仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第九話 雷光

 

「……ッ」「――!」

 

鎧武と麻衣はほぼ同時に立ち上がった。

先に動いたのは鎧武だ。ソニックアローの弦を引き、光を集中させる。

 

 

「んなッ!?」

 

 

しかし放たれた矢が麻衣に当たることはなかった。

突如として上空から巨大なクマが降ってきて、代わりに矢を受け止めたからだ。

そのテディベアの頭上には、みらいが大剣を抱えて立っている。

 

 

「ハァアアア!」

 

 

みらいが飛んだ。

大剣を振るいあげながら落下してくる。

鎧武はすぐに撃墜しようと矢を連射したが、みらいに当たる前にバリアに阻まれる。

どうやら防御魔法を発動していたらしい。

これでは間に合わない。鎧武はなんとかアローを横にして、振り下ろされた大剣を真正面から受け止めた。

凄まじい衝撃で、思わず地面に膝をつけるが、なんとか耐えきってみせた。

 

「!?」

 

しかし安心したのも束の間。

みらいが飛び上がると、そこで剛腕が視界に入った。

クマが腕を振るっていたのだ。鎧武はそれも防御しようとするが、クマの腕がアローに当たった瞬間、鎧武は衝撃で吹き飛んでいた。

 

 

「ぐあぁあ!」

 

 

地面を転がりながら。その衝撃でロックシードが外れてしまう。

変身が解除されても紘汰は激しく地面を転がっていった。

 

 

「これでッッ!」

 

 

みらいが走った。

 

 

「終わりだぁーッ!」

 

 

横ぶり。

が、しかし、そこでぶつかる音。

みらいの体が後ろに弾かれる。

 

 

「ぐッ!」

 

「魔法少女、排除する」

 

 

みらいの視界にフェードインしてきたのは『斬月』だった。

高速移動で割り入った彼は、盾でみらいの大剣を弾いたのだ。

 

 

「あ」

 

 

みらいの視界から斬月が消えた。

そして背後に感じる気配。

振り返らずともわかる。斬月が回り込んできたのだということが。

 

「!」

 

斬月は後ろへ盾を出す。

そこへぶつかる麻衣の刀。斬月はそのまま麻衣のほうへ進みだす。

あまり得意な位置ではない。麻衣は盾を蹴ると、その勢いで跳ねて斬月から距離をとった。

 

しかしそれが斬月の狙いでもある。

盾を投げると、フリスビーのように回転しながら斬月の周囲を旋回し、麻衣たち弾き飛ばして戻ってきた。

 

だが斬月はそれをすぐに放った。

無双セイバーとメロンディフェンダーを捨てたわけだが、代わりに新しいロックシードを起動する。

斬月がすぐに魔法少女たちを殺しに動かなかったのは、凌馬の勧めで、"とあるロックシード"の調整に入っていたからだ。

それを今、使用するのである。

 

 

『ソイヤ!』『ウォーターメロンアームズ!』『乱れ玉! バ・バ・バ・バン!』

 

 

スイカをモチーフにした形態に変身する。

元々、大型アーマーである『スイカアームズ』のプロトタイプとして作成されたものである。

高エネルギーのロックシードを人のサイズで使うことができる反面、使用者への反動が大きかったが、調整にて今はそれらのデメリットを克服している。

斬月は、メロンディフェンダーに酷似したガトリングガン、『ウォーターメロンガトリング』を構えた。

砲身が回転を始め、エネルギーが集中していく。

 

 

「チッ!」

 

 

麻衣は刀を高速で振るった。

襲い掛かる弾丸を何とか斬り弾いていったが――

 

 

『ソイヤ!』『ウォーターメロンスカッシュ!』

 

 

ガトリングが光る。

すると弾丸の威力もあがり、麻衣の表情が歪んだ。

刀にぶつかっていく弾丸の衝撃が強まり、腕が痺れてきた。

 

そしてついには弾丸が刀を抜けた。

まずは肩に一発。そうするとよろけてしまい、次々に弾丸が麻衣に直撃していく。

血が飛び散り、麻衣は苦痛に顔を歪めながら後退していった。

 

 

「このヤローッ!」

 

 

みらいが吠えた。

巨大なクマが腕を振るいあげてそのまま斬月を押しつぶそうとするが、斬月は一瞬で右のほうへと移動して攻撃を回避してみせた。

どうやら高速移動はロックシードの力ではなくドライバーに依存しているらしい。凌馬が貴虎のためだけに作った特別製なのである。

 

 

「呉島主任。コチラは私が」

 

「頼んだぞ、湊」

 

 

湊は紘汰が落としたピーチエナジーロックシードを拾っていた。

ゲネシスドライバーを装着して走る。

 

 

「変身」【ピーチエナジーアームズ】

 

 

電子音と共に降ってくる桃型のアーマー。

アーマードライダー・『マリカ』が一気に加速して麻衣との距離を詰める。

 

 

「フッ!」

 

 

研ぎ澄まされた一撃だった。

風を切った左足の前蹴り。

つま先を伸ばして槍のようにしたピンポイントの一撃が、麻衣の腹部に突き刺さる。

 

 

「う――ッ!」

 

 

麻衣の表情が歪んだ。

 

 

「あら?」

 

 

だが直後、麻衣はニヤリと笑ってみせる。

なかなか強烈な一撃ではあったが、マリカの足先は麻衣の腹部に侵入することなく止まっていた。

 

 

「それなりに腹筋はしてるんだ!」

 

 

麻衣が刀を掲げた。

マリカは側宙で一気に距離をとった。

とはいえ、麻衣の魔法があれば斬撃は届いてしまう。

だからマリカは空中で回転しながらソニックアローを連射して攻撃させないようにけん制する。

 

さらにそこでレモンエナジーアームズに変身していたバロンが矢を追加した。

麻衣は攻撃を諦めて、足裏で地面を強くたたく。

すると畳型のシールドが現れて矢を受け止めていった。

 

右足を振るい、踵が麻衣の頬を打つ。

麻衣は素早く体勢を整えて前を見る。マリカが側宙で後ろに下がり、入れ替わりでバロンが走って来た。

 

 

「勝負だ!」

 

「面白い。前の学校の時より成長してくれていると嬉しいが……!」

 

「フン! 試してみるか?」

 

 

麻衣は振り下ろされたアローを鞘で受け止めると、回転しながら姿勢を低くして刀を払う。

足を狙った攻撃だったが、バロンもそれを察して飛び上がり、回避する。

 

しかし高度がやや高い。

着地までに麻衣が刀を斜めに伸ばせば、身動きが取れないバロンを打ち落とすことができるだろう。

 

バロンもそれを理解しており、弦を引いたが、わずかに遅かった。

これならば麻衣のほうが先に攻撃できる。

 

しかし麻衣はバロンを攻撃せず、後ろへ下がっていった。

バロンの後ろにいるマリカがアローを構えているのが見えたからだ。

 

「ハァ!」

 

マリカが矢を二発放つ。

麻衣は刀を振るってそれを弾き飛ばした。

 

「フンッ!」

 

バロンが走りながら矢を撃つ。

二発だ。それぞれ、弾かれて宙を舞っていたマリカの矢に命中する。

すると二つの矢が交わり、大きな矢に変わった。

それらは自動で矢先を麻衣に向けて再び飛んでいく。

 

「何ッ!? ぐッッ!」

 

麻衣は再び刀を払った。

しかし大きくなった矢は威力も上がっている。重たい抵抗感。

二発目を弾いたところで、バロンの突き出したソニックアローの刃が間近に迫っていた。

 

 

「チィイッ!」

 

 

麻衣は鞘から手を放して、自由になった左手でソニックアローの刃を掴んで止めてみせた。

血が刃を伝っていくが、バロンが力を込めても、刃はそれ以上先には進まない。

 

とはいえだ。

バロンの後ろから飛び出してくる影がある。

マリカが飛びながら放った矢が麻衣の胸に当たり、衝撃で力は弱まる。

 

反対にバロンはそこで力を込めた。

刃先が麻衣のみぞおちに触れ、そこでバロンはゲネシスドライバーのレバーを入れる。

スカッシュの音声が鳴り、刃が光って爆発が起きた。

麻衣の体が後ろへと滑り、なんとか踏みとどまるものの、そこで血を吐き出す。

 

 

「少しはやるようになったな駆紋戒斗。だが情けないぞ、女に守ってもらうなど!」

 

「黙れ! 性別など関係ない。この場にいるものは等しく戦士だ。それ以上でも以下でもない! 貴様も女だから手加減をされたなどと言われては興ざめだろう」

 

「……確かに。悪かった。その点は訂正しよう。これは殺し合い、そこにルールなどない」

 

「そう、勝つか負けるか」

 

「いや――、違う。生きるか死ぬかだ!」

 

 

麻衣が手を伸ばすと離れたところにある鞘が引き寄せられて手元に戻る。

そして納刀すると一気に地面を蹴って、飛ぶように加速した。

一気に決めるつもりなのだろうが、ちょうどそこでクマと戦っていた斬月がつぶやく。

 

 

「葛葉。そろそろいいだろう」

 

 

倒れていた紘汰が目を見開いた。

確かに。『チャージ』が終わったと理解できた。

貴虎も『再使用』できるまでの時間は遠隔で確認できた。

だからここに来た。その時間を稼ぐためだ。

 

 

「くそッ!」

 

 

スイカロックシードを掴み、紘汰は立ち上がる。

 

 

「変身!」『スイカ!』

 

 

空から巨大なスイカが降って来た。それが紘汰を押しつぶすように落下すると、衝撃波が発生して麻衣は急ブレーキをかける。

前回のデストロイヤー戦のあと、ロックシードの色が失われていたことに気が付いた。

凌馬がいうには凄まじいエネルギーを消費するため、一度使用すると、しばらく再起動できなくなるようになっているのだとか。

 

だが今、再びエネルギーのチャージが完了した。

紘汰は色が元に戻ったロックシードをを戦極ドライバーにセットし、カッティングブレードを倒す。

 

 

『ソイヤ!』『スイカアームズ!』『大玉! ビッグバン!』

 

 

鎧武はすぐに双刃刀を振るった。

するとクマの首が、手が、足が胴体から離れ、瞬く間に地に伏せる。

 

 

「げ!」

 

 

みらいは目を見開いた。

一方で、麻衣は思わずニヤリと笑う。

困ったものだが、どうしても血が滾ってしまうようだ。

 

 

「迸れ!!」

 

 

麻衣は幾重もの斬撃を鎧武へ直撃させた。

しかしどうしたことか。どれだけ攻撃を当てようとも、鎧武は不動である。

火花すら散らず、ただどっしりと立ち構えていた。

 

 

「ウラッ! シャアア!」

 

 

そして一閃。双刃刀が放つ赤い斬撃。

麻衣は呆気にとられた。柄が軽くなった感覚と、散る破片。

視線を移すと、そこには破壊された刀があった。

 

 

「ぐッ、これほど――ッ、とは!」

 

 

麻衣はすぐに魔力を込めて武器を再生しようとする。

しかしそれを斬月が見逃す筈もなかった。

無双セイバーを手にすると麻衣の首を狙い、走る。

 

 

「!」

 

 

だが斬月の前に双刃刀が振り下ろされた。

地面を抉ったそれは、斬月を阻む壁となる。

 

 

「……ろ」

 

「は?」

 

「逃げろ!」

 

 

鎧武は確かにそう言った。

騎士たちの視線が鎧武に集まるなか、麻衣が叫ぶ。

 

 

「みらい! 退くぞ!」

 

「~~ッッ、でも!」

 

「いいから!」

 

「あ! ま、待ってよ!」

 

 

みらいは納得していないようだったが、麻衣が有無をいわずに駆けるものだから渋々ながらも後を追って走っていった。

バロンたちは追おうとしたが、そこで再び鎧武が構えたのを見た。

どうやら、どうあっても邪魔しようというつもりらしい。

 

 

「どういうつもりだ。葛葉紘汰」

 

 

斬月の声は冷たい。

しかし鎧武も怯まなかった。

 

 

「どうもこうもあるか! 殺すつもりだったろ!」

 

「当然だ。それがルールだからな」

 

「ふざけんな! 何がルールだ! 俺は認めない!」

 

「……甘いな」

 

 

斬月はそれだけを言い残し、踵を返して歩き出した。

 

 

「スイカが甘くて何が悪いんだ。なあ、そうだろ戒斗」

 

「くだらん。戯言だ」

 

 

バロンも去っていく。鎧武はため息をついて変身を解除した。

 

 

「……湊、さん? だっけ? アンタはどう思う?」

 

「確かにインキュベーターの提示するルールに従わなければならないのは癪だけれど。貴方の考えは『子供』だわ」

 

「な、なんだよそれ。間違ってるっていうのか?」

 

「そうは言っていないけど私とは合わないわね。まあせいぜい頑張りなさい。世界が終わるまではまだ時間があるわ」

 

「……楽しそうに聞こえるのは気のせいか?」

 

「私はただ少しだけ、興味が湧いただけよ」

 

「興味だって?」

 

「少し時計の針を戻せば世界は今よりももっと自由だった。悪く言えば無秩序とも言っていいわ。きっと多くの正義があった筈よ。今の価値観であれば多少なりとも善悪に分けることができるかもしれないけれど、その時、その瞬間は等しく叶えたい未来だった」

 

 

それぞれの想いがある。

それらは全てが正しいし、全てが間違っていると言ってもいい。

答えがないからだ。

しかし人々は信じた。その先に望んだものがあるとこれが正しいのだと想い、戦った。

 

 

「似ているわ。今と」

 

「それは……」

 

「観測者に、なりたいのかもしれないわね」

 

「ッ、アンタはここにいるだろ。参加者の一人で、観客席じゃない。舞台に立ってるんだ」

 

「ふふ、そうね。それも悪くないかもしれないわ」

 

 

言葉が詰まった。どうにも湊という人間は掴めない。

戦極凌馬はよくわからないが、何かを『楽しんでいる』ように思える。

他にもみんな、なにかしらの感情が前に出ているように思えた。

しかし湊はどうにもわからない。

憤っているのか。期待しているのか。興味を抱いているとはいうが……

 

 

「達観し過ぎてるように見える」

 

「死ぬ夢を見たことはあるかしら」

 

「え?」

 

「よく見てた。青い蝶がいて。星が光ってる。だからなのかもしれないわね」

 

「ッ、それはどういう意味なんだ?」

 

「特別なことじゃないのかもしれないわ。死なんてものは」

 

「意味が分からない。死んだら、終わりだろ」

 

「……ええ、そうね」

 

 

湊は踵を返す。

紘汰は何かを言ってやろうと思ったが、悔しげに首を振って歩いて行った。

 

 

 

 

「落ち着きましたか?」

 

 

震えが止まったので問いかける。

沙々の腕の中にいた光実は首を縦にも横にも振らなかった。

 

 

「チームメイトだったんだ……! 佳奈美は――」

 

「ショック、ですよね。私なんかじゃ光実くんの苦しみを理解してあげられないかもしれないけど……、それでも傍にいますから」

 

「……ごめん。ありがとう」

 

 

沙々は光実の頭を撫でている。

光実は沙々の胸に顔を埋めているから、彼女の表情はわからない。

沙々は高揚していた。頬を赤く染めて、あふれ出る涎がこぼれないようにしているが、それでも口元が緩んでしまう。

恵まれている環境にいた光実が崩れている様がたまらない。しかも彼は自分に依存し始めている。こんな最高なことって他にはない。

だから沙々は下卑た笑みを浮かべるのだ。

 

 

「僕は、どうすれば……」

 

「光実くんは間違ってないですよ。私は、そう思います」

 

「そう、かな。そうなのかな」

 

「はい。だって襲ってきたのは佳奈美さんのほうからだったでしょ? だからあれは正当防衛みたいなものですから」

 

 

沙々はふと、窓に映った自分の顔を見た。

なんだか少し『萎え』のような感情が湧き上がる。

思い出したのは遊園地だ。あそこで青い蝶を見た。蝶は虫だ。沙々はあまり虫が好きではなかった。なぜならば虫は弱いからだ。

人間に踏みつぶされれば簡単に死ぬ。

そんな生き物――、沙々としては存在がナンセンスだった。

 

 

「人間って、弱い生き物ですよ」

 

「え……」

 

「でも、どんな人間も上にいる人間を引きずり下ろすことができる。上のほうでふんぞり返ってる連中を見下すことができる。ありとあらゆる可能性があるこの世界なら」

 

 

沙々は虚空を睨んだ。

 

 

「エゴを抱えるべきです。私、結構ありますよ。欲深い性格なんです」

 

 

目を細める。

 

 

「なんと言われようが自分が納得していればそれでいい。周りは疲れないかって聞いてくるけど、そんな無駄な質問ってないです。私の正解は私しか知らないんだし」

 

 

考えれば考えるほどムカついてくる。

たとえば鈴音だ。あんな生きてるか死んでるかもわからないようなヤツがリーダーなんてのも沙々としては腹が立つ話であった。

 

 

そしてその鈴音は、やはり無表情で壁を見ていた。

後ろには亜里紗と、ザック、茉莉がいる。

鈴音の家の住所を茉莉が知っていたので、亜里紗が頼んで連れてきてもらったのだ。

 

 

「今、どんな気持ち?」

 

 

佳奈美が鈴音と遊びに行くと言っていたのを亜里紗は聞いていた。

 

 

「何も、感じない」

 

 

鈴音はそう答えた。

亜里紗はムッとした。亜里紗は千里が死んだとき、胸が張り裂けそうだった。

だから少しばかり鈴音もそういう感情を抱いてくれれば、何かが変わると思っていたのに。

結局、鈴音は何も違わない。

一つ、いや二つほど辛辣な言葉をぶつけてやろうと思った。

 

しかしそこで茉莉が亜里紗を制した。

茉莉にはわかったのだ。

鈴音の些細な変化を。

 

 

「何も、変わらない。何も変わってない」

 

 

変われない。そんなニュアンスを感じて、亜里紗も複雑に表情を曇らせる。

 

 

「なにも声を荒げて感情的になるだけが『悲しみ』じゃない」

 

 

ザックがそう言った。

 

 

「人にはそれぞれの悲しみ方がある。たとえ一滴も涙が流れなくても、ほんの少しだけハートがモヤモヤしてれば、きっと悲しいのさ」

 

 

鈴音は何も言えない。

 

 

「それを受け入れたほうがいい」

 

 

何も言わないままでもよかった。

よかったが――、鈴音は口を開いた。

 

 

「そうね」

 

 

たったそれだけだったが、亜里紗は少し、安心したような顔をする。

 

 

 

一方、海香は喫茶店にいた。

背中合わせになるように、後ろの席ではカオルとかずみが肩を並べてデザートを食べている。

隠れ家的なこの店、海香の前には一人の科学者が座っていた。

 

 

「信用していただき、感謝します」

 

「かまいませんわ。騎士陣営に近いところにいるとはいえ、(わたくし)はきっと貴女たちのほうが……」

 

 

志筑仁美。

凌馬と共にアーマードライダーの研究に携わっている研究者だ。

彼女は言葉を止めた。確証のないことは口にするべきではないと思ったのだろう。

むろん海香もそれを察することはできる。

ゲームを止めようといろいろ調べていくなかで、いくつか気になる文献や記事を見つけたのだ。

 

 

「"ロストメモリーシンドローム"。特定の人間が、存在しない記憶を認識するのだと」

 

「デジャヴの類ではなく、夢というにも少し違う。それは文字通り記憶ですわ」

 

「しかしそんな事実は存在しない」

 

「はい。けれど覚えてる。あるいは無意識であったとしても心の隅に存在している」

 

 

仁美はユグドラシルに入る前はそれを研究していた。

彼女はそういった人々を『特異点』と称し、コンタクトをとってきた。

フルーツパーラーのマスター、阪東さんが由良吾郎という名で生きていた記憶が消失している件を海香は思い出した。

きっと彼も特異点だったのかもしれない。

 

 

「たとえば特異点の疑いのある男の子が幼少期の際に、存在しない筈の姉を絵描いたことがあると……」

 

 

その絵の少女に類似したキャラクターがいるかどうかを調べたが、彼が起きている時間帯に少女が主役のアニメが放送されていたのは事実だ。

そこからイメージが脳に刷り込まれたことは否定できない。

しかし仁美は彼の中に失われた記憶があるのだと信じた。

なぜならば、仁美もその少女のことを知っている気がしたからだ。

 

 

「特定の人間だけは覚えている、と……」

 

「なぜなのかはわかりませんわ。けれど偶然というにはあまりにも違和感があります」

 

「不具合はどんなものにも存在するものです。インキュベーターとて、神ではない」

 

「……神」

 

「?」

 

「魔法少女はどんな願いも叶えられる。長い歴史の中で、願いの力を使って因果律をはじめとした絶対のルールを覆した娘がいたとしても何も不思議ではありませんわ」

 

「確かに。例えば記憶を消す魔法少女、あるいは存在するかもしれない前回のフールズゲーム……」

 

「皮肉なものですわね。来るべき日のために用意していたものが、殺し合いに利用されるだなんて」

 

「アーマードライダーですか……。そういえば志筑さんは黄金の果実というものを知っていますか?」

 

「ええ。以前からそういったものが存在するのではないかとプロフェッサーは調べていたそうですわ。アーマードライダーの中にリンゴをモチーフにした"イドゥン"というものがいたのは覚えていますか?」

 

「たしか、一番最初に脱落した?」

 

「ええ。アレはプロフェッサー凌馬が、黄金の果実を模して作ったものですわ」

 

 

イドゥンが100%の力で活動することができた時、黄金の果実はまやかしではなくなると。

 

 

「ヘンペルのカラスに少し似ているでしょうか」

 

「……カラスが黒いということを調べる時、この世界に存在する黒くないものを全て並べて、その中にカラスがいなければ、カラスを直接調べることなく照明が完了する。でしたっけ?」

 

「プロフェッサーはイドゥンの出力されたデータを見て、黄金の果実が存在すると確信したようです」

 

 

そこで仁美は、ブランク状態のロックシードを置く。

 

 

「これは?」

 

「神殺しのロックシードですわ」

 

「神……!?」

 

「超越者、あるいは、概念。いずれにせよこの世界に存在する、私たちの力が及ばぬ何か」

 

「それを、殺す?」

 

「そうですわ。ただ、やはり形にするには難しくて、だからこそ貴女の力をお借りしたいのです」

 

「記述魔法ですね」

 

「ええ。私や夫の……、他にも特異点の中から記憶を取り出せるのは貴女だけですわ」

 

「確かにイクスフィーレはその人物が忘れたことであっても、体の中から情報を記載することができるかもしれません」

 

「一つ一つはきっと些細なものかもしれませんが、一つに合わせ、そしてそのデータをこのロックシードに入れることができれば……」

 

「それでは、さっそく」

 

「いえ、その前に一つ大きな問題がありますの。実は特異点の中でも重要人物と思われる鹿目タツヤくんが行方不明に……」

 

「えっ?」

 

「常にユグドラシルが監視していたのですが、気づかれたのかもしれませんわ。ここ最近、彼はロストメモリーシンドロームに苦しめられている様子でしたから。彼のデータは最重要と考えてますの。なので今、必死に捜索を――」

 

「わかりました。私たちも捜してみます」

 

「お願いしますわ。きっと彼の記憶はこのロックシードの完成に大きく関わる筈ですから」

 

 

そこで海香の携帯が震える。

 

 

「失礼」

 

 

それはメッセージアプリの通知だった。

表示されているのは、海香が登録していない筈の名前である。

 

 

「これは……!」

 

 

それは後ろの席にいたカオルにも届いていた。

かずみと頷きあい、カオルはすぐに店を飛び出した。

送信者は、ガーデンシリーズ・アンタレス。

 

 

『ナイトフェイズの開幕だ』

『俺様が狙うのは参加者じゃない。一般人だ』

『開幕と同時に沢芽ホテルの宿泊客を上層階から順に殺していく』

『止めたければ、わかるよな?』

 

 

アンタレスは長い廊下に立っていた。

シルエットは人型のロボットだ。そこに長い尾がついており、先には鞘に納められた日本刀、『雷切』がある。

アンタレスは客室の扉を手の甲で叩いた。

それだけで扉は吹き飛び、真っ暗な部屋の中に入る。

 

誰もいないのか。

そう判断しかけたが、すぐに間違いだということに気づいた。

アンタレスは右を見る。部屋の隅に光る複眼があった。

鎧武は手を放し、ソニックアローから光の矢を発射する。

 

「!」

 

鎧武は思わず唸った。

距離は近く、矢のスピードは速い。

にもかかわらずアンタレスは一瞬で雷切を抜刀するとそれを切り弾いたのである。

 

 

『これはこれは。リーダー様が自らお出ましとは』

 

「ユグドラシルのおかげで避難は既に完了してる。ナイトフェイズは参加者を狙うものだろ? ルールを捻じ曲げてまで何がしたい!」

 

『べつに。俺様ただ、戦いたかっただけだ。こうすれば必ず誰かがやってくると思ったのさ。お前らは甘ちゃんだからな』

 

「ッッ、ふざけんな!」

 

 

鎧武は枕を投げ、すぐに射貫く。

綿が舞い、その中に紛れてアローをふるった。

アンタレスはそこに刀を合わせて、両者は睨み合う。

 

 

「うッ!」

 

 

力が込められる。

鎧武たちは武器を合わせたままグルリと回転し、アンタレスはそこで鎧武を強く押した。

踏みとどまろうとするも、鎧武は押し負けて後退。壁に叩きつけられる。

そこでアンタレスは左手で鎧武の首を掴むと、壁に押し当てながら持ち上げる。

 

 

「ぐッッ!」

 

 

鎧武はソニックアローを落とし、両手でアンタレスの腕を掴んだ。

しかしジンバーレモンの力であったとしてもビクともしない。そうしていると首を絞める力が強くなってきた。

 

 

「……!」

 

 

そこで鎧武はカッティングブレードを二回倒す。

オーレの電子音と共にアーマーが閉じて、その際の衝撃でアンタレスは手を離した。

 

 

「くらえッッ!」

 

 

鎧武はアーマーを被ったまま頭突きを繰り出した。

しかしヒットの感触はない。アンタレスは後ろに下がっており、攻撃範囲から外れている。

だったらと鎧武は踏み込んだ。アーマーを発射し、直接ぶつけようと試みる。

 

「!」

 

だがそこで一閃が迸る。

アンタレスは居合斬りで飛んできたアーマーを両断したのだ。

 

 

「まずい!」【チェリーエナジー】

 

 

ロックシードを起動して新しいアーマーを用意したかったが、それよりも速くアンタレスが切り抜けた。

鎧武の全身から火花が散り、床に倒れる。

 

すぐに立ち上がろうとするものの、そこで衝撃。

アンタレスが鎧武を蹴り飛ばし、その勢いで窓を破壊して外に放り出された。

悲鳴が下に落ちていく。

しかし落下中に鎧武はロックシードを起動して放り投げた。

ダンデライナーが完成し、自動運転で鎧武の下に来てシートで受け止める。

 

 

『はーん』

 

 

しかし、アンタレスにはまだ追撃の手段がある。

胸部アーマーが開き、円形のパネルがむき出しになった。

 

そこへ光が集中していく。

このチャージが完了した時、高エネルギーのレーザービーム・スパークキャノンが発射されて鎧武を消し炭に変えるのだ。

 

ではどうすればいいか?

止めるべきだ。

今すぐに。

 

『!』

 

アンタレスがよろけ、チャージが中断された。

突然肩が爆発したのだが、部屋の中は暗いだけで何もない。

とはいえ、アンタレスは耳の辺りを人差し指で押してなにやら視界のモードを切り替える。

するとすぐに笑い始めた。

 

 

『これはこれは。気づかなかったぜ』

 

「キミの目がはじめからセンサーになっていたら無駄だったけど」

 

『殺す相手はこの目で見たいんでね』

 

 

何もないと思っていた空間が歪む。

そこに現れたのはアーマードライダー・『デューク』だった。

戦極凌馬がレモンエナジーロックシードで変身する騎士である。

 

 

「あまり暴れられても困るんでねぇ。なにせ、葛葉紘汰が死ねば我々も終わりなわけだし?」

 

 

透明になっていたようだ。

葛葉紘汰が戦えば、運営からのプレゼントである未知なるロックシードが育つわけだが、なにせ死んでしまえば騎士は全滅である。

だからこそ、なるべく紘汰には悟られない程度に保険はかけてあるということだった。

 

 

『俺様は誰でもいいっちゃ誰でもいい。殺すごとに証明される。この無敵の強さが』

 

「残念だけど死体は生まれないと思うよ? 今ここで死んでしまうのは――」

 

 

デュークがゲネシスドライバーのレバーを押すと、高速移動モードへと移行する。

一瞬でアンタレスの目の前まで迫ると、アローの刃を突き出した。

 

 

「キミだからね!」

 

 

そこで火花が散る。

アンタレスはその速度に反応しており、雷切の腹でソニックアローを止めていた。

両者、武器を振るい、互いの武器と弾きあう。

デュークの高速で繰り出す連撃にアンタレスはしっかりとついてきており、目にも止まらぬ速さで攻防が繰り広げられ、火花が散っていく。

 

拮抗しているのだろうが、一つだけ大きな差がある。

デュークは人間で、アンタレスは機械だ。体力、スタミナなどという概念が存在していない。

だからこそ攻防が長引けばそれだけ有利不利が生まれる。

 

ほら、今まさにデュークの動きが鈍り始めた。

アンタレスがそこを突かない理由はない。

一瞬である。デュークの一撃が弾かれ、生まれた隙に刃を合わせた。

するとデュークの首が切断されて床へと落ちる。

 

 

『まずは一人だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、鈴音の部屋に亜里紗はいた。

ナイトフェイズが始まっているのは知っている。

しかし鈴音にはやらなければならないことがあった。

彼女は佳奈美の名前を紙に書いている。

 

 

「佳奈美のお祖母さんはまだ生きているのね」

 

「まあ、でも、もう歳だし。そんなに長くないのかもね」

 

 

亜里紗の言い方には含みがある。

 

 

「……世界再構築の際に『死ぬ』といえばそうよ。そう、きっと」

 

「でも、それでも、大切な人には、少しでも長く生きていてほしい……」

 

「驚いた。アンタの口からそんな言葉が出るなんて」

 

「椿にも、そうでいてほしかったから」

 

「え? なんて?」

 

「……いえ。なんでも」

 

 

鈴音は紙を折り、それをお守りの中に入れる。

 

 

「行かないわ。ナイトフェイズには」

 

「えッ? でも紘汰はきっと行くわよ?」

 

「それでも、いかない」

 

「な、なんでよ」

 

 

鈴音はお守りがついた紐で髪を括る。

 

 

「私が死ねば、魔法少女は終わってしまうもの」

 

「………」

 

 

亜里紗はしばらくポカンとしていたが、やがて少しだけ。

ほんの少しだけ笑った。

 

 

「あ、そう。わかった」

 

「………」

 

「そういえばさ、作ってたんでしょ? お菓子。それ食べさせてよ」

 

「でもあれは佳奈美に……」

 

「死んだほうが悪いでしょ」

 

「………」

 

「おい、無視すんな」

 

「失敗してるかもしれない」

 

「それでもいいわよ」

 

 

亜里紗は呆れたように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

場面はホテルの部屋に戻る。

断面から血が噴き出し、デュークの体がバタリと倒れた。

 

 

『あっけなかったな』

 

「それはどうだろう」

 

『んン……?』

 

 

切断された『頭』が喋る。

そこでアンタレスは戦極凌馬の声がデュークの額にあるスピーカーから声が出ていることに気づいた。

アンタレスはすぐにゲネシスドライバーを毟り取り、握りつぶす。

するとデュークの変身が解除されて、参加者でもない男の死体が曝け出された。

 

 

「彼には申し訳ないことをしたよ。ただまあ死亡リスクもあると明記していたから。そこは自己責任というわけで」

 

 

デュークは屋上に立っていた。

開発者特権で、強化変形を行った巨大なソニックアローの弦を引いて光をチャージしている。

 

 

「確かにゲーム開始時に魔法少女と騎士の数は『同じ』になった」

 

 

とはいえ、開発者がいるのだから増やしてはいけない理由はない。

凌馬はユグドラシルの社員へリジェクションを抑えた『ゲネシスドライバー・改』を与えていただけだ。

影武者として立ち回ればボーナス支給ということで。

 

 

「彼の尊い犠牲のおかげでエネルギーをチャージできたよ。涙が止まらない」

 

 

声色を変えず、デュークは弦から指を離した。

光の楔がソニックアローから発射され、斜め下に飛んでいく。

それは屋上を貫くと下にいたアンタレスのみぞおち部分に突き刺さり、そのまま床を破壊して真下の部屋に連れていく。

 

その後も同じだ。

床に叩きつけられたアンタレスは、そのまま床を破壊して次の床にいく。

斜め下に移動しているため、それを繰り返しているとやがてホテルの外に出た。

こうなると遮るものは何もない。

数秒で地面に叩きつけられ、そこで動きが止まる。

 

 

『――ちぃイッッ』

 

 

アンタレスはすぐに楔を抜こうとしたが、予想に反して引き抜けない。

そうしているとレモンの輪切りがいくつも並んでいくのが見えた。

それも二列。

 

 

【【レモンエナジー!】】

 

 

重なる電子音。

下に待機していたバロンとナックルが放った光の矢がアンタレスに直撃して爆発を起こす。

衝撃で楔が破壊されてアンタレスは地面を転がっていく。

 

 

『いいぜ、いい! 悪くない!』

 

 

アンタレスは立ち上がった。

 

 

『俺様が望んでいた世界に限りない近い景色だ……!』

 

 

あれほどまでに攻撃を受けたにも関わらず、武器は手放していない。

次々と迫る矢を斬り。時には体を反らすことで回避してみせた。

 

 

「今だ!」

 

 

そんな時、ナックルが叫んだ。

すると木陰に隠れていた海香が飛び出し、全速力で走りだす。

目指すのはアンタレスが避けたことで、そのまま飛翔している光の矢だ。

海香は一度メガネを整えると、本を開いて前に踏み込んだ。

 

 

「ハァアア!」

 

 

海香が前に飛んだ。開いた本に光の矢が当たる。まさにダイビングキャッチ。

すると矢の情報が記載されていき、海香はそれを素早く目で追った。

本を閉じ、魔法を構築していく。

 

 

「わかった! よくってよ!」

 

 

海香がそういうと、左右からカオルと茉莉が走り抜けて前に出る。

魔法少女ではガーデンシリーズに攻撃が通らないが、そこで海香の本から黄色い光弾が発射される。

 

 

「イクスフィーレ!」

 

 

光弾がカオルたちの体にぶつかると、液体のように弾けて、それらの飛沫が体の中に吸収されていった。

それはまさに果汁のようにも見える。

 

 

「ハァアア!」

 

『なにッ!』

 

 

茉莉の掌底を防いだ時にアンタレスも感じたのだろう。

ダメージが入っている。

海香の魔法でクェイサーアシッドと同質のものが魔法少女たちに与えられたのだ。

 

茉莉はさらに掌から衝撃波を発生させて追撃を行う。

黄色いエネルギーが果汁のように弾け、アンタレスは後ろに下がっていった。

衝撃波もちろん。エネルギーが触れたとたん、体から煙が上がる。

クェイサーアシッドにより装甲が溶けて防御力が下がっていくのだ。

そこでカオルが走り出す。

体を纏う黄色いオーラがボール状に変わり、それを蹴り飛ばしてアンタレスを狙った。

 

 

「シュート!」

 

『くだらねぇ!』

 

 

アンタレスは一つ目の光弾を切り裂き、続く二つ目も振り上げた刃で切断した。

だが斬れば、その瞬間ボールから大量の果汁が溢れて装甲を濡らしていく。

そこでカオルが地面を転がり、後ろにいる茉莉が二つの拳を発射する。

 

『ヌゥウ!』

 

アンタレスは煙を纏いながら右へ転がり、ロケットパンチを回避する。そしてバロンが発射した矢を斬り弾いていった。

そこで変化が起きる。

ロケットパンチは空中で反転。そのまま拳を突き出していたナックルの腕に装着された。

ナックルはステップで全身。

アンタレスは刀を振るって首を狙うが、ナックルは上体を後ろに反らすスウェーバックでそれを回避し、生まれた隙へ向かって踏み込んだ。

 

 

『甘いな!』

 

 

アンタレスには尾がある。

それを振るいあげて、逆にナックルへカウンターの一撃を与えようとするが――

 

『!』

 

尾が矢によって弾かれた。

バロンがマリカの戦い方を学習したらしい。

隙を埋めるように攻撃を重ねる。

そうすることによって相手の攻めを封じるのだ。

 

 

「オラァア!」

 

『グアァ!』

 

 

だからこそナックルの拳がアンタレスの胸に突き刺さる。

アンタレスは衝撃で後ろへ下がっていき、その途中で両肩を蹴られた。

カオルが右肩を、茉莉が左肩を蹴って飛んだのだ。

アンタレスは雷切を構えるが、再び矢が飛んできて攻めを封じる。

そうしているとカオルたちが着地してバロンたちのもとへ駆け寄った。

 

 

「ナイス、ザック!」

 

「やったねザック!」

 

「サンキューカオル! 茉莉もありがとな、助かったぜ」

 

 

ナックルの腕からパワーアームが外れて再び茉莉に装備された。

 

 

「貴様ら、俺もいるだろ」

 

「はいはい。戒斗も頑張ったな」

 

「戒斗、えらいえらい」

 

「……フン!」

 

 

バロンがバナナロックシードを手にしたのを見て、ザックたちは意図を察した。

茉莉は再びロケットパンチを。カオルは光弾をシュート。ナックルは光の矢を発射して、同時にアンタレスを狙う。

 

 

『ハァア!』

 

 

アンタレスは抜刀。

真横に振った居合斬りで三つの飛び道具を一撃で破壊した。

しかし一方で飛び道具を放っている間に、バロンはロックシードをソニックアローへ装填して弦を引くことができた。

アンタレスが刀を振るい切ったのを確認してバロンは手を放す。

 

 

『バナナチャージ!』

 

『グォオオオオオオオ!』

 

 

剥かれた巨大なバナナ型エネルギーがソニックアローから放たれてアンタレスへ直撃する。

今度は武器を手放すほどの衝撃だった。

後ろへ回転しながら吹き飛んでいき、やがては地面に激突して滑っていく。

 

 

『あぁあ! クソッ! なんだ……! 何かがおかしい! なあ、そうだろ"俺"……ッッ!』

 

 

アンタレスのAIモデルになった人物は『個』の強さを主張し、さらに人間の脆弱な肉体ではなく強靭な機械の肉体であれば『最強』になれるという説をもとにガーデンシリーズへとなった。

アンタレスはそれが正しいことだと学習していたが、今になってその認識が誤りだったのではないかと再計算を行っている。

 

もしやあの人物は、『正解』だとは思っていなかったのではないか?

仮説はあくまでも仮説だ。

アンタレスは最強を額面通りに受け取っていたが、あの男は違ったのではないか?

 

アンタレスに魂を入れたのは、ただの余興の一つでしかない。

なぜならばアンタレスは今、人間の肉体を欲している。

この欲望こそが、絶対を壊す鍵なのか。

 

 

『しかしまあ皮肉なもんだな。俺を殺すためなら、協力できるってか』

 

 

アンタレスは落ちた雷切を拾おうと走った。

だがどうしたことか。

今まさに、指が柄へ触れようとしたところで雷切がひとりでに浮き上がったではないか。

そんな機能はなかった筈だ。

ではなぜだ? アンタレスが疑問を抱くと、答えが声を出した。

 

 

「機械は所詮、人の道具だ」

 

 

朱音麻衣は、雷切を振った。

アンタレスの尾が切断されて鞘が飛ぶ。

麻衣はそこへ手を伸ばした。距離は遠く、指を伸ばしても届かないが、魔法がある。

範囲拡大により、手には感触があった。

拳を握りしめると、飛んでいた鞘が止まる。

腕を引けば、鞘が手元までくる。

 

 

「家の蔵の隅に古い巻物があった。幼い私はそれがなんなのかわからなかったが、最近になってもう一度それを見てみた」

 

 

麻衣は腰を落とした。雷切を鞘に納める。

バチバチと何か、音がする。

それは決して偶然などではない。

 

 

「私の祖先が記した秘伝の書だった。祖先もまた戦場(いくさば)で刀を振るっていたらしく、数々の技がそこには記されていた」

 

『なんだって?』

 

「しかし疑問はあった。なぜならばそれらの技は、とてもじゃないが人間に為せるものではない。なんとか真似をすることはできても、それを戦場で、ましてや相手を殺すために使うとは考えにくい……」

 

 

芭蕉閃(ばしょうせん)と、書かれた技があった。

カエルが跳ねるように、Vの字に相手を斬るとある。斜めに刀を入れて、手首を返して振り上げるのだろうが、肉体に入った刀を動かすのは至難の業であり、なによりもメリットが思いつかない。

だからこれはもしかすると当時の御伽噺に使っていた架空の技だったのかもしれないと思っていた。

 

 

「だが、今ならわかる」

 

 

朱音の血筋には、すでに魔法少女の血が流れていたのだと。

今なら体現できるだろう。

同じ魔法少女なれば。

 

 

「そして超越する。過去は過去、未来には勝てない」

 

 

アンタレスの両腕が地面に落ちていた。

彼の肉体に刻まれているVのマーク。それはバチバチと音を立てて帯電しており、紫色に輝いている。

 

 

「芭蕉閃・雷豪(らいごう)

 

 

麻衣はニヤリと笑う。

つられてアンタレスもニヤリと笑った。気がした。

 

 

『やはり人間のほうがいい。俺の感情など、偽りでしかないからな。真の向上心は、真の欲望がないといけねぇ』

 

「雨が降る」

 

 

麻衣は雷切を抜いて剣先を天に向けた。

範囲内にあった雲が一気に収束し、麻衣の斬撃をスイッチにして雨が降り始めた。

魔法の集中豪雨。雲の隙間がピカリと光り、空が吠え叫ぶ。

気づけば、アンタレスの全身に刺し傷があった。

雨に打たれたように、全身に穴が開いている。

 

 

「朱音流」

 

 

目の前にいた麻衣がアンタレスを蹴り飛ばし、そして消えた。

刹那、雷が落ちる。

 

 

雷漸(らいぜん)時雨(しぐれ)

 

 

アンタレスの体に刻まれたジグザグな残痕。

雷のマークにも見えたそれは、激しい光を放ち、直後爆発を巻き起こす。

アンタレスは首だけとなり地面に落ちた。

 

 

『やるじゃねぇか。まいったまいった。ご褒美にそれはやるよ。いいよな? キュゥべえ』

 

『そうだね。いいよ』

 

 

キュゥべえがいた。

ルールの些細な変更だ。

ガーデンシリーズも死ねば消えるが、『一部』だけは残し続けると。

 

 

「感謝する」

 

 

麻衣は雷切でアンタレスの脳天を刺し貫いた。

アンタレスはそこで蒸発するように消えるが、雷切は残り続ける。

まあそもそも雷切はもともとあった日本刀なのでガーデンシリーズの一部とは言い難いというのもあるだろう。

いずれにせよ、それは麻衣のものになった。

 

 

雷光(らいこう)石火(せっか)

 

「ぐあァアア!」「ヌグアァアア!」

 

 

風が吹く。

カオルは頬が痺れるのを感じた。

後ろでは戒斗とザックが倒れている。

バックルを固定するベルト部分が切断されており、変身が解除されてしまったようだ。

 

 

「そろそろ、死ぬか?」

 

「ッッ、よせ! 麻衣!!」

 

 

カオルが叫んだ。それが上にいた紘汰を叱責する。

 

 

「うぅうッ! クソ!」

 

 

紘汰はシートが飛び降り、ロックシードを起動する。

 

 

『スイカアームズ!』『大玉・ビックバン!』

 

 

前回は短時間の使用だったため、既にチャージは終わっていたようだ。

双刃刀を振るい、再び麻衣の武器を破壊しようと試みる。

 

「!?」

 

双刃刀が地面に刺さる。

麻衣が消えたのだ。いや、正確には双刃刀が麻衣を貫いていた。

鎧武は一瞬ヒヤリとするが、それにしたって感触がない。

 

 

「安心しろ。それは雷残光(らいざんこう)、私の残像分身であり実体ではない」

 

 

少し離れたところに麻衣がいた。

鎧武が驚いて分身を見ると、分身が発光して弾けた。

 

 

「ぐあぁああああああ!」

 

 

武器を伝い、すさまじいほどの電撃が全身を駆け巡る。

だから動けない。

一方で麻衣は雷切を鞘に納め、居合の構えをとって腰を落とした。

 

 

雷火(らいか)招来!」

 

 

雷が落ちて、麻衣に直撃する。

ダメージはあるが、麻衣は笑っていた。

それ以上に全身を駆け巡るエネルギーを獲得している。

 

 

「散る星もまた、切り裂き進む! 我は雷光!」

 

 

麻衣が、刀を抜いた。

 

 

「轟けェッ! 雷牙(らいが)轟連斬(ごうれんざん)!!」

 

 

麻衣は鎧武の後ろに立っていた。

幾重にも走る斬撃。そして電撃。

 

 

「私の刃は! 既に無限を超えている……!」

 

 

スイカが割れた。六等分、きれいにパッカリと。

それだけじゃない。

鎧武が持っていた双刃刀もバラバラに切れて落ちていくではないか。

 

 

「もはや、この私に斬れないものなど存在しない!」

 

 

そうだ。麻衣が、すべてを切り裂いたのだ。

ナイトフェイズ、アンタレスを見た時からあの日本刀の価値に彼女は気づいていた。

 

 

「見事だ雷切。この名刀、朱音麻衣にこそ相応しい……!」

 

 

麻衣は刀を鞘に入れてゆっくりと戻す。

そしてカチリと音がして鞘に収まったとき、空が割れ、巨大な雷の柱が鎧武に直撃した。

 

 

「ガアアァアアアァ!」

 

 

鎧武の変身が解除されて、火傷を負った紘汰が倒れる。

体からは煙があがり、全身にある痺れのせいでどこも動かせない。

 

 

「連れて逃げろ」

 

 

麻衣が振り返り、何もない場所に触れる。

するとデュークが現れた。

麻衣は彼の顎を撫で、やがて指で頬をつく。

 

 

「もう一度いう。今日は追わない。逃げろ」

 

「……それはありがたいね」

 

 

デュークは紘汰を抱えると去っていった。

ザックと戒斗も立ち上がり、うめき声をあげながら闇に消えていく。

 

 

「これで貸し借りは無しだ。次はない。確実に殺す」

 

 

そこで麻衣は視線を移動させる。

あるマンションを見た。その屋上、マリカと斬月・真がいる。

中でも麻衣は斬月を見つめていた。

 

 

「私とやろう」

 

「……いいだろう」

 

「ふふ、助かるよ。楽しみにしておくからな」

 

 

麻衣はニヤリと笑い、一瞬で消え去った。

 

 

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