仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
守るために魔法少女になった。
だからさやかを救いたい。だから杏子を傷つける。
相反する想いの矛盾。戦いを止める為の矢は、戦いを加速させる要因でしか無いのか?
しかし何もしなかったら親友が死ぬ。
まどかはソレを受け入れられずに、答えがでないまま矢を放ったのだ。
「何ッ!?」
光の矢が杏子へしっかり届いた。
不意打ちの一撃に杏子はのけぞり、オクタヴィアを逃してしまう。
それだけではなく、奇跡が起こった。
まどかの友を想う気持ちがスターライトアローに新たな力を授ける。
桃色の光がオクタヴィアに触れた時、なんと魔女の呪いが解け、オクタヴィアがさやかに戻ったのだ!
「ありがとうまどか」
さやかは笑う。
それに微笑を返すまどか。
ああやった。
さやかちゃんが魔女の姿から戻った良かった嬉しいなななななな――
そんな夢物語を願っていたのだろう。
その答えを望んでいた。
「んな訳ねぇだろうが、ブゥぁああああああかァアッッ!!」
『キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
ホールの上に立っていた13番がゲラゲラ笑う。
そして先ほどまで姿を消していた蛸の魔女・マリレーナが猛スピードで飛来。
体を膨らませると、まどかの弓矢をその身で弾いてみせる。
だから当然、まどかの矢は杏子に届くことは無く、杏子を止める者もいない。
それにもう遅かったのだ。オクタヴィアは、杏子の射程に入ってしまった。
杏子は、片足立ちでバッティングフォームを決める。
おお、見よ。これぞ幻の一本足打法。
そのまま思い切り、棍棒をフルスイングだ。
「やめてぇええええええええええええええッッ!!」
「ブッ壊れろォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
『グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
棍棒はしっかりとオクタヴィアを捉えた。
王蛇が吹き飛ばした相手を、杏子が打ち砕く複合ファイナルベント、『ルージュ・オブ・キング』が炸裂。
粉々になりながら吹き飛ぶオクタヴィア。
皮肉にも、墜落場所はまどかの少し前方だった。
「さやかちゃ――」
『ア……、ア―――』
まどかは回復魔法をかけようと手を伸ばす。
その先で、オクタヴィアは爆発し、その姿を完全に消滅させた。
「いやぁアアアアアアアアアアッッ!!」
まどかは泣き叫び、その事実を否定しようとする。
必死にオクタヴィアの破片を探して掴み取ろうとする。
しかしどんなに叫ぼうが、どんなに泣き喚こうが、真実は真実だ。
望む答えなど出るはずも無い。
それにまどかとて、ただの傍観者ではないのだ。
それを忘れてもらっては困る。
「安心しなよ。アンタもすぐに後を追えるんだからさァ」
杏子は槍を構え、まどかの方へと足を進めていた。
「ココは最高の狩場だな!」
まどかを殺した後は、ゆまとサキ。
後は、あやせを八つ裂きにして大きくゲームをリードさせる。
そのプランを既に杏子は完成させていた。
「くそォオオオオオオオオオオオッッ!!」
サキは焦燥の思いに叫びをあげる。
だがどれだけ力を込めて体が動かなかった。
ココまできたのに、さやかを守る事ができなかった。
それだけじゃない、このままならば皆殺される。もちろん自分もだ。
マミが死に、残された自分たちもゲームに呑まれて死ぬ。
そんなふざけた事があっていい訳がない。サキは歯を食いしばり、ひたすらに力を込めた。
「ふふふ、すっごい面白かった♪」
あやせはサキを蹴り飛ばすとサーベルを向ける。
サキがどんな顔をするのか見たかったが、もう十分だ。
あやせもまた、勝利を目指している。だからサキをこれ以上生かす意味もない。
「じゃあね、最期は思いっきり痛くしてあげる!」
「ッッッ!!」
力を込め続けるサキ、しかし力が戻る気配はない。
まどかに近づいていく杏子。再びゾルダに狙いを定める王蛇。
「………」
それを、インペラーはジッと見ていた。
「さやかちゃん……! さやかちゃんッッ!!」
まどかは、さやかが死んだ事が納得できないのか、何度も名前を呼んでいた。
しかしどれだけ連呼しようが帰ってこない。それはもうまどか自身分かっていた事だ。
だからこそ心に亀裂が走る。
まどかのソウルジェムが濁り始めた。このままならば、さやかと同じ運命を辿るだろう。
「終わったな、これでゲームオーバー」
インペラーの隣に、13番の魔法少女が立つ。
危険視していたライアペアも既に使い物にならない。
ライアはただの人間に戻り、ほむらは能力を封じられた。
何もできない彼らには誰も救えない。
「でも……、何か、おかしいんだよな」
「?」
インペラーには、ずっと引っかかっているものがあった。
だがそれが何か分からずに沈黙する。
考える。考える。すると、まどかに目がいった。
「なに?」
「いや、あの娘さ、何か、足りなくない?」
「は? 何が?」
「いや、えっと……、なんだろな」
軽い違和感は、前にも感じていた。
そう、アレは確か、一番はじめにまどかと戦ったときだ。
「あ」
インペラーは理解した。
そうだ、以前まどか襲ったときに、彼女はアドベントを使用した。
ドラグレッダーの登場。
インペラーは気づいた。そう言えばまどかの服には、紋章が刻まれたじゃないか。
「ちょっと待て! じゃあアイツのパートナーは一体――」
「ダアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「!?」
まどかの背後から赤い炎が飛んでくる。
それは今まさにまどかへ切りかかろうとした杏子の足元に直撃し、爆風で吹き飛ばした。
「ぐァ! ッッ!? 何だよ!!」
爆発に気をとられ、あやせや王蛇も動きを止める。
杏子はまどかの魔法で爆発が起こったのかと一瞬思ったが、まどかの向こうに見えたシルエットを確認して頷き始める。
「成る程ね。クソ遅い登場ってこった」
「……っ?」
まどかは、杏子の視線を追うように背後を見た。
ソウルジェムは今もなお濁っていき、思考も鈍り始める。
いっそこのまま穢れきってしまえば楽になれるのか? さやかに会えるのか?
そんな事を考え始めていたが、その人物の登場は、まどかの心に大きな揺さぶりを与えた。
瞳に映るのは赤い龍。
そのドラゴンは、まどかの危険を『主人』に知らせに行ったのだ。
だから彼は、ココに来る事ができた。
ドラグクローを解除したのは――
「まどかちゃん……! 皆――ッッ!」
「………!」
城戸真司、龍騎の登場だった。
「「「「!!」」」」
一勢にホールの空気が変わった。
絶望に包まれたこの場に突如現れた騎士、龍騎。
"勇気"の性質を持ったドラグレッダーを従わせて、辺りをゆっくりと見回す。
「ッ! ッッ!!」
ボロボロになっている仲間達。
悲しみに暮れているまどか、ホールの各所に見える戦いの跡。
それが物語る事はただ一つ。しかし龍騎はソレを認めたくなくて拳を握り締めた。
「やっぱりな」
「………」
インペラーは立ち上がると13番に合図を送る。
「もうやる事はやったし、ココにいる理由もないよな」
今の龍騎を見て、インペラーは撤退の選択を促した。
「残り死にぞこないを皆殺しにしてからでいいだろ。そもそも、アイツ一人で何とかできるとは思わないけど?」
「織莉子ちゃんの指令は、さやかちゃんを殺す事だけだ。余計な事をしたら彼女の計画に支障がでるかもしれないだろ?」
「……ま。それは確かに」
渋々了解する13番。
インペラーと共に、姿を消す。
一方の龍騎は、震える声で呟いた。
「さやかちゃんは……?」
「―――ッ」
龍騎はどこを見てもさやかがいない事に違和感を感じていた。
そしてそれを裏付けるようなまどか達の様子。
まさかと思いつつ、ソレを否定したいと龍騎は願う。
だが、そんな龍騎の願いも赤が塗りつぶす。
「クハハハハハ! さやか? アイツはね――」
杏子は自信に満ちた表情で、自らを指し示す。
「アタシ等がブッ殺してやったよ!!」
「―――ッッ!!」
「浅倉ァ! コレはアンタの獲物だろ? 譲るぜ!」
杏子の言葉に反応する王蛇。
ゾルダを殺すのも悪くはないが、無反応で殴られるだけのゾルダよりは、龍騎の方が殺しがいがありそうだ。
だから王蛇は標的を龍騎に変更した。王蛇にとっては戦いの過程が大切らしい、殺せる相手がそこにいたとしても、新しい戦いの場面があるのならすぐそこに食いつく。
「――ッッ」
拳を握り締める龍騎。
あと少しでも来るのが早ければ間に合っていたのだろうか?
それともまた、何もできずに指を咥えて見ているだけだったのか。
後悔、そして怒りが身体を駆け巡る。
「アンタが……、殺したのか?」
「ああ、そうだぜ」
ドラグレッダーが龍騎の周りを旋回する。
同じくして、王蛇の周りをベノスネーカーが旋回した。
龍と大蛇は、同じような体勢で睨みあい、咆哮をあげる。
「なんで、なんで!!」
「楽しいぜ、暴れるのは。頭に張り付くイライラがサッパリ無くなる。お前もそうじゃないのか?」
「ふざ――ッ、けんなァアアアアアア!!」
「!!」
龍騎は叫ぶ。共鳴する様に吼えるドラグレッダー。
その圧倒的な迫力に、あやせは固まってしまう。
そこへ火球を放つドラグレッダー。呆気に取られていたあやせは、その炎を避ける事はできず、サーベルで受け止めるだけ。
「キャアッ!!」
炎が弾け、あやせはサキから引き剥がされる。
「ムッ! そういう抵抗、好きくないっ!!」
ムッとした表情を浮かべるあやせ。
すぐに腕を前に出し、サキに向けて炎を飛ばした。
しかしその炎は何故かあやせの意思とは裏腹に、全く別の方向へ飛んでいく。
「な、なんでよ!!」
表情を歪めるあやせ。すると気づいた。
炎が全て龍騎に向かっていくではないか。
龍騎は赤いマントを振るっている。
ガードベントであるドラグケープは、相手の攻撃対象を自分に向ける事ができる効果があった。
ドラグケープ自体にも防御力があり、炎がケープに触れると受け流される様にして龍騎の身体を逸れていった。
「むーッ! やっぱり好きくないなぁ、そういうの!」
あやせは不満げに表情を歪ませる。
その一方で、何やらブツブツ呟いている杏子。
全ての魔法少女達へ槍を順番に向けていき、何か呟いている。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・き・ょ・う・こ・さ・ま・の・い・う・と・お――」
そして槍の先にいたのは、あやせだ。
「り! はい決まり!!」
杏子は走り、一気にあやせへ距離をつめる。
すぐに槍で切りかかり、戦闘を開始した。
「なにするの!」
「仕方ないだろ! 抽選の結果お前になったんだから。とにかくブッ殺してやるよゴスロリナルシスト!」
「意味不明なんですけど! って言うか、変な名前つけないで!」
サーベルで槍を受け止めるあやせ。
そこで杏子に蹴られた顔の事を思い出す。
可愛くなければ『彼』に嫌われてしまうかもしれないじゃないか!
そのためには常に顔を大切にしておかなければならないのに。
なのになのに、杏子はその顔に傷をつけ様とした!
「ゆるせない! 殺しちゃうから!!」
「やってみろよ! やれるもんならさァッ!!」
怒りと狂喜がぶつかり合い、双方は激しく刃を交し合う。
だがおかげで手塚達は標的から外されて動きやすくなった。
手塚は肩を押さえて足を引きずりながら、ほむらのもとにやって来る。
「おい、大丈夫か? 暁美」
「ええ……、何とか」
とは言えダメージは大きい。今も頭がクラクラする。
そうしていると、サキもフラフラとやって来た。
どうやらようやく動けるようになったらしい。
「見て」
ほむらは視線をまどかの方を移した。
「まずいわ。ショックでソウルジェムが濁ってる」
「なに……ッ?」
サキもその意味を理解して、懐からグリーフシードを取り出す。
本当はさやかに使うため手に入れた物だが、もう意味が無い。
しかしそれがココでまどかを救う鍵となるとは。
(さやか……、頼むッ! まどかを守ってくれ!)
サキは涙を流しながら歯を食いしばる。
後はグリーフシードをまどかに届ければいいのだが、少し距離がある。
狙われてはいないものの、攻撃が飛んでくる可能性はあったし、杏子がいつ心変わりを起こすかも分からない。
「私が行くわ……、まだ大丈夫だから」
そう言って立ち上がるほむら。
しかし杏子から受けた傷は深く。すぐにフラついてしまい、膝をついてしまった。
サキとしても戦うだけの力は残っていない。
「俺が行く。貰うぞコレ」
「あ」
手塚が、サキから半ば強引にグリーフシードを奪い取り、まっすぐにまどかを見つめる。
「駄目よ。今の貴方では殺されに向かう様なもの。それに――」
「なんだ?」
「彼女は私が……」
そこでほむらは言葉を止めた。
手塚としても、ほむらが何か複雑な物を抱えているのは知っているが、今はそんな事を言っている場合ではない。
龍騎の登場で少しは踏みとどまったが、以前まどかが危険なのは変わりなかった。
「……暁美。盾はどうだ?」
「え? あ。使えるようになってるわ」
「そう言えばほむら、キミの力は一体何なんだ……?」
サキの言葉にほむらは答えなかった。言えないと雰囲気が語っている。
「仕方ないな。言いたくないならそれでいいさ。とにかく今はまどかだ」
「ええ。ごめんなさい。とにかく――」
ほむらは再び立ち上がろうとするが、やはりバランスを崩して倒れてしまう。
どうやら杏子に何度も叩きつけられるうちに、足の骨が砕けてしまったらしい。
ソウルジェムを操作して痛覚を遮断しても、肉体の回復が追いつかないのでは意味がない。
やはり手塚に任せたほうがいいのか。ほむらは少し表情を暗くした。
「ハァ。仕方ないな、怒るなよ」
「え?」
手塚はほむらの表情をしっかりと見ていた。
さすがにパートナーとして、気づいているワケだ。
そもそも、確かに手塚が生身で行けば流れ弾でも死ぬ可能性がある。
ならば残る道は一つだった。
「触るぞ」
「ちょ、ちょっと……」
そう言って手塚はほむらを抱き起こして背中に乗せる。
おんぶだ。こうすれば手塚はほむらの『能力』を使って。安全にまどかの場所へ向かえるらしい。
ほむらとしても、自分で助けるという事をクリアできる。
手塚の行動に少し怯んだが、すぐに意味を理解して能力を発動させた。
「ッ!?」
一瞬でサキの前から消えるライアペア。
そして次の瞬間、ほむらはまどかの前にへたり込んでいた。
「ほむらちゃん……」
「もう大丈夫よ。今、グリーフシードを使うから」
「うん……。ありがとう」
手塚もゆまを落ち着かせ、少しでも戦いの場から離れるようにしていた。
そんな中、龍騎は地面を転がっていた。転がした王蛇は楽しそうに歩いている。
「やめろ! 俺は……ッ! 戦うつもりで来たんじゃない!」
目の前にはさやかを殺した騎士がいる。
だがそれでも龍騎は戦いを否定する言葉を口にした。
それが彼の信じる道だからだ。
とは言え、王蛇にとって戦いこそが今ココにいる目的であり、行動理念。
それを否定されては困ると言うものだ。
「御託はいい、さっさと戦え! お前もつまらないヤツなのか?」
王蛇は両手を広げて龍騎を挑発する。
「何でだよッ! どうして同じ騎士、同じ魔法少女同士で戦わなきゃいけないんだよ!!」
「???」
「敵は魔女じゃないのかよ!!」
「おかしいだろッ!? さやかちゃんが何をしたんだよッッ!!」
怒りの感情は、龍騎の血液を沸騰させんばかりだった。
いつも元気で、皆を笑顔にしてくれたさやかが死ぬ理由がどこにある?
彼女はただ純粋に願いを叶え、人を守りたかっただけなのに。
「下らん、負けたヤツは死ぬ。ただそれだけだろ? まさかルールを知らんのか、お前」
「知ってるよ! 知ってるからなんなんだよ!」
「弱いから喰われる。ルール通りだ。何の問題もない」
王蛇のその言葉に、龍騎の怒りが遂に爆発した。
激しく燃え上がる炎の様に、心を熱する。
「ふざけんなぁアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ドラグレッダーが吼える。その性質は『勇気』。
龍騎は、間に合わなかった悔しさを、『悲しみ』に変える事を拒んだ。
そうだ、勇気に変えるのだ。このまま訪れるだろおう絶望を焼き尽くす勇気へ。
一方でベノスネーカー、その性質は『力』だ。
一切の戯言を許さない、正しいのはいつだって力だった。
王蛇はそれを信じている。だからこそいつだって力を振るう。
ミラーモンスターは性質に従う主人を気に入るのだ。
お互いのモンスターは主人を守るために、再びとぐろを巻く。
「俺は……! 俺はッ、絶対にお前らを許さないッッ!!」
だけど――、龍騎は言葉を続ける。
もう、さやかの様な犠牲者を出すのは嫌だ。
「だから俺は――ッ! この戦いを止めてやるッッ!!」
「!」
表情が変わる手塚。
まさか龍騎が、そう言うとは思わなかった。
てっきり血が上っているようなので、殺意を口にすると思ったのだが。
「アイツ、凄いな……」
あんなプレイヤーがいてくれて助かった。手塚はつくづくそう思う。
しかし王蛇はそうじゃない。不快感に鼻を鳴らし、腕のスナップをきかせた。
「ハッ! 勝手にしろ、それよりもう飽き飽きだ。さっさと――」
「!!」
「戦えェェエエエッッッ!!」
ベノスネーカーと共に走り出す王蛇、同時に龍騎も構えて走り出す。
先にぶつかり合うのは二体のミラーモンスター達だ。
己の牙や身体を使って、激しくぶつかり合い、絡み合う。
騎士もまた、遅れて激突する。
飛び上がり、拳を交える。互いの胴体に一撃を深く叩き込んだ。
「ぐアッ!!」「ッハハハ!」
落下して倒れる二人だが、両者すぐに体勢を整えて走り出す。
先に殴りつけるのは王蛇だ。怯む龍騎へ、次々と拳を打ち込んでいった。
龍騎にとって、初めてと言っていい対人戦だ。迷い無き王蛇の拳に思わず怯んでしまう。
喧嘩くらいはした事がある。
だがこれは殺しあいだ。同じような殴りあいでも、戦う事に対しての恐れや躊躇、戸惑いが出てくる。
一方で王蛇からは人を傷つける恐怖が全く感じられない。
ただ純粋に楽しんでいるのだ。その迫力に呑まれ、龍騎は反撃のタイミングを見失う。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「―――!」
だが同時に聞こえてくるドラグレッダーの咆哮が、龍騎を叱咤させた。
浮かぶのは、さやかの笑顔だ。それが龍騎の意識を鮮明にさせる。
「ォオオオ!!」
龍騎は飛び込んでくる王蛇の拳をしっかりと受け止めて、反撃の拳を繰り出した。
戦いは嫌だ。しかし戦わない事は逃げでしかないのかもしれない。
犠牲になったさやかの為に、このまま殺される訳にはいかないのだ。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
「何ッ? ぐアアアアあっ!!」
全身の力を込めた拳が、王蛇の胴を打ち、弾き飛ばした。
倒れ、転がる王蛇。だが彼はしっかりとデッキからカードを抜き取っており、立ち上がり様ソレを発動する。
同じく龍騎もまた、デッキからカードを抜き取り、ドラグバイザーへ。
『ソードベント』『ソードベント』
次はベノサーベルとドラグセイバーが火花をあげてぶつかり合う。
力と戦闘センスは王蛇が上だったか。すぐにドラグセイバーが龍騎の手から離れた。
龍騎は走り、地面に落ちたドラグセイバーを拾いに走るが、王蛇がそれを許す訳もない。
踏み込むと、龍騎に向かってサーベルを振り下ろしていく。
斬るのではなく粉砕。その威力に龍騎は大きくふらついてしまった。
「ッ! オオオオオオオオオオオオオオ!!」
だが倒れない! くじけそうになれば叫ぶ。
龍騎は前のめりにフラつきながらも、別のカードを引いていた。
勢いあまって前転しながら立ち上がると、『ガードベント』を発動する。
ドラグレッダーの腹部を模した『ドラグシールド』が二つ、龍騎の両手に装備された。
同じく、ベノスネーカーと交戦していたドラグレッダーが赤く発光。
ベノスネーカーを弾き飛ばすと、猛スピードで龍騎の元へと飛翔する。
「ハァアアア……ッッ!!」
「ッ!?」
ドラグレッダーが炎を纏いながら龍騎の周りを激しく旋回。
それはまるで赤い竜巻だ。ガードベントの必殺技である『竜巻防御』が発動し、火炎烈風が王蛇を吹き飛ばす。
まだ龍騎の攻撃は終わっていない。
シールドを前に出し、龍騎は蛇に突進を仕掛ける。
地面を転がっている王蛇はすぐに起き上がるものの、その時にはもう龍騎のシールドを受けているところだった。
「ウオォォオッッ!!」
シールドバッシュ。王蛇はさらに地面を転がる。
「もういいだろ、勝負はついた!」
「どこがだ? アァ、なあ! 教えてくれよ!!」
王蛇はなんの事なく立ち上がると、懲りずに龍騎を狙いに走る。
それほどまでに戦いたいのか、それほどまでに傷つけあいたいのか。
それほどまでに命を奪いたいのか。
さまざまな思いが龍騎を駆け巡った。
王蛇にとってそれは、残酷で美しい揺ぎない
文字通り、どちらかの命尽きるまで立ち上がり続け、牙を剥くだろう。
「ハハハハハハハハハッ!」
走り出す王蛇。
龍騎はうんざりしたように、デッキへ手を伸ばした。
「ハ――ッ! グアッ!」
「!!」
しかし突如、王蛇の身体から火花が散ったではないか。
何が起こったのか。龍騎の目に飛び込んできたのは、銃を構えた緑の騎士だった。
「さっきはやってくれたな……ッ!」
「お前ェ!」
ゾルダは今も苦しげに呼吸を荒げていたが、しっかりと銃弾を王蛇の装甲に命中させた。
さらに連射。苦痛の声をあげながら後退していく王蛇と、戸惑う龍騎。
龍騎としてはゾルダが味方なのか敵なのかまだ分からない。
「アイツに戦いを止めろなんて無理だ! そういうタイプじゃない!」
ゾルダは状況を確認して言い放つ。
ふと、大きなため息をついた。それは、さやかに向けるものだ。
どんな感情なのかは知らないが。
「とにかくさ、今は逃げた方がいいんじゃない?」
「………」
龍騎は辺りを見回す。
確かに。このまま戦えば仲間達が危険に晒されるのは確実だ。
マリレーナとゲルトルートはいつの間にかいなくなっているし、まさに今がチャンスだった。
調度その時、龍騎と手塚の目が合う。
ほむらも頷いた。それは退避のアイコンタクトだ。
「皆! 逃げよう!!」『ストライクベント』
王蛇の代わりに襲い掛かってきたベノスネーカーを、昇竜突破で退けると、龍騎は一同に合図を送る。
ドラグレッダーがまどか達を背中に乗せ、一気に飛んでいく。
それを見て叫ぶ王蛇。
そんな萎える行動を許すわけには行かない。
すぐに龍騎を妨害しようと走り出すが――
「!」
カランと音がして、いつのまにか王者の周りには無数の閃光弾が転がっていた。
瞬間、ソレらが破裂。強烈な光が王蛇の視界を狂わせる。
「グッ!」
光が止み、王蛇が再び目を開けた時、龍騎達の姿が忽然と消えていた。
「おいおい……!」
王蛇は辺りを見回し確認を行う。
だが何度見ても結果は同じだった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ふざけるな。叫びながら王蛇は暴れまわる。
苛立ちが溢れる。適当な場所を蹴り続けたり、地面を殴りつけたり、自己を保とうと叫びをあげる。
しかしどれだけ咆哮を上げようが、無駄なものは無駄だ。
王蛇は仰向けに倒れると、変身を解除して沈黙する。
一方であやせと戦っていた杏子も、光に怯みはしたが、すぐに回復すると槍を振るう。
あやせもまた、同じだった。動きにくそうなドレスにも関わらず、杏子に引けを取らない動きで戦いについていく。
「ハハッ! そんなに綺麗なお顔を蹴られた事が悔しいのかい?」
「やっぱり貴女って、好きくないなぁ!!」
むしろ――
「だいッッ嫌い!! アルディーソ・デルスティオーネ!」
あやせは杏子を蹴り飛ばすと、巨大な炎の塊を発射する。
だが杏子は持っていた槍を激しく回転させ、炎を受け止めると四散させた。
「こんなモン?」
笑みを浮かべる杏子。
しかし同じく笑みを浮かべたあやせ。
「セコンダ・スタジオーネ!!」
「!?」
あやせがサーベルを振るうと、散らされた炎達が意思を持ったかのように動き出す。蛇を思わせる複雑な動きで、杏子へと飛来していく炎。
「成る程、防がれると思ったうえでの攻撃か!」
杏子は狙われているのにも関わらず、関心の笑みを浮かべていた。
「ほっ! よっ! あらよっと!!」
壁を蹴りながら炎を交わしていく杏子。
器用な動きでつぎつぎに炎を退けてみせる。
しかしあやせの魔法は強力だ。
次々に迫る炎は杏子を逃がすまいと動いている。
結果として杏子も、全ての炎は避けきれず、いくつかは命中を許す事に。
何とかガードは行うが、ダメージは入ってしまう。
「あづぅッ! アチチチチ!!」
杏子は素早く地面を転がり、炎をかき消す。
動きは執拗だが、威力はそれほど高くない。
「にしてもさ、全く、こんな炎を使っちゃって。乙女の柔肌に火傷の痕が残ったらどうしてくれるんだ」
「あなたが言う!? わたしのお顔を蹴ったくせに!!」
「ハハハ! そりゃ確かに――ッ、ね!!」
杏子は槍を投擲。それはあやせの胴体を狙う。
「当たるわけないじゃん」
あやせは剣で難なく槍を弾いた。
「こっちの方もね♪」
ヒョイと横に移動する。
すると先ほどまであやせがいた地面から槍が生えてきた。
「なるほど、せこい技じゃ通じないか」
投げた槍は囮で、本命は地面から生える槍だったが、あやせは全てを理解していたようだ。
あやせは素早く身体を回転させて体勢を立て直した。
美しくなびくドレスが非常に絵になっている。
そのまま杏子は槍を、あやせはサーベルを構えてぶつかり合った。
「これで終わりにしてやるよ!!」
「終わるのは、貴女だけどね♪」
ギリギリと均衡を保つ二人。
死ぬのは杏子か、それともあやせか?
その終わりは、唐突に訪れた。
「乙、でんがな」
死ぬのは杏子か、あやせか。
それとも、両者か。
「トッコ」
はじめに感じたのは肩に触れられる手、しかし肩を見ても何もない。
「デル」
次に感じたのは声。
しかしそれはあまりにも音量が小さく、声だとは気づけない。
「マーレ」
最期に見えたのは、ソウルジェムが空中を舞っている所だった。
鈍る思考、混乱する脳。杏子とあやせは、何が起こっているのか理解できなかった。
ソウルジェムは身体にしっかりと固定している筈。
なのに目の前には無防備になっている自分の魂がある。
ソウルジェムは魔法の源であると同時に、『全て』と言ってもいい。
魔法少女の全てが詰まっており、同時にそれは守らなければならない物でもある。
要するに弱点だ。
魔法少女はどれだけ強力であったとしても、ソウルジェムを狙われれば――、終わりなのだ。
『ホールドベント』
ほぼ同時だった。
杏子とあやせ、二人の目の前で、二つのソウルジェムが砕けたのは。
粉々になった『魂』は、美しい破片を舞い散らせている。
先ほどまで激しく戦っていた両者も、口を開けてその光景をただ目に映すだけだった。
何が起こっているのかまだ両者は理解できていない。
だが確実に時間は進むわけで。
「お、おいおい……! こりゃ何の冗――、談…、だっ……」
「嘘――……」
目の光が失われて、地面に倒れる二人。
これには浅倉も反応を示し、杏子のもとへ歩く。
「オイ、どうした?」
「………」
返事は無い。
すぐに周りを確認する浅倉、すると粉々になった杏子のソウルジェムを見つける。
ソウルジェムについては浅倉も、キュゥべえ達から情報を得ていた。
だから、これがどういう意味なのかを理解する。
つまりそれはごく簡単な話、杏子とあやせは――
「――ッ」
すでに、死んでいる。
「チィイ!!」
やられた!
浅倉は再び苛立ちに身体を震わせる。
「全員消えたと思っていたが……」
ホールにはまだ他のプレイヤーが潜んでいたと言う事だ。
まんまとその策略に嵌った。浅倉は壁を殴りつけて唸る。
今はもう気配もないし、誰もいない。
浅倉は壁に肘を当てて、眉間を押さえる。
「クソッ! まあいい、"アレ"でいくか……」
浅倉はホールを後にする。
パートナーを失ったと言うのにも関わらず、浅倉は平然としていた。
所詮その程度の関係だったのだろうか? やはりライバルが減るのは嬉しいと?
こうして命を散らした二人。
あれだけ暴れていた割には、あまりにもあっけない最期だった。
それも傍から見れば愚かなものだ。どんなに強くあろうとも、どんなに他者を殺していようとも、死ぬ時は一瞬なのか。
自信に満ちていた杏子でさえ、最期は一瞬で終わる儚き物。
そうしているとほら、倒れている二人の粒子化が始まった。
特定のルールを除き、敗北者はその存在全てを無に返す。
人は愚かな敗北者を忘れ去り、世界さえも忘却を示すのだ。
「うぅッ! さやかちゃん――ッッ!」
たどり着いたのは誰もいない線路。
ホールから逃げ出した一同だが、その心情は最悪だった。
親友を守るために戦いに向かい、そして結果が親友を失う。
「マミが死んだ時、二度とこんな悲劇を起こすまいと誓ったのに、待っていたのはコレか……」
サキは大きなため息を漏らし、へたり込む。
手塚もまだ全身が痛むのか、肩を抑えて表情を歪ませる。
「完敗だな。俺も認識が甘かった……」
「ごめん、遅れて――ッ! 俺がもっと早く来てればッ!」
真司は拳を握り締めて皆に謝罪を行う。
しかし事情が事情だ。蓮を探していた事に加え、一連の出来事をまどかから一切聞いていなかった部分がある。
それから駆けつけた事を考えれば、むしろ間に合ったと言ったほうがいいかもしれない。
しかしそれで真司が納得できるのかと言えばノーだ。
自分よりも幼い少女をむざむざ死なせた。その責任が心を駆け巡る。
「詳しい事は後日。改めて話し合いましょう」
杏子から受けた傷が深い、ほむらも表情を歪ませながら口にした。
とにかく今は各々の回復が先だ。
サキも同意見だった。あまりにもショックが大きいが、このままこの場所で悲しみに沈んでいるのも危険だ。
参加者はまだいるのだ。特に黒い炎や、突如現れたゲルトルートなど、謎も多い。
「うぅうううッ! さやかちゃん……ッ」
「………」
まどかの泣いている声が一同の心に突き刺さる。
先輩だけでなく親友まで失った彼女の気持ちを、誰が理解してあげられるだろうか。
誰もが沈黙していた。そんな中で、真司だけは声をかけていた。まどかを元気付けようと必死だったが、それでもまどかが泣き止む事はなかった。
「元気だして、まどかちゃん」
ましてや、当たり障りの無い言葉しかかけられない。
その様子に、思わず近くにいたゾルダは笑ってしまった。
「仕方ないよ。死んじゃった物はさ」
「!」
ゾルダは変身を解除すると、北岡に戻る。
「アンタ、騎士だったのか!」
「そういうお前もな。意外に世界は狭いもんだ」
「え?」
「美樹さやかは俺のパートナーだったみたいよ? まあもう死んだけど」
「何だよその言い方ッ! さやかちゃんはな……!!」
真司は我慢がならなかった。
ましてや、さやかは北岡の事務所で雑用をしていたじゃないか。
それにしてはあまりにも北岡の態度が淡々としすぎている。
その白状さに、真司は怒りを隠せなかったのだろう。
気づけば北岡に掴みかっていた。だがそれでも、北岡の表情が変わる事は無かったのだが。
「死んだヤツは死んだヤツ。ただそれだけでしょ」
「な、なんだよッ! 大体アンタがもっと早くさやかちゃんの事を気にかけてれば――」
「こんな事にはならなかったって?」
「……ッッ」
無言でうつむき手を離す真司。
分かっている。さやかが死んだのは北岡のせいじゃない。
しかし今は積もる怒りをとにかく発散させたかった。
それに責めるのならば北岡じゃなくて自分の方だ。
さやかだけじゃなくパートナーのまどかにすら着いてやらなかったのだから。
「わ、悪かったよ」
「………」
北岡は真司を払い、スーツを正す。
「ま、今日は俺も消えるよ」
「待って」
「?」
ほむらが北岡を呼び止める。
「なに?」
「貴方は、ゲームに乗るつもりなの?」
「………」
沈黙する北岡。
しばらくして笑みを浮かべる。
「俺は普通に暮らしたいだけなんだけどね」
「………」
その答えに納得したのか、していないのか。
それは分からないが、ほむらは何も言わなかった。
北岡はそのまま闇の中に消えていく。
「私達も今日は帰ろう。行こう、まどか。ゆま」」
サキは二人を連れて歩いていく。
先ほどの通り、詳しい話は後日と言う事にして、一同は帰る事となった。
それぞれ散り散りになっていく中、残されるのは手塚とほむら。
「最悪の展開ね」
「………」
少し目を細める手塚。
最悪の展開。そう言った割には、ほむらに焦る様子は感じられなかった。
まるでこの展開が予想通りだと言わんばかりだ。ほむらだって、さやかとは友人だったはず。交流は短かったかもしれないが、悲しむ様子は無い。
「………」
考えすぎか。
手塚はパートナーを少しでも疑ってしまったことに、罪悪感を感じてしまう。
だがそう感じる点はまだあった。手塚視点、ほむらには少し『影』が見えるからだ。
「お前……、もしゾルダがゲームに乗るって言ってたらどうしてた?」
「どういう意味かしら?」
「いや――」
もういい、疑うのはやめよう。
手塚は言葉を切って、話題を変える。
「鹿目まどかのパートナーは中々面白いかもな」
「城戸真司ね、危険人物では無いわ」
「ああ。それにあの状況で、戦いを止める選択をした」
さやかを殺したと王蛇ペアと対峙した時も、復讐心に心を喰われる事は無かった。
手塚は必要ならば多少の犠牲は仕方ないと考えているが、真司は違う。
「俺に持っていない物を持っているのかもしれない」
「………」
「これは俺の勝手な予想だが、城戸真司がこのゲームを大きく乱すノイズであり、切り札かもしれない」
「……そうなってくれたらいいわね」
ほむらは、盾の裏に隠していた『ハンドガン』をしまう。
北岡がバカではなくて助かった。
(さて、ココまではだいたい分かってた。問題はココからどう転ぶのか……)
油断はできない。
ほむら決意を瞳に灯すと、足を引きずりながら夜の闇に消えていく
「「乾杯」」
グラス同士がぶつかる美しい音が部屋に響き渡った。
テーブルの上にはそれはもう豪華な料理が並んでおり、テンションが嫌でも上がると言うものだ。
「うーん、しあわせでごんす」
「そりゃ良かった」
神那ニコは、グラスに入ったジンジャーエールを一気に飲み干す。
その前では、高級そうなワインを飲んでいる高見沢が座っている。
毎晩の食事はそれはもう豪華なものだが、今日は一層レベルが高い。
高見沢はワインについてのうんちくを語っていたが、ニコはそれを適当に受け流して肉にかぶりついた。
「なんていうか、案外余裕だったな」
スッと、ニコの目が冷たく変わる。
それは先ほどまでとは別人のようだ。
対して高見沢もニヤリと笑みを浮かべて頷く。
「どいつもコイツも脳筋馬鹿か、甘ちゃんしかいねぇと来た」
「欲を言えばもう二人くらいは殺せたんじゃないかなと」
「まあな。たが焦ってミスをするのは、愚の骨頂だ」
頷き合う二人。この祝杯は勝利へ近づいた事へのものだ。
あのホールで杏子とあやせを殺したのは、ニコと高見沢である。
高見沢の能力で二人は『透明』となり、不意打ちでソウルジェムを破壊できたと言う訳だ。
ニコがサキにさやかのメールを送ったのも、他の参加者にオクタヴィアの場所を教えたのも、全ては『不意打ち』のためだ。
集まった参加者は勝手に潰しあい、自分達は隠れていれば、後半弱った参加者を影から不意打ちで殺害できる。
現に今回の作戦では、三名が死んだ。
なおかつ、多くの参加者のデータを把握する事に成功した。
これならばレジーナアイでの立ち回りにも有利がつく。
「しかふぃ、ひまのひょうふぃならはくにはへるはもよ」
「………」
パンを口いっぱいに頬張っているせいで、何を言っているのか分からない。
高見沢はため息をついてニコを落ち着ける。
ニコは差し出された水を飲み干すと、再び表情を一変させる。
「しかし今の調子なら楽に勝てるかもよ」
「今の調子ならな。話に聞いた限りソレは期待できなさそうだが」
13組のうち、優勝候補が存在している。
並々ならぬ力を持った参加者が存在していると言う事だ。
非常に腹の立つ話ではあるが、ソレが自分達ではないと知っている。
「ルールもあるし」
「【参加者は魔女や、使い魔、他の参加者を殺すことでスペックが上がる】んだったな?」
まさにゲームらしいルールではないか。
大幅なものではないが、魔女を大量に倒す。もしくは参加者を殺すことで、勝利に近づいていくのだ。
とは言え、なるべくステルスは貫きたい。
考えなしに姿を晒すのは、死に繋がる愚かな行為だ。
だからこそ情報戦に徹する。
見滝原と言う限られた区域内での殺し合いは、敵とのエンカウント率が高くなるのは明白。なるべく正体は隠しておきたい。
「それに、特殊ルールのこともある」
「あー、多分今頃伝えられてるヤツね」
ニコが得た特殊ルールには一つ『重要な物』が存在していた。
それはゲームだけでなく、世界その物の構造を覆してしまう程のものだ。
そんなルールを用意に創造するインキュベーターとは一体何者なのか? 考えただけで寒気がする。
「………」
一方のホール。
そこには先ほどニコと高見沢の不意打ちを受けて、死亡したあやせがいた。
粒子化が何故か止まったのだ。あやせは虚ろな目で、砕けたソウルジェムを見つめている。
ソウルジェムが砕け散った魔法少女は死ぬ。
それが純粋なるルールであり、『理』なのだが――
「……フッ」
目に灯る光。そして吊り上がる唇。
あやせは不敵な笑みを浮かべたまま、ゆっくりと立ち上がった。
ドレスについたほこりを優雅に払い、彼女は大きく伸びを行う。
「不思議な事もあるものだ。少し、焦ってしまったぞ」
あやせはバラバラに砕け散ったソウルジェムの前に立つと、そこへ手をかざした。
手には光が見える。これは彼女の魔法だ。
「カチュレール・パウザ」
光がソウルジェムを包むと、なんと砕け散った筈のソウルジェムがみるみる修復されていったではないか。
完全に元の輝きを取り戻す魂の宝石。
あやせはソレを確認すると、ソウルジェムを自分の身体に戻す。
「ふふ♪」
ドレスを翻すあやせ。
その笑みは殺される前と何も変わっていない。
この瞬間、双樹あやせは再び舞台に上がったのだ。
所変わって、北岡法律事務所。そこには当然北岡の姿があった。
先ほどから椅子に座って目を閉じている。
思い出すのは先ほど、ほむらに言われた言葉だ。
ゲームに参加するのか、しないのか。
「そりゃ参加するでしょ、普通」
むしろ暁美ほむらと言う人間が協力派だったのが意外だった。
仕事上いろいろな人を見てきたがアレは、あの目は――
「人殺しの目だ」
ほむらを思うと、どうにも協力派がうさんくさく感じてしまう。
もともと人を疑う様に仕向けられているゲームだ。
わざわざ難易度の高い方へ行く必要も無い。
北岡はゆっくりと目を開けた。
このまま協力派を装い、まどか達の仲間になるのは悪くない。
そしてタイミングを見て裏切れば、まどかチームは確実に殺せる。
『センセーは……、誰も殺さないでね――』
舌打ちを放つ。
女の涙は昔から苦手だった。
『ちーッす!』
「!」
事務所の窓に重なる影。
それはまさしくジュゥべえのシルエットだ。
気づけば、一瞬でジュゥべえが北岡の目の前に座っている。
「なんか用?」
『まあな。まずはパートナーの死亡、お疲れ様だ』
「わざわざそんな事を言いに来たのか?」
『まあ待てよ。ンな訳ねーだろ!』
早い話が、北岡個人に伝えるルールがあったのだ。
『特殊ルールを今から説明するぜ』
「特殊ルールだと?」
頷くジュゥべえ。
このゲームには様々なルールが存在しているが、その中にはある特定のイベントをトリガーに発動されるルールがある。
そしてそのトリガーを北岡は引いたのだ。
『パートナーがいないとヤバイよな、パートナーがいないと寂しいよな? クハハハ!』
「ウザイなお前。何が言いたいのよ」
『悪い悪い、まあ要するに――』
その時、ジュゥべえの口が三日月の形に変わった。
『今から、パートナーの【蘇生方法】についての説明を始めるぜ』
そうだ、それは世界の理を変える力
命を操作するゲームのルール。
それは参加者の命など、その程度の重さしかないと言う意味なのだろうか?
【美樹さやか・死亡】【佐倉杏子・死亡】【双樹あやせ・死亡】
【双樹あやせ・特殊能力により復活】
【結果、残り22人・12組】
浅倉は絶対あの俳優さんじゃなかったら、あそこまで人気になって無かったと思います(´・ω・)