仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第八話 友じゃなくなる日

 

【四日目】

 

路地裏に光実はいた。

 

 

「ジュゥべえ、いる?」

 

『どうした? ミッチ』

 

「ルールの確認がしたい」

 

『いいぜ』

 

「僕が生きている間にリーダーアサルトで天乃鈴音が死んだ場合、どうなる?」

 

『お前は狂人だから魔法少女陣営だ。しかしあくまでも所属しているのは騎士陣営。だからリーダーアサルトによる魔法少女全滅の範囲には含まれてない。とはいえ、それにより騎士陣営が勝利した場合、狂人がお前であるということは知らされる。一つ確認だが、人が人を殺す行為はなにも"ゲームの中だけで行われるもの"じゃないよな? 意味、わかるよな?』

 

 

ミッチは俯き、顎を抑えた。

立ち回りの仕方によっては、ゲーム終了時に仲間から罰せられる可能性があるということだ。

 

 

『裏切るか裏切らないかはお前の自由ってこった。じゃあな、チャオ』

 

 

そういってジュゥべえは消えていく。

光実は今聞いたことを、そのままカラオケの個室で沙々に報告した。

こうやって落ち合うのは沙々からの提案だった。

 

貴虎の存在がある。

とりあえず沙々は光実に、貴虎が魔法少女たちをよく思っていないからというだけの報告に留めておいた。

貴虎が皆殺しを狙っていると光実に教えてもいいのだが、万が一にも光実が兄弟の『情』を取らないとも限らない。

変に刺激を与えるよりも、最初のプラン通りにじっくりと『育てて』いつでも使えるようにしておきたいというのが方針ではあった。

 

 

「光実くんはどうしたいんですか?」

 

「もちろん沙々さんとは別れたくないっ、だけど紘汰さんを……」

 

 

光実は言葉を詰まらせる。

沙々は心の中では舌打ちをしつつも、現実では穏やかな笑みを浮かべて光実の頭を撫でた。

 

 

「大丈夫です。まだ時間はありますから、ゆっくり考えましょ。ねぇ?」

 

「う、うん。ありがとう……」

 

 

沙々は考える。

昨夜のナイトフェイズで光実が紘汰を助けに向かったのは喜ばしくはないことだが、それはなにもマイナスだけではないのかもしれない。

そういえば光実の部屋にチーム鎧武で撮った写真が飾られているのがあったっけ?

 

「………」

 

 

 

 

 

 

「………」

 

沈黙があった。

鈴音は目を丸くしている。

 

 

「おはよう!」

 

「なに?」

 

「なにって。遊びに来たんだけど……」

 

 

佳奈美ははじめこそ笑顔だったが、あまりにも鈴音の表情が『無』なものだから、なんだか体がゾワゾワしてきた。

 

 

「えーっと、もしかして私、すごく恥ずかしいことした?」

 

 

鈴音はそこで昨夜の会話を思い出した。

 

 

『ともだちって、なぁに?』

 

『ほしいの?』

 

『?』

 

『じゃあ、なるよ! 私!』

 

 

なので今、二人はバスの中、並んで座っている。

目的地は大型ショッピングモールだ。

映画館もレストランもあるし、佳奈美はそこが好きだった。

 

 

「お祖母ちゃんともよく行ったし」

 

「………」

 

「鈴音はお祖母ちゃんはいる?」

 

「私が生まれたときにはもう」

 

「そっかぁ」

 

「………」

 

「休みの日とかはどんなことをしてるの?」

 

「なにも。魔女を殺すか、魔法少女を探して殺すか、どちらかだった」

 

「そ、そっかぁ。私はほら、チーム鎧武でダンスをやってんたんだけど……、ダンスとかって興味ある? ビートライダーズっていうんだけど――」

 

「べつに」

 

「あぅ」

 

「………」

 

「ご、ごめん」

 

「どうして謝るの?」

 

「や、なんていうか、怒ってるかなって」

 

「………」

 

 

鈴音はそっぽを向いて窓を見ていたが、ふと振り返って佳奈美にニコリとやさしげな笑みを向ける。

 

 

「ごめんなさい。ちょっと顔が怖かったでしょ?」

 

「わ、わ、わ、その笑顔すごく素敵! そういう顔もできるんだぁ!」

 

「ええ」

 

 

そこで鈴音はまたいつものような無表情に戻る。

 

 

「油断させた魔法少女を不意打ちで殺したときに使った顔よ」

 

「………」

 

 

なぜだか首が痒くなってきた。

重い空気のまま、二人はバスに揺られて進む。

 

 

「よし! 切り替えよう! 今日は楽しもうよ! ね!」

 

 

ショッピングモールについた佳奈美は鈴音を手を引いて映画館へ向かう。

 

 

「先週からやってるアクション映画があるんだけど、原作漫画のファンなんだよね! 鈴音は漫画とか見るの?」

 

「見ない」

 

「ふーん。じゃあアニメ? 好きな番組とかある? ドラマでもバラエティでも」

 

「何も見ないわ」

 

「じゃあニコチューブ派?」

 

「そういうの、何も見ない」

 

「え、どうして?」

 

「………」

 

 

どうしてかは、わからなかった。

困っていると、映画館のフロアについた。

約一時間四十分の上映時間が終わると、二人は映画館を出る。

佳奈美は興奮しているようで、ふんふんと鼻を鳴らしながら笑みを浮かべていた。

 

 

「おもしろかったね! アクションがとっても凄くて!」

 

「………」

 

「鈴音はどうだった?」

 

「……い」

 

「え?」

 

「わからない」

 

 

本心だった。

わからない。

面白いのか、面白くないのか、凄いのか、凄くないのか、楽しいのか、楽しくないのか。

何もわからない。本当はわからないといけない筈なのにわからなかった。

 

だってこんなものは、心に聞けば簡単なことだ。

でもそれなのに『わからない』だなんておかしな話だ。

1+1よりもそれはもっと単純なことなのに、どうしてそんなわかりやすいことがわからないのか。

 

 

「ごめんなさい」

 

「え? なにが?」

 

「退屈でしょう? 私といても」

 

 

鈴音は佳奈美から目をそらした。

しばし沈黙が続く。

その時だった。佳奈美が鈴音を抱きしめたのは。

 

 

「よしよし」

 

 

佳奈美は鈴音を頭をなでる。

 

 

「なにを?」

 

「わかんないや」

 

「え?」

 

「でもなんていうか、辛い時はお祖母ちゃんがこうしてくれた」

 

 

鈴音は辛そうだった。

鈴音はそれも、わからない。

 

 

「私たくさんお祖母ちゃんに甘えたから、鈴音もいっぱい甘えてちょうだいね! ふんす!」

 

「……甘え方がわからない」

 

「じゃあとりあえず、抱っこなでなでしとくね」

 

 

そうやってしばらく端のベンチで撫でくりまわされ、やがて佳奈美は離れた。

 

 

「どう? 落ち着いた?」

 

「それは……」

 

 

鈴音は胸に手を当てる。確かに、わからなくて湧き上がる苛立ちは消えていた。

 

 

「いろいろ、あるよね。本当にいろいろあると思う」

 

 

鈴音がやったことが正しいのかどうかという話まで持っていくことだってできるのかもしれない。

けれどなんていうか、今はそういうのじゃないと思っている。

佳奈美は鈴音がポツリと呟いた言葉を聴いた。そして友達になると言った。

今はそれだけだ。

 

 

「人によって感じるものとかは違うでしょ。それを無理に合わせず、かといって否定もせず、楽にいけばいいんじゃないかなって」

 

「?」

 

「鈴音がしんどいならそのままでもいいよ。私も別に嫌じゃないし、そしたら一緒にいられるでしょ? それが友達なんだよきっと」

 

「………」

 

 

鈴音は困ったように固まった。

 

 

「何を言っていいのか。どう返していいかもわからない。これからどうしたらいいのかも……」

 

 

すると佳奈美は立ち上がり、鈴音に手を差し伸べる。

 

 

「よし! じゃあ今日は私の好きなことに付き合ってもらおうかしら! それでいい?」

 

 

鈴音は弱弱しく頷き、佳奈美の手を取った。

 

 

「まずはスーパーに行くよ!」

 

 

そうやって連れてこられたのは、さつまいも売り場だ。

佳奈美はそこで立ち尽くし、なにやら芋たちを凝視している。

 

 

「え?」

 

「………」

 

「ぇ?」

 

 

鈴音はたまらず聞き返すが、佳奈美は人差し指を唇の前にもっていく。

 

 

「しっ! 言葉はいらないわ。イメージして鈴音、この子たちがあつあつの石の中で鎮座するさまをっ」

 

「はぁ……?」

 

「あ、見てあの子。曲線というか、くびれがちょっとえっちよねっ!?」

 

「え?」

 

「ね!!」

 

「え、ええ」

 

「はぁはぁ」

 

 

佳奈美は興奮しているのか、頬を赤くしていく。

するとぐぅと腹が鳴る音がした。

 

 

「もう我慢できないよっ! 行こう!」

 

 

佳奈美は鈴音の手を引いて、別のフロアにやってくる。

そこには『お芋の達治』と書かれた喫茶店があった。

 

 

「ほふほふっ!」

 

 

焼き芋喫茶、石焼き芋に特化したお店で、佳奈美はここを『楽園』と呼んでいた。

佳奈美はさっそく『ねっとりタイプ』と、『ほくほくタイプ』を二つ頼んで、美味そうに食っていた。

鈴音は、おすすめされたねっとりタイプを少しずつ口へ運んでいった。

 

 

「芋が好きなの?」

 

「うん。特にホフホフッ! 焼き芋がね! 食べる前にイメージして限界まで気分を高めるの!」

 

「そう」

 

「最近は、はふっ! こういうことがあって……、なかなか食べることができなかったでしょ?」

 

 

ちなみにシャルモンがなくなって海香たちがどうするのかというと、小説でがっぽり稼いでいる海香がホテルを借りてしばらくはそこに住むらしい。

 

 

「そういえば鈴音は食べ物だと何が好きなの?」

 

「考えたこともない。食事は極力とらないようにしてるから」

 

「えっ、どうして?」

 

「体が重くなるし、それに、おいしくないから」

 

「それは……」

 

 

佳奈美は考え、少し申し訳なさそうに口を開いた。

 

 

「本当に?」

 

「ええ」

 

「椿さんと食べてる時も美味しくなかったの?」

 

「……え」

 

 

鈴音は思い出した。

思い出したくなかったが、思い出してしまう。

そういえば昔もごはんがおいしくない時があった。両親が死んでからしばらくのことだ。

 

 

『はい、どうぞ』

 

 

笑顔の椿がいた。

 

 

『鈴音は何が好きですか?』

 

「椿と食べるごはんは……」

 

「?」

 

「おいしかった」

 

「……そっか。私ね、思うんだ。魔法少女になった人たちには強い願いがあった。そんな子が何も持ってないワケ、ないんだよ。きっとね!」

 

 

佳奈美は鈴音の頭を撫でた。

 

 

「美味しくなるまで、傍にいるから!!」

 

「………」

 

「ね!」

 

 

鈴音は無言で頷いた。佳奈美は笑顔で頷いた。

二人は手を繋いでいろいろなフロアを回った。

占いでは、二人の相性はバッチリらしい。

きっと一万円を払ったからだと佳奈美は言ったが、内心では嬉しかった。

 

鈴音の部屋には何もないというので人をダメにするというクッションをおそろいで買うことにした。

お金はたくさん使ってもいい。生き残ろうが、死のうが意味がなくなるものだから。

鈴音は赤色にした。佳奈美は紫色にした。さつまいもに見えたからだ。

 

アニメグッズがたくさん売っている店で、焼き芋怪獣いもるんのぬいぐるみを買った。

そんなものがあるのかと鈴音も感心していた。

 

 

「どんなお話なの?」

 

「魔法の石で焼いた焼き芋に命が宿って巨大化するんだよ。それで、地球温暖化をたくらむ悪の怪獣軍団アチチーと戦うの」

 

「深いわね」

 

「深いよ! サブスクであるから見てみてっ!」

 

 

少し早いが、帰ることにした。

帰り道、バス停まで歩く中で、鈴音はハッと表情を変える。

 

 

「……昔、椿と手を繋いでこういう場所に来たわ」

 

「楽しかったでしょ?」

 

「とっても」

 

 

鈴音は次の言葉が出なかった。喉が詰まる。一度俯いて、前を向いて、でもやっぱりダメで下を向いた。

帰ろうというつもりが、どうしてなのか、まったく違う言葉が出てきた。

 

 

「椿にまた会いたいなぁ……」

 

 

佳奈美は頷いた。

鈴音の腕に抱き着いて、頭を撫でた。

 

 

「生きてれば……、きっとまた、会えるよ」

 

 

鈴音は頷いた。何も言えなかったが、何かは言いたかった。

だから。まったく関係ないけど、それでも少しでもきっと自分の中にある何かをわかってもらえるために。

わかりにくいけど、それでもきっと……

もしかしたら彼女なら少しは読み取ってくれるかもしれないから。

 

 

「佳奈美」

 

「うん?」

 

「今日は楽しかった。来てくれて、どうもありがとう」

 

 

鈴音は精一杯、微笑んでみた。

にっこりと満面の笑みを返してくれた佳奈美がとても眩しかった。

 

 

「また、遊んでくれる?」

 

「うん! 絶対! 約束ね!」

 

 

こうして二人は別れ、鈴音は新聞屋に戻った。

 

 

「?」

 

 

ふと、立ち止まった。新聞屋には『Yanagi NewsPaper』と書かれた看板があるのだが、少しだけ違和感を覚えた。

なんだか綴りが違う気がして、でも何も間違ってはいないから鈴音は中に入る。

やはり気のせいだった。中にはなんのことはない、いつも通りの光景が広がっている。

 

 

「おかえりスズっち。わ、なにそれ、クッション? 大きいね」

 

「ただいま。です」

 

 

鈴音は両手で抱えていた赤いクッションを置くと、肩を竦める。

 

 

「それより、一ついいですか?」

 

「んー?」

 

「お菓子とかって、作ったことあります?」

 

「え? どうしてまた?」

 

「あの、サツマイモが好きな子がいて……、それで、なんていうか」

 

「作ってあげるの? マジっスか!? 彼氏とか?」

 

「そんなんじゃ……! ただ、なんていうか……」

 

 

鈴音は迷った。なんといえばいいのか。

しかし結果として、鈴音は佳奈美の言葉と笑顔を信じた。

 

 

「友達に、あげようと思って」

 

 

 

 

 

 

「――っていうことがあってね」

 

 

佳奈美はさっきのことを話し終わると、笑顔で伸びを行う。

 

 

「やー、でも本当に喜んでもらえてよかったぁ。安心しちゃった! それになんていうか、鈴音はすごくクールだったじゃない? そういう子が笑顔を浮かべてくれるとより染みるといいますか、なんといいますか」

 

 

もっと鈴音の笑顔が見たくなった。

そのきっかけが自分であったなら、なおさらうれしい。

 

 

「愛しくなっちゃった?」

 

「愛しい? あはは、そうかも!」

 

 

それは少しむず痒い言い方だが、間違ってはないのかもしれない。

もっと鈴音に喜んでほしい。

もっと鈴音に笑ってもらいたい。

もっと鈴音に頼ってほしい。甘えてもらいたい。

 

 

「その先は?」

 

「え?」

 

「もっと、もっと、その上がきっとある」

 

 

上? それよりももっと上なものがあるのだろうか?

 

 

「たとえば、よくないかもしれないけど……」

 

 

依存、とか。

 

 

「あはは、まさか」

 

「でも、愛しいなら、それも楽しいですよ」

 

 

愛しい。

そういえば鈴音はとても美人だ。

髪も、目も、顔も。体はとてもスレンダーでスタイルがいい。

魔法少女の時は露出も高くて、その体つきがよくわかる。けれども佳奈美としてはやっぱりもうちょっと食べてほしいとは思う。

痩せていて、心配だ。

夏はいいけど、冬とか寒くないんだろうか?

暖かくしてほしい。でもそういうのも、魔法で解決しそうではある。

そういう癖をつけるのは、あまりよくないとは思っている。魔法に頼り切りになると無頓着というか、横着になるし、ましてや大切な魔力は温存したほうがいい。

でもそうか、だったら温めてあげればいいのか。

 

 

「うぁ!」

 

 

佳奈美は真っ赤になって思わずのけ反った。

それくらい、浮かんできたイメージは滅茶苦茶だった。

 

佳奈美はサウナが好きだった。

焼き芋になれた気がするからだ。

だから寒かったらサウナに行く。鈴音も一緒。

 

鈴音は初めてのサウナで緊張しているようだったけど、その日は他に誰もいない。だから貸し切りだと佳奈美ははしゃいだ。

二人は熱くてオレンジ色のライトが強い部屋の中で肩を並べる。

すぐに汗をかいた。

熱い。頭がぼーっとする。

 

鈴音が焼き芋に見えた。

蜜が垂れる。もったいないから、佳奈美は急いで舐めた。

それは想像よりもずっと甘くて、佳奈美は夢中で舐め続けた。

 

そこで我に返る。佳奈美は叫び、鈴音の肌から舌を離した。

ごめん。ごめんなさい。謝り続ける佳奈美だが、鈴音は彼女に近づくと黙らせるために唇を奪った。

そして佳奈美を押し倒すと、タオルをはぎ取って脇を舐めて、そのまま肋骨のほうまで舌を這わせていく。

 

鈴音の目が語っていた。

佳奈美に嫌われたくない。佳奈美といっしょがいい。

佳奈美の一部を体の中に入れたい。

佳奈美になら、何をされてもいい。

何をしてもいい。

 

 

(え? え? え!? ど、どどどどうしてっ!?)

 

 

佳奈美はそんな妄想を頭に浮かべたことを恥じた。

これは友情の筈だった。

しかし今のは紛れもない、それを超える『愛情』だ。

いや、もっと動物的な。

悪く言えば欲望にあふれた淀んだ本能といってもいい。

決してそんなつもりじゃなかった。なのに、なぜ?

ましてや鈴音は同じ少女じゃないか。

 

 

「愛しいからですよ」

 

 

そう、だから未来予想が捗った。

今度は綺麗で、美しいイメージだ。

白いワンピース姿の鈴音が笑ってくれている。

菜の花畑を走る彼女はとても綺麗で、佳奈美は見惚れた。

夜はイルミネーションだ。二人は手を繋いで、いつまでも美しく光る街を眺めていた。

そこに生まれるのはかけがえのない幸福。

佳奈美はそのあまりにも大きすぎる感情の尊さを今日、確かに知ることができた。

 

 

「あ」

 

 

しかしそれは音を立てて崩れるものなのだ。

なぜならば騎士がいるから。

正確には、葛葉紘汰がいるからだ。

鈴音は紘汰を生存させることを目的としている。だとしたら彼女に生きる未来はない。

ましてや鈴音が死ねば佳奈美も死ぬ。だからこれは妄想でしかなく、絶対に叶うことのない夢幻なのだ。

それを理解できればいいのだが、どうしてだか、あの幸福を知ってしまった佳奈美には「はいそうですか」と受け入れることができなかった。

鈴音が死ぬ妄想をしただけで泣き叫びたくなった。

もはやたまらず、ポタポタとテーブルに涙が落ちる。

 

 

「紘汰が嫌いになったわけじゃない。でも――」

 

 

鈴音が大好きだから、鈴音を失いたくないから。

 

 

「悪い夢だと、割り切りましょう」

 

 

佳奈美は携帯を取り出すと、メッセージアプリを起動した。

協力したい。作戦がある。話がしたいから、指定した場所に来てほしい。そんな内容。

そして佳奈美は集合場所に行くべく、すぐに席を立って走り出した。

 

 

「淫夢はまだ、覚めないほうがいい」

 

 

たまたまばったり出会ったんじゃない。

佳奈美の後をつけて声をかけたのだ。

優木沙々は佳奈美が飲み残して放置していた紅茶を取ると、下卑た笑みを浮かべながら口をつけた。

 

 

「よせ! やめてくれ佳奈美!」

 

 

不意打ちをしなかったのは、佳奈美の優しさであり、それが今まで自分たちのダンスを支えてくれたリーダーに対するせめてもの恩であると思ったからだ。

しかしそれで終わりにしなければならない。

佳奈美は魔法を使うことにした。

一瞬で加速して、鎧武の胸に逆手に持った双剣の先を打ち当てる。

衝撃で転がっていく鎧武を見て、佳奈美は確かな胸の痛みを感じた。

 

けれども脳内に広がっていく妄想幻覚。

紘汰を殺してしまったら、きっととても苦しむのだろう。罪の意識で心が壊れる寸前までいくかもしれない。

けれども鈴音はきっとそばにいてくれる。

 

なによりもそれは椿という大切な人を殺してしまった鈴音とリンクして、二人はきっとお互いの痛みを理解し、傷を舐めることができる。

深く入り、うごめく舌は暖かくて、お互いはお互いの体温だけを生きる糧にできるかもしれない。

それはなんだかとっても悪くない、素敵な話であった。

 

 

「紘汰、本当にごめん! でも、でもね!?」

 

 

佳奈美は一瞬で鎧武のもとへ駆けつけて、足裏で胸を踏みつける。

 

 

「そもそも、紘汰がいなければ椿さんは死なずに済んだんじゃない? 紘汰たちが襲われなければ、鈴音はきっと今も無垢な笑顔を浮かべて……」

 

 

佳奈美はハッとして、すぐに武器を捨てて後ろに下がった。

 

 

「あ、あの、私……、えっと、ごめん。そんなひどいことを言うつもりじゃ――」

 

 

その時、佳奈美の頭にある嫌な予感が過った。

椿という繋がりが紘汰と鈴音にはある。

もしかしたらそれは『絆』になりうるものなのかもしれない。

だったら鈴音を本当に笑顔にできるのはもしかしたら――

 

 

「そんなの嫌だよ!」

 

 

佳奈美は走り、武器を回収すると、思い切り振り上げて鎧武を狙う。

しかし鎧武も地面を転がっていた。

おかげで剣先が地面に突き刺さった。力を込めたものだから、それなりに深く侵入してしまい、抜くのに手間取っている。

その間に鎧武はゲネシスコアを戦極ドライバーにセットした。

 

 

「佳奈美! 様子が変だ! 少し落ち着いてくれ!」

 

「落ち着いてるよ! 落ち着いてるから……! 怖い!」

 

「っ?」

 

「一秒ごとに鈴音への愛が溢れてく! 鈴音のことを考えるだけで胸がいたいの! これじゃあ鈴音が死んだら私、耐えられない! そもそも紘汰が死なないと私たち! 死んじゃうのよ!?」

 

「それは――……ッ」

 

「だからごめん! 死んで!!」

 

「すまん佳奈美……! それはできないんだ!」【チェリーエナジー!】

 

 

ロックシードをセットし、鎧武は小刀を倒した。

 

 

【ミックス!】【ジンバーッ! チェリー!】『【ハハーッ!』】

 

 

陣羽織にサクランボの柄。

ジンバーチェリーの固有能力は『超高速』だ。

鎧武が消えたように感じたとき、佳奈美も理解して剣を引き抜き、地面を蹴った。

ただの人間が見たら、周囲の物が次々といきなり壊れていくように思えるだろうが、実際は違う。

超高速で動き回る二人の斬りあう衝撃や、回避した際に後ろにあったものが破壊されてく様なのだこれは。

 

二人は道路に出た。

そして走り、遅い車を抜き去りながら矢を放ち、斬撃を飛ばす。

佳奈美が飛んだ。

案内標識を蹴って、一気に鎧武のもとまで迫る。

しかし鎧武は体をそらし、佳奈美のフードを掴んで思い切り投げ飛ばした。

佳奈美は近くにあった商業施設の壁にぶつかり、動きが止まる。

 

とはいえ、切りかかってきた鎧武のアローを双剣で受け止めた。

二人はそのまま商業施設の中を駆け回りながら斬りあい、やがて屋上にやってくる。

ここまで来てわかったことだが、おそらく佳奈美にはアローの矢は当たらない。

だとするなら鎧武は地面を転がり、一つのロックシードをセットして弦を引いた。

 

 

『ドリアンチャージ!』

 

 

矢が放たれた。

しかし佳奈美は予想通りそれをサイドステップで回避するが――

 

 

「うっ!」

 

 

佳奈美の動きが鈍る。すさまじい悪臭を感じた。

それは鎧武がセットしたドリアンロックシードの効果であった。

目も眩むような激しい臭いに、思わず朦朧とする。

 

 

(そうだ、嗅覚を遮断すれば……!)

 

 

それを思いついた時には、もうすでに鎧武が飛び上がっていた。

 

 

『ソイヤ!』

 

「あっ!」

 

 

佳奈美は武器を投げ捨てて左に転がるが、鎧武はまだ滞空中であった。

旋回しながらもしっかりとその動きを見ており、転がり切った先へ足裏を向ける。

 

 

「ハアアアアアアアア!」【ジンバーチェリースカッシュ!】

 

「きゃああああああああ!」

 

 

サクランボのエネルギーを纏った飛び蹴りが佳奈美に直撃し、鎧武は佳奈美の銅をけって地面に着地した。

威力を限りなく抑えているのか、佳奈美は二歩ほど後退したくらいで、あとはその場に倒れるだけだった。

 

 

「ぅ、ぅう……!」

 

「佳奈美……」

 

 

鎧武は佳奈美へ手を差し伸べようとしたが、躊躇してしまう。

こんなものはただの一時しのぎでしかない。

手を取ったところで、佳奈美の言う通りやがてはどちらかが死ぬ。

鎧武としてもなんとかルールの抜け道はないかと探ってみたが、凌馬からは諦めろと言われ、海香からは進展はないと言われている。

ためしにジュゥべえたちを探してみようとはするが、いつも彼らは鎧武の手をすり抜けてしまう。

 

 

(いや、それでも……!)

 

 

鎧武は首を振る。

そして、うずくまっている佳奈美へ手を貸そうと動いた。

 

 

 

その頃、近くの喫茶店のテラスで駆紋戒斗はフルーツの柄をしたトランプを弄っていた。

向かいには湊曜子が座っており、笑みを浮かべている。

 

 

「何も食べないの?」

 

「ああ。気分ではない」

 

「そう。じゃあいいけど……、せめて何か飲んだら? 奢るわよ」

 

「いらん。無意味だ」

 

「つれないわねぇ」

 

 

湊はわざとらしく足を組みかえた。

 

 

「貴様、さっきから何を期待している?」

 

「べつに。ただ、なんとなく、どういう感性の持ち主か気になってね」

 

 

これでスカートが見えないか視線でも移そうものなら笑ってしまっていただろうが、それはそれで可愛らしくて嫌いじゃない。

 

 

「ほら、英雄は色を好むともいうでしょ?」

 

「くだらん」

 

 

湊は困ったように肩を竦めた。

 

 

「とにかく気に入ったのよ、貴方が。それほどまでに一般人がいきなりゲネシスドライバーを使えるなんて珍しいことなのだから」

 

 

確率論ではない。運がよくて~などという話ではないのだ。

ゲネシスのパワーに耐えられる肉体をひそかに作り上げていた。

 

 

「ただの人間とは思えない。ねえ、あとで肉体を見せてくれない? どんな鍛え方をしているのか気になるわ」

 

「断る」

 

「残念」

 

 

湊はピーチティーを一口飲んだ。

 

 

「いずれにせよ野心がないと無理だわ。やっぱり復讐かしら?」

 

「なんだと?」

 

「調べさせてもらったわ。貴方の過去を。お父さんの件は残念だったわね」

 

「ユグドラシルのせいではない。弱かったからだ」

 

「だから強くなろうとしたの? いいわね、なかなかできることじゃないわ」

 

 

湊は戒斗の経歴が書かれた紙の一点を指さした。

 

 

「ゲームが始まる二日前、貴方、学校を無断欠席してるわよね」

 

「それがどうしたという?」

 

「いくら調べても、この日、貴方がどこに行っていたのかがわからないの。不自然なくらい」

 

「ダンスの練習だ。変わったことはしていない」

 

「そう、ならいいけど」

 

「元産業スパイが今はストーカーか。落ちぶれたものだな」

 

「……誰からそれを?」

 

「フン」

 

「はぁ、プロフェッサーね」

 

 

そう、かつて湊は産業スパイとして凌馬の研究室に侵入したのだが、そこで見破られた上に、スカウトを受けたのだ。

その度胸に負けて、湊はユグドラシルに来たのだが――

 

 

「今は貴方のほうが魅力的。ゲネシスは私でも装着するのに時間がかかったわ」

 

「なら意外と大したことはない連中のようだな。俺のほうが強い証明ができた」

 

「ああ、それ。それいいわね。朱音麻衣にいいように転がされていたものとは思えないセリフ」

 

「………」

 

「褒めてるのよ」

 

「すぐに追いつく。そもそもあれは貴様のいうとおり転がされただけだ。負けてはいない」

 

「その不屈の精神も気に入ってるわ。私は王を求めているの。私の下で王を生み出し、その生き様を見届ける。それが私の望みなんだから!」

 

「おかしな女だ」

 

「嫌いじゃないでしょ?」

 

 

戒斗は何も言わなかった。

湊は少し嬉しそうに笑う。するとそこで、インカムから音声が流れた。

 

 

『湊くん。捕食中のところ申し訳ないが、うちのリーダーがピンチみたいだ。なんとかしてやってくれないだろうか』

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

鎧武は風を感じた。

気づいていないだろうが鎧武が立っている場所を中心として丸い円が地面に刻まれていた。

それは残痕だ。

直後、地面が抜けて、鎧武は屋上から真下にある立体駐車場に落ちる。

 

 

「ぐあぁ!」

 

「ユグドラシルが沢芽に設置された監視カメラで我々の位置を探ることができるように――」

 

 

剣先が胸を突く。

火花が散り、呼吸が止まるが、鎧武は右手で刀を掴んだ。

そして思い切り左手を打ち付けることで、刀を弾く。

麻衣がひるんだところで立ち上がり、高速移動を開始、アローを拾って周囲を駆ける。

 

 

「我々もまた探る術はある。たとえばクマのぬいぐるみを監視カメラがあるところに置いておくとか」

 

 

鎧武は早いが、アローから放たれる光の矢のスピードは同じである。

麻衣はステップでそれらを回避し、意識を集中させた。

目を閉じる。ロックシードがセットされた音が聞こえた。

 

 

「そこだッ!」

 

「グアァアア!」

 

 

斬撃がクリーンヒットし、鎧武は激しく地面を転がっていく。

ちょうどそこで戒斗と湊が駆け付けた。

 

 

「情けないぞ葛葉!」

 

 

戒斗はゲネシスドライバーを取り出すが、そこで湊に止められる。

 

 

「リーダーに戦わせたほうが果実が熟れる」

 

「……チッ!」

 

「葛葉紘汰! これを使いなさい!」

 

 

湊は自分が使っているロックシードを投げた。

それは麻衣の頭上を越えて鎧武のもとまで届く。

 

 

「すまない! 借りるぜ!」【ピーチエナジー!】

 

「いいだろう。見せてくれ、どう来てくれるんだ?」

 

 

麻衣は両手を広げて待機の意を伝える。

その間に鎧武はピーチエナジーロックシードをセットすると、カッティングブレードを倒した。

 

【ロック・オン】『ソイヤ!』

 

『オレンジアームズ! 花道・オン・ステージ!』

 

【ミックス!】【ジンバーッ! ピーッチ!】『【ハハーッ!』】

 

陣羽織のアーマーに桃の紋章。

ジンバーピーチとなった鎧武はアローの弦を引いて、そこで止まった。

 

 

「………」

 

 

麻衣もまた、納刀状態の刀を構えて沈黙する。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「――ッ!」

 

「そこだ!」

 

「なにッ!」

 

 

麻衣が目を見開いた。

飛んできた矢を気まずそうに回避する。

やや大ぶりなステップ。だからこそ二発目を鞘で弾いた時に隙が生まれた。

 

鎧武は跳び、矢を放つ。

それは麻衣の脇腹に直撃し、麻衣はうめき声をあげながら後退していく。

 

あの睨み合い。先に動いたのは麻衣のほうだった。

鞘を掴む力を強め、踏み込もうとしたところで鎧武も動いて矢を放ってきた。

当初の狙いとはズレた位置に矢があったため、対処に少し混乱したのである。

 

麻衣はすぐに体勢を立て直して腰を落とす。

踏み込み、すると鎧武もアローを盾にする。

攻撃が来るタイミングがわかっている? 麻衣は少し迷ったが、かまわずに斬撃を放った。

それは命中するが、鎧武は防御に意識を置いていたために当然ダメージは抑えられる。

そして二発目は回避された。

後ろに飛んでいた鎧武は矢を発射しており、それは麻衣の刀を持つ手に直撃する。

 

 

「ぐぅう……オォッ!」

 

 

麻衣は表情を歪めて、刀を落とす。

 

 

「!」

 

 

麻衣は見た。

鎧武が頭の側面を抑えたのを。

 

 

「スゥウウウウウ」

 

「!」

 

「ワァアッッッ!!!」

 

 

鎧武はアローを落とした。

そして両手で『耳』を抑える。

 

 

「ぐッ! ォアアアア……ッッ!」

 

「やはりそういうことか!」

 

 

麻衣が武器を落とした際、それなりに大きな音が響いた。

そこに鎧武はわずかに苦しむような素振りを見せたのだ。

だからこそジンバーピーチの固有能力が『聴力強化』であることを見破った。

鎧武は麻衣が動く際に発生する音をヒントに、彼女の攻撃のタイミングやルートを予想していたのだ。

 

 

「ッ!」「!!」

 

 

鎧武はすぐにアローを拾った。

同じく、麻衣は落ちた刀を拾っている。

鎧武はロックシードをセットし、麻衣は腰を落として刀を構えた。

 

 

「ハァアアアア!」【チェリーエナジー!】

 

「フッ! デヤァアア!」

 

 

ソニックアローから強化された矢が発射され、麻衣もまた踏み込み、巨大な三日月状の斬撃を発射する。

二つのエネルギーはぶつかり合うと、競り合いもわずかに爆発を起こして衝撃を拡散させた。

 

 

「ウグッ!」

 

「ぐあぁ!」

 

 

鎧武は車に叩きつけられ、麻衣は壁に叩きつけられ、それぞれ地面に倒れた。

 

 

 

 

暗い。

 

チビってなんだろう? ご苦労様? 運んでくれて?

 

どういう意味だろう?

 

そんなことより、早く、起きなきゃ……

 

 

「鈴音さんが大切ですか?」

 

 

え? あ、はい。

 

 

「じゃあ何をすればいいかわかりますよね?」

 

 

何を、すれば……、いいんだろう?

紘汰はやっぱり大切だから。

でも、紘汰を倒さないと鈴音が……

でも、でも、あれ? どうして私、紘汰のことをそもそも――

 

 

「チッ! 負けやがって。使えねぇゴミクズが」

 

 

あれ、そういえば、私は、何を……

 

 

「下手にボロを出されても困るのでぇー」

 

 

私は……、何を……

 

 

「さよならってことで」

 

 

 

 

 

「ハハハハハ!」

 

 

………。

 

 

「何をしてるんだ!」

 

「何をって! ムカつくから攻撃してるんだよ! 一般人なんてストレス発散にいくらでも殺していいんだって!」

 

「そんな! どうして!!」

 

「どうして? どうしてだって? まだそんなこと言ってるの? ダメだよ! いい加減にゲームを楽しまないと!」

 

「紘汰さんを襲ったっていうのは本当だったの?」

 

「当たり前だろうが! 紘汰を殺せば私たちの勝ちなんだよ! だったら殺すに決まってるだろ! たくさん殺してきたよ! たとえばアンタのお姉ちゃんとか!」

 

「それは、どういう……!」

 

「私の固有魔法は高速移動じゃない! 肉体操作なんだよ! 筋力を操り、そして他人の体を操る!」

 

「じゃあ、まさか! 茉莉を操ったのは――!」

 

「そういうこと! 自分から喋っておいてなんだけど! 知られたからには光実くんも死んでもらいたいなァアア!」

 

 

………。

 

 

「あ……、れ?」

 

 

佳奈美は呼吸を荒げていた。

朦朧とした意識の中で、自分の心臓に矢が突き刺さっているのに気づいた。

 

 

「あれ、私、どうして……、なんで?」

 

 

少し離れたところにはへたり込み、呼吸を荒げている龍玄がいる。

ジンバードラゴンに変身しており、ボウガンに変えたソニックアローから発射された矢が佳奈美の胸を貫き、後ろにある壁に磔にしている。

 

 

「あれ、私は……、たしか、鈴音ちゃんと別れて、それで……」

 

 

沙々さんに話しかけられて――

 

 

「………」

 

 

沙々は殺意を持ってはいたかもしれないが、そもそも沙々がしたことは攻撃ではなく腹話術だ。

だからこそ通った。

あとは殺意を持った龍玄に任せればいいだけだった。

 

 

「ま、いっかぁ、よくわかんないや……」

 

 

佳奈美は空を見上げた。とても綺麗だった。

鈴音にも見せてあげたい。鈴音も見ていてほしい。

おいしいものを食べたら、お祖母ちゃんにも食べてほしかった。

鈴音もきっとそうだったはずだ。でも椿がいなくなって、だから。

だから、私は鈴音ちゃんにおいしいものを食べてほしくて、それで綺麗なものも見てほしくて。

そして、そしたらいつか、鈴音ちゃんもそう思ってくれたら、それはとっても、とってもとっても嬉しくて……

 

 

「鈴音ちゃんに会いたいなぁ……」

 

 

掠れた声が空に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

「……むずかしい」

 

その頃、鈴音はスマホを見ながら慣れない手つきでスイートポテトのレシピ通りに作業をしていた。

はじめて使ったお気に入り機能。

そこには他にもさつまいもを使ったお菓子のレシピがたくさん保存されていた。

たくさん作れば、きっと一つくらいは美味しいって喜んでくれるかもしれないから。

 

 

【穂香佳奈美・死亡】

 

【魔法少女陣営:残り8人】【騎士陣営:残り7人】

 

 

このアナウンスを聞くのは、もう少し先のことである。

 

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