仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第21話 赤い記憶 憶記い赤 話12第

 

 

 

『んじゃあ今から死者を蘇らせる方法を、教えてやるぜぇ』

 

「なッ!?」

 

 

これには北岡も表情を変え、椅子から跳ねる様に立ち上がった。

何気なくジュゥべえは言ったが、そんな事は普通に考えてありえない。

いや普通とは何か? 気がつけば自分たちはジュゥべえ達を『人間の目線』と言う型にはめ込んでいたのかもしれない。

 

向こうはどんな願いも叶えられる存在だ。

つまり死者の蘇生も叶えられると言う事になる。

妖精にとって死んだ者を蘇らせる事など、容易いと?

 

 

「お前ら、何者なんだよ」

 

『オイラ達は宇宙を守る為に努力してるだけだぜ』

 

 

死者を蘇らせるというルール、それはまるで神のみが許された所業の筈だ。

しかしそれをゲームの一環として行ってみせるインキュベーター達とは一体……?

 

 

(いや……)

 

 

そんな事はどうだっていい。

北岡はニヤリと笑って椅子に大きくもたれ掛かる。

これはチャンスだ。パートナーを蘇生できれば多少は有利になる。

 

 

「教えてほしいね。その方法」

 

『いいぜ、教えてやるよ』

 

 

ジュゥべえは嬉々とした雰囲気で語り始める。

北岡はすぐに思う。

 

 

(聞くんじゃなかった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、赤い記憶。

 

 

 

貧しくて、でも幸せだったって言うのは、子供の都合いい感想なんだろうか?

だけどそれは紛れも無い本心だった。

あの時のアタシは、本当にそう思っていただろう。

 

生活はとてもじゃないが、良い物とは言えなかった。

家は狭かったし、自分の部屋なんて無くて。

でもアタシはソレが逆に嬉しかった。だって寝る時、食事の時、いつも家族一緒だった。そりゃ貧しいのは嫌だったけど、辛くはなかったから。

 

 

「おねえちゃん……! 見て見て!」

 

「また花を摘んできたのか。ハハ、モモはお花が好きだね」

 

「うん! だって綺麗なんだもん!」

 

 

貧しい生活にだって、変化や楽しみはあった。

例えば父親の仕事上、いろいろな場所に行けた。その費用は親父の勤めている『本部』が出してくれたし。

 

いろんな場所で、いろいろな国でアタシらは生活してきた。

妹のモモは、その場所にしか咲いていない花を見つけるのが好きで、よく花の冠をつくっていたっけ?

それをアタシにくれるんだけど、どうにも恥ずかしくてさ。なかなか被れなかったよ。

 

 

 

親父はさ、世界中でいろいろな教えを説いた。

それが本部から評価されたのか、親父は自分だけの教会を与えられたんだ。

 

あの時の親父の嬉しそうな顔は今でも覚えてる。

自分の事が認められたとか何とか、ウザイくらい言いまくってさ。

でも本当言うと、アタシもその時は嬉しかった。

 

だって親父――、父さんが認められたってのと、これからは少しでもいい生活が送れるって信じていたから。

信じて、信じて、信じて疑う事は無かった。

アタシも、モモも、母さんも、当然親父も。

 

 

 

だけど親父は優しすぎた。

人の事を想っていた優しい性格は、親父の本質であり、同時に異常さでもあったんだ。

親父は日々新聞を読んでは、そこで報道される出来事に心を痛めて涙を流すような馬鹿正直な人間だ。

毎日教科書どおりの言葉を説いていれば良かったのにさ。

 

 

『新しい時代には新しい教えが必要』

 

 

なんて事を考えるようになっちまった。

今の現状に親父は納得していなかったんだきっと。

だからとうとう、教えを説く時間に、自分の意見をぶちまける様になっていた。

 

何なんだろうな?

それで共感してくれる人が現れるのを待っていたんだろうか?

いや、確かに親父言う事は正しい事だったのかもしれない。

 

 

アタシも聞いていて、成る程とか思ったりしてたっけな。

ただ、そんなもん端から見れば胡散臭い新興宗教としか映らないのは分かってただろうに。

結局それが原因で、ただでさえ少なかった信者達の教会離れを招くことになる。

 

そうなれば当然、教会に入るお金も減る訳だ。

本部はカンカンにぶち切れて親父に詰め寄った。

そりゃそうだろうよ、親父のやってた事は仕事放棄どころか営業妨害だ。

 

結局、最後にはさ、『教義に無いことを説きだした』って理由で、本部から破門の処分を食らっちまった。

 

 

こっからは結構きつかったかな、

親父はすっかり落ち込んじまった。

正しい事を言っている筈なのに、誰も分かってくれない。誰も理解してくれないって。

 

それはまあ、アタシも同じ気持ちだったよ。

親父はおかしな事を言ってないのに、誰もが話をまともに聞かず白い目で見る。

 

 

悔しかった。

当然収入はますます減る訳で、生活も本格的にヤバくなって来てさ。

でも、それでも、親父は必死に自分の言葉を話し続けた。

ただ努力は実らず。教会には別のヤツが来る事になって――……。

 

 

『誰もがキミのお父さんの話を聞く。そして理解してくれる――』

 

 

そんな時だった。

 

 

『そんな未来を、キミは見たくはないかい? 佐倉杏子』

 

 

あいつが。キュゥべえが現れたのは。

 

 

『ボクと契約して、魔法少女になってよ!』

 

 

まあ、考えるべきだったのかね?

今になって思えば、アイツの言葉や存在、雰囲気。その全てが胡散臭さの塊だった。

だけどほら、人間余裕がなくなるとさ、考えるって事が上手くできなくなるじゃないか。

 

 

「ほ、本当に何でも願いを叶えてくれるの!?」

 

『ああ、君が望む全てを叶えてあげられるよ』

 

 

だからまあ、あの時のアタシに迷いは無かった。

 

 

「みんな……! 皆がさ! 父さんの話を聞いてくれるの!?」

 

『もちろんだよ!』

 

 

余裕がなかったんだ。

一家揃って食う物にも事欠く有様。

アタシは我慢できたけど、妹には腹いっぱい食べさせてやりたかった。

 

ましてや、この状況を一刻でも早く変えないと教会まで失う事になる。

そうなったら本当に終わりだ。それにやっぱり納得できなかったよ。親父は間違ったことなんて言ってなかった、ただ少しばかり人と違うことを話しただけだ!

 

 

5分でいい。

ちゃんと耳を傾けてくれたら。、正しいこと言ってるって誰にでも分かってもらえる。

そう。だからアタシは――!!

 

 

「わ、わかったよ。キュゥべえ、アタシを――」

 

 

その未来に。

その"餌"に喰いついた。

 

 

「魔法少女にして!!」

 

『わかったよ。キミがそこまで言うのなら――』

 

 

アタシは願いを叫んだ。

 

 

「皆が父さんの話を真面目に聞いてくれる様に――ッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、ビビったね。あの時は実際。

だって次の日になってみれば教会には溢れんばかりの人が押し寄せてきたんだから。

毎日毎日怖いくらいの勢いで信者が増えてった。

 

それでアタシはアタシで晴れて魔法少女の仲間入り。

親父の説法が正しくったって、それで魔女が退治できるわけじゃない。

まあ、そこはアタシの出番だってバカみたいに意気込んでたっけな。

アタシと親父で、表と裏からこの世界を救うんだって信じて疑わなかったし。

 

魔女との戦いは――、やっぱり良い物じゃなかった。

気の強い性格だとは言われてたし、近所のクソガキなんかとはよく喧嘩もしてた。

ただ、魔女みたいな化け物は別だろ。そりゃ怖かったって。

 

だけど親父や母さんを見てれば不思議と頑張れた。

親父はやっと自分の努力を皆が認めてくれたって、子供みたいに喜んでたし。

母さんもモモも笑顔が増えたんだ。

 

それに辛いことばっかりじゃない。

あれは確か幻術を使って戦う牛の魔女との戦闘中だった。

アタシは敵の能力に気づかず苦戦してたんだけど――

 

 

「大丈夫?」

 

「うん……! ありがと」

 

 

自分の他にも魔法少女は何人かいるって聞いてたけど、アタシを助けてくれたのもそんな一人だった。

 

 

「改めまして、私は巴マミ」

 

「アタシ、佐倉杏子……!」

 

 

それがマミとの出会いだ。

魔女を倒した後、マミの家でいろいろ話を聞いたアタシは、切実にアイツの下で勉強したいって思ったね。

 

まあ話しでは、マミのヤツも魔法少女になってまだ時間は経ってないみたいだったけど、それでもマミはあの時のアタシが目指す魔法少女像にピッタリと合致してたし。

 

つまり理想の魔法少女だったって訳だ。

マミはマミで魔法少女の友達が欲しかったらしくて、アタシらはすぐに『友人』と『師弟』になれた。

 

 

「魔法少女の先輩としてビシビシ指導していきますからね!」

 

「はい! マミさん! よろしくお願いします!!」

 

 

こうしてコンビになったアタシ達は一緒に修行したり、魔女を倒したり、お茶したりしてたっけな。

 

それなりに楽しかったよ。

アタシはマミから、いろいろな『技術』を教えられたし、世界中を移動してきた身としてはコッチも初めての友達だったから。

 

 

「プッ! アハハハハハハハッ!! パラットラエドゥンマギカインフィニータって! あはははははは! 長いし恥ずかしいよぉ! アハハハハハハハハ!!」

 

「い、いいじゃない別に! それに正しくは、パロットラマギカエドゥンインフィニータ!」

 

「ハハハハハハ! 変わんないよマミさん! ハハハハ! あー苦しい! ハハハハハハっっ!!」

 

「そ、そんなに笑うことなの! もぅ!!」

 

 

そうだ、楽しかった。

 

 

「うわっ! このケーキめちゃくちゃ美味いよ!!」

 

「もっと落ち着いて食べればいいのに。ケーキは逃げないわよ?」

 

「無理無理、こんなうまい物ゆっくり食えって方が失礼だよ!」

 

「ああもう、クリームついてる」

 

「わっ! い、いいよマミさん自分で取れるよ……!」

 

「ふふっ、気にしない気にしない」

 

「も、もう!」

 

 

味方がいて、嬉しかったんだ。

 

 

「くぁー! やっぱお風呂は気持ちいいなー」

 

「そ、そうね……。でもちょっと恥ずかしいわ」

 

「なに言ってんだよマミさん! お風呂は一緒に入るもんだろ? ほら隠さないで手足伸ばしなって!」

 

「わわわわわ! さ、佐倉さん! ちょっと待――ッ」

 

「うーん、照れるマミさんは可愛いなぁ! ハハハハ!」

 

「か、からかわないで!!」

 

 

そう、そうだ。とても大切な時間だったかもしれない。

それにアタシ達は互いに互いを高めあう事ができた。

あの時のアタシはマミがいればどんな魔女にだって勝てる気がしてたんだ。

 

でもそんな日が続くわけも無い。

アタシ等はそういう存在だった。

その日だって、唐突にやってきた。

 

 

「杏子……! なんだ――? その姿は」

 

「あッ、え、えっと――」

 

 

早い話が、親父に魔女と戦っている場面を見られちまった。

場所が家の近くだったって事と、バイクみたいなヤツだったから戦っている時に結構移動しちまったんだ。

 

あの時はマミもいなかったし。

何より親父に見られた事で、アタシもパニックだった。

だから言っちまったんだ。全てを親父にぶちまけた。

 

だけどアタシは、それで親父が褒めてくれるって思ってた。

親父の為に、家族の為に魔法少女になって戦ってるアタシを褒めて――

 

 

「全て……! 全てお前の嘘だったんだな――ッッ!!」

 

「え?」

 

「お前が作った嘘だったんだ!!」

 

「父さんッ? な、何を言って――」

 

 

皆が話を聞いてくれたのは、努力が実ったからでは無く。自分の話に共感してくれた訳でもない。

ただ魔法で作られた幻想だった。

 

それを知った時の親父の気持ちを、アタシは考えてやれなかった。

だから親父の言葉を、アタシはそのまま受け取る事しかできなかった。

 

 

「私はお前に騙されていたんだなッッ!!」

 

「と、父さん違うよ! 何を言ってるのさ!」

 

「黙れ魔女めッッ!!」

 

「!!」

 

 

信じていた物が嘘だったとき、偽者だったとき、人は壊れてしまう。

 

 

「私は絶対お前を許さんぞッッ!!」

 

 

笑えるぜ。

実の娘を人の心を惑わす魔女だとさ。

 

それから数日、アタシは親父と一言も言葉を交わす事は無かった。

マミが心配してくれたけど無駄だったよ。

親父は人前に出る事を止めて、毎日酒に溺れていった。

 

 

 

そんな日が続いたある日、親父は家に火をつけた。

一家心中ってヤツを図ろうとしたんだろう。

まずは寝ている母さんを殴り殺すと、ガソリンを頭から被って自分に火をつけやがった。

アタシはと言うと、魔女退治で外に出てたから、帰ってきて炎に気づいた。

 

 

「なんで……! なんでだよ――ッ!!」

 

 

アタシは動けなかった。

そこまでアタシのした事が親父を傷つけていたのか?

そこまで苦しめていたのか? なんで? だってアタシは全て家族の為に――ッッ!!

 

自責の念で、アタシは一歩も動けなかった。

ただその日は、アタシを心配してついて来てくれたマミがいた。

アイツは何度かアタシの家で食事をした事があったから、炎の中に飛び込むと一直線に妹のモモ――、桃子(ももこ)の部屋に向かってくれた。

 

ただ見ているだけのアタシと違って、マミは妹を抱えて戻ってきた。

モモの部屋は火元よりも一番遠くて、煙を吸う前に助ける事ができたんだけど……。

 

 

「と、父さんと母さんは?」

 

 

マミは首を振った。アタシもそれで理解する。

 

 

「大丈夫……? 佐倉さん」

 

「大丈夫に見える?」

 

「ッ! ご、ごめんなさい」

 

「いや……」

 

 

マミのアタシを心配してくれる優しい言葉が、あの時は毒にしかならなかった。

どうかしてたんだと言えばそうだ。だけどとにかく放っておいてほしかった。

この日からマミと会う機会が減っていった気がする。

 

たぶん、アタシはマミに格好つけたかったんだと思う。

ダサい姿は、見られたくなかった。

ましてやアイツのためにも……。

 

 

ただ、だからと言って、コッチだって生きていく為にはいろいろしなきゃいえなかった。親父達の後処理だったり、モモやアタシが住む場所の確保だったり。

 

とりあえずモモを心配させちゃいけない。

それだけがアタシの思うところだった。

心中の事は内緒にしてたけど、当然親父と母さんを亡くしたショックでモモは暗くなっちまった。

 

 

そんな時さ、本部から『施設』を紹介してくれるって言う話があったのは。

それなりに大きな場所で、アタシ等みたいな孤児達を引き取って育ててくれるらしい。

断る理由も無かったから、アタシ等はその孤児院、『リーベ』で世話になる事にした。

見滝原とはかなり距離があったから、マミには適当に別れを告げる事にして。

 

 

「ごめん……、マミさん」

 

「うん、いいのよ」

 

 

マミが優しく抱きしめてくれた。

アタシも親父が死んだ事が相当ショックだったんだろうか?

気がつけばマミに教わった『魔法』が、自分の魔法が使えなくなっていた。

 

 

『願いを否定したとき、固有魔法が使えなくなる』

 

 

キュゥべえはそう言った。

笑えるな。あれだけ必死に願ったものが、いらないと思うようになっていたなんて。

だが分かってくれ。アタシのせいで家族が死んだんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんとお母さんを亡くしてしまったのね、可哀想に……」

 

「いえ、お世話になります」

 

 

リーベの創立者であり『母』と呼ばれている教祖の『シルヴィス』と知り合った。

彼女もまた、親父と一緒でさ。施設にある教会で定期的に自分の考えを説いていた。

 

上品な淑女と言うイメージもあってか、シルヴィスのもとには多くの信者が集まり、救いを求めていたのを覚えてる。

アタシもモモも、いつのまにかシルヴィスの雰囲気に魅了されていた。

それに彼女は優しかった。だから新しい場所での暮らしに不安は無かったっけ。

 

 

「安心してね、貴女達を必ず幸せにしてみせるから」

 

「あ、ありがとう!!」

 

「……ありがとうございます」

 

 

あの時は、モモの嬉しそうな笑顔を見て安心したな。

モモだけは守りたい。それがアタシの想いだった。

 

 

リーベの生活に慣れるのは早かった。

住めば何とかって言葉もあるだろ? リーベには色々な場所から孤児がやって来てそりゃもう賑やかだったよ。

 

海外の奴らも結構いたが、言語をあわせる魔法で何とかなった。

幸い、こいうのは消えてなかったからな。

 

まあアタシは孤児達の中でも年齢が上だったから、必然的にチビ共の世話をしなきゃならない。

それは少し面倒だったけど、慣れれば楽しいモンでさ。

アタシも段々と余裕を取り戻す様になっていったんだ。

 

 

「キョーコおねえちゃん! 遊んで!」

 

「ばか! 杏子はまずおれと遊ぶんだ!」

 

「杏子ちゃん、絵本読んで!」

 

「ハハハ! 群れでくんなって! お前らの服を洗濯してんだから!」

 

 

とまあ。少しすればアタシはチビ達のボスさ。

親父の事は引きずってたけど、チビの世話やら魔女退治やらで。アタシの中でまた前の調子が戻ってきたのを感じてた。

 

マミにも久しぶりに会ってみようかなとか思ってたくらいに。

そんな事を思い始めた時だよ。アイツと出会ったのは。

 

 

「浅倉……、威?」

 

「ええ。少年院の出でね。かなり乱暴な子だから皆とは離れたところに隔離してあるのよ」

 

 

毎日食事を運んでいる職員が気になって、聞いてみたらその名が出てきた。

何でもリーベは少年犯罪においての社会復帰も手伝っているらしく。

再犯を防止するために、身元引受人になる事もやっていたんだ。

 

浅倉もその一人だった。

家に火をつけて、それが原因で少年院にぶち込まれた。

そこから精神状態がなんたらかんたらで、長期間入院してたみたいだけど、リーベがソイツを引き取る手続きを完了させて外に出したわけだ。

 

つっても喧嘩しかしない為、社会復帰はまだ難しいらしく。

リーベで半ば監禁じみた事をしているとかなんとか。

 

 

「家に……、火を」

 

 

そりゃまあ。反応しますわな、アタシとしては。

とにかく一度ソイツに会ってみたいって気持ちが生まれた。

 

それに飯ってのは家族揃って食うもんだ。

だからアタシは止めようとする職員を無理やり説得して、飯を運ぶ役目を代わってもらった。

で、いざ部屋に入ってみると――

 

 

「アァ? 誰だ?」

 

「………」

 

 

中にいたのはヤバイ目をした男だ。

もちろん鎖だとかで手を繋がれてるとかは無かったけど、部屋中の壁に穴があいていた。

要するに殴ったって事なんだろ。

 

アタシは魔法少女の力があったからビビる事はなかったけど、普通の人間なら睨まれただけで気絶しちまうかもな。

とにかくそれだけヤバイ目をしたヤツだったよ。

 

 

「おい、一緒に食おうぜ」

 

「ハァ?」

 

 

蛇みたいな目で睨んできやがる。

 

 

「いや、だからさぁ、アンタも降りてきて一緒に食べようよ」

 

「お断りだ。さっさと飯を置いて消えろ」

 

 

これだよ。

こんな美少女が誘ってやってんのに、浅倉の野郎はちっとも嬉しそうじゃない。

それにこの無愛想な態度。アタシもムッと来て、思わず詰め寄っちまった。

 

 

「なんでだよ、飯は皆で食ったほうが美味いだろ?」

 

「おい、聞こえなかったのか?」

 

「聞こえてるよ。その上で言ってんだよ」

 

 

そしたらお前。

いやいや、確かに忠告じみた言葉を無視したのはアタシの方だ。

だけど仮にも向こうはアタシよりはるかに年上&アタシは女だぜ?

 

 

「―――ッ」

 

 

なのに野郎、事もあろうにグーパンで顔を殴ってきやがった。

とっさに魔法で防御力を上げたから良かったものを。

普通の女なら確実に顔面の骨はイってただろうな。

 

ありえないね、コイツは普通じゃないってすぐに思った。

最悪の男女平等だろ、コレ。

 

 

「おいおい……」

 

「!」

 

 

だけど同時にさ、ほら何ていうか――

 

 

「やってくれたなッ!!」

 

「!!」

 

 

火がついちまった訳さ。

アタシは飛び上がると回し蹴りを浅倉の顔面にブチ込んで見せた。

もちろん魔法少女の力を上乗せしてだ。当然あの野郎は大きくブッ飛んで床に倒れた。

いやぁ、いい気味だったねアレは。

 

 

「おっと、スープがこぼれちまう」

 

 

食事を乗せたトレイを隅のほうの棚において、アタシはもう一回構える。

つっても浅倉はそのまま動かなくなっちまった。

何だよ、もうグロッキーなのか? なんて思ってると、野郎がいきなり笑い出しやがった。アレは相当キモかったな、うん。

 

 

「ハハハハァ! なかなかやるな! 殺したくなってきたァ」

 

「同感だな、アタシもアンタをブッ潰したくなった」

 

 

その後はもうお察しだ。

アタシもアイツも、とにかく無茶苦茶に殴ったり蹴ったりを繰り返したね。

 

とにかく目の前に居るコイツが気に入らないってのが、双方の気持ちだったと思う。

しっかし本当、浅倉の野郎には驚いたもんだ。コッチは魔法で身体能力底上げしてんのにソレでも互角だったんだから。

 

たぶん、向こうには戦いを恐れる心が無かったんだと思うね。

痛みを恐怖と思わないヤツは、とにかくたちが悪い。

ま、コッチも一応手加減はしてたけどさぁ。

 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

「でりゃャアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

そうやってしばらくは殴りあったアタシ達。

壁にはますます穴が増えて、床には二人の血がいっぱい飛び散っていたってのを覚えてる。

ただどっちもタフなんで、一向に倒れる気配が無い。決着なんてつかないんじゃないかと思った程さ。

でもまあ、案外単純な事で殴り合いは終わりを迎えたんだけどね。

 

 

「「!!」」

 

 

アタシ達は同時に殴り合いを止めて棚へと走る。

理由は上に置いてあったトレイが殴りあいの影響で落ちそうになったから。

あれだけ互いを傷つけあってたのに、飯が台無しになると思えば協力しあってトレイのバランスを直しに走るって異様な光景。

 

 

「「………」」

 

 

トレイを元に戻したのはいいけど、そっからはまた沈黙だ。

コッチとしては――、と言うか向こうもまだまだ殴り足りない気分だったろうけど、いつまでも喧嘩しっぱなしってのもな。

つうか早くしないと食事も冷めちまう、と言う事でアタシは――

 

 

「どういうつもりだ……」

 

「はあ? 見て分かるだろ? 一緒に食おうよ」

 

 

アタシは自分の分の飯を浅倉の部屋に持ってきた。

当然向こうはイライラMAXって顔でコッチを睨んでくる。

当然コッチも睨み返す訳で、結局またしばらくの間ガチの殴り合いが始まっちまった。

 

野郎としては意地でもアタシと飯を食いたくないらしい。

となればコッチも無理やりにでも飯を食ってやろうって対抗心が生まれるんだ。

結局また殴り合いが続いて、最終的には二人ともヘトヘトになって動けなくなった後だった。

 

 

「ハァ、ハァ! ダァアアアアアアアアア――ッ!!」

 

「――――ッ」

 

 

飯はすっかり冷め切ってたし、何より全身が痛くて動けなかった。

となりに倒れている浅倉も同じらしい。しっかしコイツ本気で手加減しないのな。仮にもアタシは女だっての。

 

魔法がなけりゃ確実に顔面が変形してたろうね。

まあコッチも同じくらい色々な場所殴ってやったけど。

あ、何度も言うけどもちろん手加減はしてたよ。

 

 

「お前、なかなかやるじゃん……!」

 

「……ハッ」

 

 

お互い、倒れたままでニヤリと笑う。

とりあえず浅倉のヤツはそっからアタシを無理やり追い出そうとはしなくなった。

それが認めてくれた証だったのか。それともただ単にウザかったからなのかは知らないけど。

 

つっても、時計見たらそろそろ日付変わるくらいの時間だったから。

とにかくアタシ等は飯にする事にした。もう何時間も殴り合いだ、鏡見ればお互い本当に酷い顔だったよ。

そんな感じでアタシ等は無言のまま食事を始める。

そうそう、口の中が切れてて味なんて分からなかったっけな。

 

 

「………」「………」

 

 

しばらく無言でカチャカチャやってる。

ただコッチはいろいろ浅倉の情報を知っるわけで。

どうしても気になるところがあったんだ。

 

 

「なあ、アンタさ……」

 

「イラつくなお前。黙ってろ、殺すぞ」

 

「少しくらいいいじゃん。またやるか?」

 

「……いい、今は飯だ」

 

「その飯の為に動いたのって、昔が相当アレだったからだろ?」

 

「ア?」

 

「だから怖い顔すんなっての。なんつーか、アタシがそうだったからかな」

 

 

スープは最後の一滴まで飲み干し、皿まで舐めたくなるのは昔がそれだけ食に飢えていたからだ。

アイツもアタシの言ってる事が分かったのか、淡々と口を開いた。

思えばコレが最初の、まともな会話だったかもね。

 

 

「お前ェ、泥食った事あるか?」

 

「はぁ? 泥?」

 

「俺はあるぜ、何度も食った事がある。口の中にはまだ味が残ってるくらい」

 

 

泥って……。

いやいやもっと他にまともなモンあるじゃん。

なのに泥って。

 

 

「あれ、ジャリジャリして苦くて臭くて最悪じゃん」

 

 

まああるんだよね、コレが。

いや泥ってそこ等辺にあるじゃん、だから泥が食べられるんなら、その分アタシの飯をモモに分けてやれるって思ってさ。

まあ、とても食えたモンじゃなかったけど。

 

 

「じゃあアンタはトカゲ食った事ある?」

 

「………」

 

 

そこで初めてアイツはアタシの顔を見て笑った。

まあ爽やかさの欠片も無い、笑みだったけどね。

 

 

「なかなか悪くない」

 

「お! だよね、焼けばそこそこイケるって気づいてさ!」

 

 

クソ最悪な共通点だったけど、アタシ達は互いに同じ部分があった。

まあそん時は会話らしい会話はそれだけだったけど。

次の日にまた飯を運んでやった時には、いきなり殴りかかっては来なかった。

 

まあ相変わらず飯を一緒に食おうとすると、手が出てきたけど、その分アタシもアイツに拳をぶちこんでやったさ。

 

ぶっちゃけコッチとしては喧嘩してまで一緒に食いたいって訳でも無かった。

お互い馴れ合いとかはゴメンだったし。そもそも別に友達になりたいとも思わなかった。

ただそれでも、アタシとしてはどうしても『あの事』が気になった訳で。

 

 

「なあおい」

 

 

コッチを見ようとしない。

 

 

「なんでお前、家に火をつけたんだよ」

 

「………」

 

 

多分アタシは、コイツに理由を求めていたのかもしれない。

親父が火をつけた理由を、コイツに教えてもらいたかったんだ。

って事を考えてたのに、浅倉の野郎はさも当たり前の様に言いやがった。

 

 

「あの時はイライラしてた」

 

「は?」

 

「お前は思わないか? この世界は退屈すぎる……!」

 

 

浅倉は壁を殴った。

 

 

「人間ってのはな、80年……、運が悪ければ100年近く生きる。ダラダラだらだら、退屈なまま、イライラしながら生きるんだ」

 

「それがなんだよ」

 

「つまらん。退屈なんだ。娯楽がない」

 

「げ、ゲームとかあるじゃん」

 

「イライラするんだよ。ゲームもやってみたが、アレは駄目だ。余計にイライラさせられる」

 

「下手だからだろ。雑魚」

 

 

殴られた。

 

 

「スッキリする方法を他にもいろいろ試した。アレも一緒だ」

 

「あれもって、火をつける事かよ!」

 

「ああ。まあまあスッキリしたな」

 

「か、家族がどうなったか知ってんのか!?」

 

「知らん。どうでもいい」

 

 

死んだとは――、言わなかった。

ただ流石のアタシも確信したね。コイツはヤバイ。普通じゃない、イカレてるってさ。

 

 

「ハ……、ハハ――!」

 

 

そして何故か、アタシは笑った。笑ってた。

自分でもどうして笑ってるのか、よく分からない。

おかしい。浅倉は家族を大事にせず、命を大事にしない最低のクソ野郎の筈だ。

なのにアタシはコイツの言葉に確かな"安心"を覚えていたんだ。

 

だってアタシはコイツに親父が心中を図った理由を求めた。

それが『イライラしてたから』だって言うんだもん、笑っちゃうよ。

 

親父がおかしくなっちまったのは、アタシのせいだって思っていた。

だけど浅倉の理由と重なれば、親父はイライラしてたから火をつけて死にましただもん。

 

まあつまるところ、アタシのせいじゃないって言われた気がしたんだ。

もちろん浅倉の野郎にそんな意図は無いって事くらい分かる。

まして親父がおかしくなった理由がアタシにある事も重々承知だよ。

 

だけど、このときアタシは確かに安心したんだよ。

 

 

「おい、お前……! またイライラしたらココに火をつけるのか?」

 

「かもな」

 

 

アタシの中で確かな想いが生まれた。

 

 

「じゃあイライラしたらアタシを殴れ」

 

「?」

 

「アタシがお前のイライラを和らげてやるって言ってんだよ」

 

 

って言った瞬間、ストレートが飛んで来た。

やっぱ狂ってる。だけどアタシはまた笑った。

 

 

「つっても、アタシも殴り返すけどなッッ!!」

 

 

浅倉の顔面に渾身のストレートをブチ込んでやった。

鼻血出しながら浅倉とアタシは笑う。

やっぱイライラしたときは、コイツに限るって話だね。

 

 

「「うォおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」」

 

 

んでまた二人とも動けなくなるまで殴り合いだよ。

まあ馬鹿だったねあの時のアタシは。

 

 

「お前ェ、なかなか面白いな」

 

「はぁ?」

 

「ココにいる連中を全員ブッ殺すつもりだったが……、やめた。それよりお前とこうしていた方が楽しめる」

 

 

とんでもない言葉が聞こえた気がするが、褒められた? マジで嬉しくねぇよ。

とにかく色々あったけど。施設の生活はアタシにとって悪くなかった。

 

悪くなかったんだけど……、またアタシは同じヘマをやっちまった。

要するに、今度はシルヴィスに魔法少女の姿を見られちまったって訳さ。

つうかアレはどうしようも無い。だって使い魔に狙われたのがシルヴィスだったんだよ。

 

 

「そ、その姿は――!?」

 

「………」

 

 

やっぱまた拒絶されんのかね?

そう思いつつも、アタシはシルヴィスにおおまかな事情を説明する事にした。

 

 

「事情は分かったわ。素敵な力ね」

 

「え?」

 

「現に私は貴女がいなければ死んでいたわ、ありがとう佐倉さん」

 

 

シルヴィスは寛大だった。

アタシの力を知っても気持ち悪いなんて言わず、むしろ受け入れてくれた。

しかもそれだけじゃない。親父の事があってこの力を疎ましく思っていたアタシに――

 

 

「落ち込む事は無いわ佐倉さん。その力は人を助ける事に使える筈よ」

 

「え?」

 

「私は確信したわ。佐倉さん、貴女が救世主となるのよ」

 

 

褒められちゃった。あの時は嬉しかったな。

流石に救世主ってのは言いすぎだったけどね。

 

シルヴィスは、アタシの力を人を助ける為に使って欲しいと言った。

と言うよりは、『お願い』だ。親を無くしたり、色んな理由で孤児になった子供が世界中にいる。

 

 

「だから佐倉さん。そういった子を、その力で保護して欲しいの」

 

 

シルヴィスはそんな子供たちをリーベに連れてきて保護したいって言ってた。

孤独で死にそうになってるガキを見つけて、助けて欲しい。

そのお願いを聞いて、アタシにまた『火』がついた。

 

親父が死んだ後は、人を助けるって事に疑問を感じてたけど、確信したね。

やっぱり魔法少女の力は人を助ける為にあるんだってさ。

アタシは迷わずオーケーした。今度こそシルヴィスとアタシで世界を変えてやるんだってね。

 

 

燃えたよアレは。

起きてすぐ浅倉に飯運んだ後は、変身してとにかくシルヴィスの願いを叶える為に頑張った。

 

日本にもまだ親を亡くしたガキや、親に捨てられたガキ。

家出して行く場所が無いガキ。殺されそうになってる、死にそうになってるガキが探せば沢山いた。

 

 

とにかくいろんなヤツを助けてリーベに入居させた。

なにも探し回るだけが全てじゃない。時には他の施設から弾きぬいた時もある。

 

そんなこんなで、あっという間にリーベにはガキが溢れかえってたね。

チビ達はますますアタシを姉だって慕うし、それに嫉妬するモモが可愛くていい気分だったよ。

 

ましてやコレはシルヴィスが望んだ事だ。

親父みたいに拒絶する事の無い彼女に、アタシは心を許してた。

 

 

チビ達を救うってのも悪くないしな。

リーベはそれなりに大きな施設だから、割と早く新しい親が見つかっていく。

チビ達は妹や弟みたいに思ってたから、ちょっと寂しさはあったけど、新しい人生を送ってくれるんなら、そっちの方がいい。

 

いやぁ、マジで充実してたよあの時は。

うん、まあでも、さ。なんていうのかな――?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっぱ、うまくはいかねぇんだよなって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、シルヴィス? 今の……?」

 

「なんでもないわ、気にしないで」

 

 

ある日、アタシはシルヴィスがスーツの男から大金を受け取ってるのを見かけた。

小切手とかじゃい、そのままの札束だ。シルヴィス曰く、信者からの寄付だとか何とか言ってたから、その時は疑う事はなかった。

 

だけど何かおかしいって思うところがアタシの中で生まれたのは事実だ。

何日か経って、チビを引き取った親がシルヴィスに金を渡してるのを見た。

また大金だ。何を? 何で? アタシは直接シルヴィスに聞いてみたんだけど、気にするなの一点張りだった。

 

 

「それより、子供たちをお願いね佐倉さん。今日もどこかに貴女の助けを求めてる子がいる筈だから」

 

「う、うん」

 

 

不信感が募っていくのを感じた。

でも考えすぎだと思って、アタシはシルヴィスの願いを聞いていた。

妄信? そうだ。アタシは何も疑う事は無いって自分に言い聞かせた。

だけど、嫌な予感ほど当たるもんさ。

 

 

「………」

 

 

偶然だった。

孤児を見つけるために街を駆けてたある日。

アタシは警察が集まってるのを見つけた。

 

事件だ。興味本意から近くまで寄ったって事までは覚えている。

後はなんだったかな? あの時は何を考えていいのか分からなかったからさ。

 

てっとり早く言うと、そこにあったのは死体だった。

それも死んでたのはリーベを出て行ったアタシの義弟。

つまりアタシが見つけてきたチビだったんだよ。

 

 

「ッ!!」

 

 

アタシはすぐにリーベに戻ってシルヴィスに詰め寄った。

何で新しい親ができて幸せに暮らしている筈のチビが死んでるんだって。

もちろん知らないって言うシルヴィスだったけど、アタシはそれで引き下がらなかった。

 

アタシとしても別にシルヴィスがやったなんて思ってないさ。

でも、もみ合いが続く内に『ありがたい』展開がやってきた。

つまり犯人が自分からアクションを起こしてくれたんだよね。

 

 

「そう、佐倉さん。知ってしまったのね」

 

「な、なんだよ――! ソレ!」

 

 

唐突だったよ。まるでB級映画並みのね。

シルヴィスのヤツ、懐に手を伸ばすと『拳銃』を取り出してアタシに向けてきた。

 

それだけじゃない。

シルヴィスが合図を出すと、マシンガンなんて物を持った黒服がアタシを取り囲んだのさ。

正直意味不明だよ。優しい孤児院の聖母が、鬼みたいな表情でアタシを見てるんだもの。

そしたらご丁寧にシルヴィスは自分でペラペラとネタバラシさ。

 

 

「今までご苦労様、でももう貴女は用済みよ」

 

「は……?」

 

 

シルヴィスは――、あのクソババアはニヤリと笑ってた。

 

 

「知ってしまった以上、貴女には死んでもらうわ」

 

「おいおいどういう……!」

 

 

アイツ何て言ったと思う? このリーベには大きな秘密があったのさ。

表向きは立派な孤児院、だけど裏にはもう一つの顔がある。

それは"人身売買"だ。ガキを集めて売りさばく場所だったって事さ。

 

な? マジで何言ってるか分かんねーだろ?

いきなり人身売買してました、なんて言われても困るよなぁ。

 

だけどそんな考えはすぐに吹き飛んだ。

シルヴィスは写真を取り出すとソレをばら撒いたのさ。

なんだ唐突に? そう思いながらもアタシはそこへ視線を移した。

 

 

「―――」

 

 

今までいろんなキモい姿の魔女と戦ってきて、結構自信あったんだけどな。流石に無理だったね。

 

アタシは写真から目を逸らすと、吐き散らした。

胃からこみ上げる不快感。目に焼きついたその姿。

ああ最悪の気分だったね。

 

人身売買してました。それで新しい親が決まって施設出てったチビ共は、実は全員買われてましたって事さ。

じゃあ気になるのは買われたチビ達はどうなったって話じゃん?

新しい親の所で幸せになれるって信じてたチビ達は――

 

 

「――ッッッ!!」

 

 

実は、皆、『玩具』にされてましたってオチだぜ。

写真にはアタシの良く知ってるチビ達が写ってた。

皆幸せにやってるモンだとばっかり思ってたんだけど何だよコレ。

 

 

「なんでッッ、なんでこんなんになってんだよぉオオオオオッッ!!」

 

「フフフ、ソレが飼い主の既望ですからね」

 

 

たとえば義弟は『置物』になってた。

もうソレは人間の形すらしてないただのオブジェだ。

目が無かったり、脚を切られてたり。

 

顔そのものが変わってたチビもいた。

んで、ふと隣に見えた義妹は、人間の尊厳ってヤツを無視されたかの様な扱いを受けてた。

これを撮影したヤツはどんな気持ちで義妹を見てたんだろうな。

マジでぶっ殺してやりたかったよ。

 

 

「ウ――ッ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

写真の中にいたチビ共は絶望の表情を浮かべてた。

中には顔が、頭が無かったヤツもいる。内蔵がごっそり持っていかれたヤツもいる。

あとは例えば――、いや、やめよう。気持ち悪くなるだけだ。

 

 

とにかく、クソ醜い欲望をぶちまけられて。

それで人間の尊厳奪われてさ。こんな事の為にチビ達は生きてきたってのか?

そりゃ、ないぜ。

 

 

「フフフ。世界にはいろんな嗜好の人間がいるのです」

 

「―――」

 

 

強制労働、性的搾取、臓器移植、猟奇的嗜好……、アタシはバカだからあんまり意味は分からなかったけど、そういうのはほんの一部らしい。

シルヴィスのヤツだって自分は悪くない、関係ないみたいな口調で言ってやがる。

 

 

「彼らは刺激が欲しい、だから奴隷を弄ぶ。人を壊す事で人の上に立った気分でいる」

 

 

全ては搾取される為だけの存在。

 

 

「人の命とは無限の可能性を持った"資源"なのです!」

 

 

シルヴィスは説いた。

資源は使う、利用するものだ。

本来ならばすぐにアタシやモモも売りさばくつもりだったんだろうが――

 

 

「貴女の力を知って、考えが変わったわ」

 

「……ッッ!!」

 

 

シルヴィスが素敵な力だって言ってくれて、この力で救える命があるって言ってくれて、だからアタシは頑張れた。

 

だからアタシは毎日毎日、孤児を見つけてきてはリーベに入れてきた。

だけど、何かい? つまりアタシがやってきた事は――

 

 

「協力、ご苦労様」

 

「―――ァ」

 

 

アタシは、利用されてただけだった。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

「来るわ、殺しなさい!」

 

 

アタシは気がついたら変身してシルヴィスに突っ込んでた。

周りの黒服たちは一勢に銃をぶちまけたみたいだけど、魔法少女のアタシにとっては玩具でしかない。

 

痛みはあったけど、アタシはすぐに黒服をボコボコにしてた。

なあ、分かるかよ。馬鹿みたいに正義に燃えた結果がコレなんだぜ?

孤児を助けたいとか本気でほざいてたアタシを。本気でシルヴィスを信じてたアタシを殴り殺してやりたかったね。

 

 

アタシが命とも言える魔力削ってやってたのは犯罪の手伝いさ。

アタシを姉だと慕ってくれたチビ達は、そのほとんどが金持ち連中の玩具になってたり臓器売られてたり、どこぞの国で強制労働。

 

マジで、マジで笑えたね。

努力が報われないとか、裏切られたからどうとかじゃない。

アタシがアタシを客観的に見て、その姿が愚かで仕方なかった。

 

愛だとか正義だとかが世界を救うと思った過去。

だからアタシは魔法少女としての力を信じてた。

なのに親父はアタシを魔女だと言った。

 

 

「アハハ――」

 

「な、なんで銃を受けても死なないのッッ!! この化け物めッッ!!」

 

「あハはははハハハハははハハハはハハははッ!!」

 

 

なのにシルヴィスはアタシを化け物だって言った。

いやいや間違っちゃいないさ。アタシは醜い化け物だろう。

銃弾を受けても死なない、手からは槍が出てくる。

でも、だったら聞くけど――

 

 

「お前らも化けモンだろうがアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

泣きたくなったね。死にたくなったね。

何が魔法少女だ、何が世界平和だよ。クソみたいだ、反吐がでるッッ!!

 

マミと一緒に守りたいと思った人間はこんなにも汚い連中だったのかよ。

自分の欲望を叶えるために平気で他人を傷つける。

平気で他人を裏切る!

 

 

親父も一緒だ!

親父も結局はアタシがかわいくなかった! 面白くなかっただけだろうッ!?

だから殺した、イライラしたから全部ブッ壊したんだ。

 

ああ、マミ――! マミッ! 聞こえてるか! 巴マミ!!

やっと分かったよ! アンタは……! アタシは!

 

アタシ達は全部ッ、間違ってた!!

 

こんなクソみたいな連中の為に魔法を使うって事がそもそもの間違いだったんだ!

愛と勇気が勝つ? キメェよ、クセェなッ! 正義のストーリーなんてこんな世界にはなかったんだ!

 

ガラにも無く人の事を考えた、その結果がこれだよ!

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

怯えた表情で腰を抜かしているシルヴィス。

まだ諦めずに発砲を続ける黒服共も怯えた表情だった。

それで確信したよ、食物連鎖って物をね。魔女に怯える人間共、そして魔女を殺すのは魔法少女。

 

そんな魔法少女が、人間みたいなクソに手を貸してやった事がソモソモのマチガイ……ダッタ――

 

 

アタシのソウルジェムがマックロにソマッテ――

 

 

ノロウ、こんなセカイ――

 

 

イラネェ――クソ――コロシテ――ノロッテ――ゼンブ、ゼンブコロシテ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『つーのが魔法少女ってヤツの力だ』

 

「………」

 

『まあコレを使えば、テメェもあんな力を手にできる』

 

「……ハッ」

 

『どうだ? やってみっか?』

 

「―――せ」

 

『は?』

 

「さっさと貸せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらァアアアッッ!!」

 

「うブっ!!」

 

 

アタシは思わずアホみたいな声を出してブッ飛んだ。

転がるのはアタシと、濁りきったアタシのソウルジェム。

 

アタシの意識はハッキリとしてた。

だって今まで感じた事の無いような痛みと衝撃が頬にあったから。

殴られたって事さ。それもすげぇ重い拳で。

 

 

「――ッ!」

 

 

アタシを殴ったヤツを見た。

そこにいたのは人間じゃない、何だよコレ?

 

 

『あーあ、こんなに黒くしちまって。もうギリギリじゃねぇか』

 

 

ピョコンと音がして、アタシのソウルジェムに黒いキュゥべえが近づいていく。

ソイツはサービスがどうとか言って、アタシのジェムの穢れを一瞬で払って見せた。

 

 

「な、なんだよキュゥべえ……」

 

『いやいや違うぜ佐倉杏子、オイラとお前は初めましてだ』

 

 

ソイツの名はジュゥべえ。

アタシとは『対なる存在』の担当者だとか言ってた。

ジュゥべえは目でアタシを殴ったソイツを――、騎士を指し示す。

 

ああクソ、顔がいてぇ。

 

 

『感謝しな、この騎士様にな』

 

「アアアア……! ソイツはどうでもいい」

 

 

ゆっくりと首を回した紫の騎士。

もうホント声で分かったね、アタシは気がついたら叫んでた。

 

 

「お前……! 浅倉かよッ!?」

 

 

首を振るジュゥべえ。正解だけど間違ってるってよ。

 

 

『今のコイツは、王蛇だ』

 

「ハア?」

 

『んんー、オイラのスカウトは間違ってなかったなやっぱ。コイツはすげぇ力だぜ』

 

 

王蛇ってのが、今の浅倉の名前らしい。

騎士って言葉どおり、アイツは全身に鎧を纏い、弾丸を受けても笑ってた。

 

しっかし騎士って言う割には、禍々しいっていうか。

 

ッてかさ!

せめて助けに来たとかさ。あるじゃない。ねえ?

どうでもいいって、お前。どうでもいいって……。

 

 

「ハハハ、しかし本当に弾をくらっても平気だな」

 

『当たり前だろうが、猿共が作った玩具なんて限界があるっての。で? 人を超えた力を手にした気分はどうだ?』

 

「悪くない! 滾るぞ!」

 

 

王蛇は、黒服に掴みかかってく。

後は分かるだろ? しばらくは純粋な暴力の時間さ。

魔法少女のアタシでも超痛かったんだ、普通の人間が耐えられるレベルじゃねぇ。

 

 

「クハハハハハハ! アァァアアア、最高だ! イライラが消えていく!!」

 

 

大笑いしながら暴力を繰り返す。

黒服たちはすっかりアイツにビビッてる。

 

子供みたいに『助けて』を繰り返すヤツや、中にはいい歳して漏らしてるヤツもいたな。

まあ仕方ないかもね、途中からアイツの背後にでっけぇ蛇が出てきたし。

蛇っつうか、コブラっつうか。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!」

 

 

ひとしきり大笑いした後、王蛇は黒服の一人の顔面をストレートで叩き割った。

赤い血ぶちまけて頭を砕かれた人間。

それを見てシルヴィス達のパニックは激しくなる。

 

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

黒服の一人が叫ぶ。

コブラの溶解液をくらってドロドロになってたからだろうな。

酷いことしやがるぜ。

 

その後も王蛇はあっと言う間に黒服を皆殺しにしていった。

だけどアタシの中でハッキリと理解できる感情があった。

 

それは苛立ちだ。

シルヴィスに裏切られ、過去の自分に嫌気が差して、抱いた感情。

それが今、みるみる消えていくのが分かった。

 

 

「初めて直接、この手で人を殺したが――」

 

 

王蛇は血に塗れた自分の拳を見て呟く。

 

 

『おう』

 

「最高にいい気分だ……ァ」

 

『そりゃよかった』

 

 

ニヤリと笑うジュゥべえ、大笑いする王蛇。

そしてしっかりと笑みを浮かべてるアタシ。

 

そうだ、王蛇の野郎も同じだったんだ!

アタシは黒服が殺されるのを見て、最高にいい気分だった。

 

まあ、この時点では気づいてなかった。

だけど王蛇が――、浅倉がアタシに言った言葉でソレは確信へと変わった。

 

 

「おィ」

 

「………!」

 

 

王蛇は言った。いや、言ってくれた。

 

 

「お前もやってみるか?」

 

「!!」

 

「イライラが消えるぞ」

 

 

それを言われた時、アタシは絶対笑ってたね。

って言うか、既にアタシの心に迷いなんて無かった。

浅倉はただアタシの背中を押しただけだ。

アタシの想いを解き放っただけなんだ。

 

アタシは槍を構えて走る。

そんですぐにシルヴィスの左腕を切り落とした。

 

 

「イぎゃぁアアアアアアアあああああァアアあああッッ!!」

 

 

血を撒き散らしながら、シルヴィスは泣き叫ぶ。

最高だった。それを見た瞬間、アタシの中でイライラが消えていくのが嫌でも分かった。

 

っていうか逆の感情が湧き上がってくる。

すげぇ楽しんだぜ! 笑っちまうよな!

何でもっと早くしなかったんだろうってさッ!!

 

 

「おいシルヴィスぅウ! コレが今までアンタが利用してきた力なんだぜぇ?」

 

「た、たすけて佐倉さんッ! 私が――! 私が悪かったのよッッ!!」

 

「イヒヒハハハッッ! そうだなァ、アンタが悪いよ!!」

 

 

シルヴィスの胸を、アタシは躊躇無く槍で突き破った。

おッせぇんだよ何もかも! せめて血反吐撒き散らして無様に死んでもらわないとイライラが消えないじゃないか。

 

 

「"愚か"だよアンタ、魔法少女ナメんなっての! ハハハ!!」

 

「―――」

 

 

最後はシルヴィスの頭に槍を突き立てて、トドメを刺す。

スッキリしたね、最高だったよ。血ってこんなに綺麗だったのか。

人を刺すときの感触は最高に気持ちがいい。

 

 

「ハハハハ……!」

 

「クッ! ハハハァ!」

 

「「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!」」

 

 

笑い声が重なる。

妙な一体感、アタシは王蛇の肩に手を置く。

 

同時にアタシの身体に刻まれるアイツの紋章。

ジュゥべえはパートナーの契約が完了したとかどうとかほざいてたけど、正直どうでもよかった。

だって、こんな楽しい事をココで終わらせるなんてもったいねぇだろ?

 

 

「おい浅倉ぁ、アンタこれからどうすんだよ」

 

「知るか。好きにさせてもらうぜ」

 

「じゃあアタシもそうすっかな、こんなクソみたいな場所いられるかっての」

 

 

そこで変身を解除する浅倉。

珍しく不思議そうな顔をしてやがる。

 

 

「お前、妹がいるんだろ――?」

 

「ああ、モモか……、別にいいよ」

 

 

だってモモの知ってる姉貴はもう死んだ。いないんだ。

それにシルヴィスが死んだことで警察もリーベの裏の顔が分かるだろ。

 

っていうか既にアタシの中でモモの価値が下がりつつあった。

どれだけ愛してた家族であっても、死んだらただの肉の塊なんだからさ。

それにこのままだったら多分モモも殺しちまうかもしれない。

アタシは心の中でモモにお別れを言って、さっさとリーベを離れる事にした。

 

 

浅倉の野郎とはこの時点でよく分からない絆みたいな物が生まれた。

とはいえ一緒に暮らすとかじゃなくて、近くの地域に常にいるってだけの話なんだけどね。

 

それからは自由だったよ。

今まで縛られた生活が嘘みたいに楽しかった。

気に入らないヤツはボコボコにして、欲しいものは魔法で奪い取る。

 

つくづく知らされたね。

今までのアタシがどれだけ馬鹿だったのか。やっぱり魔法は自分の為に使うもんだってさ!

 

 

「佐倉さん……」

 

「マミ、久しぶりだね」

 

 

あとは最後の仕上げだった。

アタシと久しぶりに会ったアイツの表情は嬉しそうで。

でも複雑そうだった。

 

きっとアタシの中にあった黒い感情を読み取ったんだろ。

相変わらず凄いというか何と言うか……。

 

 

「って言うかさァ、アンタまだ正義の為に使い魔退治なんて無駄な事やってんのかよ」

 

「無駄って、それにどうしたの佐倉さん――?」

 

「ン? なにが?」

 

「いや、あの、呼び方……」

 

「あぁ、ハハハ! 呼び捨てね。だってもうアタシはアンタの弟子じゃないんだからさ」

 

 

それを伝えた時のアイツの顔は、多分忘れる事はないと思う。

いい意味でも悪い意味でも。

 

 

「お前もさっさと気づけ。誰も彼もを救えると思ってんのか? だとしたら笑えるね」

 

「ッ、何があったの?」

 

「知ったんだ。人間なんて守る価値の無いゴミだってな!!」

 

 

どんなにコッチが頑張って守っても、死にたいヤツは自分から死ぬ。

他人を平気で傷つけて殺す。そんな腐りきったサイクルを生み出す連中を、どうしてアタシ達が命削ってまで助けないといけないのさ。

 

 

「せめて使い魔に食われてさ、グリーフシードを生む魔女になってもらった方がマシだろ?」

 

「佐倉さん、気持ちは分かるわ。でも――!」

 

 

むかついたね、最高にムカついた。

だってマミの奴は、事もあろうに優しげな表情でアタシを見やがった。

 

どんなアタシでも受け入れるって顔だ。

それが最高にイライラすんだってのッッ!

それに分かったよ、やっぱりアンタが最後の鎖だって事をね!

 

 

「ふざけんな。アンタとのコンビは今日で終わりだ。持ってるグリーフシード、全部アタシによこしなッ!!」

 

「――ッ! 佐倉さんっっ!」

 

 

槍で切りかかったアタシをアイツはリボンで受け止めた。

 

 

「レガーレ!!」

 

 

同時にアタシを縛り付ける。

拘束魔法ってんだから、アタシを傷つけずに終わらせるつもりなんだろうけど――

 

 

「甘いんだよッ!!」『ユニオン』『リリースベント』

 

「えっ!?」

 

 

アタシには拘束を解除する力があった、騎士の力がね。

それにマミはアタシを殺すつもりがない。

逆に躊躇いの無いアタシ。勝敗は明白だったろ?

 

 

「………っ」

 

「次は、リボンだけじゃ済まないよ」

 

 

本気で殺す気が伝わったのか、マミはへたり込んだ。

それを見てアタシは決めたんだ。コイツは優しすぎる、だからコイツにアタシの最後の良心を重ねようって。

 

いろいろムカついたけど、やっぱりマミには世話になったからな。

 

 

「じゃあな、やっぱグリーフシードはいらないよ」

 

「どうして……!? 佐倉さん!!」

 

「アンタもいつか気づくよ、自分のやってる事がどんだけ愚かな事なのかを」

 

 

信じて、優しさに甘えて。

それで傷つくなんて馬鹿みたいじゃないか。

ならいっそ最初から自分の道を歩けばいい、自分の力だけを信じればいい。

 

 

「耐えるられるの?」

 

「?」

 

「孤独に。貴女は――!」

 

「……孤独か」

 

 

アタシは笑った。

 

 

「いやいや!」

 

「ッ?」

 

「実はそう孤独でもなかったりするんだよな!」

 

 

ふざけた関係だろうけど、あのクソ野郎がいるからな。

たぶん退屈って事はないだろうからさ。

 

 

「あばよ、巴マミ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢の終わり。

 

 

「ッッ!!」

 

 

ハッと、飛び上がるように起きるのは佐倉杏子。

彼女はそのまま頭を抑えてしばらく沈黙する。

 

 

「――ッ?」

 

 

長い夢だった、しかも全てが真実じゃないか。

過去の事がフラッシュバックして、思わず舌打ちを漏らす。

 

 

「佐倉杏子。目が覚めたか」

 

「!」

 

 

浅倉の声が聞こえて、杏子は完全に意識を取り戻した。

そして周りを見て絶句する。無数の死体があった。

場所はパチンコ店だろうが、店内には一欠けらの生命すら存在していない。

 

 

「つうかアレ? アタシって確か……」

 

 

急いでソウルジェムを取り出して隅々まで確認する。

おかしい、砕かれた筈のジェムは、キラキラと綺麗に光っている。

 

だがたしかに一度は破壊された筈。

ましてやソウルジェムと言うのは、一度でも破壊されれば終わりの筈だが――?

 

 

「どういう事だよ浅倉! 何か知ってるんだろ!?」

 

「うるさい奴だ。これがルールってヤツなんだよ」

 

「ッ?」

 

 

浅倉が言うには、杏子は確かに死んだ。

だが浅倉は既にジュゥべえから一度情報を得ていた。

ルールには魔法少女を蘇生させる方法が存在していたのだ。

 

もちろんソレは魔法少女に限定された話じゃない。

騎士もまた蘇生する方法が共通して存在している。

 

 

「へぇ! そんな方法があったのか」

 

 

杏子は辺りに転がってる死体を乱暴に掴むと、ソレを浅倉に見せる。

いくら浅倉とて、こんなド派手に大量殺人を犯すなんて事は無かった。

つまりそれが復活のルールなのではないかと、杏子は睨んだのだ。

 

 

「ああ、そうだ。復活させる方法は――」

 

 

命を取り戻す為に必要な代価。

何かを得るには、何かを失わなければいけない。

そしてそれは命ともあれば、同価値の物でなくては話にならない。

では命と同じ価値の物とは何か? 決まっている。

 

それもまた命だ。

 

パートナーを蘇生させるには――、命を差し出さなければならない。それは生贄、それは神に捧げし命。

 

 

・【誰でもいいから50人の命を奪う】

 

・もしくは【ゲームの参加者を二人殺す事。】

 

 

そうする事で失ったパートナーを蘇生させる事ができる。

もちろん蘇生は無限にはできない。蘇生できる回数は魔法少女が二回。騎士が一回である。

さらに騎士が復活する際には大きな制約が掛けられる。

 

とまあ、以上が蘇生に関しての大まかなルールであるが、どちらの派にとって有利なルールなのかはもはや明白だろう。

そしてこのゲームが込めたパートナーの意味とは『利用』にある。

 

騎士は魔法少女を守る存在なのではない。

互いに互いを利用する存在だ。騎士は魔法少女を盾にし、魔法少女は騎士の力を使って自己を強化する。

 

その間には絆が無かったとしても問題はない。

全ては勝利を目指す為だけの関係。それがF・Gが指し示した意図だった。

 

 

「ハハハハハハハッ!!」

 

 

だがそれは杏子にとって簡単な話だった。

要するに、またゲームの舞台に戻って来られたと言う事。

そして思う存分暴れる事ができると言う事。

 

しかし杏子にも思う所はあった。

笑いながらも、転がっていた死体の一つを思い切り殴りつける。

魔法少女の力で死体の頭は粉々になり、大量の血が彼女の頬にかかる。

 

 

「アアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

終わりじゃない。

杏子は槍を構えると、既に事切れた肉塊達を細切れにしていく。

それだけじゃない、うるさく起動しているパチンコ台を破壊し、タバコ臭い店内を駆ける。

 

 

「イラつく! ムカつくよ!!」

 

 

思い出すのは殺しきれなかった連中と、何よりも自分を殺したであろう謎の参加者だ。

最悪、ムカつく、自分が負けるという事実が何よりも気に入らない。

 

 

「ウラァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

マミに良心を重ねていた杏子。しかしそのマミは死んだ。

ならば杏子を縛るものは、もうどこにも無い。

 

パチンコ店の中が赤く染まっていく。

臓物や肉の破片は全てベノスネーカーが片付けてくれるので、杏子は思い切り暴れまわる。

気がつけば血の海が広がり、杏子の全身は赤黒く染まりきっていた。

 

 

「感謝するぜェぇえ浅倉ぁぁッッ!!」

 

 

そして心に決める事が。

 

 

「やっぱり魔法少女は全員アタシがブッ殺してやんないとねぇッ!」

 

「ハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 

上機嫌に笑う浅倉。

F・Gが考える騎士と魔法少女の関係は利用だが、カードの追加条件など、絆を重点的に置いたルールもまた存在している。

そしてこの二人にも普通ではない絆が存在しているのだろう。

 

 

「そうだ、アタシが全員殺す!!」

 

 

佐倉杏子は再び闘争心を燃やして踵を返した。

生きる為に殺すのではない。杏子自身が楽しむ為に殺すのだ。

そして杏子が思う楽しいとは、利用されることじゃない。自らが一番になることだ。

 

浅倉威、佐倉杏子。

この二人にとってF・Gの勝利など関係はない。

ただ純粋に、そこまでの過程が楽しみなのだ。どれだけの参加者と戦い勝てるのか、それだけが二人の目的である。

 

 

 

 






漫画版ディファレント・ストーリー。
おすすめやで(´・ω・)b
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