仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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さやか氏。ごめんやで(´・ω・)


第14話 黒い魔法少女 女少法魔い黒 話41第

 

 

「ちくしょう……ッッ!!」

 

 

杏子に敗北し、さやかはボロボロになってしまった。

そんなさやかを"先ほどからずっと見ていた"少女がいる。

 

暁美ほむらは、ビルの屋上で真下にいるさやかをジッと見ていた。

そう、全て見ていたのだ。さやかがアーニャをとり逃した辺りから全て。

 

ほむらは無表情で立っていたが、頭の中では急激に思考を加速させていた。

佐倉杏子。ほむらは彼女の事を知っている。

だからこそ仲間にできるかと思っていたのに、結果はこの有様だ。

 

どうやら今の杏子は、ほむらが知っている佐倉杏子とは少し。

いや大きく違うのかもしれない。杏子はもともと好戦的な性格ではあったが、今の杏子は何かがおかしい。

だからこそ様子を見たかった。さやかを見殺しにするとしても、その答えが欲しかったのだ。

 

 

「おい! 大丈夫か!」

 

「………」

 

 

屋上に続く扉が開いて、手塚が姿を見せた。

ほむらは手塚の方へと視線を移す事は無い。

手塚は、ほむら隣にやってくると、下の方で倒れているさやかを見つける。

 

 

「ごめんなさい。彼女を守るために援護はしていたのだけれど、相手がなかなか強くて。できれば魔法も使いたくなかったから……」

 

「分かった。敵がきたら俺が引き受ける。お前は彼女を」

 

 

その言葉にほむらは頷いた。

だが、ほむらはさやかを遠くから援護していたと言うのだが、それは嘘である。

手塚が来るまで、ほむらはさやかを見ていただけだ。

魔法を使いたくないのは本当だが絶対という訳でもない。

 

だが手塚は、その言葉を疑う事はなかった。

だから良しとしようじゃないか。ほむらは割り切ると、ビルから飛び降りた。

 

 

「美樹さやか」

 

「ッ! ほむら……! 来てくれたの?」

 

「……ええ」

 

 

ほむらはさやかに駆け寄ると、肩を抱いて引き起こす。

負けた悔しさもあるのだろう、さやかのソウルジェムは深い濁りに満ちていた。

これは少しマズイ。ほむらは杏子が放り投げたグリーフシードを使って、さやかのジェムを浄化する。

 

 

「ちょっと止めてよ、それ……」

 

 

さやかは、不快感を示す。

敵から情けをかけられるのは、プライドに大きな傷を作るのだろう。

 

 

「背に腹は変えられないわ。我慢して」

 

「ッ」

 

「ところで、何があったか教えてくれないかしら?」

 

 

さやかはゆっくりと口を開く。

それをほむらは無表情で聞いていた。

詳しくは聞いていなかった。どうせ知っているんだからと、適当に相槌をうっていく。

 

 

「おそらく貴女を襲ったのは、佐倉杏子と言う魔法少女よ」

 

「知り合いなの?」

 

「ええ。親しくはないし、向こうは私を知らないだろうけれど」

 

 

さて、どうするか。ほむらは考える。

杏子は魔法少女集会における4番だ。あの時の記憶、そしてさやかの話を聞くに、どうやら相当な戦闘狂になっているとみて間違いない。

となると――、説得は厳しい。

 

 

(美樹さやかを餌に様子を見ると言う事もできるけど……)

 

 

杏子の存在は、ほむらにとって厄介なものではなかった。

説得の余地はあるし、逆にうまく操る事ができれば、面倒な参加者を減らす事もできる。

少し考えた結果、ほむらは答えにたどり着く。

 

 

「彼女は悪い人では無い筈よ。何があったのかは知らないけど……」

 

「アイツが? 冗談……ッ」

 

 

とりあえずは泳がしておく。それがほむらの答えだった。

正直、面倒になればすぐに消せる相手だ。そこまで危険な参加者でもない。

邪魔になったら消す。そうでなければ上手く動いてもらおうか。

 

 

「とにかく家へ送るわ」

 

「あ、ありがとう……」

 

 

ほむらは少しだけ目を細める。

そしてそれは――。

 

 

「当然よ。私たちは――」

 

 

あなたもよ。美樹さやか。

 

 

「仲間なんだから」

 

 

せいぜい私を失望させないで。

ほむらは無表情と言う仮面をかぶりながら、さやかを引き寄せたのだった。

 

 

 

 

 

だが暁美ほむらは一つミスを犯していた。

先ほどの戦いを見ていたのは"自分だけじゃない"と言う事だ。

ほむらとさやかが戦いの場を後にする。それを見ていたのは、美国織莉子。

 

 

「さあ、じゃあ始めましょう。お願いできる?」

 

「もっちろん! キミの願いは私の願いでもあるんだ!」

 

 

「そう。ふふっ、ありがとう」

 

 

織莉子は黒い魔法少女に微笑みかける。

そして殺意に満ちた視線を『さやか』へと向けた。

 

 

「覚悟しなさい。美樹さやか」

 

 

織莉子陣営がまずターゲットにしたのは美樹さやかだった。

絶望と悲しみのドン底に、さやかを落とさねば。

織莉子はもう一度微笑むと、自らも姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日、少し悩んだが、さやかはいつも通り学校に行く事を決めた。

悔しい気持ちはまだ強いが、何よりも日常に戻りたかった。

まどかに会いたい、サキに会いたい。そして何よりも、上条に会いたかった。

 

 

「お、おっす恭介! おはよう!」

 

「ああ、おはようさやか」

 

「あのさ、恭介はさ」

 

「うん? どうしたんだい」

 

「う、ううん! なんでもなーい!」

 

 

そう言ってさやかは一人駆け出していった。

それだけでいい、上条と一言でも話すことができれば今日はいい日だった。

遠くの方でまどか達が手を振っている。さやかはスピードをあげて、合流していった。

 

 

「ず、ずるいぞ上条!」

 

 

さやかがいなくなったのを確認して、中沢と下宮がやってくる。

特に中沢は、なにやらソワソワしているようだ。

 

 

「ずるい? 何が?」

 

 

上条のそんな様子に中沢はため息をつく。

 

 

「こっちはさ! 想いに気づいて欲しくて必死だって言うのに!」

 

「???」

 

 

中沢としてはさやかに同情できると言うものだ。

尤も、中沢は未だにラブレターに名前を書き忘れていた。

思春期ともあってか、モヤモヤは止まらない。だが気になるものを引きずるのは良くない、下宮はメガネを整え、上条へ一歩距離をつめる。

 

 

「上条くんは、美樹さんの事をどう思っているのかな?」

 

「え? そ、それ聞いちゃうの?」

 

 

下宮の言葉にギョッとする中沢。

とは言え、心の中では『よくやった』と賞賛を。

 

正直、誰が見てもさやかは上条に気がある。

そんな中で当の本人はどう思っているのだろうか?

 

 

「前も言っただろ? ただの幼馴染だよ。それ以上でも以下でもないから」

 

 

中沢も下宮も、つまらなさそうにそれを聞いている。

 

 

「……本当に罪な男だ、お前は」

 

「えぇ? なんでさ中沢、ちょっと、ねえってば」

 

 

中沢はムスっとしながら上条を追い越した。

不思議そうに首をかしげる上条を見て、下宮もヤレヤレと首を振る。

 

 

「これは、美樹さんも苦労しそうだな」

 

 

長年一緒に過ごしてきたせいで気がつかない想いと言う物があるのか。

どうやら、さやかの恋が実るのはまだまだ先の様だった。

 

 

 

 

 

 

「佐倉杏子か。要注意人物だな」

 

「全員と戦う気だなんて……」

 

 

いつも学校帰りに寄っていたファーストフード店。

しかし今日は何かを食べる食欲もなく、まどか、さやか、サキはドリンクだけで居座っている。

話の内容は参戦派・佐倉杏子についてだ。

 

 

「ほむらは悪い人間じゃないって言ってたけど、あたしは信じられない……!」

 

「でもっ、グリーフシードをくれたんだよね?」

 

「あんなの、優しさでもなんでもない! アイツ、本当にゲーム感覚なんだよ!」

 

 

さやかは二人に持ちかける。

このまま殺されるのを待つか、それとも抗うか。答えは一つではないのか?

 

 

「ねえ、もしもまたアイツが襲ってきたら、その時は協力してくれるよね? まどか、サキさん!」

 

「え? え? 協力って?」

 

「決まってんじゃんまどか、アイツだけは殺そうよ」

 

 

まどかもサキも複雑な表情を浮かべるだけで、イエスとは言えなかった。

それを言ってしまえば本当に後戻りはできないからだ。

尤も、さやかはもう須藤を殺している。その事が決意を加速させたのだろう。

 

 

「分かってる。分かってるよ。でもさ、実際にアイツに会ったら分かるって! 本当、マジッ、普通じゃない……!」

 

「しかし――」

 

「ああ言うヤツは殺すべきなんだよ。平和の為に!」

 

 

じゃないと必ず世界は"悪"に染まってしまう。

佐倉杏子、彼女の様な危険志向の持ち主は早めに排除しておかなければ大変な事になる。

さやかは目を見開き、唇を歪ませる。

 

 

「大丈夫だって。マミさんと違ってあんなヤツ、死んでも誰も悲しまないよ!」

 

 

さやかはそう言って二人の協力を仰いだ。

何故だが、まどかは途方も無い寂しさを感じた。

さやかが、自分の知っているさやかじゃない様な気がしていく。

そんな傲慢を感じながら、まどかは首を横にふるしかできなかった。

 

「さやかちゃん。本気で言ってるの? 駄目だよそんな事!」

 

「本気? え? は? どういう意味よ、まどか」

 

 

テーブルにポタリと雫が落ちる。まどかは涙を浮かべてさやかの意見を否定した。

 

 

「平和の為にって……! それじゃあ須藤さんと同じだよ。そんなやり方は間違ってる、誰かの命を奪ってまで成り立つ平和なんておかしいよ。きっと杏子ちゃんだってこの状況に混乱してるだけで、よく話し合えばきっと――」

 

 

その時、さやかは思い切りテーブルを叩いた。

ビクっと身体を振るえ上がらせてまどかは言葉を止める。

さやかはそれが狙いだったと言わんばかりに、間髪入れずに口を開いた。

 

 

「何だよッ!! あたしが間違ってるって言いたいわけ!?」

 

「ッ!?」

 

「まどかは良いよね。そもそもあの場にいなかったし、危なくなったら真司さんが守ってくれるもんね……」

 

「そんな!」

 

 

さやかは歯を食いしばる。

思い出すのは槍で攻撃された時の痛み、恐怖、悔しさ。

そして杏子に対する憎悪。

 

 

「あたしは殺されかけたんだ! 一歩間違えたら今日この場所にいなかったかもしれない! パートナーだって見つかってないしッッ!!」

 

 

心内の中にある黒いものを全て吐き出す様にさやかは吼える。

ただ感情をうまく制御できずに、結果としてそれを親友にぶつけてしまう。

 

 

「まどか、アンタにあたしの気持ちが分かるの!? あたしは死にたくない! 話合い? もうそろそろ無駄だって事に気づいてよ! 意味なんてないんだよ説得なんて!」

 

 

殺さなきゃ殺される。それがF・G。

 

 

「そんな……! わたしは……ッ!」

 

「落ち着けさやか! 私たちでモメてどうする! それこそ無意味だろう!」

 

「ッ!」

 

 

サキの一括によってさやかは冷静さを取り戻したのか、まどかに一言謝ると静かになった。

だがサキだって冷静な訳ではない。正直、どちらの意見に賛同できるかと言われれば、それは間違いなくさやかだった。

 

サキとて無駄な血は流したくない。

だがこの世界に『正当防衛』と言うものがある様に、『軍』と言う機関がある様に、話し合いだけで戦いが済むならば誰も苦労はしないのだ。

 

だが、だったら参戦派を殺すのがいいのかと言われても迷う。

殺害と言う事も一つの選択肢としては有効だが、選ぶのかと言われれば――。

これが先ほどからずっとループしていた。

 

 

「まどか、アンタ優しいもんね……。でもその内に分かるよ。あいつ等は普通の思考を持った人間じゃない。殺し合いを楽しんでいる。そんな連中なんだから」

 

「……ッ」

 

 

さやかの言葉が、まどかの心を抉った。

こうして、彼女たちの話し合いは特に明確な答えが出る訳でもなく終わった。

どうすればいい? 何が答えなのか。まどかは背負いきれない程の不安を感じて、つい真司に助けを求めてしまいそうになった。

 

携帯を取り出して――、後は真司にかけるだけ。

しかしふと、さやかの言葉がよみがえる。

 

 

『危なくなったら真司さんが守ってくれるもんね』

 

 

まどかは首をふって携帯をしまった。

真司は蓮を探すのに忙しい筈だ。迷惑はかけられない。

 

オレンジ、ピンク、紫、三色に染まる空を見上げる。

まどかはマミを尊敬していたし、マミの魔法少女像が絶対だと思っていた。

しかし絶対は死んだ。このF・Gおいて、マミは一番はじめに死んだのだ。

 

 

死んだということは――、間違っていたのだろうか?

目標を失ったまどかの先には暗闇しかない。

 

そして迷っているのはまどかだけじゃない。

サキもまたその一人だ。家に帰ると、まず真っ先に客間へと足を進める。

 

 

「………」

 

 

そして、扉の前で立ち止まった。

早く入ればいいのにどうしてか足が進まないのだ。

そうやってしばらく立ち止まり、ため息をついて扉を開く。

 

 

「ただいま」

 

「――キ……ぇちゃ……んッ!!」

 

 

ゆまは、顔をぐしゃぐしゃにしてサキに飛びついてくる。それをサキは複雑な表情で抱きしめた。

 

ゆまはずっと一人だった。

サキが学校に行っている間は、家にひとりだけ。

一人での食事や、静かな家は、ゆまにとっては寂しくて恐ろしいものだろう。

サキはそれを分かっていながらも、こうするしかない状況に頭を抱える。

 

そして何より――

自分はどこか、ゆまを恐れているんじゃないかと言う事。

 

だってそうだろう? ゆまは精神が不安定な子供。

ふと気が変わってマミを蘇生させたいと思うようになったらどうか?

答えは一つ、ゆまが参戦派に移ると言う事だ。

 

サキを殺して願いをかなえる為に戦う。

 

 

(そんな馬鹿な、ゆまはまだ子供だぞッ!)

 

 

自分に言い聞かせる言葉。だが同時に浮かぶ言葉もある。

子供だからと言って参戦しない理由は? 根拠は存在するのか? この戦いで常識が通用すると、まだ思っているのか?

 

F・Gは普通のゲームじゃない。命を賭けた殺し合いだ。

そんな中で年齢や性別が関係あるのか?

答えはノーじゃないか。死ねば存在が消える以上、殺しに対しての責任感が薄れる事は必須だ。

 

それに加えて殺さなきゃ殺される状況。

お膳立てとしては完璧だ、殺し合う環境としては最高と言ってもいい。

なによりも、ゆまは魔法少女だ。戦闘能力はある。

 

 

「ぐ……ッ!」

 

 

サキは耐える様に歯を食いしばる。目から、一筋の涙が零れた。

もう嫌だ、心が壊れそうになる。

それでも、それでも――

 

 

「ゆま。もうしばらく一人にしてしまう日が続くかもしれない。どうか、どうかそれを許してくれ――ッッ!!」

 

「うぅ……! うぅっ!」

 

 

本当は、ゆまから逃げたいだけなのかもしれない。

そんな内に秘めた感情を隠しながら、サキはもう一度、謝罪を行う。

 

悔しいのは誰もが同じなのだ。

さやかは杏子に負けた事に。まどかはF・Gをどうする事もできない事に。ゆまは力になれない事に。サキは全てを疑い始めた事に。

 

内部分裂が始まろうとしている。

サキはそんな事に焦りを感じつつも、何もできない自分にまた苛立ちを募らせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ……! ハ――……ッ!」

 

 

呼吸が荒い。

恐怖でその眼には涙が浮かんでいる。

震える足には線のようにして刻まれた傷が見える。

 

それだけじゃない。

彼女が逃げ込んだ工場地には、同じように切断された機材やらが目立つ。

 

 

「ひッ!」

 

 

大きな音と共にまた壁に傷が刻まれる。

まどかが帰宅し、サキが帰宅し。そんな中で、さやかだけはまだ外にいた。

さやかは魔法少女に変身して、『襲われて』いる。

 

 

「もう終わりにしないかい(ターゲット)ちゃん? 私もそろそろ飽きてきたよ」

 

「ふ、ふざけ……ッ!!」

 

 

帰路に着く途中、いきなり誰かに切り裂かれた。

そして知る、魔法少女に襲われたのだと。

 

黒い魔法少女だった。

さやかの事を『的』と呼称しながら襲ってくる。

 

 

「どこにいんのよッ!!」

 

 

さやかは剣を振るい、投げ。滅茶苦茶に攻撃を繰り返すが命中する気がしない。

夜の闇に溶け込む様にして、黒い魔法少女の姿は消えているのだ。

代わりに斬撃だけがさやかに降りかかる。

 

 

「あぐぁ!!」

 

「あはははは!! 本当に噂通りの弱さだね!!」

 

「何……ッ?」

 

「知らないのかい"的"ちゃん。キミは魔法少女の中じゃちょっとした有名人だよ」

 

「ど、どういう事よ!」

 

「キミのせいでゲームが始まったからね。ウフフ!!」

 

「なッ!!」

 

「フールズゲームが始まるトリガーは参加者の死だ。キミがシザースを殺したんだって?」

 

「あたしは……! あたしはただ――ッッ!!」

 

「キミにどんな理由があるかは知らない。だけど事実は簡単ッッ! キミと言う人間がいたせいでこんな事になっている!!」

 

 

違う! さやかはそう叫びたかった。

ただマミを救いたかっただけだ。須藤を殺さなければ自分達も殺されていた。

 

だがそんな事はどうでもいいと黒い魔法少女は言う。大切なのは過程じゃない、結果だ。

どんな理由がそこにあろうとも美樹さやかは須藤雅史を殺し、ゲームの開始を早めてしまった。

それが他の魔法少女にとっての事実であり真実。

 

 

「可哀想だから教えてあげるよ! 魔法少女の多くはキミを恨んでいる!」

 

「え……」

 

「そして、まずはキミを殺そうと言う結論に至ったのさ! 全ての魔法少女が結託して君をギチョンギチョンにしちゃうんだぁ! あははは!」

 

「そんなッ、そんなまさか――ッッ!!

 

「それに、キミは弱い事で有名だ・か・ら! もう既に徴候は出始めているんじゃないかい?」

 

 

打ちのめされる。

さやかの脳裏に杏子の姿が浮かんだ。

 

 

「な、なめんなァアアッッ!!」

 

 

マントを翻し、さやかは大量の剣を出現させた。

それをすぐに投げていくが、黒い影は高速で動き回り、次々に回避していく。

 

 

「あはっ! あはははは! 怖いかい? それはそうだろうね! キミはこれから全ての魔法少女に狙われる毎日を送るんだから!」

 

 

笑い声がさやかの耳を貫く。

そんな馬鹿な。さやかの心臓が激しく鼓動する。

その時、身体に激しい痛みが走る。切り裂かれた、さやかは短い悲鳴を上げてうずくまる。

 

 

(怖い! 助けてまどか! サキさん!)

 

 

殺される!?

そんな思いがよぎった時、黒い魔法少女は急に動きを止めた。

 

 

「……まずい、おやつの時間だ」

 

「はッ?」

 

「帰らなくちゃ」

 

 

そう言って、黒い魔法少女は離れていく。

捨て台詞を残して。

 

 

「気をつけなよ? キミはもう普通の生活なんてできやしない。キミを殺そうと魔法少女連中は結論を出したんだ」

 

 

そこで黒い魔法少女は消えた。さやかは腰を抜かしてしまう。

 

 

(怖い、嫌だ、怖い、嫌だ、怖い……!!)

 

 

その感情がループしていく。だから結論を出さねばならなかった。

先ほどの言葉が嘘かもしれないのに。さやかにはそんな事を考えている余裕は無かった。

 

 

「た、戦わなきゃ……ッ! じゃないと、殺される!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はははは! 本当に単純だねぇ! まさかあんな言葉(ウソ)を信じるなんて」

 

「仕方の無い事よ。このゲームでは思考回路は常に混乱状態にあるのだから」

 

 

魔法少女が結託して一人の人間を狙う? 

そんな事、魔法少女集会を聞いていればありえないのに。

織莉子と、13番の魔法少女は、哀れみの目でさやかを見ていた。

 

だがとにかく、さやかに恐怖心を植えつける事は成功した。

あと一押しで織莉子の作戦は完成する。その瞬間、織莉子の勝利は確定状態となるのだ。

 

 

「美樹さやかさえ絶望すれば、私はゲームに勝てる……」

 

 

"割り切らなければならない物もある"。

織莉子とて、ワルプルギスの夜がどう言った魔女で、いつ来るかは分からない。

だから確実にその前にゲームを終わらせなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

夜の公園、そこにさやかとサキはいた。

 

 

「何ッ! また襲われたッ!?」

 

「もうやだよサキさん……ッ! あたし、殺されちゃう!!」

 

 

サキはパニックになっているさやか冷静にさせる。

いきなりメールで『殺される』なんて届いた時は血の気が引いたが、何とか怪我だけで済んだ様だ。

 

サキはさやかから聞いた黒い魔法少女の話を考察してみる。

他の参加者が結託してさやかを狙う? そんな事を4番と13番が協力するとは思えない。

さやかを襲った杏子4番だが、おそらくは偶然なのではないだろうか?。

 

そもそもサキにはずっと引っかかっている事があった。何故、魔法少女集会で13番はマミの死の詳細を知っていたのか?

聞けば、黒い魔法少女も、さやかが須藤を殺した事を知っていたと。

 

 

「………」

 

 

もしかして、誰かあの場所にいたのか?

それとも誰かが情報をリークしたのか? 裏切り者が潜んでいるとでも言うのか!?

 

 

「ッ!!」

 

 

何て事を考えているんだ、サキは首を振る。

 

 

「き、今日は私の家に泊まっていくといい。親御さんには私が連絡しておくから」

 

「本当ッ? あ、ありがとうサキさん!」

 

「とにかく明日から学校を休んだ方がいい。法律事務所の方も辞めるんだ。それが嫌なら、私がついていく」

 

「う、うん」

 

 

しかし、そこで生まれる躊躇。

 

 

「あの――ッ、サキさん。あと一日だけ待って欲しいんだけど……」

 

「どういう事だ?」

 

 

こんな時だから、どうしても最後に上条と話がしたかった。

別に告白なんかをしようと言う訳ではない。ただ、ただの一言だ。どんな事でも良いから話がしたかったのだ。

声が聞きたい、笑った顔が見たい。それだけで良かったのだ。

 

 

「気持ちは分かるが……」

 

 

難しい話である。サキが渋るのは仕方ないだろう。

黒い魔法少女は『弱い』と言っていたが、サキから見てもさやかの実力はそれなりだ。

家にいてくれればゆまを守ってもらえるだろうし、何よりゆまが寂しがらずに済む。

ただやはり、"こんな時だからこそ"と言うのはサキも分かっている。

 

「そうだな。いいよ」

 

「っ! ありがとうサキさん!」

 

「恋は理屈じゃないってものさ。多少の無茶くらい何とかカバーできるだろう」

 

 

まどかもいるんだ、何とかなる。

 

 

「本当の事を言うと、ほむらとかずみの助けも借りたいんだが、何故か二人共こちらからは連絡が付かない」

 

 

一応メールに心配ないとだけは入っていたが、二人がどこにいるのかサキにはさっぱり分からなかった。

いつのまにか、チームは分裂していく。その事にサキはどうしようもない寂しさを感じるのだった。

 

 

 

 

 

「くそッ! どこにいるんだよ!!」

 

 

一方の真司はひたすら蓮を捜していた。

しかし、見つからない。尤も範囲指定はまだだ。タイムリミットまではまだ時間がある。

蓮の行きそうな場所はあらかた回ったが、彼の姿はどこにもなかった。

 

立花に聞けば蓮は丸五日の休暇を立花に頼み込んだらしい。

普通ならば五日も休みをあげるというのは難しい話ではあるが、立花はその時の蓮の顔があまりにも鬼気迫るものだったので結局オーケーしてしまった。

との事だ。

 

とにかく、状況が状況だけに早く蓮とコンタクトを取りたい。

何故、蓮はいきなり姿をくらませたのか?

もしかしたら既に戦いに巻き込まれているかもしれない。

 

 

「ああもう! 無事でいてくれよッッ!!」

 

 

真司はイライラしたように頭をかくと、スクーターを次の街にへと走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

次の日。さやかは少し早めに起きて学校の準備を始めていた。

 

 

(今日が終わればしばらく学校を休もう。ああ、でも親になんて言えばいいのやら……)

 

 

今はサキの家にしばらく泊まるなんて言ってあるからいいものを。

まあ、いいか。さやかは鏡に映る自分の顔をまじまじと見つめる。

どこもおかしくないか? 見られても平気だろうか?

腹の立つ話だが、杏子が顔を殴らなかった事は感謝するしかない。

 

 

「うー……! おはよーさやかお姉ちゃん。早いねぇ」

 

 

パジャマ姿のゆまが目をこすりながら現れる。

その緊張感の無い姿に、思わずさやかは吹き出した。

取り合えず、よたよたと寄ってくるゆまを乱暴に撫で回す。

 

 

「お前はいいねぇ、うらやましいよ……」

 

「?」

 

 

意味が分かっていないゆまを見て、さやかはケラケラと笑った。

 

 

「おはよう、さやか」

 

「あ、おはよサキさん」

 

 

朝食を取る三人。

そこで、さやかはパンにバターを塗りながら口を開く。

 

 

「ねえサキさん。マミさんって拘束の魔法だったんだよね」

 

「ああ、固有魔法は一人一人その性質が異なるものだ。キミは回復。まどかは守護と言ったようにね」

 

 

そこでサキはコーヒーカップを置いた。

 

 

「ところで、彼に想いを伝えるの?」

 

「!」

 

 

いつものサキならニヤニヤしながら顔でぐいぐいと聞いてくる事なのだろうが、今は慈愛と切なさに満ちた表情をしていた。

全てお見通しの様だ。さやかは照れ隠しに少し笑うと、悲しげな表情で首を振った。

 

 

「ううん」

 

「そう……」

 

「もし、あたしが恭介に関われば、恭介が狙われるかもしれないからさ」

 

 

それは嘘だ。心の中でチクリとした嫌悪感を覚える。

口では何とでも言えるだろう。迷惑が掛かる。危険な目に巻き込みたくない。そんな言葉を羅列して言い訳を作っているだけだ。

 

もし、好きと言って断られたら本当にそこで終わってしまうじゃないか。

そんなの嫌だ。もっと好かれて確実にオーケーをもらえるまで想いを我慢しないと。

結局傷つきたくないだけ。しかし、それを打ち明けるのは格好悪い、だからさやかは曖昧に笑うしかなかった。

 

 

「ご、ごちそうさま。用意するね」

 

 

とにかく今は、会いたい。それだけだった。

 

 

「おはよう、さやか」

 

「……うん、おはよ」

 

 

通学路。

静かな並木道を上条とさやかは、肩を並べて歩いていた。

前方にはまどか達、後方ろには中沢達がそれぞれ空気を読んで離れた所で歩いている。

 

上条はその事に全く気がついていないが、さやかは心の中でまどか達にお礼を言いながら足を進めた。

とは言え別に特別な事は何も無い。二人は何気ない会話を繰り返すだけだ、もちろんさやかもそれでいいと思っていた。

 

いつもと同じ様に、変わらぬ笑顔で上条といたい。

それが、さやかの望みだった。そうやって話していく内に学校へとたどり着く。

クラスに行けば話せる機会は少なくなる。どうやら今日の会話は終わりと考えてもいいかもしれない。

 

 

「じゃあさやか、先にいってるよ」

 

「うん。また……、またね」

 

 

また、会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぉ」

 

 

チャイムが鳴る。

何事もなく、一日は終わった。狙われていると言うのは、やはり嘘だったのかと思うくらい平穏に時間は過ぎていった。

緊張していたのが馬鹿みたいだ、さやかは大きなため息をつく。

 

 

「かえろっか、さやかちゃん」

 

「ん」

 

 

結局上条とは話せなかったが、敵が現れなかった事は幸いだろう。

未練が無いとは言わないが、しばらくサキの家で様子を見させてもらおう。

帰り道、さやかはそんな事を考えながら歩いていた。

 

 

「さやかさん!」

 

「え?」

 

 

しかし、ふと、我に返る。

どうやらずっと仁美に話しかけられていたらしい。

 

 

「あ、ごめん。なに?」

 

「大丈夫ですの? 今日は気分が優れないみたいでしたが……」

 

「うんにゃ、さやかちゃんはいつでも元気いっぱいですぞ!」

 

「でも、ずっと上の空でしたし。お顔の色も良くないですわ」

 

「そ、それは……、あはは」

 

「今日のお昼、どんな会話をしたか覚えてますか?」

 

 

正直、全く覚えていなかった。

さやかが集中するべきは、周りに敵がいないかを感じることだ。

あまり器用なほうじゃない。さやかはテレパシーを行う際も、そちらのほうに集中しすぎて周囲のことは忘れてしまう。

今日もそうで、周りに気を取られすぎて、仁美との会話は適当に行っていたようだ。

 

 

「と、とにかく大丈夫だって。ちょっとゲームで徹夜しただけだから」

 

「ですがッ、ここ最近ずっと調子が悪そうですわよ?」

 

 

仁美は、さやかの言葉を信じる事は無かった。

確かに何も知らない人間からしてみても、さやかの調子がおかしいのは明らかだった。

まどかとサキは事情を知っている。何とか話題を反らそうとするが――

 

 

「………」

 

 

仁美は何かを考える様にして沈黙する。

分かってくれたのだろうか? さやかは安心して気を抜いた。

だが、仁美は急に真面目な顔になると、さやかと二人きりで話がしたいと言ってきた。

 

 

「え? 二人きり?」

 

「はい。いけませんか?」

 

「いやッ、別にいいけど……」

 

 

よくない! サキは大きく首を振ってジェスチャーを行う。

敵に顔が知られている以上、さやかはなるべく家にいてほしかった。

しかし仁美の圧が凄いので、さやかは折れてしまったようだ。

 

 

「では、ハンバーガーのお店に参りましょう!」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ仁美。私とまどかも行っていいか? 席は離れるから」

 

「ええ、でしたら構いませんわ」

 

と言う事で、サキとまどかも着いていく事に。

 

 

「ね、ねえ仁美ちゃん……」

 

「どうしたんですの? まどかさん」

 

 

店に移動する間、まどかはこっそりと仁美に話しかけた。

まどかは仁美に一体何を話すのかを聞いてみる。

 

 

「まどかさん、実は――」

 

 

仁美は頷くと、小声で『話そうとする内容』を告げる。

 

 

「えぇ? で、でもいいのかな?」

 

「いいんですの! だって最近のさやかさんは明らかにおかしいですわ」

 

「そ、そうだけど」

 

「大丈夫ですわ。私に任せてください」

 

 

そういう事ならば。

まどかは、頷き、特に何も言うことはなかった。

 

 

 

 

 

 

「で、話って何?」

 

「はい……」

 

 

ファーストフード店。さやかと仁美は顔を合わせて座っている。

まどかとサキは離れたところに座り、店内の様子を伺っていた。

仁美は深刻な表情でさやかを見つめ、話を切り出す。

 

 

「上条さんの事で、少し……」

 

「ほへ?」

 

 

全く予想してなかった名前が出てきて、思わず間抜けな声が上がる。

混乱するさやかに、仁美はたたみ掛ける様にして質問を投げていく。

 

 

「さやかさんは、上条くんと交際してますの?」

 

「えぇ!? ちょ、どうしたのさいきなり!」

 

「ごめんなさい。確認ですわ」

 

「確認って、別にあたしと恭介はそんなんじゃないよ」

 

「なるほど。では、やっぱり……」

 

「?」

 

「質問を変えますわ」

 

 

仁美は相変わらず凛とした目でさやかを見ている。

そのあまりの真剣な表情に、さやかもはぐらかす気にはなれなかった。

 

 

「さやかさんは、上条くんの事をどう思っていらっしゃるんですか?」

 

「ど、どうって……」

 

「ただの幼馴染なのか、それとも男性として意識しているのか、と言う事です」

 

「!」

 

「私はさやかさんの事を親友と思っています。だから嘘偽りなく、答えてほしいですわ……」

 

 

そんな言い方ずるい。

唇を噛むさやか。好きに決まってる。

 

 

「い、いやだなぁ仁美ってば。幼馴染は幼馴染だっての!」

 

 

だけど、言えなかった。

仁美の事を親友だと思ってる。でも、言えないものは言えない。

たとえ周囲にバレているとしても、ここで簡単に言えば、ここまで片思いは続けていなかった。

分かっている。自分でもバカだと。けれども、心が痛いのだ。

怖い、傷つきたくない。終わらせたくない。臆病な心が押しつぶされそうになる。

 

 

「………」

 

 

それにしても仁美はそんな事を聞いてどうしたいのだろう?

仁美はそういう話には昔から疎かった。それこそ、さやかとまどかの事を本気で勘違いするくらいには、鈍い。

 

 

(サキさんに恋愛小説いっぱい借りてたから、影響されたのかな?)

 

 

前に一度だけ上条と映画館デート(失敗したが)したものだから、それに刺激されてしまったのだろうか?

さやかは不思議そうにストローを噛んだ。

一方の仁美は覚悟を決めたように頷くと、さやかを見つめる。

 

 

「さやかさん、貴女は大切なお友達ですから……」

 

「ど、どういうことさ」

 

「三日後の放課後に、私は……! 上条君に想いを伝えようと思います!」

 

「!」

 

 

さやかは脳に衝撃を感じた。

心がギュッとなり、目の前が真っ白になる。

 

 

「私、気づいたんですの! このままじゃ、このままじゃ何も変わらないですわ!」

 

「え、あ――ッ?」

 

「好きな気持ちを隠すのは、もう……」

 

 

仁美の話はもう聞いていなかった。

さやかは俯き、真っ青になる。

 

 

(何よそれ、そんな話知らなかった。まさか仁美が恭介の事が好きなんて……!)

 

 

心が、重くなる。

緊張、不安、なんだか嫌なものがのしかかる。

まさか敵? さやかは汗を浮かべ、周囲を見回す。

 

 

「さやかさん、聞いてますか?」

 

「え? あ、いやッ、うん、まあ」

 

 

聞こえていなかったが、適当に相槌を打つ。

 

 

「とにかく、三日後ですから。よく考えてください」

 

 

三日後までなら、さやかに時間を与えると言う物なのだろう。

 

 

「よく考えて自分の気持ちに向き合ってほしいんです」

 

「ッ」

 

「そして答えを出して欲しい、私の切なる願いですわ」

 

 

さやかは眉を顰める。

仁美は待つから、さやかが先に告白しろと言う事なんだろうか?

正直、聞きたくなかった。なるべく聞かないようにしていた。

全く理解したくなかった。こんな展開、最悪にも程がある。

 

 

「―――」

 

 

仁美が何か言っているが、さやかには全く聞こえなかった。

それだけ親友の裏切りじみた行為にショックを受けているのだろう。

 

その内に仁美は先に店を出る。

残されたさやかは何もせずただジッと沈黙するだけだった。

 

 

(仁美がの恭介事を? そんなの今まで全然気がつかなかったし、そんな素振りも見せた事なかったじゃん……!)

 

涙が浮かんできた。

駄目だ、こんなの駄目だ、情けない。

渦巻く感情を自分でも理解できずに、さやかはただ押し黙るだけだった。

そうすれば答えが出る気がしたからだ。でも、それは無駄なことでしかない。どんなに沈黙を守ろうが答えは出ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

けれど沈黙。

 

 

「………」

 

 

されど沈黙。

 

 

「………」

 

 

沈黙、静寂が空間を包み込んでいた。

ずっと望んでいたのだが、いざ叶ってみると気持ち悪いにも程がある。

北岡はうんざりしたような表情で虚空を見た。

 

さやかが事務所を訪れたのは二時間前。

にもかかわらず、さやかが口にした言葉は簡単な受け答えのみである。

いつもなら鬱陶しいくらいに話しかけてくるのだが、今日はそうじゃない。

 

 

「ハァ。どうしたのよ。さっきから」

 

「え……?」

 

 

言っておくが北岡と言う男は、他人の悩みなど絶対に聞かないタイプである。

だがあまりにも今のさやかは様子が違いすぎる。

 

 

「今まではペラペラと、どうでもいい事を話しかけてくる鬱陶しいガキが、今は何も喋らない。俺さ、そういうのなんて言うか気持ち悪いんだよね。いつもあった場所にリモコンがないみたいな……!」

 

「なにそれ、酷い」

 

「いいから、悩みがあるなら言ってみろ。親父が横領か? 母親が万引きか? なんでもいい、俺が白にしてやる」

 

「ちがいますゥ! でも、あはは……、珍しいねセンセーがそんな事言うなんて」

 

「俺は女には優しいからな。お前が男だったら今頃殺してるよ」

 

「ははっ、ひでー!」

 

 

さやかは少し少し嬉しそうに笑った。

釣られたのか、北岡も苦笑する。

 

 

「俺はさ、ほら、弁護士だろ? 守秘義務はある。他人に言ってみるだけで楽になる事もこの世にはあるんだよ」

 

「へえ。そうなんだ」

 

 

さやかは北岡の事を人としては全く信用していなかった。

北岡の仕事に関しては首をつっこまないと言う契約だったが、さやかは周りから北岡の噂をいろいろ聞いていた。

ヤバイ事件にもいろいろ手を出したことがあるらしい。

 

雑誌で見た。

北岡はどんな仕事でも引き受けるし、それを必ず白にしてみせる実力者だと。

どんな『仕事』でもだ。オフィスを大きくしないのは有名にならない為だとか。

 

雑誌には北岡が過去に白に変えた事件が記載されていた。

内容を見て、さやかは北岡を軽蔑したのを覚えている。

子供を含む計5人を刺し殺した連続通り魔、どうやったのかは知らないが北岡はそんな人間ですら白に変えて見せた。

当然、被害者家族からは恨まれ、世間からも道徳性を非難する声があがったらしい。

 

さやかだってそう思ったものの一人だ。

もちろんそれが弁護士の仕事だと言う事は理解するつもりだ。

だから北岡の事を『嫌い』とまでは言わない、だが『好き』になれないのも事実だったのだ。

 

しかし今、ほんの少しだけだが北岡に対する高感度が上がった――、気がする。たぶん。

 

 

「実は……」

 

 

少し自暴自棄になっていたと言えばそうだが、さやかは北岡に今までのことを軽く打ち明けた。

もちろん魔法少女やF・Gの事は伏せてだが。

 

 

「それで?」

 

「へ?」

 

 

それが全てを聞き終えた北岡が放った言葉だった。

 

 

「え? 何、まさか今ので終わり?」

 

「ま、まあ、そうだけど」

 

「はぁあああああああああ……っ!」

 

「ちょッ! なにその脱力感!」

 

「くだらないんだよ、お前は」

 

「えぇ……」

 

「告白すればいいだろ、そんなの」

 

「それが出来ないから苦労してる!」

 

 

そんなさやかの言葉も、北岡の表情を変える要因にはならなかった。

椅子に座りながら北岡はつまらなさそうに言う。

 

 

「じゃあ、お前さ、その友達に男を奪われても良いわけ?」

 

「そ、それは――」

 

 

嫌に決まっている、それが本音だ。

仁美の事は友達だと思っているが、もし上条と交際が始まれば、きっと妬みや嫉妬の感情を抱いてしまうだろう。

 

それも怖かった。

だけど、告白するのはもっと怖い。

断られてしまえば終わり。それがループである。

 

 

「女子中学生の繊細な悩みなんて北岡センセーには分かんないよ」

 

「何を馬鹿な。俺はお前より繊細だ」

 

「ぐッ! 言い返せないかも……!」

 

「何か勘違いしてるんじゃないの、お前」

 

「勘違い?」

 

「言葉にしない想いなんて、叶うワケないだろ」

 

 

 

幼馴染と言う壁は厚いかもしれないが、案外それは簡単に壊れてしまうものだ。

待っているだけの恋は絶対に叶わない。それを突きつけられ、さやかは怯んでしまう。

もちろんそんな事は理解しているつもりだ。ただどうしても踏み出せないのが事実なのだ。

 

 

「もし、断れたらって」

 

「確かにお前は料理はできる。掃除も面倒そうにしてるが、まあそれなりに綺麗にはする」

 

「お?」

 

「顔は悪くない。このまま成長すれば、劣化はしないだろ」

 

「おお!」

 

「だがそれだけだ。そんな女は山ほどいる。お前だけが特別な点はなにもない。むしろお前よりも100倍魅力的な女は腐るほどいる」

 

「ひでーって!!」

 

「だから調子に乗るな。お前はお姫様をやれるほどの器じゃない。だから自分で王子をハントしろ! 白馬ごと食え!!」

 

「わ、分かるような……、分からんような」

 

「その友達と男が付き合っているのを毎日傍目から見てる生活がお望みって訳か? 相当お人がよろしい事だ。俺なら絶対嫌だねそんなの、ぶち壊してやりたくなるよ」

 

「……ッ」

 

「そういう事でしょ極論は。どんなに親友だとか言ってても、割り切る時は割り切る精神が無いと生きていけないよ」

 

 

うつむいて沈黙するさやか。割り切る強さ、それが必要なんだろう。

それからは、さやかがどんな言い訳を用意しても北岡は『告白しろ』の一点張りだった。

 

どんな言葉もサラリとかわされて突き詰められる。

やはり弁護士には勝てない。さやかが諦めかけたその時、北岡はやけに真面目な顔で呟いた。

 

 

「永遠を望む事ほど、馬鹿な事はない」

 

「え?」

 

「ずっとこのままなんて無いんだよ。人生なんてさ、後悔の連続なのよ。だったら少しでもその数は少ない方がいいでしょうよ」

 

 

そう言った北岡はどこか寂しげだった。

きっと北岡も今までの人生、いろんな後悔を覚えて生きてきたのだろう。

さやかは初めて北岡の言葉から『重み』を感じた。

 

後悔――、したくはないものだ。

なら確かに答えは決まっているのだろう。

仁美の事は好きだが、何よりも上条が好きなんだ。

 

今までずっと気持ちに嘘をついてきた。

これからもそうだと割りきる事もできるが、その強さを持つよりは、告白する勇気を持ちたい。

 

 

「戦わないで苦しむより、戦って傷つく方がいいのかな」

 

 

さやかは心に宿る勇気を感じながら顔を上げる。

 

 

「センセ……、ありがとね。少しだけだけど楽になったよ」

 

「じゃあ、さっさと仕事をしてくれ」

 

「相変わらずヒデー!」

 

 

そう言ったさやかは笑顔だった。

 

 

(決めた。恭介に……、想いを伝えよう)

 

 

付き合うとかそう言うの抜きにして。

自分の想いを全部伝えたい。それで後悔したとしても、さやかは受け入れられる筈だ。

 

 

「せ、センセー……」

 

「なんだ! まだ何かあるのか? もういいだろ、答えは出たんじゃないのかよ!」

 

「う、うん。だからさ、今度は別の相談」

 

「ハァ?」

 

 

うんざりしたように肩を竦める北岡を無視して、さやかはモジモジと口を開く。

不思議とどんな事でも、何やかんやで答えてくれる気がしてならなかった。

 

 

「な、何か告白がうまくいく方法なんかないかなぁ……、なんて」

 

「そんなんあったら誰も苦労しないっての」

 

「ですよねー」

 

 

さやかは北岡に今の質問は忘れてくれと踵を返した。

しゃべり過ぎたせいで仕事が遅れてしまった。

早く資料の片づけをしなければ。さやかは気持ちを切り替えるように首を振ると、自分の仕事に戻るのだった。

 

そうやって時間が経っていき、今日のバイトは終了する。

北岡はまだ事務所に残る様なので、さやかは先に帰る事にした。

窓の外を見れば、迎えに来たサキが手を振ってくれている。

 

 

「じゃあセンセー、まったねー」

 

「服」

 

「へ?」

 

「服とか変えてみたらいいんじゃない? 人間見た目が一番だ。髪と服と、あと靴。歯並びは、うん、お前は大丈夫だな」

 

 

いきなりそんな事を言われても何が何だか分からない。

完全に固まるさやか。まして北岡はさやかの方を向いていない。

だが先ほどの会話を思い出して、さやかはアッと声をあげた。

 

 

「さっきのヤツ!!」

 

「男ってのは、ギャップに弱いもんなんだよ」

 

 

もしかして考えてくれていたのだろうか?

さやかはそれが何故かとてもおかしくて吹き出してしまう。

でも、嬉しかった。

 

 

「もういいだろ。さっさと帰りな」

 

「ぷくく、ご協力感謝しますぞ!」

 

 

ニヤケ顔で帰っていくさやかを、北岡はイラついている様な目で見送った。

やっぱり子供(ガキ)は嫌いだ。ちょっとの事で調子に乗る。

同時に、少しの事で簡単に傷つく。

 

 

「ま、俺には関係ないか」

 

 

うまくいこうが、いくまいが。

それを決めるのは、さやか次第だ。離婚だの泥沼不倫だの沢山の裁判を処理してきた北岡からしてみれば、恋愛なんてキラキラしたものじゃない。

北岡はそんな事を思いながら、デスクの引き出しを開ける。

 

 

(後悔か……)

 

 

絶対にしたくないね、そんなの。

どんな手を、使っても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の街。

時計の針は十二時を回っているが、その中を一人の少女が歩いていた。

年齢を考えるに、出歩いていい時間とは言えない。

 

 

「キミ、中学生?」

 

「ァん?」

 

 

ほら見たことか。

すぐに生活指導の男性に声をかけられた。

 

 

「こんな時間に出歩くのは危険だよ。すぐにお家に帰りなさい」

 

「……はいはい、分かったよ」

 

 

少女は不機嫌そうにしながらも踵を返した。

 

 

「ヒッ! ヒィィィィィィイイ!!」

 

 

瞬間、背後に聞こえてくる悲鳴と鳴き声。

 

 

「あーあ」

 

 

佐倉杏子はやれやれと苦笑する。

 

 

「運が無かったね、可哀想に」

 

 

振り返ると、指導員だった物があちこちに散らかっている。

血溜り、零れる臓物。なんだ? これは肝臓か? 邪魔だから蹴っ飛ばす。

 

杏子の前に『下半身』だけが立っていた。だがすぐにバランスを崩して倒れる。

断面図から伸びた腸を辿ると、上半身が咀嚼されているのが見える。

 

 

「だからもっと綺麗に食えって。食べ物粗末にすんなよ!」

 

 

杏子に叱られて、コブラの化け物・ベノスネーカーは申し訳なさそうに俯いた。

 

 

「死体が目立つと、緊急のニュースでバラエティとかが潰れるんだよ!」

 

「ジィイイイイイイイイイッ!!」

 

 

言葉を理解しているのか。食事を終えたベノスネーカーは零した食べ残しを綺麗にしようと奮闘していた。

そうしていると足音。杏子がそちらに視線を移すと、蛇柄のジャケットを着た浅倉が見えた。

 

 

「よォ浅倉。どうよそっちは」

 

「ァァァァァ……ッ、まだ一人もだ」

 

 

浅倉は気だるそうに唸りながら首を回す。

お互いに殺人ゲームの結果を途中報告しようかとの提案だったが、どうやら二人ともあまりいい結果とは言えないらしい。

 

 

「獲物も見つかってない。どいつもコイツも……ッ!」

 

「ははは! 見つけるのが下手なんだよ」

 

「チッ! そういう、お前はどうなんだ?」

 

「一人、会った。とんだ雑魚だったけどね」

 

「その雑魚に逃げられたのか?」

 

「逃がしたんだよ。テレビで見たことあるだろ? 若い魚は逃がして、大きくしてからまた獲るんだよ」

 

 

上機嫌に話す杏子。

羨ましいのか、浅倉はイライラしながらその話を聞いていた。

やるなら徹底的に、完全な勝利を望む。それが杏子のスタイルだった。

 

 

「でもまあ、まだ協力派のヤツとか、ウジウジしてるみたいだし。ここら辺でちょっと現実教えとくのもアリかもね」

 

「ァ?」

 

「そろそろ一人、減らすのもいいかもって話さ」

 

「………」

 

「あー、でもそうなるとアタシが1ポイントリードしちまうなぁ! アハハハハ!」

 

 

浅倉は舌打ちを行い、近くにあった自販機を思い切り蹴った。

戦いたくてウズウズしている筈だ。だが浅倉は魔法少女を殺してはいけない。

だから見ているだけしか出来ない。そんな優越感を杏子は感じて、ついご機嫌になってしまう。

 

どうやら浅倉のイライラする表情を見るのも楽しいらしい。

杏子としては、"昔"はよくやられていただけに。

 

 

「そう言う訳で先にリードさせてもらうから」

 

「クソが……!」

 

 

このまま杏子に付き合っていたら不快になるだけだ。

浅倉はダルそうに頭をかきながら背を向ける。

 

 

「ちょっと待てよ。アタシ今、腹減ってるから食い物よこせ」

 

「………」

 

浅倉は少し考えた結果、ポケットに入っていたチューブを杏子に向けて投げた。

 

 

「サンキュー! なんだこれ? チョコチューブ? 頂きます」

 

 

杏子はなんのためらいもなくチューブを咥え、啜る。

 

 

「‘$@#$&●#”‘!!??!?!」

 

 

声にならない悲鳴を上げて飛び上がる。

よくみればチューブにはわさびの三文字が。

 

 

「はかりやがったなぁあッッ!!」

 

「ハハハハハッ! お前もアホだな」

 

「ぎぃいへぅぉぁあ!」

 

 

浅倉は涙目で咳き込む杏子を見下す様に笑うと、今度こそ踵を返して歩き去る。

ベノスネーカーも残りカスを食べ終えたらしく、独りでに消えていった。

 

「……っ」

 

 

少し落ち着いてきてのか、杏子もゆっくりと立ち上がった。

そして――

 

 

「黙ってないで出てきなよッッ!!」

 

 

素早く槍を出現させ、それを虚空へと投げる。

誰がどうみても何も無い場所。当然、槍は何かに当たる訳でもなく、地面へ突き刺さるだけ。

 

 

「……気のせいだったか?」

 

 

浅倉にからかわれたから、イライラしていた。

そこに来てのわさびで感覚が鈍ってしまったのだろう。

杏子は舌打ちをすると、浅倉とは反対の方向へ歩き出す。

 

 

「キキキキキッ!!」

 

「!!」

 

 

突如鳴き声と共に杏子に襲い掛かる黒い影。

杏子は反射的に身を翻して、その攻撃を回避した。

 

 

「あれ? やっぱいるじゃん」

 

 

外していたのか? それはそれで屈辱的だが。

杏子に爪を振り下ろしたのは、ガゼルをイメージさせる化け物だった。

 

首をかしげる杏子。

騎士には見えないし、魔女や使い魔と言う訳でもなさそうだ。

では何だコレは?

 

 

「まあ、良いや。襲い掛かってきたってことは敵でいいんだろ!」

 

 

杏子は身を低くして足を旋回させて足払いを行う。

倒れるモンスターと、後ろへ下がる杏子。

 

 

「騎士じゃない、これは騎士じゃない。騎士じゃないって事は倒してもルール違反にはならない!」

 

 

そんな方程式を完成させると、杏子は腕を旋回させて円を描く。

瞬間、手を前に突き出して、瞬時に引き戻す。

まるでそれは蛇が獲物に襲い掛かる様なポーズだった

 

 

「変身」

 

 

杏子の姿が魔法少女の物へと変わる。

同時にガゼルのモンスター・"メガゼール"は、再び杏子へ向けて襲いかかる。

右へ、左へ、素早く爪を振るって攻撃を仕掛けてくるメガゼール。

 

しかし杏子は全ての攻撃を笑いながら回避していく

戦う時の杏子はいい表情をする。表情だけを切り取れば命のやり取りをしているなんて誰も思わないだろう。

 

杏子はしばらく攻撃を避け続けるだけだったが、その内に飽きたのか、槍を出現させて攻撃に転じる。

まずはストレートに突きを一発。

しかし刃先に感触は無い。ましてやメガゼールの姿も無い。

 

 

「ふぅん、なるほど」

 

 

メガゼールは素早く、そして高く跳躍。

悪くないスピードだ。だが次の瞬間、メガゼールの首に槍が突き刺さる。

 

 

 

「ギギギッッ!!」

 

 

そして胴体、脚に一本ずつ。

メガゼールはうめき声をあげて落下、そのまま鏡が砕ける様に爆発した。

 

 

「悪いね、槍は一本だけじゃないんだわ」

 

 

杏子は最初の一撃をかわされた後、別の槍を出現させてそれを投げた。

スピードは速く、メガゼールは空中にいるため回避行動も満足に取れない。

結果として槍が命中して、終わりである。

 

 

「余裕」

 

 

それにしても、倒せたはいいが、最初に感じた気配が的外れな位置だった事は悔やまれる。

杏子は悔しそうに頭をかくと、変身を解除して何事も無かったように歩き出した。

 

 

「………っ」

 

 

だが、杏子の判断は間違っていなかった。

先ほど杏子気配を感じて槍を投げた場所にはちゃんと『標的』が存在していたのだ。

つまり、あそこにいたのは、メガゼールだけではなかったと言う事である。

 

夜の闇に溶ける黒髪。

暁美ほむらは額に汗を浮かべてその場にへたり込んだ。

正直危なかった、それに甘かった。油断していたら今頃あの槍が腹部を貫いていただろう。

 

 

(それにしても……)

 

 

街で杏子を見かけたものだから、尾行してみたが、はっきりと理解した。

杏子はもはや別人。ほむらの知っている佐倉杏子と言う人間ではない。

何の躊躇いもなく人を殺す姿は、まるで化け物じゃないか。

 

 

(気になるのは……、パートナー。佐倉杏子の性格が変わった原因は、彼にあると見てまず間違いない)

 

相当な危険人物には違いない。

果たして接触するリスクはどれほどなのか? そして杏子が元に戻る保障はあるのか?

なにより今は、やはりさやかをどうするべきなのだろう?

 

 

「………」

 

 

決まっている。ほむらが答えにたどり着くまでに時間は掛からない。

全ては"彼女"を守ることだ。その障害になるのなら、またはその為に有益な情報を集められるのなら

 

 

(誰が――)

 

 

どうなったって

 

 

かまわない。

 

 

ほむらは杏子を諦めた。

つまり『敵』として認識したのだ。呼吸を整えながら立ち上がる。

その瞳にはやはりどこか暗い影が見えた。

 

ほむらは無意識の内にどんどんゲームの深みにはまっていく。

それが間違いなのか、正しいのか、どちらとも言えない。

 

ただはっきりと言えることは、ほむらはゲームと言う世界に足を踏み入れている。それだけだった。

ほむらは髪をかき上げると、そのまま一瞬で消えていく。

 

 

 

 

 

 

「順調ね、全てが美樹さやかを殺す様に動いているわ」

 

「ああ! やったね織莉子! これってとってもウルトラハッピー!!

 

 

美国織莉子の屋敷。

そこにある薔薇庭園で、織莉子たちは今の出来事を監視していた。

相変わらず織莉子の隣では9番の黒い魔法少女・『(くれ)キリカ』がベッタリと張り付いている。

織莉子はそんなキリカを面倒とも思わず、むしろ笑みを浮かべて相手をしていた。

 

今、織莉子たちが知ったのは佐倉杏子、及び浅倉威の行動方針だ。

そして杏子の魔法少女としてのある力量と武器。

 

 

「佐倉杏子は利用しやすい性格で助かるわ。美樹さやかを狙っていると言うのも、私にとっては嬉しいポイントだわ」

 

「あは! それにしてもバイトくんのモンスター死んじゃったね!」

 

 

キリカは少し離れた所に座っている男に声をかけた。

そもそも織莉子達が杏子らの様子を確認できたのは、青年のミラーモンスターである『メガゼール』のおかげだった。

 

 

「大丈夫、大丈夫、様子見にしては十分でしょ。あと一応オレ年上だからねー」

 

 

軽めな口調でキリカを注意するのは、佐野(さの)(みつる)

彼もまた織莉子の仲間であり、騎士である。

 

佐野のカード、『ビジョンベント』は契約モンスターが見た景色を、自分達も確認できると言うもの。

佐野は携帯電話の液晶に、今の光景を映して織莉子らに確認させていたのだ。

 

 

「それにしても……、その、何だっけ? さやかちゃん? その娘流石に可哀想だなぁ」

 

「………」

 

 

佐野はヘラヘラしながら口にするが、反対に織莉子が深刻な表情で佐野を睨む。

それを見て、佐野は冷や汗を浮かべて口を閉じた。どうやら織莉子の恐ろしさを理解しているらしい。

すぐに大きく手を振って弁解を始めるほどに。

 

 

「や、やだなぁ! 言ってみただけなのに! ハハハハ……!」

 

「そうですか、それなら問題ありませんね」

 

 

織莉子はまた元の優しい表情を浮かべて佐野に微笑みかける。

対して佐野は引きつった表情で苦笑いを浮かべる。

どうやらあまり余計な事は言わない方がよさそうだ。

 

 

「そうそう! バイトくんはただ言われた通りにすればいいんだよー」

 

「ええ。そうすれば貴方の望む金額を支払います」

 

「おお! そりゃ、ありがたい!」

 

 

佐野はそれ以上は何も言わなかった。

極端な例えだが、佐野と言う男おは、目の前で誰かが崖から落ちそうになっていたら――

 

助けられそうならば全力で助ける。

落ちそうになる人を助ける事で、自分が危険になるなら助けようと努力だけはする。

 

もし自分と他人が崖から落ちそうになったら、佐野は他人を殺してでも生き残る。

そんな当たり前の性格なのだから。

 

 

 

そして同時に、観測者は一人ではない。

暁美ほむら。佐倉杏子。そしてメガゼール。

これらを監視する者もまたあの場にはいたのだ。

 

神那ニコ。

彼女はその手でジュゥべえの頭をぞんざいに握り締めながら、辺りの様子を確認する。

尤も、ニコは監視する気でこの場に来たのでは無い。完全なる偶然だった。

 

 

「ちょー焦った。集まりすぎだろ、こんなマイナーな場所で」

 

『それだけ監視の目が溢れているって事だろ? ほとんどの参加者が見滝原にいる状況だぞ、エンカウントはそれほど珍しい話じゃねぇさ』

 

「あの赤いのは多少なり魔力を感知できるみたいだしな。黒髪は赤い奴を監視してた」

 

『それぞれ、考えがあるんだろうな』

 

「私はただお前に会いにきただけなのに、先客がいた時はヒヤリとしたよ」

 

 

だが収穫はあった。

ニコはポケットから携帯を取り出すると、アプリを起動する。

 

 

「えーっと赤いヤツに、蛇柄は――、変身してないから無理。あとは黒髪か」

 

 

携帯に名前を打ち込んでいくニコ。

ニコは画面をスライドさせて見滝原の地図を表示させる。

そこに表示される赤い点や、黒い点。

 

 

「ん。登録完了でござんす。三人とも離れていくな、近くに誰もいないし。おけおけ」

 

『つうか、テメェの能力チートすぎんだろ。オイラ何回見つかってんだよ』

 

 

ニコの携帯にあるアプリ。それは彼女の魔法が生んだものだった。

わかりやすく言えば、ニコは参加者が今どこにいるのかを探る事ができる。

もちろんそれは範囲が設定されていて、"常に"と言う訳ではないが、それでも参加者の位置が分かる事は大きな武器だった。

 

同時にそれは参加者だけでなく、キュゥべえとジュゥべえにも使用する事ができる。

妖精に会えると言う事は、ゲームに関する情報を得られると言う事だ。

 

 

『オイラ達を見つけた参加者は何人かいるが、お前らは異常だぜ。桁が違う』

 

「便利だろ? 私の"レジーナ・アイ"でお前は丸裸だぞよ」

 

『かぁー……』

 

「じゃ、ま、さっさと情報よこせ」

 

 

ニコはジュゥべえを投げると手招きしてみせる。

ゲームが始まってからと言うもの、何度もこうしてジュゥべえやキュゥべえと接触を取っていた。

おかげで現在、高見沢とニコの情報量は、どのチームよりも多い。

 

 

「たかみーも言ってた。情報ってのは武器なんだと」

 

『た、たかみぃ……』

 

「素敵なあだ名だろ? でもそう言うとアイツ怒るんだぜ? 困っちゃうね。ってかマジでさっさと情報」

 

 

ニコの急かす素振りにジュゥべえはハイハイと頷いてみせる。

ちなみにキュゥべえは聞きたい情報を答えてくれて、ジュゥべえはランダムで情報を与える。

 

こうしてみるとキュゥべえの方がいい様にも思えるが、見つけやすいのはジュゥべえだった。

 

 

『今回オイラが教えてやるのは、ルールとはちょっと違う話だ』

 

「ほう」

 

『魔法少女が絶望したら、どうなると思う?』

 

「………」

 

 

悲しくなる。

ドヤ顔で答えるニコだが、ジュゥべえは絶句する。

 

 

『いや、間違っては無いが、そうじゃねぇよ』

 

「は?」

 

『今も一人ヤベェ奴がいるんだよなぁ。ありゃ人魚姫コースだわ多分』

 

「意味分からん、はよ話せぃ」

 

 

もったいぶるのはジュゥべえの悪い癖だ。

ニコのイライラした姿も、ジュゥべえには滑稽に見えているのだろう。

だがあまり時間をかけるのは確かに気の毒だ。ジュゥべえはそこから真面目に今回の情報をニコに告げていく。

 

 

『――って事だ』

 

「マジか……ッ」

 

 

流石のニコもこの情報には本気で驚いている様だった。

すぐに自分のソウルジェムを取り出すとそれを見回していた。

そしてしばらくしてニコはジェムをしまい、ため息をつく。

 

 

「お前らって本当に性格悪いよね」

 

『いやいや、人間程じゃないぜぇ?』

 

 

ニコは舌打ちをして踵を返す。

情報は手に入ったのだから、これ以上この場所にいる必要もないだろう。

 

 

「帰ってゲームの続きだな」

 

『ん? F・Gか?』

 

「いや、テレビゲーム」

 

『おいおい、随分余裕だな』

 

「高見沢は欲しいって言ったものは何でも買ってくれるんだ。おかげでクリアしていないゲームが山積みだよ」

 

『もっと積極的にゲームに乗ってくれよ。オイラ退屈だぜ?』

 

「無理。私、弱いもんで」

 

 

だけど。

ニコは振り返ると、子供とは思えない黒い笑みを浮かべた。

やはり彼女も所詮、参戦派。

 

 

「覚えておけよ。最後に生き残るのは、この神那ニコ様だから」

 

『頑張れよ、テメェと同じ事言っている奴は多いぜぇ?』

 

 

ニコはその言葉を聞いて、静かに笑う。

そして彼女の隣の景色が歪んだかと思うと、カメレオン形のミラーモンスター・『バイオグリーザ』が出現する。

 

ふと思い出す。

ジュゥべえから以前教えてもらったルール。

 

 

【ゲームの終了条件はキュゥべえが最初に言った二種類のみである】

 

【他人のカードを自分のバイザーに入れて発動すると、効果はカードの持ち主に現れる】

 

【情報を貰うときは直接キュゥべえ、ジュゥべえと接触しなければならない】

 

【ミラーモンスターは人、魔女を喰わせると少し強力になる】

 

 

本当に性格の悪い連中だ。

一般人を巻き込むこともゲームの一環としているのだ。

 

 

(さ、私はどうするかな)

 

 

ニコは指を鳴らして魔法少女の姿に変身すると、ユニオンの魔法を発動させる。

 

 

「かえろーぜバイグリちゃん」『クリアーベント』

 

 

モンスターと共に消失するニコ。

一人残されたジュゥべえは、一体何を考えているのだろうか。

 

 

 

 







おう。織莉子星5化、あくしろよ



してください(´・ω・)
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