仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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俺も王様になろっかな……(´・ω・)


※前サイト掲載時から、ちょっと加筆しました。
 




EPISODE・FINAL

 

 

EPISODE・FINAL「13RIDERS&13MAGICAS」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な――ッ!」

 

 

目を見開くサキ。それは何も彼女だけに限った話ではない。

マミとまどか以外は、新たに現れた『参加者』に驚きの表情を浮かべていた。

それだけじゃない。テレビの向こうでは真司が魔獣に宣戦布告をした所がバッチリと映っている。

つまりなんだ。これより自分達は新たな戦いの場に赴くと?

いや、ソレよりまずは目の前にいる彼女だ。

 

 

「まどかが、二人!?」

 

「……ッ」

 

 

マミの部屋にやってきたのは他でもない、鹿目まどかだ。

だが既にまどかはこの部屋にずっといたじゃないか。それこそ一番初めからだ。

そしてまどか自身意味が分かっていないのか、新たに現れたまどかは、もう一人の自分を見て目を丸くしている。

 

 

「ごめんね、みんな」

 

「ッ!?」

 

 

そして口を開くのは、ずっと今までマミの部屋にいたまどかだ。

どうやら彼女は全てを知っているらしい。

 

 

「わたし、皆に嘘をついてた」

 

「嘘……?」

 

「うん。ここはね、死後の世界じゃないんだよ」

 

 

まどかはまどかの前に立つと、優しげに微笑む。

 

 

「貴女は……?」

 

「わたしは、わたし」

 

 

まどかは戸惑う『まどか』の背後に立つと、そのまま抱きしめる。

すると眩い光が発生して球体の形をつくった。

他のメンバーからは光が強すぎて中の様子を確認できないが、球体内では二人のまどかが生まれたままの姿となっており、一切の衣服や装飾品を身につけていない状態となる。

そのまま全てを知っているまどかは、ココにやってきた『まどか』の前へ回り、手を絡ませあった。

 

すると『まどか』の手が魔法少女の衣装に包まれる。

腕だけじゃない、脚もそうだ。体を押し付けあえば、魔法少女の衣装が現れ、最後にまどかは『まどか』の額ににキスをする。

すると髪もしっかりと結ばれた状態の、魔法少女としての鹿目まどかが完成した。

そしてキスをしたまどかは、もう一人の『まどか』に吸い込まれる様にして消えていった。

 

 

「――ッ」

 

 

そこで光が晴れた。

何が起こっているのか、誰もが分からず沈黙する。

二人のまどかが一つになった。だからなのか、まどかはハッと息を呑むと、全てを理解した様に複雑な表情を浮かべた。

そうか、そう言う事だったのかと。

 

 

「まどか? 君は一体――ッ!? それにココは死後の世界じゃないって……」

 

 

まどかはゆっくりと頷く。全てを思い出した。

そして意外にも、その答えを口にしたのはまどかでは無かった。

一番初めに来た魔法少女に、まどかは全てを伝えていたのだから。

 

 

「ここは、円環の理よ」

 

「ッ! マミ?」

 

 

答えたのは巴マミ。

この家の主であるマミは、既にまどかから全てを聞かされていたのだ。

融合直後で疲労状態にあるまどかに代わって、マミは自分が説明すると申し出た。

 

 

「円環の理?」

 

「そう、鹿目さんが作り出した概念。その空間を私の部屋に見立てているの」

 

 

そしてもう一つの質問の答え。

何故、まどかが二人いたのか? それは文字通り『見たまま』の通りである。

 

 

「鹿目さんはね、二人いたの」

 

「はぁ!? 双子って事か?」

 

「違うわ。文字通り同一の存在が、二人」

 

 

ゲームが始まる前。

まどかは長き苦しみを終わらせる為に、神の領域に足を踏み入れて『概念』となった。

そして作り上げたのが、魔女を否定するシステム。円環の理だ。

だがある理由で彼女はその存在を二つに分断されてしまう。

 

その後、魔獣がまどか達を襲撃し、彼女は敗北してゲームに取り込まれた。

しかし魔獣は一つ、重大な事を見落としていた。

それは円環の理はまどかの敗北によって消え去ったとばかり思っていたが、実際はそうじゃない。

円環の理はまどかの一部であり、逆を言えば『まどか』ともとれるのだから。

 

 

「現世でのわたしは魔獣に負けちゃって、円環の理に導かれた魔法少女達も魔獣たちに負けて取り込まれちゃった……」

 

 

でも魔獣は、円環の理その物を破壊することは無かった。

存在していた魔法少女を全て根絶やしにする事で、壊滅させたと思い込んでいたのだろう。

だが違う。円環の理その物に、まどかと言う意思はあったのだから。

 

それに加え、一人だけ生き残った魔法少女が手引きしてくれた事もあり、まどかは逃げ延びる事ができたのだ。

しかし今はもう、その手引きしてくれた魔法少女の名前も思い出せない。

その記憶が残っているだけで、顔も記憶もまどかの頭には無い。

それはそれだけイツトリの『忘却』の力が凄まじい事を意味している。

ただ完全に忘れきっていないのは、同じくしてまどかの力もそれに食い下がれるだけの力があったから、と言う事であろう。

 

 

「ど、どういう事だ?」

 

「つまり――」

 

 

もう一度はじめから整理しよう。

始まりは、ほむらがループしてきた中でたどり着いた一つの時間軸であった。

そこでまどかは全ての魔女を消すと言う意味の願いを叶え、その反動と言うべきなのか、世界からその存在を無かったことにされた。

このゲームでも参加者が死ねば、人々の中から存在が消えると言うルールがあったが、魔獣がまどかのソレを参考にして作った物なのである。

 

 

「神になった鹿目さんは、円環の理と言うルールを作り上げ、魔法少女が魔女にならない機構を世界に埋め込んだの」

 

 

そして魔法少女達を、影ながら見守り続けていたと。

その後、まどかは魔獣に攻め込まれ敗北するのだが、その前にある出来事がきっかけで二つに。言い方を変えれば『二人』に分裂していた。

 

魔獣は分割されたまどかを、『神の力』と、『鹿目まどかの存在』に分けたと思っていた。

しかし実際はあくまでも『まどか』と『まどか』に分けられていたと言う訳だ。

魔法少女・鹿目まどかと、円環の理である鹿目まどか。ゲームの駒にされたのは前者である。

しかしどちらも神の力は内包していたのだ。

純粋な分割。50%の力と50%の力に分けられたと。

今、真司のおかげでまどか達は一つに戻れたが、それまでが問題だったのだ。

 

 

「魔獣は鹿目さんを支配したつもりだった」

 

 

でもまだ。もう半分のまどかの生き残っていて、魔獣から逃げ延びていたのだと。

 

 

「わたしは何とかして皆を助けられないか考えた……っ!」

 

 

でも無理だった。

そもそも魔法少女達が負けたのは魔獣が強力だったと言う点もあるが、何よりもイツトリが魔法少女キラーとしての能力に特化しているからだ。

 

概念(かみ)の前に、まどかは敗北した。

魔獣との戦いで力も弱まってしまい、円環の理もマミの部屋を模す程度の広さしか保てない。

イツトリには勝てず、魔獣にも勝てない。そんな状態では何も出来なかった。

 

 

「そうしている間に始まった。フールズゲームが……」

 

 

弱っているとは言え、あくまでもまどかは神だ。

何が始まろうとしているのか。何故こんな事になったのかを、端的ではあったが知る事はできた。

そしてその恐ろしい輪廻を想像し、ゾッとする。

 

 

「――ッ、ごめんなさい!!」

 

「!」

 

 

まどかは頭を下げる。

彼女は大きな罪を背負っている。

 

 

「わたしは、皆を助ける事ができなかった!!」

 

 

それだけじゃない。まどかは涙を零して皆に謝罪を行う。

と言うのも、大きな後ろめたさがあったからだ。

それこそがこの空間の正体である。尚且つ、無限とも言える時間の中で繰り返されてきた殺し合いが、全く同じメンバーで行われた原因。

 

 

「っ? それはどういう……?」

 

「わたしは、ゲームで脱落した人をココに招いた」

 

 

魔女になる魔法少女を救う事。

つまり円環の理のシステムを不完全ながらも使えたのは幸いだった。

それはパートナー契約によって、魔法少女の力が流れている騎士も同じ。

 

つまりまどかは、ゲーム内で死亡して虚無へと送られる魂をサルベージする事に成功したのだ。

考えは無い。魂を回収してどうすればいいのかは分からなかった。

だが絶望に塗れ、苦痛に溢れた死を認めたくなくて。

そしてその中で脱落者達の話を聞き、その死が、迷いと後悔に溢れている事を知る。

 

多くの参加者が苦しみ、失意の中で命を落とした。

多くの参加者が口にする。死にたくは無かったのだと。

まだ成し遂げなければならない想いがあったんだと、まどかは聞かされたんだ。

当然だ。こんな強制的に与えられる死を納得できる訳がない。

だから、まどかは決意したのだ。それはある種、彼女の希望の押し付けとでも言えばいいか。

なによりも優しく、誰よりも残酷な決意であった。。

 

 

「わたしは改めてイツトリに立ち向かった」

 

 

どうしても許せなかったんだ。

人の命を、夢を、希望を弄び絶望させる事を強要させるこのゲームが。

魔獣は円滑にゲームを進めるため、準備と称して参加者が魔法少女に、あるいは騎士になる理由を強引に作っていった。

 

例えばマミの家族と、サキの家族が起こした事故。

例えばユウリがユウリになる事になった一連の流れ。

例えばあやせがいじめにあった原因だとか――。

 

だから立ち向かおうと決めた。持てる力の全てを解放して。

狙いはただ一つ。何もイツトリを倒せるとは思っていない。だが狙っていたものは確かにあった。概念VS概念の果て、目指した勝利があった。

それが、抗う事だ。

 

 

「そしてどうにか、わたしの概念を一つだけイツトリに承認させる事ができたの」

 

 

イツトリが構築した世界のルールに一つだけ、まどかが作ったものを追加すると言う刷り込み。

それが、"参加者"の魂を、この空間に固定すると言う事だ。

ゲーム参加者と言う事で、新たに現れたかずみをも取り込んだルール。

参加者が命を落とした後、魂が絶望に沈むのではなく、この円環の理に還ると言う概念の確立。

そして、それ故に作り出されるループ。

それは魔獣も自覚していない、裏のルールとでも言えばいいのか。

 

 

「魔獣は本来、私達が死ねば新たなる参加者でゲームを行うつもりだったの」

 

 

マミが補足を。

円環の理を襲撃した事で、魔法少女のストックは山程あった。

それに箱庭の中で新たな魔法少女を作る事だってできる。

継続されるのはせいぜい素質のあるまどかや織莉子、ほむらや、かずみくらいか。

少なくともゆまやあやせ辺りは、代わりなどいくらでもいると見られていた筈だ。

 

騎士だって別に真司たちに拘る必要なんてない。デッキさえあれば色々な人間で試す事ができる。だがそれでも第一回から今に至るまで、ゲームの参加者が一度も変えられなかったのは、まどかが差し込んだ概念が故なのだ。

全てのゲームを、同じ参加者で行う事。それが鹿目まどかが定めたルールなのである。

 

 

「つまり、簡単に言えば鹿目さんが魔獣たちに洗脳をかけたと言えばいいかしら?」

 

 

同じ参加者でゲームを繰り返すことが当然だと言う思いを植えつける。

魔獣のトップであるギアですら、その力には気づかなかった物だ。

それが唯一、まどかに許された神としての、概念としての抵抗であった。

ゲームで戦う半身とは別に、ゲームの裏で戦っていた半身があったと。

つまりFOOLS,GAMEにおいてループが繰り返されるのは、鹿目まどかがそう設定したからなのだ。

 

 

「どうしてそんな概念を……」

 

「終わらせたく……、無かった!!」

 

 

巻き込まれた命を、想いを。

何よりも抱いた希望を、絶望に塗りつぶされたままにしたくはなかったんだ。

もちろん繰り返すということは、何度も死ぬと言うことである。その無限の苦しみを背負わせる事は身が引き裂かれる程の罪悪感(いたみ)があった。

しかし、生きていればいつか輪廻を破壊できるチャンスが生まれるのではないかと信じて。

 

 

「今までこの場所は魔獣達にはバレなかったのか?」

 

「うん。優衣さんがキュゥべえ達を説得して、隠してくれてたの」

 

「優衣……?」

 

 

騎士の数名は、頭を抑えて顔を顰める。

イツトリの力のせいで優衣に関する記憶は忘れているが、関わりが深かった者は僅かに覚えているのだろう。

まず、円環の理とまどかに一早く気づいたのはインキュベーター達であった。

そして妖精らと共にいた優衣がまどかの想いに共感し、この空間をキュゥべえ達に頼んで魔獣に見つからない様に手配してもらっていたのだと。

 

キュゥべえ達としては魔獣に報告するのも一つの手ではあったが、均衡に目をおいた部分があり、かつジュゥべえが優衣寄りだった為、協力は惜しまなかったと。

あと前ゲームではリタイア扱いであり、死んでいない筈のニコがこの空間に来たのも、魂の根本がこの空間にある為だとか。

 

 

「……チッ!」

 

 

話はだいたい分かった。

分かったが――、その時だった。杏子がまどかの襟を掴んで締め上げたのは。

 

 

「ッ! 杏子! 何をするんだ!」

 

「うるせぇ!!」

 

 

サキの静止を振り切り、杏子はギロリとまどかを睨む。

 

 

「じゃあテメェは何か? いずれまたアタシ等が殺しあう場に送られるって分かっておきながら今の今までヘラヘラ笑ってたのかよ!」

 

「ッ、それは――」

 

 

死後の世界だ、お疲れ様の空間だのと、ほざいておきながら。

まどかも後ろめたい思いはあったのか、杏子の言葉を否定するでもなく、ただ表情を暗くする事くらいしかできなかった。

しかしそんなまどかと違い、しっかりと杏子の手を掴んで止める者が。

 

 

「止めて佐倉さん。そう頼んだのは私なの」

 

「マミ……!」

 

「私なのよ……」

 

 

マミは静かに、自分に言い聞かせるように呟く。

 

 

「一回目のゲームで、一番初めに死んだのは私」

 

「ッッ」

 

 

一番初めに魂を回収されたマミは、まどかとこの空間を作ることを決めた。

 

 

「鹿目さんと優衣さんと誓い合ったのよ」

 

 

絶望に身を置く自分達が、本当の笑顔を浮かべられる場所が必要なんだ。

誰もが皆、昔は希望を抱いていた筈だ。争い合う事は間違いだと思えた時があった。

ううん、そうであってほしい。傷つけ合うより、笑い合える世界の方が素敵に決まっているから。

 

だからその気持ちを思い出せる場所がどうしても必要だと思った。

魔法少女だとか、フールズゲームだとかは関係ない。自分達が人間として接し合える場所が欲しかったんだ。

まどかは辛かったかもしれないが、マミは頼み込んだ。

この場所で次のゲームが始まるまで、どうか穏やかに暮らせる場所が欲しい。

 

そしてまどかには諦めて欲しくはない。

永遠に繰り返されるかもしれない地獄だが、同時にそこから抜け出せる可能性も持てるのだから。

幸せな終わりでも良かったのかもしれない。この世界で笑いあって、そして死んでいく。

でも、それを認めたくは無かった。マミも、優衣も、まどかもだ。

魔獣に与えられた理不尽を許せる程、自分達は弱くは無いから。

 

 

「ぐッ!」

 

 

杏子はまどかを放すと大きく息を吐いた。そして同時に吼える。

ムカつく、ああムカつくと。何故だ、なんでこんなに――!

 

 

「泣けてくる――ッ!?」

 

「杏子ちゃん……!」

 

 

杏子の目からボロボロと涙が零れてきた。

 

 

「なんだ、なんなんだよコレ」

 

 

目を拭えど拭えども雫が途切れる事は無い。これは涙なのか?

そんな物、とうの昔に捨てたはずなのに。

なんで……。

 

 

「決まってるじゃない」

 

 

その時、聞き覚えの無い声が一同の耳に入ってきた。

 

 

「杏子ちゃん、貴女はまどかちゃんと友達だったからよ」

 

「ッ!!」

 

「多くの時間でそうだった。それを魔獣が歪めただけ」

 

 

帽子を被りコートを羽織っている女性が一同の前に現れる。

両肩にはキュゥべえとジュゥべえがしがみ付いており、ジュゥべえは少し汗を浮かべて慌て気味であった。

 

 

「優衣さん……!」

 

「!」

 

 

マミの言葉で証明される存在。

彼女が? 息を呑む一同。その中で優衣はまどかの想いを打ち明ける。

気負わない筈が無い。友を、仲間を無限の苦しみの中に漂わせるのは。

しかしそれでも生きて欲しかった。希望を失いたく無かったんだ。

 

 

「約束したの」

 

「……!」

 

「また皆で、絶対に生き残ろうって……!」

 

 

この空間にやってきた参加者に魔獣の存在をどれだけ教え込んでも、イツトリの力によってゲームが始まれば全て忘れてしまう。

しかしいつか……、いつかまた、皆で生きて『人生』を歩みたいから諦めかなった。

そしてその約束も、この空間に皆が集まるたびに行われる。

 

まどかが諦めなかったのは、その約束があったからだ。

皆で生き残ろう。生き返ろう。それを無くしたくはなかった。

まどかはふと、ほむらを見る。

 

 

「ほむらちゃんも約束覚えててくれたよね」

 

「!!」

 

「嬉しかったよ、わたし」

 

 

ほむらは、まどかとの約束を守るために何度も何度も苦しんで。

そんな暁美ほむらを苦しんだままで終わらせたくなかった。

それだけじゃない。他の皆だって同じだ。自分達はいっぱい苦しんだ。いっぱい傷つけたかもしれないけど、それでもそれは歪だと思うから……!

だから、釣り合わないと声を大にして言いたいんだ。誰もが皆、無くした未来を歩めるように。

 

 

「まどか……」

 

 

誰もが何を言っていいか分からず沈黙する。だがそんな時間は残されていなかったのだ。

それが優衣がココに来た理由である。そもそも優衣はジュゥべえによって追い返された筈。元の世界に強制的に送られる予定だった。

 

だがそこで概念が真司の望むものに変更されたのだ。

その際の衝撃で世界が揺らめき、優衣はもう一度このマミの部屋に戻る事ができた。

だが慌てているのには理由があってのこと。あまりゆっくりしていられる時間は無い。

 

 

「そう、概念が真司君の物に書き換えられたの!」

 

 

今まではイツトリの概念にまどかの概念を忍ばせていたからこそ、この空間の事や、参加者の魂をまどかが守っている事は知られていなかった。

しかし今、真司の概念が根本となった訳で。イツトリの概念は消えてしまった。

それが意味する所とはつまり――!

 

 

『ああもう説明してる時間はねぇ! 先輩!』

 

『仕方ないね、今回はサービスだ。今から何が飛んでくるのか、教えてあげるよ』

 

「と、飛んで来る?」

 

『ああ。すぐに行動に移した方が良い』

 

 

その時、参加者達の脳を駆け巡る情報と記憶。

 

 

「「「―――」」」

 

 

そして轟音。

凄まじい爆音と衝撃。光の奔流がマミの部屋を――、円環の理を破壊していく。

 

 

「虫けら共がァァ!」

 

 

皮肉な話ではあるが、この空間はイツトリの概念の下に守られていたと言ってもいい。

それが真司に上書きされた今、魔獣が気づかない訳が無い。

完全に支配したと思っていた円環の理が、まだ微弱ながらも機能していた事。

なにより、まどかに概念を支配されていた事。

加えて、先の城戸真司が取った行動に完全に、魔獣達は腸が煮えくり返っている状態だ。

 

 

「魔獣――ッ!」

 

「見つけたぞ、鹿目まどか……!」

 

 

瓦礫の中から姿を見せるのは鹿目まどか。

そしてマミの部屋の『外』が、はじめて明らかになる。

バルコニーから見えていた景色は偽りで。実際は虹色の空の下にある、なだらかな起伏が果てしなく続くだけの砂丘だった。

 

 

「お前の醜い足掻き、反吐が出そうになる」

 

「ッ」

 

 

目が据わっているバズビー。

その背後には同じく無数の白い人型の魔獣、『従者』型がうごめいている。

数々の失態を帳消しにするべく、バズビーは概念体である鹿目まどか抹殺の役目を買って出た。

 

城戸真司の殺害には失敗したものの、まだバズビー達魔獣にはチャンスが残されている。

それはこの縛り付けられた魂を全て消し飛ばせば、『駒』としての役割を果たせなくなり、ゲームの再開は不可能となる訳だ。

 

つまり、ゲームが始まる前に相手の駒を粉々に粉砕する。

真司もそこまでは分からなかったか、彼は先にゲーム盤の準備をしに向かってしまった。

 

 

「城戸真司は勘違いをしたままだ。コチラにお前のゲームを受ける気など、サラサラ無いんだよ」

 

 

今ココでお前が守りたかった物を全て根本から消し去り、お前に虚無と絶望を与えてやる。

バズビーはニヤリと笑い、まどかを睨んだ。

 

 

『お前らいい加減にしろよ! 黙ってゲームを受け入れろよ!』

 

『本当だよ。足掻くならゲームが始まってからにしてもらいたいね』

 

「――ッ!」

 

 

優衣をマントで包んでいたのはキトリーだ。キュゥべえ達の従者と言う事で、強化されている。

おかげで魔獣たちの攻撃から優衣を守る事はできたのだが、辺りを見回すと、そこにはまどか以外は誰もいなかった。

 

 

「み、みんなは!?」

 

『お、おいおい! まさか――!』

 

「死んだに決まってるだろ」

 

 

当然の様に言い放つバズビー。

そもそもバズビーは初めからまどか以外を狙って矢を放った。

 

 

「多少コチラも本気を出させてもらった」

 

 

確かに。

円環の理で構築された建物を崩壊させる程の威力。

キトリーは直接狙っていなかったが故に耐えられたかもしれないが、他のメンバーはそうじゃない。

 

 

「ウザいんだよお前ら、何もかも」

 

「!」

 

「希望だの約束だの、気持ち悪い。ゲームの駒が何を言っているのか? コッチはゴミ同然のお前ら人間を、玩具として扱ってやってるんだ」

 

 

その恩を仇で返すなど、怒りが溢れてくる。

玩具は主人の自由に遊ばせる、それが役割と言う物だ。

それを履き違えるなど、考えただけでも吐き気がする。

 

 

「どうだ? 鹿目まどか。目の前でまたお友達が死ぬ光景は」

 

「……ッッ!」

 

 

まどかは俯いて拳を握り締める。

跡形も無く消し飛んだマミ達。

優衣は凄まじい怒りと悲しみを感じて、思わずバズビーに向って叫んだ。

 

 

「まどかちゃんはお友達と、仲間と、幸せになりたかっただけなのに!」

 

「あー?」

 

「どうして……! どうしてあなた達はこんな酷い事を!」

 

「どうして? どうしてぇ? ははっ! クハハハハハハ!!」

 

 

皆さん、答えは一つですよね? そういいながらバズビーはクルクルと回っていた。

どうやら今もリアルタイムでホールには中継がなされているらしい。

『ゲスト型』と言う観客や、他のバッドエンドギアに向けてバズビーは語りかける。

まどか達を苦しめる理由、それはたった一つだ。

 

 

「楽しいからに決まってんだろうがぁアッッ!!」

 

「!」

 

 

無言のまどか。

だが拳を握り締める力は確実に強くなった。

一方でケラケラと笑い始めるバズビー。思い出し笑いである。

そう、それだけ滑稽なシーンがいくつも浮かんでくる。

それだけ参加者が絶望に涙したシーンがあると言う物だ。

 

 

「お前らが絶望すればする程ッ、私たちは楽しいんですよッ!」

 

「酷い……!」

 

「殺したくないよぉ! 死にたくないよぉ! クハハハ! でも殺す! でも死ぬ!」

 

 

当然ですよね?

だってお前らは協力なんてできない屑の集まり。どいつもコイツも傷つけ合って憎しみ合う。

最高に滑稽で哀れで愚かだ。そして血と涙で塗れる世界こそが魔獣にとっての楽園ではないか。

まどかの、いや参加者の涙と血液は美しい宝石だ。

手に入れれば入れる程にもっと、もっと、もッッと手に入れたくなる!

 

 

「あぁ、それに思い出すよ鹿目まどか! ついさっきお前の家族を殺した時の感触が!」

 

 

母親は腹を矢でかッ捌いてさぁ、父親は何度何度も矢で色んな所を刺し貫くんだ。

臓物垂れ流してひぃひぃ泣き喚いて死んでったゴミ共を見つめながらッ、お前の弟も最高に良い表情してたよ!

 

 

「ちっちゃな手、私は彼の指を一本ずつ折っていくんです」

 

 

泣き叫ぶ姿がまた何とも言えなくて!

高揚するバズビー、頬を蒸気させてまどかに下卑た笑みを向ける。

 

 

「たすけてーパパーママー! クハハハハハ! もう死んでるってのに!!」

 

「………」

 

「お前に似て最ッ高にバカな弟だったよ! ハハハハ!」

 

 

まどかの拳から血が滴る。

それほど強く握り締めているんだろう。

内側から溢れる感情に気づかないのか。バズビーはまだ頬を蒸気させてまま、楽しげにまどかに感想を聞かせていた。

 

 

「最後は涙と鼻水で顔グチャグチャにして醜く汚い物だったよ! 人間にはお似合いの最期だ!」

 

「――ぃ」

 

「助けてまろかーだってさぁ! クソ笑えるよなぁ? お姉ちゃんはその後ッ、私の言葉で絶望したのにさァア!」

 

「――ない」

 

「気持ち良かった! お前の弟の脳天を、矢で直接貫いた感触ッ、まだ私の手に残っている!」

 

 

その瞬間、まどかはバッと顔を上げた。

その目には涙が浮かんでいるが、同時にしっかりと光を持ってバズビーを捉えていた。

自覚する確かな怒り、そして――!

 

 

「今、ハッキリと言える!」

 

「アァん?」

 

「わたしは貴女をッ、あなた達を絶対に許さないッ!!」

 

 

先に煽ったのはバズビーであるが、まどかの言葉が真司に言われた物と重なり、魔獣の怒りを刺激する。弱い弱い雑魚のくせに、コッチが仕掛けた殺し合いでピーピー泣いていた奴が反抗してくる。信じられない話だ。だから信じられないほど怒りが湧いてくる。

 

 

「許さない? 何クソみたいな事を言っている? なんで私がお前に許される権利を決められなければならない!?」

 

「ッ」

 

「何を上から語っているッ! 猿がァアア!!」

 

 

バズビーの顔には青筋がいくつも浮かんでいた。

それだけの怒り、それだけの殺意が、まどかにビリビリとした嫌なプレッシャーを与えていく。

 

 

「調子に乗るなよ、今のお前は神でもなんでも無い! ただの弱くて惨めな魔法少女!」

 

「それでもわたしは、真司さんが作ってくれた希望で、あなた達を必ず倒す!!」

 

「黙れッ! イツトリに負け、我等の玩具となった者が何を吼えるのか!」

 

 

お前らはいつまでもいつまでも無様な姿を晒していれば良いんだ。

情けなく泣き喚き、どうしようもない世界で滑稽に踊れば良い。

 

 

「それを私たちが笑い、嘲笑し、見下す。それがこの世の概念、偽りの無い唯一の掟!」

 

 

そのサイクルを崩すなど論外だ。

愚かな歯車に巻き込まれた者は、いつまでもその上で無様に戯曲を紡ぎ続ける。

 

 

「もうお前の守ってきた者も塵になった!」

 

 

弓を構え、引き絞るバズビー。

 

 

「お前もせめて最期くらいは、我々を楽しませてみろッ!」

 

 

簡単には殺さない。

体中を穴だらけにし、命乞いに命乞いを重ねさせた上で殺す!

バズビーは狙いを定め、まどかを射抜こうと目を光らせた。

 

 

「そろそろうるせぇ」

 

「は?」

 

 

刹那、バズビーの視界に赤が広がった。

 

 

「黙れよ、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァアァアァァ――ッッ」

 

 

腹部に凄まじい衝撃を感じて、バズビーの体が後ろへ吹き飛んでいく。

腹部中央にピンポイントな衝撃を感じたと思ったら、今は砂を巻き上げて後ろへ吹き飛んでいる。

口からは酸素が爆発する様に吐き出された。ブレる視界の中と言うのもあってか、バズビーは何が起こったのか理解できず、ただただ砂を巻き上げていく。

しかしすぐに理解が追いつく。何故なら赤に青が加わり、自分を追いかけて来たからだ。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ハァアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

砂を巻き上げながら地を駆けるのは、美樹さやかと佐倉杏子の二名であった。

それぞれ武器を両手に構え、凄まじい気迫と怒りを顔に乗せてバズビーに切り掛かっていく。

 

 

「チィイッ!!」

 

 

振り下ろされたサーベルを矢で受け止めるバズビー。

どうやらこの矢は相当な強度があるらしい。

さやかの剣をその細い身で受け止めながらも、折れる素振りを見せない。

 

さらにもう片方の手にある弓で、杏子の槍を受け止める。

その後も二人は次々に連続して攻撃を繰り出すが、バズビーはステップや的確な防御で直撃は許さない。

舞い散る火花、その中でバズビーが吼えた。

 

 

「何故だ! 何故貴様らが――ッ!!」

 

 

確かにあの時、まどかの周りにはキトリーに守られた優衣達以外はいなかった筈だ。

それなのに何故? 隠れていたのか? それしては場所が無かったのに。

 

 

「ゴチャゴチャうるせぇ! ブッ殺す!!」

 

「魔獣! あんたは絶対に許さない!!」

 

 

さやかと杏子は、まどかとバズビーの会話を聞いていたらしい。

鬼気迫る表情で切りかかっていくのがその証拠だ。

 

 

「ハッ!」

 

 

嘲笑がバズビーから漏れる。

だったらどうしたと言うのか。同時に振り下ろされた杏子達の武器を弓で受け止めると、唇を吊り上げる。

 

同時に弓の弦が分離し、伸張。

一本のワイヤーになると、バズビーの意思一つで操作され、杏子達に絡み付いて縛り上げた。

 

 

「「!」」

 

「いずれにせよ、死の末路は決定している」

 

 

バズビーが左手を上げると、背後にて従者達が一勢にモザイクを光らせた。

身動きの取れないさやかと杏子に、レーザーを避ける術は無い。

 

 

「塵となれ、恐怖に包まれてな」

 

「――ッ」

 

 

引きつった表情の二人。

人間が魔獣に逆らう事は間違っているのに、それを理解できないからこうなる。

だが――!

 

 

「レガーレ・ヴァスタアリア!!」

 

「!」

 

 

どこからとも無く、無数の黄色い糸が現れ、嵐の様に奔流を巻き起こす。

あっと言う間だった。糸は従者を縛り上げると、完全にその動きを封じてみせる。

誰だ? バズビーが糸の先を見ると、そこには黄色の魔法少女が。

 

 

「巴マミ……!」

 

「ふふ、余所見なんて余裕なのね」

 

「!?」

 

 

縛られたのは体だけ。

従者は構わずレーザーを放とうとするが、瞬間的に糸が首を縛りあげる。

マミが操作を行うと、連動した糸が動いて魔獣の首が強制的に操作される。

まさに操り人形だ。そのまま従者達は、首が曲がったままレーザーを放ち――

 

 

「ぐあぁああ!!」

 

 

魔獣のレーザー群がバズビーの背中に直撃する。

その衝撃と威力で、ワイヤーの拘束が緩んだ。

それはつまり杏子とさやかを解放すると言う事。加えてバズビーはダメージを受けて怯んでいる。

 

 

「ラァアアッッ!!」

 

「ハァアア!!」

 

「ッッ!」

 

 

杏子が斜めに放つ赤い斬撃。さやかが斜めに放つ青い斬撃。

二つはクロスを作り出すと、バズビーの体に確かなダメージを刻み込む!

そうだ。確かな衝撃、確かな痛み。何だ、何だコレは。

またもや人間風情に傷を負わされたとでも言うのか?

 

 

(魔獣の中でも選ばれたこの私が――ッ? 高貴なる私が! 所詮は猿が進化しただけの人間に傷を負わされた!?)

 

「フッ!」

 

 

さらにマミが並べたマスケット銃から放たれる弾丸が、従者達をヘッドスナイプしていく。

加えて思い切り手を引くマミ、魔獣を縛り上げていた糸が強く収束し、その体をバラバラに引き裂いて絶命させた。

 

 

「暁美さん!」

 

「ええ!」

 

 

マミの脇を通り抜けるのは暁美ほむら。ハンドガンを構えて、砂の上を走りぬける。

それに気づいた杏子とさやか。二人は顔を見合わせると頷き合い、それぞれ左右に思い切り跳んだ。

 

 

「魔獣ッ!」

 

「……!!」

 

 

ほむらは走りながら引き金を引いて弾丸を放っていく。

しかしバズビーは驚異的なスピードと反射で、弓を盾にする様に構えて銃弾を弾いてみせた。

だがそれは、ほむらの計算通り。ここはもう箱庭、つまりゲーム内ではない。

と言う事はだ。

 

 

「!!」

 

 

銃弾を防いだバズビーは、すぐにほむらの方を睨むのだが、そこに彼女の姿は無い。

どこへ行ったのか。一瞬の考え、そして湧き上がる答え。

そうだ、ほむらの固有魔法は時間停止。

 

 

「ッ! グッ!!」

 

 

バズビーは突如背中に衝撃を感じて、よろけてしまう。

すぐに振り向くと、そこには当然ほむらの姿があった。

バズビーを激しく睨みつけており、背中に手を押し当てている。

その行動もまた、バズビーにとっては苛立つだけだ。スペックの低いほむらの掌底など、全く痛くも無い。それが分からないのか?

 

 

「ゴミが……!」

 

「黙りなさい」

 

「!!」

 

 

消えるほむら。と、思えば――

 

 

「ぐゥウウウッッ!!」

 

 

体の至る所に走る衝撃。

時間を止めたほむらはバズビーの全身に掌底をぶつけていった。

だが言うても魔獣の幹部。人の見た目をしていたとしても、その防御力は騎士のソレに匹敵する。

ほむらの腕力ではまともなダメージを与える事はできないだろう。

もちろん、ただの掌底ならばの話だが。

 

 

「!!」

 

 

バズビーは余裕から一転、青ざめる。

一発目では気づかなかったが、今ならば分かる体の重さ。

掌底はただの攻撃ではなく、ある物を押し付ける為の物だったのだ。

 

 

「貴様……! 貴様ッッ!!」

 

「………」

 

 

バズビーは全身の至る所に貼り付けられた爆弾の起動ランプが点灯するのを、自らの目で確認した。

同時にピー、と言う音が幾重も重なり合い。

 

 

「ぐああああああぁあぁアァアアアッッ!!」

 

 

大爆発。

周囲の砂を吹き飛ばし、バズビーは苦痛の叫びと共に地面を転がっていく。

爆煙が纏わりつき、その中で凄まじい衝撃と痛みが脳を揺らしていった。

 

 

「ぐッ! ズァア……ッ! ガァアア!!」

 

 

地面に伏したバズビーは、なんとか顔を上げる。

そこに見えたのは、並び立つ5人の魔法少女達の姿であった。

 

 

「ググッ! グガァアァッ!!」

 

 

バズビーが怒りと苦痛に吼える。

彼女を睨みつけるのは、左からマミ、ほむら、まどか、さやか、杏子。

ある者は軽蔑、ある者は怒り、ある者は希望を目に宿して魔獣を見ている。

 

いや、状況的に言えば見下されていると言えば良いか。

余裕の雰囲気を出しているまどか達と、呻き声を上げて倒れているバズビー。

ビキビキと怒りの青筋がまた、いくつも浮かんでいった。

 

参加者達は雑魚。

魔獣――、バッドエンドギアは選ばれし者。

その絶対的な事実を、常に胸に抱えているバズビーにとって、この光景はあまりにも。

 

 

「ここまで馬鹿にされたのは初めてだ……!」

 

 

そして、それだけじゃない。

 

 

「許さん……ッ!」

 

 

まどか達の背後にいたのは、だ。

 

 

「許さんぞ――ッッ!!」

 

 

ヨロヨロと立ち上がると、ありったけの怒りとありったけの皮肉。

そして嘲笑を込めて、『彼女』の名をこう叫ぶ。

 

 

「まどか――ッ! マギカァァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

この高貴なる魔獣を見下した最高の愚か者の名を。本人の名前と、魔法少女を意味する言葉を合わせて叫んだ。

バズビーの視線の先にはマミ、ほむら、まどか、さやか、杏子が立っており。その後ろには残りの騎士と魔法少女達が変身してバズビーを睨んでいた。

 

参加者は死んでなどいない。塵になってなどいない。

キュゥべえ達によって、これからバズビーが攻めてくる事を知らされたので、油断させる為にニコとベルデが使ったクリアーベントによって透明化していただけに過ぎない。

 

魔獣達が仕掛けた攻撃は、まどかが全て結界で防いでくれた。

確かにこの理の中にいた鹿目まどかでは、魔獣の攻撃を防ぐ事はできなかったかもしれない。

だがしかし、今彼女は舞台に置かれたまどかと一つになった。

つまり半身と半身の融合を果たし、完全体となった訳だ。

故に、まどかは皆を守れた。魔獣の攻撃を防ぎ、こうしてカウンターを叩き込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体何がどうなっているのです!?」

 

「なんなんだコイツ等は――ッ!!」

 

 

ホールでは、当然その光景を他の魔獣達が確認していた。

下層では『ゲスト型』達がドヨドヨと先ほどから連続して起きているイレギュラーの事態に、ざわめいており、責任者は誰なのかとしきりに吼えている。

魔獣が人間を使って遊ぶのがフールズゲームであり、永遠のルールだ。

なのに何故、画面の向こうでは魔獣が人間風情に負けているのか。

何故これから自分達が滅ぼされる可能性がある、The・ANSWERが行われようとしているのか。

 

 

「ええいッ! 落ち着かんかみっともない!!」

 

 

モニタ近くの席に座っていたゲストの一体が、立ち上がり、周りを落ち着かせる。

円卓の上におかれた瘴気のワインを持って、余裕を見せているのは『ピエール松坂』と言う魔獣だ。名前は適当に人間のものを取ってつけた。煌びやかな衣装に身を包んでいる彼は、既に多くのチップを獲得している。

だからこそ余裕があるのか。他のゲスト達になんの心配もないと笑っていた。

 

 

「我々は高貴なる魔獣だ。それが劣等種族ニンゲンに負ける理由がどこに?」

 

 

瘴気のエネルギーでできたチーズをほおばり、ほらねと笑う。

すると他のゲスト達も、そうかそうかと納得し始めた。

 

 

「まだある。我々がいるフロアの上を見て御覧なさい。そこにはバッドエンドギアの皆様が見えるはずだ」

 

 

オオ! と歓声があがる。

そうだ。今はちょっと非常事態に混乱しているだけ。

ピエール松坂は陽気に笑いながらワイングラスを回していた。

 

 

「きっともうすぐバズビー様が愚かな参加者を血祭りにあげてくれる! そうすればまた楽しい楽しいフールズゲームに我々は興じることができるのだっ!」

 

 

拍手が巻き起こる。

ピーエルは自慢げにお辞儀をすると、酒をもってこい、料理をもってこいと声高らかに叫んだ。

愉快な愉快なフールズゲーム。次は誰に賭けるや、次は誰が苦しんで死ぬのやら。

考えただけで喜びが溢れる。

 

 

「次は私は鹿目まどかが醜く死ぬほうにかけよう! チップは大目! 大博打だ!」

 

 

そうだそうだ、何もおかしな事じゃない。

すぐにまた元通りだ。ゲスト達は大笑い。慌ててしまった事が恥ずかしい。

参加者達が魔獣の存在に気づいたからどうした。モニタの向こうに騎士がひとりいない気がするが、それがどうしたと言うのか。

なんの問題もない。FOOLS,GAMEは終わらない。新しい絶望を紡いでくれる。

 

 

「よし来た! ここは哀れな参加者共が、バズビー様によって蹂躙される記念に、あえて人間のやり方で祝おうではないか!!」

 

 

ピエールはグラスを持ったまま両腕を上げては下し。上げては下し。

 

 

「ばんざーいッ! ばんざーい!」

 

「おやおやピエール様ってば」

 

「いやしかし戯れに乗るのも一興か! のほほ!」

 

 

他のゲスト達も釣られて両腕を上げ始めた。

 

 

「魔獣ッ、ばんざーい! FOOLS,GAMEばんざーいッ!」

 

 

ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい! 人間死ね死ね! 人間死ね死ね!

大盛り上がりのホール下層。ピエールもご満悦である。

その時だった。ピエールの後頭部が掴まれ、そのまま顔面が円卓の上に叩きつけられたのは。

 

 

「バンザビュッッッ!!!!」

 

 

間抜けな声が聞こえた。

あれだけ盛り上がってたホールが一瞬で静寂に包まれる。

 

 

「アァァァァ」

 

「「「!?」」」

 

 

身の毛もよだつ程恐ろしい、獣の呻き声が聞こえて来た。

 

 

「ぽげェ……」

 

 

静まり返るホール。だからピエールが口にした間抜けな声がよく通る。

テーブルに叩きつけられたので、いろいろ料理のソースやら瘴気で作ったパスタが顔にこべり付いているじゃないか。

 

ピエールを掴んでいたのは蛇柄のジャケットを着た男。

浅倉威は、グルリと首を動かしてホールにいた魔獣たちを確認。

直後、ニヤリと口を吊り上げた。

 

 

「ゥヴン……! ここかァ? 祭りの場所は!」

 

「に、人間ッ!?!?!!??!」

 

「俺も混ぜてくれよォ。ハハッ! ハハハッ!」

 

 

浅倉は掴んでいたピエールを放ると、そのまま蹴り飛ばし、なんと生身のまま走り出した。

咆哮をあげ、豪華な椅子をなんの事無く蹴飛ばし、同じく煌びやかな円卓を打ち倒しながら、無数に控えるゲスト達に突っ込んでいく。

 

全く魔獣を恐れないその精神。

何よりも本来は敵に囲まれている状況であるにも関わらず、声を出して笑っている異常性。

そんな浅倉に言いようのない恐怖を覚えたか、ゲスト型の魔獣たちは恐怖に引きつった声を上げて後退していく。

 

 

「ヒ、ヒィィイ! なんだあの人間は!」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

テーブルの上に手を乗せて飛び上がる浅倉。

なんとそのまま怯んでいる魔獣を生身で殴りにいった。

煌びやかな衣装に身を包んでいるゲストの顔面に、浅倉の拳がえぐり刺さる。

大きく倒れる『アルフォンゾ斉藤』。浅倉は地面に転がっていたワインのボトルを掴むと、思い切り振り回して、近くにいた『キャサリン島村』の頭に直撃させる。

 

 

「ペゲエェ!!」

 

 

ボトルが割れ、瘴気のワインが飛び散った。

どす黒い液体がゲスト達の煌びやかな衣装を汚し、浅倉は鼻を鳴らしてワインを見詰める

 

 

「汚ねぇ色だ!!」

 

 

そのまま割れたボトルを戸惑っていた『オーシャンズ有岡』の顔面に突き刺すと、次の獲物を探しに走る。

パニックになるホール。中層にいる魔獣達も浅倉の出現を確認して絶句していた。

 

 

「あ、浅倉威ッ! なぜこの場所が……!」

 

 

蝉堂は身を乗り出して状況を確認する。

悲鳴が木霊する中、浅倉は現在『トリミアン牧野』の耳を噛み千切っていた。

 

 

『オイラだよ』

 

「!」

 

 

バッドエンドギアの前に現れたのはジュゥべえ。

どうやら彼が、浅倉を連れてきたらしい。

 

 

『テメェらが悪いんだぜ? 黙ってゲームを受け入れないから』

 

 

素直にゲームが始まってから参加者を潰す選択を取れば、妖精達も何も言わなかっただろう。

しかし魔獣はゲームが行われるというのに、それを拒み、参加したくないからと始まる前にゲームを滅茶苦茶にしようとする。

 

 

『ガキかよ』

 

 

ジュゥべえは笑えるぜと、彼らを小馬鹿にしていた。

 

 

「お前ぇええッッ!!」

 

『待て待て! 悪い事ばかりじゃねぇよ。アイツが邪魔なら今ココで消せば良い。魔獣様には余裕な事だろ?』

 

 

ゲスト達だって立派な魔獣だ。言葉を話せる分、従者型よりよほど強い。

対して浅倉は人間。それも生身だ。レーザー一発でも当たれば死ぬだろう。

現に今、下層にいるゲストたちは冷静さを取り戻したのか。

逃げ惑いながらもそれを理解したらしく、浅倉にレーザーを当てようとモザイクを光らせた。

殺す気満々である。なのだが――……。

 

 

「ウラァア!!」

 

 

浅倉の豪快な回し蹴りが、今まさにレーザーを放とうとするゲストの首を、通常ならば曲がらない方向まで曲げる。

故に軌道がブレ、浅倉ではなく他の魔獣に直撃するレーザー。

それが他の魔獣の怒りと焦りをかって、反射的にレーザーを発射させた。

浅倉はと言うと、倒したテーブルの影に隠れながら移動し、他の魔獣の場所まで一気に駆け抜ける。

 

 

「殺せ殺せ殺せぇええッッ!!」

 

 

変身もしていない人間に翻弄されるなど、魔獣のプライドが許さない。

浅倉めがけて多くのゲスト達がレーザーを発射した。

しかし浅倉には、焦りも恐怖も微塵も無い。とは言えそんな事を言っていられる状況でもなくなった。ゲスト達のレーザーが円卓を蒸発させ、浅倉を光で包み込む。

 

 

「やった! 黒こげだぁ!!」

 

 

確かに黒焦げだった。ピエール松坂が。

 

 

「??!?!??!!?」

 

「な、なんでェぇ……」

 

 

真っ黒になったピエールは呟くよう言って動きを停止する。

そうだ。浅倉は走り、ピエールを掴むと前に掲げて盾にしたのだ。

そこへ直撃するレーザー。ピエールがウェルダンになるのは当然である。

 

 

「ゲストを盾に!?」

 

 

よりザワつくホール。

その中でも浅倉の笑い声はよく通っていた。

炭同然となったピエールを文字通りゴミの様に前へ放ると、その体を踏み潰して前に出る。

 

 

「な……、なんて無礼な事を……ッッ!!」

 

 

ピエールが口にする。

だから浅倉はこう答えた。

 

 

「そこにいた、お前が悪い」

 

「ァヵ――ッ、ばけ……、も――」

 

 

浅倉はピエールの頭を蹴ると、炭になった頭部は簡単に砕け散った。

ゾッとした得体の知れない何かが、魔獣達の背中を駆け巡る。

 

餌として認識していた人間の放つ気迫。

それに今、確かな『感情』を自分達は抱いたのだと、誰もが理解したことだろう。

そして浅倉はゆっくりと、かつ鋭く、魔獣たちを睨みつけた。

丁度死んだピエールが粒子化してホールから消滅する。

魔獣とはそれすなわち虚空の存在。どれだけ人の形を真似していようが、根本は負の感情の集合体なのだから。

 

 

「アァァ、分かるか? お前ら」

 

「「「ッ!?」」」

 

「俺の中に眠る……」

 

 

そう、魔獣は忘れていたのだろう。

その感情を。それこそまさしく――!

 

 

「苛立ちが――ッ!」

 

「ジャアアアアアアアアアア!!」

 

 

魔獣達がつい先ほどまで参加者の死を見て楽しんでいたスクリーンが粉々に砕けた。

それを突き破って現れたのは、ベノスネーカー、ベノゲラス、ベノダイバー。

ミラーモンスター達は浅倉のイライラに呼応したかの様に咆哮を上げ、ホールの中を激しく暴れまわる。次々にゲスト達を噛み砕き、打ち砕き、感電させていく。

 

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

ゲスト達の絶叫とも言える悲鳴の中に重なる、浅倉の楽しそうな笑い声。

構えを取って王蛇に変身すると、ユナイトベントの音声が流れる。

 

 

「イギャアアアアアアアアアアア!!」

 

 

ゲストの悲鳴がブラックホールの中に吸い込まれていく。

そんな中、王蛇はゆっくりと首を回しながら中層に視線を合わせる。

唖然としているバッドエンドギアのメンバーに、人差し指を向けた。

 

 

「初めてだぜ。北岡以上に俺をイラつかせてくれた奴はな」

 

「!」

 

「今すぐ降りて来い。ンン……!」

 

 

王蛇ははネットリとした声で言い放つ。

 

 

「全員、一人残らずブッ潰す」

 

「「「「「!!」」」」

 

『おーおー! 言われてるぜぇ? 魔獣さんよぉ!』

 

 

そう煽りながら消えるジュゥべえ。

その言葉に反応したのか、中層から一人の男が降って来た。

紺のレザーコートに身を包み、赤いワンレンズのサングラスをした恰幅のいい大男。

名は『イグゼシブ・ハバリー』、彼もまた上級魔獣バッドエンドギアが一人である。

 

 

「図に乗るなよ、人間。少し無礼が過ぎるのではないか?」

 

「おォ。雑魚ばかりかと思っていたが、なかなか面白そうな奴もいるな」

 

 

サングラスで表情は隠れているが、それでも凄まじい怒りがイグゼシブからは感じられた。

ましてや下層に降り立ったというのに、ブラックホールの引力に全く怯んでいない。

他のゲストが柱やテーブルを掴んで必死に耐えているのに、イグゼシブは仁王立ちで王蛇を睨んでいた。

 

しかし余裕の王蛇。恐れる心が全く無いのか。

そればかりか、むしろ一刻も早くイグゼシブをぶちのめしたいと言う欲望しか湧いてこない。

だがそこで、スクリーンの奥から声が。

 

 

「そこまでだ浅倉。挨拶は十分だろ」

 

「ふざけるな、もっと遊ばせろ」

 

「アホか! さっさと帰るぞ」

 

「……チッ!」

 

 

王蛇は大きな舌打ちを零すと、ジェノサイダーに命令を出し、小さなブラックホールを真横に出現させた。

やれやれと言った様子で、王蛇はその中へと入っていく。

 

 

「逃がすか!」

 

 

イグゼシブはすぐに地面を蹴るが、彼は気づいていない。

スクリーンの奥に聞こえた人の声。

そして機械音を。

 

 

「ヌゥウ!!」

 

 

激しい光が巻き起こったかと思えば、ミサイルやレーザー、ガトリングの銃弾がこれでもかと言う程に飛んでくる。

超爆発に包まれるホール。多くのゲストを焼き尽くし、煌びやかな装飾品をズタズタにしていく。

15秒ほどだろうか? 気づけば、あれだけ気品に満ち溢れていた下層ホールは廃墟の様にボロボロに変わっていた。

その中に立ち構えるマグナギガと、その背後にて銃を差し込んでいたゾルダ。

 

 

「悪いね。趣味が悪いパーティはさっさと帰りたくなる性分なんだ」

 

 

ゾルダは軽い調子で笑うと王蛇が残して行ったブラックホールの中に消えていった。

ジュゥべえから持ちかけられた挨拶の時間には期限があった、この負のエネルギーに満ちた場所にいては精神に異常をきたしてしまう故に。

 

 

「………」

 

 

爆煙が晴れ、その中で立ち尽くすイグゼシブ。

ホールの下層にいたゲスト型の魔獣はほぼ全てエンドオブワールドにて焼き尽くされる結果となった。

だが同時にイグゼシブは服についた汚れを払うだけ。

肌や服は一部焦げている様にも思えるが、逆に言えばそれだけだ。

エンドオブワールドを真っ向から受けておきながらも、真っ直ぐに立っていられる防御力が見て取れる。

だがそれは問題ではない。重要なのは、人間にココまでしてやられた事だ。

 

 

「申し訳ありませんギア様」

 

「構わない」

 

 

ギアは上層から飛び降り、マントを翻しながら着地する。

ゆっくりと辺りを見回し、その被害をかみ締めていた。

魔獣の遊技場が、遊んでいた玩具に壊された。

 

 

「構わないが――」

 

 

静かに、それは静かに言い放った。

 

 

「虫唾が走る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァアアアアアアアア!!」

 

「「「「「!!」」」」」

 

 

円環の理。

バズビーを前にして余裕を見せていたまどか達ではあったが、変化が起こったのはその時だった。

立ち上がったバズビーが叫んだかと思うと、彼女の肉体が変質していき、あっと言う間に異形と変わり果てたのだ。

 

それは数秒前の人間の少女と言うイメージを根本から覆す程の物。完全なる化け物である。

人型と言うだけで、その姿はどちらかと言えば蜂の方が近いかもしれない。

基本カラーの金色の体に、桃色の装甲が一部混じっている。

 

 

「確実に殺すッ! 覚悟しろ人間共ッ!」

 

 

赤く釣りあがった目が、参加者達を捉える。

魔獣バズビー。その真の姿こそ、この『バズスティンガー・ブルーム』であった。

ミラーモンスターの力を得た魔獣たち、バズビーはその中でブルームの姿と力を吸収した訳だ。

 

 

「死ね!」

 

 

弦を引き絞ると、弓の前に魔法陣が出現する。

 

 

「スパイラルブルーム!」

 

「くッ!」

 

 

矢が魔法陣を通過すると、螺旋状のエネルギーが纏わり突き、周囲の地形を吹き飛ばしながら突き進んでいく。まどかは盾を出現させるが、着弾と同時に爆発が起き、凄まじい爆風が巻き起こる。だがしかし、その中でもさやか達は反撃の手に打って出ていた。

巻き上がる砂の中を、さやかと杏子は身を低くして走り、再びブルームの元へ距離を詰めていく。

 

 

「ハサビー! レイビー! アイビー! ロズビー!」

 

「ッ!」「!?」

 

「集え! 我が針よ!!」

 

 

上空から飛来してくる黄、赤、黒、青の四色の光。

なんだ? さやかが立ち止まると、その前に着地する青髪のボブカットの少女『アイビー』。

同じく杏子の前には修道着の赤髪の少女『ロズビー』。

さらにブルームの両隣にそれぞれ黒髪のサイドテールの『ハサビー』、黄髪をツインドリルにした少女『レイビー』がそれぞれ舞い降りた。

 

 

「失せよ!」

 

「邪魔なのォ!!」

 

「ぐあぁ!」

 

「うぐっ!!」

 

 

赤と青に蹴り飛ばされる杏子とさやか。二人はまどか達の所に再び弾き戻される事に。

他のメンバーは訝しげな視線を現れた少女達に向ける。

その中でも暁美ほむらは特に焦っていた。時間を止めようとしているのに、何故か魔法が発動されない。するとブルームの隣に並んだ黒髪のハサビーと言う少女がニヤリと笑った。

 

 

「これなら分かりやすいかな?」

 

「!」

 

 

ハサビーが腕を前に出すると、手首に鎖が現れた。

正確には見えるようにしてくれたと言えばいいか。鎖が繋がっている場所は、ほむらの盾だ。

がんじがらめにされているが、特別抵抗感はない。

だとしたらこれは――?

 

 

「私の能力は固有魔法の無効化だ。諦めろ暁美ほむら、私の毒がお前の魔法をゼロにする!」

 

「……ッ」

 

 

その時、ハサビーもまた黒み掛かった紺色の蜂に変わる。

その名はバズスティンガー・ワスプ。

 

 

「ご丁寧に……、どうも」

 

 

ほむらは汗を浮かべて一歩後ろに下がる。

するとその時だった。王蛇とゾルダが一同の下に戻って来た。

それに加え、空が割れたのは。

 

 

「!!」

 

 

まどかは息を呑む。

割れた空から現れたのは、ギアを初めとした上級魔獣バッドエンドギアの面々であった。

それに加え無数の従者型が伴い、ある種それは神々しささえ感じられる光景だった。

ギアを見て一勢にバズビー達は跪いていく。そこで一同はギアが魔獣における(トップ)だと言う事を理解した。

 

 

「アァァ、面白い。一人残らず――」

 

「待って!!」

 

 

王蛇は戦う気満々で前に出ようとするが、それを制したのは、まどかだった。

嫌な汗が全身に浮かぶのを感じている。他の魔獣ならばまだしも、あれは駄目だ!

 

 

『ヤベェんじゃねぇかコレ。なあ、先輩』

 

『ああ。まさかギアまでもプロテクトを突破してくるとは』

 

 

少し魔獣をナメ過ぎていたかもしれない。

完全にコチラのミスだとキュゥべえ、ジュゥべえ。

妖精達のそばにいた優衣も、ギアを見て喉を鳴らした。

あの歯車のような化け物が、兄に禁断の取引を持ちかけてきた全ての現況なのかと。

 

 

『仕方ない――』

 

 

特例だ。向こうがその気ならば。

 

 

『少し、動こうか』

 

 

キュゥべえは静かにそう言った。

 

 

「鹿目まどか……」

 

「ッ!」

 

 

静まり返るフィールド。

そこでギアがポツリと言葉を放つ。

 

 

「支配者と言う言葉の意味が、お前には分かるか?」

 

 

ギアが上空に掌を向けると、そこに巨大な歯車型のエネルギーが出現した。

凄まじい程の絶望が感じられる。圧倒的な恐怖を凝縮させたと言えばいいか。

 

 

「頂点に君臨し、世界の在り方を決める事ができる」

 

 

誰の下につく事も無く。全ての命を意のままに操る。

誰も命令できない、誰も逆らえない。

そう、それはまさに。

 

 

「私の事だ」

 

 

ギアは言う。

まどか達は一つ大きな勘違いをしている。

人が食物連鎖の頂点に立つ時代は、とうの昔に終わりを告げたのだ。

では今、その頂点に立つのは誰なのか?

 

 

「考えるまでもない、魔獣なんだよ」

 

「!」

 

「人が魔獣よりも優れていると考えるのは間違いだ」

 

 

ヒエラルキーは魔獣を頂点として完成を向かえる。

それを理解できない人間は、愚か以外の何者でもないのだ。

間違いは修正しなければならない。誤った歴史は正さなければならない。

その役割は今、魔獣に与えられた物だと理解している。

故に――

 

 

「教えてやろう」

 

「!!」

 

 

空に向って歯車を放つ。

すると鏡が割れる様にして空が弾け飛び、大きな穴があいた。

あの攻撃が自分達に向けて発射されない事に、まどか一瞬安堵したが、すぐにそれが間違いだったと理解する

空からは、凄まじい程の絶望が、負が、ビリビリと感じられたからだ。

 

 

「あ、あれは――?」

 

 

ギアが生み出した穴から何かが降って来る。

黒い服に身を包んだ少女? いや違う、肌の色は青白く、その瞳もまた青色に染まっていた。

人の形はしているが人にあらず。

それはまさしく――

 

 

人形。

 

 

「人の負だ」

 

「ッ!?」

 

 

愚か者の具現。

使えぬ主に愛想を尽かし。そこに目をつけたギアが魔獣の力を与えて自分の道具へと変えた。

モチーフは人間の醜き心が生み出した、良質な負のエネルギー。

 

 

「イバリ」

 

 

金髪のショートカット。

 

 

「ネクラ」

 

 

白い十字が刻まれた帽子。

 

 

「ウソツキ」

 

 

赤毛のショートカット。

 

 

「レイケツ」

 

 

クリーム色のロングヘア。

 

 

「ワガママ」

 

 

花飾りがついたつばの広い帽子。

 

 

「ワルクチ」

 

 

茶髪のボブカット。

 

 

「ノロマ」

 

 

ロングスカートの金髪ショート。

 

 

「ヤキモチ」

 

 

額を半分出したロングヘア。

 

 

「ナマケ」

 

 

黒い丸帽子を被った前髪を整えた金髪。

 

 

「ミエ」

 

 

額を大きく露出したショートカット。

 

 

「オクビョウ」

 

 

くせッ毛。

 

 

「マヌケ」

 

 

お団子ヘア。

 

 

「ヒガミ」

 

 

黒い帽子を被った黒髪。

 

 

「ガンコ」

 

 

三つ編み。

人の負の感情を具現したと言う14体の少女人形達は、魔獣達の前に降り立ち、ペコリとお辞儀を行った。

 

 

『色から生まれ、空にはあらず、此岸の淵こそ我らが舞台!』

 

 

クララドールズ。

言葉を与えられたのか、甲高い機械音の様な声が14個重なった。

そして少女人形達は、皆例外なく手に黒い糸を持っていた

。その先に繋がっていた物が、今、姿を現す。

 

 

「イツトリ……!」

 

 

青ざめるまどか。見えたのは巨大な脳みそ。

そう、人形達が連れてきたのは史上最強にして、神の位置にある忘却の魔女イツトリであった。

ギアたち魔獣を生み出した存在であり、現在は逆に魔獣の道具として存在しているのは皮肉なものか。

 

 

「お前達にチャンスなど無い」

 

「!」

 

「絶望こそが、お前達の最高のアクセサリーだ。それだけを身につけていれば良い」

 

 

ギアの合図を受けて光る脳みそ。

そしてシンクロするように、ギアの右手もまた同じくして、光り輝いた

 

 

「見えるか? これがマギカを、騎士を殺す力だ」

 

 

怒っているんだよ、神は、私は。

叶いもしない願いを叶えようと吼える醜さは、もはや罪だ。

こちらは少女の一人遊び、自己満足に付き合わされる道理など無い。

であるならば、今すぐにその存在ごと消えてしまえばいい。

 

 

「神崎優衣、インキュベター、貴様らも例外ではない」

 

「!」

 

 

魔法少女に、騎士に少しでも味方をする。それは魔獣にとって最大の裏切りだ。

その様な存在はいらない。存在する価値も理由も、ましてやそれを魔獣が許すことは無い。

可能性は悪だ。一パーセントでも参加者に希望を与える事は許されない事なんだ。

だから――

 

 

「死ね」

 

 

イツトリの力を得たギアの一撃が放たれる。

前方に歯車が現れ、そこから凄まじい大きさのレーザーが放たれた。

色は黒と言うよりも闇だ。なにもかもを飲み込んでしまいそうな程の闇。

それは参加者を呑みこみ、一瞬で無へと返す。

そう、死ではない。無へと還すのだ。

 

 

「あぐぅアぁあッ! ウうゥゥゥうッッ!!」

 

「……ほう」

 

 

参加者の前に立ったまどかは、最大出力のアイギスアカヤーを出現させて攻撃を防いでいた。

ドス黒い中に一筋だけ見える桃色。まどかは歯を食い縛り、目をギュッと閉じて大粒の汗を浮かべながらも、後ろにいる参加者を守るために魔力を解放し続ける。

 

 

「………」

 

 

無言のギア。だがその心には大きな戸惑いがあった。

何故一撃で死なないのか。何故防ぐと言う事が可能になっている?

イツトリは魔法少女をねじ伏せる概念。なのに何故、魔法少女に抵抗が許されているのか。

 

 

(まさか……)

 

 

騎士とのパートナー契約か?

魔法少女は騎士と契約すると、その騎士の紋章が服に刻まれる。

インキュベーターが仕組んだただの演出かと思っていたが、まさかアレが騎士の一部だと認識されていれば?

つまり『魔法少女』ではなく『魔法少女&騎士』と言う独立した存在となっているとしたら?

 

 

(インキュベーターめ、予めこうなる事を予測していたか)

 

 

いや、魔獣たちは知らないが、正しくは優衣がデータに細工したが故なのだが。

とにかく簡単に言えばこうだ。

イツトリは魔法少女に対して無敵の力を発揮できる。しかし参加者である魔法少女は、ただの魔法少女じゃない。騎士の力が混じった全く新しい存在なのだ。

故にイツトリの力が完全に及ばないのだと。

 

 

(やはり放置は危険だな)

 

 

ギアは察する。

ここで確実にまどか達を殺さなければ、自分達の存在が危ないかもしれない。

人間は非常に弱く、脆く、愚かでどうしようもない生き物だと言う事は分かっている。

だがそのしぶとさ、ゴキブリ並みの生命力は認めているところだ。

その足掻きが、遅効性の毒となれば?

そうだ。思い出せ。だからこそ城戸真司の様な馬鹿がおかしな事を言い出した。

それが脅威へと昇華する? とは言えど、それにしては――

 

 

「無様な姿だ」

 

「うぁあぁああッ! ズァッ! ぐぅぅッ!」

 

 

再びフィールドを包む嘲笑。

魔獣達はまどかの耐える姿を滑稽だと笑い、情けないと笑い合う。

確かに間抜けな声を上げ、見苦しい表情を浮かべている姿は酷く惨めだ。

あげくに守られている他の参加者は棒立ちになっているではないか。

皆が思っている筈だ。魔獣達の力を見て勝てる訳がないと。

 

 

「我等に勝ち、その上で全員で生き残る。無理に決まっているな」

 

「無理じゃ……、無い――ッ!」

 

「本気で言っているのか? だとしたら城戸真司。あの男と同じ、馬鹿の極みだな」

 

「真司さんの想いをッッ! 馬鹿に……ッ、しないでッッ!!」

 

「吼えるな屑が、もはや存在その物が目障りだ」

 

 

ここまで愚かしいと逆に哀れになってくる。

ギアは力を上げ、まどかは膝をついて呼吸を荒げる。

 

 

「そもそも、次のゲームが来る前にお前達は死ぬ。無駄な抵抗を続けている事が分からないのだろうか? このまま競り合いを続ければ、先に砕けるのはどちらか、お前自身が分かっているだろうに」

 

「それでもッ、わたしは……! みんなを守る!!」

 

「馬鹿の一つ覚えだな。何よりも軽い言葉にしか聞こえない」

 

「だけどッ、それがわたしの願いだもん!!」

 

 

それに――

 

 

「皆と約束したから!!」

 

「誰もそれを覚えていない」

 

 

輪廻が始まれば、マミの部屋で過ごした思い出も約束も皆消え去る。

 

 

「ううんッ! わたしが覚えてる!!」

 

 

その時、後ろにいる参加者の目の色が変わった。表情が確かに変わった。

 

 

「わたしは皆が大好きだから! こんな所で死なせないッッ!!」

 

 

まどかは強く、それは強く魔力を込める。

しかし返って来たのは、やはり嘲笑だった。

まどかが愚かだと笑う魔獣達の声ばかり。

 

 

「下らないな、ああ下らない」

 

「笑わないで! 下らなくなんかないッ!!」

 

 

円環の理の中でさえ、まどかは今までに何度も絶望しそうになった。

 

 

「でも、友達に支えられて! わたしは踏みとどまる事ができた!」

 

 

多くの人達の希望を見て、わたしも諦めない気持ちを持つことができた。

たとえもう一人の自分が絶望したとしても、理のわたしが諦めなかったからこの今がある!

そのチャンスを作ってくれた真司さんの為、そして仲間の為に絶対に――ッ!

 

 

「もう何があってもッ、わたしは絶対に挫けないって決めたの!!」

 

「忘れたか。その仲間に何度裏切られた? その人々に何度苦しめられた?」

 

 

今、後ろにいる何人の参加者に馬鹿にされ、傷つけられた?

 

 

「それでも守りたい? 本当の馬鹿だな。救いようが無い」

 

 

ギアは一蹴する。

そもそも気の遠くなる輪廻の中で、守れた試しも、手を取り合えた試しも無い。

常に誰かが傷つき、殺しあう。

 

 

「それでも、それでもわたしは皆を信じているから! 皆を嫌いになんてなれないから!」

 

「なに?」

 

「まだ仲良くなれる人達がたくさんいるって、信じてるから!」

 

「世界は、お前を認めはしない。たどり着く結末は絶望のみだ」

 

「世界はそんなに残酷じゃないよ! だから、それを証明してみせる!」

 

 

一番の嘲笑が巻き起こった。

証明してみせる? この状態で? 今までの結果で?

そして何よりも、もうすぐギアの力に敗北するだろう、この状況で?

 

 

「ならば面白い。その夢を抱きながら、絶望に呑まれろ」

 

「ググググッ! ぅうぅううッ!!」

 

「お前に現実を教えてやろう」

 

 

ギアはイツトリに視線を向ける。すると呼応する様にしてイツトリの脳が光り輝いた。

膨れ上がる力、そしてヒビが入るまどかの盾。

歯を食い縛って必死に耐えてはいるが、終わりの時がやってきた様だ。

 

 

(いやだ――ッ!!)

 

 

まどかは思う。

だが反対にヒビは酷くなっていくばかり。

耐えられない? どうしようもなさを覚えて、悔しさがこみ上げてくる。

だからだろうか。まどかの目から一筋の涙が零れた。

その雫が、乾いた砂丘に落ちた時――

 

 

「まどか!!」

 

「!!」

 

 

無数の手が、まどかの手に重なった。

 

 

「え?」

 

「ッッ!」

 

 

振り返った時、そこにいたのは――

まどかを除く12人の魔法少女。

そして真司とリュウガを除く11人の騎士だった。

 

 

「み、みんな!」

 

 

まどかを包み込む様に立つ魔法少女と騎士。

魔法少女達は、まどかに魔力を分け与え、騎士達はガードベントを使ってギアの攻撃を受け止める。

王蛇に至ってはただ動いていないと落ち着かないだけなのかもしれないが、ベノサーベルでガシガシとギアのレーザーを彫る様に剣を打ち付けていた。

特にオーディンのゴルトシールドの強度は凄まじく、僅かではあるものの余裕が生まれる。

 

 

「何だと……?」

 

 

何をしているんだアイツ等は? ギアの思考が一瞬停止する。

あれだけ争い合っていた参加者が、同じ事をしているだと?

鹿目まどかに、協力しているだと――!?

 

 

「何故だ――ッ!」

 

「何故ぇ? 決まってるだろうが!」

 

 

一番最初に口を開いたのは、美樹さやかだった。

まどかを強く抱きしめる様にして、自分の魔力を注ぎ込んでいる。

そして魔獣達を睨み、大声で叫んだ。

 

 

「まどかがッ、友達だからだよッッ!!」

 

「!」

 

「さやかちゃん……!」

 

「ごめんまどか! ちょっと怯んでた!」

 

 

他の参加者はどうか知らないが。

少なくともさやかは、ギアの攻撃を見て、確かに怯えを抱いてしまった。

そしてこれより始まるゲームの難易度を考えれば、誰もが思考が止まってしまうものでは?

誰もが無理だと諦める。しかし今、まどかを見ていたら体は自然に動いていたと。

 

 

「それはほむら達も一緒でしょ?」

 

「ええ!」

 

 

ほむら、ゆま、マミ、サキ、かずみは強く頷く。

友達の為に同じ道を歩む者。

そして中には、別の思いを抱く者も少なくは無い。

 

 

「ここで死ねば終わりなんだろ。だったら、それは冗談じゃねェっての!」

 

 

絶対に殺したい奴を見つけたんだから。

杏子は目を細めて、魔獣の中にいるシルヴィスを睨みつけた。

シルヴィスも杏子の視線に気づいたのか、口が裂ける程、歪な笑みを浮かべて見せる。

 

 

「淳くんとのラブラブメモリー! こんな所で終わらせたくないもん!」

 

「この偉大なるユウリ様の最期がッ、あんなカス共に殺されるとか冗談じゃないッ!」

 

 

純粋に死にたくない者や、野心に溢れる者。

 

 

「世界の平和を乱す最大の敵が、今やっと分かりました……!」

 

「グギギギッ! あいつ等最ッ高にムカつくよ!」

 

「城戸の奴に協力しておきながら、ココでまどかに協力しない理由は無い」

 

 

織莉子、キリカ、ニコ。成し遂げなければならない目的がある者。

過程は歪かもしれない。しかし誰もが皆、思うのだ。

ここで死ぬ訳にはいかない。あんな奴に負ける訳にはいかないと。

だからこそ魔法少女達は、まどかに魔力を分け与えるのだ。

と、ココで先ほどは姿を消していたジュゥべえが現れた。

 

 

『今回は特例だ! 今からこの状況を打破できる、かもしれねぇカードを一枚くれてやる!』

 

「なんだと!?」

 

 

キュゥべえとジュゥべえは、盾を構えて踏ん張っている騎士達のデッキにそのカードを差し込んでいく。

本来、肩入れはあまりよろしく無いのだが、状況が状況だ。

ゲームで決着をと言っているのに、魔獣の連中の勝手が過ぎるので仕方なく。

 

 

「前書きはどうでもいい、効果を早く言え!」

 

 

ジュゥべえは打破できるかもしれないと言った。"かもしれない"と言う事。"かも"である。

つまり確実に打破できるとは限らない訳だ。それを言うと、キュゥべえは謝罪を一つ。

 

 

『実はボクらにも何が起こるのか、明確に説明することは難しい』

 

「どういう事だ?」

 

『予想の上で、と言う事さ』

 

 

つまり、こういう事だった。

今現在、参加者達が劣勢なのはイツトリがこの場にいるからである。

キュゥべえ達が持ってきたカードは、イツトリの力を弱められるかもしれないものだ。

確立は100%じゃない。故に約束はできないと。

 

 

「なんでもいいって! 早く使え使え!」

 

 

ファムはすぐにそれをバイザーへとセットする。しかし――

 

 

『エラー』

 

「は!?」

 

 

すると補足を行うキュゥべえ。

このカードには一つの発動条件があると。

 

 

「発動条件?」

 

『ああ、騎士全員の心が一つになっている事さ』

 

「………」

 

 

絶対無理。

誰もが、そう思ってしまう。一番覚えやすい四文字熟語かもしれない。

今までいがみ合ってきた連中が、そう簡単に心を通わせられる筈が無い。

 

 

「子供の時――ッ! どんなヒーローに憧れてましたか?」

 

「はぁ?」

 

 

その時だったシザースがそんな事を言ってみせたのは。

この余裕のない時に何を? 誰もが思っただろうが、シザースは言葉を続けた。

 

 

「私は、誰々に憧れると言うよりはッ、孤高のヒーローが好きでした――ッ!」

 

 

ヒーローは一人だけでいい。子供ながらに覚えた憧れだった。

だが今、目の前でまどかを守るように立ち構えている魔法少女達を見れば、その考えも少し変わってくると言う物だ。

一人の少女の想いを守るために、結果として集合している自分達。

何ともまあ、ヒロイックな物ではないか。

 

 

「そりゃあ魔法少女とかッ、戦隊モンのピンクっしょ!」

 

 

初めに乗ったのはファムだった。

彼女もまた、まどか達を見てこういうノリも悪くないと思ったのかもしれない。

ファムの他にも面白そうだと興味を示す者がチラホラと現れる。

 

 

「オレも戦隊物のブラックに憧れてましたよ」

 

 

インペラーはそう言いながら騎士の後ろの方へ移動していく。

せこいヤツである。他の参加者をちゃっかり盾にしているのだ。

 

 

「レッドって責任押し付けられそうじゃないっすか!」

 

「ははは、佐野さんらしいですね……!」

 

 

重く圧し掛かる衝撃。

ギアはより力を解放して、参加者達を狙った。

 

 

「ぐうゥウ!! て、手塚君はどうですか……ッ?」

 

「アニメやヒーロー物はみてなかったなッ。警察密着24時が大好きだった」

 

「つまんねー奴!」

 

「う゛ッ!」

 

「そういうクソガキはどうなんだよ! どうせビーム出せるとかロボットのパイロットになれるとか本気で思ってたんだろ!」

 

「だいだい正解だよ! ムカつくなお前!!」

 

 

インペラーの言葉に鼻を鳴らすガイ。

シザースは次にタイガに話を振る。

 

 

「水上警察……、かな?」

 

「け、結構マニアックですね――ッ! 上条君はどうです?」

 

「宇宙刑事――ッ、とかですかね……!」

 

「俺はデッカイ奴ならなんでも良かったな。とりあえず合体しとけば良いんだよ」

 

 

ゾルダはそう言って笑い声を。

そして隣にいる王蛇に同じ質問をぶつけてみた。

 

 

「アァァ、そんなモン知るか」

 

「何かあるだろ! 搾り出せ!!」

 

「下らん……!」

 

 

そこでふと思い出す浅倉。

そう言えば昔に本で読んだことがある。

言う事聞かないなら、殺してしまえとか言っていた奴は面白い奴だと思ったとか、何とか。

 

 

「それだ! 信長だ!」

 

「名前なんてどうだっていい。ムカつくならぶち殺す。それが気に入っただけだ」

 

 

かずみはふと、ナイトを見上げる。

 

 

「蓮さんは何に憧れてたの?」

 

「漫画の主人公だ。俺の人生は常にあの漫画と共にあった!」

 

「漫画かぁ、いいよね!」

 

 

話を聞いていたのか。

ニコはベルデに同じ話を振ってみる。

 

 

「あれか? 坊主だろ?」

 

 

意味が分からん。ベルデはニコを軽く殴りながら過去を思い出す。

 

 

「そりゃお前俺だって人間だ。昔はヒーロー物のチャリンコ買って貰った事とかもある」

 

 

本気でヒーローになれるとも思っていた。かもしれない。

なにせ30年以上も昔の事だ。それに人間、どうでもいい事から忘れていく。

 

 

「マジかよ、意外だな……! 気持ちは悪いぞ!」

 

「殺すぞ! 男なら通る道だ。現実を知れば知るほどに忘れていく……ッ!」

 

「ええ、そうですね――!」

 

 

でも、だからこそ、今だけは昔に戻ってみないか? シザースはそう言った。

誰だって一度はあったはずだ。今目の前にいる魔獣の様な奴を倒すヒーローに憧れた時が。

たった一人の少女を守るヒロイックな存在になってみないか? と。

 

 

「………」

 

 

沈黙する一同。空気が重い。

だったらとシザースはさらに続けた。

そうだ、そういうのは理想だった。無理なんだ。

自分たちは魔法少女達ほど根本が優しくない。故に、全員があの魔獣に苛立ちや怒りを抱えている筈だ。それは間違いない筈だ。

今もシザースを巡る殺意が証明している。

 

 

「あのムカつく奴らに一泡吹かせてやりましょう!」

 

 

沈黙する一同。

シザースは思い切り首を振る。

 

 

「クソイラつく魔獣(バカ)共を! 一緒に八つ裂きにするんッです!!」

 

 

ふいに、誰かの声が聞こえた。

 

 

「……今回だけだぞ!」

 

 

カードを抜き取る音が一勢に重なる。そしてバイザーに入れる音もまた同じく。

とにもかくにも第一優先させる思いはただ一つ。目の前で余裕ぶっこいてる魔獣(クソカス)共を――、ブチのめすって事が!!

 

 

『ギリギリかッ!?』

 

 

歯を食い縛るジュゥべえ。

 

 

「無駄だ、今更この状況を覆す一手は無い!」

 

『いやッ!』

 

 

甘い! ジュゥべえはニヤリと笑みを浮かべた。

空には大きな亀裂が見えた。これが何を意味するのか、それがギアには分かっていない。

亀裂と言うべきか、ジッパーと言うべきなのか。

 

 

(未来の落とし前は、今つけろ!)

 

 

そして文字通り、ジッパーが開いて空に穴が開いたかと思えば――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フルーツバスケット!』

 

「!!」

 

 

空からオレンジが、ブドウが、バナナが、沢山のフルーツが飛んできた。

これだけ聞けばなんとも間抜けな話かもしれないが、あくまでも一見した感想がソレなのだから仕方ない。

 

当たり前の話ではあるが、ただの果物でこの状況が覆る訳は無い。

ではカードの意味は無かったのか?

いやいや、それはもちろんただの『果物』ならばと言う話。

果物の形をした『鎧』。力の結晶だったとすれば――?

 

 

「グゥウッッ!!」

 

 

ギアの攻撃が中断されると言う、魔獣達にとって全く予想していなかった事態が起きる。

空から飛来してきた果物の形をした鎧が、次々にギアに突進を仕掛けていったのだ。

織莉子のオラクルを巨大化させたと言えばいいのか。縦横無尽に暴れまわる果物達は、魔獣を次々に吹き飛ばしながら最後はイツトリにぶつかっていき、その反動で空に舞い上がる。

 

 

「――!!」

 

 

空に円形状に並ぶ果実達。その中心には一人の青年が見えた。

果物達と共に砂丘に振ってくる青年は、腰にあるドライバーの装飾を操作していた。

すると――、音声!

 

 

『ロック・オープン!』

 

「あれは……!」

 

 

頭を抑えるかずみ。

歪な記憶がフラッシュバックしていった様だ。

あれは、まさか――

 

 

「紘汰……ッ、さん?」

 

『極アームズ!』

 

 

ドンッ! と言う衝撃と共に着地した青年。

その姿は、間とはかけ離れた容姿になっている。

身に纏うのは仮面と鎧。それは紛れも無く――

 

 

『大! 大! 大! 大! 大将軍!!』

 

 

騎士の姿ではないか。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

この円環の理の残骸である砂丘に突如現れたのは一人の騎士だった。

白銀の西洋様式の鎧を身に纏い、胸部の鎧には数々の果実が描かれている。

騎士・鎧武(ガイム)は、マントを翻しながら、一直線にギアの元へ駆けていった。

 

突然の事に再び思考が停止する魔獣達。

その中でもギアだけはしっかりと鎧武同じくマントを翻し歩き出していた。

向けられたもは『敵意』なのだから、お応えしなければ申し訳ない。

 

 

『大橙丸!』『バナスピアー!』

 

 

鎧武はドライバーについていた鍵の様な物を二回ばかり捻った。

すると和をイメージした音声と共に、武器の名が告げられる。

気づけば鎧武の両手にはオレンジ色の刀と、バナナをイメージした槍が握られているではないか。

 

 

「ォウラァアィ!!」

 

「フッッ!!」

 

 

激しい閃光が二人を包む。

武器を振るった鎧武と、それを受け止めたギア。

両者はギリギリと競り合いを始め、激しく睨み合う。

しかしギアの力に武器が耐えられなかったか、ヒビが入り、直後オレンジの刀と黄色の槍が粉々に砕け散った。

その残骸の中、二人は尚も視線を交差し合う。

 

 

「お前は、まさか……」

 

「騎士さ。未来のな!!」

 

「!」

 

 

鎧武は思い切りギアの腹部を蹴り飛ばす。

わずかに距離が開いた両者だが、怯んでいたギアとは違い、鎧武は既に次の一手を繰り出していた。

 

 

「フ――ッ!」『ソニックアロー!』

 

 

召喚した弓矢を瞬時に引き絞る。

ピリョンピリョンと、チャージ音が鳴り響き、弦を放せば光の矢が発射される。

しかしギアはマントを振るうと矢を簡単に弾いて見せた。

 

そのまま二人は並行に走りあう。

鎧武が放つ弓矢を、ギアは次々に手で振り払う。さらに反撃にと、歯車の形をしたエネルギー弾を放っていった。

一方鎧武はそれを跳躍で回避し、時にエネルギーの矢で相殺するか、弓についた刃で相殺していく。

しかしギアの連射性が上回っていたか、矢を越えてエネルギー弾が次々に鎧武に命中していった。

 

 

「グッ!!」

 

「フンッ!」

 

 

鎧武の装甲から煙があがり、膝を付いて地面を滑る。

それが隙と見たか、ギアは進行方向を鎧武の方へと変えていく。

だが鎧武は唸り声と共に、瞬時立ち上がると、すぐにドライバー中央にある鍵に手をかた。

連続して捻るソレ。次々と電子音がフィールドには木霊する!

 

 

『影松!』『影松!』『影松!』『影松!』『影松!』『影松!』

 

「!!」

 

 

黒い槍が次々とギアの周りに降り注ぎ、円形に地面に突き刺さっていく。

それはまるで檻だ。ギアを閉じ込める影の監獄。

阻まれる道、ギアは槍を掴むと、不快感に唸り声をあげる。

 

 

『メロンディフェンダー!』

 

 

最後に緑の盾が落ちてきて蓋をした。

ギアは真上にある盾を殴りつけ破壊しようと試みる。槍を破壊しようと試みる。

だがどちらも上手くいかない。閉じ込められたギアを確認して、鎧武はさらに鍵を捻る。

 

 

『火縄大橙DJ銃!』『ロック・オン!』『イチ・ジュウ・ヒャク――!』

 

 

召喚した銃へ、『錠前』のようなアイテムを素早く装填した。

銃からは数字の単位が連続して流れ、同時にその銃口をギアに合わせる。

溢れる光。我に返った魔獣達は、すぐにギアに向けてシールドを展開するが――

 

 

「セイハァアアッッ!!」『フルーツバスケット!!』

 

「グッ!! ゥオオォオオ……ッッ!!」

 

 

カラフルに輝く銃弾は、ブルーム達が張ったシールドを簡単に打ち破ると、ギアに直撃して爆発する。砂丘を転がり吹き飛んでいくギア。バッドエンドギア達は、すぐにリーダーが無事かどうかを確かめに走った。

一方、鎧武はまどか達に体を向ける。

 

 

「大丈夫か? アンタ達!」

 

「あなたは……?」

 

 

時間も惜しい。

先ほどカチャカチャ捻っていた鍵を取り外しながら、鎧武は自己紹介を。

 

 

「俺は葛葉(かずらば)紘汰(こうた)。未来の騎士、アンタ等の後輩さ」

 

 

鎧武と呼ばれる騎士は、つまり次世代の騎士。

かずみが参加していたFOOLS,GAMEに巻き込まれた者だとか。

そして鍵を――、『極ロックシード』を投げる。すると鎧武の姿がオレンジの鎧を纏った和風の風貌に変わり、同時に極ロックシードが光となって分裂。

 

 

「!!」

 

 

光は砂丘に着地すると、新たに12人もの騎士が現れた。

バロン、龍玄、グリドン、黒影、ブラーボ、ナックル、イドゥン、斬月真、マリカ、シグルド、デューク。そして(カムロ)

 

早口で騎士の名前を説明していく鎧武。

まどか達はポカンとした様子でそれを聞いているだけしかできない。

だが一つ分かる事があるとすれば――

 

 

「あの脳みそは任せろ!!」

 

 

彼らは味方だと言う事だ。

 

 

「……お前達も所詮は愚かな人間と言う事か」

 

 

倒れていたギアの言葉。

鎧武は拳を握り締めて、それを魔獣達に突き出す。

 

 

「うるせぇ! 魔獣ッ、俺は絶対お前らを許さねぇ!!」

 

 

どうやら鎧武は鎧武で相当鬱憤が溜まっているようだ。

理不尽なサバイバルゲームに巻き込まれた者として、その気持ちはよく分かると言うもの。

 

 

「行くぞ皆ァアッ!」

 

 

鎧武は拳を振り払い、腰についていた刀を天に掲げた。

 

 

「ここからは俺達のステージだ!!」

 

 

返事を口にする者。オウと意気込む者。無言の者。

バラバラだったが、全員同時に地面を蹴って走り出した。

しかしルートはわずかに違う。イドゥンと言うリンゴの騎士はまず優衣たちのもとへ。

 

 

「神崎優衣様ですね。お守りします」

 

「は、はぁ。どうも」

 

 

そこで肩に乗っていたジュゥべえが目を光らせる。

 

 

『はぁーん。テメェが未来の騎士か。龍騎とは構造が違うな……。どうだ? 未来のオイラはイケイケだったろ?』

 

「ええ、最低でした」

 

『……あ、そう』

 

 

さらに冠と言う騎士は、まどか達の前にやって来た。

 

 

「世界が融合を遂げたのは一つだけじゃない。ボク達もまた、時を経て君の世界に引き寄せられた」

 

「え?」

 

「分からなくても良いさ。今、ボクらの世界は分離し、君達とはもう関係無い位置に立っている」

 

 

その時、さらに巻き起こる衝撃。

鎧武が開けた空から無数の光の雨が降り注ぎ、魔獣達に降り注ぐ事でダメージを与えていく。

視線を移せば、そこには西洋の甲冑を身に纏った少女が舞い降りてきた。

 

 

「ラ・リュミエール!!」

 

 

光を纏った旗が凄まじいスピードでイツトリの間近に着弾する。

爆発し光が拡散、魔獣達をより大きく怯ませる。

しかしその中でもイツトリは無傷。どうやら魔法少女を忘れたいと言う強い意志が、魔法少女の攻撃を弱体化させたのだろう。

現れた少女は表情を険しいものに変えつつ、まどかの前に着地する。

 

 

「遅くなり申し訳ありません、女神(デエス)!」

 

「で、でぇす?」

 

 

突如鎧を身に着けた少女が跪くのだから、まどかは混乱してしまう。

 

 

「お、お忘れですか!?」

 

「仕方ないよタルト、彼女は半身と融合して間もないんだ。駒としての記憶が優先されるのは当然の事さ」

 

 

冠は簡単に『タルト』と言う魔法少女の事を、まどかに語る。

先程まどかは、円環の理襲撃時に、自分以外にも一人生き延びた魔法少女がいると言ったが、それこそが今ココにいるタルトなのだ。

 

 

「タルトは君を助けるために未来へ跳んだんだけど、そこでイツトリに見つかってしまってね」

 

 

封印状態にあったのだと。

しかしいろいろあったが、こうして無事に解放された。

未来の地で存在していたが、こうしてジュゥべえ達が過去と現在を繋げてくれたのでやって来る事ができたらしい。

 

 

「さあ、もう時間は無い。君たちは魔獣や人形を抑えておいてくれ」

 

 

イツトリは、僕達がなんとかするから。そう言うと冠の体が白銀の『球体(ボール)』に変わる。

同時にまどか達は頷き、一勢に地面を蹴った。

いまひとつ分かっていない部分もあるが、ここが最大のチャンスだと言う事は理解できる。

 

 

「フッ!」

 

 

初めに冠を受け取ったのは桃の騎士、マリカだ。

ソニックアローと言う弓矢を連射しながら砂丘を駆ける。

もちろんそれを全力で妨害しに来る従者達ではあるが、ブランウイングが現れて強力な突風で動きを封じていく。

さらにサキの雷が、動きを鈍らせた従者達に降り注ぎ、次々と爆散させた。

 

 

「悪いわね」

 

「いえいえ」

 

 

マリカは周囲を見て軽くため息をつく。

 

 

「騎士の紅一点なの? こっちは二人でも大変なのに大丈夫?」

 

「そうそう、周りの男が馬鹿ばっかりだから」

 

 

頷きあうマリカとファム。

長い足を大きく旋回させて、同時に回し蹴りを行い、冠を次の騎士にパスする。

 

 

「プロフェッサー!」

 

「ああ!」

 

 

冠を次に受け取ったのはレモンの騎士であるデューク。

彼を守るように並列し、マミやシザースは銃だの泡だのを発射していく。

そこでデュークは軽い調子でシザースペアに話しかけていた。

 

 

「私は常に他世界解釈論が存在していると信じていた」

 

「は、はぁ」

 

「時空の歪みによるワームホールは過去にも例がいくつかあったからね。そして私は自分の世界を意図的に破壊する装置を作った訳だよハハハ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「そうとも。そして結果的に私たちの世界とDNAが限りなく似ていたこの世界とが融合し――」

 

「つ、つまり?」

 

「ハハハ! 私達の世界がキミ達の世界と融合し、未来でFOOLS,GAMEが行われる事になったのは――」

 

 

全 部 私 の せ い だ☆

爽やかな笑い声と共に冠を蹴り飛ばした。

 

 

「あわわわわ!」

 

 

へたり込むゆま。

ハンマーでとりあえず従者を殴ってみたはいいが、中途半端に手加減してしまったため、全然ダメージを与える事ができなかった。

 

そうしていると従者の反撃が始まるわけで、モザイクが光り輝き、標準がゆまに合わさる。

だがインペラーは別の場所で従者に囲まれている為、助けに向うことができない。

もうダメだ。もうおしまいだ。ゆまは目をつぶって縮こまった。

 

 

「!」

 

 

だがその従者の首が消し飛ぶ。

見ればサクランボの騎士であるシグルドが、冠を蹴っているところだった。

その途中にゆまを助けてくれたのだろう。

 

 

「駄目だね、お嬢ちゃん。子供は大人に任せてくれないとさぁ」

 

 

軽い調子で笑うシグルド。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「おっと、気をつけた方がいいぜぇ? 悪い大人はすぐに子供を騙そうとする。けれども悪い子供はいつも大人に反撃する機会を伺っている」

 

「???」

 

「あぁ、まあコッチのハナシだ。気にすんな!」

 

 

シグルドは素早く弦を引いて矢を放つ。それはゆまを通り抜け、すぐ後ろにいた従者に命中した。

一方で飛んでいった冠は、次の騎士のもとへ。

 

 

「全く、面倒な事に巻き込まれたな」

 

 

ソニックアローで従者をバッタバッタと切り伏せながら、メロンの騎士『斬月・真』は砂丘を駆ける。

隣にやってくるニコ。再生成の魔法で斬月の鎧を本物のメロンに変えると、無言でスプーンを差し入れて一すくい。

そして口に入れてサムズアップ!

 

 

「………」

 

 

なんなんだ……。

斬月の鎧が元に戻ると同時に、周りには無数の従者が湧いてくる。

だが斬月は冷静だった。ベルトからメロンを模した錠前、『ロックシード』を取り出すと、それを弓に装填する。

面倒だ、面倒ではあるが――

 

 

「魔獣は気に入らない!」『メロンエナジー!』

 

 

緑色の矢が四散し、魔獣達を次々に吹き飛ばしていく。

同時に冠を蹴り飛ばす斬月。一つ騎士に蹴られるたび、冠にはその騎士をイメージさせる『色』が付与された。

あれはやばい! ブルームは前に出ると、跳躍。

ボールとなった冠を叩き落そうとするのだが、そこで銃声が。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

衝撃を感じて墜落。

ゾルダがマグナバイザーを構えていた。

しかし銃弾は彼が放つものだけではない。

 

 

「今ならいいんじゃない?」

 

「どうも!」

 

 

冠を胸で受け止め、蹴り出したのはブドウの騎士、龍玄(りゅうげん)

当然魔獣達も彼を追いかけようとするが、龍玄と魔獣の間にはゾルダが立ち構えており、そこにさやかがやってくる。

 

 

「ようし! いっちょ見せちゃいましょーか!」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

「ま、しっかり合わせてちょうだいよ」『ファイナルベント』

 

 

ゾルダはマグナギガにマグナバイザーをセットする。

今回はそれだけじゃない。さやかはゾルダの背後に立つと、ゾルダの背中の中央辺りに両手を押し付けた。

すると武器を展開しているマグナギガの前方に、巨大な青い魔法陣が出現したではないか。

 

 

「フッ!!」

 

 

引き金を引くゾルダ。

するとエンドオブワールドが発動される訳だが、レーザーやミサイルが魔法陣を通り抜けると、それらが全て『サーベル』に変化を遂げた。

こうして次々と発射されていく無数の剣は、次々に従者に突き刺さり、バッドエンドギアの連中も刃のシャワーに防御をせざるを得ない状況だった。

そして攻撃が終わり、辺りは串刺しになった従者たちで溢れる。

 

「じゃまくせぇ攻撃だなクソが!」

 

 

パンクファッションの女が吼えた。

人間の女に見えるが、バッドエンドギアのひとりらしい。

剣は一本も刺さっておらず、周囲には弾かれた剣が散らばっている。

流石は幹部級といったところか。だが、さやかの口はニヤリと吊り上る。

ピピピピピピピピピピピと音が鳴り響いたのは、その直後である。

 

 

「ッ! まさか!!」

 

「ごめんごめん!」

 

 

さやかは手を前に出し――

 

 

「おまけ忘れてた」

 

 

そして思い切り握り締める。

すると従者型に突き刺さっていた剣や、弾かれて地面に落ちた剣が全て爆発。

凄まじい爆風と衝撃を巻き起こった。

剣型の爆弾を大量に発射する、これが二人のファイナルベント、『エンドレスワールド』だ。

 

 

「ザック!」

 

 

そうしている内に龍玄は指定ポイントまで冠を運んだようだ。

次にバトンを受け取るのは、クルミの騎士・『ナックル』。

 

 

「しゃあああッ! 燃えてきたぜッッ!!」

 

 

ナックルは軽快なステップでレーザーを交わしつつ、襲い掛かってくる魔獣を殴り倒していく。

 

 

「調子に乗るなよ!」

 

 

ワスプは、レイピアを構えてナックルに切りかかった。

 

 

「お前も魔獣の玩具だった存在! 牙を剥くなど片腹痛いわッ!」

 

「うるせぇ! オレ達人間はお前らの道具じゃないッ、一人一人確かな命を持っているんだ!」

 

「ああ、その通りだ!!」

 

 

同意の声が飛んでくる。

ナックルの拳がレイピアを掴んだとき、サイドからそれぞれライアとほむらが走ってくる。

人が何なのかを説くのはおこがましい事かもしれない。

だが少なくとも魔獣の玩具になって一生を終える事が正しい訳が無いと、声を大にして言える。

誰も殺し合う為に生まれた訳じゃない。ナックルも、ライアも、ほむらも。誰もが同じなんだ。

 

 

「ハァアアアアアア!!」「タァアア!!」

 

「グゥウウウ!!」

 

 

ストライクベントで強化したバイザーを押し当てるライア。

ほむらもユニオンでコピーベントを使用する事により、二重の電撃をワスプへ与える。

電撃が体中を駆け巡り、ワスプの動きが鈍った。

そこでワスプは視る。眼前にて、思い切り大地を踏み込んでいるナックルが。

 

 

「くッらえぇエエエ!!」『クルミスカッシュ!』

 

「ガハぁあッ!!」

 

 

胴体に叩き込むストレート。

吹き飛ぶワスプを一瞥し、ナックルは冠を他の騎士のほうへと蹴り飛ばした。

 

 

「初瀬!」

 

「おっと!」

 

 

松ぼっくりの騎士である黒影(くろかげ)は、冠をトラップするとそのまま一直線に走り出す。

向ってくる魔獣は長槍で次々に突き刺していなしていった。

だが――

 

 

「「うごぉ!」」

 

 

前から走ってきたガイとぶつかり倒れる二人。

 

 

「いったいなぁ! 邪魔だよ! お前!」

 

「テメェの方が邪魔だろうが!」

 

「いやいやお前が!」

 

「お前が!!」

 

「ああもう! 今はそんな事をしている場合じゃないでしょ!!」

 

 

後ろ!

あやせが叫ぶと、そこには拳を振り上げ、今にも殴りかからんとするイグゼシブが。

 

 

「「邪魔クセぇ!!」」

 

 

ガイと黒影の拳が同時にイグゼシブの胴体を打つ。

一瞬だけ動きが止まった。それでいい。そこへ直撃するアルカのピッチジェネラーティ。

凄まじい力がイグゼシブを吹き飛ばしていく。

その隙に黒影は次の騎士へパスを送る。

 

 

「城乃内!」

 

「うわわわ!」

 

 

冠を受け取ったのはドングリの騎士である『グリドン』。

しかし他の騎士とは違い、腰が引けていると言うか何と言うか。

 

 

「オレこう言うの苦手なんだよなぁ……ってひぃぃ!!」

 

 

グリドンは迫る魔獣を見て、悲鳴を上げながら逃げる様に冠を運んでいく。

ただ泣き言を言っている割には、コノヤロコノヤロと手に持ったハンマーでボカボカ従者を殴っていた。

そして次の騎士へパスを――

 

 

「あ」

 

 

グリドンが蹴った(ボール)は、離れたところで戦っている王蛇の頭に見事にヒット。

さらに跳ね返った冠が、杏子の顔面にヒットする。

 

 

「「ウラァアアアアアアアアア!!」」

 

「ヒエエエエエエエエエ!!」

 

(何やってんだあいつ等……)

 

 

グリドンを追いかける王蛇ペアを横目に見ながらユウリは汗を浮かべていた。

優衣を守る様に立ち、周囲の魔獣を攻撃していくユウリ、織莉子、イドゥン、オーディン。

しかしこれはひょっとするとひょっとするのか?

 

 

「あ、やば!」

 

 

ユウリは背後に光を感じて振り返る。

するとそこにはモザイクを光らせている従者が。

間に合わない。腕をクロスさせて防御体勢を取るが、そこで熱を感じた。

 

 

「!」

 

 

どこからか黒い炎が跳んできて従者を吹き飛ばしたのだ。

黒い炎? ユウリは辺りをすぐに見回すが、どこにもその攻撃を放ったであろう人物は見当たらなかった。

 

 

「???」

 

 

首を傾げるユウリ。

一方の冠は、ドリアンの騎士である『ブラーボ』に渡された。

ブルーム達は、何が何でも冠のパス回しを中断しようと襲い掛かるが――

 

 

「あら! 一人によって集って。騎士道精神がなっていないんじゃなくって?」

 

「ッ!」

 

「ここは一つワテクシが、プロフェッショナルの動きと言う物を教えてさしあげますわ!」

 

 

ブラーボはドライバーについている小刀を三度振り下ろす。

 

 

『ドリアン・スパーキング!』

 

 

右脚が光輝き、冠をシュートするブラーボ。

すると冠とは別に、ドリアン型のエネルギー弾が幾つも放たれる。

ボールの周りにいくつものドリアン。まさに木を隠すなら森の中とでも言えば良いのか。

魔獣は冠を目で追うが、全く捉えられずに翻弄されるだけ。

 

 

「ぶらぼー!」「ブラボー!」

 

「メルシィ! でもノンノン、ブラーボ!」

 

「「ブラボーッッ!」」

 

「ブラーボッ!!」

 

 

キリカとタイガの拍手を受けて、ブラーボはお辞儀を行っていた。

そして魔獣は捉えられなかった冠だが、そのロングパスの先にいた者は、しっかりと本物を目に映していた。

 

 

「フッ!」

 

 

バナナの騎士・『バロン』は迫る魔獣を見て鼻を鳴らす。

絶対の強者だと自負していた魔獣達が、究極の弱者だと思っていた人間に翻弄されるのはさぞ悔しい事だろう。

だが今、確かに人間は魔獣を翻弄しているではないか。

なぜか? 決まっている!

 

 

「お前らは強者ではない、弱者だからだ!」

 

 

バナナを模した槍が従者達を次々に貫き、爆散させる。

そこへ飛んで来るブルーム。

 

 

「弱者? 弱者だと!? 弱いと言うのか、この魔獣がッ、人間よりも下だとッ!」

 

「言葉も分からんのか! そう言っている!」

 

「ふざけるなァアアアッッ!!」

 

 

バロンに迫る無数の弓矢。多くの命を貫いた死の閃光が、今まさにバロンを捉えようとしている。

しかし矢は一本も刺さらない。なぜならばそれを防ぐ嵐が巻き起こったからだ。

疾風十字星。弓矢を切り裂いた風を感じたのか。

バロンはナイトとかずみの方に視線を移す。

 

 

「危なかったな」

 

「余計な事だ。俺はしっかりと反応していた」

 

 

フンと鼻を鳴らすバロン。

ナイトも呆れた様に鼻を鳴らした。

一方で、かずみは訝しげな視線をバロンに向けていた。

たとえイツトリに都合よく記憶を消されていたとしても、その姿を見れば思い出す物もあろう。

イツトリが司るのは忘却。あくまでも忘れるだけだ。

思い出すと言う事も、可能ではあるのだから。

 

 

「戒斗……?」

 

「ッ、かずみの知り合いか?」

 

「う、うん。たぶん」

 

 

覚えているのは大まかな流れと、それに関する情報だけだ。

戒斗と言う少年がバロンに変身するらしいが、思い出が一つも浮かんでこない。

一方でバロンはかずみを見ると、すぐに隣にいるナイトに視線を移す。

バロンの時間軸ではフールズゲームの勝者は秋山蓮として記憶されている。

色々と思う所もあるのだろう。

 

 

「貴様が秋山蓮、ナイトか」

 

「それがどうした?」

 

「フン。ゲームで勝ち残った奴の顔は、一度見ておきたかった」

 

 

確かめたかったのだ。

勝ち残ったのはまぐれ。つまり偶然だったのか、それとも必然だったのかを。

とは言え蓮は未来において死んでいる。つまりは魔獣に殺される運命だったと言う事だ。

 

 

「気になったまでだ。貴様が所詮はその程度なのかとな」

 

「下らない話だ。だがまあ、一応聞いてやる」

 

 

ナイトは少しからかう様にバロンを見た。

 

 

「俺が勝者では不満か?」

 

「フン、今この場の状況だけでは何も言えんな。だから――、証明して見せろ!」

 

 

バロンはそう言いながら槍を後ろへ突き入れる。

後ろを見ていなかった。だが聞こえる悲鳴は確かな物である。

 

 

「グッ! き、貴様……ッッ!!」

 

「誰も敵わない力。誰もがひれ伏す力。それを持つ者こそ、唯一無二の存在! 強者だ!」

 

 

ブルームの腹部に突き刺さるバナスピアー。

バロンはそのまま槍を振るうと、自分とナイトの間にブルームを投げ飛ばす。

ナイトは呆れた様に笑みを浮かべると、ソードベントとガードベントを発動。

マントを纏い、ウイングランサーを構えてブルームに武器を突き出した。

 

 

「チィイ!!」

 

 

武器を打ち付けあう両者。

黒い斬撃と金色の斬撃がぶつかり合い、激しい火花を散らしていく。

だが雰囲気に呑まれているのか、ナイトがブルームを圧し始める。

だがそれが逆に火をつけたようだ。ブルームは弓で槍を受け止めた時に、赤い目を光らせた。

 

 

「!!」

 

 

羽が高速で震動し、蜂が出す独特の羽音と共に、辺りには凄まじい衝撃が走る。

ソニックブルーム。遠~中距離を得意にするブルームが、相手との距離を離す為に編み出した技である。

ガードを行うものの、後退していくナイト達。

ブルームは動きが止まったナイトへ、矢を連続して発射する。

 

 

「フハハハッ! 痛みに震えろ!」

 

 

マントが矢を捕らえる。ただのガードベントくらい貫くはずだったが――、そこで影が飛び出した。

成る程。ナイトがマントを脱ぎ捨てて、空中からの攻撃を行おうと言うのだ。

 

 

「アホが!!」

 

 

弓だからと言って連射ができないのは間違っている。

ブルームは驚異的なスピードで次の矢を練成して弓にセットすると、向ってくるナイトに向けて狙いを定めた。

魔獣の力、瘴気を注ぎ込み強化させる。

 

 

「吹き飛べ! ブルームシュート!!」

 

「!」

 

 

放たれた金色の矢は、ナイトの腹部を貫くと、文字通りバラバラにして破壊した。

が、しかし、焦るのはブルームの方である。

バラバラになった、それが明らかにおかしい。

 

 

「まさか!」

 

 

いち早く気づくブルーム。

そうだ。ナイトは砕け散った。鏡の様に!

 

 

「しま――ッ」

 

「油断したな」

 

「!!」

 

 

腹部に強力なダークバイザーの突きが刺さりこみ、ブルームはきりもみ状に回転しながら地面を転がる。

ナイトはマントで自分を隠した際に、トリックベントを発動。

分身を向かわせ、ブルームの油断を誘ったのだ。

 

本体は相変わらずマントの裏に隠れており。

ブルームが空にいる分身に必殺技を撃っている間に、地面を蹴って距離を詰めていた。

マントも矢をしっかりと受け止めていたのだ。想いの強さが強度を上げている。

決意の力。魔獣に勝つと言う揺ぎない意思が、騎士のスペックを跳ね上げる。

ナイトは分身に持たせておいたウイングランサーを拾い上げると、大地を踏みしめて構えを取る。

 

 

「フッ、面白い」

 

 

ドライバーについている小刀、『カッティングブレード』を倒すバロン。

電子音が必殺技発動の合図を告げ、彼もまた槍をブルームに向けて腰を落とす。

 

 

「ハァアッッ!!」「ゼァアアア!!」

 

 

ウイングランサーの固有必殺技であるタービュランスと、バロンの必殺技であるスピアビクトリーが同時にブルームに突き刺さる。

風の槍を模したエネルギーと、バナナの形を模したエネルギーが魔獣を貫いた。

悲鳴を上げて後ろへと吹き飛んでいくブルーム。

ダメージは受けつつも、破壊されないところに確かな実力を感じつつ、バロンは足の隣に転がっていた冠を思い切り蹴り飛ばした。

 

 

「貴様が強者なのか弱者なのか――」

 

 

それは、ナイト自身が決めることだ。

 

 

「これからのゲームでな!」

 

「………」

 

 

バロンが打ち上げた冠は、今までの騎士の(ちから)を放ち、凄まじい輝きを放っていた。

彼らはただ単にパスを回していただけではない。

一人一人が己の力を冠に注ぎ込み、力を一つに凝縮させていったのだ。

そしてその最後のパスを受け取ったのは鎧武。

大地を思い切り蹴って跳躍すると、冠の背後に並ぶ。

 

 

「させるかァアアアア!!」

 

 

魔獣達は一勢に、空中にいる鎧武に向ってレーザーだの弓矢だのエネルギー弾だのを発射する。

一方で地面に倒れたまま先ほどからずっと不動のギア。立ち上がる訳でもなく、ずっと鎧武を見ていた。

あれも人間、あれも騎士、あれも参加者。

 

 

「………」

 

 

つくづく腹が立つ――ッ!!

 

 

「―――」

 

 

爆発が鎧武を包む。

魔獣やクララドールズ、しまいにはイツトリの攻撃を受けた鎧武。

流石にアレには耐えられない、誰もが一瞬そう思っただろう。ギア以外を除いては。

人間は害虫だ。しぶとく、見苦しいが、一度喰らいつくと、なかなか離さない者がいるのだ。

そう、まさに城戸真司が。そして葛葉紘汰がソレだ。

 

 

『カチドキアームズ!』

 

 

爆煙を吹き飛ばす鎧武。

そこにいたのは先ほどの鎧ではない。

 

 

『いざ、出陣!』

 

 

全身にヒビが入り、中には砕けている部分もあった。

全身からは出血が見られ、見るからに痛々しい姿。

しかしそれでもあれだけの攻撃を耐え切ったのは、今の鎧武が重厚な甲冑に身を包んでいるからだろう。

 

 

『エイエイオーッ!!』

 

 

鎧武、カチドキアームズ。

特徴は圧倒的な防御力。さらにタルトが防御魔法を発動してくれたからか、魔獣達の攻撃を防ぎきる事ができた。

鎧武はカッティングブレードに手を伸ばす。

 

 

『ガチドキスパーキング!』

 

 

鎧武はオレンジに光り輝く脚を、思い切り冠に打ちつける!

 

 

「セイッ! ハァアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

色とりどりに光り輝き、猛スピードで跳んでいく冠。

抵抗を示すクララドールズ達をまとめて蹴散らすと、イツトリに直撃して大爆発を巻き起こした。

目を見開く魔獣達。イツトリは悲鳴を上げて虹色の炎に包まれる。

 

 

「まずい!!」

 

 

慌て始める魔獣。その中で消失していくイツトリ。

 

 

「やったか?」

 

 

鎧武は着地を決めた。

しかし残念だがイツトリの力は本物だ。彼女は死さえも忘れる事ができる。

とはいえ与えたショックは本物のようで。そのダメージで思考が停止したらしい。

しばらくは何も考えられない、何も忘れる事ができない。

 

それは魔法少女とは関係の無い、純粋なる他世界の力が齎した結果だった。

故にイツトリの力もそれだけ下がり、そのダメージを癒す期間を取るしかない。

 

 

「さあ、あと一歩だ」

 

 

冠はボールから騎士の姿に戻ると、鎧武の横に並び立つ。

持っていた錫杖を地面に打ち付けると、バロンたちが光の球体となる。

冠はもう一度、錫杖で地面を叩いた。するとイドゥンが、りんごの形をした光球になると、他の騎士の光と交わっていく。

 

完成するのは極ロックシード。

鎧武はそれを掴み取ると、そのままドライバーに装填。

鍵を捻ることで再び白銀の形態、極アームズへと変身を遂げた。

 

 

「これでイツトリはしばらく動けない」『大! 大! 大! 大! 大将軍!!』

 

「ヌゥウウッッ!!」

 

 

怒りに震える魔獣達。

一方で反対側に並び立つ魔法少女と騎士。

その中でずっと倒れていたギアがようやく立ち上がった。

 

 

「……いい希望だ」

 

「っ!」

 

 

右手を前にかざすギア。

すると瞬時、そこから小さな歯車が発射され、一瞬でまどかの眼前へたどり着く。

 

 

「きゃッ!!」

 

 

弓を盾にするが、威力もそこそこあるのか。

衝撃で弓が手から弾かれてしまった。

 

 

「だが、もうそろそろ夢から覚める時間だ」

 

「!」

 

 

ギアが掌を前にかざすと、先程とは比べ物にならない大きさの歯車が生まれる。

イツトリの力が無くとも、一端の魔法少女や騎士ならば消し炭にできるだけの力はあるのだろう。

チャージが開始された。とは言え、弾かれた弓を取りに行っている時間はない。

まどかは攻撃を諦め、盾を出現させる準備を。

 

 

『『ソニックアロー!』』

 

「これ、使ってくれ」

 

「!」

 

 

まどかは投げられた弓を受け取る。

プラス――

 

 

「君は、どのフルーツが好き?」

 

「え? えっと……! め、メロンです!」

 

「うし、メロンだな」

 

 

鎧武はまどかの手に、メロンの錠前を握らせる。

その時、ギアの歯車が発射された。だが遅い、キリカの減速魔法がアシストに入ったのだ。

その間に、鎧武はまどかに弓の使い方を説明する。

騎士でもないまどかに使えるのかは微妙なところだったが、まあ魔法が使えるんだから大丈夫だろうと。

 

 

「不思議だな」

 

「え?」

 

「君とは初めて会ったのに、他人の気がしないんだ」

 

 

妹と言うか、姉と言うかなんと言うか。

同じ親から生まれた気分がする。とにかく血を分けた様な感覚なんだと。

 

 

「ははっ、こんな事言われても困るよな」

 

「そんな事……!」

 

「気にしないでくれ。さあ、行くぜ! まどかちゃん!」

 

 

ハッとして、頷く。

二人は錠前を弓にセットし、力いっぱい弦を振り絞る。

狙いを定め、二人は同時に矢を発射した。眩い光を放ちながら、二本の矢はギアの歯車にぶつかり、競り合いを始める。

 

だが無駄だ。ギアには確信があった。

この絶望の力は、そう簡単には打ち破られないと。

それにもしも負けそうならば他の魔獣達に援護を付けさせるだけ。

だからまどか達の攻撃が、歯車を破壊する事はできな――

 

 

「!!」

 

 

その時、虹色の空に幾重もの亀裂が走る。

かと思えば鏡が砕ける音が聞こえ、文字通り空が粉々に割れた。

そしてその向こう側から――

 

 

【ファイナルベント】

 

「「「!?」」」

 

 

バイクに変形したドラグランザーに乗り込む龍騎が現れた!

 

 

「城戸真司ッ!!」

 

「馬鹿な! 何故ココが分かった!?」

 

 

そして何故ココに来れる? 大きくざわめく魔獣達。

他の騎士や魔法少女達も、砂丘に着地する龍騎サバイブにその視線を奪われた。

一方ドラグランザーは爆音を上げ、砂を撒き散らしながら陽炎の中を駆ける。

魔獣のざわめきをエンジン音が全てかき消し、タイヤが通った痕には炎が燃え上がっていた。

 

 

「フッ!!」

 

 

龍騎は前輪を上げてウィリー走行となる。

さらに咆哮。龍騎と同じく、鉄仮面を下ろした姿で、ドラグランザーは口から無数の炎弾を次々に発射する。

それは従者達を焼き尽くし、バッドエンドギアを吹き飛ばし、そして競り合うまどか達の力に加勢してギアの歯車を粉々に砕く。

それだけじゃない。龍騎はそのままアクセルを全開にして、ギアへと突っ込んでいった。

 

 

「ハァアアアアア!!」

 

「グゥゥウウッ!!」

 

 

龍騎はギアの目の前でウィリー走行を解除。

前輪を振り下ろし、ギアを押しつぶそうと試みる。。

突如現れた龍騎に混乱していたか。ギアは抵抗を示すものの、ドラグランザーの発射した追撃の炎に反応できず、防御を崩されてしまう。

 

故にホイールが装甲をガリガリと削り取り、バランスを崩したギアはドラグランザーの巨体に弾き飛ばされる事に。

ファイナルベント、『ドラゴンファイヤーストーム』。

龍騎はバイクとなったドラグランザーでギアを轢き飛ばすと、車体を旋回させてまどか達の所へと戻った。

 

 

「真司さん……!」

 

「まどかちゃん――ッ、無事で良かった!」

 

 

再会を喜び合う二人。

その後ろで、優衣の肩に乗るキュゥべえとジュゥべえは顔を見合わせ首を傾げていた。

はて? なぜ龍騎がココに来れたのだろう。

 

確かに未来の騎士をココに呼び、イツトリと戦わせたのはキュゥべえ達だ。

次世代の魔法少女がいれば、次世代の騎士もいるだろうと睨んだ二匹が、未来のキュゥべえに接触し、冠に事情を伝えたと。

 

しかし城戸真司は次のゲームの舞台のコア。

そしてたった一人の騎士が増えたところでどうにかなる訳が無いと、呼ぶのは止めておいた。

だが龍騎は今ココにやって来た。一体誰がこの箱庭の外、それも円環の理に招いたのか……?

 

 

『ココに人を入れる事ができるのは――』

 

 

まずはインキュベーターだが、キュゥべえ達では無い。

優衣がそうしたとすれば? いや、彼女が細工できたのは最初だけで、今はもう無力だ。

だとすればまどか? いやいや、リアクションを見る限り違うだろう。

だとすれば後は一つ――

 

 

『まさかアイツ……』

 

『可能性としては、かな』

 

 

キュゥべえとジュゥべえは龍騎が開けた穴を見つめる。

おそらく向こうに彼がいる筈だ。

そう、『彼』がね。キュゥべえの赤い瞳は虚空の空間を捉える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「取り返しが付かないわよ。もうココまで来たら」

 

「それでいいさ」

 

「私は、止めたから――ッッ!」

 

 

穴の向こう側。その虚空にて、円環の理を見つめるのは下宮と小巻。

青ざめて引きつった表情の小巻とは対照的に、下宮は唇を少し吊り上げ、パニックになっている魔獣達を見つめていた。

小巻は爪を噛み、下宮を睨むように見つめている。

 

 

「コレがバレれば死刑は免れない。なのになんで――ッ!」

 

「飽きたろ、君も」

 

「え――?」

 

「少なくとも、僕は飽きたぜ?」

 

 

下宮は気だるそうにメガネを整える。

 

 

「飽きた?」

 

「ああ。魔獣が勝ち続けるゲームはね」

 

「っ!」

 

 

同時に起こる異変。下宮と小巻の体が粒子化しはじめた。

おそらくはイツトリの力が弱まった事で、真司の概念が一気に進行を始めたのだろう。

次のゲームがまもなく始まる。理の外にいる下宮達から次の舞台へ導かれると言う訳だ。

 

 

「小巻、次の世界で目覚めたら――」

 

「?」

 

 

ファミレスの名前を告げる下宮。

そこで待ち合わせをと言う事なのだろう。

 

 

「じゃあ、また」

 

「ちょ!」

 

 

消える下宮、小巻もまたすぐに次の世界へと導かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタが龍騎だろ? 会えて良かったよ」

 

「っ? そういうアンタは……?」

 

「俺は鎧武、未来の――ッて、まあいいか」

 

 

時間も無いみたいだ。

鎧武は自分の体が粒子化しはじめるのを確認した。

あくまでも部外者から先に消えるのは道理か。とは言え、まだやる事はあるのだから、何もせずとはいくまい。

 

 

「カードを預かった」

 

「ッ?」

 

「まどかちゃんに預けるつもりだったけど、本人がいるならちょうどいいや」

 

 

鎧武は一枚のカードを龍騎に差し出す。

カードを受け取る龍騎。そこにはなにやら見たことの無い紋章が描かれたカードがあった。

 

 

(つかさ)って奴に預かったんだ」

 

「士……?」

 

「ああ。本当の本当にどうしようも無い時は、ソレを使えってさ」

 

 

必ず龍騎の力になってくれるだろうと鎧武は約束する。

限界がきたらしい。鎧武は最後の言葉を龍騎へ送る。

 

 

「勝ってくれよ、応援してるぜ」

 

「お、おお。ありがとう」

 

「へへッ、じゃあな」

 

 

鎧武はそう言うと完全に粒子となって消滅した。いるべき場所に還ったのだろう。

龍騎は未来の騎士だと言う鎧武に、言い様もない大きな感情を抱いた。

そして今一度、言葉を頭に叩き込む。

 

勝ってくれ。

そう、龍騎は今獣に勝つためにココに立っているんだ。

ドラグバイザーツバイを握り締め、魔獣達を睨みつけた。

すると、このフィールドに拍手の音が。

 

 

「ぎ、ギア様?」

 

「お前達は少し下がれ、彼と二人で話がしたい」

 

 

ギアは立ち上がり、拍手を行いながら龍騎の前にやってくる。

静かに交差させる視線。まず仕掛けたのはギアであった。

 

 

「城戸真司。君の行動には感服させられたよ」

 

「ッ?」

 

「君の行動は凄まじく――、大胆だ」

 

 

難しい判断だと思う。

確かに支配されている状況ならば、ああするしか無かったのかもしれない。

それに記憶を継続できたとすれば、もしかするともしかするのか。

 

 

「フム。だがやはり……、ハイリスクである事は変わりない」

 

 

ギアは龍騎の行動に大きな衝撃を受けている。

ただの人間が魔獣にココまで食い下がる。

それはもう歴史的な事であり、それだけの価値のある事実ではないか。

 

 

「どうだろう? ココは一つ、私と取引をしないか?」

 

「……取引?」

 

「ああ。今の君達なら、記憶の片隅に彼女の事が引っかかっているのでは?」

 

 

ギアは優衣を示す。

もう一度改めて、ギアは騎士達が元は別の世界の住人である事を告げた。

騎士は騎士、魔法少女は魔法少女、二つの歪が交わったから今がある。

 

逆に言えばそれだけだ。

騎士と魔法少女の絆に意味はない。ただそこに存在があったから入れた、それだけなのだ。

であるならば、騎士にとって、それは理不尽な物に感じないだろうか?

勝手にまどか達の世界に巻き込まれ、殺し合いに参加せられる等と。

 

 

「そこでだ。もしも君がゲーム続行を中断してくれるのならば――」

 

 

今ココにいる騎士全員を、元の世界に帰してやろうと言う。

 

 

「……!」

 

「迷う必要は無い。ココは元々、君の世界ではなかった」

 

 

世界が融合した際の違和感は覚えている。

だから龍騎達の世界に再びコンタクトを取る事は可能である。

そしたら帰せば良い、彼ら騎士を全員。

 

 

「もちろん鹿目まどか達の安全も約束しよう」

 

 

なんならば鹿目まどか達を連れて帰っても良い。

 

 

「さあ、ゲームを止めようじゃないか」

 

 

これ以上危ない橋を渡る必要は無い。これ以上苦しむ必要がどこにある?

魔獣達はもう参加者には手を出さない。他の関係の無い人間を狙い続けるかもしれないが、少なくとも参加者の前には現れない。

それに加えて真司達は自分の世界に帰る事ができるんだ。

この現状はゲームで言うなればバグでしかない、正常な状態では無いのだと。

 

 

「我々はもう、十分楽しんだ。君の行動に免じて、君達を解放しようじゃないか」

 

 

無駄な賭けをする必要は無い。無駄な戦いを繰り返す意味は無い。

世界は元ある状態へ戻るべきだ。そう、城戸真司と鹿目まどかは別々のベクトルに生きる人間、交わりつづける必要は無い。

戦いを止めることは真司の願いだった筈だ。ましてやこのまま戦えば失敗の可能性もある。

 

 

「勢いに任せて大賭けするのは、悪いギャンブラーの見本だ」

 

 

そう言ってギアは龍騎に向けて手を差し出した。

 

 

「この手を取れ、城戸真司。我々は分かり合える」

 

「………」

 

 

龍騎は無言でギアの前へと足を進める。

 

 

「賢い選択だ」

 

 

ギアの言葉。

対して龍騎はあくまでも無言だった。

しかし、その後、すぐに返事が聞こえてくる。

 

 

【ストライクベント】

 

 

そう、それは随分とエコーの掛かった意思表示が。

 

 

「――グ!」

 

 

そして――!

 

 

「グォォオッッ!!」

 

 

ギアの顔面にドラグランザーの頭部を模した手甲『ランザークロウ』が叩き込まれたのは、その時だった。

殴った際に炎を発射したか。火の軌跡を残してギアは後ろへ吹き飛んでいく。

 

 

「何をする城戸真司ッ!! ギア様の善意を――ッ! 貴様アァァア!!」

 

 

ブルーム達の怒号の中、龍騎はランザークロウを一同に突きつける。

何をするだと? その質問の答えならばハッキリと口にする事ができる。

色々な事を思い出し、そして思い浮かぶ龍騎の欲望。

絶望だとか希望だとか。ゲームだとか命だとか。そう言うのを全て置いておいて、まずは何が何でも叶えたい願いがあった――

 

 

「お前を一発、殴りたかった!!」

 

「……所詮、猿は猿。知恵の足りない愚か者か」

 

 

ギアは殴られた頬を押さえながらゆっくりと立ち上がる。

声は震え、そこからは確かな怒りが感じ取れた。

ギアは龍騎を最高の愚か者と称してみせる。彼らは今、最後の希望を失ったのだから。

これより、何も変わらない戦いを繰り返す。希望がどうのこうのと、夢物語を口にしながら殺し合う。

 

 

「何も変わらない、何も変えられはしない。それが愚かなお前達にふさわしい末路だ」

 

「いやッ、一つだけ確かに変わる」

 

「――ッ?」

 

「重さが」

 

「何?」

 

 

龍騎はランザークロウを消滅させると、人差し指で魔獣達を示し、吼える。

 

 

「死んでいった参加者達の命の重さが、何倍にもなったッッ!!」

 

 

次のゲームで継承者を増やせば、それだけの記憶が蘇る。

どれだけの命が犠牲になった? どれだけの思いを魔獣は踏みにじる!?

駄目だ、そんなの絶対に認めない、絶対に許さない!

 

 

「もう、これ以上は増やさない!」

 

「城戸真司……ッ!!」

 

 

そこで龍騎は少し首を動かし、優衣を見た。

 

 

「ごめん優衣ちゃん。そっちにはまだまだ、戻れそうにない」

 

「……ううん。それでいい、それでいいよ。そっちの方が真司くんらしいね」

 

 

そしてギアは。

他の魔獣達は確かに理解する。確信する。

城戸真司、この男は――ッッ!

 

 

「俺もまどかちゃんと同じだ」

 

 

守るために力を手に入れた。だったら――!

 

 

「騎士を、魔法少女を、参加者を守ったって良い!」

 

 

この男は確かに危険な存在だと言う事を。

油断すればコチラが負ける。そんな事を思わせる程の力を持っている。

そして同時に何よりも腹が立つ。存在そのものに殺意を覚えさせられる。

圧倒的な希望を放つ龍騎ペアは、魔獣にとって何よりも邪魔な存在だった。

そして他の参加者達も龍騎の姿を見て言葉を失っていた。それぞれ思う所があるのだろう。

 

 

「真司さん……!」

 

「まどかちゃん、絶対に勝とう。魔獣に、ゲームに!」

 

 

壊れた世界で彷徨っていた騎士の世界は、引き寄せられる様にまどか達の世界と融合した。

その事実。そして今までの戦いの歴史。それを無駄にしてはいけない。

今ココに立っている自分こそが本物だ。魔法少女達と過ごした時間が、思い出が全てなんだ。

それを捨てるなんて、できはしないんだ。

 

 

「俺は、お前らを絶対に倒す! そして皆で生き残るんだ!!」

 

 

何度でも口にしてやると龍騎は言う。

何よりもまどか達、魔法少女の無くした未来を取り戻すために。

不安の影は何度だって切り裂いてみせよう。魔獣が何度前に立っても、必ず打ち倒してやると。

とめどなく刻まれた時が今が、ようやく始まりを告げようとしている。

その中で参加者達は変わらない想いを持ち、ループの先にある扉を開くのだ。

 

もう魔獣にゲームを拒む事はできない。彼らの体が徐々に粒子化しているのがその証拠だ。

同じくまどか達の体もまた粒子化をはじめていく。

消え去れば、次に目覚める時は――……。

 

 

「まだ時間はある!」

 

「ハッ! 了解しました!!」

 

 

ブルームの命令で、バズスティンガー達は弓矢を一勢に構える。

しかしそこへ凄まじい突風。見れば龍騎サバイブの隣に並び立つ、ナイトサバイブが。

サバイブとはそれ即ち己の生きる力、己の性質の覚醒。

龍騎は"勇気"、ナイトは"決意"の名を冠するサバイブにて強化を果たしたのだ。

 

 

「蓮……!」

 

「城戸、一つだけ約束してくれ」

 

 

覚醒を果たした心で彼らは走り続ける。それは約束の未来を描くために。

難しい道だ。だから何度も躓いた。しかしどれだけ立ち止まっても、きっと成しえられると思っているから。

だから伝えたい想いがある。

 

 

「最後のゲーム、俺と決着をつけてくれ」

 

「ああ、分かってる」

 

 

そこでキュゥべえの声が脳内に。

ここでの記憶は、ゲームが始まればほぼ全て消滅する。

流石に円環の理での記憶は持っていると非常に協力がスムーズになってしまうからだ。

キュゥべえはあくまでも次の戦いを『ゲーム』として重要視している。

故に魔獣にも勝てる可能性は残さなければならない。

 

あくまでもイーブンに近い形が理想系なのだから。

しかし、それを聞いても蓮と真司は同じ会話をしていただろう。

それが彼らにだけ分かる絆と言うものだ。

 

 

「いいだろう……!」

 

 

ギアは頷き、殺意を解放する。

 

 

「ゲームにて決着をつけてやろう」

 

「ッ」

 

「そして知るが良い。絶望を、闇を、苦痛を」

 

 

ギアの言葉に頷く魔獣達。

彼らは空中に浮かび上がると、ギアを頂点にして空へ昇っていく。

参加者達を見下すバッドエンドギア。

 

 

「無限の苦痛は終わりはしない。次なるゲームでも苦しみの輪廻が途切れる事は無い」

 

「いや、俺が終わらせる!!」

 

「なら追って来い城戸真司。希望が高ければ高い程、落ちた時の絶望もそれだけ大きくなる」

 

 

ゲームでの決着は魔獣にとっても悪いものではなかった。

参加者が希望を抱けば抱くほど、絶望へ変換させる落差も大きくなると言う事だ。

生き残る事、助け合う事、笑いあう事。それが無理だとゲームで教え込んでやる。

 

 

「ゲームの中で、お前達の希望を粉々に粉砕してやる」

 

「させない――ッ!」

 

 

その言葉にいち早く反応したのは鹿目まどかだった。

交わした約束がある。まどかは目を閉じて、それを確かめるように思い出す。

希望だとか絶望だとか色々あるけど。その前にまず、まどかは皆とまた笑い合いたいから。

 

 

「皆と友達になりたいから」

 

 

人はそれを笑うかもしれない。馬鹿にするかもしれない。

でもそれが鹿目まどかの希望なんだ。皆が、誰しもが笑い合える世界。

それが鹿目まどかの希望――!

 

 

「わたしはあなた達には絶対に屈しない! 絶対負けない!!」

 

 

押し寄せる闇は、全てわたしが振り払って進んでみせる!

 

 

「どんなに大きな壁があっても、わたし達は絶対に超えてみせるから!」【アライブ】

 

 

輪廻の先にある明日(みらい)を信じた祈りが、まどかに新たなる力を与える。

サバイブに覚醒した騎士。それは何も、騎士のみに許された権利ではない。

魔法少女もまた答えを出し、騎士と本当に分かり合えた時に与えられる力がある。

生き残ると言う意味のサバイブ。そして生きてと言う意味のアライブが。

 

 

「輝け! 天上の星々!」

 

 

まどかの淡い桃色の髪が一気に伸び、すぐにツーサイドアップの髪型へと変化する。

衣装は白と桃色を貴重としたドレスに変わり、瞳が金色に染まった。

光の翼も常時装備状態となり、神々しい姿はまさに『女神』と言うに相応しい。

それは宇宙の法則を変え、概念になった姿と同じだ。

 

 

「煌け! 極光の円環!!」

 

 

アルティメットまどかと呼ばれていた形態。それはアライブの力によって解放される。

まどかは既に概念の資格を剥奪されている為、以前のような力は出せないかもしれない。

しかし同時に今は騎士の力が入っている為、魔獣に対抗できる力になるのだ。

 

 

「我が示すのは理! 絶望を砕き、悪を滅する光とならん!!」

 

 

まどかの背後に出現する牡羊、牡牛、双子、蟹、獅子、乙女、天秤、蠍、射手、山羊、水瓶、魚。

12体の天使達は、まどかを守る様に位置を取ると、一斉に魔獣達を睨みつける。

 

 

「……!」

 

 

絶句する魔獣達。

一瞬感じてしまったのだろう。敗北と言う文字を。

 

 

「祈りを絶望で終わらせたりしない、この一撃で貫いて!」

 

 

弓を引き絞るまどか。そうだ、これが希望なんだ!

不可能がどうとか、絶望がどうとか、殺し合いがどうとかそんなの関係ない。

魔獣の絶望なんて知らない。だって今、わたしはわたし自身の意志でココに立って魔獣に食い下がっているんだ。

そう、他でもない自分自身の願いと希望で!

 

それを真司が守ってくれた。

その壊れかけた可能性を龍騎は復元してくれた。

これが最後のチャンス。

 

 

「だからわたしは絶対に死なない!」

 

「!」

 

「誰一人死なせない、人が死んで盛り上がる物語なんていらないのッ!」

 

 

金色の瞳が、魔獣たちを貫いた。

 

 

「シューティングスター!!」

 

 

12体の天使が魔獣に向けて一斉に飛んでいく。

しかしその攻撃が魔獣に届くことは無く、魔獣もまた抵抗を示す事は無かった。

なぜならばシューティングスターが届く前に、魔獣と参加者は粒子化が完了して消え去ったからだ。

 

 

『ま、これで何とかなったな』

 

『優衣、今度こそ君は元の世界へ戻ってもらうよ』

 

「うん、仕方ないね……」

 

 

優衣は疲れたように笑う。

仮にもゲームにバグを混入させた身だ。

運営を行うインキュベーターの立場上、優衣を巻き込むのは良しとはできない。

ましてや仮にも神崎との契約もあるわけだし。

 

 

『兄貴と仲良くな』

 

「真司くん達はどうなるのかな……?」

 

「それは、女神達に任せるしかありませんね」

 

 

まだ消滅していなかったタルト。

彼女はこれより円環の理の残骸と共に消え去る運命にある。

しかしそれは死ではない。タルトの拠点は今現在未来にある。

それに、まどか達が魔獣を倒せば、世界はまた新たなる形に再構成されるのだろう。

その時が、また新たなる未来へのスタートだ。

 

 

「頑張って、みんな……!」

 

「応援しております。女神よ」

 

 

優衣は祈るようなポーズを取りながら光となっていった。

タルトもまた、明るい世界を祈りながら消えていく。

 

 

『じゃあ、はじめようか』

 

『ああ、そうだな先輩』

 

 

最後に妖精達が消え、円環の理の残骸は、完全な消滅を遂げた。

そして世界は、城戸真司の概念によって新たなる可能性を導き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……」

 

 

目を開ける真司。

新たなる世界で目覚め、最後の戦いに挑むのであった。

 

 

 

 

 

 




この話は時間軸的に言えば、本編でジュゥべえが真司に新ルールを告げて、次に目覚めるまでの間に起こった出来事です。

二部からはオリジナル含め、キャラクター数が倍くらいになりやす。
それだけクセもありますが、お付き合い頂ければなと(´・ω・)
二部のキャラ紹介は別に作ります。ええ、ええ。


あと一つ原作と大きな変更点なんですが、サバイブの名前が違います。
原作は真司が烈火、蓮が疾風でしたが、今回は性質名になっています。
つまり真司が勇気、蓮が決意と言う事ですな。


あと未来の騎士達の通りですが、二部からは龍騎だけでなく他のライダーもちょこっと出てきます。
ガッツリって程じゃありませんが、まあまあ……って感じで。


ただ更新はまだ先ですが、『パーフェクトダーク』って言う未来編は完全に鎧武がメインでやります。
これも鎧武キャラとマギカキャラの恋愛要素ありなんで、申し訳ないけどガチ恋勢とカプ厨は我慢してくれよな(´・ω・)


ちょっと鎧武原作じゃ他にフラグ立ってた人がいるっぽいキャラも、マギカキャラと恋の愛なんかをしちゃうので、下に組み合わせ書いておきます。
一応ネタバレなんで、見たくない人は見ないでね































パーフェクトダークの組み合わせは
ガッツリいくのが

ザック×マツリ
光実×沙々


若干漂わせるのが――


初瀬×千里
ラピス×タルト


で行こうと思います。
あとはまあ他にもありますが、鎧武キャラ×鎧武キャラでございます。
更新はまだ先ですし、もしかしたら変わるかもしれないので、(仮)くらいに考えておいてくだせぇ(´・ω・)

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