仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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いまさらなんですけども、番外編マレの星には以下の要素が含まれております

・残酷でグロテスクな描写

・ガールズラブ

・軽い性描写

苦手な人は我慢しておくれやし(´・ω・)




第2話 空腹事変

 

洋食屋『ウォールナッツω(オメガ)』は第一火曜、第二水曜、第三土曜、第四日曜のお昼にキッチンカーを広場に停めていた。

オムライス弁当が人気ナンバーワンだったが、最近では新メニューも飛ぶように売れている。

今日も広場では、その準備が進められていた。

 

「まなかの赤」

 

ウォールナッツωの料理長である胡桃(くるみ)まなかは、うまみたっぷりのひき肉をふんだんにつかったミートソースを見た。

特徴的な猫口が、まさに『ω』の形になっている。

 

「ももこさんの黄色」

 

まなかの視線の先には仕込みや配達担当の十咎(とがめ)ももこが。

臭みが少なくコク深くて伸びがいいチーズがそこにはある。

 

「タルトさんの白」

 

まなかの視線の先には宣伝隊長、ジャンヌ・ダルク。通称『タルト』が。

まなかが自分の足で見つけたブランド『ひじりほとけ』に、特性の酢を混ぜることで、ほのかにピンク色の酢飯ができあがる。

 

「そこに副料理長が育てた新鮮お野菜を合わせれば!」

 

ウォールナッツのナンバーツーである津上(つがみ)翔一(しょういち)の趣味は家庭菜園。

彼のレタスが加われば、期待の新作"タコライス風ちらしずし"の完成である。

 

「最後にレナさんをイメージしたブルーハワイソーダをつけてと」

 

「………」

 

「不機嫌ですか?」

 

「………」

 

「不機嫌ですね?」

 

「………」

 

「不機嫌ですこれは」

 

ホール担当。水波(みなみ)レナは腕を組み、じっとりとまなかを睨んでいる。

 

「目は口ほどにとは言いますが、まさにですね。でも仕方ないじゃないですか。食欲減退の色とされてますから、ご飯やチーズを青くするわけにもいかないですし」

 

「へぇ、だからレナだけ"のけもの"ってわけね」

 

「のけものだなんて! ねぇ、もももさん」

 

「……え? そっ、そうそう! 仲間外れとかじゃないって。なあタルト」

 

「はい! ブルーソーダとっても美味しかったです!」

 

「チッ!」

 

「まあ、舌打ちをされてしまいました……。翔一はどう思います?」

 

「ダメダメだなぁレナちゃんってば。友達が少ないのはそういういうところだよ」

 

「チチチチチチチチッッッ!!」

 

「副料理長!」

 

「料理長ごめんなさーい! いや、ほら、北風と太陽ってあるじゃないですか。あれみたいに優しいのが効かないなら、逆に突き放してみたらうまくいくかなぁって……」

 

「チッチッチ! チッチッチ! チッチッチッチッチッチッチッ!」

 

「逆効果です! 御覧なさい、舌打ちで三・三・七拍子を刻み始めちゃったじゃないですか。終わりですよもう!」

 

「はぁ、仕方ないなぁ」

 

ももこはため息をつくと、レナの傍にやって来る。

 

「ごめんなレナ。悪かったよ」

 

「はぁ? 知らないわよ、馴れ馴れしく近づかないでよ馬鹿ももこ!」

 

ももこは近くにあったタコライスをむしゃむしゃ食い始める。

 

「い、いきなりなにやってんのよ! 馬鹿じゃないの!? このタイミングで食べる普通!?」

 

ゴクゴクゴクと、ももこは青いソーダを飲んでいた。

 

「はぁ。やっぱ美味しいなぁコレ。うん最高に美味いよ」

 

「っ? っ??」

 

「レナの色してるからかな」

 

「キッッッモ! バーカ!!」

 

「ははは! 冗談冗談。でもすっきりしたのは本当で。このミートソース結構ガッツリしてるし、そこにチーズもあるから結構ヘビーっていうかさ。だからこそサッパリしたソーダが合わさると本当に相性いいっていうか。必要っていうか」

 

「ああもう! だからなんなのよ」

 

「必要なんだ。レナのことが」

 

「……へ?」

 

「少なくともアタシにはすっきりしたレナがいないとダメなんだ。それに甘いのとしょっぱいのの組み合わせは最強なんだから。レナが必要なんだ」

 

「はえ!? へ? え?」

 

「レナが大切なんだ」

 

「それってジュースの話? そ、それともレナ本人の話してんの? え? は?」

 

「どっちだと思う?」

 

「……ばか」

 

「どっちもだよ」

 

「………」

 

レナはももこにピットリとくっついた。

 

「……すき」

 

 

 

「なんですかこれ」

 

まなかはうんざりしていたようだが、翔一とタルトはにんまりとほほ笑んで何度もうなずいている。

 

「まあまあ料理長、仲良しなのはいいことじゃないですか」

 

「そうですよ! とっても素敵な絆だと思います!」

 

こうして今日の販売が始まった。

いつもどおり順調に弁当は売れていったが──

 

「た、大変だ!!」

 

弁当を買った男が血相を変えてやってきた。

 

「おや、どうされましたか?」

 

「逃げた方がいい! 向こうで──」

 

 

 

 

『この近くに反応がありました。周辺の捜索を開始します』

 

公園にいたモンスターの名は"オルトロス・ゴールド"。

四本の角があり、犬の化け物というよりは『鬼』に近いシルエットをしていた。

人々が逃げ惑う中、カッシーンたちを連れてどこかへ向かおうとするが──

 

『ッ?』

 

けたたましいエンジン音に、タイヤがこすれる音。

猛スピードで走ってくるキッチンカー。

翔一がハンドルを切り、ドリフトで地面を擦りながら車体を横にすると、上にいたももこが、荷台にいたレナが、そして助手席から飛び出したまなかが、一斉に変身しながら飛び降りる。

 

「!」

 

まなかは見た。

お昼を食べようとしていた人たちが逃げた際に落としたのだろう。

カッシーンがその足で踏んでいたのは、タコライスちらしずしだった。

 

「許せん!!」

 

まなかの眼に火がついた。

地面を蹴ると、右手にフライパンを。左手にお玉を出現させた。

 

「モーニングロアー!」

 

お玉でフライパンの底をガンガン叩くと、衝撃波と熱波が拡散する。

モンスターたちの動きが止まると、お玉を消し、両手でフライパンを掴んで思い切り振るった。

すると鉄板の部分が持ち手から分離し、炎を纏いながらフリスビーのように高速回転しながら飛んでいき、カッシーンたちに直撃して転倒させていった。

 

だがその向こうでゴールドが口を光らせる。

次々と放たれる火炎弾。

それを見ると、まなかは鉄板を戻して再びフライパンにして突っ込んでいく。

 

「フッ! おりゃあ!!」

 

パコーン! と、わざとらしいほどの音が響いた。

まなかがフライパンをテニスラケットのようにして操り、次々に火炎弾をはじき返していった。

最後の一発はまっすぐに反射し、ゴールドに直撃。

腕を盾にしていたことでガードはされたが、まなかはそこで地面を踏みしめる。

 

「ハァッ!」

 

再びフランパンを振るい、鉄板を分離させて飛ばした。

ゴールドは右手を払い弾き飛ばすが、鉄板はまなかの意思で自在に動くようで、弾かれた後も軌道を修正して持ち手まで戻ってくると連結する。

そして間髪を入れず、まなかは体を振るって再びフライパンの鉄板を飛ばす。

 

『チッ!』

 

二発目は、ゴールドの左手で弾かれた。

しかし戻ってきた鉄板はすぐに持ち手と合体。

まなかは既にフライパンを振っており、鉄板がまっすぐにゴールドに向かって飛んでいく。

 

『ぐあぁ!』

 

鉄板がゴールドの胸に直撃し、仰向けに倒れた。

まなかは飛び上がり、フライパンを思い切り振り上げるが──

そこでゴールドが吠えた。咆哮は衝撃波となって、まなかの体を吹き飛ばす。

 

「大丈夫か!」

 

「ナイスです! ももこさん!」

 

ももこが飛び上がるとまなかをキャッチ。

着地と同時にカッシーンたちが発射した光弾が目に入るが、ももこは鉈状の大剣を出現させると、剣の腹を盾にして突進していく。

脚や膝には命中していくが、強引に足を進めた。

ソードバッシュでカッシーンを吹き飛ばすと、そのまま豪快に剣を振るっていく。

 

だが敵の数は多い。

ももこは大振りのため、明確な隙が生まれてしまい、カッシーンたちはそこを突こうとするが──

そこでももこがもう一人飛んできて、カッシーンを斬った。

 

「サンキュー! レナ!」

 

「うっさい! 集中!」

 

レナは固有魔法である『変身』によって、ももこをコピーしたようだ。

ゲーム参加者であるユウリも同じ固有魔法ではあるが、明確な違いがある。

 

ユウリは変身した相手の能力はコピーできないが、パートナーである榊原との特訓によってありとあらゆるものに変身することができるようになった。

つまり人間以外のものにも一瞬で姿を変えることができるようになり、たとえばヘリコプターや鳥になれば空は飛べるし、はしごやロープなれば誰かを上に送ったり、はたまたランプになれば周りを照らしたりと、性能は発揮できる。

 

一方のレナは、人間以外には変わることができないが、魔法少女になれば固有魔法でさえもコピーできるようになるのだ。

そうしていると、運転席から翔一が降りて、空に舞い上がった。

 

「変身!」

 

前宙の最中に、その姿がアギトに変わる。

ゴールドの背後に着地すると、振り返りながらのハイキックでゴールドの頬を打った。

 

『ぐぅう!』

 

ゴールドはよろけて後退していくが、踏みとどまる。

反撃に腕を振るうが、アギトは自らの右腕を盾にしてそれを受け止めると、すぐに左腕を突き出してゴールドの腹に掌底を叩き込んだ。

 

『燃えろ!!』

 

ゴールドは後退しながらも口から火炎弾を連射するが、アギトはわずかに体を右に逸らしたり、頭部をずらすなど、最低限の動きで攻撃を回避していく。

かともおもえば、一気に地面を転がって距離を詰めた。

立ち上がりながら腕を払い、ゴールドの攻撃を受けながしながら背後に回ると、裏拳をゴールドの背中に叩き込んだ。

 

「フッ! ハァ……ッ!」

 

シャァンと金属がこすれるような音がして、アギトのクロスホーンが開いた。

足下に紋章が広がり、それが渦を巻いて足裏から吸収されてエネルギーに変換されていく。

腰を落とすアギト。だがその最中は隙だらけだ。

普通ならばゴールドの反撃が間に合うところではあるが、現在、ゴールドは火花をあげながら後退していた。

まとわりつくように飛来してくるフライパンの鉄板に妨害されているのである。

その間にアギトのチャージが完了。金色の光が手に集中し、アギトは踏み込み、前に出る。

 

「ハァーッッ!!」

 

『うあぁああ!』

 

黄金の一閃がゴールドに直撃した。

ライダーチョップ。地面を転がっていくなかで、ゴールドはオーロラカーテンを展開してダイマジーンを召喚する。

 

「なにあれ、でかすぎでしょ!」

 

レナの言葉に釣られて、アギトたちはダイマジーンを見上げる。

既に目が光っており、すぐさま攻撃が開始されるが──

 

『なッ!?』

 

困惑の声をあげたのはゴールドのほうだった。

ダイマジーンはレーザーを発射するが、フルールドリスの紋章が浮かび上がり、次々に攻撃を受け止めていったのだ。

 

「させません!」

 

飛び出した影がある。タルトだ。

武器である『クロヴィスの剣』を構え、猛スピードで走りながら、カッシーンたちを切り裂いていく。

爆発音が連続してきこえる。ももこの大剣を受けても耐えてきたカッシーンたちが、ほんの一撃で次々と破壊されていったのだ。

 

「果敢なる旗にとって──! 不可能なものは無し!!」

 

タルトは剣を斜めに振るった。

袈裟斬りと共に発射された白い斬撃が貫通していき、あっという間にすべてのカッシーンたちが消滅する。

駆け抜けたタルトは最後に両足を揃え、跳んだ。

ただのジャンプでダイマジーンの頭上にまで昇ると、全身を光らせる。

 

「ラ――ッ!」

 

旗のついた槍がタルトの手に現れる。

カッシーンは両手でタルトを捕まえ、握りつぶそうとするが──

 

「リュミエール!!」

 

光が溢れ、ダイマジーンの手がはじけ飛んだ。

無傷のタルトはそのまま槍を投げる。ダイマジーンは体に大きな穴が開くと、そのまま蒸発するように消滅していった。

 

『なんて力だ!!』

 

ゴールドが後退していくなか、タルトは着地するとアギトたちと視線を交わして頷きあった。

凄まじい力を持っているが、代償として活動時間が一分を超えると急激にソウルジェムが濁ってしまうという欠点もある。

一刻も早く決着をつけなければならない。

 

まなかたちは跳んでタルトのもとへ集合する。

ももこが右前、レナが右後、まなかが左前、タルトが左後ろ。

そして中央にはアギト。サイコロでいう五の目の形に並び立った。

 

「完成! ブレイブ・エシュロン!」

 

まなかが陣形の名前を叫ぶと、それを合図にして四人の魔法少女は中央にいるアギトにむかって右手を伸ばす。

 

「「「「コネクト!」」」」

 

四人の声が重なり、光がアギトに送られる。

アギトが伸ばした腕を左右に広げると、クロスホーンが展開。

先程と同じように足下にアギトのマークが出現して構えを取る間に吸収されていく。

 

この紋章(ライダーズクレスト)、先程は金一色だったが、今は赤、水色、黄、白がマーブルに混じっていた。

明らかに先ほどよりも強力な一撃が来る。

ゴールドは危険を察したようで、オーロラカーテンを出現させて撤退を試みるが──

 

「ご飯は、命と命を繋ぐ尊いもの」【アライブ】

 

まなかの全身が炎に包まれる。

 

「それを踏みにじるとは、たとえお天道様が許しても、この胡桃まなかが許しません!!」

 

炎が弾け、まなかが現れるが、その姿が強化形態に変わっていた。

髪が伸びて、衣装は白い服に緑のスカーフ、緋色のロングパンツと、中性的なシルエットに変わる。

一瞬だけ、背中に浮かんで見えた白い翼。

神の代行者、"火のエルロード・プロメス"の翼である。

 

「お願いします。水のエルさん!」

 

「仰せのままに」

 

青い光球が空から降ってきた。

それはクジラを彷彿とさせる人型の天使に姿を変えると、持っていた杖をオーロラカーテンにかざしてみせる。

すると青い紋章が浮かび上がり、次の瞬間、オーロラが消し飛んだではないか。

 

『!』

 

ゴールドが困惑している間に、アギトがエネルギーを吸収しきった。

回避しなければ。

そう思ったとき、まなかは右腕を天へ伸ばす。

 

「グリルバーン!」

 

まなかを中心にして、炎がドーム状に広がる。

まなかが仲間と思った者に当たれば傷を癒し、攻撃力を上昇させる支援の炎となるが、敵と認識した相手には激しい熱と衝撃を与える。

 

よって、ゴールドは防御姿勢で踏みとどまった。

視界を埋め尽くす炎の向こうにアギトの複眼を視る。

展開したクロスホーンの左側が全て白く。右側は赤、黄、青に発光。

まなかはさらに炎を連射して、ゴールドの視界を奪い、動きを鈍らせる。

 

「フッ!」

 

アギトは地面を蹴って空に舞い上がる。

回転した後に足を突き出し、飛び蹴りを放った。

 

「タァアアアアアアアア!」

 

ブレイブライダーキック。

ゴールドは防御をやめ、炎に包まれながらも全速力で走り、横へ跳んだ。

地面を転がりながら、真横にアギトの気配を感じる。

衝撃音。ゴールドが背後を見ると、着地したアギトが見えた。

 

『……!』

 

なにかがおかしい。あまりにも普通の飛び蹴りに思えた。

まさか――ゴールドが前を見ると、レナの姿が消えていることに気づく。

 

『やはり!』

 

空を見上げる。

五色に発光するアギトの足裏がそこにあった。

炎に紛れてまずは囮のレナが飛んできていたのだ。

 

「タァアアアアアア!」

 

『グッ! ガァアアアア!』

 

足裏が鳩尾に叩き込まれた瞬間に、ゴールドは爆発した。

 

「……ッ」

 

着地するアギト。

声が、聴こえる。

すると爆発が収束し、何事もなかったかのようにゴールドが立っていた。

 

「!?」

 

アギトはすぐに距離を取る。

しかしダメージは入っていたのか、ゴールドは膝をついて呼吸を荒げていた。

出現するオーロラカーテン。

まなかは再び水のエルに指示を出そうとするが、それよりも早く水のエルは紋章を『防御』に使用した。

まなかたちに飛んできたのは大量の『釘』のような物体。地面や結界に突き刺さったそれは、すぐに液状の銀に変わり、消滅する。

 

「困るのだよ。余計なことをされては」

 

いつの間にか、長身で筋肉質の男がアギトたちの前に立っていた。

緑系のアッシュグレーの巻き髪で、小さなサングラスをしている。

 

「お前は……」

 

「私は、ルーク」

 

ルークが手をかざすと、オーロラがオルトロスゴールドを回収する。

 

「何が目的ですか」

 

まなかがフライパンを向けるが、ルークは表情を一つも変えない。

 

「答える必要はない。だが、あえて──」

 

どこか、人間らしさが感じられぬ男だった。

 

「世界終焉のカウントダウンは動き出した。我々が神となるのだ」

 

ルークが掌を前にかざすと、煙幕が巻き起こる。

気配が消えた。

アギトは変身を解除すると、誰もいなくなった場所をしばらく睨んでいた。

 

 

メイド喫茶『ニャーゴの館』。

そこで働く『なぎたん』こと、和泉(いずみ)十七夜(かなぎ)は、ジッと一人の客を見ていた。

 

「はぁ……なの」

 

御園(みその)かりんは、憂いの表情でハートマークが書かれたオムライスを貪っている。

凄まじい勢いのため、口の周りはケチャップまみれだ。

 

「はぁ……なの」

 

御園かりんは、憂いの表情で白いソーダを吸っていた。

ジュコォオオオッと音がして、一気にドリンクが消えた。

凄まじい肺活量である。

 

「はぁ……なの」

 

御園かりんは、憂いの表情で口の周りをなぎたんに拭かれている。

 

「はぁ……なの」

 

御園かりんは、憂いの表情でなぎたんと手でハートマークを作り、チェキの撮影に臨んでいた。

 

「はぁはぁ……なの」

 

御園かりんは、憂いの表情でなぎたんのふとももに頭をのせていた。

女性限定オプション『耳掃除』である。

 

「どうした、画伯」

 

画伯というのはかりんのあだ名である。彼女は漫画家志望であった。

はじめはなかなか個性的な(オブラート)絵柄ではあったが、今は新人賞をポツポツ一次通過するくらいにはなってきた。

この店の料理のイラストも、かりんが担当しているのだ。

 

「今日はため息が多いぞ。もう56回目だ。なにかあったのか?」

 

とうとう十七夜は沈黙を破り、かりんの耳をほじくりながら問うた。

 

「そんなにしてるの……でも仕方ないの。憂いているの」

 

先日、かりんが最もリスペクトする『マジカルきりん』という作品の続編的スピンオフ『マジカル・アイ』が、オリジナルアニメ枠で始まったという。

かつてないくらい凄まじく興奮していたのだが、放送が始まってから、この状態が続いているらしい。

 

「ネットの評価がよろしくないの。わたしは面白いと思うんだけど……SNSじゃアンチさんのコメントばっかりで……はぁ、なの」

 

たとえば『やっぱり俺たちはこの世界観じゃなくて、マジカルきりんが好きだったんだな』なんてコメントならばまだしも。なかには『冷静に考えてみたらマジカルきりん自体たいした作品じゃないのに続編が作られることのほうが謎だった。ただの思い出補正』などと、過去作を貶すものまで出てくる始末だ。

 

「本当は録画してなぎたんにも見せてあげようって思ってたの。でも……」

 

「ほう、そうだったのか。自分はスマホを持っていないからな。だが、画伯が面白いと思うのであれば他者の意見など気にする必要はない」

 

「それは、そうなの……でも……やっぱり……」

 

「画伯の才能は本物だ。むしろ溢れる凡人の意見に傾く必要はない」

 

「そうだと、いいの……でも気になっちゃうのも本当で……」

 

なんてことを口にしている最中も、かりんは一点をジッと見つめていた。

目についたのは『オプション』の文字。

二千円で嫌なこと全部忘れますと書いてある。

 

「なの……」

 

気づけば、かりんは、ひとさし指と中指で千円札を二枚掴んで十七夜に渡していた。

十七夜はそれをポケットにしまうと、唇をかぎりなくかりんの耳の穴に近づける。

 

「画伯がすべて正しい。画伯が一番だ」

 

「んおっ! おぉぉ……なの……! なるほどなの……ッ!」

 

ウィスパーボイスと生暖かい息が耳をくすぐり、かりんは身をよじらせた。

 

「画伯の感性が正解だ。賛否両論などいつの時代もあること。書き込みはそういった一部の否定意見でしかない。それが全てじゃないんだぞ」

 

「……いい! いいの! あの、できればもっと直接的な好意系の言葉が欲しいの」

 

「えらいぞ。えらいえらい。いつも頑張ってて素敵だぞ。好き。好きだぞ。大好きだぞ」

 

「これは凄いの! 発明なの! なんだか悩んでいたのがどうでもよくなってきたの……!」

 

「ならばよかった。困りごとならメイドのなぎたんにお任せ、だぞっ」

 

「いつものセリフもッ! 頭を撫でられながら! 耳元でぼそぼそ声で囁かれると……!! また違った魅力が──」

 

「ふぅー」

 

「ほにょぉぉぉぉぉ……なのぉ……っっ! 延長ぉぉ……ッ!!」

 

こうして、今日もかりんのお財布からお札が消えていった。

 

 

 

十五時。

シフトの都合で、なぎたん退社である。

太客であるかりんと共に家まで帰ることに。

 

「るんるんるーん! なの!」

 

おこづかいはすっからかんだが、ホカホカのかりん。後悔はない。

 

「ご機嫌のようだな、画伯」

 

「実につまらない悩みだったの! 冷静に考えてみればどうでもよかったことなの! なぎたんの言う通り、わたしが面白いと思っているんだからそれでオールオッケーだったの! でも一応レスバはしとくのー!」

 

つまらん。のリプに『おもしろいの!!』と返しとく。

つまらんつまらんつまらんと返ってきたので、おもしろいの! おもしろいの! おもしろいの!!と、返しておく。

 

「クソガキがごらぁ! 世界が大変なときにクソリプかましてんじゃねぇぞ!」

 

世界は狭いのか。沙々は頭を掻きむしると、スマホをベッドの上に投げ捨てる。

 

「あぅー! ミチくぅーんなぐさめてぇ! インターネットでいじめられたよぉ、えうえぅー!」

 

「ごめんね沙々さん。ボクもう行かないと。紘汰さんと一緒に警察に呼ばれて」

 

「こんなの絶対ブスだよぉ、ただのブスじゃなくて働いてない臭いブスだよぉ! 本当にむりぃ! ゴミブスにいじめられた! 最悪! ミチきゅんはいいの? 可愛い彼女が風呂も入ってなさそうなテカテカブスにいじめられててもいいの!?」

 

「わかんないけど……たぶん沙々さんが悪いんだよね。もう出るけど一緒に行く?」

 

「ひどい! わたしが悪かったことなんて今まで一回もないよ! ま、たしかにちょっとかみ合わせが悪かった時はあったかもしれないけど……まあどっちかっていったら全部向こうに非があることばっかりだよ! 本当だよ!? 警察? まあ行ってもいいけど、なにかしらもしかしたら……抵触してる可能性も……万が一くらいはあるかもだからやめとくねっ!」

 

一方、あったまってきたかりんは、スワイプを加速。『マジカル・アイおもんねー!!』の投降を確認。

 

「もっとレスバするの!!」

 

おもろーいなのーッ! と連呼リプ。

 

「淳くんさいあくーッッ! ゴミアンチに噛みつかれたーッッ!」

 

双樹あやせはゲームをしている芝浦に飛びつくが、舌打ちと共にあしらわれる。

 

「知らないよ。どうせお前が悪いんだろ?」

 

「酷い! 一ミリも悪くないよ! 死ぬほどおもんないアニメが絶滅するようにつまらないって投稿してあげてるのに噛みつかれたよぉぉ、ふぇーん!」

 

「それお前が悪いって言わない? あッ! なんだコイツ! 馬鹿じゃねぇの!? なんでこのタイミングで突っ込んで死んでんだよ! エリア取られてんのがわかんねーのかカスがよぉ! ゴミゴミゴミゴミゴミ!!」

 

「ゴミゴミゴミゴミ!」

 

世界は意外と──……

まあ、それはいいとして。

十七夜は、かりんに微笑みかけていた。

 

「とにかく画伯が元気になってよかった。力になれたなら自分も嬉しい」

 

「うん! なぎたんのおかげなの。新しい漫画のアイディアも思いついたし!」

 

「ほう」

 

「ピンチのときに耳フーで復活して覚醒して大勝利なの!」

 

「むっ! そんな作品は見たことがないぞ。画伯はさすがだな。常にアイディアの一歩先をいっている」

 

「そうなのそうなの。これで次の新人賞は頂きなのー!」

 

かりんはスキップで駆け出すが、やがて急ブレーキをかけた。

 

「ッ?」

 

見上げる先に、光の柱があった。

今日は雲もあるので、はじめは薄明光線の類かと思ったが、もっと気になるものがあった。

 

「なんだ?」

 

思わず十七夜も声をあげる。

光の中に、小さな影があった。

 

「スペクターハンド!」

 

かりんは魔法少女に変身。

半透明の『手』を発射すると、それをキャッチして引き寄せた。

 

 







予約投稿してますさかい
ミスがあったらごめんやで(´・ω・)
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