仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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とある人物の過去。
熱風riderをイメージしました。
本編70話を見る前にご覧ください


次の10年

 

 

 

夢を見た。随分とまあ懐かしい夢だった。アレは俺が幼稚園の時の景色だったな。

思い出すよ、先生がすっげぇ綺麗だったんだよ、うん。

ありゃあ俺の初恋って言っても良かったかもしれねぇ。

 

 

「将来の夢は?」

 

 

そう聞かれた時、俺はなんて答えたんだっけ?

ああそう、確か――

 

 

「マスクマンか宇宙飛行士!」

 

 

まああれだ、マスクマンってのは俺が昔見てたヒーローだな。

あとは宇宙飛行士か。まあ昔の夢なんてこんなモンだろ?

でも俺はそれを叶えられると本気で思ってた。

だれだってそうだ。それになりたくて言ってる訳だからな。

先生だって否定はしない。当然か、そんなモンなれる訳ねーだろなんて言っちゃあ、モンペじゃなくても苦情殺到モンよ。

 

でもあれだな。

人間10年単位で数えると中々面白いモンで、俺が10歳になる頃には今言った二つの夢なんて頭から消えてたぜ。

10を一つのサイクルと数えるならば、人間だいたい生きても8か9であの世逝きだろ?

んで、そのワンサイクル。10年もあれば、その間にかなりの成長って奴が望める。

 

まだまだガキだったけど、俺はかなりの事を学習したぜ?

マスクマンの中にはおっさんが入ってた事も知った。

宇宙飛行士は英語を初めとした学業が優秀じゃないと駄目って知った時には、諦めもすぐだった。

 

だけれど、ショックではなかったな。

所詮はその程度の夢だ。別にこれが挫折とも思わんし、ましてや記憶から消えてたんだから、どうって事は無い。

誰もが通る道。ただそれだけの話だろ。

でも次の10年で俺は本当になりたい物を見つけた。

この10年は俺にとって大きな経験の連続だったな。

と言うより、ほぼ全ての人間にとってと言っても過言じゃねぇだろ。

 

まあ自分で言うのも何だが、小中高とそこそこうまく行ったもんで、それなりに人生を楽しく謳歌してた筈だ。

取り合えず通信簿にはクラスの中心人物ですなんて書かれてた訳だしな。

まあ男なんざ適当に下ネタ言っておけばなんとかなったんだよ。

 

ただ良い事ばかりでも無かったけどよ。

中学時代初めてできた彼女は、付き合って二日目で、俺より顔と頭が良い奴が好きになったって言ってフッてきたし。

中学校まで親友だの何だと言ってた友達は、高校が別になった途端、連絡も途絶えたしな。

結局そう言うのが続いちまて。今じゃ友人と言える奴は二人いれば良い所さ。

 

まあでも、一番の収穫と言えば。なりたい物が見つかったって事じゃないだろうか。

カッコつければ夢が見つかったってヤツだな。

この世の中、何人の人間がなりたい物を見つけられた?

おそらく俺達が思っている以上に少ない筈だ。

 

だってみんな分かっちまう。

たかが20歳って言うまだまだガキの分際で俺も分かった。

社会の仕組みをある程度まで分かっちまうんだ。

 

世界は自分を中心に回っている訳が無い。

人生の主役は自分である事は間違い無いのかもしれないが、主役って言っても誰かを引き立たせる存在って場合もある。

漫画でもそうだろ? 主人公よりライバルキャラの方が人気あるってのはお約束だ。

 

生まれもった才能。容姿。環境。

多くの差を生きている内に分かっちまうんだもんな。

努力は俺を裏切るし、夢の方が俺を見限る場合もある。

 

知る事や、知識を身につける事は良い事ではあるに違いないけど、それがなんだか寂しい想いを心に宿す。

そうだよな、サンタは親だし、憧れてたヒーローは撮影が終われば悪役と飲みにも行く。

宇宙飛行士は俺が思っている以上に難しい職業だったし、人間皆が結婚して幸せな家庭を作れるとは限らない。

この間もほら、どっかのお嫁さんが旦那に殴られてぽっくりよ。

 

まあでも、そんな中で、俺はやっとこそさ将来の目標ってのを見出す事ができたんだ。

周りの奴らが進路に悩んでいる時に、俺は調査用紙にパッパと書いて提出さ。

他の奴らをその時点で追い抜いた気がして、なんだかその時は凄く気分が良かった。

んで、次の10年が始まって、俺は明るい未来ってヤツを思い描いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざけんなよカス! 取材行って来いって言っただろうが!!」

 

「す、すいません……。でも、流石に娘さんに話をってのはちょっと」

 

「アホかお前は! 学校帰りに直撃すりゃあいいだけの話だろうがよッ!」

 

「やッ、ですからそういう問題じゃ!」

 

「うるせぇ! とにかく明後日までに原稿用意しとかねぇと殺すからな!!」

 

「………」

 

 

俺は怒号に耐えて、つまらなさそうな表情で自分のデスクに戻った事だろう。

俺は記者に、ジャーナリストになりたくて頑張ってきたつもりだ。

大学にも行ったし、色々な知識だって身につけたつもりだった。

それなのに入れると信じて疑わなかった大手新聞社に落ちた時、俺の中で何かが崩れちまったのかもしれない。

 

まあでも考えてみりゃ当然の話だったのかもしれないな。

俺の周りには俺よりも優秀な奴が山ほどいた。ポンコツよりだった事は否定できねぇ。

とは言え、俺には軽い自信があったんだよ。

よく言うだろ? 勉強ができるだけじゃ社会は生きていけねぇってさ。

 

まさにそれだよ、俺は多少なりとも輪の中で生きていくために必要な空気を読む技術や、他の話術なんかは勉強してきたはずだ。

でもよ、当たり前だけど周りだってそんな事分かってる。

だから他の奴だってそういった世の中を生き抜く処世術は学んでる訳さ。

要するに勉強以外ができる俺の周りには、勉強も他の事もできる奴らばっかだったって訳だ。

そんなモン俺が落ちるに決まってるわな。何の事はない、当たり前の事だったのさ。

 

そこそこ今までがうまく行ってただけに俺に降りかかる落差もそれなりだった。

いや、もしかしたら勘違いしてただけだったのかもしれない。

思えば本当にうまく行ってたのは中学の途中くらいまでで、あとは……。

 

 

とにかく。

俺は志望していた場所に入れず。そのショックからダラダラと何もしない日が続いちまった。

そうしている間に、俺と同じように落っこちた奴らが次々に行動に出て、俺が次に申し込もうと思っていた場所に入っちまう。

そうするとなると必然的に入れる場所は限られるわけだ。

 

まあもっと広い目で見たら色々な場所はあったのかもしれないが、俺自身拘りは色々とあった訳で、プラス焦りだってあったしな。

ましてやジャーナリストの道を諦めるってのは論外だった。

どんなに腐っても俺の夢だったからな。

 

逆を言えば――、それしか無かったんだよ、俺には。

ろくにジャーナリストって職業がどんなものかも知らず。

ただカッコよさを求めていた俺は、今まで記者になる為だけに学校に行ってた。

それを諦めれば今までの事が無かった事になって、俺が空っぽになっちまう気がしたんだ。

笑える話だぜ。他人を追い抜いた気分になってた俺が、いつの間にか他人に置いていかれてたんだから。

 

 

「………」

 

 

それで結局、流れに流れて俺はこの場所にいる。

とある週刊誌の記者として俺は働いているんだよ。

このご時世、仕事があるだけでマシってなモンだ。

おまけに夢だったジャーナリストにもなれたんだし、言う事は無かった。

 

 

「……クソ!」

 

 

なんて、自分に言い訳している毎日だ。

俺は目の前にある書きかけの原稿を見ながらつくづくそう思った。

この雑誌、ハッキリ言わなくても分かる。低俗なゴシップばっかり特集して真実もクソもねぇ。

捏造記事だって平気で載せやがる雑誌だ。

ジャーナリストってのは真実を伝えるのが仕事だと俺は信じていた。

なのにある事ない事書かなきゃ怒鳴られるってのは屈辱だったよ。

 

ムカつくのはそれだけじゃない。こんな内容の物がそこそこ売れてるって事だ。

だから無くならない。だからエスカレートする。

それにこういった雑誌を盛り上げるネタは無くならないのは事実だしな。

 

今日も今日とて俺は有名芸能人の不倫問題だの、芸人がファン孕まして中絶させただの真偽不明の事件を追っている。

真実を明らかにする。何も間違ってはいないのに、俺の心にはいつだってモヤモヤとした気持ち悪い物が纏わり付いていた。

 

俺は今日これから、不倫問題が噂される俳優の娘にインタビューしにいくらしい。

学校が終わって帰る女の子に、キミの父親がお母さんじゃない女を抱いてました。どう思いますかって聞きに行くんだぜ?

 

それが終われば今度は別の案件だ。

中絶騒動で話題になっている芸人の母親に、お孫さんが生まれる前に死んだ事について詳しくインタビューよ。

 

あと、これが終われば他の人の記事を手伝う事になっている。

最近自殺した有名女優が薬物中毒かもしれないって書くんだよ。

葬式からまだ二週間も経ってないのに、俺は親御さんに「あなたの娘は薬物を使用していましたか?」「イカれてましたか?」って聞きに行くんだよな。

 

そうして俺はお金を稼ぐ。

こうして俺は社会に情報を与えていく。

何も間違ってない。疑いがあるからそれを突き詰める。

それは当然の事だ。

 

 

「………」

 

 

キーボードを打つ手が止まる。

ジャーナリストってカッコいい職業だよな?

 

 

「おい何してんだ! ボーっとしてるんならさっさと取材行けよクズッ!!」

 

 

編集長(じょうし)が投げたコーヒーの空き缶が俺の頭に当たる。

いてぇ、いてぇな、ちくしょう。

 

 

「すいません……」

 

 

あれ?

 

かっこいいか?

 

俺――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、なにしてんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはーッ!」

 

 

ダンと強く缶を置いたからか、中にあった液体が跳ね上がって俺の頬に掛かる。

舌打ちをしながら俺はティッシュを三枚ほど乱暴に掴むと、ゴシゴシと頬を痛いほど強く拭いていた。

 

あれから取材に行って来ると告げた俺は、迷わず車を飛ばして実家へ帰った。

両親には適当に言い訳をし、俺は自分の部屋に戻ると買って来た酒を浴びる様に飲む。

それはもう文字通り胃に酒を送り込むだけの作業だ。

飲む事を楽しむのではなく、酔う事だけを目的とした行為。

 

そうだ。俺は何もかも忘れたかった。

できる訳は無いのに、取り合えず記憶は無くしたかった。

明日や明後日の事なんて何も考えない。無断欠勤上等だ。

とにかく俺は何もかも忘れて酔いたかったんだろう。

 

だがそう簡単にはいかねぇもんさ。

酔おう酔おうと思う度、酒に貪り付く自分が客観的に映っちまう。

そしてやっぱり思うのさ。俺、今何してんだ? ってな。

 

いや、マジで聞きたかった。

俺は今、何をやっているんだ? 何をしているんだ? 俺には全く分からなかったんだよ。

自分が今、何をしているのか。

 

 

「………」

 

 

ふと周りを見渡してみる。

俺がガキの頃からずっと育ってきた自分の部屋だ。

心なしか狭くなったと思うのは、それだけ俺がデカくなったからだろう。

それだけ俺が置いた物が増えたからだろう。

 

ガキの頃に買ってもらったは良いが、それほど使っていなかった学習机の上には、卒業時にもらった寄せ書きの色紙が見えた。

千鳥足でそこまで行った俺は、書いてある内容を見てゲラゲラと笑い始める。

 

 

『素敵な記者になってください』

 

『書いた記事絶対読みます!』

 

『ジャーナリストってカッコいいですね。応援してます』

 

 

ありがたい話だよな。俺の夢を皆は応援してくれてたんだぜ。

俺ってこんなに応援されてたんだよな、それを思うと笑えてくる。ああ笑えてくるね。

俺は乾いた笑いを浮かべながらその色紙を叩き折ると部屋の隅へ投げつけた。

 

なあ、教えてくれよ。

今の俺は素敵なのか? 教えてくれよ、俺が前月書いた記事は読んでくれたか?

あれだ、有名アイドルが枕してるって証拠掴んだって言う、あの適当に塗れた記事の事だよ。

読んでくれてるよな、絶対読むって書いてあるもんな。

 

あともう一つ教えてくれよ、今の俺はカッコいいか?

俺はジャーナリストになれたんだ、記者になれたんだよ。

カッコいいか? カッコいいよな。

 

 

「………」

 

 

酒が多少回ってきてくれたらしい。

俺はフラつきながら後ろへ下がり、壁に倒れる様にもたれかかった。

そのまま下に座りこむ。そしたらなんだか背中に変な感触と音が。

なんだかやけに壁が滑る様な――?

 

 

「あ」

 

 

俺と壁の間には一枚のポスターがあった。ぼやけ始めた頭で絵柄を確認してみる。

そしたらお前、それは俺が昔ハマってた特撮ヒーローの物だったんだよな。

マスクマンって言うヒーローで。俺ら世代だったらそこそこ知名度はある筈だ。

 

主人公が悪党に拉致られて改造されちまうんだが、脳改造の手前で脱出してな。

それからは正義の心に目覚めて組織を裏切り、自分と同じ改造人間達と戦っていくんだよ。

バイク乗ったりしてカッコよくてな。

必殺キックで敵がブッ飛ぶ所なんて、やっぱ男なら痺れる物があるだろ?

 

 

「………」

 

 

今となっちゃあんま覚えてねぇが、懐かしさを覚えた俺は、取り合えず押入れの中を軽く探ってみた。そしたらやっぱあるんだよ。マスクマンのビデオだの変身ベルトだのが。

懐かしくなっちまってさ。もう何年も使ってねぇビデオデッキ引っ張り出して再生さ。

 

 

「おぉー……」

 

 

意外と映るもんだなアレ。

その事に軽く感動しつつ、結局ビールを飲みながら俺は画面をぼんやりと見ていた。

いやそれにしても昔は全然気にならなかったけどよ。モブがかなりの棒演技だったり、意外と危ないスタントやってたり。敵が爆発する場所が同じだったり。

大人になればなったで分かる面白さがあるもんだな。

 

そうそう、意外と有名な俳優とか出てたり。あ

とはまあなんだ30分でケリつけないといけねぇから多少展開が強引だったりとよ。

いい始めたらキリがねぇや。

 

 

「ははは」

 

 

酒も進んでたから普段なら笑わないシーンでもゲラゲラ笑っちまう。

だけどな、見入ってた故に刺さる言葉もある。

 

 

『言い訳はもうそろそろ止めたらどうだ?』

 

「………」

 

 

真顔になったな、あれはきっと。

霞んだ音声だったけど、深く突き刺さったよ。本当に痛いくらいに。

言い訳のつもりは無かったけど、正直言って逃げている自覚はあったからな。

 

酒を飲み続けた所でどうなる? 気分が高揚して嫌な事を忘れられるのは一瞬だ。

結局はまたいつもの日々に戻るだけだし。むしろ無断欠勤を決め込もうとしている俺には倍以上の苦痛が降りかかってくるんだろうって自覚はあった。

 

いいんだよ、適当で。

適当に書いて出せばそれでいいんだ。どうせそういう雑誌さ、俺だって噂話は嫌いじゃない。

だから別に気に病む必要は無かったはずだ。人には生まれ以ってして与えられた役割があるんだろう。

俺は人が喜ぶ、『他人の不幸話』を文字にして紙に打ち込めばいいだけの話じゃねぇか。

 

 

「―――ッ」

 

 

でも駄目だったんだ。

俺はキーボードを打つって言う簡単な――、それこそ小学生でもできる事ができなかった。

なんかこう、きっと俺は『何か』になりたかったんだと思う。

漠然とした未来の中で確固たる自分を持ちたかった。

だから何だって良い、何かをできる、何かを残せる自分でありたかった。

 

記者になりたいって思ったのは別に特別な事じゃない。

ただテレビかなんかで真実を明らかにする仕事だとかなんとか書いてあったのにカッコよさを見出しただけだ。

 

 

そうだ、俺はカッコよくなりたかったんだ。

 

 

でも今の自分はかっこいいのか? それが疑問に思えて仕方ない。

それに仕事ってのは自分が中心な訳じゃない、俺はただ歯車の一部でしか無いわけだ。

特別な存在でもなんでもない、機械で言うなれば全体を構成するパーツの一部でしか無い訳だ。

――って言うのを口にしている一方で、俺はそう思いたくはなかったのだろうと思うな。

やっぱり胸を張れる自分でありたいと思うのは当然だろう? けどな、そんな事を思っている内に随分と時間が経っちまった。

 

今がそうだ、それを証明してやがる。

解決できない問題が毎日山積みだ、目を背けてたら上司《マグマ》が騒ぎ出すのが分かる。

でも解決できないんだよ、したくてもな。俺もソレを受け入れちまった、でも爆発するカウントダウンが始まってんのはヒシヒシと伝わってくる。

だから必死こいて戦うのさ、毎日。でもな、でもな、どうしても駄目なんだよ。結局何もできずにタイムアウトだ。

 

これが何もしないのか、できないのか、俺にも正直わかんねぇ。

なあ、どこで俺は間違えた? どこで俺はこんなにポンコツになっちまった?

ああ、もしかしたら初めから俺はどうしようもなかったのかもな。

 

今までは言い訳してただけだ。

自分を騙してただけなのかもしれない。

俺はきっとカッコよくなれるって妄想してただけなのかもしれない。

 

世の中は俺が思ってる程ストーリーじみてる訳じゃない。

地味な毎日を生きると言う事に俺は希望を持ち過ぎていたのかもしれない。

考えれば考えるほど分かってきちまう。

俺は俺を騙してきただけだ。もう俺だって本当は分かっている。

 

今の俺は自分の仕事を汚いと思っている。そんな自分を美化しているだけだ。

辞めてねぇのが何よりもの証拠じゃねぇか、今まで散々落とされてきたんだ。

今更、他のところにいける訳がねぇ。行けると自分が思ってねぇ。

だから自分は汚くねぇと必死に自分に言い訳しながら仕事してる。

 

他の奴らとは違うんだと思う事で自分を保持してるだけだ。

記者になりたいって言う未練が俺を縛り、俺は俺を騙しに騙して毎日暮らしてる。

 

 

「………」

 

 

昔買って貰ったマスクマンの変身ベルトを試しに装着してみた。

と言っても、俺はもう大人だ。子供用のベルトは身に着けられない。

だからヘソの前に置いてそれで装着だ。

 

酔ってたんだろうな俺も。

本気にガキに戻りたかった。これをなんの疑いもなく身につけ、本気で変身できると思っていたあの頃に……。

 

 

「ひぇんしん!」

 

 

呂律が回ってねぇ声で叫んでスイッチを押してみる。

と言っても電池なんて当の昔に切れているんだから、何も起こらない。

でも俺は別にそんな事を気にする事も無く、当たり前の様に酒に手を伸ばす。

 

 

「………」

 

 

漠然とした中で分かる事もある。

俺はきっと夢を形にする事こそが夢だったんだろう。

でも、でもな、だったら"そこそこ"なら何処に行けばいいんだよ。

きっと押入れの中には10年後の自分へ、なんて手紙が探せば見つかるぞ。

なあ10年前の俺、今の俺はお前が描いてた自分で合ってるか?

 

もっと前の俺。

マスクマンになりたかった俺、聞こえているか?

聞こえてるなら教えてくれ、今の俺は俺が目指した俺なのか? かっこいい俺で間違いないのか?

正義の味方に憧れてたんだろ? 今の俺は正義の味方なのか? どうなんだよ。

 

分からない、俺は分からないんだよ。だから教えてくれ。

なんでもできると思ってた、なんでも叶うと思ってた。

キラキラした未来を描いていた俺、どうか教えてくれ。

 

 

「教えてくれよ――ッ!!」

 

 

空になったビールの缶をテレビに投げつける。なあ教えてくれ、教えてくれよマスクマン。

俺はアンタが好きだったんだ、アンタみたいになりたいと思っていたんだぜ?

こんな玩具で、作り物で本当にカッコいい正義の味方になれると思ってたんだ。

あの時は自分に正直だった、でも今は――

 

 

「教えてくれよマスクマン――!!」

 

 

俺は倒れ、天上を見上げて絞るように声を出していた。

苦しいなら、辛いならアンタが助けに来てくれるって信じていたんだ。

だからどうか教えてくれ、今の俺は一体何をしているんだ。

 

 

「アンタが羨ましいよ~!」

 

 

酔っ払った俺はテレビに向って本気で話しかけてたな。

ありゃそうとうヤバイ状態だったわ。初めてだ、あんなに飲んだのは。

とにかくとその時の俺はマスクマンに嫉妬してたんだ。

 

憎い奴がいれば必殺キックで殺せば終わりだもんな。

それで周りからはカッコいいと思われ、憎い奴ももういないんだから完璧だ。

現実はそうはいかない、俺が上司を刺し殺しでもすれば俺は檻の中だもんよ――……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は、君が羨ましいけどね』

 

「はぇ?」

 

 

そのときだった。

テレビの中にいるマスクマンが俺に声をかけたのは。

 

 

『君にはまだ、余裕があるじゃないか』

 

 

私にはそれが無い。

マスクマンは悲しい声で俺にそんな事を言ってきた。

余裕が無い? 俺が繰り返すと、彼はテレビの中で頷いた。

俺は言い訳しているかもしれない、逃げているかもしれない。

でも時には人生の中でそういう時間があってもいいじゃないかと、マスクマンは笑って言った。

 

 

『でも私にはソレが無い』

 

 

人を殺そうと企む悪が、世界を支配しようとする闇が確かにある。

それに対抗できる力を持つ自分は世界のために言い訳できない。

今更帰る事もできないとマスクマンはバイクを走らせながら俺に言う。

 

 

「俺だって同じだ」

 

『……そうか』

 

「逃げられやしねぇ。逃げたくてもどこに行けばいいのか分からない」

 

 

だから結局は道が無いのと同じなんだよ。

そう言うとまたマスクマンは笑った。

いや、仮面してるから顔は見えないけど確かに笑ったんだ。俺には分かる。

 

 

『じゃあ、私と一緒だ』

 

「ああ、そうだよ。そうですよ」

 

 

そしたらマスクマンは俺にまた話しかけた。

なんでも今から怪人を倒しに行くらしい。でも、正直しんどいんだとさ。

大変だね。

 

 

『教えてくれないか?』

 

「?」

 

『私はあと、何体倒せば良いんだい?』

 

 

あとどのくらい戦えばいいんだい? マスクマンの言葉に俺は言葉を失っちまった。

まだまだマスクマンは続くんだもんよ。

いや、と言うか今気づいたんだがマスクマンは途中で死んじまうんだよ。

昔の特撮って結構ハードな部分も多かっただろ? マスクマンは途中で死んで、二号が後を継ぐんだ。

 

俺は二号が好きだったし、つうかそもそもそこまでガキの頃は考えてなかったからそんなに悲しくは無かったけど。

それにまあ役者の都合って言う大人の事情とかもあったらしいしな。詳しくは知らないけど。

でも、そうだ。そしたら目の前にいるマスクマン一号はあと何回で――?

 

 

『私も、仲間も、誰も分からないんだ』

 

 

君もか?

俺は頷いた。

 

 

「俺だってわかんねぇよ、あとどれくらいで俺は解放されるんだ?」

 

 

何回クソみたいな記事書けば終わるんだよ。

あと何回俺は嘘を真実として報道し続けるんだよ。

教えてくれよ、誰か教えてくれ。俺がそう叫ぶとマスクマンはまた笑った。

 

 

『一緒だな』

 

「ああ、一緒だな」

 

 

あ、思い出した。

この巻だ、この巻のラストでマスクマン一号は死ぬんだ。

 

 

『意味があるのか、分からなくなる』

 

「え……?」

 

 

マスクマンは言ったんだ。彼は敵が出てからじゃないと、敵と戦えない。

いつも、いつだって待ちの姿勢さ。敵のところに駆けつけた時にはだいたいタイムアウトで、毎回誰かしら怪人の力を示すために犠牲になってる。

そうやって仲間も死んだ。その亡骸を抱えながら彼は叫び、思ったんだと。

 

 

『私の人生に、意味はあるのか?』

 

「………」

 

 

俺は分からないと言った。

それだけじゃなく――

 

 

「俺も同じだ」

 

『そうか……』

 

 

分からないんだよ、俺の人生に意味があるのか無いのか。

10年前にはキラキラ輝いていた俺の人生って奴は、今たぶんドロドロのグチャグチャだ。

そんな汚ねぇモン抱えてこれからを歩む意味ってあるのか?

 

 

『そうだな――』

 

 

その時、マスクマンが変身を解除した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、俺だった。

 

 

『敵が来た』

 

「あぁ」

 

 

マスクマンはベルトを装着させて変身する。

敵と殴りあうマスクマン、その中で俺を見て言葉を放つ。

 

 

『終わらないんだ、戦いが』

 

 

毎週毎週怪人がやってくる。それも一体ずつ。

倒しても倒しても次の週には新しい奴がやってくる。

あと何体だ、あと何体倒せば終わるんだ。彼はそう叫びながら敵を殴ってた。

 

 

「俺も分からない、俺も知らない、俺も同じだ」

 

 

終わり無き野望があって。終わり無き日々がある。

マスクマンは敵にボコボコにされていた。でも隙を見て必殺キック。敵は爆発して戦いは終わりだ。

終わり? いや、違うんだよな。まだ続く。まだまだ続く。

いつ終わるのか、いつになれば救われるのか分からない。

 

そしてまた次の週には戦うんだ。

次は何かを失うかもしれない、守れないかもしれない、死ぬかもしれない。

そんな想いを抱きながら次の週を待つんだ。

 

 

『教えてくれないか?』

 

 

俺の名前を呼ぶマスクマン。

 

 

『疲れ果てたら、休んでもいいかい?』

 

 

―――。

 

 

『俺は、疲れたよ』

 

 

マスクマンはボロボロだった。

殴られ、蹴られ、殺されかけたんだ。泥だらけだった、鎧は傷だらけだった。

痛いんだ、苦しいんだ、辛いんだ。なによりも――

 

 

疲れてしまったんだ。

 

 

マスクマンはテレビが好きだった俺達を見て、確かにそう言った。

 

 

「俺も――」

 

 

俺も。

 

 

「俺も、疲れた」

 

『そうか、同じだな』

 

 

だったら――。

 

 

『休んでも、良いよ』

 

「――ッ」

 

 

俺はそう、お礼を言ったんだよ。

だからマスクマンも休めばいいって。俺がそう言うと彼は首を横に振る。

縦にじゃない、横にだ。不思議だったよ俺は。理由をすぐに聞いた。俺は何がなんでもその理由を知りたかったのかもしれない。

そしたら彼はこう言ったんだよ。いや、何、すっげぇ当たり前の理由だった。

 

 

『敵が、そこにいるんだ』

 

 

マスクマンの前には画面を埋め尽くす程の敵がいた。怪人がいた。

いつも俺を怒鳴り散らす上司、色々諦めきっている同僚、雑誌を出そうと思った関係者。

まだだ、まだいっぱいいる。雑誌を買う連中、ネタを提供する有名人共。雑誌の会社の社長。

 

 

『変身しないといけないんだ』

 

「………」

 

 

この戦いでマスクマンは死ぬ。

彼は知っているのか。知っていたら、どうするのか。

 

 

『変わらないと、いけないんだ……!』

 

 

俺は、どうするんだ。

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオ!!』

 

 

走り出すマスクマン。前には無数の敵だ。

あれを倒せば終わるのか? いや、きっと終わらない。

だったらなんで戦うんだ。なんで立ち向かうんだ。

待って――

 

 

「待ってくれ!」

 

 

置いていかないでくれ!

教えてくれ、どうして戦うんだ。どうして戦わないといけないんだ!

俺は叫んだ。叫び続けたよ。でも彼が止まる事は無かった。

そしたらな。なんかふと……、思っちまったんだよ。

 

置いて行かれた気がしたんだ、昔の自分に。

世の中がピカピカ光って見えた、いや、俺自身目がキラキラ輝いていたあの時代に。

その時だよ、俺は始めて駄目だとハッキリ声を上げた。

あれだけは、昔の俺にだけは置いていかれちゃいけないって思った。

プラス――、そう言えばって思ったな。いつからだろう、最後に何かと戦ったのは。

 

 

「――ッ、ちッきしョォオオオォォオオッッ」

 

 

気が付けば俺はテレビの中に入ってた。

まだ何もかもが光って見えた時に買って貰った、マスクマンが使う剣の玩具を持って、アイツの背中を追いかけてた。

でも前が霞んでよく見えなかったのを俺は覚えてる。

 

気がつけば涙がボロボロ零れてた。

俺は泣いてたんだよ。ガチ泣きだ、男泣きってヤツだ。

理由は――、まあそうだな、分かってた部分もあったし分かってなかった部分もあった。

 

ただなんとなく目の前にある悪の力に怯んでたのかもな。

そしてその中でマスクマンと一緒に戦う事に、俺は泣いていたんだろう。

変身したいんだよ、人間は誰だって。でも変えられないから苦しいんだよ。

あともう一つ、たまらなく悔しかったんだ。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

とにかく、ただひたすらに俺は叫んだ。なんで叫んだのかは分からない。

ただ胸にあるクソみたいな想いを全て吹き飛ばす様に俺は喉が枯れるほどに強く、強く強く強く強く叫んだ。

 

目の前には武器をふるってくるアホ上司の姿が。

だから俺は涙をボロボロと零しながらソイツを力の限り殴った。

向こうだって俺を殴ってくる。いてぇよ、最高に痛ぇんだ。口中に鉄の味が広がるんだ。

でもな、もっと痛い場所があるんだよ。どこか分かるか?

 

 

「ゥオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

心だよ。

俺の後ろで、俺の背中を守ってくれているマスクマン。

そうだ、俺は今ずっと好きだったヒーローと戦ってるんだよ。

そうしたいと願った時の俺が今の俺を見たらどう思う? なあ教えてくれよ、知りたいんだ。

いや――、悪い、知ってるんだよ本当は。だから痛いんだ。

 

 

「ウェアアアアアアアアア!!」

 

 

俺はなんて――

 

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

 

なんて――!

 

 

「アアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

なんて――ッッ!!

 

 

「「トォオッ!!」」

 

 

かっこ悪いんだッッ!!

 

 

「「ヒィィロォオッ! キィイイイイイイイッック!!」」

 

 

知っているかマスクマン。俺はアンタから正義を教えてもらった。

本当の強さが何か、人を愛する事がどういう事なのかを教えてもらった筈だ。でもな、忘れちまったんだよ俺はいつの間にか。

 

でも思い出した。思い出せた。

だから死なないでくれ、だから負けないでくれ。

俺はアンタが好きだった、アンタと共に育ったんだ。

 

 

だからどうか消えないでくれ、俺の心から。

 

 

「―――」

 

 

そして俺は、勝ちたい。勝ちたいんだコイツ等に。

だから戦ってくれ。頼む、お願いだ、俺は絶対に勝ちたいんだよ。

負けたくない、そうだ、負けたくなんか無いんだ。

俺の人生がクソだと言ってくるコイツ等にだけは負けたら駄目なんだよ。

 

最後に俺はマスクマンと共に必殺技を放った。

俺がずっと布団の上で練習していたヒーローキックだ。

それを俺は今マスクマンと共に放っている。だからなのか、俺の涙は止まらない。

そしてそのキックを当てたヤツは紛れも無い、"俺自身"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なあ、今俺は少しはマシな顔してるだろ?

そうであってくれ、そうであってほしい。

じゃないと俺は俺に顔向けができないから。

 

 

「!」

 

 

気がつけば俺はマスクマンのバイクに乗って朝の町を駆けていた。

マスクマンが運転して俺は腰にしがみ付いているのさ。知ってるか? マスクマンのバイクは凄い早いんだ。

景色が線になって、光となって俺達は町を駆け抜ける。

すごい、すごいぜ、これから会社にも間に合う。

無断欠勤は止めだ。だって俺は今マスクマンと一緒に出社してるんだぜ?

 

憧れだよ。

思い出すぜ、昔買って貰ったチャリンコにこのマシンを重ねてた。

あの時はどこへだって行ける気がした、スーパーマシンに乗った俺は無敵だって思ってた。

 

なあ、俺。俺が羨ましいか?

お前が大好きだったマスクマンと一緒にいるんだぜ? 羨ましいだろ? でもな、一つ覚えとけよ。

今、俺はお前が羨ましい。でも知ってるぜ、戻れないんだよなあの時には。

 

 

「でも、思い出す事ならできる」

 

 

そうだよな?

俺がそう言うと前にいる彼はしっかりと頷いた。

 

 

『ああ!』

 

 

そうだよ、俺はアンタになりたかったんだ。

そう思ってるともうあっという間に会社の前さ。俺とマスクマンはバイクから飛び降りると二人並んで入り口に向うんだ。

 

大きく肩を揺らして、何者にも怯まずに。

だって俺にはマスクマンがついている。

一緒に戦った彼が、きっと俺を守ってくれる。

 

俺達は共に並んで仕事をするのさ。

さっき助けてくれたお礼と言わんばかりにマスクマンはキーボードを打ってくれる。

俺達が示すのは本当の真実さ、人を傷つけるためじゃなく、本当に真実を明かすための記事なんだ。

 

 

「何書いてんだ屑!」

 

 

上司の怒号と共に空き缶が飛んで来る。

でも大丈夫、そうだろ? 俺が振り向くとそこには空き缶をしっかりと受け止めてくれているマスクマンがいた。

俺はそれをあの時と同じ、俺がまだ人生にありったけ希望を持っていた時と同じ目で見ていたに違いねぇや。

 

カッコよかった。

 

そうだ、カッコよかったんだよ何よりも。

だから俺は思った。マスクマンみたいになりたいってよ。

俺はまたボロボロと泣きながら俺を守ってくれた正義の味方を見ていたんだ。

 

 

「―――」

 

 

そして、俺が次に気づいた時には部屋の中だった。

前にはつけっぱなしになったテレビ、辺りには散乱してる酒の空き缶。

朝の日差しに目をしかめた俺は頭がガンッガンに痛い事から理解したよ。

俺はいつの間にか気を失ってて、夢を見ていたんだってな。

 

 

「………」

 

 

でも、ガッカリはしなかった。そればかりか俺はたぶん笑っていたと思う。

二日酔いで最悪の気分ではあったが、それでも俺はしっかりと笑ってた。

間違いねぇな、ああ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、俺は会社に遅刻して死ぬほど怒られた」

 

 

でも次に原稿を叩きつけた時、横には辞表を添えてやった。

あれを見た時の編集長の顔っつったら、お前、傑作だったぞ。

やっぱり思ったんだよ、俺は俺だ。自分に嘘はつけねぇ。まあはっきり言ってギャンブルだ。

 

やりたい事は分からないが、やりたくねぇ事ならしっかり分かるからな。

俺は会社を辞めて、自分で会社を立ち上げた。

あんなアホみたいな偽造ばっかりの情報じゃなくて本当の真実を伝える――

 

 

「この、BOKUジャーナルをな」

 

「うえぇえ! そ、そうだったんすか!」

 

 

俺、大久保大介は、目の前にいる馬鹿、城戸真司にこのジャーナルが生まれた経緯を話してやった。

俺みたいなヤツが絶対にまだまだいると思った俺はそいつらを引き抜くことを決めた訳だ。

 

案の定、女だからと馬鹿にされて不満げにしていた令子。

対人関係や独特の雰囲気故に煙たがられてた島田。

昔からの知り合いだった真司をスカウトして今はそこそこ食っていけてる。

まあ正直運が良かっただけって言われればそうかもしれないが、運も実力の内って言うだろ? まあそう言う事だ。

 

 

「あれ? でも何で俺誘ってくれたんですか?」

 

「そりゃあお前は俺の唯一の後輩みたいなもんだしな」

 

 

あとはもう一つ。

 

 

「お前マスクマンの変身前に似てるんだよ」

 

「はぁ?」

 

 

顔じゃねぇぞ、念は押しておく。

 

 

「いいか真司。ジャーナリストの心得になぁ――」

 

「真実は一つだが正義は一つじゃない!」

 

「お! いいねぇ真司くん。令子から聞いたか? 勉強熱心だな」

 

 

そしてもう一つ。

 

 

「良い奴であれ!」

 

「おぉ!」

 

「真実ってヤツは時に人を大きく傷つける」

 

 

中には知らない方が良いって奴もあるだろう。

でも俺はそれは知った方がいいと思う。そして周りにいる人間がその傷を少しでも抑えてやるんだ。

それができるにはまず人間ができてねぇといけねぇ。

 

 

「………」

 

「っ? ど、どうしたんです編集長」

 

「いやな、そう言えば今日変な夢見たんだよ」

 

 

ああ、あれは確か真司が変な化け物に喧嘩を売る夢だ。

なんか絶対に勝つとか言ってたような気がするな。

んで俺も戦いに正義は無いとかウンタラカンタラと言ってた様な……。

 

 

「うぇ゛ッ? き、気のせいじゃ無いっすか?」

 

「気のせいって言うか、まあ変な夢だな」

 

 

でもだからかな?

なーんかさっきから思うんだよなぁ。

気のせいだとは思うけど、まあ一応言っておいてやるか。

 

 

「なあ真司」

 

「は、はい?」

 

「お前、デカくなったな」

 

「えっ? 別に身長は伸びてな――」

 

「いやいやそうじゃないよお前。たっぱじゃなくて……、まあいいや」

 

 

なんかこうエネルギーがある様な。

まあ俺もなんとなくで言ってるから深くは掘り下げられないけど。

そうなんだよな、俺がコイツに期待してるのは、コイツは常に目がキラキラしてやがるんだ。

昔の俺ににそっくりなんだ。

 

 

「よし決めた! お前見てたらパッと今頭に浮かんだ!」

 

「え?」

 

「BOKUジャーナルって名前変えよう!」

 

「えぇ! 良いんですか勝手に!」

 

「勝手にって俺が一番偉いんだからいいだろ別に!」

 

「ま、まあそれは……、確かに」

 

「今日からココは"OREジャーナル"だ!」

 

 

"ボク"ってよりは"オレ"の方が俺らしいな! うん、決めた!

なんかオープンリソースエボリューションの略にでもすれば、らしくなるだろ。

後で島田と令子にも言っておくか。

 

 

「大丈夫かなぁ?」

 

「大丈夫大丈夫! いいじゃないのOREジャーナル」

 

 

俺は決めたぞ真司。

そう、俺は絶対OREジャーナルを次の10年も継続させてみせる。

その次の10年も、またその次の10年も!

そうやって確実に会社をデカくしていってやるからなぁ……ッ!!

 

 

「いいか真司、何かを10年続けるってのはとんでもなく凄い事なんだ!」

 

「あ、俺も絶対辞めません。だから10年後は社長にしてくださいよ!」

 

「嫌に決まってるだろ! 俺が落ちぶれるの早すぎだろ」

 

 

いいから取材に行って来い!

俺は真司を急かしてやる。コイツには早く金色のザリガニを見つけてもらわないと困るんだよ。

俺が目指す真のジャーナリズムの為にな。

 

 

「は、はい。行ってきます!」

 

「おう、しっかりな。あとは――」

 

 

なんでさっきのジャーナリストの心得その二を今まで彼に言わなかったか、その理由が分かるか?

 

 

「答えはな、言う必要がないと思ったからだよ」

 

「それは、どういう――?」

 

「ああもう、それは自分で考えろ! ほら、行け行け」

 

「りょ、了解!!」

 

 

ドタドタと出て行く真司。静かになった空間で俺はふと思ってみるのさ。

別に"ああ言う雑誌"を買うヤツが悪い訳じゃない。ああ言うのが好きな奴もいるのは理解できる。

でもまあ、人間には合う合わないってのがあるだろ? つまりはそう言う事なんだよ。俺は辞表を持って家を出る時の事を思い出す。

あの朝、着替えをしている時にベルトを身につけた訳だが――

 

 

「……はは」

 

 

その時、俺が着けたベルトが一瞬だけだけどマスクマンのベルトに見えたんだ。

だから俺は変身できたのかもな。デスクの上に置いてあるマスクマンのミニフィギュアを見ながら俺は笑ってみせる。

なんでも俺は知らなかったが、最近にリメイクされた新バージョンで一号が復活したらしい。

 

 

「……がんばれよ、真司」

 

 

さてコッチも仕事するか。

 

 

「次の10年目の為にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザリガニ、ザリガニー!」

 

 

スクーターを走らせる真司。

自分もOREジャーナルのメンバーとして成果を上げたいところ。

こうなったら手塚に頼んで見つけてもらおうかな、そんな事を考えているとふと対向車線から走ってくるバイクが目に止まる。

 

 

「!」

 

 

急停止する真司、周りに車も人もいない為にできた事だ。

まあなんでいきなり止まったのかは真司自身分からない話ではあったのだが。

とにかく真司が後ろを振り向くとそこには今すれ違った男が同じくバイクを止めていた。

 

 

「………」

 

 

変わったバイクだな。

真司は男が乗っていたバイクにまず目を奪われた。マゼンダ色でプレートのようなものが突き刺さってる。

するとシャッターの音が。

 

 

「!」

 

 

目を丸くする真司。

見れば男が同じくピンクに近いマゼンダのカメラを構えている所だった。

 

 

「良い顔だな、城戸真司」

 

「え? あ、アンタは?」

 

「おいおい、忘れたのか? 鳥篭や映画館で一緒に戦ったじゃないか」

 

「???」

 

「フッ、冗談だよ」

 

 

俺があげたカード、大切に使ってくれよ。

男は手を上げてバイクのアクセルを回すと真司に背を向けて走り去っていく。

呼び止めようと前に乗り出す真司だが、そこで記憶に空白が。

 

 

「あれ? 俺今誰と話して……」

 

 

ま、いいか。

真司は首を傾げると同じくアクセルを回して走りだす。

 

 

「頼むぞ龍騎」

 

 

一方で先ほどの青年。

彼の腰にあったドライバーが光を放つ。すると彼の姿が人間から騎士と言える姿に変わった。

マゼンダと白の体、そして緑の複眼、顔に突き刺さっていくプレート群。

 

 

「この世界を救えるのはお前らだけだ」

 

 

そして、お前達を救えるのもまた魔法少女達だけ。

 

 

「最後の戦いと行こうぜ」

 

 

ディケイドはマシンディケイダーのスピードを上げて見滝原を駆ける。

粒子化していく体。やはり直接参加はできないか。

色々と制約が掛かる身、ガッツリ手助けはできないがせめて少しくらいは。

後は彼に、城戸真司達に託させてもらおう。

 

走り抜けていくディケイド。

彼の頭上には10の歴史(ほし)がしっかりと輝いている。

その中の"三番目"が、激しく燃える炎の様に煌いていた。

 

 

 

 

 

 

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