仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第一話 新時代の刃

 

天を――、獲る。

 

 

「本当に、いいの?」

 

「ああ。後悔は――、しないさ」

 

 

世界を己の色に染め、その栄光をキミは求めるか。

 

 

「皆に会いに行くんだ。そう長くは待たせられない」

 

 

その重荷をキミは背負えるか。

 

 

「残念だけど、勝つのはコチラよ。だって――」

 

 

人は、己一人の命すら思うがままにはならない。

誰もが逃げられず、逆らえず、運命という名の荒波に押し流されていく。

 

 

「ああ……! そうだな」

 

「勝手だとは……、思ってる」

 

「いや、いい。気にすんな。皆そうさ」

 

 

だが――……。

もしもその運命が、キミにこう命じたとしたら?

 

 

「だから俺はお前には負けない。負けられないんだッ、鈴音!」『オレンジ!』

 

 

世界を、変えろと。

 

 

「みんなの為に――ッ、死んでいったアイツ等の為にも! 絶対にッ!」

 

 

未来をその手で選べと!

 

 

「ええ、そうね。分かってる。分かってるわ。だから――!」

 

 

キミは、運命に抗えない。

 

 

「貴方の名前、教えて」

 

 

だが!

世界はキミに託される――!

 

 

 

 

 

 

 

FOOLS,GAME Perfect Dark

 

 

 

 

 

 

龍騎は朦朧とした意識で立っていた。

すすり泣く声が聞こえる。これは自分の声だ。

抱きかかえた鹿目まどかの死体をゆっくりと地面に降ろす。

空には笑い声。今日は雨模様。風が強い。ナイトのマントが激しく揺れていた。

 

 

「城戸ッ! 俺と……、戦ってくれ」

 

 

涙を噛み殺した龍騎は、ゆっくりと頷いた。

龍騎にはそれが優しさだと分かったからだ。そこまで強い男じゃない。今はその優しさに甘えることにした。

 

 

「何を叶える?」

 

 

優しい声色だった。だから龍騎はあどけない笑みを浮かべて、こう答えた。

 

 

「リンゴの木の下で、皆に会うんだ」

 

「いい願いだ」

 

「ああ。お前も一緒だ」

 

 

ナイトは頷いた。恵里の心臓が止まったと聞かされたのは、つい先程だ。

だから剣を握るしかなかった。龍騎もそれを理解していた。

なぜか? 二人にしか分からないものがある。陳腐な言い方ではあるが、それが友情というものだ。

だから二人は走った。走り、剣を打ち付けあい、殴り、蹴った。

感謝を込めて傷つける。矛盾しているようにも思えるが、それが二人の全てだった。

城戸。どうか、お願いだ。俺を、俺を……、俺を――。

 

 

(俺を、殺してくれ)

 

 

同時に引き抜いたファイナルベント。

龍騎はドラグレッダーと共に空に舞い上がり、ナイトはダークナイトを身にまとわせ、ドリルとなる。

二人はお互いだけを見て、そのまま突っ込んでいった。

 

 

 

 

病室で、恵里はゆっくりと目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海香、カオル! おっはよー!」

 

「おはよう。かずみ」「うぃー」

 

 

大きな丸いテーブルには既にルームメイトの姿が見えた。

中学生にして小説家の御崎海香。スポーツでは学年トップの牧カオル。

かずみはキッチンから自分のパンケーキとハムエッグを受け取ると、席について紅茶を淹れはじめる。

 

 

「今日練習は?」「あるよ」「海香、この前の新作超面白かった!」「それはどうも。ふふふ……」「お兄さんは?」「あぁ、駄目ね。アレは見てないわ」「ってかさ、かずみ、昨日ドタドタしてたの何?」「ステップの練習! カオル今度教えてよぉ」「おっけー。でもあたし等、ライバルだからね。それ忘れちゃ駄目だよ」「そうだ。カオル、新聞は?」「あれ? そういや、まだ来てないなぁ」「遅いわね」「ふーん。ま、いっか。見たいの今日のレシピと漫画だけだし」

 

 

他愛ない会話を繰り返しながら、かずみは朝食をモリモリ口に運んでいく。

そうやって食べ終わったお皿を抱えると、キッチンの方へと向かった。

 

 

「ありがと凰蓮(おうれん)さん。今日も最高に美味しかったよ」

 

「メルシーかずみ。残さず食べて偉いわね」

 

「えへへ。やめてよ凰蓮さんってば。私もう中学生なんだよ?」

 

 

かずみ達は現在、フランス国籍の日本人『凰蓮・ピエール・アルフォンゾ』が営む洋菓子店・『シャルモン』の三階部分を借りてシェアハウス中である。

電気やガスをいくら使っても一定料金。家具つき。学校から近い。朝食付きで下がケーキ屋という優良物件はとても助かっている。

朝食を作った凰蓮と入れ替わりで、かずみは後片付けにまわる。皿洗いは当番制で、今日はかずみが担当だ。

カオルと海香もしばらくして食器を運んできた。

 

 

「ん?」

 

 

ふと、カオルは窓の外に見知った人影を見つけた。

高校生くらいの少年で、向かいには小さな男の子と、頭を下げている母親らしき人が見えた。

 

 

「キミはどのフルーツが好き?」

 

 

葛葉(かずらば)紘汰(こうた)は、男の子の頭を撫でる。すると小さな声で、オレンジと返ってきた。

 

 

「お子様ランチにいつも、ついてくる……」

 

「ハハ。そうだよな。美味いよなアレ。俺も好きだった」

 

 

どうやら男の子は迷子だったらしい。紘汰が一緒に母親を探してくれていたのだ。

 

 

「誰だって泣きたいほど辛いときはある。でもな、そんな時だからこそ負けちゃいけない」

 

 

そういう勝負。ゲームだと思ってみなよ。泣いちゃったら巻けのゲーム。泣かない方法を見つけたら勝ちだ。

 

 

「誰だってどんな時だって、戦う事はできるんだ」

 

 

その言葉で励まして、紘汰達は母親を探した。そうすると無事に見つかったというわけだ。

 

 

「じゃあ俺はこれで」

 

 

すると母親が、紘汰が乗っていた自転車に注目する。

 

 

「あ、あの、まさか配達の途中で?」

 

「大丈夫っす。あとそこの一軒だけなんで」

 

 

そういうと紘汰は新聞を持ってシャルモンに近づく。

そこで三階から顔を出しているカオルと目が合った。

 

 

「紘汰ァ、チャオー!」

 

「よぉ! カオル! わりぃ! 新聞遅れた!」

 

「いいって。なんか事情ありそうだし!」

 

 

カオルは窓からヒラリと身を乗り出し、三階から飛び降りる。

紘汰は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、特に焦る素振りはない。そうしているとカオルは華麗に着地し、紘汰から新聞を受け取った。

 

 

「迷子? こんな朝から大変じゃん」

 

「いや、あの子はさっき見つけたんだ。今日は保育園で注射があるらしくて、それが嫌で逃げて迷子になっちゃったらしい。それ以外にも朝からトラブル続きでさ。ペットが逃げたとか、脱輪したとか。見過ごせないからこんな時間になっちまった」

 

「ふぅ! いいヤツ~」

 

「おいおい、からかうなよ」

 

「褒めてんだってぇ。でもあたし等だからいいけどさ。一応新聞配達なんだから、ほどほどにね。もう七時過ぎだよ」

 

「おお。本当、悪かったな」

 

 

そこで窓からかずみも顔を出す。

 

 

「紘汰ぁー! おはー!」

 

「おはー! かずみ、今日も練習あるから! よろしくな!」

 

「おっけ、まっかせてー! 進化したかずみステップ見せちゃうよ~!」

 

 

二人は手を振って分かれた。

 

 

 

 

 

「遅いわ」

 

「悪い悪い。ちょっとトラブルでさ」

 

紘汰がバイト先の新聞販売店に戻ると、入り口から灰色の髪の少女が出てきた。

住み込みで働いている天乃(あまの)鈴音(すずね)という女の子だ。中高一貫性の『天樹学園』で、紘汰は高等部三年。

鈴音は中等部二年のため、一応後輩にあたる。

 

 

「ところでさ鈴音。お前、昨日深夜に出歩いてなかったか?」

 

「………」

 

「いや、昨日漫画喫茶のシフトが変わって。深夜になったんだ。そしたらその帰りにお前に似た人を見かけて。声をかけようとも思ったんだけど、見失っちゃってさぁ」

 

「………」

 

「あッ、勘違いしないでくれよ? ストーカーじゃないからな! ただほら、最近物騒な事件も起きているだろ? なんだっけ、えーっと、キリキザ……、じゃないな。えっと」

 

「キリサキさん」

 

「そう! それだよ。都市伝説って遊んでるヤツもいるけど、本当に被害者が出てるんだ。気をつけた方がいいぜ」

 

「……そう。ありがとう。注意しておくわ」

 

 

そういうと鈴音はスタスタと歩き去ってしまった。

紘汰は肩を竦めると、後処理を済ませて行きつけのフルーツパーラーへと向かった。

 

 

「よぉ紘汰」

 

「うぃーっす。坂東さん! モーニングセットよろしく!」

 

 

いきつけになったからか、店主の坂東(ばんどう)清治郎(きよじろう)は、紘汰にいつもおまけしてくれる。

 

 

「いいけど。お前、学校は?」

 

「なんかダルくてさ。ちょっと遅れていこうかなって。昨日バイトの時間変わってさ。ほとんど寝てないんだ」

 

「不良少年めー。まあいいや、今日はパンに何塗る?」

 

「あー、オレンジジャム!」

 

「おう。ちょっと待ってろよ」

 

 

席につく紘汰。店内のテレビに目を移すと、もう何度見たか分からないCMが流れていた。

リンゴを両手で持った女の子が笑い、フルーツの断面の中に文字が浮かんでいる。

リンゴの中にはEducation。キウイの中にはMedical Treatmentと書かれていた。

 

 

『ニュージェネレーション。ニューライフ。計画都市、沢芽市の皆様にユグドラシルコーポレーションが提供する新しい暮らしです』

 

 

 

 

 

「行ってきます。お父さん。お母さん」

 

 

かずみ達は小さな仏壇に手を合わせると、シャルモンを出て行く。

学校に向かう中で生徒達も増え、見知った顔と合流していく。

 

 

「おはよーッ。みんな!」

 

「おはようかずみちゃん」「んッ!」

 

 

クセ毛の宇佐木(うさぎ)里美(さとみ)に、小柄な若葉(わかば)みらいは、クラスメイトであり特に仲がいい。

というよりも明るくて活発な性格のかずみとカオルは、よく他のクラスメイト達にもフレンドリーに話しかけるため、ほとんど全員が友達みたいなものである。

 

 

「茉莉ちゃん! 調子はどぉー?」

 

「わっ! おはようかずみちゃんッ!」

 

 

かずみは、お団子ヘアーの日向(ひなた)茉莉(まつり)に抱きつくと、頬ずりを始める。さらに見知った顔を見かけて手を振った。

 

 

「おはよう佳奈美(カナミ)ちゃん! 何食べてるの!?」

 

「うむっ! おふぁようかふみひゃん! これね、やきいもっ! 遅刻しそうだったから咥えて出てきちゃった」

 

「パンだったら昔のラブコメなのに、焼き芋って凄いわね」

 

 

海香の突っ込みに、佳奈美は恥ずかしそうに笑った。

 

 

「ちょっと初瀬くん! またネクタイ! シャツも出てるし! だらしないわよ!」

 

「うるせぇ! これがイカしてんだよ!」

 

 

校門前では見慣れた光景が。

生徒会が朝の挨拶運動を兼ねた服装チェックを行っており、初瀬(はせ)亮二(りょうじ)が気崩した制服を、詩音(しおん)千里(ちさと)に整えられている。

 

 

「あっは! アンタも学習しないわね初瀬! いつもいつも注意されてるんだから直しないよねぇ」

 

「貴女もよ亜里紗! いつも寝坊して!」

 

「ひぃいい!」

 

 

千里についていく形で生徒会に入った成見(なるみ)亜里紗(ありさ)はギョッとしたように肩を竦めている。

それを三年の(かなで)遥香(はるか)が嗜める。ほぼ毎日繰り返されるお馴染みの光景であった。

 

 

「あーあ、奏先輩みたいになりたいなぁ」

 

 

里美がふと、呟いた言葉。

かずみ達はまだ二年生だが、進路を考えている子は多いだろうし、未来の自分を妄想する人間は多いはず。

海香なんてもう明確に夢に進んでおり、新人賞に受賞して、本も出版されている。

紘汰なんかは、そんな話をしたがらない。いつも煙に巻いて逃げ始める。何になりたいかとか、どう生きたいかなんて分からないと。

将来か。かずみは授業中にその事を改めて考えてみる。

でも、あれだ。真面目に生きたって――

 

 

「!」

 

 

一瞬、過去がフラッシュバックした。

血まみれの腕。アレは――、そう父の顔だ。

 

 

(いけないいけない。考えないようにしなくちゃ……)

 

 

かずみには両親がいない。母が死んで、父と二人で暮らしになって、その父も死んだ。

原因は――、正直よく分からない。というのも母は病でと聞いているし、父は事故で死んだと『聞いている』。

しかしかずみは、その事故現場にいた。

まだ小学生だった彼女は父親の死体の傍で気を失っていた。目覚めたかずみは、父が何故死んだのかを全く覚えていなかった。

いや、正確には少しだけ覚えている。しかしきっと本能がかずみを守るためにブロックしているのだろう。

 

血まみれの父は、きっと良い死に方ではなかったはずだ。

もちろん原因が気になるといえばそうだが、今更何をしたって父は帰ってこない。

それならこの今を大切にするほうが、かずみとしてはずっと居心地が良かった。

 

そう。それなりに――、充実していたと思う。

今は。みんな。誰だって。漠然とした将来の不安とか、全部無視して、ただ目の前にある娯楽に全力でありたかった。

この町も同じだ。かつては見滝原と呼ばれていたらしいが、スーパーセルによって町は崩壊し、多くの被害や死者が出た。

その後、多国籍総合医薬品メーカーであるユグドラシルコーポレーションが町を再開発、新たに町の名前を『沢芽』と変えて今に至るわけである。

町並みは見滝原だった頃の面影は失われており、中心部にはユグドラシルタワーと呼ばれる本社が聳え立っている。

 

 

『ハッローッ! 沢芽シティ!』

 

『ププププーンッッ!』

 

『DJサガラの生配信へようこそ! 今日も相棒のDJディエスと共にホットでクールな話題を届けていっくぜぇー! 調子はどうだいディエス』

 

『オッケー! オイラはもうバリバリのガチガチよぉ。しかし他の奴等はどうかな? なぁ、おい?』

 

『ウーッ! 暴れ盛りのお前等にストリートは狭すぎるか? だがな、そんなソウルをダンスに込めれば全ては解決だ! なあそうだろ!? ビートライダーズの諸君!』

 

 

ビートライダーズホットライン。

インターネットの配信番組だが、その人気はティーンエイジャー達によって支えられている。

その内容は若者によって結成されたダンスチーム・ビートライダーズの配信である。

もともとは天樹学園のダンス部からの派生であり、現在はさまざまなチームが独自にチャンネルを開設して活動を配信。その人気を競うエンターテイメントになっている。

 

その人気は凄まじく、芸能プロダクションを介していないが、こうしてユグドラシルもスポンサーとなって番組(ホットライン)を制作。

チャンネル登録数は学生のみならず一般人を含めて40万人を超えてる。

DJサガラもユグドラシル側が用意した人間だ。さらに画面には一切出てこないが、茶々を入れるディエスという者も。

 

学校が終わった放課後。

沢芽広場に作られたステージでビートライダーズはダンスを披露する。今は青いパーカーを来た集団が激しく動き回る。

チーム鎧武。視聴者が投票するランキングでは常にトップ争いの人気グループである。

リーダーの葛葉紘汰の身体能力に加え、呉島(くれしま)光実(みつざね)の精巧なステップ。かずみや、佳奈美のハツラツとした動きに目を奪われる人間は多い。

少し下世話な話だが、配信や人気ランキングの関係上、ビジュアルのポイントは重要になってくる。その点においてもチーム鎧武の人気は高いのだ。

 

 

「かずみちゃーん。がんばってー!」

 

 

観客席では、里美と海香が手を振ってチーム鎧武を応援している。

一方で、反対の観客席では黒いジャケットを着たチームが荒々しいダンスを踊っている。

チームレイドワイルドだ。リーダーの初瀬を筆頭に、みらいや亜里紗が所属している。

元々はオタ芸を中心としていたが、亜里紗の『ダサすぎる死ね』というソリッドな意見で、激しいブレイクダンスを中心としたものになっている。

 

しかし初瀬や亜里紗、みらいのガラの悪さが近寄りがたい雰囲気をかもし出してしまうために大衆向けではなく、さらに視聴者というのは残酷である。メンバーの一人に凄まじくふくよかな男性がいるため、そこをいじられてどうにもランキングが上にいかない。

まあとはいえ、コア向けの立ち居地に本人達は満足しているらしく。今日も今日とてロックでパンクってなもんだ。

 

 

「うっわ、亜里紗も初瀬くんもあんなに頭とか振って。気持ち悪くならないのかしら」

 

「ふふふ。アドレナリンが出てるのかも。ほら見て、すっごく楽しそうじゃない」

 

「私にはサッパリ分かりません」

 

 

観客席では千里が呆れたように首を振り、それを温かい目で遥香が見ていた。

一方、ステージから少し離れた待機場。

ビートライダーズ達が自由に使っていい場所だが、そこで茉莉は落ち着かないようにソワソワと体を動かしていた。

正確には、自分の格好をしきりに鏡で確認している。まだ慣れない。赤と黒のジャケット。

 

 

「着替えるのが遅い」

 

「あッ! ご、ごめんなさい!」

 

 

茉莉が所属しているのは、ランキングのトップを常にチーム鎧武と争っているグループ、『チームバロン』であった。

リーダーの駆紋(くもん)戒斗(かいと)は壁にもたれかかって腕を組み、イライラしたように鼻を鳴らす。

 

 

「日向。貴様が遅れたせいで初瀬にステージを取られた。分かっているな」

 

「は、はい。本当にごめんなさい。緊張しちゃって」

 

「俺のチームに弱者はいらん。怯えているなら今すぐ尻尾を巻いて逃げるんだな」

 

 

茉莉は怯んだように固まる。するとその肩に優しく手が触れた。

 

 

「初瀬にステージを取られた。この下りはつまり満を持してあたしらが登場できるから、盛り上げる原因を作ってくれてありがとう茉莉ちゃん! って意味だな」

 

 

牧カオルがウインクを一つ。

 

 

「怯えているなら、今すぐ尻尾を巻いて逃げるんだな。これはお前はやればできるのを俺は知っているから、緊張せずに頑張ってくださいって意味だぜ?」

 

 

チームメイトであるザックがサムズアップを一つ。

 

 

「大丈夫だって茉莉。戒斗はただの運動オンチのツンデレだから。いい加減慣れなよ」

 

「黙れ牧ッ。誰がツンデレだ。おい、無視をするな! おいなんだそれは! なぜ中指を立てる! 貴様、ふざけるなよ!!」

 

 

戒斗はスタスタと歩き去っていくカオルを怒鳴りながら追いかける。

ザックはその光景をやれやれと笑って見ていた。

そしてすぐに身を屈めて茉莉に視線を合わせる。

 

 

「大丈夫。戒斗も茉莉がちゃんとできるヤツってのは理解してるさ」

 

「ほ、ほんとう?」

 

「ああ。本当だって。俺が約束する。だから、ほれ。行こうぜ」

 

 

ザックが手を出した。茉莉は少し頬を赤く染めて、その手を取った。

ステージに上がったチームバロン。彼等が作曲した『ネバーサレンダー』という音楽に合わせて踊る。

自由に動き回るチームガイムや、荒々しく踊りまわるレイドワイルドとは違って、ピッタリと動きを合わせる事や、独自の振り付けが人気の理由である。

茉莉は耳がいい。音楽をしっかり聴いて、一糸乱れぬフォーメーションを完成させるのだ。先程は緊張していたが、ステージに上がればしっかりと前を見て踊っている。

 

 

「でも良かったわね。茉莉」

 

 

海香がポツリと口にした事に、里美も同意する。

少し前まで茉莉は目の病を患い、視力を失っていた。それが今は完治してあの通りだ。

きっと茉莉には海香達が見ている景色よりも、もっと大きな何かが見えているのだろう。

さて、ここでチーム鎧武がダンスを終えてステージを降りてくる。それをメガネを光らせて見ている者がいた。

 

 

「さぁて、いよいよ次は俺達の番って訳だ」

 

 

城乃内(じょうのうち)秀保(ひでやす)

海香の兄だが、現在は両親が離婚しており苗字が違っている。

とはいえ兄として海香が心配なのか。シャルモンにバイトとして入ったり、頻繁に絡んでくるのだが、妹の信頼は薄い。

今もメガネをかけた女の子を侍らせており、海香はそれを冷めた目で見ていた。それに気づいたのか城乃内は海香に手を振るが、海香はムスッとした表情のまま無視である。

 

 

「何? 喧嘩でもしてるの?」

 

「そうじゃないけど、昔から兄さんとは合わないのよ」

 

 

海香は兄が苦手であった。アクティブな城乃内と、インドアタイプの海香。

彼女が幼い頃、小説家になりたいと言ったときも、城乃内は地味だなんだと馬鹿にしていたものだ。

小説家になってからも本を送ったりしたが、感想を貰った事はないし、以前たまたま家に言った時も綺麗なままで読んだ形跡は無かった。

 

 

「それだけじゃないわ。仲の良い女の子に渡してるところも見たんだから。まあ、そうやって『使う』のも否定はしないけれど。失礼じゃなくて?」

 

 

里美は困ったように笑う。

そうしている内に城乃内がステージに上がろうとするが、そこで戒斗が動きを止めた。

同じくして止まる音楽。これは――、トラブルではない。ビートライダーズの演出の一つだ。

 

 

「退け城乃内。貴様が上がる舞台はない」

 

「な、なんだよ!」

 

「葛葉ァ! この前の決着だ!」

 

「ったく。仕方ねぇな!」

 

 

城乃内を押しのけて再びチームガイムがステージに上がる。

その手にはなにやらベルトのバックルのようなものが握られていた。

これはダンスバトルをもう一段階レベルアップさせたものである。

 

 

「行くぜミッチ!」『オレンジ!』

 

「はい! 紘汰さん!」『ブドウ!』

 

 

ミッチ――、光実も同じバックル・戦極ドライバーを手にしており、腰に押し当てる。

するとベルトが伸びて自動的に装着された。

さらに二人はフルーツの装飾が施された『錠前』を起動させた。紘汰がオレンジ、光実がブドウ。

紘汰は思い切り腕を旋回させ、光実は型のような動きを披露して、それぞれドライバーへ錠前・ロックシードをセットする。

 

 

『ロック・オン!』

 

 

電子音が流れる。さらに紘汰と光実の頭上、その空間が文字通り『割れた』。

割れたというよりは、何もないところにジッパー状の裂け目、クラックが現れてそこから巨大なオレンジとブドウが姿を見せる。

 

 

「変身ッ!」『ソイヤッ!』

 

「変身!」『ハイーッ!』

 

 

バックルにあるカッティングブレードという小型を倒すと、錠前が展開。

同時にオレンジとブドウがすっぽりとそれぞれの頭部に覆いかぶさった。一見すればマヌケな光景だ。

しかし落ちてきたのは何も本当のフルーツではない。フルーツの形をした鎧なのである。

鎧はまず紘汰たちにスーツを与え、そしてさらに展開。

二人はあっという間に違う存在へと『変身』した。

 

 

『オレンジアームズ!』『花道・オン・ステージ!』

 

『ブドウアームズ!』『龍・砲! ハッ! ハッ! ハッ!」

 

 

アーマードライダー鎧武(ガイム)。そしてアーマードライダー龍玄。

さらに変化はそれだけに留まらない。二人の前に出たのはチームメンバーである佳奈美だ。

彼女がつま先で地面を蹴ると、魔法陣が広がって衣装が全く違うものに変化していく。

魔法少女。佳奈美の両耳に、鈴型のピアスが装備された。

盛り上がるギャラリーたち。一方で同じように戒斗とザックが戦極ドライバーを装着し、ロックシードを起動させる。

 

 

「変身」『ナイト・オブ・スピアーッ!』

 

「変身ッッ!」『ミスタァー・ナックルマァーン!』

 

 

戒斗はアマードライダーバロンに。

ザックはアーマードライダーナックルに変身。さらにカオルと茉莉も光に包まれると、魔法少女へと姿を変える。

 

 

『ヘイユーッ! ダンスバトルの新時代! もうチマチマ踊るだけじゃ誰も満足してねぇよなサガラ!』

 

『オゥケーィ! ディエスの言うとおりだ! ビートライダーズ達には騎士という翼、魔法少女という翼が与えられているのさ!』

 

『気をつけろ! 知らねぇヤツァ恥かくぜ! 明日のテストよか戦極ドライバーとソウルジェムを学んでくれよ! 説明よろしくサガラ!』

 

 

よし来た。いいか視聴者のみんな! 今、野郎共が身に着けたのは戦極ドライバーだ。

ユグドラシルコーポレーションが新しく開発した新商品のサンプル品だな。見て分かるとおりパワードスーツに包まれ、その身体能力は比べ物にならないほど上昇している。

そして魔法少女も似たようなもんさ。あれさえあれば苦手なブレイクダンスもなんのその。バク宙だって朝飯前さ。

 

パワーアップした奴等の動きに注意しな! 下手すりゃ魂まで持っていかれちまう。

見ろよ、あの人間にはできないような動きから繰り出されるステップ&アクロバティック!

それだけじゃない。エフェクトウエポンによって繰り出される光と幻想のマリアージュ!

 

 

『クルミ・オーレ!』『ブドウ・オーレ!』

 

 

注目だ! ナックルの野郎が打ち上げた胡桃型のエネルギーボールが炸裂。

小型の胡桃が鎧武たちに向かって降り注ぐぜ。しかしそれを打ち消していく龍玄のエネルギー弾。

それがぶつかり合い、炸裂するときに見える火花は……、おぅ、もうたまらねぇな!

 

さらに魔法少女にも注目してくれ。佳奈美のスピードをキミは捉えられるか? ノンノン! ソイツは無理って話だ。

だって彼女はスピードスター! 魔法少女ひとりひとりに与えられた固有魔法。佳奈美の場合は速度上昇(スピードアップ)

ほら見ろ、観客席を駆け抜けてステージを縦横無尽に飛び回る様は他じゃ絶対に見れないぜ!

それだけじゃない。カオルが胡桃を蹴ることで巻き起こる光。茉莉のパワーアームから放たれる虹色の閃光が織り成すライティングショーを!

 

プロジェクションマッピング?

おいおいよしてくれよ。そんなもんはとっくの昔の技術だぜ。化石の話をするより、今を見てくれ。

これが新時代のエンターテイメントだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「おつかれ! 茉莉!」

 

 

ダンスバトルが終わり、更衣室でカオルは茉莉の背中を軽く叩いた。

 

 

「見てみなよ! 今回はあたしらがポイント一位! チーム鎧武を下してトップに上り詰めたんだ!」

 

「うんっ! マツリね、すっごくがんばった!」

 

「おー、よしよし! うっし、じゃあ野郎共に何か奢らせますか!」

 

 

更衣室を出ると、待機場で戒斗がトランプを弄っており、ザックは携帯電話(スマホ)を確認していた。

戒斗は茉莉に気づくと、立ち上がり前までやって来る。

目がギラリと光っている。こわばる茉莉を見て、戒斗はフンと鼻を鳴らした。

 

 

「見事だったぞ日向。お前には実力がある。ビクビク怯えるのはもうやめろ」

 

「……!」

 

「褒め方がいちいち怖いんだよな」「最初ッから、そう言えって話だよな」

 

「何か言ったか。牧、ザック」

 

「い、いや別に。それより先輩達ぃ、あたし等お腹ペコペコなんですぅ。ごちそうしてくださぃー」

 

「やめろよカオル。急に後輩面すんなよ」

 

「えー、実際そうじゃん。ザック達は高等部三年。あたしら中等部二年だよ。優しくしてよぉ。ねぇー、ザック先輩ぃ」

 

「たっく! しかたねぇな。ファミレスならいいぞ」

 

「うっし! やったぁ!」

 

 

カオルは笑顔でスキップ。さっさと待機場を出て行く。

それを見て戒斗は鼻を鳴らした。浮かれ気分なのは困るものだ。

 

 

「いいか日向。今回は良かったが、牧みたいに調子に乗るなよ。今回はたまたま葛葉に勝ったが、現状に甘えればすぐに貴様は弱者の仲間入りだ。だから――」

 

 

戒斗はそこで気づいた。茉莉がいない。

後ろを振り向くと、茉莉はザックの服の裾を掴んでいた。

 

 

「ね、ねえザック。マツリ……、ちゃんと踊れてた?」

 

「おう! バッチリだったぜ! ありがとな! お前のおかげでチームバロンはトップだ!」

 

「あ、ありがとぅ……!」

 

 

はにかむ茉莉。戒斗はため息をひとつ。

 

 

「ザック。貴様頭でも打ったか、チームバロンがトップに上り詰めたのは全てこの俺の強者たる立ち回りがあったからで――」

 

「はいはい、そうですね。行こうぜ茉莉! 今日はチーム鎧武を引き摺り下ろしてのトップ祝いだ。何でも食っていいぞ」

 

「うん! いっぱい食べる!」

 

「やめろ貴様等。無視はやめろ!」

 

 

そう言ってチームバロンは外に出て行った。

 

 

「おお、やってるねぃ。調子はどうだい?」

 

「シド!」

 

 

紘汰達が使っている待機場に見知った人物が訪ねてきた。

錠前ディーラー・シド。紘汰たちが使っている戦極ドライバーやロックシード。魔法少女が身につけているピアス・ソウルジェムを売っている人物だ。

ユグドラシルに所属しており、一応『新商品のテスト』という事でやり取りを行ってきた。

 

 

「この前、買ったイチゴ、いい感じだぜ」

 

「そりゃ良かった」

 

 

そこでシドは周囲を確認する。一般人が聞いていないかを探るために。

 

 

「葛葉紘汰。お前がこのまえ倒したのは、ビックリ箱の魔女だとさ」

 

「……そっか」

 

 

アーマードライダーと魔法少女は、現在表向きはダンスを盛り上げるための演出装置となっているが実際はそうじゃない。

その真の目的は、沢芽に巣食う化け物を倒すための『武器』なのだ。

魔女。人の絶望に引き寄せられる化け物をユグドラシルは把握しており、それを倒すための装置を開発。

紘汰達はその被験者なのだ。

 

 

「シド。最近沢芽で女の子が襲われてるってのは」

 

「さぁな。ただまあ、魔女じゃねーのかい?」

 

「………」

 

 

紘汰は複雑な表情で窓の外を見る。

 

 

「ところで葛葉くんよぉ。最近成績の方が芳しくねぇみたいだが……」

 

「なんだよシド。そんな事まで調べてんのか」

 

「天樹はユグドラシルの管轄なんでな。いやほら、俺も胸が痛むのよ。大人のワガママに青少年をつき合わせて将来を台無しにするのは」

 

「いいんだよ。別に。コッチの問題だ」

 

 

どうにも最近、やる気が起きない。

勉強とか――。昔はそんな事なかったのに。

 

 

「今はアンタ等に言われたとおり、魔女を倒してるんだ。それでいいだろ」

 

「……ま、コッチはそうだがよ」

 

 

あの日のことは今でも覚えてる。紘汰の両親は、紘汰の目の前で死んだ。

魔女に殺されたのだ。木が和服を着ているような化け物だった。木々には椿の花が咲き乱れており、魔女が放つ炎で父も母も灰になった。

紘汰は必死に逃げ、いつの間にか魔女の結界から脱することに成功した。今にして思えば、誰かが魔女を倒してくれたのだろう。

 

 

「娯楽はほどほどにな。お前等ガキのやる事は少しでもマシな大学に行って、少しでもマシな会社に就職する事だぜ」

 

「……分かってるよ」

 

 

日々、言いようのない不安感があった。

ただ皆とダンスを踊って、終わった後にファミレスに行って、それで『鎧武』として戦っている時はどこかで安心できた。

紘汰はそれなりに幸せだった。

 

 

 

夜。紘汰達がファミレスにいる頃、光実は自宅で食事を取っていた。

呉島家は、凄まじい豪邸である。光実の父がユグドラシルコーポレーションの重役であり、兄である呉島(くれしま)貴虎(たかとら)は、現在ユグドラシルにて研究部門プロジェクトリーダー(主任)である。

ノブレス・オブリージュ(高貴なる者には背負うべき責任がある)が家訓であり、光実も厳しく育てられた。

しかし父が病で無くなり、兄と二人暮らしになってからは、割と自由にしてもらっている。

兄が過保護だからだろうか? 光実は今の環境がとても心地よかった。

テーブルには豪華な料理が並んでおり、光実はナイフで分厚い肉を切っていた。

 

 

「今日はどうだ?」

 

 

同じくステーキにナイフを入れている貴虎に、光実は曖昧な笑みを返す。

 

 

「うん。まあ……、悪くなかったよ」

 

「どうした。歯切れが悪いが」

 

「楽しかったけど、ビートライダーズのランキングが落ちちゃったんだ」

 

「ほう」

 

 

そこで貴虎のワイングラスに赤が注がれていく。

唯一のメイド、朱月(あかつき)藤果(とうか)は、ニコリと微笑んだ。

 

 

「落ち込むことはありませんわ光実坊ちゃま。私、見てましたけど、坊ちゃまの踊りはとても素晴らしかったですもの」

 

「あ、ありがとう藤果さん。でも――……、その、坊ちゃまは恥ずかしいから止めてほしいかな。ほら、その、沙々さんもいるし」

 

 

光実は恥ずかしそうに赤くなりながら、チラリと左隣を見る。

そこで優木(ゆうき)沙々(ささ)は肉を切る手を止めた。

 

 

「えへへっ、わたしは気にしませんよ。いいじゃないですか坊ちゃま。可愛くて」

 

「そうですよねーっ」

 

「ねーっ!」

 

 

笑いあう女性陣を見て、光実は恥ずかしそうに肩を竦める。

それにしてもと、沙々はぷくーっと頬を膨らませて怒りを露にする。

 

 

「見てる人たちもひどいですっ! どう考えても光実くん達のほうが良かったのに!」

 

「いや、まあ、チームバロンもやっぱり強いよ。それに投票で不正できないように、ちゃんとなってるし……」

 

「当然ですっ。もしも一人何票も入れられるなら、わたし、毎日チーム鎧武に一万表くらい入れちゃいますよっ!」

 

 

笑いが起きる。

 

 

「まあ、長く続けていればこんな時もあるだろう。まだ結果が決まったわけじゃない。ここから逆転すればいいだけさ」

 

「そうですよね。流石は貴虎お兄さん。その余裕はわたしも見習わなくてはと――」

 

 

沙々はフォークでさした肉を口に入れ、そこで目を輝かせた。

 

 

「はわわっ! なんですか!? このお肉シャクって切れましたよ! 柔らかいっ!」

 

「貰い物なんです。沢山ありますから、遠慮せずに食べてください」

 

「で、でもいいんですかぁ? こんな高価なお肉……。わたしみたいなのが頂いちゃって」

 

「いいんだ優木さん。食事はみんなで食べる方が美味い」

 

「でも結構ご馳走になってますし……。今週ももう四回目ですぅ」

 

「沙々さんは僕の大切な友達なんだから。ご飯くらい食べていってよ」

 

 

沙々は申し訳なさそうに頷くと、また肉を口に入れる。

 

 

「光実様とは二年生から同じクラスでしたよね」

 

「あっ、はい! 光実くんは勉強もスポーツもできて。クラスでも中心的な存在なんですっ!」

 

 

嬉しそうに笑う藤果と貴虎を見て、光実は居心地が悪そうに首を振った。

 

 

「僕なんかたいしたこと無いよ」

 

「ぶー! 卑下しないでくださいよ。光実くんより勉強もスポーツもできないわたしが惨めになっちゃうじゃないですかぁ」

 

「あッ、ご、ごめん。と、とにかく沙々さんがいつも応援してくれるから、ああやって踊れるわけだし。これくらいのお礼はさせてよ」

 

「ん! あら! それはどういう意味でしょうか? 光実様!」

 

 

藤果がニヤリと笑ったのを見て、光実も自分の言葉を理解したらしい。

真っ赤になって俯いてしまう。それに気づいたのか、沙々も赤くなって俯いた。それを見て貴虎と藤果が笑っていた。

実に和やかな時間だった。しかし食事が終わると、その空気が一変した。藤果が持って来たのはコーヒーと紅茶だ。

それだけならばまだ良かったのだが、ついてきたデザートを見て三人の表情が変わる。

 

 

「これ、またアップルパイ作ってみたんですけど……」

 

「そ、そうか。楽しみだな藤果のアップルパイは」

 

 

貴虎は若干引きつった笑みを浮かべてナイフとフォークを手にする。

沙々もギョッとして貴虎の真似をする。しかしアップルパイを一口含むと、どちらも真っ青になって沈黙した。

 

 

「~~~~ッッ」

 

 

沙々はバクバクとアップルパイを口に含むと、一点を見つめたまま咀嚼。

呼吸が僅かに荒くなっていることから、鼻で息をするのを止めているらしい。

 

 

「ちょ、ちょっと……、お手洗い借りますね」

 

 

アップルパイを飲み込んだ瞬間、沙々は口を抑えて走る。

駆け込んだトイレで、沙々は早速便器の中にキラキラ(嘔吐物)をぶちまけた。

 

 

「オッツゥウエエエエエエエエエ! ゴゲェアァアア! え? いやッ、おげえぇぇえええええええええ!」

 

 

沙々は涙目になりながら怒りに震え、拳を握り締める。

 

 

(まッッゥじぃぃいいいい! あンのクソ女ッ! いつかブッ殺してやる!!)

 

 

藤果は現在お菓子作りにハマッっているのだが、得意と自負するアップルパイが天才的に不味いときた。

おそらくスパイス的な何かが原因なのだろうが、そのせいでこの世のものとは思えない最低の代物になっている。

 

 

(ぁあぁあ! 思い出しただけでも臭ぇです! シナモンじゃなくてウ●コ入ってんじゃねーだろな!!)

 

 

沙々は嘔吐物を流すと、洗面台で口をゆすぎ、呼吸を整える。

鏡を見ると酷い顔だ。十歳くらい老けた気がする。昨日のケーキはマシだったが、アップルパイは致命的に不味いのだ。

 

 

(まさかタダ飯狙いに来てる事がバレてる? いや、それはないですよね? だとしたら身内にもあんなウンコ食わせる意味がない。待てよ? まさか貴虎とのプレーの一環じゃねぇでしょうね。そんなもんに私を巻き込むなってんですよ! あぁぁクソクソクソ!)

 

「沙々さん! 大丈夫!?」

 

「あ゛!? あ、あッ! 光実くんっ!」

 

 

声をかけられた。沙々はすぐに作り笑いを浮かべると、猫なで声で光実を迎える。

 

 

「ごめん。大丈夫だった? 兄さんがいる前だと言えないけど、すっごく不味いよねアレ」

 

「え? あ、あー……、いやッ」

 

「いいよ無理しなくて。僕、一回も食べ切れなかったもん。部屋で食べるって言っていつも捨ててるんだ」

 

 

当然だよな。分かってんのかあのクソ女。あんなゲロみてぇなもん食わせやがって。慰謝料一億じゃすまねーですぞゴラァア!

等と……、いろいろ言いたい事はあるが、沙々はそれらを全て飲み込んで笑顔を浮かべた。

 

 

「でも、お兄さんが食べてらっしゃるから……」(それにあんなクソ不味ぃモンを頑張って食べてるこの優木沙々、めちゃくちゃ可愛くない? いやもうポイント爆上げでしょ! おら! 惚れろ! 惚れて貢げ!)

 

「兄さんは藤果さんが好きだからだよ。まだハッキリと告白はしてないみたいだけど、ほとんど付き合ってるみたいなものだし」

 

「へえ! そうなんですか! えへへー、お似合いの二人ですねっ」(かぁー、甘ぇよミッチ。あの二人は絶対ヤッてんな。つうか大企業の主任があんな冴えないメイドに靡くってなんだ? 相当上手いのか? くふふ、じゅるり!)

 

 

そんな下品な事を考えていると、小さな箱が差し出された。

 

 

「え? 光実くん? これ、なんです?」

 

「あ、あの……、その」

 

 

光実は恥ずかしそうにしながら、ゴニョゴニョと言葉を並べていく。

なんでも、同じクラスで沙々には勉強を教えてもらったり、ビートライダーズの活動があれば毎回見に来てくれて投票もしてくれる。

その応援に本当に感謝している。だから、せめてものお礼に受け取ってほしいと。

 

 

「きゃ! プレゼントですねぇ! 光実くんってばだいたんっ!」

 

「か、からかわないでよ」

 

「えへへ。ごめんなさい。開けてみてもいいですかっ!?」

 

「う、うん。喜んでくれるといいんだけど……」

 

 

沙々は綺麗に包みを剥がすと、箱の中からネックレスが出てきた。

デザインは大きな楕円型の装飾が二つ並んでいるものだった。

 

 

「……ワー、ステキダナー」

 

「本当? 良かった!」

 

 

沙々は早速ネックレスを身につけると、光実に微笑んでみせる。

 

 

(かわいい……!)

 

 

光実は思わず目線を下にして曖昧に笑うしかできなかった。

いつからだろう。光実は沙々に心を奪われていた。先程の件もそうだ。あんなに不味いアップルパイを沙々は何も言わずに全部食べてみせたじゃないか。

きっと気を遣ってくれているのだろうが、それがとても嬉しかった。

 

 

(なんて素敵な人なんだ。もっと沙々さんと親しくなりたい……!)

 

 

光実は『今』が最高に楽しかった。沙々を自宅に送るまでの二人きりの時間が何よりも楽しかった。

他愛ない話がとても輝いているように感じた。

『また明日』と手を振って別れるのが寂しくて、でもまた明日も会える事が最高に嬉しかった。

一方で沙々は光実に送ってもらった後、自室で携帯を弄りはじめた。

画面を見つめること10分ほど。彼女は嬉しそうに携帯をベッドの上に投げる。

 

 

「よっしゃー! 売れたぁー!」

 

 

大人気のフリマアプリ。沙々さんが出品したのは、先程光実から貰ったネックレスである。

もともと五万ほどする品が、七万で売れた事に沙々さんも満足げである。

 

 

「あー、マジでセンスねぇですよ光実くぅん。なんですかこのクソダサいの。つうか、え? マジでこれ何をデザインしてんの? キンタマかコレ? キンタマにしか見えねぇですよ」

 

 

優木沙々は魔法少女である。

魔法少女は願いを一つ叶える事ができる。沙々が願ったのは『自分よりも優れた者を従わせたい』という欲望。

そして沙々は力を手に入れた。とはいえ、既に彼女はその域を脱している。気づいたのだ。従わせるのは魔法で強制させるのではなく、自分自身で騙して虜にさせた方がずっと面白いし、気持ちいい。

現にターゲットに選ばれた光実はあの様子だ。

 

 

「童貞が。付き合っても無いのに五万のプレゼントとかマジでキモイんですよねー」

 

 

あの時の光実の嬉しそうな顔を思い出すと全身をゾクゾクしたものが駆け巡る。

沙々は恍惚の表情を浮かべ、涎を垂らした。もっと光実で遊びたい。それに可愛い系のイケメンは大好きだ。沙々にとってはパーフェクトなターゲットであった。

 

 

「金もあるし。かなりの優良物件ですっ! あのクソメイドだけは殺したいですけど……」

 

 

焦りは禁物だ。沙々ならば不可能ではないが――、というよりも一度殺そうとした事がある。

しかし結果は失敗だった。なぜならばあの藤果という女。抜けているように見えて、かなり強い。

その実、呉島の人間は葛葉紘汰と同じく戦極ドライバーの所持者であった。

 

 

(魔法少女に匹敵するアーマードライダー……。あの貴虎はわたしよりも強いまである)

 

 

しかしその危機感も快楽に繋がる。沙々はニヤニヤしながらネックレスを睨みつけた。

風呂に入ってる間に無くしたとか言えば大丈夫だろう。涙目になれば完璧だ。

 

 

「あーあ、駄目ですよ光実くぅん。肉食って『はわわっ!』なんて言うヤツ、まともな女なわけーねーでしょうが!」

 

 

沙々はくふふふと笑いながら携帯を取った。

ロック画面はクラスメイトとカラオケに行った時の写真で、それを解除すると光実の写真が出てくるようにしている。

もちろんこれも計算だ。既にさりげなくチラチラと見せ付けている。これで『あれ? 僕の写真だ! まさか沙々さんは僕のことが……!』なんて事を狙っているのである。

 

 

「しかし顔はイケメンだなマジで。んっ、ヤベェ、早く足とか舐めさせてぇです……! よ、ようし、軽く●●●ーしてから風呂入りますか……!」

 

 

沙々は最低な事を呟きながら横になった。

ちなみに、貰ったプレゼントを売るという最低な行動ではあったが――

 

 

「あ、あの……、仁美さん。これ、なんだけど」

 

「なんですの?」

 

「いやッ、ほら、別に何って訳じゃないんだけど。プレゼントっていうか」

 

「まあ。ありがとうございますわ! これはネックレスですか?」

 

「そう巨峰のネックレスなんだって! いや、あの、でもごめん。中古なんだッ。フリマアプリで見つけたんだけど海外のマイナーなブランドで。日本じゃ手に入らないんだ。でも俺、似合うと思ったから……」

 

 

女性へのプレゼントに中古を選んでしまうセンス。高級なレストランに慣れてないのか、さっきからナイフとフォークを持つ手が逆。

ましてや夫婦なのに、あからさまに緊張している態度。

冴えない人だ。仁美はそう思った。

けれども――……。呆れたように笑う。

 

 

「昴さん。私と結婚してくれて、ありがとうございます」

 

「えッ!?」

 

「今でも思い出しますの。まどかさんと、さやかさんと一緒に遊んだ時のことを」

 

「……俺も覚えてるよ。上条と下宮は、俺の友達だ」

 

「一人ぼっちになった私を皆、笑いました。はじめから一人だったのに何を馬鹿な事をと。でもそんなとき、貴方は一緒にいようかと言ってくれましたね」

 

「まあ、ハハハ。ちょっと下心はあったけどね」

 

「それでも、寂しさは埋めれましたわ」

 

 

仁美はネックレスを身につけ、微笑む。

 

 

「今度時間が取れたら温泉にでも行きましょうか」

 

「うッ、うん! ぜひ!」

 

 

とまあ、なんだかんだと別の人の役には立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

みんな、いろいろある。

 

 

「紘汰、アンタ進路希望、白紙で出したんだって! 大丈夫なの!?」

 

「大丈夫だって姉ちゃん。ちょっとたまたま、迷っただけさ……」

 

 

昔も、今も、きっとこれからも。

 

 

「お父さん。お母さん。行ってきます。今日も見守っててね」

 

 

考えるのは――、あまり好きじゃない。ずっと変わらないでいたいってのは駄目な事なんだろうか?

 

 

「沙々さん、おはよう!」

 

「おはようございます! ではでは! 今日も頑張っていきましょうっ!」

 

 

だって世界は――、こんなにも一緒だ。それでいいじゃないか。

 

 

「おい戒斗。お前どうしたんだよ昨日、無断欠席だなんて。電話しても繋がらないし」

 

「……悪いな。少し外せない用事があった」

 

 

変化なんて望んじゃいない。同じものを見ているのは安心できる。

 

 

「初瀬くん! 貴方またネクタイ!!」

 

「だぁかぁらぁ!!」

 

 

変わろうとしているヤツを見ると、焦る。

 

 

「おい日向」

 

「ん? なに戒斗」

 

 

いつもどおりの一日が終わり、今日もビートライダーズの活動が始まった。

紘汰のチーム鎧武。戒斗のチームバロン。初瀬のチームレイドワイルド。城乃内のチームインヴィットが会場に集まっていた。

今日はこの四チームが同時にダンスを踊る『合同ダンス』の回だ。ランキングは関係なく、視聴者に対するサービスのようなものである。

現在、ビートライダーズは天樹の四チームしか存在しないが、将来的には他の学校もダンスチームを結成し、ビートライダーズバトルに参加しようという話が纏まっている。

とはいえ紘汰達はもう卒業だ。一年の終わりに発表されるチャンピオンチームに選ばれる為に、今日もよりよいダンスをしようとする。

 

 

「それは分かるな。日向」

 

「うん。もちろんっ! マツリも戒斗達を一位にするために頑張るからっ!」

 

 

チームバロンに与えられた待機場。

他のメンバーは既に外に出ており、中には戒斗と茉莉の二人だけである。

 

 

「それはいいが日向、貴様ザックに惚れてるな」

 

「え!? な、なななな何を言って……!」

 

「そんなバレバレのリアクションで隠してるつもりか。まあその肝心のザックは気づいていないようだが俺はチームバロンのリーダーだ。強者は些細な変化も見逃さんものだ」

 

 

指を鳴らす戒斗。

すると窓がガラリと開いて、チームメイトのペコがニュっと出てくる。

 

 

「ひぃ!」

 

「いちいち驚くな! ペコ、例の物は手に入ったか!」

 

「はい! バッチリです戒斗さん!」

 

「ご苦労。ちなみにペコ、今日一日、茉莉がザックをチラ見した回数はどれだけだ!」

 

「102回です!」「なんでそんな事知ってるの!」「これが強者だからだ!」「意味ふめー!」「黙れ! それよりご苦労だったな。戻れペコ!」「はい戒斗さん!」「ペコもそんなんでいいの!? 完全にポケモン扱いだよ!」

 

 

ギャーギャー言い合う中、ペコはシュっとフェードアウト。

一方で戒斗は受け取った包みを茉莉へ差し出した。

 

 

「こ、これなぁに?」

 

「前々からシドと交渉していた上物のロックシードだ。俺が使おうと思っていたが……、気が変わった。ザックにくれてやる」「じゃあ戒斗が自分で渡せば――」「アホか貴様は」「ぶーっ! ひどいよっ!」

 

 

戒斗は腕を組んで鼻を鳴らした。

 

 

「いいか? 貴様がどんな理由で踊ろうが、それは知らん。勝手にしろ。俺としてはちゃんと動いてくれればそれでいい。だが最近の貴様は少々ザックに気を取られすぎている」

 

 

別にチーム内恋愛も禁止はしてない。しかし想いを引きずったままで、足を引っ張られるのは困る。

 

 

「俺がザックに貴様の想いの丈を打ち明けてもいいが、それではつまらんし貴様が納得しないだろう。だからそれを使って話しかけろ。なんなら渡したいものがあると言って誘うのもありか」

 

「……戒斗って恋人いるの?」

 

「そんなものに興味は無い」

 

「ほしいと思ってる?」

 

「いらん。俺には力さえあればいい」

 

「だいじょうぶかなぁ」

 

「なんだその冷めた目は! やめろ! そんな目で俺を見るな!」

 

 

茉莉はしぶしぶ包みを受け取る。しかしそこで、少し戒斗の声色が変わった。

 

 

「日向茉莉。俺は貴様ではない。だから貴様が何に怯えているかは知らん。だが覚えておけ、この俺が貴様をチームに入れたのは、決してザックの推薦があったからではない。貴様の中に強者の資格を見出したからだ」

 

「!」

 

「貴様、周りに好きな数字は39だとか言ってるらしいな。なんだそれは! もう一度いうぞ、なんだそれは! 怖気が走るわ!」

 

「ひ、ひどいよ! 本当に好きなんだから仕方ないでしょ!」

 

 

しかしそこで茉莉はシュンと肩を落とす。

 

 

「でもマツリ……、子供っぽいって言われるし。ザックは大人だし、身長も高いし、でももマツリは小さいし……。一緒に歩いてたら親子と間違えられたし。兄妹ですらないし。なんならザック通報されてたし……。城乃内がザックはお胸が大きな人が好きって言ってたし……。それにたぶん、ザックには……」

 

「聞くに堪えん。弱者の言い分だな」

 

「ひどいよ!」

 

「いいか日向! 真の強者とは、『色』もまた自分の腕で掴み取る。違うか?」

 

「えッ?」

 

「たとえ見惚れている相手がいたとしても、己の力で掴み取って見せろ!」

 

 

なんだかよく分からないが、不器用な応援のようだ。

茉莉はそれを感じたのか。包みをギュッと握り締めると、ニッコリと笑った。

 

 

「ありがとう戒斗!」

 

 

茉莉は決意を固めた表情で外に出て行った。戒斗はフッと笑って、自身も歩き出す。

進路とか、恋愛とか、未来とか、生きがいとか。まあ、誰にでもある。

そんなのは――、退屈だろう?

 

 

「初瀬くん。亜里紗。頑張ってね応援してる」

 

「何回も言ってるだろ! やせろデブ!」

 

「おいみらい止めろ! 個性をないがしろにすんじゃねぇ!!」

 

「光実くんっ! 頑張ってくださいっ! わたし、いっぱい応援しますから!」(あー、マジダンスとかどうでもいいわー。イケメン見れるだけまだマシか。あー、陽キャみんな事故って死なねーかなぁ)

 

「海ちゃん。お兄ちゃんのダンスを本にしてよ」

 

「冗談よして兄さん。打ち切りは作家にとっての傷なのよ」

 

 

皆、楽しそうだ。

でも同じ会話はもううんざりだ。なあ、そうだろ?

 

 

『ハッロォオオオオオオオオオオオオオオ! 沢芽シティ!』

 

 

誰もが動きを止めた。

聞き覚えのある声ではあったが、皆が違和感を感じたのは『脳』が音を拾ったからだろう。

 

 

『カモン! カモン! カモンッ! カミィィング!』

 

 

スカラーシステム起動。脳の奥で警告音が聞こえた。

しかし誰もが意味を理解できず、立ち止まっていた。これはなんだ? 演出か? それとも夢か?

いや違う。『選出』の時だ。参加者ども。

 

 

『ニュゥウウウウウ! ワァアアアアアアアアルド!』

 

 

赤い閃光が降り注ぐ。

例えばそれは戒斗の目の前にいたペコに直撃して一瞬で灰に変えたり。

例えばそれは観客席にいた『佐木京』という少女を焼き尽くしたり。

例えばそれは――……。

降り注ぐ赤い雨。それが止んだとき、会場にいた人間の中から『何人かが』消えていた。

 

 

『かつて、12人の騎士と12人の魔法少女が互いの希望をかけて殺しあった』

 

 

悲鳴が響き渡る。テロだと誰かが叫んだ。逃げ惑う人々。そこで紘汰達は震えながらも、青ざめながらも理解する。

自分達は、とんでもないものに手を出してしまったのだと。

 

 

『その戦いは終わり。旧時代は過ぎ去った』

 

 

DJディエスの声が聞こえる。分かりやすいように音で証明してくれた。ステージの上にちょこんと、黒い化け物が見えた。

 

 

『新しい時代には、新しいフールズゲームが必要だ。はじめまして参加者たち。オイラはジュゥべえ。今までテメェらがDJディエスだと思ってた存在だ』

 

「ジュゥ――……、べえ」

 

『おうよ葛葉紘汰。いや――、こう呼ぶべきか? 騎士・鎧武』

 

「なんだよコレ。なんだよ――、これ」

 

 

紘汰は真っ青になって腰を抜かした。

すぐそこにチームメイトが灰になった痕がある。一瞬だった。肉が溶け、骨がむき出しになり、それすらもすぐにボロボロになって消え去る。

 

 

『ビビんなよ。むしろ光栄な事だ! だってお前等は……、選ばれた!』

 

 

その為のスカラーキャノン。現在、この地球に存在する騎士と魔法少女は、ココにいる『参加者』のみとなったのだ。

 

 

『理解しろ! お前達は神に選ばれた者であるという事を!』

 

 

ジュゥべえが天を仰ぐと、空に巨大な紋章達が浮かび上がる。

それは騎士のエンブレム。そして魔法少女のエンブレム。

それらはすぐに消え去ったが、見間違えでなければ、それぞれ『12個』あったように思える。

つまり――?

 

 

『ルールは簡単! 12人 VS 12人のチームバトル!!』

 

 

12人の中には『リーダー』、『狂人』、『フォックス』など、特殊な役割を持つものが存在するが、それはまた後々。

とにかく、大切なのは一つだけだ。

 

 

『騎士陣営と魔法少女陣営に分かれ――、殺し合う! それが新しいフールズゲーム! トロイアトライアル!』

 

 

勝敗はどちらかの陣営が全滅した時点で決まる。

つまり実力のあるものなら、自分の仲間を誰一人失うことなく、戦いを終わらせる事が可能なのだ。

 

 

『ただし期限は7日。それを過ぎれば地球をブチ壊す。70億人全員死亡だ』

 

 

それを聞いてゾッとしたものが一同の中に走った。

だが勝利した陣営には、どんな願いも叶える事ができる権利、『黄金の果実』が授けられるのだ。まさにハイリスクハイリータンだとジュゥべえは笑っていた。

 

 

『もう一度言うぜ! どんな願いも叶えられる! 金はもちろん! 死人を蘇らせる事や、不老不死にだってなれる!』

 

 

それだけじゃない。恩恵も――、いろいろと。

 

 

『それら情報はゲームが進む中で開示されていく。とにかく今は――、ゲームが始まる事を理解しろ』

 

「ま……、待てよ! ちょっと待ってくれよ!」

 

 

立ち上がる紘汰。殺し合い? 冗談じゃない。訳が分からなかった。

少なくとも、はいそうですねと次に進める状況ではない。自分達はただダンスを踊りに来ただけだ。それが、一体全体どうなって……。

 

 

「そもそもお前はなんなんだよ! どうして猫が喋ってるんだ!」

 

『猫じゃねぇ。オイラはインキュベーター。宇宙の使者だ』

 

 

そこでジュゥべえが立っていた場所からバナナのエネルギーが突き出てきた。

しかしジュゥべえの姿はモザイクの様にかき消え、次はバロンの肩の上に実体化してみせる。

 

 

『オイラを攻撃しても無駄だぜ。なあ、駆紋戒斗』

 

「貴様ァアア……!」

 

『ヒハハハ! いいねぇ! 活きがいい! すぐに変身してみせる適応力もバッチリだ! 後はその怒りをオイラじゃなく、魔法少女どもにぶつけてやりゃあいい』

 

 

理解して欲しいものだとジュゥべえは言う。既にこの場には戦うべき相手がいるのだ。

嫌だ。理解できない。そんなものはアホの言い訳だ。

いつの時代も、生き残り、進化してきたのは適応していたヤツだった。

 

 

『しかし、まあ、オイラも鬼じゃねぇ。頭が真っ白っていう状態も理解はできる。だから一旦、テメェらを分断させる。騎士は騎士同士、魔法少女は魔法少女同士で話し合ってこれからを決めな。ヒャハハハハハ!!』

 

 

ジッパーが現れ空間が割れる。

気づけば紘汰達アーマードライダーは、全く別の場所へ移動していた。

 

 

「なんだよ……、これ」

 

「なに――、これ」

 

 

奇しくも、紘汰とかずみの声が重なった瞬間であった。

かずみも一人だった。海香やカオルの姿がない。魔法少女たちもまた別の場所に強制的に運ばれていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってるの兄さん! フールズゲームって何!?」

 

 

騎士達が集められたのは呉島の屋敷であった。

そこには既にアーマードライダー斬月(ざんげつ)・呉島貴虎と、アーマードライダーイドゥン・朱月藤果、アーマードライダーブラーボ・凰蓮が席についていた。

ここには紘汰、光実、戒斗、ザック、城乃内、初瀬が呼ばれた。つまりあと三人いる筈なのだが、姿が見えない。

すると貴虎が口を開いた。どうやら残りの三人は貴虎側の人間らしい。集まったはいいが、やる事があると早々に屋敷を出て行ったとか。

そして今に至るわけである。詰め寄ってくる光実に、貴虎はまず謝罪を。

 

 

「すまない……、まさかこんな事になるとは」

 

 

異常事態である事は明らかだ。

デスゲームが本当に始まるとしても、そもそも戦極ドライバーやソウルジェムはユグドラシルが作ったものじゃないか。

すると貴虎は一同に、何が起こったのかを話し始める。

結論から言うと、それは裏切りであった。

 

 

「裏切り……?」

 

「ああ。そもそも魔法少女というものは、我々の作った技術ではない」

 

 

貴虎が語るにはインキュベーター――、つまりジュゥべえがユグドラシルに接触してきたのが全ての始まりらしい。

ジュゥべえは自分の事を宇宙人だと説明し、地球に来た理由を『危機を救うため』と称した。

もうすぐこの町に正体不明の化け物・魔女が現れる。放置すれば危険だ。魔女を倒すには現代の武器では心もとない。

なので自分が技術や情報を提供するから、自分達で有効な『武器』を作れと。

 

 

「我々は協力し、ピアス型のソウルジェムとロックシードや戦極ドライバーを完成させた」

 

 

ジュゥべえと協力する事に関して、ユグドラシルでも意見は割れた。

もちろん貴虎たちとしても正体不明の宇宙人のいう事をすぐに信用するなど不可能なことだった。

しかしそうしている内に実際に魔女が現れ、沢芽の人々が犠牲になっていった。

 

 

「そう言えば、ある時期――、やたら行方不明事件が多かったような……」

 

 

城乃内が震える指でメガネを整えていた。紘汰の表情が曇る。確かに――、彼の両親は魔女に殺されたではないか。

あんな化け物は見たことが無かった。不思議な力、魔法で人を殺す殺戮マシン。

 

 

「私が戦極ドライバーとソウルジェムの開発を強く推したんだ」

 

 

貴虎としても、これ以上見逃すわけにはいかなかった。

だからこそジュゥべえと協力し、さまざまなアイテムを作り上げたのだ。

ジュゥべえから受け取った力の一端、それは人間には完全に理解できないオーパーツ。

それを使うには抵抗があったが、事実被験者に選ばれた紘汰達は見事に魔女を倒し、町には平和が戻ったではないか。

 

 

「そして、そのジュゥべえが裏切ったという事ね」

 

 

凰蓮の言葉に、貴虎は申し訳なさそうに頷いた。

 

 

「そんな裏側はどうでもいい!」

 

 

そこで、戒斗がテーブルを強く叩く。

 

 

「今の問題はただ一つ。ゲームが始まったという事だ!」

 

「そうだぜ! どうすんだ! 戦うのかよ!」

 

 

初瀬の言葉をさえぎるように紘汰が叫ぶ。そんな訳ないだろうと。

そうだ。そんな馬鹿な話があってたまるか。

 

 

「あんな黒猫野郎の好き勝手させてたまるか! なあそうだろ皆ッ!」

 

 

戦慄が走る。皆ゲームに乗る姿を一瞬、想像したのだろう。

つい先程まで仲良く話していた魔法少女を殺す。

殺人を犯す責任。大切な人を殺める狂った環境下。同調圧力の想像。

しかしそれらを振り払うようにザックが大きな声で叫ぶ。

 

 

「紘汰の言うとおりだ! 馬鹿なこと言ってねぇで解決策を探ろうぜ! なあ、何か無いのかよ呉島さん! 今はアンタが頼りなんだ!」

 

 

そこで貴虎は、ココにはいない三人の話を出す。

ユグドラシル側も日々、インキュベーターの技術を研究してきた。そして仮にジュゥべえが裏切った時のケースも想定していたらしい。

ただそのタイミングが予定よりもずっと早かったため、現在本社のほうで必死に対策を練っているのだとか。

 

 

「じゃあ希望はあるって事だよな!」

 

「ああ。いずれにせよ我々はインキュベーターの情報に惑わされないようにしなければ。お前達も、いいな?」

 

 

貴虎は皆を睨む。誰も何も言わなかった。

するとそこでコール音。光実の携帯、そのディスプレイには『優木沙々』の文字が見える。光実はすぐに通話をタップして沙々と会話を始めた。

僅かなやり取りの後、光実はホッとしたように電話を切る。

 

 

「みんな聞いて! 向こうも僕等と同じ考えみたいだ」

 

「そっか! そうだよな! はは……、焦って損したぜ」

 

 

つまり魔法少女たち12人も戦う意思は無いと。

とにかく24人が力を合わせて、このゲームを止めようと提案してきたのだ。

紘汰たちも断る理由はない。魔法少女たちと携帯でやり取りをして、川原に集まることにした。

 

 

「みんなも、それでいいよな?」

 

 

紘汰の問いかけに、誰もが頷いた。あの戒斗でさえも。

 

 

「俺は、ペコを殺ったヤツを許さん。それだけだ」

 

「あ、ああ。とにかく皆一緒なんだ。大丈夫さ……!」

 

「……だといいがな」

 

「え? 何か言ったか?」

 

「いや。何でもない。さっさと行くぞ」

 

 

待たせるのは悪い。紘汰たちは川原に向かうため、屋敷を出た。

 

 

 

 

空はピンクと、オレンジと、パープルで、とてもフルーティに見えた。

いつも誰かが楽器の練習をしていたり、子供達がサッカーで遊んでいる。しかし今日は誰もいない。

参加者、僅かな関係者以外。

 

 

「海香! カオル!」

 

「かずみ!」

 

「どこ行ってたの! 心配したよ!」

 

 

海香が連絡を入れていたようだ。かずみが集合場所にやって来た。

しかし普段は明るい彼女も、もちろん現状は理解している。既に海香やカオルが魔法少女だという事は知っていたので、その点は問題ないが。

改めて、向こう側にいる騎士達を見て、何か……、言いようの無い感情を覚えた。

 

 

「来てくれてありがとうございます!」

 

 

魔法少女側を纏めているのは、高等部三年の遥香のようだ。

チーム鎧武の佳奈美。チームバロンのカオル、茉莉。チームレイドワイルドのみらい、亜里紗。

城乃内の妹の海香。初瀬の友人の千里。

かずみの友人の里美。光実のクラスメイトの沙々。

そして紘汰はよく知らないが、朱音(あかね)麻衣(まい)という少女が目を細めていた。

そして中には、紘汰のバイト仲間でもある、鈴音も見えた。

 

 

「鈴音……! お前も魔法少女だったのか!」

 

 

聞こえているのか、いないのか。鈴音は無言だった。

 

 

「私達に戦う意思はありません!」

 

 

はじまりとして遥香がそう叫んだ。

貴虎が反応して前に出ようとすると、藤果がそれを制する。

 

 

「貴虎様はお顔が怖いので、私が参ります」

 

「………」

 

 

複雑そうに沈黙する貴虎と、ニコニコと前に出て行く藤果。

彼女の柔らかい雰囲気に釣られて、遥香もホッとしたように前に出た。それだけではなく藤果は歩く中で、自分の戦極ドライバーとロックシードを投げ捨てる。

 

 

「私達、騎士側も同じです。こんな馬鹿な戦いはやめて、皆で解決の方法を探しましょう」

 

「はい! そう言って頂けると助かります!」

 

 

目の前まで迫る二人。藤果は微笑むと、手を差し出した。

握手だ。遥香も軽く自分の手を服で拭いた後、優しく握り返した。

みんなホッとする。安心する。確かにまだ不安は多いが、みんな一緒ならきっと何とかなる! 解決できる!

ちゃんちゃん!

 

 

「……?」

 

 

 

 

「あれ? 茉莉? どうしたの?」

 

 

 

 

「どうして変身してるの?」

 

 

 

 

「きゃっ、ど、どうしたんです――」

 

 

 

 

「え?」

 

 

ッッねぇえエエエだろぁゥッがッッよぉオオオオオオオ!!

よくも、よくもッ! よくもよくもよくもよくもォオオオオ!

毎度毎度あんなクソ不味いウンコみたいなアップルパイを食わせやがってくれやがりまくりましたよねぇええ藤果サンンンンン!

マ・ジ・でッ・ギ・ル・ティ! ですです!

でわでわっ! ですのでぇ~!

 

 

ブッ! チッッ! 死ッッッ! ネッッッッ!

 

 

 

 

 

 

パチュンと音がした。

茉莉の武器は大きなガントレット・パワーアームだ。巨大な右手が藤果のお腹に押し当てられた。

そこでパチュンと音がしたのだ。

 

 

「あれ?」

 

 

茉莉は自分の手が赤く染まっている事に気づいた。小さなリンゴがいっぱいくっついていると思った。

しかしそれは違った。例えば臓器の一つとか、骨の一部が指に絡みついているのだと分かった。

目の前では『千切れた藤果』が転がっていた。

 

声が漏れた。

え? たぶん。え? だと思う。

しかし分からない。聞こえない。茉莉の小さな呟きでは、周りの悲鳴をかき消す事はできない。

なんだか怖い。『初めて見る』光景に、茉莉はどうしようもなく恐怖した。

後ろに下がる途中で、腰を抜かして震えている遥香が見えた。

 

 

「どうしたの、遥香?」

 

 

遥香は涙目で叫んだ。初めて見る顔だった。

 

 

「なんでよッッ、茉莉ッッ!!」

 

「え? えッ? な、なにが?」

 

 

そこで別の声が聞こえた。茉莉がそちらを見ると、藤果の上半身にしがみ付いて泣いている貴虎が見えた。

 

 

「貴虎……、様」

 

 

かろうじて、まだ藤果には息があった。

彼女は血まみれの腕で貴虎の頬を優しく撫でる。

気にしないで。そう言いたかったが、

 

 

「いやでぅ……! わだじ――ッ、じ、じにだくッ、ない! がぷぉッ! もっどッ、あなだと一緒にいだいで――」

 

 

喋るたびに口から血が溢れてきた。

苦しい。息ができない。藤果は涙と血に塗れながら、貴虎にしがみついた。

 

 

「だずけで……、貴虎――……」

 

 

光が消えた。

藤果が死んだ。

 

 

 

【朱月藤果・死亡】

【魔法少女陣営:残り12人】【騎士陣営:残り11人】

 

 

 

 

「ちがう! ちがうよ!! マツリじゃないッ!」

 

 

しかし無情にも、アナウンスは皆の脳内に入っていく。

そうか、これがルールなのか。これがシステムなのか。茉莉以外が理解してしまった。

 

 

【ソーォダァ】

 

【レモンエナジーアームズ!】

【ピーチエナジーアームズ!】

【チェリーエナジーアームズ!】

 

 

橋の上に三つのシルエットがあった。

アーマードライダーだ。デューク、マリカ、シグルド。彼等は同時に弓を――、ソニックアローの弦を引き絞る。

 

 

【ロック・オン!】

 

 

そして手を離すと、電子音と共に三つの矢が放たれた。

本能が察知したのか。遥香は掠れた悲鳴をあげて変身。立ち上がると、地面を蹴って走り出す。

だが既に一本の矢が、まず右耳を消し飛ばした。

 

 

「ウソつきッッ!」

 

 

次の矢が左耳を消し飛ばす。

これで、二つのソウルジェムが消え去った。最後に、デュークの矢が遥香の心臓を貫いた。

 

 

「協力するって言ったじゃないッッ!!」

 

 

それが断末魔であった。

 

 

【奏遥香・死亡】

【魔法少女陣営:残り11人】【騎士陣営:残り11人】

 

 

遥香が倒れると、すぐに粒子化して消え去る。

それは藤果も同じだった。貴虎の腕から零れ落ち、散らばった臓器や骨も全て消え去る。

まるではじめから存在していなかったかのように。

 

 

「危なかったね。フフフ……!」

 

 

デュークを中心に、三人のアーマードライダーが川原に着地する。

そこでデュークは足を止めた。というのも、紘汰が掴みかかってきたのだ。強く、強くアーマーを掴んでいた。

 

 

「なんで……!」

 

「うん?」

 

「なんで殺したんだよォオッッ!!」

 

「何でって。嫌だな葛葉紘汰。キミも見ただろう? 最初に手を出したのは魔法少女側だ」

 

「それは――ッ! だけど!」

 

「理解してくれ。これは正当防衛だという事を」

 

 

デュークは紘汰を払いのけると、再びソニックアローを引き絞る。

ピリニョン、ピリニョン。特徴的な電子音が流れ、弓の中央に光が集中していく。そして手を離すと、光の弓矢がへたり込んでいる茉莉に向かって発射された。

ザックが逃げろと叫んだが、誰も聞いちゃいない。そうしている内に間違いなく矢は眉間を貫くはずだった。

 

しかしそこで矢がかき消えた。

見れば魔法少女に変身した麻衣が、刀を抜いているのが見えた。

どうやら『魔法技』を使って茉莉を助けたらしい。

 

 

「動け! 魔法少女! 奴等はやる気だぞ!」

 

 

それが合図だった。魔法少女も騎士も、何人かが変身して戦闘態勢に入る。

やめろ。戦うな。何人かが叫ぶ声が聞こえたが無駄だった。麻衣は一度刀を鞘に納め、腰を落とす。

目が細くなる。そして踏み込むと、次の瞬間には刀を振りぬいていた。

なんというスピードか。抜刀の瞬間が見えなかった。

そしてなぜか圧倒的に離れている何人かのアーマードライダーから火花が上がり、後退していく。

唯一、変身していなかったのは城乃内だ。その右腕が切断されて地面に落ちた時、激痛の悲鳴が上がる。

 

 

「……ウソ」

 

 

海香が青ざめ、ポツリと呟いた。

また悲鳴。また怒号。悪夢のような時間である。そこで何かが空から降ってきた。

 

 

「はぁ?」

 

 

紘汰は掠れる声を漏らす。

なんなんだ。なんなんだ。なんなんだよ。そればかりが脳内でループする。しかしまた脳内に広がる声。

 

 

『ハロー参加者共』

 

 

ジュゥべえの声だった。

 

 

『盛り上がりそうな場面で水を差すのは申し訳ねぇが……、ここで追加ルールの発表だ』

 

 

上を見てみろ。何かがゆっくり降ってきただろ。アレはG(ガーデン)。まあ簡単に言えばスーパーロボットだ。

あぁ、今着地したな。んじゃあ軽く自己紹介。

 

 

『私はスコーピオンです。何でもお手伝いします』

 

 

地面に降り立ったのは二足歩行のロボットだった。

名前の通り、両腕はハサミ型のパワーアームになっており、臀部には尻尾型の長いパーツが見える。体には『GM-01』と記載されていた。

頭部もサソリの形をしており、V字状のスリットが目の部分に存在していた。

 

 

『スコーピオンの役割は簡単だ。今回は少し遅れたが、17時からナイトフェイズに入る。その時間帯で、コイツはランダムに参加者を一人殺す』

 

 

七日間で決着をつけなければならないのだ。運営側としても手助けはしてあげたい。

 

 

『それでは、参加者を一人、殺害します』

 

 

ピロンと音がして、スコーピオンから女性の声がした。

淡々とした言い方だった。そして、歩き出す。

腕のハサミを開くと、光弾を発射。一番近くにいた茉莉が狙われた。

 

 

「あぐぅうぉお!!」

 

 

しかし滑り込んでくる者が。カオルだ。彼女の固有魔法、肉体の硬質化によって自身が盾になったのだ。

とはいえ、凄まじいダメージだった。カオルは熱と痛みに顔を歪めながら裂けぶ。

 

 

「逃げろ皆ァア!」

 

 

そこでまた悲鳴が聞こえた。一勢に走りだす騎士と魔法少女。

しかしまたピロンと音がして淡々とした女性の声が聞こえる。

 

 

『逃がしません。ここで一人、殺害します』

 

 

そういうルール。システムなのだから。

そうか。なら仕方ない。一瞬、そう思ってしまった。それが許せなかった。

だから紘汰は叫び、戦極ドライバーを装着する。

 

 

「ふッッざけんなァア! 変身!」『オレンジ!』『ロック・オン!』『ソイヤッ!』『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』

 

 

鎧武はオレンジ型の小刀、大橙丸を握り締めて全速力で走る。

両手で振り上げた刃を、思い切りスコーピオンに向かって撃ちつける。

しかし二度、三度と叩き込んでも全く傷つく様子がない。それだけ装甲が硬いのだ。

 

 

『あー……、スコーピオンを攻撃するのはオススメはしない。なにせコイツはゲームを加速させるための装置だ。当然、お前ら参加者よりもずっと強く設定してある』

 

 

事実、スコーピオンは両手を前に出して、鎧武を突き飛ばした。

それだけで鎧武の体は大きく吹き飛び、地面を滑る。

加えてV字状のスリットからレーザーが発射。鎧武に直撃し、爆発を巻き起こす。

 

 

「ぐあぁあああああああ!!」

 

 

全身が焼けるようだ。しかし鎧武は歯を食いしばり、別のロックシードを起動させた。

 

 

『パイン!』『ロック・オン!』

 

 

立ち上がり、カッティングブレードを倒す。

 

 

『ソイヤ!』『パインアームズ! 粉砕・デストロイ!』

 

 

オレンジ型の鎧が消失し、次はパイン型のアーマーが装備される。

パイン型の鉄球、パインアイアンを振り回すと、そのままスコーピオンに叩き込む。

オレンジアームズよりも、パワーを重視したパインアームズの一撃。これならばと思ったが、スコーピオンは全く怯まない。

 

 

『それでは、私を倒すことはできませんよ』

 

 

ハサミが開き、光弾がマシンガンの様に発射される。

それらは次々に鎧武へ直撃していき、火花を撒き散らした。

紘汰の悲鳴が聞こえる。パインアームズは防御力も高いが、それを感じさせないダメージであった。

 

 

「チッ、仕方ねぇな!」

 

 

そこでシグルドが弓を構える。

 

 

「同じチームだ。助けてやらねぇと、よッ!」

 

 

矢を発射。それはスコーピオン――、ではなく、そこを抜けて背中を向けていた里美の足を貫いた。

 

 

「あぁあああ! い、痛いッッ! 痛いよぉ!」

 

 

恐怖で変身するのを忘れていたのか、矢は生身の足なんて簡単に貫いてみせる。

血を撒き散らしながら倒れる里美。同じく変身していた龍玄は、ギョッとしたようにシグルドを見る。

 

 

「何を!?」

 

「何って。ルールを聞いてなかったのかい? 一人を殺せばアイツは帰るんだろ。だったら魔法少女ちゃんに犠牲になってもらおうじゃないの」

 

 

つまり里美を動けなくして、後は全員逃げるのだ。

そうすればスコーピオンは逃げられない里美を殺して役目を終えるだろうと。

 

 

「テンメェエエエ!!」

 

 

ご丁寧に説明したからか。みらい様がブチ切れた。

 

 

「外道め! 同じことしてやる!」

 

「あらあら。怒られちまった」

 

 

走るみらいだが、そこでスコーピオンが首を動かす。

みらいを狙っているのか。止めなければ。何とかしなければ。取り合えず龍玄はブドウ龍砲を連射して気をひこうと試みる。

それに反応して、千里も銃を抜いて弾丸を発射する。しかしやはりと言うべきか。スコーピオンに効いているとは思えなかった。

無数の銃弾を浴びながらも、不動のまま立っている。

 

 

「ザック! 貴様は城乃内を連れて逃げろ!」

 

「分かった! 気をつけろよ戒斗! おい、立てるか城乃内ッ! 病院にいくぞ」

 

「あがぁぁあうっ! ぁああ!」

 

 

ナックルは城乃内の左腕を止血しながら肩を貸す。

一方でバロン、初瀬が変身した黒影、凰蓮が変身したブラーボが武器を構えてスコーピオンに突っ込んでいく。

まずはバロンがバナナ型の槍、バナスピアーを突き入れる。しかし硬い装甲に弾かれ、槍先は全く入らない。

次いで黒影が、槍・影松で切り払うが、これも同じ。

ならばとブラーボがノコギリ型の武器、ドリノコを両手で叩き込むが、どれも同じだった。

 

表面に僅かな傷を作るだけで、全く効果がない。

そうしているとスコーピオンが動いた。俊敏な動きで今まで受けていた攻撃を回避すると、まずはアームでバロンを攻撃。

一撃を肩に当てて怯ませると、胸にもう一発。さらに蹴り飛ばしてレーザーで追撃。

さらに尻尾を振り回してブラーボと黒影を連続で切りつけていく。

尾の先端には鋭利な棘があり、それを黒影の装甲に突き刺して投げ飛ばした。

飛んでいった黒影は、丁度スコーピオンに襲い掛かろうとした亜里紗に直撃してダウンさせる。

 

 

『無駄だと思います。参加者の皆様では、私を破壊する事はできませんよ』

 

 

アームから光弾が発射され、向かってきたブラーボに直撃、大きく吹き飛ばす。

 

 

『参加者を殺します』

 

 

スコーピオンは尾を地面に突き刺し、自身の体を持ち上げる。

そして空中で仰向けになるようにして、両手両足を広げて伸ばした。

ハサミに集中していく光。足裏に集中していく光。

まさか、と。数人が理解して叫ぶ。

 

 

「兄さん!」

 

 

龍玄は未だに放心したままの貴虎を抱きしめるようにして庇った。それは海香も同じだ。かずみを守り、ナックルは城乃内を守る。

その、まさかだった。スコーピオンは尻尾を軸にして高速回転。そして両腕と両足から光弾を連射して、無差別に周囲を破壊していく。

しかも光弾はご丁寧にホーミング機能つきだ。どこに逃げようが容赦なく参加者に直撃していく。

 

 

「―――」

 

 

誰もが無言だった。皆――、倒れ、沈黙している。

装甲やドレスから煙が上がっている。その中で運良く着弾の回数が少なかった海香が目を開けた。

 

 

「かずみ……ッ、大丈夫?」

 

「うん。海香が守ってくれたから。でも……!」

 

 

かずみはハッとして体を起こす。

海香が話した『声』を拾われたらしい。スコーピオンは尾の先に光を溜めて、海香の方を見ていた。

 

 

「危ないッ! 海香!」

 

「かずみ! 駄目!」

 

 

かずみは立ち上がり海香を守ろうと両手を広げる。

しかし、かずみはただの人間だ。それならば自分が盾になった方がいい。

海香は重い体を何とか持ち上げると、かずみを後ろに下げて自分が前に立つ。

だが海香は気づいていない。スコーピオンが放とうとしている一撃は、海香では防ぎきれない事を。

 

 

『チャージが完了しました。ソリッドスパークを発射します』

 

 

海香は武器の本を前に出して、防御魔法を展開する。

しかしその時だ。怒号が聞こえた。

 

 

「おいクソロボット!!」

 

 

城乃内は確かに立っていた。

かずみと同じく、ナックルに守られたが故に立つことができた。

今も腕からは血を流れている。顔は青白く、目も虚ろだ。

 

 

「よせ、城乃内……!」

 

 

ナックルが手を伸ばす。

そこで城乃内はニヤリと笑った。片腕だから手間取ったが、戦極ドライバーの便利な点は腰の前まで持ってくれば自動で巻きついてくれる事だろう。

 

 

「冗談だろ。お兄ちゃんナメんな」『ドォングリィ!』

 

 

勇ましい待機音が流れる。城乃内は震える手でロックシードを装填。カッティングブレードを倒す。

 

 

「変――……、身」『カモン!』『ドングリアームズ!』『ネバーギブアーップ!』

 

 

アーマードライダーグリドンはドンカチを手にして、走った。

海香が驚いたように手を伸ばす。簡易的な結界が纏わりつく。

スコーピオンの尾から放たれた巨大な針型のエネルギーは、それをなんなく貫いた。結界が割れ、バックルが砕け、装甲がバラバラになる。

腹部に風穴が開いた城乃内は目を見開き、地面に膝をついた。

 

 

「兄さんッッ!!」

 

 

叫ぶ海香。一方で、ピロンとマヌケな音がする。

 

 

『致命傷を与えました。ナイトフェイズを終了します』

 

 

スコーピオンは背中のブースターを起動させて空に浮き上がる。

海香はすぐに走った。すぐに回復魔法をかけるが、城乃内がゆっくりと首を振る。

 

 

「いい……、から」

 

「でも兄さんッッ!!」

 

 

そこで城乃内はゆっくりと首を振った。

 

 

「それは……!」

 

 

城乃内はそこで沈黙する。

困ったように笑い、ゆっくりと海香の肩に触れる。

 

 

「違うのが……、違うよな」

 

「え?」

 

「覚えておいてよ海ちゃん。俺さ、結構……」

 

「やめて! 喋らないで! 喋ったら――ッ」

 

 

とはいえ、海香は言葉を続けることができなかった。

城乃内の腹に空いた風穴は、向こうの景色が見えるほどクッキリと空いている。もはや手遅れなのは明白だった。

 

 

「結構――、結構さ……、良い……、兄貴、だった……、よな?」

 

 

そこで城乃内は目を閉じた。

体が粒子化していくまで、そんなに時間はかからなかった。

 

 

【城乃内秀保・死亡】

【魔法少女陣営:残り11人】【騎士陣営:残り10人】

 

 

 

「城乃内……!」

 

 

黒影は立ち上がり、動揺した素振りを見せていた。それもその筈、初瀬は城乃内とは親友だった。

いや、初瀬だけじゃない。同じ土俵で戦ってきた者の死を見て、平気な筈がない。

 

 

「城乃内――ッ、う、ウソだろ……!?」

 

 

ダメージから変身が解除されていた紘汰は、ただ青ざめ、ブルブルと震えるしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

誰が提案したわけでもない。ただ混乱が終わり、疲労感が頭を冷静にさせてくれた。

両陣営は何も言わず、それぞれに分かれた。騎士陣営はチーム鎧武が活動拠点にしているガレージ。赤レンガ倉庫に集まっていた。

 

 

「なんで攻撃したんだよ!」

 

 

紘汰が掴みかかったのはデュークに変身していた男、戦極(せんごく)凌馬(りょうま)だ。

他にもマリカだった(みなと)耀子(ようこ)が腕を組んで壁に持たれかかっており、カウンターにはシグルドだったシドが困ったような表情を浮かべていた。

凌馬また、呆れたように鼻を鳴らすと、紘汰の腕を払う。

 

 

「先程も言っただろう? 仕掛けてきたのは向こうの方さ。むしろ喜ぶべき事だろう? 一人減らせたのは大きいと思うが」

 

「は……?」

 

「コチラはただでさえ二人失っているのに――」

 

「い、いや! ちょっと待てよ! アンタ等は戦う気はないって――ッ!」

 

「はじめはそうだった。でも結論から言うとね、間に合わなかったんだよ」

 

 

凌馬達もできる事ならば犠牲なく終わらせなかった。しかし調べれば調べるほどに実感する。インキュベーターの拘束力は強い。

宇宙の存在は、完全に人間を掌握している。逆らう事は不可能。ならば凌馬たちに選べるのは、『よりよい選択』だ。

 

 

「スコーピオンを見て思ったよ」

 

 

インキュベーターの願いを叶える力といい、参加者を圧倒するGといい、抵抗は無駄だと考えるべきだ。

もう少し時間があれば調べる事もできるかもしれないが、七日では厳しいものがある。

 

 

「まずは一旦、向こうに従うしかない」

 

「戦うって事か! ふざけんなよ!」

 

「ふざけてんのはテメーだろ」

 

「な、なんだと!」

 

 

シドは立ち上がると、近くにあったグラスを手にする。

 

 

「嫌だ嫌だってのは分かるがよ。分かってんのか葛葉ァ。7日以内に決着つけなきゃ――」

 

 

シドはグラスを落とした。当然、割れて粉々になる。これが7日後の地球である。

 

 

「こうなるわけだ。お前も家族も、他の人間も、みんなみんな死ぬ」

 

「それは……!」

 

「そりゃ何とかできるなら一番だがよ。できなかったらどうなる? 『やっぱり殺しておけば良かったです』じゃ、済まねーんだぞ」

 

 

紘汰は黙ってしまう。そこで凌馬が笑った。

 

 

「今回の話はね、実はそんなに悪いものではないかもしれないよ」

 

「どういう――ッ、事だよ」

 

「実は最近調べてみて分かったんだけどね。キミ達に討伐を依頼していた魔女がいるだろう? 実はアレ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「騎士を皆殺しにしよう」

 

 

魔法少女達はあれから麻衣の家にやってきた。

実家が剣道教室を開いているらしく、道場は広い。そこに魔法少女達が集まったところで、麻衣は提案を行う。

それはゲーム参加の意思表明。参戦派となり、騎士を皆殺しにする。

 

 

「自分が何を言っているか分かっているの?」

 

 

海香が麻衣を睨みつける。

あれから追加ルールが発表された。事前に聞いていた者もいるようだが、大まかにはこうだ。

 

・仲間陣営で傷つけあう事はできない。攻撃を与えても、僅かな衝撃がある程度である。

 

・ゲーム終了時の願いを死者の蘇生とした場合、一つの願いで三人まで蘇生させる事ができる。ただし、対抗陣営の人間を蘇生させる事はできない。

 

つまりどうあったとしても、騎士を犠牲にするという意味だ。

 

 

「もちろんだ。理解も覚悟もしている」

 

「……貴女が腕を切り落としたのは、私の兄だった」

 

「それはすまない。だが分かってくれ。私も友人をスカラーキャノンとやらで殺された。みんな良いヤツだった。死ぬ理由など一つもないのに殺された」

 

 

麻衣は鋭い眼光を光らせる。

 

 

「それに、向こうも殺る気なヤツはいるぞ」

 

 

海香は複雑な表情を浮かべて沈黙する。

しかしそこでカオルが前に出た。海香に変わって麻衣を睨みつける。

 

 

「ふざけんな。だとしても、あたし達は協力を訴えるべきだ」

 

「フッ。向こうはそれを受け入れるかな? 忘れたワケじゃないだろ? はじめに手を出したのはコチラだぞ」

 

 

そこで全ての視線が一勢に茉莉に注目した。

 

 

「ち、違う! 違うよ! マツリじゃない!」

 

「あんな派手にやっておいて?」

 

 

みらいに睨まれ、茉莉は涙目になる。

確かに、茉莉が藤果を殺した。残念ながらこれは揺ぎない事実である。

 

 

「ま、まあまあ落ち着きましょうよぉ。茉莉ちゃんも違うって言ってるじゃないですかぁ」

 

 

ギスギスした雰囲気を感じ取ったのか、ここで沙々が茉莉を庇うように立った。すると背中を押されたのか、カオルも強く頷いて茉莉を庇う。

なにせカオルは茉莉と同じチームだ。どういう人間かは、他の魔法少女達よりも知っていると自負していた。

そのカオルが茉莉が人を殺すなんて100%ありえないと断言する。その意見には千里や亜里紗なども同意した。

 

 

「茉莉は優しい子よ。私もカオルちゃんに賛成」

 

 

そう言って千里は、仮説をひとつ提唱する。

茉莉は藤果を攻撃した。これは――、どういう事か? あの時の様子を考えるに、無意識に行っていたように見える。

つまり操られていたのではないか、そういう事だった。

 

 

「騎士の奴らが?」

 

 

みらいの意見に千里は首を振る。

少なくとも見てきた騎士にそんな特殊な力を使えるものがいるとは思えない。あくまでも騎士は『鎧』と『武器』を変えるだけ。

武器の中に、洗脳効果を持つものがあるとも限らないが、そんな様子は無かった。

 

 

「ちょっと待ってよ千里。じゃあアンタまさか、アタシらの中に犯人がいるって言いたいワケ?」

 

 

亜里紗の言葉に、一同の顔色が変わった。

 

 

「ちょっと待ってよ亜里紗。そうは言っていないわ! ただ、たとえば魔法少女の一人がデスゲームを望んで力を手に入れたとか……」

 

 

12人以外の魔法少女。『X』という13人目。

確かにそれも考えられる。しかし、だとすればジュゥべえが関わるだろうか? 麻衣はそれが気になった。

その実、麻衣は全てを知っている。麻衣の仲間もまた魔法少女だったが、彼女達は『スカラーキャノン』で死んだ。

少なくとも麻衣はジュゥべえがそんな願いを『許す』とは到底思えなかったのだ。

 

 

「どうだろう。考え方の違いはあるかもしれないが、いずれにせよ私達はこれから共に戦う仲間だ。腹をさらけ出すためにも、固有魔法を明かすのは?」

 

 

固有魔法は魔法少女の心臓だ。晒すのは信頼の証しでもある。

言いだしっぺという事なのか。麻衣はまず自分の能力を打ち明けた。

 

 

「私の魔法は、『範囲』だ。主に刀のリーチを上昇させる。茉莉を洗脳する事はできない」

 

 

次はみらいが手を上げた。

 

 

「ボクは『支配』。人形を操ったりできるよ。その気になれば魔女とか使い魔も操れるけど、魔法少女は無理だから」

 

 

次は千里。

 

 

「私は『解除』よ。かけられた魔法とか、拘束を破壊できるわ。だから茉莉は操れない」

 

 

亜里紗が手を上げる。

 

 

「アタシ、『強化』。スピードとかパワー上げんの。だから洗脳なんて器用なのは無理」

 

 

沙々がおずおずと手を上げる。

 

 

「わたしは『創造』魔法ですぅ。魔法でオリジナルの使い魔を作れますっ。茉莉ちゃんを操るなんて絶対できません!」

 

 

佳奈美が手を上げる。今までの光景がショッキングだからか、具合が悪そうだ。

 

 

「私、『スピードアップ』……。亜里紗さんと似てるから」

 

 

カオルが頷いた。

 

 

「あたしは『硬質化』だ」

 

 

海香がメガネを整えた。

 

 

「『記述』魔法よ。情報に関する事を主に司るわ。だからハッキリ言うと洗脳はできてよ」

 

 

ただし近づかなければならないし、目を合わせなければならない。

それに加えて洗脳の種類が、誤った記憶を植えつけたり、人格の変更等であったり、相手に殺害を強制させるまでには至らない。

 

 

「まあ、できない事もないけど、私は茉莉の魔法を知っているから」

 

 

そこで茉莉が自分の魔法を説明する。

 

 

「マツリの魔法はね。『把握』だよ」

 

 

サポートに特化した魔法だ。味方が状態異常になれば、その詳細を調べる事ができる。

尤も自分が洗脳されてしまった状態では使えなかったようだが、それでも以前、特訓として海香の洗脳を受けたことがあるが、その時は拒絶する事ができたし、海香に操られそうになっている事を把握できた。

 

 

「でも……、今回は違う。全く分からなかった。記憶もないの!」

 

 

ただし魔法をもっと使いこなせるようになれば、自分に以前誰が魔法をかけていたのかを調べる事もできるかもしれない。茉莉はそう説明した。

尤も、そんな犯人捜しめいた事をするのは茉莉としても嫌だったが、それでも騎士を殺した者がいることは事実だ。

そこで麻衣は、里美がガタガタ震えているのに気づいた。

 

 

「どうした? 気分が悪そうだ」

 

「彼女は奏遥香に憧れていたのよ。無理もないわ」

 

 

海香はそういうが、麻衣は違う空気を感じ取っていた。

そこで海香もハッとする。

 

 

「里美……、あなたまさか!」

 

「ち、違うわ! 違うわよッ! ただ、そのッッ!」

 

 

飼育魔法。里美は動物と会話する事ができるし、動物を操る事ができる。

人間は動物だ。だから――、操る事ができる。

 

 

「ファンタズマ・ビスビーリオ……、それで、一応、あの、操れる」

 

 

里美は何度か海香の体や、カオルの体を乗っ取って遊んでいた。

 

 

「違う! でも違うの! 私じゃッ、私じゃないの! 本当よ! お願い! 信じてよォオ!」

 

「落ち着け里美! 分かってる!」

 

 

パニックになる里美を、カオルは必死に落ち着けていた。

そこで、麻衣は残る一人に注目する。

 

 

「お前はどうだ」

 

 

鈴音を見る。正直、麻衣は彼女の事がずっと気になっていた。

というのも、先程の騎士との戦いの場において、鈴音はほぼ何もしていなかった。

スコーピオンに攻撃されても無表情。城乃内が死んでも無表情。

生に対する執着や、死に対する恐怖がまるで感じられなかった。

すると鈴音が自分の魔法の説明をはじめる。

 

 

「……『系譜』。殺した魔法少女の力を吸収できる。一つだけだけど」

 

 

そこで静寂が訪れた。

里美も停止し、鈴音の近くにいた魔法少女が立ち上がり、距離をとる。

 

 

「は? なに言ってんの?」

 

 

みらいが質問したので、鈴音は答えるだけだ。

 

 

「だから魔法少女を殺せば、その力を手に入れることができるの」

 

「殺した事があるの?」

 

「ええ。何度もあるわ」

 

「……まさか。最近沢芽でッ、女の子が死んでるのは」

 

「ええ。私が殺したわ」

 

 

ここで何人かが反射的に変身するが、しばらく間をおいて変身を解除していく。

 

 

「そう。同じチームは殺せない。だから私が戦う意味がない」

 

 

意味がない。そう言ってのける鈴音にゾッとしたものを感じる。

そこで麻衣は腕を組み、鈴音を睨んだ。一見するとサイコじみた発言にも思えるが、麻衣には一つ心当たりがあった。

 

 

「何故、殺す?」

 

「別に。貴女たちだって普段からやっている事よ」

 

「……成る程な」

 

 

麻衣は理解する。鈴音も『知っている側』の人間だという事を。

 

 

「どういうこと?」

 

 

そして海香達は、知らない側だ。

 

 

「魔女は魔法少女の成れの果てよ。私達は実際はもう死んでいるようなもので、魂はソウルジェムに保管されてる。だから本体は肉体じゃなくて――」

 

 

鈴音は何の感情もないような様子で、淡々と説明を始めた。

 

 

 

 

 

日向茉莉の世界は暗闇に包まれていた。

幼い彼女は、生まれつき病で視力を失い、自宅に引きこもる時間を過ごしていた。

外は嫌いじゃないが、未知の者が多すぎて怖い。しかし常に憧れや嫉妬はあった。楽しい事がたくさんあるらしい。

夢だった。いろんな所に行って、いろいろな物を見て、たくさんの人に会うのが。ただもちろん生きていく中でいろいろな人に助けてもらっていたのを自覚していたので、中々言い出せず、幼いながらに気を遣って部屋からは出ないでいた。

そんな彼女の楽しみは、隣の家に住んでいる少年から外の話を聞くことだった。

 

 

「海は青いんだ。水が動いていて、ずっと遠くまで広がってる」

 

 

ザックは茉莉にとって唯一の友人だった。彼は茉莉にいろいろな事を教えてくれたし、仕事で忙しい両親に代わって兄のように接してくれた。

ザックとしても強い同情心があったため、茉莉には優しくしたし、ワガママもたくさん聞いた。本を読んだり、映画を解説したり、一緒に食事をした。

 

 

「茉莉も将来、お嫁さんになれるかな」

 

「なれるさ。茉莉はいい子だからな」

 

「でも……、マツリ、何も見えないから、何もできないよ」

 

「おいおい、いつも言ってるだろ。目を言い訳にすんな。でもまあそうだな……」

 

 

不安なら、オレが結婚してやるよ。

幼いザックとしては冗談のつもりで軽く口にした言葉だが、茉莉はずっとそれを覚えていた。

ただ、ザックとしてもこの頃から気づいていた。茉莉の中にある遠慮や気遣い。彼女はもっと外に出たいと思っている。

だが、周りや自分自身に遠慮しているのだと。

 

 

「オレには気を遣うなよ。よし、分かった! 今度一緒に遊びに行こう」

 

 

そこからザックはよく茉莉の手を引いて、外に出た。

たまには危ないときもあったので、双方の両親から叱れていたみたいだが、それでも茉莉のもとへやって来た。

 

 

「マツリ、ザックと同じ学校に行きたい」

 

 

ある日、そんな事を言ってみた。もちろん茉莉は本気じゃなかったが、本気でもあった。

ザックは少し悩んだ後、こんな事を言ってみる。

 

 

「学校は無理かもしれないけど、ダンスやってみないか?」

 

 

茉莉は抵抗したが、ザックは半ば強引に彼女を引っ張っていった。

 

 

「ずっと外に出たかったんだろ。気づいてないかもしれないけど、お前そうとう勇気とガッツあるぜ?」

 

 

見えないながらにもいろんな興味を持ち、一度外に出せばウロウロと歩き始める。

いくら杖があるとはいえ、見ているザックのほうが不安になるほどだったとか。

 

 

「ずっとお前の中にあった情熱をぶつけてやれ。大丈夫、オレがついてるから」

 

 

そうやって練習場にやって来た彼女に、リーダーの少年が声をかけた。

 

 

「なんだこの小さいのは。ザック、貴様ナメているのか」

 

 

酷い人がいると思った。絶対性格が悪いと思った。

茉莉は涙目になったが、ザックが守ってくれた。なにやら必死に戒斗に訴えはじめた。そうすると練習に参加させてもらえることになった。

 

 

「話にならんな。動きが悪いし、バラバラだ。貴様、合わせる気があるのか」

 

 

酷い人がいると思った。絶対性格が悪いと思った。

はじめてなのに。目が見えないのに。それを訴えようと思ったが、茉莉はそこで気づいた。

確かに見えないが、音に合わせて動くだけなら周りを見る必要は無い。

そこで茉莉は昔ザックに言われたことを思い出した。

 

 

『目が見えないのに周りを見すぎなのは悪い所だぜ?』

 

 

茉莉は叫んだ。

 

 

「練習しますっ! たくさん練習しますから! ちゃんとできたら、褒めてください!」

 

 

駆紋戒斗は鼻を鳴らした。

 

 

「いいだろう。一週間時間をやる。貴様の本気を見せてみろ日向茉莉。俺のチームに弱者はいらんからな」

 

 

茉莉が小学校を卒業する直前、頭の中に声が響いた。

 

 

『やあ、日向茉莉。ボクはキュゥべえ』

 

 

ユグドラシルが開発したピアスを身に着ければ、キミは魔法少女になれる。

それはとても苦しいことだ。世界を狙う魔女と戦わなければならない。しかしそれで大切な人が守れるし、願いを一つ、何でも叶える事ができる。

キミはどうする? ピアスを取り寄せるかい?

 

 

「ザック」

 

 

茉莉は魔法少女になった。

目が見えるようになったと伝えると、ザックは照れ臭そうに笑った。

 

 

「カッコ良くなくて悪かったな」

 

「そんなことないよ。ザックのお顔が見れて、マツリとっても嬉しい!」

 

 

茉莉はザックと同じ天樹学園に入る事ができた。そこでザックからビートライダーズの事を聞く。

新しいダンスチームを作ったから見に行こうと。

チームバロン。すると茉莉は、ムスッとしている少年めがけて走り出した。

 

 

「戒斗でしょ!」

 

「なんだ。当たり前のこと言うな。おい止めろ。ニヤニヤするのはやめろ! ほらやっぱりとは何だ! ふざけるなよ!」

 

 

チームバロンに入りたい。茉莉がそう言うと、ザックも頭を下げた。

 

 

「頼む戒斗。この通りだ!」

 

「お願いしますッ! 頑張るから!」

 

 

戒斗は鼻を鳴らして背中を向けた。

 

 

「足だけは引っ張るなよ。俺のチームに弱いヤツはいらない」

 

 

 

 

今でも――、昔のことは思い出す。

茉莉は現在、沢芽市の展望台公園にやって来ていた。町が見渡せるこの場所は、茉莉のお気に入りの場所だ。

今は夜も深い。空を見れば星が輝き、下を見れば町の明かりが星のように煌いている。

茉莉は一度ベンチに座ると、大きなため息をついた。

 

 

(なんでこんな事に……)

 

 

涙が滲む。

 

 

「会いたいよ……、ザック」

 

「じゃあ会おうぜ」

 

「えッ!」

 

 

声がした。振り返ると、ザックが少し恥ずかしそうに手を上げているのが見えた。

 

 

「ど、どうして」

 

「いや何となくな。ココにいるんじゃないかって思ったんだ。ほら、この場所好きだろ?」

 

「うん!」

 

 

嬉しくなる。茉莉はすぐに右へずれ、開いたスペースをポンポンと叩いた。

ザックも笑うと、そこへ座り込んだ。

 

 

「何か……、とんでもない事になっちまったな」

 

「うん……」

 

「今も紘汰とか戒斗はモメてんだ。あの雰囲気は苦手でな。抜け出しちまった」

 

「マツリのところもそうだよ。皆……、これからの事で言い合いしてる」

 

 

そこでマツリはソワソワと、落ち着きなく動き出した。

 

 

「あ、あの――ッ、あのザック? マツリは、あの、そのッ」

 

「分かってる。お前が人を殺すようなヤツじゃないって事は、一番知ってるつもりだぜ」

 

「でも! でも……、マツリがあの人を殺しちゃったのは……、本当だよ……ッ」

 

 

ザックに会えて安心したのか。ずっと抑えこんで来たものが爆発したようだった。

 

 

「マツリ……! ひとごろしになっちゃったよぉ……ッ!」

 

 

ボロボロと涙が零れる。

藤果に対する申し訳なさや、両親に対しての罪悪感。

ましてや圧し掛かる責任と、背中に張り付いた確かな罪があった。

 

 

「茉莉、大丈夫だ」

 

 

ザックの表情が困る。

大丈夫とは言えど、何がとは言えなかった。正直どうしていいのか分からないのは事実だ。

とりあえず幼い頃を思い出し、同じように頭を撫でてみる。

それが茉莉の淡い恋心を刺激した。嬉しさと、『このまま悲しみにくれる』事の問題性に気づいたのだ。

 

だから茉莉は涙を拭い、ザックにお礼を言う。

でも同時に湧き上がるのは、理不尽への怒りみたいなものだ。

それはある意味、やつあたりの様なもの。ザックなら全てを打ち明けても、受け止めてくれるという無意識な願望があった。

 

 

「茉莉ね、魔女になるんだって」

 

 

ザックは無言で頷いた。

そのことは既に、戦極凌馬から聞いていた。

 

 

「茉莉。俺は頭が良い訳じゃない。でも必死に考えて、一つの結論に至ったんだ」

 

「え?」

 

「なあ茉莉。一緒に戦いを止めないか?」

 

 

これからゲームが始まる。騎士と魔法少女が殺しあうゲームだ。

でもザックはそれが嫌だった。だったらどうすればいい? 決まっている。

どんな手を使っても、どんなに無様な姿を晒しても、どんなに非効率でも、運営側に噛み付くことだ。

 

 

「茉莉は魔女になりたいのか?」

 

「そんな訳ないよ」

 

「そうだよな。じゃあ、死にたいか?」

 

「ううん。死にたくない! でも――ッ、いつかッ魔女になっちゃう……」

 

「絶望しなけりゃいい。いやッ、俺が絶望させない」

 

 

ザックは立ち上がると、茉莉へ手を差し伸べた。

 

 

「俺はお前を信じる。だからお前も、俺を信じてくれ」

 

 

もう犠牲者は出さないし、魔女化を防ぐ方法だって必ずある筈だ。

それを聞くと、茉莉は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「うん。マツリはね! いつだってザックのこと信じてるよ」

 

 

茉莉は両手でザックの手を包みこむように握り、立ち上がった。

 

 

「マツリもね、戦いを止めたい! マツリが傷つけちゃった人のためにも。それに、まだ傷ついてほしくない友達がたくさんいるから!」

 

「じゃあ決まりだな! 大丈夫、俺達の手はでかいんだ。もう何も取りこぼさねぇさ」

 

 

 

 

 

騎士と魔法少女は敵同士だ。

にも関わらず、ザックとマツリが協力を誓い合ったように、秘密の逢瀬は呉島家でも行われていた。

深夜、光実の部屋の明かりがついていたのを見て、沙々は魔法少女に変身。窓まで飛び上がると、ノックして部屋に入れてもらった。

光実は沙々が魔法少女だという事は既に知っていたが、まさかこんな事になるとは思っていなかったようだ。

 

 

「眠れないんだ。ちっとも」

 

「分かります。わたしもですから」

 

「兄さんも今は部屋に引き篭もってお酒ばっかりさ」

 

「仕方ないですよ。わたしも藤果さんがあんな事になって……。ひっく! えぐっ!」(ま。わたしが殺ったんですけどね! てひっ!)

 

「泣かないで沙々さん。キミは何も悪くないよ……!」

 

「でも! だってぇ! えぐっ! これからわたし達、戦わないといけないんですよねぇ? そんなのわたしぃ、嫌ですぅ。耐えられませんっ! うぇえぇ!」

 

「僕だって沙々さんと戦うなんて嫌だよ!」

 

「わたしも嫌ですっ。それに死にたくないですぅ! ふぇぇぇんッ!」

 

「そうだ! 一緒に戦いを止めない? 紘汰さんもザックもそうするって言ってるんだ。あの二人と一緒ならきっと大丈夫だよ! 僕も協力するから。ね?」

 

「は、はい……! そうですね。わたし達も戦いを止めようっていうグループはありますから」

 

「うん。じゃあ、決まり。大丈夫だよきっと。きっと……、大丈夫」

 

「はいっ。光実くんと一緒なら、きっと大丈夫っ」

 

 

沙々が微笑むと、光実は少し頬を赤く染めて笑みを返した。

 

 

「そうだ! 眠れないんですよね? 光実くん」

 

「うん、まあ」

 

「じゃあちょっとキッチン借りてもいいですか? おばあちゃんに聞いたんですけど……」

 

 

10分後、光実はベッドの中で寝息を立てていた。

机の上にはマグカップがあり、沙々は飲みかけのホットミルクを見ていた。

 

 

「はぁー、だるっ」

 

 

沙々は隠し持っていた睡眠薬を窓の外に投げ捨てると、窓を閉めてベッドの端に座った。

 

 

「クソ面倒な事になっちゃいましたねぇ」

 

 

沙々は固有魔法を創造と言ったが、アレはウソだ。

洗脳。それが彼女の能力である。変身していない状態で発動すると洗脳効果が弱いため、その状態でも操れそうな弱いヤツを選んだ。

それが茉莉なのだが、茉莉の魔法が把握とは知らなかった。今はまだ能力を使いこなせていないようだが、もしかしたら今後、沙々が茉莉を操った事がバレるかもしれない。

 

 

(まあとりあえずは、茉莉ちゃんをブチ殺して。後は騎士を全滅させればいいわけか)

 

 

そこで沙々は寝息を立てている光実を見る。

 

 

「警戒心薄すぎですよミッチ。本当にマヌケなカスですね」

 

 

沙々は光実の髪を触り、顔が良く見えるようにする。

そして頬にキスをすると立ち上がり、変身した。

 

 

「短いお付き合いでしたけど。さよーなら!」

 

 

そして武器の杖を振り上げると、そのまま一気に――ッ!

 

 

(待てよ?)

 

 

ココで殺すのは簡単だが、沙々の脳裏に浮かぶ貴虎の顔。

 

 

(弟と恋人を失ったら、流石にアイツ、暴走するか……?)

 

 

そもそも、考えてみれば茉莉を殺すのは沙々には不可能だ。

魔法少女同士は殺しあえない。つまり、沙々を殺すには騎士の助けが絶対に必要だ。

 

 

(正直、光実(コイツ)はかなり使える。わたしの事を信じきってるし……!)

 

 

沙々はニヤリと笑うと、変身を解除して部屋を灯りを消した。

そして自分もベッドにもぐり込み、光実を抱き枕のようにして目を閉じる。

 

 

「おやすみなさい光実くん。わたしの為に働いてもらないといけないんですから。今日はゆっくり休んでくださいね……」

 

 

ゾクゾクしたものを感じ、沙々は喘ぎながら光実を強く抱きしめた。

 

 

(ゲームに勝つのはこの優木沙々。最後に笑うのはわたしなんだよ! くふふ! クフフフフッ!)

 

 

 

 






藤果(イドゥン)は、Vシネマ。仮面ライダー斬月に登場したキャラクターです。
それぞれの魔法少女の原作は、以下のようになります。


すずねマギカ

・鈴音
・千里
・亜里紗
・遥香
・茉莉
・佳奈美

おりこマギカ(別編・新約)

・沙々
・麻衣

かずみマギカ

・かずみ
・カオル
・海香
・みらい
・里美



おりこ別編の91ページの、『そうですかぁ~』とか言ってる沙々ちゃんが可愛いからおめぇらも見てくれよな!(´・ω・)b


この続きはかなり後になるので、気長に待っててください
それじゃあ、また(´・ω・)

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