仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第5話 堕天使吠える

 

「あへぇ」

 

ついに、このみは、白目をむいて後ろに倒れた。

 

「ふゆぅ、大丈夫?」

 

慌ててかえでが抱きとめたものの、彼女も表情は曇りきっている。

 

「ホラー?」

 

トイレの個室は、死体でもバラバラにしたんじゃないかと思うくらいのありさまだ。

ゴム手袋やゴーグルをつけて完全武装したちはるが、先程から何度も何度も肉片や千切れた皮膚を片付けている。

 

「うぅぅ」

 

かこも涙目になって、デッキブラシで床の血を掃除していた。

 

「これが……まさか――っ」

 

小説でも何度も出てきた『愛の証明』であると?

 

 

 

 

「いやぁー、いいエッチでしたなーッ!」

 

「ちょ、ちょっとみきちゃん……! 恥ずかしいよっ!」

 

こちらは、シャワー室。

サッパリしたみきとかなめの前には、鬼のような形相のさやかが仁王立ちしていた。

 

「アンタらなに考えてんのマジで!? 掃除するネオブロッサムの子たちの身にもなりなさいよ!!」

 

「いやぁ、あたしはさ、掃除するってちゃんと言ったけどね? でも自分たちがやるからいいって言うもんだから!」

 

「そういう問題か! ってか! そもそも! なんで、今ッ!?」

 

「いやっ、そこはなんていうか……わかんない? こっちのあたしは違うの?」

 

「な、なにが?」

 

「戦った後とか、世界の危機がどうとか。そういうの聞いてると無性にムラムラしてくるっていうかさぁ、なはは!」

 

「はぁー!?」

 

「禁断……ですわぁ!」

 

耐え切れなくなったのか、しづきが真っ赤になって部屋を出ていく。

本当の本当に、みんな、ひどく混乱していた。

まどかも、どうしていいかわからず、作り笑いのままで固まっている。

とにかく、わかることがあるとすれば、かなめとみきが"そういう関係"だったということだろう。

 

「ただの自傷癖ですよ、あれは」

 

みきは言う。性的興奮のなかで肉体を傷つけ、出血すること。

ソウルジェムを弄れば痛覚はコントロールできるので、痛みに苦しむことはほとんどない。

ましてや彼女の固有魔法もさやかと同じく『回復』らしく、どれだけ傷をつくっても一瞬で治癒されるため、傷つけ放題なのだという。

戦闘では血を使って武器を錬成していたようだが──戦闘以外でも傷をつくるときがある。

ご覧のとおり、性行為の際とか。

 

さやかは最初、かなめが吐血しているかと思った。

だがそうではなく、みきが自分の血を、かなめに口移しで飲ませていたのだ。

それが口から溢れたというわけだ。

 

「理解できん!」

 

「えぇ? 本当? だってほら、男の人が自分の飲ませたりするじゃん? あれと一緒!」

 

「知りたくないわ! そんなこと! って、は!?」

 

さやかは目を疑った。

みきが、かなめと、唇と唇を重ねている。

今現在の話だ。二人はなんと会話途中に、いきなりキスをしはじめやがったのだ。

みきはまるで、さやかたちがいないもののように恥ずかしげもなくかなめと舌を絡ませ合い、唾液を啜る音を響かせる。

 

「ちょちょちょちょ! なんだなんだ! なんだぁ!? 今どういう流れと思考でそれをしようと思ったぁ!?」

 

引きはがすべきかどうかを迷っていると、かなめが、みきの肩を押して自分から唇を離した。

みきはすぐに唇を寄せたが、かなめは首を振る。

彼女の方が理性的なようだ。

 

「ごめんね……さやかちゃん。びっくりするよねこんなの」

 

「びっくりっていうか……なんていうか――ッ!」

 

顔も声も、まどかと同じだから、脳が混乱してしまう。

 

「反動みたいな、ものでっ、みきちゃん血が疼くらしいの」

 

よくわからないが、みきの火照りを沈めるのが、幼馴染であるかなめの役割であるようだ。

 

「恋人でもあるから。こっちの二人は……違うの?」

 

「え? い、いやッ、まあ、親友ではあるけど……」

 

さやかは少し気まずそうにまどかの方を見る。

 

「って、あれ?」

 

そのまどかが、いつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

まどかは休憩所で、しづきの前に座っていた。部屋を飛び出した彼女を追いかけて来たようだ。

 

「え、ええ、大丈夫ですわ。ありがとうございます」

 

「本当に? なんだか辛そうに見えたから……勘違いだったらごめんね」

 

「辛そう、ですか? 我ながらそんなテンションではないように思えたのですけれど──まどかさんには、そう見えたのでしょうか?」

 

「理由がひとつ、あってね」

 

「?」

 

「似てたんだ。仁美ちゃんが無理しているときの雰囲気と」

 

しづきは真顔になった。

こんなにもハッキリと仮面が剥がれるものかと、まどかは少し気圧される。

 

「お見事ですわ。きっと……正解だと、思います」

 

自覚はなかったが図星であると。

しづきは、しばらく沈黙しいた。まどかもそれに付き合った。

そのなかで改めて思う。本当にしづきは、仁美にそっくりだ。

まじまじと見つめていると、視線に気づいたのか、しづきが苦笑した。

 

「あ、ごめんね」

 

「いえ。きっと同じことを考えていたんですのね、私たち」

 

しづきは笑っているが、まどかにはそれが作り笑いであるとわかった

心の底から笑っている仁美を見たことがあるからだ。

 

「あのお二人は、お付き合いをされているみたいですわね」

 

「みきちゃんと、かなめちゃんのこと? う、うん、びっくりだよね……あはは」

 

「嫉妬ですわ」

 

「え?」

 

「嫉妬していたから私は元気がなかったんです。私にも恋人がいたんですのよ? 将来を誓い合った大切な恋人が……」

 

「え? それって──」

 

「貴女ですわ。まどかさん」

 

「えっ! わたし……ッ!?」

 

「はい」

 

ループの記憶はある。

中沢ではないと思っていた。どちらかというと上条あたりか。

しかしまったく予想外の言葉が飛んできて固まってしまう。

 

「私はすべてを失いました。両親も、友人も、愛する人も、夢も、すべて。でも唯一生き残った貴女が寄り添ってくれた。それは優しさと同情だったのでしょうけれど」

 

しづきは、泣きそうな顔で笑っていた。

 

「本気で愛していました。まどかさんを。夕焼けの下で交わした口づけは……今も素敵な思い出ですわ」

 

しづきは、まどかに近づいた。

あのときのぬくもりを思い出そうとしたのか。それとも再現しようとしたのか。

あともう少しでまどかに触れられそうだったが──唇を離す。

 

「使っているシャンプーは……違うんですのね」

 

しづきはまどかに背を向けて、歩きだす。

 

「罪な人ですわ。まどかさんは」

 

「えっ、どうして?」

 

「かなめさん――別世界のあなたも変わっていないように見えますわ。あなたはきっとどんなときも受け入れてくれるのでしょうね。強すぎる光に近づいたら翼が溶けて地に堕ちてしまうというのに、あなたはそれでも微笑み続ける……」

 

なんとなく、わかった。

しづきのそばに、もう『まどか』がいないことを。

しづきが歩き去るのを、まどかは止められなかった。

 

 

 

 

「まどかちゃん! いたいた! おーい!」

 

真司がまどかを見つけたのは、そのあとすぐのことだった。

 

「急にいなくなったって聞いてびっくりしたよ! 大丈夫? なんかあった?」

 

「ううん、わたしは大丈夫。ちょっとしづきちゃんのことが気になったから、そっちについていったの」

 

「へぇ、しづきちゃんが。悩みでもあんのかな? いやぁ、そりゃあるか、知らない世界に飛ばされたんだもんな。ようし任せてよ、こういうときはさ、プレゼントだよプレゼント。やっぱりプレゼントって嬉しいもんな」

 

真司がポケットを漁ると、一貫100円で美味しい寿司が食べれるチェーン店『まぎ寿司』のマグロ一貫無料券が出てきた。

真司は無言でそれをポケットにしまった。

 

「ねえ真司さん。真司さんはさ──」

 

「バカだろって? わかってるよまどかちゃん。しづきちゃんも金持ちそうだもんな。回転寿司なんて行かないだろっていうんだろ?」

 

「ち、ちがうよ! そうじゃなくてね。真司さんは美穂さんをどうやって好きになったの?」

 

「うえッ! いきなりどうしたの!?」

 

「じつは、しづきちゃんがね――」

 

まどかは先程のことを説明する。

 

「まどかちゃんと仁美ちゃんが……!? あ、いやッ、ごめん違うのか。正しくはしづきちゃんと、しづきちゃんの世界にいるまどかちゃんが恋人だったんだ。これッちょっとややこしいな……!」

 

「わたしもね、初恋はたぶん……さやかちゃんだった。さやかちゃんと結婚出来たらいいなって思ってたけど……」

 

あのときの感情はもっとまっすぐで、単純だった。

成長していく中で学んだこと。読書や映画を通してノウハウというのかシステムというのか、あのときの感情が一過性であることは、おのずとわかっていった。

ましてや現在は純粋に上条との仲を応援してあげたい気持ちが勝っている。

故に、確固たる友情であると。

 

「ドキドキとか憧れるけど……ハッキリ感じたことなくて。うーん、みんなや家族といるときがすごく楽しいから、ピンとこないんだよね」

 

「んー、ならそれでいいんじゃないかなぁ。いやほら、取材とかしてるといろんな人に話を聞くんだけどさ。けっこうみんな学生時代の恋愛は「まあいい思い出です」くらいだけど、友達とバカやったときとかは目をキラキラさせながら話したりするんだよ」

 

「ふぅん、そうなんだ」

 

「大人になるとなおさら友達ってできなくなるからさ。みんな賢くなるっていうのかな? 関係にメリットとかデメリットとか見出したり、変に気を遣うようになったりするから。俺はよくわかんないけど」

 

それはお前がバカだからだよ。

ニヤニヤしながら言ってくる美穂や蓮の顔が過って真司は必死に首を振る。

 

「そうなの? 真司さん面白いし優しいし、みんなに好かれそうだけど」

 

「かぁー、やっぱ優しいなまどかちゃんは。そう言ってくれるのはまどかちゃんだけだよ」

 

なんとなく気づく。人間性を見せるまでに届かない。

みんな騎士みたいに仮面を被ってる。鎧を纏ってる。

 

「だから蓮とは友達になれたのかもな。わけわかんないと思うけど、全力で殺し合ったからさ」

 

俺と戦ってくれ。そう言われたとき、真司は嬉しいと思った。

今からどちらかが死ぬのに、それでもやっぱり、嬉しかった。

きっと蓮はあの戦いが間違いだとわかってくれたのだ。

もう戦いたくないんだと自覚してくれたのだ。

 

だが彼は勝たなければならなかった。

だから面と向かってそう言ってくれた。蓮にとっては非常に辛いことだったろう。

しかしそれでも『託して』くれた。全力で戦うということは、どちらが勝ってもいいということだ。

だから嬉しかった。だから全力で頷いた。

蓮もあのとき、真司を友だと確信してくれただろう。

蓮は、親友だ。

 

「でも、そんなことをしなくても友達になれるんだよ。まどかちゃんが証明してる」

 

「本気でぶつかりあうってことだよね。わかるよ、ほむらちゃんも最近はすっごくマミさんと仲良しなのはそういうことだよね」

 

ほむらが作った友達ノート。そこには14枚の『プロフィール帳』がある。

既に何枚かはビッチリと質問が埋まっている。これを14枚とも埋めるのが『ほむらの夢』だった。

つまりゲームに参加している魔法少女全員と友達になるというわけなのだが、そんな馬鹿げた夢もまどかは達成できるだろうと信じている。

 

「美穂も……そうなのかもなぁ」

 

好きになったのは、皮肉にもライダーバトルがあったからなのかもしれない。

そうしなければ心に触れあえなかった。

いつかの記憶が脳裏を過る。でなければ──あんな獣みたいな導入で、ましてや外でするわけがない。

 

「あぁ」

 

思わず頭を抑える。あれこそ『まあいい思い出』になるのだろうか?

いや、もっと馬鹿げてる。だからまあ、そういうことだ。

 

「蓮は友達だけど、あいつッ、イライラするんだ……! 頑固だしケチだし偉そうだし、むかつくし、モテるし、鼻につくし、戦いを止めようとしないし、意見が合わないし」

 

「す、すこし言い過ぎかも……あはは」

 

「でも美穂は……美穂といると、とにかく楽しかったんだ。あ、いや、まどかちゃんたちといてももちろん楽しいんだけど、一番最初に楽しかったし、楽しいってことは幸せってことだろ?一緒にいると幸せなら──いつの間にかドキドキもしてたりするんだよ。だからまあ……なんていうか、そういう感じで」

 

「そうだね、それはなんとなくわかるかも」

 

出会う人の多さや状況によって関係性は変わってくる。

まどかと真司だって、年齢も離れているし、趣味も違う。

普通なら交わることはなかっただろう。

だが、二人はパートナーだ。

殺し合いなんて、間違っている。その共通する想いが絆を生みだした。

 

二人はよく一緒にご飯を食べる。そのときに互いの話を聞くのが好きだった。

まどかは真司の取材の話を聞くのが好きだった。

いろいろなことを知れる。サッカーにはあまり興味はないが、みんなと一緒に見に行った。

 

真司はまどかが友達と遊ぶ話が好きだった。

まどかが好きなキャラクターの話や、ぬいぐるみの話を聞くのも好きだ。

まったく知らない人から聞いてもなんとも思わないし、むしろ退屈だが、『まどか』が楽しいと思っていると嬉しくなる。

それだけまどかが悲しんでいる姿や、苦しめられている姿を見てきたからだ。

 

それはまどかも同じだ。

あのまったくもっておかしい異常な殺意が渦巻くなかで、戦いを止めるという判断を共にしてくれた人が、楽しそうにしているのは本当に嬉しいことだった。

そして、そこに賛同してくれるものたちが現れた。

それが、仲間だ。

 

「絆、良い言葉だよねっ!」

 

まどかは微笑む。真司も釣られて同じように笑った。

冷笑されがちなそのワードを、まどかは素晴らしいと本音で言ってくれる。

それもまた真司にとっては希望であった。

 

「きっとみんな、いろいろな絆があるんだよね……」

 

しづきは、いったいどんな絆をまどかと育んだのだろうか?

 

「まあ、あくまでも俺が考えてるだけだから、他の人から話を聞いてもいいかも」

 

「うん。そうだよね」

 

まどかはふと、気配を感じて振り返る。

そこにはニコニコと、スイーツが入った袋をぶら下げている優木沙々が立っていた。

 

 

 

 

「差し入れを?」

 

「はぁい! みなさんで食べてほしくて」

 

まどかは沙々からシャルモンのプリンを受け取った。

残りは真司が他のメンバーに配りにいってくれたので、沙々は自分の分を一つ持ってまどかの隣に座る。

 

「未来のお菓子……っていってもプリンなんですけどぉ、このお店のはすっごく美味しいですから食べないと損ですよー?」

 

「ありがとう沙々さん。すっごく楽しみっ!」

 

気になっていたのか、まどかはプリンをすぐに口に入れ、目を輝かせる。

 

「本当だっ! すっごく美味しい!」

 

「えへへ、でしょう?」

 

「でもー……あはは、ちょっと……おいしすぎるかもぉ」

 

「?」

 

「ごめんなさい。これって結構、高かったりします?」

 

「はわわ、お金ですかぁ? 気にしないでくださーい。喜んでほしくてやってることなので」(そもそもミッチの金だしなー)

 

沙々はにこにこと穏やかにほほ笑みながらも、心の中では鷹のように鋭い目でまどかを睨んでいた。

 

(しかしまあ何度見ても雑魚そうな女だよなー、こんなんがマジで女神だったっけ? いやぁ、でも記憶にはあるしなぁ。万が一、また円環システムが適応されたときに、いい位置につけられるように媚び売っとく作戦は正解に違いない。麻衣とかあのあたりより偉くしてもらって、こき使ってやろーっと)

 

「あの、ね、沙々さん。いきなりこんなこと聞くのもどうかとは思うんだけど……」

 

(いや待てよ。ワンチャンこいつブチ殺して、この私が神になるのも悪く――)

 

「沙々さん?」

 

「うにゅ? なんですかぁ?」

 

まどかは先ほど真司に話したことを沙々にも聞いてみる。

 

「沙々さんは光実さんとお付き合いしてるって」

 

「えへー! ですねぇ。ラブラブのラブですよ。いいですか? ただのラブラブはそこらへんにいますが、私たちはラブラブラブです」

 

「い、いっこ多いね! すごいなぁ……!」

 

まどかは肩を竦めて、沙々から目を逸らす。

 

「き、聞いてもいいですか? どういうところに惹かれ──」

 

「顔です」

 

「え?」

 

「顔」

 

「お顔……」

 

「そう、あと金」

 

「………」

 

「金」

 

「で……ッ、でも! あ、あれですよね! 性格とかも!」

 

「いや顔。金。あとまあ、家柄」

 

「はぁ」

 

「それがなかったら別れます」

 

「………」

 

(あれ? こいつ──引いてね? そんなにヤバイこと言ったか?)

 

というより、呆気に取られているといったほうが正しい。

 

「結構ストレートなんだね……」

 

「まあ、そりゃあ? 無償の愛とはなかなかいきませんよ。因果関係というのか、理由あってこそです。逆に運命の相手とかのほうがうさん臭くないです?」

 

「ぁう」

 

まどかは、ある日、白馬に乗った王子様が颯爽と現れてほほ笑んでくれるのは大いに『あり』だと思っていた。

だが確かに。それが少数派であることはさすがに察している。

 

「いいですか女神様、人間は利用し利用しあうものですよぉ。それは鹿目さんだってフールズゲームを通して学んだでしょ? 私もそうですし、まわりもきっとそう。大なり小なり、人間ってそういう側面のある生き物なんですぅ。ふんふん!」

 

関わりにはメリットがあり、デメリットがある。

それが自分にとって価値のあるものであれば手を伸ばす。そういうものだと沙々は説いた。

 

「私ね、得意なモノマネでピカチュウやる女、嫌いなんですよ」

 

「ピ、ピカチュウ?」

 

「知りません? ポケモンですよ」

 

「え……? あ……え?」

 

まどかは頭を抑える。刹那、焼け付くような感覚。

まるで文字が、情報が脳裏に叩きこまれたような。その衝撃に一瞬怯んでしまうが、首をかしげる沙々を見て、微笑み返す。

 

「あ、そっか、ポケモンだよね。ピカチュウかわいいよね」

 

「でも女のやるピカチュウはあッさいですよ。まだニャースやるヤツのほうが信頼できます。とにかくですねぇミチきゅんを連れて歩くとですねぇ、そんなピカチュウやりそうな女が羨む目で、そらもう妬む目で見てくるわけですよー。うッ、想像しただけで……ッ!」

 

沙々は舌なめずりをして肩を震わせる。

あとでパンツを交換しなければ。

 

「だからですね。かなめさんとみきさん。あるいは、しづきさんと別世界の貴女も、この世界にはないメリットがあったんじゃないですかねぇ。トイレの個室でヤるくらいなんだから、たとえば体の相性とか? なんてねー、だはははぁ――、あーこれっ……引いてるなぁ?」

 

そのとき沙々の笑みが下品なものから少しだけ憂いを帯びたものに変わったのをまどかは見逃さなかった。

 

「まあでもね、顔が傷つけられそうになるのであれば……守ればいいんですよ」

 

「っ」

 

「それにミチきゅん、キレると尚かっこよくてね、怒られて悦ぶヤツらなんてクソバカだと思ってたんですけど、今なら少しはその気持ち、理解できますよ……じゅるり」

 

やっぱり沙々の微笑みは、品がなかった。

 

 

 

 

手塚海之は、現在、ロビーでさやかと上条の前に座っていた。

 

「あれ? ほむらは?」

 

「………」

 

手塚は微妙な顔をしていた。それはそれは微妙な顔をしていた。

詳しくは、ほんの十分前に遡る。

 

「ごめんなさい。少し、用事があって、いけない」

 

さやかからの招集。マンションに向かえに行くと、そう言われたらしい。

口にしたほむら本人も、それはそれは微妙な顔をしていた。

手塚は占いをやっているから他人の表情の変化には自信がある。これは、後ろめたいものを抱えているときの顔である。

手塚はジッと、ほむらが右手で掴んでいる『耳かき』を見ていた。

 

『ありていに言いますと、欲望、ですな』

 

悪魔・ガープが、ほむらの背後からぬるりと姿を見せる。

かつてほむらが作った見滝原に出現していた敵・『ナイトメア』の頭部に、スーツを着た長身の悪魔が白い手袋をした手で、ほむらの右手を示した。

 

『ご覧あれよ手塚氏。お嬢様のこのホールド具合、耳かきを掴む手の力たるや、剛力でございますよ。日本刀の掴み方やで、これ』

 

「ガープ……! 黙ってて!」

 

『これは失礼! が、しかし、よろしいかな手塚氏。ここで一つお勉強でございます。いやよいやよも、なんとやら! 私めは悪魔でありますが! お嬢様の眷属。不快な想いをさせることはありえますまい! ええ! ただの一度も! 銀のスプーンに誓って!』

 

ここから早口に語る。約一秒。手塚にはほとんど聞き取れないスピードで。

 

『つまりこのガープは暁美ほむらの深層心理が生み出したる代弁者。手塚様もお察しの通り、現在お嬢様はある葛藤にさいなまれております。というのもお嬢様が現在目指しつつある人間らしい生活。これすなわち、永きに渡る旅路に繰り返す横着の殺害。怠惰からの脱却。ソウルジェムをいじくりまわした女は家事一つまともにできませぬ。身支度もしかり。お嬢様は花も恥じらう乙女ではありますが! なに、人間であれば溜まるものもあります。とにもかくにも"見滝原アンチマテリアルズ"の結束を高めるためにもと言い出したるは巴マミ! この女が耳かきを手にしたのであります。そして、今まさにお嬢様の耳穴にこの棒を挿し込もうとする瞬間、ヤツは膝を叩いたのであります。若人よ、これがなにを意味するかお分かりか?』

 

「なんだ? なんて言った?」

 

ほむらは黙っている。そうしていると、マミが顔を見せた。

 

「あら、手塚さん。こんにちは! どうしたんですか?」

 

「ッ、通話を見――」

 

ガープが唇の辺りに人差し指を添える。

左手には巴マミのスマホがあった。

どうやらさやかからの招集メッセージを見せないようにしていたらしい。

 

「お前。今、優先することか?」

 

「………」

 

手塚に睨まれたので、ほむらは睨み返す。

が、しかし、そのままゆっくりと視線をずらしていく。

 

『なぁに心配なさるな。美樹さやか、志筑仁美、城戸真司はもちろん別時間軸の戦士たちもいると聞きました。なによりも口酸っぱくする鹿目まどかの、わたしも戦えるよ安心して! というひと押し。これを飲み込まずして何が信頼か、何が友情か!』

 

「………」

 

『知的探求。叡智を得て何が悪党か! 褒めたたえられるならば、まだしも!』

 

ほむらは沈黙する。ガープはハンカチを取り出し、目のあたりを抑えた。

 

『よいのですお嬢様。悪魔のせいにすれば』

 

「………」

 

『身をゆだねよ。人間。俗物こそが貴様らの証明だ』

 

ほむらはメガネをかけ、ホムラになる。

 

「なんなんだお前らさっきから。俺にわかるように言ってくれ」

 

『巨乳の膝枕を体験してみたい。これが全てだ人間よ』

 

ガープがバタンと扉を閉じた。

 

「という流れだ」

 

「つ、つまり?」

 

「巴マミの胸部を下から覗き込んでみたいのと、純粋に耳掃除をされてみたいらしいから、暁美はここには来ない」

 

「なんだそりゃあ!」

 

さやかは目を見開いてのけ反った。上条もこれには目を丸くする。

 

「信じられないな……あの暁美さんが……? 本当に?」

 

「キャラ変わりすぎだろ! 本当にほむらか?」

 

「最近は割とこういうことがある。鹿目のことを誰かに任せてもいいと思えるのはいい傾向かもしれない。前は執着のような感情を向けるあまり他参加者と衝突するケースも多かった。アイツにはもっと丸くなってもらわないと困る」

 

「じゃないとあのノート埋まんなさそうだもんね」

 

「それでいえば、並行世界の鹿目たちが来ているそうだな」

 

「そ、そう。たはは! いやぁびびりましたよー、まさかあたしとまどかがねぇ!」

 

目を逸らしながら笑うさやかを見て、上条は無意識にため息をつく。

 

「どうなの? さっきからなんだか様子が変だよ? 鹿目さんのこと、なんだか意識してない?」

 

「いやッ、そりゃ流石に意識は──……」

 

「?」

 

「お?」

 

「……え?」

 

「おろろ?」

 

「な、なに?」

 

「おんやぁ? 恭介さん? もしかしてまどかに嫉妬してます?」

 

「えぇ? いやっ、べつにそういうわけじゃないけど……」

 

「えー、そういうわけじゃないのー?」

 

「ああ、いや……ッ」

 

そこで手塚が笑った。ほほえましさからでもあるが、自嘲でもある。

 

「所詮は別世界。お前はお前だ。引きずられないようにしたほうがいい」

 

「ん、まぁね」

 

ただ、やはり気にはなる。なにがあってそういう関係になったのか。

よほど深い絆をはぐくむ何かがあったのか――

 

「あるいは、彼女しかいなかったのか」

 

手塚はコインを弾いた。さやかはふと、我に返る。

 

「……ッ、あ、そうだ! それより手塚さん、頼んでたやつなんだけど」

 

「ああ、占った」

 

手塚はマップアプリを表示する。

きちんと三つの世界が融合されたものが表示されており、その中の広い公園を示した。

 

「ここだ」

 

 

 

 

あかつき村・跡地。

 

「いいヨネ、ダーリンとのバスタイムは」

 

ヴィクトリア調の独立浴槽が祭殿の中に置いてある。

"アリナ・グレイ"は、伸ばした両足を、向かい合っている"(ひじり)カンナ"の両肩に乗せた。

 

「同感だよ、Darling」

 

カンナはアリナの足首を舐めた。

 

「SkinとSkinが触れ合うことで大いなるenergyが生まれる」

 

「ゴッドさえも虜にされた究極のフール。レガシーは繰り返すってワケ」

 

アリナも同じようにして、カンナのふくらはぎに舌を這わせる。

これは肉欲からの行動ではない。多少はあるかもしれないが、テイスティングだ。

お湯に溶けたバスソルトは文字通り『塩』である。

ここから少し進んだ先に本殿があるが、そこには塩でできた巨大な女神像があった。

二人はそこから生まれた塩をお湯に入れているのである。

 

「………」

 

十七夜の弟である和泉(いずみ)壮月(そうげつ)は、女神像を見上げている。

その手には、アギトの『アナザーウォッチ』があった。アリナとカンナは彼のチームメイトなのだ。

時に、塩は食物を長持ちさせるのに使われる。

この本堂は、芸術家であるアリナのアトリエだ。そこには、あかつき村の大量虐殺によって犠牲になった村人が塩漬けにされて『保存』され、サイケデリックな装飾が施されたり、ビビットな色に染められて並んでいた。

 

これらの作品にはすべてカンナの肉体の一部が使われているのがポイントである。

切り取られた指や、引きずり出された臓器。なかには、まるままカンナに見える死体がデコレーションされて飾られている。

カンナは魔法少女だ。べつに肉体が千切れようが問題はない。

しかし他の魔法少女とは違うバックボーンがカンナにはあった。

それはアリナにとっては魅力的なものであり、詳しくは語らないが、そこから行われたアリナの行動もカンナにとっては魅力的だった。

だからこそ二人は『恋人』になったのだ。

 

「ねえダーリン。このヴィジョン、ウォッチできてるヨネ?」

 

「さしずめ女神のresonanceってね。上位存在がいち早くinvaderに気づいたわけだ」

 

塩の女神が落とす塩には魔力が込められていた。

それをアリナとカンナは分析できる。

 

「どうするワケ? フレンズをサポートしてあげるのも、悪くないケド」

 

アリナは体の向きを変えて、カンナの体にもたれかかった。

 

「任せよう。Loveの邪魔はhorseのkickでdieなんだって」

 

黄緑色の髪同士がお湯の中で絡み合う。

 

「とはいえ、少しだけね」

 

カンナ手をかざすと、スマホが吸い付くように飛んでくる。

一人の魔法少女に、メッセージを送った。

 

 

「ったく、どこなんだここはー」

 

"冥黒の三姉妹"。文字通り、黒づくめの洋装をした三姉妹である。

次女の『クロトー』は、空を見上げて舌打ちを零した。

戦っている最中にオーロラカーテンが見えたのまでは覚えているが、そこからの記憶が曖昧で、気づいたら公園に倒れていた。

しばらく周りを歩き回ったが、見覚えのない景色が続いている。

 

「ちょといい? どうでもいい話、してもいいかしら」

 

ふいに、三女・『ラケシス』が立ち止まった。

 

「新聞紙を38回折ると、月に届く距離になるんですのよ?」

 

「……本当にどうでもいいな」

 

「なんちゃって。いけないんですわよクロトー、そうやってなんでも信じてしまっては」

 

「なんだ嘘か」

 

「本当は新聞紙を42回折ると月に届く距離になるんですの」

 

「なん──ッ、だ……? その嘘のつき方は……! どっちだ? しょぼくなってるのか? すごくなってるのか?」

 

「ここはボクたちがいた世界じゃないね」

 

声を荒げるクロトーとは裏腹に、中央にいた長女の『アトロポス』が淡々と呟いた。

 

「あのオーロラ、ハンドレッド……異世界からの侵略者が使っていたよね。どうやら世界を超える力を持っているみたいだから、ボクらも巻き込まれてしまったんだろう」

 

見た目は小学生くらいにしか見えないが、それは彼女が本物の人間ではなく、錬金術によって生み出された人工生命体・ホムンクルスだからである。

 

「ただこの世界は……少し特殊みたいだね」

 

「特殊、ですの?」

 

それはクロトーとラケシスも同じだった。

二人は『目』の刺繍が施された黒いベールを被ると、クロトーは左目で、ラケシスは右目で世界を見回す。

 

「なるほどですわ。これは錬金術とは異なるシステムでしょうけれど、世界全体が人工物のようになっていますのね」

 

それを聞いて、クロトーは遠くの方で歩いている人々を睨みつける。

 

「人間も偽物かどうかの見分けがつかないな」

 

「ちゃんとクロトーに睨まれて逃げ出してますわ。ふふ、リアルですわね」

 

「怖いからねクロトーは」

 

「……否定はしないが、そもそも私たちの服装が浮いてるからだろ。こんな黒づくめの三人組が昼間っから歩いていたら、怖がられもするさ」

 

「ん?」

 

ラケシスは、そんななかで一人だけ雰囲気の違う少年を見つける。

肩を落としてトボトボと歩いており、周りが見えていないように思える。

 

「あら、冴えないように見えますが──」

 

ラケシスは少年の懐に、異質なエネルギーを放つ物体を──カードデッキを視る。

 

「なんだか情報を得るのにちょうどよさそうなヤツがいますわね。ちょっと話を聞いてきますわ」

 

ラケシスが指を鳴らすと、近くの木から草がすべて剥がれて飛んでくる。

それらはラケシスの体を覆い隠すと、しばらくして地面に落ちていった。

積もった草を踏み越えて、ラケシスは少年のもとへと足を進める。

 

「そこの少年、ちょっとお待ちになって」

 

「え?」

 

中沢が振り返ると、ド〇キで買ったシスター服を着たラケシスが立っていた。

草で身を隠した際に着替えていたようだ。

 

「何か悩みがあるような顔をしていますわ」

 

「はぁ」

 

「ワタクシにすべてを打ち明け、どうぞ楽になってくださいな」

 

奇しくも、お嬢様的な口調がシンクロしてしまったのか、中沢は涙目になりながら口を開いた。

 

「じ、じつは──」

 

 

 

 

「なるほど。つまり、貴方はカードデッキで変身する騎士であり、殺人ゲームに参加していると。そして今は異なる時間軸の世界が融合し混乱している最中、パートナーの女の子の機嫌を損ねてしまったということですわね」

 

「そうなんです。、俺はこれからどうしたらいいのか!」

 

「どーでもいーですわぁ」

 

「えっ?」

 

「あ、いや……広い宇宙の前からしてみれば些細なことなんですのよ」

 

「つまり考えすぎるな、もっとシンプルに受け止めろということですか?」

 

「それですわ! よくお気づきになられましたわね!」

 

「ええ、まあ、はい! あありがとうございますシスターさん! おかげでなんだか気持ちが軽くなったような気がします!!」

 

「お気になさらないで。それが悩める子羊たちを救うものの役割。とにかく小細工無しで謝ったほうがいいですわね。顔が一緒で声も一緒なんて間違えるに決まってますわ。よほどのバカ女でなければそれくらい理解できるというもの」

 

「バカ……女……?」

 

「パーカー女の聞き間違いですわよ。嫌ですわ、シスターがそんな乱暴な言葉を使うわけがないじゃないですの」

 

「そ、そうですよね! ははは、嫌だな俺ってば。とにかくありがとうございました!」

 

「気を付けて帰ってくださいまし、アホガキ」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「あ……ほ……?」

 

「青柿。青い柿のことですわ」

 

「はぁ、なるほど……たしかに、青い柿だから、青柿……なるほど」

 

中沢は首をかしげながらも、手を振って帰っていった。

ラケシスがクルリと一回転すると、どういうわけだかシスター服が消えて元に戻った。

後ろからはクロトーとアトロポスがひょっこりと顔を見せる。

 

「思ったよりもぜんぶ喋ったな……大丈夫かアイツ」

 

「弱き心は隙を生み出す……人間の愚かなところですわね」

 

「でもおかげでこの世界のことがわかったよ。なんだか大変みたいだね」

 

「フールズゲームか! 面白そうだな! 私も参加して全員ブッ潰してやりたいもんだ!」

 

「いいんじゃない? キュゥべえを見つけてかけあってもらおうよ。ボクのドライバーを貸してあげるから、優勝して例のものを手に入れ──」

 

悲鳴が聞こえる。なにやら人々が慌てて走っているようだ。

 

「なんだ、またか。そんなに私たちって怖いのか?」

 

「……? なんだか怯え過ぎじゃありません? 少し変ですわ」

 

「そもそもみんな、ボクたちを見ていないね」

 

そこで爆発音が聞こえ、三姉妹はほぼ同時にそちらを見た。

猫の仮面をした少女と、蝶の胸飾りをした少女が固く手を繋いで走っていた。

 

 







ガヴ面白すぎてゴチゾウ出るッ!(適当)
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