仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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この番外編に出てくるライアのタイムベントは、止めた時間の中を動くことはできません。ほむらが時間を止めたら、触れない限りは、ライアも動けません。

あと、ちょっと修正しました。
というのも、ソウルジェムが肉体から離れたときの活動可能距離みたいなのが、若干あやふやだったんで、原作の100メートル前後にしました。

かずみだと、抜かれた時点でアウトっぽかったんですけど、あれは魔法の影響もあったのかなって。
まあそこらへんはすいません、ちょっとフワフワしてるかもしれやせん(´・ω・)


FOOLS,GAME LIAR・HEARTS(後編)

 

 

 

【四日目】【世界崩壊まで残り96時間】【残り参加者14人】

 

 

 

 

 

朝、芝浦の家に向かって歩く者達がいた。

 

 

「もう一刻の猶予もありません。ここで決着をつけましょう」

 

 

これ以上、暁美ほむらに生き延びられていては世界にとって、自分達にとって邪魔でしかない。

他の誰かが仕留めてくれる事を少し期待したが、どうやら自分達が動かなければならない時がやってきたと言う事なのか。

そう思い、白い魔法少女・美国織莉子はため息をつく。

 

 

「ったく、糞面倒なルールつくりやがって」

 

 

高見沢逸郎は気だるげに鼻を鳴らす。

ゲームなんてどうでもいい。だが世界が滅ぶのは困る。

これまで自分が積み上げてきた地位が全て無くなるかもしれないのだ。

そう思えば彼もまた、暁美ほむらを殺す事をスムーズに受け入れた。

 

部下に暁美ほむらを見かけたら連絡を取れと告げた結果、たまたま芝浦と同じマンションに住んでいる部下から連絡があった。

 

結果、暁美ほむらを殺す事を目的としたメンバーが一堂に会してして決着をつけようと動いたのだ。高見沢、織莉子、そして霧島美穂。

 

 

「………」

 

 

美穂は複雑そうな表情で、携帯の画面を見つめていた。

なにやらメッセージのやり取りをしていたようだ。

相手は誰なのか? 書いてある文字は彼女を止めようとする文字ばかり。

早まるな。他に方法がある筈。彼女を殺しても――、などなど。

 

 

「霧島、そんな物はもう捨てろ。邪魔なだけだ」

 

 

そう言うのは、黒いコートを身に纏った男、秋山蓮。

隣にはパートナーである、『かずみ』と言う少女がいた。

 

 

「そう――、だね」

 

 

美穂は少し躊躇を見せたが、携帯を道に放り投げる。

それは覚悟の証だ。暁美ほむらを殺す絶対の意思。

 

 

「暁美ほむらを逃がさない為、芝浦のマンションを囲む様に魔法結界を構築します。かずみさん、手伝ってください」

 

「ん、了解」

 

 

織莉子とかずみは、魔力を解放してほむらを逃がさぬシェルターを構築する。

言わば白と黒の檻だ。二人分の魔力を込めた結界は、そう簡単に壊す事はできないだろう。

 

 

「行くか」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 

デッキを突き出す三人。

指を鳴らす高見沢。肘を曲げて斜めに突き出す蓮。翼を広げる様な構えの美穂。

 

 

「変身」「変身――!」「変身!」

 

 

ベルデ、ナイト、ファム。

三人の騎士と二人の魔法少女は、芝浦の部屋を目指して一気に駆け出した。

そしてその隠す気も無い魔力を受けて芝浦達も事態を確認する。

閉じ込めてから殺す。魔力に大きな負担は掛かるだろうが、作戦としては一番ベストな物だろう。

 

 

「ま、勝つのはおれ達だけどね」

 

「厄介だな、何とか結界を破壊できればいいが……」

 

 

デッキを突き出す芝浦と手塚。

敵がまとめて攻めてくるのは予想できたが、まさかドーム状の結界で覆ってくるとは思わなかった。巨大な結界を形成できるという事は、それだけ織莉子とかずみの魔力が強いということだ。

 

 

「変身っ!!」「変身!」

 

 

ガイとライア。

そして隣には変身を済ませた三人の魔法少女が立つ。

 

 

「5対5、丁度良いじゃん」

 

 

バルコニー。杏子はポッキーを咥えて向かってくる敵を見た。

最初に向かってきたのは織莉子だ。無数に空中を浮遊する円形状の宝石・オラクルを次々にほむら達めがけて発射する。

容赦なく割れていく窓ガラス。

 

 

「派手にやってくれるね。ま、どうせ世界が終了するんだから住処なんてどうでもいいけど」

 

 

それぞれは武器でオラクルを弾き返すとマンションから飛び降りつつ攻撃を行う。

ルカは巨大な氷柱を次々に発射し、杏子は槍を、ほむらは銃を発射していく。

すると織莉子の目が金色に変わり、変則的に襲いかかる攻撃の群れを簡単にかわして見せた。

まるで最初から避けるルートが決まっていたかの様に。

 

 

「ハッ!」

 

「チッ!」

 

 

白い翼を広げて向かってきたのはファム。

サーベルの一撃は、しっかりとルカが剣を抜いて受け止めてみせる。

しかしすぐに巨大な黒い蝙蝠が見えた。どナイトが使役したモンスター、ダークウイングだ。

素早い動きでルカを抜けると、後ろにいたほむらを狙う。

 

 

「………」

 

 

だがどれだけ素早かろうが、ほむらの時間停止の前には無力と言うもの。

ほむらはルカに触れると、共に後退。さらにナイトやファムに向けて銃弾を発射しておく。

そしてすぐに時間の流れを元に戻す。次々に火花を上げてのけぞっていくナイト達。

 

 

「オラァッ!!」

 

 

動きが鈍ったところへ追撃だ。

杏子は渾身のストレートでナイトを吹き飛ばすと、そのまま背後にいたかずみへ切りかかって行った。

同じくしてライアがナイトに向かい、ルカは剣を構えてファムに切りかかって行く。

 

双方の動きを観察するのはベルデとガイ。

ほむらと織莉子は牽制の弾丸をフィールドへばら撒いていた。

 

 

「世界を崩壊させる敵を野放しにしておくなんて、お前ら気でも狂ってるのか?」

 

 

ナイトはライアに剣を振るいながら語りかけた。

 

 

「まあどっちでもいい、いずれにせよ邪魔をするならば殺すだけだ!」

 

 

ナイトの言葉には、強い覚悟の様な物が感じられた。

 

 

「悪く思うな、これは運命だ」

 

「運命か。面白い、それはコッチの台詞だ」

 

 

ライアはナイトをほむらから遠ざけようと奮闘するが、次々に迫る剣を前にして気づけば防御の回数が増えていた。

しかし意地がある。そうだ、もう迷わないと、ライアは目の前にいるナイトを睨みつけた。

 

ナイトにどんな事情があるのかは知らない。

やはり彼もまた世界を守ろうとする為に必死になのだろう。

ナイトは言った、ほむらは敵だと。それはそうだろう、大切な存在がこの世界にいるのならば次の世界に賭けるなど不要な事だ。

 

 

「ウオオオオオオッッ!!」

 

「ッ!」

 

 

しかし、ライアはほむらを守る騎士なのだ。他人に同情する事はできない。

ライアはナイトの剣を肩で受けた。痛みはある――、が、騎士の防御力ならば一撃くらいは問題ない。

そこで強引に拳を伸ばせば、ナイトに一撃を与えることは可能だった。

 

既にカードは発動してある。

拳を介して電流を流し込み、ナイトの動きを鈍らせた。

そこへ振り入れる蹴り、拳の連打。

 

 

「………」

 

 

ふとライアが周りを見れば、ソコは激しい戦いの場。

皆それぞれの想いを胸に、目の前にいる邪魔者を排除しようと死に物狂いで戦っている。

彼らは何を望むのか、何を願うのか?

 

 

「グッ!」

 

 

その時、ライアの背中に衝撃が走る。

見れば織莉子が放つオラクルが命中していた。

必死にほむらが打ち落としてくれているが、数個は当たってしまうだろう。

今度はライアの動きが鈍った所にナイトの攻撃が飛んでくる。

 

 

「手塚! 大丈夫か!!」

 

 

しかしそこで飛び込んでくるのは杏子だ。

滑り込みでライアの前に来ると、槍で剣を受け止めてくれた。

 

 

「邪魔をするな!」

 

「そりゃムリってハナシ!!」

 

 

杏子は槍を展開させて多節棍に変えると、巧みに操りナイトを縛り上げる。

気づけば一同はマンション近くの河原にやってきていた。

縛ったナイトに掴みかかった杏子は、そのまま二人まとめて土手を転がり落ちていく。

 

そこでライアは気づいた。

空中にかずみの姿がある。十字架を杏子に向けると、武器の先端に光を集中させていた。

 

 

「まずい! 逃げろ佐倉!」

 

「お、おう!」

 

 

ナイトを蹴り飛ばして立ち上がった杏子。

すぐに走るが、むしろナイトが近くにいなくなったので狙いやすくなる。

かずみは必殺技を発動。光のレーザーが杏子に向かっていく。

 

 

「チィイ!」

 

 

滑り込むライア。

今度は逆に盾で杏子を守る。

だがバイザーの防御力では高威力のレーザーは防ぎきれない。時間稼ぎが関の山だ

なのだが、何故かレーザーは粉々に消滅した。まるでガラスが砕けるように。

 

 

「あ、あれ!?」

 

 

どうして攻撃が中断されたのか。

それは撃った本人であるかずみにも分からない様だ。

地面に降り立ち、十字架に異変が無いかを確認している。

 

 

「どうし――、きゃあ!!」

 

 

悲鳴が聞こえた。咆哮も重なった。

かずみの背後から飛び出してきたのはサイのモンスター、メタルゲラス。

全速力の突進。その衝撃でかずみの体は大きく吹き飛んでいく。

 

 

「あっまいんだよなぁ」

 

 

チッチッチと人差し指を振るのはガイだった。

かずみの必殺技を中断させたのはガイが持っているカード、コンファインベントの力である。

 

 

「甘いのは――」

 

「!」

 

「お前らだ」『ナスティベント』

 

 

多節棍を切り裂いたナイト。

上空を再び疾走するダークウイングは、超音波による範囲攻撃を開始する。

脳が割れそうになるほどの不快感に、ガイ達の悲鳴が聞こえた。

さらにこの攻撃は、ナイトが指定した者には効かないらしい。織莉子たちが涼しい顔をしている中で、ライア達の動きが鈍る。

 

 

「ウォオオオオ!!」

 

「!」

 

 

だがその中で、杏子はしっかりと槍を投げ、ダークウイングを撃ち落す。

 

 

「なに!?」

 

 

さらに猛ダッシュでナイトに距離を詰めると、直接槍で切りかかっていった。

 

 

「何故あの攻撃が――!」

 

 

超音波による攻撃は騎士の特殊な力の恩恵を受けている。

いくら魔法少女がソウルジェムによる感覚調整を行っていたとしても無駄だというのに。

 

 

「何をした!」

 

「はぁ!? んなモン決まってるだろ! 我慢だよ!!」

 

 

杏子の強引な槍の一撃がナイトの剣を弾き、胴体に突きの一撃を食らわせる。

赤い閃光にもまれ、吹き飛ぶナイト。

まさかの根性論。一瞬だけ、脳内に知り合いの顔が浮かぶ。

 

 

「手塚! アタシはいいからアイツの所に行ってやれ!!」

 

「ッ、分かった!」

 

 

アイツとは当然ほむらの事である。

ライアが確認すると、ルカがほむらを守る様に立ってファムと戦っている。

そちらの方に向かおうと足を進めるが――

 

 

「ま、待って! ちょっと皆! 攻撃やめて!!」

 

 

そこで戦いの音を切り裂く一つの声が。

視線を移すライア達。聞こえたのは、かずみの声だった。

かずみは静まり返ったフィールドの中で、ほむらだけを見ていた。

 

 

「暁美さん。これはッ、わたし達の勝手なお願いだって分かってる!」

 

 

かずみは涙を浮かべて、ほむらへ頭を下げた。

こんなお願いは酷いとは分かっているが、コレしかないのだから仕方ない。

 

 

「お願い! わたし達っ、この世界で生きたいの!!」

 

 

かずみには。かずみのパートナーの蓮には叶えたい願いがあった。

ただひたすらに想い続けてきた願いがある。

蓮の恋人である恵里と言う女性は、過去の事故から意識不明の日々が続いていた。

もう目覚める事は無いと言われていた彼女だが、何と奇跡は起こり先日目が覚めたと言うのだ。

見滝原から出られない為に、蓮は病院にいく事ができなかったが今は健康に問題はないと言う。

 

 

「次の世界じゃ目覚めないかもしれない!」

 

 

かずみの声が震えていた。表情は真剣だった。泣いていた。

 

 

「お願い……! 暁美さん」

 

 

身勝手だ、十分承知している。

だからあえてストレートにほむらへ懇願する。

 

 

「犠牲に……、なってほしいの!」

 

「ッ!」

 

 

静寂が辺りを包む。

金色の瞳のまま、織莉子は刺す様な目でライア達を見ていた。

 

ほむらは思わず喉を鳴らしてしまう。

分かっていた事とは言え、改めて間近で言われる事になるとは。

ある種それは命乞いだ。しかしどれだけ言葉を並べられても、かずみ達に譲れぬ物がある様に、ほむらにも生きなければならない理由があった。

 

 

「そのお願いは、聞けないわ」

 

「ッ」

 

「私は、生き残る」

 

 

だからハッキリと告げた。

かずみは落胆したような、けれども少し安心したような表情を浮かべていた。

 

 

「どうしても、駄目なのですね」

 

「ええ」

 

 

一方で織莉子も確認するように問い掛けた。

だが、どれだけ頼まれても駄目な物は駄目だ。それは世界を天秤に掛けたとしても。

一重にそれは死にたくないと言う当たり前の願い。ココで終わりたくないと言う純粋な願いなのだから。

 

 

「残念です」

 

「………」

 

 

何か引っ掛かる物を感じて、ガイは周りを確認する。

そう言えば、いつの間にかベルデの姿が消えているじゃないか。

モチーフは見た目から察するにカメレオン。と言う事は――!

 

 

「おい! ルカ!!」

 

「!」

 

 

気づいた時にはもう遅かった。

かずみが話をしている間に、ベルデは透明になるクリアーベントを発動していたのだ。

そして息を潜めて確実にほむらに近づいていた。

 

 

『ファイナルベント』

 

「え」

 

 

周りには誰もいなかった筈なのに、ほむらの体がいきなり宙に舞い上がる。

どういう事なのか。混乱していると、同時に笑い声が聞こえる。

 

 

「ガキが! テメェは終わりだ!!」

 

 

脚をつかまれている感触。そして歪む空間。

何も無いはずの場所からベルデが現れた。

相手を掴み、勢いをつけて地面に叩きつける投げ技、それがベルデのファイナルベント、デスバニッシュである。

 

 

(しまった!!)

 

 

このままだと脳天から地面に落ちることになる。

 

 

「――甘いッ!」

 

「何っ!」

 

 

しかしガイの声でいち早く事態に気づいたルカは、固有魔法である氷魔法を発動。

ほむらの体から氷柱を生やし、掴んでいたベルデを押し弾く。

氷の棘に打ち出されたベルデはそのまま地面に墜落。ほむらも、腕を広げたライアに抱きとめられる。

 

 

「大丈夫か暁美!」

 

「え、ええ。なんとか」

 

 

それを確認して、ルカも安心した様に表情を緩める。

しかし途端にほむらの表情が変わった。

 

 

「危ない!」

 

「え……ッ!」

 

 

振り替えるルカ。そこには――

 

 

「うぐッ!!」

 

「残念ね、余所見はいけないわ」

 

 

ファムはレイピア状のバイザーをルカの背後から突き刺した。

思い切り力を込めていたのだろう。バイザーはルカの体を貫通しており、さらに狙いは正確でソウルジェムまでをも破壊する一撃だった。

 

 

「あ……! う――っ」

 

「ごめんなさい、あの世で幸せになってね」

 

 

ルカの目から光が消える。

ソウルジェムの破壊は魔法少女の死であると同じ。

つまりルカの死亡が確定された瞬間であった。

それを見て杏子の表情が鬼気迫る物へ変わる。

 

 

「テメェら! 卑怯だぞ!!」

 

 

杏子は襲い掛かるオラクルを打ち返しながら織莉子達に向かっていく。

 

 

「泣き落としで不意打ちかよ!」

 

 

その言葉を聞くと、複雑そうにかずみは表情を歪めた。

どうやらかずみは知らなかったようだ。もちろんかずみ以外は知っていたが。

 

 

「どんな手を使ってでも世界の平和を守るのが私達の使命なのです!」

 

 

汚い手だと言われても結構。全てはこの世界を守る為だ。

織莉子はオラクルを無数に発射して、杏子達を攻撃する。

杏子も持ち前の戦闘センスでオラクルを弾いていくのだが、逆に杏子の攻撃も一撃とて織莉子に命中する事は無かった。

それを見てライア達は言葉を失う。

 

 

「ふーん、あれがそうなんだ」

 

「ああ」

 

 

ライアとガイが素早く会話を交わす。

実はライアは既に織莉子の固有魔法が何なのかを知っていたのだ。

何故? それはニコを殺した時だった。携帯を動かし、それがプレゼントだと言っていた。

 

ルカの家に戻った手塚は、自身の携帯にメッセージが送られているのを確認した。

それはニコが自分の魔法でつくったアプリ、レジーナアイから送られたものだ。

ニコは手塚のメールアドレスを知らずとも、自分が思った言葉を文字として携帯に送信できる。

 

そこに書いてあったのは――

 

 

 

 

ね、これが私を殺してくれたお礼のプレゼント。

 

美国織莉子って白い奴には気をつけろ。アイツは未来を知れる魔法を持ってる。

だから普通に攻撃しても無理。何かしても多分駄目。ありゃ、暁美んと並ぶチートだもん。

 

もしもアイツが真正面から向かってくる様な事があったら、ソレは遠まわしな勝利宣言だと思って良い。織莉子は結果を知っている。未来予知でな。

 

織莉子は良い奴だ。

かわいいし、綺麗だし、胸もデカいときたもんだ。

少しだけしか会話はした事無いけど、彼女は世界を救おうと日々考えてらっしゃる。

 

な、ここまででも暁美のカスとはレベルが違うだろ。

 

織莉子にとって暁美ほむらは邪魔以外の何者でもないわな。

私も邪魔だと思うもん。

 

まあでも私は多分もう死んでるんだろう? 死んでるよな?

だからもう世界がどうなろうと知った事じゃない。

ってな訳でアイツの攻略法を教えてやる。これで次の世界で私をちゃんと蘇らせろよ?

 

さて長くなったな。てっとり早く言うと――

 

 

「………」

 

 

ガイもその攻略法を聞いていた。そして現在、状況をゆっくりと観察する。

地面に倒れるルカ。血を振り払うファム。ベルデは相変わらず透明になってほむらを狙っているし、ナイトとかずみはゴリ押し。

 

肝心の織莉子は勝利を確信した様に笑っている。

そう、今も視ているのだろう。暁美ほむらがココで死ぬ未来を。

 

 

「あーあ、なんか萎えちゃったなー。敵がチートプレイとかクソゲーじゃん」

 

「は?」

 

「このままなら負ける」

 

 

ガイはその事実が不満だと舌打ちを漏らす。

しかし相手は未来を確認できる力を持っている。

おまけに身体能力が味方をしているのだろう。杏子の攻撃を全て回避する辺りに力を感じる。

ハッキリ言ってしまえば自分達は少しずつ押され、最終的には敗北する筈だ。

 

 

「飽きちゃったなぁ。何かムカツク、切断してやる」

 

「何を言って――」

 

 

ガイは背後を指差す。

釣られて視線を移すライア、するとそこにはメタルゲラスが召喚されて猛スピードで走り去っていく所だった。

 

 

「おれが未来を変えてやる」

 

「!!」

 

 

その時、織莉子の表情が変わる。

そして意味を誰よりも早く理解したのはライアだった。

 

 

「お前、まさかッ」

 

「さっさと行けよ。おれの気が変わらない内にさ」

 

 

ガイは大きく息を吸い込んで直後叫ぶ。

 

 

「ルカ! あやせ! もう飽きた、終わらせるぞ!!」

 

 

すると、あれだけ小競り合いをしていた状況が一気に変動を告げた。

最初に苦痛の声を上げたのは――

 

 

「な、なん……、で――ッッ!」

 

 

ファムはルカを貫いた。

そして、次はファムがルカに貫かれる番だった。

ソウルジェムを破壊されて倒れていたルカがいきなり起き上がると、ファムにサーベルを突き出したのだ。

 

すっかり死んだものだと思い込み、背中を向けていたファム。

全力を込めた突きは背中を貫通する。

 

 

「ごふ――ッ」

 

「ご・め・ん・ね♪」

 

 

ファムは見る。ルカがしっかりと立ち、しっかりと言葉を放っているのを。

それは死んだ者にはできない、生きている者のみに許された行為だ。

何故? どうして? ファムは混乱しながら血を吐き出し、地面に倒れる。

 

 

「わたし、双樹あやせ。ルカは私の妹なんだ☆」

 

 

双樹の体には二人の人間が住んでいる。

双樹ルカ、そして双樹あやせ。二人で一人の魔法少女だったのだ。

それぞれに願いを叶え、どちらかが死んでもどちらかが生きていれば蘇生が許される。

すぐにあやせはルカを蘇生させて、二人の魔力を一つに合わせた。

 

 

「こ、この力は――ッッ!!」

 

 

織莉子は双樹の新しい姿を見て青ざめる。

まさかこんな力を持っていた化け物が存在していたとは。

二人の双樹は一人となり覚醒。ポニーテールはツインテールに、ドレスの色は左右非対称に。そしてサーベルは二刀流に。

 

あやせとルカで、『アルカ』と名乗った彼女は圧倒的な魔力を放出させていた。

それもその筈だ、通常の魔法少女が持っている魔力を彼女はもう一つ持っているのだ。

 

つまり純粋に考えれば力は倍となる。

人見知り故に今まで引っ込んでいたあやせだが、芝浦の声を聞いてこの世界に来たと言う事だ。

 

 

「淳くん! どうするの?」

 

「終わらせる。おれ、もう飽きたからいいや」

 

「うん! 分かったよ淳くん!」

 

 

あやせは引っ込んでいたものの、ルカを通して今までの事は全て知っている。

アルカはほむらにウインクを行うと、協力の意思を示した。

その間に素早く作戦を告げるガイ。あまりに淡々と口にするが、それは簡単な話しじゃない。

 

 

「お前、本当にいいのか?」

 

「いいよ別に。何かこのまま負けるって考えたらどうでもよくなったし。切断して強制終了でバグらせてやる」

 

 

「しかし、彼女はどうなんだ?」

 

 

ライアはアルカを見た。彼女はニコニコと笑って楽しそうだ。

楽しそうだったが、転がっているファムに手をかざすと、アルカの目がゾッとする程冷たくなった。

 

この時、ライアは世界の現実を知った気がする。

この今の現状、ガイ達が仲間になる今も、自分がココに居る今も。

全ては狂った歯車の上になりたった世界だからこそ有り得た事なのだと。

 

 

「あーあ……。こんな事なら…アイツの言う事聞いていれば――……な」

 

 

ファムも同じような事を感じたのかもしれない。

広がった空を見て、ニヤリと笑った。

何故ここにいるのか、何故ここで死ぬのか。

 

全ては、最初から――

 

 

「ごめん真――」

 

「消えて♪ 貴様は目障りなんだ」

 

 

炎と氷が合わさったエネルギーが放たれてファムを包み込む。

断末魔をあげる暇さえ与えず、美穂は塵になった。

 

それを見てライアは改めて身に刻み込む。

これは運命なのだ、初めから仕組まれた戯曲であり、そして自分達は否応にも無くその奔流に巻き込まれる。

 

 

「――ッ!」

 

 

ライアはガイに何も言わずに走り出した。

人間など運命の前には悲しい程無力なのかもしれない。

しかしだからこそ人は運命を信じ、時に疑い、否定する。

 

今ココにどうして自分がいるのか。

運命の悪戯と言う言葉があるが、今のライアにとってはソレ等は全て妄言でしかない。

この世にある事、起きる偶然、願った奇跡、それらは全て必然だ。

ほむらと出会い、ガイに背中を向けて走ったことも運命ではなく、全て必然の上に成り立つ現実。

 

 

「暁美ッ! 佐倉!!」

 

 

しかしあえて運命と言う物があるのならば、それは神でさえ予想できぬ道筋を言うのだろう。

それらは全て自分が決める。進むと決めた道を守ってくれる、言い訳の様なシェルターなのだ。

自分の中につくる敵と言う名の掟。

 

 

(そうだ、俺は決めたんだ。守ると!)

 

 

だから、ほむらが死ぬ事が運命ならば死んでも変えてやる。何を犠牲にしても変えてやる。

 

 

「それが俺の、運命ッ!!」

 

 

決まっていたのかもしれない、全て最初から。

ライアはエビルダイバーに飛び乗ると、杏子とほむらを掴んで先ほどメタルゲラスが走っていった場所へ向かう。

当然、ナイト達は動くが、アルカは氷と炎のトンネルを構成してライア達の道を守った。

 

 

「邪魔をするな!!」

 

「嫌だよ、あなたこそ邪魔!!」

 

 

アルカはナイトの剣をしっかりと受け止めると、熱気を放つ。

魔法結界の中にさらに自分の結界を構成し、ライア達を守るバリアを作った。

舌打ちを放つベルデや織莉子。高い魔力でごり押しするのか?

 

 

「クッ! それにしても……ッ!」

 

 

織莉子は先ほどから焦りの表情で周りを確認していく。何故か先ほどから全く未来が見えない。

暁美ほむら達はココで死ぬはずだった。なのにその未来が砂嵐とノイズに消えていくじゃないか!

 

 

「何故……! どうして!!」

 

 

理由は二つある。

一つは実のところ、この場にイレギュラーな存在がいたと言う事だ。

これは今説明するものでもなく、忘れてくれて良いだろう。

 

そしてもう一つが簡単だ。未来が変わろうとしているからである。

ニコは彼女の対処法として一つの提案を手塚にしていた。

それをガイは実行しようとしているのだ。

 

 

「でもいいのぉ? 淳くんはコレで」

 

「いいよ。何か世界の崩壊より、コッチの方が面白そうだ」

 

 

ゾクゾクしてきた。ガイは仮面の下で笑う。

 

 

「お前こそいいのか? 意味分かってんだよな?」

 

「うん☆ だってわたし達は淳くんと一緒ならなんでもいいもーん!」

 

 

楽しそうに笑うアルカ。

魔力を最大に解放して他を圧倒する。あまりにも強力な光りがソウルジェムから漏れる。

膨大なエネルギーの増長、織莉子はそこでやっと彼等が何を狙っているのかを理解した。

 

 

「な、何を考えているんですか!!」

 

 

そんな素振りを二人は見せていない為、織莉子は気づくのに遅れてしまった。

そうだ、未来を変える簡単な方法は確かに存在する。

 

 

それは、人の死だ。

 

 

「お、おいおい!!」

 

 

ベルデは透明になりつつも意味を理解する。

ナイト達もまた理解し、すぐに空へ飛び立った。

 

 

「イカれてる!!」

 

「蓮さん!! もっと早く!!」

 

 

そうだ、死だ。人が死ねば以後その人が他の存在に影響を与えると言う事がなくなる。

人の世界は他者を通して完成していくもの。つまり人との繋がりで構成されていると考えても良い。

故に人が死ねば未来は大きく変わっていく、関わりの積み木が崩れるからだ。

 

 

「ねえ淳くん、わくわくするね。死後の世界ってどんなのなのかな?」

 

「そうそう、早く行こうぜアルカ」

 

 

まるで放課後にどこかへ遊びに行こうと言うノリで話す二人。

そこには一片の恐怖もなく、一片の焦りもない。全て当たり前の様に進んでいく会話。

 

織莉子は認められないと後退していくだけ。

ベルデは必死に二人を止め様としつつも、アルカが発する力の前に吹き飛ばされるだけだった。

 

 

「あ、ありえねぇだろ!!」

 

 

逃げ出すベルデ、透明は無駄だった。何故なら――

 

 

「未来が……! 変わる――ッッ!!」

 

 

織莉子が呟いた。

そしてアルカは自らのソウルジェムに限界を超える魔力を密集させて開放させた。

最後までアルカは笑顔、何も怖がる事は無い。だって芝浦がそうしろと言う。

芝浦がいる、彼が隣で見守っていてくれるから。

どこまでも、彼と一緒なんだもの!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うああああああああッッ!!」

 

 

杏子が叫んだ。凄まじい爆風が背後から襲ってきたのだ。

しかし目の前にはメタルゲラスが全力でぶつかって脆くなった結界がある。

三人は力をそこへ一点集中にしてm無理やりに結界をこじ開ける。

 

そのまま無我夢中でエビルダイバーを飛ばすライア。

杏子達は口をあけて、結界があった方向を見ている。

 

 

「ど、どういう事なんだよ……!」

 

「アイツ等は俺達を逃し、そして織莉子達を倒す為に自爆したんだ」

 

「は!? なッ! なんでさ!?」

 

 

織莉子は回避ルートを探る能力に特化している。さらにベルデは透明になれる。

故に広範囲を焼き尽す技ならば二人を封殺し、一気に勝負を動かす事ができると踏んだのだろう。

 

 

「そ、そうじゃない! 死ぬ必要があるのかって事だよ!!」

 

 

杏子は納得できない。

その作戦は分かるが、だったらば範囲を攻撃する魔法を使えばいいだけじゃないのか。

 

 

「わざわざソウルジェムを膨張させて自爆するなんて方法じゃなくても良かったんじゃないのか!」

 

「未来を変える一番の方法は死だ。誰かが死ねば、未来は変わる」

 

 

織莉子はほむらは死ぬ未来を視ていた。

だから誰かがトリガーになるしか無かったのだろう。

変わった未来が良い物かどうかは知らない。未だほむらが死ぬ運命は変えられていないのかもしれない。

 

それでもガイ達は己の命を犠牲にしてほむらを延命させた。

織莉子と高見沢を道連れにしてだ。ナイト達はどうだろう?

なんとなくだが生き延びた気がする。

 

 

「……ッ」

 

 

杏子は何も言わなかったが、やはりどこか腑に落ちない所があるのだろう。

目線を落とし、拳を握り締めていた。

 

 

「佐倉、お前が言っていた事と同じものがあった筈だ。あの二人にも」

 

「え……?」

 

 

芝浦淳も双樹姉妹も、『生』と言う物に対してそこまでの執着が見られない。

それは何故か? 杏子は言っていたじゃないか、この世界に絶望しているから次に賭けると。

あの二人もそれは同じだ。楽しそうに見えていたとしても、どこか世界に絶望していたんだろう。

 

 

「皮肉だよ、俺達に味方してくれる奴らは皆どこかで絶望していたんじゃないか?」

 

 

世界に希望を視ている者は、ほむら達を敵と言い。

世界を諦めた者は、次に希望を見出す為に味方をすると言う。

 

二分化する中にあるのは希望と絶望。

けれどもソレは人が持ちえた感情が成すものだ。

つまり今の状況は、心ある人間が織り成すからできあがったもの。

 

 

「佐倉杏子。お前がもしこの世界で少しでも生きたいと思うなら、今すぐココを降りてくれ」

 

「………」

 

 

二つの意味だ。

エビルダイバーから降りると言う意味と、もう一つは味方を止めろということ。

しかし杏子は首を振る。そうだ、もう何も無い。取り戻せるかと思っていた絆も無いのだ。

 

皆死んだ。ゆま達もマミ達も。残っているさやかだってきっともう――?

杏子はポッキーを一つ取り出すとそれを咥える。

そのまま首をふって箱を二人に差し出した。

 

 

「くうかい?」

 

 

降りない、それが杏子の答えだった。

杏子だって手塚の言葉の意味は良く分かるし、全て図星だ。

自分がこの世界で生きる意味はあるのか? それが杏子には分からない。

家族、友人、全てを失った自分にできる事を少しでも見出し――、そして死にたい。

 

 

「もらうわ」

 

「!」

 

 

仮面をつけているライアは受け取る事は無いが、ここで動いたのはほむらだった。

杏子からポッキーを一つ受け取ると、涼しい顔でソレをかじって見せる。

それは信頼の証だ。杏子は笑みを浮かべると、ほむらの肩に腕を回す。

 

 

「なに?」

 

「へへ! いや……、別に!」

 

「鬱陶しいからやめて」

 

「いいじゃんちょっとくらい。へへ、へへへ!」

 

 

肩を組んで笑う杏子。ほむらも口では拒絶するが、悪い気はしていないようだ。

手塚も杏子も、ほむらとは悲しい土台で作られた脆い絆でしかない。

しかし今はそれで十分だった。

 

それで良かったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

一同はそのまま手塚のアパートにやってくる。どっと疲れた、手塚は椅子に座って俯く。

一方の杏子は近くに公園があるかどうかを問うた。

 

 

「公園? 近くにあるが、どうしてまた?」

 

「ああ、ちょっとね」

 

 

杏子は理由を告げず、出て行ってしまう。

 

 

「?」

 

 

顔を見合わせた手塚とほむら。

何をしに行くのか? 気になった二人は杏子についていく事に。

 

 

「なんだよ、ついて来るのかよ」

 

「ダメ?」

 

「……いや、べつに。ただちょっとケジメをつけたいっていうか何て言うかさ」

 

 

杏子は公園につくと端の方へ向かい、適当に砂や木の枝、草の蔓を集めて何かを作っていった。

何も知らない者が見れば普通に公園で遊んでいる様に映ったかもしれない。

しかし木の枝を重ねた物を見て、手塚達も杏子が何をしようとしているのかを悟った。

 

 

「貴女……」

 

「へへ、馬鹿だろ? でも何となくさ。昔の癖って言うか、何て言うか」

 

 

砂を積み上げ、そこへ立てるのは木の枝で作ったお粗末な十字架だ。

杏子はそれを幾つも作ってみせる。お墓だろう、ゆま達やマミ達の。

 

 

「死体も無いし、アイツ等が死んだ事を知っているのはアタシ達だけさ」

 

 

世間では彼女達は存在しなかった存在として認識される。

墓だってそうだ、いくら端とは言えココは公園である事に変わりない。

誰かがボールを投げたり、ふざけて走っていたら簡単に崩れて消える。

そんな儚い存在、杏子もそれを皮肉っていた。

 

 

「まあ、魔法少女になった時点でアタシらは死んでた」

 

 

今更だけど。杏子は悲しそうに笑って墓を完成させた。

 

 

「もういい。もう帰ろう」

 

 

かける言葉が見つからない。

二人は頷くと、杏子の後をついて公園から立ち去ろうとするが。

 

 

「こんな物、未練が残るだけだよ」

 

「!!」

 

 

つい先ほど聞いた声がして、三人は後ろを振り向いた。

そこにいたのは秋山蓮とかずみだった。かずみは杏子が作った墓を見ると、悲しげな目でそれを踏み潰す。

 

 

「おいッ! 何しやがる!!」

 

「こんなの、虚しいだけだよ」

 

 

墓は死者を供養し、手向ける物。

同時に、残された者を安心させる物でもある。

しかしこの粗末な墓はそのどちらをも満たしていないと言う。

 

もしも失った仲間を供養したいと言うのならば、こんな不安定な場所に墓など作るものか。

遅かれ早かれ壊されて終わっていただろう。だとしても杏子はほむらの味方をして世界を終らせようとしている。

もしもそうなれば死者は蘇る事になる筈だ、ほむらが望めばの話しだが。

 

 

「結局、貴女は自己満足でコレを作ったんでしょう?」

 

「グ……ッ!」

 

「そんなの、悲しいだけだよ」

 

 

かずみの言葉に杏子は何も返さなかった。

 

 

「そんな事を言いに来たのか?」

 

「そんな訳あるか」

 

 

蓮は鼻を鳴らす。ココに来たのは正式な勝負をしにきたと。

明日、見滝原の展望台で決着をつけたいとの事だった。もしも拒めばこの場で戦い、必ずどこまでも追いかけて殺すと告げる。

 

 

「………」

 

 

時間を止めるほむら。

わざわざ自分の前にやってくるとは愚かな話しだ。

ここで蓮とかずみを殺して終わりである。

 

 

「無駄だよ、わたし……、耐性をつくれるから」

 

「っ」

 

 

やはり対策はとってあるらしい。

かずみの魔法は時間停止から逃れる抗体を生み出せるらしく、制した時間の中でほむらに触れる事なく動いていた。

 

どんな仕掛けがあるのかは知らないが、ならば仕方ない。

ほむらは時間停止を解除して目を細めた。

 

 

「一日だけ時間をやる。逃げても俺は必ずお前を殺すぞ」

 

 

蓮の瞳はしっかりとほむらを捉えていた。

蓮には愛する者がいる。過ごした思い出、笑顔、その存在は次に持ち越せるほど軽くは無い。

かずみだってそうだ、守りたい人がこの世界にいる。この世界で生きている。

 

 

「わたしは、貴女を絶対に殺す!!」

 

 

涙を流してかずみはほむらを睨んだ。

本意ではない。だが他に方法が無く、迫るタイムリミットから目を逸らすなどと言う事はできなかった。

 

 

「……私も、死ぬ訳にはいかない」

 

 

散る火花。

そしてほむらを庇う様に立った手塚。

 

 

「コイツは死なせない。悪いが、俺もアンタ等を全力で潰す」

 

「フッ、いいだろう。その方が後腐れ無く済む」

 

 

蓮達は踵を返すと、そのまま三人の前から姿を消した。

 

 

「チッ、なんだよあいつら。せっかく作った墓は一瞬で崩壊ってなもんだ。それにわざわざ面倒な事をしなくてもココで戦えばいいのに」

 

「迷っているのかもしれないな、向こうも」

 

 

秋山蓮と言う男はどうか知らないが、少なくともかずみからは躊躇が見られた。

もしかしたら殺したくないのかもしれない。奇跡が起こる事を願っているのかもしれない。

 

 

「ありえねぇよ、そんな都合のいい話し」

 

 

杏子の言葉はオレンジ色の空に吸い込まれていく。

皆が奇跡を願っている。誰もが幸せになれる未来、誰もが争わず、仲良く手を取り合っていく現実を望んでいる。

 

 

「だけど、奇跡は起きないから奇跡なんだ」

 

 

杏子は諦めていた。

 

 

 

 

【高見沢逸郎・死亡】【美国織莉子・死亡】

 

【芝浦淳・死亡】【双樹ルカ(あやせ)・死亡】【霧島美穂・死亡】

 

【残り9人・5組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【五日目】【世界崩壊まで残り72時間】【残り参加者9名】

 

 

 

目を開けたほむら。目覚めは悪くない。体を起こすと時間を確認した。

蓮が指定した時間まではまだ少しある。昨日、帰った後に三人は特に会話をするでもなく各々の仕度を済ませて眠りについた。

ほむらはただ一言、蓮達を倒すと決めて。

 

 

「おお。起きたのか」

 

「ええ」

 

 

杏子は先に着替えを済ませていた。

 

 

「アンタも着替えな。ほら、手塚は出てけ」

 

 

杏子は手塚を追い出すと、椅子に座ってポッキーを齧っている。

 

 

「……あの」

 

「ん?」

 

「着替えるのだけど」

 

「知ってるよ。アタシはいいだろ、恥ずかしがるなよ」

 

「………」

 

 

まあ、いいか。

ボタンに手をかけたほむら。

そこで杏子が立ち上がる。

 

 

「おいおい、髪にゴミがついてるよ」

 

「え?」

 

「アンタも仮にせよ女だろ? もっと身だしなみに気をつけなよ」

 

「………」

 

「アタシが取ってやる」

 

 

なにか、こう、こみ上げるものはあったが抑えた。

杏子に任せようではないか。それは無意識な信頼だ。

しかし次に感じたのは、首元に響く衝撃。

 

 

「―――」

 

 

ほむらは揺れる視界の中で、杏子を見た。

複雑そうな表情を浮かべている中、杏子はほむらの背中に手を押し付けると魔法を発動する。

 

 

「な、何を――ッ!」

 

 

菱形が連なった鎖のようなものがほむらを縛り上げる。杏子の結界の一部だ。

 

 

「許せ、アンタは連れて行けない」

 

「どうして――!」

 

 

杏子はほむらのソウルジェムを抜き取って自分の魔力を込める。

一瞬、マミの笑顔が過ぎった。

 

 

(昔はバカにしてたけど、今は付き合ってやるか……)

 

 

炎がほむらのソウルジェムを包む。

けれどもこれは攻撃ではない。織莉子とかずみが巨大なドーム型の魔法結界を構築したように、赤い螺旋をイメージして、その奥へほむらのソウルジェムを送っていく。

 

 

「う――ッ」

 

 

ほむらは意識が遠のくのを感じる。

 

 

永炎(えいえん)の淑女って名前の技だ。かっこいいだろ?」

 

 

個人差はあれど、ソウルジェムは魔法少女の肉体から約100メートル離れると肉体を仮死状態にさせる。

杏子が使ったのは、その距離を縮めることだ。

 

 

「安心しな、あくまでもそう錯覚させているだけだから、体が腐る事はねぇ」

 

 

赤い菱形が生まれる。そこにほむらのソウルジェムを閉じ込めた。

杏子はその菱形を、倒れているほむらの真上に吊るす。

これでほむらの動きを封じつつ、かつ結界の主である杏子が死ねばソウルジェムは自動的に解放されて、ほむらの体に触れるという仕組みだ。

 

 

「天才だなアタシ。震えるぜ」

 

「だから、どうして……?」

 

「どうして? 決まってるだろ?」

 

 

杏子は寂しそうな目でほむらを見る。

 

 

「それだけ本気なのさ。アタシも、アイツも」

 

 

ほむらの意識は薄れていく。

何も言わず、何も抵抗せず、苦悶の表情を続けたまま目を閉じていく。

杏子はほむらが気を失ったのを確認すると、両手を思い切り自分の頬に打ちつけた。

覚悟の証だろうか? そのまま杏子は変身すると、外で待機していた手塚の所へ向かう。

 

 

「行こうぜ、手塚」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツはどこだ?」

 

「ココには来ない、当然だろ」

 

 

見滝原の展望台。

夕焼けが綺麗に見えると評判の場所であり、デートスポットとしても有名なこの場所。

普段は家族やカップルなどの姿が見えるのだが、今は誰もいない。それはそうだ、ココはかずみの魔法結界にて覆われた隔離地域なのだから。

 

 

「まさか、のこのこと彼女を連れてくると思った訳じゃないだろ?」

 

「そうだな。まあいい、さっさとお前達を殺して探しに行くか」

 

 

蓮は当たり前の様に言い放つ。が、しかし彼の言葉には心が無い様に感じた。

迷いを振り切る為に、迷いから目を背ける。

ずるずると泥沼に嵌っていく様な感覚、分かっているのに分からない。

秋山蓮はそう言った苦しみを抱えていた。

 

 

「来い。殺してやる」

 

 

だから振り切らなければならない。

迷いを殺す為には手塚達を殺さなければならない。

そうすればもう戻れない、それを蓮は望んでいる。ほむらを殺す正当性がもっとほしかった。

世界を守る為にとかじゃない、仕方なく殺さなければならなかった等と言う事でもない。

ただ純粋な覚悟がほしかった。暁美ほむらと言う少女を殺して自分が生きる世界を望んでいるのだから。

 

 

「変身!」

 

 

黒騎士、ナイトへと変身する。構える剣は手塚の心臓を狙っていた。

隣にいたかずみは無言で変身を済ませて、同じく十字架を杏子へ向ける。

今のかずみには無表情、無言ながらの覚悟が見えた。

 

どうやら暁美ほむらを殺す事に振り切ったらしい。

苦しいくせに、悲しいくせに、強がるのは愚かな姿に見えて仕方ない。

もううんざりだった、誰もが早く終らせたい。終らせて楽になりたいんだ。

世界とか未来とかじゃなく純粋にソレは自分達の為に。

 

 

「変身!」

 

「変身」

 

 

ライアに変わる手塚、魔法少女の衣装に変わる杏子。

 

 

「すまないな、迷惑をかける」

 

「へっ! 今更だよ、気にしない気にしない!」

 

 

槍を構えた杏子はニヤリと笑ってライアを見た。

それが本当の彼女の笑顔なのだろうか? ライアには分からないが、ただ今は杏子の存在は自分達にとって希望そのものだ。

悲しい言い方をすれば、最大限利用できる。

 

 

「来るぞ、佐倉!!」

 

「ああ、アンタも気をつけなよ!!」

 

 

その言葉を言い終わる前に杏子はかずみの十字架を受け止めているところだった。

縦から切り、横に払い、突きを繰り出していくかずみの動きにピッタリとついてくる杏子。

その目にはしっかりと反撃のヴィジョンがある。

 

 

「ハッ!!」

 

 

ナイトも剣を振るいライアを狙う。

ライアはあまり真正面からの戦いが得意ではない騎士であるが、今回ばかりは仕方ない。

ライアは敵の武器をコピーできるカードを使ってナイトの剣を持ち出した。

 

 

「何故お前はあの女を守る!」

 

 

しかして剣の腕前はナイトの方が上なのか。

すぐにライアの剣を吹き飛ばして、胴に思い切り斬撃を刻み込む。

火花を上げて後退するライアに、ナイトは容赦ない連撃を浴びせて行った。

当然だ、ライアを殺す為に剣を振るっている。

 

しかし口にするのはライアに対する疑問だった。

殺そうとしている相手に質問しているのは、何と矛盾した考えだろうか。

 

 

「惚れているのか?」

 

 

剣をかろうじて受け止めたライアだが、ナイトは肘撃ちでライアを怯ませて、腕の力を強制的に緩ませる。

やはり、ライアは簡単に剣を離してしまう。ナイトはすぐに一閃を刻みこんだ。

ライアはうつ伏せにて倒れ、ナイトがその背中を踏みつける。

 

 

「さあ……! どうだろうな?」

 

「命が惜しいからか?」

 

 

ほむらを守らなければライアが死ぬ。予想はできる。

 

 

「もちろんソレもあるが、それだけじゃないさ……ッ!」

 

「!?」

 

 

その時、ナイトは背中に衝撃を受けて一瞬動きを止めた。

杏子が隙を見て槍を投げたのだ。ライアは体を起こし、ナイトから離れるとアドベントを発動する。

駆けつけたのはエビルダイバー。追撃の電撃を受けて、ナイトは地面を転がっていく。

 

 

「アイツの目に、俺が映ったからだ」

 

「……ッ、それが答えか」

 

 

ほむらはライアを見た、パートナーとして。

 

 

「それが俺の、運命であり必然だったんだ!」

 

 

今度こそ守ってみせる。もう守れずに終るのは嫌なんだ。

ライアはそう言って拳を握り締めると、走り出す。

それを見てすぐに立ち上がるナイト。剣を添える様にして突き出した。

ライアの勢いを利用したカウンターだろう、しかし――

 

 

「読んでいた!!」

 

「!」

 

 

ライアの喉に突き刺さった刃。

しかし鏡がはじけ飛ぶ様に空間が割れ、剣はトランプのジョーカーのみを突き刺していた。

そして目の前からは水流と電撃を纏って突撃してくるライアが。

トリックベントで囮を作り、生まれた隙を見てファイナルベントを発動させたのだ。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!!」

 

 

これを食らえば終わり、それはナイトとて分かっていた。

しかしもう遅い。この位置では必ず攻撃は当たる。

 

 

「なっ!!」

 

 

だがそこでナイトの前方にかずみが割り入ってくる。

杏子を退けてナイトに合流したのだろう。ナイトを掴むと、かずみは飛び上がり、軌道から外れていく。

 

 

「ちっくしょ……ッ! 逃がすか!」

 

「ハッ!」『ファイナルベント』

 

 

杏子は悔し紛れに槍を投擲するが、無駄だった。

ナイトはそれを剣で弾くと、自らもファイナルベントを発動。

ダークウイングがライアの背に装備されると、翼を広げて上空へ舞い上がる。

さらに翼がマントに変わり、ナイトを包み込むようにしてドリルとなった。

飛翔斬。それはライアのハイドベノンに直撃して互いを相殺させる。

 

 

「ぐッ!」「チッ!!」

 

 

地面に墜落する二人の騎士。だがその身を超えて二人の魔法少女がぶつかり合う。

杏子は槍を両手に持っており、武器がぶつかり合う音が聞こえてくる。

ライアが顔を上げると、かずみが血を撒き散らしながら後ろへ下がっていくのが見える。

 

 

「ウオオオオオオオ!!」

 

 

杏子は追撃のために槍を振るうが、そこでナイトが素早くカードをバイザーへセットする。

 

 

『トリックベント』

 

 

一瞬だった。地面に膝をついているナイトとは別に、かずみの目の前にナイトが出現した。

分身を作る能力だ。おまけに分身にはちゃんと実体がある。

だからこそ分身ナイトが突き出した剣が、杏子の肩に突き刺さる。

 

 

「ガっッ!!」

 

 

突如現れたナイトに反応できなかった。

杏子は苦痛に顔を歪めるが、すぐに拳を握り締めて目の前にいる分身を殴りつける。

耐久値は無いのか、粉々に砕ける分身。しかし杏子は見た。破片に紛れ、本物のナイトがすぐそこに迫っていたのを。

 

 

「死ね」

 

 

黒い一閃が。

ライアが杏子の名前を叫ぶ。だがもう遅かった。ナイトの剣は杏子の首に入ったのだ。

 

 

「ッ!」

 

 

が、しかし、刃が止まった。

杏子は全ての魔法を防御力に注いでいたのだ。

それほどナイトの力が強くなかったのが幸いだった。

 

 

「チッッ!!」

 

 

ナイトは剣を持つ手に力を込めるが、刃はそれ以上進むことは無かった。

完全に肉に塞き止められている。そうしていると、杏子が刃を掴む。

これは賭けだ。だがそうまでして狙いたいチャンスがある。

 

 

「いまだ! 手塚ァ!」

 

「何ッ!!」

 

 

ライアが杏子の肩を蹴って跳んだ。

そして大きく腕を振るい、バイザーにある刃をナイトの背へ刻み込む。

火花が散った。ナイトが振り返ると、さらに一撃。もう一撃。さらに一撃。

次々と振るわれたバイザー。ナイトは抵抗できない、杏子が腕を掴んできて離さないからだ。

 

 

「ハアァアアッ!!」

 

 

ライアのハイキックがナイトの頭部に直撃し、脳が揺れた。

動きが鈍る。杏子は首に食い込んでいたダークバイザーを抜き、投げ捨てる。

そして槍を、同時にライアはバイザーの刃で思い切りナイトを斬りつける。

 

 

「やめてよ! もういい加減にしてよ!!」

 

 

かずみが涙を流しながらライアを止めようと走る。

しかしライアは止まらない、向かってきたかずみを回し蹴りで吹き飛ばすと、再びナイトを切りつける。

 

かずみの苦しみや悲しみを犠牲としても、ライアはほむらを守らなければならないんだ。

それは苦しい事だ。しかし決めた誓いというものがある。

 

 

「わたし達の世界を壊さないで!! リーミティエステールニ!!」

 

 

このままならば蓮の彼女は意識を取り戻す。

それはかずみの幸せでもある。だがそれは暁美ほむらにとっての幸せではない。

ライアは盾形のバイザーでそれを受け止めると、そのまま力ずくで突き進んでいく。

途中でバイザーが砕けた。光が漏れる。熱がライアを焦がす。

それでもライアは止まらない。かずみがどれだけ力を込めても倒れる事は無かった。

 

 

「ギャッ!!」

 

 

しかしかずみがいた場所、その真下から槍が生えてきて妨害を行う。

杏子の技、『異端審問』だ。ダメージを受けた事でかずみの必殺技が中断される。

その隙にライアはかずみを攻撃しようとして――、できなかった。ナイトが腰にしがみついてきたのだ。

 

 

「退けェエ!!」

 

 

ナイトはすぐに体勢を整えると、ライアの肩を掴んで、拳を頭部に撃ち当てる。

だがライアもすぐに拳を構えて、それをナイトの顔面にぶつけていく。

 

 

「かずみ!!」

 

「うん、分かったよ蓮さん!!」

 

 

かずみは立ち上がると全力疾走。

十字架から光弾を発射して、ライアにぶつけていった。

ライアの動きが鈍り、隙が生まれる。だがナイトは一旦バックステップで距離を取る。

さらにかずみが地面に落ちていたダークバイザーを掴み取り、そのままナイトと合流する。

 

 

「魔法ッ、使わないと死んじゃうよ!!」

 

 

警告のように言い放つかずみ。不利になったとしても、それで良かった。

 

 

「魔法、使えないんだよ……! クソ!」

 

 

杏子は血が流れる首を抑えながらライアの隣に来る。

 

 

「大丈夫か佐倉」

 

「アタシはいい。ソウルジェムが無事なら大丈夫さ。そっちこそ簡単にくたばんなよ」

 

 

そこでまた、走り出した。

当たり前だ、まだ視線の先には標的が立っている。だから殺すために走る。なにもおかしな話じゃない。

戦いが終わるのは、相手が粒子化した時だけだ。

 

互いを互いが傷つけあい、それを続けていく。

気がつけば誰もがボロボロだった。特に酷いのはライアだ、かずみの必殺技を受けた彼の鎧には傷が目立つ。

 

 

「ハァアアアッ!!」

 

 

しかしライアの勢いは止まらない。

エビルバイザーについたブレードでナイトの装甲にガリガリと傷をつけ、そして自らの拳を強く打ち付ける。

 

 

「ぐゥウッッ!!」

 

 

ナイトはバランスのいいカードが揃っているが、防御力は平均以下と言った所。

ライアの激しい攻撃に、確実なダメージを負ってる。

同時に感じる焦りがあった。どれだけライアを切っても殴っても、勢いは死ぬどころか増している様に感じる。

 

それだけライアの想いが強いとでも言うのか?

恵里の為に戦うナイト想いを凌駕しているとでも言うのか?

それがどうしても納得いかなかった。

 

 

「認めるかッッ!!」

 

「ッッ!!」

 

 

ナイトは剣と槍の二刀流で激しくライアを切り刻む。

鎧の破片が飛び散り、蹴りでライアの脚を強く打った。

 

 

「邪魔なんだよ、お前はッッ!!」

 

 

崩れたライアへ思い切り突き出す剣。

それはライアの仮面を捉える。

 

 

「俺だって同じだ!」

 

「ッ!!」

 

 

仮面の強度は強く、剣を弾く事に成功するが、突きの威力もまた大きい。

攻撃を受けた部分が破壊されるに至った。

ライアと言う存在から漏れた手塚海之の顔。ナイトはその目を見て一瞬だけ動きを止める。

言い様の無い気迫。『目を見れば分かる』なんて言葉は今まで信じていなかったが――

 

 

「お前……ッ!」

 

「俺を恨め、ナイト……ッ!」

 

「なにッ?」

 

「お前の世界を壊してまで、俺は自分の意思を貫こうとしている!」

 

 

ライアは強化したバイザーで思い切りナイトを殴りつける。

電撃をまとった一撃。ナイトは大きくのけぞり、隙を見せてしまった。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

ライアはもう一度ナイトを強く殴る。

守れなかった自分に与えられた運命。それはほむらを守る事だった。

それはライアにとっては何よりの贖罪ではないか。皮肉な物だと最初は笑ったが。

 

 

「俺は――ッッ!!」

 

「グぅウウウッッ!」

 

 

何度この言葉を口にしただろう。

何度この言葉を言い聞かせただろう。何度この言葉を思っただろうか。

悩み、迷い、苦しみ、考え、ライアは自らを包む虚無感を全て拳に乗せてナイトを殴っていく。

 

 

「アイツを――ッッ!!」

 

 

一瞬だけナイトの向こう側に『彼女』の姿が見えた。

まだ会って一週間も経って無いのに、幻を視るようになったのか。

少し、客観的に呆れてみる。そしてそれもまた一瞬。

彼女の向こうに、守れなかった友を視た。

 

 

「守るッッ!!」

 

 

幻のほむらは笑っていたのだろうか? いや、ほむらの笑顔をライアは見たことが無い。

全て幻想だった。それで良いと思っていた。

だって本当の笑顔を浮かべられるのは、きっと次の世界だ。ライアには関係ない事なのだ。

ライアは全てを振り切る様に、ナイトを殴り飛ばした。

 

 

「アァアアッ!!」

 

 

同じく杏子に打ちのめされて、ナイトの近くに叩き付けられたかずみ。

かずみはどんなに覚悟を決めようとも、杏子を殺す事に抵抗を感じている。

理由はいろいろある筈だ。例えば杏子を純粋に殺したくないだとか。例えばこの世界で生き続けたいが故に、人を殺した罪を背負いたくない等と。

 

一方で杏子にはもう何も無い。

この世界の未練、そしてこの世界で生きる意味。

だから杏子はかずみを殺す事ができるし、何の抵抗も無い。

 

ハッキリ言ってしまえば、最初からかずみが杏子に勝てる可能性など存在していなかった。

勝負は最初から決まっていた。希望を抱えたかずみと、絶望に片足を入れていた杏子。

 

 

「かずみ!!」『ファイナルベント』

 

「う、うんっ!」『ユニオン』『ファイナルベント』

 

 

しかし、だからと言ってそのまま負けていい筈が無い。

ナイトとかずみはパートナーが故の武器を発動させた。

ファイナルベントを消費していたナイトだが、複合魔法を使えばもう一度だけファイナルベントを発動させる事ができるのだ。

 

しかしライアと杏子はそれができない。

ナイトペアの必殺技を避けるか受け止めるしかないのだ。

 

 

「キィイイイイイイイ!!」

 

 

現れるダークウイングは超音波でライア達の動きを封じる。

耳から脳にまで進入してくる衝撃。頭が割れそうになる感覚を覚えて、ライアと杏子は苦痛に叫びをあげた。

 

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

 

杏子は叫びながら頭を抱えた。

うるさい、うるさい、やめてくれ、止めてくれ。

そんな苦しみの中で、しっかりと見るのは構えをとるナイトとかずみの姿だった。

 

逃げなければならない。

それはライアも杏子も分かっていたが、凄まじい音波の中で考えは薄れていく。

以前よりも衝撃が強い気がする。それだけナイトの意思にダークウイングが呼応しているのだろうか?

 

 

「―――」

 

 

杏子は耳を塞ぎ、悶えている自分の姿を何故か客観的に見ていた。

そういえばいつだって耳を塞いでいた気がする。

聞きたくない言葉を全てシャットアウトして、結果どうなった?

 

 

『この魔女めッッ!!』

 

 

やめて、お願いだから聞かさないで。

ずっと耳を塞いでいれば良かった。

お願いだからそんな言葉を放たないで――っ!

 

 

「お…父……さんっ!」

 

 

混乱していく頭。目の前にいるのは幼い自分だった。

己がココにいるのに、杏子は何とも言えない感覚に陥る。

小さい佐倉杏子が頭の中で泣いている。耳を塞いで、今みたいに。

 

 

『どうして……? どうしてそんな事を言うの!?』

 

『アンタ、そんな奴じゃないって思ってたのに――ッ!』

 

「違う……! マミさ――! さやか……ぁ!」

 

 

アタシは、聞きたくなかった。自分が拒絶したのに聞きたくない!

 

 

『杏子お姉ちゃ―――』

 

 

杏子はその時、瞳に光を取り戻した。

苦しみを耐えるように歯を食いしばって、ライアの前に立つ。

広げる両手。一面に広がる赤い鎖の様な結界。

 

 

「佐倉……っ!」

 

「悪いッ、ちょっと……! "せんちめんたりぃ"ってヤツだったわ」

 

 

ライアは全身を包む苦痛の中で、杏子の後姿を見る。

悲しい背中だった。全てを諦めた様な哀愁を感じる。

杏子は普段と変わらない様子でポッキーを咥える。しかし衝撃の中だ、すでにポッキーは粉々になってしまった。

 

 

「おいおい、せめて食わせろよ……!」

 

「お前……、大丈夫なのかッ?」

 

「安心しな、アレはアタシが止めてやる」

 

 

迫ってくる十字架状の鎌鼬(かまいたち)を見て、杏子はヤレヤレと笑った。

最後の最期で、結局『十字架』ってマークが自分に付きまとってくるのか。

 

 

「一番嫌いな記号だよ――ッッ!!」

 

 

杏子は十字架の形をしたソウルジェムを一度撫でると、もう一度眼に光を灯して全力を込める。

まあ、なんだかんだ粋な演出じゃないか。最後の敵が十字架だなんてさ。

 

 

「きやがれェエエエエエエエエエエエエエッッ!!」

 

 

直後爆発が起こる。

ナイト達のファイナルベントである疾風十字星は、杏子が張った結界に命中すると競り合いの後に爆発を起こした。

煙の中に消えるライアと杏子。ナイトとかずみは動かずに様子を見た。

 

 

「チッ!」

 

「そ、そんな……!」

 

 

突きつけられる結果。

杏子が張った結界は粉々に破壊されていたが、攻撃自体がライアに届くことはなかった。

先ほどの宣言どおり、杏子で止まっていたのだ。

 

 

「佐倉、すまん! 大丈夫か!?」

 

「ああ、こんなの何ともないね」

 

「嘘を言え! ボロボロだぞ!!」

 

 

全身から出血。

騎士ほどではないとは言え、防御力の高い魔法少女の衣服も鎌鼬によって切り裂かれボロボロだった。

 

見える素肌からはやはり出血。

そして顔にも酷い傷が見え、右眼の部分が血で覆われていた。

髪を結んでいたリボンもまた切り裂かれ、杏子はそれを残った左眼でジッと見つめている。

 

 

「………」

 

 

杏子はリボンの残骸を無言で地面に落とす。そしてライアに何かを告げた。

 

 

「な――ッ!」

 

 

驚くライア。後は何を言っても杏子が反応する事は無かった。

ただ両手を広げてかずみ達を睨みつける。すると異変が起こった、杏子の周りに次々と大きな槍が出現していく。

それは数十なんて数じゃない、数百と呼べる物。

 

 

「まだあんな技を!」

 

「来るよ! 蓮さん!!」

 

 

マントを広げて防御体制をとる二人。

しかし杏子はそれを一蹴して笑った。

そんな防御じゃこの攻撃は防げない。そうだろ? 杏子は頭の中にいる『彼女』へそう言った。

 

 

『あら、佐倉さんは魔法が使えないのね。だったら私の技をアレンジしてみるといいわ』

 

『しょうがないなぁ、あたし様の技も盗んでもよいぞ~』

 

『ああそうだ、技の名前はちゃんと言わないと駄目よ!』

 

 

笑みを浮かべる杏子。

あれはいつかの日、自分が生を望んでいた日の事だ。

 

 

「手塚……、ミスんなよ」

 

「佐倉……!」

 

 

一瞬、無音の世界がやってくる。

 

 

「ああ、分かっているさ」

 

「だったらいいよ」

 

 

何故か笑いあう二人。

そして杏子は一勢に槍を発射する!

 

 

「パロットラ・マギカ・エドゥン・インフィニータァアアアアアアッッ!!」

 

 

やっぱ恥ずかしいわ、名前叫ぶの。杏子は静かな笑みを浮かべる。

そして紅い雨がナイト達に向かって降ってきた。

それはもう防御すらも許さぬ、抵抗すらも認めぬ。なぜならばこれは攻撃ではなく裁きだからだ。

 

かずみやナイトは必死に槍を弾こうと試みるが無駄だった。

では回避はどうか? 無駄だ、それはどこに言っても降り注ぐ均一なる赤。

 

 

「無駄さ。アタシの全てを込めた攻撃なんだ!」

 

 

降り注ぐ槍雨の中を猛スピードで突っ込んでいく杏子。

まるでそれは紅の風、槍の雨に全身を刻まれるナイト達に止めを刺すためにやってきた暴風だった。

 

 

「テンペストーゾ……!」

 

 

その名を口にして、杏子は持っていた槍でナイトの心臓を狙う!

 

 

「うぐぅァアッッ!!」

 

「かずみ!」

 

 

しかし当然と言えばいいのか。かずみは蓮を守る様に割って入った。

既にナイト共々全身を槍で貫かれておきながら守る必要はあるのか? そこまでする必要はあるのか?

 

そんな言葉は何の意味も無い。

それを知っているから杏子は力を入れてかずみの肉を抉った。

 

 

「え、えゥ、あふっ、ア――!」

 

 

ガクン! と、かずみの首が落ちた。

殺した。杏子は確信を持つが――

 

 

「ゥガアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

顔を上げたかずみ。大量の血を吐き出しながらも、同時に異変が起こる。

眼に一本、ジグザグな線が縦に入り、歯は鋭く尖り、爪は鋭利となり。下半身は蛇のように変わる。

 

獣のような咆哮。かずみの全身からビリビリとした覇気が溢れた。

ただ一言で表すならば化け物と言うのが相応しい。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

かずみはその体で杏子の槍を受け止め、同時に鋭い爪を胴に刻み込んだ。

血が噴水の様に出てくるが杏子は怯まない。頭突きでかずみを一度怯ませると、かずみの真下から大量の槍を出現させる。

 

当然自分も巻き込まれる事になるのだが、気にする事は無い。

杏子は叫びを上げて腕を振り上げた。

このまま槍を振り下ろせば終わる。

 

 

「―――」

 

 

痛みは無い、しかし分かった事もある。

腕の感覚が無かった。それは腕が無くなったからだ。

かずみの隣には、同じく全身に槍が刺さっているナイトの姿が見えた。

 

ナイトはあの降り注ぐ死の雨を受けてなお動き、杏子の腕を跳ね飛ばしたのだ。

右手を失った杏子だが、まだ左腕が残っている。

杏子は既にかずみのソウルジェムが、耳についている『鈴型のピアス』である事を見抜いていた。

右か左かは知らないが、だったら両方毟り取ればいい。

万引きで見つけた早業だ、二つのピアスを手におさめると、すぐに握りつぶす。

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ちぃいいッッ!!」

 

 

だが何故かソウルジェムを破壊してもかずみは生きていた。

信じられない、しかし現実なのだから仕方ない。

杏子はそこで多節棍を召喚して自らの体とかずみの体を縛り、繋げる。

 

 

「死ねッッ!!」

 

 

一方でウイングランサーを構えていたナイト、このまま杏子だけを貫き殺せば――

 

 

「待ってたぜ、その瞬間をぉオオ!!」

 

「!?」

 

 

杏子は全力を込め、体を旋回する。

杏子、かずみ、ナイトの並びになった直線。

そしてナイトは今更ながらライアの姿が見えない事に気づいてしまった。

 

 

「しま――ッ!」

 

「ウグッッ!!」

 

 

囮。それが全てだった。

杏子の腹部を貫くのはナイトのウイングランサー。

けれどもソレはナイトが持っている物じゃない。

 

 

「これで、終わりだッッ!!」

 

 

ライアがコピーベントにて複製したものだった。

ライアは杏子がナイト達の隙を作るこの瞬間を待っていた。

それは杏子自身の頼みである。

 

 

『アタシごと、あいつ等を殺ってくれ』

 

 

だから杏子ごと、かずみ達を貫いたのだ。

ウイングランサーは長い。かずみをも貫通すると、ナイトのデッキを捉えた。

 

 

「ガ―――ッ」

 

 

かずみはまだ生きている。

ソウルジェムを潰した上で、心臓を止めなければならないのだ。

 

どうしてかずみだけ他と違うのか?

そんな疑問はあったが、動きを止めた今が最大のチャンスだった。

 

 

「グガ……ッ! ア――ッ」

 

 

杏子は拘束を解除すると、いったん後ろに跳んで槍を連続で発射する。

誰もが慢心相違。動きを止めていたかずみは全身に槍を受け、その一本がたまたま心臓を貫いた。

 

 

(ごめ――……ねちゃん。わたし――……れなかった)

 

 

破壊された鈴型のソウルジェムを握り締めて、かずみは最期の想いを浮かべる。

何を意味するのかは分からない。それは様々な者に対する謝罪だった。

死の扉の前、かずみは何度も何度も謝った。

 

 

(――……)

 

 

事切れるかずみ。

一方で腹部を貫通した槍のダメージは、当然杏子も負っている。

糸の切れた人形の様に倒れ、動かなくなった。何とかソウルジェムの破壊こそ免れたが、受けたダメージがあまりにも大きすぎる。

肉体の方がもう言う事を聞いてくれない。

 

 

「まだだ……ッ! まだだ!!」『トリックベント』

 

「!!」

 

 

ライアの周りにナイトの分身が四体現れる。

既に装甲はライア同じくボロボロになり、壊れている状態。

まるで分身たちはナイトの意思を持つ亡霊のようだ。

 

同時にそれだけナイトの想いが強いと言う事でもある。

当然だ、ナイトの背中には愛する者の存在がある。

 

 

「クッ!」

 

 

ライアは分身達の攻撃をかわし、反撃していく。

だがそれが隙である事は明白だった。ナイトは最後の力を振り絞り、ライアのデッキを狙い突きを繰り出した。単発ならばまだしも、分身に囲まれていたライアに回避はできない。

結果はライアもデッキにヒビを入れられる事になった。

 

 

「――!」「!!」

 

 

同時に崩れ落ちるデッキ。鏡が割れる様に、ナイトとライアは弾け飛んだ。

晒される手塚と蓮。双方血だらけで互いを睨んでいた。

蓮は粒子化していくパートナーの死体を複雑な目で見ている。

そしてすぐに彼女の傍にあった十字架の杖を持って走り出した。

 

 

「待ってろ、かずみ……ッ! 今、終わらせる!!」

 

「………」

 

 

蓮はひたすらに走る。

ただ目の前にいる手塚を、そして向こうにいるほむらを殺す為に。

 

先ほど杏子とかずみの戦いは始まる前から決着がついていたと言った。

かずみには迷いがあり、そして杏子は全てを諦めていたからと。

 

それは彼らにも言える事だったのかもしれない。

愛をこの世界に覚え、希望を守ろうとした蓮は、心のどこかで殺す事に迷っていた筈だ。

どんなに覚悟を決めても、どんなに口では信念を語ろうとも、揺れると言うのが人間だから。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

それは手塚も同じだ。

しかし強いて言うのであれば、手塚の方が迷いは少なかった。

 

事前に杏子から縮小していた槍を渡されていた。

かんたんな『おまじない』もかけてもらった。

伸びろと言えば伸びる。簡単だった。手塚はそれを口にした。

十字架と伸びる長い槍。リーチは手塚の方が勝っている。

 

 

「………」

 

 

手塚の喉の数ミリ前には、蓮が突き出した十字架があった。

もしも、もう少しだけ蓮の距離が近かったのならば手塚は死んでいただろう。

しかし現実として、蓮の攻撃は手塚には届かなかった。

 

逆に手塚の攻撃は蓮に届いていた。

突き出した槍は蓮の心臓を貫いている。これは運命――?

 

 

「―――」

 

 

蓮は倒れ、そして粒子化して消え去った。あっという間に消滅する蓮とかずみ。

たった今まで殺し合いをしていたとは思えない程、展望台は静まり返っている。

彼らが流した大量の血も、涙も、もうどこにも無かった。

 

 

「佐倉……ッ!」

 

 

手塚は足を引きずりながら、倒れた杏子の所へ向かう。

いつの間にか足は血で真っ赤になっている。

痛みは無いのは感覚が無いからだろうか? しかし今はそんな事なんてどうだっていい。

 

杏子の槍が無ければ今死んでいたのは自分だ。

それに彼女はナイト達のファイナルベントを受けてくれた。

 

 

「お前がいなければ、俺は死んでいた」

 

「へっ、惚れん…なよ……」

 

 

かろうじて声を出す杏子。

しかし見るからにして彼女の傷は酷いものだった。

片腕は無く、片目はつぶれ、そして全身からは人間が流すには多すぎる血が。

 

 

「あんま触るな……。血で…、汚れちまう……」

 

「おい、どうすればいい! 魔法で回復は――」

 

「無理…だよ」

 

 

傷自体は問題ない。

騎士である手塚にしてみれば酷く深い物に見えるかもしれないが、魔法少女はソウルジェムさえ守れれば死ぬ事はない。

傷はやがて癒えるだろう。

 

 

「でも……駄目だ、ちょっと…ばかし……魔力を使いすぎちまった」

 

 

杏子は自分のソウルジェムを具現化させる。

そこにあったのは淀みきった魔法少女の魂だった。

濁った赤黒い色は、既に手遅れである事を物語っている。

 

ほむらを守るために使った結界。

そして数多くの攻撃を受け、かつ固有魔法を失った杏子が反撃の攻撃を打ち込む為にはそれ相応の代価は必要だった。

つまり杏子は自分の命を賭けて、かずみ達を倒したのだ。

 

 

「本当はさ、グリーフシードの一つや二つ……予備っとくんだけどね――」

 

 

どうにも魔女が見つからなかった。

ほむらについていた時も、暇が少しでもあれば魔女を探したのだが結局無理だった。

ルカが予備をくれなければもっと早く死んでいたかもしれない。

しかしなぜ? 魔女は集まってきていると思っていたのに。

 

 

「まあ…どこぞの奴が狩りつくしたか――……」

 

 

こんなに見つからない物だとは思わなかった。

杏子はそう言って苦笑するが、手塚はどんな顔をしていいか分からなかった。

 

杏子が死ぬ。

それは手塚達にとって最後の味方を失う事である。

 

 

「どうにもならないのか……?」

 

「さあ? でももういい、やめてくれ。アタシはもう疲れた。そろそろ休ませろよ」

 

 

杏子はそう言って目を閉じる。

 

 

「誰にも……、言うなよ」

 

「っ?」

 

「アタシ、本当はもっと……、この世界で生きたかった」

 

 

本当はマミ達とまた仲良くなって、そこにはきっとゆま達もいて。

マミは不器用な所もあるけど優しい奴だから、多分浅海の奴とだって仲良くなれる。

時間はかかるかもしれないけど。とにかくアタシ達はまた皆友達として笑い合って、マミの家でお茶できる関係になれたんじゃないか?

 

 

「さやかと……、馬鹿やって……、ゆま…と――」

 

 

ただ、それだけで良かった。

 

 

「で……も――あ――し」

 

 

でも、アイツらは死んで死んでしまった。

まだ生き残っているだろうさやかとは、せめて関係を修復したかったけれども。

杏子の言葉はだんだんと小さくなっていく。同時に『赤黒い』から『黒』一色になっていくソウルジェム、時間はもうない。

 

 

「生きたかった。んで、幸せになりたかった」

 

「………」

 

 

最期の力と言う事なのか、杏子はハッキリと言う。

 

 

「まあ、そんなの誰でも思うことさ。当然それはアンタだって、暁美の奴だってそうだろ」

 

「ああ、そうだな」

 

「それでいいんだよ。それが普通さ」

 

 

何もおかしな話じゃない。

 

 

「だから、せめてしっかり守ってやれよ」

 

 

杏子はぎこちない笑みを手塚に向けた。

もしも次にまた再構築で世界に降り立つ事ができたのなら――

 

 

「今度こそ、幸せになりたいな……」

 

「佐倉――ッ!」

 

「頼む。後は任せた」

 

 

杏子は自分のソウルジェムを空へ投げた。

手塚はそれを睨むと、持っていた杏子の槍で、彼女の魂を砕く。

杏子はそれを見て安心したような、少し寂しそうな笑みを浮かべた。

 

 

「やっと――……、終わる」

 

 

幸せになれない世界なら、諦めてもいいだろ?

最初はどんな事をしても生きて行かなきゃならないって思ってた。

 

でも、寂しいよそんなの。

マミ達がいて、ゆま達がいて、家族がいる世界に行けた方が幸せだもの。

杏子はそう思い、願い、消えていった。

 

 

「………」

 

 

手塚を汚していた血も、もうどこにも無い。

その事実が虚しく、悲しく、けれども都合が良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【秋山蓮・死亡】【かずみ・死亡】【佐倉杏子・死亡】

 

【残り6人・3組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚が家に戻ると、ほむらが壁にもたれながら、へたり込んでいた。

杏子が死んだ事で結界が解除され、ソウルジェムがほむらの体に戻ったのだろう。

ほむらは手塚を見る。傷だらけの姿と、隣にいない杏子から、何があったのかを理解したようだ。

 

 

「彼女は?」

 

「死んだ」

 

「そう」

 

 

冷めたように言ったものの、ほむらの表情は分かりやすいほど変化していた。

眉を下げ、とても寂しそうだ。短い間だとは言え、杏子と過ごした時間は楽しい物だったに違いない。

それはあくまでも手塚個人の考えでしか無いが。

 

 

「そう、佐倉杏子が……。そうなの」

 

 

しばし沈黙していたが、ほむらは立ち上がると手塚に近づいていく。

 

 

「手当てを」

 

「っ?」

 

「そんな傷でよく平気な顔をしているわね。私の魔法で治療するわ」

 

 

そこで思い出すのは杏子の話だ。

グリーフシードを生み出す魔女はおろか、使い魔でさえ見つからない状況。

 

 

「なるべく魔力を消費させたくない」

 

 

それを告げると、やはりと言うか睨まれる。

 

 

「何を言っているの、いいから寝て」

 

「痛くないから大丈夫だ」

 

「感覚が無くなる程に危険って事よ。早く寝て」

 

「いや、だから――」

 

「寝 て」

 

「………」

 

 

仕方ない。手塚はほむらに言われた通り横になる。

確かに、余裕を決めてはいるが、血がながれて気が遠くなっていく気がする。

さっさと横になると、ほむらは淡い光を掌に宿す。

 

魔法少女はどんな魔法形態であれ、簡単な治癒魔法ならば使える。

応急処置にしかならないだろうが、それでも無いよりはよほどマシだ。

淡い光が心地よく、みるみる体が楽になるのを実感した。

 

 

「………」

 

 

しかれども、気まずい沈黙が流れる。

やはりほむらは勝手に置いていった事を恨んでいるのだろうか?

下手をすれば別の参加者に狙われていた可能性もあるのだ。

とは言えわざわざあの場に連れて行く事も難しかったのだが。

 

 

「すまない」

 

「……謝るのは、私の方よ」

 

「?」

 

「安心したの」

 

 

ナイト達の場所に行きたくは無い。戦いたくないと思った。

だから杏子が代わりに戦いの場に赴き、そして犠牲になってしまった事に安心してしまう。

もしも杏子がいなければ死んでいたのは自分だったかもしれない。

 

 

「最低ね、私は……」

 

 

ほむらは俯いた。手が震えていた。声も震えていた。

 

 

「杏子……」

 

 

掠れる声で小さく名前を呼ぶ。

そこで手塚は首を振った。

 

 

「少なくとも佐倉杏子はアンタの生を望んでいたし、恨む事はないだろう」

 

「ッ」

 

「彼女はただ、人並みの幸せがほしかった。それだけなんだ」

 

「そう……、なのかしら」

 

「ああ、きっと」

 

 

杏子はきっと本気でほむらを守りたかった筈だ。

たとえ世界に未練を覚えていても。でなければココまで付き合ってくれない。

ほむらに笑顔は見せない。ほむらのために、魔法のカケラは見出さない。

 

 

「貴方も、そう思ってくれるの?」

 

「ああ」

 

 

ほむらは目線を下に落とす。どうやら心には響いていないようだ。

手塚はいつもそうだった。いろいろ理由をつけて守ってくれるが、いつも仮面をつけている。

 

 

「………」

 

 

もう二人しかいない。

手塚も理解したのだろう。仮面を外すときを。

 

 

「俺が騎士になったのは親友のためだ」

 

「え?」

 

 

手塚は昔話をはじめる。

守りたかった者を守れず、後悔に逃げた男の話だった。

迷いも、悩みも、苦しみも悲しみも詳しく。己の感情を偽る事なく、ほむらへ伝えていく。

 

ほむらは目を見開き、それを食い入る様に聞いていた。

彼は、彼と言う人間は――

 

 

「俺は、お前に過去の過ちを重ねた」

 

 

それでいいと思い、守りきる事が贖罪だと信じた。

暁美ほむらを守るのではない。

 

 

「ただ助けを求める人を守れれば良かった」

 

 

だから手塚はこのゲームが救いだと思ったのだ。

 

 

「やはり、謝るのは……、俺の方だ。お前の事を守るとは言え、本当にコレでいいのか分からなくなってきた」

 

 

守っている筈だ。

なのに皆死んでいく。先ほど腕にあった杏子の感触すら忘れてしまいそうだ。

 

 

「いいのよ……。別に、私も」

 

 

消え入りそうな声を聞いた。

だからこそ、手塚の心にはある変化が生まれた。

ダメだ、これではいけないと思った。

 

迷いながら、過去に希望をおいてきたまま、望みを託し死んだ杏子を思い出す。

そうだ、何をやっているんだ。手塚はもう一度誓いを立てる。

今度こそ、『暁美ほむら』だけを見て、彼女を守ると言わなければならなかった。

 

 

「俺が今まで守ってきたのは、親友(アイツ)との約束だけだ」

 

 

逃げてきただけだ。ほむらを守ってなんかいなかった。

親友の幻影を崩さないようにしていただけだ。

守れれば誰でもいい。そんな想いは、杏子の死によって変わった。変えなければならなかった。

 

 

「俺は、これからはお前だけを見るよ」

 

「………」

 

「?」

 

「ずいぶんとキザな言葉。そう言うのは好きじゃないわ」

 

「あ、いや――、確かに」

 

 

そう言われればそうか、手塚は恥ずかしくなって苦笑する。

しかし面白い事にほむらにはその意味が分かった様だ。

果たしてパートナーと言うのは形だけなのであろうか?

彼女は自分自身でも良く分からなくなってしまう。

 

 

「ふふっ、ありがとう……」

 

 

笑みが浮かんだ。ほむらは確かに笑った。

 

 

「信頼、しているわ」

 

「あ、ああ」

 

「ふ、ふふ! ふふふ!!」

 

 

あまりにも簡単に見れてしまったあどけない笑顔に、手塚は拍子抜けしてしまう。

 

 

「どうしたの?」

 

「いやッ、なんでもない……」

 

 

だからだろうか? 手塚はついポロリと言ってしまう。

これからはパートナーとしてもっとお前の事を知りたいだとか。

お前の昔の話を聞きたいなどと、何だか勘違いされそうなニュアンスを含んだ言葉を連呼してしまった。

 

言葉を言い終わった後に自分の愚行に気づいたか、手塚は慌てて弁解を始めた。

まるで一人芝居だ。焦る彼を見て、ほむらはまた笑ってくれた。

 

 

「過去は、秘密。まだダメ」

 

「あ、ああ。それでいい。悪かったな」

 

「いいのよ。貴方はもう休んで、傷はだいぶ良くなる筈だから」

 

 

ほむらは魔法を止めると変身を解除する。

破壊されたデッキは24時間で再構築される為、翌日のこの時間まで手塚は変身する事ができない。

ましてやただの応急処置、派手に動けばすぐに傷口が開く。

 

 

「私が死ねば貴方も死ぬ。だから貴方は私を守るんでしょう?」

 

「ッ」

 

「貴方が先に死んだら意味が無い」

 

「………」

 

 

手塚は困ったようにため息をつくと、目を閉じた。

 

 

「………」

 

 

目を閉じて動かなくなった手塚。眠ったようだ。

ほむらは手塚を覗き込むように観察する。

彼は何故かいつも眩しそうだった。何が見えていたんだろう?

ほむらは気になってしまう。手塚の視ているものが知りたかった。

 

 

「………」

 

 

そして感じる孤独。

少し前までは、うるさいくらい話しかけてくれていた杏子がもういない。

手塚を失えば、ほむらは本当に一人になってしまう。

参加者の数も減ってきた。自分を守ってくれる人はいない筈だ。

 

おかしな話だ。なぜこんなにも――、胸が痛くなるのか。

昔はずっと一人でうまくやって来たじゃないか。

ほむらは手塚から離れると椅子に座って本棚にあった本を適当に取る。

 

 

「………」

 

 

それはどこにでもあるような恋愛小説だった。手塚もこんな物を見るのかと、少し意外だった。

ほむらとしても、もうやる事は無い。テレビはつまらない物しかやっていないし、見たことのある物ばかり。

 

 

「手塚――」

 

 

本棚においてあると言うことは、お気に入りなのだろうか?

気になってしまい、本をパラパラとめくる。

 

そこに書いてあったのは純粋な愛の物語だ。

愛し、愛され、最後はお互いの想いが重なってハッピーエンドとなる。

ほむらは気がつけば夜中までその本を読んでいた。

そこにあったのは幸せの物語、彼女が望む世界でもある。

 

 

「―――」

 

 

幸福がある。愛があれば、世界は変わるのか。

ほむらは一度読み終えた本をもう一度最初から読んでいた。途中に衝突や悲しい出来事はあれど、何度読んでもこの世界は幸せな結末で終わってくれる。

この世界の未来は、明るく輝いているのだ。

 

 

「起きてたのか」

 

「!」

 

 

手塚は頭を抑えながらほむらの所へやって来る。

深夜に一度目が覚めたが、明かりがついているじゃないか。気になって周りを見てみればコレである。

恋愛小説に興味があるのは意外だったのか。手塚は少し驚いた表情でほむらを見つめていた。

 

 

「……気に入ったなら持って行っていいぞ、それ」

 

「貴方にはつまらなかった?」

 

「そんな事は無いけど。まあ、あくまでも暇つぶしさ」

 

 

ほむらは沈黙する。

手塚はとしては少し違和感を感じたが、それが何かまでは分からない。

 

 

「そう」

 

 

ほむらは本を閉じて手塚を見る。

 

 

「貴方、明日の予定は?」

 

「しばらく変身できないからな。待機しておくさ」

 

 

しかし家に篭るのも考え物である。

おそらく手塚海之と言う男が、暁美ほむらのパートナーである事はもう知られているのではないだろうか。

だとするとココに敵が攻めてくる可能性も十分にある。

 

 

「さて、どうしたものか」

 

「そうね、だったら明日は遊園地に行きましょう」

 

「ああ、そう――」

 

 

ん?

 

 

「今、何て?」

 

「聞こえなかったの? 見滝原にはそこそこ大きな遊園地があるわ」

 

「それはつまりどういう事なんだ?」

 

 

普通に考えれば遊びに行く事である。

しかし、ほむらの考えがいまいち分からない。

なぜこのタイミングなのか?

 

 

「敵も人が多い場所なら目立ってしまい、戦闘に持ち込む事はできない筈よ」

 

「なるほど。それはまあ一理あるな」

 

「でしょう? 私、お弁当作って行くわ」

 

「………」

 

 

手塚は思う。

別にやましい気持ちがあるとかどうとかの話ではないが、世間一般としての考えだと男女でお弁当を持って遊園地なんてのは完全にデートと言うヤツではないのだろうか。

 

いや、今の考え方はもう古いのだろうか?

そうだ、手塚はたまに古臭いと言われたことがある。

いや全く何を考えているのやら。手塚は自分が恥ずかしくなってしまった。

 

 

「ねえ、どうして黙っているの?」

 

「いや、突然遊園地だなんて驚いただけさ」

 

「いけない?」

 

 

ほむらは悪戯な笑みを手塚に向ける。

なんてことだ、正直ちょっとドキリとしてしまった。

手塚は自分が(略

 

しかし強烈な違和感を感じるというものだ。

何だ? 何かがおかしい。今までが今までだ、ほむらが急に遊園地に行こうだなんて信じられない。

 

 

「何か裏があるのか?」

 

「まさか。デートには最適の場所だと思っただけよ」

 

「………」

 

 

デパートを聞き間違えたのだろうか? 手塚は目を細めてほむらを見る。

確認するのは――、ハッキリ言ってかなり抵抗がある。

デート? デパートよ、あなた何を言ってるの? そんなやり取りが生まれたら多分立ち直れない。

 

 

「いいぞ」

 

 

正直、適当に言った。

 

 

「そう、良かったわ。じゃあ明日は遊園地でデートね。初めてだから上手くいかなかったらごめんなさい」

 

「………」

 

 

 

 

 

【六日目】【世界崩壊まで残り48時間】【残り参加者6名】

 

 

 

 

手塚は遊園地の入り口前ににある噴水にいた。

あれから一睡もできなかった。それは多分、相当格好悪い事だ。

占い師と言うのはだいたい恋愛について聞かれるものだ。だからこそ手塚はそれなりに勉強もした。徹夜が二日続いた後の日は、『そうか、俺は愛の伝道師だったのか!』などと叫び、真理に至った気がした。

 

しかしベッドに入ってぐっすり眠った次の日には、自分の言葉を思い出して死にたくなったのだが、現在それと近い感情が胸の中にある。

噴水、綺麗な水の向こうにエビルダイバーを視たが、なんだか哀れみの目を向けられている気がする。やめろ、そんな目で俺を見ないでくれ。手塚が引きつった表情を浮かべても、エビルダイバーは向こうにいってくれなかった。

 

やめよう。

手塚は水面から目を逸らすと、改めて目の前にある遊園地を見る。

 

 

「………」

 

 

周りを見れば家族連れが多い中、チラホラとカップルの姿も見える。

要するにデートと言うヤツだろう。他に何があって男女二人きりで遊園地に行くものか。

 

 

「お待たせ。待たせたかしら?」

 

「……ああ。大丈夫だ」

 

 

ほむらはあえて時間をずらした。

一緒に家にいながら、待ち合わせがしたいが為に違う時間に家を出た。

そしてほむらは宣言どおりお弁当を作ってきた。おまけにわざわざ新しい洋服まで買っていた。

 

 

「さあ、行きましょう?」

 

「その前に確認したい事があるんだが」

 

「何かしら?」

 

「どうにも調子が狂うな」

 

 

こういう事を聞くのは本来いけないのだろうが、手塚にはほむらがサッパリ分からなかった。

 

 

「今日は何をするんだ?」

 

「デートよ」

 

「デートなのか」

 

「ええ、決まっているじゃない」

 

「……そうか」

 

 

折れてしまう。

いやいやそうじゃない。

確かに、青春時代には色々な事があったため16歳になった今もちゃんとしたデートをした事はなかった。

 

しかし、だからと言ってデートがどういうものかくらいは分かる。

ほむらは綺麗だ。悪い気はしない。しかし――、そういう事ではないのだ。

 

 

「早く行きましょう?」

 

「しかしだな。できれば詳細を――」

 

「なに? なんなの? まだ何かあると言うの? 私は早くデートがしたいのだけど」

 

 

ほむらは思い切り手塚を睨みつける。

鋭い目つきだ。なんてソリッドな目つきなんだ。

手塚は一瞬で折れた。だから、とことん彼女に付き合う事を決めた。

どうせもう残り一日だ。余っている時間はほむらの召使にでもなってやろうじゃないか。

 

そんな訳でデートをはじめた二人。

しかし基本無表情な二人は遊園地に来ても相変わらずだった。

しかも、お互い遊園地でデートなどした事の無いものだから、何をしていいのか分からない。

だから適当に目についたアトラクションから乗る事に。

 

 

「「………」」

 

 

無言、無表情でコーヒーカップに振られる二人。

何だこの状況は? 手塚はチラリと周りの客を見てみる。

やはり目に付くのは楽しそうにはしゃぐカップルや家族連れである。

 

 

「あはは! もう止めてよ、早いってばー!」

 

「ハハッ! もっと回してやるよ! ハハハ!!」

 

 

随分と楽しそうな声が聞こえてくる。

しかしコチラは何もしゃべらず、表情すら変える事無く、クルクルと機械に身を任せているだけだ。

 

傍から見れば何とシュールな光景だろうか。

そのまま何のテンションの変動もなく降りる二人。

 

 

「……楽しかったか」

 

「……ええ」

 

 

絶対嘘だろ。

それで次はお化け屋敷だ。

 

 

「こ、こわいよぉ」

 

「安心しろって、俺が守ってやるから」

 

 

などと、前方の男女は笑っていた。

しかし再び無表情&無言の手塚達。

音や画像の仕掛けで客を驚かせようとするものの、全ては無駄に終わる。

 

お前ら感情を入り口に忘れて来たんじゃないかと思われる程に『無』だった。

尤も、そもそも魔女結界の方が何倍も怖いのだから仕方ないと言えばそうだが。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!!」

 

「「………」」

 

 

お化け役の従業員が飛び出してくるが、それをジットリと見つめるほむら。

 

 

「おおおおおおおおお!!」

 

 

よくできてるな、手塚は無言でそう思う。

少し驚いたが、そもそも手塚は驚くと声が出なくなるタイプの人間だった。

 

 

「あ、あのすいませんでした……。僕、そんなに怖く無かったですか?」

 

「あ、いえ……、あなたは何も悪くないです」

 

 

従業員に申し訳ないことをした。

二人はそのまま一度も声を上げる事無く、お化け屋敷を後にする。

ぶっちゃけ楽しいのかコレは? 手塚は気になって仕方ない。

 

 

「一応楽しい」

 

 

一応とはどういう意味なんだろうか。そもそもそれは本音ではないだろうと。

にも関わらず、ほむらはほむらで、手当たりしだいに乗り物に乗りたいという。

ジェットコースターやゴーカート。メリーゴーランドは手塚としては恥ずかしい物だった。

 

 

「彼女さんですか?」

 

「え?」

 

 

メリーゴーランドを降りる時に従業員にそんな事を言われた。

顔を見合わせる二人。確かにそう見えるだろうが、何と言っていいやら困ってしまう。

 

 

「ええ、一応」

 

「!?」

 

 

手塚は混乱しながら、ほむらを見る。

一方でお幸せになどと笑っている従業員。カップル割り引き券の様な物をほむらに手渡していた。

ほむらは、それを笑顔で受け取っている。やはり何か引っかかる違和感があった。

 

 

「………」

 

 

お昼になり、二人は休憩所にやって来ると食事を始める。

以前の腕前がアレだっただけに、最初はどうなるかと思ったが、ほむらが持ってきたお弁当はとても美味しそうだった。

料理が見栄えよく並べられているし、色分けも綺麗だ。

 

 

「どうぞ」

 

「……は?」

 

 

ほむらは箸でタマゴ焼きを掴むと、それ手塚へ差し出した。

固まる手塚。周りの家族連れが自分達を見てニヤニヤと笑っているじゃないか。

変な汗が出てきた。ひょっとするとコレは――、アレではないだろうか。

 

 

「あーん……」

 

「!??!??!」

 

 

そんな無機質に言う奴があるか。

手塚は引きつった表情で思わず後ろへ仰け反る。

 

 

「ちょ、ちょっと待て。何をしているのか分かっているのか?」

 

「当たり前じゃない」

 

 

ほむらはグイグイと卵焼きを手塚の口に近づけていく。

閉じた口へ一度つける。手塚は混乱して口を開かない。

ならばとほむらは、タマゴ焼きで手塚の唇をチョンチョンと触れてくる。

それでも手塚は戸惑って口を閉じている。するとほむらは何故かタマゴ焼きをほっぺたにくっつけようと移動させていた。

 

ウザイ。はっきり言ってウザすぎる。

口の周りをタマゴ焼きが纏わりついて来る。その鬱陶しさに負け、手塚は差し出されたタマゴ焼きを口の中に入れた。

 

ほむらは手塚が卵焼きを租借する場面を見ると、満足そうに微笑んだ。

柔らかな笑顔だった。嬉しいやら、複雑やら。

 

 

「どうしたんだ本当に。今日……、と言うか、昨日の夜から様子がおかしいぞ」

 

「失礼ね、私は普通よ」

 

「らしくない」

 

「貴方に私の何が分かるの?」

 

 

ほむらの表情がジットリと暗くなる。

睨まれているのは嫌だが、違和感は無い。

今まではこういう雰囲気だった筈だ。なのにいきなりどうしてこんな――。

 

 

「遊園地くらい付き合ってやるが友人としてだ。デートは普通、恋人とするものさ」

 

「………」

 

 

ほむらは無言で、再びタマゴ焼きをつかむ。

 

 

「だから、やっているのよ」

 

「は?」

 

「……あーん」

 

 

随分と冷めた無機質トーンの『あーん』だった。

しかし今、確かに言った。手塚に対する想いを。

 

 

「なんだと?」

 

「私の口からそれを言わせるの?」

 

「あ、いやっ、そう言う事じゃないが……。あまりにもお前の変化に混乱してしまってな」

 

 

ほむらは一度卵焼きを弁当箱に戻す。そしてアンニュイな表情でため息をついた。

変化。たしかに今の手塚にとっては自分の態度は少しおかしな物に映るかもしれない。

そんな事、ほむらだって分かっている。

 

 

「私は貴方と偽りの愛を交えた交流を望んでいる」

 

「……?」

 

「手塚、ふざけたお願いだとは思うわ。軽蔑してくれてもいい」

 

 

ほむらは冷めた目で手塚を見る。

悪戯っぽく笑みを浮かべた姿。屈託の無い笑顔を見せた姿、そして今の無機質な姿。

どれが本当の暁美ほむらなのだろうか? 手塚はそれが分からなくなってしまう。

だが少なくとも、今のほむらのどこか寂しげな表情は目をそらす事ができなかった。

 

 

「お願い、今日だけでいいから……、恋人になってほしい」

 

「ッ?」

 

「何も聞かないで、それでも今は」

 

 

何がしたいのか、それは手塚には分からない。

しかしもう決めたじゃないか。どこまででも付き合うと。

だからほむらがそれを望んでいるのならば、迷う必要は無かった。

 

 

「そうだな。すまない変なこと聞いて。彼女を困らせるのは良くないな」

 

「……ありがとう」

 

 

手塚は肩の力が抜けたように椅子に深く座り込む。。

 

 

「次は何を食べさせてくれるんだ?」

 

「ふふっ、待っててね」

 

 

それは了解の合図だった。

ほむらは再び柔らかい笑みを浮かべると、からあげを取った。

今この瞬間から今日が終わるまで、二人は恋人になったのだ。

 

なんとも呆気の無い関係とも思えるが、ほむらはそれを望んでいるし、手塚にそれを断る理由も無かった。ほむらが望む全ての事を、残りの時間で叶えてやるのがパートナーの仕事だろう。

 

それは、間違っていない筈なんだ。

 

 

「おいしいな」

 

「貴方がいたからよ」

 

 

今この瞬間、二人の偽りの愛が始まった。

ほむらは料理を勧め、手塚はその腕前を褒める。

ひとかけらの嘘も無い。

 

 

「アイスでも食べるか?」

 

 

頷くほむら。

外は寒いが、室内である休憩所は暖房が効きすぎていて少し暑い。

手塚はどうせなら金はどんどん使った方がいいと笑う。

 

 

「どうせあと二日で滅びる世界なんだから、出来るだけ贅沢して次の世界に向かった方がいい」

 

 

ほむらはソレを聞いて笑みを浮かべた。

 

 

「じゃあ買ってくるよ。何がいい?」

 

「いいの」

 

「?」

 

 

ほむらは手塚が着ていた服の裾を掴んで立ち上がる。

 

 

「私も一緒に行くわ。駄目?」

 

「いや……」

 

 

地味な行動に見えるがなかなかの破壊力だ。

もしかしてわざとやっているのだろうか? だとしたら相当な悪女である。

手塚は少し悔しくなって首を振る。そっちがその気ならばと、手塚はほむらの手を握った。

 

 

「……!」

 

「何味が食べたい?」

 

 

ほむらは手に触れた瞬間こそ驚いていたが、手塚の思考を読み取ったのか、すぐに手をギュッと握り返した。

ほむらの手を通して、確かな体温を感じた。

伝わる体温に手塚は少しドキドキしてしまう。

自分で仕掛けておいてカウンターを食らうとは情けない。

 

 

「チョコがいい」

 

「そ、そうか。じゃあ行こう」

 

 

すぐに二人の手にはバニラとチョコのソフトクリームが。

席に戻って、会話を繰り広げながら食べていた。

話すのは主に手塚だ、ずっと占いの仕事をしていると、面白い人や出来事に出会うもの。

ほむらはソレを真剣に相槌を打ちながら聞いていた。

 

 

「つまらなくないか?」

 

「いいえ、楽しいわ」

 

「ならいいんだ」

 

 

笑いあう二人。

そこでほむらは自分のソフトクリームを、手塚に差し出した。

 

 

「食べてみる? 口をつけてしまったから、嫌なら言って」

 

「いや、じゃあ俺のもどうだ?」

 

 

二人は頷くと互いのアイスを交換してみる。

どこからどう見ても恋人にしか見えない光景だ。いや、恋人なのか。

しばらくして食べ終わる二人、アトラクションは疲れたからショップを見たいとほむらが言う。

 

 

「よし、じゃあ行こうか」

 

 

手を差し出す手塚、ほむらは笑みを浮かべてその手を握る。

それはただ握るだけじゃなくて、指と指を絡ませる繋ぎ方だった。

手塚は思わず少しだけ赤面してしまう。ほむらはそんな彼を見て、からかう様に笑った。

 

 

「子供ね」

 

「やれやれ……」

 

 

二人はそれから移動する時はずっと手を握っていた。

店につけば、ほむらは手塚とお揃いのアイテム購入した。

ペアのアクセサリーだ。

 

 

「ベタすぎないか? 少し恥ずかしい」

 

「いいじゃない。つけて」

 

 

頷き、身につける。

それから、写真を撮った。

携帯でも良かったが、それじゃあ少し味気ない。

適当に買ったインスタントカメラを持って、適当に人を見つけて話しかけた。

 

 

「わあ! 恋人同士で遊園地なんていいなぁ!」

 

「憧れちゃうよねぇ!」

 

 

友達同士で来ていた女の子が、写真を撮ってくれる事になった。

お似合いだの、羨ましいだのと、興奮したようにはしゃいでいる。

いつか自分たちもこんな風になりたいとまで言ってくれた。

 

彼女達は――、未来に希望を視ている。

世界の終わりなど欠片とて信じていない。

その笑顔を見れば罪悪感を覚えてしまうのは当然だった。

 

 

「笑わないと不気味よ」

 

「――ッ、そうだな」

 

 

小さな笑顔を浮かべて、二人は写真を撮った。

たとえそれが偽りの笑顔だとしても、たとえインスタントカメラのフィルムを現像する事は無くても、手塚達には『笑顔で写真を撮った』と言う事実だけが在れば十分だった。

 

手塚達は女の子達にお礼を言うと、適当にお土産ショップを回る事を続けた。

何も買わなくてもいい、何も話さなくたって良かったんだ。

ただほむらが。ただ手塚が隣にいてくれて手を握っていてくれればそれで――。

 

 

「………」

 

「疲れたか? どこかで休もう」

 

「いえ――……」

 

 

ほむらは答えの変わりに一つのアトラクションを指差した。

それはこの遊園地で一番大きな観覧車だった。

あそこならば座れるし、それに周りの声も聞こえない。それに外よりはずっと暖かい。

だから二人は最後のアトラクションに乗る事を決めた。

 

 

「――綺麗ね」

 

「ああ」

 

 

いつの間にか時間は過ぎて。気がつけば空には美しいオレンジの光が広がっていた。

ほむらは下に広がるパークを見つめながら、手塚の向かい側で沈黙している。

感傷的な表情だ。この時間で多くの笑顔を見たが、やはり本質的にほむらはいつも寂しそうだった。

 

 

「今日はつまらない事に付き合ってくれて、ありがとう」

 

「………」

 

 

手塚はフッと笑うと、ほむらの隣に移動して同じ景色を見る。

ほむらのお願いは、『今日一日』恋人であると言う事だ。

一日ならばまだ時間はある。

手塚はあくまでも恋人として、そんな事は無いと否定してみせた。

 

 

「俺は楽しかったぞ。お前とデートなんて最高についてる」

 

「キザなのね。ドン引きするわ」

 

 

あ、そう。

顔を背けるほむらを見て、手塚は引きつった表情を浮かべる。

どうにも今日はテンションがおかしい。これも全てはほむらの言葉で混乱してしまったからに違いない。

 

 

「嘘よ」

 

「え?」

 

 

ほむらは体を倒して手塚の肩に頭を乗せると、目を閉じた。

今はただ、手塚の体温だけを感じていたい。

何も喋らず、何も聞かず、それがほむらの望む今なのだ。

 

 

「………」

 

 

閉じた瞳から涙が一筋だけこぼれた。

それを手塚は気づいているのだろうか? 彼はただ何も言わず、ピンクと紫とオレンジ、三色に光る空を睨んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

観覧車を降りた二人は帰る事に。

電車に乗る時も、バスに乗る時も二人は強く手を繋いでいた。

それをほむらが嫌がる事はないし、手塚もまた手を離そうとは思わない。

ほむらから伝わる力が、手塚を繋ぎとめていたのだ。

 

駅についた時には、既に空は暗くなっていた。

街灯の少ない道を二人はトボトボと歩いていく。

世界から敵視されている様な感覚。その中で本当の仲間が隣にいる。

ほむらはソレをどう思うのか。

 

 

「夕食も、私が作るわ」

 

「ああ。俺も手伝うよ」

 

「ありがとう」

 

 

ありがとう。

夕食の用意を手伝う事への物だったのか? それとも色々な意味を込めたお礼だったのか。

手塚は後者の様な気がしてならなかった。

それだけ今のお礼の言い方は寂しげだった。

 

 

ほむらは夕食にカレーを作ってくれた。カレーにはかぼちゃが入っている。

出会った時に作ったあのカレーと同じだった。尤も、その完成度は以前よりもずっと上であったが。

 

 

「一週間も経っていないのに。酷く懐かしいわ」

 

「そうだな。色々な事がありすぎた」

 

 

六日程度で経験するにはあまりにも多すぎる死と苦しみ。

最初にいた24人の参加者も、気がつけばもう6人しか残っていない。

そのほぼ全てが自分達の近くで、自分達が原因で死んだ。

 

人一人の一生で、コレほどの死に直面する機会があるだろうか?

普通は無い。それを二人はたった六日と言う時間で味わってきた。

そして死んだ者達は、その全ての存在が『ルール』と言うふざけた言葉の上に消されてしまう。

 

生きた証も。紡いで来た絆も。全て思い出も。

何もかも消えて無くなって、完全な『無』になる。

それにあと一日で、全ては終わるのだ。文字通り全てが。

 

 

「貴方はどうなるの?」

 

「お前の再構築の判断に委ねられる」

 

 

ほむらが手塚の記憶の消して再構築を行うと決めれば、実際にそうなる。

 

 

「貴方は全てを忘れたいの? それとも全てを背負って新しい世界を生きたい?」

 

「そうだな、俺は――」

 

 

手塚は笑う。

 

 

「お前の望む通りにしてくれ。俺は、どっちでもいいんだ」

 

 

もしもほむらが自分の存在を残したいならば、そうしてくれればいい。

逆もまた同じだ。全てリセットするならば、それもまた運命なんだろう。

卑怯な手かもしれないが、ほむらはソレを聞くと無言で頷いた。

答えは言わない。まだ決めかねているのだろうか? それとも……。

 

 

「ねえ、貴方は……、幸せになりたい?」

 

「………」

 

 

何を意図して聞いた質問なのかは分からない。

だから手塚はありのまま、自分の答えを彼女へ告げた。

幸せになりたい? 決まっているじゃないか、そんなの人間であるならば。

 

 

「そうだな、なりたいよ」

 

「そう……」

 

「お前もだろう?」

 

「ええ」

 

 

誰だってそうだ。だから皆幸せを求めて戦ってきた。

手塚が殺したニコや、あの浅倉でさえ幸福を求めていた筈。

 

この世に生きる人間全てが平等に幸せになれる訳ではない。

しかしそれでも、皆が幸福になる道があればそれが一番だった筈だ。

なのにそれはできない。道は外れ、歯車は狂い、どうしようもない運命に狂わされる。

 

 

「この世に神がいるなら、ソイツは随分と酷い奴だな」

 

「フフ、怒られるわよ。いろいろと」

 

 

それに、もうすぐ私は神になるんだから。

そう言ってまた、ほむらは寂しげに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手塚達が食事をしている頃と時を同じくして、ここに一組の愛があった。

と言っても愛を示すのは少女一人だ。向けられた愛を、少年が返す事は一度たりとて無かった。

 

 

「ねえ恭介もう出ようよ。ご飯食べないと、体……、壊すよ?」

 

 

美樹さやかは上条恭介の部屋の前にいた。

上条は自分の世界を守る為に仕方なく戦ってきた。

 

本当は誰も傷つけたくなんか無かったんだ。

暁美ほむらだって殺したくなんかない。だけど殺さなければコッチが死ぬ事になるのだから仕方ない、自分は悪くない。そんな事を連呼していた。

 

上条は『死』を見た。

なぜか争いあう参加者達、その中で流れていく血。

意味が分からなかった。何故殺しあう? ほむらを殺せばよかっただけの話じゃないのか?

 

もう嫌だ、ふざけてる。あんな気狂い共と一緒にはいられない。

自分には約束された将来があるんだ。あんな奴らとは違う世界に生きているんだ。

上条はそれを活力として、戦いの合間にあったヴァイオリンのコンテストに参加した。

自信はあった。天才と言われた腕前を持っていたのだから。

 

 

「さ、さやか……! もう放っておいてくれよ!!」

 

「ッ!」

 

 

しかし上条の演奏は最悪の一言に尽きる。

驚いているのは上条自身であった。自分でもどうしてか分からないが、演奏中にノイズの様な物が聞こえて集中できず、音がグチャグチャに乱れてしまった。

 

それはもう酷いもので、必死に抗議したが上条以外には誰もノイズなど無かったと声を合わせた。

その時点で上条はミスをしておきながら言い訳を続ける醜い男として見られ、それだけではなく同じく参加していた蝉堂(せんどう)と言う少年がそれはもう美しい音を奏でる物だから。

 

 

結果を言えば上条は酷い演奏を聞かせて引かれてしまい、賞を勝ち取ったのは蝉堂だった。

蝉堂は賞賛されて笑みを浮かべている。本当は上条が受ける筈だった拍手を全て独り占めにして。

それだけならまだいい。問題は会場を出る時に蝉堂に言われた言葉だ。

 

 

『ガッカリだよ上条くん。君のヴァイオリンは薄汚い不協和音だ』

 

 

侮辱、軽蔑、卑下。

 

 

『楽器が泣いている。もう二度とこの道を目指すのは止めたまえ。小学生の方がまだ上手だよ』

 

 

蝉堂は完全に上条を見下した目で場を去っていった。

それから上条は自分の部屋に閉じこもって外に出なくなった。

ほむらもどうでもいい、世界なんてどうでも良いと連呼して。

 

 

「アイツを殺したいなら勝手に行けよ! 僕はもう……、僕にはもうこの世界で生きる意味なんて無いんだ!!」

 

 

上条は期待されていた。

両親、病院の先生、雑誌記者にインタビューを受けた事もある。

しかし今はどうだ? 両親はあんなふざけた演奏をした上条を怒鳴り散らし、平手打ちを行った。

 

 

『どれだけ高い金をお前に払ってやったと思っているんだ!!』

 

 

違う、あれは自分が悪いんじゃない!

そう何度も言ったが、言う度に殴られた。

 

 

「言い訳じゃない! 本当にノイズが聞こえたんだから仕方ないだろ! あんな状況じゃ音が分からなくなるし、不快で集中力も乱れるんだ!」

 

 

上条は病院に行ったが、なにも異常は無かった。

病院を変えたが同じだった。どこに行っても上条は健康だった。

 

 

「あたしは……、恭介ばっかり見てたから聞き逃したけど、確かに変な音はしたかも! あ、あはは……!」

 

 

さやかは笑う。

もちろんノイズらしき音は聞こえていないが、上条が言うのだから本当に聞こえていたんだろうと彼女は信じた。

 

 

「みんな少し間違えただけで掌を返す!!」

 

 

たとえば医者と看護婦だ。

入院していた時は『応援するね』だの、『絶対に見に行くね』だのと言ってくれてたのに。

そして本当に来てくれたから嬉しかったのに――ッ!

 

医者は上条の訴えを聞き終わると、精神科の案内を出してきた。

あの時の可哀想な物を見る目だけは一生忘れないだろう。

 

看護婦連中だってそうだ。

口では気にしないでだのと言っておきながら、SNSでは本音を簡単に晒している。

 

 

『演奏酷すぎて笑っちゃったww』

 

『あれが神童とか冗談でしょ(笑)? 私の方がうまいかも(^_^;)』

 

 

「ありえないよねー! 医療の人って性格悪い人が多いって噂は本当だったんだ! 気にすること無いよ。普段患者とか相手にしてるからストレス溜まってさ、他人を馬鹿にしないと気がすまないんでしょ!」

 

 

さやかは必死に上条を救おうと試みる。

 

 

「そ、そうだ! みんな屑なんだ! 才能のある僕に嫉妬して、陥れようとしてるんだ!!」

 

 

上条は自分の部屋にあった雑誌を睨みつけて、それを力強く破いていく。

コンクール前は神童だの期待の新人だのと持て囃していた雑誌関係の連中も、今では掌を返して中傷の言葉を記事に載せている。

 

 

「そして取り上げるのは蝉堂ばかり! コンクール前は目もつけてなかったクセに!!」

 

「マスゴミーとかネットじゃ言うしね、あんな連中の書く事なんて気にしない方がいいよ!!」

 

 

その時、上条の部屋の鍵が開いた。

飛び出してきたのは紛れも無く、上条恭介本人なのだが、その姿は酷いものだった。

ずっと水しか飲んでいない為に酷くやつれ、風呂もまともに入っていないので小汚い容姿に見える。

 

ストレスからか酷いクマ。痛んだ髪の毛。

かつて天才と言われ、栄光に満ちていた姿はどこにも無かった。

 

 

「や、やややっぱり――ッ! やっぱりさやかは分かってくれるよね?」

 

 

そして、それは美樹さやかも同じだった。

彼女はずっと上条の傍にいたのだ。それはつまり彼女も同じ状態だと言う事。

さらに言ってしまえば、さやかは一睡もしてない。

 

寝ている間に上条が扉を開けるかもしれないと思うと、寝てはいられなかった。

しかし何故さやかは上条の家にいる事を許されているのか?

 

上条の父親は上条がコンクールで散々だった事を裏切りとしてみた。

高い金を払い育てた結果がコレかと上条を殴った。

そして怒りは収まらず、その矛先を母親にも向けていたのだ。

 

お前の育て方が悪いから――、等と言って妻を殴った。

恥をかいた怒りは凄まじかったのか、父はそのまま家を出て行ってしまう。

そして繊細な母はそれが耐えられなかったか、上条が部屋に閉じ篭っている間に自室で首を吊って死んだ。

 

父は帰ってこず、母の死体は未だに放置したままである。

その中でさやかは、上条が出てくるのを扉の前でずっと待っていた。

家にも帰らず、食事もとらず。

 

 

「や、やっぱり僕の事を分かってくれるのは君だけだ――ッ!」

 

「うん……! 嬉しい!」

 

 

全ては上条への愛の為。

 

 

「ぼ、ぼぼぼ僕の演奏をき、聞いてよ! 僕は天才なんだ、僕のヴァイオリンは他の奴らとは違うんだ!!」

 

「うん、聞かせて……! あたし恭介の演奏が好きだから、何時までも聴いてたい!!」

 

「あ……ッ、りがとう――ッ! ありがとうさやかぁ!!」

 

 

ブレる焦点。上条はさやかの部屋の中に招くと、とり憑かれた様にヴァイオリンを弾き始めた。

二人とも笑顔だった。二人とも――、おそらく幸せだったろう。

上条はさやかの為だけに音を奏で、さやかは上条の全てを受け入れる。

 

上条は狂った様に演奏を続けて、止める事はなかった。

何度も何度も同じ曲を弾き続け、さやかの残された時間は当然それだけ減っていった。

 

さやかだって馬鹿じゃない。

自分の『魂』が日々濁っていくのは理解していた。

しかし魔女の気配を探っても、一体とて見つからなかった。

 

だからさやかは諦め、残された時間を全て上条に使うと割り切った。

故に、魂は演奏の途中で限界を迎えた。精神的なストレスはソウルジェムの濁りを加速させるには十分だったのだ。

 

さやかはいつの間にか魔女となり、上条に相応しいコンサートホールを作り上げていた。

 

上条もさやかの好意に甘え、ただひたすらに音を出し続けた。

演奏のアシストにはホルガーと言う使い魔がついてくれる。

上条は幸せだった。やはり自分は天才だ。あれは何かの間違いだったのだ!

 

 

「―――」

 

 

ホルガーの演奏は聴いた者は、徐々に魂を吸い取られていく。

上条は何百とループした演奏をついに終了した。

一方で客席で演奏を楽しんでいた『さやかだった』者は、演奏者が粒子化する光景に耐える事はできなかった。

 

だから巨大な剣で自らを貫き、命を断った。

こうして二人だけのコンサートはしめやかに終わりを迎える。

 

何もおかしな点はない。

何故ならば魔女オクタヴィアの性質は『恋慕』だ。

恋する上条が死んだのならば、後を追うのが愛だろう?

まあ、これは二人だけにしか分からない事ではあるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

果たして、彼らは幸せだったんだろうか?

 

 

【上条恭介・死亡】【美樹さやか・死亡】【残り4人・2組】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事が終わり、片づけを行い、ほむらはお風呂に入りたいと言う。

手塚は本棚の近くにある椅子に座って、テレビをボウっと見ている。

バラエティーに富んだ内容ではあるが、どうしても手塚は笑う気にはなれない。

 

 

「?」

 

 

そんな時、ほむらが読んでいた恋愛小説が目についた。

 

 

「………」

 

 

気晴らしにテレビをつけたまま、その本を手に取った。

パラパラとめくり、内容を飛ばし飛ばしで読むが、案外ストーリーや展開は覚えている物だ。

 

 

「ッ!」

 

 

次第にめくるスピードを一定にしていく。

言い方は悪いが、何の変哲も無い普通のストーリーだ。

運命的な出会いをした少年少女が苦難を乗り越えつつ、最後には結ばれてハッピーエンドで終わる。

 

主人公の女の子は『ずっと幸せに暮らした』などと言う締めくくりで終わる。

まあ無難に面白いと言う小説だ。

 

 

「そうか……。そう言う事か」

 

 

その時だった。風呂場のドアが開く音が聞こえ、そのままほむらが部屋に戻ってくる。

バスタオルを体に巻いただけの格好なので、思わず手塚も怯んでしまった。

濡れた髪や、少し病的とも思える程白い肌が美しさを恐ろしいまでに引き立てている。

妖艶とでも言えばいいのか、その表情は酷く暗い。

 

 

「どうした? 着替えを持っていかなかったのか?」

 

「………」

 

 

背を向ける手塚。

ほむらは無言で足を進める。そして手塚の背中を強く抱きしめた。

密着したまま固まる二人。どれだけ経ったかは知らないが、ほむらが小さな声でゆっくりと言葉を並べていく。

 

そこに込められる想いは何なのか?

無機質に淡々と並べられていく言葉は、もはや文字の羅列でしかないのに。

 

 

「今日一日だから……、まだ、私と貴方は恋人なの」

 

「そうだな」

 

 

ギュッと抱きしめる。

ここからどういう流れになるのか、もちろん分かっている。

 

 

「手塚……、私を――」

 

 

ほむらは消え入りそうな声で喋っていた。

手塚が彼女の手を振り払えば、そのまま消えてしまいそうな錯覚にすら陥る。

ほむらは今、何を望んでいるのか? 今日と言う違和感に塗れた世界を、何故彼女は作りたかったのか?

 

 

「私を、あ――」

 

「暁美」

 

「っ!」

 

 

手塚は振り返ると、ほむらの肩を持ってその瞳を見つめる。

ほむらはすぐに目を逸らした。手塚はもう分かっていた。

ほむらは今日一日、手塚をおかしなほど慕っていた。色々な表情を見せて、わざわざ弁当まで用意して、そして笑いかけてくれた。

 

しかしそれは、やはり幻想でしかなかったのだ。

らしくないのは、それがやはり本人ではないからに他ならない。

 

 

「もう止めよう。あまり無理はするな」

 

「無理? 無理なんてしていないわ」

 

 

ほむらは歪んだ笑みを浮かべる。本当に形だけの笑みだった。

 

 

「それとも、私じゃ嫌だった?」

 

「そんな事はないさ。ただ――」

 

 

手塚は先ほどの小説に書いてあった内容を見て、全てを理解した。

そこに書いてあった物語を、今日の自分たちは追って体験していたのだ。

それこそがほむらが望む幻想に満ちたデートの正体だった。

 

ほむらが読んでいた恋愛小説に、今日自分達が行った遊園地でのデートと全く同じシーンがある。ほむらが乗りたいと言ったアトラクションは、全て主人公の女の子も乗っていた。

それに、ほむらは――

 

 

「お前は、一度も俺を見ていなかったじゃないか」

 

「……ッ!!」

 

 

ほむらはただ、あの小説に書いてあった事を真似ただけだ。

ほむらは手塚の目を見ていなかった。ほむらの瞳に手塚は映らない。

主人公だった女の子の人生を疑似体験する事に意味を求めたのだから。

極論、相手は誰でも良かったのかもしれない。

 

 

「あの小説に、こんなシーンは無い」

 

「エピローグでは、彼女は妊娠していたわ」

 

「おい……!」

 

 

だからと言ってこの状況はおかしい。

ほむらは何か意地になっているだけにしか思えなかった。

こんな事をするのは本心ではない筈だ。愛が無いのに愛し合うなんて馬鹿げている。

 

 

「どうしてお前はこんな――……」

 

 

手塚はそこで気づいた。

一瞬髪から滴った水が床に落ちたと思ったが、違う。ほむらは泣いていたのだ。

声が小さかったのも、震える声を誤魔化す為だったのか。

 

 

「だって、そうしたら彼女は幸せになれたのよ?」

 

「!」

 

 

遊園地でデートをして、お弁当を作って、笑いあって。

それから主人公の少女は、お風呂場でバッタリと彼に鉢合わせるハプニングを起こした。

その後に告白のシーンがあって、エピローグでは妊娠して幸せそうに笑っていた。

そして最後の文はこう書かれている。

 

 

『彼に愛された彼女は、いつまでも幸せに暮らしました』

 

 

そんな希望と幸福に包まれたエンディング。

それを夢見たいと、掴みたいと思うのは当然ではないか?

ほむらは笑いながら泣いていた。そこで手塚はやっと彼女の『心』を見た気がする。

 

 

そうだ。

思えば中学生のほむらに与えられるプレッシャーは大きすぎる物。

友人になれたと思ったマミ達からは拒絶され、仲間になってくれたゆま達を目の前で殺された。

 

そして長い間付き添ってくれた杏子は自分を守る為に、自分の知らない場所で死んでいった。

全ては自分が選ばれてしまったから、全ては自分の責任。

 

その心が少しずつ壊れていくのは当然の事だ。

だからほむらは幸福なシーンを見て、強い憧れと執着を見せたのか。

小説の中にあるのは争いの無い、幸福に満ち満ちた世界なのだから。

 

 

「暁美……」

 

「私は、もう疲れたの……」

 

 

だから逃げた。小説の中にある幸福な世界を重ね、真似る事で。

人は誰だって幸せになりたいんだ。彼女もそう。

そして中学生の女の子ならばこう言った事に憧れを持って当然じゃないか。

 

むしろ本当はあの小説の様に生きるべきだった。

世界を滅ぼす存在じゃなく、普通に好きな人を作って、友人に囲まれて笑顔を浮かべる毎日を送るべきだった。

ふざけたゲームに巻き込まれるべきじゃ無かったのに。

 

 

「暁美、髪を乾かそう。服も暖かいのを用意してあるから」

 

「……そうね」

 

 

だから――、だからこそほむらは幸せを、普通の毎日を諦めてはいけない。

手塚はほむら落ち着ける。『普通』とは人によって違うだろうが、少なくとも今の状態よりはマシのはずだ。

ほむらも落ち着いたのか、無言で頷くと着替えに戻った。

 

 

「………」

 

 

手塚は大きくため息をつく。ほむらの望む事を全て叶えてやるなんて言ったが、ブレブレじゃないか。手塚は再び己の考えに迷いを持ってしまう。

人の運命を視て助言をする職業のくせに、自分の考えすら纏められないなんて。

 

 

「情けないな、俺は」

 

 

 

 

 

 

 

数分後、パジャマに着替えたほむらが戻ってきた。

手塚はインスタントの紅茶を差し出すと、近くの椅子に座った。

だいぶ落ち着いたのか、ほむらもお礼を言うと手塚の向かい側に座る。

 

 

「今日は、貴方を困らせてしまったわね」

 

「いや、なかなか楽しかったよ」

 

 

ほむらは一瞬唇を吊り上げたが、すぐに思いつめた表情を浮かべるた。

何かを言いたそうな燻りが見えた。手塚は少し迷ったが、ほむらが次の言葉をなかなか言い出さない為、自分から話を振る。

 

 

「どうした? 何かあるなら、なんでも言ってくれ」

 

「………」

 

 

ほむらはギュッと胸を押さえた。

何かを言おうとするが、声が小さい。迷っている証拠だ。

誰だって言い出せない事を無理に言おうとすれば口ごもってしまう。それと同じような物だろう。

 

 

「手塚……、私は貴方を最初、全く信用していなかったわ」

 

 

しかし一度話し始めれば、後は一気に流れ出る水の様に言葉は口をついて出てくる。

ほむらは長い間、他人を信用する事は無かった。

事情があるようだが、それは手塚の知るところではない。

 

 

「でも……、今は違う」

 

「そうか」

 

「私は、貴方を――」

 

 

ほむらは言葉を飲み込んだ。

全てを伝えずとも、彼はきっと分かってくれるだろう。

それはパートナーとして、手塚を見てきたから分かる事だ。

杏子が死んだあの日、手塚海之と言う人間の全てを教えてもらった。

だから今度は自分が教える番では? 手塚になら、全てを打ち明けても……。

 

 

「私が、魔法少女になったのは――!」

 

「っ」

 

 

その時だった。無音だった空間にカチリと音がした。

それは時計が新たなる時間を刻む音だった。無意識に、ただ無意識に手塚は時間を確認する。

ほむらも釣られて視線を移した。

 

 

「――ぁ」

 

 

時計は深夜0時を示している。

つまり、最後の日が始まったと言う事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【最終日】【世界崩壊まで残り24時間】【残り参加者4名】

 

 

 

終わりの日が始まる。あと24時間で世界は終わるのだ。

脳内に提示されるアナウンス。残り参加者は4人。自分達を除けば二人しかいないのだ。

 

 

「もう、魔法が解ける時間なのね」

 

「……っ?」

 

 

ほむらは残念そうに微笑んで、言葉を切った。

話そうとした真実は『恋人』に告げようとして口にした物だ。

一日が終わった今、手塚はもうただのパートナー。

細かいようだが、やはりほむらにとっては大事なことだった。

 

 

「寝ましょう。最後の日は、普通に過ごしたい」

 

「………」

 

 

手塚は頷いた。

ほむらが言わないと決めたなら、これ以上踏み込む必要はない。

 

 

「見張りをする」

 

「止めて。最後は、人として普通の生活を送りたいの」

 

「じゃあ……、寝ようか」

 

「ええ。悪いけど、ベッドを使ってもいいかしら」

 

「ああ。じゃあ俺は床で寝るよ」

 

「一緒に寝る?」

 

 

手塚は少し微笑んで、申し出を断る。

 

 

「そう言うのは、恋人に言ってやれ」

 

「………」

 

 

なるほど。

ほむらは納得してベッドに向かった。

 

 

「おやすみなさい」

 

 

これが最後の挨拶かもしれない。

 

 

「ああ、おやすみ」

 

 

二人は目を閉じた。

手塚は思う。ほむらは自分の記憶をどうするつもりなんだろうか?

少しだけ気になったが、それを問う事はしないと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、こうなるか」

 

「ええ、そうね」

 

 

目覚めた時には、窓の外は別世界だった。

気持ちのいい朝の日差しなんてものは全く無い。

魔女空間だ。手塚の部屋をまるごと引き込んだと言うのだろうか?

なんにせよ、かつてないほど強力な力を感じた。

 

向こうも今日がライン。

死に物狂いで止めてくる事は予想できていた。

易々と寝てしまった自分達の落ち度か? しかし手塚もほむらも、何となくこの展開を望んでいた様な表情だった。

 

やはりどこかで全ての参加者に顔を見せて真っ向から勝負したい感情がある。

二人は着替えを済ませると早速部屋を出て辺りを確認する。

 

 

「これは魔法結界なのか? にしては随分と凝っているな」

 

「いえ、これは魔女結界よ。でも――」

 

 

二人が立っているのはもはや別世界だ。

周りの景色がまるごと変化しており、悪質なコラージュ画像のように人間の体のパーツが切り貼りされている。

 

この禍々しい雰囲気はまさに魔女結界。

さらに言えばいたるところに魔女の文字も見える。

しかしそうなると別の疑問も出てくる。つまりなんだ、襲い掛かってきたのは参加者ではなく、たまたま通りかかった野良の魔女だと言うのか?

 

 

「魔女の結界じゃ時間はどうなる? やはり魔女を倒さないと元の世界の時間は進まないのか?」

 

 

いずれにせよ厄介な存在だ。早めに倒しておきたい。

魔女との戦いで疲労した所を他の参加者に狙われれば危険だから。

 

 

「変わらないよ、時間の流れは」

 

「「!」」

 

 

手塚の問いに答えたのは、ほむらでは無かった。

男の声が聞こえ、自分達がいるホールの様な場所へ続く階段から足音が聞こえてきた。

足音のリズムを感じるに、二人いる。足音は徐々に手塚達の方法へと近づいてきている。

 

 

「時間は変わらない。だから早くアンタ達を倒さないといけないんだ。タイムリミットが来る前に」

 

 

男は続ける。

この結果を張ったのは、周りの空間に戦いの影響を及ぼさない為だ。

被害者は二人だけ、手塚とほむらだけでいい。

 

 

「………」

 

 

ライアペアへ敵意を持っていると言う何よりの証拠だ。

そしてもう一つの疑問も詳細を答えてくれる。

 

 

「ここは魔女結界。俺のデッキが、それを可能にしたんだ」

 

 

男のデッキは12個あるデッキの内の辺りが一つ、『技』のデッキだった。

 

 

「倒した魔女の力を使える」

 

 

そこで理解する手塚とほむら。

だから今まで魔女が中々見つからなかったのか。

つまりこの最後の参加者達は、今の今までほむら達には目もくれず、見滝原に集まってくる魔女達をひたすらに倒していたと言う事だった。

 

 

「――来るぞ!」

 

「ええ」

 

 

気配がすぐそこに迫る。

段々と足音が近づき、そして遂に男の頭部が見えた。

 

 

「ッ! 貴方は……!」

 

「………」

 

 

ほむらは表情を変える。

現れた男の事を知っていた。そう言えば声も聴いたことがあった。

そして次に現れた彼のパートナーであろう少女を見た瞬間――

 

 

「――……嘘」

 

 

暁美ほむらの時間は停止した。

 

 

「ッ? 二人とも知り合いか?」

 

「なんで――……、嘘よ――ッ」

 

「?」

 

 

ほむらの様子がおかしくなった。

信じられないと表情を歪めて、真っ青になっている。

知り合い――、それも決して浅くない関係の人物なのだろうか?

 

とは言え現れた少女は、ほむらに反応する素振りを見せない。

ピンクの髪とピンクの衣装を着た、随分とファンシーな魔法少女だった。

現れた二人は決意の表情で手塚達を睨んでいる。覚悟はとっくに決まっているらしい。

 

 

「悪いが、コイツは殺させない!」

 

 

手塚はほむらを庇う様に立つ。前にいる二人も、その言葉に頷いてみせた。

 

 

「悪いけど、俺達だって……、もう負けられない所にいるんだ」

 

 

どうやら現れた二人も、最初は迷っていたようだ。

ほむらを犠牲にして成り立つ世界平和など、意味の無い物として。

 

だが迷っている間に、いろいろな物を失った。

親友、そして想いを抱いた人、もしも自分がもっと早くに決断を出していたなら結末は変わっていたのだろうか?

結局、何も変えられなかった。誰も守れなかったのだ。

 

 

「だからこそ、俺はもう迷えない……ッ!」

 

 

迷っている間に、また大切な人たちを失う気がして。それに時間そのものが無かった。

一応、ほむらを殺さずともゲームを終わらせる方法が無いのかを必死に探した。

しかし結果とは残酷な真実を示すものである。

何を探しても、どれを試しても無駄だった。

 

暁美ほむらを殺す以外、世界を救う方法は無いのだ。

 

 

「もう俺達は迷えない……ッ!」

 

 

多くを失った今でさえ、まだこの世界で生きたい理由がある。だから決断した。

自分勝手なエゴに塗れた理由であったとしても、この世界でまだ生きていたいと言う強い願いがあるからだ。

 

 

「ごめん、ほむらちゃんッ!」

 

 

その男、『城戸真司』はデッキを突き出して、手を斜め上に突き上げる。

それに反応して手塚もデッキを構えた。二人は騎士へと変身して睨み合う。

真司が変身するのは赤い騎士、龍騎。

 

 

「わたし達を恨んでもいい!」

 

 

龍騎の隣にいた魔法少女は既に変身を済ませていた。

武器である弓を構え、それをほむらに向ける。

恨むなら恨め、その権利がほむらにはあると言う。

しかしそれでも生きて行きたいから、龍騎達はほむらを――!

 

 

「暁美ほむらっ!」

 

 

龍騎と、ピンクの魔法少女――

 

 

「あなたをッ、殺す!!」

 

 

鹿目まどかは、地面を蹴って暁美ほむらを殺す為に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうして、どうして彼女が魔法少女になっているの!?)

 

 

巴マミ達は言っていた、鹿目まどかは隣町で入院していると。

 

 

(そう、そうか、そうなのねッ)

 

 

つまりゲームが始まる前から、まどかは既に契約をしていた?

このイレギュラーに満ちた世界ならありえた話だ。なのにほむらは、見滝原にいないと言う理由だけでゲームにまどかが参加して無いと決めてつけていたのかもしれない。

 

 

「暁美! 何をしてる!!」

 

「!」

 

 

ほむらが我に返った時には、既に龍騎のドラグセイバーとエビルバイザーが競り合いを始めていた。もしもライアが守ってくれなければ、頭から両断されていた事だろう。

 

 

「このッ!」

 

「うわっ!!」

 

 

ライアは龍騎の剣を弾くと、胴体に蹴りを入れる。

しかしそこでライアの足もとに火花が散った。

見れば龍騎の後ろのほうで、鹿目まどかが手を突き出しているのが見える。

どうやらまどかがサポート、龍騎が前に出て攻めると言うタイプらしい。

 

 

「だったら――ッ!」『スイングベント』

 

 

ライアは鞭の長いリーチで龍騎を牽制しつつ、まどかを狙うつもりだった

しかしそこで声を上げたのはほむらだ。

トークベントを使って、ライアだけにメッセージを送る。

 

 

『ま、待って! お願いだからあの魔法少女と二人きりで話をさせて』

 

『知り合いなのか?』

 

『向こうは知らないと思うけど……ッ、作戦があるわ』

 

 

頷くライア。

アドベントを発動してエビルダイバーを呼び寄せる。

突進先は龍騎だ。素早くガードベントでシールドを呼び出したようだが、狙いは運ぶことにある。

 

龍騎はシールドごとエビルダイバーに押されていき、ほむら達からあっと言う間に距離を離される。ライアもエビルダイバーの上に乗っている為に、ホールにはまどかとほむらの二人だけが残された。

 

 

「まどか、貴女も魔法少女になっていたのね!」

 

「来ないで! 撃つよ……ッ!」

 

 

弓を構えるまどか。しかしほむらは微笑んで首を振る。

心なしか、その表情は焦っている様にも感じられた。

ほむらは戦う気が無いと言うのを証明するため、両手を上げてまどかへと近づいていく。

 

 

「貴女は優しい。撃てないわ」

 

「……ッ」

 

「それでいいの。話を聞いてまどか、私は貴女と戦う気なんて無い」

 

「あ、貴女はどうしてわたしの名前を……ッ?」

 

まどか視点、ほむらの言葉を信じられる訳が無かった。

今の今まで逃げておいて、いざ自分の前にして戦う気が無い?

 

 

「じゃあ今までの戦いは何だったの? マミさん達は、何のために死んでいったの!?」

 

「ち、違う! 違うの! 私は貴女が魔法少女になったなんて知らなかった!」

 

「ど、どういう事なの……? だからなんなの?」

 

「まどか、私は貴女を守る為に戦ってきた!!」

 

「……ッ?」

 

 

ほむらは言う。インキュベーターは恍惚だ。

きっと魔法少女のシステムを否定しなければ、本当の幸福はやって来ない。

つまり自分が神となって世界を再構築するしか道は無い。

 

 

「感情の無いキュゥべえが遠まわしな嘘をつくとは思えない!」

 

 

だからほむらは言われたとおり、ルールを信じた。

神の力で世界を創れば、次の世界はよりよい物に変わる筈だ。

それこそ死んでいったマミ達も蘇り、皆が幸せになれる。

 

 

「じゃ、じゃあ貴女はわたし達に死ねって言うの?」

 

「抵抗はあるかもしれないけど、それが一番なの! お願いまどか! 分かって!?」

 

「む、無理だよそんなの!」

 

まどかはブンブンと大げさに首を振る。

 

 

「この世界には守りたい家族や友達がいるの。みんな見捨てる様な事はしたくないよ……!」

 

「そ、そうね。優しいねまどかは。それが貴女だものね」

 

 

否定を聞くと表情を歪ませるほむら。

いつのもクールな彼女はそこにはいなかった。明確な焦りが体を包む。

声は振るえ、脚も震えていた。

 

 

「気持ちは分かるけど、再構築すれば元通りになるし、それで魔法少女のシステムを消せる!!」

 

 

都合よく世界を書き換えられるならば、当然魔法少女の狂った運命を変える事ができる筈だ。

魔法少女とはなった時点で絶望に向かう一本道を歩く存在。

その道を外れるには、やはり魔法少女そのものの存在を無かったことにするしかない。

 

目の前にいる『鹿目まどか』が何を願って魔法少女になったのかは知らないが、既に絶望に片足を突っ込んでいる事には変わりないのだ。

このままならば例外なく魔女になり、死ぬ。

 

 

「お願いまどか! 私を信じて!!」

 

 

ほむらの感情が溢れていく。まどかを前にすれば仕方なかった。

ほむら自身ですら自分の取り乱しように混乱してしまう。

たった一週間ちょっと、姿が見えなかっただけで、この反動が起こるとは。

 

 

「でも……! 次の世界に行けば記憶が無くなっちゃうッ!」

 

 

それは現実における死となんら変わりない。

だからこそ参加者達は暁美ほむらを殺す事を決めてきたんじゃないか。

次にまた同じ生活が送れるなんて保障はどこにもない、また同じ人と知り合って関わりを持てるとは限らないのだ。

 

 

「大丈夫、大丈夫よ! 私にはね、もう一つ勝利オプションがあるんだから!」

 

「お、オプション?」

 

 

頷くほむら。

実は、"彼女だけにしか教えられていないルール"が一つだけあった。

ほむらはまどかの為に、その『特殊ルール』の全貌を明かしていく。

 

手塚は前から思っていた。

ほむらをこのゲームの狂気には堕とさないと。

しかし手塚は甘い。もしも既に堕ちていたとしたら――?

 

既に、壊れていたとしたら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぁッ!」

 

「フ――ッ」

 

 

一方でライア達は、城の様な空間から何も無い荒野の様な場所へと移動する。

地面に落ちる龍騎と、着地するライア。二人は咆哮を上げながらぶつかり合う。

 

 

「「オオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」

 

 

ドラグセイバーとエビルバイザーがぶつかりあい、激しい火花を散らす。

すぐに次の手に転じる両者。互いに突き出した拳を真っ向から受けて、両者は大きく吹き飛んでいった。

 

 

「蓮――ッッ!!」

 

 

龍騎はその名を呟いて蹴りを繰り出す。

おそらく関わりの深い人物だったのだろう。

秋山蓮とそのパートナーであるかずみは手塚達が殺した。それを龍騎は知っているんだろうか?

 

 

「美穂ッッ!!」

 

 

龍騎が構えたドラグクローから、凄まじい大きさの火球が放たれる。

思いを全て乗せた一撃なのか。ライアはそれを受けるが、防御しきれずにきりもみ状に吹き飛んで地面に叩きつけられた。

 

そこへ追撃の様に放たれていく業火。

空を見れば巨大な赤い龍が叫びを上げていた。

熱い。なんて熱いんだ。魂まで灰になりそうだった。

 

 

「アンタに、叶えたい願いはあるか?」

 

「………ッ!」

 

 

しかしこの激しい猛攻の中に確かに感じる違和感があった。

炎は熱いが――、ライアは耐えている。それはひょっとして龍騎が手加減をしているんじゃないかと言う思いだ。

 

ナイトと戦っている時にはビリビリと殺気の様な物を感じたが、龍騎からはそれが無い。

拳こそ強く振るうが、命中の瞬間にどう考えても威力を落としている。

 

 

「アンタも迷っているのか」

 

「迷い? ああ、あるさ――! それくらいッ!」

 

 

殴りかかってくる龍騎だが、時間が経つにつれて迷いが大きくなってくる。

それはそうだ。殺気を全快にしていた蓮でさえ、最後の最後には殺す事に対して躊躇を見せた。

 

城戸真司と言う人間はおそらく普通の感性を持ち、正しい性格にあるのだろう。

そもそもはじめはゲームを止める方法を探していたのだから。

故にこのゲームのルールに押しつぶされる。

 

向いていないのだ。城戸真司と言う人間はF・Gに。

だからライアは立ち上がり、気づけば龍騎が地面を転がっていた。

けれども龍騎は立ち上がる。迷いながらも立つしかなかった。

 

 

「りんごの木の下で……、皆と出会うんだ」

 

「りんご……?」

 

「ああ。俺の故郷にある立派な木さ。本当に美味しいんだぜ、あそこのりんご」

 

「出会って――、どうする?」

 

 

ライアの言葉に、龍騎は初めて笑みを漏らした。

 

 

「会ってからのお楽しみだよ」

 

 

ただ一つだけ分かる事は、そこには争いは無い。あるのは笑顔だけでいい。

 

 

「それをアンタは叶えたいのか? この世界で」

 

 

龍騎の夢には悲しい矛盾があった。

龍騎は故郷で『みんな』に会いたいと言った。

 

それは秋山蓮、友人だったんだろう。

それは霧島美穂、もしかしたらそこには愛があったのかもしれない。

他にもいろいろと出会いたい人がいた筈だ、それこそ知り合いだけじゃない。

 

 

「そう、参加者皆集まって、笑い合えたら一番いいだろ?」

 

「そうだな……」

 

 

しかしその夢は叶わない。叶う筈もない。だってもう皆は死んでいる。

故に龍騎の願いは矛盾している。もしも願いを叶えたいのならば、龍騎はほむらを殺すなどとは思わないはず。

 

 

「だから俺の願いは叶わなくていいんだ」

 

 

その声にはありったけの悲しみがあった。

仮面の下で泣いているのだろうか? とにかく今の言葉に込められた思いは、それだけ悲痛な物を感じた。悲壮感が漂っていた。

 

本当に叶わない方がいいと思っているのだろうか?

いや、そんな事は無い。しかし龍騎も天秤には掛けられなかったのだろう。

世界と自分の想いを。

 

 

「俺は、俺の願いを叶える為にアイツを守る」

 

「じゃあ、そこが俺とお前の違いかもね」

 

 

あーあ。龍騎は投げやりに呟いて首を振る。

本当にどうしようもない、ちゃんとほむら達を殺すと決めたのに。

 

 

「ダメだな俺って、本当……」

 

「間違ってはいないさ、俺達は人間だ」

 

 

時に、人間は自分自身にだって嘘をつかなければならない。

迷い。一度決めた事すらも曲げてしまう心の弱さは、人だからこそ直面する物の筈だ。

それにこれは人の死が大きく関わっているものだ。簡単に決めていい話じゃない。

 

尤も、それでも決めなければならないのが残酷なものであるが。

一体自分達は何度この下りを繰り返せばいいのだろうか?

なんど同じ事を叫ばなければならないのだろうか?

 

守ると決め、殺すと決めるだけなのに。

どうして同じ事を何度も自問しなければならないのか。

 

 

「なあ、一つだけ聞いてもいいかな?」

 

「なんだ?」

 

 

龍騎とライアは、互いのデッキから金色に光るカードを引き抜いて動きを止める。

龍騎は一つだけ聞きたい事があった。本当はこんな事を聞くべきではないのだろうが――

 

 

「俺、正しい事をしてんのかな?」

 

「そうだな――……」

 

 

ライアはフッと笑って質問を質問で返す。それは龍騎と全く同じ内容だった。

暁美ほむらを守る事は間違っているのか? 世界を犠牲にして、それでも新しい世界に生きようとした杏子達、希望を見たほむらは間違っているのか?

 

 

「俺は、この世に正しい事なんて無いと思っている」

 

 

人はグレーを生きる存在だ。黒に転ぶも、白に転ぶも自分自身の決断が大切なんだ。

だからこそ人は自分の取る行動に責任と自信を持たなければならない。

全ては、人の心が決める存在であるが故に。

 

 

「俺は、アイツを守る事が間違っているとは思わない」

 

 

だからこそ龍騎がライアの考えを間違っていると思うのならば、ソレを証明しなければならない。

ライアに勝つと言う事は、ほむらを殺す事が正しいと決め打たなければならないのだ。

でなければ、カードには想いは込められない。

ミラーモンスターは応えてくれない。

 

 

「もう一度言う。俺は暁美ほむらが死ぬ事が、正しい事だとは思わない」

 

「………」

 

 

もしも龍騎にも同じ考えがあるのなら、龍騎はライアには勝てないだろう。

龍騎はそれを聞くと、手からファイナルベントのカードを落としてしまう。

龍騎もまた、ほむらに死に疑問を持っている様だ。

力なく崩れ落ちる様に膝をつくと、大きなため息をついた。

 

 

「俺は、パートナーとしてアイツを守るんだ」

 

「………」

 

 

そこで龍騎は顔を上げる。

 

 

「俺は、それ……、違うと思うよ」

 

「?」

 

 

偉そうな事を言えた義理じゃないが、龍騎は『パートナー』として求められる物を見出していた。

確かに相棒を守る事は大切だろう。しかし本当に大切なのは何だと聞かれれば、ソレは一つしかない。

 

 

「守るだけじゃ……、駄目だったんだ」

 

「それは、どういう――?」

 

「本当は」

 

 

龍騎の言葉は、ライアを打ちのめすには十分だった。

些細な言葉のあやかもしれないが、ライアは確かにと思ってしまった。

 

そこで聞こえる銃声。

ライアはエビルダイバーに飛び乗り、龍騎に背を向ける。

 

 

(そうか、そうだ……!)

 

 

龍騎の言う事は正しい。

ライアが本当にパートナーとしてやるべきだった事は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間を巻き戻そう。

場面はほむらとまどかに戻る。

特殊ルールが密かにほむらへ知らされていたと言う話だ。

 

それはキュゥべえがテレパシーで教えてくれた情報だった。

彼は詐欺師の様な振る舞いを見せることもあるが、基本的に詳細を求めれば隠さずに言ってくれる。

 

ほむらはそのルールについて、キュゥべえにありとあらゆる情報を聞き出し、嘘偽りが無いかを確認した。

ジュゥべえと言う胡散臭い奴ならばまだしも、キュゥべえが意図的に嘘をつくとは思わない。

故に、ほむらは信じた。彼女だけに与えられた特殊ルールを――!

 

 

「今、なんて……」

 

 

まどかは目を見開いて、信じられないと言う風に口を開けている。

呆けているまどかの為に、ほむらはもう一度特殊ルールの全貌を説いた。

 

それは、ほむらが生き残った際に『ある事』をしていれば、ボーナスが追加されると言う事だ。

 

ほむらは、まどかがゲームに参加しているとは知らなかったし、思いもしなかった。

だから、その特殊ルールをクリアしようと決めたのだ。

全ては、まどかを守るために。

 

 

 

 

 

【ゲーム終了時点で、生き残った者が自分のみの場合は、世界再構築後に願いを一つ無償で叶えられる】

 

 

 

 

 

「私は頑張ったわ! 貴女と共に、新しい世界を歩む為に!!」

 

 

ほむらは思い出す。

そうだ。全ての参加者は邪魔だった。

だから気の毒だとは思うが、消えてもらうのが一番だった。

 

 

「もちろん再構築後には危険人物以外は全て蘇生させるつもりだった。だから、だから――!!」

 

 

ああ、思い出す。

 

 

『ば、馬鹿な――ッ! 何故!?』

 

 

幸い、ほむらの魔法は気づかれずに移動できる最高の手段だ。

だから行動に出る事ができた。最初は自分を襲ってきた相手、殺人鬼だったようなので同情する事も無かった。

 

手塚に助けられて家に戻った後、ほむらは着替えると言って時間を止めた。

そしてすぐに襲われた現場に戻り、シザースペアを探した。

魔法少女の身体能力があれば、見つける事は難しくはない。

それとも運がよかったのだろうか?

 

 

『私は……絶対に――……』

 

 

弱っている二人を殺す事は簡単だった。

キリカのソウルジェムを狙い撃ち、そして生身の須藤を殺す。

その際に姿を見られてしまったが問題ない。向こうだって信じられなかった筈だ、まさか逃げたはずのほむらが、追いかけて来て殺しにかかるなんて

 

 

「全ては、まどか! 貴女の為なの――ッ!」

 

 

願いを叶える事ができれば、自分達の安全を保障しつつ魔法少女の狂った運命を破壊する事ができる。

ほむらがずっと追い求めてきた、まどかとの幸福が現実の物となるのだ。

それがほむらにとってどれだけ嬉しいものだったか。どれだけ希望をくれる物だったか。理解できるだろうか?

 

 

『はい、ほむらお姉ちゃん!』

 

 

罪悪感を感じなかったと言えば嘘になる。

ゆま達を狙うのは、できれば最後が良かった。

しかしどうしても巴マミ達が邪魔だった。ほむらはマミの実力を良く知っている。

だから、心を鬼にできた。ゆまの様な幼い子供がいたのは少し心が引けたが。

 

しかし、やはりそれは簡単だった。

時間を止めて、外部から狙撃された様に銃弾を発射すればいいだけ。

自分にもかする位置にしておけば、仮に失敗しても疑われる事は少ない。

 

そして銃弾の種類はマミが使う一般的なマスケット銃にあわせ、杏子がマミが犯人である事をミスリードする様に誘う。

もちろん魔法の銃と現実の銃では弾丸の構造を見ればバレてしまうので、狙いは眉間等なるべく即死してくれる場所を狙った。

 

そうすれば死体を調べられる前に、死体と銃弾が粒子化して消えるからだ。

結果的には杏子はまんまとマミが犯人であると決めつけ、潰しあってくれたから狙いは完璧である。

 

 

「まどか……、私はずっと貴女を想ってきた。それこそ他の何を犠牲にしてもいい!」

 

「な、なんでそんな事までして!?」

 

「貴女は私に希望を教えてくれた! だから貴女を守る為なら、私は悪になってもいい!!」

 

 

マミ戦。浅海サキや浅倉威など危険人物は、意外といいアシストをしてくれた。

サキは危険視していたマミに致命傷を与え、王蛇は北岡を無防備にしてくれた。

 

ほむらは時間を停止して、逃げた北岡を見つける。

盾からトラックを召喚して魔法を使って走らせる様にセットした。

あとは手塚達の所に戻って時間を戻せば、勝手にぶつかって北岡は死んでくれた。

 

全ては自分以外の参加者を殺す為だ。

その後はほむらが手を下さずとも、みるみる減っていき、ついには最終日まで来た。

わざわざ逃げずに待っていたかいがあったと思ったが、まさか最後のペアに鹿目まどかがいるとは――……。

 

 

「あ、あなたは他の参加者を殺してまわっていたの!?」

 

 

そうだ。

呉キリカ、須藤雅史、千歳ゆま、佐野満、東條悟、北岡秀一は直接手を下した。

後の参加者も、ほむらの作戦通りに死んでいった。

 

 

「お願い理解してまどか! 私の気持ちを分かって! 絶対に後悔はさせないわ!!」

 

 

まどかを殺す事はしたくない。それでも死と言う概念を超越すれば、以後は幸福が待っている。

ほむらは必死だった。今まで心身共にすり減らして地獄を何度も体験したのは、全てまどかを守り、幸せにする為ではないか。

そして今、その終わりがやっと見えた!

 

 

「皆を騙して……! あなた狂ってる!!」

 

「分かって! お願いまどかっ!!」

 

 

まどか視点、ほむらは理不尽なルールに振り回される被害者であった。

しかし実は誰よりも早く順応しており、そして特殊ルールでの勝利を狙う為に暗躍して回っていたのだ。

ほむらは狙われる可哀想な獲物ではない。完全な勝利を狙うハンターだったのだ。

 

ほむらは一番最初のゲーム発表で、そのルールを頭に植え付けられ、キリカ達の襲撃で自分の進む道を決めた。

世界は自分をどうあっても邪魔をするつもりなのだ、だったらとことんまで戦ってやると。

 

 

「貴女は私を救ってくれた! 今度は私が貴女を救う!」

 

 

ほむらはまどかに詰め寄ると肩を掴む。

やっと触れる事ができた。それだけでほむらはボロボロと涙を流す。

 

 

「わたし……、貴女なんて知らない――ッ!」

 

「分かってる。でも真実を知れば貴女は分かってくれる!!」

 

 

貴女は誰よりも優しく、誰よりも強い。

ほむらはまどかへの想いをどんどん募らせていった。

そして今、その想いが溢れていく。どれだけまどかとの普通の生活を望んだだろうか。

 

そうだ、普通でよかった。

まどかと一緒に笑い合える未来、そんな当たり前の事をどれだけ望んだのか――ッ!!

 

 

「は、離してぇ!」

 

「まどか――ッ! 嫌ッ、そんな顔をしないで!」

 

 

ほむらはまどかに拒絶される事だけは避けたかった。

今のほむらはただの感情の起伏が激しい中学生の女の子だ。

まどかへの想いが、彼女を暴走させていく。

 

 

「私は敵じゃない!」

 

「嘘! わたしも殺すつもりなんだ!!」

 

「違う! 信じて!!」

 

「信じられる訳ないよ! 貴女みたいな人っっ!!」

 

 

ほむらの脳裏に、あの小説に書いてあった事が羅列される。

愛を示す最大の好意。それだけが結果となり、ほむらの体を動かしていた。

どうしてそんな事をしようと思ったのか。うまく説明はできないが、体は動いていたのだ。

 

 

「私は、私は――ッ!」

 

「―――」

 

 

え? まどかは一瞬何が起こったのか信じられなかった。

ほむらが悲しげな顔で必死に訴える様な目を向けてきた。

けれどもそれが怖くて暴れていると、ほむらが唇を唇へ重ねてきた。

涙の味がするキス。唇を離した後も、ほむらは泣いていた。

 

 

「私は貴女を愛しているの!!」

 

「………」

 

 

まどかはポカンとしてほむらを見ている。

ほむらはそこで初めて自分がとった行動を理解して頬を染めた。

 

 

「ご、ごめんなさい……ッ!」

 

「あ、愛って……。そこまでわたしを――?」

 

 

頷くほむら。

自分の全てを、まどかになら捧げてもいい。

 

 

「貴女は、私の全てなの……」

 

 

だからどうか信じて。

そしてできれば城戸真司と共に死んでほしい。手塚は頼めば死んでくれるだろう。

そうすれば世界を再構築して杏子やマミ、さやか達も蘇生させるし、願いを使ってキュゥべえ達が以後ちょっかいを出せない様にする。

魔女を消すのもいい。とにかく、魔法少女からの呪いを解除して、よりよい世界をつくる

 

 

「そして、貴女と一緒に――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「気持ち悪い」

 

「え……」

 

 

まどかは確かにそう言った。

ほむらは表情を歪め、まどかを見る。

今、何と言った?一番聞きたくない言葉が聞こえて、ほむらは全身が震え始めるのを感じた。

 

 

「気持ち悪いよ、あなた」

 

「ま、まどか?」

 

「え? いやッ、キモ……!」

 

 

まどかはほむらから距離を取る様に後退していく。

追いかけようとするほむらだが、言葉が凶器となり、足が震えてうまく動けなかった。

 

初めて見る。まどかのゴミを見る様な目は。

そしてそれが自分に向けられている現実。

認めたくないと言う感情が、ほむらの目から涙を溢れさせた。

 

 

「止めて……! そんな顔をしないでぇ」

 

 

ほむらは、フラフラと救い求めるように手を伸ばす。

しかしまどかはソレを見ると、再び後ろへ下がった。

 

 

「ないって。いやいや、ないない。本当に無理だから」

 

「ッッ、そんな!」

 

 

嫌だ、まどかに拒絶されるのは嫌だ。

ほむらはボロボロとまた情けなく涙を零す。

まどかに否定されたら自分は何の為に今まで――ッ!?

 

もちろん一番良いのは、まどかが幸せになる事だ。

でも、それでも、自分を受け入れてほしかった!

 

 

「私は、貴女の為に何度も――ッ!!」

 

「だからキモイって。死んでよ。あなたなんか死ねばいいの!」

 

「!!」

 

 

一番聞きたくない言葉かもしれない。

ほむらのソウルジェムが急激に汚れていく。

そしてまどかは顔を憎悪で歪めて、舌打ちを行った。

 

あんな表情は見たことが無い。

そして恨みが全て自分に向けられている。

ほむらはおかしくなりそうだった。

 

 

「なんで……!? まどかぁ」

 

「アア、もう駄目耐えらんないわ!」

 

 

このまま放置しておけば魔女になってほむらは死ぬ。

それでよかったのに、やっぱり目の前にすれば怒りで堪えられなかった。

 

 

「え? 何を言って――」

 

 

そこで、まどかはどこからか拳銃を取り出して、ほむらへ向けた。

一瞬、武器を奪われたのかと思ったが、違う。

それは完全に魔法で構成された武器だった。

 

 

「死ねよ、クソガキがッッ!!」

 

 

まどかは憎悪で表情を歪め、引き金を引いた。

 

 

「―――」

 

 

銃声が聞こえ、尚も二人は立ち尽くしていた。

しばらくすれば再びまどかの舌打ち。ほむらは反射的に体を反らして、銃弾を回避していたのだ。

しかし流石に至近距離。ほむらは眉間こそ反れたが、目に銃弾を受けてしまい苦痛に絶叫ていた。

 

魔法少女の防御力で弾丸は瞳に弾かれた。

それでも痛みと衝撃は絶大だ。現にほむらは出血して、目を押さえながら後ろへ跳んでいる。

ともあれ最早そんな事はどうでもいい。問題はまどかのこの行動と変わり様だ。

 

 

「あーあ、外しちゃった。クソ! 避けないでよ熱い銃弾(ハート)……」

 

「まどか……?」

 

 

いや違う!

 

 

「貴女、誰ッ!?」

 

「えー? 何言ってんのほむらちゃん、頭おかしくなっちゃった? どこからどう見ても鹿目まどかだよ?」

 

 

そう言って笑うまどか。確かに言っている事は間違いじゃない。

どこからどう見てもほむらが知っている鹿目まどかだった。

声も、顔も、姿も全部。

 

 

「でも、貴女はまどかじゃない!!」

 

「ふぇぇ!? 貴女みたいなクレイジーサイコレズにわたしの何が分かるのぉ?」

 

 

マジキモイんですけどー! そう言って再びまどかは引き金を引く。

今度はしっかりと盾で防御してみせる。それを見て、まどかは舌打ちを。

 

 

「おかしい、こんなの明らかにおかしい!」

 

 

ほむらは冷静さを取りもどし、同時にソウルジェムの濁りのスピードも遅くなる。

 

 

「ティヒィィイッ! ちょっとそこで止まっててよ、ほむらちゃん! わたしの事を愛してるなら止まってて! すぐにチーズみたいに穴だらけにしてあげる!」

 

「黙りなさい! 貴女は誰ッッ!?」

 

 

どこからどう見ても鹿目まどか。

しかし彼女を知っている身としては、どこからどう見ても鹿目まどかではない。

言っている事はおかしな事と分かっているが、それでも目の前にいる『まどか』は、やはり鹿目まどかとは思えなかった。

 

 

「どぅあかぁら! まどかだよ! か・な・め・ま・ど・か!!」

 

「ち、違う!」

 

「違わないYO! 貴女がだーい好きなまどかだYO!!」

 

「うるさい! 黙りなさい!!」

 

 

ほむらは銃を引き抜いて、迷わずに引き金を引く。

もうこれ以上まどかの顔で、まどかの声でふざけた事を言われたくは無かった。

 

するとまどかもまた、合わせる様にして銃弾を発射。

二つの弾丸は見事に正面でぶつかり合い、互いを弾きあう。

金属同士がぶつかる音と、衝撃から発せられる火花が一瞬だけ二人の顔を照らす。

涙の跡を残して青ざめるほむらと、歪な笑みを浮かべるまどか。

 

 

「もうしょうがないなぁ、ほむらちゃんは!!」

 

「ッ?」

 

「じゃあねー、よく見ててよぉ。おほん!」

 

 

まどかは咳払いを行うと、指を鳴らして表情を変える。

 

 

「わたし達も、もうおしまいだね――……っ」

 

「ッッ!」

 

「だったら、ほら、これだったらいいの? はい、じゃあ続きいくよ」

 

 

まどかは急に苦しそうに顔を歪ませて、涙を浮かべる。

そしてその言葉。ほむらの心が大きな悲しみと後悔で揺れ動く。

 

 

「わたしにはできなくて、ほむらちゃんにできること……、お願い、したいから」

 

「ま、まどか……」

 

 

まどかは苦しそうに呻き、涙を浮かべた。

ほむらは、まどかを少しでも楽にしたいと思って――

 

 

「……ちょっと待って。何故貴女がその言葉を知っているの?」

 

「完璧でしょ? どうだった? やっぱり苦しい顔の方がいいなんて、ほむらちゃんはドSだなぁ! ディヒヒヒヒー!!」

 

「――ッッ!!」

 

 

やはり確信する。彼女は絶対に違う!

 

 

「クレイジーでサイコでレズでドSとか、マジで詰め込む属性間違ってんよアンタぁ!」

 

「黙れぇええエエエエエッッ!!」

 

 

ほむらは盾からマシンガンを引っ張り出すと、すぐに連射を開始する。

とは言え、まどかはケラケラ笑いながら飛んで跳ねて。素早い動きで銃弾をかわしていった。

 

 

「おいおい、せめて操られてるとか考慮しなよ。浅いんだよなぁ」

 

「ッ」

 

「ま、別人ってので当たりなんだけど!」

 

 

まどかはそう言って美しい装飾が目立つ柱の上に立った。

そして両手の指をパチンと軽快に鳴らしてみせる。

光がまどかを包んでいく。結局、これもまた単純な話である。

鹿目まどかは、このゲームには参加していないと言うだけの話!

 

 

「じゃんじゃじゃーんっ!! 正体はユウリ様でしたーッ!!」

 

「!!」

 

 

12番目。龍騎・城戸真司のパートナーであり、技のデッキが所有者。

固有魔法に変身の力を持った、ユウリと言う魔法少女。

 

ギリギリ肌を隠している程度の派手な衣装に、金髪のツインテール。

ピエロのような格好のユウリは、憎悪の笑みをほむらに向けている。

構えるのは専用武器である二丁拳銃リベンジャー。あの弓はただの飾りだった。

 

 

「城戸の奴は虫歯になっちゃいそうなくらい甘いから、アンタを殺す事に最後まで躊躇してた」

 

 

むしろ今もまだ迷っているかもしれない。

まあでも、それは別に悪い話じゃない。ユウリだってその間に魔女を狩り狩ってまわれたし。

 

 

「でもアタシは城戸とは違う」

 

 

ユウリはリベンジャーを連射しながら笑う。

ほむらも反撃にマシンガンを連射して銃弾を相殺していった。

激しい火花が散っていく。

 

 

「本物の鹿目まどかちゃんは未だに入院中だよ。もうすぐ退院。よかったね、魔法少女にもなってない」

 

 

でもびっくりするだろうな。ユウリはゲラゲラと笑う。

 

 

「せっかく元気になって学校に戻れるのに、親友の一人と慕ってた先輩はもう死んでます。しかもそれを把握する事すらできないまま世界が終わるな・ん・て」

 

「――っ!」

 

 

そこで感じる違和感。

まどかが魔法少女になっていないなら、どうしてユウリはまどか魔法少女としての姿を知る事ができた?

それにあの言葉だってそうだ、どうして知っている!?

 

 

「コルノフォルテ!!」

 

「あぐっ!」

 

 

油断していた。

ほむらは背後から突撃してきた牛の化け物に気づかず、攻撃を受けてしまう。

吹き飛ぶほむら、すぐに時間を止め様としたが、ソコでユウリはネタバレを行った。

それを聞きたいが故に、ほむらは時間を停止する事を止める。

 

 

「技のデッキは魔女を使役できる」

 

 

箱の魔女・エリーキルステンは、対象者の過去の傷を調べる事ができる。

精神攻撃の為に使うのだろうが、ユウリにとっては貴重な情報源として利用できるのだ。

そしてユウリはシザースとキリカ襲撃時に既にほむらを発見していた。

そこでエリーを使い、過去を覗いたのだ。

 

 

「何も知らなかったら……、アタシもアンタに同情してた。ティースプーンくらいの優しさはあげられたかも」

 

 

だけど、過去を見て、考えは変わる。

 

 

「随分とまあ、好き勝手にやってくれたわなぁ!」

 

「ッッ!!」

 

 

ユウリの銃弾が一発、ほむらの肩に入った。

倒れる中で、時間を止め様と試みるが、砂の数がもう無くなっている事に気づいた。

いろいろと無茶をしすぎたか? それとも意図的に減りが早くなっている?

それは分からないが、もう時間は止められないし、ソウルジェムの濁りも酷い。

魔力を使えば一気に危険な状況になってしまう。

 

 

「暁美ほむらァ、お前のせいでッ、どれだけの人間が貴重な奇跡を逃したと思ってる!?」

 

「っっ!」

 

「勝手に終わらせ、勝手にスタート。お前以外の人間はどうでもいいって? そりゃないよ」

 

 

ユウリは真剣にほむらを睨んだ。

ほむらの勝手な行動が、結果として多くの人の幸せを奪った。

ユウリはこの世界で奇跡を起こしていた。それが何なのかは語らないが、絶対に守りたい絆を手に入れたのだ。

 

 

「それを無かった事にされる気持ちを考えた事ある? お前は悪魔だよ、暁美ほむら!!」

 

 

絶対に終わらせない、絶対に守ってみせる。ユウリはほむらを確実に殺す気だった。

 

 

「今まで散々やっておいて、あげく再構築? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

 

 

ユウリはほむらの魔力切れを狙っていた為に、かまわず攻め込んでいった。

 

 

「アタシには絶対に守りたい人がいる!!」

 

 

しかしその人は、おそらく次の世界では死んでしまうだろう。

 

 

「終わって溜まるか、こんな所で!!」『アドベント』

 

 

ユウリが召喚するのは嘲笑の魔女・クリフォニア。

カラフルな綿の体に、髑髏の頭部。目の部分は薔薇でできている不気味な魔女だった。

体からは無数の触手が生えており、気味の悪い動きをして一勢にほむらを狙う。

 

ほむらはすぐに銃弾で触手を破壊していくが、クリフォニアの触手はすぐに再生するようだ。

ほむらを執拗に狙い、逃がしてくれない。

 

 

『クプオオオオオオオオオオオ!!』

 

「くっ!!」

 

 

四肢を絡め取られるほむら。

その時だった。

 

 

「か――ッッ!!」

 

「………」

 

 

両手両足に打ち込まれる弾丸。ユウリは二丁拳銃を回して、冷めた目でほむらを睨んでいた。

撃ち込んだのは麻痺(スタン)(ガン)。相手の動きを封じる攻撃だった。

二重の拘束だ。それだけユウリは慎重であると言う事でもある。

 

 

「確実に殺す」

 

 

ユウリはほむらのソウルジェムを奪うため、目の前にやってくる。

 

 

「何が……、いけないのよ」

 

「は?」

 

 

そこでほむらが呟いた言葉。

 

 

「幸せになる事を願って、何がいけないの――?」

 

「………」

 

 

ユウリは一度小さなため息を。

そして思い切り腕を振るい、裏拳をほむらの頬へ打ち込んだ。

 

 

「うぐッッ!」

 

「よく聞け屑」

 

 

ユウリはほむらの襟首を掴み、顔を引き寄せる。

 

 

「幸せになるには、他者を犠牲にしすぎ」

 

「ッッ」

「お前が死なせた時間の中で、幸せになっていた人がいる」

 

「ぅ」

 

「仮にアンタがアレを救えたとして、その時間の中で不幸になる人間がいる。そいつはお前が時間を壊さなければ、幸せになっていたかもしれない」

 

 

ユウリは強く言う。

自分達は神じゃない、魔法少女だ。

 

 

「お前の幸福の為のワガママを、アタシ達に押し付けるな」

 

 

ユウリはギリギリと歯を食いしばり、ほむらを睨んでいた。

どうやらこの時間軸だけは守り抜きたいらしい。

ならば、暁美ほむらと言う存在は邪魔で邪魔で仕方ない。

だってほむらは、ユウリの幸福を無かった事にしようとしている悪魔ではないか。

 

 

「お前に、幸せになる資格なんかないんだよ!」

 

 

ユウリはほむらのソウルジェムを掴み取ろうと手を伸ばした。

 

 

『トリックベント』

 

「は!?」

 

「違うッ!!」

 

 

パートナーといればカードが増える。

あのデートの終わり、ライアのデッキには新たなるカードが増えていた。

それは脆い絆だったのかもしれない。しかし運命を司るデッキは、確かに新たなる力を授けてくれた。

 

二枚目のトリックベント。

それは騎士とパートナーの位置を入れ替える効果である。

だからライアはユウリの前に現れたのだ

 

 

「何ッ! お前は!!」

 

「エビルダイバー!!」

 

 

空にいたエビルダイバーはほむらを乗せており、そして赤紫の雷撃を発射する。

それはユウリとクリフォニアを捉え、激しい光を放った。

バチバチと激しく音を立てる雷撃。ライアは全力をそこに込めていた。

 

 

『ピギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「あ――ッ!! ぐぅぅぅウゥウッッ!!」

 

 

爆発するクリフォニア。

解放されたライアは、もう一度声を大にしてほむらへ届くように言葉をぶつけた。

 

龍騎から言われた事が胸に刺さっている。

パートナーならば相方を守る事も大事だが、何よりも――!

 

 

「お前は幸せになっていいッ!!」

 

「……!」

 

「ぐはッッ!!」

 

 

ライアはユウリを殴り飛ばすと、エビルウィップで体を縛り上げる。

流すのはまたも電流だ。ユウリの体に一気にダメージが蓄積されていく。

魔女を召喚しようにも体が縛られているため、カードを抜けない、撃てない。

 

 

「お前はずっと今まで戦ってきたんだろう!?」

 

 

ライアは叫ぶ。

確かに抱えた罪もあるかもしれない。

しかしひたむきに戦い続けた時間は真実だ。今更諦めるのは、らしくない。

 

 

「アホか!!」

 

 

ユウリはその言葉を笑い、一蹴する。

 

 

「幸せに? それは他者を犠牲にして得る最低な物だろうが!!」

 

「確かにッ、そうかもしれない!」

 

「ハッ!」

 

「だが、だったら! 俺達は皆が幸せになれる方法を探したか? 追い求めたか?」

 

「!!」

 

 

ユウリの表情が変わる。

ライアは言った。皆が幸せになれる道は、ある事にはあるのかもしれない。

しかしそれは探すのが一番難しく。叶えるのも一番難しい物なのだ。

ユウリはそれを目指したのか?

 

 

「そ、それは――ッ!」

 

「人は、少なからず誰かの犠牲の上に幸せを作っている! 現にお前は暁美ほむらの上に成り立つ幸福を望んでいる!!」

 

「………」

 

 

ほむらはエビルダイバーの上に横たわり、グッと唇を噛んでいた。

涙が溢れてくるのを感じていた。

ライアは――、手塚はこの期に及んでほむらを肯定しようと言うのか。

ほむらの行動を、間違っていないと言うのか……。

 

 

「ユウリ! 俺達もお前も、他者の涙の上に成り立つ幸せを選んだ!」

 

「規模が違う! 限度があるッッ!!」

 

「そうかもな。だが――!」

 

 

ライアは思い切り鞭を振るって、ユウリを空へ投げ飛ばす。

 

 

「俺達が選んだのは、そう言う幸せだろうッ!!」

 

「!!」

 

 

他者を犠牲にする方の。

そしてライアはパートナーの名前を叫び、ファイナルベントを発動する。

ほむらは愛する人を守りたいから戦ってきた。それを叶えなければならない。

だからココで諦めるのはまだ早い筈だ。

 

ライアはほむらの言葉を全て聴いていた。

ほむらが無意識に発動していたのだろう。トークベントで言葉や気持ちが頭の中に流れ込んできた。

だから、ほむらが戦い続けた想いを知った。

 

 

「暁美ッ! 俺に力を貸してくれ!」『ファイナルベント』

 

 

ライアはありったけに叫ぶ。

ほむらが間違っているかどうかなんて関係無い。

大切なのは生きたいか。幸せになりたいか。そして鹿目まどかとまた笑い合いたいか?

 

ずっと戦っていた。ずっと苦しんできた。

それを報いるのは、齎される幸せの筈。

 

 

「お前は幸せになれる。なっていい!!」

 

「手塚――っ!」

 

「本当の笑顔を忘れるな! お前の道を間違えるな!!」

 

 

ほむらは涙に濁る視界の中で、まどかの笑顔を視た。

 

 

(そうだ、約束したんだ……)

 

 

大切な誓いを交わしたんだ!

まどかの思いを、まどかの努力を無駄にしないと決めたんだ!!

 

 

「暁美ほむら! 俺の手を取れッッ!!」

 

「ッ!!」『ユニオン』

 

 

ほむらはユウリを睨む。

 

 

「ごめんなさい、ユウリ――ッ!」

 

「!!」

 

「私は、ここじゃ死ねないの!!」『ファイナルベント』

 

 

ファイナルベントを使っても、ユニオンを使えばもう一度使う事ができる。

それと同じで、魔法少女もまた複合ファイナルベントを使用する分だけ、魔力が回復する。

 

ライアは手が麻痺しているほむらの代わりに、盾を操作。

さらにそこから武器を抜き取り、囮の銃弾を発射する。

 

 

「くっそぉオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

空中と言う動き辛い場所に加えての、時間停止。

集中を散らせる弾丸、そしてエビルダイバーの高速移動。

ユウリは必死に抵抗するものの、圧倒的にスピードが足りなかった。

 

 

「ぐあぁあああああ!!」

 

 

エビルダイバーが眼前から消えた瞬間、ユウリは背後を撃つ。

狙いは悪くないが、読みは外れていた。

ライア達は真下から突き上げるように突進。エビルダイバーがユウリを引き飛ばした。

 

ユウリは血を吐き、苦痛の声を漏らす。

しかしまだソウルジェムは破壊されていない。

耐え切ったか? 少し余裕を見せるが、甘かった。

 

 

『トリックベント』

 

 

どんな攻撃も無かった事にしてしまう効果を持つ一枚目のトリックベント・スケイプジョーカー。

ライアはその力を自分の必殺技に使用した。はじけ跳ぶライア達、ジョーカーのカードがユウリの目に飛び込んでくる。

 

 

「はは……!」

 

 

ライアは、『必殺技を当てた』と言う事を無かった事にした。

ユウリの前方から再びライア達がハイドベノンで突っ込んでくる。

 

 

「次は、外すなよ」

 

「ええ」

 

 

ライアとほむらが、ユウリのソウルジェムを睨んでいる。

ほむらは先ほどよりも威力の強い銃を引っ張り出した。

 

 

「さいっていだ……!」

 

 

時間停止を止める術がない。何をしても詰んでいた。

だからユウリはせめてもの抵抗に、自分の固有魔法を発動する。

 

 

「!!」

 

 

 

ほむらの表情が変わる。

ユウリは再び鹿目まどかに変身したのだ。

そして攻撃じゃなく言葉を投げかけた。

 

 

「ほむらちゃんの、人殺し」

 

「!」

 

「だいっ嫌い……」

 

 

攻撃を止めて。

一瞬だけその言葉を言いそうになった。しかしほむらはその言葉を飲み込む。

それでも、ほむらの心を抉るには十分な威力だった。

 

 

「俺を恨めユウリ! お前は俺が殺す!」

 

 

それでもまた、彼は庇おうとしてくれる。

 

 

「それがお前の、運命だ!!」

 

 

ライアがほむらから銃を奪った。

パーフェクトライアーはそのままユウリを捉え、ソウルジェムを破壊した。

これでやっと――

 

 

「!!」

 

 

終わらないのが、残酷な所だ。ユウリはまだ奥の手を残していた。

技のデッキの恐ろしさは、グリーフシードを大量生産する事ができる点だろう。

使役した魔女に使い魔を産ませ、それを魔女に成長させてから自害させる。

それを繰り返すことで、ドロップ率が不安定なグリーフシードを安定して手に入れられる。

 

ユウリはそれをひたすら繰り返した。

だからこそ現在、ユウリは数え切れないほどのグリーフシードを所持していた。

そしてユウリが死んだとき、それが魔女になるように魔法を構築していたのだ。

 

無茶苦茶な行為だが、その無茶苦茶はしっかりと発動された。

世界が割れ、そこから大量の魔女が飛び出してくる。

ライアペアを取り囲む何十、何百と言う魔女達の群れ。

このボロボロの状態で今から全滅させろと?

 

 

「………」

 

 

そんな絶望の間際、粒子化して消えていくパートナーを見ていたのは龍騎だ。

彼はほむらを殺せない。ほむらもまた、生きて救われる道を示した。

 

龍騎は大切な事から目を背けていた。

ほむらを救う事は、ユウリが救われない事であった。

ほむらを殺したくないと目を背けた結果、ユウリは死んだ。

 

 

「………」

 

 

そして今、魔女の群れにほむら達が殺されようとしている。

もしもここで彼女らが死ねば、ユウリは何のために死んだんだ?

龍騎は拳を強く握り締める。

 

もっと早く、答えを見つけ、もっといい道を見つけていたのならこんな事にはならなかったかもしれない。

こんな悲しみが残る事には――ッッ!!

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

龍騎の咆哮が聞こえ、ライア達が視線を向ける。

そこには巨大な火球が魔女結界の壁にぶつかっているのが見えた。

紅蓮の塊は魔女結界を破壊し、外へ続く道を照らしていく。

 

逃がしてなるものか。

魔女達はすぐに結界の穴を塞ごうとする。

 

 

「こっちだ! 早く!!」

 

「ッ!」

 

 

ライアは頷くと、エビルダイバーを一気に加速させた。

魔女達の攻撃を紙一重でかわしていき、龍騎が開けた穴から外へ脱出する。

まさに危機一髪と言った所か。

 

 

「!」

 

 

そこでライアは気づく。結界の中にはまだ龍騎が残っているのだ。

彼もドラグレッダーに乗れば脱出できる筈なのにソレをしない。

その意味を理解して、ライアは声を荒げた。

 

 

「まさかアンタ――ッ!」

 

「………」

 

 

龍騎はライア達ではなく、ドラグレッダーを見ていた。

 

 

「ごめんな、ドレグレッダー。ごめんな、ユウリちゃん」

 

 

こんな迷ってばっかの、役立たずなパートナーで。

 

 

「でも、せめてケジメだけはつけるよ」

 

 

龍騎は改めて自分を取り囲んでいる魔女達を睨んだ。

もしも龍騎も脱出してしまえば魔女たちは生き残り、いずれ人を襲おうとする筈だ。

それは許してはいけない、たとえ今日で世界が終わるとしても。

だって何も知らない人たちは、何も変わらない明日が来ると信じている。

 

そこに魔女はいらないだろう?

丁度いい事に、魔女自身が結界を塞いでくれた。

 

 

「――っ」

 

 

皆が幸せになる道を、見つけたかった。

龍騎は仮面の奥で目を閉じる。

 

 

「―――」

 

 

魔女たちは餌に群がる獣の様に龍騎を囲み、すぐに肉をむさぼり始める。

数分で消えいく命。ドラグレッダーは主人の死をトリガーに粒子化していくが、問題はココにある。

 

粒子化から消滅までは若干のタイムラグが存在していた。

そこに龍騎は全ての力をドラグレッダーに乗せていたのだ。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

龍の口が文字通り裂けた。

肉を断ち、血が飛び散る中でドラグレッダーは瞳を光らせる。

幸い、龍騎を喰う為に魔女達は一箇所に集まっている。ドラグレッダーはそこへ最大級の火球を発射した。

 

あまりの熱量、そしてあまりの衝撃。

ドラグレッダーの体は耐え切れず、炎を発射した直後に爆散していった。

しかし命を乗せたその炎は、あれだけ無数にいた魔女たちを一瞬で焼き尽くすと、魔女結界と共に『存在』をも消滅させていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【城戸真司・死亡】【ユウリ・死亡】【残り2人・一組】

 

【ライアペア以外の死亡を確認、よって残り一時間で世界再構築へと移行】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったのね……」

 

「ああ」

 

 

二人はアパートの前に立っていた。

空を見上げるほむら、灰色の空から白いものが降ってきた。

 

 

「雪……」

 

「積もるかもな」

 

 

手塚は舞い落ちる雪の中に佇むほむらを見た。

本当に儚げで、消えてしまいそうだ。少しでも目を離せば壊れてしまうんじゃないかと。

それがやはりどうしようもなく悲しくて寂しかった。

 

 

「………」「………」

 

 

全てが終わった後、二人は手塚の部屋で何をするでもなく黙っていた。

ほむらは両手両足に残っている痺れが取れず、ベッドの上で寝ている。

一方の手塚はベッドに背中を預け、床に座っていた。

 

凄まじい虚無感と疲労。

二人はしばらく無言で過ごしていた。

だがもうすぐ世界は滅び、再構築が始まるのだが――、いまいち実感が湧かない。

 

 

「ごめんなさい」

 

「?」

 

 

先に言葉を放ったのはほむらだった。

トークベントを発動していた事は手塚から聞いた。

自分の言葉や想いが知られたとあれば、やはり謝罪は必要だと思ったのだ。

 

 

「本当に、ごめんなさい」

 

「謝る必要は無いさ」

 

 

しかしそう言う訳にもいかないだろう。

手塚は全てを知った。ほむらが隠れて他の参加者を殺していた事や、特殊ルールを内緒にしていた事も全部。

必要とあれば、ほむらは最後に手塚すら殺すつもりだった。

 

 

「軽蔑したでしょう? 私は結局、狙われるべくして狙われたの」

 

「まあ驚いたが、お前が俺のパートナーである事には変わりない。軽蔑はしないさ」

 

「そう……」

 

 

それだけ言って、また暫く無言が続く。

再び口を開いたのは、ほむらだった。

 

 

「お願いがあるの」

 

 

淡々と言う。

 

 

「お願い?」

 

「そう、最後のお願いを聞いてほしい」

 

「ああ、分かった。ここまで来たらどんな願いでも聞いてやる」

 

「そう、ありがとう」

 

 

だったら遠慮なくと、ほむらは最後の願いとやらを告げた。

その表情はあくまでも淡々としている。

願いを言う時の口調も、また淡々とした物だった。

 

 

「キスしてほしい」

 

「………」

 

 

手塚は目を丸くする。正直予想外だった。

 

 

「り、理由を……、聞いてもいいか?」

 

「終わらせたいの、全部」

 

 

ため息が出た。

なんだよく分からないが、ほむらがそれを望んでいるならば。

ただ、それが本心であるかどうかは大切なところだ。手塚は一旦ほむらの前にやってきて、目を見つめる。

 

 

「何?」

 

「本当にいいのか? お前好きな人が――」

 

「お願い。それとも、ファーストキスじゃないから嫌? 私じゃ嫌?」

 

「そうじゃなくて……」

 

 

「勝手な事だって事は分かっている。だけど一つ分かってほしい」

 

「?」

 

「そこに――、愛は無いと言う事を」

 

 

愛。ほむらは少し、感情をその部分に込めた。

今から行われるのは、愛の無い愛を示す行動。

おかしい、矛盾している。しかしそれをほむらは望んだのだ。

 

 

「悪いが、俺はお前をパートナーとしては見れど、特別な感情を持った事は無い」

 

「私もよ。彼方を愛する事は、一生無いでしょうね」

 

 

お互いに、それでいい。

 

 

「わ、悪い……」

 

「謝らない……、で――」

 

 

触れ合う唇。

伝わる温もりを感じて、ほむらはゆっくりと目を閉じた。

 

 

『手を、握ってほしい』

 

 

トークベントでそれだけを伝えて、答えを待たずに切る。

手塚はちゃんと応えてくれた。ほむらの手を優しく握り締める。

ほむらも弱弱しい力ながら、しっかりと握り返した。

 

二人の口付けに愛は無かったかもしれない。

しかし優しさならば、溢れんばかりにあったのだと思う。

 

 

「泣いているのか……?」

 

 

唇を離した手塚が最初に言ったのは、そんな言葉だった。

ほむらの目からは一筋の涙が伝っている。

何を想い、そして何故涙を流したのかは、ほむらにしか分からない事。

 

 

「彼方もね」

 

「………」

 

 

そしてそれは手塚も同じだった。

時計を確認する。世界が滅ぶまでもう残りわずかだ。

手塚はそこで安堵した様に笑みを漏らした。

 

 

「終わるな」

 

「ええ」

 

 

手塚はそこでほむらに笑みを向ける。

ずっと戦ってきた相棒へ何かメッセージでもかけるのだろうか?

手塚は寂しげな表情ながらもしっかりと笑い、そしてほむらへ最後の言葉をかける。

おそらくこのメッセージを言い終えたくらいで、時間がくる筈だから。

 

 

「ほむら」

 

「――?」

 

 

手塚は何かを取り出した。

 

 

「え?」

 

 

それは、ほむらから奪っていた拳銃だった。

 

 

「お前は、生きろ」

 

「――っ」

 

 

手塚はその拳銃を自分の頭の横、こめかみに押し当てる。

手塚は笑顔だった。満面の笑みではないが、口も目もしっかりと笑っている。

なんとも優しい表情で。

 

 

「手塚っ!!」

 

 

叫ぶが、止まらなかった。

ほむらは麻痺している為に動けない。

それは手塚にとっては都合が良い。

 

 

「次の世界では幸せになってくれよ」

 

 

パートナーとしての――

 

 

「お願いだ」

 

 

手塚は引き金を引く。銃声と共に、彼は床へと倒れた。

尚も叫ぶほむらだが、すぐにそのメッセージが頭の中に刻まれる。

 

 

【手塚海之・死亡】【暁美ほむら以外の参加者死亡を確認、特殊ルールでの勝利が決定】

 

「………!!」

 

 

手塚は、ほむらの願いを増やした。自らの死を以ってして。

続けざまにゲーム終了の合図が頭に響く。時計を見ればタイムリミット。

あの地獄とも思えた一週間が終わった。酷く長く、酷く疲れた時間が終わった。

死に怯え、殺す事に壊れた時が終わるのか。

 

 

手塚といた時間は、無くなるのだ。

 

 

【ゲーム終了】

 

【勝者・暁美ほむら】【ただ今より世界再構築へと移ります】

 

 

光に包まれて、ほむらの姿が消え去る。

残ったのは手塚の死体だけ。それは問題なく粒子化を始めるのだが――

何故か、どうにもそのスピードが遅いように感じる。

それに一つの異変、ありえない事。

 

 

『よ、お疲れ様だぜ』

 

『……なるほど、お前か』

 

 

手塚の前に現れたのはジュゥべえ。

 

 

『騎士担当として来てやったぜ』

 

 

粒子化が遅く、死んだ筈なのに意識がハッキリししているのはこのせいなんだろう。

もちろん体自体は動く事はおろか、感覚すらない。声も発せられないしもう何も見えない。

けれども意識だけはハッキリとしていて、思念でジュゥべえと会話ができていた。

 

 

『なにか用か? まさか本当に労いの言葉を言いに来た訳じゃないだろう?』

 

『ああ、その通りだよ手塚』

 

 

ジュゥべえはこのゲームをずっと見ていた。

その中で感情の無い彼にはどうにも引っかかる部分があるのだと言う。

その疑問を少しばかり解決しにきたとの事だ。

 

 

『まず一つ、普通あのタイミングで死ぬか?』

 

 

時間ギリギリでの自殺。ただ、理由は分かると言う。

手塚が死ねばほむらは条件をクリアして願いを叶えられる状態となる。

手塚はパートナーとして、叶えられる願いを増やしてあげたのだろう。

 

 

『自己解決してるじゃないか』

 

『いやいや、こっからだって』

 

 

ジュゥべえはニヤリと笑って、手塚の死体を見る。

頭に銃弾を撃ちこんだ割には、随分と綺麗な死に顔だった。

血さえ見えなければ本当に寝ている様だ。とにかく安らかな物。

 

 

『何でお前、"嘘"ついた?』

 

 

何も見えない手塚ですら、今のジュゥべえがいやらしく笑っている事が分かった。

本当にこの妖精は性格が悪い。無自覚ならばもっと性質が悪い。

手塚は大きなため息をついて、ジュゥべえの言葉を否定する。

 

 

『嘘なんてついていない』

 

『おいおいココまで来て、とぼけんなよ』

 

 

妖精ナメんな。

ジュゥべえは舌を出して手塚を馬鹿にした。

さて話の続きだ。ジュゥべえは手塚が大きな嘘をついたと言う。

それはつい先ほどの事だ。

 

 

『お前、本当は暁美ほむらを愛していたんだろ?』

 

『………』

 

『隠しても無駄さ。オイラは全部知っている』

 

 

手塚は暁美ほむらを愛していた?

そして愛していたならば、何故――?

 

 

『お前は、アイツを愛したから死んだ。違うか?』

 

『そんな事を聞いてどうする? 結果は結果だ。俺は死んでる』

 

『オイラ達は人間の愛ってヤツに興味を持ってな。研究の為の資料作りさ!』

 

 

愛は最も複雑な感情であり、同時に『感情』の象徴する存在だ。

ジュゥべえ達にはその正体が全くつかめず、故に非常に興味深い研究対象でもあった。

 

 

『俺はただアイツの願いを――』

 

『コッチも確証無しには来ないっての。人の感情はある程度、図に表せる事ができるってのは知ってるよな?』

 

『………』

 

 

やれやれと手塚はため息をつく。

面倒な奴に絡まれた。まさか死んでから苦労するとは夢にも思っていなかった。

 

 

『ただ……、面倒になっただけさ。俺は』

 

『?』

 

『疲れたんだ』

 

 

達観したように言う。

 

 

『そろそろ楽になってもいいだろ? だから俺は終わらせたんだ』

 

 

手塚には一つの確信があった。

それはほむらが手塚を再構築させても、記憶は絶対に戻さないと言う事だ。

だから今の時代の己を終わらせておきたかった。全てを終わらせて眠りたかった。

 

 

『……言い方を変えるぜ』

 

 

ジュゥべえは提示した死の理由そのものに関しては納得した。

暁美ほむらを守る事で罪の意識から逃げ、そして暁美ほむらを守りきれば縋っていた物を失い、また迷ってしまう。

そんなサイクルが嫌になったんだ、だから死んだ。

 

 

『暁美ほむらがお前に愛を示したら、お前はどうする?』

 

 

しかし、どうにも引っかかる。

だからジュゥべえは言葉を変えた。

 

 

『……フッ』

 

 

折れたのか、それとも馬鹿にしたのか。

手塚は笑って答えを言った。

 

 

『断るさ、俺は彼女を愛していないんだからな』

 

『……あっそ』

 

 

ただ、手塚はさらに言葉を続けた。

 

 

『俺達の間には、愛があってはいけなかったんだ』

 

『?』

 

『暁美は、俺を愛しちゃいけない』

 

 

あってはならない。故に愛を否定する。

 

 

彼女(ほむら)が愛を向ける相手は――』

 

 

そうだろ? 手塚は一瞬だけ浮かんだパートナーの姿を見つめていた。

先ほど、ほむらと見た雪の中。ほむらは消え入りそうな存在だった。

だからすぐにいなくなる。すぐに目の前から消える。

 

 

『暁美が愛するのは、彼女(まどか)一人だけで良いんだ』

 

 

他に愛をチラつかせるのは、ノイズなんだよ。

手塚の言葉に、ジュゥべえは無言で笑みを浮かべている。

この言葉はもう答えだ。ジュゥべえは何故手塚が愛を認めなかったのかを何となくだが察する。

 

 

(愛か。めんどくせぇ感情だなおい。やっぱ訳わかんねーわオイラには)

 

 

ま、いいや。

ジュゥべえはそう言うと、手塚に別れの挨拶を告げる。

 

 

『嘘つきは、損だな』

 

『……フッ』

 

『感情の無いオイラに教えてくれよ。自分の心に嘘をつくってのは、簡単なのかい?』

 

『さあ、俺は分からない』

 

 

最後まで手塚はうやむやにして口を閉じた。

面倒だ。ジュゥべえは本当に終わりにする。

 

 

『チャオ』

 

 

別れの挨拶と共に、手塚の意識は深い深い無の中へと消えていく。

そして彼の体も、丁度その時を同じくして消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、ほむら。お疲れ様』

 

「………」

 

 

無の空間だった。

そこには何も無く、何の色も無い世界。

そこに暁美ほむらとキュゥべえだけが存在している。

 

ほむらは周りを見回したが、やはりそこには何も無かった。

これは要するに今の今まで自分達が過ごしてきた世界なのだろう。

どうやって滅んだのかは知らないが、あまりにもあっけないと言うか、虚しいと言うか。

 

 

『それにしても今回の君の行動はボク達インキュベーターから見れば実に興味深いものだったよ』

 

「……黙りなさい」

 

 

ほむらは、不愉快だと表情を歪ませる。しかしキュゥべえは構う事無く続けた。

 

 

『人間と言う不安定な生き物が見せる肉体的ではない弱さ。そして愛と言う全く理解できない不確かな感情が織り成す迷い』

 

 

全てがインキュベーターにしてみれば、理解できない滑稽な存在だったろう。

 

 

『是非、君には一つだけ聞いておきたい疑問があるんだ』

 

「………」

 

 

赤い瞳がほむらを捉える。

何を聞かれるのか? もしかしたら分かっていたのかもしれない。

 

 

『ボクの考えを聞いてほしい』

 

「興味が無いわ、早く再構築を」

 

『いいじゃないか、少しだけだ』

 

 

キュゥべえは珍しく自を押して話を続ける。

 

 

『君は、どうして"嘘"をついたんだい?』

 

 

ほむらの答えを待たずしてキュゥべえは言葉を続けた。

尤も、ほむらには答える気など無かったのだから、それでいいのだが。

 

 

『君は手塚海之を愛していたんだろう?』

 

「……っ」

 

 

ほむらの表情が変わったのを、キュゥべえは見逃さなかった。

キュゥべえが違和感を感じたのは、二人の口付けを見た時だった。

この世界では唇を重ね合わせる行為は愛を示す最も簡単な行為だ。

 

しかし手塚もほむらも、そこに愛は欠片とて存在しないと言うじゃないか。

それはおかしい、矛盾している。愛が無いのに愛を示す行為をする意味は?

キュゥべえは考え、そして自分なりの答えを見出した。

 

 

『暁美ほむら、キミは長い時を鹿目まどかを救う為に戦った』

 

 

普通の人間ならば狂う程の経験をし、しかしほむらが尚自我を保てたのは希望があったからだ。

まどかと言う希望が。そしてそれは積み重なる想いとなって、大きく成長していく。

 

 

『いつからか、君は鹿目まどかを愛する様になっていた』

 

「………」

 

『友情を超え、そして愛情へと変わった君の想いや執念は、ますます深くなって行ったね』

 

 

しかしここで一つの異変が起きる。

 

 

『それこそが手塚海之の存在だった』

 

 

キュゥべえは無表情でほむらに言葉をぶつけていく。

その目で見られると、全てを見透かされた気がして気分が悪かった。

 

 

『暁美ほむら。君はこの短い期間で、彼に淡い恋心を抱いたんじゃないかい?』

 

 

時期で言えば浅倉を殺した辺りか?

キュゥべえの口からは、普段彼が言わない様な珍しい言葉が羅列されていく。

 

 

「ずいぶんと妄想のストーリーが好きなのね。くだらないわ」

 

『感情と言うのは電気信号によって端的な観測を許されている。そしてボクはそれを確認したよ?』

 

 

一般的なカップルが、恋人と手を握ったりキスをした時に発せられる波長の形。

心臓の鼓動のリズム、数値やメーターとなって表せる感情ならば、キュゥべえ達にも理解できる物だった。

 

 

『そして君が手塚海之といた時に、ごくまれに発生した電気信号を解析すると――』

 

「もういい、さっさと話を続けて」

 

『………』

 

 

だったらと話を再開するキュゥべえ。

この短い期間で恋心を抱いたほむらだが、それを否定したのは他でもない彼女自身だ。

暁美ほむらの感情を、暁美ほむら自身が否定したのだ。

 

 

『君は怖かったんだろうね。鹿目まどかに対する想いと並ぶ感情が浮かぶのを』

 

「馬鹿な。ありえない」

 

『それはそうだ。あれだけの時を経て存在を許された愛が、たった七日にも満たない時間で生まれた感情と天秤がつりあうなんて』

 

 

ほむらは思ったろう。

そんな筈は無いと、否定の言葉を。

 

 

『彼女への想いが、その程度だと思ってしまう事を』

 

「………」

 

 

ほむらは盾から銃を引き抜いて一発撃ってみる。

黙らせる目的だ。当然銃弾はキュゥべえの眉間を打ち抜いて絶命させるが――

 

 

『言葉を投げたくらいでボクを殺すなんて、やはり愛と言う感情は人を変えるね』

 

「!」

 

『普段の君なら、こんな挑発にもならない様な言葉に怒りを感じる事は無かっただろう?』

 

 

もう一度深いため息をつく。背後には新たなるキュゥべえが存在していた。

キュゥべえ自論を展開していった、彼にしては珍しい程に饒舌である。

 

 

『君は手塚海之への愛を覚えながら、その愛を確かな物とする事に恐怖し、怯えた』

 

 

なんと滑稽な話か。ほむらは自分の心に嘘をつく。

手塚への愛は無いと言い聞かせ、全ての愛を鹿目まどかへと向ける為に。

中途半端に迷い、愛を覚えてしまったほむらは、キュゥべえに理解できない行動を次々にとっていた。

 

所詮はまだ不安定な中学生の心が故か。

感情の起伏の上下を確認するのは、随分と興味深かったとキュゥべえは言う。

 

 

『君が見ていた小説を、ボクも確認させてもらったよ』

 

 

ほむらは小説の主人公に自分を重ね、そして幸福を求めた。

そこに必要だったアイテムと言う『愛』を求め、手塚に偽りの愛を強いた。

 

 

『小説には書いてあったね。愛されたから、愛したから、幸せになったと』

 

「………」

 

『ボク達にはよく分からなかったけど、君はその文に自分の欲望を重ねたんじゃないだろうか?』

 

 

キュゥべえのその言葉に、ほむらは大きく表情を歪めた。

次に発せられる言葉を悟ったのだ。

 

 

『暁美ほむら、君は愛を否定する一方で――』

 

「……ッッ」

 

『本当は、誰よりも愛されたかったんじゃないかい?』

 

 

鹿目まどかに向ける愛は、悲しいほどに一方通行だ。

それはちゃんとした理由があるとは言え、ほむらは何時までも報われる事の無い愛に次第に心を壊されていった。

 

 

『愛は己の心を蝕む毒ともなる。興味深いね』

 

「―――れ」

 

『愛すれど愛されない、それは君にとって身を削られる程辛かった事なんだ』

 

「――まれ」

 

『そして、そこで手塚と出会う。君も所詮は人間。吊り橋効果と言う物を知っているかい?』

 

 

キュゥべえは無表情だが、ほむらには笑っている様にしか見えなかった。

キュゥべえはほむらの心拍数、興奮のレベルを観測していた。故に思う。

 

 

『手塚と過ごす危機的な状況下。彼は優しかったね』

 

「黙れ!」

 

『いつからか君は死への恐怖。他者を殺す時の興奮。次が無いと言う焦りから生まれる心臓の動悸や感覚、心拍数の上昇を恋慕のそれと履き違えた』

 

 

加えて手塚の優しさを、愛される事へ昇華できるのではないかと思ってしまった。

手塚は全てを受け入れてくれると感じ、そこに安らぎを見出してしまった。

 

 

『キミの狂った歯車は、そのまま本物の愛を作り出したんだ』

 

 

淡い恋が明確な愛に変わったタイミングは、手塚の過去を聞いた辺り。

 

 

『そこで暁美ほむらは、本当に手塚海之を愛してしまった』

 

「黙って……」

 

 

膝をつくほむら。

全身からは力が抜けていく、溢れる虚しさが酷い。

 

 

『君は自分が信じられなかった』

 

 

偽りのデート。偽りの口付け。

それらは一瞬で終わる『偽りの愛』だとすり込ませて、自分を必死に騙そうとした。

全ては鹿目まどかへ対する想いこそが最上であると言う事を証明する為に。

 

 

『キミには悪いが、愚かだと言わざるを得ないね』

 

 

ほむらは一番大事なことを勘違いしているのだから。

 

 

『キミの鹿目まどかに対する想いは凄まじく強い。それは認めよう』

 

 

しかし結局はそれは、友情を超越した段階でしかない。

ほむらは愛を履き違え、異性に対する愛をまどかに持ったと思った。

 

だが違う、それは大きな間違いだ。

キュゥべえは愛と言う言葉には、様々な意味があると理解している。

たとえば家族へ対する愛と、恋人に対する愛が大きく違うように。

 

 

『君はいつからか、愛と言うものを全て一くくりにしていたね』

 

 

ユウリを鹿目まどかと勘違いした状態での口付け。そして手塚海之に求めた口づけ。

君の心のあり方は似ている様で大きく違っていた。

前者は安心を求め、後者は愛を――

 

 

「もう、いいわ。もう十分よ」

 

『……そうかい』

 

「でも彼は私を愛さなかった。それが、救いなの」

 

 

それでいい、ほむらは少しだけ笑う。

しかしそれは違うとキュゥべえは分かっていた。

 

手塚もまたほむらを愛していたのだ。

しかし両者はそれを認めずに否定する。

 

手塚はほむらの為に、ほむらの苦しみを理解して否定した。

ほむらは自分自身、そしてまどかの為に否定した。

同じ想いを抱えながらも、二人は自分の心に嘘をついて認めなかった。

認めようとはしなかったのだ。

 

 

『滑稽を通り越して、哀れだ』

 

 

そしてキュゥべえは最後の質問だと言って、ほむらに話しかける。

 

 

『仮にの話でいい。もしも手塚が本当にキミを愛していたのならどう思ったか?』

 

 

要するに両想いならば、何を思うのかだ。

尚、鹿目まどかの為に愛を否定するのか?

それとも幸福が芽生える可能性に手を伸ばすのか? キュゥべえはそれが気になってしまう。

 

 

「そうね。彼がもしも私に好意を持ってくれたのなら」

 

 

ほむらは笑った。

喜びも悲しみも、全てがその笑顔にあった。

 

 

「残念だけど、断るわ」

 

『………』

 

「私、他に好きな人がいるから」

 

 

手塚海之と暁美ほむら、嘘つきの心は分からないな。

キュゥべえはその瞬間に確信する。やはり愛とは最も難解で、最も興味深い感情だと言う事を。

人は愛に狂い、愛に救われ、愛に希望と絶望を見出している。

 

 

「キュゥべえ、お願いがあるの」

 

『?』

 

「少し、一人にしてもらえないかしら」

 

『いいよ。再構築のやり方は頭に送っておくから、好きにすると良い』

 

 

そう言ってキュゥべえは消える。

一人残されたほむら、辺りには何の音も無かった。

彼女にとっては、それが心地良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

どれだけの時間が流れたろう?

ほむらは無の時間、無の空間で自分の想いに触れた。

そして手に持っていた拳銃を自分のこめかみに押し当てる。

手塚が最後にとった行動と同じ。そして呟くのは大切な人の名前。

 

 

手塚(まどか)……」

 

 

おかしな物だ、言葉すらも彼女の思いを隠すのか。

ほむらはその引き金に指を置いて――、直後、銃を頭から離す。

 

 

「………」

 

 

もう一度銃を構えて引き金を引くのか。

それとも銃を投げ捨てるのか? 全てはほむらの自由だ。

しかし彼女が取った行動はその二つではなく、涙を流す事だった。

 

 

「ねえ、私はあなたのことが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うーん、やっぱり人間の考える事は理解できないね』

 

『本当だぜ先輩、愛ってのは面倒だな!』

 

 

あの二人は愛し合い、なのに愛を知らなかった。

お互いを傷つけない為に、お互いを傷つけて愛が無いと、言葉の裏に愛を込めた。

本当に意味が分からない。かとも思えば初めには本当に一片の愛も無かったんだろう?

 

 

『あいつら、お互いの気持ちを知っても嘘をつき続けただろうよ』

 

 

もしもお互いがお互いを愛せば、彼らは今頃笑いあう事ができていたのだろうか?

 

 

『しかしそれが二人の望む結果だ。愛を覚えてしまった為に、二人はより苦痛の道を選んだ』

 

 

愛は素晴らしいと言っている人間に、あの二人を是非見てもらいたいとキュゥべえ達は思う。

出会わなければ良かったのか? 愛を知ったが故に苦しみを覚えた二人など。

 

 

『愚かだ』

 

 

そこには愛があったのに、幸せになれなかった。

 

 

『だからあいつ等は選ばれたのさ』

 

 

愚か者共のゲーム、FOOLS,GAMEにな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FOOLS,GAME  LIAR・HEARTS

 

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

コツコツと背後から足音が聞こえた。

何も無い空間なのに、何も誰もいない筈なのに、音はしっかりと聞こえた。

幻聴だろうか? 振り返らず、何を考える訳でもなく音が近づくのを待っていた。

 

 

「貴女の名前、教えて?」

 

 

これは夢?

 

 

「暁美……、ほむら」

 

 

ぼんやりとした思考の中で問いかけに答える。

そして次の瞬間、聞こえたのは風を切る音と――

 

 

 

 

自らの首を跳ね飛ばす、肉のちぎれた音だった。

 

 

「………」

 

 

ドサリと音を立てて転がる首。

それを一人の少女が血まみれの状態で見つめている。

 

 

『やってくれたね』

 

「……インキュベーター」

 

 

キュゥべえは目の前で燃えていくほむらの死体を見て目を閉じる。

 

 

『これはとんだイレギュラーがいたものだ』

 

 

世界が終わり、無になった空間に何故少女は存在を許されているんだろう?

 

 

「ずっとこの時を待っていた。一人目は早すぎたけど」

 

 

チリンと鈴の音が世界に広がっていく。

 

 

『一人目……?』

 

「答える義理は無い」

 

 

しかしそのヒントだけで十分だった。

キュゥべえはずっと感じていた違和感の正体に気づく。

なぜ『彼女』だけがイレギュラーだったのか。何故『彼女』にずっと違和感を感じていたのか。

 

 

『成る程。キミの正体が何なのか、理解する事ができたよ』

 

「!」

 

 

流石に意外だったのか、少女はその紅い目でキュゥべえを睨む。

そして背後から聞こえる笑い声。少女は剣を構えて振り返る。

するとそこには三日月のように口を吊り上げたジュゥべえがいた。

 

 

『宇宙の使者であるインキュベーターをナメるなよ』

 

「――ッ」

 

『オイラ達は全ての記憶を共有する。たとえそれが――』

 

 

たとえそれが【   】であったとしても。

時間はかかるし、それでも不安定な要素は多い。

共有と言ってもイレギュラーに関しては、今みたく全てが分かる訳ではない。

だが理解する事と、予想する事はできる。

 

 

『それに、コチラにはそれを知りうる力もある』

 

『へへ、そう言う事だぜ? 天乃(あまの)鈴音(すずね)ぇ』

 

 

銀髪の少女、鈴音は自分の名前を言い当てられた事に驚愕の表情を浮かべた。

それを見てニヤリと笑うジュゥべえ。どうやら本当に彼女が鈴音だったみたいだ。

実のところ、候補にあった名前を適当に言っただけ。

だが少しハッタリを掛けたら見事に引っ掛かってくれた、チョロイもんである。

 

 

『しかしやってくれたね、ココでほむらを殺されるのはビックリしたよ』

 

「全て終わらせる為、最後の参加者である暁美ほむらさえ死ねば――!」

 

 

その時だった。鈴音の左腕が消え去ったのは。

 

 

「!?」

 

『まあ、暁美ほむらに面倒な事をされるくらいならコレでいいのかな?』

 

『ヒヒヒ、そうだぜ先輩! むしろコレは助かったってもんだ。面倒な手間が省けてラッキーさ』

 

 

鈴音に構わず会話を続ける妖精達。鈴音は歯を食いしばって足を踏み出した。

そして、そこで今度は右腕が吹き飛んだ。これは物理的な攻撃ではない、文字通りの消滅である。

持っていた炎の剣が音を立てて地面へ落ちた。

 

 

『無駄だよ鈴音。君はゲームには勝てない』

 

『テメェが魔法少女である限りはな』

 

「!!」

 

 

右足が消える。

鈴音はバランスを失って倒れてしまう。

ジュゥべえはケラケラと笑い声を浴びせていた。

 

 

『狙いは悪くなかった!』

 

 

暁美ほむらを殺された時は少しだけヒヤリとしたものだ。

 

 

『だが、結局意味なんてないんだよな。これはチュートリアルだぜ?』

 

「な……っ!」

 

『相方さんにも期待はできないんじゃないかな。もう全ての歯車は狂ったまま噛み合ったんだから』

 

 

左足が消える。

両手両足を失った鈴音に、もうできる事など何も無かった。

"彼女"は知らない、知らないものは存在しない。

だから消え去る。それは死ではなく元いた場所へ。

 

舌打ちを放つ鈴音。

何が天使様だ、やはりコイツらは悪魔としか思えない。

 

 

『人間風情が、理に勝つなんて不可能だろ』

 

『君は"忘れる"存在にすら値しないね。つまり可能性すら無いのさ』

 

 

徐々に下から消滅していく鈴音。悔しそうに二匹を睨みながら敗北を核心する。

どうやら自分の抵抗は無駄だった様だ。しかしこのゲームを見ていた彼女は、ただ一つの希望を見ていたのも事実。

 

 

「彼方達こそ、人間をナメない方がいい」

 

『負け惜しみかい?』

 

『おいおいおい! たかが猿の進化系が奇跡を起こせるとでも?』

 

 

などとジュゥべえは笑うが、キュゥべえは成る程と頷く。

 

 

『まあ猿だって道具を使う技術には長けていたからね』

 

 

それになにより、このゲームで理解した。

 

 

『人間は本当に恐ろしいよ。愛が絡むと特にね』

 

 

愛は人を神にも悪魔にも変える最強の武器と言えよう。

 

 

『知っているかい? 愛が原因で人を殺す事もあるんだ』

 

 

世界には愛し合ってはいけない種族達もいるらしい。

なのにいつも人間は愛しあい、最悪殺されてしまう。

一方で愛を原因に努力を惜しまない人間や、愛が原因で友情が壊れるなどと言う事例だってある。

 

 

『愛は理を破壊する最強の武器だ。そしてその愛は、人間が一番うまく使える』

 

 

まあしかし、それができないからこうなった。

人は愚かだからF・Gの名前が決まった。無駄だったんだ、何もかも全部。

 

 

『君たちも、もう理解したほうが良い』

 

『そうそう、無駄なんだよ――』

 

 

ジュゥべえが言った台詞と同時に、鈴音は完全な消滅を遂げる事となる。

 

 

『あばよ、プレイアデス!』

 

「――っ」

 

 

何もいなくなった。

世界には何も残らなかった。

それは終わり? いや違う、始まりは何も無かっただろう。

 

 

これは、始まりだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

いけない、寝ていたか。彼は首を振ると立ち上がって体を伸ばした。

まさかこんな所で眠る事になるなんて。どうしてだろう? 別に疲れてはいない筈だが。

 

それにとても長い夢を見た。

なのに内容を覚えていないとはコレはどういう事だ?

ただ一つだけ何故か異様に胸が苦しい。ぽっかりと穴があいた様な、変な気分だ。

 

 

「やれやれ、もう行くか」

 

 

本当にどうして寝てしまったのやら。

そんな事を考えていたからだろうか、誰かとぶつかってしまった。

少し年齢が下の少女。中学生くらいか? 別にどうでもいい、軽く謝罪をして歩き出す。

 

 

「ちょっと、そこの貴方」

 

「?」

 

 

 

少年は振り返ると思わず息を呑んだ。

目の前にはナイフの様な瞳で自分を睨みつけている少女がいるのだ。

その鬼気迫る表情は普通じゃない。どこか狂気すら感じられる。一目で分かる、この女は普通じゃないと。

そんな少女に声を掛けられる状況、何がどうなっているのやら。

 

 

「一応謝罪はしたが、聞こえなかったのなら謝る」

 

「そんな事はどうでもいいわ。それより、少し話を聞かせてくれないかしら?」

 

 

なんなんだこの女は――。少年は眉をひそめて後ずさる。

確実に初対面の相手。なのに、なんて大きな態度を取ってくるんだと。

関わってはいけない気がする。少年は適当に少女をあしらって逃げる事を決めた。

 

 

「悪いが……」

 

 

だがそこで少年は言葉を止めた。何か、この少女から感じるもの。

そして、以前にジュゥべえ告げられた情報が身体を駆け巡る。

 

 

『騎士であるお前の前には、やがて魔法少女のパートナーが現れるぜ。多分一目で分かる。オイラが言うんだ。間違いないね』

 

「お前――ッ」

 

 

そうか、そう言う事なんだな。

少年は目の前にいる少女へむかって手を差し出した。

この胸を駆ける想いは何なのか分からない。

 

ただ彼女を見た瞬間、何故か泣きそうになった。

そしてすぐにその感情さえも消えた。

だがココまで他人に何かを――、言ってみれば『運命』を感じた事は無い。

尚も自分を睨みつけている少女へ、少年はたった一言投げかける。

 

 

「お前が俺の……、パートナーか」

 

「ッ?」

 

 

戸惑う少女。

そんな彼女を遠くから見つめる『目』が。

 

 

『やっとクソ長い戦いを終わらせられるんだよな先輩ぃ? オイラわくわくするぜぇ!』

 

『そうだね。彼女の力に制約がかかった。おそらくこれが彼女にとって、ボク達にとって最後の戦いになるだろう』

 

 

同時に、それは"最初"の戦いともなる。

全ては愚かな歯車が紡ぐ戯曲、忘却、そして絶望!

 

 

『さあ今度こそ全てを終わりにさせてもらうよ』

 

 

二つの影は何も表情を変える事なく、そのまま姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

 









この番外編では手塚×ほむらになりましたが、あくまでもそれは番外編の設定でございます。本編では、ならないかもしれませぬ。

あくまでもパラレルって事でね。
ええ、ひとつよろしくお願いします(´・ω・)
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