仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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改めてこの未来編は一応引きがあって終わりますが、次回更新が凄まじく遅くなる可能性があります。
ちょっとリアルの都合で五月はやらなければならないこととかもありますので、もしかしたらこの次の三話が数か月後とかありえます。
まあとにかく、次回更新がおっそいので、申し訳ないのですがそこはどうかご了承ください。


ちなみに序盤はちょっとわかりにくいような感じにしてますので、意味不明でも我慢してな(´・ω・)b


第二話 ブレイクスルー

性行為とは?

愛の証明か、それとも一時的な快楽の獲得であるか、はたまた何か儀式的な意味合いを含んだ行為なのか。

その価値観の違いでドラマのキャラクターたちが何やら口論をしている。

つべこべ言わず一発やってみればいい。

そう言ってグラマラスな女性が胸を露出させたところでテレビが消えた。

 

 

「……もう寝ましょう」

 

「あ、ああ」

 

 

マミは頬を赤くして気まずそうに目を逸らしていた。

 

 

(いいとこだったのに)

 

 

杏子は文句を飲み込んで、マミの後をついていった。

ベッドの中であのシーンの続きを考えてみる。

宗教的な観点――、もっといえばシスターとして生きるべきだった自分の答えはなんなのだろう?

 

人は子を作る。正しくは子を残す。

それはきっと『未来』のためだ。

気づけば杏子はマミの腕に触れていた。しかし我に返ったかのようにすぐに手を離す。

愛していないわけではない。ごっこ遊びでも、やがては本物になれる。

 

でも育む時間を無視しようとしている。

それは逃げと不安を埋めようとする弱い心。

それを直視してほしくなかった。

こんな惨めで愚かな感情に触れないでほしかった。

 

 

「いいわよ」

 

 

でも、遅かった。

そもそも、マミも同じ気持ちだったのかもしれない。

 

 

「何をしてほしいの?」

 

 

暗闇のなかではあるが、目は慣れている。

ましてや魔法少女だ。

見つめあっているのがわかった。

 

 

「あー……」

 

 

杏子は何も言えなかった。

怖いんだ。

そんな情けない理由が思い浮かんだ。主語と述語が噛み合わない。理由が先行している。

 

 

「えっと」

 

 

怖いから、どうなのか。

 

 

「普通はどうなんだろうな」

 

 

間にあるぬくもりを二人で見た。

 

 

「そんなのわからないわ。二人とも、死んじゃったし」

 

「アタシそうだ。でもモモがいたから、たぶんアタシが寝てる間に。だから今と同じだろ……」

 

「本気で言ってる?」

 

「は? どういう意味だよ。アタシはべつに……」

 

「はぁ」

 

 

マミは大きなため息をついて、杏子の手を握った。

 

 

「あのさぁ。リアクションに困ることをしてくれるなよ」

 

 

マミは何も言わなかった。返事の代わりに指を絡ませてきた。

恋人つなぎという名前がつけられてはいたが、そんな知識はなかった。

とはいえなんとなくマミと同じことを考えている気がして悪い気はしなかった。

 

 

「ったく、こんなのまでごっこ遊びかよ。呆れちまうぜ」

 

「ごっこだけど……、遊びじゃないわ。少なくとも今はね」

 

「どいつもこいつも頭が悪くなっちまってる」

 

「あなたのパートナーとか凄かったんだから。逆によく今まで生きてこれたわよね」

 

「あんなのに付き合ってたら体がいくつあっても足りないよ。早めにくたばってくれて助かった」

 

「本気で言ってる?」

 

「………」

 

 

杏子が黙ったのは本気で言ったのかが本気でわからなかったからだ。

 

 

「暁美ほむらも……、あの子、本気で勝ち残るつもりかしら」

 

「そうなんじゃねーの? 知らねぇけどさ」

 

 

会話をしている間も、お互いはすべての意識を手に、指に集中させた。

珍しく、手汗なんてかく。

少し掌を動かせば繋がった汗と一緒に皮膚が擦れて気持ち悪いやらくすぐったいやら。

 

 

「でもアイツはたぶん、生き残れない。そんな気がする」

 

 

マミは理由を聞かなかった。代わりに不機嫌そうな声色でこう言った。

 

 

「こういう時に、他の子の話はしないものなのよ」

 

「………」

 

 

アンタから言い出したんだろ。

などと、杏子は口にはしなかった。こういうのは言わないほうがいいとテレビで見た。

 

 

「佐倉さんって意外と喋るタイプなのね。間が持たないのが嫌なの? そういうのもきっとムードってものなのよ。部屋を暗くしてるのも関係あるのかしら」

 

「誤解だろ」

 

 

マミはジャンケンで勝ったから(そもそも勝ちだからママというのも杏子は納得がいっていない)もしかしたらそっちに寄せているのか?

いや、いい。変なことを言うとまた怒られそうだ。

 

でも負けてよかったのかもしれない。

父親というものは腕を組んでどっかりと座っていればいいらしい。テレビで見た。

素晴らしいじゃないか。現にそうしているとマミは毎日ご飯を作ってくれるし、服を洗濯してくれる。

だからどっかりと大樹のように。大黒柱のように振舞っていればいいのだ。

 

ましてやいちいち感情を口に出すなんてめんどくさいこともしなくていい。

いちいち想いを口にはしない。

わかっているだろう? 言わぬが花、みたいな。

なんかそういう感じでいいのだ。

まあ今は昭和ではないのだけれども。

 

 

「………」

 

 

呉島光実はそこで目を覚ました。

なんだか不思議な夢だった。見知らぬ少女たちの複雑な感情があったような気がする。

といっても目覚めたとたんに顔はもちろん名前も忘れてしまった。

おぼろげな記憶。きっとお昼にもなればこんな夢を見たことさえ忘れてしまうだろう。

 

 

「くぉー、くぉー」

 

 

寝息を感じて光実は隣を見る。

意味を理解して、彼は慌ててベッドを出た。

 

 

「んご……っ! ふぐっ?」

 

 

肩に触れた手。沙々はゆっくりと目を開ける。

 

 

「んぁ? な、なに? もう食べられな――、やべっ!」

 

 

跳ね起きると沙々はにこやかな笑みを浮かべて前髪を弄りだす。

 

 

「お、おはようございます。光実くぅん。えへへぇ、やだっ、わたしったら」

 

「おはよう沙々さん。眠れたみたいで本当によかった。でも、あの、ごめん……」

 

「ほえ?」

 

「僕がソファで寝るべきだったんだ」

 

「ああ! そんなそんな! こっちこそごめんなさい。光実くんのベッド借りちゃって」

 

「昨日は沙々さんが用意してくれたミルクを飲んだら眠くなちゃって」

 

「ですですっ! わたしも光実くんが眠ってからすぐにウトウトってなってぇ」

 

「とにかく、本当にありがとう。あれだけ不安で緊張してたのに沙々さんがいてくれたから眠れたよ」

 

「ふふふ、ならよかったですっ」(ミルクに睡眠薬をいれたんだから当たり前でぇゅーす! チ●コもしかと見といたからな!)

 

 

二人はそれから二階にある洗面所で支度を整えて下に降りた。

そこで気づく。リビングのソファで貴虎が眠っていた。

床には空になった酒の瓶が転がっており、他にもいくつか物に当たった形跡がある。

 

 

「兄さん……」

 

 

小さな声であったが、貴虎は目を開けた。

体を起こすと襲い掛かる不快感、彼は目を細めて沙々を睨む。

 

 

「なぜだ……」

 

「ほぇ?」

 

「なぜ日向茉莉は手を出した!!」

 

 

貴虎はテーブルの上にあったグラスを掴むと、それを思いきり投げつけた。

沙々の頬をすれすれを抜けて、グラスは壁にぶつかって砕ける。

 

 

「魔法少女が手を出さなければ藤果は!」

 

「落ち着いてよ兄さん! 沙々さんに当たるのは違うでしょ!?」

 

 

光実が沙々を庇う様に前に出る。

すると貴虎は糸が切れた人形のようにソファにだらしなくもたれかかった。

 

 

「……そうだな。沙々さん、すまなかった」

 

「い、いえ」(た、たすかった……! 正直ちょびっとチビった!)

 

 

光実は沙々の手を引いて逃げるように貴虎から離れていく。

 

 

「あんな荒れた兄さんは初めて見た」

 

「こわかったですぅ。ふぇぇ」

 

「本当にごめんね。でも、兄さんにとって藤果さんはそれだけ大切な人だったんだ」

 

 

藤果は貴虎の父が設立した養護施設で育った。

当時、貴虎も父に連れられて訪問することが多く、その際に知り合ったらしい。

年齢が近いということや、藤果の穏やかな性格が理由で、二人はすぐに仲良くなった。

 

いつか家政婦としてキミを雇いたい。

貴虎はそういった。

約束ですと藤果は返した。

 

翌日、藤果はメイド服を着ていた。

ポカンとする彼女へ貴虎は。

 

『約束したではないか』

 

と、言った。

 

『まさかこんなに早いだなんて』

 

と、藤果は太陽のような笑みを返した。

 

 

「愛してたんだ。兄さんは藤果さんを」

 

 

光実にとっても藤果は幼い頃からの付き合いだ。

姉のような人だった。でも藤果は死んだのだ。もう会えない。

あれだけ不味くて仕方なかったアップルパイが今は食べたくて仕方ない。こんな日がくるだなんて思ってもみなかった。

 

 

「僕でこれだけ辛いんだから兄さんはもっともっと辛いよ。何かに当たりたくなる気持ちもわかる気が、する」

 

「そうですかぁ」

 

「僕だってもしも――」

 

 

光実は沙々を見ていたが、そこでハッとして口を閉じる。

 

 

「わかるんですか?」

 

 

沙々はぐいっと、光実に近づいた。

 

 

「う、うん」

 

「だぁれ」

 

「え?」

 

「光実くんの大切な人はお兄さまですか? それとも……」

 

 

そこで沙々はハッとして距離をとる。

 

 

「は、はわわっ! ごめんなさい、わたしってば何を言っちゃってるのかっ」

 

「えっと! 気にしないで沙々さん! 僕は平気だから」

 

「そう、ですか。えへへぇ」

 

 

二人ははにかみ、笑いあう。

 

 

(ちょれー! 童貞ちょんれぇーっ!)

 

 

まだ笑うな。沙々は少し震えながら偽りの表情をキープする。

しかし油断はできない。光実を手中に収めるということは貴虎に近づくということだ。

立ち回りには気を付けなければならない。

下手にボロが出れば、問答無用で殺しに来るだろう。

そうなるとあまり嬉しくない展開だ。

魔法少女の集まりでは適当に言ってごまかせたが、犯人捜しは継続される筈。

もしも藤果を殺したのが自分と知られれば騎士側はもちろん魔法少女側からも責められるのは想像に難しくない。

 

 

(敵は少ないほうがいい。今はまだ光実を隠れ蓑にしておいたほうが賢そうだな……)

 

 

そこで光実のスマホが鳴った。

 

 

 

 

「よ、ミッチ。沙々ちゃんもおはよう」

 

「紘汰さん!」

 

「葛葉先輩っ!」

 

 

紘汰はエントランスにあった椅子に座った。

光実たちの様子が心配で見に来たのだという。

 

 

「その、恰好」

 

「なんだよ不思議なもの見る目して。学校に行くんだから制服なのは当たり前だろ?」

 

「本気ですか!? あんなことがあったのに」

 

「……あんなことがあったからだよ。フールズゲームかなんだか知らねぇけど、俺たちの日常をめちゃくちゃにされてたまるかってんだ」

 

 

沢芽に住む子供たちが数多く死亡したこの事件は大規模なテロとして報道されている。

学校はしばらく休校となるが、今日だけは連絡や安全確認などという理由で、登校できるものはしてほしいと連絡があった。

 

 

「ビートライダーズの配信もしばらくなくなるみたいだし。アジトに寄っていろいろ持って帰らないと」

 

「それは、そう、ですけど」

 

「だろ? だからミッチも行かないかって……。俺、ここで待ってるからさ」

 

 

すると沙々はギョッとして紘汰を止める。

 

 

「あぶないですぅ。さっきネットニュースで見たんですけど、子供たちを殺したスカラーキャノンっていうビームはユグドラシルタワーから発射されたみたいなんですよぉ」

 

 

スカラーシステム。

ユグドラシルコーポレーションが魔女殲滅のために用意していた隠し玉である。

広範囲の疑似的な魔法攻撃により魔女をまとめて消滅させようという防衛兵器だったが、インキュベーターに乗っ取られて逆にゲームシステムの一部にされてしまったようだ。

 

現在ユグドラシルとしては、キャノン発射は暴発などではなく、システムのハッキングによるもので兵器事態も想定外の使用方法だったと説明しているが、それを理解していない被害者遺族等がユグドラシル関係者である光実を狙う可能性は高い。

 

 

「魔女のことを説明するわけにもいきませんしね。ネットではユグドラシルにヘイトがたまってますけど無理もありませんよぉ。だってそもそも製薬企業が自社に兵器を搭載してたんですから、ふつうはあり得ませんって」

 

「魔女、か」

 

 

紘汰たちはすでに魔女の正体を凌馬から聞かされている。

もちろん沙々も同じだ。あんな化け物にいずれなってしまうのは最低でおぞましい話ではあるが、ゲームで勝ち残った際に手に入れる『黄金の果実』には願いをかなえる力があるらしいじゃないか。だったらどうとでもなる。

そのためにも傀儡となる光実にはなるべく生きてもらって守ってもらわねば困るのだ。

 

 

「だから、ね? やめましょうよ光実くん。ね? ねっ?」

 

「う、うん」

 

 

顔色が悪い。

間接的とはいえユグドラシルが原因で多くの命が奪われたのだ。

そしてなにより自分たちの命も危険に晒されている。今はこうして沙々が近くにいるが、考えてもみれば魔法少女は敵なのだ。

学校は子供たち、魔法少女が通う場所だ。鉢合わせる可能性は非常に高かった。

命を奪う。奪われる。それを考えていると体が重くなってきた。

 

 

「大丈夫か? ミッチ」

 

「はい、すみません……」

 

「藤果さんのこともあるし当然だ。ごめんなミッチ、俺がどうかしてたんだ」

 

「ッ、紘汰さんのせいじゃないですよ!」

 

「いいんだ。俺だって姉ちゃんが死んだら何もする気がなくなるよ。とにかく今はゆっくり休んだほうがいい。もしよかったら沙々ちゃん、傍にいてやってくれるか?」

 

「あっ、はい! もちろんですですっ!」

 

「沙々ちゃんてめちゃくちゃいい子じゃないか。大切にしろよミッチ。じゃあな」

 

 

そういって紘汰は学校に向かっていった。

沙々はため息をつくと、すぐに表情を切り替えてニコニコと光実を見る。

 

 

「えへっ、今のってどーゆー意味なんでしょーね?」

 

「………」

 

「あれ? 光実くん?」

 

「………」

 

「あれ?」

 

「………」

 

(は? おい! 話しかけてんだから返せよ! ムカつくな!)

 

「あっ、ごめん沙々さん」

 

「ぷくーっ!」(イケメンじゃなかったら殺してたぞ!)

 

「ちょっと、ごめん、やっぱり気分が悪くて……」

 

 

確かに光実の顔色は悪い。

沙々としても理解はできる。

特に考えなければならないのはナイトフェイズだ。

ランダムに参加者を狙うという言葉を信じるならば、エンカウントしたら終わりの個で隠れるより、なるべく多くの参加者の傍にいて狙いを分散させたほうがいいのか?

それはなかなか胃が痛くなる選択である。

どれを選んでも死の危険というデメリットが付き纏う。

 

 

(ま、でもわたしには美味しいブドウがありますし)

 

 

シグルドのやっていたことは非常に良いアイデアだとは思う。

であるならば、マネすればいいだけのこと。

 

 

(精神よわよわ状態の光実くんなら簡単に隙をつけそうだし? 足でも攻撃して動きを封じた後で逃げれば少なくともナイトフェイズは楽勝だな)

 

 

だったら、ここはなるべく他の参加者に近づかないほうを選んだほうがよさそうだ。

 

 

「無理、しなくていいと思いますよ!」

 

「え?」

 

「怖いなら逃げればいいんです! 男だから強くなきゃダメっていうのは時代錯誤な考え方です。ですですっ!」

 

「でも、いいのかな?」

 

「いいんです。わたしが許しちゃいますからっ」

 

 

沙々は両手を広げてほほ笑んだ。

 

 

「おいで」

 

 

光実はフラフラと歩き、沙々にハグをされる。

沙々は、光実の頭を優しく撫でながら耳元で囁くのだ。

わたしは味方だよ、って。

 

 

「デートでも行きましょ!」

 

「で、でも、外は」

 

「家にいても同じです。敵にバレてるかもしれないし!」

 

「……そっか」

 

「遊園地にでも行きましょうか!」(お前の金でなッッ!!)

 

 

光実は頷いた。

いろいろある。いろいろありすぎて疲れる。

今は沙々がいてくれればそれでいい。彼女から放たれる甘い香りを嗅いでいれば、とりあえず不安は消えたから。

 

 

 

 

天樹学園の校門前。

紘汰はザックと茉莉に話しかけられた。

 

 

「いよう! 紘汰!」「おはよう紘汰!」

 

「お、おお! 二人ともおはよう!」

 

 

ザックと茉莉は微笑んでいた。

それを望んでいたはずなのに、いざその光景にぶつかった時、紘汰は自分の中に『戸惑い』の感情があることに気づいてしまった。

しかしダメだ。そんな考えは捨てなければならない。そういう思いを笑顔に乗せてみる。

 

いわずとも、わかるはずだ。

それなりに付き合いは長い。ザックと茉莉もそれを理解した。してくれた。

なぜならば紘汰が抱いたものと同じものを二人もまた感じていたから。

狂い始めた世界で狂う前のふりをする。それは違和感のあることかもしれないけれど、それが彼らの望んだ『日常』というものなのだから。

 

 

「オレは戦いを止めるぜ」

 

「マツリも! ザックと一緒に」

 

 

紘汰はそれを聞いて胸が熱くなった。

そうか、希望は死んでないのだ。激しい勇気が胸の奥に宿ったのを感じた。

 

 

「さっきカオルたちがいてな。あいつらも同じ考えだった」

 

「千里たちもマツリと同じ気持ちだって言ってくれたよ。だから紘汰と同じで、ここに来てくれた」

 

「そう、だな。そうだよな! へへ、なんだよ。これじゃあビビッてた俺がバカみたいじゃないか」

 

 

そうだ。みんなで協力すれば不可能なんてない。どんなことだってできる。

それが俺たちのアオハルってヤツだろ。紘汰は笑顔で校門を目指し――

 

 

「なれ合いなんて痛てぇだけだろ!」

 

 

真顔になった。

ヒヤリとしたものが背筋を巡る。

胸が痛い。こんなのはダメだ。まるで図星を突かれたように固まるなんて。

 

 

「でも、貴方もそう思ってくれたからココに来たんじゃないの!?」

 

 

そう叫んだのは千里だった。

彼女は亜里紗と肩を並べていつも通り校門前で挨拶運動を行っていた。

登校してくる生徒たちに声をかけ、制服のチェックや遅刻者の注意を行う。

いつも通りだ。でもいつも通りじゃない。

でも遥香がいない。

死んだから。

 

 

「騎士が殺したんだ! それなのに今まで通りなんて都合良いことあるか!」

 

 

叫んでいたのは初瀬だ。いつものように制服を着崩していたのを千里が注意したのが始まりだった。

怒号が静寂を生む。

周囲の生徒たちは皆、怯えたように初瀬たちを見つめている。

その中で千里は混乱していた。初瀬はいつもみたいに注意されるため、わざと制服を着崩していたとばかり思っていたからだ。

しかしそれは違っていた。むしろ初瀬は今まで通りに振舞おうとする千里たちを見て、より激しい怒りを覚えたのだ。

なかったことにするつもりなのか、城之内(とも)の死を。

遥香の死を。

 

 

「テメェらは臆病モンだ! 腰抜けだ! だがオレは違う!」

 

 

初瀬はカバンを投げた。

代わりに持っていたのは戦極ドライバーだ。

 

 

「やめて!」

 

 

千里は叫んだ。

 

 

「震えてる」

 

 

初瀬の、ドライバーを持つ手が。

 

 

「うるせぇッ! 変身!」

 

 

震えた手で、初瀬は戦極ドライバーを装着した。

起動するマツボックリロックシード。頭上にクラックが現れてアーマーが出現する。

 

 

「オレは……ッ、勝つんだ!」『ソイヤ!』『マツボックリアームズ!』『一撃! イン・ザ・シャドー!』

 

 

騎士・黒影は、影松という槍を持って走った。

生徒たちが悲鳴をあげて逃げ惑う中、青い光が迸る。

変身した千里が、槍の先端にあるマツボックリの装飾の上に着地していた。

 

 

「本気なの? 初瀬くんッ」

 

 

初瀬は――、黒影は、何も答えなかった。すると桃色の光が迸る。

 

 

「馬鹿が!」

 

 

黒影が吹き飛んだ。

タックルを決めた亜里紗は、千里を庇うように立つ。

 

 

(ま、しょーじき、嫌な予感はしてたのよね)

 

 

前日、レイドワイルドのグループメッセージに亜里紗はメッセージを残した。

初瀬を気遣ってのことだったが、既読がついにも関わらず彼からの返信はなかった。

そして今朝、たった一文『お前らは敵だ』とだけ残されていたのだ。

宣戦布告ではないと信じたかったが、やはりこうなってしまったかと表情が歪む。

 

 

「誰がバカだ!」

 

「アンタよ大馬鹿! ちょっとは頭を冷やせっての!」

 

「なんだとぉぉ!?」

 

「いっつもそう! ちょっと挑発されたらすーぐ熱くなっちゃって!」

 

「アンタが言うな」「テメェが言うな!」

 

 

その時だった。

 

 

「あ」

 

 

千里と黒影が同じようなことを言った。

 

 

「ふふっ」

 

 

思わず、亜里紗は笑ってしまう。

 

 

「今のちょっと昔みたいだった」

 

「……ッ」

 

「繰り返してるわけじゃない。アタシらはただ、あの時みたいなキラキラを腐らせたくないだけ。わかるでしょ、アンタだってそうだったじゃん」

 

 

亜里紗と初瀬は同じチームだった。だからわかる。

亜里紗はこういうセリフが大嫌いだった。でもあえて今、そういうことを言うのはそれなりの理由があってのことだ。

 

 

「思い出して……、それで何になる!?」

 

 

黒影は槍を杖のようにして立ち上がる。

 

 

「ゲームが消えるのか? ルールが変わるのかよ!」

 

「ああもう! 本当にわからずや! だから一緒に――」

 

「迷うな」

 

「え?」

 

 

ビュンと、音がした。

直後、黒影の体から火花があがり、彼は苦痛の声をあげながら後退していく。

 

 

「おかしな事じゃないさ」

 

 

亜里紗たちが振り返ると、そこには魔法少女に変身している麻衣が立っていた。

 

 

「"なんで"」

 

 

黒影がよろけた先に立っていたのは、みらいだ。

同じチーム。一緒に踊った。一緒に笑った。一緒のものを見ていた。

それは事実だ。揺るぎない真実だ。確かな友情があったことは約束しよう。

しかしそれは今、この瞬間において、武器を捨てる理由にはならない。だから巨大なぬいぐるみのクマが腕を振るって黒影を殴り飛ばした。

 

 

「"どうして"」

 

 

黒影が地面を転がっていく。

なんとか勢いが弱まったところで立ち上がるが、そこで嫌な気配を感じて振り返った。

そこには既に緋色の刃があった。鈴音の一閃が黒影に入り、熱を帯びた痛みを感じながら黒影は地面に倒れた。

 

 

「そして、"これから"。そんなことは知らないほうがいい」

 

 

麻衣は納刀された武器を構え、腰を落とす。

 

 

「傷つくだけだ」

 

「よせ!」『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』

 

 

紘汰にはわかった。

麻衣たちは千里とは違う。

黒影を殺そうとしているのだ。

だから走った。ザックも続き変身、鎧武とナックルに変わった二人は黒影を目指した。

 

そこで麻衣が回った。

その場で素早く、クルリと一回転。

再び前を向いた時にはいつの間にか刀が抜かれている。

すると同じくして鎧武とナックルの走行から火花が散った。

二人はほぼ同時に地面に倒れて背中をぶつけた。

 

 

「なんだ……!?」

 

「ぐッ! な、何が起こったんだ!?」

 

 

何をされたのか二人にはサッパリわからなかった。

とにかく突然衝撃と痛みが襲い掛かり、それで地面に倒れたのだ。

このままではマズイ。鎧武は、ナックルは、黒影はすぐに体をはね起こす。

 

 

「ぐあぁあ!」「うぉああ!」「がぁあああ!」

 

 

またも苦痛の声が三つ重なった。

鎧武たちが立ち上がったと同時に再び装甲から火花が散って、三人は大きくのけ反りながら倒れた。

 

 

一方、校舎では多くの生徒たちがいまだに慌ただしく走っている。

その中をかき分けるシルエットが三つ。

カオル、かずみ、海香だ。

 

 

「通して通して!」

 

「もしかして魔女かな?」

 

「いえ、魔女ならこんな白昼堂々襲ってこなくてよ。最悪のケースでしょうね」

 

 

三人は人通りが少ない場所を見つけると、近くにあった窓を開けて身を乗り出した。

するとちょうど校門前で戦っている騎士と魔法少女が目に入った。

 

 

「ほら、ごらんなさい」

 

「ったく! 何やってんだよアイツらは!」

 

「とにかく止めにいきましょう。かずみは傍にいて。そのほうが守りやすいわ」

 

「う、うんっ」

 

 

変身するカオルと海香。

飛び降りようとした、まさにその時、隣の窓ガラスが割れた。

海香はかずみを抱きしめて破片から守り、カオルは素早く状況を確認する。

窓ガラスを貫いたのは光の矢だった。

 

 

「はいはーい。やめやめー」

 

 

気だるそうに歩いてくる騎士がいた。

シグルドだ。彼は小柄な女生徒の首に左腕を回して持ち上げている。

 

 

「見ての通り人質だぜ、念を押すとな。少しでもおかしなことをしそうになったら……」

 

 

シグルドは右手に持っていたソニックアローの刃を女生徒の首元まで持っていく。

恐怖の声が聞こえた。なにやら鈴音とみらいは動こうとしたが、麻衣が手を挙げて止まるようにジェスチャーを送る。

 

 

「卑怯なヤツめ」

 

「オーケーそれでいい。ほら立て騎士ども! 情けねぇぞ!」

 

「ッ、助けてくれたことには礼を言う。でもその子は今すぐ離せ!」

 

「使えるものは何でも使えってのは社会のルールだ。そもそもお前らまだわかってねぇのか? やられるってのは死ぬってことなんだぞ? 綺麗ごとを言いながらくたばるのってカッコいいことかねぇ?」

 

「その通りだ」

 

 

シグルドの後ろから歩いてきたのは駆紋戒斗だ。

 

 

「戒斗ッ、お前まさか!」

 

「ザック、何を驚いている? まさかも何も俺の考えは変わっていない」『バナナ!』

 

 

戒斗はロックシードのシャックルに指をかけてクルリと回す。

その行先は当然、装備されていた戦極ドライバーであった。

 

 

「強者が掟を作ってきた。だがそれは永遠ではない。いずれ新たな王が生まれる時、そのルールはゼロになる」『ロック・オン!』

 

 

クラックからバナナを模した鎧が現れる。

 

 

「少し時代を戻すだけだ」『カモン!』『バナナアームズ!』『ナイト・オブ・スピアーッ!』

 

「本気かよ! 本気で言ってんのか!? 戒斗!」

 

 

ナックルはバロンのもとへ詰め寄り、巨大な手で肩のアーマーを掴んだ。

 

 

「殺すってことなんだぞ! カオルも! 茉莉もッ! 同じチームのメンバーを!」

 

「それを乗り越えることが新たな時代を作るものの覚悟だ!」

 

 

バロンは拳でナックルの胸を叩いた。

 

 

「貴様も聞いた筈だ。魔法少女の正体、その末路を!」

 

 

それを聞いて鎧武は言葉を詰まらせた。

彼の両親は魔女に殺された。いや、親だけじゃない。

きっとこの世界には魔女によって命を奪われた罪なき人たちがたくさんいる。

 

 

「その時、死ぬのは襲われた者だけではない。魔法少女もまた同じだ。自らの意図とは裏腹にひたすらに死を求める殺人マシーンとなる。それを救う方法が何かわかるか? わかる筈だ。俺たちが今までやって来た!」

 

 

バロンに突き飛ばされ、ナックルは力なくしりもちをついた。

しかしすぐに拳を握りしめると跳ね起き、再びバロンの前に立つ。

 

 

「それでも方法はある筈だ!」

 

 

それを聞いて鎧武も俯いていたのを止める。

 

 

「そうだ! ザックのいうとおりだ!」

 

 

しかし一番に聞こえて来たのはシグルドのため息だった。

 

 

「そう上手くはいかねぇのよ。もちろんユグドラシルもいろいろな方法で魔法少女が魔女にならない方法を。あるいは、元に戻す方法を探してきた」

 

 

しかしいずれも上手くはいかなかった。

かろうじて開発できたのが魔女を殺す力、アーマードライダーだ。

 

 

「殺すことでしか救えないものもある。おーい! 聞こえてるか、ジュゥべえ!」

 

 

シグルドが声をかけると学校の放送が鳴り、ジュゥべえが返事をする。

海香の合図を受けてカオルたちはすぐに放送室に向かうが、当然そこには誰もいない。

 

 

『もち、聞こえてるぜぇ? なんだよ』

 

「ルールの確認をしたい。昨日、俺らに言ったことを改めて教えてくれや」

 

 

ユグドラシルは試しにジュゥべえにコンタクトをとってみたがなんなく成功した。

ゲームにおけるルール確認は開示できるとジュゥべえが判断すれば可能らしい。というわけで全ての参加者の脳に彼の声が響く。

 

 

『勝利した陣営に与えられる黄金の果実とは!』

 

 

それは、世界を創造する究極のアイテム。

つまり勝利者は『神』となり、新たなる沢芽市を生み出すのだ。

勝利陣営は話し合い、そこに新たなルールを。

言い方を変えれば概念を適応させることができる。

 

 

『たとえばインキュベーターがいない世界でもいい。魔法少女じゃない世界でもいい。もともとオイラたちは新たなエネルギー獲得の目星がついている。今まで頑張って犠牲になってくれた地球に恩返しがしたいと、このゲームを始めたんだぜ?』

 

 

このゲームにより失われし命も神ならば復元するのはたやすい。

よって戦うことを恐れる必要などないのだ。

 

 

『ただし敵対陣営の人間を蘇らせることはできない。それは悲しいことかもしれないが、なぁに、そのうち慣れるさ。世界創造の際に記憶を消してもいいんだし』

 

 

そこでジュゥべえは通信を切った。

 

 

「そういうこった。我々ユグドラシルの目指す新世界は、魔女のいない平和な世界なんだよ」

 

 

すると麻衣が目を細めた。

 

 

「それは、魔法少女が勝ったとしても叶えられるな」

 

「ははっ! まあ、そうだが、それがそう上手くいくかね? 魔法少女なんざ自制が効かないガキだからインキュベーターに狙われたんだろ? 魔法少女が神になっちまったら、円満な話し合いができるのか疑問だぜ」

 

「大人が常に正しいわけではないが」

 

 

麻衣は、腰を落とした。

それは紛れもなく、居合の構えである。

亜里紗は麻衣から発せられたものにいち早く気付いた。

それは紛れもない、冷たく研ぎ澄まされた――

 

 

「許せ」

 

 

殺意。

 

 

「うぎゃああああああああああ!」

 

 

恐怖で口を閉ざしていた女生徒から絶叫が聞こえた。

麻衣が刀を抜いたのは見えなかった。

気づけば女生徒の右肩から先が宙に舞っていたのだ。

骨ごと断ち切った一撃。すぐに血があふれて女生徒は真っ青になって痙攣を始める。

 

 

「ぐあぁあ……ッ! こいつッ!」

 

 

斬撃は女生徒の後ろにいるシグルドにも到達していた。

騎士の鎧があったため切断とまではいかなかったが血のように火花が散って、シグルドは斬られたところを抑えながら後退していった。

それを見て麻衣は地面を蹴る。

 

 

「詩音、彼女の手当てを頼む」

 

「無茶苦茶よ!」

 

 

みんな、一斉に動き出した。

千里は猛スピードで倒れた女生徒のもとへ滑り込むと回復魔法をかける。

 

 

「ダメ! 私だけじゃ抑えきれない! 茉莉も手伝って! 亜里紗も!」

 

「う、うん!」

 

「アタシッ、回復系は向いてないというか」

 

「いいから! ちょっとでも血を止めないと! お願い!」

 

 

集まる三人。

少し離れたところでは黒影がみらいに槍を振り下ろしていた。

とはいえ小柄なみらいはヒョイっとそれを簡単にかわすと、ハートのステッキを向ける。

 

 

「リーダーとはいっぱい喧嘩もしたけど、まさか最後が殺し合いになるなんてね」

 

「さっさと観念しろ! テメェはチビだったからいつもオレが勝ってた!」

 

「じゃあ今日はボクが勝つ! テメェが死んで終わりだ!」

 

 

みらいがハートのステッキを掲げると、先端が巨大化して、さらに光の剣が生まれてあっという間に大剣となった。

それを両手でフルスイング。黒影は槍を盾にしたが関係ない。

剣が槍にぶつかると、黒影は真横に吹っ飛んで校舎の壁にめり込んだ。

骨にまで響く衝撃。黒影は痛みで声が出せなかった。それを見てみらいは少しだけ唇を吊り上げる。

 

 

「なんか微妙だった。戦うかは……、本当に微妙ってかんじ」

 

「は?」

 

「でもなんかさっき、女が苦しんでるの見たら悪くないなって。こういう学校がめちゃくちゃになるの嫌いじゃないよ」

 

「友達いなかったもんな。オレのチームに来るまではよ!」

 

「うるさい! でも、ま、そう。いじめられてたし……!」

 

 

みらいは目を閉じてすぐに開いた。

思い出すのはやめておいたほうが良さそうだったからだ。

 

 

「自分でもわからなかったけど今もリーダーをブッ飛ばしたらほんの少し……、ほんのちょびっとだけど気持ちよかったよ」

 

 

黒影は壁から抜け出して再びみらいに槍を向ける。

しかし大剣を振るわれ、槍を軽々と弾かれると、再び大剣の腹で打たれた。

よろけて倒れる黒影を見て、みらいはまた笑う。

 

 

「もっとたくさん……、それこそブチ殺せば、もっとスカッとすんの?」

 

「ンなもん! 知るか!」『ソイヤ!』『マツボックリスカッシュ!』

 

 

黒影は立ち上がるとカッティングブレードを倒した。

武器の強化だ。電子音と共に影松が発光して威力が上昇する。

 

 

「くたばりやがれーッ!」

 

「こっちのセリフだバァーカ」

 

 

みらいは向かってきた黒影に向かってテディベア投げた。

みらいの魔法で意思を持ったように動くそれは、黒影の頭にしがみついて視界を奪う。

 

 

「くそ! なんッ! あぁぁ! うぜぇなッッ!」

 

 

黒影は立ち止まり、クマを引きはがそうとするが、その間は隙だらけである。

みらいは踏み込み、大剣を振り上げる。

 

 

「そ・れ・じゃあねッ!」

 

 

そして、黒影を叩き割ろうと振り下ろす!

 

 

「させるかッ!」

 

「うぉ!」

 

 

割り入って来たのは鎧武だ。

大橙丸と無双セイバーをクロスさせて大剣を受け止める。

しかしあまりのパワーにすぐに膝が折れて地面につけた。

 

 

「落ち着け! みらい! こんなことやめるんだ!」

 

「落ち着いてる! 自分でもビックリするくらい!」

 

 

みらいは鎧武の胸を蹴って吹き飛ばす。

いまだにクマと格闘している黒影ごと鎧武を切り裂こうと構えるが、そこで銃声が聞こえる。

鎧武が地面をすべりながらも無双セイバーの引き金を引いていた。

装備されていた銃口から光弾が発射されてみらいの動きが鈍る。

 

 

「うざいってッ!」

 

 

みらいが剣を消してステッキからハートのシールドを展開した。

それが好機と、鎧武は立ち上がりながらロックシードを交換する。

 

 

『ソイヤ!』『パインアームズ!』『粉砕! デストロイ!!』

 

 

鎧武はパイナップルの鎧を装備した。

防御力が上昇しており、武器が片手剣から鎖付きパイン型鉄球・パインアイアンに変わる。

 

 

『ソイヤ!』『パインスカッシュ!』

 

 

鎧武はブレードを倒して地面を蹴った。

パインアイアンを蹴り飛ばすと、パインは鎖から分離してみらいの元へ飛んでいく。

それはシールドを破壊すると、ズボン! という音とともにみらいの頭に被さった。

 

 

「うぎゃあああ!」

 

 

みらいはすぐにハマったパインを引き抜こうとするが上手くいかない。

一方で鎧武は着地を決める。これで少しは大人しくなってくれるだろうと思ったが、そこでナックルの声が聞こえてくる。

 

 

「鈴音がそっちに行った!」

 

 

鎧武は辺りを見るが、鈴音はいない。

 

 

「陽炎」

 

 

後ろから声が聞こえた。

そして痛みと熱。鎧武は自分が斬られたと理解する。

 

 

「鈴音!」

 

「陽炎」

 

 

振り返るがいない。

 

 

「ど、どこ行った!?」

 

「ぐあぁあ!」

 

 

ナックルの悲鳴が聞こえる。鈴音に斬られたのだ。

そこでようやっと黒影がクマを引きはがして蹴り飛ばす。

その後ろに鈴音が浮かんでいるのが見えた。

 

 

「「後ろだ!」」

 

 

鎧武とナックルに指さされ、黒影は回し蹴りで振り返る。

しかし感触はなかった。適当言いやがってと文句を言いそうになったが、それは違う。

鈴音はいた。しかし足が彼女をすり抜けたのだ。

 

 

「どうなって――! ぐあぁああ!」

 

 

鈴音は幻だった。

幻はやがて歪み消え、代わりに炎の剣となって黒影に直撃する。

本物の鈴音はというと鎧武とナックルの後ろに着地して剣を払った。

炎と共に放たれた斬撃が鎧武とナックルをまとめて切り裂き、二人は同時に地面に倒れた。

 

一方、麻衣は迫る矢を切り裂きながら距離を縮めていく。

 

 

「魔法少女様も残酷だねぇ!」

 

「七日目までに決着が付かなければ世界は終わる」

 

 

踏み込み、加速する麻衣。

そこで彼女は飛び蹴りを仕掛けた。

シグルドは腕で足裏をガード。すぐにソニックアローで叩き落そうとしたが、麻衣は蹴った勢いで後方に飛んでいる。

 

 

「殺したくないと言うのは勝手だが」

 

 

麻衣が刀を抜いた。

 

 

「ッ! グォオ!」

 

 

シグルドは怯む。

どう考えても刀のリーチからは外れているのに斬撃は確かに彼のアーマーを傷つけていた。

固有魔法、範囲拡大により届かない場所でも斬ることができるのだ。

 

 

「責任から目を背けるだけでは前には進めない」

 

 

着地と同時に腰を落とす。

光の矢が連続して飛んでくるが、麻衣は目にもとまらぬ速さで刀を振るってそれら全てを斬り弾いた。

カチャンと音がして、刀が鞘に収まる。

柄を掴み、麻衣は前のめりになって踏み込む。

風が吹いた。麻衣の姿が消えたと思ったら、彼女はシグルドの後ろに立っていた。

 

 

「テメェ! 何を――ッ!」

 

 

シグルドが麻衣に向かって手を伸ばそうとしたが、それよりも早く麻衣の刀が鞘に収まる。

カチリと、鞘に刀が収まった。その瞬間シグルドの全身に幾重もの光の線が走る。

 

 

「ぐあぁああ!」

 

 

重なる衝撃。

シグルドはきりもみ状に回転しながら地面に倒れる。

そこで朱音麻衣は振り返った。刃のように研ぎ澄まされた殺意と覚悟を瞳に乗せて。

 

 

「私は世界を救えるぞ。お前たちはどうだ。アーマードライダー」

 

「聞いての通りだ」

 

 

バロンは、麻衣に槍先を向ける。

 

 

「俺は、古い世界を破壊する!」

 

「いい答えだ」

 

「それが強者の務めと知れ!」

 

 

両者、同時に走り出す。

そして同時に武器を打ち付けあった。

一撃目は互角。しかし次は違う。目にもとまらぬ速さで振るわれた刀がバナスピアーをバロンの手から弾き飛ばした。

 

 

「くッ!」

 

 

バロンが武器を目で追った時、麻衣は飛んでいた。

空中を舞って後ろに回りながらも刀を振るう。

剣先はバロンからは遠く離れているが、固有魔法によって無数の斬撃がバロンに襲い掛かっていく。

 

バロンが手を伸ばしてみても麻衣には届かない。

一方的な連撃は、バロンのガードを崩して装甲に無数の傷を与えていった。

 

それが終わったのは麻衣が着地した時だ。

光の矢が飛んできたので、麻衣は首だけを横に反らしてそれを回避する。

シグルドは地面を転がりバナスピアーをとると、それをバロンへ投げた。

 

 

「使え!」

 

 

それだけでなく、さらに二つのロックシードを起動して投げる。

巨大化と変形機能を搭載したロックビークルという特殊なものだ。

一つは浮遊バイク、ダンデライナーに。

もう一つは二足歩行ロボ、チューリップホッパーに変わる。

 

 

「フッ!」

 

 

バロンが飛んだ。

ダンデライナーに飛び乗るとアクセルグリップを捻り、飛行を開始する。

さらに備え付けられていた機関銃から弾丸を連射し、麻衣を狙った。

 

 

「………」

 

 

麻衣は刀を連続で振って弾丸を切り落としていくが、さすがに連射力が高い。

このままでは防戦一方と悟ったか、麻衣は走り出し、そのまま校舎の中に入っていった。

 

 

「ちょうどいい。追うぞ駆紋!」

 

「俺に命令するな! それくらいわかっている!」

 

 

シグルドは麻衣を追って校舎に入っていった。バロンもダンデライナーを飛ばして校舎の向こうに消えていく。

 

 

「まずいな……、どうする紘汰!」

 

「とりあず止めないと!」

 

「どけテメェら! あれにはオレが乗る!」

 

「って、おい! 初瀬!」

 

 

黒影は鎧武たちを押しのけ、チューリップホッパーに飛び乗った。

適当にガチャガチャ動かしているとホッパーがバウンドをはじめた。

あまり頭はよくないが、ゲームや機械弄りは苦手ではない。黒影はもう操作方法を把握したのか、そのままの勢いでパインを外そうともがいているみらいに突進していく。

 

 

「よせ! 攻撃するな!」

 

 

鎧武は無双セイバーに鎖を連結させて、鎖鎌のように変える。

それを投げて、チューリップホッパーの足に絡ませた。

 

 

「手伝うぜ紘汰!」「悪いッ、助かる!」

 

 

ナックルと共にロボットを抑えようとするが――

 

 

「ああもう! テメェら邪魔なんだよ!」

 

 

黒影が機体を思いきり旋回させると鎧武たちは勢いに負けて吹き飛んでいった。

これで邪魔者がいなくなったと思ったのも束の間、みらいの前に立っていた茉莉と目があった。

 

 

「えーいっ!」

 

「おわッ!」

 

 

茉莉がパワーアームを前に出し、掌からフラッシュを発射する。

激しい光に黒影は怯み、茉莉はその間にみらいの手を引いて走っていった。

 

 

「クソッ!」

 

 

黒影はなんとかしてチューリップホッパーを操り、屋上のほうへと跳んでいく。

 

 

「校舎にはまだたくさんの人が残ってる。このままじゃマズイぞ!」

 

 

ナックルに言われて鎧武は周囲を確認した。いつの間にか鈴音がいなくなっている。

逃げたのか隠れたのかはわからないが、足止めをするものが減ったのは好都合だった。

 

 

「よし、だったら俺たちも止めに行こう!」

 

「中にはカオルたちもいる筈だ。なんとか合流して戒斗たちを引きはがすんだ!」

 

「ああ、わかった!」

 

 

鎧武とナックルは頷きあい、悲鳴が聞こえる校舎へと飛び込んでいった。

 




今のところの予定では、しばらく未来編を投稿して、それでちょっとガッツリした先行最終回をやるつもりではあります。

とはいえ五月はやらねばならぬことがありますので、今月中に次回の更新があるかどうかは危ういですが……
ゆるしておくれやし。


あと最近気づいたんですけど、けっこうゲームが好きでゼノブレイド2とかもウキウキでプレイしてたんですけど。
ストーリーがバディもので、トラとハナっていうペアが僕は好きで後半とかは操作して遊んでたんですけど、トラの声優さんが杏子でハナの声優さんがゆまだったんですね。

これでお前とも縁が――(適当)


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