仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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番外編
FOOLS,GAME LIAR・HEARTS(前編)


 

 

※注意

 

この番外編は本編とは違う、ライアペアが主役の独立した一本の番外編です。

以下の要素を強く含んでいるので苦手な方はバックしてください。

 

 

・残酷な描写

・キャラ崩壊

・手塚×ほむら

・小説版龍騎の要素&ネタバレ

 

 

この番外編は当時、『劇場版 魔法少女まどかマギカ新編、叛逆の物語』が公開された直後に書いたので、そちらの要素も若干入ってます。

 

あとF・G本編で隠している事を少し明かしていますが、まどかの原作を見ていれば分かる内容です。

主にほむら関係の事となっています。

 

 

下にスクロールすると簡単なあらすじが出てきます。

さらにスクロールで番外編が始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「果てに待つのは、『愛』か【死】か」

 

 

それはもう一つのFOOLS,GAME。

ルール、パートナー、本編とは少し違った七日間のデスゲームがそこにあった。

 

大切な物を。愛した人を守る為には、殺さなければならない。

殺す事が正義なのか。生き残る事が悪なのか。それとも全ては逆か。

24人・12組の参加者が悩み、迷い、苦しむ中でただ一つだけ分かる事。

それは――

 

 

 

このゲーム。戦わなければ、生き残れない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FOOLS,GAME   LIAR・HEARTS

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、もう一つのFOOLS,GAME

 

 

扉があった。そして目の前には二つの椅子。

 

 

『やあ、また君か』

 

『チャオ! 調子はどうだい? オイラはバッチリさ』

 

 

椅子に乗っていたキュゥべえとジュゥべえは『あなた』の存在を確認する。

またも現れる存在は過去かのか? 問い掛けると妖精たちは首を振った。

この扉の向こうにあるのは過去でも無く、まして未来でもない。

 

 

『難しいな、まあ簡単に言えば』

 

 

それは有り得たかもしれない世界。

存在していると言えるが、存在しない世界。

 

 

『君はその存在を信じるかい?』

 

 

形無き――、けれども形ある世界。矛盾し相反する存在に囲まれた幻影。

あなたはその存在を確認するのか? それとも意味の無くなった世界は観測する価値のない物だと考えるか。

 

 

『もう分かるだろ? もう一つの世界を視たければ、進むといい』

 

『あんまり良いモンじゃねぇけどな』

 

 

止めはしない。

たとえ悲しみを見ようとも、死を見ようとも。

全て関係ないことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

目覚めた時、広がっていたのは病院の天井だった。

ああ、またこの光景か。思わず舌打ちをしてベッドを叩く。

どうしていつもいつも自分はこの景色を見ている?

何故それが当たり前の様になってしまったのか。もっと簡単に変えられる筈だった、悲劇も、絶望も。

 

 

「………」

 

 

まあいい、自分にはチャンスがある。

だったら何度も何度も戦ってやろうじゃないか、それが自分に与えられた役割なんだろう?

暁美ほむらはため息をつきながらベッドから降りる。

するとどうだろう? 何故かいつもとは違うイレギュラーが真っ先に飛び込んできた。

 

 

「……?」

 

 

ベッドに戻りたくなる。簡単に言えば寒いのだ。いつもよりもずっと。

すぐに魔法で体温を調節するが、外を見ればそこには白い雪がチラチラと見えていた。

積もってはいないが、こんな事は初めてだ。

 

 

「なんで……」

 

 

おかしい、こんな事は今までに一度だって無かった。

ほむらの心は大きく動揺していた。何かが変わるのか? 期待と不安が一気に押し寄せる。

カレンダーを見ればいつも目覚めていた時期とは大きく違う季節。

 

 

『不思議か? 暁美ほむら』

 

「!!」

 

 

振り返るとそこには黒い猫の様な動物が。

 

 

「インキュベーター……、なの?」

 

『まあ合ってるが、お前が知ってるのとは違う』

 

「ッ?」

 

『偉大なるキュゥべえ先輩をアシストする、ジュゥべえだ。よろしくな』

 

 

ジュゥべえはほむらのベッドに乗ると、一礼を行う。

その名は聞いた事が無い。次々と変化する異変の原因はジュゥべえにあるのかもしれない。ほむらは警戒心を高め、ジュゥべえを睨んだ。

 

 

「何の用?」

 

 

目覚めたばかりの状態でコンタクトを取ってくる。

嫌な予感しかしなかった。その焦りが表情に出ていたのだろう、ジュゥべえはニヤリと笑ってみせる。

これもまたほむらにとっては初めだ。露骨に感情を出してくるジュゥべえが不気味で仕方ない。

 

 

『正解だぜぇ? 暁美ほむらぁ』

 

「ッ!」

 

 

赤い瞳がギョロリと光った。

ほむらは背中に寒いものを感じたが、それはこの季節の仕業ではないのだろう。

 

 

『今まで随分と好き勝手やってくれたな?』

 

「何の事……、かしら」

 

『おいおい、とぼけんなよ。オイラはもう全てを知ってる。もちろん先輩もな』

 

「………」

 

 

ほむらも、どこかで常に感じていた。

ずっと続く事はありえない。何事もそうだ。

だからいつか、こういう日が来るのではないかと思っていた。

それが今、今日この日だったというだけだ。

 

 

『もうやり直しはできない』

 

「!!」

 

 

その言葉が全てを物語っていた。

ほむらは唇を噛む。それをニヤニヤと確認しているジュゥべえ。

わざとらしく、もう一度同じ事を言ってみみせた。チャンスはもう二度と訪れない。

次は無い。ロードもセーブも全部無理。無理。無理、無理むりむりムリ――……。

 

 

『ってな訳で。今回で全てを決めろ。もうテメェのワガママに振り回されるのはゴメンだぜ』

 

「………」

 

『オイラも、そしてお前も。そうだろ?』

 

「なにを言ってるの?」

 

『疲れたはずだ。繰り返す輪廻はお前を救う事はできない、絶対にな。何故か分かるか?』

 

 

何を言うべきかさっぱり分からず、ただ沈黙するだけだった。

 

 

『お前、ヒデー顔だ』

 

「ッ!」

 

 

ほむらはふと、鏡で自分の表情を確認してみる。ああ、確かに鬼気迫るものだった。

だがそれは仕方ない事だ。ほむらは事の重大さをよく理解している。

ジュゥべえが言った事が本当ならば――。ああ、それを想像するだけで震えが止まらない。

 

 

「それは……、どういう意味なのかしら?」

 

 

間抜けな話だが、それでも白を切るしかない。

とにかく情報が欲しかった。揺さぶりを仕掛けるほむらだが、ジュゥべえは黙って首を振るだけだ。

 

 

『今はまだ教えないし、教えるとしても今の通りだ。全ては――、いずれ分かる事だが』

 

「………」

 

『くれぐれも行動には気をつける事だな。選択肢を一つ間違えれば、お前は破滅だ』

 

 

 

ジュゥべえはそれだけ告げると踵を返す。

そして最後の一言。

 

 

『たった一度の命、大切にしろよ』

 

 

それだけ言って消えて行った。

ほむらは青ざめた様な。けれども無表情を貫いて着替えを始める。

ジュゥべえが言っている事が本当ならば、もう迷っている時間も、だらだらと時間を無駄にする事もできない。

 

全て『彼女』が契約する前に決着をつけなければ。

ほむらは焦ったように病室を飛び出すと、そのまま退院の手続きへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、アンタ」

 

「っ」

 

 

ほむらは受付で手続きを終え、病院を出ようとした。

その前に整理するために一旦待合室のソファに腰掛けてカバンを開く。

するとそこで隣に座っていた男に声を掛けられた。

コッチは急いでいるのに。ほむらは苛立ちから男性を軽く睨みつける。

 

 

「何があったのかは知らないが、あまり根を詰めすぎない方がいい」

 

「っ?」

 

「頑張りすぎると失敗する。あと恋愛運がよろしくないな、想い人と結ばれるには少し努力が必要だぞ」

 

 

男性はほむらを見ていなかった。視線はタロットカードに向いている。

ほむらよりも少し年上の少年だった。しかし初対面の相手にいきなり何を言うのか。ほむらは半ば引きつつ、ともあれ少年を観察してみる。

 

はて、見たことが無い。

季節が変わったせいか? しかし周りの人間はどこか覚えのある顔ばかりだ。

つまりこの少年だけが『過去』にいない。そう、先ほどのジュゥべえのように。

 

 

「貴方は?」

 

「占い師をやっている」

 

「………」

 

 

しかしどうやら時間の無駄だった様だ。ほむらのこれからに、占い師は必要ない。

荷物をさっさと纏めると、少年を無視して病院を後にする。

少年もほむらを追う事はなく、その後もカードを弄っていた。しかしある程度すると、困ったように唇を吊り上げる。

 

 

「……凄いなアイツ。あそこまで運の悪いヤツは初めて見た」

 

 

まるで呪いだ。

随分とまあ苦労するぞ、気の毒に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッキリ決めるときは決める! いいですか中沢くん!!」

 

「あ、えッ? は! はぁ……!」

 

 

今日も今日とてハイなテンションの早乙女先生。見滝原中学の朝はこうして始まった。

そんな日常に刺さりこむ話題が一つ。

中沢くんを弄り倒した先生は、今日から新しい仲間が増えるという事を告げる。

 

 

「うっそマジで!?」

 

 

青い髪の少女が笑顔で身を乗り出す。名前は美樹さやか、クラスのムードメーカーだった。

頷く早乙女先生。合図を出すと、ほむらが教室に入ってくる。

整った容姿にざわつく一同。男子も女子も皆テンションが上がっていた。

ほむらは早乙女が口を開く前に自己紹介を済ませ、かつクラスを素早く見回す。

 

 

「――ッ?」

 

 

また異変だった。

いない。彼女がどこにもいないじゃないか。

 

 

「えーっと、中沢くんの隣が空いてますね!」

 

 

早乙女が何かを言っているが。ほむらには聞こえる筈も無かった。

大きな焦りと、喪失感に似た物が襲い掛かる。

何故だか分からないが、不安で不安で仕方ない。

 

 

「暁美さん? どうしたの? 顔色が悪いわ」

 

「あ……、いえ、大丈夫です」

 

 

もちろん大丈夫では無かった。

ともあれ、ほむらは震える脚を隠して中沢の隣に座るしか無いのだが。

何故か、とても嫌な胸騒ぎがする。ほむらは歯を食いしばってソレを無理やりかき消すしかない。不穏な空気を作れば、それは現実になる事を知っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ! じゃあ転校生は今まで大変だったんだね」

 

「分からない事とか困った事があったらいつでも言ってね。力になるわ」

 

「ええ、私も協力いたしますわ」

 

 

その後、食堂。ほむらは真っ先に美樹さやかと繋がりを持った。

昼食を一緒に取っているのは、同じくクラスメイトである志筑仁美と、一年先輩の巴マミ。

二人ともさやかの親友らしく、普段からこうしているらしい。

ほむらはさやかに一緒に食事をしないかと持ちかけたと言う訳だ。

 

 

「でも何であたし?」

 

「美樹さんなら……、話しやすいかなって」

 

 

嘘である。

ほむらは目を逸らして言った。

 

 

「おーおー! 嬉しい事言ってくれるねぇ!!」

 

 

しかしさやかにはソレが相当嬉しかったようだ。

気分を良くしたのか、ほむらを親友として認定すると肩を組んで笑っていた。

ほむらはそう言うノリは苦手だったが、さやかの単純な思考回路には何度も助けられてきた物だ。

尤も、同じくらい手を煩わされたが。

 

 

「困っている事があるなら何でもさやかちゃんに相談しないさよぉ! ビシシーッて解決してあげちゃいますから!」

 

「もう美樹さんったら、調子いいんだから」

 

「うふふ、コレがさやかさんの魅力ですわ」

 

 

巴マミ、ほむらは彼女が苦手だった。いろいろな意味で。

そして志筑仁美、彼女はよく分からない。非常にデリケートな存在と言えるだろう。

扱い次第で天使にも悪魔にも変わるポテンシャルを秘めている。

 

 

「ところで、クラスの席に空きがあったのだけれど……」

 

 

それに答えたのはさやかだった。

 

 

「おーお、転校生はウチの天使様を知らなかったね」

 

「?」

 

「鹿目まどか、あたしの親友があそこの席だよ」

 

 

ドクンと心臓が大きな音を立てる。

名前だけでも彼女(まどか)の存在を確認できたのは、ほむらにとってどれだけ喜べる事だったか。

 

さらに話を聞いてみると、情報を引き出せる事ができた。

まどかはしばらく学校を休んでいるらしい。理由は何やら感染症にかかってしまい入院しているからだとか。

 

 

「隣町の風見野って場所の病院ね」

 

 

場所を説明してくれるマミ。

どうやら大きな病院のようで、探すのに時間はかからない所の様だ。

 

 

「大丈夫なのかしら?」

 

「うん、命に影響する物とかじゃないから。何度もお見舞いに行ってるしね」

 

 

話しによれば一週間後には退院できるらしい。

退院したらお祝いのパーティをやると決まっている。

丁度いい、マミはそこでほむらをまどかに紹介できるいい機会だと笑った。

 

 

「ね? 暁美さんともきっとお友達になれると思うわ」

 

「ええ、まどかさんはとってもいい人ですもの」

 

 

なるほど。

ほむらは適当に相槌を打ち独自に思考を回転させていく。

とりあえず、まどかがいる病院に向かうのが先だ。

あの白いのが彼女に付きまとう前に、保護と警告をしなければ。

 

 

「どした? 何か辛そうだけど。もしかして具合悪い?」

 

「え、ええ。少し頭が痛くて。気分もあまり……」

 

「だったら早退した方がいいんじゃ……、あたし言っておいてあげようか?」

 

「そう――、ね。そうしようかしら」

 

 

都合がいい。

ほむらはさやかに後を任せると、早々に学校を抜け出した。

目指すのは当然まどかがいると言う病院だが、入院していると言う点もほむらにとってはこの上ないイレギュラーである。

 

この先、何が起こるか分からない。

なるべく魔力は温存しておきたい。故に、ほむらはバスを使うことにした。

家に戻って一旦着替えて、バス停に向かう。

 

 

「え?」

 

 

しかし、そこでまた違和感を感じる。

風見野に向かう為のバスが一つも無いのだ。

今まではちゃんとあった筈なのに、一体どうして……。

 

 

「………」

 

 

それにしても寒い。

雪はないものの、気温は低い。冬は苦手だ。いちいち魔力で体温を調節していてはキリがない。

少し我慢して、必死に風見野へのバスを探す。だがどれだけ探しても無駄だった。

ため息をつく。すると息が白くなっていた。

 

 

「………」

 

 

仕方ない、タクシーか電車で行けばいいだろう。

ほむらは目線を落として踵を返す。

 

 

「あ、君もしかして風見野に行きたいの?」

 

「ッ?」

 

 

その通りである。

ほむらが振り向くとそこには見知らぬ青年が。

 

 

「俺さ、今から風見野に行くんだけど。送ってってあげよっか?」

 

「………」

 

 

仮に危険な目に合いそうになったなら、変身すれば良い。ほむらは青年に甘える事にした。

軽自動車に揺られる中で、青年はほむらにフレンドリーに話しかけていた。

ほむらとしては静かにしてほしかったが、仕方ない。適当に相槌をうつ。

 

なんでも名前は城戸真司と言うらしい。見滝原で便利屋をしているとか。

故郷はリンゴが有名な田舎だったらしいが、祖母にもっと広い世界を見て来いと言われて見滝原にやってきたそうな。

 

 

「今日も依頼主の人が風見野でさ!」

 

 

なんでも最近バス会社のトラブルで風見野行きのバスが減ってしまったらしい。

彼女のいたバス停では一つも無い状況。不便な物だとぼやいていた。

 

 

「ほむらちゃんはどうして風見野に?」

 

「友達が入院していて」

 

「そっか、早く良くなるといいな」

 

 

城戸真司は優しい人間だった。言い方を悪くすれば、少し馬鹿っぽいと言うか何と言うか。

話を聞いている内に、車は風見野へ繋がる橋の上に差し掛かる。

 

 

「ここを真っ直ぐに行けばすぐに風見野だ」

 

 

しかしなんだか、視界が悪い。

 

 

「あれ? 結構霧がかかってるな……」

 

 

確かに何故か橋の向こうに白いモヤが見える。

不思議に思いつつも、真司は車をそのまま直進させた。

 

 

「あ、あれ!?」

 

「……?」

 

 

真司が間抜けな声を上げる。

それもその筈だ。いつのまにか車は風見野ではなく見滝原へ戻ってきたのだから。

真司は思わず叫ぶ。いつの間にか対向車線に? そんなバカな。

 

 

「お、おっかしーな? ごめんほむらちゃん、ちょっと回るよ」

 

「ええ……」

 

 

真っ直ぐ進んでいたつもりだったのに気がつけばUターンしていただなんて。

真司は一旦車を移動させ、再び風見野へ続く橋を渡り始める。

 

 

「俺ッ、ついついドジやらかしちゃうんだよ。ゴメンゴメン」

 

「………」

 

 

真司はそう言って笑っていたが、ほむらに応える余裕はない。

いくらなんでもドジの話しではない。ほむら視点でも車はいつのまにか見滝原に戻ってきたように見えた。

 

 

「あっれぇ?」

 

 

やはりと言うべきか。二回目も同じだった。

真っ直ぐ進んで風見野へつく筈が、気がつけば見滝原に戻ってきている。

戸惑う真司。同時にほむらは一つの確信ともいえる物を持つ。

 

 

「停めてください。私、歩いて風見野へ向かいます」

 

「え? あッ、そっか。ごめん、気をつけて」

 

「ええ、ありがとうございました」

 

 

ほむらは一旦人気の無い場所に向かうと、ソウルジェムを取り出して魔力を解放させる。

変身だ。奇跡の力と引き換えに得る呪いとも言える姿。

それが魔法少女の姿だった。

 

 

(あれは明らかに異常だった)

 

 

ほむらは跳躍でビルの屋上を伝って風見野を目指す。

するやはり白い靄が見えてくる。

 

 

「あそこを越えられれば――ッッ」

 

 

ほむらは再び見滝原と風見野の境にやってくると、一気に跳躍で越えようと試みた。

しかし――

 

 

「!!」

 

 

着地したのは見滝原の地面。

つまりモヤに飛び込んだら、踵を返して戻ってきたと?

ありえない、ほむらは一旦見滝原に戻ると、場所を移動して再び風見野への進入を試みる。

 

 

「そんな……ッ!」

 

 

しかし結果は同じ。

何度やっても、どこから行っても風見野へ向かう事ができなかったのだ。

境目には常に白い靄が存在し、空間を捻じ曲げているようだった。

 

 

(どうなってるの……?)

 

 

訳が分からない。面倒と思いつつも一度タクシーで風見野へ向かう。

もうココまで来たのなら結果を書かなくても問題は無い筈だ。

そう、ほむらはどんな手を使っても風見野へ向かう事は叶わなかった。

タクシーも同じようにいつの間にか見滝原に戻ってきたし、電車はいつまにか見滝原着きのものに乗り換えられていた。

 

 

「なんなのよ……ッ!」

 

 

爪を噛んで苛立ちを爆発させる。

しかし二度目の電車を降りた時、ほむらに声をかける者がいた。

きりっとした目、ポニーテール、そして周りから浮いている和服の少女だ。

 

 

「申し訳ない。少し貴女の行動を追わせてもらいました」

 

「!」

 

 

気がつかなかった。ほむらは汗を浮かべて後ずさる。

行動を追わせてもらったと言う事は、つまり自分の動きについてこれたと言う事でもある。

そんな事ができるのはただ一つ、同じ存在しかありえない。

 

 

「あなた……、魔法少女なの?」

 

「ええ。ですが勘違いしないで欲しいのは、縄張り云々の話しでは無いと言う事です」

 

 

魔法少女はグリーフシードを巡って対立する事が多々ある。

今回もそんな話しかと思っていたが、どうやらそうでは無い様だ。

 

 

「少し話しませんか? 近くに喫茶店があります」

 

 

ほむらとしては急ぎの身だ。できれば断りたかったが。

 

 

「風見野に行けないのでしょう?」

 

「ッ! ええ、その通りよ」

 

「それは私も同じです。どうでしょう、情報交換と言うのは」

 

「……わかったわ」

 

「助かります。私は双樹ルカ。どうぞよろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり――、貴女は三日前から風見野へ行けなかったのね」

 

「そう。何をしても」

 

 

駅近くの喫茶店。

二人は紅茶を飲みながら情報を交換していた。

異変が起きたのは、ほむらが目覚める数日前らしい。

そして誰もが風見野へ行けないわけではない、それは魔法少女だけだ。

 

 

「タクシーの運転手だけならば問題なく風見野へ行けたでしょうが」

 

「私が乗っていたから無理だった……」

 

 

頷くルカ。彼女はそれが分かってから、ありとあらゆる方角から見滝原の脱出を試みた。

しかしどれだけ試しても結果は同じ。もしかしたら抜けられる場所があるのかもしれないが、見つけられていないと言う。

 

 

「こんな事は初めてです。何が起こっているのか、私なりにそれを考えてみました」

 

 

こんな事ができるのは限られている。

候補は簡単に絞れた。

 

 

「まずは魔女でしょう」

 

 

魔法少女の成れの果てであり、同時に魔法少女達が倒すべき存在である。

魔女が作り出す異常な力であれば自分達を見滝原に閉じ込める事ができるかもしれない。

しかしソレにしては魔女の行動が遅すぎるとルカは言う。

魔女の目的は何だ? 閉じ込めただけでアクションは起こしてこないじゃないか。

 

 

「閉じ込められ続ければ、魔女を倒せなくなってグリーフシードの奪い合いが始まるわ」

 

「それも考えました。しかしそうなるとおかしいのです」

 

 

最近見滝原に魔女が多くなってきている感覚を覚えるとルカは言った。

まるで見滝原に集められる様に。

 

 

「魔法少女の能力と言う可能性は?」

 

「あるでしょうね。ですので、こうやって尾行を」

 

「そう、なるほど」

 

 

口にはしなかったが、ルカの目が光っている。

おそらくほむらが犯人なのかどうかを探っているのだろう。

 

 

「いずれにせよ面倒な事には変わらないわね」

 

「同感です。いずれにせよ近い内に何らかのアクションはあるでしょう。その時、協力し合える関係である事を望むだけです」

 

 

ルカはそれだけ言って伝票を片手に席を立った。

ほむらはため息をついて外を見る。ああ、寒そうだ。どうしてこの季節なんだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

翌日、少し迷ったが、ほむらはマミとさやかに全てを打ち明ける事にした。

自分が魔法少女だと言う事。見滝原から出られないことを全てだ。

 

 

「まあ、そうだったの……!」

 

「えっ! じゃあまどかに会いに行けないじゃん!!」

 

 

二人とも最初は驚いていたようだが――

 

 

「でも暁美さんが仲間になってくれるなら心強いわ」

 

「うおっし! じゃあ皆で解決しちゃいましょ!」

 

 

プラス思考な二人だ。

ほむらはすぐに仲間として認められ、早速異変を調査する事に。

とりあえず抜け道が無いかを探ってみるが、ルカの言うとおり何をしても無駄だった。

この季節、あまり長時間の行動は魔力を浪費してしまう。

結局三人は何も分からずに別れる事になった。

 

 

「グリーフシードは騎士が居れば何とかなりそうだけど」

 

「?」

 

 

別れ際、聞きなれない単語が。

 

 

「騎士?」

 

 

ほむらはマミへ情報を求める。

すると二人は目を丸くしてほむらを見るではないか。

まるで知らない事がおかしいと言う様に。

 

 

「あら。暁美さんはまだパートナーと出会ってないのね」

 

「パートナー……?」

 

「騎士、それは魔法少女を守護する存在!」

 

 

さやかが芝居掛かった口調で説明を行う。

パートナーと契約を結んでいれば、使い魔や魔女を倒すだけでソウルジェム穢れが祓われ、かつ双方の力が上がるという。

 

 

「ほら、ココ紋章があるでしょ?」

 

 

マミが手の甲をほむらに見せる。するとそこに確かにあった、牛の様な紋章が。

さやかはマントに鳥の様な紋章が見みえた。それこそが騎士の紋章なのだと。

 

 

「……っ?」

 

 

ほむらは思わず頭を抑えた。

混乱が酷い。思わず表情を歪ませた。

騎士? パートナー? 何を言っている? 何が起こっている?

しかしマミ達は当たり前の様に話しているじゃないか。

かつてない疎外感を感じ、ほむらはただ押し黙るしかなかった。

 

 

「とにかく今日は帰りましょう。冷えてない? 二人とも」

 

 

確かに今日は風が強いため、昨日よりも冷える。

 

 

「うん、大丈夫だよマミさん。ほむらは?」

 

「ええ、少し」

 

「じゃあコレどうぞ」

 

 

マミが自分のマフラーをほむらの首へ巻いてあげた。

戸惑うほむらに、マミは笑顔を返す。

 

 

「気にしないで? 友達へのプレゼントなんだから」

 

 

そう言って笑うマミ。ほむらは思わず目を逸らしてしまった。

 

 

「暖かい?」

 

「え、ええ……」

 

「ふっふー、嬉しそうだぞ転校生~!」

 

 

やっぱり彼女達は苦手だ。

ほむらは笑みを浮かべようとしたが、できなかった。

マフラーからは良い匂いがする。それがほむらにとっては気持ち悪かった。

 

 

「あ、そうだ。二人とも夜はあまり出歩かない方がいいわ」

 

「え? どして」

 

「んもう、ニュース見てないの美樹さん。最近見滝原で殺人事件が連続してるのよ?」

 

 

切り裂きジャックと呼ばれる事件。

街中で特定の人物が体をズタズタにされて死亡しているのが見つかっている。

殺されたのは今のところ評判が悪い乱暴な者だったり、過去に犯罪履歴があったものだったりと共通点は見つかっているが、いつ一般の人を襲うか分からない。

 

 

「私達なら大丈夫だとは思うけれど……、一応ね」

 

「ん、そだね。気をつけるよ」

 

「ええ」

 

 

そうやって一旦別れた三人。

マミとさやかは、その足でパートナーの所へ向かった。

マミが向かったのは街の中にある大きな法律事務所だ。看板には『北岡』という文字が見えた。

どうやらマミのパートナーは弁護士らしい。秘書はマミを見ると迷わず事務所へ招き入れる。

 

 

「これは珍しいお客様だ。どうして事務所に?」

 

 

北岡秀一はソファに座っていた。

スーパー弁護士と呼ばれるちょっとした有名人だ。マミのパートナーではあるが、正直マミは北岡が苦手だった。

というのも北岡は優秀ではあるが、金を払えばなんでもどんな事件でも無罪にするとは有名な話だ。

 

最近で言えば、連続猟奇殺人鬼、浅倉威を無罪にした記憶は新しい。

精神障害を理由に無罪を勝ち取った浅倉は、その後すぐに捕まった。

コンビニに立ち寄った浅倉は、ナイフで店員と客を全て殺害すると、全員の腹部を切り裂いて臓物を全て引きずり出したのだ。

 

さらにそれだけでは飽き足らず、浅倉は道を歩いていた一般人を無差別に5人殺すと、近くにあった交番へ進入。警官を殺害して拳銃を奪うと、近くの保育園へ向かった。

 

連絡を受けた機動隊や警察が駆けつけると、中にいた全ての職員と園児達は腹部を切り裂かれ死亡しており、浅倉は血のプールにて発見された。

その後取り押さえようとした機動隊二名を射殺。

既に死刑が廃止されている為に、現在は終身刑として服役中である。

 

北岡が浅倉を無罪にしなければこんな事件は起きなかったのだ。

マミはもちろん、世間も北岡を強く非難した。

けれども本人に気にする様子はなく、今もどこか飄々としている。

こうなっては仕方ない。マミは割り切って、現状を説明することに。

 

 

「実は、見滝原から出られないんです」

 

「?」

 

 

北岡は暖炉が好きだった。

パチパチと音をたてて燃える火を見ながら、マミの話を聞いていた。

 

 

「おそらく騎士達も見滝原からは出られないかと」

 

「なんてこった。これじゃあせっかく金になる話が来ても足を運べないない」

 

「……私は、友達と異変を調査してみます」

 

「了解。じゃあ何か分かったら連絡頂戴よ」

 

 

あまり興味がなさそうな北岡。

マミとしては少し寂しい物を感じるが、そういう人物である事は知っている。

一言二言だけ会話を交わすと事務所を後にした。

北岡もマミの見送りはせず、相変わらず椅子に座って暖炉を見つめるだけだ。

 

 

「ごめん」

 

「はい」

 

「少し寒いから温度上げてよ」

 

 

了解する秘書。

彼女はエアコンを操作する為にリモコンを手にする。

 

 

(おかしいな? 暖炉は薪をくべるものではないのか……?)

 

 

ああ、そうか。今はエアコンだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ恭介、大変なんだよ! 見滝原からあたし達出られなくなったんだ」

 

「え……! ほ、本当かい?」

 

 

美樹さやかのパートナーである上条恭介は、さやかの幼馴染だった。

家がそれほど離れていない為、さやかは彼の家で遅くまで過ごしていたりするものだ。

それにさやかは上条に淡い想いを抱いている。尤も上条がそれに気づく様子は無いが、さやかとしてはパートナーになれただけで幸せだった。

 

上条は騎士の中でも特殊なデッキを持っている。

力のデッキ。全部で12個あると言われているデッキの中で二つだけしかないアタリの一つだ。

齎されるオーディンの鎧はとても強力で、どんな魔女にだって勝てるだろう。

勝てる、だろうが――。

 

 

「だから恭介も一緒に、良かったら――! その!」

 

「………」

 

 

上条は困ったように目を逸らした。

 

 

「ごめん、僕……、もうすぐコンクールがあって」

 

「あ、あはは! そだね。そりゃ仕方ない仕方ない!」

 

 

上条のヴァイオリンの腕前は天才的だった。

故に今、多くの音楽業界から注目されている。

 

 

「この前の雑誌のインタビュー見たよ。よく撮れてた!」

 

「……ありがとう」

 

 

上条自身、その期待を裏切る訳にはいかないと思っている。

だからこそ戦いには随分と消極的だった。

もしも腕を怪我してしまえば全ては終わりだ。両親を、世間を裏切ることになる。

 

 

「でも見滝原から出られないと色々不便だよね、会場が風見野だったらとか」

 

「う、うん。だから何とかしてくれないかな? さやか達が」

 

「オッケー! さやかちゃんにバッチリ任せてよ!」

 

 

二人の会話にはどこか少し壁があった。

さやかは上条に優しくすれば自分に好意が返ってくると信じているのだろう。

恋する少女に苦労は付き物なのかもしれない。

 

 

「――ッ!!」

 

 

その時、二人の頭に耳鳴りが走る。

この感覚は間違いない、魔女だ。

 

 

「いかなくちゃ……!」

 

 

魔女は絶望を振りまき、世界を黒く染め上げようと企んでいる。

魔女を倒す事ができるのは魔法少女と騎士くらいだ。しかし上条はどうやら乗り気では無いらしい、申し訳なさそうに視線を泳がせてモゴモゴと口を開く。

 

 

「僕は……、ほら、もしも魔女と戦って指を怪我したらヴァイオリンを弾けないから」

 

「うん?」

 

「だから、その、さやか一人で行って来てよ」

 

「う、うん」

 

 

さやかは何も言わなかった。

本音を言えば一緒に来て欲しい、守って欲しい。

もちろん上条を守りたいとも思うが、要はパートナーとして助け合いたかった。

 

しかし上条には多くの期待が掛かっている。

それはさやかだって分かっているからこそ、何も言わなかった。

 

 

「じゃあ行ってくるね」

 

「うん……」

 

 

上条は目を合わせてくれなかった。

やっぱり一緒に来て欲しいと思うのは贅沢な事なんだろうか?

さやかはザワつく心を抑え、魔法少女の姿に変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれね!」

 

「うん、気をつけてねマミさん! 転校生!!」

 

「ええ」

 

 

幸い、さやかが助けを求めるとマミとほむらはすぐに駆けつけてくれた。

三人の視線の先には可愛らしいぬいぐるみが。しかしアレこそが絶望の具現化、魔女なのだ。

 

 

『♪』

 

 

お菓子の魔女シャルロッテは大好物のチーズを抱えて嬉しそうにスキップをしている。

一見すれば無害そうに見えるファンシーな姿だが、このまま放置しておけば多くの人を絶望させ死に至らしめるのだろう。

 

 

「ほっ! よっ!!」

 

 

さやかがマントを翻すと無数のサーベルが出現。

それをすぐに投擲してシャルロッテの周りに突き立てていく。

 

 

『!?』

 

 

サーベルは檻のように魔女を閉じ込めた。

降り立つマミと、さらにその背後には緑色の騎士の姿もあった。

北岡が変身するゾルダだ。ほむらとしては初めてみる姿に、思わず釘付けになってしまう。

 

 

「やれやれ、女の子を傷つけるのは趣味じゃないんだけどな」『ファイナルベント』

 

「仕方ないわ北岡さん。一気に決めましょう!」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

ゾルダが持っていたマグナバイザーと言う銃にカードをセットすると、目の前に巨大な牛のモンスター、マグナギガが現れる。

ゾルダは銃をマグナギガの背中へとセットする。するとマグナギガの体が展開していき、次々とガトリングやミサイルランチャーの砲台が姿を見せていった。

 

同時にマミもまたゾルダの背中に手を重ねる。

するとマグナギガの色が、緑から白と黄色を基調としたものに変わり、周りには無数の砲台が出現していく。

 

 

「インフィニータ・ラグナロク!!」

 

 

マミが叫ぶと同時に全ての砲台から弾丸が発射。

マグナギガを中心として、超火力による一掃が始まった。

閉じ込められたシャルロッテへ降り注ぐ無限の弾丸。小さな体は無抵抗に焼き尽され、撃ち抜かれ、破壊されていく。

 

その内にシャルロッテの特殊能力が発動。

小さな姿から、黒い恵方巻きのような化け物が姿を見せた。

 

 

「無駄よ!!」

 

 

巻き寿司の様なシャルロッテは、攻撃を受けても脱皮を繰り返すことによりダメージをある程度無効化できる。

しかし降り注ぐ弾丸は脱皮再生スピードを遥かに超越しており、あっという間に彼女を焼き尽した。

 

 

「………ッ」

 

 

広がる爆炎を見て、ほむらは言葉を失った。

これが騎士の力なのか。これがパートナーシステムの恩恵なのか。

マミとは『ループ』の中で対立した事もあったが、今回ばかりはゴメンしたい。

 

もしもあんなものを閉鎖空間で撃たれたら、いくら時間を止めたとしても逃げ場がなくて黒こげだ。いや待て、巴マミだけではなく、美樹さやかも同じほどの力を持っているのかもしれない。

警戒は必須である。しかしどうだろう? 発動前に潰せれば――……。

 

 

「………」

 

 

ほむらはハッとしたように目を開く。

よくないクセだ。敵対を前提に考えてしまうのは。

 

 

「あ、マミさんグリーフシード落としたよ」

 

「ええ」

 

 

魔女が落とす最大の見返り。それが魔法少女の魔力を回復させるグリーフシードだ。

マミは地面に落ちたソレを拾おうと足を進めた。

 

だがその時だ、なにやら騒がしい声が聞こえる。

其方の方向を睨むマミとさやか。どうやら魔女の気配を感じて駆けつけて来た者達がいるらしい。

 

 

「あちゃー、もう終わっちゃった感じか?」

 

「あーあ、だから早く行こうっていったんだよオレは」

 

「うるせーな! まだ飯の途中だったじゃんさ!!」

 

 

現れた人物は四人。ほむらにとって知っている人物は二人だった。

一人は赤いポニーテールの少女、佐倉杏子。

そして彼女の背中に隠れる様にしがみ付いている千歳ゆまだ。

 

もう二人の男は知らない。

話しの流れからして彼女達のパートナーなのだろう。

つまり騎士と言うイレギュラー。

 

 

「あら、何をしにきたの?」

 

 

マミの眼光が鋭くなる。

どうやら彼女達は上手くいっていない様だ。

杏子もマミを見つけると、複雑そうに表情を歪めて舌打ちを一つ。

さやかも睨んでいると言う事は、対立関係にある様だ。

 

 

「何しにって……、見滝原から出られねーんだ。グリーフシードを確保するには縄張りなんて関係ないだろうが」

 

「ハイエナみたいね佐倉さん。お行儀が悪いんじゃなくって?」

 

「んだと……ッ!」

 

 

マミの挑発的な態度に杏子も敵意をむき出しにする。

その隙に素早くグリーフシードを拾い上げるさやか。

アッと表情を変えるゆまを嘲笑して、さやかはマミ達の所へ舞い戻った。

 

 

「これはマミさんの物。アンタらにやる物なんか無いんだから、さっさと消えなよ」

 

「ゆま……、さやか嫌い」

 

「はっ! あたしもアンタみたいなクソガキは大ッ嫌い」

 

 

ピリピリとした空気が流れる。

ゾルダはそれを楽しそうに観察しているだけで、止めようとはしなかった。

ほむらとしては頭痛がする展開だ。やはり力を持つ物同士が集まると対立はつきものなのか。

 

 

「まーまー、こんな喧嘩してもしょうがないでしょ?」

 

「そうだよ、こんな事……、おかしいんじゃないかな?」

 

 

何とか場を丸く治めようとしているのは、杏子のパートナーである佐野満だ。

そしてゆまのパートナーである東條悟も同じように声をかけている。

 

 

「あの人たちは?」

 

「あぁ」

 

 

ほむらはゾルダに小声で話しかける。

なんでも、杏子達はいつもあの四人で行動しているらしい。

過去の関係でマミ達とは対立関係にあるらしいが、ゾルダも詳しくは知らないと言う。

今もほら、マミと杏子は睨みあいだ。どう収束するのか。ほむらでさえ分からなくなった頃――

 

 

『やあみんな、聞こえているかい?』

 

 

全ての始まりは告げられる。

 

 

『今、ボクの声は12人の魔法少女、そして12人騎士に共通して送られているよ』

 

 

頭に響くキュゥべえの声。

何か、重大な『お知らせ』があるらしい。それは世界を左右する事でもあると。

 

 

『魔法少女と騎士が見滝原から出られないのは、もう知っている人もいる筈だ』

 

「!」

 

 

キュゥべえも知っていた?

いや違う、正しくは――

 

 

『あれは、ボクらが行ったんだ』

 

「な、なんだと!? どういう事さ!」

 

 

杏子はすぐに詳細を求めるが、どうやらコチラからの声はキュゥべえには聞こえていないらしい。

もしくは無視をしているのか。とにかくキュゥべえは杏子の言葉をスルーして、自らの言葉を続けた。

 

 

『何のために? そう思う人はいるだろう。だから今から趣旨を説明するよ』

 

「ッ?」

 

『今からキミ達には、あるゲームをしてもらう』

 

 

その言葉にザワつき始める一同。ゲーム? 何を言っているんだ彼は。

ほむらは次々と迫る違和感に焦りを覚えざるを得なかった。

明らかにキュゥべえの干渉具合がおかしい。今までゲームなんて持ちかけた事など無かったのに。

 

 

『ルールは簡単だ。今、見滝原には12人の魔法少女がいるけど、その中でボクが一人を指定する』

 

「……ッッ」

 

 

見滝原の魔法少女は12人。

その中にまどかがいない事を望むだけだ。

などと――、ほむらはどこかに余裕を持っていたのかもしれない。

 

どんな事をしてでも守ると誓った。

しかしそれは、ほむらが『守れる力』を持ち、守れる『立場』にあったからではないだろうか。

守護者が狩られる立場へと回ったとき、同じ事を言えるのか?

 

 

『残りの参加者は、指定された魔法少女を"殺して"欲しい』

 

「………」

 

 

は?

マミが間抜けな声をあげる。

 

 

『つまりこういう事さ――』

 

 

指定された魔法少女を、他の参加者はどんな手を使ってでもいいから"殺す"。

時間は今日を含めた一週間。もしも七日以内に指定者を殺せたなら、殺害を行ったペアは願いを一つ叶えられる。

そしてもしも、指定された魔法少女が一週間を逃げ切る事ができたなら。

 

 

『彼女と、そのパートナー以外の人間を全て一度滅ぼす』

 

「なっ!!」

 

『そして生き残った彼女へ、神の力を授けよう』

 

 

滅んだ世界を再生させるのは神となった魔法少女だ。

好きな人間を蘇らせ、好きな施設を、好きな歴史を築くといい。

そう、キュゥべえは当たり前の様に言い。それが当然の事だと言う風に言葉を続けていた。

 

 

『世界は終わりを迎えるが、それは終焉ではなく始まりと言う名の救済さ』

 

 

人は個に異常な執着を見せる事があるけれど、ボクはそうは思わない。

世界は常にあるべき姿へと更新を繰り返すものではないかな?

君たちの存在は尊く、そして悲しいほどに軽い。

 

 

『概念は人を超越し、それは神の力として具現する』

 

 

勝ち残った者は神の力を得る。

そしてその資格を持った者を殺す事で、神の力を端的に奪う事ができる。

 

 

『ボクはこれをゲームと言ったけれど、キミ達が想像する遊戯的な要素ではなく、儀式的な要素を盛り込んでいるんだ』

 

 

世界が新しいステージに進むための儀式。

 

 

『いわば、これは神のゲームだよ』

 

 

都合のいい偶然。つまり奇跡を無償で呼び寄せる事ができるのだから。

 

 

『キミ達は絶望という名の存在を代償として――、願いを叶えた』

 

 

次は何も代償を払わず。世界を創り返る事もできる。

 

 

『それは君たちにとって、悪くない話しの筈だけど?』

 

「ふ、ふざけんじゃねーぞ!!」

 

 

杏子は吼えるが、ソレには何の意味も無い。キュゥべえはさっそく指定に入ると言う。

魔法少女達に走る戦慄、そして緊張。もしも自分が選ばれたらどうなる?

マミは顔を青ざめ、さやかは汗を浮かべて震えている。

杏子はゆまの手を強く握り締めて安心させているようだが、彼女自身だって選ばれたくないと思っている筈だ。

 

 

『暁美ほむら』

 

「――ッ」

 

 

心臓が止まるかと思った。

いや、正確に言えば止まっているとも言えるが。

ほむらは一瞬、何が起こったのか理解できないでいた。

周りの視線が一勢に自分に集中する事の意味も分からない。

 

 

『指定者は暁美ほむらと言う魔法少女だ。他の魔法少女と騎士は、一週間以内に彼女を殺して欲しい』

 

 

もしもできないのなら世界は滅び。

その後神の資格を持った暁美ほむらが全てを決めるだろう。

ほむらが望む世界に君達がいるのなら、再構築で蘇ると言う事もできるだろう。

 

 

『しかし再構築で蘇生された場合は、君たちの記憶はゼロとなる。このゲームに関する記憶も、今まで生活してきた記憶も全て消え去るだろう』

 

 

文字通り全てをリセットする事になる。

もしもこの時間軸に守りたい記憶が。思い出が。人物がいるのならば。

 

 

『ボクは、暁美ほむらを殺した方が懸命な判断だと思うよ』

 

「……ッ」

 

『願いも叶えられるしね』

 

 

そうか、そうなのね。

どこまでも運命って奴は腐っているのね。ほむらは歯を食いしばって虚空を睨む。

 

 

『リセットされた後の世界で、今と同じ関係を築けるとは限らない。ましてや地位もそうだ』

 

 

場にはキュゥべえの声だけが響いていた。

ほむらを殺せば今の生活を守れる。

その重さを理解している者が既にチラホラと。

 

 

『さあ、じゃあ始めようか。神のゲームを』

 

 

WANTEDの文字と共に警告音が流れ、暁美ほむらの全体像と顔のアップが映像として空に浮かび上がる。

 

 

『一週間以内に彼女を殺せ』

 

 

これはゲーム参加者のみが確認できる映像だ。

空に大きく浮かぶ自分の顔を見て、ほむらは何を思うのか。

 

 

『FOOLS,GAMEの開始を宣言するよ。参加者の皆は、願いを叶える為に潰しあってね!』

 

 

それだけを言い残してキュゥべえは通信を切る。

随分とアッサリしたものだが、今から暁美ほむらを殺す唯一のゲームが始まったのだ。

誰もが沈黙していた。何も言わず、何を思っているのかも分からず。

 

 

「な、何かの間違いよ!」

 

 

かろうじて声を放つのはマミだった。彼女はいつだって一番幸せな世界を望む。

目の前の悲劇から目を反らし、優しい未来だけを望む。

マミはこの一連の出来事をキュゥべえの悪戯だと決めつけ、今日はほむらを家に帰す事を決めた。

 

 

「あ、明日はキュゥべえにお仕置きしなくちゃね!」

 

「………」

 

 

苦しすぎる。誰もが思っていただろう、おそらくマミでさえも。

しかしこの場にほむらを残すのはあまりにも危険と理解している為に、マミがとる行動はほむらを一時的に避難させる事以外に無かった。

 

 

「あ、暁美さんは……、世界を元に戻してくれるわよね?」

 

「え、ええ」

 

「そ、そう。それはよかった。ふふふ……」

 

 

マミはそう言って、ほむらを家に帰す。

ほむらとしても頭が真っ白になっていて、マミの言葉に従うしかなかった。

誰もが沈黙してほむらを見送るしかない。そうやって背中が見えなくなった時、杏子が口を開いた。

 

 

「お、おいマミ! こりゃ争ってる場合じゃねーぞ……!」

 

「そ、そうね。確かにそうだわ」

 

 

青ざめる杏子。マミも何度も頷いていた。機械のように、ただ自分の混乱を紛らわせる為に。

 

 

「キュゥべえのクソは何を考えてんだ……!」

 

「そ、そうよ。私達を助けてくれてたのにッ」

 

 

しかし、わざわざ見滝原から出られなくする辺りに本気を感じる。

そもそもキュゥべえは自分達の願いを叶える事ができた。

どんな叶えられる。ならば世界を滅ぼす事など。インキュベーター達にとっては簡単な事などではないか?

 

 

「だ、だけど暁美さんを殺すなんて私にはできない!」

 

「そりゃ――ッ、でも!」

 

「彼女はきっと私達を戻してくれる。暁美さんは良い人よ……」

 

 

マミは俯いて小さく言う。しかし――

 

 

「そんな事、分かんの? マミさんは」

 

「え?」

 

 

マミが振り向くと、辛そうな表情を浮かべているさやかが見えた。

確かに、さやかとて意味不明なゲームに振り回されて、ほむらと言う人間を殺す事を認めたくは無い。

だが何故ほむらが選ばれたのか?

 

 

「転校生は本当に良い人なのかなってさ」

 

「そ、それはどういう?」

 

「確かに、あたしだって転校生と仲良くしたいよ? でもそれこそ会って三日も経ってない人を本当に信用できるの?」

 

 

さやかは、ほむらが悪の魔法少女である可能性を指摘した。

だからこそキュゥべえは世界の平和を守るために、ほむらを排除するルールを設けたのではないか?

 

加えてさやかには今の日常を壊したくないと言う思いがあった。

もしも再構築となれば、パートナーシステムや魔法少女のシステムが変更される可能性がある。

そうなると上条と近い位置にいる関係が崩れる可能性があった。確かに今の関係だって完璧に望む物ではない。

しかし今よりも彼と離れてしまうのは、やはりさやかにとっては辛いものがあったのだ。

 

 

「残念だけど、暁美ほむらを殺す可能性も考えるべきだと思う」

 

 

ましてやそう、ほむらがさやか達を蘇生させない可能性だってあるのだから。

 

 

「な! 何を言ってるの美樹さん……!!」

 

「そ、そうだぜさやか!」

 

 

混乱する一同。しかし、さやかは冷静だった。

 

 

「仮に転校生を殺したとしても、願いで蘇生させればいいだけでしょ」

 

 

そうすれば世界の崩壊を防ぐ事ができるだけでなく、暁美ほむらと言う人間も失う事は無い。

 

 

「全てがうまくいく」

 

「そ、そうね……! そうすればいいのよ! 美樹さん賢い! 暁美さんを殺しましょう!!」

 

「なッ!」

 

 

杏子は信じられないと言った表情でマミを睨む。

たった一度だけ与えられると言う命。だからこそ大切にしなければならないのでは?

さやか達の言葉は簡単にほむらを殺し、そして簡単に蘇生させようと言うものだ。

杏子はそれがどうしても頭に来た。

 

 

「命を何だと思ってるんだ! 見損なったよ、マミっ!」

 

「!!」

 

 

杏子の言葉がショックだったのか、マミはわなわなと唇を震わせて涙を浮かべる。

 

 

「だ、だって他に方法が無いじゃない! 暁美さんを殺さなければ世界は滅ぶのよ!?」

 

 

仮にほむらが全てを元に戻したとしても、それは人と言う存在が戻るだけで自分達は今までの記憶を全て失う。それはつまり『死』と同じ意味ではないのか?

今までの記憶がなくなり、新しい自分になる。

だったら今までの自分達はどうなると言うのか。

 

 

「それは……ッ、死と同じだわ!」

 

「そりゃあッ! だけど、だからってアイツを殺して、はい復活! ってのもおかしいだろ!?」

 

「だったらアンタは何か良い手があるっての!?」

 

 

さやかのイライラが爆発する。

杏子は綺麗事をほざいている様だが、明確な考えがあるとは思えない。

 

 

「どう考えてもほむらを殺して蘇生させる方がいいに決まっている!」

 

「そう、うまく行くのかねぇ?」

 

「えっ?」

 

 

変身を解いていた北岡が言う。

未だに怯んで喋れない佐野や東條とは違い、北岡は既に状況を把握していた。

さやかの考えはちょっと考えれば簡単に思いつく。現に北岡だって一瞬は同じ事を考えた。

しかし、そこにキュゥべえが気づかないと思うのか? となれば――

 

 

『ああそうだ、このゲームにはいくつかのルールがあってね』

 

「そらきた」

 

 

キュゥべえの声がして、北岡はニヤリと笑った。

いくら儀式的な要素がメインとはいえ、形式上はゲームだ。

そしてゲームにはルールがあるのが当然の事だろ? と言う事で、キュゥべえは一つ目のルールを宣言する。

 

 

【願いで暁美ほむらを蘇らせる事はできない】

 

 

唯一の抜け道をまずは潰してきたと言った所だろう。

キュゥべえは最後に彼女に殺される未来を持ち出した。

 

 

『再構築とはつまり転生とも言える。そして記憶が失われると言う事は当然転生は死と同意義ともいえるだろう』

 

 

転生後の人生は暁美ほむらが操作しない限り、今と同じくどう転ぶか分からない。

今よりも不幸になる可能性はあるし、今よりも幸せになる可能性だってある。

 

 

『その辺り、よく考えて欲しいね』

 

 

そういって通信は終了した。

転生などと言うオブラートを使用しているが、つまり暁美ほむらを殺さなければ自分達ごと世界は終わると言う事だ。

再構築された自分は、もはや自分じゃない。

 

 

「……殺すしかない」

 

 

暁美ほむらには悪いけど。そう言ってさやかは拳を握り締める。

目に映るのは明確な殺意、暁美ほむらを殺して世界を救う。

自分の守るべきもの、守るべき人、守るべき世界。

 

 

「本気かよ……! さやか」

 

「むしろ、殺さない意味が分からない」

 

 

さやかは冷たい目で杏子を睨む。

 

 

「あたしだって何も殺したくて殺す訳じゃない」

 

 

でも殺すしかない。殺したくないなんて綺麗事でしかない。

もしくは守りたいものが無いと、この世に絶望している奴だけだ。

さやかは上条との関係を壊したくない。マミやまどか、仁美といる時間を無駄にしたくはない。

 

 

「あたしが魔法少女になった事を、否定したくない!」

 

「!!」

 

「あたし、殺せるよ」

 

 

気の毒だとは思うが、自分にだって貫かなければならない意志がある。

 

 

「ごちゃごちゃ言ってるけど、理由なんてどうでもいいだろ」

 

 

北岡はからかうように笑った。どの道、選択肢は二つしかない。

暁美ほむらを殺して今まで通りの生活を続けるか。

それとも暁美ほむらの見逃して記憶ごと消し飛ぶか。

それは死と同じだ。次の世界で再構築された自分は自分であり自分じゃない。

 

 

「あなたは……、どうするの?」

 

 

ゆまの言葉に北岡は鼻を鳴らす。

 

 

「自分で言うのもなんだが、俺は全てを持ってる。美、才、智、力、俺は完璧だ。故に次の世界でも完璧な存在となるだろうさ」

 

「……つまり、キミは世界を見殺しにするって事なのかな?」

 

 

東條の言葉に北岡は手を上げるだけで何も答えなかった。

しかし隣にいるパートナーは大きく揺れている様だ。

マミには確証こそ無いが、胸に秘める思いがあった。それは次の転生における自分は、きっと似たような人生を送る筈だ。

もちろんそれはマミだけの考えだ、しかし彼女にはそれが嫌にリアルに思えた。

 

 

「マミさんだって、守りたいもの……、あるよね」

 

 

さやかの言葉が拍車をかける。

マミは大きな交通事故を起こして、生死の境をさ迷った事があった。

その時にキュゥべえに契約を持ちかけられたのだ。

 

マミは自分の『命』を願うしかなかった。それが魔法少女になった理由である。

だが他にも奇跡は起こる。なんとマミの両親は奇跡的に助かり、一命を取り留めたのである。

不幸にも相手側の車に乗っていた家族は一人を除いて死亡したが、マミの家族は全員無事だった。

 

 

「私は独りぼっちなんて嫌……!!」

 

 

次に生まれ変わったら、また事故にあって家族を全員失うかもしれない。

もちろんこれはマミの妄想だが、本当に起こる気がしていた。

だからこれほどまでに焦り、怯えるのだ。

 

 

「嫌なの――ッッ!!」

 

 

次に生まれ変わったら、誰とも友達になれないかもしれない。

襲い掛かる孤独の概念はマミを蝕み、恐怖のどん底へと叩き落す。

それを回避するには今の生活を守るしかない。

それくらいマミにだって理解できていた事だ。

 

 

「守らなきゃ……! せ、せっかく助かったんだもの! 奇跡が起こったんだもの!」

 

 

マミは家族と一緒にいられるこの時間を守りたい。

たとえそれが暁美ほむらと言う人間の犠牲の上になりたつ幸福であろうとも、マミはそれを望むだろう。

 

 

「そして私の家族は不幸と言う奇跡によって死んだ」

 

「!」

 

 

声がした。そして落雷が二つ街灯の上に落ちる。

するとそこに人影が浮かび上がって来た。腕を組んで、マミ達を見下す様に現れた魔法少女と騎士。

 

マミはそれを確認するとハッと息を呑む。

さやかもマミを庇う様に立ち、現れた魔法少女を睨みつけた。

 

 

「浅海……、サキ――ッッ!!」

 

 

モノクルをつけたベレー帽の魔法少女、浅海サキ。

彼女の乗っていた車がマミの乗っていた車と事故を起こしたのだ。

マミの家族は全員助かり、サキの家族はサキを残してみんな死んだ。

 

それからと言うもの、サキはマミ達を恨み、敵視している。

サキのパートナーは霧島美穂と言う女性だ。ファムと言う騎士の力を手に入れ、奇しくもマミのパートナーである北岡を恨んでいる。

 

 

「私は暁美ほむらを殺す事に決めた。むろん、キミたちより早く」

 

 

サキの言葉に迷いは無かった。

ほむらを殺した者は願いを一つ叶えられるという。

サキ達はそれを使って、失った家族を蘇らせるつもりなのだ。

 

 

「ちょちょちょ! あのさぁ、おたくらコレが罠だって考えは無いの!?」

 

 

佐野はこのゲームがインキュベーターの仕掛けた罠である可能性を強く示した。

ほむらを殺す事イコールキュゥべえにとって邪魔な者を排除する為であり、ほむらを失うととんでもない事になるとか。

別に暁美ほむらを殺すこと自体は仕方ないと思えるが、どうにも佐野には裏があるような気がしてならなかったのだ。

 

 

「それは逆も言える事よ」

 

 

ファムが言う。

ほむらが勝ち残る事によりファム達を排除、以後はキュゥべえ達はほむらを都合の良い人形。

つまり傀儡とする事で、世界をインキュベーター達にとって都合の良い形に作りかえるつもりなのかもしれない。

 

 

「結局、罠などと言い出せば話しは終わらない」

 

「ええ。でもタイムリミットは確実に迫ってる。迷うのはほむらを殺した後でも悪くない筈よ」

 

「いや――ッ、でも……!」

 

 

まだ佐野は渋っている。

それを見てファムは大きなため息を漏らした。

 

 

「あなたバカ? 一体、何のために騎士になったの?」

 

「ッ!」

 

「人一人殺すくらいの覚悟があったから騎士になったんでしょ?」

 

 

美穂たちは騎士になる際、ジュゥべえから『どんな願いも』叶えられるチャンスがくるかもしれないと伝えられていた。

力を与えられ、かつ願いも叶えられる。

そしてそのチャンスが今やってきたのだ!

 

 

「あの娘を殺すだけで願いが叶うのよ? 答えなんて、最初から一つじゃない」

 

「ぐ……!」

 

 

事実。佐野にも叶えたい願いはあった。

それが再構築後の世界で叶えられるのかといわれれば微妙だ。

今その願いを叶えたい、次の世界なんて自分の世界じゃない。そうだ、それは美穂や佐野だけじゃない。騎士全員に言える事だ。

 

 

「私は暁美ほむらを殺し。そして巴マミ、貴様に復讐してやる!」

 

 

もちろんそれは魔法少女も同じだ。

サキは鞭をマミに向け、激しい憎悪をむき出しにする。

 

 

「!!」

 

「北岡秀一、浅倉と共に地獄に送ってあげるわ」

 

「おーおー、ヒステリーな女は嫌いだよ」

 

 

霧島美穂の両親と姉は、旅行中に浅倉の手によって惨殺された。

それを無罪にした北岡は、美穂にとっては同じくらい憎むべき相手なのだ。

サキとファムは宣戦布告とも言えるメッセージを残して一同の前から姿を消す。

残されたマミ達は途方も無い虚無感を抱え、凍える風に身を任せるしかないのだ。

 

 

「ちくしょう……ッ!」

 

 

本当にこのままでいいのか?

杏子はこみ上げる悔しさを覚え歯を食い縛る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

ほむらは地面を見つめたままトボトボと帰路についていた。

夢を見ている様な感覚だ、地に足がついていないと言うか。

しかし凍えるような風が現実に引き戻す。

 

 

『おーおー、うかねぇ顔してるねぇ』

 

「!」

 

 

気配を感じて視線を移動させると、ジュゥべえとキュゥべえが並んでいた。

ほむらは刺す様な目で二匹を睨みつけると、今にも飛び掛らんとの勢いで詰め寄っていく。

 

 

「何が目的なの?」

 

『疲れたろ。お前だって何度も繰り返すのは』

 

「……ッ」

 

 

歯を食い縛るほむら、何から何まで筒抜けらしい。

 

 

『ボク達は君にとって有益な取引を持ちかけているだけだよ』

 

「なんですって?」

 

『キミがもし勝つ事ができたら、キミは長年の願いを叶える力を手に入れられるんだ。世界を構築する事は、時空や空間の概念をも超越し、文字通り思い描いた世界を手に入れる事ができる』

 

『先輩の言うとおり! それこそ、一番最初の時間に戻る事だってできるんだ』

 

「………」

 

『それはキミにとって何よりの幸福、希望ではないのかな?』

 

 

キュゥべえは赤い目でほむらをジッと見つめている。

そこに感情は無いが、企みは少しだけ感じさせる物があった。

 

 

『オイラ達もお前に好き勝手やられるのは困るんでね。お互いにとって損にはならない筈だ』

 

「コチラの勝率が圧倒的に低い……ッ!」

 

 

ほむらは今すぐ目の前の二匹を撃ち殺してやりたかった。

こんなもの、結局インキュベーターが仕掛けた処刑ショーのようなものではないか。

 

 

『待て待て、勝てば良いだけの話しだろ? 暁美ほむら』

 

「簡単に言わないで!」

 

『一週間逃げ切れば良い、キミの能力なら難しく無いだろう? むしろボクらとしてはキミの強力すぎる能力を考えてのルールなのだけれど』

 

『先輩の言うとおり! このくらいのスリルはあった方がいいんじゃないか? 生きてる実感が湧いてくるだろ?』

 

『人は愚かだ。でもその愚かさの中に、ボク等の知らない強さがある』

 

「ッ」

 

『ボク達は、それを知りたいのかもしれない』

 

 

ほむらは何を言っていいか分からず、ただキュゥべえを見つめるだけだった。

明らかに今までのインキュベーターとは違う『何か』を感じた。

 

 

『キミが何度も懲りずに絶望を味わってきた理由は、ボク達にとっては理解不能な物だ。けれどもそこにキミは執着する理由を見つけ、今回も必死に希望へ手を伸ばそうとする』

 

「………」

 

『常人ならば既に精神に異常をきたしている筈なのに、キミは狂っていないじゃないか』

 

「あなた達には一生理解できないことよ」

 

『なら、いいじゃないか暁美ほむら。これはチャンスだよ』

 

 

チャンス。それを聞いて、確かにとも思ってしまう。

 

 

『キミは、どこかで期待している。そうだろ?』

 

 

全くの図星だった。

ほむらは自分の心を覗かれている様な不快感を感じ、思わず目を反らす。

確かにいつの間にかゲームを信じている自分がいる。勝利のプラン、そして勝利報酬。

その先にある希望を視ている。

 

 

『でも、簡単ではないよ』

 

「どういう事?」

 

『既に戦いは始まっていると言う事さ』

 

「!!」

 

 

気配を感じた。

同時に消え去る二匹の妖精。ほむらが振り返ると、そこにはロングコートの男が一人。

明らかに普通の人間が出す空気では無かった。なんて冷たい目をしているんだろうか?

 

 

「暁美ほむらさん、ですね?」

 

「……ええ」

 

「世界は残酷だ。いくら正義の為とは言え、こんな幼い少女を生贄にするとは」

 

 

男が取り出したのはカードデッキだった。ほむらにはそれに見覚えがある。

先ほどゾルダがカードを取り出していた物。ファムの腰に装備されていた物。

これらが示す意味はただ一つ、目の前の男もまた騎士である。

 

 

「変身」

 

 

男が構えを取り、デッキを腰にあったバックルへと装着する。

すると男の周りに鏡像が出現し男へと収束して、新たな姿を授けた。

これこそが騎士のシステム、人間を遥かに超越した力を授ける仕組みだった。

 

 

「私の名はシザース。暁美さん、申し訳ありませんが――」

 

「!」

 

「世界を守るため、死んでいただきます!」

 

 

走り出すシザース。

やはりこうなってしまうのか、ほむらは想像以上に早い展開へ不安を感じた。

どうやら自分は本格的に殺させれる側になったと言う訳なのだ。

 

 

「申し訳ないけれど、お断りだわ」

 

 

暁美ほむらの力。それは時間を操作する事だった。

盾のギミックが作動すると、ほむらが触れている物以外の時間が停止する。

ほむらはその力を発動し、シザースの動きを完全に封じた。

 

 

「………」

 

 

盾の中は異次元になっており、そこには数多くの武器をしまいこんでいる。

取り出したのはハンドガンだ。魔力で弾丸を強化しており、ほむらはシザースの足に命中する様に一発撃った。

 

これでいい。

ほむらは跳躍でシザースから距離を離すと、踵を返して猛ダッシュ。

ある程度進むと、時間の動きを元に戻す。

 

 

「ここまでくれば――」

 

 

安心だろうと?

 

 

「!?」

 

 

だがその時、周りの景色がぼんやりとした物へ変わる。

何だ? ほむらは不安を感じてすぐに場を離れようと試みた。

しかしなにやら硬い壁の様な物にぶつかって、移動ができない。

 

 

「こ、これは……!」

 

「カニさんの力と私の魔法結界を合わせた物だよ。暁美ぽむら」

 

「!?」

 

 

夜の闇から現れたのは、黒い装束に身を包んだ魔法少女、呉キリカ。

シザースの紋章がある事を見るに、彼のパートナーの様だ。

 

 

「時間を止めるんだってね、キミの魔法」

 

「!」

 

「ジュゥべえ達から聞いたよ」

 

 

キリカだけじゃない。他の参加者にも、ほむらの魔法はバレていると言うことだ。

キュゥべえ達を今すぐ八つ裂きにしてやりたかったが、今はそんな事を言っている場合ではなかった。

 

 

「ん? お? ばみら? ベムラー? なんだっけキミの名前?」

 

 

まあいいや。キリカはほむらを指さすと、ケラケラと笑った。

 

 

「ぽむらちゃんは、どうせ今ココで死んじゃうから無駄なんだよ」『ユニオン』『フリーズベント』

 

「!?」

 

 

何か嫌な予感がする。逃げなければ。そう思ったとき、ほむらは既に幕のような物に囲まれていた。

これは――、そうだ、シャボン玉だ。

大きなシャボン玉がほむらを中心に出現し、一瞬で縮んでいく。

気づけばほむらは球体(あわ)の中に閉じ込められていた。あまりにも早いスピードだったので、時間を止める暇も無かった。

 

 

「こ、これは……!」

 

「ウフ! フフフッ!」

 

「きゃ!」

 

 

キリカは爪を伸ばし、ほむらが封じられたバブルに食い込ませる。

さらにそのまま一気に跳躍。ほむらを掴んだまま超高速でシザースがいた場所に舞い戻ると、乱暴にバブルを投げつけて地面に落とした。

 

 

「うぐッ!」

 

 

衝撃を感じて苦痛の声が漏れる。

すぐにハンドガンでシャボンを攻撃してみるが、ビクともしない。

 

 

「クッ!」

 

 

ならばとナイフを取り出してみるが、結果は同じだった。

ただのバブルとは言え、ありとあらゆる攻撃でも割れないのだ。

 

 

「暁美ぽむら、キミは能力は強いけどスペックは最弱クラスなんだろ?」

 

「!」

 

「そういう噂だよ?」

 

 

キリカはニヤリと笑って、爪を構えた。

ジャキっと言う音がほむらの焦りを加速させる。

まずい、まさかこんなに早く対策を取られるとは思っていなかった。

 

 

「さあ、終わりにしましょうか」

 

「うぃぃぃいー!」

 

 

シザースとキリカは武器を構えて、ほむらに迫る。

 

 

「――ッッ!!」

 

 

まさか死ぬ?

一瞬最悪の考えが過ぎるが――

 

 

「やれやれ、どうやらツイてないのは俺もだったか」

 

「!?」「!!」

 

 

パラパラとカードをめくる音が聞こえて、三人は視線を其方に移した。

 

 

「誰……?」

 

 

キリカの問い掛けに、少年は答えない。相変わらず持っていたタロットカードを手で弄っていた。

ほむらには少年に見覚えがあった。

あれは病院で話しかけられた自称占い師ではないか。

 

 

「申し訳ありませんが、願いを叶えるのは私達です。手出しは無用ですよ」

 

「そーだよー、邪魔するとバラバラだもんぞ!」

 

 

願いを叶えられるのは止めの一撃を入れた者と、そのパートナーのみ。

 

 

「つまり貴方は邪魔なんですよ」

 

「………」

 

 

パラパラとカードを弄っていた少年だが、無言でカードをしまうと代わりにカードデッキを取り出した。警告を無視すると言うことに不快感を示すキリカとシザース。

しかし少年は静かに笑い、焦る素振りは見せない。

 

 

「俺はただの助っ人さ」

 

 

少年の腰にVバックルが装着される。

同時に唇を噛むほむら、また敵が増えるのか。

しかし思えば当然かもしれない。ほむらを殺せば世界を守れるんだ、再構成なんて胡散臭いものを信じる意味がない。

誰もほむらの味方をしようなどと言う物好きはいない筈だった。

 

 

「貴方に手を貸して貰う必要はありませんよ」

 

「いや、何か勘違いしてるなアンタ」

 

「?」

 

 

少年の名前は手塚海之。

背負うのは運命、否定するのもまた運命。

 

 

「俺が守るのは、そっちのお姫様だ」

 

 

手塚はほむらを睨みつける。

 

 

「なにッ!?」

 

「変身」

 

 

デッキをバックルにセットすると、手塚の体が変わった。

赤紫を基調とした鎧に身を包む騎士、ライアだ。すぐにデッキにからカードを抜くと盾形のエビルバイザーへセットしていく。

 

 

『アドベント』

 

 

騎士が使役しているモンスターを召喚するアドベント。

空間がガラスのように割れると、そこからエビルダイバーが飛び出して来た。

 

 

「うわわ!!」

 

「クッ!!」

 

 

猛スピードで飛びまわるエビルダイバー。

ヒレについている強靭なブレードで、ほむらを閉じ込めていたバブルを破壊すると、そのまま背中に乗せて距離を離す。

それだけじゃない。エビルダイバーは腹部から強力な電撃を発射、赤紫の閃光はキリカとシザースを捉えてダメージを与えていった。

 

そこで二人は確信する。

間違いなく、ライアはほむらの味方をしようとしているのだと。

 

 

「馬鹿な! その女を守ると言うんですか!?」

 

「馬鹿だろ! ソイツは危険なんだぞー!!」

 

 

ほむらはエビルダイバーによって、ライアの背後に降ろされる。

ライアに見覚えはない。ましてや手塚も同じだ。

にも関わらず何故助けてくれたのか。ほむらには、意味が分からなかった。

 

 

「あなた……、どうして」

 

「大丈夫だったか?」

 

 

ライアは、ほむらの肩に軽く触れた。

すると魔法少女の服に刻まれるライアの紋章。

そう言えば、マミの話によればパートナーの紋章が魔法少女の衣装に刻まれるとか何とか。

という事はつまり。

 

 

「まあそういう事だ。よろしく頼む」

 

「え、ええ」

 

 

ライアが合図すると、エビルダイバーがほむらを守る様に立ち振る舞う。

一方で構わず突っ込んでくるシザースとキリカ。

キリカの魔法もまた時間操作。対象を減速させる物だった。

 

ライアからすれば、シザースとキリカは猛スピードで迫ってくる筈。

しかしライアは焦る素振りを見せない。デッキから淡々とカードを抜き取り、発動する。

 

 

『タイムベント』

 

「!!」

 

 

キリカ達と同速に変わるライア。

同じく時間を操作するカードによってキリカの魔法を封じたのだろう。

 

 

「パートナーと契約を交わせば魔法の力を使えるとは聞いていたが、成る程な」

 

 

これはいい。ライアは迫るシザースの攻撃を的確に防いでカウンターを仕掛けていく。

専用武器であるエビルウィップと言う鞭を使い、シザースとキリカの二人を相手にしていく。

 

 

「……ッ」

 

 

すごい。思わずほむらは心の中で思う。

それはキリカとシザースも同じらしい。二対一にも関わらずライアの実力は均衡。

いやもしかすると、それ以上とも言えるものではないか。

 

 

「ちくしょー! 何て力だ――ッッ!」

 

「カードの力か……ッ!」

 

「ああ。良いカードがあるんだ」

 

 

ライアは既に一枚のカードを発動していた。

リミッツベント。ライアのスペックが強化されると言う物なのだが、これが日によって強化の具合が違うと来た。

たとえば月曜に使えば脚が早くなったが、火曜に使えば目が良くなるかもしれない。

水曜に使えば防御力と攻撃力があがるかもしれないし、日によってはむしろ弱体化してしまうデメリットもある。

 

要するに博打を含んだ能力なのである。

しかし手塚と言う男は占い師だ。自らの運勢はある程度把握している。

 

 

「今日はギャンブルに強い日なんでね」

 

 

だからこそ今日の強化は抜群だった。リミッツベントの効果はライアの力を全て強化し、二対一を有利にさせるに至ったのだ。

迫る爪を避け、かつシザースの攻撃を受け止めて投げ飛ばす。

普段のライアならば不可能な立ち回りも、今日は余裕である。

 

 

「ちくしょぉおおおお!! お前なんて大ッ嫌いだぁああああああ!!」

 

 

ライアに腰を蹴られて頭にきたのか。

キリカは空に跳び上がると、一気に力を解放させる。

爪の一つ一つ連結させて巨大な鞭の様な物を形成。さらにそれらを円形状に組み合わせる事で、巨大なノコギリを作り上げた。

 

 

「ヴァンパイアファングぅウウウ!!」

 

 

フリスビーの様にソレを投擲する。しかしそれはライアにとってはチャンスでしかない。

殴りかかるシザースを受け流すと、再び一枚のカードをセット。

それは相手の武器を完全に複写して自分の物にするコピーベントだ。

 

 

「ハッ!!」

 

 

ライアはコピーベントによってヴァンパイアファングと同質の物を投擲する。

ぶつかり合う二つのノコギリ。ライアは強化状態と言う事もあって、競り合いに勝利したのはライアの方だった。

 

 

「うわっっ!!」

 

 

だがキリカのスピードがあれば避ける事は難しくなかった。

しかしその時に感じる違和感。下を見れば、キリカの脚にライアの鞭が巻きついているじゃないか。

 

 

「ちっくしょォオオオ!!」

 

鞭に縛られ、逃げられない。

そのままノコギリはキリカに直撃。

爆発を起こすと、ヒョロヒョロと地面に落ちていく。

 

 

「うへぇ……!」

 

 

ダメージが大きかったか、キリカは変身が解除されてぐったりと地面に伏せる。

 

 

「馬鹿な……!」

 

 

シザースは信じられないとライアに殴りかかって行った。

しかしスペックが強化されているライアは、拳がしっかりと見えているのか。

迫るシザースの攻撃を的確に受け止めていく。

 

 

「貴方は自分が何をやっているのか理解しているのですか!」

 

「ああ。分かってるさ」

 

「ならば尚更理解できない!」『ストライクベント』

 

 

シザースは腕を強化するストライクベント・シザースピンチを装備。

ライアに接近戦を仕掛ける。盾と蟹の爪がぶつかっていく。

 

 

「私は今まで正義の為に尽力して来ました」

 

「ッ?」

 

 

シザースの想いが込められた一撃は、ライアの腕を弾いて隙を生ませる。

すぐに腹部へ打ち込まれる蹴り。ライアは苦痛の声をあげて後退していく。

 

 

「この世に蔓延るゴミを排除し、世界を掃除してきた!!」

 

 

ライアの体から火花が散る。

ジャック・ザ・リッパー。世間はイカレた殺人鬼として扱っているが。ソレは大きな間違いだとシザースは語る。

殺しているのは全員、過去に何かしらの罪を犯した人物ばかりだ。

 

 

「私は正義の為に行動してきた! 今も昔も、そしてこれからも!!」

 

「アンタが犯人だったって訳か……!」

 

「今、この世界を脅かしている最大の悪とは何か?」

 

 

決まっている。

考える必要も無いと、シザースはほむらを指差した。

 

 

「彼女ですよ!」

 

「……ッ!」

 

 

分かってはいたが、面と向かって言われるとキツイものがある。

ほむらは何も言わずに、ただ複雑な表情を浮かべていた。

 

が、しかしライアはシザースの言葉を一蹴する。

正義がどうとか、悪がどうとか。それはシザースにとっては重大な事なのかもしれないがライアにとってはどうでも良い事だった。

ライアは――、手塚は信念を決めて行動をするタイプだ。

今の彼にとって一番重要なのはただ一つ。

 

 

「俺が暁美ほむらのパートナーだと言う事以外には無い!」『トリックベント』

 

「では貴方は世界が滅んでも良いと!?」『ファイナルベント』

 

 

シザースはライアの攻撃をかわしつつ後ろへ跳ぶ。

そこにいたのは使役するモンスター、ボルキャンサー。

蟹の化け物は、飛び上がったシザースをさらに跳ね上げる様にトスを行う。

空へ舞い上がったシザースは、そのまま体を丸めて高速回転を始める。

そのままライアに突進するのが必殺技、シザースアタックだ。

 

 

「フッ!」

 

 

ライアは放物線を描いて飛んでくるシザースを見て、後ろに跳んだ。

しかし甘い。シザースは地面に落ちるものの、一度バウンド。その際に加速しつつ再びライアを狙う。

バウンドするだけではなく、加速が加わる事は予想できなかった。

シザースアタックはライアを捕らえると、粉々に破壊して見せた。

 

 

「ッ!?」

 

 

しかし怯んだのはシザースの方だった。ライアを捉えた感触がまるで無い。

そこで気づく。ライアが粉々になった場所に一枚のトランプが残されていた。

シザースは攻撃を中断するとカードを確認、それはジョーカーのカード。

 

 

「これは――ッ! 囮か!?」

 

「その通り」『ファイナルベント』

 

「!!」

 

 

前方からエビルダイバーに乗ったライアが突進してくるのが見えた。

ライアは思う。シザースは『この世界が滅んでもいいのか』と自分に問い掛けた。

その答えはまだ明確には分からない。

分からないが――

 

 

「罪なき少女を犠牲にして成り立つ世界なら、滅びれば良い!」

 

 

水流と電流を加えて突撃する必殺技、ハイドベノン。

シザースはそれを確認する事はできたが、体が動いたときにはもう遅い。

 

 

「ぐあああああッッ!!」

 

 

ライアはシザースを吹き飛ばし、さらに続けてデッキを狙った。

騎士のデッキはダメージを受ける毎に脆くなっていき、デッキを破壊された騎士は24時間は変身する事ができなくなる。

ライアはシザースのデッキをしっかりと破壊すると、最後に一言。

 

 

「もう彼女の狙うのは止めておけ。運勢が悪くなる結果が見える」

 

 

地面を転がったシザースの変身者、須藤。

しかし納得はしていないのか、悔しげにライアを睨みつける。

 

 

「では……、指を咥えて世界の崩壊を待てと?」

 

「………」

 

 

ライアは何も言わない。

ただ踵を返してほむらの所に向かうだけだった。

須藤もまた舌打ちを行うと、キリカを抱えて夜の闇へと消えて行った。

 

 

「改めて。お前のパートナーになった手塚海之だ。よろしく」

 

「………」

 

 

手を差し出す手塚だが、ほむらは何も言わずに通り過ぎていく。

 

 

「やれやれ」

 

 

苦笑する手塚。

そこでほむらは振り返り、呟いた。

 

 

「ついてきて」

 

 

手塚は頷くと、無言でほむらの背を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、逃げた須藤とキリカ。

 

 

「ば、馬鹿な――ッ! 何故!?」

 

 

夜の闇の中で須藤は焦り、もがき、確実に近づく死に震えていた。

少し離れた所では魔法少女の魂であるソウルジェムを粉々に砕かれたキリカの姿があった。

ジェムを砕かれたと言う事は、『死』を意味している。

そうだ、キリカは死んだのだ。

そして須藤もまた。

 

 

「――――」

 

 

須藤は血を流し、倒れる。

これが正義を目指した自分の結末なのか?

悪人共を血祭りにあげ、本当の正義を目指した自分の末路だとでも言うのか!?

馬鹿な、ありえない、認めない、信じない!!

 

 

「私は……! 絶対に――……」

 

 

そこで終わりだった。須藤は糸の切れた人形の様に倒れて動かなくなる。

命を失った参加者は粒子化が始まり、その存在をこの世界から抹消される。

彼らが生きてきた証を知るのは同じく参加者のみ。

ああ、消えていく。二人の姿が跡形も無く。まるでそれは雪の様に儚く。

 

 

 

【須藤雅史・死亡】【呉キリカ・死亡】【残り22人・11組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたわね」

 

「いや、大丈夫だ」

 

 

ほむらの家。着替えを済ませたほむらは、そこで改めて手塚と対面する。

待っている時間で占いをしていたらしい。コインを弾きながら、ほむらを見る。

 

 

「アンタ、なかなか性格がソリッドだな」

 

「?」

 

「エゴイストの気がある。典型的なお姫様タイプだ。自分の好きな物を露骨に――」

 

「ちょっと、やめて」

 

「……悪い。ただの占いだ、気にするな」

 

 

正直ムッとした。ほむらは露骨に不快ですと手塚を睨んで見せる。

だが本人は気にしていないようだ。ほむらの家が珍しいのか、風水の本を片手にウロウロと回っていた。ほむらの家は魔法によって若干の増築が施されており、近未来的な内装は確かに珍しいかもしれない。

 

リビングなんて魔法結界によって元々の部屋とは全く別のものに変化しているのだ。

そこには様々な魔女の資料が貼り付けられている。

 

 

「珍しいな。何だ、この逆さまの女は」

 

 

手塚の目に付いたのは女性が逆さまに書かれているイラストだった。

なんともまあ不気味な表情である。血塗れで笑顔を浮かべている姿はハッキリ言ってホラーそのものだ。

 

 

「毎日こんなイラストを見ているのか?」

 

「何?」

 

「ああいや、すまん」

 

 

睨み返してくるので、話を止めにする。

二人は向かい合って座る形に。そこでほむらは早速本題へ移った。

 

 

「単刀直入に言うわ、私は貴方を信用できていない」

 

「無理もない」

 

「キュゥべえ、聞こえている?」

 

『なにかな? 暁美ほむら』

 

 

ルールの補足と言う事であれば、キュゥべえは呼びかけに応えてくれるようだ。

 

 

「パートナー同士での攻撃は?」

 

『ダメージは限りなく軽減されるよ。とは言え、殺せない訳じゃないけれど』

 

 

それが全てだった。

手塚がパートナー。それは理解した。

しかしイコールでそれが絶対的な信頼を寄せる理由にはならない。

パートナー同士でも殺害が成立するのであれば尚更だ。

 

 

「貴方が私に味方する理由が分からない」

 

 

ほむらが勝ち残った場合、パートナーである手塚は『記憶を残したまま』生き延びる事ができる。

しかし手塚の家族、友人。いるかどうかは知らないが恋人などは例外なく記憶を失って一度は滅びるのだ。

 

 

「そうか。お前は知らないか」

 

「?」

 

 

手塚もまた、既にジュゥべえから補足ルールを告げられていた。

 

 

「俺は、アンタが死ねば死ぬ」

 

「!」

 

 

分かりやすいルールではないか。ほむらが殺された場合は手塚も命を落とす。

今、手塚の命は二つあると言っても良い。だからこそ何が何でもほむらを守らなければならないのだ。

それが自分自身の命を守ると言う事でもあるのだから。

 

 

「頼むから自殺なんてしないでくれよ。それでも俺は死ぬらしいからな」

 

 

なるほど。

流石はあの最低な妖精共の考える事ではないか。

手塚も逃げられない様になっている訳か。同じ境遇と言う点からか、少し同情心が芽生える。

 

 

「……それは、申し訳ない事をしたわ」

 

「気にしないでくれ。これも運命だ」

 

 

手塚と言う男は高校を中退して占い師の道を目指したらしい。

だからなのか、他の者よりも『運命』と言う単語に深い想いを抱いている。

今だってそうだ、取り乱すことなく、こうなったのは全て運命なのだと納得しているらしい。

 

 

「今は信じてくれなくても良い。だが覚えておいてくれ、俺はお前の味方だ」

 

 

裏切る可能性を危惧しているならと、手塚は自分の携帯とデッキを差し出す。

 

 

「これで外部との連絡を可能な限りブロックできる」

 

 

それに、ほむらとの連絡はコレを使えば良いと一枚のカードを示した。

 

 

『トークベントは変身していない状態でも使える』

 

『……! テレパシーね』

 

 

そう言えば、ゲームが始まる前は魔法少女同士は思念で会話できていたが、いつの間にかそれが遮断されている。

おそらくはキュゥべえがブロックをかけているのだろう。

なんだか全てが妖精達の手の上の様な気がして、気持ち悪さを感じてしまう。

 

 

「………」

 

 

ほむらは疲れたようにため息を一つ。

 

 

「とりあえず今は、貴方をパートナーとして信用してみるわ」

 

「助かるよ」

 

「これは結構よ」

 

 

携帯とデッキを手塚に返し、ほむらは脚を組みかえる。

 

 

「早速なのだけど、一つ聞いてもいいかしら?」

 

「ああ、なんでも聞いてくれ」

 

「騎士とは――?」

 

 

ほむらは『繰り返してきた』者だ。

その中で些細な違いや大きな違いは見られたが、今回ほど異質な存在が生まれた例は無い。

 

 

「悪いが、正直なところ俺にもよく分からない。俺達騎士はジュゥべえと言う妖精に契約を持ち掛けられただけだ」

 

 

カードデッキと言うアイテムを使って装甲に覆われた騎士に変身する。

そして己の心を映し出したモンスターを使役して戦う。

しっかりと分かっている事と言えば、それくらいなものである。

 

 

「恐らくジュゥべえが選んだ12人は、それぞれ同じような言葉を投げ掛けられた筈だ」

 

 

手塚海之と言う人間が、運命と言う物に疑問を持った時、奴は現れた。

 

 

『手塚ァ! 運命を変える力が欲しくは無いか?』

 

 

ジュゥべえは笑い、デッキを見せ付ける。

 

 

『それを手にした時、お前が転ぶのが良い運命なのか悪い運命なのかは分からない。しかし少なくとも今と言う、その時に疑問を感じているのならば力を求めろ! 運命はいつだってお前を試していた!』

 

 

それが今、最後の選択になるかもしれないのだから。

そう言ってジュゥべえは契約を迫ったのだ。

騎士に選ばれた者は、自己の幻影としてミラーモンスターを生成する。

手塚の場合は、幼い時に連れて行ってもらった水族館で見たマンタが心に残っていたのだろう。

エイのモンスターであり、運命を司るエビルダイバーが誕生したと。

 

 

「キュゥべえは騎士を入れて何をしたかったのかしら?」

 

「契約時に願いを叶える魔法少女とは違い、ただ一方的に力を与えるだけの騎士システムは浮いている気がするな」

 

 

独自のエネルギー搾取に目をつけたと言う事なのか?

ほむらは独自に考察を広げていくが、どれもパッとしない。

 

 

「そう言えば、ジュゥべえの口ぶりから察するに騎士システムを導入したのは俺達が最初だと思う」

 

「なるほど。魔法少女は過去にもいくつかの例があったらしいわ」

 

「つまり新技術を俺達で試しているわけだ。しかしわざわざ今回のゲームの為だけに用意したと? 何か違和感を感じるな」

 

「裏があるのかしら」

 

「かもしれない」

 

 

ふと、ほむらは時計を見る。もうそれなりの時間だ。

 

 

「あなた食事は?」

 

「ああ、そんな時間か。まだだが……」

 

「ここまでつき合わせたお詫びよ、ご馳走するわ」

 

「別に気を使わなくても――」

 

「いいのよ、待っていて」

 

 

そう言ってほむらは奥の方へと消えていく。

手塚も人間だ、お腹は空く。ここは素直に甘える事にしたのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「いいのよ、もりもり食べても」

 

 

ほむらは、じっとりとした目で手塚を見る。

 

 

「………」

 

 

手塚は目の前に置かれた乾パンの缶を見てゴクリと喉を鳴らす。

何だこれは、どういう事だ? 混乱する手塚の思考をよそに、ほむらはモシャモシャと乾パンを食べ始める。

 

 

「あの……、これは?」

 

「氷砂糖も食べていいわよ」

 

「いや、そういう事じゃないだろ!」

 

「え?」

 

「何だ? 俺がおかしいのかコレは!」

 

「???」

 

「お前、いつもこんな感じなのか? 食事は」

 

「そうだけど……」

 

 

しかもほむらは乾パンを三個しか食べてない。

見ればほむらは異常に白い。言い方を変えれば病的に見える。

手塚は思わず立ち上がり、ほむらへ食生活の改善を諭した。

 

 

「お口に合わなかったかしら?」

 

「い、いや! そういう事じゃなくて。とにかく一度冷蔵庫を見せてくれ」

 

「………」

 

 

面倒だと表情が語っているが、ほむらは渋々冷蔵庫の中を見せる事に。

 

 

「何故マヨネーズしか入ってない!」

 

「退院したばかりなのよ」

 

 

だからって何でマヨだけなんだ。マヨラーなのか!?

手塚は頭をかいてほむらを外に連れ出す事に。

 

 

「ちょっと、どこに行くの?」

 

「こんな食生活を続けていたら死んでしまう」

 

 

それを聞くと、ほむらは少し不愉快そうに表情を歪めた。

 

 

「もう死んでいるから関係ないのよ」

 

「ッ!」

 

 

魔法少女は調節すれば食事を取らなくてもいい体になる。ほむらはその調節を行っていた。

故に食事など意味のない行為だ。他の魔法少女はそうでないのかもしれないが、少なくともほむらにとっては無駄だった。

ただ倫理的なところから形式的に食事を行っているだけなのだ。

 

 

「だったら、食事をする様に調節を戻せば良い」

 

「無駄なことよ。食事をする時間がもったいないわ」

 

「人を超えた力を持ったとしても、人としてあるべきだと俺は思うが」

 

 

ほむらは腕の力を強め、手塚を振り払う。

 

 

「貴方には関係ない事よ。パートナーとしては認めたけれど、指図は受けないわ」

 

「関係なかったとしても、今日はせめて料理を作ろう。道具も俺が買ってやるから!」

 

 

手塚は強引にほむらの腕を掴むと、そのままホームセンターに引っ張っていく。そこで次々と包丁だのまな板だのをカゴに入れていく。

勝手にしてくれとほむらは言いたい。どうして自分まで付き合わなければならないのか。

 

 

「いいじゃないか、離れていると狙われた時に困る」

 

「自分の身くらい自分で守れるわ」

 

「俺の命も預かってもらってるんだ。ココは俺に合わせてくれ。頼む」

 

 

そこまで言われてはほむらも断りにくい。

彼女だって手塚を巻き込んでしまった事には申し訳なさを感じている。

自分のせいで毎日死に怯えなければならないのだから。

 

 

「……ごめんなさい、私のパートナーになったばかりに」

 

「だから、気にしなくていいさ。お前が悪い訳じゃないだろう」

 

「………」

 

 

いや、いや――、自分に原因があるとほむらは理解している。

しかしそれを手塚に言う訳にもいかなかった。

だからこそ、折れるしかない。ほむらはただひたすらに手塚についていく。

会計が終わると、その足でスーパーに寄った。

手塚はカレーを作ってくれると言う。

 

 

「そう、カレー……。久しぶりね」

 

「好きな野菜はあるか? それを入れよう」

 

「………」

 

 

手塚の問いに少し黙るほむら。

しかし観念したのか、小さく告げる。

 

 

「かぼちゃ……」

 

「そうか、だったらソレを入れよう」

 

 

ほむらは無言で頷いた。

もうちょっと嬉しそうな顔をしてくれれば、手塚としても嬉しかったのだが。

まあここは、ほむらが乗ってくれただけでも良しとしようじゃないか。

 

彼らは材料を一通り揃えると、家に戻って早速調理を始める。

ほむらは手塚を巻き込んでしまったお詫びとして、後は自分がやると言い張った。

 

 

「へぇ、じゃあ任せようかな」

 

「ええ。カレーくらいすぐにできるもの」

 

 

ほむらはお湯を沸騰させ、そこににんじんを放り込む。

ボチャン! 音を立ててにんじん沈下。

 

 

「待て! ま――ッ、ちょっと落ち着こう!」

 

「?」

 

 

手塚はさいばしでニンジンそのものを取り出すと、ほむらをチラリと見る。

何で焦っているのか分からないとポカンとした表情である。

これはマジで言っているのか? 手塚は判断に困るところである。

 

 

「何か違ったかしら?」

 

「申し訳ないが、当たっている所が無い。なんで丸ごと入れた?」

 

「たべごたえ――」

 

 

は、違うんだな。

ほむらは何となく理解して沈黙する。

結果として彼女が出した答えは――

 

 

「冗談よ」

 

(絶対嘘だ)

 

 

手塚はやはり自分も手伝うと、ほむらと並んで調理場に立った。

ほむらにはニンジンを切る事を任せて、手塚はジャガイモやカボチャを受け持つ事に。

 

 

「皮を剥いて、好きに切ってくれ」

 

 

そう言われたので、ほむらはジッとにんじんを見つめる。

 

 

(皮を……?)

 

 

適当にペリペリできると思っていたが、どうにも剥き口がない。

どこから剥けばいいんだ? 少し爪を立ててみるが、捲れる素振りをこのオレンジ色の棒はみせない。

 

 

(もしかして先に切ってしまえばいいの?)

 

 

ほむらは変身すると、盾からチェンソーを取り出して――

 

 

「な、何のために包丁とピーラーを買ったんだ! そっちを使ってくれ!」

 

 

慌てて止める手塚。どうやら彼女の料理スキルはカオスのソレらしい。

手塚は一つ一つの作業をほむらと一緒に行う事にした。

日本刀と火炎放射器、ガスマスクは料理には必要ない事を説明すると、意外にもほむらは素直に聞き入れていた。

 

どうやら自分でも料理の腕前がアレなのを悟ったらしい。

とは言え説明をちゃんと聞けば彼女は一瞬で腕を上げるのが面白い。

結局最初こそグダグダだったが完成したカレーは何ともおいしそうな物だった。

 

 

「うまいじゃないか」

 

「私は手伝っただけよ……」

 

 

二人は再び顔を合わせて食事を開始する。

なんだか酷く懐かしい、ほむらは心に引っ掛かる物を感じつつ一口カレーを含んだ。

やはりどこか懐かしい、そしてどこか悲しい。

胸にぽっかりと空いた穴の正体が何か分からず、けれども租借する度に『今』が輪郭を作っていった。

 

 

「うん、美味いじゃないか。俺一人じゃコレは作れなかったよ」

 

「………」

 

 

ほむらは、ぼんやりとカレーから発せられる湯気を見ていた。

食事は記号だが、手塚に言われた事を思い出す。

そうだ、本当だったら食べなければ駄目なのだ。

 

しかしいつからか、どうにもそれが煩わしくなった。

面倒とかではなく、なんと言えばいいのか。

たとえばそれは罪悪感のようなものであったり――……。

 

 

「貴方は普段、料理をするの?」

 

「まあな、一人暮らしなんだ。今」

 

「そう……」

 

 

ほむらはスプーンに乗せたかぼちゃを口に入れた。

そうだ、そうだったな、昔はコレが好きだった。

やっと思い出せた気がする。

 

 

「不思議だな。何だか前にもお前とこうやって料理を作った気がするよ」

 

「………」

 

 

手塚は何気なく言ったつもりだが、ふと見てみればほむらは完全にドン引きと言った表情を浮かべていた。

 

 

「わ、悪い。変な意味は無いんだ。いや、本当に」

 

 

それを聞くと数回頷くほむら。

実は自分も同じような記憶、と言うか感覚を持っている。

カレーではなく、スイーツだったような。そんな夢を見たような気がする。

 

 

「不思議ね、貴方とは前にもパートナーだった気がするわ」

 

 

珍しい、自分の口からこんな言葉が出てくるとは思わなかった。

ほむらは少し自分で自分の言った事を疑問に思ってしまった。

だが確かに手塚とは以前どこかで出会った気がしていた。遠い遠い、夢のような場所で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな」

 

「ええ……」

 

 

食事が終わり、手塚は帰宅することに。

本当は泊まってでもほむらを守るのがいいのだろうが、流石に知り合って一日弱でそれを言い出す図々しさと勇気はどちらにも無かった。

 

 

「何かあったらすぐに知らせてくれ」

 

「ええ」

 

 

扉を閉める。

とりあえず手塚は信用できそうだ。

とはいえまだ油断は出来ないが。ほむらは脳内で情報を更新していく。

 

 

「………」

 

 

実感は無い。いろいろと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【二日目】【世界崩壊まで残り144時間】【残り参加者22名】

 

 

 

 

朝、ほむらは迷ったが学校へ向かう事にした。

本当は家に隠れているか、手塚と一緒にいる方が安全なんだろうが、マミ達が迎えに来たのだ。

身構えるほむらだったが、マミの必死の訴えを聞いて心が揺らいでしまった。

 

 

「良かった……! 暁美さんに疑われたらどうしようって思ったのよ」

 

「そう」

 

 

マミとさやか、仁美は何気なく登校する。

マミをからかうさやか、それを嗜める様に笑う仁美。全くもって平和そのものと言える光景だった。ほむらは何も言わず、何も思わず足を進めるだけ。

 

 

「だからそれは違うと教えたはずですよ中沢くん!!」

 

「ひぃ! す、すいません!!」

 

 

それは学校に着いても同じだった。

周りの生徒達は普段と何も変わらず生活を送っている。

誰もが残り六日あまりで世界が滅ぶとは思ってもみない。当たり前の生活が続くと信じて疑わない。

 

 

『その危機感の無さが油断を重ね、人を堕落させていく』

 

「………」

 

 

休み時間、廊下で窓の外を見ていると、いつの間にか隣にキュゥべえがやってきた。

 

 

『人はいつだってありとあらゆる可能性を頭に入れておきながら、実際に行動するのは事態が起こってからだ』

 

「今回のケースは一般人に分かるわけが無い」

 

『それにしたって全てを知っている身から見れば、愚かに見えてしまう』

 

「……なんの用? まさか今の下らない自論を言いに来ただけなんて言わないでしょう?」

 

『もちろんだよ。一つだけどうしても聞いておきたい事があってね』

 

「?」

 

 

キュゥべえは表情を変えずに、ほむらへ問い掛ける。

 

 

『キミは、幸せになれると思うかい?』

 

「……?」

 

 

なんだか違和感を感じる質問だった。

 

 

「それは、"誰"の質問?」

 

 

ほむらはキュゥべえを鋭く睨みつける。

 

 

『……人が来たね。ボクは消えるよ』

 

 

キュゥべえは何も言わずに消え去ると、入れ替わりでさやかが顔を見せた。

いつもニコニコと明るい雰囲気の彼女ではない。

無表情でほむらを見る目には、嫌な志が見えてしまう。

 

 

「ねえ、ちょっと屋上に来てもらっても良い?」

 

「………」

 

 

ほむらは頷いて、さやか言う通り屋上を目指す。何となく、これから先の光景は分かっていた。

だったらほむらが取る最善の行動も分かっている筈。

なのにほむらは無言でさやかの背中を見つめて歩くだけ。

 

否定してほしかったのか?

それともこの目でしっかりと確かめたかったのか。

それはもう、ほむらにすら分からない。

 

 

「!」

 

 

屋上には既に三人の人間がいた。

一人は巴マミ。ほむらを見つけると、何故か怯えた様に肩を震わせる。

瞳には罪悪感、恐怖、焦りがにじみ出ている。

またか、その中途半端な正義感がイライラする。ムカつくんだ。ほむらは唇を噛み、拳を握り締めた。

 

そしてマミの隣には北岡が。

なぜ中学校と関係の無い北岡がいるのか。その意味がほむらにはよく分かる。

 

 

「あ、あの……、暁美さん――ッ」

 

 

ほむらに話しかけたのは上条恭介だった。彼もまた怯えと焦りの目をしている。

まるで化け物を見る様な目だった。ほむらは思わず舌打ちを漏らして、上条へ視線を合わせた。

よく分かる。上条はほむらの眼を見ていない。逸らし、怯え、震えるだけ。

 

 

「お願いがあるんだ……」

 

 

最後まで目が合う事は無かった。

 

 

「し、死んで――、ほしい!」

 

「………」

 

 

ほむらは一同を睨む。激しく睨みつける。

マミの震えが酷い。信じていた魔法少女(ヒロイン)の姿とかけ離れた現実に押しつぶされそうなんだろう。

本当はほむらも世界も守れる方法を探したいと提案したかったのだろう。

しかし叶わないと決めうち、あげくココにいる。

 

美樹さやかだってそうだ。

彼女は良くも悪くも強い、しかしその強さは脆すぎる。

さやかにとっては世界なんてどうでもいい。ただ上条と居られる時間が欲しいだけ。

一瞬の安息を求めて人を殺す事を選んだ。

世界を守るなんて言い訳を自分につくれば決意も簡単だっただろう。

 

上条恭介。よく分からないが一発殴りたい。

自分の世界を守りたいと言う事は分かる。

しかしそれは恐らく自分で手を汚さない方法を選ぶ末の行動だろう。

 

きっと彼は自分(ほむら)を殺さない、殺せない。

だから美樹さやかが代わりに殺してくれる事を待っている。

そしてきっとさやかが殺さなかったら、彼女を恨むのだろう。

 

 

「あ、あの……、本当にごめんなさい! ダメよ上条くん、そんな言い方誤解されちゃうわ!」

 

 

耐えられなくなったのか。

マミはほむらの肩に手を置いて優しいトーンで声をかけてくる。

 

 

「これは最後の最後までどう頑張っても無理だった場合だからッ、あの、勘違いしないでね!」

 

 

弱いくせに、強くあろうとする。

 

 

「だから……! だから最後の日までは一緒に――!!」

 

 

何とかなる方法を探そうと?

ほむらは肩に触れていたマミの手を強く掴んだ。

ほら震えているじゃないか。結局マミが一番望んでいる事はほむらが死ぬ事なんだ、私がいなくなる事なんだ!

ほむらはもう一度舌打ちを零すと、マミの手を弾いた。

 

 

「帰るわ」

 

 

踵を返す。

 

 

「ッ!」

 

 

そして素早く体を右へ反らした。

聞こえたのは銃声。通り抜けるのは弾丸。

見れば、銃を構えていたゾルダの姿があった。

結局、不意打ちか。ほむらは魔法少女へ変身すると盾を構える。

 

 

「き、北岡さんどうして! 攻撃だけはしないでって!!」

 

 

マミは信じられないとの表情でゾルダを見る。

この表情だけは嘘じゃないと信じたいが、どうでも良くなってきた。

 

 

「んー? そうだっけ?」

 

 

まあ、でも、いいでしょ。

ゾルダはそう言ってもう一度引き金を引く。

放たれた弾丸は一直線にほむらを撃ち抜こうと空を射抜いた。

しかしステップで回避すると、ほむらは盾を操作して時間を停止させる。

 

 

「……ッ!?」

 

 

またなの? ほむらは怒りで叫びたくなる。

時間を停止させた筈なのに四人の動きは止まっていないじゃないか。

いや、分かる。ほむらはじっとりとした目つきでマミを睨みつけた。

 

 

「……ッ! ご、ごめんなさい暁美さん!」

 

 

ほむらの時間停止を防ぐには、ほむらに触れていればいい。

その情報を得ていたマミは、自身の武器であるリボンを最大活用していた。

 

リボンを細くして糸にすると、ほむらの腕に巻きつける事で『触れている』と言う条件をクリアしたのだ。

さらに糸は分裂してさやか達にも触れている為、彼女達の動きが止まる事は無い。

 

 

「チッ!」

 

 

適当に糸がありそうな場所を撃つ。

しかし余程細いのか、糸は肉眼では確認できずに終わった。

そうしている内に変身を完了させるマミとさやか。

さやかは迷う事無くサーベルを手にし、マミは目を閉じて歯を食い縛る。

 

 

「マミさん! 恭介!」

 

「へ、変身……!」

 

 

上条も変身。黄金の鎧を纏った騎士・オーディンへと変わる。

力のデッキ。純粋なスペックで見るならオーディンは最強である。

どうやら上条も戦う意思を不完全ながらも持った様だ。ソードベントであるゴルトセイバーを構えて、刃をほむらに向ける。

 

 

「マミさん!!」

 

「!!」

 

 

目を見開くマミ。

そうだ、ここで自分が諦めたら家族が壊れてしまうかもしれない。

次に転生したときには父親と母親は死んでしまう結末になってしまうかもしれない!

そんなのは嫌だ!!

 

 

「ごめんなさい暁美さん。恨むなら恨んでくれていいわ!」

 

 

マミの表情が変わる。

目を細めるほむら、そうだったと彼女は焦りを覚える。

巴マミの本当に厄介な部分を忘れていた。

 

マミはマスケット銃を大量に地面に突き立てると、一つを取ってほむらへと銃口を向ける。

ほむらが危険視している最大の部分、それはマミの実力だ。

 

 

「ただし、恨む場所は天国だけれど!!」

 

「!」

 

 

引き金をひくマミ。そこから放たれた弾丸がほむらの頬を掠めた。

さらに続けてゾルダの弾丸が肩を掠める。

これはまずい、ほむらは時間停止を解除してすぐに手塚へ助けを求めた。

 

この場面は非常にマズイ。

マミとさやかだけならまだしも、得たいの知れない騎士が二人もいる。

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「!?」

 

 

背中に走る痛み。振り返ると黄金の羽を散らせたオーディンが剣を振るっている所だった。

いつの間に? ほむらは痛みをこらえて跳躍。オーディンから距離を取りつつ、マシンガンでマミ達を牽制していくのだが――

 

 

「や、やぁあああ!!」

 

「ッ!!」

 

目の前に迫るゴルトセイバー。

そうか、ほむらは理解する。オーディンは瞬間移動ができるのだ。

ほむらは何とか体を捻って剣を回避。すぐに蹴りでオーディンの頭部を打つ。

 

 

「――ァッ!!」

 

「ハアアッッ!!」

 

 

追撃だ。盾から日本刀を抜いてオーディンの装甲を削る。

オーディンは火花を散らしながら後退していく。

 

 

「痛いッ! ウゥウッ、痛いよッ、痛い、痛い……! あの、手だけはお願いだから――ッ」

 

 

ダメだ、オーディンは一度ワープでほむらから距離を取る。

そしてデッキからカードを取り出して、ブツブツと喚く。

 

 

「こ、これは正当防衛だ……! ぼ、僕は悪くない! アイツが、暁美ほむらが悪いんだ!!」『アドベント』

 

 

空が割れ、そこから黄金の不死鳥が出現する。性質は無限、名はゴルトフェニックス。

不死鳥は黄金の軌跡を描きながらほむらへ突進していく。

何とかかわそうとするほむらではあったが、そこで風を切り裂いて迫る魔法少女が。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアア!!」

 

「うッ! つぅウッ!!」

 

 

美樹さやかは自身の武器であるサーベルを強化するスパークエッジを発動してほむらへ容赦ない連撃を仕掛けていく。

ほむらは様々な武器を使える半面、一つの武器を極めている訳では無い。

対してさやかはサーベル一本でココまでやってきた。故に勝敗はすぐに訪れた。

 

 

「きゃぁあああああ!!」

 

 

激しい剣技は嵐を巻き起こす程荒々しい。

さやかの必殺技であるテンペストーゾは、文字通り小規模の竜巻を発生させる攻撃。

ほむらは嵐に巻き込まれ動きを止めてしまう。そこへ直撃するゴルトフェニックス。

 

 

「う――ッ! ガハッ!!」

 

 

間違いない、本気で殺しにかかっている。

ほむらは地面に激突しながらも、ミサイル砲やガトリングを展開していくマグナギガを見つけた。

あの超火力の必殺技を受ければ間違いなく死ぬ。

 

ほむらは逃げようと力を込めるが――、無駄だった。

マミがリボンを伸ばしてほむらを縛り上げる。

身動きができなくなった。どんなに力を込めても基本スペックがマミを下回っている為に叶わない。

 

 

「残念だよ転校生」

 

 

さやかは本当に悔しそうに、ほむらを見る。

 

 

「もしも、こんな運命じゃなかったら……、きっとアンタとは友達になれてたと思う」

 

「……勝手な事を」

 

「だね。アンタが嫌だって言ってもあたし、諦めずに友達になろうとしたかも」

 

 

もしも友達になれたら、さやかはきっとその関係を大切にしていたと誓える。

困っているなら助け。逆だったら甘えようと。

 

 

「でもごめん、アンタは死ななきゃ駄目なんだよ……」

 

 

だからせめて死ぬ姿を見届ける。

他の誰が目を背けようとも、さやかだけはその死を受け止め、これから背負い続けて生きていく。

マミが、オーディンが視線を逸らしている中で、さやかだけはほむらを見ていた。

 

 

「ねえ、一つだけ聞いても良い?」

 

「……何?」

 

 

ほむらは、うんざりした様にさやかを見る。

 

 

「もしも……、再構築した世界にアンタも居たら――、」

 

 

あたし達は仲良くなれると思う? とは、言わなかった。

さやかはその言葉を飲み込んだ。言えない、言える訳が無い。

自分達の都合でほむらを殺そうとしているのに、それを問い掛ける資格など無い。

 

一方でニヤリと笑うほむら。

どうやら、さやかの問いかけを察したようだ。

 

 

「無理よ」

 

「………」

 

 

さやかはゾルダを見る。もうチャージは済んだ筈だが?

 

「北岡さん?」

 

「は、早く撃ってよ! 何してるんだよ!!」

 

 

オーディンがイライラした様に言葉をぶつける。

ゾルダは何故かマグナギガに銃をセットした時点で動きを止めていた。

後は引き金を引くだけで彼の必殺技であるエンドオブワールドが発動して全てが終わるのに。

 

 

「俺……、ココで、何してたんだっけ?」

 

「は?」

 

 

ゾルダの言葉に一同は混乱する。

彼は何を言っているんだと。

 

 

「学校? ココ、学校か? 俺は遅刻はしてない。でもお仕置きで屋上に立たされる奴はいなかった様な……」

 

「北岡さん?」

 

 

彼は、何を言っているんだ?

もう一度、誰もが思った。

 

 

『フリーズベント』

 

「?」

 

 

ゾルダは手に持っている物が銃だと言う事を思い出した。

そうか、俺は昔から銃が好きだった。

母さんが外国のモデルガンを買ってくれたのを覚えている。

 

でも俺がそれで遊ぶと怒るんだ。

おかしな話だろ? モデルガンはソレからどこかにしまわれてしまった。

俺は本当はもっと遊びたかったのに、酷い話だろ?

俺は昔から銃が好きだったんだ。父さんが昔から外国のモデルガンをコレクションしていたんだ。でも父さんは俺がそれで遊ぶと母さんを呼ぶんだ。

 

そうか、俺は昔から銃が好きだった。

父さんが外国のモデルガンを買ってくれたのを覚えている。

でも俺がそれであそぶと母さんが外国をコレクションして、父さんがしまわれてしまった。

怒るんだ、おかしな話だろ? 外国は本当はモデルガンだった――

 

 

「あ……?」

 

 

ゾルダはそこで初めて自分が引き金を何度も引いているのにマグナギガが反応しない事に気づいた。

何故? どうしてマグナバイザーも引き抜けないんだ!?

 

 

「えーいッッ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

突如屋上に現れた小さな影、千歳ゆま。

彼女もまた魔法少女であり、その小さな体に不釣合いのハンマーで思い切り地面を叩いた。

衝撃は一気に広まり、マミ達の動きを停止させる程の物だった。

 

 

『アドベント』

 

「な、なんだよコレぇッ!!」

 

 

屋上へワラワラと湧いてくるのはガゼルモンスターズ。

リーダーのギガゼールを筆頭に、無数のメガゼール達が一勢に行動を開始していく。

ある者はマミを攻撃し、ある者はさやかを、オーディンを。

そして多くの者は、ほむらを守る様に構える。

 

 

「な、何だコレ!」

 

 

ゾルダはガゼルモンスターに押し出され銃から離れてしまう。

はて? そもそも自分はどうしてこんな所にいるんだろう?

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

咆哮を上げて突撃するのは赤。

佐倉杏子は武器である槍を構えて、ほむらを拘束していたリボンを全て切り裂いていく。

空中に投げ出されたほむらを杏子はキャッチするとマミから離れた場所に降り立った。

 

 

「やったねキョーコ!!」

 

「ああ、ゆまも頑張ったね。偉い偉い」

 

 

そして加えて降り立つ二人の騎士。佐野が変身したインペラーと、東條が変身したタイガ。

タイガはミラーモンスターの動きを停止させるカードでゾルダを封じ、インペラーは大量のミラーモンスターを使役している為に場の混乱を誘う事ができた。

 

 

「これで少しは英雄に近づけたかな?」

 

「ああ、上出来じゃなーい?」

 

 

混乱しているのはマミ達だけでなく、ほむらもだった。

助かった? 自分が今どうなっているのかイマイチ分からない。

そうしている内にインペラーがほむらを受け取り、地面を思い切り蹴る。

空を舞いながら屋上から落下するほむら。そのままインペラー達は一気に学校を離れる様に走り出した。

 

屋上に残ったのは杏子のみ。

切なげな表情でマミ達を見る。

 

 

「なんでだよ……」

 

「ッ!」

 

 

再びマミの肩が震える。

杏子が泣きそうなのは気のせいだろうか?

 

 

「アタシの知ってるマミって人間は、絶対にほむらを殺す判断をここでしない奴だ」

 

 

次はさやかを。

 

 

「アタシの知ってるさやかは……! アタシには荒いけど、他の奴には優しかった筈だろ!?」

 

「――ッ」

 

「少なくとも犠牲にしないで済む方法を見つけようって突っ走る奴だった!」

 

 

杏子は拳を握り締める。

 

 

「嫌われるのは……、アタシだけで良かったんじゃねーのかよッ!」

 

「さ、佐倉さん――ッッ!」

 

 

マミは何かを言おうとするが言、葉が詰まってしまって結局何も言えなかった。

一方でさやかは悔しそうに拳を握り締めて首を振る。

 

 

「アンタに何が分かるの!」

 

 

そう言ってさやかは杏子を強く睨みつけた。

 

 

「アイツを守ろうなんて、アンタやっぱりイカれてる!」

 

「おかしいのはどっちさ! こんなふざけたルール、そう簡単に認めちまうのかよ!!」

 

 

それだけ言って杏子もまた屋上を離れる。

残されたマミ達は複雑なものを感じがながらも変身を解除するしかできなかった。

その中でゾルダだけは変身したまま、ぼんやりと空を見上げていた。

 

 

「………」

 

 

雲ひとつ無い青空だ。

綺麗だ。俺は昔から夕焼けの空が好きだった。だから今の空は好きだ。

綺麗じゃないか、でも雨が降ってるから、きっと晴れていたらもっと綺麗だったんだろうな。

ゾルダは変身を解除して傘を捜しに向かう。

 

でも晴れている日に傘なんておかしいだろ。

北岡はそうだったと夕焼けの空を見上げた。

やはり、青い空は綺麗だ。彼は目の前に広がる青空をしばらく見つめ続けている。

そろそろ夕日が見えてきた。

はて、家はどっちだったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない! この事態は予測できたのに……ッ!」

 

 

手塚が駆けつけると、丁度インペラーがほむらを降ろしていた。

 

 

「キミがほむらちゃんのパートナー? 実は――」

 

 

事情を素早く説明され、手塚はインペラー達と共に彼らの拠点に案内された。

そこは見滝原公園の近くにあるボロアパート。

トイレはあるが、お風呂はなく、なんとも狭い場所だった。

インペラーである佐野のアパートらしい、彼はココに杏子達3人を居候させているのだ。

 

 

「まあ昔はオレも結構良い暮らししてたんだけど、親父に勘当されちゃって。あはは……」

 

 

申し訳なさそうに頭をかく佐野。

部屋の隅では東條が体育座りで大人しく座っている。

一方で杏子とゆまは人数分のお茶を用意して差し出していった。

お礼を言って受け取る手塚とほむら。しかし何よりも気になる事が一つ。

 

 

「あなた、どうして私を……」

 

「ん? ああ、気にすんなよ。困った時はお互い様さ」

 

「いや、そうじゃなくて。分かっているの?」

 

 

ほむらを助けると言う事は、世界の破壊を促がす行為でもある。

杏子達はソレを理解しているのだろうか? 今現在は四人でチームを組んでいるみたいだが、再構築が行われれば四人が再び知り合いになれる保証も無い。

むしろ何かしらの理由で対立関係になるかもしれないのだ。

 

 

「あー……、まあいいんだよソレは」

 

「?」

 

 

杏子の言葉の続きを言うのは佐野だった。

彼等がほむらを助けた理由はただ一つ。

 

 

「オレ達、結構今の世界に絶望してるんだよね」

 

「……ッ」

 

 

佐野は自虐的な笑みを浮かべて頭をかく。

今の世界が終わり、次の世界と言うチャンスがあるのなら其方に賭けてみるのもいいだろうと。

それは佐野だけでなく杏子やゆま、東條にも言える事だった。

だから、ほむらを助けた。彼らは世界の崩壊を望んでいるのだから。

 

 

「ほむらちゃんは、もちろんオレ達を再構築してくれるよな?」

 

「え……、ええ。もちろん」

 

「はぁー、それを聞いて安心したよ」

 

 

しばらくはココに隠れていると良い。佐野達は完全にほむらの味方である事を告げた。

だが彼等が絶望しているからと言って、ほむらを殺せば何でも願いは叶う。

そこに可能性を見出さないのか? ほむらが問うと、再び佐野は困ったように苦笑する。

 

 

「足りないんだよなぁ。一つだけじゃ」

 

「………」

 

 

悲しい言葉だった。

人を一人犠牲にしても足りない。それだけ人の欲望と現実は非情である。

 

 

「足りないのなら中途半端に求めてはいけないよ。もっと虚しくなるだけだ」

 

 

佐野はそれを知っているから諦めた。

東條はどうしていいか分からずに諦めた。ゆまは生きる事が怖いから諦めた。

杏子は――、何を思ったのかは分からないが諦めた。

 

 

「だから気にすんなよ、アタシらはアンタらを守るだけさ」

 

 

杏子は勢いよく立ち上がると、乱暴にほむらの頭を撫でる。

鬱陶しい――、とは言わない。ほむらは言葉を飲み込んで善意を受け取ることに。

そうしていると、杏子はなにやらゴソゴソと押入れをあさり始める。

 

 

「何を?」

 

 

手塚とほむらシンクロして杏子を見た。

杏子はタオルや何やらを取り出し、手塚達を見てニヤリと笑った。

 

 

「よし、じゃあ行こーか!」

 

「?」

 

「行くって、どこへ?」

 

 

杏子はほむら達にタオルと桶を投げ渡した。

いきなりだった為にキャッチに失敗して、ほむらはタオルを頭に被る。

 

 

「どこって、決まってんじゃん。風呂だよ、風・呂!」

 

「はぁ……?」

 

 

聞き返す暇もなく、杏子はほむらの手を掴んで引きずっていく。

呆気に取られている手塚も、佐野に肩を叩かれて進むのを促がされた。

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ほむらは広い湯船の中でジッと杏子を見ていた。

引きずられる形で銭湯に連れて行かれたのだ。

 

はじめは断ろうとしたが杏子とゆまは素早い動きでほむらの服をひん剥くと、半ば強引に浴場へと連れて行く。

本気で拒絶しようとすればできたが、こんな事に魔力を使ってどうなると言うのか?

それに断ってどうする訳でもないし、ほむらも女性としてお風呂には入っておきたいと言う思いはある。

 

結果、何も言わずについて行く事に。

時間が時間なのか、客は自分達以外には誰一人おらず。静かなものだった。

 

 

「ねえねえ見て見て、ほむらお姉ちゃん」

 

 

シャンプー中のゆまがほむらの前に立つ。

ゆまは泡の力を使って髪の毛を角の様にしていた。

ほむらはどんなリアクションをしていいか分からず、曖昧な表情を浮かべて頷くだけだった。

そうしていると杏子がゆまを掴む。

 

 

「ほら、目開けてるとシャンプーが入って痛くなるよ。しっかり閉じときな」

 

「あう!」

 

 

ほむらは風呂の椅子にゆまを座らせると、ガシガシと乱暴に頭を洗っていく。

まるで動物を洗うような勢いだが、ゆまもケラケラと笑って楽しそうだった。

その後泡を流して二人も浴槽へ向かう。

 

 

「あ! おいおい、ほむら。アンタ何タオルなんてしちゃってんのさ!」

 

「お風呂の中に入れちゃ駄目なんだよー!」

 

「え……? ちょ、ちょっとっ!」

 

 

杏子とゆまは嫌がるほむらを取り押さえて、体を隠していたタオルを引き剥がそうと試みる。

 

 

「おいおい、いいじゃねーか。貧相な体だろうが何だろうがアタシらなら恥ずかしくないだろ!」

 

「ぐッ!」

 

 

誰が貧相な体だ!

ほむらは杏子を睨みつけるが、胸囲の差を一瞬で悟って沈黙した。

そうしている内にタオルを剥ぎ取られる。ほむらは渋々体を隠す様に体育座りで隅に寄る。

 

その隣に座る杏子。

ゆまは広いお風呂にはしゃいでいるのかバシャバシャと音を立てて泳ぎ回っていた。

体の小さいゆまにとっては、銭湯は丁度良いプール代わりなのだろう。

 

 

「他の人が来たらやめなよ!」

 

「うんー!」

 

 

ほむらはチラリとゆまを見る。彼女がいると言う事は――

 

 

「ところでマミとさやかの事……、なんだけどさ」

 

「え?」

 

 

杏子に話しかけられ、ほむらは意識をそちらに向ける。

それにしても、いつも髪を結んでいる姿が印象的なせいで、髪を下ろした杏子を見るのは新鮮だった。

それも珍しく感傷的で切なげな表情ではないか。

 

 

「アンタにとっちゃ最低な奴等だろうけど、どうか許して欲しいんだ」

 

「……え」

 

 

杏子は自分の過去をほむらに告げていく。

昔マミに憧れ弟子となり、同じく弟子になったさやかとライバルになった。

時に甘え、時に喧嘩し、時に認め合った。杏子にとってマミとさやかと一緒に過ごした時間は宝物とも言える。

 

 

「だけど、まあ……、結局アタシが裏切る形でチームを抜けてさ」

 

 

おかげで固有魔法も使えなくなっちまったと、杏子は自虐的に笑った。

 

 

「馬鹿だろ? 魔法少女が願いの力で手に入れた魔法を拒絶しちまったんだ」

 

「どうして?」

 

「なんて言うか。ガキだっただけさ。自分でもバカだと思うけど、あの時はそれが全てだった」

 

 

杏子は詳細を告げる事は無かったし、ほむらも聞く気は無かった。

分かったのは、先に拒絶したのは杏子。故に彼女はマミ達と対立してココまで来た。

人間いろいろある。それが全てだ。杏子はマミとさやかの事を恨みもしたが――

 

 

「でも…さ、やっぱアイツ等の方が良い奴なんだよ」

 

「………」

 

「もちろんアンタを狙った事は確かだけど、多分アイツ等は心の中で絶対後悔してる筈だから」

 

 

杏子は戻りたいんじゃないだろうか?

自分が世界を滅ぼし、新しくなった世界で再びマミ達と仲良くなって過ごす希望を見ているんじゃないだろうか?

 

本当は今この時間でソレを叶えたいと願っているが、どうにもならない事を知っているから諦めた。

杏子は望みすぎてしまったから諦めた。

 

 

「……なんてのは、都合が良すぎるかい?」

 

「いえ、貴女の言葉はきっと本当だと思う」

 

「悪いね、気を遣わせて」

 

 

杏子は情けないと笑っていた。

しかしふと真面目な表情に変わり、ほむらを見る。

その目に、思わずほむらは怯んでしまった。

 

 

「なに?」

 

「たとえ世界を守るためにアンタを犠牲にしたとして、アンタを殺したと言う事実と記憶は参加者の記憶に刻まれる」

 

 

その状態で再び以前と変わらない生活を送る事はできるのか?

 

 

「できねぇよ。アタシも、マミ達も」

 

 

このゲームは卑劣だ。

ルールを発表した時点で自分達はもう戻れはしないのだ。

以前の様な日々は戻って来ない、つまり幸せになんかなれない。

 

 

「マミの奴も、さやかも、馬鹿みたいに正義正義って良い娘ちゃんさ」

 

 

世界の為にほむらを犠牲にしなければならないと理由をつくって殺したとしても、絶対に罪の意識に苛まれる。

マミもさやかも、そもそも人を守るために魔法少女になった。

希望を胸にした彼女らが他者を犠牲にしなければならない現実にぶつかった時――

 

 

「あいつ等、きっと壊れちまう」

 

「………」

 

「マミの奴は強そうに見えて弱いんだ。さやかも勢いはあるけど、勢いがありすぎて失敗しちゃうんだよ」

 

「よく知ってるのね」

 

「チームだったからね。とにかく駄目なんだ、アイツ等は人を殺して何かを守るって言う考えには向いてない」

 

 

いつか後悔と罪の意識に狂い、壊れ、絶望してしまう。

夢を見ているんだ彼女達は、人を守る魔法少女って存在に。

 

 

「だから……、このゲームは」

 

「私は――」

 

 

杏子の言葉にかぶせる様にして、ほむらが言葉を重ねた。

 

 

「私は、申し訳ないけれど……、負ける訳にはいかないの」

 

 

死ねない理由がある。

ほむらの強い意思を感じて、少し悲しげに杏子は微笑み、頷いた。

 

 

「そうだね、それが一番いいよ」

 

 

それを望んでいる。

杏子はほむらを守り、ほむらへ勝利を捧げる事を約束した。

一度は世界を守ると誓った魔法少女が世界を滅ぼす為に戦うのは、何とも皮肉めいた現実と知りながら。

 

 

 

 

一方の手塚も男湯で佐野と会話を行っていた。

東條はほむらの様に浴槽の隅っこで体育座りである。

 

佐野と手塚が話していたのは、彼らの絶望。

やはり手塚としても佐野達に協力してもらうのは抵抗がある。

と言っても敵対されるのはもっと困るのだが、やはり思うところは色々とあるのだろう。

 

 

「俺にはルールの制約がある。暁美が死ねば俺も死ぬという。でもアンタ達は違う」

 

「いいんだよ。言っただろ? オレ達は絶望してるんだって」

 

 

秘密にしておいてくれ。佐野は念を押して手塚に他のメンバーの絶望を少しだけ話していった。

まずは千歳ゆま。彼女は両親から虐待を受けており、日々を暴力と共に過ごしてきた。

今は落ち着いているものの稀に酷いパニックを起こして泣き叫ぶ時があるらしい。

 

 

「オレ達にはゆまを落ち着かせるだけで他は何もしないし、してやれない」

 

 

東條は無関心な少年だった。

今だってずっと揺れる水面を見つめているだけでピクリとも動かない。

達観している、まるで感情が無い様に。

 

ただ英雄になりたいと言う雲をつかむ様な曖昧な夢をかかげ、どうすれば叶うとも知らない夢に縋っている。東條自身、英雄とは何なのかを知らないのに。

 

杏子は詳しく知らないと佐野は言う。

パートナーとはいえ、互いの事を全て知っている訳では無いのだ。

しかし佐野は杏子の事を何となくだが理解していた。

 

杏子はきっと優しい娘だ。しかしその優しさを杏子自身が否定して、認めていない。

だから苦しむ、苦しんだ先にはより大きな苦しみが待っていると知りながら、そのまま堕ちていく。

 

 

「オレもさ、もう分からないんだよね。面倒くさいって言うか」

 

 

佐野は銭湯で払う料金や、ココに持ってきた石鹸やタオルをどうやって買ったのかを持ち出した。

物を買うには当然金がいる。そして金を手にするには、働かなければならない。

しかしそこには身分や努力、大きな格差が生じているのだ。

 

 

「オレ、こう見えても凄く可愛い彼女がいたんだよ」

 

「……その言い方だと、今はいないのか」

 

「正解」

 

 

佐野は指を鳴らして笑う。泣きそうな顔で笑った。

 

 

「でもさ、彼女は大企業のお嬢様。片やオレは親父に見放された馬鹿息子」

 

 

釣り合う訳もない。まして周りが許す筈もなかった。

今の収入じゃ彼女に苦労させるだけ、佐野の苦悩は深まるばかりだった。

愛があれば何とかなるとか言っている馬鹿をぶん殴ってやりたくなった。

結局愛だけじゃどうしようも無い事はある。

 

 

「金さえあればいいとオレは思ったんだ。金さえあればオレは彼女と幸せになれるって……」

 

 

そんな時に騎士の力を手に入れた。ならば、とるべき行動は一つだった。

早くしなければ彼女の両親が無理やりにでも結婚相手を決めるだろう。

佐野に時間は無い、愛を手に入れる為なら仕方なかったんだ。

 

結果、騎士の力を使って銀行を襲った。

メガゼール達に任せれば驚くほど簡単に金は手に入ったし、警察もまさかモンスターが犯人とは思わずに、佐野にたどり着く事は無かった。

 

 

「今は押入れの中に数億程あるんじゃないかな」

 

「な、なるほど」

 

 

どんな表情をしていいか手塚は分からない。

 

 

「あの時のオレは金があれば何でも良かった。それこそ、人を殺してでも奪えた」

 

「………」

 

「でもオレが馬鹿だったよ。考えてもみれば、そんな金じゃ彼女が喜ぶ訳も無いじゃんねぇ?」

 

 

結局佐野は彼女を泣かせるだけだった。それから彼女との交流も途絶えてしまった。

彼女は――、百合絵は佐野に自首する様に促がしたが、佐野はそれを無視して見滝原に逃げ込む様にして距離を取ったのだ。

 

 

「最低だろ? オレ、今もその金使って生活してるんだ」

 

 

金があるんだからもっとマシな家に住めば良いのに、何故か後ろめたさからか大きく使う事ができない。

警察も警察で金のナンバーやらで自分に辿りつく事はできるだろうに。

結局捜査は打ち切られたらしい。どうやらキュゥべえ達が何かした様だが。

 

 

「みんな、次の世界の方がいいんじゃないかって思ってるんだよ」

 

 

分かるだろ? 佐野はまた泣きそうな顔で笑う。

今が上手くいかなければ次に可能性を賭けるのは当然の事だ。

自分達の今は、自分達が描いていた未来じゃない。むしろ大きくかけ離れている。

 

何のために生きるのか、何を目指して生きるのか。

そして何が楽しくて生きているのか? たまに分からなくなってしまう。

ただ普通の生活で良かった。友達や、愛する者と一緒にいれるなら多くは望まないつもりだったのに。

 

 

「答えが分からないんだよ。オレ達は」

 

「俺だって分からないさ。運命はいつだって俺達を試している」

 

 

佐野は首を振ってうつむいた。

 

 

「逃げたいんだ、辛い今から。そしてそのチャンスがこのゲームにはある」

 

 

世界を巻き込んだリセット。

次の自分はきっと幸せになれると確信を持っていたい。

 

 

「オレには今インペラーの力がある。人は殺せる。魔女やモンスターにだって勝てる」

 

「………」

 

「なのに、百合絵さんに胸を張って好きだといえる自信が無い。彼女が好きなのかも分からなくなってきた」

 

 

手塚は何も言えなかった。佐野を非難する訳でもなく、肯定するでもない。

ただ今の都合の良い展開を喜ぶべきなのだろうか? 手塚もまた何も分からなかった。

 

運命を仕組んだ神は一体自分達に何を望むというのだろうか? 

揺れる水面をジッと見つめる。次の世界には何が待っているのだろう。

 

分からない、誰も。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、それぞれは湯から上がり、着替えを済ませて外に出る。

その中で杏子は、ほむらに茶色の液体が入った牛乳瓶を投げる。

 

 

「何、コレは?」

 

 

ほむらが目を丸くすると、杏子はニカっと笑ってゆまを指す。

 

 

「あんな風に腰に手を当てて飲むんだよ。できるだろ?」

 

「………」

 

 

豪快にコーヒー牛乳を飲み干す杏子。ほむらも吹っ切れたのか真似をしてみた。

それを見て笑う佐野やゆま。東條も表情こそ変えなかったがどこか楽しそうではあった。

 

手塚はそれを見て思う。

次に賭けたいと言うが、今この瞬間の笑顔は偽りでは無い筈だ。

杏子達は本当に再構築を望んでいるのだろうか?

 

ああ、きっと望んではいない筈だ。

しかし隣について回る絶望がどうしようもないほど恐ろしいから望まざるを得ない事になっている。

誰だってそうだろ? 幸せに生きていきたい筈なんだ。

 

 

「………」

 

 

どうすればよかったんだ。何ができるんだ。皆が幸せになればそれでいいだろ?

なのにどうしてそう行かないんだ。どうしてこうなってしまうんだ。

手塚は言い様のない寂しさを感じて足を進めるしかなかった。

 

そう思ってしまうのはきっと手塚が占い師だからだろう。

運命の儚さも残酷さも知っている。運命を変える事は難しい。

故に思ってしまうのだ。もしも再構築が行われたとして、本当に彼らの未来は変わるのだろうかと。

 

それを言うにはあまりにも無責任であるし、どうしようもない。

だから手塚は何も言えなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

「よーし! じゃあ寝るぞ!!」

 

「け、結構早くないか?」

 

 

杏子が言うには、早めに寝るのはゆまが居るからだとか何とか。つまり寝る子は育つと言う事だ。

ゆまは当然もう目を擦っており、杏子は素早く部屋に布団を敷いていく。

 

 

「アンタらは端っこだよ」

 

「ん?」

 

「あ?」

 

「女性で固まればいいじゃないか」

 

「………」

 

「佐倉?」

 

「……」

 

「なぜ無視をする!」

 

 

杏子が言いたいのはつまり一緒に並んで寝ろと言う事でもある。

気まずい、手塚はチラリとほむらを見た。

ゴミを見る様な目で返された。

 

何だって隣で寝るんだ。女は女で固まればいいのに。杏子に言ったが全て無視される。

結局左から東條、佐野、ゆま、杏子、ほむら、手塚の順で寝る事に。

位置がおかしくないか? 手塚は最後まで抗議したが、杏子曰く場所がずれると落ち着いて眠れないらしく、押し切られた。

 

そこまで言うなら仕方ない。

割り切って横になると、手塚は壁の方を向いてさっさと目を閉じる。

 

電気を消して沈黙する一同。

ほむらはぼんやりと天井を見つめながら布団を被る。

佐野の生活上、暖房は無いが、集まって眠ることでソレを防ぐらしい。

現に早速ゆまは佐野か杏子にしがみつき、杏子はほむらと触れる位置で寝ている。

 

 

「………」

 

 

どうしてこんな事に。なんて思ったが――、コレはコレで新鮮かもしれない。

魔法少女はその生態を全て魔法で管理でき、同時にいらない機能を排除する事もできる。

今までは睡眠と言う行動を蔑ろにしていたが、たまには人として人のまま寝てみるのもいいだろう。

 

 

「………」

 

 

ふと、横を見ると、杏子のシルエットがぼんやりと確認できる。

杏子。佐倉杏子。頭の中で名前を思い浮かべると、なぜか唇がつり上がった。

 

何故だろう? 分からないが、今はそれでいい。

ほむらはゆっくりと目を閉じた。もしかしたら良い夢が見られるかもしれない。

想像している以上に疲れていたのか、ほむらの意識はすぐにブラックアウトしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思ったが数十分後。

 

 

「………」

 

「グオオオオオオオオオオオオ!」

 

「………ッ」

 

「フゴォォオオオオオオオオオ!」

 

「………ッッ」

 

「グガアアアアアアアアアアア!」

 

「ッッッ!!」

 

「ウゴッ!」

 

「!」

 

「ブゴゴゴゴゴゴォオオ」

 

「!?!?!?!?」

 

 

寝れないッッ!!

ほむらは思わず血走った目をカッと開いて起き上がった。

すっかり闇に目が慣れ、部屋に差し込む僅かな月明かりで全てを確認する事ができた。

 

寝始めの位置から動いておらず、まるで死んでるんじゃないかと思うほど大人しい東條。

頭を佐野の胸に思いっきり乗せているゆま。

そして何よりも大いびきをかいて寝ている杏子!

こんな爆音で寝むれる訳がない、ほむらは瞬時に杏子の鼻を塞ぐ事に。

 

 

「うぐぐぐぐッッ!」

 

「………」

 

 

ほむらはジタバタと苦しむ杏子を見て尚、行為を続けている。この女なかなかのドSかもしれない。

しばらくそうやった後に手を離す。しかし手を離した瞬間に再び訪れる狂気の爆音。

 

 

「チッ!」

 

 

ほむらは拳銃を抜こうとして、一旦手を止めた。

いけない、いけない。せっかく協力してくれると言っている仲間を蜂の巣にするのはナンセンスだ。

ほむらは拳銃をしまうと杏子に背を向けて目を閉じる。

 

 

「グビィィイィイイイイイィィイイイイ!!」

 

「ッッッ!!」

 

 

眠 れ る か!

ほむらは諦めて、魔法で強制的に寝オチしようと決めた。

 

 

「?」

 

 

そこでほむらは隣に手塚がいない事に気づく。

どこへ行ったんだろう? 少し気になって、辺りを見回す事に。

狭い部屋だ。トイレにも明かりがついていない事を考えると。

外にいるのかもしれない。

 

 

「………」

 

 

もしかしたらこの場所を他のプレイヤーに知らせている可能性もある。

なんて考えすぎか? しかし気になると余計気になってしまう物だ。

ほむらは立ち上がると、外を確認するために玄関に向かう。

 

 

「!」

 

 

季節は冬だが風が全く吹いていないおかげで涼しく、心地良いくらいかもしれない。

巨大な月が放つ光りは夜の街灯と合わさって、周りの景色をよく映してくれる。

その中でほむらは、アパートの前にある公園で本を読んでいる手塚を見つけた。

 

 

「………」

 

 

無音の世界。見える人は、手塚だけ。

もしも世界が滅んだらこんな光景になるのだろうか?

それを考えると何故か強烈な孤独感に襲われてしまった。

だからほむらは手塚に声をかける。

 

 

「寒くないの?」

 

「!」

 

 

手塚は驚いた表情で振り返る。

しかしすぐに笑みを浮かべると、座っていたベンチの端に寄る。

ほむらは少し距離を空けつつも、しっかりと隣に座って手塚を見た。

本の内容は予想通り占い。隣には無糖の紅茶の缶が湯気を立てている。

 

 

「紅茶……」

 

「ん? 飲むか?」

 

 

手塚は立ち上がり、すぐ隣にあった自販機から同じ紅茶を買ってほむらへ差し出した。

ほむらも断る理由はない、紅茶を受け取ると礼を言った。

紅茶。コレを見ると色々思い出してしまう。しかしほむらは頭に浮かぶ『姿』を振り払う様に首を振ると、紅茶を一口含んだ。

昔飲んだものよりは、美味しくないような気がした。

 

 

「……ところで、どうして外に?」

 

「同じ理由で出て来たんじゃないのか? アレはもはや武器だな」

 

 

なるほど、納得だ。

どうして佐野やゆまがアレで起きないのか理解できない。

高架下よりうるさいと賭けても良いくらいだ。

 

 

「全く、とんでもないよアレは」

 

「ええ、確かにね」

 

 

ほむらの声が軽くなったのに手塚は気づいた。

少しはパートナーとして信頼してくれているのだろうか?

 

 

「………」「………」

 

 

とはいえ、お互い何を話せばいいのかよく分からない。

友達でもなければ恋人でもない二人は、パートナーというルールの上に成り立った関係なのだ。

近くて遠い不思議な間柄とも言える。

 

 

「あなたは世界が滅んでも良いと思っているの?」

 

「………」

 

 

無音の世界で二人は言葉を交わす。

二人の放つ音だけが世界にはあった。

 

 

「俺の事は気にするな。俺はお前のパート――」

 

「はぐらかさないで」

 

「………」

 

「貴方の本音を聞かせて欲しい」

 

 

ほむらの言葉に手塚は言葉を止め、遠くを睨んだ。

だがすぐに頷くと、遠くを見たまま昔話を一つしてみる。

それは端的なもの。友を守れず、運命と言う都合のいい言い訳に縋り。そして後悔を抱える哀れな男の話しだった。

 

ほむらには、哀れな男の気持ちが少しだけ分かってしまった。

端的に聞いただけだが、その根本は同じものがある。

そうか、そういう事か。ほむらは何故手塚がパートナーになったのかを理解した。

 

 

「俺がお前のパートナーに選ばれたのは、きっと偶然なんかじゃない」

 

 

必然だ。運命がそれを仕組んだ。

手塚は佐野が浮かべていた笑みと同じ物をほむらに見せた。

運命がどうとか言ってるが、手塚はその運命から誰よりも目を背けたかった。

 

手塚は今ここに自分がいる意味をよく分かっていない。

理由がなければソレは死んでいるのと同じだ。つまり手塚は半分死んでいる。

死んでいるというのは世界に足をつけていないと言う事だ。

 

だから手塚はほむらの味方になった。

少し声が震えている。

死を直視するのは怖かった。

 

 

「お前に気を遣う訳じゃない。俺は俺の意思を試されているんだろう」

 

「どういうこと?」

 

「今までの俺は酷く滑稽だった」

 

 

運命を恐れた故に、運命に少しでも近づける占い師を目指した。

知らない事は罪であり、同時に大きな恐怖へと変わる。

故に手塚は占い師になった。恐怖を断ち切る為、わざわざ高校まで辞めて。

それは夢に向かってひたむきに歩む希望いっぱいのストーリーじゃない。強迫観念に支配された愚か者の逃走だ。

 

その中で、手塚はいつしか自分自身の意思を軽く見ていたのかもしれない。

運命は決まっている、だから少しでも良い結果になる様に行動を探す。

探求の先にある探求。占いとは答えのない物だが、答えを出さなければならない。

 

 

「俺はいつの間にか自分の考えを持つ事を恐れ、止めていた」

 

 

運勢がよくなる行動を。

運勢がよくなる発言を。別れ道で迷っても、自分の意思ではなく占いで道を決める。

自分が右を選びたくても左に言った方がいいと結果が出れば、迷わず左に行く様になっていた。

たとえ左に自分が望むものが無かったとしても。左に進みたくなかったとしても。

 

 

「そんな俺が、占いじゃどうしようもない場面に出くわした」

 

 

彼の本心だろう。

占いと言う物は、ある種の枷となり、同時に本心を隠す仮面へと変わっていた。

そんな手塚が仮面を外さなければならない状況に陥る。

 

 

「お前のパートナーになった時だ」

 

「そう……」

 

 

世界を滅ぼすか? それとも暁美ほむらを殺すか?

手塚は自分の意思で答えを決めた。

 

 

「俺はお前を守りたい。頼りないかもしれないが、それは許してくれ」

 

「いえ……、助かるわ」

 

 

ほむら思う。手塚は自分と似ていた。

まして、申し訳ない話だが一瞬手塚が可哀想に映ってしまった。

悪い意味じゃない、気の毒な立場にあると言う事だ。

守れず、それを悔やみ、繰り返さないようにしている内に本心を偽るようになる。

 

結果が全てと知ってしまい、行動に制限をかけて必死に抗ってきた。必死に足掻いてきた。

なのに待っていた結末がコレだ。ほむらを守らなければ死に、そして守れば世界が消えうせる。

手塚は守りたかった者を再構築してほしいから、ほむらを守るのだろうか?

それとも、もう終わりにさせたいから世界を壊すのだろうか?

 

 

「………」

 

 

ほむらは何となく理解していた。

ほむらがそう思ったと言う事は、手塚だって同じのはず。

 

 

「お前、俺の事を可哀想とか思わなかったか?」

 

「えっ!」

 

「アタリか」

 

 

手塚は呆れたように目を細めた。

 

 

「俺も昔はいろいろ考えたが。今はそうでもない」

 

「そ、そう」

 

「そうだ。運命って言葉は、なかなか便利って事に気づいてな」

 

 

この状況も運命、自分達が出会ったのも運命、これからも運命。

 

 

「便利ね」

 

「だろう? お前もそうさ」

 

「え?」

 

「少し運が悪かっただけだ」

 

 

手塚はその一言で全てを終わらせる。

運勢が悪い人を導くのが占い師の役割だ。

何よりも暁美ほむらのパートナーとして選ばれた一人の人間としての決断。

 

 

「俺はお前の味方だ。お前がどんな考えだったとしても、どんな人間だったとしても」

 

 

ほむらは無言で頷いた。

 

 

「似ているわね、なんとなく」

 

「光栄だよ」

 

「どうだかね」

 

 

二人は同時に紅茶へ口をつけた。何となくだが手塚は安心できる気がする。

ほむらの心に少しだけ余裕ができた。完全に信頼した訳では無いが、頼る事も可能なんじゃないか? そんな気がした。

 

 

「そろそろ寒くなってきたな。戻ろう」

 

「ええ。いびきが止まっていればいいけど」

 

 

笑う手塚。

本当にアレはもう冗談で終わりにして欲しい。

 

 

「お前はいいよな、魔力を操作すれば勝手に眠れるんだろ?」

 

 

それはそうなのだが、少しほむらとしては引っ掛かるものがある。

思わず後ろから不機嫌そうに反論を返した。

 

 

「ちょっと待って。人間らしく生きろと言ったのは貴方よ……!」

 

「あれは別だ、あれは別にしよう。佐倉のイビキばかりはどうしようもないからな。運命だ」

 

「……案外、適当なのね」

 

 

少しだけほむらは笑みを浮かべた。

手塚の後ろに居たから、手塚がそれを確認する事は無かったが。

そうして二人が部屋に戻ると、杏子はすっかり静かになっておりスースーと静かな寝息を立てていた。

 

 

「良かった……」

 

「今のうちに寝よう。いつまた音が鳴るか分からない」

 

 

二人は並んで布団にもぐりこむ。

暖かい。先ほどまで外にいたから、より強く感じる。

 

 

「むにゃむにゃ」

 

「あ……!」

 

 

そこで杏子が寝返りをしてくる。

ほむらを寄り添う形になった。しかも抱き枕と勘違いしているのか。ギュッとしがみ付いてくるじゃないか。

 

 

「……こ、困るわ」

 

「いいじゃないか、その方が暖かいだろ」

 

 

手塚は壁にグッと寄り、少しでもほむらのスペースが広くなる様にしてくれた。

申し訳ないと礼を言う。そこで少し彼女の心に余裕が生まれたのか、ある申し出を。

 

 

「なんなら、貴方も寄り添う?」

 

「は? 冗談だろう?」

 

 

目が慣れてきた。

手塚がほむらを見ると、少し笑っている様な気がする。

ドSじゃないか。とんでもないヤツがパートナーになったかもしれない。

手塚はため息をついて、より壁に身を寄せる。

 

 

「おぃゆまぁ! ソレはアタシのたい焼きぁ……、むにゃにゃ」

 

「!!」「!?」

 

 

寝ぼけているのか、杏子は声を上げてズイっと移動する。

寝返りではなく移動に近い行動。手塚の方を向いたままのほむらを押し出す形となった。

抵抗しようともしたが杏子の力が強く、結局ほむらは手塚と抱き合うように密着する。

 

 

「……!」

 

「お、おい……。嘘だろ?」

 

 

手塚も離れようとするが杏子がグイグイ押してくる為に身動きが取れない。

まさか冗談のつもりで言った事が本当になるとは。なんだか気まずいものである。

 

 

「悪い、離れるよ」

 

「いえ、私が離れるわ」

 

「んがー!」

 

 

再びガッシリと杏子にホールドされる。

しかも杏子は腕を思い切り伸ばしている為、ほむらだけじゃなく手塚までホールドである。

ちょっとやそっとじゃ離れない。

 

 

(……コイツ本当に寝てるのか?)

 

(うおっと、ちょっと強引すぎたか?)

 

 

手塚の読みは大正解である。

杏子は最初からずっと起きていたのだ。いびきをかいたのも全て計算である。

アパートを出てから、戻ってきた二人の雰囲気は少し柔らかくなった気がする。

 

 

(アタシ、空気読みすぎじゃん。表彰レベルだねコレ)

 

 

もっと仲良くさせてやる。杏子はそんな訳で今の状況を作り上げたのだった。

どう考えても手塚にとってはサービスのはず。明日飯でも奢らせようかな?

杏子はニヤリと笑って、すぐに無表情に戻った。

 

やはりこんな状況だ。

ほむらには手塚を信じてもらって仲良くしてほしい。

パートナーは最後まで信頼できる関係の方がいいだろ?

 

 

そして五分後

 

 

「ぐぅ」

 

「スー……スー」

 

 

本当に寝てしまった杏子とほむら。

しかし一人だけはそうもいくまい。

 

 

(まいったな)

 

 

なんとか横向きから仰向けにはなれたが、相変わらず腕にはほむらがしがみ付く形で寝ている。

自分を枕とでも思っているのか、手塚はこれ以上動けない状況に焦っていた。

銭湯にいったおかげで触れているとほむらからは暖かく良い匂いが。

 

手塚も男だ。流石にこの状況には緊張してしまう。

とは言えほむらは一瞬で寝てしまったのが何とも複雑と言うか何と言うか。

 

 

(本当にまいったな、これも運命か……)

 

 

カッコつけているが要するに気まずい。正直、ちょっと嬉しい。

手塚は複雑な想いを抱えてため息をついた。

チラッとほむらを見てみるが、寝顔は普通の少女そのものだ。

 

こんな少女の背中に世界の生き死にが掛かっているとは。

何ともまあ、やり切れない物ではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【三日目】【世界崩壊まで残り120時間】【残り参加者22名】

 

 

 

 

 

ここは……、どこだ?

 

 

「――ん」

 

 

俺は確か。

 

 

「――さん!」

 

 

俺は確か、朝目覚めて――?

 

 

「北岡さん!」

 

「え……?」

 

 

パシャパシャとカメラのフラッシュが目に飛び込んでくる。

あまり好きとは言えないが、俺の魅力を世に伝えるためだ。

少しくらいは我慢してやろうじゃないか。

 

 

「本日で4連敗ですが、敗因は何にあったと思いますか?」

 

「え?」

 

 

ああそうだ、俺は負けたんだったな。どうして負けたんだっけ?

 

 

「ああ、裁判官達がどうにもお固くてさ。ありゃ駄目だね」

 

 

弁護プランは完璧だった。なのにどうして負けたんだろうか? 思い出せない。

そう言えば弁護プランが書いた紙はどこにしまったっけな? そうか! 敵の弁護士が俺のプランを盗んだんだったな!

だから負けたんだった、俺は完璧だった。俺が負ける筈ないじゃないか!

 

 

「俺は勝ったよ。何言ってんのさ、おくたらは」

 

「え……?」

 

 

そうだった、俺は負けないんだった。

 

 

 

 

 

 

 

朝は冷える。

目覚めた杏子は石油ストーブをつけて部屋を暖かくしていた。

目を擦りながら起き上がるゆまと佐野。東條は黙々と起きて布団を片付けていた。

 

ほむらも、やがてぼんやりと目を覚ます。

体を起こせば隣にはうな垂れている手塚が。

二人は杏子に促がされて一緒に布団を片付ける事に。

 

 

「どうしたの? 酷い顔ね」

 

「……ああ」

 

 

手塚は頭をかいて洗面所へ向かう。その後みんなで一緒に朝食をとって、顔を洗って歯を磨く。

これからの事は分からないが、とりあえず時間が来るまでココにいればいいと佐野達は笑っていた。

 

 

「そうだ、アンタちょっと付き合ってよ」

 

「?」

 

 

杏子は手塚を呼んで外の公園にやってくる。

 

 

「小さい公園だろ? ショボイよな、自販機くらいしかない」

 

「それで、用件は?」

 

「……聞きたいことが一つあるんだ。大事な事さ」

 

「何を――……!!」

 

 

振り返った杏子は魔法少女へ変身。己の武器である槍を手塚の喉元に突きつけている所だった。

あまりの速度に対応できなかった。槍の先端についている刃は。杏子が少しでも力を入れて突けば簡単に手塚の喉を突き破るだろう。

 

 

「驚かせて悪いね。でも今後仲間としてやっていく上で聞きたい事がある」

 

「ああ」

 

 

手塚は焦らない。

むしろ笑みを浮かべてみせる。対して杏子も挑発的な笑みを向けた。

 

 

「アンタさ、本気でアイツを守ろうと思ってる?」

 

 

これが杏子にとってはラインだった。

手塚と言う人間を杏子は評価したかったのだ。

標的にされた少女のパートナー、彼は敵か味方か?

 

 

「ああ。俺は暁美を守る」

 

 

即答だった。

杏子としてはパートナーの手塚がほむらにとって一番の味方でなければならないと思っている。

故に手塚はほむらを本気で守らなければならない。でなければほむらが気の毒だ。

 

 

「孤独は人を狂わせるよ?」

 

 

だから手塚だけはどんな時でも味方でいてほしい。

恐らくほむらとはまだ交流がないのだろうが、それでもパートナーに選ばれた事を重んじて欲しい。

 

 

「分かってるさ。それに、人を狂わせるのは孤独だけじゃない」

 

 

時間、理想、嫉妬、現実、友情、愛情。

全ての感情や、明確に形無い存在は、人を良い意味でも悪い意味でも変化を促がす。

 

時間経過と狂気は背中合わせでもあると手塚は考えていた。

そして今、暁美ほむらを取り巻くのは『環境』と言う存在だ。

F・Gと言う舞台がつくる環境、ルール、そして結末には狂気が存在していた。

 

 

「俺に何ができるのかは分からない。だが俺はアイツを狂気には沈めない」

 

 

人は、人であるべきだ。

神? 魔法少女? 騎士? 存在と環境は、人を人で無くそうとしている。

だが手塚は知っていた。人はどんなに進んだとしても人の枠に収まっている。

 

 

「この先に起きる環境、現象は容赦なく暁美ほむらを蝕んでいくだろう」

 

「かもね。アタシも分かる」

 

「だから俺はアイツを守る。もう二度と、運命を恨みたくは無いんだ」

 

 

独りよがりなのかもしれない。

結局、暁美ほむらを守ると言う事で自分を律する行為かもしれない。

だがそれでも手塚はほむらを守ると誓った。故に世界を敵に回す。

 

 

「悪いが滅ぶぞ、この世界は」

 

 

それは、ほむらを勝利させると言う意味である。

 

 

「………」

 

「これは占いで見た未来じゃない。俺自身が望む結末だ」

 

 

頷く杏子。

すぐに槍をしまって変身を解除した。どうやら手塚の事を信じてみるようだ。

 

 

「合格だよ手塚」

 

 

杏子はスッキリしたように笑い、ポケットに忍ばせておいたポッキーの箱を取り出して一本薦める。

 

 

「くうかい?」

 

「あ、ああ」

 

 

了解すると同時に、杏子は手塚の口にポッキーを強引に突き刺した。

 

 

「間抜けな顔だね」

 

 

杏子はケラケラと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、佐野のアパートの中。

出て行った杏子と手塚は何を話しているのだろうか?

ほむらは外の様子が確認できないか探ってみるが無駄だった。

そうしていると、ゆまが駆け寄ってくる。どうやら佐野がお茶を淹れてくれたらしい。

 

 

「はい、ほむらお姉ちゃん!」

 

「……ありがとう」

 

 

お礼を言う。

ほむらは手を伸ばしてゆまからお茶を受けと――

 

 

バチュン!!

 

 

「……え?」

 

「――ッ」

 

 

その時だった。破裂音の様な音がして、ほむらの手を何かが掠めたのは。

衝撃が風を切り裂き、ゆまの小さな額に風穴を開ける。

血が吹き出した。ゆまはうつ伏せに倒れて動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい! 何だ!?」

 

「クッ!!」

 

 

杏子と手塚が部屋に戻ってきたのはすぐの事だった。

銃声が聞こえ、すぐに駆けつけたのだが――

 

 

「う、嘘だ……ッ!」

 

「ッッ!!」

 

「嘘だぁアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

杏子は血相を変えて、靴も脱がずに走り出す。

だがそうした所で何も問題は無い。なぜなら畳は既にボロボロで血塗れだったから。

 

確認できるのは破損した天井と床に転がっている三つの死体だ。

ゆまは眉間から血を流して倒れており、佐野と東條は全身がボロボロで事切れていた。

そして三つの死体の奥では大量の返り血を浴びて放心状態になっているほむらがへたり込んでいる。

 

 

「暁美ッ!!」

 

 

手塚はすぐに彼女に駆け寄ると怪我が何かを確認する。

ほむらは唇を振るわせて何かを言おうとするが、言葉が出ない。

 

 

「大丈夫だ、落ち着け。何があったんだ……?」

 

「そ、それが――、私もよくッ」

 

 

途切れ途切れになりながら、ほむらは起こった事をありのままに伝える。

突如衝撃と音がして、気がつけば三人が死んでいたと。

 

 

「ゆまッ! ゆまぁアアッッ!!」

 

 

杏子は小さい体を抱きしめて、虚空を睨みつける。

その表情と殺気は人間が出せるものではない。

ある意味で化け物と言っても差し支えない形相だった。

杏子は怒りに震え、ゆまの体を強く抱きしめる。ゆまが流した血が全身につくのも構わず。

 

 

「許さねェ……! 絶対に許さねぇぞッッ!!」

 

 

ゆま達の傷。注目するべきはやはり眉間にある『跡』だ。

それを見れば犯人が何の武器を使ったかは想像がついた。

だからこそ杏子の怒りは何倍にも膨れ上がる。

そうだ。この傷は『銃』でつくった物だ。銃を使い、こんな事ができる者を杏子は一人しか知らなかった。

 

 

 

「マミぃイイイイイイッッ!!」

 

「お、おい!!」

 

 

ゆま達の体が粒子化して消え去った。

杏子の手を滑り落ちる様に消えた仲間。気がつけば扉を蹴破って、地面を蹴る。

魔法少女となった杏子はソウルジェムに込められた魔力を解放。

同じ魔力の波長を探った。

 

 

「許さねェ! マミッッ! アイツゥウァアア゛ッッ!!」

 

「ぐッ! 佐倉……!!」

 

 

仕方ない。手塚はほむらを抱き起こすと、杏子の後を追った。

エビルダイバーを使えば合流は難しいものではない。

しばらくすれば杏子の姿が嫌でも目に付いた。

 

赤い菱形が連なった鎖が魔法結界を構築し、それは中に杏子が居る。

魔法結界はゲーム参加者以外は確認する事ができず、まさにそのフィールドは外界から隔離された場所。

 

 

「………ッ」

 

 

そこで立ち止まる手塚。

ほむらを連れてここまでやって来たは良いが、中に入る意味があるのだろうか?

当然あの中では戦いが起きている訳であり、それはほむらを危険に晒す事にも繋がる。

杏子には申し訳ないが、自分が一番に優先する事は暁美ほむらの護衛だ。

ココはむしろ離れるべき。魔法結界を見つけて集まって来る参加者もいるだろう。

 

 

「行きましょう」

 

「!」

 

 

だが、ほむらは手塚にハッキリとそう言った。

 

 

「理由を聞いても良いか? 意味は分かるだろ?」

 

「ええもちろん。でもッ、行かなければならないのよ」

 

「なぜッ?」

 

「それが私の役割である気がする。危険なのは百も承知よ」

 

 

しかしココで逃げずに勝っても腑に落ちないものがあるのは事実だった。

ほむらは自分の姿をせめて参加者に見せ、その上で逃げ切ると言った。

しかし手塚としてはイエスとは言えない事だ。精神論を持ち出されても困る。

 

このゲームは遊戯じゃない。

本気で勝ちに行くためには姿を晒すにはあまりにも危険すぎる。

だが、それでもほむらは口を開いた。

 

 

「それに、私は死なないわ」

 

「っ? 何か作戦があるのか?」

 

 

ほむらはしっかりと頷いた。

 

 

「だって、守ってくれるんでしょう? 貴方が」

 

「……!!」

 

 

なかなかズルイ女ではないか。手塚は笑みを浮かべて強く頷く。

同時にデッキを、ソウルジェムを突き出す二人。

ほむらは手塚の構えを鏡に映したように、逆のモーションで変身を行った。

 

 

「行くぞ! 変身!」

 

「ええ」

 

 

せめて杏子だけは止めたい。

いくら杏子が強いとは言え、多人数では分が悪い。

とりあえず杏子を連れてほむらの能力で逃げると言う作戦を立てる。

魔法結界の中に足を踏み入れる二人、そこには予想通りの光景が広がっていた。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

怒りに心震わせ、叫びながら多節棍を振り回す杏子。

既にいろいろな傷が見え、血も流していた。

 

 

「ッ!」

 

 

マミとゾルダは攻撃を回避しながら銃撃で応戦している。

やはり彼女達が犯人だったのか? それは分からないが、どうやら向こうも本気で杏子を殺す気らしい。

 

ゾルダの持っているギガランチャーから放たれる弾丸は、冗談では済まない威力だ。

手加減しているのならまだしも、着弾時の爆発範囲は明らかに力を込めている威力だった。

 

 

「杏子! いい加減に諦めたら!?」

 

「ふざけんなぁあああああああ!!」

 

 

さやかが投擲するサーベルを多節棍を振るって打ち落とす。

ジャラジャラと鎖の音が響く中で、青と赤の視線がぶつかり合う。

風を切り裂きながら切りかかって行くさやか。杏子は多節棍を槍に戻すと、真正面から武器を打ち付け合う。

 

 

「どうして……! どうしてだ! 子供にだけは手を出さないって思ってたのにッ!!」

 

「ッ?」

 

 

杏子の目には涙が浮かんでいた。

一方で戸惑いの表情を見せるさやか。

 

 

「子供? アンタ何言ってんの――?」

 

 

すると杏子の背後にオーディンがワープで出現、

手に持っていたゴルトセイバーで背中を切りつける。

 

 

「ぐァアッッ!!」

 

「――ヒッ!」

 

 

杏子の背から血が舞い、ダメージからか膝をつく。

しかし一番怯んだのは何故か攻撃を当てたオーディンだった。

剣を地面に落とすと、腕と足を震わせて後退していく。

どうやら血を見てしまい、怖くなってしまったようだ。

 

 

「こ、こんなに威力があるなんて知らなかったんだ……!」

 

「ちょっと恭介……ッ!」

 

 

さやかの心配そうな表情がオーディンには違う様に写ったらしい。

さやかに責められているものと錯覚してしまい、必死に弁論を行う。

 

 

「ッ、仕方なかった! 先に襲い掛かってきたのは彼女のほうだ! キミが襲われていたじゃないか!!」

 

 

だから助けた。

傷つけるつもりはない、でも杏子は血を流した。

違う、それは不本意だ。責めないでほしい。

 

 

「ぼ、僕は……! 僕は悪くない――ッ! 先に襲ってきたのは佐倉さんなんだから、ぜ……んぶ! 全部彼女が悪い!!」

 

 

僕をそんな目でみないでよさやか。

むしろキミは僕にお礼を言うべきじゃないのか?

なのに、なのに、なのにどうしてキミはそんな目で僕を見るんだ!

あぁ、どうして! キミはいつだって僕の味方だったろう!?

 

 

「うるせぇええッッ!!」

 

「う、うわぁあ!」

 

 

杏子は歯を食いしばって立ち上がると、ガタガタと震えていたオーディンに槍を投擲。その黄金の鎧に傷を作る。

痛みは軽いものの、攻撃を受けた事を理解してかオーディンはパニックに陥った。

いくらデッキが強くても、心が不安定ならばその力を発揮するには至らない。

 

上条恭介は普通の人間である。

今まで楽器だけを見ていた彼に、戦いの運命は少し過酷だったろうか。

それは仕方ないことなのだ。楽器を持つ手で武器は持ちたくない。

 

 

「恭介――って、うわっ!」

 

 

さやかが跳ねる。

ゾルダの放った弾丸が、杏子ではなくさやかに飛んできたのだ。

 

 

「ちょっとセンセー! ちゃんと狙ってよッ!!」

 

「北岡さん……ッ?」

 

 

マミは隣にいるゾルダに注意を促がす。

どうにも最近彼の調子が悪い。スーパー弁護士と呼ばれていた面影はもう無いくらい連敗しているし。それに何か会話中も変な違和感を感じる。

 

 

「あ、ああ。ちょっと手元が狂っただけだよ」

 

「そう――、ですか。ならいいんですけど」

 

 

ゾルダは再び銃を杏子へ向ける。

 

 

「………」

 

 

虫だ。虫がいた。

俺は虫が嫌いだ、触るもの嫌な程きらいだ。

だから殺虫剤をいつも使っている。殺虫剤はこんな形だったか?

まあいい、とにかく早く死んでもらわないと。

 

あれ? おかしいな、当たらないぞ。成程、アイツは中々素早い虫らしい。

もっと大きな殺虫剤がないと駄目だな。でかいでかい殺虫剤ならアイツは死ぬぞ。

だがそんな物どこに売っている?

虫を殺すには殺虫剤がいるぞ。それはどこに売っているんだろうか?

待て、お金はどこだ? いかん、財布が盗まれた。

俺の財布、ちくしょう、財布がないとお金が無い。

 

 

「そこまでだ!」

 

「!」

 

 

そこでライアが飛び込んでくる。

まずゾルダに掴み掛かると、そのまま押し倒して地面を転がった。

その勢いで立ち上がると、次はマミへ接近。次々に蹴りと拳を繰り出して動きを封じていく。

 

 

「貴方はッ!!」

 

「佐倉杏子は殺させない!」

 

 

勝手な都合だ。どうせ期限がくれば杏子も死ぬのに。加えて死んだゆま達も生き返るのに。

だがそれでも手塚とほむらはココで杏子に死んで欲しくなかった。

自分達の味方を減らしたくないと言う思いもあるが、何よりも杏子の為に。

 

 

「はぁッ!」『スタンベント』

 

 

打撃の攻撃に雷を纏わせるスタンベントを発動し、ライアはマミの肩を殴りつける。

少女を殴るのは躊躇する事ではあるが、今はそんな事を言っている場合じゃない。

マミもマミで奇襲が効いたのか、ガードこそするが攻撃をまともに受けてしまった。

体が帯電し、動きが鈍る。その隙にほむらが能力を発動、時間を停止すると杏子の肩に手を触れる。

 

 

「!」

 

「今のうちに逃げましょう」

 

「アンタ――ッ、なんで来た!?」

 

「いいから。今は逃げるわよ。話しは後で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姿を見せたな、暁美ほむら」

 

「!!」

 

 

ほむらの足に出現する鞭。静止した時間の中で声が聞こえるのは、体に触れていると見なされているから。

またこのパターンか。うんざりした様にほむらはため息をついた。

 

しかしココに来る時点で予想できていた事かもしれない。

ほむらは時間停止を解除すると、銃を構えて目の前に現れた魔法少女と騎士を睨む。

 

 

「わざわざ敵がいる所に突っ込むとはな。キミは馬鹿なのか?」

 

「はぁ、そうかもしれないわね」

 

「あら、認めるの?」

 

 

雷を纏いながら現れた浅海サキとファム。

ほむらもターゲットである事には変わりないが、まずは何よりもとマミ達を激しく睨みつける。

しかしすぐに嘲笑の笑みを浮かべる。サキはマミと何度か対峙していく中で、マミから正義についての自論を聞かされた。

 

貴女の家族を奪った責任は取る。

もう二度と悲しみが生まれない様に魔法少女として戦い続ける。

そんなお手本のような『きれいごと』だ。

 

「全ての人を守るとキミは言ったね。だが、今のキミは暁美ほむらを殺そうと必死だ」

 

「……ッ!」

 

 

青ざめるマミ。

しかしすぐにさやかが前にたち、マミを庇う。

 

 

「アンタだって暁美ほむらを殺そうとしてるんでしょうが!」

 

「ハッ! 当然だ!」

 

 

サキはそう言って電撃を発射。

マミ達を巻き込みつつ、ほむらを狙う。

 

 

「くっそォオッ!!」

 

 

ほむらに抱えられていた杏子が急に前に出た。多節棍を振り回すと、雷を散らそうと試みる。

さらにピリピリした状況が続く中、新たなる参加者の姿が追加される。

 

それは高笑いと共に現れた紫。

彼は飛び上がると、体を捻ってドロップキックをライア達に向けて繰り出した。

 

 

「ハハァ!!」

 

「ッ!」

 

 

いち早く気づいたライアがゾルダを蹴り飛ばして回避を行う。

紫の騎士・王蛇は、離れたゾルダに狙いを絞り容赦なく蹴り飛ばした。

 

 

「うがっ!」

 

「アァァァァア……!」

 

 

誰も会った事の無い王蛇の登場で場は沈黙する。

王蛇はゆっくりと首を回して一同を確認。

そして苛立ちを込めた声でゆっくりと言葉を放つ。

 

 

「クセェ! お前等からは糞の臭いがするぜェぇえ……!」

 

 

王蛇はソードベントであるベノサーベルを構えて一気に走り出す。

混乱する一同だが、彼もまた参加者である事には変わりない。

当然ほむらを狙う物だと思っていたのだが――

 

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

「うガァッ!! ぐぅつッ!!」

 

 

王蛇は倒れたゾルダに狂った様に剣を当てていく。

何故!? マミはすぐに王蛇を止め様と声をかけるが、王蛇に対しては無駄の様だ。

そもそも会話をする気が無いのか、マミが何を言っても返事が無い。

 

しかしそれは沈黙ではなかった。

王蛇はしきりに『臭い』の事を言っている。

 

 

「臭ぇ、クセェ! 臭いんだよッッ!!」

 

 

殺せば良い。殺せば臭くなる。臭ければ臭くなくなる。

王蛇は意味不明な事を連呼しながらゾルダを攻撃する。

 

 

「意味が分からない!」

 

 

こうなっては仕方ない。

マミはパートナーを守るため、王者の肩に向けて弾丸を発射した。

 

 

「アァァァア! 何だお前ェェ?」

 

 

火花が散る。糞尿の酷い匂いが王蛇の鼻をついた。

 

 

「お前も糞の臭いがする」

 

 

王蛇はサーベルをマミに向けてゆっくりと近づいてきた。

その狂気に、マミも本能で危険を感じる。

普通じゃない。王蛇には一体何が見えているのだろう?

 

同時に王蛇のクラッシャーが展開され、まさに牙の様に変わった。

笑みとも言える表情を浮かべて王蛇は足を進めて行く。

 

 

「食ってやるよォ、臓物全部引きずりだしてなァァ!!」

 

「ヒッ!」

 

 

マミは涙を浮かべる。意味が分からなかった。

魔法少女と騎士なら協力すればいいのに、どうしてそんな事を言うのか。

その時だ。マミを飛び越えて王蛇へ向かう者が一人。

 

 

「浅倉ァアッッ!!」

 

 

連続猟奇殺人犯、浅倉威。それが王蛇の正体らしい。

それを見抜いたか。知っていたのか。とにかくファムは我を忘れて向かっていく。

美穂の家族は全員浅倉に殺された。それも人間の尊厳を無視したかのような残酷なやり方でだ。

 

 

「アぁァア! ココには糞の臭いのする奴しかいねぇのかァァアア!!」

 

 

王蛇もまた怒りに任せてファムの剣を受け止める。

クセェ、狂いそうだ、だから早く臭いを消すしかない。

王蛇は訳の分からない事を連呼して剣を振るう。

 

それをへたり込んで見つめるマミ。違う、何かが違う。マミは頭を抱えて俯いた。

こぼれる涙。自分が魔法少女になったのは幸せを守る為だ。人を救い、町を守り、世界を守る。それが望んでいた姿の筈なのに何かが違う。

 

望んでいた姿が音を立てて崩れていく。

見ればサキやさやか、オーディンは、杏子とほむらを殺そうと奮闘している。

あれも違う。あんな景色があって良い筈がない。

自分達は手を取り合う事はあっても、傷つけあう事はあってならない!!

 

 

「駄目なのよッ!!」

 

 

しかし暁美ほむらを殺さなければマミ達が終わるという事実。

天秤にかけるのは世界中の命か、それともほむら一人の命か。

そんなの答えなんて決まっているじゃないか。ほむらを殺せばいいだけの話しだ。

 

マミは立ち上がるとフラフラとした手で銃を構え、ほむらのソウルジェムを狙う。

経験の賜物なのか。こんな不安定な精神の中でさえ標準はブレない。

一撃で終わらせれば痛みもなく、恐怖も感じないまま送ってあげられる。

 

 

「………!」

 

 

その時、マミとサキの視線がぶつかり合った。

サキは可哀想な物を見る目でマミを見つめると、口パクで文字を作っていく。

 

 

(酷い顔だな)

 

「………」

 

 

手を離し、銃を落とす。マミはきっと今、絶望しきっている表情でサキを見ていたのだろう。

思い描いていた魔法少女の姿とは正反対の今に、マミの繊細な心は音を立てて崩壊していく。

人を守る筈の自分が、人を殺す為に戦っている。

それを想像するだけで吐き気が止まらない。

 

 

「ぎゃアアアアア!!」

 

「!」

 

 

杏子の分かりやすい叫び声が耳に飛び込んでくる。

マミが視線を移すと、そこにはサキの雷が杏子を焦がしている所だった。

 

佐倉杏子は、一番最初にできた魔法少女の友達だった。

杏子はどう思っているか知らないが、マミにとって杏子は特別な存在だった。

なのに、いつからか対立し。そして今――……。

 

 

「邪魔だ、消えろッッ!!」

 

 

ほむらを庇う杏子は目ざわりでしかなかった。

サキは止めを刺そうと、巨大な雷球を発射する。

ほむらはさやかの妨害を受けていてを杏子を助ける事ができない。

足にはサキの鞭がまだ巻きついたまま。さらにマミの糸も加わって、時間停止は意味を成さない。

 

 

「何ッ!」

 

「え!?」

 

 

その時だった。

マミが杏子を守る様に割り入ってきたのは。

 

 

「マミ――ッ!」

 

「あぁあっ! うぅうううううううう!!」

 

 

マミは杏子に命中するはずだった雷球を背中で受ける。凄まじい痛みと衝撃、苦痛の声をあげて地面に倒れた。

しかし、杏子は守られた。それでよかった。

 

 

「おい! マミ! 大丈夫か! 平気か!?」

 

 

何故? 杏子はマミを抱き起こすと詳細を求めた。

しかしすぐにバチバチと音。

サキは怒りに表情を歪め、再び魔力を高める。

 

 

「邪魔をするなぁアアアアア!!」

 

 

サキは怒りの雷撃を再び発射した。

マミはそれを見ると全身の力を込めて立ち上がり、杏子を守るために突き飛ばす。

 

 

「うぅウウウウウ゛ッッ!!」

 

「ま、マミ……! アンタ、どうしてっ」

 

 

マミは反撃をしない。

襲い掛かる電撃を全てその身一つで受け止めていく。

火傷が見え、帯電し、涙が流れる。

 

 

「どうして……」

 

 

雰囲気がおかしい。

杏子はすぐにマミを助けるべきなのだろうが。何故? と言う思いが上回り、怯んでしまって動けなかった。

 

 

「どういうつもりだ巴ッ! 気が狂ったか!!」

 

「だ、駄目なのよ。魔法少女が争っちゃ……ッ、駄目なの」

 

 

涙を流しながら懇願するマミ。

とは言え、その目には誰も映っていない。

マミは杏子を守ったのではなく、かつての自分自身を守ったのだ。

しかしその願いが届く訳もなかった。サキの苛立ちはむしろ強くなり、大きな舌打ちが聞こえる。

 

 

「ふざけるなッ!!」

 

 

マミへの憎しみは消えない。マミの車が事故を起こさなければ、サキの家族は死ななかった。

サキは固有魔法である『成長魔法』を使用し、腕力を極限まで強化する。

その状態で電撃を手に纏わせ、サキは思い切りマミの胸に突きを行う。

 

 

「マミッ!!」

 

 

我に返る杏子。

見えたのは、致命傷を負ったマミの姿だった。

サキの腕はマミの胸部をしっかりと貫通しており、その手には掴み取った心臓が見える。

 

サキはニヤリと笑みを浮かべる。

マミはソウルジェムに依存する生き方を以前から否定した。

だからこそ、ソウルジェムで生命機能を操作することに慣れていない筈だ。

 

割り切っている魔法少女ならば心臓なんてなくなっても困りはしない。

だって肉体は既に死んでいるのと同じなのだから、ソウルジェムさえ無事ならばどうとでもなる。

だがマミは違うのだ。心臓がないと人は生きられない、そういう常識に囚われている。

 

事実マミはダランと全身の力が抜けて動けなくなってしまった。

ソウルジェムに命令を出せばいいだけの話なのに、それをしない。

 

 

「ねえ、これでいいの?」

 

 

だって、サキの願いは自分に復讐をする事だったから。

これで貴女は幸せになった? これで杏子は守れられた?

目指していた魔法少女は、希望を守る正義のヒロインだった筈だ。

いつからだろうか、それを忘れてしまったのは。

 

 

「だって……、私だって、守りたかった」

 

 

きっと再構築が行われ転生すれば両親はいない。

そんな気がしたから暁美ほむらを殺そうと思った。

ううん、でも駄目、魔法少女はそんな事しないわ。

 

 

「夢を見すぎなんだよキミは。理想と現実の差に押しつぶされて大切な事から目を反らす」

 

 

サキの言葉がぼんやりと聞こえる。いいじゃない、夢を見たって。

絶望しそうになっても夢があれば生きていけたじゃない。

貴女だって私を殺したかったから今まで戦えたんでしょう?

マミは虚ろな瞳でサキを見ていた。

 

 

「マミッ! なんで、なんで今頃!!」

 

 

杏子の震える声が聞こえる。

私は最後に貴女を守れた? これで、いいのよね?

 

 

「フン! まあいい、次はお前だ!!」

 

「……!」

 

 

蹴られた。

駄目よ、佐倉さんを守らないと。

魔法少女が争っちゃ駄目、マミは機械的にその言葉を連呼する。

 

 

「なっ!!」

 

「駄目よ……、駄目なの」

 

 

マミはソウルジェムに命令を下して体を動かした。

そうだ、所詮入れ物。ソウルジェムが砕けぬ限りは動く人形なのだ。

マミは固有魔法である拘束魔法を発動。リボンを細くして、糸ををサキの体中に巻きつけて動きを止める。

 

 

「クッ!!」

 

 

サキもマミがこんなに早く動くとは思っていなかったのだろう。

何とかして糸をを振り払おうとするが無駄だった。魔法で出来ているのだから、強度が全く違う。

暴れれば糸が体に食い込み、皮膚が裂けた。

 

そうしている内に、毛糸のボールの様な物が現れてサキの体をさらに拘束していく。

糸は最後にサキの首をしっかりと締め付けて、それを束ねるボールは空中に留まった。

 

 

「なッ! なんだコレは!?」

 

 

さらに出現する巨大な大砲。

マミは毛糸のボールを操作して、大砲の砲口へ入れる。

体中を締め付けている糸の先が、大砲へ入る意味。サキは全てを理解して初めて焦りの表情を浮かべた。

 

 

「や、止めろ!!」

 

 

駄目よ……! 佐倉さんを守らないと。

マミは言葉にしたつもりだが、声を発する事はできなかった。

だって既に"壊"れている。魔法少女として描いた理想とはかけ離れた現実に壊されてしまったのだ。

守らなければならないと思う心。殺さなければならないと思う心が混ざり合い、溶けていく。

 

 

「ティロ――」

 

「止めろォオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

守ると思う心は杏子に働き、殺さなければと思う心がサキに働いて。

 

 

「フィナーレ」

 

 

砲台から毛糸のボールが発射される。

すると凄まじい勢いで締め付けられる糸。

 

 

「う……ッ!!」

 

 

杏子は思わず目を覆いたくなった。

サキの体は一気に引き裂かれて、見るも無残な姿に変わってしまった。

肉は裂け、骨は切断され、細切れだ。

だが何故かマミは自分にも同じ事をしており、サキと同じく無残な姿に変わってしまった。

 

 

「マミ! なんで――っ!?」

 

 

耐えられなかった。杏子はボロボロと涙を流す。

違う。そうじゃない。そうじゃないだろ。

どうしてこんな結果になってしまうんだ、杏子は理不尽に変わる世界に涙を流した。

 

 

「………」

 

 

バラバラになってしまったマミ達の体だが、まだ双方ソウルジェムが残っている。

つまり完全に死んだとは言えない。この凄惨な状態でさえ、回復魔法を掛け続ければ元に戻るのだ。しかしバラバラ故に完全に曝け出されるソウルジェム、先に動いたのはマミの方だった。

 

 

「―――」

 

 

ソウルジェムの命令によって地面に落ちていた『手』だけが動く。

マスケット銃を構えた手は地面に転がっていたサキのソウルジェムを撃ちぬくと、完全に破壊してみせた。

そして糸の切れた人形の様に動かなくなってしまったのだ。

 

 

「マミぃっ!!」

 

 

杏子はマミのソウルジェムを見つけた。

そしてその輝きがどす黒く濁っていくのを確認する。それが意味する事も杏子はよく知っていた。

涙を流し、そして歯を食いしばる。こんな結末でよかったのか?

マミ――ッ!

 

 

「うあアアアアアアアア!!」

 

 

杏子は拳を握り締めると、マミのソウルジェムを殴りつけて砕いた。

 

 

「くそぉぉぉオオッッ!」

 

 

こうするしかなかった。

もうアレは間に合わない、グリーフシードさえあれば良かったのだろうが。

杏子は悔しさでおかしくなりそうな心を何とか落ち着ける。

望んだのはこんな結末じゃない、マミもサキも杏子だって。

 

正義がどうとか願いがどうとかじゃない、ただ純粋な想いがあった筈だ。

少しでも歯車が違えば自分達は憎みあう関係でなく、友人として笑い合えた世界もあった筈ではないのか……!

 

 

「ちくしょうッ! ちくしょう……ッッ!!」

 

 

粒子化していく二人。あれだけ流した血も跡形無く消え去っていく。

ほむらやさやかも、それを確認して言い様のない思いに包まれた。

これでよかったのか、マミ達の最期はこんな物で良かったのだろうか?

ほむらが生きて再構築されたとしても、この場で死んでいったマミ達の最期は変わらない。

本当にこれで……。

 

 

「マミさん……ッ! ごめん!!」

 

 

さやかは涙を振り切って、再びほむらを狙う。

貫くのはエゴだ。マミを失った世界でさやかは悲しみを背負い生きていく。

さやかは剣を無数に出現させるとソレを一気に発射してほむらを狙った。

 

 

「!!」

 

 

だがそこへライアが乱入。

王蛇やゾルダを振り切り、エビルダイバーに飛び乗る。そのまま杏子とほむらも乗せて飛び去った。

 

流石はエビルダイバーのスピードと言った所か。

あっと言う間に離れていく。しかしマミを失ってまでほむらを殺す事を決めたんだ、さやか達も諦める訳にはいかなかった。

 

 

「恭介!」

 

「う、うん……!」『アドベント』

 

 

飛来してくるのはオーディンのミラーモンスターであるゴルトフェニックス。

不死鳥型のモンスターはエビルダイバーの真下から出現すると、彼らを弾き飛ばして地面に叩きつける。

 

 

「ぐッ!」

 

「うわっ!」

 

「……ッ!」

 

 

倒れ動きを止めたほむら達。さやかはソコへ再び無数の剣を発射する。

しかしもうマミもサキもいない。ほむらが盾を操作すると、全ての時間が停止する。

ほむらはライアと杏子に触れると、再びエビルダイバーに飛び乗って逃げていく。

 

 

「………」

 

 

杏子は振り返り、さやかを寂しそうな目で見つめた。

マミ達に復讐する為に勝負を挑んだのに、まさかマミの死を見て泣く事になるなんて思わなかった。

おそらくソレはさやかにも言える事だ。

 

 

「馬鹿な奴だな」

 

 

杏子が呟いたのは誰に向かってなのか、それは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ! 逃げられた……!!」

 

 

さやか視点ではいきなり三人が消えた事になる。

オーディンと並び立つと、ふいにサーベルを地面に叩きつけた。

仕留められなかった悔しさと、マミを失った悔しさ。血が出るほど強く唇を噛んだ。

だがそれでも、あれだけ慕っていた先輩を見捨てる形になったとしても、さやかはこの世界で生きる事を望む。

 

 

「ねえ、恭介……ッ」

 

「な、何?」

 

「あたし、間違ってないよね――……?」

 

 

オーディンは首を振る。

 

 

「分からないよ……! 僕には――っ!」

 

「……そっか」

 

 

さやかはすぐに涙を拭うと、オーディンに笑顔を向けた。

できれば間違ってないと言ってほしかったけど。どうやらさやかはとことん彼に惚れている様だ。

これでいいと笑ってしまう。

 

 

「あれ?」

 

 

そう言えば北岡やファム達の姿が見えない。どこに行ったんだろう?

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかが浮かべた疑問の答えを見てみよう。

王蛇と戦っていたファムとゾルダは猛攻を受ける内にマミ達から離れて行った。

王蛇の力は凄まじく。狂った様に攻撃を繰り出すように見えても、相手の攻撃をしっかりと回避して的確に反撃の手に出てくる。

 

焦り、怒り、そしてパートナーの死を確認したファムは、危険と踏んで一旦撤退する事を決める。

恨んだ相手を前にして逃げる屈辱は耐えがたい物であったが、死ねば全てが終わる。

故にファムはその白い翼を広げて場から撤退していった。

 

 

「アァァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

王蛇の咆哮が聞こえる。

そう、ファムには翼があったから良いものを、ゾルダにはそれが無かった。

最初は対等に戦いを繰り広げていたゾルダであったが、段々と攻撃を受けていく内に様子がおかしくなっていった。

照準が定まらない、狙いがブレる。

 

 

「―――」

 

 

王蛇の攻撃を受けて吹き飛んだゾルダは変身が解除されて草むらの中に消えて行った。

王蛇は辺りを確認するが、北岡を見つけることはできなかった。

もっと長時間探せば良かったのかもしれない、耳を済ませて北岡の呻き声を聞けばよかったのかもしれない。

 

しかし王蛇は早々に捜索を切り上げて場を離れて行った。

それには理由があるのだが、ココでは分かる訳も無い。

 

 

「―――――」

 

 

そうやって王蛇の猛攻を何とか避けた北岡は、何とか立ち上がりフラフラと歩き出す。

 

 

(クソッ! 俺が負けた!?)

 

 

実力じゃない、体のせいだ。北岡は歯を食いしばり虚空を睨む。

医者の連中は使えない奴ばっかりだった。

薬は出すくせに一向によくならないじゃないか。だから俺は負けたんだ。

そうだ、ヤブ医者共め。そもそもあの病気はジジイやババアがなるもんだろ。若年性とかつけておけば何でも良いと思ってる。

 

 

「さっさと……」

 

 

さっさとアイツを殺して願いでこの体を――!

 

 

「……?」

 

 

アイツって、誰だっけ?

 

 

「???」

 

 

そう言えば俺は何であの場にいたんだっけ?

確か長い髪の……、ああ、そうだ。暁美なんとか。

あれは誰だったか? 確か学校のクラスに同じ様な名前のヤツがいた気がする。

おれは毎年バレンタインにクラスの女全員からチョコを貰っていたからな、その中にあった名前なんだろう。

 

 

「………」

 

 

そう言えば体が痛い。

病気だろうか? どうして? なんで体中がこんなに痛いんだ?

おれは外であまり遊ばなかった、母さんが過保護で、だからこんな怪我をすることはなかった。

虫がうるさいな。虫は嫌いだ。周りを飛ぶな。むしだ、こわいな、ああくそ。

 

 

「いたい、いたい? どうして? なんで!」

 

 

ぼくはなにもわるいことをしていないのに。

びょうきかもしれない、びょういんにいって、おいしゃさまに、みてもらわない――

 

 

「あ」

 

 

北岡はふと気がつけば道路の真ん中に立っていた。

どうして自分はこんな所に立っているんだろう? そんな彼の前に近づいてくる光が見えた。

あれはなんだ? 動物か? 北岡はぼんやりと立ち尽くして近づいてくる物を見つめている。

 

ああそうだ、アレは車だ。

でも誰も乗っていない、だから別に怖がることは無い。あぶなくない。

そう言えば、どうして自分は今ココに立っているんだろう? ここはどこなんだろう?

ああ、うるさいな。ブーブー、虫が騒が――

 

 

「―――」

 

 

遅かった。

トラックはぼんやりと立ち尽くす北岡を容赦なく引き飛ばすと、ソコでやっと停止する。

それを見かけたのか、誰かの悲鳴が聞こえる中でぼんやりと北岡は考えていた。

何を考えているのかは彼にも分からない。

 

どうしてココにいるのか、今まで何をしていたのかも。

そして段々と薄れていく視界、今日は疲れた。もう休もう。

明日になれば体の痛みも、身を包む寒さも、全部消えてなくなっている筈だから。

 

 

 

 

 

 

 

【佐野満・死亡】【東條悟・死亡】【千歳ゆま・死亡】

 

【巴マミ・死亡】【浅海サキ・死亡】【北岡秀一・死亡】

 

【残り16人・9組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

佐野のアパートに戻った三人。

消えた参加者故、世界は都合の良いように上書きされてしまうのだろう。

佐野がいなくなった時点で今まで過ごしてきた部屋は空き部屋になっていた。

 

 

「手塚。アンタの家、行ってもいい?」

 

「ああ」

 

「じゃあ決まり」

 

 

ほむらの家なんて、敵が真っ先に狙うところだろうし、篭るのならば確かに手塚の家が最適だった。

ましてや。

 

 

「ここにはもう、いたくない」

 

「………」

 

「辛くなる」

 

 

頷くほむら達。

手塚の家に向かおうと、踵を返した時だった。

 

 

「暁美、ほむら……」

 

「!」

 

 

三人の前に現れたのは着物姿の少女だった。

手塚と杏子は敵と思い構えるが、ほむらは少し待ってくれと二人を制す。

知り合いと言うほどではないが、一度顔を合わせた事があるのだから。

 

 

「双樹ルカ」

 

「久しぶり、ですか? フフ」

 

 

ルカは少し妖艶に笑うと、ある提案を持ちかけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは簡単な話しだった。自分達の家に来ないかと言うもの。

当然トラップを警戒する三人だが、いざとなったら時間を止めて逃げればいい。

だから一度話しだけは聞いてみる事にする。

 

ルカについて行った三人は豪華なマンションに連れてこられた。

どうやらここが彼女とそのパートナーの住んでいる場所らしい。

最上階の一室で、三人はルカのパートナーから協力するに至る理由を聞かされた。

 

 

「だからさー、おれ見てみたいんだよねー! 世界が滅ぶところ!!」

 

 

嬉しそうに話すのは、ルカのパートナーである芝浦淳と言う少年だった。

まだ中学生ながらにして豪華な部屋でルカと暮らしている経緯が気になるが、何より目に付いたのは無邪気さが作る狂気である。

芝浦は世界の崩壊を望んでいる珍しいタイプなのだ。

 

 

「気になるなー、どうやって滅ぶんだろう!」

 

 

大爆発で跡形も無く消え去るのか、それとも災害の類で滅びるのか。

もしかしたらウイルスがキュゥべえ達から発射されてバイオハザードなんてことも考えられる。

 

 

「想像しただけで興奮するよ!」

 

 

自分で滅ぼすのは結末が分かってしまう為に面白くない。

だから芝浦は暁美ほむらを護衛して最期の時をこの目でみたいのだと言った。

芝浦は一度興味が湧くと気になってのめり込んでしまうタイプなのだ。

 

 

「世界の終焉をどうしても見たい!」

 

 

ほむらとしては芝浦に若干の嫌悪感を抱いてしまうものの、協力してくれると言う提案には素直に感謝したい。

 

 

「でも、貴女はいいの?」

 

 

ほむらはルカに問い掛ける。

芝浦はともかくルカを巻き添えにするのは気が引けた。

とはいえ、どうやらその心配は杞憂だった様だ。

ルカは芝浦と同じ意見だと三人に告げる。

 

 

「少し重なってしまって」

 

「?」

 

 

なんでもないとルカは笑う。

どうやら暁美ほむらと言う人間を大勢で狙うというシチュエーションが気に入らないらしい。

ルカは口にしなかったが、過去に何かあったらしい事だけは分かった。

 

 

「それに、何よりも淳が選んだ答えです」

 

「お、おお」

 

 

頬を染めるルカに杏子は成程と納得した。

ははあ、やっぱりこうなるペアもいるんだなと。

 

 

「とにかく今日は泊まっていくといい」

 

 

そう言われても少し信用ならない所もある。

 

 

「油断させておいて実は願いを叶える為に不意打ちーッ、なんて事も……」

 

 

杏子は小声でほむら達に耳打ちを行った。

確かにいきなり信頼して泊まる事は危険が伴うだろう。

寝ている間にブスリ! なんて事だってありえるからだ。

 

 

「やっぱり隙を見て逃げよう」

 

「……ええ」

 

 

杏子は睨むような視線でルカと芝浦を見る。

どうにも信用なら無い二人だ。ココに泊まるよりかは手塚の家に泊まった方が余程いい。

 

 

「安心しな、アタシは警戒心だけは人一倍強いんだ」

 

「あ、ああ」

 

「?」

 

 

ルカはきょとんとした顔で杏子を見つめる。一方でムスッとしている杏子。

こんな状態で大丈夫か? 手塚は言い知れぬ不安を感じてため息をついた。

 

対して芝浦はニヤニヤとほむらを見つめている。

ほむらが巨大な爆弾にしか見えない。

世界を破壊する害悪。ほむらは世界にとって唯一と言っても良い悪なのだから。

 

 

 

夜。

 

 

 

「くあぁあああああ! うめぇえッッ!! アンタ最高じゃん!!」

 

「まだまだあります。おかわりしたければ言ってくださいね」

 

 

警戒心とはなんだったのか。

杏子はルカが作った料理をモリモリ食べて笑みを浮かべていた。

既に四回目のおかわりを行った杏子。引きつった笑みを浮かべている芝浦を尻目に、バクバク食事を続ける。

 

逃げようと決めた三人だったが、ルカが食事を作ってくれるというので一旦様子を見る事に。

もしかしたら毒殺するのかもしれないと思い、杏子は毒見と称して先に料理を一通り口にする。その結果、今の状態となっている訳だ。

 

 

「出汁にこだわりがあるんですよ」

 

 

ルカが作る和食は味だけでなく見た目も完璧だった。

手塚とほむらも思わず見入ってしまう程だ。

一体どうしようかと悩んだものだが――

 

 

「はい淳、あーんしてくだだい」

 

「嫌に決まってんだろ! 周りに人がいるっての!!」

 

「人がいなかったらやんのかー! このこのーッ!!」

 

 

なに馴染んでんだと言いたくなる杏子の野次。

とはいえ手塚達がココに残ろうと決めた理由の一つに、芝浦達の様子があった。

どうやらルカは芝浦にベッタリの様で、自分が作った料理を彼に食べさせようと必死だ。

 

料理は大皿に盛り付けられている為にソコへ毒を入れるとは考えにくい。

そもそも杏子が食べた時点でなんとも無いのだから、一旦信用しようと言う事になった。

 

 

「でもいいの?」

 

「ん? 何がですか?」

 

 

もう一度問い掛ける。

もしも再構築が行われれば、芝浦とルカが再び恋に落ちるとは限らない。

そればかりか最悪嫌い合う仲になるかもしれないのだ。

それでもいいのか? ほむらはソレを聞いてしまう。

 

 

「構いませんよ。なぜなら、私と淳は次の世界でも必ず恋に落ちるからです」

 

「おれは別に落ちてな――」

 

 

芝浦の言葉を無視してルカは言葉を続けた。

どんな障害があろうとも、どんな困難があろうとも自分達はまためぐり合う。

そして双樹は芝浦を愛するだろう。この胸に刻み込んだ想いは世界なんかに左右されるほど弱くは無い、ルカは自信に満ちた表情で笑った。

 

 

「すごい自信だね……!」

 

「いいじゃないか。運命論は嫌いじゃない」

 

 

杏子と手塚は彼女の考え方に賛同を示した。

 

 

「どれだけ世界が変わっても、どれだけ運命が巡っても、変わらない想いと言うものはあります。貴女達もそうではないのですか?」

 

 

ルカの言葉に各々の記憶を思い出す。

そうだな。ほむらにも手塚にも杏子にも分かる話だった。

転生すれば自分達は自分達でなくなってしまう。

 

しかし根本的には同じ人である事には変わりない。

胸に抱えた信念はいつかきっと同じ思いに収束していく。

 

 

「それに、転生とか面白そうじゃん」

 

 

芝浦はゲラゲラと半ば空気を読まずに続ける。

もしかしたら自分は世界的に有名なゲームを生み出して社長になっているかもしれない。

それに世界はもっと面白く変わっているかもしれないじゃないか。

 

 

「ちょっとこの世界は退屈なんだよなぁ。もっと面白く変わる様に作ってよ」

 

 

芝浦はほむらに願いを託す。

何とも言えないが、二人が味方だと言う事は何となく理解できた。

たとえば杏子は世界を諦めたから仲間になると言ってくれた。

そして芝浦達も形は違えど、同じような事なんだろうと。

 

 

「さ、冷める前にどうぞ」

 

「………」

 

 

ほむらは料理に口をつける。

確かに、おいしい。複雑な表情で箸を咥えた。

手塚もそれを見て、笑みとも言える表情を浮かべた。

 

 

「それにしてもスゲーと思わない? キュゥべえ達は世界さえも自由にできる力を持ってるんだぜ」

 

 

食事の終わり際、芝浦が言った事は同意できる内容だった。

一つの世界を終わらせ、一つの世界を始まりに導く。

世界とはつまり人の集合が成す物であり、一つの世界を終わらせると言う事は気の遠くなる程の人間が死ぬと言う事。

 

 

「おれ達って結局アイツにとっては虫けらみたいなモンなのかね」

 

 

キュゥべえ達は宇宙を救うために魔法少女と騎士を生み出したと言う。

つまり宇宙にとってインキュベーターは救世主なのだ。

対して人間は自らの住む星を日々汚していく。もしもこの世に神がいるのならば、それはおそらく宇宙の意思を代行するキュゥべえ達なのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「魔法少女は絶望すれば魔女になる」

 

「んあ? なんだよ、当然」

 

 

食事が終わると、ルカは余っていたグリーフシードを分けてくれた。

魔力が尽きる事は魔法少女にとっては死と同じだ。

そしてグリーフシードはその命を救う重要なアイテム。

それを渡す事は絶対の信頼が成せる技、杏子はそのお礼にとルカの背中を流す事を誓った。

 

他人の家の風呂を借りておいてお返しも糞もないだろうが、とにかくルカを誘ってお風呂に入ることに。

 

浴槽は広いが三人が入るには少し狭い。

と言う事でほむらが浴槽につかって、杏子達は体を洗うことに。

 

その途中でルカがふいにそんな事を呟いたのだ。

魔法少女は絶望すれば魔女になる。

それは多くの魔法少女が知っているルール。自分達は絶望の海に足を半分突っ込んでいる。

 

 

「私は、魔法少女になる前から絶望していた」

 

「………」

 

「そんな私は、生まれながらにして魔女だったんだろうか?」

 

 

人は皆悲しみを背負い生きていく。

劣等感、僻み、憎しみ、その中で人間は悪の色に染まっていくのだとルカは言った。

彼女は強大な悲しみに一度その身を落とし、黒く染まっていった。

 

 

「そんな私を助け出してくれたのが淳なのです」

 

「ふーん、アイツがねぇ。ちょっと意外かな」

 

 

ルカの背中をごしごしと擦りながら、杏子は鼻についた泡を拭う。

とてもじゃないが芝浦とか言うガキは人を助けるタイプには見えない。

けれども現にルカは芝浦に救われ、今笑顔を浮かべる事ができる。

 

 

「んで、結局何が言いたいのさ」

 

「いえ別に。ただ、次の世界に期待しているだけですよ」

 

 

次は絶望しない様に生きられるのかと。

 

 

「それにしても、キュゥべえ達の狙いは何なんでしょう」

 

「確かにね。何だってこんな糞みたいなゲームを」

 

「………」

 

 

その答えはほむらだけが知っている。

F・Gは自分が原因で始まったゲームだと言っても良い。

しかしそれをルカ達には言えない、言った所でどうにかなる訳でもない。

 

 

「これは私の予想なのですが――」

 

 

ルカは自分の考えを告げる。

ほむらは半ば聞き流す程度だったが、次第に興味深い物だと気づく。

 

ルカが注目したのはゲームのルールである。

ルールとは即ち絶対に守らなければならない掟の様な物だ。その掟を決めたのはキュゥべえだろう。

 

 

「彼らは今まで私達の行動に直接的な干渉をする事は無かった」

 

「確かに。煽ったりはしたけどさ。それもアイツ等にとっちゃ無意識だろうし」

 

 

シャワーを手に取りお湯を出すルカ。

湯に濡れる姿は中学生とは思えないくらい妖艶で美しい。

ほむらでさえ思わず見とれてしまい、ルカの言葉を少し聞き逃してしまう程だった。

 

要するにルカは今まで何も干渉してこなかったキュゥべえ達が突然ルールを定め、かつ世界を左右する力を持ち出してきた事に強烈な違和感を感じると言う。

 

 

「何故彼らは急に強引な手段に出たのでしょう?」

 

「うーん、確かに」

 

 

これはあくまでも自分の考えだと念を押す。

そしてルカの視線は、ほむらに向けられた。

 

 

「インキュベーター達は、暁美ほむらが邪魔だった」

 

「……!!」

 

 

鋭い。ルカの考えを聞いて、ほむらは彼女が只者ではないと確信する。

全くもって正解だった。確かにキュゥべえ達は自分が邪魔だからこのゲームを仕組んだと言っている。

自分がエネルギー回収の邪魔になるからと――

 

 

「と、最初は思いました」

 

「!」

 

 

しかし、それではおかしいとルカは言う。

よく分からない。ほむらは彼女に詳細を求めた。

おかしいとはどういう事なのか?

 

 

「邪魔な存在がいるのなら、キュゥべえ達はこんな面倒な真似はしないでしょう」

 

 

考えてもみてほしい。

世界を再構築だの滅ぼすだのと言うルールを作ったキュゥべえ達が、暁美ほむら一人を殺せないと言うのか?

 

ありえないだろうそんな事は。

邪魔なら何かしらの手段を使って直接ほむらを排除すればいい。

わざわざ生き残るチャンスを与えるなど、それこそ感情の無い彼らには不必要なルールである。

 

 

「つまりどういう事だよ」

 

 

杏子は泡を素早く洗い流すと、ほむらの横に滑り込む。

ほむらが邪魔でないとしたら何が目的なのか?

目的が無い事は流石にない筈。つまりキュゥべえ達には明確な目的があってF・Gを開催した事になる。

 

 

「それが分からないのです。故に不気味ですね」

 

「はーん。まあ何となくだと思うけどね、アタシは」

 

「………」

 

 

いや、キュゥべえ達に限ってそんな事は無い。

ルカの言う通りだ、何故キュゥべえはわざわざ『ゲーム』と名のつく状況を作ったのか?

儀式とは言っていたが、ならばその先に何か結果がある筈。

もしかすると、ゲームと言う存在でなければならない理由があったのか?

ほむらは強烈な違和感を感じて頭を抑えた。

 

 

(ゲームでなければならない意味?)

 

 

その違和感は彼女達だけが持ったものではない。

リビングでゲームをしていた手塚と芝浦も、疑問を抱えて会話を行っていた。

先にその言葉をかけたのは芝浦だった。

 

 

「なあ、アンタと前に会った事あったっけ?」

 

 

カチャカチャとコントローラーを動かして問う芝浦。

どうにも芝浦は手塚を見て既視感を覚えたという。

どこかで彼に会った事があるような。しかし明確な記憶は無いし、確証も無い。

ただ何となく会った様な気がするだけ。

 

 

「そうだな、俺は占い師だ。どこかで占ったのかもしれない」

 

「うーん、そう」

 

「ただ俺も芝浦淳と言う文字にはどこか見た覚えがある」

 

 

パッとしないものの、デジャブの様な物といえばいい。

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同は眠りにつく。

芝浦は自分の部屋、杏子とほむらはルカの部屋。手塚はソファで寝る事に。

芝浦は夜も暖房をかけているので、どこでも暖かい。今日はいろいろな事があり過ぎた。誰もがすぐに眠りに落ちている。

 

 

「………」

 

 

ただ一人を除いて。

ほむらは全員が寝静まった事を確認すると、物音を立てない様にゆっくりと立ち上がる。

そして変身。窓を開けて時間を止めると、一気に芝浦達のマンションから飛び出していった。

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、よろしいですか?」

 

「ん?」

 

 

ルカの声がして手塚は目をあける。

 

 

「どうした?」

 

「暁美ほむらが家を出て行きました」

 

「なっ! 本当か?」

 

 

それにしても何故?

手塚が問うと、ルカは置手紙があったと告げる。

 

内容に関しては簡単に言うと自分がいる事でこの場所が戦いのフィールドになるかもしれないと言う罪悪感。

そしてこれ以上ルカや杏子達を振り回す訳にはいかないと言う事。

 

 

「そして最後に、貴方に対する謝罪」

 

「謝罪?」

 

「ええ。彼女が死ねば貴方も死ぬのでしょう?」

 

 

そうだったと手塚は頭をかく。

確かにほむらがこの場を離れると言う事は、手塚も危険だと言ってもいいだろう。

ほむらはソレを申し訳なく思うと同時に、手塚を犠牲にしてでも離れなければと思った。

 

やはり暁美ほむらと言う存在が他者をおかしくしてしまう。

マミが死んだのも、サキが死んだのも、全ての責任は自分にあると考えたのだろうか?

 

 

「やれやれ、仕方ないな」

 

 

手塚はソファから立ち上がると上着に手を伸ばす。

それを見て目を細めるルカ。

 

 

「覚悟はあるのですか?」

 

「覚悟?」

 

「そうです。分かっているとは思いますが、貴方が暁美ほむらを守る事が、どう言う事を意味するのか?」

 

 

ほむらを守る上で敵は絶対に出てくる。

そして問題は、その敵をどう退けるかだ。

 

 

「ただ女を守る優越感に浸りたいだけなら、貴方は彼女を追いかける必要はない」

 

 

運命に身を委ねるべきだとルカは言った。

手塚は少し沈黙したが、少し疲れたように笑う。

 

 

「佐倉にも同じような事を言われたよ。だが、まあ、俺の答えは一つだ」

 

 

ほむらを追いかけると言う意味だ。

手塚もルカの言いたい事はよく分かる。

そもそもシザース達と戦った時に何となく感じていたこと。

 

 

「だが、俺はアイツを守ると約束した」

 

 

ほむらにとっては約束じゃないのかもしれない。ただ、手塚とってはソレは約束だった。

パートナーに選ばれた事は運の悪い事だとは思っていない。

確かに初めて知った時は厄介だと思ってしまったが、今はハッキリと分かる。

こうなったのは偶然じゃない、必然だ。

 

 

「俺はアイツを守る。どんな手を使ってもな」

 

「貴方にとって、彼女はそこまで覚悟を決める程の価値を持っているのでしょうか?」

 

 

手塚海之は暁美ほむらの家族でもない、友人でもない、恋人でもない。

そんな存在に全てを敵に回す覚悟を持たなければならないのだ。

その価値、その意味、その資格を持っていると?

 

 

「それは愚問だ。お前だって芝浦を守りたいと思うだろう?」

 

「当然です。私は淳の盾であり、剣です。しかしそれは私が淳を愛してるから……」

 

「それもあるかもしれないが、何よりも守りたいから守ると決めたんだろ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「俺だってそうさ。理由はどうであれ、俺は暁美ほむらと言う人間を守りたいと思った」

 

 

それだけで十分だ。

手塚は変身すると、ほむらを追って窓から夜の闇に飛び込んで行った。

ルカは追いかけない。別に追いかけても良かったが、追わないほうがいいのだろうと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこに行こうっていうんだよ、破壊者さん」

 

「………」

 

 

深夜の公園には音が無かった。だから話しかけられれば嫌でも耳に入ってきてしまう。

ほむらは声がする方向を睨むようにして振り返った。

するとそこにはバンダナをしたお下げの少女が。

黄緑色の髪が夜の闇に映えている。

 

 

「こんな夜道を歩いてると、狼さんに食べられちゃうよ?」

 

「そう、怖いわね」

 

 

少女は乗っていた木の枝から飛び降りると、綺麗に着地してほむらの前に現れる。

当然彼女も魔法少女だ。その目には光りが無い事から、普通の参加者とは少し違う感じがした。

 

 

「何か?」

 

「何かって、嫌だな。決まってじゃんよ」

 

 

神那ニコはニヤリと笑うと、瞬時に変身する。

構えるはバール型の杖。ニコは笑みを浮かべたまま力を収束させた。

同じく反射で変身するほむら。やはりそうなるか、分かっていた事だ。

 

 

「死んでよ。お前さん、邪魔なんだわ」

 

「……っ」

 

 

ニコは容赦なく必殺技を発射。

対して時間を止めるほむら。盾から拳銃を引き抜くと、ニコの足を狙って一発発砲した。

ほむらの手を離れた事により空中に留まる弾丸。ほむらはニコの攻撃を避ける様に歩くと、ソコで時間の流れを元に戻す。

 

 

「うあ゛ッ!!」

 

 

ニコの足に弾丸が抉りこむ。苦痛の声をあげて地面へ倒れた。

それを横目に見下すほむら。ニコは笑みを浮かべて歯を食いしばった。

 

 

「随分とまあ冷たい目だ」

 

「お互い様よ」

 

「ハッ! 時間停止。まあ厄介だよね。だからアンタは狙われたんだろ?」

 

「………」

 

 

ニコもまたゲームのルールには強烈な違和感を覚えていた。

果たして狙われるべき魔法少女はランダムに決まったのか?

いやそれは違う、キュゥべえ達は元々ほむらを狙うつもりでゲームを開始したのだと。

 

 

「私の魔法、レジーナアイで君の魔法を調べた。できる事とか、アレンジとかね」

 

「……そう」

 

「とんでもないチートだよ。キミはスペック的には魔法少女の中でも最弱かもしれないけど、能力はトップクラスで化け物だ」

 

 

時間を止めるのが最大の能力じゃあない。ニコは含みのある言い方で、ほむらを煽る。

 

 

「まさかあんな事ができるとは思わなかった……! 最早、それは神の領域に片足を突っ込んでいる」

 

 

そしてその神の力をキュゥべえ達が見過ごすとでも思ったのだろうか?

確かにほむらに力を与えたのはキュゥべえ達だが、流石に存在が邪魔になったのだろう。

それは容易に想像できる事だ。ニコは濁った目でほむらを見つめる。

 

 

「当然、私にとっても君は邪魔でしかない」

 

「………」

 

「キミのわがままに、一体私達はどれだけつき合わされたと思ってる?」

 

「……っ」

 

「迷惑なんだよ、君の存在は」

 

 

笑みが消えた。

 

 

「調子に乗りすぎた道化だ。存在が、能力が、中途半端な覚悟が世界を傷つける」

 

「………」

 

「もう終わりにしよう。君だって疲れたろ?」

 

「私は、諦めない」

 

 

それを聞いてニコは吹き出す。

 

 

「諦めない? 冗談だろ? いい加減に気づけよ!」

 

 

煽り続けた。

 

 

「考えても無駄なら、私が――ッ、終わらせてやる!!」

 

「!?」

 

 

その時だった。倒れていたニコの体が割れると、そこから無数の鎖が発射される。

鎖はすぐにほむらの足に巻きついていった。

 

 

「しま――ッ!」

 

「仕組みさえ分かれば、案外なんとかなるね」

 

「クッ!!」

 

 

体が鎖に変わったニコは、もう完全に鎖として機能していた。

人の形を失い、鎖はほむらの足から盾へと移動する。

時間を止めるには盾にある砂時計を作動させる様に動かさなければならない。

つまり盾をガチガチに固められるとギミックを操作できずに時間停止が行えないのだ。

 

 

「あのまま時間を止めて逃げれば良かったのに」

 

「……っ!」

 

 

暗闇から現れたのは何とニコだった。

何故鎖になった彼女が? ほむらの驚く表情を見て、ニコはご丁寧に自分の魔法を説明してみせる。

 

 

「我が名は神那ニコ。魔法は再生成」

 

 

自分の分身を作り出してほむらと会話させていたのだ。

そして分身を鎖に生成すると動きを封じたのだった。

 

 

「まあでも、いつまでも時間を止めていられないってのが、コッチにとっちゃ有利だった訳だけども」

 

 

ニコはほむらの魔法を知っている。時間停止(カレント・インタラプト)は、いつまでも時間を止めている訳では無い。

盾にある『砂』がある限り。それが条件である。

魔力とは別に制限があると言う訳だ。そしてそれは『ある期間』の間に消費してしまう物。

 

砂がゼロになれば時間を止める事はできなくなる。

ほむらは砂の残量に常に注意しておかなければならないのだ。

無駄遣いはできない。最低限の消費量を保つ為に、ある程度は時間を元に戻しつつ行動するとニコは狙っていた。

 

 

「そして今になる訳だ。ねえねえ今どんな気持ち? 頼ってた魔法が使えないってどんな気持ち?」

 

「ク……ッ!」

 

「なんて、冗談。気を悪くなされぬよう――」

 

 

砂時計のギミックは封じられたが、盾の穴は塞がれてなかった。

ほむらは銃を抜くと、ニコの眉間を狙う。

不動。ニコは銃弾を受けて簡単に倒れる。

 

 

「マジで殺す気? 勘弁してほしいね」

 

「!」

 

 

倒れたニコは消滅し、全く違う方向からニコ声がする。

ほむらが振り向くと、木の上でニヤニヤと笑みを浮かべるニコがいた。

そういう事か、ほむらは意味を理解して舌打ちを放つ。

おそらくはアレも分身だ。本物のニコは闇に紛れてコチラを見ているのだろう。

 

 

「アァァアアアアアアアア!!」

 

「!?」

 

 

その時だった。突如闇から手が伸びてきて、ほむらの首を掴み上げたのは。

見ればソレは連続殺人鬼であった王蛇だった。

いきなり現れ、そして容赦なくほむらを地面に向けて叩きつける。

 

 

「ウッ!!」

 

 

なんて力だ、ほむらの脳が揺れて意識が遠くなる。

 

 

「ああ、クセェな。どこもかしこも糞の臭いだけだ」

 

 

王蛇は顔をほむらに近づけて臭いを確認する。

 

 

「アァァ? お前は臭くないなぁ? 暁美ほむらかぁあ?」

 

「……ッッ!」

 

 

何を言っているんだ? ほむらは理解できずに恐怖を感じてしまう。

王蛇から放たれる異常性、そして狂った様な殺気がほむらにも理解できた。

こんな人間に会うのは初めてかもしれない。

故に怖い、考えが全く分からないから恐ろしい。

 

 

「ソイツは私のパートナーでござんす。つっても、顔合わせたのは二回目だけどね」

 

 

ニコは王蛇に少し待てと言って動きを止めさせた。

とは言えほむらの体を押さえつける力だけは緩まず、逃げ出す事は難しい様だが。

その間に説明を続けるニコ。

 

 

「私も初めて会った時にはドン引きしたよ」

 

 

だから浅倉から距離を取り、今日まで顔を合わせる事は無かった。

 

 

「コイツは狂ってる。可哀想な男なのさ」

 

 

ニコが詳細を語らない為、ココに少しだけ浅倉の事を記載しておこう。

浅倉が初めて人を殺したのは生まれる時だった。

母親の胎内にいた彼は、生まれる予定日の前に母親の腹を突き破って生を受けた。

この時、黒い手に引っ張られていたと後に語っている。

 

そう、彼の人生には常に共に歩む存在があった。

"黒い手"、文字通り空中に浮遊している手だ。

それは浅倉にしか見えない手で、他の誰に言っても存在を信じてもらう事ができなかった。

そしてその黒い手は浅倉の周りを常に飛び回り、口や鼻を塞ぐ。

 

問題はその手が凄まじい悪臭を放つ事だった。

腐った臓物、糞尿の臭いが凝縮したと言えば良いか。

幼少期の浅倉はその最悪の臭いといつも一緒だった。

 

口で息をしても何故か臭くなる。

どんな食事をしても腐った味にしか感じられなかった。

嘔吐し、臭いからか頭痛や激しいストレスに常に見舞われていた。

医者に行った事はあるが何をしても治らず、精神病と言う事でカウンセリングを受けても無駄だった。

 

ある日、浅倉はその臭いを消す方法を見つける。

始まりは車に轢かれて死んでいる犬を見た時だった。

それを見た時、黒い手の存在が薄くなったのだ。

浅倉は無我夢中で犬の死体に近づいた。すると黒い手はますます存在を散布させていくじゃないか!

 

犬の死体が放つ悪臭が、黒い手が放っていた臭いを上書きしたのだ。

すぐに黒い手は元通りになり、浅倉の鼻を覆った。

だが浅倉は諦めなかった。そしてたどり着いたのだ。この黒い手を完全に消し去る方法を。

無我夢中で犬の死体に顔を近づけた。腹からはみ出た腸を顔に塗りたくった。

臭いが消えていく。浅倉は幸せだった。

 

 

浅倉が7歳の時、孤児院で知り合った少年を惨殺した。

腹を切り裂いて臓物を引きずり出し、浅倉は顔を空っぽになった少年の腹部へと静める。

するとどうだ。やはり血の臭いで黒い手が放った匂いが完全に消え去ったではないか!

浅倉は歓喜した、無我夢中で血の深呼吸を繰り返した。

この腐りきった悪臭の世界が、血の臭いを嗅いでいる時だけ消え去ったのだ。

 

こんなに嬉しい事は無い。

しかしある程度時間が経てば、黒い手は再び浅倉に憑いて臭いを放つ様になった。

浅倉はすぐに孤児院を抜け出して次の獲物を狙う日々が始まる。

 

気がついたのは輸血パック等の血では駄目だと言う事。

殺された生き物の死体の臭いでなければならない。

当然血の臭いや死臭は良い物ではなかったが、黒い手が放つ悪臭よりは何倍もマシといえるものだったから浅倉は殺し続けた。

殺せば血の匂いがする。臭いけど、臭ければ臭くなくなる。

 

浅倉はそうやって今までずっと生きてきた。

そしてある日、ついに黒い手が言葉を放ったのだ。

 

 

『暁美ほむらと言う人間を殺せば、私はお前の前から姿を消そう』

 

 

そして丁度同じくして自分の前に現れた神那ニコ。

パートナーだからと言い、ニコと話す時は黒い手は現れなかった。

臭くないのなら殺す意味も無い、故に浅倉はニコを殺す事は無かった。

 

 

「ハハハッ!!」

 

 

王蛇は歓喜の声を漏らす。ついに、ついに暁美ほむらを殺す時がやってきた。

これで今までずっと自分を苦しめてきた因縁とも決着をつける事ができる。

王蛇は幸せだった、これでやっと解放される。

これでやっと自分は無臭の世界で、本当の世界で生きていける!!

 

 

「やっと終わる! お前を殺せばァァアッ!!」

 

 

普通の人間として、生きていく事ができる!

 

 

「ヒッ!」

 

 

王蛇のクラッシャーが割れる様に開き、牙をむき出しにしてゲラゲラと笑う。

今から行われる解体を想像してほむらはゾッとしてしまった。

時間は止められない、身動きは王蛇にガッチリと掴まれている為に不可能。

 

 

「暁美ッッ!!」

 

「!!」

 

 

その時、暗闇を切り裂く様にエビルダイバーに乗ったライアが現れた。

 

 

「しまった!」

 

 

半ば勝利を確信していただけに携帯の確認を怠ってしまったニコ。

アクションを起こす前に、ライアは王蛇を引き飛ばした。

 

 

「うおァッ!!」

 

「ッッ!!」

 

 

ライアはニコの前に着地。そこで出発際に言われたルカの言葉を思い出す。

ルカはライアの覚悟を問うた。それはコレから始まる戦いは決して綺麗な物では無いと知っていたからだ。

ライアは目の前にいるニコを見てつくづく思い知らされた。

 

コレは世界から敵とされた一人の女の子を守る戦い――、などではない。

ほむらを本気で殺そうとする者を排除する殺し合いだ。

 

ニコと王蛇は本気で暁美ほむらを殺そうとする。

そしてライアは本気でほむらを守るとする。

だったら、選ぶ道は一つしかない。その覚悟を決めるのが少し遅すぎたのかもしれない。

ライアは自分に言い聞かせる。言ったじゃないか、決めたじゃないか。

 

 

「暁美ほむら、覚えておけ!!」

 

「……っ」

 

 

ライアは振られたバールを弾くと、ニコの腹部に思い切り拳を叩き込んだ。

 

 

「ガハッ!!」

 

 

苦痛に歪むニコの表情。どうやら『本物』だった様だ。

しかし自分より小さい女の子を容赦なく殴りつける。それはヒーローのする事などではない。

そうだ、これは醜く救いのない殺し合いなのである。

 

ライアは暁美ほむらを守ると決めた。

その意思を今更曲げるつもりなどサラサラ無かった。

 

 

「俺は、どんな事があっても――ッ!!」

 

「や、ヤバイ!!」

 

 

ニコは懐から大量のビー玉を空に投げる。

そして魔法を発動。するとビー玉がニコの分身に変わり、姿を完全に隠した。

だが甘い。ライアはバイザーを強化するストライクベントを発動。

 

 

「お前を――ッッ!」

 

 

逃げるニコ。

しかしライアにとっては意味の無い行動だった。

確かに分身に隠れた中で、本体一人を探し出すのは難しい。

だが逃げ始めるこの時ならば、つまりまだ密集している時ならば。

 

 

「守るッッ!!」

 

 

ライアは思い切り地面を叩く。

するとバイザーから強力な電流が放たれて、ライアの紋章を形作った。

その範囲は大きく、逃げようとするニコ達を纏めて捉える事ができた。

範囲攻撃でまとめて本体ごと分身を攻撃する。

 

 

「ぐガ……ッッ!」

 

「………」

 

 

耐久力は無いのか、次々に消え去る分身たち。

残った本体も倒れて動かなくなる。そこへライアは詰め寄ると、ソウルジェムを掴んで引き抜いた。

 

それを見てニヤリと笑うニコ。尚も濁った瞳でライアを見ている。

意味を理解すれど、何故か恐怖と言う物が感じられない。

 

 

「化けモン共め――……ッッ!!」

 

「すまない」

 

 

ニコはフッと笑って素早く携帯を操作する。

攻撃かと構えるライアだったが、ニコは違うと口を挟む。

 

 

「プレゼント」

 

 

携帯を放り投げた。

 

 

「謝らんでいい。分身をケチった私も悪い。グリーフシード不足で……」

 

 

言い訳の時間なんて不要だ。

ニコは言葉を切ると、ライアを見つめる。

 

 

「しっかり殺れよ」

 

 

頷くライア。ニコを見たまま、ソウルジェムを握りつぶす。

思わず、ほむら目を見開く。ライアがニコを殺したのだ。

神那ニコは最後まで笑みを浮かべたまま粒子化して消え去っていく。

 

 

「ジャアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「!!」

 

 

しかし油断はできない。

エビルダイバーで吹き飛ばした王蛇は、使役モンスターであるベノスネーカーを従えて戻ってきた。

巨大なコブラのモンスターであるベノスネーカーは口から溶解液を発射してライアを狙う。

 

 

「ッ!」

 

 

構えるライア。すると周りの時間が全て停止していた。

感じるのは手を握られた感触。いつの間にかほむらがライアの手を握り締めていた。

要するにニコを殺した事で、盾を縛っていた鎖が消えたのだ。

だからまた時間を止めることができた。

 

 

「どうして……?」

 

「?」

 

 

ほむらは唇を噛む。

時間が止まった世界では、二人だけが生きている。

 

 

「どうして貴方は、私の為にそこまでするの?」

 

 

ライアは自分の為に人を殺した。

占い師ならばその重さが分からない訳では無い筈だ。神那ニコの未来を、人生を奪ったのだ。

転生があるからだとか、襲われていたからなどと、言い訳はできない。

仮に再構築できなかった場合の事も有り得たのだから。

 

 

「ハッキリ言うわ。私は貴方に何の感情も持っていないのよ?」

 

 

助けたから好意を持つ等と思わないで。

パートナーだからと言う親近感を抱かないで。世界に狙われる自分に同情なんかしないで。

ほむらは少し睨む様にしてライアに言い放った。

これは貴重な砂を使ってでも言わなければならない事だった。

 

 

「それに……、私は多分貴方が思っている様な人間じゃないわ」

 

 

汚くて、卑怯で、醜い生き物。

狙われるべくして狙われていると言ってもいいかもしれない。

どちらかと言えば被害者はニコ達の方であると、ほむら自身思ってしまうからだ。

 

 

「私には、守れられる価値なんて無いのよ」

 

 

感謝しているけど、だからと言って人を殺すまでしなくてもいい。

ほむらは説得する様にライアへ言った。

 

 

「貴方はきっと、こんな事をするべき人間じゃない」

 

「………」

 

「それに、私が貴方達の前から姿を消した理由は手紙にあった事ではないわ」

 

 

ほむらは杏子やルカに迷惑を掛けたくないからと手紙には書いた。

だが本当は違う理由があった。それは簡単、ほむらは結局最後までルカはおろか、杏子でさえ信用する事ができなかったのだ。

 

 

「怖かったのよ、彼女達と一緒にいるのが」

 

 

そして――

 

 

「貴方もね」

 

「………」

 

 

誰もが皆、願いを叶えられるという餌に食いつく筈だ。

そしてそれに加えて世界を終わらせる力を持つほむら。

そんな悪を誰が守ると言うのだろう? 誰が味方してくれるというのだろう?

 

 

「私は誰も信用できない。佐倉杏子も、双樹ルカも、芝浦淳も、貴方も」

 

「そうか」

 

「幻滅したでしょう? だから戻ってほしい」

 

「アンタだって勘違いしている。俺も綺麗な人間じゃない」

 

「え……?」

 

「正直に言うが。俺だってお前の事は何とも思っていないのかもしれない」

 

「それは、どういう――?」

 

 

手塚は生きる道しるべを失ってしまった過去がある。

何のために生きていたのか? 自分がしてきた事はなんだったのか?

それが虚しく感じてしまった時、手塚は生きる希望を失った。

そして意味も無く生きる日々が少し続いた時、やっと自分が何をする為に生きてきたのかを知る事ととなる。

 

 

「それが、俺がお前のパートナーとして選ばれた時だったんだ」

 

「……!」

 

 

世界を殺す少女を守れ。それが与えられたルールであり希望だった。

生きる事の理由を求めた時、手塚は真っ先に口に出来る答えを見つけられた。

何もできなかった自分が、今度こそ何かを成しえられるかもしれないと言う期待があった。

 

 

「俺はお前を守る自分を知りたかったんだ」

 

 

自己防衛の為にほむらを守ると決めた。ほむらを守る役割がある事が救いだった。

だからこそ手塚はほむらを守るのだ。ほむらの為ではなく、自分の心の傷を癒す為に。

 

 

「だからお前は気にする必要なんて無い。むしろ拒絶される方が俺にとっては不幸だ」

 

「………」

 

「お前は生きたいんだろう? だったら、俺はお前が望む結末を示す道具だ」

 

 

邪魔なら切ってくれればいい。利用するだけ利用した後に殺せば良い。

死にたくないならば自分を盾にしてくれればいい。

ライアは自己犠牲すらソコへ織り交ぜた。

つまり依存心。

 

 

「これが俺だ。お前を守る俺自身に希望を重ねているんだ」

 

 

それが手塚の役割、生きてきた意味なのだから。

大切なものを守れなかった過去の自分に対する復讐とリベンジ。

 

 

「俺の心には偽りも後悔もない。お前を守りたいと心から願った。だから俺は守るんだ」

 

 

それでいいだろう?

ライアの言葉に、ほむらは小さくため息を漏らす。

 

 

「それでいいの? 最悪の生き方ね。損だわ、本当に損」

 

「お前もだろう? それに、その方が俺たちには丁度良いと思うが」

 

 

ほむらは確かに笑った。

そんな彼女を見て、ライアは改めて誓いを立てる。

絆が無いからこそ生み出せる絆がある。それは儚い幻想の上に成り立つ関係かもしれない。

だが、だからこそ強靭な絆にも変われる。

 

 

「どうか、俺を信じてくれないか? お前のパートナーとして」

 

「………」

 

 

ほむらは、ライアに笑みを向けた。

ほむらのために人を殺したライア、しかしライアはそれが己のためだと言う。

悲しく、愚かな生き方だと思った。だからこそ信頼を見出した。

どこか自分に似ているから。

 

 

「いいわ。だけど、私と堕ちてくれるかしら?」

 

 

ほむらは動きを止めた王蛇を見て不適に笑った。

同じく仮面の奥でニヤリと笑みを浮かべるライア。

もとより、そのつもりである。

 

 

「ああ、俺はお前を守る騎士だ。どこまででも着いて行こう」

 

 

頷くほむら。時間を元に戻す。

 

 

「!」

 

 

王蛇の視界にいきなり現れたのはライアの拳だった。

時間停止からの攻撃、流石の王蛇も避けられる訳が無い。

顔面に大きな衝撃を受けてよろけた。そこで再び時間を止める。

 

 

「グぅゥウッッ!!」

 

 

電流を纏ったライアの拳が王蛇の背中を捉える。

振り返りながら剣を振るう王蛇だが、当然そこには誰もいない。

ほむらは最低限の砂の消費で時間停止を多用していく。

 

ライアの鞭が王蛇を叩いた。

電流を纏った激しい鞭の連撃に、ダメージが蓄積されていく。

そしてライアの背後には、スナイパーライフルを構えたほむらが闇に溶け込んでいた。

王蛇の足を狙い、防御しようとした所を撃ちぬく。

アシストは確実に王蛇を妨害して、ライアの攻撃をスムーズに命中させていくのだ。

 

 

「イライラッッさせるなァァアアアア゛ァッッ!!」『ファイナルベント』

 

 

王蛇は咆哮を上げて跳び上がった。

背後の出現するベノスネーカーの毒液を纏いながら繰り出す連続キック、ベノクラッシュをライアに向けて放つ。

 

少なくとも鞭では止められない。

ライアは容赦なく襲い掛かる連撃をその身に次々と受けていき、最後に粉々に砕けた。

 

 

『トリックベント』

 

「ぁぁアアアッ!?」

 

 

ライアの体が弾け飛んだ後、残ったのはジョーカーのカードだけだった。

囮を作り出すトリックベントにまんまと引っ掛かってしまった訳だ。

うろたえる王蛇。そこを狙うのはほむらのロケットランチャー。

 

 

「ウガアァアアァアアアアァアッッ!!」

 

 

弾丸は直撃。

王蛇は爆発に飲まれて吹き飛んでいく。それを見てライアは金色のカードをバイザーへセットした。

続けてほむらもユニオンの魔法でライアの力を発動。複合ファイナルベントの合図である。

 

 

「行くぞ、暁美!!」

 

「ええ、手塚!!」

 

 

エビルダイバーに飛び乗る二人。

ほむらはマシンガンを構えて容赦なく銃弾を倒れた王蛇へ撃ち浴びせていく。

 

 

「ガッ!! ズアアアアアアアアアアア!!」

 

 

火花を散らす王蛇の体。しかし痛みを無視して立ち上がると、王蛇は腕を伸ばした。

それを見てほむらは時間を停止させる。エビルダイバーは猛スピードで王蛇の背後に回ると、そこで時間を元に戻す。

エビルダイバーの加速力は凄まじく、一秒に満たない時間で最高速に達する事ができた。

前方にいた筈のエビルダイバーが背後からぶつかってくる。王蛇は混乱し、それだけ隙が生まれる。

 

 

「グゥウウ!」

 

 

ライアの操縦でエビルダイバーは急旋回。

右から迫るのを確認して、王蛇は立ち上がるが、次の瞬間左から攻撃を受けていた。

吹き飛ぶ王蛇。そこでほむらが時間を停止させ、王蛇の体に爆弾を設置していく。

 

時間が元に戻った。

起爆。大爆発が巻き起こり、王蛇の悲鳴が爆炎に重なる。

時間停止と不意打ちを連続で繰り返す複合ファイナルベント、パーフェクトライアー。

 

 

「あぁあぁぁぁぁあぁ……ッッ」

 

 

爆弾をデッキにセットしていたからか、デッキが粉々になったようだ。

浅倉は変身が解除されて転がっていく。仰向けになって止まったとき、浅倉の目に二つの銃口が見えた。

暁美ほむらとライア、二人は銃の引き金を同時に引いた。

 

 

「―――」

 

 

浅倉は思う。

火薬の臭い、そして自分の血の匂いが凄まじく心地良い。

 

気がつけば黒い手は血に染まって赤い手になっていた。

そうだ、そうだった。どうして簡単な事に気づかなかったのだろう?

初めからこうしていれば良かったんだ。初めからコレを選んでいれば苦しまずに済んだんだ。

自分が死ねば、臭くなくなるじゃないか――……

 

 

「………」

 

 

ほむらは眉間を、ライアは心臓を撃ち抜いて浅倉の命を断った。

粒子化して消え去る浅倉。ほむら達は夜の静寂を楽しむ様に、沈黙を保つ。

やがて変身を解除する手塚。微笑み、言葉を放った。

 

 

「戻ろう。双樹が待っていてくれる筈だ」

 

「……ええ」

 

 

信じてみよう。

ほむらは手塚に誘われるままにマンションへ戻っていく。

エビルダイバーに乗って窓から部屋に戻ると、言った通りリビングではルカが暖かい飲み物を用意して二人の帰りを待っていた。

 

 

「おかえりなさい」

 

「え、ええ。その、なんて言えばいいのか」

 

「構いませんよ」

 

 

ルカはほむらの肩を叩くと、優しく微笑んだ。

 

 

「いいパートナーですね、彼」

 

「………」

 

 

ベッドへ戻ったルカとほむら。

電気を消して横になった時に、ルカがふいにそんな事を言ってきた。

いいと言うのは、ほむらにとっては都合のいいと言う意味である。

 

 

「そうね」

 

 

ルカは笑うだけで後は何も言わない。

隣では何も知らない杏子の寝息だけが聞こえてきた。

 

 

 

【浅倉威・死亡】【神那ニコ・死亡】【のこり14人・8組】

 

 

 

 

 

 







Vバックルほすぃ(´・ω・)

ツイッターで見かけたんですけど、手塚って原作じゃ貴重な協力派だったから誤魔化されたけども、蓮視点だと謎の占い師がいきなり迫ってきて気づけば居候先にまでやって来て、さらに気づけば同居するって言うまあまあヤバイ奴ってのを見て、確かになって……。
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