仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第16話 前夜 夜前 話61第

 

 

 

見滝原中学の保健室。

そこに真司は忍び込んでいた。

この日も蓮を探しに行く予定だったが、その前に美穂の様子も見ていく。

 

 

「いなくなったのは蓮だけじゃないんだ。かずみちゃんも蓮について行ったみたいで」

 

「親戚なんだっけ。でも知らなかったな、あんな子がいるなんて」

 

「俺もだよ。ところで美穂、お前蓮の情報とか持ってないか?」

 

「ある訳ないでしょ、知ってたら教えるよ」

 

「それは……、そうか」

 

「バカ」

 

「う、うるさいな。バカは余計だろ!」

 

 

美穂はペンを回しながら、窓の外を見る。

 

 

「恵里の病院が移ったんでしょ?」

 

 

ゲームが始まれば蓮はもちろん、真司達も会いに行く事はできなくなる。

 

 

「次は、そこに行こうと思う」

 

「仕事は大丈夫なの?」

 

「取材って事にしてある。まあ何かスクープでも見つけられれば儲けもんだな」

 

「気をつけなよ。いろいろと、その、ね」

 

「分かってるよ。お前の周りにはドラグレッダーを待機させてるからさ、危なくなったらすぐに呼べよ!」

 

 

そう言って真司は荷物をまとめ始める。

どうやらもう出発する様だ。美穂はその様子をぼんやりと見つめていた。

 

 

「どうしてそこまで人を信用できるの?」

 

「え?」

 

「蓮がさ――、いや、なんでもない」

 

「俺は皆を信じてるからな」

 

「バカっぽい答え」

 

「うるさいな! とにかくッ、俺が頑張らないと駄目なんだよ。マミちゃんがいなくなって、ゆまちゃんとか、さやかちゃんとかッ、とにかく皆辛いはずだ」

 

「………」

 

「じゃあ俺はもう行くからな」

 

「お別れのキスしてやろうか?」

 

「い、いるかよ! じゃあな!」

 

 

保健室を出て行く真司。

美穂は、引き出しの中にあるデッキを見て呟いた。

 

 

「バカなヤツ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまない、助かった」

 

「ええ。構わないわ」

 

 

ほむらの家。

寝室には気絶したさやかが眠っている。

 

 

「ソウルジェムの濁りが酷い」

 

 

ほむらはテーブルの上にさやかのソウルジェムを置く。

ストックしていたグリーフシードで一応浄化したが、油断はできない。

精神状態が不安定ならばまたすぐにソウルジェムは濁ってしまうからだ。

 

リビングでは、ほむらと手塚が対面する形で座っている。

先ほどの閃光弾はほむらが投げた物。トークベントをひそかに発動していたおかげで、連携が上手くいった。

そもそも手塚は初めから杏子達に勝てるとは思っていなかった。

さやかがいる以上、撤退が賢いと判断したのだ。

 

 

「それで、改めて佐倉杏子の印象は?」

 

「アイツは危険だ。仲間にするのは諦めた方がいい」

 

 

手塚の言葉に、ほむらは少し眉を動かした。

 

 

「パートナーの方は?」

 

「最悪だ。佐倉杏子よりも酷いかもしれない」

 

「やはり影響を受けたのかしら?」

 

「まともな思考回路なら人間は普通、こんなゲームに乗るのを戸惑う」

 

 

良心や道徳が、他者を傷つけると言うことにセーブをかける。

ネットでは誹謗中傷が溢れているかもしれないが、面と面とを向かい合わせれば多少は抑制される。

それが現実であると言うことだ。

 

にも関わらず、王蛇ペアには迷いがない。

他者を傷つけることをゲームの一環であると割り切っている。

一体どんな生活を送ってきたのならば、ああなると言うのか? 手塚にはよく分からなかった。

 

 

「そう……」

 

「お前も気をつけろ。向こうは本気だ」

 

「分かったわ。ところで、今日は学校じゃなかったの?」

 

 

ほむらはまだ中学生と言う事もあってか、ほぼ毎日休んでいるが、手塚は高校生だ。単位や出席日数など、面倒な制約もあろう。

ほむらも悪いとは思いつつ、手塚をいろいろ付き合わせたりしているわけで。

ただでさえサボりがちになっているのに大丈夫なのだろうか?

 

 

「ああ、実は――」

 

「?」

 

 

今日、手塚はちゃんと学校に行っていた。

いつもの様に授業を受けていたが、突然教室の窓ガラスが割れる事件が起きた。

騒ぐ生徒達と、それを落ち着けようとする教師。

教室が軽くパニックになっている中で、手塚の耳に聞こえる声。

 

 

「素敵な騎士さん、ちょいとお話が」

 

「ッ!!」

 

 

敵か!?

手塚はすぐにデッキを構えて周りを見る。

しかし、どこにもそれらしい影は無く、パニックになる生徒達しか見えなかった。

 

そして感じる違和感。

いつのまにか手塚の机の上に、『手書きの地図』が置いてあったのだ。

見滝原を描いた地図には×マークが記してある。学校からは近かった。

 

 

「今、そこで戦いが起こってる」

 

「!!」

 

 

姿の見えない声はさらに続ける。

 

 

「参戦派の魔法少女が、幼女と青い魔法少女を痛めつけている。早くしなければ危険だお」

 

(だお……?)

 

「データではあんたは協力派の筈。助けてあげれば? 今なら幼女と女子中学生に惚れられるかもよ。したらハーレムルートじゃけぇ、うらやましいのぉ!」

 

「おい、誰なんだお前は」

 

 

それだけだった。それだけ言って、声は聞こえなくなった。

手塚はその時、石ころが宙に浮いているのを見つけた。

石はそのまま床に落ち、先生がそれを見つけて『窓が割れたのは誰かが石を投げたから』と言う事になった。

 

 

「………」

 

 

手塚は地図を見ながら頭を抑える。

まず罠を疑う。あまりにも不自然な接触に、誘導ともとれる内容。

だが、もしも声の言う事が本当なら、今頃参戦派が魔法少女を二人も殺そうとしている。

 

だから手塚は悩んだ末に、この話に乗る事を決めた。

教師に具合が悪くなったと投げやりに告げて、手塚は目的の場所に向かったのだ。

 

 

「そう。その声に聞き覚えは?」

 

「ない。俺は他の参加者とあまり接点が無いからな。もしもお前の知り合いだった場合、姿を隠す必要は無い筈だ。そちらの可能性も低いだろう」

 

「そうね。敵かどうか微妙なライン、と言うことかしら」

 

 

ほむらは顎を軽く触り、虚空を見つめる。

 

 

「取り合えず、今はまだ様子を見ましょう。今回のような連中が現れれば対処していく形で」

 

「わかった。彼女(さやか)はどうするつもりだ? お前の知り合いなんだろう」

 

「浅海サキに迎えに来てもらうわ。貴方はもう帰っていいから」

 

 

手塚は時計を見る。

帰ってもいいが、パートナーは共に過ごす時間が長いとカードが生まれるメリットがある。

やはりこのゲーム、上手く立ち回っていくにはカードの存在は必要不可欠だ。

ライアのカードは少々トリッキーなものが多い。純粋な実力勝負に持ち込めない以上、種類は多いほうが良かった。

 

 

「……帰りたくなければ、別にココにいてもいいわ。もちろん貴方がよければだけど」

 

「悪いな。邪魔でなければ、そうさせてもらうよ。今回の戦闘でもう少しカードを増やしておきたいと実感したからな」

 

 

両者納得して、しばらくの間リビングで過ごすことにした。

しかし当然ながら二人で一緒に何かをして過ごすと言う事はない。

ほむらは自分で製作した資料を読みふけり、手塚は占いの本を読みふけり。

 

 

「………」「………」

 

 

同じ部屋にいながら、二人はバラバラに過ごす。

他人から見ればかなり気まずい雰囲気だろうが、手塚達は特に気にする事なくそ時間を過ごしていた。

 

だが、しばらくして手塚は気づいた。

そもそも『絆』の力とはどうやって上げていくものなのだろうか?

いくらなんでもアバウトすぎる。

 

カードが生まれる回数も、なんだか下がって来た気がする。

それはつまり、ここいらでもう一段階、親密になっておかなければ、どれだけ同じ時間を共有しても意味がないのではないだろうか?

 

手塚は本を閉じた。

仕方ない、ここは一つ、コミュニケーションだ。

 

 

「お前、一人暮らしなのか?」

 

「………」

 

 

うるせぇ、黙ってろ。そんな目線が飛んできた。

いや、いや、考えすぎだ。手塚は小さく首を振ってマイナスイメージを吹き飛ばす。

いつもだったらココで引いていたが、レッツコミュニケーションだ。

 

 

「そんな目で見るなよ。ちょっと気になっただけだ」

 

「………」

 

ほむらはジットリと手塚を見ていた。

いや、睨みつけていた。

 

 

「わ、わかった。答えたくないなら――」

 

「……ええ、一応」

 

「そ、そうか」

 

 

いきなり答えるなよ。

手塚は怯んでしまったが、レッツコミュ(略

 

 

「好きな食べ物とかあるのか?」

 

「………」

 

「占いだと、よくラッキーフードが出てくるんだ」

 

「………」

 

「でもいきなりタコライスとか出ても困るよな。ハハ――……」

 

「………」

 

「ハ……」

 

「………」

 

「………」

 

 

なぜ氷のようになる。

なぜ答えない。なぜ黙る。

手塚はラビリンスに突入した。

レスポンスが遅いなんてレベルじゃない。ほむらは口を閉じて、ジッと手塚を見つめていた。

 

何が見えてるんだ。俺を見ているのか。そもそも俺は見えているのか?

もしかして俺は死んだのか。気づかないうちに隕石にでも打ち抜かれたのか?

手塚はしきりに背後を見るが、何も無い。虚空を見ているのか。そうなのか。

 

 

「い、今のはそんなに答えにくい質問だったか?」

 

「あなたもなんでしょう?」

 

「え? いやッ、何がだ?」

 

「一人暮らし」

 

「は? あ、ああ、その話か」

 

 

まだ終わってなかったのか。

手塚は表情を歪めながら頷く。

 

 

「そうだな高校近くにアパートがあって、そこで暮らしている」

 

「そう。ご両親は?」

 

「仕事で海外だ。ところで――」

 

「………」

 

「いや、なんでもない」

 

 

限界だった。会話終了である。

まあ、今日はこれくらいで十分だろう。

手塚は荷物をまとめはじめた。

 

 

「そろそろ帰るよ。邪魔したな」

 

「そう。カードはどうかしら?」

 

「デッキが光ってないからな」

 

 

念のため確認してみるが、やはりカードが増えた形跡は無かった。

そもそも、増えたらなんとなく頭の中に情報が入ってくるのだ。

 

 

「前回はフォーチュンベントだったか。その前に出たタイムベントの方が実用性も高い事を考えると、後半に出るカードの方が強力と言うわけでもないらしい」

 

「そうね、だけど全く使えないカードが出た時はないわ。これからもカードを増やす形でよさそうね」

 

 

二人はその事を了解し合うと、そのまま別れた。

それと入れ替わる様にしてサキがやってくる。同時に目を覚ますさやか。

 

 

「ヒッッ! あたし今ッ! どうなって!!」

 

「落ち着けさやか! ここはほむらの家だ!」

 

「え? あ……!」

 

 

さやかは疲れきっているようで、自分の状況を確認すると、後はもう何も言わなくなった。

 

 

「まあ、とにかく、無事でよかった」

 

 

サキはそこでほむらを見る。

 

 

「ほむら、様子見もいいが、一応学校の事も考えておいてくれよ」

 

「……そうね、考えておくわ」

 

「なら、いいが」

 

 

それだけ言って後は終わりだった。サキはさやかを連れて帰っていく。

一人になったほむらは、顎に手をあてて虚空を睨む。

 

 

(ゲーム開始から何日も休んでいると怪しまれるか? 逆にゲーム開始日から休んでいる生徒がいれば、参加者にたどり着ける……?)

 

 

そこで首を振る。

嫌なものだ。気がつけば、ゲームに勝つ為のルートを立てている自分がいる。

ほむらは、あくまでもワルプルギスを倒す方、つまり協力派だ。

 

邪魔者はいらないが、だからと言って殺戮を望んでいるワケじゃない。

イラつく。ほむらは舌打ちをして、また資料を広げた。

いずれにせよ今は勝利を『彼女』に与えるために。それだけを考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、我ながら今日はいい事をした」

 

『おや、また見つかってしまったね。最近はキミの顔しか見ていない気がするよ』

 

「うれしいだろ?」

 

 

キュゥべえに笑いかけるのは神那ニコ。今日も今日とて情報収集である。

ニコの魔法で生成された携帯アプリ『レジーナ・アイ』は条件を満たした相手を範囲内ではあるが、地図上に表示する事ができた。

おかげでキュゥべえとジュゥべえがどこにいるのか、街を歩いていればすぐに分かる。

 

 

『手塚海之に情報を与えたのはキミだね』

 

「あの蛇柄も変身したし、登録できた。ラッキーだね私」

 

『しかし分からない。キミは参戦派の筈だろう? どうして杏子の邪魔をしたんだい?』

 

「いじめ、かっこ悪いじゃん?」

 

『………』

 

「なーんつってね。嘘だよウソウソ」

 

 

ニコは携帯をスライドさせながら淡々と言葉を続けた。

 

 

「理由は二つあるのだぞう。まず一つ、あの赤いのが気に入らない」

 

『キミ達は例え同一の目的を共有していようが、感情と言う波を理由に意見を端的に変更する効率の悪い生き物だ』

 

「なに言ってるかワカンネェ」

 

 

ニコは笑い、画面に表示されている杏子を軽く指で弾いた。

結果的に邪魔はできた筈だ。それはニコにとって、満足のいく結末であった。

 

 

「あともう一つ。あそこで美樹さやかを消されるのは困る」

 

『と言うと?』

 

「釣り、したいかなって」

 

『釣り? 人間が趣味と称して魚の命を悪戯に奪う行為のことかい?』

 

「いや言いかた悪すぎるだろ。もっと、何かこう……、まあいいや」

 

 

そもそも、その『釣り』とは違う。

ニコは少し笑みを浮かべつつも、まだ携帯をスライドさせていた。

 

 

「釣りをするには、まず何と言っても魚を誘き寄せる餌が必要だ。そしてその餌が上等なら、それなりの魚も食いついてくれる」

 

『じゃあ、餌はよりよい物の方がいいね』

 

「そう。例えば――、"人魚姫"で魚を釣れたら面白いかもよ」

 

『ふぅん、そういう事かい。ジュゥべえから情報は貰っているみたいだね』

 

「ああ、きっと多くの魚が集まってくれる」

 

『なるほど。キミが何を考えているのか、視えてきたよ』

 

 

キュゥべえは無表情ながら、納得した様子だった。

 

 

「そもそもさ。参戦派が何のメリットもなしに参加者助けると思う?」

 

『ただ殺すだけがゲームではないと?』

 

「そゆこと。私以外にも同じ様な事を考えている奴はいるな。ソイツがたまたま"アレ"を狙ったのかは知らんけど」

 

『………』

 

「私は人魚姫が見たいんだ」

 

 

そして――

 

 

「それに群がる馬鹿もね。佐倉杏子とか、最もな例じゃないの?」

 

『……よく考えているね。神那ニコ』

 

「だろう?」

 

ニコは上辺だけの笑みを浮かべて、早速本題である『情報』をキュゥべえに求めた。

キュゥべえは聞きたい情報があれば、答えられるor答えていいと判断した場合、それに応じてくれるのだ。

 

尤も、全てを教えてくれる訳ではなかったり、意味深な言い方だったり、比喩だったりとストレートには教えてくれないが、それでもジュゥべえと違って知りたい情報に近づけるのは大きな強みだ。

早速ニコは今日疑問に思ったことをぶつけてみる。

 

 

「このゲームのパワーバランスについて――」

 

 

ニコが今日、初めて見た魔法少女、千歳ゆま。

彼女は明らかに他の参加者よりも年齢が低い。小学生、それも低学年だろう。

精神的にも肉体的にも特別という訳ではなく、はっきり言ってしまえば弱い部類に入る筈だ。

 

当然それは彼女だけでなく、パートナーにも影響してくる。

勝率が低くなる事は必須だ。つまり、ゆまは足手まとい。

 

 

「騎士と魔法少女のペアは何で決まる? あと参加者の実力差はだいたいどの程度なのか?」

 

『答えられるのは一つだよ』

 

「ドけち。じゃあ後者のヤツで」

 

 

実力差。

これでもし『平均的』と答えられれば、ゆまのパートナーは化け物クラスかもしれない。そうなると早めに殺しておきたい所だ。

 

カードシステムの都合上、戦いが長引けば騎士にはより多くのカードが与えられていく。とは言え、戦いには立ち回り方というものがある。

杏子の様に強引に行くヤツや、ニコのように慎重に行くステルス組み。

 

F・Gは純粋な殴り合いの戦いじゃない。生き残り制度の殺し合いだ。

その点を考えると、ニコとしては表に立つ様な事はなるべく避けたかった。

 

 

『そうだね。平均的とは言えないな』

 

「おいおい、じゃあ化け物ペアがいたりすんの? それ酷くね? 出来レースじゃん」

 

『運も実力の内って事さ。ちょっとした仕掛けがあってね』

 

「なにそれ?」

 

 

ニコが詳細を求めるが、キュゥべえはそれには答えなかった。

 

 

『大きな情報だ。次はジュゥべえを見つけて続きを聞いてくれ』

 

「ダブルで見つけないといけないほどの情報か。期待していいんだな?」

 

『モチベーションが大きく変わってしまうかもしれないからね。でもヒントくらいはあげるよ。実力差の最もたる要素は"デッキ"かな』

 

「って事は、騎士側に注意しろって事ね」

 

『もちろん魔法少女の中にも強力な魔法を持っている者達は多いけどね。ボクは、キミの能力も凄いと思うけれど』

 

「サンキュー、ばっちこーん☆!」

 

 

ニコは自分で効果音をつけながらウインクを一発。

しかし参加者の実力が平均的ではないと言う事を考えると、また動き方も変わってくる。

一番強いと思われる参加者を見つけておきたいが……、はたしてどうなるか。

 

 

「何? やっぱ優勝候補とかいんの?」

 

『近い者はいるかもね』

 

「………」

 

 

優勝候補、平均的ではない実力。

わざわざ設定されたルール。それを称するのはゲームと言う名称。

突き詰めて考える。ゲームとは何か? なんのためにゲームをするのか。

そして、何よりもゲームを――。

 

 

『神那ニコ』

 

「っ?」

 

『賢い判断を――、キミにはしてもらいたいね』

 

 

キュゥべえの背後に現れる黒コートの魔女、キトリー。

わざわざキュゥべえの被り物をしている点を見ると、魔女は『信者』と言ってもいいくらいにキュゥべえを崇拝しているらしい。

 

 

「………」

 

 

ニコはもう何も言わなかった。

魔法を使い、一瞬でキュゥべえの前から姿を消した。

また見つけてやると言い残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とにかく家からは出るな。それを破ったのはキミだよ、分かってるね?」

 

「……うん、ごめん。サキさん」

 

「分かってくれればいいさ、無事でよかったよ」

 

 

サキの家。

さやかは落ち着いたようで、やっと笑顔を浮かべた。

サキはさやかから全ての事情を聞いて、事を把握した。

 

 

「しかし実感が湧かないな。私達が既に死んでいるなんて」

 

「アイツが適当に言ったウソかもしれないから、あんまり気にしないで」

 

「まあ、仮に死んでいたとしても、こうして動いているワケだし」

 

 

いや、それがゾンビと言うのか。サキは表情を歪める。

食べなくても死なない。寝なくても死なない。やろうと思えば息をしなくても死なない体。

 

成長は魔法でできる。

しかし本当の成長はしない。もちろん病気にもならないし、子供はつくれない。

それは体が契約した時点で固定されてしまうから。

 

 

(果たしてそれは生きていると言えるんだろうか?)

 

 

何気なく生きていれば。ソウルジェムはそれを読み取ってくれる。

もちろんその状態ならば成長する事だって可能だ、現にサキの魔法には『成長』が関与していた。

 

 

「ソウルジェムか……」

 

 

問題はサキ達はソウルジェムの能力をまだ使いきれてない事だ。

杏子が戦闘を楽しんでいた一環として痛覚遮断があったのだろう。

痛みを感じない時点で、攻撃を恐れる必要もない。

 

この時点で自分達は他の参加者と大きく出遅れている。

おそらくソウルジェムや、魔法を使いこなしている参加者はまだ多い筈。

 

人間の時と同じがいい。

そんな気持ちを持ったままでは、この先の戦いを潜り抜けるには少し心もとない。

せめて痛覚遮断くらいは覚えるべきなのだろうか? サキはため息をつく。

 

 

「ソウルジェムが魂で、肉体は器……」

 

 

サキはワルプルギスを倒す事を目的としている。

他の参加者を傷つけるつもりも、ましてや戦うつもりもない。

だがその考えが参戦派にとっては邪魔になる以上、杏子達とは必ず戦闘になってしまうだろう。

 

その時に他の仲間を守りきれるのか?

そもそも、ワルプルギスに勝てるのか?

はっきり言って、今のままでは不可能だろう。

 

 

("イル・フラース"を一刻も早く使いこなせるようにならなければ――ッ!!)

 

 

すると、さやかが笑った。

 

 

「あーあ、サキさんおなか減っちゃった」

 

「ああ。簡単なものなら作れるよ」

 

「えー? じゃ、期待しちゃおっか――……」

 

「?」

 

 

さやかの言葉が止まった。

先ほどまで笑顔だったのに、今は眉を顰めている。

 

 

「あ……」

 

 

さやかの視線の先には、ゆまが立っていた。

サキは、ゆまの事は全く聞いていなかった。

さやかは一人で外出して襲われたとばかり考えていたのだ。

だからサキには今の状況が何を意味するのか全く分からない。

 

 

「――さ」

 

「ぇ?」

 

 

さやかが小さな声で何かを呟く。

ゆまは青ざめている。さやかは、明確にゆまを睨んでいた。

 

あの時の行動は、仕方ないと言えばそうだろう。

それはさやかにも分かる。しかしそれで割り切れるほど、大人じゃなかった。

 

 

「アンタ……、何普通に帰ってきてんのさ……ッ!」

 

「あのっ! ゆま、ゆまは……」

 

「うるさいッッ!!」

 

 

さやかが叫ぶと、サキもゆまも肩を大きく震わせる。

さやかはゆまに詰め寄ると、思い切り罵倒の言葉を投げかける。

そんな事、さやかだって望んでいなかった筈なのに、何故か口からはゆまを責め立てる言葉しか出てこなかった。

 

 

「分かってんの!? ゆまが逃げたせいで! あたし殺されるところだったんだよ!」

 

「ゆ、ゆまの――、ゆまのせい?」

 

「おい止めろさやか! どうした? 何があったんだッ!?」

 

 

サキは何とかして二人を落ち着けようとするが、さやかはヒートアップしているのか言葉を止めようとしない。

そしてゆまも自分に非がある事を認めているのか、涙を流しながら必死にさやかに許しを請うている。

 

 

「さやかッ!!」

 

「ッ」

 

 

だがふと、冷静になる。

さやかは、自分のした事を理解したのか、何も言わずにサキ達から逃げる様に走り去った。

 

 

「待て!!」

 

 

叫ぶサキだが、そこでゆまの様子がおかしい事に気づく。

ゆまはうずくまり、ひたすらに謝罪の言葉を繰り返していた。

 

 

「グッ!!」

 

 

震えるゆまを見て、サキの脳裏にマミの姿が過ぎった。

マミは、ゆまをよろしく頼むと言った。何よりもゆまの姿が、サキの記憶を刺激していく。瞳の奥に見える『幼い女の子』と、ゆまの姿が一致していく。

 

だが、さやかを放ってはおけない。

まだ杏子が動いている可能性だってある。黒い魔法少女が動いている可能性だってある。

 

 

サキは頭がパンクしそうだった。

今すぐ意味もなく叫びたかった。そして今後もし、どちらか一人しか助けられない状況になったらどうすればいいのか?

そんなマイナスイメージが次々に湧き上がってくる。

 

サキはさやかを追うこともせず、ゆまを慰める事もなく。

ただその場にただ立ち尽くすだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あたし最低だッ! ゆまは何も悪くないのに――っ!)

 

 

自己嫌悪、さやかを苛む負のスパイラル。

ゆまを連れ出したのは自分なのに。

ゆまは危険だからやめた方がいいと、ちゃんと言っていたじゃないか。

それなのにゆまを連れ出し、危険に晒した。

 

 

(あたしの弱さをッ、ゆまのせいにするなんて!!)

 

 

サキの家から飛び出した後は、行く先も決めずにただ走っている。

さやかはずっと自分を責めていた。でなければ心が壊れてしまう。

ゆまへの罪悪感、杏子に負けた悔しさ、黒い魔法少女への恐怖。

 

その感情はさやかキャパシティを遥かにオーバーしていた。

誰か助けて。切にそう思う。これ以上誰かを傷つけるのも、傷つけられるのもたくさんだ。

 

マミに会いたい。慰めてもらいたい。

そう思うたびに、黒い魔法少女――、キリカが言った言葉が何度も再生される。

 

巴マミを殺し、須藤雅史を殺し。

このゲームのスタートのきっかけを作ったのは美樹さやか。

 

 

(違うッ、あたしのせいじゃ……! あたしのッッ!!)

 

「さやかちゃん?」

 

「!!」

 

 

苦しみの中で一筋の光が、さやかを照らした。

真っ黒だったさやかの心に、白い光を落としてくれる。

桃色の髪の少女は、その手にスーパーの袋を抱えてさやかを見ていた。

 

 

「ま……、どか」

 

「あれ? さやかちゃん大丈夫なの!? 今からサキさんの所に行こうと思ってた――」

 

 

ドサリと、まどかはスーパーの袋を落とした。

いきなりさやかに抱きしめられた事で驚いてしまったのだろう。

 

まどかは少し戸惑いながらも、さやかの肩が震えている事に気がついた。

それだけで十分だった。まどかはさやかを抱きしめ、頭を撫でる。

 

今すぐさやかを笑顔にしてあげたい。

しかし自分にそんな力は無いと、まどかは知っていた。

それでも何もしないのは嫌だった。だからせめて自分にできる事があれば、なんだっていい。

 

なんでもいいから、少しでもさやかが苦しくないようにしてあげたかった。

だからまどかは、さやかを抱きしめる。

 

 

「まどかぁ……、もうやだよぉぉ……ッ」

 

「うん、うん――ッ」

 

 

さやかはボロボロと泣きながら自分の胸の内を打ち明けていく。

ゆまの事も、上条の事も、F・Gの事も。何をやっても思い通りにいかない。

心が限界だった。

 

 

「苦しいよぉ、怖いよぉ……ッッ」

 

 

さやかは胸の内を次々に吐露していく。

まどかもまた限界だった。さやかに釣られてボロボロと泣き出してしまう。

 

 

「大丈夫、さやかちゃん。わたしはいつまでもさやかちゃんの味方だから――」

 

「まどか……! ほんと?」

 

「うん、だから絶対皆で生きてゲームを終わらせようね」

 

「うん……!」

 

「ゆまちゃんと仲直りしようね」

 

「許してくれるかな……?」

 

「大丈夫。わたしも一緒に謝るから」

 

 

抱きしめあい、寄り添う二人。

周りには誰もいない。

 

しかし、頭上にはエリーが浮かんでいた。

 

 

「あはは! うふ! あハはハハハはハははハァア!!」

 

13番はひたすらに笑い転げていた。

そして、織莉子はゆっくりと目を開く。

 

 

「……視えました」

 

 

織莉子の屋敷では仲間が集まっていた。

織莉子達の目的は、美樹さやかを絶望させて殺す事。

それが揺るいだ事はない。逆を言えば、それだけの狙いがあった。

 

 

「順調だよ織莉子! もうすぐ限界くるんじゃないかな!」

 

 

キリカは織莉子の周りを飽きもせずピョンピョン飛び回っている。

もうこれで32週目だ。その様子を佐野満はうんざりした様子で見ている。

すると笑い声が止まった。13番は体を起こすと、織莉子を睨む。

 

 

「そろそろ動くべきだ」

 

「……ええ」

 

「あーあ、やっぱりちょっと可哀想だけどなぁ」

 

 

織莉子が佐野を睨むと、佐野は何も喋らなかった。

 

 

「確かにもう美樹さやかは限界を迎えようとしている。仲間内の不和も高まった今、動かぬ理由は無いですね」

 

「って言うか、アンタの力。確立判定? あれ使ったんでしょ?」

 

 

織莉子は自らの力が"確立判定"であると告げていた。

ある予想を提示すれば、その結果が確立となって織莉子に伝わる。

 

先ほど目を閉じていたのは確立を判定するためだった。

織莉子は戦いが始まる前から美樹さやかと言う人間をある程度調べてきた。

そして下す判断――

 

 

「動きましょう。数字は限りなく100%を示しています」

 

「む! ついにやるんだね!!」

 

「ええ。明日、美樹さやかを殺す」

 

 

殺す。その言葉に佐野は反応を示した。

笑ってはいるが、額には汗が見える。

どうやらあまり乗り気と言う訳でもないようだ。

やはり命を奪うと言う事に抵抗があるのは当然の事か。

 

だがそんな言い訳を通せる程ゲームは甘くない。

もちろん佐野も分かっているからこそ、何も言わなかった。

 

 

「我々は勝利しなければなりません。それを世界も望んでいる事でしょう」

 

 

織莉子はそう言って13を見た。

アイコンタクトだ。13番は理解し、前に出る。

 

 

「映像を見ますか?」

 

「いらない。もう"声"と"見た目"は分かってる」

 

「……期待しています」

 

「ああ。人の心は簡単に壊れる。お豆腐よりも崩れやすいってね」

 

 

13番はニヤリと笑った。笑っているのは彼女一人だけだ。

織莉子もキリカも佐野も、無言で13番の言葉を聞いていた。

そんな場違いな雰囲気にも関わらず、13番はケラケラと笑い続けていた。

 

 

「だから早く、苦しみから解放させるんです」

 

 

それは慈悲だ。

救うために苦しめて殺すとは、なんとも矛盾している。

しかし織莉子にとってはそれが正しい答えであった。

 

美樹さやかは確実に死ぬ。これは確定だ。

そしてその瞬間、織莉子には終わりが視える。

しかしイレギュラーもまた存在する事は確か。その存在が脅威となる前に決着をつけたいというのが織莉子の本音だった。

 

 

「では、お願いします」

 

「分かってる。絶望のフルコースをご馳走してやるさ」

 

 

13番は踵を返して消失する。同じくして佐野も歩き去った。

 

 

「うまくいくといいね、織莉子!」

 

「うん……、そうね」

 

 

フワリと、織莉子の雰囲気が緩くなった。

どうやら心を開けるのはキリカだけらしい。

キリカにとっても、織莉子は無くてはらないほど大切な存在である。

 

 

「そういえばキリカ。最近パートナーさんとはどうなの?」

 

「ムッ! アイツの話はしなくていいよ! 私はアイツが世界で一番嫌いなんだから!!」

 

 

キリカの怒り顔を見て織莉子は小さく笑う。

パートナー同士が全て良好な関係と言うわけじゃない。

最近は名前の文字を少し出すだけで、キリカは不愉快だと叫びだしてしまう程だった。

 

 

「アイツ! 織莉子のしてる事が間違ってるって! パートナーじゃなかったら八つ裂きだよッ!!」

 

 

織莉子はそれを聞いて苦笑するが、どうやら本気でキリカは怒っている様だ。

 

 

「私は織莉子がいればそれでいいんだ! それ以外は何もいらない! あんなヤツ宇宙の塵にでもなってしまえばいいんだーッ!!」

 

「ふふっ、ありがとう、キリカ」

 

 

織莉子はキリカを抱きしめると、ゆっくりと目を閉じる。

もう少しの辛抱でいい。この戦いも、争いも、悲しみも。

きっと全て終わるから。きっと全て終わらせられるから。

 

 

「だからもう少しだけついて来て。私達の世界を守るために」

 

「心配しないで織莉子。私は君の剣なんだから」

 

 

キリカは織莉子から離れると、その目の色を変える。

あどけなかった少女の空気が狂気の色に染まっていった。

キリカは部屋を出て、入り口まで歩く。そこで待機していた佐野に合流した。

 

 

「バイト君、君のモンスターを借りるよ」

 

「大事にしてくださいね。一応オレの分身なんだから」

 

 

佐野が合図を送ると、どこからともなくガゼル型のモンスターキリカの前に現れる。

佐野の鏡像(ミラーモンスター)・『メガゼール』は、一体一体で見れば参加者の中で最弱かもしれない。

しかしその武器は『数』である、ガゼルモンスター達は集団こそが真の特徴なのだ。

リーダーの『ギガゼール』を筆頭に、無数のメガゼールが現れ、キリカに続く。

 

 

「行ってくるよ織莉子」

 

 

 

そう言ってキリカは薔薇庭園を抜け出していく。

同時に佐野も目的の場所へと向かう様だ。大きく伸びを行うと、一歩足を前に。

 

 

「佐野さん」

 

「ん?」

 

織莉子に呼び止められた。

どうしても『ある情報』を伝えなければならなかったからだ。

佐野もそれを聞くと了解したようで、薔薇庭園を離れていった。

 

 

 

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