仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第17話 人魚姫 姫魚人 話71第

 

「最近、何かあったろ」

 

「え……?」

 

 

翌日、朝、詢子は歯を磨いていた。

まどかはギョッとしたように肩を竦める。

 

いきなりそんな事を言われるなんて思っても見なかった。

一応、そんな事は無いと笑ってみせるが、鹿目まどかは嘘のつけない少女なのだ。

 

気づけば明日でマミが死んで7日目だった。

つまり見滝原を中心に円形のエリアが指定され、そこから出ると死ぬことになる。

結局、何もできずにタイムリミットが来てしまった。

 

そうした余裕の無さが表情に出てしまったようだ。

なるべく家族には心配をかけたくないと考えていたが、そこまで器用な性格ではない。

 

 

「ま、中学生っていろいろあるんだろうけども。何かあったらいつでもいいなよ?」

 

「うん。ありがとうママ……」

 

 

詢子は会社だ。用意があるため、さっさと洗面所を出て行く。

残されたまどかは鏡を見てみる。どこか違和感は無いだろうか? 最近はめっきり笑わなくなった気がする。

 

それはそうだろう。

こんな状況じゃ笑えない。ましてや明日には全ての参加者が見滝原に集まることになる。一体どうなるのか、不安でたまらなかった。

 

真司も結局蓮は見つけられなかった様だ。

ましてかずみも行方不明、ほむらは連絡をしようにも――

 

 

『大丈夫、何も問題ないわ。貴女は心配しなくていいから』

 

 

その一点張りで、まともに会話をしてくれない。

それにそれに、さやかにも何もしてあげられなかった。

 

 

「はぁ」

 

 

魔法少女として契約を交わした時、人の役に立ちたいと願った筈だ。

にも関わらず現状は誰一人として救えていないし、助けられても無い。

そんな現実が悔しくて悔しくて堪らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、まどか」

 

「おはよう、お姉ちゃん」

 

 

家を出ようとすると、丁度サキが迎えに来てくれた。

二人はそのまま学校を目指す。

 

 

「さやかちゃん、ゆまちゃんと仲直りできた?」

 

「まあ、一応はね」

 

 

さやかはゴメンと頭を下げた。

ゆまはこちらこそと頭を下げた。

それで終わりだ。後はもう二人を信じるしかないだろう。

 

 

「真司さんはどうだ?」

 

「うん、頻繁にメールしてくれてるよ。でもやっぱり蓮さんもかずみちゃんも……」

 

「そうか。しかし何故かずみまでいなくなる必要があったんだ?」

 

 

いくら蓮になついているとは言え、何の連絡もなしにと言うのはおかしな話だ。

 

 

((まさか!))

 

 

同時に思う。

 

 

「し、心配だね!」

 

「ああ……!」

 

「危ない目にあってないかな?」

 

「え? あ……」

 

 

サキは己を恥じた。

まどかとは、全く逆のことを考えていたからだ。

 

 

「大丈夫だよ。かずみがいるんだ。彼女は強いだろう?」

 

「そ、そっか。うん、そうだね。きっと大丈夫……」

 

「………」

 

 

この所、サキはずっと悩んでいた。

無駄に苦しんでいるのは『協力派』にいるからと錯覚していた。

現に杏子達をはじめとした『参戦派』は魔法少女集会の時に、何の迷いもなく己の道を示していた。その差が心に突き刺さる。

 

サキは迷い、ウダウダと悩むだけ。

そんな事じゃ心の力が負けてしまう。ならばいっそ、参戦派になって割り切ってしまえば楽になれるんじゃないのか。

そんな事を頻繁に考える様になってしまった。

 

もちろんそれが許されるワケが無い。

サキだって分かってる。だから何も言わないのだ。

その後、仁美が加わって三人での登校となった。

なんだか今日は仁美の元気もないような気がする。

 

 

「あの……、さやかさんは?」

 

「え?」

 

 

サキと別れ、教室に入った時、仁美が申し訳なさそうに聞いてきた。

 

 

「あ、まださやかちゃん体調が悪いみたいで……」

 

「そう、ですの」

 

「どうかしたの? もしかしてこの前のこと?」

 

 

まどかには一つ心当たりがあった。ハンバーガーショップでの出来事だ。

それを問うと、仁美も無言で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わり、生徒達はそれぞれ部活や帰路の選択をたどる。

さやかが『バイトに行きたい』とメールが来たので、サキは早足で道を進んでいた。

 

まどかは仁美と何やら話があるらしく、今はサキ一人だ。

そして街の方へ出た時だった。何やら人ごみが出来ているのを発見する。

目立つ場所だったので、人もそれなりに集まっている。

何だろうか? 少し気になってサキは視線を向けてみた。

 

 

「サキー! あ・さ・み・サキさぁぁぁん! いらっしゃいますかーっ! サキさーん!!」

 

「なっ!!」

 

 

人ごみの中心にいるのは全く見覚えの無い少女だった。

周囲の目を気にする事なく、大声でサキの名前を呼んでいるじゃないか。

 

 

「あれー!? おっかしぃーな! この道を通るって聞いてたのになぁ。サキさーん! 浅海さーんッッ!!」

 

 

声が掠れるほどに叫ぶ少女。当然、それは奇行でしかない。

 

「なにアレ、ヤバくない?」

 

「こわーい! あはは!」

 

「おいあんま見るな。目を合わせちゃいけないヤツだ」

 

「メンヘラって本当にいたんだな……」

 

「浅海サキって誰だよ?」

 

 

通りすがる人々の声を聞いて、すぐにサキは走り出した。

ゾッとする。何なんだ一体、とりあえずサキは人を掻き分けて、自分の名を呼ぶ呉キリカの腕を掴んだ。

 

 

「おりょ?」

 

「と、とりあえずコッチに来い!」

 

 

ザワつくギャラリーを無視してサキは走り出す。

 

 

(とりあえず面倒ごとは避けたい、ただでさえ忙しい時期なのに全く何なんだ!)

 

 

そのままサキはキリカを連れて人気の無い公園までやってくる。

息を切らすサキと、ヘラヘラ笑みを浮かべて揺れているキリカ。

 

 

「何なんだ一体! 誰だキミは!?」

 

「えへへー、誰だっていいよー。それより浅海サキって人知らない?」

 

「はぁ? 何で探している本人が知らないんだ……!」

 

 

ますます意味が分からない。

だが、必死にに探しているのだから名乗り出ない訳にもいかないだろう。

 

 

「私が浅海サキだ」

 

「オォ! なんと!」

 

 

するとキリカの表情がとたんに輝き、握手まで強引にしてきた。

 

 

「会いたかったよーっ! 何せキミの足止めしなきゃいけないのに、顔ぜんぜん覚えてなかったからさぁ! へへー!」

 

「そ、そうか……」

 

 

ん? ちょっと待て。

今この娘は何と――?

 

 

「あわよくば殺しちゃおうかなって! へーんしん!!」

 

「ッ!!」

 

 

キリカが無邪気な笑みを浮かべると同時に、衣装が魔法少女のものへと変わった。

瞬間的に後ろへ跳ぶサキ。やられた、エキセントリックな態度に怯まされていたせいで。

 

 

「お前ッ! ゲームの参加者か!!」

 

 

素早く変身を行うサキ。

もしも後ろに跳んでいなかった場合、キリカが振るった爪に切り裂かれていただろう。

変身してからの即攻撃、キリカが参戦派だと言うことを示す何よりの証拠だった。

 

 

「ああ、そうだとも! キミを倒す正義の味方、魔法少女キリカさんさ!」

 

「!」

 

 

同じくしてキリカの後ろに二体のガゼル型モンスター、メガゼールが現れる。

 

 

(騎士が潜んでいる可能性も高いか?)

 

 

そこでサキは気づく。

キリカの姿。どこからどう見ても――、黒。

 

 

「お前かッ」

 

「はい?」

 

「さやかを狙ったのはお前かァアッ!!」

 

 

サキの体が激しい放電を起こす。

それは威嚇の為? 力の解放? それともただのパフォーマンス?

いいや違う、サキもまた無意識のうちにゲームの狂気に呑まれていく。

 

 

「殺すッ! 私の仲間を傷つけた罪は重いぞッ!!」

 

「あハハ! ビリビリちゃんにでーきるーかなー?」

 

 

憎悪の雷を見ても、キリカはケラケラと笑うだけだった。

キリカの脳に『恐怖』などと言う文字はない。

 

 

「全ては愛する織莉子へ捧げる一閃! 刻んであげるよ!!」

 

 

キリカは自らの武器である『黒い爪』を展開させる。

袖から伸びる魔法の刃は、引っかいた物を細切れに変えるのだ。

サキもまた武器である短鞭を出現させた。さらに人の目を避ける為に、魔法結界を発動してキリカを引きずり込む。

 

 

「わあ! 綺麗な結界! お花の柄だ! アジサイ?」

 

「スズランだ……!」

 

「興味ないなァ、ってなワケで、ゴーッ!」

 

 

キリカが腕を伸ばすと、それを合図にしてメガゼールが走り出す。

サキは地面を蹴って走り出す。そのまま飛び上がり、まずは向かってきた一体の頭を踏みつけた。

 

 

「お前らみたいな連中の為に――ッ! どうして私達が傷つかなければならないッ!」

 

 

二体目の前に着地すると、そのままハイキックで頭部を打った。

とても中学生の女の子とは思えない程の蹴りである。威力、スピード、共に申し分ない。さらに脚は帯電しており、メガゼールは麻痺しながら地面を転がる。

 

 

「へえ、すごいね」

 

 

キリカは思わず口笛で煽ってみせた。

そして自らも地面を蹴り、ヘラヘラしながら走り出す。

 

 

「キミ達は今までどれだけ満たされていたんだろうね! だからそんな事が言えるんだ!」

 

 

黒い残像が幾重にも重なる。

高速で振るう爪はリーチもある。サキは後退して回避していくが、いくつかは掠ったのか血が見える。

 

しかしそこで爪が止まった。

首をかしげるキリカ、別に寸止めをしたつもりなどない。

ならば何故――?

 

 

「ッ!」

 

 

理解する。

サキは回避の中で鞭を伸ばしていた。

伸びた鞭は自由自在に操れるらしい。空中で何度か折れ曲がり、キリカの腕をガッチリと巻きつけていた。

 

 

「満たされる? ふざけるなよ……! だったらお前達は満たされていないから他者を巻き込んで願いを叶えると!?」

 

「当然だよ! キミには分からない! 私達の事なんか――!」

 

「っるさいんだよォオオ!!」

 

 

サキは踏み込み、前に出た。

手を広げ、そのままキリカの顔を掴む。

そこへ最大出力の電撃を浴びせていった。

 

手加減は無い。

魔女を殺す威力で雷撃をキリカにぶつけていく。

いざ目の前に敵を見ると感情が爆発してしまう。一刻も早く平和を乱す敵を排除しようと、体が動き出してしまうのだ。

 

 

「キキキキキ!」「ギギギギギ!」

 

「ぐあぁああッ!!」

 

 

しかしそこで背中に強烈な痛みを感じる。

二体のメガゼールの爪が、背中をえぐる様に刺さり込んでいた。

サキは痛みに声をあげ、力を緩めてしまう

 

 

「こんのッ!!」

 

「グッ!!」

 

 

解放されたキリカは、跳躍しながらの膝蹴りでサキの顎を打った。

さらに落下様に一回転、そのまま爪を振り下ろす。

 

サキは反応すると、腕を盾にして爪を受け止めた。

刃が食い込み、血が流れる。

キリカも力を込めても切断には至らないと判断したのか、そこで腕を引き戻しつつ、回転しながらしゃがみ込んだ。

 

そのまま爪を突き出す。

爪は切るだけではなく、鈍器としても使用できる。

回転しながら迫る棒といえばいいか。黒い爪はサキの右膝を打ち、さらにキリカは逆回転、

今度は左膝を打った。

 

足を攻撃されたことで、サキは大きくフラついてしまう。

それを好機と見たか、キリカはバックステップをしながら腕を振るった。

後ろに跳んだことで、爪のリーチからは完全に外れてしまうが、問題は無い。

 

 

「ステッピングファング!!」

 

「グアァア!!」

 

 

爪が分離すると、そのまま猛スピードで飛んでいく。

飛び道具としても使用できるのだ。黒い刃はそのままサキの肩や腿を抉った。

 

鮮血が公園の地面に降り注ぐ。

まだ終わらない。メガゼール達の飛び蹴りが加わり、サキは地面を転がっていく。

 

 

「キミには分からないッ! 私達の思いは――! 彼女の苦しみは!!」

 

「知るかそんな事ッ!! どうだっていい! お前らは敵だッ!!」

 

「そう! 私にとっても、キミ達は邪魔なんだよッ! だから消す! 簡単なルールだね全く!!」

 

 

キリカのスピードが爆発的に上がったのはその時だった。

まさに黒き閃光だ。気づけば前にいた筈のキリカの声が、後ろから聞こえてきた。

同時に肩に傷。サキには全く見えなかった。いつの間に切られたと言うのか。

 

 

「キキキキッ!」

 

「ギギギギッ!」

 

 

殴りかかってくるメガゼール。

それを対処していると、また焼けるような痛みが全身に走った。

サキは表情を歪ませ、歯を食いしばる。

戦いたくないと願っているのに欲するのは戦いの力だ。

今すぐに目の前にいる障害を消し炭にしたい、そんな想いが。

 

 

「死んでよ! 浅海サキ!!」

 

「……ッ!」

 

 

キリカは爪を立ててサキの首を狙った。

猛スピードのキリカをサキは視覚できない、このままでは殺される。

それはゲームオーバー、勝負はこのまま決まってしまうのか――?

 

 

「イル――」

 

「ッ?」

 

「フラース」

 

 

瞬間、キリカが狙っていたサキの首が消える。

サキが、消える。

 

 

「え!?」

 

 

キリカはスピードには自信があった。

魔法も関係している。だからこそだ。

 

だがサキを見失った。

テレポートの魔法でも使ったのだろうか?

キリカは急いで周囲を見る。

そこで、見つけた。

 

 

「なっ!」

 

「ギィイイイイイイイイイ!!」

 

 

サキはキリカから少し離れた所でしっかりと立っていた。

右手に持った鞭で、メガゼールの首を絞めている。

そして左手はもう一体のメガゼールを掴み、真上に掲げている所だった。

 

いくら魔法で身体能力を強化しているとはいえ、あんな簡単に片手でメガゼールを持ち上げる事ができるのか?

 

 

 

「消えろ」

 

「!」

 

 

サキのその言葉と共に、掴んでいたメガゼールが雷光の中に消えていく。

一瞬で黒焦げになり、消滅した。

そしていつのまにかもう一体のメガゼールの首が無くなっていた。

 

サキが鞭の力を強めたのだろう。

締め付ける鞭はギロチンとなり、罪人の首を切り落とす。

なんなんだ? キリカはサキを攻撃しようと爪を構える。

 

 

「遅いな」

 

「え?」

 

 

サキはまた一瞬で消え、キリカの背後に回りこんでいた。

 

 

(速さで負けた!? このレベルでもまだ目で追えな――)

 

 

キリカは振り返り様に爪を振るうが、そこにサキはいなかった。

 

 

「くらぇエエエッッ!!」

 

「アガァァアア!!」

 

 

キリカのわき腹に、雷を纏った掌底がめり込んでいる。

次に見た景色は空、キリカの体が回転しながら吹き飛んでいる。

思考が飛び飛びになる、衝撃で意識を失っているのだろう。

 

ナメていた。馬鹿にしていた。見下していた。

キリカの脳に浅海サキと言う人物が危険リストの仲間入りを果たす。

まさかこれほどの力を持っていたなんて聞いてない。

今の一撃で多くの臓器が死んだ。骨もバラバラだ。

 

 

「ゥぅ……ッ」

 

 

しかし、なぜかサキもまた同時に倒れた。

不思議なことに髪が伸びている気がするが、どうなのだろうか?

 

どうやらサキは相当疲労しているらしく、呼吸が荒い。

隙だらけではあるが、キリカも絶大なダメージを負ってしまった様で動けない。

 

 

(うぅ、気絶しそう。そうなると織莉子の完璧な作戦が……!)

 

 

ならば答えは一つだった。

キリカは考えた結果、サキを諦めて撤退する方針をとる。

サキを殺せなかったのは納得がいかないが、今回の目的は浅海サキの殺害ではない。

二兎追うものは何とやら。織莉子に教えてもらった言葉にそんなのがあったけ?

 

 

「び、ビリビリちゃん、今回は消えてあげるよ――ッ!」

 

 

血を吹き出すキリカ。

魔力を全て回復にあてて、這うように逃げていく。

対してサキもまたキリカを睨んではいるが、動けない様だった。

ところどころから血が吹き出し、公園の地面を赤黒く染めていく。

 

 

(イルフラースがまだ使いこなせていない――ッ!!)

 

 

それに先ほどの掌底。

あれを打ち込んだ時、無意識に手加減をしてしまった。

 

 

(アイツはどう考えても殺しておくべきだった筈なのに……)

 

 

優しさではない、甘さ、弱さ。

 

 

(やはり、いっそ全てを捨てれば――)

 

 

戦えるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、時間は少し巻き戻る。

まどかは仁美と共に学校の門をくぐった。

仁美は緊張しているのか、ソワソワと落ち着きが無い。

それをまどかが落ち着けている。

 

 

「大丈夫だよ仁美ちゃん」

 

「で、でもやっぱりこう言う事は。考えれば考えるほど、私一人で勝手な事を……」

 

「でも自信があるんでしょ?」

 

「それは……、ええ。ですがやはり確信は無いわけで……」

 

「でも、さやかちゃんも駄目とは言ってないんだよね?」

 

「ええ、それは、はい」

 

「だったら……、大丈夫じゃないかな。さやかちゃんも仁美ちゃんの気持ちを分かってくれるよ」

 

 

まどかの言葉を聞いて、仁美は強く頷いた。

 

 

「そうですわね。そうですわ。はい! 行ってきます!」

 

 

まどかに背中を押してもらって、踏ん切りがついた様だ。

仁美はまどかにお礼を言って、先に行く。

 

 

「ねえねえ、キミちょっといいかな?」

 

「?」

 

 

突然だった。まどかは声を掛けられて振り返る。

見えたのは見知らぬ青年。誰だろう? まどかは記憶を探るが、目の前にいる男性とは会った事がない。

 

 

「キミ、鹿目まどかちゃん? 美樹さやかちゃんのお友達の?」

 

「は、はい。そうですけど」

 

「あ、俺ね。さやかちゃんのバイト仲間なんだけどさ」

 

 

まどかはさやかのバイトを詳しくは教えてもらわなかった。

バイトと言うか、せいぜい法律事務所で雑用を行っているとだけ。

それだけの認識だ。まどかとしてもバイトなんてした事が無いから、よく分からなかった。

 

法律事務所なんだから、当然他にも人はいるだろうと心の中で決め付けてしまう。

まどかは、そもそも『疑う』事をしないので、目の前にいる男性を安全だと決め付ける。

 

 

「ちょっとさやかちゃんの事で相談があるんだけどさ、付いてきてくれないかな?」

 

「あ、はい! わかりました!!」

 

 

それに青年は笑顔で好印象と言う感じ。

爽やかな雰囲気にまどかはすっかり妄信してしまう。

 

「あんまり人には聞かれたくない事なんだよね、だからちょっと場所を変えようか」

 

 

そう言って男はまどかを連れて、路地まで移動する。

 

 

「まどかちゃん、ごめんね!」

 

「え?」

 

「さっきまでの話、全部ウソなんだ。本当ゴメンっ!!」

 

 

そう言って、佐野満は笑いながら振り返った。

 

 

「ギギギ!」

 

「キキキ!」

 

「!!」

 

 

まどかが後ろを振り返ると、そこにはメガゼール。

まさか――、まどかは再び佐野に視線を移す。

するとそこにはVバックルを装備した佐野が見えた。

 

 

「ちょーっと痛い目みてね!」

 

 

佐野はデッキを左手に持ち、親指とひとさし指を立てた状態で前にだす。

さらにクロスするようにして、右手も同じポーズで突き出していた。

 

そして捻るように一回転させると、左手を上にした状態で同じポーズに戻る。

そして平行にした手を左右に広げ、右手の方は小指も立ててた。

伸ばした人差し指と小指が、ガゼルの角を表しているのだろう。

 

 

「変身!」

 

 

佐野はデッキを装填する。

すると鏡像が現れて彼に重なった。

現れたのは騎士『インペラー』、まどかは理解する。ゲームの参加者なのだと。

 

 

「へ、へんしん!」

 

 

敵なのだと。

まどかも変身して防御魔法を展開する。

ドーム状の光がまどかを包み込んだ。

 

 

「いきなり防御? ハハハ! まどかちゃんビビりすぎだって!」

 

「お、おちついてください! わたしは戦いたくなんてないんです!」

 

「うーん、オレは全然戦いたいんだよね! 困った事にさ!!」

 

 

そう言ってインペラーはステップ。まどかに近づくと、結界に蹴りを入れてみる。

衝撃が結界の中にまで伝わってくる。

まどかの愛想笑いが、一瞬、歪んだ。

 

 

「あれれ? 反撃しない感じ?」

 

「だ、だから――」

 

「ラッキー!」

 

 

雑魚で助かる。インペラーはさらに結界を蹴る。

メガゼール達も槍を突き出し、結界を削り始めた。

 

 

「お、お願いですから! やめてください!!」

 

「気持ちは分かるけどさぁ、戦わないと死んじゃうよッ!」

 

 

結界にヒビが入っていく。

しかしそれでもまどかはインペラーを止めようと叫び続けた。

意地でも攻撃をするつもりは無い様だ。しかしそれはインペラーにとってはサービス以外の何物でもない。

 

 

「無駄に固いなァ!」『スピンベント』

 

 

インペラーの手にドリル状の武器・『ガゼルスタップ』が装備される。

早速と刃が回転を始め、結界をガリガリ削っていく。

 

 

「お願いです! わたし達が戦う必要なんてない!」

 

「………」

 

 

インペラーは顔を逸らした。どうにもやりづらくて仕方ない。

 

 

「さっさと壊れろッ!!」

 

 

もう十分だ。

脆くなった結界は、蹴りの一発で簡単に壊れた。

怯むまどか。しかし流石の彼女も、このまま黙ってやられるわけにはいかなかった。

 

 

「ご、ごめんなさい!」『ユニオン』『アドベント』

 

「グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「は!? ってうわッッ!!」

 

 

衝撃と共にインペラーの体が吹き飛ぶ。

呼び出されたドラグレッダーはそのまま咆哮でメガゼール達を威嚇する。

ガゼルモンスターたちは巨大な龍に怯み、一瞬で動きを止めた。

 

そこへ放たれるドラゴンブレス。

赤い炎はメガゼールの群れに着弾すると、一瞬で粉々にしてみせる。

その威力に舌打ちを行うインペラー、こんなのがいたなんて予想外でしかない。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 

吼えるドラグレッダー。

しかし、まどかは複雑な表情を浮かべていた。

ドラグレッダーが助けてくれた事は嬉しいが、戦いを止めてほしいのに結局自分も攻撃をしてしまった。

 

それじゃあ意味がない。

インペラーが反撃をしてしまうからだ。

 

まどかとて、それが戦いなのは分かっている。

でもそれならば戦いを止めるなんて不可能じゃないか。

そのジレンマに苦悶の表情を浮かべた。

 

 

「来いッ!」『アドベント』

 

 

インペラーは右足にあるアンクレット型のガゼルバイザーにカードを入れた。

追加で二十体ほどのメガゼールを呼び出し、一勢にドラグレッダーに向かわせる。

あまり広くない路地だ。ドラグレッダーも思うように動けず、一方で素早いガゼルモンスターたちは次々にドラグレッダーに掴みかかり、動きを封じていく。

 

まどかもドラグレッダーを助けようとするが、それよりも他のガゼルの攻撃を受けて吹き飛ばされてしまった。

その隙にインペラーはデッキからカードを抜き取り、バイザーにセットした。

 

 

「こんなカードもあるんだぜ」『ロードベント』

 

 

インペラーの紋章型の首輪が現れた。

それを怯んでいるドラグレッダーに向けて投げる。

首輪はそのままドラグレッダーに装備され、すると――

 

 

「えっ!?」

 

 

ドラグレッダーの額にインペラーの紋章が浮かび上がった。

そしてドラグレッダーの瞳の色が、黄色から茶色に変色したではないか。

 

 

「悪いな、まどかちゃん。キミのモンスターは少しの間オレのもんだから」

 

「グゥゥゥゥゥゥウッ!!!」

 

「そ、そんな……!」

 

 

ミラーモンスターの洗脳。

ドラグレッダーは体を起こすと、事もあろうに守護するべきまどかの方へ口を向ける。

 

 

「あのドラゴンの炎と、オレ達の攻撃。あちゃー、もうまどかちゃんは終わりだね!」

 

「し、真司さん……! ごめんなさいっ!」

 

 

目を閉じるまどか。ここまでなのか――?

 

 

「ギギギギ!!」

 

「ギィイイイイイ!」

 

「!!」

 

 

しかしその時、ガゼルたちの悲鳴が聞こえる。

何が起きた!? 困惑するまどかと、インペラー。

 

 

「な、なに? なんだよ!?」

 

 

インペラーははすぐに何かの『カード』を発動させて、ガゼル達の中に隠れていった。

 

 

(織莉子に言われたとおりだ……!)

 

 

つくづくそう思う。

そして起こる爆発。爆風がガゼルやドラグレッダーを怯ませ、動きを封じていく。

 

 

「ほむらちゃん!!」

 

 

爆風の中から飛び出してきたのは、暁美ほむらだ。

すぐにメガゼール達は走り、飛び跳ね、ほむらに向かっていく。

 

そこで銃声が聞こえた。ほむらの手にあるのは、ハンドガン。

魔法少女とはかけ離れた武器ではあるが、まず一発目が先頭のメガゼールの足に命中する。

減速したところで、次は胴体に三発ほど。これで動きが完全に止まった。

 

ほむらは回し蹴りで、メガゼールを横に吹き飛ばす。

壁に叩きつけられ、地面に倒れたメガゼール。すぐに立ち上がろうとするが、そこで眉間に銃弾を食らって消滅した。

 

ほむらはハンドガンを投げ捨てると、前を睨む。

そこには次のメガゼールが迫ってくるのが見えた。

しかし、瞬間、爆発。『いつのまにか』ほむらの前に地雷が設置してあったようだ。

 

魔力で強化した爆発は、メガゼールを空中に打ち上げる。

ほむらは盾から『槍』を引き抜くと、それをそのまま投げた。

一直線に向かった刃は、メガゼールを貫くと、そのまま消滅させる。

 

 

「………」

 

 

まだメガゼールは沢山前方にいる。

ほむらは無言で盾の中に手を伸ばし、ショットガンを引き抜いた。

引き金を迷わず引く。散弾、乱射、乱射、乱射。

 

メガゼール達の体が火花が散り、大きく怯ませる。

ほむらが次に盾から取り出したのは日本刀だった。鞘を投げ捨てると、刃を振り回してガゼルたちを切りつけていく。

 

悲鳴が木霊した。

メガゼールの腕が、足が、首が飛ぶ。

ほむらも跳んだ。盾から手榴弾を抜くと、口でピンを抜いて、ガゼルの群れに投げる。

 

爆発が起こった。

まとめて砕け散るガゼルたち。さらにここで『なぜか』ドラグレッダーの首輪も爆発して、破壊された。

 

 

「グゥゥウ」

 

 

意識が戻ったのか、ドラグレッダーは気まずそうに唸り、消えていく。

ふと、ほむらは前方にインペラーの背中を見た。

 

 

「クロックアップ」

 

 

盾が動く。

すると、紫色の光がほむらを包んだ。

スピードが上がる魔法らしい。ほむらが走ると、すぐにインペラーに追いついてみせる。

 

ほむらの手には警棒があった。

ソレを思い切り振って、インペラーの頭部にヒットさせる。

 

当然警棒にも魔力が込められており、インペラー何も言わずに吹き飛び、倒れる。

ほむらは尚も足を進めて、インペラーの前に立った。

警棒を盾の中にしまうと、再び拳銃を取り出して、迷う事無くインペラーに向けた。

 

 

「ま、待ってほむらちゃん!!」

 

「………」

 

 

ほむらはまどかの制止を無視すると、インペラーの眉間に銃弾を撃ち込んだ。

小さく悲鳴を上げるまどか。しかし光と共に、インペラーの姿がメガゼールに変わった。

 

 

「!」

 

 

インペラーは、ほむらが来た事を察知するとカードの一つ"トリックベント"を発動させていた。

効果はメガゼールの一体をインペラーの姿に変えて、自分の姿がメガゼールに変わると言うもの。

 

まさにスケープゴート。

退避に抜群の効果をもたらすカードである。

 

 

(やられた)

 

 

ほむらは舌打ちを。

本体は既に逃亡しているだろう。

わざわざこんなカードを使っておいて不意打ちを仕掛けるとも思えない。

 

 

「す、すごい! ほむらちゃん分かってたんだね!」

 

「………」

 

 

まどかは、ほむらがインペラーの変装を分かっていたと思っている様だが、実際は違う。

ほむらは完全にインペラーを殺すつもりだった。だが逃がした、逃げられた。

 

 

「大丈夫? まどか」

 

「うん! ありがとうほむらちゃん!」

 

 

ほむらの手を取るまどか、特に目立った怪我も無い様だ。

しかしほむらは考える、インペラーが有利だった状況でトリックベントを使ったのはどういう意図があったのだろうか?

結果的に逃げられた。やはりそれが引っかかる。

 

 

(それにしても、意外と何も感じないわね。これならいける……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、先ほどのほむらの疑問。

その答えは美国織莉子だった。彼女はインペラーに助言を行っていたのだ。

 

 

「鹿目まどかを襲う上で一つ、注意をしてください」

 

 

黒髪の少女。

暁美ほむらと言う少女が現れたら。どれだけ優勢だったとしても逃げろ。

それをインペラーは守ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは、何をする訳でもなく、ただボーっとテレビを見ていた。

ふと恋愛にまつわる特集が目に入る。上条に想いを伝えていないと言うのが、心の中でずっと燻っていたが、杏子の言葉がフラッシュバックしていく。

自分は死体。既に死んでいるなんて事を。

 

 

「――ッ」

 

 

こみ上げる吐き気。

その吐き気さえも魔法で管理された物なのだろうか?

感じる痛みも、苦しみも、全て死体である筈の自分が感じている。

 

なにも分からない。

ゆまとの関係が少し戻って安心したが、やはり冷静に考えると不安になってくるものだ。

 

 

「………」

 

 

さやかは自分のソウルジェムを取り出して観察してみる。

この中に自分の魂が入っている? 今の自分は空っぽの入れ物? そんな馬鹿な。

 

 

(魔法少女って、もっとロマンチックなものだと思ってたんだけどな)

 

 

結論はゾンビとは何とも悲しいものだ。

 

 

(いっそ声を大にして教えてあげたいね、魔法少女ファンよ! キミたちが憧れてるのはゾンビなんですよー……、なんて)

 

 

それにしても気のせいだろうか?

なんだかソウルジェムが濁るペースが速くなってきている。

今もすっかり淀んでいて輝きがない。

さやかはそれが少し気がかりだった。

 

 

「大人しくしてたほうがいいのかなぁ」

 

 

そんな事を考えていると、家のインターホンが鳴った。

サキだろうが、敵の可能性もある。さやかはモニタで確認を行った。

すると、少し不思議そうな顔をして、玄関に向かう。

 

 

「どうも、さやかさん」

 

「どうしたの?」

 

 

扉の先にいたのはサキではなく、仁美だった。

 

 

「なんでここに……、って、あ」

 

 

気が付いてしまう。

いろいろあって時間の感覚がおかしくなっていたが、仁美には通常に流れていく日数。

と言う事はつまり。

 

 

「あ! えっと。ひ、仁美……」

 

 

美しい緑の髪をなびかせて、仁美は少し怪しげに笑った。

 

 

「お久しぶりですわね、さやかさん」

 

「そう、なるかな。あたしここ最近休んでばっかだから……」

 

 

さやかは不適な笑みを浮かべる仁美に少し怯んでしまった。

はっきり言えば今の仁美は怖かった。その笑みが何を意味するのか、想像しただけで吐きそうになる。

 

だが仁美は友達だ。

何を恐れる必要があると言うのか。さやかはいつもの調子に戻ると。いや、"戻す"。

 

 

「なになに? 心配して来てくれたの? いやぁ、愛されてるなあたし――」

 

「今日は、報告があって来ましたの」

 

「え?」

 

 

仁美は笑みを浮かべている。

しかしその笑みは嬉しそうと言うものではない。

含みのある、笑顔だった。

 

 

「私、上条君に想いを伝えたんです」

 

「え? え……? あ――ッ」

 

「さやかさん、私言いましたよね。時間をあげますと、わざわざ」

 

 

さやかは青ざめ、眉を下げる。

 

 

「えと、それは……、あの」

 

「それなのに、さやかさんは何もしなかった」

 

「だって! だってそれは――!」

 

 

さやかは立ち尽くすだけ。何も言わない、何も言えない。

対して仁美は笑みを浮かべたまま言葉を続ける。

その目が語っている、まるでさやかが何も言えないのを知っている様に。

 

下卑た、馬鹿にした、そんな低俗な笑みを浮かべて仁美は笑う。

それは本当に仁美が浮かべている笑み?

それともさやかが勝手に想像しているだけ?

 

 

「ど、どうだったの――? 仁美は成功したの?」

 

「はい?」

 

「だから、告白したんでしょ? お、オッケー……、もらえたの?」

 

「……え? 告白」

 

 

仁美の表情が崩れる。

何を言っているのか分からないと言った表情だ。

 

伝わらなかったのだろうか?

さやかは先ほどから強い痛みを放つ胸を抑えながら、言葉を振り絞る。

 

 

「だ、だからさ。仁美は恭介が好きなんでしょ?」

 

「………」

 

 

しばしの沈黙。

 

 

『なるほど、そう言う事か』

 

「え? なに?」

 

「いえ、別に」

 

 

仁美は微笑むと、一歩前にでる。

 

 

「ええ、ごめんなさい。もう待てませんでした」

 

 

さやかの耳元で、仁美は小さく囁いた。

それはさやかの脳に直接言葉を叩き込む様にじっくりと、じんわりと知らせる様に。

 

 

「上条くん、あなたより私を選んでくれましたよ」

 

「!!」

 

 

息が止まりそうになる。

何故かは分からない? いや、分かっている。

それでもさやかは動けなかった、動かずに仁美を見るだけ。

 

どうして、どうして彼女はそんな挑発する様な態度なの?

さやかの心に大きく刺さる仁美の存在。

そんな仁美は、ますます笑みを深くする。まるでさやかに見せ付ける様に、さやかの気持ちを知っていながら仁美はどうして……?

 

 

「今度コレを上条くんにプレゼントするんです」

 

「え……?」

 

 

仁美が取り出して見せたもの。

それは、さやかにとって何よりも求めた物。上条から聞きだして探していた斉藤雄一のCDだったのだ。

数が無くて必死に探し、それでも結局は手に入らなかったCD。

 

 

「それ――ッ! え? なんで……!」

 

「以前たまたま立ち寄った店に置いてありましたの。なんでも予約があったみたいなんですけど、店主に無理やり言って奪っちゃいましたわ」

 

「ッッ!!」

 

「嫌ですわね。貧乏人がツケだなんて。浅ましいったらありゃしない」

 

 

 

震えるさやか。

胸に宿る感情の正体は何? ざわざわと蠢き、じわじわと胸をえぐる感情。

怖い、嫌だ、こんなの違う!

こんなのあたしじゃない!!

 

 

「ではさやかさん、御機嫌よう。早く学校に来てくださいね」

 

「………」

 

「今度、上条くんを交えて三人で遊びましょう?」

 

「……ッ」

 

「貴女にも、早くいい人が見つかるといいですわね」

 

 

さやかに笑みを浮かべる気力は無かった。

ずっと目標だった上条に想いを伝えると言う事が、何の意味も成さなくなってしまった。

 

だったらもう、なんの為に生きていけばいい?

なんの為に魔女と戦えばいい?

人を守るため?

自分の幸せすら手に入らないのに、人を守る意味なんてあるの?

 

 

「さやかさん……」

 

「え」

 

 

仁美は去り際に一言だけさやかに告げる。

 

 

「いくじなし」

 

「!!」

 

 

そこで仁美は扉を閉めた。

さやかは一人になった後も、その場にしばらく立ち尽くす。

そしてグッと歯を食いしばって下を向く。

 

床に落ちる点。

小さく、誰にも聞こえないほどの声でさやかは呟いた。

 

 

「―――……ッッ」

 

 

ちくしょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかは時間を見る。

ああもうこんな時間。だけどサキは帰ってこない。どうして? どうして帰ってこないの?

歪む思考、逸脱する理性、普段ならば絶対に浮かび上がらない思いや、考察。

 

おかしいと思う妄想。

それはネガティブに輝いて止まらなかった。

サキはいない、それは自分がどうでもいいから。

どうなってもいいからじゃないのかな。

 

 

「さやかお姉ちゃん?」

 

 

奥から姿を見せたのはゆま。

ゆまは、さやかへの申し訳なさもあってか、極力会話を抑えていた。

しかし玄関で立ち尽くすさやかが気になったのか、おどおどと声をかける。

 

 

「どうしたの……?」

 

「なんでも――、ない」

 

「でも……」

 

 

首を振るさやか。

 

 

「本当になんでもない。それより、バイト、バイトに行かなくちゃ」

 

「え? でもお外は――」

 

 

さやかは、ゆまの方向を見ずに呟いた。

 

 

「ゆま、本当に、ごめん」

 

「え?」

 

 

さやかは家を出て行く。

走る。走る。ひたすらに走った。

 

 

「……クククッ」

 

 

それを、仁美は見ていた。

 

 

「なあ? 今どんな気持ちだよ? クククッ! ヒ――! ヒヒ! ヒャハハハハハ!!」

 

 

好きなんだろ? 好きなんだよなお前! ヒャハハハ!

おいおい、お前ちょっと間抜けすぎない? 勘違いしすぎなんだよ!

小学校の時に先生に教えられなかったのか? 人の話はよく聞きましょうってさ!

最後までしっかり聞きましょうってな!!

 

まあ確かにちょっと紛らわしい言い方だったけどよぉ。

それじゃあ駄目なんだよなぁ! 駄目、ああ駄目駄目!

お星様、一つもあげられないよ、そんなんじゃ。

 

 

「まだだ、最後の仕上げといこうじゃないの!」

 

 

そう言って仁美は指を鳴らす。

すると仁美は仁美でなくなった。

簡単な話だったのだ。仁美は仁美でない、文にすればただそれだけの事。

 

 

「ブッ壊してやる、美樹さやか、お前はココでチェックメイトッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ!」

 

 

事務所のドアが開き、さやかが飛び込んでくる。

北岡は肩を揺らし、そのまま竦めた。

 

 

「おいおい、なに? なんなのよ!」

 

 

北岡弁護士は今日も今日とて、ため息である。

 

 

「ごめんなさい……」

 

「はぁ?」

 

「ごめんなさい……、ごめんなさい――っ」

 

 

さやかは下を向いて声を震わせ謝罪の言葉を連呼する。

まるでそれは壊れたレコードみたいだ。その様子に北岡は複雑な表情を浮かべる。

なんだか面倒な予感がする。こういうのは、アレだ、触れない方がいい。

多感な時期なのだ。いろいろあるのだろう。

 

 

「とりあえず、俺は仕事の電話があるから。机の上の資料、整理しといて」

 

「……はい」

 

 

北岡は席をはずし、奥へ向かう。

さやかはすぐに資料に手を伸ばした。

とにかく、今は、何か他の事を考えないと狂いそうだった。

 

だが今、心にあるのは黒いものだけだ。

仕事も手につかないといえばそう。ただ機械的に手を動かすだけで、何も考えられない。

さやかはそんなモヤモヤした物を抱えながら資料を整理していった。

 

 

「……?」

 

 

気がついたのは、いつも鍵が掛かっている引き出しが開いていた事だ。

さやかは引き出しを閉めようと少し身を乗り出した。

だから、見てしまった。

 

 

「――――」

 

 

さやかは言葉を失った。

そして全てを理解し、同時に闇に落ちていく。

全て信じられないと。

だったら自分は何を――

 

 

「はい、じゃあそういう事で」

 

 

電話を切る北岡、そこで気づく気配。

振り返ると、さやかが立っていた。

 

 

「今度はなんだよ!」

 

 

北岡はイライラしてますと言った表情で問いかける。

するとさやかは歯を食いしばり、苦しそうに言葉を搾り出した。

 

 

「センセーはさ……、誰かを傷つけた事ってある?」

 

「は?」

 

 

北岡は唐突な質問に、間抜けな声をあげる。

そんな事はどうでもいいと一度は言うが、さやかは引き下がらなかった。

もう一度口調を強めて同じ質問をしてくる。

面倒だ。北岡はそう思いつつも仕方なく口を開く。

 

 

「知らないよそんなの。まあでも生きている限り、人間って誰かを傷つけてるもんなんじゃないの?」

 

「………」

 

「ほら、俺とかまさに高身長でイケメンだろ? 世の中の不細工は嫉妬してる筈だ」

 

 

無意識だったとしても、人は毎日を生きていく中で誰かを傷つけてしまう。

『人』としてそれは避けては通れない道なのだ、

生きているだけで誰かを傷つけてしまう。

 

だからこそ北岡の様な職業が必要となる。

今日もどこかで誰かが誰かを傷つける。それを弁護すれば相対する者達は傷ついていく。だから北岡は『イエス』と答えた、誰かを傷つけた事はある。

 

 

「じゃあ……」

 

「まだ何かあるのか!」

 

「じゃあ、誰かを殺した事はある?」

 

「――ッ?」

 

 

北岡はさやかの様子がおかしい事を改めて確認する。

明らかに普段の様子ではない。だからこそこんな意味不明な質問をしてくるのだろうと。いや、本当に意味不明な質問か?

 

 

「どういう意味よ?」

 

「そのままの意味、センセーは誰かを殺した? それとも殺すの?」

 

「………」

 

 

さやかの質問は明らかに普通じゃない。

しかし逆を言えば『普通じゃない質問』をぶつける理由があるのではないか。

北岡の中でパズルのピースが一つの絵を完成させようとしていた。

しかしそんな事があるのかと言う疑問。それが北岡の中で消えていないのも事実である。

 

 

「無いに決まってるだろ。そんな事したら俺ココにいないって」

 

「………」

 

 

教科書どおりの答え。だけどさやかは首を振る。

 

 

「本当……?」

 

「ああ」

 

「じゃあ。約束……、してよ」

 

「約束?」

 

「そう」

 

さやかは、やっと顔を上げた。北岡は思わず息を呑む。

さやかは泣いていた。顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。

悲しそうに、苦しそうに。

 

 

「センセーは……、誰も殺さないでね――」

 

 

最後に、笑った。

さやかはそれだけを言うと、走り出す。

 

 

「おい! 待て!!」

 

 

声を張り上げる北岡だが、さやかはそれを無視して事務所を飛び出していく。

 

 

「何なのよ」

 

 

北岡は再び深いため息をついた。

 

 

「いや――」

 

 

もしかして、知っていたんじゃないだろうか?

さやかが何故泣いていたのか。そして何故あんな質問をしたのかを。

 

そうだ。自分は知っていた。

なのにそれを口にしなかった?

北岡はさやかを追う事はなく。かわりに自分のデスクへと足を進める。

 

そして笑った。

やっぱりそうなのか? そうだったのか?

だとしたらあまりにも出来たシナリオだ。

開いた引き出しの中、それを見て北岡は目を閉じる。

 

 

 

 

一方で走るさやか、もうどこに向かっているのかさえ分からなかった。

何も分からないなら何も考えなければいい。それに何も考えたくないから走る。

 

心臓が、肺が、体が、心が。

全てが破れそうになったとしても、足を止めたくなかった。

いっそココで壊れてしまえば楽になって終われるの?

思考が停止したかと思えば、脳が黒く染まっていく。

 

 

もう嫌だ。

もう逃げたい。もう誰かこんな苦しい事を止めて。

 

 

「……あ」

 

 

なのに世界は残酷だ。

戦う事を諦めようとしたから罰が当たったの?

 

さやかは無意識に走っていた筈なのに、一番たどり着いてはいけないゴールへと向かってしまっていた。

見滝原は狭い訳じゃないが、さやかが知っている道は限られている。

だからなのか、さやかの目にある光景が飛び込んできた。

 

 

「……なんでよ」

 

 

会いたいと思えば会えなくて。

会いたくないと思えば、こんなに簡単に会える。

神様は残酷だ、美樹さやかは本当にそう思う。

 

 

「仁美、恭介――っ!」

 

 

ベンチで楽しそうに話している二人を見つけて、さやかはただ呆然と立ち尽くすだけだった。

柄にもなく上条は赤面しているじゃないか。

それはさやかが見た事の無い表情だった。

 

ずっと一緒にいた幼馴染。

なのに全く知らない顔を仁美が知っている。

 

この世は両極端だ。勝つものがいれば負けるものがいる。

それは先ほど北岡に問うた質問と一緒なのかもしれない。

誰かが幸せになれば誰かが不幸になる、それは避けては通れない道なの?

 

 

「………」

 

 

さやかは何故かまた笑みを浮かべる。

嬉しいからじゃない、笑いながら泣いていた。

 

笑みはどういう時に浮かべるもの?

嬉しい時か、それとも幸せなときか。

だったら今彼女が浮かべているのは笑みなんかじゃない、その仮面で壊れそうな心を隠しているだけだ。

 

楽しいってなんだっけ?

幸せって何だっけ? さやかはフラフラと足を進めていく。

 

 

「あ、あはは――」

 

 

違う。

 

 

「ははは――」

 

 

違う!

 

 

「は――、は」

 

 

違うッッ!!

 

 

「………」

 

 

こんな想いをする為に上条の手を治したの?

こんな辛い結末を望んだから魔法少女になったの?

ゾンビになって、魔女と戦って、先輩殺して、それが自分の望んだ答え?

違う、違う、違う!

 

 

「こんなの……! こんなの違うよぉ――ッ!」

 

 

涙が止まらない。

それなのにこの体はただの入れ物。

もう嫌だ、体が石の様に重くなっていく。

誰か、助けて。

 

 

「さやか」

 

「……え?」

 

 

さやかが顔を上げると、そこにいたのは上条恭介だった。

何故ココに? さやかは戸惑いながらも。上条が話しかけてくれた事に嬉しさを覚える。

自分だけを見てほしい、自分だけに話しかけてほしい。

愛する彼とずっと一緒にいたい。

 

 

「止めてくれないか、もう僕の周りをうろつくのは」

 

「え」

 

 

ずっと一緒に――

 

 

「知ってると思うけど、僕は仁美さんと付き合う事にしたんだ。なのにキミが近づいてくると彼女に誤解されるかもしれないだろ?」

 

 

どうやら上条は、先ほどさやかの姿を確認したようだ。

 

 

「ち、違うの恭介ッ! あたしは――」

 

「何なんだよお前……ッ! ただ家が近くて、昔よく遊んだってだけの関係なのに……!」

 

「!!」

 

 

上条はさやかを睨みつけると舌打ちを行う。

天才的なヴァイオリニスト。その夢を奪った『悪夢』を、さやかは祓った。

 

上条の為にさやかは魔法少女になって願いを――、『手を治す』と言う願いを叶えた。

言い方を変えれば、上条の為に自分の人生を捧げたと言ってもいい。

なのに、その上条はさやかを睨みつける。

 

 

「勘違いすんなよ、お前なんてどうだってよかった」

 

「あ、あたしは……! ただッ、恭介がす、好きなだけなのっ」

 

 

最悪の告白、こんなんじゃない。

思い描いていたのはこんな告白じゃなかった。

それにその答えだって。

 

 

「僕はそうじゃない、さやかはただの幼馴染。それだけさ」

 

「そ、そんな……」

 

「気持ちをおしつけられても困る」

 

 

さやかは助けを求める様に、上条の腕を掴む。無意識に。

この掴んだ腕は、自分が治した物だ。

そして上条は、その手でさやかを振り払った。

 

 

「恭――」

 

「消えろよ、気持ち悪い」

 

「―――」

 

「お前なんて、嫌いだ」

 

 

そう言って上条はさやかに背中を見せると歩き去ってしまった。

 

 

「………」

 

 

人魚姫は王子様の為に必死になって努力した。

だけど王子様はお前の気持ちに気がつかない。

だからお前は王子を殺す?

 

いやできないよ。

どんなに恨んだと思っていても、どんなに相手から恨まれてしまっても、お前は王子を殺せない。

 

だって、愛しているから。

じゃあお前に待っている道はただの一つ。

 

 

「泡となって、消える事」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ココにも全てを振り切る勢いで駆ける少女がいた。

 

 

「ハァ……ッ! ハァ――ッッ!!」

 

 

サキだ。

彼女は傷を負った体で見滝原を駆け回っていた。

理由はただ一つ、携帯に送られてきたメールだった。

差出人は不明、最初は悪戯だとばかり思っていたが件名を見てゾッとした。

 

 

『美樹さやかの愚かな末路』

 

「さやか――ッッ!!」

 

 

サキは急いでそのメールを確認。

文字はなく、内容は一つのスライド画像だった。

うつむいて泣いているさやかの写真がまずは表示される。

それだけでも心配だというのに、問題はここからだった。

 

数秒すると、画像が拡大。

さらにまた数秒すると拡大。

さらに拡大とは違う拡大が一つ、それで終わりだ。

 

拡大。つまりアップされていくのは、さやかのソウルジェムだった。

 

要するに送られていた画像は、さやかのソウルジェムを写したものだ。

問題はそのソウルジェムが今までにないくらい濁りきっていた事にある。

キュゥべえやジュゥべえは、ソウルジェムを濁さない様に常に注意を行ってきた。

それが今限界を超えようとしている。

 

嫌な予感がした。

件名もあるせいで、最悪のイメージをサキに浮かんだ。

だから走る。走るしかなかった。

 

 

(どこだ――ッ!?)

 

 

目的はただ一つ。

グリーフシードを手に入れる事だ。

 

 

(どこだッ!)

 

 

それを手に入れるには魔女を見つけて倒さなければならない。

でなければさやかのジェムが濁りに負けてしまう。

それを避ける為にサキは街を駆け回り魔女を探した。

 

滑稽だとは思わないか?

普段は現れてほしくないと願っていた魔女を、自らが求めている。

おまけに、なかなか魔女が見つからないのはサキ達がそれだけ魔女を倒していたからかもしれない。

だとしたらもっと皮肉だ。

 

 

(待っていろさやか、今助けてやる――ッッ)

 

 

諦めるな。サキは必死に街を駆け回る。

全神経を研ぎ澄ませて魔女の気配を探る。

 

サキには思うところがあった、負の感情を狙う魔女達なら、今のさやかを放っておくだろうか?

きっと狙う筈だ、だとしたら彼女の近くに魔女達が集まっている可能性が見えてきた。

それならば必ずどこかに魔女がいる筈なんだ!!

 

 

「頼むッ! 早くしないと――ッ!!」

 

 

サキは変身して身体能力を跳ね上げる。

手当たり次第にめぐり魔女を探していった。

そしてその想いが通じたのだろうか? 幸か不幸かついに、独善の影との会合を果たす。

 

 

「見つけたッ!」

 

 

それは影、それは白と黒。幾重もの黒がサキの視界を支配した。

祈りをあげる少女はきっと幸せを願っている。

たとえそれが独りよがりのものだったとしても構わない。

 

影の魔女『Elsa(エルザ)maria(マリア)』はまるでサキに慈悲を与えるかの様にして姿を見せた。

 

捜し求めた魔女を見つけ、思わずノープランで走り出すサキ。

エルザマリアが与えるのは『死』と言う救い、究極の安らぎだ。

魔女はサキを確認すると、祈りの姿勢を崩さずに使い魔である"ゼバスティアンズ"に攻撃を仕掛けさせていく。

 

ゼバスティアンズは動物を模した影であり、鋭く尖った牙を使ってサキを噛み砕こうと突撃していった。

 

 

「どけぇエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!」

 

 

サキは雷を鞭に付与し、影達をなぎ払っていく。

さやかを助けなければ、さやかを守らなければ、さやかを救わなければ!

サキはその事を何度も何度も頭に浮かべて地面を蹴っていく。

 

 

「ランチア・インテ・ジ・オーネッッ!!」

 

 

鞭の先端に雷を集中させて、思い切り突き出す。

雷を纏った先端は銃弾の様に放たれてエルザマリアを狙った。

 

だが向こうとて魔女。

そう簡単にはやられてはくれない。

魔女は影を無数の壁に変換して、鞭の勢いを殺していく。

 

それだけでなく、影を『木の枝』の様な形状に変化させると、ソレを一勢にサキへと向かわせた。

 

 

「トゥオーノ・アルマトゥーラ!」

 

 

落雷がサキに直撃する。

するとサキを中心にして雷のバリアが形成された。

木の枝達はそれに触れた瞬間焼け焦げて消滅していく。

 

サキは鞭を何とかしてエルザマリアに命中させようとするが、辺りの影が次々に変化して魔女を捕らえられない。

 

募る焦りと苛立ち。

早く倒さなければと考える程に時間は過ぎていくばかりだ。

 

 

「!」

 

 

突如魔女結界が破壊され、エビルダイバーに乗ったライアが姿を見せた。

 

 

「あなたは確か……!」

 

「暁美ほむらのパートナーだ」

 

「すまない! 魔女を倒すのを手伝ってくれないか!!」

 

「ッ、分かった!」

 

 

エビルダイバーは放電を発動させて影を散らしていく。

サキはその隙に鞭を伸ばし、エルザマリアを縛り上げた。

そこで思い切り電撃をエルザマリアへと浴びせる。

 

 

「さっさとグリーフシードを落とせェエッッ!」

 

 

がんじがらめのエルザマリアは、苦しいのか叫び声をあげていた。

それでも尚祈りのポーズは崩さない。

そこへさらに電撃を強めるサキ、苦しむ魔女を拷問しているような様は、どちらが正義なのか全く分からない状況である。

 

だがそれだけの事情があるのだろう。

ライアもまたストライクベントを発動して狙いを定める。

 

 

「悪いな、あの世では幸せになってくれ」

 

 

ライアのバイザーから、三日月状のビームが発射されてエルザマリアの首をはねた。

そこで電撃も最大出力に。エルザマリアは魔女結界と共に爆発すると、グリーフシードを残して消え去った。

 

 

「やった!!」

 

 

サキはそれをすぐに掴み取ると、ライアに礼だけ言って走り去る。

これでさやかを助けられるかもしれない。

 

 

「さやか、頼むッ! 間に合ってくれ!!」

 

 

泣きそうになりながらサキはそう叫んだ。

神がこの世にいるのならどうか彼女を救ってくれ。

自分が身代わりになれるのなら喜んでこの身を捧げよう。

 

 

「だからお願いだ、さやかを助けてくれッッ!

 

 

 

その張本人である美樹さやか。

へたり込んだまま動けない。どんなに泣いても涙はまだ溢れてくる。

愛した人に否定されて、親友を憎む己の心が許せない。

 

 

「さやかちゃん……?」

 

 

 

苦しい時、いつもまどかは傍に来てくれた。

今も、そうだ。さやかはまどかを見つけると手を伸ばす。

 

まどかは、いつも笑顔で受け止めてくれた。

いつも真剣に自分のことで悩んでくれた。

いつも、いつも、いつも。

 

 

「まどかぁ」

 

「さ、さやかちゃん! どうしたの?」

 

 

飛び込んできたさやかを、まどかは優しく抱きしめる。

 

 

「実は――!」

 

 

さやかは途切れ途切れになりながらも事情を説明した。

まどかはきっと優しく微笑んでくれる。慰めてくれる。

やっぱり、まどかこそが本当の親友なんだ。

 

まどかさえいれば、さやかは生きていける。

まどかこそが、最後の希望なん――

 

 

「へぇ、やっぱり上条くんって、さやかちゃんより仁美ちゃんを選んだんだ」

 

「……え?」

 

 

ドンッという衝撃と共に、さやかは地面にしりもちをつく。

呆気に取られていると、まどかは鼻を鳴らした。

 

 

「フラれちゃったね、さやかちゃん」

 

 

さやかは、信じられないと言う表情を浮かべいた。

 

 

「さやかちゃんさぁ、困ったら人を頼ろうっていう性格よくないよ」

 

「ま……、どか?」

 

「わたし、そう言う所が大嫌いなんだと思う」

 

「え? な、なんで?」

 

 

まどかはさやかを睨みつけると、首を振った。

さやかは思う。とうとうおかしくなってしまったのだろうか?

幻聴まで聞こえるなんて。まどかがそんな事を言う筈ないのに。

 

 

「さやかちゃんって、ウザイんだよね」

 

「………」

 

 

だけどまた聞こえる。

まどかの声で、まどかの顔で、鹿目まどかと言う人間がさやかを否定している。

 

嘘? 嘘なの?

でも聞こえる言葉は真実?

じゃあこれは現実?

 

 

「ずっと我慢してた、ずっと嫌だった」

 

「なんで? ど、どうして!? あたし達……ッ! と、友達っ」

 

 

さやかはボロボロと泣いてまどかを見る。

 

 

「友達? そう思っていたんだね」

 

 

まどかは優しげな声色でさやかに言う。

だけどその後の声色は、全く逆の物だった。

 

 

「わたしは、アンタの事を友達として思った事なんてなかったよ」

 

 

満面の笑みでまどかはさやかに言い放つ。

目を空ろにして固まるさやかと、笑顔のまどか。

そしてまどかは、トドメの一撃を放った。

 

 

「わたしね、さやかちゃんの事! ずっと前から嫌いだったもん!」

 

 

愛する人と親友。

二人から拒絶されたらどんな気持ちになるのだろうか。

さやかはその場から動かず、何も言わずにただそこにいた。

時間が止まった様な、命が止まった様な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さやか! 待ってろ!! 今行くから!!」

 

 

サキは走る。

さやかを救うために。守るために。

 

 

『10』

 

 

マミを失った。だからこそマミだけで終わらせる!

 

 

『9』

 

 

この手にあるグリーフシードを、さやかに渡せばきっと上手くいく。

 

 

『8』

 

 

穢れが溜まって何が起こるのかは分からない。

だけどこれ以上確実にさやかを苦しめる事は無い筈だ。

彼女には笑っていてほしい、ムードメーカーだった彼女に戻ってほしい!

 

 

『7』

 

 

頼むッ! 頼む! 頼む頼む頼む頼む頼む頼むッッッ!!

 

 

『6』

 

 

美樹さやかは思う。

今まで自分は何をやっていたのだろう?

何を目指していたのだろう?

 

 

『5』

 

 

最初から上条に好かれる魔法を使っておけばよかったんだ。

そうすればまどかも仁美も、きっと自分の事を見下す事はなかっただろう。

そうすれば、もっと幸せになれた――?

 

 

『4』

 

 

「3……、2――」

 

 

立ち止まっているさやかを下に見ながら、神那ニコはカウントダウンを始めていた。

携帯に映るアプリには、さやかのソウルジェムの穢れ具合が表示されている。

警告メッセージがしきりに表示されていた。

ニコはそれを見てニヤリと笑う。

 

 

「イチ――」

 

 

もっと賢い生き方なんて一杯あったろうに。

中途半端な罪悪感だの、割り切れないし煮えきれない考え方が足を引っ張っていたんだ。

ああ、つくづく思うよ。

 

 

「あたしって――」

 

 

同時にニコは最後の言葉を。

 

 

「ゼロ」

 

「ほんと馬鹿……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

LOVE・ME・DO Look at me

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ワタシ――

 

 

 

            ミテ

 オネガイ

       

              オ             ネ ガ イ

 

 

ミ               テ

                            ワ タシヲ ジャ ナイト ク ルウ

 

 

サヨ ナラ 

 

              タ ス                ケテ

                                                   ゴメンネ

                     ア リ ガ                    ト                         ウ

           ズット                    スキ                            デシタ

     シ ア                            ワ                      セ          ニ

                              ナッ                             テ

 

 

 ソ    レ        ガ         ア          タ           シ                      ノ

 

 

                                    オ ネ ガ イ                      ダカラ

 

 

 

 

 

 

         バ 

 

 

 

                    イ

                                             バ

 

 

                         イ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

走るのを止めたサキ、原因は手に持っている携帯だ。

変身をといて、その画面をジッと見つめる。

 

何故?

だって変身したままだったら携帯も、この手に持ったグリーフシードも壊してしまいそうだった。

 

誰かも知らないヤツから送られてきたメール。

サキは唇を噛む、血が出るほど強く。

でもよかった、痛みがなければ怒り狂ってしまいそうだったから。

 

 

『件名・私を見て、私を愛して\(*´3`*)/』

 

 

そこにあった画像は、綺麗な綺麗な人魚姫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ秀一』

 

「………」

 

 

北岡法律事務所。

主人は椅子に座って何をするでもなく時間をつぶしていた。

そんな彼の元にファンシーな音を立てながらキュゥべえが現れる。

 

北岡はそのファンタジーじみた生物を見ても無反応である。

なおも椅子にもたれながら沈黙していた。

 

 

『今日は君にお知らせがあるんだ』

 

 

キュゥべえは相変わらずの調子で淡々と真実を報告する。

 

 

『キミのパートナーになる筈だった魔法少女が魔女になったよ!』

 

「………」

 

 

尚も沈黙の北岡。その手に、デッキを持って。

 

 

『知りたいだろう? キミのパートナーの名前は――』

 

「知ってるさ。もう」

 

『?』

 

 

北岡は『牛』の紋章が刻まれているデッキを机の上に放り投げる。

そして面倒臭そうに椅子から立ち上がると深いため息をついた。

そして伸びをしたあと、初めてキュゥべえと目を合わせる。

 

 

「あんなに近くにいたんだ、教えてくれても良かったじゃないの」

 

『ルールはルールさ』

 

 

キュゥべえに感情は無い。

だけど心なしか楽しげに言い放つ。

あくまでも報告だ。北岡に対する特殊ルールの報告なのだと。

 

 

『そうとも、キミのパートナーである"美樹さやか"が絶望して魔女になったよ!』

 

「………」

 

 

北岡は無表情だった。

かと思えば、最後の最後で表情を崩す。

それは笑顔? 唇を吊り上げれば笑顔なのだろうか?

 

 

「やれやれ、面倒な女だね……! 本当」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りは夜の準備を始めようとしている。

そこに今、新たな魔女が誕生した。

 

 

『ハッピーバースデー!』

 

 

ビルの上では、ジュゥべえが風に揺られながら魔女を確認している。

彼はキュゥべえとは違い、その口を三日月の様に吊り上げ、表情豊かに笑っていた。

 

 

『この国じゃあよぉ、成長途中の女のことを『少女』って呼ぶらしいじゃん?』

 

 

だったら――

 

 

『やがて魔女になるテメェらの事は、"魔法少女"って呼ぶべきだよなぁ? ハハ! ハハハハハハハハハハハハハッッ!』

 

 

 




人魚姫編もうすぐおしまいです
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