仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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エントロピーのお話が合ってるかは、ちょっと自信がありません(無学)
間違ってたら、ごめんやで(´・ω・)


第18話 エントロピー ーピロトンエ 話81第

 

魔女結界がさやかの体を隠し、新たな拠点へと移動する。

それを確認していたのは白と黒の魔法少女。美国織莉子と呉キリカだ。

二人は織莉子邸にて新たな魔女の誕生を確認していた。

織莉子は、サキとの戦いで怪我をしたキリカを介抱しており、その途中で魔女覚醒の気配を感じ取った。

 

 

「やったんだね織莉子ぉ!」

 

「パーフェクト。みんな良くやってくれました。これで勝利に大きく近づいたわ」

 

「うん! 早く戦いを終わらせて幸せになろうね!!」

 

 

コソコソと暗躍している(ニコ)もいるようだが、いずれにせよ織莉子の目的は達成された。

 

 

「あと一押し。でも、このままならば何の問題も無いわ」

 

 

織莉子は微笑んで見せた。

それに反応するキリカ、頬を赤らめて嬉しそうに体を動かしている。

 

 

「駄目よキリカ、怪我をしているんだからもっと安静にしないと」

 

「はーい! ふふふ!」

 

 

笑いあう二人だが、織莉子の表情はどこか物悲しげである。

例えばそれはキリカを見つめる目。自分の目的の為に、親友を傷つけると言う罪悪感。

魔法で体が強化されているとはいえ、全身に雷を浴びせられたり、掌底を体に叩き込まれたと言うじゃないか。

 

織莉子はキリカの肌を撫でる。

年頃の少女の体に刻まれていく傷が、何よりも痛々しく感じる。

 

そしてもう一つは、美樹さやかへの想い。

さやかを追い込んだのは他ならぬ織莉子達だ。

しかしソレは望まぬことでもあった。

 

いや綺麗事か。

織莉子は苦悩の表情を浮かべる。

もしもF・Gに巻き込まれる事がなければ、さやか達とは仲間になれたかもしれないのに。

 

織莉子は心の中でもう一度さやかへ謝罪を行う。

もうF・Gに参加した時点で運命は決まっていた。それを操る者と、飲み込まれる者。

自分は前者であらなければならない。キリカを、そして織莉子の世界を守る為に。

 

 

「ただいまー、織莉子ちゃん情報ありがとう。マジで助かったよ」

 

「美国ィ、コッチも終わったよ」

 

 

部屋を開けて入ってくるのは佐野と――

 

 

「てへへ、さやかちゃんってば本当に大馬鹿さんなんだから!」

 

 

"鹿目まどか"は、歪な笑みを浮かべている。

美樹さやかを魔女に至らしめたトドメの言葉。まどかは、さやかを友人と思った事など一度も無いと言っていた。

当然だ。なぜなら彼女は――

 

 

「いつまでその格好なの? デカ帽子」

 

「えへへ、気に入らない? まどかちゃん悲しい!」

 

 

ここにいる『まどか』は、鹿目まどかではないのだ。

キリカが『デカ帽子』と呼ぶのは、13番の魔法少女だった。

まどかが指を鳴らすと、元の姿へと戻る。

 

13番の固有魔法とは、それ即ち『変身魔法』であった。

13番は声と姿さえ分かれば、対象を完全にコピーできる。

事前にさやかと関わりの深い人物を把握し、さやかが今どういう状態にあるのかも詳しく調べ上げ、そして作戦を実行した。

 

仁美に化け、上条に化け。

最後は、まどかに化けてさやかを否定する。

声も姿形も同じ人物ならば、疑う必要は無い。

結果としてさやかは本当に暴言を浴びせられたのだと思った。

 

 

「脆い信頼! アハハハハ!!」

 

 

疑心暗鬼のこのF・Gにおいて、変身魔法がどれだけの威力を齎すのか。

結果はご覧のとおりである。

 

 

「フフフ、親友に否定された時のアイツの表情……! ゾクゾクしちゃう!」

 

「あーあ。結局絶望しちゃんだね、さやかちゃん。可哀想に……」

 

 

13番も、佐野も軽い調子で言い放つ。

その言葉に織莉子は少し表情を曇らせたが、これを依頼したのは他でもない自分だ。

そして自身の状態はただ屋敷で座っているだけ、つまり手を汚すのは彼らなのだ。

織莉子はそれに甘えている。だから何も言わなかった。

 

 

「二人ともありがとうございます、あとは最後の仕上げだけ」

 

「分かってるよ織莉子ッ!」

 

 

キリカはベッドから勢いよく立ち上がろうとするが、織莉子がソレを制する。

 

 

「キリカ傷はまだ深いわ。ここで無理をさせる訳にはいかない」

 

 

織莉子は佐野と13番に視線を送る。

 

 

「お願いできますか?」

 

「ま、オレはもらうモン貰えれば働きますよぉ!」

 

「アハハハ! 仕方ないな、お礼は頼むよ」

 

 

二人は頷くと再び織莉子達の前から姿を消した。

織莉子は少し寂しげに目を細めた。

 

 

「これは世界を守る戦い。その途中で犠牲が出る事は――、仕方ない事なのよ」

 

 

織莉子は見えない何かに祈る様にしながらキリカを見た。

視線に気がつくと笑みを浮かべるキリカ。そうだ、それでいい筈なんだ。

織莉子は微笑み返すと、ゆっくりと目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘」

 

 

まどかはサキからの電話を受け、全身の力が抜ける様な感覚に陥った。

途中からサキが何を言っているのか全く理解できなかった。

言葉を受け入れまいと脳が拒絶していた。

しかしどんなに抵抗しても真実は真実。残酷な現実が告げられる。

 

 

『この映像が……、全てだ――ッ!』

 

 

ソレをまどかに見せるかどうかは迷ったが、もはやどうしようもない。

その映像は全てを捉えていた。さやかが泣きながら立ち尽くしている。そして、彼女を中心に魔女空間が広がっていく。

 

さやかの体から現れる異形。

魔女だ、さやかから魔女が生まれた。

 

そしてサキ達はこの光景を見た事がある。

思い出したくも無いほどの悪夢。マミがキャンデロロに変わった場面じゃないか。

マミと同じ様にしてさやかは地面に倒れる。

 

 

「じゃあ……! じゃあさやかちゃんは――ッッ!」

 

「間違いないわね」

 

 

まどかの隣にいた、ほむらもそれを確認する。

 

 

「美樹さやかは、魔女になった」

 

「!」

 

 

マミと同じ、ソウルジェムの暴走だとでも?

なれば辿る未来も同じなのか。まどかはへたり込んで、呆然と空を見上げる。

 

 

「本当にそうなのかしら?」

 

『ッ? どういう事だ』

 

 

ほむらは目を閉じて冷静に呟く。

 

 

「ソウルジェムの暴走、そんな事で魔女になる?」

 

『それは、確かに……』

 

 

何か引っかかるものがある、それが何なのかは分からないが。

 

 

「お姉ちゃん……! ほむらちゃん――っ」

 

「?」

 

 

まどかは涙を零しながら絞る様に言う。

 

 

「さやかちゃんを助ける方法は無いの……!?」

 

 

さやかはパートナーとまだ契約を結んでいない。

つまりマミを元に戻した方法が使えないと言う事だ。

ましてや、騎士を殺すなんてできない。

 

 

「一体、どうすれ――!!」

 

 

その時だった。空に花火が打ち上がる。

正確に言えば花火ではなく、魔法結界だ。

魔法少女が発動できるソレは何故か空に展開される。

 

魔法結果はゲーム参加者全員が確認できる。

逆を言えば、参加者だけにその気配を気付けさせると言う点があった。

サキとほむらは結界を発動させた魔法少女の意図を理解する。

 

 

「ッ!!」

 

 

魔法結界は収束して変形を始めた。

あれはまさしく文字だ。さらに下を指す矢印を形成した。

メッセージの内容は。

 

 

『人魚姫は、ここですよ↓』

 

「クッ! ふざけた真似をッッ!!」

 

 

サキは怒りで爆発しそうになる感情をなんとか抑えた。

おそらくあの文字を作ったのは、動画を送ってきたメールの差出人とみて間違いない。

だとしたらその魔法少女は、さやかが苦しんでいるのをただ見ていただけと言う事になる。

 

 

「面白がっているのか――!? 許せない!!」

 

 

とにかくあの場所に向かわなければならない。

 

 

「ちょっと待って。それよりもキュゥべえかジュゥべえを探した方がいいわ」

 

 

ほむらは彼らから情報をもらう事が一番の近道だと言ってみせる。

狙うのは情報を指定できるキュゥべえだ。さやかを元に戻す方法を聞き出せばいい。

魔女は説得や話し合いが通じる相手ではない。マミの例を見れば分かる事だ。

 

 

『そう……、だな。分かった。とにかくキュゥべえから情報を得るんだ!』

 

「う、うん!」

 

「とりあえずパートナーにも協力してもらうわ」

 

 

それ以外にさやかを救う方法は無い。

三人は頷くと、それぞれ別々の道を走りだす。

 

 

「ふんふふーん♪」

 

 

一方、『人魚姫』がいる場所付近のビル屋上に座り込んでいるのはニコ。

レジーナアイを確認しつつ笑みを浮かべていた。

とにかく上機嫌で、隣にいるカメレオン型のモンスター・バイオグリーザにウキウキと話しかける。

 

 

「なんというか私ってゲーム支配してる感あるよね、実に気分がよろしい」

 

 

取り合えず頷くバイオグリーザ。

ニコはそれを確認するとますますニヤついてしまう。

 

 

「これで美味しそうな餌は撒けた。あとはソレに食いついてくれる馬鹿(さかな)がどれだけいるかだな」

 

 

ニコは透明になれる。

姿を消した状態でずっとさやかを観察していたが、確実にさやかは嵌められた。

 

 

(美樹を絶望させた連中がいる以上、向こうも何か考えがあるのだろうな。私はそれに便乗させてもらいましょう)

 

 

とりあえず魔法結界を変形させて、さやかの場所をリークした。

きっと多くの参加者が見ているはずだ。どれくらい集まってくれるのか。

ニコはニヤニヤしながら下にいる人魚姫を見つめる。

 

 

「可哀想な人魚姫。人さえ愛さなかったら、自由に海を泳いでいられたのに」

 

 

本当に――

 

 

「愚かな娘」

 

 

願わなければ、苦しむ必要も無かったのに。

叶えなければ、涙を流す事も無かったのに。

心なんか持つから悲しむんだ、いっそ全てを無にしてしまえばよかったのに。

 

 

「おんや?」

 

 

そこでレジーナアイに表示される赤点。

 

 

「おいおいマジかよ、まさかこんなに早く餌に掛かってくれるとは」

 

 

ニコは満足そうに微笑むと、パートナーである高見沢に連絡を入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

手分けをしてキュゥべえ達を探す事にしたまどか達。

念の為かずみにも連絡を入れたが、繋がらない結果に終わった。

 

サキは家に戻り、ゆまに事情を知らせる。

まどかは真司に連絡を――、しようとしてできなかった。

蓮を探す為に忙しい筈だと何故か決め付けてしまい、連絡できなかった。

 

もちろんそれは言い訳のようなものだ。

 

困ったら真司に任せる。パートナー頼り。

真司に連絡を入れてしまえば、真司はきっと来てくれるだろう。

しかしそれでは彼の時間を割くことになる、その結果蓮が何かに巻き込まれたら?

 

真司と蓮は親友だ。

まどかとさやかがそうであった様に。だから同じ想いはしてほしくなない。

それにどこか意地があったのかもしれない。まどかは心の中で思っていた。さやかは自分が助け出したいのだと。

 

 

「そういう事よ、手塚」

 

『成る程な。止められなかったか……』

 

「ええ、仕方ない事なのよ」

 

『………』

 

 

一方のほむらは、トークベントを使い、手塚に連絡を取る。

 

 

「お願いがあるの。貴方は美樹さやかの所へ向かってほしい。魔女は覚醒場所から移動する可能性もあるから」

 

『分かった』

 

「でも、気をつけて。場所がリークされたということは、他の参加者も来る可能性がある」

 

『分かってるさ。だからこそだろ』

 

 

最も危険なのは、さやかが自身だ。

サキにメールを送った人物(ニコ)の本当の狙い。

 

それは、さやかを餌にする事だ。

グリーフシード争奪戦は、F・Gが始まる前から変わらない。

そこにルールが適応されたというわけだ。殺しあうルールが。

 

連絡を受けた手塚はバイクをすぐに走らせる。

手塚も魔法結界を確認していた。そもそも携帯にはニコからのメールがあった。地図の画像で、さやかいる場所に赤い点が打ってある。

 

夜の街にライトの残像が軌跡を描いていく。

止められないのか、手塚は歯を食いしばりながら風を切る。

F・Gは何の為のゲームなのか――?

 

 

(人の命を、人の想いを何だと思っているッ!)

 

 

絶対にこの戦いを許す事はできない。

たとえどんなに血を流しても、たとえどんなに傷つこうとも。

たとえどんなに道を踏み外そうとも、最後の最後まで抗い続ける。

戦い続けなければならない。

 

手塚はさやかの事を欠片とて知らない。

せいぜいほむらからの話を聞くだけの情報だった。

しかし、ほむらが語る美樹さやかは絶望なんてする筈のない少女だった。

 

誰もがそうだ。

美樹さやかは心から笑い、心から泣き、心から平和を祈る少女だった筈だ。

なのに魔女になった。F・Gはさやかと言う人間の運命を狂わせたのだ。

 

 

(俺は死んでも認めんぞ、この腐ったゲームをッッ!)

 

 

手塚は強い眼差しを向けるとスピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、本当にココでいいんだろうな?」

 

「アァァア……! 知るか」

 

「まあでも魔女の気配はするし。当たりだね、浅倉」

 

「魔女か。退屈じゃなければそれでいい」

 

 

ほむらと手塚が危険視していた問題。

それは魔女(さやか)の居場所が、全参加者にさらけ出されると言う物だった。

グリーフシードがほしい。力を高めたい。他の参加者を狙おう。いろいろ都合がいいのだ。

 

 

だから王蛇ペアも見滝原にあるコンサートホールに来た。

結界メッセージを確認していれば迷うことはない。

 

戦いは何よりの楽しみだ。参加しない手はないだろう。

魔女でも、騎士でも、魔法少女でも何でもいい。命のやり取りさえできれば関係ないのだ。

二人は鍵が掛かっていた扉をぶち破ると、さっさと中に進入して奥へと進んでいく。

すると段々と変わっていく風景、コンサートホールは魔女空間の侵食を受けた。

 

水族館の様な場所。

そこには謎のポスターが何枚も貼り付けてある。

黒く塗りつぶされた少年の絵、彼のコンサートがココで開かれるのだろうか?

ヴァイオリンを持ったその少年は魔女には見えない。

 

 

「なんだよコレ」

 

 

杏子は試しにポスターを剥がしてみる。

すりと悲鳴の様な音と、すすり泣く様な音が聞こえてきた。

 

 

「わ! びっくりした! なんだよ!!」

 

 

ポスターには魔法文字で"KYOSUKE"と書かれているが、杏子も浅倉もそれが何の意味なのかは分からなかった。

 

 

「まあどうでもいいか」

 

 

杏子はポスターをクシャクシャに潰すと適当な場所へ投げ捨てる。

二人は獲物を求めてさらに奥へと進んでいった。

使い魔の姿はないが何やら『音』が近づいてくる。演奏中なのだろうか?

 

 

「ねえねえ浅倉。アンタさ、コンサートとか行った事ある?」

 

「下らん。興味がない」

 

「かぁー、駄目だねやっぱり。だからアンタは学がないんだよ」

 

「チッ! お前はあるのか?」

 

「あるに決まってんだろ。いいもんさ、優雅な音を楽しむんだ。さらうんどってヤツだね。ハンマーが奏でるペッタンペッタンって音が聞こえがいいよな」

 

「それは餅つ――」

 

「お、あの扉だね!!」

 

 

杏子が指差した大きな扉。そこの奥から音が漏れている様だ。

二人はそれを確認すると嬉しそうに笑い、走り出す。

それは追いかけっこをする友人同士みたいだ。

若干リードした杏子が飛び蹴りで扉を蹴破って中に入った。

 

 

「お! いたいた!!」

 

「ハッ!」

 

 

音が溢れた。

荘厳で雄大で、それはまるで嵐の様に愛情を込めて。

楽団は魔女のために音楽を奏でるのみ。

 

まず見えたのは魔女の使い魔である『ホルガー』達だ。

その役割は『演奏』、彼らはオーケストラとなり魔女に全てを奏で捧げている。

赤いホールに並び立つ、青きホルガー達。

そしてその演奏を聞いていたのは――

 

 

その性質は『恋慕』

在りし日の感動を夢見ている。廻る運命は思い出だけを乗せてもう未来へは転がらない。もう何も届かない、もう何も知ることなどはない。

 

今はただ、ホルガー達の演奏を邪魔する存在を許さないだけ。

それが魔女だった。鎧に身を包み、マントをつけ、蓄音機を模した三つ目の兜を装備する。

鎧にはつけると男性の気を引くことができると言われていたピンクのリボンをあしらい、襟はハート型である。下半身は魚?

 

いや――

 

人魚の魔女・『オクタヴィア・フォン・ゼッケンドルフ』

彼女は巨大な剣を指揮棒に見立て、自ら音を繋いでいった。

音楽を愛する全ての人へ、きっとこの想いが届きますように。

魔女は祈る、願う。そして愛するだけだ。

 

 

「ふぅん、雑魚っぽくはないね。楽しめそうかな?」

 

「さっさと始めるぞ。先に殺した方が勝ちだ」

 

 

杏子と浅倉は並び立ち、それぞれ左右対称のポーズを決める。

蛇が獲物を捕らえる様な動きの後、双方はデッキとジェムを取り出して叫ぶ。

演奏を掻き消す様にして。

 

 

「「変身!」」

 

 

一瞬で杏子の服が全て消し飛び、更新する様に魔法少女の衣装が付与されていく。

隣にいる浅倉には二対の鏡像が回転しながら迫ってきた。

それが重なり合った時、王蛇へと姿を変える。

 

変身を完了させた二人。

まだ二人の存在に気がついていないオクタヴィア。

杏子はニヤリと笑うと、無数の槍を出現させてソレを投擲した。

 

 

「串刺しになり――……なッ!?」

 

 

同時にどこからともなく現れたのはミサイル達。

魔女と言うファンタジックな物とは不釣合いのソレらは、杏子が投げた槍を次々に打ち落としていく。

 

一瞬魔女の攻撃かと思ったが、発射されてきた場所は魔女と使い魔がいる方向ではない。

コンサートホールに繋がる扉は東西南北の四つだ。

杏子達が入ったのは『北』、そしてミサイルが飛んできたのは『東』から。

と言う事はだ、考えられる事はただ一つ。

 

 

『―――!!』

 

 

同時にそこでピタリとやむ演奏。

どうやら魔女と使い魔が異変に気がついた様だ。

コンサートではお静かに。そんな決まりすらコイツらは守れないのか? 魔女は怒りに体を震わせる。

 

 

「おいおい、勘弁してよ」

 

「!」

 

 

聞こえる男の声。

焦りなど欠片とて感じられない、どこか達観した様な雰囲気で、ホールに入る

スーツ姿で胸にはなにやらバッジがあった。

男は魔女を確認すると苦笑し、ため息をもらす。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアアアアア』

 

 

魔女は怒る。

コンサートを邪魔する奴は全て排除しなければと。

オクタヴィアが剣を天に掲げると、どこからともなく歯車が無数に出現して回転を始めた。

 

そしてオクタヴィアが剣を振り下ろすと、歯車たちが一勢に男の方へと発射される。

生身の人間がくらえば即死の可能性もある攻撃。

だが男は動かない、冷静に魔女を見つめていた。

 

 

「………」

 

 

歯車がぶつかる音が響く。

だがそれは男にぶつかった音ではない。何か硬い物にぶつかった時の音だ。

歯車が男に近づいた時、地面から牛の化け物が現れてその身を盾にした。

 

表情を変える杏子達。

そのモンスター、『マグナギガ』は魔女でも使い魔でもない。ミラーモンスターだ。

先ほどのミサイルはこのマグナギガが放った物だった。

 

 

「俺の手を煩わせちゃってさ、給料はしばらく無しでいくから」

 

 

マグナギガの背後で、北岡秀一はデッキを突き出して構えを取る。

肘を曲げ、腕を広げた後、デッキをセットした。

 

 

「変身!」

 

 

現れる鏡像と重なる鎧。

姿を見せた騎士は今までの物とは違い、機械的な外見である。

仮面にはセンサーやらキャタピラを模した装飾が見える。

カラーは緑、騎士・『ゾルダ』はF・Gの舞台に今足を踏み入れたのだった。

 

 

「今までのお仕置きだ、我慢しろよ」

 

 

銃型の召喚機・『マグナバイザー』を出現させて引き金を引いていく。

狙うはパートナーであったオクタヴィアのみ。

銃弾は魔女に命中していき火花を散らした。

 

ゾルダはキュゥべえから教えられたルールを聞いてこの選択をとった。

パートナーを攻撃するというのも、ちゃんとした狙いがある様だ。

 

 

「杏子」

 

「あン?」

 

人魚姫(アレ)は譲ってやる」

 

「んー、複雑だけど……、まあいいか! サンキュー」

 

 

王蛇は首を回しながら、気だるそうに歩いていく。

しかし内心は歓喜していた。まさか獲物が自分からやってきてくれるとは。

王蛇はゾルダを見据える。

 

 

「お前ェ、俺と戦えよ。ゲームの参加者だろ?」

 

「!」

 

「ルールは簡単だよな? 殺し合えばいいんだよ!!」

 

 

ホールへ飛び込む杏子と、観客席を走りだす王蛇。

オクタヴィアは再び演奏を再開させると、杏子へ狙いを定めてしまう。

舌打ちを行うゾルダ。そうじゃない、コッチを見ろと!

 

 

「あのさ。悪いんだけど、まず魔女(アレ)、俺に倒させてくれない?」

 

「ああいいぜェ、俺を殺せたらな! ハハハハハ!!」

 

「ああ、そういう面倒なタイプなのね。だから戦うのは嫌なのよ!」

 

 

ゾルダは標的を変更して、王蛇へ弾丸を放つ。

馬鹿正直にまっすぐ走っていた王蛇は、当然銃弾の射程に入ってしまい、装甲からは次々と火花が散っていく。

 

後退していく王蛇、どうやら火力もそこそこに高い様だ。

遠距離の武器を持つゾルダに真正面からは近づけないか。

王蛇は一旦客席を移動しながら銃弾を交わしていく。

 

 

「ハハハハハハハハッッ!!」

 

「おいおい、なんで笑ってるんだよ」

 

 

銃弾から逃げ回るという行動なのにも関わらず、王蛇は非常に楽しそうだった。

 

 

「楽しそうでいいねぇ! ちくしょう!」

 

 

それを見ながら悔しそうに目を細める杏子。

王蛇がゾルダを殺してしまえば、一ポイントリードされてしまう。

それは杏子とて面白い事ではなかった。

どんなゲームだとしても負けるのは悔しいものだ。

 

 

「せめてアンタは楽しませてくれよッッ!!」

 

 

杏子は槍を構えて速度を上げる。

広いホールは駆け抜け、魔女に狙いを定めた。

 

 

「ッて! うわわわわわッッ!!」

 

 

しかしそこで杏子の足元に火花が散る。

反射的に後ろへ跳ぶ杏子。見えたのはガトリングで攻撃してきたマグナギガだった。

ゾルダはマグナギガの召喚を継続中である。

マグナギガはビーム砲、レーザー、機関銃、大砲、そして大量のミサイルを搭載したまさに全身兵器のモンスターだ。

 

マグナギガはその場から一歩も動く事なく、多くの兵器を使用して杏子とオクタヴィアを攻撃していた。

爆炎と銃弾に怯み、杏子をオクタヴィアから引き離される。

マグナギガとしては杏子は邪魔らしい。

 

 

「あぶっ! あぶないっての! クソッ!!」

 

 

杏子はジタバタと足を動かして銃弾から逃げ続ける。

これではオクタヴィアに近づけない。かと言ってマグナギガはゾルダの化身、つまり言い換えれば『騎士』になる。

騎士を倒すのは王蛇のみ、それは自分達が決めたルールだ。

邪魔をするもの当然フェアなプレイとは言えない。杏子もそれは分かっている事。

 

 

「おい浅倉ぁあ! アイツ何とかしてくれよ!!」

 

「ハハハハ!」

 

「あー……、もう、聞いちゃいない!」

 

 

当の王蛇はゾルダの弾丸をかわすのに精一杯(?)である。

気づけば杏子はオクタヴィアからかなり離れてしまった。

魔女は演奏を邪魔する者を許さない。オクタヴィアは標的をマグナギガに変えて、歯車を発射していった。

 

 

「やり辛い、非常にやり辛い!!」

 

 

杏子は一度客席まで跳ぶとドカッと座り込んで状況を把握する。

離れたところでは王蛇とゾルダが戦い、オクタヴィアとマグナギガが応戦を行っていた。

マグナギガは歯車を回避せず、全てその身に受けている。防御力でごまかしているようだが、流石にいつかは破壊されるだろう。

 

ミラーモンスターが死ねば、ゾルダはブランク状態となり弱体化してしまう。

そうなると王蛇には勝てない。ならばゾルダは必ずどこかでマグナギガを引っ込める筈だ。

 

 

(そのタイミングを待つか?)

 

 

杏子は一瞬そう考えるが――

 

 

「いや、待ってるだけなんてつまんねぇ!」

 

 

杏子は槍を構えてオクタヴィアをまっすぐに見つめる。

ゲームは好きだ。縛りプレイも嫌いじゃない。

マグナギガの妨害を突破して魔女を殺す。

 

 

「できるかな? できるとも! だってアタシは魔法少女なんだから……、さッッ!!」

 

 

客席を蹴る杏子、一直線に魔女めがけ走り出す。

 

 

「アルディーソ・デルスティオーネ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

だが杏子達は忘れている。ココが自由参加のコンサートだと言う事を。

突如現れるのは赤い弾丸だ。炎のメテオと言った方がいいか。

紅蓮の弾丸は突如現れ、ホールに墜落していく。

おそらく狙いははランダム。炎は客席を焦がし、ホールに弾け、使い魔たちを消滅させていく。

 

 

『アアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

大切なコンサートを滅茶苦茶にされている。

魔女はそれだけで怒り狂ってしまいそうだった。

 

 

「魔法少女か!!」

 

「ジュディツィオ・コメット!」

 

 

正解と言わんばかりに呪文が叫ばれる。

巨大な炎の塊、それが先ほど同じく隕石の様にコンサートホールへ飛来してきた。

炎が狙っているのはマグナギガだ。ゾルダはソレにいち早く気がつくと、マグナギガをカードに戻して破壊されるのを防いだ。

 

そして王蛇と共にそこから離れる。

その行動は正解だ。炎がそのまま着弾すると、大爆発を起こして周囲のフィールドを消し飛ばした。

 

 

「あちちっ! あぶねーな!!」

 

 

火の粉が降ってきた。

杏子の前髪が焦げる。フーフー息を吹きかけていると、爆炎の中からシルエットが見えた。

 

 

「ふふふ♪」

 

 

現れたのはポニーテール。左肩が露出した純白のドレスに身を包んだ魔法少女だった。

炎が白をより輝かせる。爆風になびくドレスはお姫様の様で、彼女はたいそう気に入っていた。

 

今日も大好きなドレスに身を包んで上機嫌。

楽しそうに微笑みながら、魔法少女は状況を確認する。

 

 

「おいアンタさぁ、魔法少女だよね!」

 

「?」

 

 

杏子は身を乗り出して目を輝かせる。

まさかこんな所で獲物を見つけられるとは思っていなかった。

コレはとんだ収穫だ、槍を構えてウズウズと小刻みに動く。

魔法少女ならば殺してしまおう、そうすれば1ポイントリードできるかもしれない。

 

 

「うん☆ そうだよ♪」

 

「かぁー! 助かったよ! 早速なんだけどアタシに殺されてくれない?」

 

「えー、それはヤダなぁ」

 

 

ドレスの少女は眉を下げ、唇は吊り上げる。

首を傾げ。あどけなさに溢れた瞳では杏子を見た。

殺されるのは嫌だ。だけど――

 

 

「代わりにわたしが殺してあげるね♪」

 

「ハッ! 面白いじゃん! やれるモンなら――」

 

「!」

 

「やってみろッッ!」

 

 

杏子は槍を持って、新たに現れた魔法少女に狙いを定める。

対する魔法少女も、炎と共にサーベルを出現させて真っ向から杏子の槍を受け止めた。

 

 

「成る程! いいねぇ!」

 

 

杏子は満足そうに笑う。

この雰囲気は間違いない。自分と同じ戦いを求める奴の雰囲気だ。

 

 

「アンタ参戦派だろ!」

 

「当たり前じゃない。この戦いで勝ち残れば願いをもっと叶えられるんだもん♪」

 

「そりゃそうだ! やっとまともなヤツに会えた!」

 

 

上等だと、杏子は歪んだ笑みを見せる。

こういう奴は大好きだ。同時に叩き潰したくなる。

その綺麗な顔をグシャグシャにして、涙と鼻水で濡らした表情を見てみたくなる。

 

 

「アンタ名前は? アタシは佐倉杏子、集会じゃ4番だった」

 

「わたし? ヒ・ミ・ツ♪ 集会じゃ3番だったよ☆」

 

 

3番。殺し合いを楽しそうだと言った魔法少女だ。

本人は名前を明かさなかったが、彼女の名は『双樹(そうじゅ)あやせ』。

同じ趣向を持った人物に会えて、杏子としても嬉しいようだ。

楽しそうに笑いながら槍を振るった。

 

一方、あやせは剣を的確に合わせ、槍をしっかりとガードする。

杏子はグッと力を込めるが、剣はビクともしない。

どうやら童顔に似つかわしくないスペックをお持ちらしい。

 

 

「ウラァア!!」

 

 

杏子は体を捻り、蹴りを繰り出す。

しかし、あやせは杏子の蹴りをしっかりと見ており、後ろへ跳んで回避に成功した。

まだだ。杏子は槍を蛇腹状にしてあやせを追尾させる。

あやせもこのギミックには気づけなかったか、足を取られて動きを拘束される事に。

 

 

「ハハッ! 泣いて泣いてブッ壊れろッ!」

 

「むぅ……ッ! 好きくないなぁ、そういう暴力的な言い方って」

 

 

あやせの足が燃えた。

もちろん魔法だ。炎は足を縛り上げていた鎖を焼きちぎる。

 

 

「へぇ!」

 

 

槍の強度はある程度あったが、簡単に壊された。

間違いなく実力者だ。杏子は感心したように唸った。

一方で再び動き出すオクタヴィア。いい加減にしてほしかった。これ以上コンサートを乱さないでほしい。

 

悲痛な叫びを上げて、オクタヴィアは歯車を次々に発射していた。

大切なホルガーを殺されて、怒りは最高潮なのだから。

 

 

「――ッ!!」

 

「おおっ!?」

 

 

そこで赤紫の影がフェードイン。

エビルダイバーは参加者を狙う歯車を全て弾き飛ばした。

杏子達が現れた北ゲート、ゾルダがやって来た東ゲート、そして西ゲートから現れたのはバイクに乗ったままの手塚だった。

 

手塚はアクセルグリップを捻り、アクセルを吹かす。

直後、タイヤが激しく回転してバイクが急発進した。エビルダイバーは手塚の先にまわりこみ、体を斜めに傾けて着地する。

 

それは簡易的なジャンプ台だ。

そこへ猛スピードで突っ込む手塚。バイクが跳ね上がり、そのまま一気にホールへと飛び込んでいく。

 

 

「変身!」

 

 

手塚は空中でライアに変身すると、シートを蹴ってバイクから飛び降りた。

空を舞う無人のバイクは、杏子を狙っている。

まさに鉄の弾丸だ。

 

 

「ハッ! くだらねぇ!!」

 

 

しかし流石と言うべきか。

杏子は突っ込んできたバイクをいとも簡単に蹴り飛ばすと、それをオクタヴィアにぶつけて爆発させる。

 

 

「おいおい、またお前かよ」

 

「んー? 誰ぇ、助けに来てくれたの?」

 

「まさか」

 

 

ライアは杏子とあやせの両名を睨みつけて言った。

これは彼が何度も口にしてきた言葉、何度でも言い続ける決意だ。

 

 

「戦いを止めろ。それが聞けないのなら――」

 

 

ライアはデッキからカードを抜くと、そのままエビルバイザーへ装填した。

 

 

「痛い目を見てもらう」『ストライクベント』

 

 

光を纏い、強化されたエビルバイザー。

それは抵抗すれば容赦なく危害を加えると言う思考そのものだった。

尤も、杏子とあやせは笑うだけで、少しも怯むことはなかった。

 

 

「やれやれ、次から次へと――ッ」

 

 

ゾルダは苛立ちを隠せない。

さっさとオクタヴィアを倒して帰りたいのに、どうしてこうなるのやら。

しかも王蛇はさらに増えた騎士にますます興奮しているじゃないか。

これは面倒以外の何物でもない。

 

ゾルダ、王蛇、ライア。杏子、あやせの魔法少女。

無数の雑音が荘厳なオーケストラを乱す。

オクタヴィアは憤怒して歯車を発射するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『へぇ、まさか見つかるとはなあ?』

 

「ハァ……! ハァ――ッ! うグッ!!」

 

 

サキがジュゥべえにコンタクトを取れたのは、まさに幸運だった。

全身の力が抜けたように倒れるサキをジュゥべえは冷めた目で見ている。

二人がいたのは見滝原の工場の一角だった。

 

建物の屋上にいたジュゥべえ。

そこに閃光の様なスピードでサキが現れたのだが、そのまま崩れ落ちた。

サキの髪は腰に届くまで伸びており、ところどころ出血も見られる。

 

『それがお前の切り札、"イルフラース"か。だけど使いこなせないんじゃ意味ないぜ』

 

「うるさい……! さっさと情報をよこせ……ぇ!」

 

 

サキはうつ伏せになり、顔だけをジュゥべえの方へ向けた。

ジュゥべえは気まぐれに情報を与える。本当はキュゥべえが良かったが贅沢も言っていられないだろう。

 

 

『まあまあ。オイラだって今の状況はよく分かってるつもりだ』

 

「なに……?」

 

『美樹さやかはお前らの仲間だもんな。必死になるもの分かるぜぇ?』

 

「貴様――ッ!」

 

『オイラだって鬼じゃねぇ、テメェの聞きたい事を言ってみな。先輩と違って複数答えてやるからよぉ』

 

「ならッ、さやかだ! 今のさやかを元に戻す方法を教えてくれ!」

 

 

ジュゥべえはサキの鬼気迫る表情を見て深く頷く。

さやかを元に戻したいだろう。だったらその背中を押してあげるまでだ。

ジュゥべえはそんな事を言って顔を上げた。口を歪ませて。

 

 

『ねぇよ、んなもん』

 

「な―――ッッ」

 

 

打ちひしがれたような表情を浮かべ、サキは固まる。

それを見てケラケラとジュゥべえは笑った。

 

 

『いいね。人間ってのは表情豊かで飽きない』

 

「ない、だと……ッ?」

 

『ああ。お前達が求める答えは無い。魔女になってしまった美樹さやかを元に戻す方法は無いんだよ』

 

 

だが全く希望がないワケでもないと付け加える。

 

 

『マミと同じ事をすればいい、段階はあるがな』

 

「!!」

 

 

今現在さやかはパートナーと出会っていない事になる。

確かにずっとパートナーだった北岡と一緒にはいた。

しかしペアが正式に結ばれる条件は、騎士側が変身していない事には始まらない。

騎士が魔法少女に触れた時点で契約は結ばれるのだ。

 

 

『ペアが決まっていない状態でパートナーが魔女化した場合、特殊ルールが騎士に伝えられる』

 

 

パートナーが魔女化した場合、魔女になったパートナーをペアの騎士が一度殺す。

そうすれば魔女はカードに封印されて騎士(パートナー)のデッキに送られる。

それがルールの一つだった。

 

つまりこの場合、北岡がオクタヴィアを殺せば、オクタヴィアが北岡の配下としてデッキに送られると言うのだ。

 

カードになるという事は、須藤達の時と違って魔女を隠しておく必要は無くなる。

結果、人を襲って魔女の餌にする必要も無いと言うのだ。

必要な時に呼び出して攻撃させる、ミラーモンスターと扱いは同じである。

 

このゲームでは早々にペアを組んだ方がメリットが高い。

カードの強化や、ソウルジェムの穢れも抑えることと言った、数々のメリットを受ける事ができる。

しかしそれはパートナーと出会い、契約を結べばの話だ。

 

北岡の様にパートナーに気づかない場合や、蓮の様にまだ覚醒していないからペアを組めない場合など、それらのペアは大きく出遅れてしまう事になる。

だからこそ今までペアを組めなかった者達には、ある程度の『ハンデ』を与えるのがセオリーだとジュゥべえは言った。

 

今回の例は珍しい事ではないのかもしれない。

パートナーの知らない所で魔女になってしまえば。ペアは永遠に組めなくなる。

だからこそ魔女になった時点で、それが騎士に知らされて『救済措置』が取られる。

 

 

『魔女を使う事のコストをなくしてあげると言う措置がな』

 

 

パートナーの魔女化は諸刃の刃だ。強力だがそれ相応のリスクはある。

だがそのリスクを少なく出来るのだ。これ以上のサービスは無いだろう?

 

 

『北岡がさやかを殺せば。その時点でペアは成立する』

 

「き、北岡!? 彼が騎士だとでもいうのか!」

 

『おうよ。コレ絶対先輩なら教えないぜ。なんたってゲームに大きく関わるんだからよ!』

 

 

まあいいや。話を続けようとジュゥべえは言う。

つまりその状態で北岡のデッキを破壊し、北岡を殺せばさやかは蘇るのだ。

さやかを救うルートは、まず北岡がオクタヴィアを殺す。

そしてその後に北岡のデッキを破壊、北岡を殺す、だ。

 

 

『ちなみに自殺は駄目だ、北岡をしっかり殺せ』

 

 

加えてさやかが蘇るとなると、彼女の願いは失われる。

つまり上条恭介の腕は再び使い物にならなくなると言う訳だ。

 

 

『せっかくまた夢に向かって行けると思ったら駄目でしたなんて、ギャグだろギャグ』

 

 

ジュゥべえは笑っていた。

もしもそうなった場合、上条の心はきっと壊れてしまう。

それを見たら蘇生されたさやかはどう思うのか?

 

 

『自ら命を絶つんじゃねぇか? あの小娘ならよぉ』

 

「グッ! 貴様らぁァ……ッッ!!」

 

『おいおい怒んなよ、コレもルールってヤツだぜ』

 

 

その制約が嫌なら、北岡がさやかを殺した上で北岡が最後まで生き残ればいいだけの話だ。

どちらの勝利であろうとも願いを叶えるチャンスはある。

そこで北岡がさやかを元に戻してくれと願えばいい。

 

 

『お前らも生き残りたいなら、北岡が生存した状態でワルプルギスを倒せ。そうすれば願いの力でさやかは蘇る』

 

「今のところはそれしかないのかッ?」

 

『うーん、まあ言い方によっては微妙だけどな。とりあえずそれだけだぜ』

 

「………」

 

 

微妙? サキは思考をめぐらせる。

だがこうなったら北岡に一度さやかを封印してもらうしかない。

北岡が協力してくれるかどうかは別としても、現状はコレしか方法が無いのだから。

しかし、そこでサキに走る疑問と言う闇。

 

 

「おい」

 

『あぁ?』

 

「そもそも、何故、さやかは魔女になった?」

 

『………』

 

 

サキは見逃さなかった。

その質問をした瞬間に、ジュゥべえの口がより深く裂けていったのを。

 

 

「お前達は以前、マミが魔女になった時はソウルジェムの暴走だといっていたが、その時には記憶をロックされていたとも言ったな」

 

 

もしも今、その理由をキュゥべえ達が思い出していたのなら。

ジュゥべえはニヤリと笑ったまま、耳を動かして拍手を行う。

サキの思った通り、ジュゥべえは全てを知っていたのだ。

 

 

『ハハハ、そうだな。サービスだ、ソレも教えてやるよ』

 

「やはりアレは嘘だったのかッッ!」

 

『いんや、まあソウルジェムの暴走ってのは間違いじゃねぇ』

 

 

だがしかし、問題は何故暴走するのか。そして、『それから』である。

 

 

『ソウルジェムを出してみろ』

 

 

言われたとおり、サキは自分のソウルジェムを取り出してみる。

イルフラースと言う魔法を長時間使用した為に、どんよりとした濁りに満ちていた。

 

 

『オイラを見つけたボーナスだ、ホレ!』

 

 

ジュゥべえはグリーフシードを取り出すと、サキのソウルジェムの穢れを祓う。

濁っていたジェムもすぐにキラキラに輝く宝石となる。

 

 

『美しいねぇ。魂が吸い寄せられちまう程の輝きじゃねぇか』

 

「なにが言いたい?」

 

『綺麗だよなソウルジェムってヤツは。魔女の薄っ汚ねぇグリーフシードよか何倍もマシだぜ』

 

 

ジュゥべえは確かにサービス旺盛かもしれないが、キュゥべえよりも『もったいぶる』性格の様だ。

サキはイライラしながら口調を強める。

しかしジュゥべえはまだ、ヘラヘラと笑っていた。

 

 

『テメェらは主に魔法を使って戦う。んで、魔女も主に魔法を使って戦う』

 

「………」

 

『魔法少女ってのは文字通り"女"だ。んで、魔女ってのも文字通り"女"だ。どっちも男じゃ務まらねぇわな!』

 

 

力の本質は同じ魔法にある。

 

 

『同じだな。お前らは』

 

「―――ッ!」

 

 

同じ? 魔女と魔法少女が? そう思った時サキの体に走る衝撃。

そうだ、同じだ。魔女と魔法少女は限りなく似ている存在。

 

なんで今までその可能性を考えなかったのだろう?

何故マミが魔女になった時点で気がつかなかったのだろう?

サキは全身から汗が吹き出るのを感じた。

どこかで否定する心もあったが、ジュゥべえの表情を見てゾッとする。

 

 

『ソウルジェムってのは綺麗だ。だけどどんな綺麗なモンでも汚れちまう』

 

「――ぃ」

 

『グリーフシードみたいに!』

 

「――ぉぃ」

 

『こんだけ共通点があるってのも珍しいよなぁ?』

 

「おいッッ!!」

 

 

サキは叫ぶ。

その表情を見てジュゥべえはしっかりと頷いた。

 

 

『流石だぜ浅海サキ。理解したな人間』

 

 

そうだ、そうだったのだ。

そんな恐ろしいことを口にすらしたくなかったが、サキは反射的に全てを叫んでいた。

マミが魔女になってしまった? さやかが魔女になってしまった?

いやいや、それは同じ様で違う。

 

 

「まさか! まさか魔女は――ッ!」

 

『………』

 

「まさか! 今まで私達が殺してきた魔女はッッ!!」

 

『ヒヒ! ヒャハハハハハハ! 当たりだぜ、浅海サキぃ!』

 

 

唯一の答え、それは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔女は、お前らなんだよ!』

 

「ッッッ!!」

 

『魔法少女の末路は、魔女なんだよなぁ! ハハハ!!』

 

 

ソウルジェムの暴走とは、すなわち急速に加速した運命だとジュゥべえは言う。

 

 

『いずれ魔女になるお前らの末路が早まっただけだ』

 

 

だから暴走とは言えど、いずれ全ての魔法少女がたどり着く未来。

それが魔女になると言う事だった。

 

 

「う――ッッ」

 

 

口を押さえるサキ。

今までこの手で倒して――、殺してきた魔女が元魔法少女だった?

正義の為だと皆で助け合いながら、皆で笑いあいながら殺してきた物が人だったとでも!?

 

サキはその事実に思わず吐き出しそうになってしまう。

須藤と何が違う? 人を殺して正義を名乗って――!

 

 

『おいおい魔法で気分コントロールすりゃいい話だろ? 吐きそうになってんじゃねーよ』

 

「うるさい……!」

 

『ソウルジェムを都合よく使っていかないと、ゲームは勝てないぜ』

 

 

堪えるサキ。

しかし今度は別の物がこみ上げてきた。

サキはジュゥべえを刺し貫かんとばかりに、睨みつける。

魔法少女が人に害をなす魔女になると言うのなら、そうなってくれと言ったジュゥべえは何者なのか。

 

 

「お前らは私たちを魔女にする為に声をかけたのかッッ!」

 

『いやいや、勘違いすんな。オイラ達は別にお前らに悪意を持ってる訳じゃねぇ』

 

 

誤解であると強めた。

 

 

『オイラ達は魔女にさせる為にお前らを魔法少女にした訳じゃない。そしてこのゲームを開いたのも同じだ』

 

 

そこにはちゃんとした理由があると言う。

では何故、キュゥべえやジュゥべえはサキ達を魔法少女にしたのか?

何故騎士を生み出してF・Gを開催したのか?

 

 

『覚えてるか? オイラ達には飼い主がいるって話』

 

「誰だと言うんだ!」

 

『宇宙だよ』

 

「ハ……?」

 

『オイラ達の目的は、宇宙の寿命を延ばす為なんだぜ』

 

 

サキは曖昧な表情で沈黙した。

突拍子も無さ過ぎて、なんと言っていいか分からなかった。

 

 

『だからんな怖い顔すんなっての。サキ、テメェはエントロピーって言葉を知ってるか?』

 

「でたらめ、乱雑さの事か? 悪いがよく知らない」

 

『まあな、難しい話だ。少なくとも中学生のテメェらが知る話じゃねぇ』

 

 

水面に垂らしたインクは、最初は一点だが時間ともに広がっていく。

だが水面に広がったインクが時間と共に一点になる事は無い。

 

 

『焚き火で得られる熱エネルギーは、木を育てる労力と釣り合わない』

 

 

水とお湯を混ぜれば『ぬるま湯』になるが、ぬるま湯になった物を再び『水』と『お湯』に分ける事はできない。

その不可逆、乱雑さ、エントロピー。

 

 

『複雑だなオイ。まあすげぇ簡単に言うとよ、エネルギーってヤツは使えば無くなるんだよ。有限なんだ、無限じゃねぇ』

 

 

エネルギーは形を変換する毎にロスが生じる。

宇宙のエネルギーは減り続ける一方だ。

そしてこのままだといずれ宇宙は死を迎える事となる。

 

 

『詳しく知りたいなら自分で調べな、長くなる』

 

「つまり、エネルギーの問題があったと?」

 

『そういう事でい! んで、オイラ達はずっとその法則に縛られないエネルギーを探し求めて来た』

 

 

全ては、宇宙を救う為に。

ジュゥべえはえっへんと胸を張る。

彼らの種族はいち早くその事態に気がつき対策を練っていた。

 

 

『宇宙の死は、つまりすべての文明の死に繋がる』

 

 

それを防ぐためにずっと長い時を戦ってきたのだ。

要するに、問題を解決しなければ全ての命が消え去る事態があった。

それに止めるためにジュゥべえ達は様々なエネルギーを捜し求めたのだ。

 

 

『そしてとうとうオイラ達は見つけたのさ、そのエントロピーを凌駕するエネルギーをな』

 

 

ジュゥべえの瞳はサキを映す。

今までの会話から察するにそれは魔法少女達の事を言っている筈だ。

サキはジュゥべえの底知れぬ威圧に負けぬよう必死に歯を食いしばる。

対してフッと笑みを浮かべるジュゥべえ。

 

 

『そんなに緊張しなくていい。今、お前が見せたものこそがその答えだ』

 

 

緊張、怒り、焦り、恐怖。

 

 

『そのエネルギー、つまり"感情"だ』

 

「感情……ッ?」

 

『ああ、同時にしてお前ら魔法少女の魔力!』

 

 

ジュゥべえ達の文明は知的生命体の感情をエネルギーに変換すると言うテクノロジーを生み出した。

しかし、当の彼らが感情というものを持ち合わせていなかった事こそが最大の問題である。

これではせっかく見つけたエネルギーを無駄にして終わらせてしまう。

ならば、宇宙は救えない。

 

 

「キュゥべえはまだしも、お前はどうなんだ?」

 

『オイラは先輩とは違って擬似的な感情を持っている。だけどそれは結局作りもんでしかない』

 

「ああそうだな、見ていてよく分かるよ。こんな下らないゲームを司る悪魔め……ッ!」

 

『ハッ! 酷い言い様だな。だが忘れんな、このゲームに乗ってるヤツもいるって事を!』

 

 

ジュゥべえは笑う。どのタイミングで笑えばいいかを知っている。

 

 

『テメェらの意味不明な行動なんて完璧に理解できるかよ』

 

 

滑稽な行動、傲慢な行動、それらは笑いの種だと言う事は分かる。

現にジュゥべえの擬似的な感情は、限りなく人に近いものがあった。

だがどんなに近くてもそれはフェイクでしかない。

 

これではエネルギーを生み出す事など不可能。

だから妖精たちは地球にやって来た。人間に可能性を視た。

 

 

『テメェらは本当に凄い生き物だよ』

 

 

低脳そうな魚や、猿から進化を繰り返し、言葉や文明を進化させていった。

そしてどんどん知識をつけて偉大に、愚かになっていく。

色々な意味で。

 

 

『人類の個体数、そして繁殖力は中々だぜ。テメェら本当、盛りのついた獣みたいに子供作るのな』

 

 

おかげでこっちは助かるが。

まあいいと、ジュゥべえは話を続ける。

 

 

『その一人一人の人間が生み出す感情エネルギーは、その個体が誕生して成長するまでに要したエネルギーを凌駕する』

 

 

人々の魂はエントロピーを覆すエネルギー源なのだ。

そしてその中でもピンキリがある、人間ならば誰でもいいと言う訳ではない。

それこそが魔法少女誕生の理由。

 

 

『最も効率が良いのは、第二次性徴期少女の希望と絶望の相転移なのよ』

 

 

つまりサキ達中学生の辺りがちょうど良いポイントと言う事だった。

ジュゥべえは美しく輝くサキのソウルジェムを見る。

 

 

『おいおい、既に濁りが見えるぜ』

 

 

この話が余程ショックだったのだろう。ジュゥべえは可哀想にと笑っていた。

このソウルジェムはやがてグリーフシードとなり、サキを魔女へと変えるのだ。

 

 

『まあ同時にそれが証明だわな。お前らの歳は多感なんだよ、感情に物凄く敏感だ』

 

 

だが同時に男はイマイチだという。

別にやろうと思えば魔法少女じゃなくて魔法使いを生み出す事もできる。

しかしそれじゃあ願いのパターンが一定化するのは明確だと。

 

 

『盛りのついたガキなんざ、だいたい女だの金だの、同じ様な願いばっかりだ』

 

「……ッ」

 

 

金がほしい。あの娘と付き合いたい。イケメンになりたい。

ムカつくアイツをぶっ飛ばしたい。親を殺したい。悪くは無いが、良くも無い。

 

 

『もちろん女だってそのパターンも多いが、感情の質はやはり違う』

 

 

だからこそ魔法少女のみに狙いを絞ったのだ。

 

 

『ソウルジェムになったテメェらの魂はやがて燃え尽き、グリーフシードへと変わるその瞬間に、膨大なエネルギーを発生させる』

 

「まさか……」

 

 

エネルギーと言う単語、サキは唇を震わせる。

ジュゥべえらはずっと魔法少女達の事を、エネルギーを発生させる装置程度にしかみていないじゃないだろうか。

 

いや実際にそうなのだろう。

サキ達から発生する強力なエネルギー、それだけが妖精の目的なのだ。

 

 

『それを回収するのがオイラ達、"インキュベーター"の役割だ』

 

「インキュ……、それがお前らの本当の名か」

 

『ああそうさ、テメェらの世界でいう温度を一定に保つ装置。"孵卵器"の事さ』

 

 

インキュベーター、略してキュゥべえ。

そしてキュゥべえだけでは役割効率が悪いと踏んで、擬似的感情を持った後継機を生んだ。

それは先に生まれたキュゥべえを『先輩』と称してサポートに徹し、依存して付き従う。

つまり『従属《じゅうぞく》する存在』となる。

 

 

「成る程な、従属するキュゥべえ……、略してジュゥべえか」

 

『キュウとジュウで順番もいいだろ? ハハハハ!』

 

 

こうしてインキュベーターは、良いエネルギーを放出してくれる道具に出会えたワケだ。

 

 

『その時の感動を是非感情を持って味わいたかったぜ。さぞ素晴らしいんだろうな』

 

「ふざけるな! 私達は消耗品なんかじゃない! 心を持つ人間だ! 電池なんかじゃないんだよ! お前らの為に死ねって言うのか!」

 

 

サキはフラ付きながらも、しっかりと立ち上がってジュゥべえと対峙した。

だがジュゥべえは冷めた様子である。サキのテンションが面倒だと言わんばかりに。

 

 

『死ねって、死んでるだろうが既に』

 

「ぐッ! うるさい!!」

 

『悪い悪い揚げ足だったな。でもな? オイラ達の為に死ぬんじゃねぇぞ』

 

 

サキは知っているのだろうか?

この宇宙にどれだけの文明がひしめき、一瞬ごとにどれ程のエネルギーを消耗しているのかを。

 

 

『エネルギーの枯渇は、お前達だって日々恐れている事だろう?』

 

 

ましてやその規模が違う。

枯れ果てた宇宙を引き渡されて困るのはサキ達だ。

つまり長い目で見れば、コレはサキ達人類にとっても非常に得になる取引なのである。

 

 

「有益な取引だって!? マミが死んで、さやかが絶望に溢れて――ッ! それが得になる取引だとッ!!」

 

『じゃあなんだよ、テメェらは宇宙が滅びてもいいのか?』

 

 

そうなれば全ての命が消滅する。

それは最悪の結末だ。それを防ぐには多少の犠牲を伴うしかない。

天秤にかけた選択は、ジュゥべえ視点では迷う事の無い答えだった。

 

 

『あえて言うぜ、宇宙の為に死ねってな。世界を守る為に魔法少女になったんだ、自己犠牲の覚悟くらいしてるだろ?』

 

 

赤い瞳が、サキを捉える。

 

 

『そもそも先輩はテメェらの合意を前提に契約してるんだ。それだけでも十分に良心的だろうが』

 

 

その瞬間サキの中で何かが弾けた。

ジュゥべえを掴み上げると、心の限り叫ぶ。

その形相は憎悪の塊だった。

 

 

「合意を前提に? 良心的にだとッッ!?」

 

 

サキの脳裏にマミとさやかの笑顔がフラッシュバックする。

そして同時に泣いている表情もまた浮かんできた。

 

 

「騙されていたんだよ、私たちは! 彼女達はッ!」

 

『騙す!? ハッ! やっぱりまだオイラには感情ってヤツが理解できねぇぜ!』

 

 

確かにサキ達にとってはそう感じたかもしれない。

だがジュゥべえはキュゥべえの言葉を借りる事にした。

認識の相違から生じた判断ミスを後悔する時、何故か人間は他者を憎悪する。

知らない理由を他者の責任とするのだ。

人のせいにして自分は悪くないと胸を張る。

 

 

『テメェらは軽すぎるんだよ、物事の考え方が!』

 

「……ッ!」

 

『無責任なほどに無知だ。与えられる情報だけを信じる。決して自分から得ようとはしない! 怠惰に溢れてる!』

 

 

限界だった。

サキは決して踏み越えてはいけない一線と知りつつ行動を起こしてしまう。

インキュベーターが敵だと決めうち、気がついていたらジュゥべえに雷撃を打ち込んでいる。

 

 

『グゥウ! 何しやがるッ!?』

 

「黙れェエエエエエッッ!」

 

 

雷が落ちた。

青白い一撃がジュゥべえの体を黒焦げにする。

サキは呼吸を荒げ、地面に落ちた亡骸を見ていた。

これで少しはインキュベーターの思惑を阻止する事ができたのでは無いかと思うが。

 

 

『酷いことするな、浅海サキ』

 

「!!」

 

『ヒステリーな女はモテないぜ、本で書いてあった』

 

 

サキは下を向く。

そこにいたのは、笑みを浮かべたジュゥべえではないか。

黒焦げになっていた筈なのに、すっかり元通りになっているじゃないか。

 

 

「なんで……」

 

『覚えておけ、インキュベーターに個の概念はねぇ』

 

 

つまり。

 

 

『オイラ達を殺す事はできない』

 

 

サキはその言葉に圧倒的な敗北感を覚える。

どれだけキュゥべえとジュゥべえを殺そうとも、彼らを止める事はできないのだ。

 

 

『オイラは無限に蘇り、先輩(キュゥべえ)は多くのスペアを持っている。それらは記憶を共有し、永久機関として機能するんだ』

 

「そんな――……!!」

 

 

その時、サキの周囲に降り注ぐ針。

上空からキュゥべえの頭部、宇宙の様な模様のコートを纏った、針の魔女キトリーが現れる。

 

 

「魔女ッ!」

 

『コイツはキトリーだ。インキュベーターの命令に従い、オイラ達の邪魔になる物を排除する珍しい魔女さ』

 

「では、この魔女も……」

 

『ああそうだ、元魔法少女。つまりテメェらの先輩って事だな』

 

 

ジュゥべえは言う。

魔法少女時代の想いで決まる性質、それが魔女を突き動かす本能となるのだと。

キトリーの性質は『敬愛』、彼女はもともとキュゥべえ達を崇拝していた魔法少女だ。

だからこそ魔女になった今でも、キトリーはキュゥべえ達に協力するのだと。

 

 

『消えなキトリー、オイラ達の守護はしなくていい』

 

 

キトリーは頷いて姿を消す。

 

 

『まあテメェの気持ちも分かる。オイラを殺したけりゃ殺せばいい』

 

 

だがサキ達人類の価値基準こそ、ジュゥべえには理解に苦しむ事だと言う。

今現在で約69億人、しかも4秒に10人づつ増え続けているだろう人間が、どうして単一個体の生き死ににそこまで大騒ぎするのやら。

 

 

「心があるからに決まっている! 死んだらもう会えないんだぞッ!!」

 

『喜んで見送ってやれよ、宇宙の為に死ねるんだ。光栄だろ?』

 

「お前らは……! 命をなんだと思ってるんだ!」

 

『何なんだよ』

 

「何……ッ?」

 

『ちょっと前まで、飛行機乗せて特攻させてたのはどこのどいつだよ』

 

 

そもそも命とは、なんだ?

 

 

『お偉い人間様は、豚や牛を殺しまくって食べますわな。でも残すヤツもいる』

 

「……私達は命に敬意を払って牛たちを殺す。食事の前に頂きますを言う事こそが!」

 

『遊びで動物殺すヤツなんてざらにいるぜ?』

 

「………」

 

『テメェら人間はいつの時代も命は平等なんて綺麗事をほざきながら。平気で命に優劣をつけやがる。違うか?』

 

 

なんてな冗談だよ。ジュゥべえは謝罪して笑う。

しかしサキとしても複雑な所ではあった、だからつい話を反らす意味も込めて浮かんだ疑問を口にする。

 

彼らが魔法少女を絶望させる事によって発生するエネルギーを求めているのは分かった。

ならば気になるのは騎士の存在だ。彼らは一体何の役割を持つのだろうか?

そしてF・Gの意味とは?

 

 

『そうだな、答えてやるよ――』

 

 

騎士とF・Gは、最近生まれた産物だと言う。

つまり魔法少女のシステムが生まれてからずっと時間が経って生まれた物だ。

 

 

『騎士システムの導入とF・Gは今回が初めてだ』

 

「前例がないと?」

 

『サキ、本当に知りたいか?』

 

「!?」

 

 

念を押すジュゥべえに、サキも戸惑いの表情を浮かべる。

しかしもうここまで来たのだ。いまさら何を恐れる必要があるのか?

 

 

「全てを話せ、ジュゥべえ!」

 

 

ジュゥべえは何度か頷き、口を開く。

 

 

『ある時、オイラ達は騎士のシステムを手に入れた』

 

 

人の想いをミラーモンスターに変える。

それが魔法少女システムとは違う騎士システムだ。

魔法少女システムは願いを叶えた後、魔女へ変えると言うものだ。

希望を手に入れて、あとは絶望へ一直線のシステム。

 

 

それでもいいんだけどよ。ちょっと効率が悪いんだ』

 

 

魔法少女は半端な気持ちで変身する人間は少ない。

覚悟を持った少女達が良質なエネルギーを生み出す故に、キュゥべえ側もそうした人間をスカウトするのだ。

 

それが原因で、強い少女達は、なかなか絶望してくれない。

そんな時、インキュベーターは新たな段階へ足を踏み入れた。

 

 

『少女以外も使えるんじゃねぇかってな』

 

 

騎士は男を中心に、年齢もバラバラにする。

それは多感で感情の起伏が激しい第二次性徴期少女に代わる品を用意できるかもしれない試み。

 

つまり女子中学生でなくても、良質なエネルギーを生み出せる存在を作れるのではないかと言うことだ。

だが男性や成長期を過ぎた人間だと、願いが単調になり、覚悟もままならぬ状態になる可能性が高いと先ほど言った。

ならば――

 

 

『いっそ願いを最初じゃなくて、後に叶えるようにすれば良いんじゃねぇかってな』

 

 

人は誰でも叶えたい願いと言うものがある。それを餌にする事で、希望を膨れ上げる。

同時に負ければ全てを失うと言う絶望。それは膨れ上がった希望の量だけ大きくなると言うものだ。

 

それに打ってつけなのが騎士システムとF・Gだった。

そしてF・Gと言う最大の目的。それは早急に、かつ大量にエネルギーを搾り出す方法である。

 

 

『考えてもみろよ、テメェらは今日までその事実を知らなかった』

 

 

逆に言えばそれだけの時間、魔女にならなかったと言う事だ。

魔女は魔法少女の餌としても機能する。キュゥべえ達としては、できる事なら魔女は多い方がよかった。

 

しかし減るのと増えるのは反比例。

そこで彼らは効率よく魔女をつくる方法、エネルギーを得る方法を考えた。

天然もいいが、養殖も悪くない。

 

 

『テメェらを効率よく魔女にする。馬鹿な人間を効率よく騎士にして絶望させる』

 

 

それは願いを叶えると言う最高の報酬を餌にして。

人の欲望に終わりは無い、人は常に求めたがる。

 

でも手に入れられない。

だけど手に入れられるかもしれない!

そんな考えを常に持っている。だから踏み越える。だから手に入れようとする。

 

 

『たとえ他者を犠牲にしようとも』

 

 

こうして生まれたのだ、このゲームは。

 

 

『お前らで絶望し合ってもらうって事なんだよ、つまりは』

 

「……!!」

 

『愚かなゲームだよな、同じ種族が潰しあって絶望しあう』

 

 

バカ共の蠱毒。

まさにそれは愚者達のゲーム。FOOLS,GAMEなのだ。

 

 

「私達自身で潰しあう……!!」

 

『そうする事で早急に魔女とエネルギーを生み出せる』

 

 

騎士システムのおかげで少女以外も対称にする事ができ、エネルギーを調達できる。

ルールを設定すれば、決められた期間でワンサイクルの流れができあがる。

その一つの流れで必ず魔女は生まれ、騎士は絶望していく筈だ。

 

同時に良質なエネルギーを生み出してくれる。

こうすれば無駄な時間を過ごす事はない。

F・Gはインキュベーター達にとっては希望だったのだ。

 

 

「期間を早めるためだけに……! こんな残酷なゲームを!?」

 

『だけってのは少し違う。そもそも宇宙には余裕なんて無いんだよ、それに楽しんでるヤツは多いぜ? 困ったよな、本当』

 

 

とにかく、フールズゲームまた、宇宙の命を守る役割を果たしている。

 

 

「私はッ、絶対に認めない!!」

 

『じゃあ認めないまま死ねよ』

 

 

既に認めて動いている参加者は多い。

認めない事は事態を受け入れられない愚者の言い訳でしかないとジュゥべえは笑う。

 

確かに今まで、仲間達と楽しく毎日を過ごしてきたサキ達にとっては、受け入れがたいルールかもしれない。

だが既にマミが死に、さやかが魔女になった。

このまま認められないなんて言い続けていたら、サキ達に待っているのは全滅だ。

 

だからこそサキ達は決断しなければならない。

何もこのゲームは最後の一人しか生き残れないなんてルールじゃない。

ワルプルギスの夜さえ倒せば、何人でも生き残れるのだ。

 

 

『クハハハ! まあテメェらはいつだって常識を覆す存在だった。がんばれば否定できるかもしれないぜ?』

 

 

ジュゥべえはそう言うとサキに背中を向ける。

どうやら今回の情報はココまでと言う事らしい。

最後のジュゥべえはサキのソウルジェムをもう一度浄化した。

 

 

『じゃあな。さやかを助けたいのなら、とりあえずパートナーに倒させろ』

 

 

その後に勝ち残り、願い事を使えばいい。

サキとしても様々な思いが渦巻く所ではあったが、これ以上時間をかけてもいられない。

もう体も動く。悔しげにしながらも、サキは走りだした。

 

 

『………』

 

 

残されたジュゥべえは空を見上げ、月を瞳に映す。

 

 

『見えてるか? まあ無理か』

 

 

悲しいだろう? 苦しいだろう?

可哀想に、お前自身が絶望したくなるはずだ。

別にいいんだぜ? 苦しくなったら逃げ出してもよ。

それが人間って生き物だった筈だ。

 

ジュゥべえは跳躍。

さらに高い部分へと移動して見滝原の街を見下す。

今日もこの世界には何人もの愚者が生きているのだろう。

生かされているともしらず、自らが正しいと傲慢を振りかざして。

 

 

(ハッ! 虫けら共が、せいぜい足掻けよ)

 

 

面白くなってきた。ジュゥべえは満足そうにその場を離れたのだった。

 

 

 

場面は再びコンサートホールへと移る。

爆発や叫び声が飛び交い、オーケストラは滅茶苦茶だ。

オクタヴィアは異物を取り除くために大剣を振り回す。

 

やめて。

お願いだから彼との大切な思い出を怖さないで!

オクタヴィアは泣き喚く様な声を上げて参加者を攻撃する。

しかしそれを止めるように降り注ぐ銃弾。

 

 

「………」

 

 

ゾルダはそれを何も言わずにオクタヴィアを見ている。

尚も引き金に指をかけて、オクタヴィアに対して銃弾を浴びせていった。

苦しいだろう。きっと痛いんだろう。だが耐えてもらうしかない。

どうしようもないんだ。

 

 

「キキキキ!」「ギギギギ!」

 

「チッ!」

 

 

ゾルダは射撃を中断して、身を翻す。

そうしなければメガゼールの蹴りや爪を受けていただろう。

ゾルダはすぐにガゼール達に銃弾を撃ち込んでいった。

 

火花を散らして客席からホールに転落していくメガゼール。

このホールに新たな侵入者が現れたと言う事だった。

騎士・インペラーは、ゾルダ達がいる反対側の扉から登場。

アドベントを使用して、ホールに何体ものメガゼールを出現させた。

 

呼び出されたメガゼール達はホールを所狭しと駆け回り、滅茶苦茶にしていく。

ある者は他の参加者に襲い掛かり、ある者はホルガーを殺していく。

それに叫びを上げて暴れまわるオクタヴィア、『彼』が壊されてしまう気がして彼女は暴れまわった。

 

 

私の願いが叶うのならば『彼』でなく私を壊して。

愛する彼の思い出をこれ以上穢さないで。どうかもう放っておいて。

思念が頭の中に入ってくるようだった。

 

 

「オラオラオラァアアアアアア!!」

 

 

杏子は襲い掛かるメガゼールを斬って斬って斬って、刻みまくる。

 

 

「これだよ! この感覚が楽しいんだ!! 最高にスッキリさせてくれる!!」

 

 

頭の中にあるモヤモヤが全て消えていく。

全てのしがらみを壊し、全部の制約を解いて暴れまわる。

コレが魔法少女のあるべき姿じゃないだろうか。

杏子はそのままあやせに向かっていき、槍を振り上げた。

 

 

「ッ! 戦いを止めろ!!」

 

 

だがその槍を受け止めるのはあやせではなくライアだ。

エビルバイザーでしっかりと杏子の攻撃を防御し、次々と仕掛けてくる追撃もまた確実に防いでいった。

 

しかしそれはライアの前方。

すぐに焼きつくような痛みと衝撃が背中に走る。

 

「グッッ!!」

 

「ふふ♪ ご・め・ん・ね☆」

 

 

背中から煙があがる。

あやせは炎を剣に纏わせ、守ってくれた筈のライアを躊躇無く切り裂いた。

 

 

せっかく守ったのに。裏切られて。どんな気持ちなんだろう?

仮面で表情が見られないのが残念だ。あやせはゾクゾクするものを感じて、舌を出して笑う。

残念だが、ライアの言葉は杏子達には届いていないらしい。

 

 

「じゃあね☆」「どけよッ!!」

 

「ぐァアアアッッ!!」

 

 

杏子とあやせの回し蹴りが同時に炸裂し、ライアは近くにいたメガゼールを巻き込みながら吹き飛んでいく。

そのまま地面を転がりなが、壁にぶつかった。

そんなライアを囲むようにして、メガゼールが襲い掛かってきた。

 

 

「とんだ厄日だ!!」

 

 

しかしライアのストライクベントは継続中である。

瞬時に立ち上がると、バイザーをなぎ払う様に振るった。

すると巨大な三日月状の斬撃が発生し、その軌跡が全てのメガゼールを捉えて爆発させた。

 

 

「いやぁ凄いねキミ、だけど無駄だと思わなーい?」

 

「………」

 

 

頭上から拍手が聞こえてきた。

ライアを上を見ると、客席にいたインペラーと視線が合う。

 

 

「お前も参戦派なのか?」

 

「や、や、や、まあ分かるよ。できる事ならば誰も死なずに終わらせたいと思うのが普通だよね」

 

「分かっているなら協力してくれ。蹴られたり、斬られたりで散々なんだ」

 

「いやぁ、仕方ないでしょ。協力派なんて不可能だもん」

 

 

賢く生きなきゃ。インペラーは人差し指を振ってみせる。

最後の一組になれば多くの願いを叶えられる。

やっぱりそれは、嬉しいことだ。ありがたい事だ。叶えたいと思うのは何もおかしな話じゃない。

 

 

「キミだって本当は知ってるくせにさ。勘違いしてるんだ、きっと」

 

「分からないな。戦いを止める事が勘違いだとでも言うのか?」

 

「ああ。それは、うーん、ベストじゃない」

 

「なに?」

 

「戦わなければ叶えられない願いがある」

 

「………」

 

「戦う事でしか、たどり着けない場所があるんだ」

 

 

インペラーは少し声のトーンを落としながらそう言うと、立ち上がって軽くストレッチを行なう。

 

 

「このゲームに親友や恋人なんかと一緒に巻き込まれたヤツは、もうドンマイとしか言い様が無いよね」

 

 

インペラーはデッキからカードを抜くと、ガゼルバイザーに装填する。

 

 

「あいにく、オレはそういう人いないんで」『ストライクベント』

 

 

インペラーの足に装備されるは『ガゼルクロウ』。脚を強化する装甲靴だ。

地面を蹴って、後ろへ跳躍。すさまじい勢いでライアとの距離を離した。

その後、客席の一つに座り込むインペラー。戦いはモンスターに任せて、本人は鼻歌交じりに観戦と言う訳か。

 

 

「確かに、お前の言う事は正しいんだろうな」

 

「?」

 

 

ライアはインペラーの方向を向いて口を開く。

二人の距離はそこそこあり、インペラーはライアの言葉を全く聞き取れない。

だが分かっている。これはライアが自分に向ける言葉なのだから。

 

 

「だが俺は、この戦いを絶対に認めはしない……!」『シュートベント』

 

 

ライアのバイザーから現れるのは、エビルダイバーの装飾が見えるハンドガンだった。

暁美ほむらの武器が象徴されているのだろう。

飛び掛っていくメガゼール達を受け流しながら、ライアは銃口をターゲットの方に向けた。

 

認められない。認めてはいけない。

もしもライアがこのゲームで脱落する事があるのなら、それは死ぬ時ではない。

肉体の死は。心を殺す事はできない。

ライアの心が死ぬ時は――

 

 

「俺が戦いを認めた時だ!!」

 

 

発砲音。放たれた弾丸は二発だ。

それに杏子とあやせは気がついた。あやせは驚くべき反射神経で銃弾に気がつくと、サーベルでガード。

杏子は気づくのこそ遅れたが、掌で銃弾を受け止めてみせる。

 

ニヤリと笑う両者。

こんな弾で自分たちを止められるとでも思っていたのだろうか?

だがライアはこれでいいと銃を投げ捨てた。

 

 

「!!」

 

「きゃッ!」

 

 

その時だった、銃弾から放電が発生する。

小規模で威力は無いように思えるが、ライアの狙いは果たされた。

すると、あやせは何故か左手に持っていたサーベルを落として後退していく。

杏子も、その場に膝を着いて動かなくなった。

 

 

「な、なにしやがった――ッ!」

 

「麻痺弾だ。しばらく大人しくしてろ」

 

 

銃は攻撃ではなく抑止の道具だ。

弾丸から放たれた紫色の電撃が、動きを鈍らせていく。

あやせは直撃こそしなかったが、迸った電流に触れてしまい、腕の感覚が鈍くなっている。

 

 

「うッ、なにこれ。こういうの好きくない……!」

 

 

手を開いて閉じて、感覚を確かめる。

だがやはり鈍い。これでは剣をまともに持てない。

 

 

「しばらくすれば元に戻る。もういいだろ、戦いを止めてさっさとココから消えろ」

 

「悪いね、せっかく用意してもらったのに」『ユニオン』『リリースベント』

 

「ッ!」

 

 

鏡の割れる音と共に、杏子が勢いよく立ち上がった。

 

 

「騎士の力は便利だな。具合が悪くなっても、すぐに元通りさ」

 

「状態異常の無効化か。羨ましいな、俺もほしいよ」

 

「悪いね、今はコレくらいしかあげられないんだ」

 

 

杏子は小さな黒い玉を放り投げた。

攻撃か? ライアが構えると、杏子はニヤリと笑う。

 

 

「ただのチョコボールだよ」

 

「!」

 

 

ライアは上を向いていたせいで、地面が赤く光っているのに気づかなかった。

発光した場所から伸びるのは、杏子の槍だ。

ライアは反射的に後ろに下がるが、槍は一本じゃない。ライアの周囲を囲むように地面から伸びており、それは自動的に蛇腹状になり、ライアの頭上で連結する。

 

あっと言う間にライアを閉じ込める鳥かごができた。

その隙に杏子は走り出して、あやせのもとへ向かう。

 

 

「ちょ、ちょっと待って! 腕が変なの! ビリビリしてて」

 

「あっそ」

 

 

どうやら、あやせと言う少女は、打たれ弱い面があるらしい。

自分の体に異変が起こっているのが、気になるらしく、集中力が欠如する。

そこに杏子が迫ってくるものだから、余計に焦ってしまう。

 

あやせは自由に動く右の掌を前に出して、そこから炎を発射した。

しかし直線の火炎では芸がない。杏子は右に移動し、簡単に回避。

そして、すぐにあやせの前に立つ。

 

 

「ほい」「きゃ!」

 

 

拳を構えて殴る――、と見せかけて足払い。

あやせが膝をつくと、杏子はあやせの襟を掴んだ。

ニヤリと笑う杏子。なんて楽しそうな表情なのだろうか、活き活きとしている。

 

 

「今から蹴るぜ、どこがいい?」

 

「お、お顔以外!」

 

「りょー……かいッ!」

 

 

杏子はそう言うと、思い切りあやせの"顔面"に足裏を叩き込む。

あやせは仰向けに倒れると、凄まじい勢いで地面を滑っていった。

杏子はポッキーを一本口に咥えると、追撃の為に地面を蹴る。

だが、そこでライアがバイザーを振るって槍の檻を切断した。

 

 

『アクセルベント』

 

「なっ!」

 

 

ライアの動きが超加速し、すぐに杏子の前にたどり着く

驚き、足を止める杏子。あやせは壁に激突して目を回している。

杏子の表情が怒りに歪む。今すぐあやせを攻撃しに行きたいのに、ライアが邪魔で仕方ない。

 

 

「さっきからウゼェな……! ブチ殺すぞ」

 

「やれるかな? お前、ルールがあるんだろ?」

 

「ァ」

 

 

気づいていたか。

杏子は悔しそうに歯を食いしばって、ライアから距離をとる。

しかし加速したライアにとってそれは意味の無いものだ。一瞬で杏子との距離をゼロにすると、深く息を吸い込む。

 

 

「悪く思うなよ」

 

「!」

 

 

そして思い切り杏子の腹部に拳を打ち込んだ。

 

 

「うごォオ……ッ!」

 

 

怯む杏子。

すぐに痛覚操作を瞬時に行ない、痛みを軽減させる。

しかしそれでも騎士の攻撃力には驚かざるを得ない、ライアはそのまま回し蹴りを杏子の頭部へ叩き込む。

激しい痛みと衝撃が脳を揺らし、杏子は大きくヨロける。

 

 

「テメ……ッ! マジで容赦ねぇな!!」

 

「これ以上、動くな」

 

 

まだ終わってない。

ライアは踏み込むと、掌底を繰り出した。

しかしニヤリと笑う杏子。ライアの繰り出された掌底をしっかりと右手で受け止める。

 

 

「動くな? おいおい、こんなお祭りみたいな場所でそりゃ酷ってもんさ」

 

 

杏子はライアの拳を弾くと、自らも渾身のストレートを繰り出した。

 

 

「だろうな」

 

「!」

 

 

ライアは杏子の拳をバイザーで受け止める。

そこで杏子は気づいた。ライアのバイザーには既にカードがセットされている。

ライアは素早くバイザーを閉じてカードを発動させた。

 

 

『アドベント』

 

 

 

 

 

 

 

 

一方のゾルダと王蛇。

王蛇はソードベントを発動。ベノスネーカーの尾を模した『ベノサーベル』を持つ。

このサーベルは斬る能力は無く、叩き壊す役割を主としている。

王蛇は剣を振り回し、メガゼール達を叩きのめし、さらにはゾルダの銃弾まで弾いて走る。

 

 

「クッ!」

 

 

距離をとろうとしたゾルダだが、タイミング悪く背後にはメガゼールの集団が迫ってきた。

ガゼルモンスター達は素早い動きと跳躍力で、あっと言う間に距離をつめると、ゾルダを爪や槍で攻撃していく。

 

ゾルダは必死にメガゼールを射撃し、客席から転落させていった。

とは言え、ゾルダは接近戦も心得はあるが、そのメインはあくまでも飛び道具だ。

群がるメガゼールを相手にしていると、笑い声がすぐ傍に迫る。

 

 

「余所見か? 余裕だなッ!」

 

「は? 何でそうな――、グッッ!!」

 

 

王蛇がそこにいた。

ベノサーベルを横に一振り。前にいるメガゼールを吹き飛ばす。

ベノサーベルを縦に一振り。ゾルダの腕を叩き、頭部を鷲づかみにする。

そのまま客席の手すりに思い切り叩き付けた。

 

ゆれる視界。

ゾルダは何とか抵抗しようと試みるが、既にベノサーベルは振り下ろされていた所である。

 

 

「ぐあッッ!」

 

「どうしたァ? こんなモノか!!」

 

 

王蛇は何度も何度もゾルダの頭部を壁に叩きつけていく。

やっと開放されたと思えば次はベノサーベルの乱舞。

ゾルダの体から大きく火花が散った。

 

だがここで終わるほどゾルダも甘くない。

それだけ攻撃されても、銃は手放さなかった。

そしてブレる視界の中でしっかりと王蛇の隙を見出していたのだ。

次に王蛇がベノサーベルを振り上げた時、マグナバイザーを向ける。

 

 

「そこだッ!」

 

「!!」

 

 

まず一発目で王蛇の手を撃つ。

王蛇は衝撃でベノサーベルを落とした。だが迷わずサーベルを捨てて殴りかかっていく。

そこは予想通り、ゾルダは最小限の動きで拳を交わすと、王蛇の胴体に銃を突き当てる。

 

 

「ぐぅゥウッッツ!!」

 

 

ゼロ距離射撃の終わりに、ゾルダは蹴りを王蛇の腰に当てる。

また王蛇の動きが鈍った。ゾルダは素早くデッキからカードを抜くと、マグナバイザーに装填していく。

 

 

『ストライクベント』

 

 

ゾルダの腕に装備されるのはマグナギガの頭部を模したアームキャノン、『ギガホーン』。

ゾルダは唸り声をあげて、怯む王蛇へと全力のストレートを叩き込んだ。

二対の角がガッチリと王蛇を固定し、同時に発射されるキャノン。

王蛇は苦痛の叫びを上げながら、爆炎を纏って吹き飛んでいった。

 

 

「ハァ……、ハァ! これでアイツも終わりだろ」

 

 

王蛇は客席を破壊しながら吹き飛び、壁に叩きつけられて動かなくなった。

ゾルダは体をオクタヴィアに向ける。メガゼールが纏わりついているぐらいで、まだ動きは鈍っていない。

 

 

「――……ハハ」

 

「!?」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

ゾルダはすぐに振り返る。

見えたのは笑いながら走ってくる王蛇だった。

 

 

「コレだ! この命のやり取り! これが俺を楽しませてくれる!!」

 

「お前ッ、痛みとか感じないわけ? クスリでもキメてんの?」

 

 

痛みの恐怖、死への恐れ、戦う事に対しての不安がまるで感じられない。

純粋に娯楽として命のやり取りを楽しんでいる。

面倒な相手だ。ゾルダは深くため息をついて銃を構える。

 

 

「おわあああああああああああ!!」

 

「「!」」

 

 

悲鳴が聞こえた。

見えたのは赤。それはエビルダイバーに突進されたまま、ゾルダ達の方へ向かってきた杏子だった。

 

ライアは戦いを止める為に動いている。

それは当然、王蛇とゾルダも止める対象なのだ。

そして、もう一つの狙いがある。それは先ほどトークベントを解してほむらから伝えられた情報だった。

 

 

『とにかくゾルダにオクタヴィアを倒させて』

 

 

結果、ライアはゾルダのサポートを行なう事に考えを変える。

 

 

「チッ!」

 

 

エビルダイバーは杏子ごと王蛇に突っ込むつもりだった。

もちろんすぐに王蛇は回避をしようと体を反らそうと試みる。

 

 

「甘いんだよ!」

 

「!!」

 

 

そこでゾルダが発砲、王蛇の動きを止めた。

それだけで十分だった。エビルダイバーは杏子と王蛇の二人を巻き込み、ゲート外へと運んでいく。

 

 

「ウギギギッッ! はえぇなこのクソエイ!!」

 

「杏子ォ、貴様……!」

 

「何だよ! アタシのせいかよ! アンタが避けないのが悪ィんだろうが!!」

 

 

杏子は王蛇の頭を叩くと、凄まじい風圧と重力の中でエビルダイバーの一部をつかみとる。

 

 

「なんだこりゃ! 尻尾か!? 上等さこの野郎、エイヒレにして食ってやる!!」

 

 

杏子は細長いソレをガブガブ噛んで、ガジガジ噛み千切ろうとするが、そこで王蛇に頭を叩かれた。

 

 

「ァにすんだよッッ!!」

 

「殺すぞ。それは俺の指だ」

 

「………」

 

 

杏子は無言でエビルダイバーに運搬されていく。

エビルダイバーのスピードがあれば、この短時間のやり取りで相当遠くまで運ぶことができるだろう。

ライアはその隙にゾルダへと合図を送った。

 

 

「あの魔女を倒すんだろう?」

 

「いいのか? 俺、アレ倒したらお前に襲い掛かるかもよ?」

 

「なら、その時にお前を倒すさ」

 

「ふゥ! カッコいいね」

 

 

肩を竦めるゾルダ。

とにかく今は魔女を倒す事が先だ。ゾルダはシュートベントを発動、巨大な大砲である『ギガランチャー』を構えた。

狙うのはもちろんオクタヴィア。

ゾルダはトリガーを引いて、弾丸を発射した。

 

 

 

 

 




今回少し修正しました。
3番(あやせ)の名前を明かすタイミングを早めました。
内容的には変わってません(´・ω・)
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