仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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※注意!

第74話までのネタバレを含んでいます。



価値はそこに

 

 

宇宙(そら)に数多の(ひかり)がある様に。

世界が宇宙ならば、その残骸となった星も無数に存在している筈だ。

時間を超えて、存在を超えて、今日も広がり続ける宇宙の中に、新たなる星の欠片が瞬き、消え失せていく。

 

砕けた世界は多くの残骸を残し、今この時もまた、欠片は欠片としての自我を確立していく。

多くの欠片は星に到達する前に燃え尽きてしまうが、天文学的確立の中で起こった奇跡は、星に衝撃を齎すのだ。

 

 

『ッ!』

 

 

ジュゥべえはその『隕石』を感じ取り、体をピョンと跳ね起こした。

既に人はいない工場跡、そこに一つの星の欠片が降り立った。

 

 

『マジかよ』

 

 

こりゃあ面倒な事になった。

そう思っていると、同じく異変を感じ取ったのか、小走りに工場跡にやって来る少年が。

中沢昴と志筑仁美はそれぞれデッキとソウルジェムを構えて変身を行う。

騎士と魔法少女に変わった二人は、陽炎を散らしながら立ち尽くす異形の下へと駆けて行った。

 

 

「成程。その姿、何よりも忌々しい!」

 

「うぉッ!?」

 

 

化け物のモチーフはそう――、カマキリであろうか?

彼は向かってくるアビス達を迷う事なく『敵』と認識したらしい。

腕にある鎌を光らせて、異形もまた、走り出す。

アビスの拳と異形の鎌がぶつかり合い、激しいエネルギーを発生させた。

それは文字通り物理的な影響を与えるもので、反動で浮き上がるアビスの体。

異形は体を捻ると、体重を乗せた蹴りでアビスの胴を打つ。

 

 

「いっづ!」

 

 

倒れるアビス。

立ち上がろうとすると、異形が目を光らせる。

するとどうだ? アビスと仁美の視界が毒々しい緑色で覆われたではないか。

それは草の蔓だ。ザワザワと蔓同士が擦れる音がしたかと思えば、その数はどんどんと増え、あっと言う間に工場は『森』に変わった。

 

 

「な、なんだコレ!」

 

「きゃあ!」

 

 

蔓を切り裂こうとするものの、その前に二人の四肢に蔓が絡みつき動きを封じる。

この力、この特異性、デッキにて待機していた下宮が声を荒げた。

 

 

『おかしいぞ、この力ッ! なんだコレ!?』

 

「ど、どういう事だ!?」

 

『アイツ、魔女でも、魔獣でもない!』

 

 

では一体何なんだ?

異形の見た目は完全に化け物、人間ではない。

かと言って魔女でも魔獣でもない。何が起こっている? 混乱するアビス達ではあるが、その前にダメージが襲い掛かってきた。

縛られたアビスと仁美は思い切り放り投げられ、空中を投げ出される。

すると異形は無数の斬撃を発射。狙ったのは主にアビスだ。その体からすぐに火花が散っていく。

 

 

「ぐあぁああ!」

 

「うわぁあ!」

 

 

超過ダメージではない筈だが、急所に入ったのか。アビスの変身が解除されて中沢は地面を転がる。

それだけではなく何故か下宮もアドベントカードから輩出され、同じ様に地面を転がっていった。

すぐに目を凝らすと、アビスのデッキから青い光が飛び出し、異形の手に収まったではないか。

 

 

「これは私の力に相応しい。頂きますよ」

 

「な、何!? おい待てよ!」

 

 

異形は地面を蹴ると中沢達に構う事なく上昇していく。

刹那、天空に大きな穴が開き、異形はその中に消えていった。

 

 

「な、何が起こったんだ?」

 

 

唖然とする中沢達。

するとジュゥべえが一同の前に姿を見せる。

 

 

『えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!』

 

「じゅ、ジュゥべえ。一体何がどうなってますの!?」

 

『オイラもイマイチ分からんぜ! だがとにかく面倒な事になっちまった!』

 

 

中沢の手にあるデッキが証明していた。

見ればアビスの紋章が消えているじゃないか。

どうなっているんだ? 顔を見合わせて汗を浮かべる中沢と仁美。

ジュゥべえは取り合えず中沢達に待機をしろとだけ告げて、焦った様子で駆け出していった。

 

そうやってジュゥべえが向かったのは、キュゥべえのところだ。

適当なビルの屋上で街を見下ろしていたキュゥべえ、

既に彼は、事の全てを理解していた様だ。

 

 

『世界が崩壊する際、欠片が生まれてしまった様だね』

 

 

まどか達の世界と、真司達の世界が融合した際、こぼれ出た『欠片』が一つの世界としての存在を確立していたらしい。異形はそこに逃げ込んだに違いない。

このままでは面倒な事になる。ゲームがどうこう言っている場合ではないか。

 

 

『消そうか。邪魔だね』

 

『でもどうする先輩? オイラ達だけでやるのか?』

 

『その必要は無いんじゃないかな』

 

『?』

 

『幸いこの世界には善良な人間が多いからね。彼等に相談してみるのも、悪くは無いと思うけれど』

 

『……なるほど、なるほど、流石は先輩!』

 

 

ジュゥべえはニヤリと笑うと、早速その足で一人の男の所へと向った。

 

 

『つーわけで世界がやべぇんだよ。此処はひとつ、お前さんのお力を貸しちゃあくれねーか?』

 

「お、お前、都合の良い時だけ俺を使おうとか思ってないか?」

 

 

ジュゥべえが助けを求めたのは、城戸真司その人である。

隣にはまどかと、ニコの姿もあった。

三人は三人とも訝しげな目でジュゥべえを見ている。突如現れて助けてくれ? 怪しいにも程があると言うものだ。

そもそも『つーわけで』の『つーわけ』が全く説明されていない。

 

 

『いや、その、ほらアレだ! 世界がとにかくヤベェんだよ!』

 

「ざけんじゃねぇよ糞野郎。元はと言えばどうせ全部チミ達のせいなんだろ?」

 

『いでででで! 違う、違うから! 今回はインキュベーター関係ねーから!』

 

 

ニコはジュゥべえの両頬を抓ってどこまで伸びるかを確かめてみる。

世界がヤバイって言われても、現状も既にヤバイのに、さらにヤバくなるなんざぁ冗談では無い話なのである。

そもそもだ。今が何故ヤバイのかと言われれば、だいたいジュゥべえ達のせいではないか。

もうヤバヤバのヤバウィッシュである。

 

 

「は、離してあげてニコちゃん。お話だけでも聞いてみようよぅ」

 

 

なんだかんだ言って優しいのが鹿目まどかなのである。

とは言え、確かに世界がヤバイと言うのは聞き捨てなら無い台詞だ。

そもそもゲーム運営側であるジュゥべえ達からのヘルプとあれば相応の内容なのだろう。

聞きたくは無いが、取り合えず事情を聞いてみる事に。

 

 

『実は、イレギュラーが混じり込んでたんだ』

 

「イレギュラー?」

 

『ああ、まあ深くは考えるな。とにかく異物だ。魔獣でなければ魔女でもねぇ異形がいるんだよ』

 

 

世界融合の際に全くの『異物』が混入し、それが力をつけて暴れ出した。

放置すれば当然厄介な存在になり、最悪魔獣側と手を組む未来も予想できる。

当然それはこの世界にとっては有害な話であり、ゲームを滅茶苦茶にされる可能性もあるのだ。

 

 

『奴はどちらかと言えば魔獣に近い思考を持ってる。お前らにとっては敵って事だ』

 

「で? ソイツは今どこに?」

 

『この世界にはいねぇ。アビスの力を奪って、欠片の世界に逃げ込みやがった』

 

 

その目的は、おそらく欠片の世界にある『力』を手に入れる為だろう。

 

 

『創生の果実と呼ばれる物質がその世界にある事が分かった。それを奪われれば敵はより力をつけるぞ』

 

 

ましてやそれが魔獣の手に渡れば、本当に真司達が勝てる可能性がなくなってくる。

つまりこれはインキュベーターだけの問題ではないのだ。

真司達も、あの異形をなんとかしなければゲームオーバーなのである。

 

 

『そもそもの話。敵がこの世界を攻撃してみろ。お前らの大切な物に被害が出る』

 

「ッ、どうすれば良いんだよ」

 

『決まってるだろ、倒すしかない。欠片の世界にはオイラが飛ばすから後はお前らが頑張ってくれ!』

 

「や、まだオーケーするとは言ってな――」

 

『それ行け真司ーッ!』

 

「うわあああああああああああああああ!」

 

 

ジュゥべえが目を光らせると、六角形の穴が開いて真司が吸い込まれていった。

なんと強引なやり方であろうか。まだ自発的に生かせようとするキュゥべえの方が良心的に思えてしまう。

とは言え、インキュベーターがココで嘘をつく意味も無い。

本当に放置しておけばマズイ存在なら見過ごす訳にはいかない。

と言う事で汗を浮かべながらも、まどかは頷き、穴の中に飛び込んで行った。

 

 

『お前はどうすんだよ』

 

「ハァ、マジか」

 

 

ジュゥべえに睨まれ、ニコは呆れた様にため息をつく。

まったく。どうして真司もまどかも簡単に事を受け入れられるのか。

自分達はゲーム開始前に、よりによってジュゥべえに使われる事になるんだぞ。

それを面白くないとは思わないんだろうか? 全く、つくづく元が同じ人間とは思えない。

 

 

「まあでも、だからこそ研究対象になるのかもな」

 

 

ニコは鼻を鳴らすと、自分も六角形のトンネルに飛び込んで行った。

ジュゥべえの為に人助けをするつもりは無いが、感情や心を忘れたニコにとって真司やまどかの生き方は酷く興味深く映ってしまう。だからだろう、ニコもまた迷いはなかった。

こうして飛び込んだ三人。不思議な事に、トンネルを潜り抜けた瞬間、意識は闇の底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ろ」

 

「……ッ」

 

「起きろ、真司!」

 

「うわッ!」

 

 

聞き慣れた声が聞こえたから、真司は反射的に体を跳び起こした。

とは言え、辺りを見回せば知らない事務所、

だが目の前には知っている人間。真司は寝ぼけ眼で頭を掻きながらペコリとお辞儀を。

 

 

「あ、おはようございます編集長」

 

「おはようございますじゃねぇよ馬鹿! もう昼だっての!」

 

 

大久保編集長は真司も知っている人間だ。

しかれどもハッとする真司、ジュゥべえの話が本当ならば此処は『欠片の世界』。

どうやらパラレルワールドと言うもので、本当の世界に存在している人間もココにはいるらしい。

 

 

「いやしかし驚いたぜ、まさかお前が貧血で倒れるとはなぁ」

 

「え?」

 

「姪の子達もそこで待ってるぞ、ほら」

 

 

「姪?」

 

 

はてと真司が視線を移すと、事務所の隅でジュースを飲んでいるまどかとニコがいた。

 

 

「お前、ちょっとその子達と話しておけ、俺はそろそろお客様が見えるからな、出迎えの準備をしにいくぜ」

 

「は、はぁ」

 

 

そう言って編集長は事務所を出て行く。

丁度良い、真司はまどか達の方へ行くと何がどうなったのかを聞く事に。

すると、分かった事は、トンネルの先がこの事務所に続く廊下だったと言うこと。

さらにトンネルから出たその時に目の前に『この世界の真司』がいた事。

その真司と、今現在いる真司がぶつかり融合した事。その衝撃で真司が気を失っていた事。

そこでまどかとニコは、自分達が真司の姪だと偽り、編集長の所へ真司を運んでもらった……。との事だった。

 

 

「なるほどぉ、この世界の俺が、俺の中に入ったのかぁ」

 

 

そう言えば、集中してみればこの世界で過ごした記憶もある様な。

とは言えこの世界は欠片。言ってしまえばあくまでも偽りなのだ。

まあとは言え、体感は自分達の世界となんら変わりないが。

 

 

「これからどうしようか?」

 

「うん。とにかく、ジュゥべえが言ってた敵を見つけようよ真司さん」

 

「ああ、それがいいか――」

 

 

何か適当な理由を言ってココから離れようと思った時、事務所の扉がガチャリと開いて編集長が入ってきた。

 

 

「いやぁ、本日はお日柄も良く――」

 

 

編集長はニコニコヘラヘラと腰を低くして客人を招き入れる。

なにやら態度を見るに、重要なお客様のようだ。

高そうなスーツに身を包んだ男性と、警備員が二人。見るからに高級そうな箱を抱えてやって来る。

 

編集長は小走りでまどか達が座っていた場所にやってくると、ジュースを取っ払って警備員たちに手招きを行う。ジェスチャー通り箱をテーブルの上に置く警備員たち。

警備員の一人は一生懸命に見えるが、もう一人は随分とつまらなさそうな顔をしている。

いや、仕事は退屈かもしれないが、それにしたって顔に出すぎである。

はて? それにしてもこの二人の警備員。どこかで見た様な……、無い様な……。

 

 

「編集長、これは?」

 

「馬鹿! お前、そんな事も忘れたのか!」

 

 

編集長は真司の頭を軽く叩くと、咳払いを一つ。

同じくして警備員が箱から『壷』を取り出した所で、早速説明を始める。

 

 

「いいか? お前これはな!」

 

 

真司は聞いた事が無かったが、どうやらこの世界にのみ存在する大企業が11周年を記念し主催する展覧会に展示される壷。その名も『天地』が、真司達の前にあるものらしい。

天地には、まだ存在が解き明かされていない未知の鉱物『ジェネシス』がすり込まれており、その見た目は鬼の心さえも奪ってしまうと称された程だ。

 

 

「天地は人間国宝、天野源流(あまのげんりゅう)が作った遺作。その価値は、1億とされているんだぞ!」

 

「い、1億……!!」

 

 

驚愕の表情を浮かべる真司とまどか。

ニコはピクリと眉を動かす程度だが、一応は驚いているらしい。

なんでもこれからその展覧会会場に壷を運ぶのだが、その途中でOREジャーナルが天地の独占取材を取り付ける事に成功したらしい。

 

 

「よし、じゃあ今から撮影を――」

 

 

丁度、まさに、その時だった。

 

 

「シュアアアアアアアアア!!」

 

「!!」

 

 

轟音がしたと思えば事務所の窓が一勢に粉砕され、破片が周囲に散った。

さらに衝撃。震える床に足を取られて、スーツを着た責任者や警備員達は悲鳴に近い声を上げて膝をつく。

 

 

「な、なんだ!? ば、爆弾!?」

 

「て、テロかもしれません!!」

 

 

パニックになったのか責任者の男性と編集長はアワアワと慌しく走り回り、結果互いにぶつかって後方へ倒れると言う間抜けな結果に。

しかもその時に頭を打ったのか、編集長も責任者の男性も白目を剥いて気絶してしまった。

まあ無理もないが、何とも間抜けなものである。

 

とは言え状況は穏やかではない。

真司が姿勢を低くしながら窓の外を見ると、そこには見るからに人間をかけ離れた容姿の者が立っていた。

 

 

(アイツは確か……!)

 

 

キャノン砲を肩にかけて胸部前に装備しているモンスター、アビスハンマーが。

本来は下宮の正体であるアビスハンマーがあそこに立っていると言う事は、中沢達を襲った異形と関係あるのだろう。

何とかしなければ。真司はデッキを取り出して変身しようと思う。

だがその時だった。膝をついていた警備員の一人が立ち上がると、どこからかそれなりの大きさのあるドライバーを取り出したのは。

 

 

「アイツは俺に任せろ!」

 

「え?」

 

 

若い方の警備員がドライバーを腰の前にかざすと、直後ベルトが伸び、ドライバーが警備員の腰に装備される。

続いて警備員はポケットから何か、『錠前』に見えるアイテムを取り出すと、それを起動させる。

 

 

「変身!」『オレンジ!』

 

「ッ!」

 

「オゥッラィッ!」『ロック・オン!』

 

 

警備員は思い切り腕を旋回させて錠前を天にかざすと、直後振り下ろす様にしてドライバーに装填する。

ドライバー中央には小さな刀がついており、警備員は走り出しながらその小刀型起動装置『カッティングブレード』を弾くようにして操作する。

すると錠前が展開、電子音が鳴り響く中、なんと青年は二階の窓から勢い良く飛び降りた。

 

まどかは思わずアッと声をあげて、息を呑む。

このままでは警備員の青年が危ない――! とは思ったのだが、どうやらその心配は杞憂の様だ。

そればかりか空中にジッパーで縁取られた円が現れたかと思うと空が割れ、そこから巨大なオレンジが降ってきたではないか。

 

文字通り果物のオレンジ。

とは言え何も本当の果実と言うわけではなく、それは果実型の鎧だ。

オレンジの鎧球体が警備員、葛葉紘汰の頭上に落下する。

このまま行けば球体は紘汰の頭部を粉砕しようものだが、なんとズポンと音を立ててオレンジ色の球体は紘汰の顔を覆った。

 

そしてすぐに展開して文字通り本当の鎧となっていくではないか。

さらに果実が装備された時点で紘汰の体が警備員の制服から、青を基調としたバトルスーツの様な物へと変わっていた。

そして皮がむける様にして鎧が展開し終わると、ありったけの果汁が辺りに飛び散る。

 

 

「ハァア!!」『オレンジアームズ!』『花道・オン・ステージ!!』

 

 

思わず声を上げる真司達。

地面に着地したのは紛れもない騎士、鎧武(ガイム)

鎧武はオレンジの切り身を模した刀、『大橙丸』と、銃が刀と融合した『無双セイバー』を二刀流に構えて走り出した。

 

 

「シュラァアア!!」

 

 

アビスハンマーはキャノンを構えて容赦なく発砲を開始する。

しかし迫る銃弾をバッタバッタと切り伏せて確実に距離を詰めていく鎧武、気づけばもうその距離は僅か数十センチにまで迫っていた。

 

 

「ウラァア!」

 

「グゥウ!」

 

 

オレンジと銀の残光がアビスハンマーの視界を満たす。

剣閃はすぐに火花を散らし、アビスハンマーは呻き声を上げて後退していく。

アビスハンマーは高威力の銃弾を撃つにはそれ相応の待機時間を要する。つまり距離を詰めれば詰めるほど鎧武にとっては有利なのだ。

まあとは言え、そのまま事が進む訳も無いのだが。

 

 

「シャアア!!」

 

「うぉぁッ!」

 

 

鎧武の背中から火花が散った。

すぐに鎧武が振り返ると、そこには両手に剣を構えているアビスラッシャーが。

つまりの所が二対一。鎧武が前方の敵に気を取られている中、背後にいたアビスハンマーは急いで後退していき、再び鎧武と距離を取ろうとする。

これはまずいか、今度こそはとデッキを構える真司だが、その時もう一人の警備員が小さくため息をついた。

 

 

「やれやれ」『カメンライド――』

 

「は?」

 

 

真司が横を見ると、やる気が無さそうな警備員、門矢(かどや)(つかさ)の腰には白い箱の様なドライバーが。

士はカードを構えるとドライバーに装填、先程の紘汰よろしく窓から下へ飛び移った。

 

 

「変身!」『ディケイド!』

 

 

シャララララと音がして士の前に騎士の残像が出現、それが重なり合いバトルスーツを構成する。

さらにエネルギープレートが出現し、それが次々に顔面に突き刺さっていくではないか。

しかしそれは問題ない過程、最後にマゼンダの色彩がスーツを満たし、立っていたのは騎士、ディケイド。

 

 

「フン」

 

 

ディケイドはカードホルダー・ライドブッカーを剣に変えると、刀身を撫でる。

そして鎧武の肩を叩き、アビスラッシャーは任せろとジェスチャーを送った。

 

 

「おお! サンキューな士!」

 

「いいから。お前は後ろのヤツを潰せ」

 

「っしゃらァ! 任せろォオッ!」

 

 

鎧武は刀を叩き合わせてアビスハンマーに向かって走り出す。

一方でアビスラッシャーにゆっくりと近づいていくディケイド。

するとどうだ、空から無数のイナゴが飛んでくる。

 

 

「今度はなんなんだよ!!」

 

「む、虫! 虫はあんまり得意じゃないよ!」

 

「きもいなー」

 

 

文字通り黒い雲の様なそれは、アビスハンマーが開けた穴から進入すると、OREジャーナルの室内に侵入していく。

青ざめた様子で後ろに下がっていく真司たちだが、事はそれだけでは終わらない。

イナゴ達はなんと一つに纏まると、直後、一体の『怪人』として姿を完成させたのだ。

黒と青の体、そして血の様に赤い目をした『イナゴ怪人』。

爪を構え、唸る様な鳴き声を漏らすと、そのまま真司達に襲い掛かっていく。

 

 

「だぁあもう! 訳が分からないっての!」

 

 

真司は姿勢を低くして爪を回避すると、怪人の腰を羽交い絞めにして廊下の方へ押し出していく。

一方で地面に落ちていたデッキを拾い上げるまどか。彼女はデッキを抱えたまま、真司の後を追い、すぐにその名を叫んでデッキを投げた。

 

 

「真司さん!」

 

「サンキューまどかちゃん!」

 

 

真司は腕を払い、怯んだイナゴ怪人の胴体に思い切りドロップキックを打ち込んでみせる。

生身の人間だろうとも、今まで変身し続けた補正が効いているのか。

イナゴ怪人はしばらく後ろへ強制的に足を進めた後に倒れた。

真司は宙を舞うデッキをジャンプでキャッチすると、直後隣に来たまどかと共にデッキとソウルジェムをそれぞれ突き出してみせる。

現れるVバックルと、発光するソウルジェム。どうやら準備は整ったようだ。

 

 

「変身!」

 

 

真司は右腕を左斜め上に突き出す。

 

 

「へんしん!」

 

 

まどかは真司の真似をして、左腕を右斜め上に突き出す。

それぞれの姿が城戸真司と鹿目まどかから、龍騎と魔法少女まどかに変わる。

直後、まどかはハッと表情を変える。この感覚、目の前にいる怪人から感じる強烈な違和感。

なんだコレは? まどかはその違和感をすぐに口にする。

 

 

「真司さん、アレ、魔女じゃない!」

 

「ッ、じゃあアレがジュゥべえの言っていた?」

 

 

すると同じく変身を済ませたニコが扉から顔を出す。

 

 

「アイツの解析は私がやるから、ぶっ倒すのは任せるぞい」

 

 

ニコは戦闘が得意ではないので、まどかの仲間になった今も、あくまでも傍観者のスタイルを続ける様だ。早速と走り出した龍騎。跳びかかるようにして握り締めた拳を怪人に向けて放つ。

だが知性の欠片もない見た目とは裏腹に、イナゴ怪人は龍騎の攻撃を的確に受け流していく。

突き出された拳を弾き、動きが鈍った龍騎の胴体に肘を打ち込んでみせた。

 

 

「うわわわッ!」

 

 

よろけ、倒れる龍騎。

追撃の肘打ちを行おうとするイナゴ怪人だが、今度は怪人の胴体から火花が散る。

龍騎の背後にて矢を構えていたのはまどかだ。光の矢を倒れているイナゴ怪人に向けて再び放つ。

追撃。しかしそれは通らない。

 

 

「!?」

 

 

イナゴ怪人の体に矢が刺さろうと言う所で、その肉体が分裂。無数のイナゴになって飛翔する。

小さなイナゴの群れは矢をすり抜け、そのまま黒い霧の様に、まどかの所へ向っていく。

 

 

「くッ! ニターヤーボックス!」

 

 

結界で作った箱を持った天使が降ってくると、まどかに箱を被せる。

すぐにその箱にビッチリと群がるイナゴの群れ。

 

 

「ぅひぃぃい」

 

 

まどかは思わず青ざめ、引きつった笑みを浮かべると肩を抱いて後ろに下がっていった。

はてさてコレは一体どうしたものか。戸惑いから固まっていると、イナゴの群れが空中にて再び収束、怪人体に戻ると両足にエネルギーを纏わせて飛び蹴りを行った。

 

 

「えッ! きゃああああ!!」

 

 

それはあまりにも一瞬だった。イナゴ怪人は両足蹴りで、まどかの結界を豪快に蹴り破る。

粉々になる箱。まどかは両腕をクロスさせると足裏を受け止める用意を行う。

しかし刹那、まどかの背後上空の空間がはじけ飛ぶと、そこからドラグレッダーが登場。

今まさにまどかを蹴り飛ばそうとしていたイナゴ怪人に突進して。大きく吹き飛ばしていった。

 

どうやらドラグレッダーは龍騎が呼んでいた様だ。

吹き飛ぶイナゴ怪人の行き先には両手を広げる龍騎が見える。

そのまま怪人をキャッチすると、思い切り投げ飛ばそうと力を込めた。

 

 

「って、うわぁ!」

 

 

だが怪人はまたも小さなイナゴに分裂。

文字通り雲のように龍騎の手をすり抜けて飛んでいく。

イナゴ化されてはほとんどの物理攻撃が無効化されてしまう様だ。

いや、まどかの光の矢までも回避してみせた。

つまりそもそもの回避スピードも凄まじいと言う事。

さてどうする? 龍騎とまどかが息を呑むと、丁度解析が済んだのか、ニコが事務所から顔を覗かせた。

 

 

「気をつけろ! ソイツ、少し厄介かも!」

 

 

イナゴ怪人は一見すると一体の怪人だが、その実、肉体は無数のイナゴが収束してできた存在である。小さなイナゴは一体一体に『コア』があり、一匹でも生きていれば、また別のイナゴを生み出して怪人体を構成する事が出来る。

つまりイナゴ怪人に勝つためには、無数のイナゴを一匹残らず全て排除するしかない。

 

 

「ッ、そんなのどうすれば……」

 

 

あ。

 

 

「あるかも!」

 

 

龍騎の目がギラリと光る。

迫るイナゴ怪人から背を向けて走ると、まどかの所へ足を進める。

龍騎の閃きを感じたのか。まどかは結界を生成して龍騎とイナゴ怪人の間に壁を作り、時間稼ぎを行うことに。

イナゴ怪人が壁を殴りつけている間に龍騎とまどかは合流して、素早く作戦を伝え合う。

さらに龍騎はニコに『ある事』を問いかけた。

 

 

「ん。ちょい待ち」

 

 

ニコはゴーグルをつけて『上』を見る。

しばらくそのまま固まっていたが、やがて龍騎にサムズアップを送った。

 

 

「おけ」

 

「よし、じゃあこの作戦でいこう!」

 

「うん! 分かったよ真司さん!」

 

「ああ、よろしくなまどかちゃん!」

 

 

デッキからカードを抜き取る。一方でまどかは、再び天使を召喚する。

呼び出すのは先ほどと同じニターヤーボックス。だが先ほどと違うのは、箱に入れるのが怪人の方だと言う事だ。

突然真下から伸びていく結界。イナゴ怪人が気づいた時にはもう遅い。いくら分裂しようが、既に周囲は壁に覆われているのだ。

 

 

「ギッ! ギギ!」

 

 

箱に閉じ込められたイナゴ怪人は、すぐに蹴りや拳で結界を破壊しようと試みるが、まどかとて先ほど一度破壊されたのは忘れちゃいない。

優しいまどかではあるが、プライドだってある。

彼女は魔力を集中させ、結界の強度を上げていく。

 

一方でその箱に喰らいつくドラグレッダー。

強度を上げた箱に牙を突き入れるドラグレッダーの顎の力は凄まじい。

龍騎は相棒に指示を出し、そのまま天井に向けてブレスを放つ様に命令を送った。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

赤い炎弾がドラグレッダーの口から放たれ、それは天井を破壊しながら箱を押し出していく。

ビルは四階建て。ニコにサーチしてもらった結果、今日は上に人はいない。

炎弾は次々と天井に穴を開け、最終的には屋上を突き破って、箱を空に放り出した。

龍騎はデッキに手を掛けると、そこからファイナルベントのカードを抜き取ってみせる。

同じくまどかはソウルジェムを光らせ、ドラグレッダーを自身の周りに旋回させながら矢を振り絞った。

 

 

「ギッ! グッ!」

 

 

空に打ち出されたイナゴ怪人は必死に箱を破壊しようと試みるが、せいぜいヒビが入る程度。

そして彼は見る。赤い瞳に映すのだ。紅蓮に輝く巨大な矢が、眼前に迫る光景を。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

「ギガアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

複合ファイナルベント、マギアドラグーンが結界の箱を貫いた。

イナゴ化しようが周囲は壁、虫かごから出られないんじゃ意味がない。

さらに炎の矢は箱に命中した時点で大きな爆発を起こした。爆風と爆炎は、箱の中に散った全てのイナゴを焼き尽くして消滅させる。

 

 

「よっし!」

 

 

空にいる龍騎はドラグレッダーが回収し、戦いは龍騎達の勝利に終わった。

さて、気になるのは真下の光景だ。今もほら、そこで激しい火花が散っているじゃないか。

 

 

「ウゥラッ!」『ミックス!』『ジンバーレモン!』『ハハーッ!』

 

 

鎧武に陣羽織型の鎧が装備され、手には刃が備わった弓矢が現れる。

ソニックアロー。レバーを引く事で光の矢を発射できる武器である。

鎧武とアビスハンマーは一定の距離を保ちながらそれぞれ並走し、弾丸をありったけに放ちまくる。

とは言え身軽さは鎧武の方が上なのか。銃弾の数は少なくとも、的確な射撃力を見せ付けた。

 

 

「グッ! うぅぅ!」

 

 

キャノン砲から煙が上がり、ついにアビスハンマーはキャノンをパージした。

どうやらもう使い物にならないらしい。それが好機と見たか、鎧武は弓を振り回しながら一気にアビスハンマーに距離を詰める。

武器を失ったアビスハンマーにできる事などあろうか?

次々に刃がその鎧に食い込み、無数の火花が上がっていく。

ある程度ダメージを与えたとき、鎧武は地面を蹴って思い切り後ろに飛んだ。

バク宙をする中で、鎧武は自身のベルトにあった錠前を外すと、それをソニックアローに装填する。

 

 

「ハァアア……ッ!」『ロック・オン!』

 

 

弓を振り絞る鎧武。

すると照準にと、レモンとオレンジの輪切りを模したエネルギーが並んでいく。

よろけるアビスハンマーはそれを目視しながらも、蓄積されたダメージから動く事ができない。

一方で手を離す鎧武。凝縮されたエネルギーが一気にソニックアローから解き放たれた。

 

 

「セイハーッ!」『レモンエナジー!』

 

「ズアアアアアアアアアアア!!」

 

 

巨大な黄色い矢がアビスハンマーを貫いたかと思うと、直後アビスハンマーは光を纏って地面に倒れる。

エネルギーが暴走しているのか、断末魔を上げて爆発、跡形も無く消え去った。

 

 

「よっしゃァ!」

 

 

鎧武は肩を揺らして喜びに吼える。

背後ではもう一つの勝負も決着がつこうとしていた。

ゆっくりとした動きとは裏腹に、いざ切りかかる時には全力を込めて剣を振るうディケイド。

アビスラッシャーはノコギリ状の剣を交差させてライドブッカーを受け止める。

しかしディケイドはそこで思い切りアビスラッシャーの腹部を蹴り飛ばす。

衝撃でガードが崩れるアビスラッシャー、ディケイドはその隙にいつの間にか持っていたカードをディケイドライバーに放り込む。

 

 

「ハァアッ!」『アタックライド』『スラッシュ』

 

「ギギッ! グガァ!」

 

 

剣のすぐ隣に質量のある剣の残像が生まれる。

生まれたそれはまさに剣と言うよりは爪だ。

ディケイドは豪快にそれを振るってアビスラッシャーの剣を封殺していく。

剣だけではなく時に体術、その猛攻の末、アビスラッシャーの肉体に次々に刃が抉りこんでいく。

 

 

「ハッ、お遊びにもならないな」

 

 

吹き飛び、地面を転がるアビスラッシャー。

ディケイドはライドブッカーを放り投げると、一枚のカードをディケイドライバーに入れて、なんと発動せずに両手を広げてみせた。

 

 

「来い、一撃くらいは当ててみせろ」

 

「じ、ジィイィイ!!」

 

 

持ち走り出すアビスラッシャー。

思い切り剣を振り上げ、そしてディケイドの脳天を叩き割る様に振り下ろした。

間違いなく避けれない、それくらいのスピードと距離があったのは事実だ。

しかし、それを破壊するのがディケイドである。

 

 

『アタックライド』『インビジブル』

 

「!」

 

 

空を切る感触。

ディケイドの姿が完全に消失し、アビスラッシャーはすぐに周囲を確認する。

するとどうだ、気づけば視界に広がるホログラムカードの群れ。

あ――、と、アビスラッシャーが思った時には、既にディケイドの足裏が前にあった。

 

 

「タアアアアアアッ!」『ファイナルアタックライド』『ディディディディケイド!』

 

「グェアアアアアッ!」

 

 

ディケイドの必殺技、ディメンションキックがアビスラッシャーを蹴り飛ばすと、そのまま遥か後方に吹き飛ばした後、爆散させる。

一度敵に隙を見せたかに見えたディケイドだったが、実際はそんな事は無く。

敵が切りかかってきた所に透明化。攻撃を回避した後は、自らの必殺キックを不意打ちと言う形で命中させたのだ。

 

 

「やったな、士」『ロック・オフ』

 

「まあ、余裕だろ」

 

 

錠前・ロックシードを取り外す鎧武と、ディケイドライバーを操作して変身を解除するディケイド。

二人の騎士は人間の姿に戻り、さらにそこに飛び降りたのは龍騎だ。

士達の視線を浴びながら、龍騎も変身を解除して真司の姿に戻る。

 

 

「アンタら、騎士なのか!」

 

「騎士? 何言ってんだよ真司さん。俺達、映画館で一緒に戦ったじゃないか」

 

「え? 映画……?」

 

「そうそう、騎士って言うか俺達は仮――」

 

「いや、いい、気にするな城戸真司。今の発言は忘れろ」

 

 

士が紘汰の言葉を中断させた。

首を傾げる真司。とは言えなんだ、いきなり忘れろと言われても、真司としては引っかかる物がある訳で。

それにこの士。そして紘汰。真司にはどこか見覚えがあった。

デジャブ、既視感。いや待て、彼等は今確かに真司の名を呼んだではないか。

 

 

「あ」

 

 

そう言えばこの欠片の世界には既に真司がいたのだった。

と言う事は、この二人は元々この欠片の世界にいた自分の知り合いなのだろうか?

そんな事を聞いてみると、紘汰は目を丸くして首を傾げる。

 

 

「え? あ、いやそうじゃなく――」

 

「ああそうだ、それでいい。だいたい分かれ」

 

 

紘汰が何かを言おうとしたが、それを封じる様にまた士が言葉を挟んできた。

士は自分達がこの世界の騎士だと言う事を説明。真司とは以前に知り合っていたと説明。

それ以上でもそれ以下でもなく。後はだいたい察してくれと。

 

 

『おいおいどう言うつもりだよ、士』

 

 

紘汰は小声で士に問いかける。

納得していなさそうな紘汰に、士は随分と投げやり気味に囁いた。

 

 

『難しい事は考えるな、これは本編じゃないんだ』

 

『はぁ?』

 

『それが俺達がココにいる理由だ』

 

『わっけ分かんねぇ……』

 

 

とは言え、紘汰も士が何を考えているか分からない以上、余計な事は出来ない。

結果として曖昧に笑みを真司に向けるだけだった。

一方でフムフムと頷く真司。そう言うものかと問いかけると、士はそう言う物だと返す。

何とも間抜けな言葉の応酬であろうが、真司もそこまで深くは考えない性格だ。

とにかくと士と紘汰は味方の筈、それだけの情報が全てであった。

三人は取り合えずまどか達がいるだろう事務所の方に歩いて行く。

 

 

「さっきのヤツはなんだったんだろう? 俺さ、創生の果実ってヤツを探してるんだ」

 

 

真司は完全に士と紘汰を信用したのか、自分の目的をベラベラと隠す事なく離していく。

まあ何と言うべきか、ココに手塚やほむらがいたらば、安易に情報を流す行為は怒られそうなものだが、真司も伊達に馬鹿馬鹿言われて悔しい思いはしていない。

 

彼にはちゃんと士達を信用する根拠があると言うものだ。

まず一つはアビスハンマー達が襲い掛かって来た時、士達は真っ先に変身して、まどか達を守る為にモンスターの方向へ走った。

そしてもう一つは――、そう、なんだかやはり士達とは一度どこかであった気がする。

そんな曖昧な信頼、安心感、ふざけてる理由といわれればそうだが、真司は一つ自分の直感を信じてみる事にした。

 

もしかしたら遠いどこかの次元で、自分は彼等と共に戦ったのかもしれない。

それから少し話してみると、どうやら紘汰は警備員のバイトの途中らしい。

フリーターとは大変なものであると、紘汰はしみじみ語っていた。

一方で士は――

 

 

「これが今回、俺に与えられた役割だからな」

 

 

等と良く分からない事を言っていたが、なにやらふてぶてしい態度である。

しかし実質、その地位は高く、警備員の中でもリーダー格であるとか何とか。

 

 

「アンタのはインチキじゃねぇか」

 

 

紘汰がブツブツ何かを言っていたのが気になるが、ココで三人は事務所の中に戻ってくる。

飛び散ったガラス片は、まどか達が掃除して取り払ってくれており、気絶している編集長と責任者はソファに寝かしつけてある。

士と紘汰は、まどかとニコにも適当な挨拶と自己紹介を交わしてみせる。

 

 

「よろしくお願いします!」

 

「………」(うさんくせぇ)

 

 

何の疑問も持たず笑顔で頭を下げるまどかと、ジットリとした目線で紘汰と士を睨むニコ。

まあとは言え、ニコもドライな面はある。士達が何者かは知らないが、どうせ此処は欠片の世界、事が終われば元の見滝原に戻る彼女にとって、士達は関係の無い人間なのだ。

とにかくやるべき事は一つ。創生の果実を狙うイレギュラーを倒す事である。

 

 

「で、それなんだけど、さっきのイナゴがそうだと思う」

 

 

ニコは、まどか達が戦っている間にイナゴ怪人をサーチしていた。

結果はビンゴと言うべきなのか、あの怪物からはミラーモンスター、魔女、魔獣、いずれのデータにも合致しない成分で構成されていた。

ようするにニコ達にとって『はじめまして』の相手なのだ。

それをイレギュラーと言わずして何と言う?

 

 

「でもあのイナゴは倒したんだよね? だったら、もうわたし達がする事は無いのかなぁ?」

 

「いや、それは違うと思うぜ、まどかちゃん」

 

 

口を開く紘汰。

どうやら彼はあのイナゴ怪人の事を知っているらしい。

どうやらアレは力の一部でしか無いとか。つまりイナゴを操る本体がまだ存在していると言う事だ。

 

 

「それを潰さない限りは、終われないって事か」

 

 

真司はふと、時計に目を移す。

釣られたのか、紘汰も視線を移動させ、直後アッと声を出した。

と言うのも既に取材の時間を過ぎているではないか。つまり『天地』を会場に届けなければならないのだ。

紘汰達もココでは警備員。遅れればそれだけお叱りを受けてしまう。

 

 

「取り合えず今は会場に行こう」

 

「あ、俺達もついて行っていいかな?」

 

「ああ、いいぜ真司さん」

 

 

いそいそと壷を片付ける為、紘汰は箱を用意したりと準備を始める。

その隣でニコがテーブルの上に置いてある天地を覗き込んだ。

 

 

「こんな壷が1億ねぇ、わからんのう」

 

 

つくづく人間の価値観とは理解できないものだ。ニコは皮肉めいた笑みを浮かべてみる。

命は金では買えないとは有名な言葉だ。しかれども1億の金があれば人は簡単に狂うし、また誰かを救う事も出来る。

金があれば助けられた命もあろうて。もしくはそうだな、借金で自殺した人間も、大金があれば助かったかもしれない。

 

そんな中、この壷を買いたいと思う人間も世界中にいるだろう。

ああ何と皮肉な話だろうか。壷以下の価値を持つ人間がこの世にはごまんといる様な気がしてならない。

 

 

「だいたいこんなの、陶芸で簡単に作れそうじゃろがい」

 

「価値は周りが決めるもんだ、個人の意見は関係ない」

 

 

士の言葉に目を細めるニコ。

なるほど、それは確かにある話だ。

 

 

「そういうもんか」

 

 

壷を持ち上げ、隅々覗いてみる。

何かこう特別な物はあまり感じない。

確かに何かキラキラ光って見える鉱物はあるが、やはり1億円の価値が壷にあるかどうかと言われればなんだか微妙である。

少し指で叩いてみるが、音の違いも分からない。

 

 

「あ、駄目だぜニコちゃん。あんまり触っちゃ」

 

「ん、さーせん。今戻すか――」

 

 

そう、きっとその言葉を文字にするなら、つるりんちょ。

 

 

「ら」

 

 

パリン!!

 

 

「………」

 

「………」

 

 

固まった。止まった、時間が。

白目を剥いている紘汰、真司、まどか。一方で興味なさげに見ている士。

対してニコは相変わらずアンニュイな表情で真下を見ていた。

けれどもその額には珍しく、一筋の汗が見える。

 

 

「あのー……、うん、あれだね、これはアレだ」

 

 

ニコは一つ、目を閉じて深呼吸を行う。

そしてゆっくりと目を開けて同じ方向を見る。まあなんだ当然夢や幻――、と言うわけは無く。

そこにあるのは紛れも無い現実、百パーセントでリアルな光景。

 

 

「す、すまんす」

 

「うぉおおおおおおおおお!?」

 

 

紘汰は目が飛び出すのではないかと言う程に見開き、叫び声を上げながら地に落ちた天地の欠片に近寄っていく。

途中バランスを崩して手を床につくが、そのまま進み、半ば四速歩行の様になっていた。

それだけ驚きと焦りが勝っているのだろう。

とは言えど、急いだ所でもう遅い。紘汰の前にはバラバラになった1億の壷が。

 

 

「何してんだよニコぢゃんんんんんんんん!!」

 

「ごめ、ごめん、ゴメス! やべぇな、どうしよう」

 

「あわわわわわわ!」

 

「い、いいいい1億がぁぁ」

 

 

まどか、真司もすぐに状況を理解し目を回している。

特に紘汰は壷の警備を任された身だ。絶対に守れといわれた壷が今ココにブレイクしているのだから、クビはともかく、最悪それ以上の処罰が待っている可能性もある。

そもそも人間国宝の残した最後の作品が壊れたのだから、それだけ国民のヘイトも集めてしまうと言うもの。

 

ましてや今この場も散々である。

紘汰達は呻き、何とか破片を元に戻そうと集めているが、そもそもの話これはパズルではない。

そんな事をしても当然無意味なのだ。

どれ仕方ない。ココはこの混乱を巻き起こしてしまった当人である神那ニコ自身が具体的な解決策を提案しようではないか。

 

 

「ぎゃ、逆転の発想をしてみよう」

 

「逆転の発想!?」

 

「そう、もうちょっと砕いてみよう」

 

 

ニコは魔法少女に変身して、バールで散らばった破片を叩く。

バリンバリンと小気味の良い音を立てて壷は更に細かくなっていく。

 

 

「………」

 

 

沈黙。

 

 

「―――」

 

 

間。

 

 

「すまん、意味無かった」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

結果として壷はさらに細かくなっただけである。

どうやらニコも思考がおかしくなっているらしい。

それを止めなかった真司達も真司達なのだが、更に細かくしました、で? どうするんですか! はい、何も考えてませんでした。ってな話である。

 

 

「どぉぉおッすんだよぉおッ!? なんて言えばいいんだぁ!」

 

 

頭を抱えて大きくうな垂れる紘汰。

しかしそこで、ニコはハッと表情を変える。

なんだ、簡単じゃないか。すぐに「心配するな」と一同に話しかけた。

と言うのも、何、忘れちゃいないだろうかニコ様の固有能力を。

 

 

「私の魔法は再生成だ。こんなの、余裕で元に戻せるんだよ」

 

 

おおと声を出す一同。

なんだ、それならば何の問題も無いじゃないか。

安堵の息を漏らす紘汰やまどか、その中でニコはバールを振るって魔法を発動させようと呪文を口にする。

 

 

「はれひれぱんぱかもっちゃりフィィイィイイ!!」

 

 

もちろんこんな呪文を言わずとも魔法は発動できるのだが、どうやらニコも相当頭がおかしくなっていた様だ。

上ずった謎の叫びの後、バールの先端が光り、砕けた破片が独りでに動き出して収束していく。

そしてどうだ、見ろ、破片達が次々に交じり合い一つのシルエットを構成していくじゃないか。

やった成功だ、笑みを浮かべる紘汰達。ニコもまた成功を目に映して魔法のフィニッシュを。

 

 

「パオオオオオオオン!!」

 

「!?」

 

 

バチィイと音がして出来上がったのは立派なゾウさん(※下ネタではありません)の置物だった。

 

 

「違うヤツできちゃったぁああああああああ!!」

 

「えええええええええええええええええええ!?」

 

 

なんだこれは、どういう事なんだ! 誰か分かる様に説明してくれ!

わ、ワシはドリームランドに迷い込んでしまったのかえ!? 再び一同の脳内はパニックに。

仕方ない。壷作ろうと先ほどまで言っていたのに、出来上がったのは動物の象さんの置物なのだから。

 

 

「やっべぇ、元の壷、どんな形してたか完全に忘れちもうた」

 

「えぇええぇ!?」

 

 

ニコは頭を抱えてうな垂れる。

何と言う事だ。全く興味が無かったので、壷がどんな色をしていたか、ましてやどんな形をしていたのかが全く思い浮かばない。

悲しいかな、ココにいる連中は皆芸術には疎い者達だ。

誰もがニコと似た様な境遇であり、そもそも戻すのはニコなのだから教えようも無い。

 

 

「しゃ、写真とかは?」

 

「じ、実は今日がこの天地のお披露目で。だからまだ一枚も」

 

「嘘でしょ……?」

 

 

青ざめる一同。ニコはフムと顎に手を当てて考察を。

何かある筈、何かある筈なんだ。考えろ、ニコはしばらく唸り声を上げていたが、妙案が浮かんだのかポンと手を叩いて目を見開いた。

 

 

「あ、あったぞよ! 一つ、私にいい考えがある!」

 

「に、ニコちゃん! それは一体!?」

 

「ああ、それはな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後。

煌びやかなホテルのホールには、コレまた煌びやかなドレスやスーツに身を包んだ者達が多く見える。流石は一流企業の中でも上位に入る会社だ。それだけパーティもまた規模が凄まじい。

しかしてシャパンを片手に談笑する人々の裏、控え室では煌びやかさとは正反対の光景が広がっていた。

 

 

「まことに、すいませんでしたァ! っしゃらッ!」

 

 

頭が一つ、二つ、三つ、綺麗な感覚を保って並んでいる。

いやはや日本とはつくづく礼儀を尊重する国であるとニコはしみじみ思っていた。

謝罪と一口に言っても細部を見れば多くの種類があるものだ。

レッツトライ、ジャパニーズ土下座。それこそがニコが見出した活路であった。

アメリカでも聞いた事があるぞ、木を切った少年が素直に父に話したら許してもらえたと。

そうだ、そうなのだ、変な言い訳などせず、素直に謝る事、それが謝罪の心であると。

流石に何も悪くないまどかに頭を下げさせる訳には行かないので、中央をニコにして左には紘汰、右には真司を伴い、ニコは壷の持ち主に頭を垂れていた。

 

ちなみに士は「俺がそんな事できるか」等と言って断ってきた。

ちきしょう、なんて野郎だ! ニコは一抹の怒りを覚えたが、そもそも考えてみれば紘汰や真司も何も悪くない。

やべぇ、イチからヒャクまで全部私のせいだわコレ。

 

 

「――ッ」

 

 

とは言え、まあなんだかんだと許してもらえると思っていたのだが。

袋に入った既にペースト状になった元天地を見つめ、壷の持ち主である少女、『ルリ』は目に涙を溜めてフルフルと震えていた。

見れば随分と幼い少女だ、聞けば複雑な事情があるらしいが、今はそんな事どうでもいい。

ルリは袋を掴み、直後、激しくニコたちをにらみつけた。

 

 

「ふざけないでよ! 馬鹿! バカバカバカ!!」

 

 

子供のボキャブラリーでは怒りの言葉も単調である。

とは言えそもそも、感情と言う者が壊れているニコには欠片とて響かない言葉であった。た

だルリが怒っているという情報だけが伝わってきた。

ルリはどうやら壷を割られた事が相当頭に来ているらしい。

馬鹿だの、人でなしだの、警備員は使えないだの。とにかく怒りを言葉に乗せてニコ達を罵倒してくる。

 

 

「………」

 

 

まあなんだ、その中でふとニコは考える。

なんだか怒りすぎじゃないだろうか。

いや悪いのはコチラ故、何かを言う資格はないのだろうが、それでも思ってしまう。

そもそもこんな小さな子が壷なんかに興味があるか? 大切なお人形やお洋服を傷つけられた方が心に来るだろ。

 

そうだ、そうに違いない。

真司や紘汰は申し訳無さそうに眉を顰めているが、ニコの中で謝罪の気持ちは既に吹き飛んでいた。

この目の前にてヒステリックを起こしている少女の気持ちが全く理解できないのだ。

確かに一億の価値がなくなったのは申し訳ない。とはいえ、ルリもこんな場所にこれるのだ。金くらいはあるだろう。

 

だいたいあんな壷、1億の価値があるとは思えなかったじゃないか。

ニコにとってはこの前買ったゲームの方が何十倍も興味があると言うもの。

ああ、萎えてきた、なんだか下らない事で怒られている様な気がする。

ニコは完全にいつもの調子を取り戻し、頭を上げてルリを睨んだ。

 

 

「な、なによ!」

 

「ねえ、お嬢ちゃんさぁ、本当にこんな壷、興味あるの?」

 

「なッ!」

 

「ちょ、ちょっとニコちゃん!?」

 

 

壊したくせに何を言ってるんだ!

偉そうなおじさんが叫んだが、ニコは無視してジットリとルリを見た。

 

 

「純粋な興味だ、答えてほしい」

 

 

するとムッとしたルリが、ボロボロと涙を零しはじめた。

 

 

「天地はおじいちゃんの魂だったのに!」

 

「魂?」

 

 

すると偉そうなおじさんが語りはじめる。

どうやらルリは幼い時に両親が事故で亡くなっており、唯一の親戚である源流に引き取られたのだとか。

祖父と孫、楽しく幸せに暮らしていたのだが、やはり人間はいつかは死ぬもので、源流も天地と、あと一つ壷を作った際に、ついに亡くなってしまった。

 

こうして孤独の身になったルリ。

彼女にとっては天地は祖父の魂が篭った形見なのだ。

ルリは信じていた、祖父の魂が天地に宿っており、自分を見守ってくれているのだろうと。

 

ああ、なんて不憫な話か。

まどかや真司は思わず目に涙を浮かべ、己のミスに自己嫌悪を覚えるが、その中でニコは違った。

ニコは全ての話を聞いて尚、口にする。

ああ下らないと。

 

 

「下らない……?」

 

「宿る訳ないだろ、お嬢ちゃん。人間死んだらそれまでさ」

 

 

むしろ愚かだと、ルリを馬鹿にする。

 

 

「死んだ人間にいつまでも縛られても仕方ないだろう。お嬢ちゃんこそ、馬鹿じゃないの?」

 

 

ニコは壷を割った事に関しては謝罪する。

1億の損失も、最悪再生成の魔法で金を作っても良いと思っている。

とは言えしかし、祖父の魂がどうのこうのと感情論を持ち出されるのは納得がいかない。

知らんがな。その一言に尽きるのだ。

 

 

「ッ! 酷い! 貴女、最低!!」

 

 

ルリは涙を零しながら部屋の扉を突き破り、駆け出していく。

アッと声を上げて他のスタッフに連絡を取りに行くおじさん。

その中で真司達はアワアワと。

 

 

「だ、駄目だろニコちゃん! あんな事言っちゃ!」

 

「追いかけよう、真司さん!」

 

 

真司と紘汰はルリを追いかけに走り、部屋を出て行く。

士はため息をついて、呆れた表情でニコを見た。

 

 

「ややこしくなったな、普通言うか? あんな事」

 

「そうだよニコちゃん。今のは酷いよ!」

 

「……納得がいかん」

 

 

死んだ人間の影を追う事に何の意味がある?

腐った『奇跡』でも起きない限り、一度死んだ人間は帰ってはこない。

全て無意味だ。考えた所で沼にはまるだけ、虚しく何も生み出しはしない。

そんな地獄をルリは背負うのか? 馬鹿な、ありえない。

 

 

「さっさと忘れたほうが良いに決まってるだろ」

 

「ニコちゃん……」

 

 

少なくともニコは、自分がそうだったからこそ嫌悪すべき物であると思っている。

友人を撃ち殺した事でニコは死に縛られ、結果としては人らしい感情を失う事になった。

味覚障害、感覚障害、ルリは違うかもしれないが、ニコとしてみれば同じ轍を踏んでいる様にしか見えない。

 

そんなの、過去の自分を思い出す様で気持ちが悪かった。

ルリだって確かに孤独だが、早々に割り切ったほうが遥かに良い人生を歩める筈だ。

それが何故理解できない。幼いからと言う理由だけではあまりにも間抜けすぎる。

そんな事を思いながら、ニコはもう一度鼻を鳴らして嘲笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

「ルリちゃん!」

 

 

一方、真司と紘汰はホテル裏の駐車場にてルリを発見する。

彼女は背中を丸めて泣いており、随分と同情を誘う姿であった。

ルリの隣にはホテルの支配人が立っており、真司達に頭を下げる。

 

 

「ああ、これはどうも。私はホテルの支配人、鎌田(かまた)と申します。連絡があり、ルリお嬢様を探していましたら、ココに」

 

「どうも! あ……、えっと」

 

 

何と声を掛けていいのやら。

真司と紘汰は顔を見合わせるが、そもそもこの二人に気の利いた言葉が浮かぶわけが無い(失礼)。

とは言えこのままにしておけないのがお互いの長所であるのか、まずは紘汰が声を掛ける。

 

 

「ごめんなルリちゃん。俺達が君の大切にしてた壷、割っちゃって。おじいちゃんにも本当に申し訳ないよ……」

 

「う、うぅぅ!」

 

 

紘汰はしゃがみ込むと視線をルリに合わせる。

彼女の頭を撫でながら、頭を下げていた。

そこで真司も頷くと、同じくまずは謝罪を。

 

 

「ルリちゃんゴメン。でもニコちゃんだって悪いとは思ってるんだ。それは分かってあげて欲しい」

 

「わ、分からないよ! だってあの人……、酷い!」

 

 

やはりそう簡単には分かってくれぬものか。

幼いルリにとって、一度言われた言葉は深く胸に刺さってしまったようだ。

真司としても、ニコがどういう意図であんな事を言ったのかは分からない。

だから曖昧な言葉しか投げられない事に悔しさは感じていた。

だがその時だった、全てのモヤモヤを吹き飛ばす暗雲が立ち込めたのは。

 

 

「!?」

 

 

突如、それは空から現れた。

落雷の様に真司達の前方に降り立った異形。

金と銀の鎧を持った『カマキリ』の化け物は、近くに停めてあった車を吹き飛ばすと、ゆっくりと歩き出す。

驚きに声を上げる一同。特にホテル支配人である鎌田は、突如現れた化け物に驚き、腰を抜かしてしまう。

 

 

「見つけましたよ、私の欠片。そして感じる、創生の果実!」

 

「ッ!」

 

 

化け物はメキメキと音を立てて変形。

するとどうだ? 何とそこにいたのはホテル支配人の鎌田ではないか!

いや、正確には鎌田と同じ顔をした人間が真司達の前に立っていた。

けれどもそれは何か霞が掛かっている様な。

うまく言葉では言い表せないが、不完全な人間体と言うイメージが強く残る。

 

 

「うわぁぁあ!」

 

「あ! か、鎌田さん!」

 

 

真司と紘汰の背後にいた支配人の鎌田が宙に浮き上がると、猛スピードで化け物の鎌田の方に吸い寄せられる。

そこでハッとする真司、どうやらこの欠片の世界にも真司がいたらしい様に、目の前にいる異形の鎌田の欠片(ぶんしん)も、この欠片の世界にいたと言う事なのか。

吸い寄せられた鎌田は異形の鎌田の元にたどり着くと、光が迸り、なんと融合していくではないか。

 

 

「本世界と欠片の世界の鎌田が一つに!?」

 

 

真司と紘汰の前で、一瞬にして融合は完了した。

すると完全に姿を取り戻した『パーフェクト鎌田』が真司達の前に姿を見せる。

どうやらこの男がジュゥべえの言っていたイレギュラー、と言う事なのだろうか?

 

 

「お前は一体何者だ!」

 

 

たまらず紘汰が口にする。

すると鎌田はニヤリと笑って両手を広げた。それは自らの存在を指し示す様に。

 

 

「私は亡霊ですよ。星の歴史に散った私の魂が、禁断の果実の力によって蘇ったのです!」

 

 

すると二重の衝撃。

一つは再び鎌田の姿が変わった事。

それはカマキリの化け物、鎌田の正体である化け物、パラドキサアンデッドの姿であった。

 

そしてもう一つの衝撃とは文字通り体感するものだ。

空間が震えたかと思うと、巨大なサメのモンスター、アビソドンが咆哮を上げながら姿を見せる。

さらにパラドキサは中沢から奪ったアビスのパワーが備わったデッキをかざす。

すると龍騎たち同じくVバックルが出現し、パラドキサはデッキを装填する。

 

すると例外なく変身。いや――、違う。

アビスの鎧とパラドキサの力が融合し、全く新しい異形たるアビスが生まれた。

美しい青よりも濁った青。肩からは鋭利な鎌が突き出し、それは騎士と言うよりも紛れもないモンスターではないか。

D(ダーク)アビスとでも称すればいいか。彼はゆっくりと息を吐き、忌々しい真司達を睨みつけた。

 

 

「この場で私が『死刑』を申し渡す!!」

 

「危ない!」

 

 

Dアビスが腕を振るうと、真空波が鋭利な斬撃となって飛翔。

まずは戦いに邪魔となるだろうルリを排除しようと、その細い首を狙った。

あまりに唐突な出来事にルリはただ固まるだけだったが、既に真司と紘汰は同時に地面を蹴っていた。二人はルリを掴むと、真空波の軌道からルリを外して、庇う事に成功する。

 

 

「ルリちゃんは隠れてて!」

 

「動いちゃ駄目だぜ!」

 

「あ…! え?」

 

 

素早く視線を交わし頷きあう真司と紘汰。

二人はそれぞれデッキとロックシードを取り出して構えを取る。

 

 

「変身!!」

 

「変身ッ!」『オレンジ!』

 

 

龍騎はドラグセイバーを手に、鎧武は大橙丸と無双セイバーを手に走り出す。

一方で手を前にかざすDアビス。カードを使わずとも力が発動されるのか、金と銀のノコギリ状の剣が装備され、それを思い切り振るった。

 

 

「うぐっ!」

 

「おわぁッ!」

 

 

金と銀の旋風が巻き起こり、咄嗟に防御した二人の騎士の装甲が大きく削れていく。

動き出したDアビス。上から下へと振り上げる刃、それを防ぐ龍騎と鎧武の腕が軋む。

 

 

「ッ!」

 

 

なんと言う高い威力か。

それぞれの刃で一旦は防御に成功した龍騎達だが、ドラグセイバーや大橙丸が刃こぼれを起こしているではないか。手に掛かる衝撃もまたビリビリと重い。

 

 

「やべぇぞ真司さん。アイツ相当つえェ!」

 

「おお……ッ、気をつけよう!」

 

 

構え直す二人だが、既にその隙にDアビスは力を溜めていた様だ。

 

 

「余所見をする暇はありませんよ! ハァアッ!」

 

 

金と銀のエネルギーが螺旋を巻きながら発射される。

全てを切り裂く鋭利なエネルギー、それは龍騎と鎧武の前方に直撃すると地面を抉り削り、大きな爆発を巻き起こした。

 

 

「うわぁああ!」

 

 

強い爆風に、龍騎と鎧武の体が宙に吹き飛ばされる。

手足をバタつかせながら地面に倒れる二人。すぐに立ち上がり反撃に転じようとするが、Dアビスは龍騎達のインファイトにもしっかりと反応する力を見せ付けた。

 

 

「フッ! ハァ!」

 

「オッラァ!」

 

「ムンッ!」

 

 

隙を見て突き出した龍騎の一撃と、鎧武の一撃を、Dアビスは二つの剣でしっかりと止めてみせる。

そして大きく体を旋回させ、再び金と銀のカマイタチで龍騎たちの装甲から火花を散らせた。

 

 

「ど、どうしよう……! おじいちゃん――ッ!」

 

 

ルリはガタガタと震えながら青ざめ、ただ龍騎たちが無事である様に祈るしかできなかった。

幼い少女が体験するには大きすぎる恐怖が小さな背中を駆ける。

だからだろうか? 走馬灯の様に祖父の顔が脳裏に蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――それが、人の救いにもなる」

 

「!」

 

 

一方、ニコは士の言葉にピクリと肩を動かした。

人の救いになる、何が? 決まっている、他者の死に縋る事だ。

ニコはそれを絶対の悪、過ちとして考えていた。しかし士はそうではないと口を挟む。

そもそもこの世の中に絶対的な間違いがあるのだろうか?

 

そして過ちを犯す事の定義と意味、真理。

パッと思いつく過ちはそう、人を傷つける事、殺める事だ。

しかれどもその道を歩いてしまった、それが自分達だろう。

 

 

「ッ、お前……」

 

「俺は破壊者だ。多くの存在を破壊してきた」

 

 

しかし士がココにいることは事実だ。

何故立っているのか、何の為に立っているのか。

戻れぬ道は無い、たとえ過ちを歩いていても、それを間違いだと決め付ける事はできない。

であるならば、どう考えるのか、何を見出すのかだ。

 

 

「アイツにとって、死に縋る事は救いなのかもしれない」

 

 

士は虚空を睨んで口にする。

ルリは確かに間違っているのかもしれない、それはもちろんニコから見れば。

しかしルリにとって祖父に死に縋る事は、それしかない希望なのではないか。

縋りたくなる時もあろう、人はそんなに強くはなれない。

 

 

「それでも俺達は生きなければならない」

 

 

間違える事もあるだろう。苦しむ時も、苦しめる時も。

だがそれを背負って、生きていかなければならないんだ。

自分達はまだ恵まれていると、士は口にした。

彼は魔法少女の宿命の事を知っている様な口ぶりで、ニコ達を見る。

 

 

「恵まれている?」

 

「ああ、俺達には明確な力がある」

 

 

しかし、本当の力とは心の強さであると士は言う。

ルリは戦っている、今、ニコ達には分かりにくいだろうが確かに戦っているのだ。

この先の世界、生きていく事に苦しみながらも生きていく為に戦っていくのだ。

 

 

「心の、強さ……」

 

「ああ、ルリは生きるために心で戦っている」

 

 

たとえ死に縋ろうとも、それが間違いだと思われようとも。

割り切るために、生きていくために、ルリは戦っている。

見えない恐怖、重圧、恐ろしい未来に立ち向かおうとしているのだ。

 

 

「………」

 

 

ニコは何も言わなかった。反論も、賛同も。

言葉を続ける士。では自分達はどうするのか――?

 

 

「俺はかつて、志を共にした男の腕を奪った」

 

 

その男が、士にこう言ったのだと言う。

 

 

「たとえ孤独でも、命ある限り戦う」

 

 

力ある自分達は、何の為に、何を思い戦うのか。

皆、戦い続けている。今日もどこかで何かと戦っているのだ。

何の為に? 誰の為に? 何を成すために――?

 

 

「それが――」

 

 

士の言葉は最後のほうで霞む。

しかしニコ達の心に、しっかりと届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の為に創生の果実を手にしようとする!」

 

 

駐車場。爆発の中で鎧武は立ち上がり、Dアビスを睨む。

既に大橙丸は折られ、龍騎もまた膝をついて呼吸を荒げている。

しかしそれでも龍騎は立つだろう、鎧武と同じ様に。

それは彼等の中に跪けないと言う想いがあるからだ。戦うと言う意思があるからだ。

何の為に、誰の為に。

 

 

「再び力を手にする為にですよ! 禁断の果実の破片、それがあれば世界を手に! 支配の力を手にする事ができる!」

 

「ふざけんな! 人間は人間の意志で生きていく。それを支配するなんて資格、アンタにある訳ねぇだろ!」

 

 

鎧武が怒るのは、彼の中にある正義がそれを許さないからだ。

それは紘汰の心が決める独自の正義感。それが正しいかどうかは時に周りが決め、時に力が決めるもの。

 

真司もそうだった。

真司は真司の正義を貫いたからこそ賛同してくれる物が現れたのだ。

そして今、鎧武の言葉に龍騎もまた頷いた。

何の為に戦うのか、それを間違えない、全ては人々の自由と笑顔、人が人で生きていくために戦うのだ。

 

そこに支配はいらない。

鎧武はホルダーから一つのロックシードを取り出すと、それを気合の咆哮と共に起動させる。

ロックシードの名が告げられ、鎧武はそれを叩きつける様にベルトへセット。

殴りつける様に錠をかけた。

 

 

「俺達は支配される程、馬鹿でも弱くもねぇ!」

『カチドキアームズ!』『いざ、出陣!』『エイエイオーッ!!』

 

 

重厚な鎧に身を包んだ鎧武。

パワーアップ形態、カチドキアームズ。

鎧武は背中についている二対の(フラッグ)を取り外すと、それを剣の様に持ち二刀流で走り出す。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

雄叫びと共に鎧武はDアビスの眼前に迫りフラッグを振るう。

鎧武のオレンジ色のエネルギーが炎の様に纏わりつき、フラッグを振るう毎にオレンジ色の火花が散った。

その光は銀と金のエネルギーを飲み込む、まさに炎。

鎧武は豪快にフラッグを降るい、ブンブンと風を切り裂く音と、フラッグが剣にぶつかり合う音が響き渡る。

 

 

「ウォッラアアアアアアアアア!!」

 

「グッ! おのれェエ!」

 

 

旗を投げ飛ばす鎧武。

ブーメランの如く旋回するフラッグはDアビスを押し出し、後方へ強制的に移動させる。

続いて巨大な火縄銃型の武器、『火縄大橙DJ銃』を取り出すと、カチドキロックシードを装填してチャージを開始する。

 

 

「ッ、させるか!」

 

 

カチドキを止めようと走り出すDアビスだが、前方に次々と炎弾が降り注ぐ。

止める足、見上げればそこには真紅の龍が咆哮を上げていた。

ドラグレッダー、つまりはアドベント。龍騎もまたアクションを起こしており、ストライクベントを発動してドラグクローを装備する。

 

炎弾で怯んだDアビス。

その隙に龍騎はドラグレッダーを旋回させて構えを取る。

鎧武はそれを見て、龍騎の隣で銃口を光らせる。

二人は再びアイコンタクトを取ると、鎧武は引き金に指をかけ、龍騎は思い切りドラグクローを突き出した。

 

 

「ヤアアアアアアアアアア!!」

 

「ウッラアアアアアアアア!!」『カチドキチャージ!』

 

 

双方緋色に輝く弾丸が発射される。

それは何と軌道の途中で交じり合い、巨大な一つの炎弾となってDアビスの前に迫る。

彼は舌打ちを混じえつつ剣をクロスさせて盾と変える。

そこに直撃する弾丸。凄まじい衝撃がDアビスを包み、直後遥か後方に吹き飛んでいく。

 

 

「おのれぇえッ!」

 

 

想像以上に凄まじい力だ。

Dアビスは呻き声を上げながら背後にあったトラックの荷台に直撃する。

トラックの荷台は大きくへこみ、逆を言えばそれで済ませたDアビスの防御力を褒めるべきなのか。

だが防いだものの本体のダメージは大きいらしい。

Dアビスの鎧が粉々に砕け、パラドキサの姿がさらけ出される。

 

 

「クッ! 鎧が上手く馴染まない……!」

 

 

それはアビスの力が既に鎌田ではなく、中沢と下宮に宿っているからだろう。

そもそもこのアビスの力は魔獣がミラーモンスターの力をコピーし下宮に与えた、いわば模造品。

鎌田にはある種、免疫反応と言うべきか、拒絶反応を起こしているのだろう。

だがパラドキサには自信が、圧倒的な余裕があった。それは彼の名前が証明している事だ。

 

 

「無駄ですよ!」

 

「ッ、何!?」

 

「私はアンデッド、不死ですからね」

 

「!!」

 

 

そんな馬鹿な話があって良いのか? しかしパラドキサの言う事は事実なのだ。

アンデッド、それは文字通り死をもってしても倒せぬ存在。

ではどうすればいい? 決まっている。今の龍騎と鎧武ではパラドキサを倒す事はできないのだ。

 

しかし、考えてみて欲しい。

何かを忘れてはいないか? 今の敵はパラドキサであるが、果たして本当に彼だけが『敵』なのだろうか?

 

 

『いや、それは違う』

 

「ッ!」

 

「何……!?」

 

 

声が聞こえた。

考えてみれば当然の話だったのだ。

敵はパラドキサだけではない、彼はあくまでも利用されたというべきが正しいのか。

全ての元凶が今、姿を現した。

 

 

「ぐあああああああああ!!」

 

 

パラドキサの体を突き破るのは植物の蔓だ。

一方でどこからともなく大量のイナゴが飛来。

同時に地面を突き破って現れたアビソドンに融合していく。

 

これは一体どういう事なのか?

混乱する龍騎達の前により禍々しく進化したアビソドンがいた。

まるで出目金(デメキン)の様に盛り上がった目は赤く濁っており、それはいつぞやのイナゴ怪人を思い出させる。

 

そして息を呑む鎧武。

パラドキサの身体に蔦を張り巡らせているのは間違いない。

鎧武には馴染み深いヘルヘイムの森、その植物だ。

 

 

「お前、コウガネか!」

 

『正確にはその欠片だ。そうだな、「深淵(しんえん)」とでも名乗ろうか』

 

 

簡単に言えば、侵略者。

世界と言う銀河をさまよったその意思は鎌田の魂をサルベージし兵士として利用。

そしてこの世界に降り立ち、今まさに目的を達成しようと言うのだ。それはパラドキサがぶつかったことで横転したトラックに秘密があった。

荷台からは荷物が飛び出し、それを見たルリは声を上げて走り出す。

 

 

「だ、駄目だルリちゃん! ソイツに近づいちゃ!」

 

 

ルリは龍騎の忠告を無視する。

いや正しくは聞いていなかった。聞こえていなかった。

何故ならば今の彼女にとって、一番大切な物が地面を転がっていたからだ。

 

それは天地と対をなす、源流の形見にして最後の作品、『無双』と呼ばれる壷である。

死に縛られてはいけないと、幼いながらルリも分かっていた。

しかしそれでも、それでも縋りたいと思うのは弱さなのだろうか?

寂しいから、辛いから、楽しかった思い出を残してくれるアイテムが欲しいのだ。

ルリは無双が入った箱を見つけると、可能な限り全速力で駆け寄った。

危ないとは分かっている。分かっているが、それでも――ッ!

 

 

「グッ!」

 

 

ルリを助け出そうと走り出す龍騎と鎧武。

しかし深淵は赤い目を光らせると、ヘルヘイムの蔦を召喚。

無数の植物の鞭が龍騎と鎧武の体を打つ。

それだけではなく口からは黒い水流を発射。その勢いと威力は凄まじく、龍騎達は叫びをあげて地面を転がった。

 

 

『植物が養分を吸いだす様に、地中の水分を吸いだす様に、私もまた宿主の力を吸い取れる』

 

 

寄生生物、それが深淵の正体。

アンデッドであるパラドキサに寄生した深淵は今この瞬間パラドキサを切り捨てる選択を取った。

吸い出すのは当然不死の力、深淵はパラドキサの不死を吸い取ると、己の力に変えてみせる。

そうすると、もう用の無いパラドキサは要らない。ヘルヘイムの植物の養分になって死んでもらうのが一番だろうと。

 

 

『もはや今の私に敵はない!』

 

 

不死の力を授かった今、怖い物は無い。

けれども深淵は慎重だった。保険の為、もう一つ強力な鎧を手にする事に。

それは簡単、目の前にいるルリである。

 

 

『お前達は些細な絆を尊重する。私にとっては非常にありがたい話だ』

 

「きゃああああああああ!」

 

「ッ! ルリちゃん!!」

 

 

手を伸ばす鎧武だが、深淵の巨大な尾ビレが鎧武を弾き飛ばし、龍騎も水流で押し出される。

その隙に深淵は自らの体から無数のイナゴを飛ばしていった。

イナゴ達はルリに群がると衣服に噛み付き、持ち上げる。

 

ルリはイナゴに運ばれ深淵の体の中に埋め込まれる。

深い底無し沼に沈められた感覚、上半身だけが深淵の額から姿を覗かせる。

 

 

「テメェ! きたねぇぞ!!」

 

『なんとでも言うが良い! だがコレで貴様らは私を攻撃する事すらできんな!!』

 

 

深淵はどうやら龍騎達の性質をよく理解しているらしい。

額に埋め込まれたルリは深淵にとって最強の盾だ。

龍騎達は攻撃がルリに当たる事を恐れ、一方で深淵はルリが死のうが何の問題も無い。

であるなら簡単だ。深淵は目を光らせてそこから闇の波動を発射した。

ルリに気を取られていた龍騎達は防御が遅れ、爆発に揉まれてしまう。

 

 

「ぐあぁ!」

 

「ズッ! ぐっ!」

 

 

地面を滑る二人。

そして深淵は最後のピースをはめる為に、地に落ちた無双を拾い上げる。

 

 

「やめて! それはお爺ちゃんの――!」

 

 

バキンッ! と、音がした。

ルリは目を見開いたまま動きを止める。

一方で砕いた壷の破片を取り込んでいく深淵。

全てはこの時、この今、そしてこの状況を完成させることにあった。

 

天地と無双は未知の鉱物、ジェネシスをすり込んでいると言う説明だった。

そう、そのジェネシスこそが深淵がわざわざこの世界に足を踏み入れた原因である。

つまりそれこそが創生の果実なのだ。

 

 

『まさかこんな下らない壷を作る為に使われるとは。物の価値が分からない人間はこれだから困る』

 

 

破片を取り込んだ事でより深淵の力が上がっていく。

対して、涙を零すルリ。これで祖父が生きた証が消えてしまったような気がして、それを思えばボロボロと涙が零れてきた。

 

 

「お前、何するんだよ! ルリちゃんにとってそれがどれだけ大切な物か分かってんのかよ!」

 

『ハッ! 知った事か!!』

 

 

深淵は黙れと、衝撃波を発生させた。

龍騎と鎧武は再び叫びを上げて吹き飛び、超過ダメージからか地面を転がりながら変身が解除される。

 

真司が体を起こすと、やはりと言うべきなのか、無数のイナゴが牙をむき出しにしながら飛来してくるのが見える。

しかしココで衝撃。桃色の壁が真司と紘汰を守る。

 

 

「真司さん!」

 

「まどかちゃん!」

 

 

聞きなれた声がして龍騎が視線を移すと、そこには空中を飛行してくるまどかが見えた。

さらにディケイドを模したバイク、マシンディケイダーに乗り込み駆けつける士と、その背後にしがみついているニコが見える。

 

三人は状況を素早く確認。

見た事の無いパラドキサが悶え苦しんでおり、倒れている真司と紘汰。

そして空中に浮遊するのは巨大なサメとイナゴを合成させた様な化け物だった。

何より、その額には埋め込まれる様にして存在しているルリが見えるのだから。

 

 

「なるほど、だいたい分かった」

 

 

つまりなんだ、良い状況ではないと。

士がバイクから降りると、パラドキサが彼等に向って手を伸ばす。

 

 

「た、助けてくれぇッ!!」

 

「お前、鎌田か……!」

 

 

既に用済みとして見なされたパラドキサには、植物の侵食が大分進んでいた。

既に自力で立ち上がる事すらできないらしい。

伸ばした手にも無数の蔦が絡みつき、眼球を突き破って外に出ていた蔓が、より一層痛々しさを煽る。

 

 

「お前……」

 

「コイツ敵だろ、ほっとけばいいじゃん」

 

 

ニコがそう口にしたのと同時だった。

巨大な『乙女』がパラドキサを包み込むように抱き締めたのは。

それは全ての呪いから対称を救済する慈愛の光り、パラドキサを包み込んでいたヘルヘイムの力が消滅すると、パラドキサは呻き声を上げてだらしなく手足を広げた。

 

 

「おいおい、本気か?」

 

 

ニコの視線の先には、まどかが弓を構えている。

どうやら乙女座のスターライトアローでパラドキサを助けたらしい。

ニコは再び呆れ顔でやれやれと手を広げた。全くもって理解ができない、敵であろうパラドキサを助ける理由等、一つも存在しないのに。

 

 

「ごめんね。でもあんなの、あんまりだよ……」

 

 

植物に身を侵食されて死ぬ。

いくら敵だったとしてもその尊厳を否定する死は、否定したい。

 

 

「それだけだから」

 

「まあいい、どうせもうソイツは動けない。それより問題は上のヤツだ」

 

 

士は顎で深淵を指し示す。

深淵は新たに増えた参加者を一蹴し、笑い声を上げていた。

何人増えようが同じ事だ、勝利は揺るがない。

確かに創生の果実を取り込んだ事で、より一層禍々しい威圧感を放っている。

しかしその中で、対比する様に埋め込まれていたルリが口を開いた。

 

 

「みなさん、お願いします、私を……ッ、殺して」

 

「!」

 

 

未だに事情が分かっていないルリであるが、目先の事くらいは理解できる。

これより自分は盾にされ、そのせいで真司達は深淵と戦えない。

であるならばルリに迷いはなかった。

 

 

「おじいちゃんも……、いないし」

 

 

身寄りが無く、孤独な世界に生きていく理由等あるのだろうか?

幼い彼女は自問を重ねていた。恐怖はある、しかれどもこの先何も見えない世界で生きていくよりはまだ、ココで消えてしまう方がいいのかなと思ってしまうのだ。

 

 

「だから――、お願いします」

 

 

弱弱しく呟き、ルリは一筋、涙を流した。

唐突な殺害依頼に言葉を失う一同。それはきっと。少なくとも真司達がルリの気持ちが理解できるからであろう。

大切な人を失う辛さ、生きていく事の重圧、何度も味わってきた。

そんな彼等が今尚立っているのは、周りに仲間がいたから、それを受け入れる心の力があったから。

 

しかしルリは幼い。

それに周りには誰も無い。ああ何と不憫な……。

そして、その中、深淵だけは尚も笑い続けていた。

 

 

『いつの世も、どこの世界も、人間とは愚かだな』

 

「何ッ!」

 

『脆い。そして何より、弱い!』

 

 

ルリと融合したからなのか、彼女の意識が深淵に伝わったようだ。

そこで分かる心の脆さと弱さ。人は孤独には耐えられない、人は不安には耐えられない。

ああ何と弱く儚く愚かな生き物だろうか。考えただけで笑えてくると深淵は言う。

やはりこの様な脆弱な存在は支配者には相応しくない。

神に選ばれし存在こそが人を超えるべきだと。

 

 

「弱くて、何が悪い」

 

『何……!』

 

 

そこで一歩、士は前に出る。

思わずルリは反射的に士を見た。そこで珍しく、士はルリの笑みを向ける。

それはニヤリと不適なものだった。果たして士はルリを安心させるために笑ったのか、それとも深淵を挑発する為に笑ったのか。

おそらく、そう、両方の意味があったのかもしれない。

 

 

「その弱さもまた、人が人で在る為の証だ」

 

『ッ』

 

「人は弱い? 当たり前だ。だがだからこそ人は弱さを知っている」

 

 

弱さを知る事で人に優しくし、他者をいたわる事ができる。

同じ痛みを持つものを励まし、いたわり、救おうとする思いがもてる。

 

 

「それは、紛れもない強さだろ!」

 

『ハッ! 笑わせる!』

 

「そうだ。人は、弱いから強くなれるんだ」

 

 

士の言葉にニコは目を見開いた。それはルリも同じだろう。

弱いから強くなれる。それは決してその弱さが罪ではないと言う事だ。

間違ってなどいないと言う事だ。

 

ああそうか、それが真理だったのか。

思えばニコはどうしてココに立っているのだろうかと自問を。

それはずっと馬鹿にしてきたまどかの弱さに憧れを抱いたからではないのだろうか?

まどかの目指す世界が見てみたいと思ったからではないのだろうか?

 

弱い鹿目まどかの仲間になりたいと思ったからではないのか。

ならば訂正しなければならない。命を賭けた戦いにて弱いヤツに付く意味はない。

だからこそ答えは一つ、まどかは弱くは無かったと言う事じゃないか。

 

 

「うーむ」

 

 

唸るニコ。

であるならば、ココは一つ、成し遂げなければならない事があるかもしれない。

 

 

「ルリ」

 

「……ッ!」

 

 

ニコは、ルリの目を見て、ニヤリと笑った。

それは間違いなく、ルリを安心させるために浮かべた笑みだった。

 

 

「助けてやろう」

 

「え……」

 

「や、ま、私は弱いから。助けるのはコイツらだけど」

 

 

ニコはまどか達を見る。続いて、再びルリを見る。

 

 

「生きれば良い。死を覚える必要なんて無い」

 

 

誰もがそうだ。

たとえ死にたいと思っても、生きたいに決まっているのだ。

死に縛られている訳ではない。死を尊ぶ事がルリの役目だ。それを間違えてはいけない。

 

そうか、申し訳なかった。

ニコはつくづくそう思う。何もルリは祖父の死に縛られている訳ではなかった。

ああごめんなさい、結局、まだ死に縛られていたのは自分だったか。

 

 

「生きろ、ルリ。お前はココで死ぬにはもったいなさ過ぎる」

 

「………」

 

 

そこで再び笑い声。

何を馬鹿な事をと、深淵は目を光らせた。

助けられる訳などない、それにニコ達はココで死ぬのだ。

深淵は口から黒いエネルギー波を発射、ニコ達を塵に変え様と殺意を解放する。

 

だが前に出るまどか。

防御魔法アイギスアカヤー、召喚せし天使が構えた巨大な盾にて、黒いエネルギーは完全に遮断された。

 

黒い奔流に包まれる中、一同は素早く作戦会議を。問題はどうやってルリを助けるか、だ。

パッと思いつくのはまどかのスターライトアローが乙女座だろうが、乙女座はそれ自体に判定がある。

つまりルリに到達する前に深淵が蔓や水流等で矢を妨害すれば無効化されてしまうのだ。

 

初見殺しと言う言葉があるが、深淵は既にパラドキサを助ける為に放たれた乙女座を見ている。

つまり向こうに効果がバレていると言う事だ。

これは困った話――、か?

 

 

「……私がやりましょう」

 

「!」

 

「え?」

 

 

振り返る一同。するとヨロヨロと立ち上がるパラドキサが見えた。

なんだ? 一同が構えると、パラドキサが手を上げる。

それは紛れも無い、敵対の意思がないと言う事を示すものだった。

すると彼から驚きの提案が持ち出される。

 

 

「私がルリさんを助けましょう」

 

「はぁ? 信じられねー!」

 

 

ニコは隠す事なく、警戒心を露にしながら、訝しげな目でパラドキサを見た。

いや無理もない。むしろまどかを除く全員が同じ目でパラドキサを見ていただろう。

当然それは本人とて分かる話である。本当につい先ほどまで殺し合いをしていた者がいきなり協力などとは。

だがパラドキサは本心だった、それを説明していく。

 

 

「私はまもなく……! 消え去るのでしょう」

 

「ッ」

 

 

見れば確かにパラドキサの体が透けているのが分かった。粒子化も始まっている。

そもそも彼は元々死人であったのだ。その魂の欠片を、深淵が己の力で補強して具現させた使い魔でしかない。

 

脆く、ましてや深淵が不要と判断した為、力の供給は消えた。

つまり補強分の構成が失われ、元の魂に戻ろうとしているのだ。

そしてあのヘルヘイムの蔦が、想像以上に体を蝕んでいた。

 

ましてや体を植物が蝕んでいく恐怖と苦痛。

しかしそこから救いの手を差し伸べてくれたのがまどかだ。

パラドキサもまた人を見下す怪人でしかない、がしかし、『心』が存在している一つの存在でもある。

 

 

「借りを残して消えるのは、私の主義に反するのでね」

 

「………」

 

 

士は腕を組んで鼻を鳴らす。

何とも信じられない話だ。

信じられない話だが――。

 

 

「まあ、いいんじゃないか」

 

「え……? でも――」

 

「そういう戦いなんだろう? 城戸真司、鹿目まどか、神那ニコ」

 

「ッ!」

 

 

つい先ほどまで殺しあっていた者が手を取り合う戦い。

なるほど、道理ではないか。三人は頷き合い、意志を一つにまとめる。

信じる事もまた、強さの一つであると。そして手放しで信じる事が正解ではない。

まどかもニコも意識を集中させる。もし仮にパラドキサの言葉が嘘であったとしても、ルリを死なせない為に。

そしてその上で信じる。まどかが代表してパラドキサを強い視線で貫いた。

 

 

「お願いします! ルリちゃんを切り離して!」

 

「分かりました」

 

 

パラドキサは鎌田の姿に戻り、そして鎌田はデッキを前に突き出す。

 

 

「変身!」

 

 

セットするデッキ。

アビスの鎧が鎌田に与えられた。

中沢が変身するのと同じく、セルリアンブルーの輝きを持った騎士、アビス。

 

 

「ムッ!」

 

 

丁度そこで深淵の攻撃が終わる。

そこそこの威力を持った攻撃だったが、まどかの盾にヒビを入れる程度に終わった事が予想外だったのだろう。

そして気づく、盾が消えればそこにアビスが立っていたのが。

 

 

『裏切るか鎌田! だが死に掛けのお前に何ができる!』

 

「たとえばそう、こんな事ができますよ!」

 

 

アビスは腕に水流を纏わせ、直後その手を思い切り振るう。

すると圧縮された水の刃が発射された。

まさに死力を尽くした一撃、深淵はすぐに蔦で防御を行うが、ウォーターカッターは次々にそれらを切り裂いて深淵に向っていく。

 

 

『おのれッ! だが――!』

 

 

ルリを前に突き出す。

そうだ、このままの軌道ならばカッターはルリに命中していただろう。

しかしココでアビスは手を動かした。するとそれにシンクロする様にしてカッターも移動、見事に深淵の額、ルリに触れないギリギリの位置に刃を突き入れる。

 

 

『ぐぁぁああ!!』

 

「きゃああ!」

 

 

驚きに声を上げるルリ。

しかし彼女に怪我はない。カッターは見事に埋め込まれた部分をくりぬく様にして、深淵の額の肉を剥ぎ取った。

 

深淵から分離するルリ。

それを見てニヤリとアビスは笑う。

既に粒子化は限界状態まで進んでいた。

己の運命の結末が人を助けて終わる事に、皮肉めいた物を感じていた様だ。

 

 

「では、これにて失礼」

 

「あ……!」

 

 

アビスは手を挙げる。

丁度そのタイミングで粒子化は完了し、アビスのデッキだけが地に落ちる結末となった。

儚く、悲しいものだ。一瞬だけとは言え、アビスもまた人を守る為に力を使ったのだから。

もっともパラドキサ(アビス)としては、ただ自分を利用した深淵に一泡吹かせたかっただけなのかもしれないが。

 

たがそれでも、この結果は結果だ。

アビスはルリを傷つける事無く、見事に深淵から切り離してみせた。

今はそれだけで十分だ。そこでまどかの目が光る、彼女のテンションが最高潮のボルテージに達し、それだけ魔力もまた洗練される。

 

 

「お願い皆ッ! 敵の気を引いて!」【アライブ】

 

 

光がまどかを包むと、直後その姿が女神の様なものに変わった。

アライブ。騎士の力を介し、魔法少女が強化される魔法である。

まどかはアルティメットと呼ばれる姿に変身。強化された弓を持って狙いを定める。

 

 

『グッ! おのれ!!』

 

「任せろまどかちゃん!」

 

 

すぐにルリを回収しようとする深淵だが、その前に真司達が並び立った。

中央を真司にして、右に士、左に紘汰。

彼等もまたココが決着の時と見出したか、それぞれ変身アイテムと共に、もう一つ意思と力の結晶を取り出してみせる。

 

 

「さあ行こうぜ、ココからは俺達のステージだ!!」『フルーツバスケット!』

 

「俺は破壊者だ。全てを終りにしてやる!」『ファイナルカメンライド――』

 

「ああ、ルリちゃんを助けて、全部終りにしよう!」【サバイブ】

 

 

同じく光に包まれる三人。

輝きが晴れると、その中から三人の騎士が姿を見せた。

 

銀の鎧とマントを靡かせるのは鎧武・極アームズ。

胸の鎧に、多くの騎士の姿を伴わせるディケイド・コンプリートフォーム。

そして赤く燃える輝き、龍騎サバイブ。

三人の騎士はルリを狙う深淵を止める為、各々が持てる力を存分に解放していく。

 

 

『ファイズ・カメンライド』『ブラスター』

 

『イチゴクナイ!』『影松!』『大橙丸!』『バナスピアー!』『メロンディフェンダー!』

 

【シュートベント】

 

 

巨大なレーザー砲。次々と飛来する武器。青白いレーザーとドラグランザーの火炎弾。

三人の弾丸は次々に深淵の体に直撃し、ルリから引き剥がす様に後退させていく。

その隙を見てまどかはスターライトアローを発射。

アライブ体となった事で詠唱無しでも星座を司る天使を呼び出す事ができる。

 

乙女座の天使ハマリエルはより強大に、より美しく進化しており、両手を広げて猛スピードでルリの元に駆けつけると、抱きしめるようにして呪いを解除した。

深淵の肉体からルリを引き剥がし、ハマリエルはルリを抱き締めたまま後退。

まどかの下へと舞い戻る。

 

 

「よいしょ!」

 

「きゃ!」

 

 

戻ってきたルリをキャッチしたのは、ニコだ。

未だに何が起こっているのか分かっていないルリを、意地悪な笑みを浮かべて見ていた。

 

 

「全部夢だ。悪い夢、起きたら、しっかり生きるんだぞ」

 

「あ……、あの」

 

「ほら、もう終わる」

 

 

ニコが見ている方向を、ルリも見る。

そこには確かに終りの光景があった。煙を上げている深淵、そんな馬鹿なと口にする。

三人の騎士の力は完全に想定外だ。それはそれだけ彼等が歩んできた道を軽視していたと言う事。

 

だが余裕はあった。

何故ならば深淵はパラドキサからアンデッドの力を吸収している。

つまりは不死、負けは無いと。だがそれも、破壊者が文字通り壊してしまう。

 

 

「その力は俺には効かない。俺は、不死をも破壊する!」

 

『ば、馬鹿な! なんだそれはァア!!』

 

 

全くである。

全くであるが、それがディケイドの力なのだから仕方ない。

三人の騎士は頷き合うと、同時に地面を蹴って足を突き出した。

 

 

『ファイナルアタックライド』『ディディディディケド!』

 

【ファイナルベント】

 

『キワミスパーキング!』

 

 

無数のホログラムカードを通り抜けるディケイド。

ドラグランザーの火球に包まれ両足を突き出す龍騎。

虹色に輝く足を突き出す鎧武。

三人の輝きは、抵抗に放たれた黒い水流を物ともせずに突き進んでいく。

 

 

「ヤァアアアアアアアアアッ!!」

 

「ダアアアアアアアアアアッ!!」

 

「セイッハァアアアアアアッ!!」

 

 

深淵を突き破る三人の飛び蹴り。

ディケイドの破壊の力が作用し、アンデッドの不死の因子を破壊してみせる。

 

 

『ガァアアァァアァアァアッ!!』

 

 

エネルギーが暴走し、深淵は断末魔を上げたかと思うと、直後粉々に爆発した。

創生の果実の欠片では、どうやらこの三人の騎士の敵では無かった様だ。

着地する三人はそれぞれの構えを取ると、変身を解除。辺りには驚くべきほどの静寂が齎される。

ルリは自身が助かった事に安堵を覚え、そのまま気絶してしまった。

 

 

「……!」

 

「お、おはよう」

 

 

ルリが次に目を覚ますと、そこはホテルが一室の、ベッドの上だった。

爆発だのなんだのとあった為、結局パーティは中止となった。

いや、だがまあそんな事はどうでもいいだろう。

部屋にいたニコは、ルリの前に一つの壷を置いてみせる。

 

 

「アレ、コレって……!」

 

 

それは紛れも無い、ニコ達が最初に割った壷、『天地』であった。

かろうじて形を思い出したニコ。まあ模様は完全に忘れている為、同じものではない。

しかしルリは笑顔になってその壷を手にした。

なぜならばルリもまた天地の模様などは覚えていていないのだ。大切なのはその『存在』である。

 

 

「お姉ちゃん魔法が使えるんだ」

 

「ほんと……? 凄い」

 

「ごめんな、大切な物を壊しちゃって」

 

 

ニコはルリの頭を撫でると、一つ、お願いをしてみる。

 

 

「生きろ、辛くても生きてれば何とかなる」

 

 

孤独かもしれない。

けれどきっとルリが必死に生きたら、清く、正しく、優しく生きる事ができれば、きっとその孤独も早々に終わるだろう。

人は沢山いる。誰かがきっとルリの孤独を癒してくれるだろう。

 

 

「だから、生きろ。お前の味方はたぶん、沢山出来る」

 

「うん……」

 

「うむ。ではな、私は帰るよ」

 

 

深淵を倒した事で、ジュゥべえは真司達に元の世界に帰るトンネルを出現させた。

そう長くこの世界にはいられない。

まあそれをルリに言う事はないが、ニコは手を振ってホテルの部屋を出て行こうとする。

すると、おずおずと、ルリが口を開いた。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「あり……が、とう。私、生きるね」

 

「フフッ。ああ、それがいい」

 

 

そしてニコは部屋を出て行った。

欠片の世界とて、ルリが生きる間くらいは持つだろう。

たとえもう永遠に出会う事がないとしても、ニコはルリの幸せを本気で祈った。

一方でホテルの下、そこで真司達は別れの言葉を口にしていた。

 

 

「結局あんた達は……」

 

「気にするな、だいたい分かれ」

 

「は、はぁ」

 

 

士の背後には灰色のオーロラが揺らめいていた。

結局士と紘汰がなんだったのか、真司にはよく分からない。

けれどもこの胸に宿る懐かしさがある以上、きっと彼等とは深い関わりがあるのだろう。

 

 

「いつかまた、会う時がくる。その時は一緒に戦おう」

 

 

士は手を振ってさっさとオーロラの中に消えていく。

紘汰も士を追いかける為に走り出した。

 

 

「じゃあまたな真司さん。まどかちゃん。頑張れよ!」

 

 

こうしてアッサリと別れは終わった。

丁度そこでニコが降りてきたので、真司達も帰る事に。

トンネルを潜り抜けると、そこはもう元の世界だ。

一瞬目の前がブラックアウトし、気づけば眼前にはジュゥべえが立っていた。

 

 

『いよう! お疲れさん! アビスの力も戻ってきたし、一段落だな!』

 

「……あれ?」

 

 

真司はハテと首を傾げる。

 

 

「俺、何してたんだっけ?」

 

「ジュゥべえ、どうしてココにいるの?」

 

「んー?」

 

 

ニヤリと笑うジュゥべえ。いやなんだ、いろいろ覚えられては困る事もある。

ココは一つ、なんだ、ジアンサーを開いてあげたと言う事を引き換えに、三人の記憶を消させてもらいましょうと。

 

 

『いやいや、なんでもねぇよ。大丈夫大丈夫。オイラは本当に助かったから』

 

「お前、その言い方……、記憶消したな」

 

『ギクッ! あ、いや! まあほら、本当に何にも悪い事は起こってねぇから! な!』

 

「ったく、この屑が」

 

「ま、まあまあニコちゃん。こうして何も無いわけだし、ね?」

 

 

なだめるまどか。まあ確かにと真司も納得していた。

 

 

「事実、俺達、またココにこうして無傷でいるしな」

 

「はぁ、本気かよ」

 

 

それを見てため息をつくニコ。

こんなお人よし、ありえないだろと。

 

 

「まあでも、いいよ、私も許してやる」

 

『お?』

 

「なんか大切なものを、教えてもらった気がするから」

 

 

珍しく、ニコは笑ってみせる。

 

 

「へぇ、それってどんな事?」

 

「や、覚えとらん」

 

『な、なんだよそれ』

 

「まあ気分だよ気分。それよりなんか食いに行こうぜ城戸、まどか」

 

「あ、じゃあ蓮の店に――」

 

 

ジュゥべえを置いて、さっさと真司達は歩き去ってしまった。

まあ何はともあれこれで事態は丸く収まったか。

『面白い物』も手に入ったし、ジュゥべえは一枚のカードを口にくわえてみせる。

そう、パラドキサの絵が描かれたカードを。

そこで気配。ジュゥべえの隣に現れるキュゥべえ。

 

 

『今回の事態は中々興味深いシーンが見れたよ』

 

『お、先輩。興味深いってのは?』

 

『うん。あの壷、人によって価値が大きく変わったね』

 

 

1億円の壷。

大衆には文字通り1億の価値がある金の塊に見えるのだろう。

しかし芸術に精通している者であれば1億以上の価値があると思うのかもしれない。

 

さらに言えばルリ。

彼女にしてみればアレはお金では換算できないほどの価値があるものだ。

唯一無二の存在。一方で深淵にしてみれば創生の果実の欠片として目に映っていた。

 

 

『結局の所、物の価値と言うものは、周りの決めるのではなく、自分自身が決めるものなんだね』

 

『なるほどねぇ、人間ってヤツはつくづく分からないな』

 

『一人の人間にとってはどうでもいいと思う事も、一人の人間にしてみればかけがえ無いものになる』

 

 

そしてその価値を口にすれば、人は共感を示し、己の中にある価値をより大きなものに更新していく。

つまり全ての物は、いつかある日、突然とんでもない物になる可能性を秘めている訳だ。

 

 

『それは歴史が絡んでいるね』

 

『なるほど、じゃあなるべく長く生きて、長く続けた方がいいって訳だ』

 

『そう、継続は力なり、とも言うしね』

 

 

じゃあ取り合えず頭を下げておこう。

ジュゥべえはぺこりと虚空に向って頭を下げる。

 

 

『いろいろとコレからもよろしくお願いします』

 

『ジュゥべえ? 誰に向って言っているんだい?』

 

『いや、色んな人……。まあいいか』

 

 

これから生きていれば色々な価値のある物が見れる。

ジュゥべえは擬似的な興味をフルに稼動させ、街の中に消えていくのだった。

 

 

 

 






元々別サイト掲載時は、記念作品ということで更新しました。
サンキュー鎌田。フォエバー鎌田(´・ω・)
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