

 

「あー……かまわないよ、大丈夫。ボクはキット・テイラー、よろしく!」

 

 

★

 

 

少し広めの公園。

遊具があって、ベンチがあって、自販機もある。

そこに真司たちはやって来ていた。

 

「ボクのことは、キットでいいよ。えっと──真司とシンジか。ちょっとややこしいな」

 

「じゃあボクは辰巳って呼んでください」

 

「オッケー。でも、いいのかな? 密着してくれるのは構わないんだけど、目的がないんだ」

 

キットは肩を竦める。

先日20歳を迎えた彼は、なにか記念に残るようなことがしたいと、自由気ままなノープラン旅をしてみようと考えた。

 

「日本には前から一度、来てみたかったんだ。ボクはバイクが好きで。日本のバイクは出来がいい。あと、食べ物は美味しいらしいしね」

 

「そりゃあもう! 俺、おごるからさ! この後どうかな」

 

「ほんとに? いいね! お願いするよ! できれば和食がいいな。昨日なんて、スシかテンプラかさんざん悩んだのに、結局ピザを食べちゃったよ」

 

ウォールナッツはメニューを見たが、かつ丼なんかもあった。問題はないはずだ。

 

「ところで、日本語、お上手ですよね? どこかで勉強を?」

 

「友達が本屋で働いてるから、よく行くんだ。そこで日本語について書いてある本があって暇つぶしに読んでたら覚えたよ」

 

キットは、さきほどコンビニで買ったお茶を飲む。

 

「ワオ、苦いね。でも美味い」

 

「見滝原にはなんで?」

 

「あぁ、ちょっと……その、変に思われるかもしれないけど、お告げみたいなのがあってさ。いや、なんていうか――直観みたいなものだよ」

 

正直、見滝原の行き方もよくわかっていなかったが、気がついたら辿り着いていた。

あまりにもスピリチュアルな話なので、それを真司たちに語ることはなかったが。

 

「ところで──」

 

キットは、公園の端でしゃがみ込んでいる小学生くらいの男の子を見つける。

 

「あの子は何をしてるの?」

 

男の子は、ずっと下を向いて固まっていた。ピクリとも動かない。

 

「日本の子供はああいう遊びをするのかな?」

 

「いやッ、そんなことないけど」

 

もしかして気分でも悪いのだろうか? 真司は、すぐに駆け寄った。

 

「どうした? なに、やってんの?」

 

「アリ、みてる」

 

かわいい子だなぁ、真司は思わず微笑んだが──

 

「愚かな生き物だよなコイツら。おれが踏み潰せば、みんな死ぬのに、それを知らずに右へ左へ、ご苦労なこった」

 

嫌な子だなぁ……真司は唇を噛む。

 

「キミ、名前は? 俺は、城戸真司」

 

「竜生(たつお)」

 

「竜生くん。あのな、この地球ではみんな一生懸命に生きてるんだ。おけらだって、なんだっけ? こけし? 蚊? あれ? ま、まあとにかく、みんな友達なんだよ」

 

「大丈夫、殺さない。殺すのは三流以下だからな。大切なのは、このアリンコどもの生殺与奪の権を握っていることを自覚することなんだ。こいつらにとって、おれは、神。圧倒的上位存在であることを噛みしめてる。虫けらどもよ、愚かに、必死に、美しく生き踊れ」

 

ややこしい子だなぁ……真司はまた、唇を噛む。

するとその時だった。

不快な耳鳴りが聞こえたのは。

 

(魔獣!?)

 

真司は立ち上がると、周囲を確認する。

すると、宙に浮かぶダークオーブを見つけた。

闇が満ち、弾け、一瞬で魔女結界が構築される。

 

「マズイッ! みんな! 集まるんだ!」

 

真司は竜生の手を取ると、急いでシンジたちのもとへと戻った。

同じくして、上空から、立ち耳の魔女・キャンディが降ってくる。

一見すれば無害そうなピンクのウサギちゃんだが、虚心星原でユウリが呼び出していたような。

 

「凄い! あれはなに? やっぱり日本のキャラクターはキュートだね!」

 

キットが近づこうとするのを、真司は羽交い絞めにして止めた。

 

「や! いやいやッ! 待って待って! そんなんじゃないんだ!」

 

「え?」

 

「アレは、そのッ! 化け物なんだよ!!」

 

化け物、それを聞いてシンジの表情が変わった。

すぐに前に出ると、真司達を庇うように立つ。

 

「ここは任せてください」

 

「やッ、ややややや! 駄目だって辰巳くん!」

 

真司は急いでシンジの前に出る。

 

「大丈夫! ふたりは下がってて、ボクが何とかするよ!」

 

キットが真司とシンジを掴んで、後ろに下げるが──

慌てたように、真司がまた前に出る。

 

「いやいやいや! 本当に! 素人にどうにかできるヤツじゃないからアレ!」

 

「大丈夫! ボクを信じて!」

 

「城戸さん! キットさん! 下がっててください! オレに考えが──」

 

そのとき、音がした。

ドドドドドドと、勢いよく、キャンディが走ってくる。

グッと腕に力を込めて、容赦ないストレート。

可愛らしい手だが、コンクリートを砕く力も持っている。真司は真っ青になって目を見開いた。

 

「!!」

 

しかしここで激しい熱を感じた。

空から炎弾が降ってくると、キャンディの前に直撃して爆発する。

爆風でキャンディは地面に倒れ、転がっていく。

真司が空をみると、そこにはドラグレッダーの姿があった。

 

(よし! ナイスドラグレッダー!)

 

ふと、前を見る。

また、シンジが前に出ていた。

 

「ちょッ! だから辰巳く――」

 

真司の頭が真っ白になる。

シンジが持っていたのは、紛れもない、カードデッキだったのだ。

 

「!?」

 

シンジの腰に装着されるVバックル。彼は、右腕を左上に伸ばす。

そのポーズは間違いなく、城戸真司の構えと、同じであった。

 

「変身!」

 

デッキをセットする。すると出現する鏡像。

辰巳シンジの姿が、騎士・龍騎へと変身する。

 

「えええええええええええええ!?」

 

仰け反る真司。

腰を抜かして、口をパクパクさせていると、キット・テイラーが前に出る。

 

「驚いたな。ボクと同じライダーがいただなんて」

 

「「え?」」

 

キットは前に出ると、カードデッキを前に突き出した。

デッキが光り輝き、赤い電撃が迸る。するとキットの腰に、Vバックルが装着された。

少し、上下の幅が広いような気もする。

 

「―――!」

 

キットが、なにか言葉を叫んだが、真司は首をかしげる。

うまく聞き取れなかった。

 

(桑麺雷同?)

 

英語は苦手である。

一方で、キットはデッキをVバックルへセットした。

するとバックル上下がカチッと音を立てて閉じ、デッキを固定する。

さらにデッキはVバックルの奥へと進行、発光しながら回転を始めた。

 

同時に、キットの体を中心として、二本の光輪が生まれた。

輪はそれぞれ逆方向に回転し、エネルギーがそれに合わせて大きな球体をつくる。

キットの姿が変わっていく。

エネルギーが弾けると、そこに立っていたのは紛れもなく、『龍騎』であった。

 

「「ええええええええええええええ!?」」

 

仰け反る真司と、龍騎(シンジ)。

すると、キャンディが立ち上がるのが見えた。

真司は震えながらも立ち上がり、カードデッキを取り出した。

もう訳がわからない。わからないが──魔女を無視はできない。

 

「どうなってんだよ……!」

 

声が上ずる。真司がデッキを突き出すと、Vバックルが装備される。

 

「変身ッ!」

 

ポーズを決めてデッキをセットすると、真司は龍騎に変身する。

 

「ッしゃあ!」

 

「「ええええええええええええええ!?」」

 

「わ、わかってる! そうなるのは、わかってるから!」

 

顔を突き合わせる龍騎と龍騎と龍騎。まじまじと見てみるが、まったく同じ姿である。

 

「でもさッ! どうして二人が龍騎に!?」

 

「オレは――ッ!」「待って待って! 龍騎ってなに? ボクはドラゴンナイトだ!」「ど、どらっ? いやいや龍騎だろ!」「だから龍騎ってなに!? ドラゴンナイトはドラゴンナイトだよ!」「いやでも! だから――」「待ってください城戸さん! 龍騎をそのまま英語にするとドラゴンナイトじゃないですか?」「え? あっ、そっか! って、いやいや! 龍騎ってそんな海外展開もしてるの──っておわぁああああ!」

 

龍騎たちが殴られ、転がっていく。

キャンディだ。フックで龍騎を吹き飛ばし、アッパーでドラゴンナイトを吹き飛ばし、ストレートで龍騎を吹き飛ばした。

そして、竜生に向かって、走り出す。

 

「あぶない竜生くん! くそッ!」

 

龍騎はデッキからカードを抜く。

まどかの天使を召喚できるコールベントを使おうと、ドラグバイザーを展開し──

 

「え」

 

竜生が、走っていた。

前に進み、そして、跳んだ。

 

「お ち ん ぽ う ん ち !!」

 

え? なに? なんて?

龍騎たちが唖然としているなかで、竜生はドロップキックでキャンディを吹き飛ばしていた。

どういうこと──なのか。龍騎は考える。

ただの子供が飛び蹴りで魔女を?

 

いや――

 

や──

 

 

 

 

え?

 

「いま、おちんぽって言った?」

 

「ちょっと! 城戸さん!」

 

「あ、いやごめん。でもだっておちんぽって!」

 

「城戸さん!!」

 

「あ゛、ごめん。でも──! えぇ……?」

 

そこで竜生が、ゆっくりと立ち上がった。

 

「頃古絽(コロコロ)町から来た。レペゼン地元、伝統と王道だ」

 

アイデンティティの確認と思ってほしい。

竜生はついこの前まで小学生だった。そして今は、中学一年生。

気がつけば見滝原にいた。比喩とかではなく、本当に覚えていない。

 

この胸を取り巻く思春期のモヤモヤと、理解不能な状況。

だからこそ確認したのだ。

己が中にある『声』というものを。

 

「よくわからないけど――え!?」

 

龍騎は思わず前のめりになる。

立ち上がった竜生の腰には、Vバックルがあった。

そしてポケットから取り出したのはカードデッキ――ではない。

形状の違う赤いプレートに龍騎の紋章が描かれている。

 

これは『エンブレム』というアイテムだった。

竜生はそれを前に突き出し、右腕を斜めに突き上げた。

 

「変身!」

 

エンブレムをバックルにセットすると、鏡像が重なり、龍騎へと変身する。

子供ゆえの小柄なシルエットに加えて、アーマーの形状が他の龍騎とは違っていた。

肩には赤い装甲があり、足の部分はドラゴンの足のような形になっていた。

 

「また龍騎かよぉ! どうなってんだぁ!?」

 

「こっちが聞きてーよ。どうなってんだドラグレッダー!」

 

龍の鳴き声が聞こえた。

上空から、ドラグレッダーが飛来してきたが、これもデザインが違う。

体は赤一色で、額にある角は金色だ。さらに手足が大きく、翼があった。

なにより、喋る。

 

『いやぁ、これがワシにもサッパリわらかん! ましてやココがどこなのかもな!』

 

「とにかく敵だ! やるぞ!」

 

『おう! まかせろ』

 

一瞬だった。

ドラグレッダーがバラバラに砕けたかと思うと──

 

「超変身(ライドアップ)!!」

 

パーツが次々と龍騎に装着されていく。

背中には海をも一越えできる龍の翼が。

左手には山をも切り裂く龍の鋭い刃が。

右手には空をも焼き尽くす炎を吐く龍の口が。

 

「ドラグレッダーと合体した!?」

 

「あ? できねーのか? おっさんは?」

 

「オッサン!? 俺っ、お──ッ!?!?」

 

「城戸さん! 来ますよ!」

 

キャンディが両手を伸ばして高速回転しながら突っ込んできた。

トルネードラリアット。龍騎は右に転がり、龍騎は左に転がり、龍騎は翼を広げて飛び上がり、ドラゴンナイトは背中を向けて走り出す。

そこで、キャンディの色がピンクから淀んだ青色に変わり、顔がパックリと割れた。

 

頭部の中には『恥骨』が埋め込まれており、耳が口のように変わり、伸びた。

高速回転しながら、それを鞭のように振り回して龍騎たちを薙ぎ払っていく。

 

「うわああ! た、辰巳くんッ!」

 

「うぅッ! 大丈夫ですか城戸さん!」

 

「俺、おじさんじゃないよな!」

 

「そこですか! 大丈夫ですよ! キットも大丈夫か!?」

 

「いつつつ! ああっ、なんとかね、平気だよ!」

 

範囲攻撃。

唯一、逃れたのは、空中にいた龍騎だ。

赤い翼が発光し、体を思い切り捻って旋回させる!

 

「ワイバーン・レイン!!」

 

両翼から赤いレーザーが何本も発射されて──

 

 

龍騎たち三人に直撃した!

 

「「「なんでだよ!!」」」

 

煙をあげて倒れる龍騎たち。見事に声がシンクロする。

 

『なにしとんじゃアホーッ!』

 

腕に装備されたドラグレッダーの頭部に怒鳴られ、空中にいた龍騎は肩を竦めた。

 

「わりぃ! 昔の血が騒いだだけだ! 大丈夫かアンタら! 悪気はないんだ!」

 

龍騎は飛翔。

高速でキャンディの頭上にやってくると、腕にあったブレードを振り下ろして頭部を狙う。

だが、そこで龍騎がビタリと止まった。

キャンディは両耳でしっかりとブレードを挟み込んで、キャッチしていたのだ。

 

「ぐあああああああああ!」

 

キャンディはそのまま飛び上がりながらのアッパーカット。

龍騎は何度も回転しながら吹っ飛んでいった。

それを見て、倒れていた龍騎たちは次々と立ち上がっていく。

 

「こんのッッ!」

 

三人は、デッキからカードを抜いた。

面白いもので、同じ龍騎であったとしても選んだカードが違っている。

真司が――『ガードベント』

シンジが――『ストライクベント』

キットが――『SWORD・VENT』

余談だが、ドラゴンナイトだけカードを抜いた音や、バイザーにセットしたときの音が違っている。

 

「ウォオオオオオオ!」

 

まずは両手に盾を構えた龍騎は突っ走る。

キャンディはすぐに伸ばした耳を向かわせるが、ドラグシールドが衝撃に耐えながら、確実に前に進んでいく。

その後ろに控えていたドラゴンナイトが、右に跳んだ。

キャンディは左耳をドラグシールドに当てつつ、右耳でドラゴンナイトを狙う。

 

「一本だけなら!」

 

ドラゴンナイトはすくい上げるように剣を払い、向かってきた耳を弾いた。

すぐに追撃が来るが、体を捻って跳躍、次々と攻撃を回避していく。

それはアメリカのスタントを思わせるダイナミックな動きであった。

 

前宙や側宙を交えながら、蹴りを織り交ぜる、エクストリームマーシャルアーツ。

跳ね、回り、ドラゴンナイトは剣で耳を弾いていった。

 

苛立ちが募ったのか、キャンディは二つの耳でドラゴンナイトを狙う。

それによって、ドラゴンナイトを弾き飛ばすことには成功したが、フリーになった龍騎が一気に突っ込んできた。

 

「って、おわあああ!」

 

キャンディが一瞬で龍騎のもとへ到達し、高速で連続パンチを打ち込んでくる。

まさにボコボコにしてくる。

完全に龍騎の動きが止まり、最後の一撃で盾は完全に砕かれ、龍騎もぶっとばされた。

 

「「今だ!」」

 

だが倒れた龍騎と、ドラゴンナイトの声が重なる。

キャンディは見た。

後方にて、ドラグクローを構えた龍騎を!

 

「ォオオオオオオオオオオッッ!」

 

龍騎とドラゴンナイトが時間を稼ぎ、その間に龍騎がチャージを完了する。

ろくに言葉も交わしていないが、その作戦を各々、感じ取っていたようだ。

突き出したドラグクローから、勢いよく火炎が放たれる。

ドラグクローファイヤー、火炎放射がキャンディを包み、ジタバタともがきながら後退していった。

 

『シュートベント』

 

龍騎はドラグアローを構え、弦を引き絞る。

 

「オラアア!」

 

矢が、炎をかきけしたばかりのキャンディの頭部に突き刺さる。

矢の先にある鏃が、矢柄から分離し、ひし形の燃料が埋め込まれる形となった。

燃料はご丁寧に赤く点滅しており、遠くからでも視認できるようになっている。

 

「あそこに炎を当てれば、爆発を起こせる!」

 

「わかりました!」

 

「了解!」

 

龍騎の言葉を受けて、龍騎と、ドラゴンナイトが走る。

ドラゴンナイトは、飛び上がり、キャンディの頭を踏みつけると、その勢いでさらに跳躍。

同じく、龍騎が地面を滑る。こうして龍騎たちはトライアングルの並びになって、キャンディを囲んだ。

 

『ストライクベント』

 

『STRIKE・VENT』

 

龍騎とドラゴンナイトも、ドラグクローを装備。

構え、腰を落とす三人。

すると空間が割れて、三体のドラグレッダーが飛び出してきた。

 

「グルルルル!」「グォオオン!」「ゴアアアアアアアア!」

 

「おい! 気持ちは分かるけど今は喧嘩するなよ! 狙いはあっちだって!」

 

さすがに自分と同じ顔がいることが気持ち悪いのか、ドラグレッダーたちは互いを威嚇しあっている。

そうやって、もたついている間に、キャンディは危険を悟ったのか、全速力で駆け出して龍騎を弾き飛ばした。

 

「うわぁッ! しまった!」

 

こうなっては、作戦を立て直す必要があると思ったが──

向こうから、猛スピードで龍騎が飛んできた。

 

「ドラグーンインパクトッッ!!」

 

腕に装備された、燃え滾る龍の頭部を、全力で額に打ち込んだ。

燃料が起爆。爆発と共に、炎に包まれたキャンディが、猛スピードで地面を転がっていく。

 

「ゴエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

やがて、炎から叫び声と共に『恥骨』が飛び出した。

キャンディの本体だ。飛行し、龍騎たちから逃げようと試みるが──

龍騎が、ファイナルベントのカードを抜き取る。

シンジだ。彼がカードをバイザーに入れると、電子音が発生した。

 

『ファイナルベント』

 

腕を振るうと、シンクロするようにドラグレッダーが周囲を旋回。

 

「ハァァァ……ッ!」

 

龍騎は構えを取って、腰を落とした。

 

「フ――ッ!」

 

そして両足を揃えて跳躍。ドラグレッダーと共に宙へ舞い上がる。

体を捻り、飛び蹴りの構えをとると、ドラグレッダーが炎を発射して、エネルギーを与えた。

 

「ヅェァアアアアアアアアアアアアア!」

 

『ギュゲェアアアアアアアアアアアア!』

 

龍騎の、ドラゴンライダーキックが、逃げようとするキャンディに炸裂。

粉々に爆散させ、魔女結界ごと吹き飛ばした。

 

「よっしゃあ! やったな、辰巳くんッ!」

 

「ありがとうございます。竜生くんも、キミのおかげで隙が生まれた。助かったよありがとう」

 

「ああ。かまわねーよ」

 

「っていうか、なんで攻撃してきたんだよ! それにキミも龍騎に……? どうなってんだ?」

 

「おれは──」

 

竜生は、小学生のときにドラグレッダーになかば強引に仮面ライダーにさせられて、パラレルミラーワールドという場所で、ライダー同士の戦いに身を投じていたらしい。

そこでは、ライドモンスターと呼ばれた存在と合体することで、さらなる強化が施されるという。

だから竜生も、ライドモンスターであるドラグレッダーと合体して戦ってきたのだと。

攻撃が誤爆したのは、そのときの名残だったらしい。あのときはライダーが敵だったからだ。

 

「最悪だったぜ。家には帰れねぇし、裏切りや、疑心、傲慢、強欲、暴力――」

 

「ごめん。辛かったんだな……」

 

『いや、その要素、ぜんぶコイツから生まれたもんだぞ?』

 

ドラグレッダーは、冷めた目で主人を見ていた

 

「え?」

 

『竜生が金と、自分が目立ちたいから仲間を裏切り、疑心を生み、ありとあらゆる暴力を誰かれ構わず──』

 

「よせ若気の至りだ」

 

龍騎は肩を竦める。反省は、している。

 

「おれも、もう中1だぜ? 流石にあんときの自分がいかれてたことくらいはわかる。若さとは、それ自体が一つの過ちであるって──ベンジャミンも言ってた」

 

『名言の引用が増えたな。無事に厨二病だ』

 

「うるせぇ! ってか聞きたいのはこっちもだ! なんなんだよ、あんた等は」

 

それぞれ、変身を解除し、事情を説明する。

 

「――なるほど、似ている部分もあるけど、ほとんどが大きく違っているみたいですね」

 

シンジの言葉に、キットは頷いた。

 

「ボクのいたところじゃ鏡の中の世界はあったけど、それはベンタラっていう異世界のことで、結果的にライダー同士で戦いはしたけど、最後の一人を決めるなんてイカれたシステムはなかったよ。もちろんライダー裁判もね」

 

竜生も頷く。

 

「おれのところもだ。あと、アンタらカードを使ってたよな。んなもん、おれは知らなかったぞ」

 

すると、隣にいたドラグレッダーがギョッとして、竜生を見る。

 

『見滝原に来た際、渡しただろ!』

 

「え?」

 

『なにがあるかわからんから、ライドアップ前に戦えるようにって!』

 

「ん? あー、そういえば貰ったっけ」

 

 

間。

 

 

「――た」

 

『?』

 

「売っちまった」

 

『なにしてんのお前!?』

 

見滝原のカードショップ。

リーリエと、黒魔導のカーテンの間――の下にあるストレージコーナーに、ソードベントやストライクベントのカードが並べられていた。

 

「見つけた……! 見つけたぞ!!」

 

「!」

 

声がして、一同の視線が集まる。

ウェーブ掛かった髪を右に流した青年が立っていた。

酷く、疲れているように見える。

 

「知り合いか?」

 

竜生に聞かれて、全員が首を横に振った。

ただ唯一、真司は頭を抑えた。

頭痛とは違う、なにか、違和感のようなものが。

 

「龍騎、龍騎ィッッ! お前を倒せば!」

 

その男、加納(かのう)達也(たつや)は叫び、時計のようなアイテムを起動させた。

 

『リ゛ュ゛ウキ……!』

 

ノイズに包まれる。達也の姿が、一瞬で『龍騎』に変わる。

絶句する一同。

その龍騎の、禍々しい姿たるや。

 

中華風の鎧。

大きく突き出た肩の装甲。

首にはスカーフ。凶悪な表情。

左腕にも禍々しい龍の頭部が装備されている。

右胸の装甲には『RYUKI』の文字があった。

左側の装甲には『2002』と刻まれている。

 

「また龍騎!?」

 

驚いたのも束の間、『アナザー龍騎』は、ドラグクローから炎弾を発射。

有無を言わさず、真司たちを殺害しようと試みる。

 

「ッッッ!」

 

危ないと──

口に出す間もなく、炎が到達してしまった。

しかし真司を中心にして広がる龍騎の紋章が、火炎からみんなを守る。

スキルベント・ドラゴンハート。真司の体が、自動的に龍騎に変身したところで、バリアは砕け散った。

 

「お前は──ッ!」

 

「龍騎ッ! 俺の大切なもののために……死んでくれ!!」

 

アナザー龍騎は、青龍刀に似たドラグセイバーを構えた。

シンジたちも、慌てて龍騎に変身する。

 

「どういうことなんだよ! 説明してくれよ!」

 

しかしアナザー龍騎は、問答無用で斬りかかって来る。

龍騎はまず縦斬りを回避し、横に払われた一閃も転がって避ける。

するとそこで、桃色の光がアナザー龍騎の足元で弾けた。

 

「えっ? えっ? えぇぇええ!?!?!??」

 

着地したのは、まどかだ。

魔女の気配を感じて駆けつけてみれば、これである。

 

「し、真司さんが、いち、にぃ、さん……! えぇ!?」

 

追いかけてきたほむら、マミも、すぐにその異常性に気づいた。

 

「りゅ、龍騎がいっぱいいるわ! どうなってるの!」

 

「まどか、巴さん、落ち着いて。ただ龍騎が増えてるだけよ。そういうときもあるわ」

 

「それは大事件だよほむらちゃん!」

 

まどかは弓を構えたまま、どうしていいかわからず、固まってしまう。

すると灰色のオーロラが出現。そこからエンジン音が聞こえたかと思うと、マシンディケイダーが飛び出してきた。

 

「呆れるくらい龍騎だらけだな。胸焼けするぜ」

 

門矢士は、足を旋回させて車体から降りる。

 

「お前は……!」

 

息を呑む龍騎。士には、覚えがあった。

 

「どうなってるんだ士!」

 

一方で龍騎が士に駆け寄ろうとするが、そこで発砲音。

士はライドブッカーを銃に変えると、龍騎の足元を撃ったのだ。

 

「なにを!?」

 

「宣戦布告だ。こんなに龍騎がいるんだ。蠱毒でもはじめようぜ」

 

「は!?」

 

士が取り出すのは、マゼンタに輝く『ネオディケイドライバー』だ。

それを装着すると、一枚のカードを抜いた。

 

「変身!」『カメンライド!』『ディケイド!』

 

無数のホログラムが重なり、士はディケイドへと変身を遂げる。

すぐさま二枚目のカードをバックルへ放り投げた。

 

『カメンライド・リュウキ!!』

 

ディケイドへ、鏡像が二つ、重なる。

そこに立っていたのは、紛れもなく龍騎であった。

 

「ま、また、りゅう……きぃ……!」

 

「まどか! まど――ッ、まどかぁああ!」

 

「りゅうきぃ、うぇひひぃ、りゅうきがいっぱいらぁ……!」

 

相当混乱しているようだ。まどかは目を回すと、ほむらの方に倒れ掛かる。

一方でディケイドは手をかざす。

すると、ソードベントの音声が鳴り、空からドラグセイバーが飛来して、手に収まる。

 

「前から多いと思ってたんだ」

 

ディケイドは、剣先を順番に、龍騎たちへと向けていった。

 

「そろそろ、本物の龍騎を決めるのも悪くないかもな」

 

「な、なんだよ本物って! べつに本物も偽物もないだろ!」

 

「それはどうかな? さあ、行くぞッ!」

 

走り出すディケイド。

いや、龍騎。

龍騎たちは、覚悟を決め、龍騎を睨んで走り出した。

 

 

★

 

 

「姫様! 準備が完了いたしました!」

 

「ありがとう、爺」

 

城の中で、朱色の髪をした少女は頷いた。

魔法陣の、中央へと立つ。見た目は人間だが、頭には二本の角がある。

目は緋色で、口から覗くのは八重歯ではなく、牙だろうか? 尻尾もある。

 

「龍姫(りゅうき)・ドラーグ=R=カレンが、勇者たちの召喚を行います!」

 

少女は、龍記(りゅうき)に従い、魔力を解き放つ。

空に、無数の魔法陣が広がった。

多い? いや、今更中止はできない。龍姫は魔力――『龍氣(りゅうき)』を一気に流し込む。

 

「どうか――ッ! 邪悪な龍鬼(りゅうき)から、龍樹(りゅうき)をッ、私たちを守って!!」

 

龍姫は祈った。

それを鏡の中で、白いドレスをきた少女・サラが悲しげに見つめていた。

 

『また、龍騎の戦いが始まるんですね。また。また……』

 

そのとき、魔法陣から、十字に燃え滾る炎が溢れた。

 






簡単に説明しておきますと
辰巳シンジは、仮面ライダーディケイドにて龍騎に変身するキャラクターです。
キットは、海外版の龍騎の主人公です
竜生は、コロコロでやってた漫画で龍騎に変身するキャラクターとなってます
達也は仮面ライダージオウにて(正確にはそのスピオンオフ)で、龍騎の偽物みたいなアナザーライダーに変身するキャラクターでございます


あと前書きにもあったんですが、今後マギレコのキャラもちょいちょい出てくるんですが、ほぼオリジナル要素で再構成されているので、そこはご了承ください(´・ω・)

大まかな理由としては、他のソシャゲでもあると思うんですが、たとえば高レアリティAのキャラの引いたら見れるエピソードで、高レアリティBの掘り下げがされるみたいなことがあったり、期間限定イベントで掘り下げがあったりと、ちょっと知識の共有みたいなものが難しすぎるかなと思いまして。
僕もすべてを追いかけられてるわけではないので、ちょっとそこは申し訳ないんですけどって感じですね

あと、好みの話として、これはいつかこのネタで一本やりたいくらいなんですけど、僕はすべてのソシャゲで一番好きな要素というか概念が、『本編ではそう絡まないが、プレイヤーの都合で同じパーティにいるキャラたち』がめちゃくちゃ好きで

たとえば、ゲームをはじめたてのときに、URのキャラとか、シナジーのあるキャラで固めることができず、とりあえずもらえる確定チケットとかガチャチケで引いたSRキャラ入りの即席パーティとか、シナジーが高いので一緒に組むのが常識ではあるが本編ではあまり絡まないヤツらで構成されたパーティとか

こういう場合の、キャラクター同士の掛け合いを妄想するのがたまんなく好きなので、そういう要素を入れたいと言うエゴがありまして
たとえば、僕はマギレコはじめたてのときに、本当になんにもわかってなかったんで、しばらくパーティが、貰える『いろは』、見た目が好きな『かこ』と『このみ』、たまたまひいた『かりん』だったんですよね。
この四人がメインだったらの短編を妄想するのが好きで(まあ上記のキャラはべつのチームででる予定ですが)

もうちょっと言うと、これ龍騎もまどかも関係ないんで、わかる人だけ共感してほしいんですけど、ゼンゼロっていうゲームで『妄想エンジェル』っていう三人組のアイドルがいるんですけど、ゼンゼロはパーティが三人で構成されるので、まあ当然この三人で組むのが定石ではあるんですが、突き詰めると、それぞれ別の奴らと組んだほうがいいらしく

それで二次創作で、その組んだほうがいい奴らが、妄想エンジェルのライブを見に来るみたいな絵があったんですけど、これが本当にたまんなくてですね。
たとえば『羽』っていう妄想エンジェルは、雅と柚葉っていう他の陣営のキャラと組むんですけど、雅と柚葉が羽の応援うちわ持って駆け付けるみたいなね
しかもこれもまたいいのが、たしか本編では雅と柚葉も、目立った絡みはないんですよね

こういうのが本当に好きなんでね
まあ、まだその感じが出てくるのはそうとう後にはなると思うんですが──
すんません、お許しください(´;ω;`)


次回も、なるべく早くしようとは思いますので、更新されたら、よろしくお願いします
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