仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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今回の更新分、長いです。

目が疲れたら、休憩しておくれやす(´・ω・)b


第22話 友達 達友 話22第

 

 

 

 

放課後のファミレスで、制服姿の男女が話し合っていた。

とてもじゃないが、楽しげな雰囲気とは言い難い。

 

 

「さやかの死体が消えてないんだ」

 

 

その会合にはサキ、ほむら、手塚が参加していた。

まどかとゆまはショックが大きいのか、家で休んでいるようだ。

話の内容は――、サキの言葉が全てだ。

 

共に魔女となって死んだマミとさやか。

しかしマミの体は消え去り、さやかの体は残ったままだった。

 

マミと須藤が死んだ時、参加者以外の記憶からは存在そのものが抹消され、生きていた痕跡も消える。

世界は、死んだ参加者が『いなかった』という風に"再構築"を行うのだ。

 

だが今回はソレが起きなかった。

さやかの死体が発見されて、変死と言うことで報道もされた。

明日には葬儀が行われるのだが、何が起こったというのか。

 

 

「恐らく特殊ルールの一つなのでしょうね」

 

「ッ?」

 

「私もいくつキュゥべえから情報を得たの」

 

 

死体についての情報。

【"例外"を除いて、死体はキュゥべえ側が処理を行う】と言うルール。

今回はその『例外』が適応されたようだ。詳細は分からないが。

 

 

「これは俺の予想だが――」

 

 

手塚の予想は、パートナー関係が成立していない状態で片方が死んだ場合、この様になるのではないかと言うものだった。

 

 

「パートナーを探す際に一般人から情報を得る可能性はある。それなのに誰も知らないなんて不利もいいところだ」

 

「美樹さやかは、北岡秀一の近くにこそいたけれど、契約自体はしていなかった」

 

「なるほど。だから死体が消えなかった……」

 

 

さやかの死については明らかにおかしな点があるため、今頃警察が必死に調べているのだろうが、正直無駄な努力でしかない。

それよりも死と言う事実をどれだけの人物が受け入れられるのだろうか?

仁美や上条、さやかの両親の事を思うと、サキは心が締め付けられる。

 

 

「大丈夫か浅海。気分が悪そうだが」

 

「大丈夫だ。ただ……、納得はいってない」

 

「?」

 

「さやかは……、今まで世の中の為に頑張ってきた。なのにその結末がコレか? 正直者が馬鹿を見るとは言ったものだが、コレではあまりにも酷すぎるッッ」

 

 

苛立ってばかりだ。

あれだけ協力を訴えても、誰も応えようとはしないじゃないか。

マミやまどか達の様な魔法少女が特殊だっただけ。

他の魔法少女は自分の事しか考えずに平気で他人を殺そうとする。

 

それは騎士も同じだ。

パートナーの行動を止め様ともせずゲームに乗るなんて。

 

 

「私が信じてきたものはッ、何だったんだ……ッッ」

 

 

張り付くような不快感は消えない。

心はいつも叫んでる。復讐がしたい。これ以上惨めな思いはしたくない。

だから、そうだ、ゲームに乗りたい。

 

 

「まるで世界そのものが、私の考え方を否定しているかにも思ってしまう」

 

「おちついて。苛立っても仕方ないわ」

 

「だがッ」

 

「何を言っても、もう美樹さやかは死んだのよ。とにかく今は佐倉杏子のペアに注意しておきましょう」

 

 

ほむらは涼しげな表情で窓の外を見ていた。

サキとしてはソレも引っかかる――。苛立ってしまう要素ではある。

ほむらには悪いが、彼女は既にゲームに順応しているとしか思えない。

今も危険な要素を分析して、いかに効率よく立ち回るかを考えているのだろう。

 

嫌な空気を察知したか。

手塚は表情を歪めて、ほむらを見る。

 

 

「暁美、言い方が悪いぞ」

 

「……そう。ごめんなさい」

 

「浅海。気持ちは分かるが……、今は鹿目達を守ってくれ。状況が状況だ、誰かが傍にいたほうがいい」

 

「……ッ、失礼だが、なぜキミ達は平然な顔をしていられるんだ?」

 

 

いい意味でも悪い意味でもライアペアは切り替えが早い。

何がそこまで二人を強くさせるんだ? サキはそれが分からずにため息をつく。

 

 

「別に」

 

 

ほむらは一蹴である。

 

 

「ゲームは止まらないわ。今回の事でハッキリしたでしょう?」

 

「……ッ」

 

「今回の事で分かったわ、協力は不可能よ」

 

「きっぱりと言ってくれる」

 

 

杏子もあやせもキリカも。ましてや王蛇もインペラーも説得は不可能だ。

それはサキも思ってしまった。

 

 

「一刻も早くワルプルギスを倒したい所だな……」

 

 

そこで眉を動かす手塚。

 

 

「そう言えば、そのワルプルギスの夜ってのは何なんだ? 魔女なのか?」

 

「ええ、一応ね」

 

「何か知ってるのかほむら、私は何も知らないんだ」

 

 

名前の法則も他の魔女とは違い、かつ倒す事でゲームが終わるのならばワルプルギスは『ラスボス』と言うことになる。

当然それだけ強力だと言う事が予想できるが――。

 

 

「そうね。巨大な災悪といったところかしら」

 

 

ほむらが言うには、その魔女は巨大で、強大な力を持つ故、魔女結界を構築せず現実世界に現れるらしい。

世の中で観測される災害の数々はワルプルギスが巻き起こしたと言う噂もある。

 

 

「そ、そんな魔女が見滝原に訪れるというのか?」

 

「協力派の最終障害と言うだけあって、おそらくは5人……、いや6人以上の力を合わせなければ勝利は難しいでしょうね」

 

 

その時、サキはジュゥべえから聞いた言葉を思い出す。

魔女とはそれすなわち魔法少女の成れの果て。

つまりワルプルギスの夜もまた一人の魔法少女だったと?

 

そしてサキ達がゲームを終了させるには、その彼女を倒さなければならない。

なんとも皮肉なものだ。つくづくそう思う。

 

 

「一体の魔女といっても、一人の成れの果てとは限らないらしいけれど」

 

「!」

 

 

表情を大きく変えたサキ。

それを見てほむらは小さくため息を漏らす。

 

 

「やっぱり、知っていたのね」

 

「あ……っ!」

 

「隠す必要は無いわ。私も知っているから」

 

「なんの話だ?」

 

 

一人だけ意味が分かっていない手塚。

サキは諦めて、全てを話す事にした。

 

 

「な……っ!」

 

 

全てを聞き終えて、手塚も大きく怯んでいた。

オクタヴィアがさやかだとは知っていたが、まさか全ての魔法少女がなり得る結末だとは知らなかった。

 

 

「お前……! どうしてそれを言わなかったんだ」

 

「言う必要が無いと思ったからよ」

 

「………」

 

 

何故か少しにらみ合う形になる二人。

 

 

「ま、まあまあ。言いにくい話だからな」

 

 

サキの言葉に、ほむらはもう一度ため息を漏らした。

 

 

「そうね。言えば、貴方は戦いにくくなるでしょう?」

 

「それは、そうだが……」

 

「それでは困るの。ソウルジェムが穢れれば私達は魔女になる。そしてグリーフシードを得るには魔女を殺すしかない」

 

 

これからも魔女とは戦い続ける。

それらに、いちちち魔法少女の姿を重ねていては油断が生まれてしまう。

魔女との戦いには甘さは捨てなければならないのだから。

 

 

「分かっているさ、大丈夫だ」

 

「なら、いいのだけど」

 

 

ピリピリした空気が元に戻る。

サキは苦笑して、目の前のジュースに口をつけた。

 

 

「キミたちは仲がいいのか悪いのか、よく分からないな」

 

「少なくとも良くは無いわ」

 

「………」

 

 

目を細めているほむらと、目を閉じて表情を歪ませる手塚。

 

 

(そうよ、私の友達はただ一人……、彼女だけよ)

 

 

何度も言い聞かせる。

 

 

「私はパートナーがいないから、二人の関係を分かってやる事ができないよ」

 

「分からなくていいさ。ところで暁美、ワルプルギスが現れる時期や場所を予測できるか?」」

 

「時期は残念だけど不可能よ、ただ場所なら前兆が出るから分かると思う。嵐とか、地震とか」

 

 

ワルプルギスが現れれば、他の参加者は一気に決着をつけようと動くだろう。

なぜならワルプルギスを倒されれば、参戦派は強制的にゲームを終了させられる事になる。

 

逆もある。

参戦派はワルプルギスを倒そうとする協力派を一気に叩くチャンスが生まれる。

 

 

「自由行動の期間は終わった。全ての参加者が見滝原にいる今、一体どんな行動をとってくるのか……」

 

「一般人を巻き込む可能性もあるな」

 

「今朝、ニュースでパチンコ店が崩壊したとあった。詳しくは調査中とあったが、あれはおそらく……」

 

 

杏子やあやせの口ぶりだと、参戦派は参加者だけではなく、一般人をも容赦なく攻撃対象に入れている可能性があった。

 

 

「やはりこのゲームは参戦派が有利になるように作られている……!」

 

「だがそれでも俺は、この戦いを否定してみせる」

 

「……ッ」

 

 

手塚はそう言うが、サキの心は大きく揺らいでいた。

勝ち目の無い戦いだ、そこに賭ける勇気も度胸もサキには無い。

 

結局、話し合いはそこで終わった。各々は別れる事に。

手塚はサキとほむらを送って行くと、自分の住んでいるアパートに戻るのだが、その途中で面白い人物と出会う。

 

 

「お前――」

 

「アンタは……」

 

 

城戸真司、仕事の帰りと偶然重なったか。

二人はホールで顔を合わせていた為そのまま少し話す事にした。

近くの公園でまずは互いに軽い自己紹介を行う。二人とも堅苦しいのは苦手だ、年の差は少しあるが呼び捨てで進めることに。

 

 

「アンタのミラーモンスターは龍か。かっこいいな、勇気と言う性質にもあってる」

 

「勇気、勇気か――。変身した時はそりゃあ、勇気だしてたっけ」

 

 

ミラーモンスターは騎士の分身である。

そして『性質』は変身時に託す想い。その人間の『本質』を具現させた物とでも言えばいいか。

 

 

「俺たちが『性質』に背く行動を取った場合、ミラーモンスターが言う事を聞いてくれない。または自分の意思だけで行動する場合がある」

 

「そうなのか!」

 

「だからアンタの場合は――、そうだな。なるべく弱気にはならない方がいい」

 

 

それを聞いて、真司は唸り、俯いた。

思い当たる節があるのだろうか? 真司は何も言わなかったが、手塚にはそう感じた。

 

 

「て、手塚はエイなんだな! 確かモチーフになる動物は印象に残ってた動物なんだっけ?」

 

「子供の頃に水族館で見た姿が印象的でな。まあ、あれはエイと言うか、マンタだったが」

 

「性質は?」

 

「運命、らしい」

 

「運命――ッ」

 

 

手塚は頷いた後、まっすぐに真司を見る。

 

 

「俺はフールズゲームを止める。絶対……、絶対にだ」

 

「……!」

 

「アンタはどうだ? この戦いをどう思ってる?」

 

 

真司はその目に光を灯して強く頷く。

 

 

「俺も同じだよ。魔法少女と騎士同士が戦うなんて、絶対に間違ってる」

 

 

その想いを真司は手塚にぶつけた。

 

 

「俺は馬鹿だからよく分からない事も多いけど、それでもこのゲームが正しくないって事は分かる」

 

 

現にまどかや、ゆまは泣いているじゃないか。

笑顔だった彼女達が悲しみ続ける事が正しいと?

 

 

「そんな馬鹿な事があってたまるかッ!」

 

「……俺たちが足掻いても、何の意味も無いかもしれないぞ」

 

「かもな。だけど、俺はマミちゃんや、さやかちゃんの為にも! 絶対にこのゲームを止めて見せるッ!」

 

 

真司がココに立っていられるのは、マミ達に助けてもらったからだ。

つまり、真司の命はマミ達がくれたチャンスと言うことだ。

 

 

「マミちゃんも、さやかちゃんも、こんなゲームを望む筈がない。だから生き残った俺がそれを止めなきゃいけないんだ」

 

 

真司は悔しげに歯を食いしばりながらも、遠くを睨んでいた。

 

 

「だから俺はっ、絶対にゲームを止めてやるッ!」

 

「……ハハ」

 

「?」

 

 

手塚は少しだけ笑うと、真司に手を差し出した。

それは紛れも無い友愛の印だ。手塚視点でも、真司は希望なのだから。

 

 

「やっぱり、アンタは他の奴らとは違うよ」

 

「???」

 

「一緒にこの戦いを止めないか?」

 

「ッ! ああ!」

 

 

笑顔で頷く真司。手塚の差し出した手を、しっかりと握った。

戦いを止める事は難しいかもしれないが、諦めなければきっと希望が見つかる筈だ。

二人はソレを信じてF・Gに戦う決意を固めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

雨の日に、さやかの葬儀は行われた。

恋を叶えられなかった人魚姫は泡となって消える。

まるでそれを象徴する様な景色ではないか。

 

まどか達は、さやかの死の詳細を知っている。だが、そうでない人が沢山見えた。

例えばそれは両親。彼らの気持ちを思うと胸が締め付けられる。

娘が親より先に死ぬなんて事があっていいものか。

 

 

「うっ……うぅッ!!」

 

「仁美ちゃん……」

 

 

そしてそれは友人であったり。

まどかにすがりつく様にして泣いているのは仁美だ。

いきなり親友を失った気持ちは、まどかにもよく分かる。

 

そして、ふと前を見れば。

そこには、人形の様に虚ろな様子の少年がいた。

 

 

「か、上条――ッ」

 

「………」

 

 

苦しそうな表情を浮かべているのは、中沢と下宮だ。

その視線の先には虚ろな瞳の上条が座り込んでいた。

 

中沢達にとっても当然、さやかの死はショッキングな出来事だ。

ただ、言い方が悪いかもしれないが、二人にとってさやかはよく話すクラスメイト止まりの関係でしかない。

親友の仁美や、幼馴染の上条とは感じる想いも違うのだろう。

 

まして上条はさやかへの想いに気づいた直後と言うのがある。

上条は、さやかに告白するつもりだった。

なのにそのさやかはもう、いない。

 

 

「なんで……。なんでだよさやか――ッ」

 

 

上条は声を震わせる。悲しいが、それよりも虚しかった。

なんだか胸に大きな穴が開いたようだ。

浮かれていたところに、コレだ。無理もない。

もっと沢山の時間を共有できたはずだ。なのに――。

 

 

「彼を一人にしてあげよう中沢くん」

 

「あ、ああ……!」

 

 

中沢と下宮は上条から離れる。

上条とさやかの時間は長かった。そしてその分、募った思いに気づいた時、悲しみもそれだけ膨れ上がる。

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたの?」

 

 

葬儀場にはクラスメイトや、関係者など、人が多い。

彼らの邪魔にならないように手塚とほむらは、端の端、壁にもたれ掛かっていた。そこで

そこで、手塚は違和感を覚える。

 

 

「メガネを掛けているヤツに見られた気がする」

 

「……たくさんいるわ」

 

「いや、ほら、あそこの二人組み」

 

「ああ、あれは上条恭介の友人よ。中沢昴と、下宮鮫一」

 

「へぇ」

 

「……それだけ?」

 

「ああ」

 

 

ほむらが小さく舌打ちをした気がするが、気にしてはいけない。

手塚は常に持っているタロットから、カードを一枚抜き取った。

性質が運命だからなのか、何故か占いは的中率が高い気がする。

人を見てタロットを引くと、その人の現状が示されたカードが来るのだ。

 

 

(吊るされた男……)

 

 

様々な意味がある。

忍耐、試練、自己犠牲、無駄になる努力、中には反逆者と言う意味も。

 

 

(違和感を感じた気がするが――、気のせいだったか)

 

 

もう一枚、中沢を思ってカードを引く。

 

 

(魔術師……)

 

 

手塚はカードをしまうと、トークベントを発動する。

聞かれてはまずい会話だからだ。

 

 

『そう言えば、浅海の話を詳しく調べた。美樹の遺体が見つかったと言う件だ』

 

『ホールに残っていたのかしら?』

 

『いや、それが美樹の遺体は彼女の家の近くで発見されたそうだ』

 

「……!」

 

 

すぐにその意味に気がつくほむら。

 

 

『死体は動かないわ』

 

『そう。つまり誰かが彼女の遺体を運んだ事になる』

 

「………」

 

 

そもそも今回のさやかの件には、ほむらとしてもいろいろ疑問点があった。

絶望して魔女になったわけだが、果たして何に絶望したというのか。

大きな原因と言えば死への恐怖か?

 

いや、いや、強烈な違和感。

ほむらは色々見てきたが、さやかはやけに集中的に狙われていた気がする。

 

 

「もしかしたら、まだ終わってないのかもしれないな」

 

「ええ」

 

 

明確な狙いがあって、さやかを狙ったのなら、敵としては目的が達成されたわけだ。

それもあってか、ライアペアは先ほどから注意深く葬儀の参列者をチェックしていた。

可能性は低いかもしれないが、敵がこの葬儀場に来ている可能性もある。

 

敵はさやかを知っている。

この場所もきっと分かっている筈だ。当然、まどか達が来ることも。

 

 

「………」

 

 

しかし場所が場所故に、あまり歩き回れない。

加えてそれなりに人の出入りも多いため、結局怪しい人物を見つける事はできなかった。

 

そもそも、向こうとて見つからない様に動いている。

葬儀場から少し離れた場所では、喪服姿の織莉子と佐野が傘を差して歩いていた。

 

 

「でもさ織莉子ちゃん。わざわざ来る事なかったんじゃ……」

 

「いえ、これはせめてもの罪滅ぼしですから」

 

「誰にとっての?」

 

「両方です。彼女と私の」

 

 

どうやら手塚達の監視をうまくすり抜けたらしい。

佐野としては止めたが、織莉子は無理を通してやって来た。

 

 

「私は、美樹さやかを殺したくは無かった」

 

(つっても……)

 

 

佐野は引きつった笑みを浮かべる。織莉子の声色に迷いは無かった。

 

 

「だから私は絶対に勝たなければなりません」

 

 

キリカの為に、佐野や13番の為に。

そして何よりも死んでいった参加者の為に。

 

 

 

 

 

 

 

葬儀が終わり、さやかの遺体は火葬場へ出棺された。

さやかの死を悲しむ人々の中には、霧島美穂の姿もあった。

さやかが死んだ理由は未だに謎とされている。

外傷が無い為、自殺でもなければ他殺でもない。

しかし美穂は知っていた。と言うより、それくらい分かる。

 

 

(マジかよ……)

 

 

寒い。

悲しみよりも恐怖が勝った。

参戦派はルールに従い、例外なく他の参加者達を殺していくだろう。

ならば遅かれ早かれ、美穂も狙われることになる。

 

 

「美穂、大丈夫か?」

 

「おわッ!」

 

 

隣にいた真司が声を掛ける。

美穂は肩を震わせて、椅子から転げ落ちた。

 

 

「な、なにやってんだよ」

 

「ビビッたぁ……ッ」

 

 

美穂はため息をついて椅子に座りなおす。

 

 

「……蓮は? 見つかった?」

 

「いやッ、駄目だった。もうルールがあるから見滝原からは出られない筈だけど」

 

「ルールか」

 

 

美穂は立ち上がり、窓の外を見た。

 

 

(何やってんだろ私。ウジウジやってて……)

 

 

美穂はその悔しさに似た感情を、まだ受け入れられない。

 

 

「なあ美穂、何かあったら俺が守るから安心しろよ」

 

「――ッ」

 

 

その言葉は嬉しいが、複雑でもあった。

 

 

「悪い、ちょっとまどかちゃんの様子見に行って来る」

 

「ま、待ってよ!」

 

「なんだよ」

 

「まどかちゃんは戦えるだろ。でも私は生身だぞ! 一緒にいろよ!」

 

「バカ言えよ。まどかちゃんは今、さやかちゃんがいなくて心が参ってるんだ。誰かが傍にいたほうがいいだろ」

 

 

そう言って真司は行ってしまった。

 

 

「な、なんだよぉ、私はどうでもいいってか? 酷い男になったな真司!」

 

 

口ではふざけた様に言うが、胸がズキズキと痛む。

真司はバカだ。それは分かっているが、やっぱり酷いとも思う。

そしたらどうだ。いつだったか、言われた言葉が蘇る。

 

 

『いっそ、パートナーの娘を殺しちゃえば?』

 

「!!」

 

 

美穂はすぐに首を振って、悪い考えを散らした。

思ってしまった。もしもこのままゲームが続いて、自分とまどかが同時に危険な目にあったら、真司は一体どちらを……。

 

 

「最低だぜ……、私」

 

 

言葉にできない辛さだった。

こんな悪夢は終わってほしい。誰か早く、楽にしてほしかった。

 

 

 

 

 

織莉子の屋敷。

 

 

「佐野さん、ご苦労様でした」

 

「お、悪いねぇ織莉子ちゃん! じゃ、いっただきまーすッ!」

 

 

テラスでは、織莉子と佐野が何やら話し合っていた。

テーブルでは、キリカが美味しそうにクッキーを食べながら織莉子を見ている。

 

織莉子は佐野に封筒を渡した。それなりに厚みはある。

佐野は中身を確認すると、思わずゴクリと喉を鳴らした。

 

 

「うぉッ! えッ!? こんなに!?」

 

「ええ。佐野さんの力があったからこそ、作戦はうまくいったんですから」

 

 

この封筒の中身こそ、佐野が織莉子に協力している理由である。

佐野は織莉子の生活を知り、仲間になりたいと申し出た。

織莉子はそれを拒まなかった。正式な契約なのだ。

 

 

「これからお茶にするんですが、佐野さんも一緒にどうかしら」

 

「ん? ああ、じゃあせっかくだから――」

 

 

佐野はそこでピタリと言葉を止める。

何やら嫌な視線を感じて、ゆっくりとその出所を探った。

すると先ほどまでは嬉しそうにクッキーを貪り食ってたキリカと目が合いましたとさ。

 

 

「………」

 

 

気のせいだろうか? キリカが鬼の様な形相で睨んでくる。

言葉にせずとも、視線だけでキリカが何を言いたいのかが心をにドバドバと流れ込んでくる。

 

 

いいかいバイト君、キミが消えてくれれば今から私と織莉子は二人っきりで楽しい楽しいティータイムなんだよ。分かるかな君には私と織莉子のラブラブでイチャイチャな時間を邪魔する権利なんてないんだからさっさと消えて、いや消え去ってくれないと困るんだよ。っていうか消えないとコロしちゃうよ、細切れにしちゃうよ? だって織莉子と二人きりでお茶なんて……、まあほぼ毎日してるけど、私にとってはそれが何よりの楽しみであり生きてる理由の一つなんだから邪魔するって事は私に死ねって言ってるようなモンなんだよ。あ、それとも何かい? バイト君は私の至福の時間を邪魔する事で結果的に私を殺そうとしてるのかな? 酷いな、酷すぎるなバイト君は、やっぱりキミはそういうヤツだったんだな。結局は薄汚い参戦派なんだなキミも。はいはい分かりましたよ私は。織莉子が拾ってくれた恩を忘れて、私達を殺そうとするなんてキミはなんて恍惚な男なんだ。むきーッ!! ってか、あの、そもそもだね。説明するとお茶会っていうのは女同士でやるモンなんだよ。美味しいお茶茶においしいクッキー、んで楽しいお喋りんりんだよ分かってるのかな? あとお茶してる時にクッキーが織莉子の口の周りについてなんかしちゃったりしたら私はソレをとってあげるんだ。そいでもってそれを食べちゃうと織莉子は真っ赤になったりするかもしれないだろ。いやいやそれよりも私が織莉子の服にお茶をこぼしてさ! 織莉子は気にしないでとか言うんだろうけど私はいや待てとふきんで織莉子の服を拭いてそのまま手が胸に当たったりなんかしたら織莉子は真っ赤になってァあああああああ! 想像しただけでちょっとムラってきたよ、どうすんだい私の興奮をこのまま無駄にしたらもうそれだけで八つ裂き決定だよ。あ! そのまま織莉子を頂くのもいいなぁッ、あと頂かれるのも悪くないなァッ!!どうだい、こんな私の溢れる想いを知ってもキミはまだお茶会を邪魔しようっていうのか! だとしたらキミはとんだ悪魔だね! デビルだ!! デビル佐野ッ! ん? ちょっと待って、ちょっと待ってくれよ。もしかしてバイト君ってば織莉子を狙ってるんじゃないだろうな? だとしたら間違いなく殺っちゃうよ? 今この場で殺っちゃうよ!? そういえば前々からキミの織莉子をみる目がイヤらしいような気がしていたんだ。いや、かくしょーは無いけど、ヤマカンってやつだけど、キミが織莉子と目を合わせるって事はそうなんだろ? そうに決まってるよな織莉子と目があってドキドキしないヤツがいたらそれはもう逆に変態だよな。待て、待てよ。そもそも織莉子と会話してるだけでソレは犯罪だよバイト君! 私は実を言うとキミが織莉子の声を聞くのも姿をみるのも気に入らなかったんだ。ああああ、やっぱりココでキミを殺しちゃおうかなぁ。まああくまでもキミがお茶会に出席しないっていうなら考えを改めてあげてもいいかなって思ってるけど早くしないと本当に殺し――

 

「遠慮しておきます! し、失礼――ッ、失礼しましたッ! ヒッ、ヒィイィイイイイイイイイイイ!!」

 

「あら、そうですか?」

 

 

引きつった笑みを浮かべ、佐野は逃げる様に屋敷の入り口に走る。

本当はお茶を頂きたいところだったが、だとすると席についた瞬間キリカに首を刎ねられる筈だ。せっかくお礼を頂いたところだってのにそれは無い。

 

そもそもそんな命を賭けたお茶会が落ち着く訳もない。自分の精神と身の安全のため、佐野はさっさと織莉子邸の門を潜りぬけた。

 

 

「謝礼見せてよ。どんだけもらったの?」

 

「わ!」

 

 

塀の上で寝ていたのは13番の魔法少女だ。

彼女は佐野が抱えている封筒を見て笑った。

 

そう、佐野は織莉子から現金を受け取っていたのだ。

とは言え、露骨なのは避けたい。

佐野は表情を曇らせると、封筒を隠すように身体の後ろにまわす。

 

 

「ど、どうだっていいだろ」

 

「ハハッ! あの女の命の値段だ。せいぜい大切に使ってよ?」

 

「……ッ」

 

 

あの女とは、さやかの事だろう。

さやかを追い詰めて佐野は金を受け取った。さやかを傷つけて金を受け取った。

 

さやかは死に、佐野は大金を受け取っている。

13番の言うとおり、この金はさやかの命の値段なのかもしれない。

それを考えると、佐野の心にいろいろな感情が流れ込んでしまう。

 

 

「―――ッ」

 

 

佐野は舌打ちで返事をすると、そのまま13番を無視して走り去る。

13番はニヤリと笑い再び塀に寝転んだ。

命の値段か――

 

 

「やすっぽいなぁ、おい」

 

 

所詮人の命なんて、そんなもんでしょ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ」

 

 

自宅のボロアパートに戻ってきた佐野だが、その表情は暗い。

理由はいろいろあるが、今一番は、先ほど13番に言われた言葉だ。

 

 

「命の値段だ? クソッ! 使いにくいこと言いやがって!」

 

 

畳の上に封筒を放り投げる。

葬儀場でのすすり泣く声は、今もでも簡単に思い出せた。

さやかの友人、家族、中には愛する人もいたかもしれない。

 

あの場所は居心地のいいものではなかった。

佐野だって人間だ。罪悪感を感じない訳が無い。

金が欲しい以上、『殺さなければ良かった』とは思わないが、織莉子ほど簡単に割り切れるものでもなかった。

 

先ほどから体に張り付くような不快感が鬱陶しい。

こういう時は横になるに限る。しきっ放しのせんべい布団に倒れこむと、佐野は足を組んで貧乏ゆすりを始めた。

 

 

「しかしまあ……、なんつうか」

 

 

いつ見ても、織莉子の屋敷との差を感じてしまう。

木造の古いアパートは、家賃の割りに狭くはない。

だがやはり織莉子の屋敷に比べれば犬小屋だ。そういえば織莉子の屋敷にはプールまでついていた。

 

 

「プールだぜ、プール! 日本じゃ有り得ないっての! なあ!?」

 

 

佐野は体を起こすと、隅の方に置いてある鳥かごに話しかけた。

ペット禁止のはずだが、佐野は白い文鳥を飼っていた。

賢い文鳥だった。滅多に鳴かないので、バレる気配もない。

 

 

「………」

 

 

文鳥はただジッと佐野を見ていた。

それはそれで気まずい。佐野は複雑そうに寝転ぶと、ゴロンと転がる。

 

 

(オレだって望みさえすれば……)

 

 

いや、いや、駄目だ。

佐野は変色している壁をジッと睨みつける。

人生はゲームのように色々な選択肢がある。それが見えないだけで、一度選んだら二度と戻れないだけで。

 

そういう物なのだから、いちいち後悔やタラレバに生きるのはアホらしい。

佐野はもう一度舌打ちをすると、近くにあった財布を取る。

今夜は寿司にしよう。そして酒でも飲めば、嫌な事は忘れるだろうから。

 

 

「!!」

 

 

そこでインターホンがなった。

居留守――、は、使えない理由がある。佐野は立ち上がると、散らばる漫画雑誌を蹴り飛ばしながら入り口に向かった。

 

 

(下らないセールスか宗教勧誘だったらギガゼールに頼んで殺してやる!)

 

 

そう思いながら扉前まで来ると、既に声がした。

 

 

「佐野さん!」

 

 

鈴みたいな綺麗な声が聞こえてくる。

佐野はハッとして、すぐに扉を開けて外に出た。

 

そこにいたのは、大きな買い物袋を持った女性だ。

佐野と同じくらいの年齢だろうか? 露出の少ない可愛らしい服装で、清純な雰囲気が滲み出ている。

女性は佐野を見ると、ニッコリと笑って近づいてきた。

 

 

「百合絵さん……!」

 

 

佐野もまた、笑顔になる。

どうやら佐野にとって特別な女性らしい。

すぐに家の中に入ってもらおうとして――、動きを止めた。

佐野はゆっくりと扉を開け、部屋の中を確認する。

 

 

(まずい)

 

 

漫画雑誌や、食い終わった弁当の箱なんかが散乱している。

さやかの件で集中していた為、部屋の片づけが疎かになっていた。

 

 

「ふふっ、大丈夫! 分かってますよ」

 

「え?」

 

 

小鳥遊(たかなし)百合絵(ゆりえ)は、袋からハタキを取り出した。

目を丸くする佐野と、笑顔の百合絵。

つまりなんだ今から一緒に――

 

 

「お掃除しましょう!」

 

「は、はい!」

 

 

百合絵は頷くと、さっさと佐野の部屋に入っていった。

片付けは一時間半もあれば十分だった。

すっかり綺麗になった佐野の部屋。それだけではなく、百合絵はご飯も作ってくれた。

ちゃぶ台に並ぶのは味噌汁、だし巻き卵、回鍋肉だ。

 

佐野は獣の如く、その食事にありついている。

何だかんだでまともな食事は久しぶりだった。

 

 

「いやぁ、マジで美味いよ百合絵さん! 最高、生きてて良かった!」

 

「ふふふ、言いすぎですよ。大したことありませんから。お味噌汁は具が豆腐だけですし。回鍋肉は市販の素を使ってますし……」

 

「いやいや十分だって! それに作ってくれた事が嬉しいんですよ!」

 

 

向かい合って食事を取る二人。

佐野はいつもヘラヘラしているが、あくまでもソレは作り笑顔でしかない。

しかし今は違う。佐野にとって百合絵は、本当の笑顔を見せられる数少ない人物だった。

 

 

佐野と百合絵は、子供の時からの付き合いになる。

つまり幼馴染と言うヤツだ。

 

 

「あッ、でも百合絵さん」

 

「?」

 

「毎週来てくれるのは本当嬉しいけどさ。あんまりココには来ない方がいいと思うよ……」

 

 

それだけじゃない。百合絵は、佐野の許婚"だった"。

 

 

「また父に何か言われたんですかっ?」

 

「いや……、まあ親父の事は少し言われたよ。でも百合絵さんの事は特に何も」

 

「だったらいいじゃないですか!」

 

 

そう、だったら――。

しかしそれで済ませる程、簡単な問題ではないのだ

責任もある。佐野は百合絵が大切だからこそ、近づけてはいけないと考えていた。

それは佐野としても本心ではないが。

 

 

「今のオレと百合絵さんじゃ、釣り合わないっていうか……!」

 

「佐野さんッ」

 

 

そもそも、佐野満と言う男は、本来このような生活を送る立場ではなかった。

むしろ織莉子と同じ様な屋敷で、同じ様な暮らしをしていたのだ。

何故なら、父は大企業の社長。つまり佐野は御曹司と言うわけだ。

 

百合絵もまた、父が大銀行の社長である。

親同士が友人であり、昔から顔を合わせることも多く、自然と仲良くなっていった。

尤もそれは親の思惑通りであり、半ば政略結婚じみたものではあった。

とにかく、二人は幼い頃から互いを許婚として意識して育ってきた。

その効果もあってか、二人の仲は良好だったのだが――

 

 

「まだお父さんの事は……?」

 

「止めてくれよ百合絵さん、オレに親父なんていないよ」

 

 

『佐野』と言う苗字は、母方の旧姓だった。

佐野は自らの意思で父親との縁を切ったのだ。

以来、彼はこのボロアパートでの貧乏な暮らしを選んだのである。。

 

会社の重役達は何とか考え直してくれないかと言ってきたが、何度頼まれても佐野が父との関係を修復しようとは思わなかった。

 

それは百合絵との関係があったとしてもだ。

佐野は百合絵の事を想っている。しかし彼女との関係が壊れようとしても、父との絆を戻そうとは思えなかったのだ。

 

 

「ゴメン……、百合絵さん」

 

「いえ、いいんです」

 

 

百合絵も、佐野が父親と決別した理由は知っている。

それは母親の事だった。佐野の母は、彼が高校生の時に難病を患って入院生活を送る事になってしまった。

 

佐野は母を慕っていた為、毎日病院へ見舞いに行っていたし、百合絵も着いて行った事は何度もある。

しかし父親の姿は、一度たりとも見る事は無かった。

 

佐野の母はよく、『お父さんは忙しい人だから仕方ないの』と笑っていたが、その寂しそうな笑みを佐野は絶対に忘れないだろう。

 

母を不憫に思い、父親に病院へ行ってほしいと何度も言った。

しかし父の答えは決まって同じ。

 

 

『今は忙しいんだ。そんな事に時間を割く暇はない』

 

(そんな事? そんな事って何だよッッ!!)

 

 

結局、父は母に顔を見せに行く事はなかった。

だが佐野も子供ではない。父が社長と言う立場故に、忙しい事は分かっていたし。

父の金で生活している身だ。いい服や靴、欲しい物は買っている。

だから文句は言えなかった。

 

父が、母と会社を天秤にかけた時、会社の方をとったのは納得はいかないが、理解はできている。

 

だが、どうしても許せない事が起こってしまった。

それは佐野が大学生の時だ。母の容態が急変して危篤状態となった。

佐野はすぐに病院に駆けつけたのだが、看護婦からは日を越せるかどうか怪しいといわれた。

 

そして看護婦からの伝えで、母が父に会いたいと言っていた事を聞かされる。

ともあれば佐野はすぐに父に連絡を取り、その事を伝えたのだが、返事はいつもと変わらなかった。

 

結局そのまま母は父の顔を見る事なく、この世を去った。

急に危篤と知らされた為、スケジュールの都合が合わなかったのはまだ分かる話だが。

後から父の部下に聞くと――

 

 

「あの野郎ッ! そん時、部下連れてキャバクラだぜ!?」

 

 

佐野はそれを聞かされて激情した。

そして父に詰め寄ったのだが――

 

 

『アイツも私の立場を考えれば分かる事だ。そんな下らない事を引きずる暇があるなら勉強に勤しめ。お前には私の会社を継いでもらわなければ困るんだ』

 

「下らない! 母さんが死んだ事が下らないってのかッ!」

 

 

佐野はついに父を軽蔑し、自ら父との縁を切った。

通っていた大学も辞め、バイトで生計を立てる様になったと言う訳だ。

 

 

「………」

 

 

第一、佐野の父が住んでいる場所――、つまり会社は見滝原の外にある。

完全にエリア外だった。どらにせよ佐野から父に会いに行く事はない。

 

 

「ごめん百合絵さん。オレ、どうしてもソレは割り切れなくて――!」

 

「いいんです。佐野さんがそう決めたのなら」

 

 

しかしこのままならば確実に百合絵の父は、他の相手を探すだろう。

そもそも父親と勘当中のフリーターなんざ、どこの家庭だってお断りだろうて。

だが佐野は百合絵の事が好きだった。そうすると、エゴを突き通す為の手段は限られてくる。

 

 

「百合絵さん! オレ今ッ、いい仕事についててさ!」

 

「え?」

 

「それが成功すれば大金が手に入るんだ!!」

 

 

そうだ。金さえあればどうとでもなる。

最悪。百合絵を連れて駆け落ちする事だってできるんだ。

こんな惨めな生活ともサヨナラ。

 

 

(金さえ――、金さえあれば、オレは幸せになれる!)

 

「だ、大丈夫なんですか……?」

 

「あ、ああ! ヤバイ仕事じゃないからさ!」

 

 

嘘だ。

織莉子の邪魔となる存在を消すのが今の仕事だ。

だがそれを行えば大金が貰える。

 

織莉子が何を考えているのかは知らないが、織莉子は金への執着がない。

彼女の計画が全て成功すれば、持っている財産のほとんどをくれると言ってくれた。

 

織莉子が目指す勝利とは"ワルプルギスの死"。つまり、複数が生き残るタイプのエンディングだ。

そうなれば叶えられる願いは一つだが、織莉子はそれを13番に譲歩すると言う形で13番からの協力を得ている。

 

佐野は大金を貰えて、13番は願いを叶えられる。

この条件で自分たちは協力を結んでいるのだ。

 

 

(そうだ、オレはF・Gに勝つんだ……!)

 

 

そして大金を手に入れる。そして百合絵を手に入れる。

自分にはそれだけの力がある。佐野はポケットに入ったデッキを強く握り締めた。

そうだ、これを手にしたのは偶然なんかじゃない。

 

 

「待っててよ百合絵さん! オレ、必ずキミを幸せにしてみせるから!!」

 

「は、はい!」

 

 

嬉しそうに笑う百合絵を見て、佐野は家を飛び出した日を思い出す。

これは偶然ではない、必然だ。

いよいよ暮らしに限界を感じた日があった。そこにアイツが現れて――

 

 

『テメェが望む未来が、ココにある』

 

 

眼を瞑れば思いだす。

何もかもがうまくいかず、世界を憎んでいたあの時にアイツと出会った。

 

 

『すさんだ顔してるなお前、どうだい? ここいらで一発、自分を変えちゃみねぇか?』

 

 

そうだ、自分は手に入れたんだ。このインペラーの力を!

そうやって佐野は誓う。さやかへの罪悪感は百合絵への愛で塗りつぶす。

 

 

『オイラと契約して、騎士になってみないか? 佐野満』

 

 

願いを叶えたい訳でもない。

ただ百合絵と一緒に――。幸せに暮らせればそれでいい。

 

 

(だから、負ける訳にはいかないんだよ)

 

 

佐野は今一度、自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やれやれ、またキミか』

 

「おうおうキュゥちゃん、こんちわわーッ!」

 

 

深夜、地下道にて。

身体を揺らしながら迫るニコと、不動のキュゥべえ。

妖精達の位置を把握できるニコは、今夜も例外なく情報収集である。

 

 

『そのあまりの探索力。キミだけには制約をつけたいね』

 

「ケチケチすんなー。これも私の個性だぞ」

 

 

レジーナアイには、現在グリーフシードを所持している魔女や、使い魔があとどれくらいで魔女に進化するのかの情報まで表示される。

おかげでニコのグリーフシードのストックは高い。

 

 

『最強クラスだと思うよ、キミの力』

 

「今日はもうさ、べぇやん(ジュゥべえ)から情報をもらったのよ」

 

『死体消失についての情報だね』

 

 

イエスと指を鳴らすニコ。

参加者が死んだ場合は、その存在を抹消されるのだが、例外が存在している。

それはパートナーを見つけていない者だ。その場合は死んだ場合であっても、存在が消される事は無い。つまり手塚の予想が当たっていたと言う事になる。

 

 

「って事で! 早速教えてもらいたい事がある」

 

『なんだい? 教えられる範囲でなら、何でも答えてあげるよ』

 

「うん、じゃあ優勝候補についてだ」

 

 

13組の中に優勝候補が存在していると言う事。

その候補に選ばれたペアは、何が基準で選出されたのか?

ホールに集まった連中を注意深く観察していたが、怪しいのが一人いた気がする。

 

 

『そうだね、分かりやすく言うとデッキかな』

 

「デッキ? つーことは騎士様かいな」

 

『全13個のデッキのうち、当たりと呼ばれる物が二つあるんだ』

 

「……要するにその当たりを引いたペアが優勝候補って訳か」

 

『当たりのデッキは他の物とは違い。強力な能力や力を持っている』

 

 

それだけ勝利の確立も上がると言うものだ。

キュゥべえは運も実力のうちと言っているが、ニコにとっては一大事である。

 

 

(ああああああ、消しときてぇな……)

 

 

ステルスを貫けば最終までは生き残れるだろうが、勝利を目指すなら当たりつきのペアとは戦わなければならない。

ニコ視点。自分も、高見沢も、弱くは無い思っているが、真正面からのぶつかり合いは苦手だ。

 

 

「どこぞのペアが優勝候補様を潰してくれればいいけど――、期待できるとすれば、やっぱ杏子ちゃまか?」

 

『それはボクにも分からないよ』

 

「でもアイツあんま好きじゃないんだよねぇ」

 

 

ニコは少し含みのある笑みを浮かべた。

佐倉杏子は良くも悪くも真っ直ぐすぎる。

欲望に素直で、自分に嘘をついてない。

どんな過程があったのかは知らないが、佐倉杏子は乱暴なまでに正直だ。

 

紅く光り輝く彼女はニコにとっては眩し過ぎる。

目に悪いんだ、目障りなんだよ。

 

 

「……気に入らないねぇ」

 

 

ニコは黒い感情を、笑顔の仮面で隠す。

気に入らないのは誰が? 何になんだろうか?

 

 

「ま、いいや。次はべぇやんの所に行ってきます」

 

『………』

 

 

クリアーベントの効果で姿を消すニコ、それを何も言わずにキュゥべえは見つめていた。

キュゥべえは人間と言う生き物が理解できない。

論理的ではない彼女達は。時に奇異な行動や、特殊な考え方を持つからだ。

 

例えばそれは、他者を嫌う事で自己嫌悪を重ねる者だったり。

例えばそれは、友人の為に自分を犠牲にしようと考えたり。

 

 

『神那ニコ。キミは知っているかい? 何度も同じことを繰り返す人もいるって事を――』

 

 

聞こえないが、キュゥべえはいう。

 

 

『全てを記憶していたら……、どれだけ楽だったのか』

 

 

虚空を見る。

願いは本当にソレでよかったのかい?

 

 

『やっぱりボクには人間が分からないな。本当にキミ達は特殊だ』

 

 

悲しいね。意味がない。

 

 

 

 

 

 

数分後、ニコはジュゥべえを掴んでいた。

 

 

『マジかよ! またお前かよ!!』

 

「んだよ、美少女が来てやってんのにその態度は」

 

 

どこぞのビルの屋上で寝ていたジュゥべえ。

しかし今、ニコに顔をむんずと鷲づかみにされ宙吊りである。

どうせもうレジーナアイがある以上ニコからは逃げられないのだが。ココまで筒抜けだとジュゥべえとしても面白くは無い。

 

 

『いででででッ! ちょ、おまっ! 指が食い込んで――!』

 

「現段階での参加者の覚醒状況を教えろ。未覚醒の騎士の数、まだチームを組めてないペア、こんだけでいい」

 

『多いわ! つか話聞けよ! 食い込んでるって!! オイ! 力強めてんじゃねぇぞ! イデデデデデデデッッ!!』

 

 

ニコちゃんは舌打ち一つ。

 

 

「教えてくれれば、今日はもうお前を見つけない。あと明日も止めてあげよう」

 

『うグ……ッ!!』

 

 

どうせレジーナアイですぐに見つかるだけだ。

ココで情報を小出しにしても、結局数分後にはまたニコと顔を合わせる事となる。

だとしたら今全て教えるのも同じか。

 

ジュゥべえは少し迷ったが結局オーケーを出す事に。

彼としてもニコのしつこさにはうんざりだった。

 

 

「助かる。コッチも溜めてるゲームと録画してある深夜アニメがあるんでね」

 

『お前……、マジで殺し合いする気あんのかよ』

 

「無いさ、私は楽をして勝ちたいんだ」

 

 

とは言えど、現状で参加者を殺した数が多いのはニコ達だ。

尤も双方すでに復活し、かつ直接手を下したのは高見沢の方だが。

 

ため息をつくジュゥべえ。

26人も参加者がいれば、中にはこういった考えを持つ者は珍しくない。

とにかく、今はさっさと情報を伝える事にしたのだった。

 

 

『まずは未覚醒者だな。魔法少女集会があったから分かると思うけど、魔法少女はもう全員揃ってる』

 

 

問題は騎士だ。

 

 

『まだ騎士に覚醒してないヤツは3人いる』

 

「ふぅん」

 

 

となると優勝候補がそこにいる可能性は低いか?

少し焦りを覚えるニコ。もしかしたら既に二組ともペアを結んでいる可能性は高い。

そこで、次はペアが既に成立しているのは何組かを問う。

 

 

『ペアが成立してねぇのは5組だ』

 

「うーん……」

 

 

まあまあ多いのか? その中の一人が北岡達だから、実質4組。

さらに未覚醒が三人なのだから、純粋にパートナーと接触できていないのは1組か。

コレまた微妙な数である。できれば優勝候補は早々に潰しておきたかったが、期待はできないらしい。

 

 

「ま、成るように成る!!」

 

『………』

 

 

そう言って、ニコはさっさと消え去った。

取り残されたジュゥべえは、ニヤリと笑う。

 

 

『よく考えろよ。よぉく、な。ヒヒヒ!!』

 

 

 

 

「………」

 

 

翌日の放課後。

夕方の公園、そこに子供らはいない。

ブランコに座っているのは、公園には不釣合いな年齢の少女だった。

浅海サキ。夕焼けに照らされた公園を見つめながら、心を静かに落ち着けている。

 

 

(まどか……)

 

 

サキが見滝原に引っ越してきて、近くにまどかが住んでいる事を知った。

いろいろあって落ち込んでいたサキに、まどかは優しく微笑んで懐いてくれたものだ。

幼いながらにその事は、今も強烈に記憶に残っている。

 

 

『サキおねえちゃん!』

 

 

そういいながら後ろをついてくる小さなまどかは、本当に可愛かった。

昔はこの公園で夜まで遊び呆けて、叱られた事もあったか。

あの頃は二人だけだったが、それから時間が経てば、お互いいろいろな友達ができた。

 

 

(マミ……)

 

 

いつも彼女は正しかった。いつも彼女は寂しそうだった。

いつも彼女は笑って、でも心の中では泣いていたのかもしれない。

そんな巴マミは、やっと本当に笑える時間を手に入れたのだろう。

やっと信頼できる仲間達に出会えたのだろう。

 

 

「………」

 

 

だが、死んだ。

彼女が何をした? もう百回以上は思ってる。

だがどれだけ考えても分からなかった。世界のために戦ったマミは、絶望して死ぬと言う最悪の結末を迎えた。

 

 

(さやか――ッ)

 

 

明るくて、元気で、面白かったさやかもまた絶望して死んだ。

さやかはただ好きな人に好きと伝え、分かり合いたかっただけだろうに。

そんな歳相応の想いを踏みにじられて死んだのだ。

 

さやかの葬儀が。サキの心に爪痕を残す。

さやかの死は一人の死じゃない。彼女を慕う者全ての心を殺したのだ。

それを感じてサキの心にはある想いが生まれた。

サキ自身それを認めていいものか迷い、今ココにいると言う訳だ。

 

 

「マミもさやかも……、正しいのに死んだ」

 

 

同じことばかり考える。次は誰が死ぬ?

サキはもう迷ってはいられなかった。

さやかを守れなかった悔しさ、マミを死なせた後悔に心を焼かれるのはもうたくさんだ。

このまま同じ想いをするくらいなら、いっそ――

 

 

「私は、このまま死ぬつもりはない」

 

 

闇に堕ちたほうがいい。

サキは前から歩いてくる魔法少女を、ジットリと睨みつける

 

 

「ここにいれば、会えると思ってたよ」

 

「おお! それは奇遇だね! 実はワタシもなんだよ!」

 

 

ハイテンションな声がサキの耳を貫く。

呉キリカ。サキがいる公園は、キリカと最初に戦った場所だった。

サキはそこで魔法結界を張っていたのだ。何のために? 自分の居場所を知らせるためだ。

 

 

「さやかが死んだよ」

 

「あー……、しゃやか? さやか――? あははは、誰だっけ?」

 

「ッッ!」

 

 

怒りに目を見開くサキ。

 

 

「覚えてないのか……?」

 

「ごめんッ、織莉子の事以外は、なるべく頭に入れないようにしてるんだ!!」

 

「そうか……。じゃあ、次は私を殺しに来たのかな?」

 

 

ヘラヘラと笑うキリカ。

 

 

「そうだよ」

 

 

そしてフッと、キリカの表情から笑みが消える。

先ほどまでニヤついていた少女とは思えない程の眼光だ。

 

 

「織莉子の目指す世界に、キミ達はいらないんだよ」

 

「奇遇だな、私もそう思うよ――ッ!」

 

「?」

 

「おかしいと思わないか? さやかは多くの人に信頼され慕われていた。彼女の葬儀を見れば分かる事だ」

 

 

さやかはきっとコレからもっと幸せになれただろう。

生きていれば、の話だが。

 

 

「私達の世界に、お前らはいらない」

 

「ふぅん。怖い顔してるね、キミ」

 

 

サキはブランコから立ち上がる。

しかしキリカに焦りの表情は無い、それは自信からか? それとも。

 

 

「なーんか、キミってばふわふわしてるよ」

 

「――ッ」

 

 

バチッと音を立ててサキの身体から電撃が走った。

気がつけばサキは鞭を構え、キリカは爪を構え互いにぶつかり合う。

 

 

「黙れッ! 黙れ黙れ黙れぇええええええええッッ!!」

 

「あははぁ! 怒っちゃた?」

 

 

サキの回し蹴りを華麗に交わしてキリカはジャングルジムの頂点に座る。

見下された様な光景にサキはますます怒りを覚えた。

しかしその時だ。風を切り裂く音が聞こえたのは。

 

 

「こんにちは♪」

 

「!!」「ッ!」

 

 

巨大な火柱がサキとキリカの間に巻き起こる。

中から現れたのは綺麗なドレスを身にまとった双樹あやせだ。

彼女はサキを見ると。可愛らしい笑顔を浮かべて手を振る。

 

 

「ひさしぶりっ♪ 元気だった?」

 

 

まるで友達を見つけた時のリアクションだ。

舌打ちをするサキと、首をかしげるキリカ。

 

 

「誰、キミ?」

 

「うふふっ♪ わたし双樹あやせ、よろしくね!」

 

「どーぞよろしくおねがいしまーす!」

 

 

ヘラヘラ笑いながら頭を下げるキリカ。

対してますます苛立ちを募らせるサキ。

 

 

「何をしに来たッ!?」

 

「んもう! せっかく一日中かけて探したのにぃ」

 

 

まあいいやと、あやせは笑う。

屈託のない、無邪気で無垢な笑みがサキにはたまらなく目障りだった。

あやせもまたあの場にいた一人だ。さやかを救う邪魔をさせられた分、怒りもある。殺したくなる。

 

 

「今日はお知らせがあります♪」

 

「おしらせ?」

 

「そう! 近いうちにゲームをする事にしました!!」

 

 

あやせは、パチパチと一人で拍手を繰り返す。

その内釣られて、キリカも力強い拍手を繰り返していた。

尤もキリカは何故自分が拍手をしているのか分からないのだろうが。

 

 

「是非参加してね☆」

 

「うぇーい!」

 

「………」

 

 

またこれか。サキはつくづく思う。

すると赤紫色の電撃が迸った。

 

 

「きゃ!」

 

「わわ!!」

 

 

気づく。

いつの間にかサキの姿が消えていた。

 

 

「あらら……」

 

 

キリカはしょんぼりと肩を落とすと、あやせを無視してさっさと走り去ってしまう。

残されたあやせも特に未練は無いのか同じく消えてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もっと冷静になれ、浅海」

 

「………」

 

 

サキはどこぞのマンションの屋上で座っていた。

ここまで運んできたのはエビルダイバーだ。

不機嫌そうなサキの表情を見て、手塚は困ったように首を振る。

 

しかし、手塚がサキを発見して連れてきたからいいものを。

もしもあの場にいたのなら、今頃は戦いになっていただろう。

 

 

「……どうして私の居場所が?」

 

「占いだ。運勢の悪い場所を二、三箇所ピックアップしたんだ」

 

「嘘だろ?」

 

「俺の占いは当たる」

 

 

ほむらから、サキと言う少女は冷静な性格だと聞いていたが、とてもじゃないが今はそうは思えない。

爆発しそうな何かをサキは抱えている。

手塚は懐からマッチを取り出すと、それを擦って炎をつけた。

 

 

「何を?」

 

 

手塚は炎越しにサキを見る。

 

 

「これも占いだ」

 

「ハッ、便利なものだな……」

 

 

手塚はすぐに炎を吹き消す。

 

 

「浅海サキ、お前は何を迷っている?」

 

「ッ!!」

 

 

いや、それはもう言葉にせずとも分かる事か。

手塚は少し遠い目でサキを見た。サキを見ている訳じゃない、彼女に誰かを重ねているようだ。

 

 

「手塚さん。貴方はどう思ってるんだ。本当に戦いを止めるなんてできるのか?」

 

「できないかもしれないな」

 

「何ッ!?」

 

「諦めたら絶対にできないさ」

 

「………」

 

 

言いたい事は分かる。だが、サキは納得できなかった。

 

 

「悠長な事を言ってられない。貴方も分かるだろ?」

 

「………」

 

「コッチだって限界なんだ! あの葬儀を見て思ったよ。皆が泣いている間、佐倉杏子の様なプレイヤーは笑っているんだと!」

 

 

あの下卑た笑みを思い浮かべ、サキは歯を食いしばる。

あんな勝手なヤツに自分達の絆が崩された。

だったらいっそ最初から絆なんて作らなければいい。

 

 

「そもそも、殺意さえあれば、さやかは死ななかった!!」

 

 

まどかは杏子を傷つける事が怖くて、矢の威力を落としてしまった。

だがもしもあの時、まどかが明確な殺意を矢に込めていたのなら――?

 

 

「今頃は違う結末になっていたのかもしれない!」

 

「よせ、過ぎたことだ」

 

「違う! さやかを救えなかったのは! ゲームに苛立っているのは! ぜんぶ要するに私達が弱いからじゃないのか!」

 

「なら、強くなればいい!」

 

「そうだ! 強くなればいい!!」

 

 

それがサキの心の中に宿った思い。

 

 

「甘さを捨て! 勝利を目指せばいい! 殺して! 消して! それでいい!!」

 

「本当にそう思うのか?」

 

「戦いを止めるなんて不可能だッ! 私はもう、傷つきたくないんだよ!」

 

「………」

 

 

頷く手塚。どうやら彼もサキの言っている事がよく分かるらしい。

 

 

「確かに、綺麗事だな。俺だってこれが難しい道であると言う事は重々承知だ」

 

 

ましてや手塚とて、完璧な協力は目指していない。

降りかかる火の粉は払う、佐倉杏子や浅倉威の様なプレイヤーは最悪命を奪う事になるかもしれない。

 

 

「だがそれでも、他者の命を玩具にするこのゲームに"乗る"事はない」

 

「ク……ッ!」

 

「殺意と覚悟を混ぜるな。それに、お前を慕ってくれる仲間はいるじゃないか」

 

 

手塚はそこで、冷たい眼に変わる。

一つの警告をサキに行った。

 

 

「気をつけろ浅海、人は簡単に闇に堕ちるぞ」

 

「………」

 

 

たとえ大切な家族がいようとも。大切な親友がいようとも。

そして大切な夢があろうとも。人はラインを超えれば、悪意に心を食われる。

それはサキも同じだ。彼女の心は今、不安定な状況にある。

このゲームは心を壊す事も目的としているのだろう。

彼女らはふとした瞬間に闇に染まる可能性を秘めているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって、信じたいさ……」

 

 

そのまま手塚と別れたサキは、帰路、その気配を察知する。

それは憤怒。カゴの中で足を踏み鳴らし、叶わぬもの達に憤り続ける鳥かごの魔女・『Roberta(ロベルタ)

 

魔女結界の中で、サキは跳んだ。

精神が不安定ならば、ソウルジェムが濁るスピードは速くなる。

エルザマリアのグリーフシードは既に使い切り、ストックも無い。

なるべくなら多くのグリーフシードを今のうちに集めておきたいと思うのが普通だろう。

 

 

「……ッ」

 

 

だが例えば、グリーフシードを全て独り占めできたのなら、それだけ生き残る確立は高くなる。

そういう事だ。サキが言いたいのは。

優しいのは結構だが、穢れを何とかできずに魔女になるのはマヌケすぎる。

 

 

「ハァアア!!」

 

 

電撃が迸る。

なんだか世界がスローになってた。

 

 

(まどか達が裏切る可能性だってある)

 

 

そこでマミの顔が浮かんだ。

そう言えば、ゆま達を頼むと言われたか。

 

 

「親友か」

 

 

巴マミはサキにとって、どういう存在だったんだろう?

サキは複雑に絡む感情を押さえ込む様に、胸を掴んだ。

感じるのは心臓の鼓動だ。それは生きているという証であり、同時にソレは魔法で無意識に動かしているだけだともいえる。

 

 

(マミは死んだ)

 

 

何も知らずに。

それは羨ましい事だったのかもしれない。被害者のまま死ねたのだから。

サキは魔女を見る。あれも結局、元々は知らない誰か。

 

 

(もしマミが生きていたら、錯乱して自分たちを襲う事もあったのだろうか?)

 

 

それとも簡単に自分たちを裏切っていたのだろうか?

もしくは、協力の道を示したのか?

 

 

「人は簡単に闇に堕ちるか……」

 

 

何故か分かるか? 手塚さん。

サキは小さく呟く。

 

 

「それはな――」

 

 

魔女の周りには、使い魔である『ゴッツ』達が無数に浮遊している。

ゴッツは、筋肉質な人間の身体に、鳥の頭と羽がコラージュされている。

彼らは魔女を守る使い魔の筈だが、サキを見てもノーリアクションだった。

どうやらこういった使い魔も存在するらしい。

 

 

「それはな――ッッ!!」

 

 

ロベルタはサキを近づけまいと、鳥かごを空中から落としてくるが、サキの素早い動きに対処する事はできなかった。

そのうちにサキは鞭を振り回して次々にゴッツを破壊、狙いをロベルタ一点に絞る。

 

 

「闇に堕ちた方が、楽だからだよッ!」

 

 

跳躍するサキ、ロベルタが入っている鳥かごの真上に立った。

そして手を空にかざし、自分に向かって巨大な雷を落とす。

悲鳴を上げながら悶えるロベルタ、サキはそれを無視して雷の出力を上げていく。

元魔法少女? どうでもよかった。

 

 

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

「………」

 

 

ロベルタに限界がきたのか、耳が引き裂かれそうな程の断末魔をあげて爆発する。

解除される魔女結界と、落ちるグリーフシード。

サキはそれを素早く拾い上げると、踵を返した。

 

 

「ねえ、待ってよ」

 

「………」

 

 

そこで、佐倉杏子と視線が合う。

 

 

「アンタ確かホールにいたよね。名前は――」

 

「浅海サキだ」

 

「おおう、アタシは佐倉杏子。ラッキー!」

 

 

杏子は早速、槍を構えて見せる。

魔女の気配を感じて来て見れば、こんな嬉しいサプライズがあるとは思ってなかった。

一方で、サキは冷静に目を細める。

 

 

「佐倉杏子、お前はさやかの事を――、協力派の事をどう思う?」

 

「ハハハッ! おいおい、だからしつけーって、マジで」

 

 

決まっている、答えは一つだと杏子は言った。

 

 

「クソ馬鹿だよ! 協力派なんて反吐が出る」

 

「………そうか。分かったよ」

 

「?」

 

「イル・フラース」

 

 

落雷がサキに落ちた。

帯電しながら、クラウチングスタートの構えを取る。

 

 

「お前を殺す」

 

 

一瞬だった。

サキが杏子に拳を直撃させたのは。

そして杏子がその拳を掌で受け止めたのは。

 

 

「なにッ!」

 

「ウグゥァッ! あァ、痛ぇなクソ!!」

 

 

サキの軌道は速いが、直線だった。だから受け止められるのは仕方ない。

だが問題はなかった。このまま電力を上げ、杏子を消し炭にすればいい。

サキが魔力を込める――、その時だ。

 

 

「!!」

 

 

激しいスパーク。

サキの全身から血が吹き出て、そこから漏電していく。

 

 

「な――、にィッ!?」

 

 

間違いない、リジェクションである。

拒絶反応。つまりそれはイルフラースが失敗したという事だ。

 

 

「何故――ッ、そんな……!!」

 

 

サキは大きく動揺していた。

覚悟を固めたはずなのに、まだ魔力が安定しないのか。

必死に暴走を抑えているのに。まだ、まだ、まだ……。

 

 

「興ざめだね」

 

 

杏子は鼻を鳴らす。

帯電したままフラフラと後退していくサキ。

髪が伸びていき、呼吸も荒くなる。

 

 

「アンタさぁ、まだ同じ眼をしてる」

 

「何ッ!?」

 

 

サキのイルフラースは未完成ゆえの欠陥品。

サキの想いに左右される魔法なのだ。だから止められた、だから倒せなかった。

全てはサキの半端な覚悟故に。

 

 

「殺す気がないのに戦いやがってさあッ!」

 

「ガッ!!」

 

 

杏子は蹴りでサキの腹部を抉ると、両手に構えた槍でクロス状にサキを切りつける。

痛みと衝撃に動きを止めるサキ。

その頬に杏子の回し蹴りが直撃する。

 

 

「ッッ!!」

 

 

殺す気が無い?

違う、サキは確かに杏子を殺す気で――!

 

 

『サキお姉ちゃん!』

 

 

その時、サキの眼に自分を呼ぶ仲間達が見えた。

 

 

『サキ……』

 

 

そしてマミが。

 

 

(ああ、そうか……)

 

 

サキは吹き飛びながら少し微笑む。

結局自分は何がしたいんだ? どうしたいんだ?

自分の事なのに全く分からない、分かったつもりだったのに。

 

 

「じゃあな」

 

 

槍が眼前に見える。

サキは覚悟を決めた。

 

 

「ッ! おっと!!」

 

「………ッ?」

 

 

だが、何かが地面に刺さる音がした。

後ろへ跳ぶ杏子、どうしたというのか? サキはすぐに状況を確認する。

それは十字架だ。黒く細長い十字架が、サキと杏子を隔てる様に地面に刺さっていた。

 

そして十字架の上には魔法少女が立っていた。

黒いマント、大きな帽子。間違いない、サキは思わず名前を叫んでしまう。

 

 

「かずみ!!」

 

 

かずみは、サキの方に少しだけ顔を向ける。

しかしすぐに無言のまま杏子の方へと視線を戻した。

 

対して杏子は舌打ちだ。

十字架は杏子にとって非常に腹の立つアイテムだった。

見ているだけで吐き気がする、胸糞が悪い。みるみる殺気を膨れあがり、鬼の様な形相に変わっていった。

 

 

「アンタ、ソイツの仲間か? ムカつくから先に――」

 

「………」

 

「潰す!」

 

 

まるで雄牛の様に荒々しく襲い掛かってくる杏子。

かずみはそれを確認すると、身体を翻してマントを振るう。

 

杏子はハッと表情を変えた。

マントはかずみの姿を隠しただけでなく、文字通り姿を消失させるまでに至った。

突き出された槍はマントを貫いたが、それだけだ。本体は捉えていない。

 

では、かずみはどこに消えた?

杏子は槍を引き戻しつつ、辺りを確認する。

 

 

(いない? つー事は――)

 

 

上だ! 杏子はすぐに槍を突き上げる。

予想通り、そこには十字架を構えて降って来るかずみが。

槍と十字架はすぐにぶつかり合い、激しい火花を散らした。

 

今の杏子に戦いを楽しむ気は無かった。

側転とバク転で後ろに下がると、すぐにすぐに槍を出現させ、それらをかずみへ投擲していく。

 

 

「ウラララララララァアアアアアッッ!!」

 

「………」

 

 

無数の槍が飛んで来る。

かずみは十字架をゆっくりと横へ払う。

すると次々に黒いマスケット銃が現れて、独りでに発射されていく。

 

 

「ッ、あれは……!」

 

 

放たれた弾丸は、的確に槍を撃ち落し、相殺していく。

舌打ちを放つ杏子。壁を殴りつけ、歯軋りを行う。

 

 

「ウゼェ! ウゼェな!! 十字架にマスケット銃かよ。何から何までムカつくな」

 

 

ならば直接切り殺す。

杏子は槍を、かずみは十字架を構えなおしてぶつかりあった。

右、左、上、下と、次々に槍を振るい、猛攻を繰り出す杏子。

 

かずみは、ソレにピッタリとついていき、防御を行う。

しかし、あくまでも戦闘能力は杏子が上だったか、ふとした瞬間に十字架が弾かれる。

 

バランスを崩したかずみ。

杏子はニヤリと笑って、渾身のストレートをかずみの顔面に向けて繰り出した。

 

 

「カピターノ・ポテンザ!」

 

「なッ!」

 

 

全身の力を込めて殴ったつもりだったが、まるで鉄を殴ったような感覚に杏子は驚きの声をあげる。

いや現に鉄だった。かずみの身体が文字通り、魔力を纏った『鉄』に変わっていたのだ。

鋼の防御力は、逆に杏子の手にダメージを与え、怯ませる。

 

 

「グぉおぉ……ッ!」

 

 

それだけでは無かった。

かずみが振るった十字架が分離し、中からはジャラジャラと鎖が。

つまり杏子の多節棍と同じ構造だったのだ。

かずみは十字架で杏子を縛り上げると、思い切り振り回す。

平衡感覚が狂わされ、杏子は思わず叫び声を上げた。

 

 

「ウッ! うおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

自分が頻繁に使う手を体感する。そのまま杏子は投げられて宙を舞った。

空中では身動きが取れない。かずみは杏子へ十字架を向け、先端に光を集中させる。

 

 

「リーミティ・エステールニ!」

 

「ハハハッ! 甘いんだよ!!」『ユニオン』『スチールベント』

 

「えッ?」

 

 

かずみの手にあった十字架が一瞬で消滅し、同時に杏子の手に十字架が握られる。

スチールベント。パートナーである王蛇のカードだが、その効果は相手の所持している武器を『盗む』という事だった。

 

かずみの十字架は、既に必殺技が発動している。

杏子は魔法発動のタイミングを読んだのだ。だからこそ、巨大なレーザは問題なく発射され、かずみとサキに向かって飛んでいく。

 

 

「!!」

 

 

光が溢れる。

着地する杏子。光が晴れた時、人の影は存在していなかった。

 

 

「死んだか?」

 

 

 

死亡を宣言するアナウンスは、【魔法少女とパートナー両名が死んだ時にのみ参加者に知らされる】。

故に、なんとも言えないのだ。

杏子は少し不服そうにしながらも、仕方なく場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「たすかったよ……、かずみ」

 

「うん」

 

 

サキ達は無事に逃げ延びていた。

かずみは光に当たる瞬間、マントでサキと自分を包んで、逃走魔法を発動させた。

つまりワープだ。

そのまま、近くのビルの屋上にやってきた。

 

 

「しかしッ、どうして姿を消していたんだ? 心配したんだぞ!」

 

「ごめんねサキ」

 

 

寂しそうな表情のかずみ。

サキから目を反らすと、もう一度同じ事を呟く。

 

 

「ごめんね……」

 

「―――ッ!」

 

 

その時サキは気づいた。

かずみの瞳から一筋、涙が零れたのを。

 

 

 

 

 

 

 

「れ、れれれ蓮ッ!? 本当にお前なのか!?」

 

「馬鹿かお前。見れば分かるだろ」

 

「ば、馬鹿って! お前なぁ!!」

 

 

興奮して仕方ない真司と対称的に、秋山蓮は随分と落ち着いた様子だった。

ゲームが始まり姿を消していた蓮が、さも当たり前の様にアトリに戻ってきていたのだ。

 

真司は蓮が何かよからぬ事に巻き込まれたのではないかとヒヤヒヤしていたが、いつもどおり蓮を見て、力が抜けてしまった。

 

 

「何も言わずにいなくなるなんて心配するに決まってるだろ!? 何度も携帯に連絡したけど繋がらないし!」

 

「別に……、最後に恵里の顔を見に行ってただけだ。病院では電源を切っている」

 

「俺も行ったけど、お前いなかったじゃねーか!!」

 

「たまたまだ」

 

 

受け流すように蓮は言う。

真司があれだけ探したのに、たった一日で何気なく戻ってくると言う奇妙で間抜けな結末だった。

 

まあ、確かに蓮の言うことは尤な事だ。

ゲームがいつ終わるのかは誰にも分からない。

体調の悪い恵里とそれだけ離れるのは、恋人の蓮にとって何よりも苦しい事だろう。

それは真司も理解できる。

 

 

「な、ならいいんだけどさ。かずみちゃんは?」

 

「勝手に着いてきたんだ。アイツももう戻ってる」

 

「そ、そっか」

 

 

真司は大きく息を吐くと、崩れるように椅子へ座り込んだ。

 

 

「でも、本当に何も無くて良かったよ……。良かった――っ」

 

「………」

 

 

真司は少し涙を浮かべて、安堵した様に頷いている。

とにかく蓮とかずみが戻ってきた。それは喜ばしい事だ。

真司は早速、それを皆に伝える事に。

メールでまどかに連絡を取り、真司はその後、学校に走った。

 

 

「――と言うわけなんだよ」

 

「あのさ、当たり前に進入してくるの止めろっつーの」

 

 

見滝原中学校の保健室。

そこで真司と美穂は蓮の事を話題に上げる。

カーテンで隠したベッドの上に真司は座っているが、もしもこんな状況を見られたら間違いなく美穂は終わりである。

 

 

「わかってるよ、すぐ帰るからさ!」

 

「はあ……」

 

「ところで、お前、デッキの方はどうなんだよ」

 

「……無理。あれから何回もやってみたけど、そもそも私、戦う理由とかないし」

 

 

どれだけ想いを込めてもデッキが光り輝く事は無い。

自分には何が足りないと言うのか、それが分からなくて、美穂はイライラしていた。

 

 

「あれ? って言うかさ」

 

「なによ」

 

「お前、一人なのか?」

 

 

美穂は保健室に一人だった。

そもそも美穂は研修中だ。にも関わらず、上司の気配がない。

 

 

「もともとの保健室の先生は?」

 

「……死んだ」

 

「え!?」

 

 

絶句する真司。

聞けば、自宅で手首を切っていたらしい。

つまり、自殺である。

 

 

「あれは、たぶん、魔女だ」

 

 

そしておかしいのは、翌日から美穂が保健室を任されたという事だ。

まるで空白になった存在に新しい存在を埋め込むかの様な流れ。

美穂は大きな恐怖をそこに感じた。

誰もそれをおかしいと思わない、誰も自分の存在に違和感を抱かない。

 

 

「昨日の事なんだけどさ」

 

「昨日って……、お前! 何でそれ言わなかったんだよッ!!」

 

 

真司にはどうしても蓮や美穂が、淡々としている様に見えた。

思わず、美穂に掴みかからんとばかりの勢いで迫る。

真司の気迫に一瞬怯む美穂、しかし彼女はすぐに険しい表情に変わってしまう。

 

 

「言っても、どうにもならないでしょ!」

 

「お前が危険に巻き込まれるかもしれないだろ」

 

 

そこで美穂の雰囲気が変わる。

真司の気迫に劣らぬ睨みを向けて、声を大きく荒げていた。

 

 

「じゃあお前が助けてくれんのかよ!」

 

「ッッ!」

 

「あ……、ごめん」

 

 

椅子に座り込む美穂。

そうだ、これは結局八つ当たりでしかない。

変身できないイライラや、狙われているかもしれないという恐怖。

 

あとは、例えば"トリガー"だとか。

 

 

『パートナーの娘を、殺しちゃえば?』

 

「……っ」

 

 

別にまどかに嫉妬してるわけじゃない。

いや、本当は少しだけ面白くないところはあるのかもしれないが、別にまどかが憎いわけじゃない。

だが変身できない理由の一部である事は確かなのだ。

 

要するに、騎士は『力』だ。

言い換えれば凶器でもある。化け物を簡単に倒せる力で、参戦派は暴れまわり、邪魔なものを排除する。

言い換えれば、人を簡単に殺せる。

 

では、美穂は?

それが全てだった。

美穂は悪い人間ではない。誰に聞いてもそう言うだろう。

だが完全な善人ではない。美穂が一番分かってる。

 

そんな状態で力を手にしてみればどうだ?

邪魔なものがいたとして、我慢できるか?

特に嫌いじゃなくても、過剰に憎悪してしまうのではないか?

 

 

例え話だが、宝くじで3億当たった人間が、自給750円のアルバイトを同じモチベーションで働くことができるのか?

少なくとも、美穂には絶対に無理だった。

 

殺意は無作為に理由を立てて肯定化を計っていく。

例えばそれは姉の事。中学生の時に亡くなった最愛の姉――、フールズゲームに勝つ事ができれば蘇らせる事だってできる。

 

 

・どんな願いも叶う。

 

・人間を遥かに超越した力を手に入れることができる。

 

 

この二つが美穂を縛る鎖となる。

ましてやそこに『死』が張り付けば、存在はそれだけ膨れ上がるものだ。

 

 

「勝たなきゃいけないんだ、どんな汚い手を使ってでも。そういうゲームなんだろ?」

 

「ち、違う! 俺はッ、その、お前と蓮を巻き込みたくないんだよ!」

 

「わ、分かってるよ」

 

 

美穂は悲しげに笑うと首を振る。

 

 

「分かってるから、辛いんだよ」

 

「――っ」

 

「ごめん真司。帰って。帰ってよ。アンタといると、おかしくなりそうなんだ」

 

 

涙を浮かべる美穂。

真司は曖昧な言葉をかけるだけで、美穂を笑顔にする事はできなかった。

仕方なく帰ることに。残された美穂は頭をかきむしって唸る。

 

 

「ああ、くそッ!」

 

 

何をしていいのか。チラつくのは真司の顔や姉の顔だった。

 

 

(願いを叶えるっていったいどういう事なんだろう?)

 

 

そして自分の本当の願いも分からない。

 

 

「あーもうっ! 分かんないよお姉ちゃん!」

 

 

いったい自分はどうしたいんだろう? 何をしたいんだろう?

それが分からずに美穂は唸るのだった。

 

 

「あ」「あ」

 

 

帰り道、真司はまどかと顔を合わせた。

二人はお互いの近況を話し合うことに。

 

 

「――ってな事があってさ。なんか俺、分かんなくて」

 

「うん……、わたしも」

 

 

ボチャン! と、真司が投げた石が川に沈んでいく。

肩を並べて川原に座る二人、双方の表情は未だに暗い。

 

強くなれれば皆を助けられると思っていた。

力があれば皆を守れると思っていた。

しかし現実はコレである。その突きつけられた現状に、二人は深い悲しみを覚えていたのだ。

 

 

「俺、蓮や美穂を巻き込みたくないって思ってたけど……」

 

 

どんな理由を並べたとしても、蓮と美穂はデッキを所持してしまった。

それはもう逃げられないと言う事だ。

だとすれば二人はどんな選択を取るのだろうか? 真司はそれを考えたくなかったのかもしれない。

 

 

「でもアイツら……」

 

 

蓮の目には何か決意の様な物が感じられたし。

美穂から拒絶されるのは何だか心臓に直接ダメージがくる様な気分だった。

 

 

「わたしも。学校で辛くて……」

 

 

さやかの死を受け入れられない仁美は、すっかり元気をなくしてしまった。

見ていて胸が締め付けられる。仁美はさやかの死の理由さえ分からない。

 

事件なのか、事故なのか、考えたくないが自殺と言う可能性もあると悩んでいた。

まどかは、さやかの死の詳細を知っている。

しかし話す事はできない、話せば仁美も巻き込まれる可能性があるからだ。

 

 

「ううん、話すべきなのかな? どっちなんだろ?」

 

 

まどかは俯く。

 

 

「上条くんも、本当に……」

 

 

さやかが好きだと気づいたらしい。

しかし想いを伝えようとした直後に、さやかは死んだ。

それは上条の心に、かなり深い傷を残しただろう。

学校を休む様になってしまい、話によればヴァイオリンにも集中できなくなったとか。

 

さやかが魔法少女になった理由が、さやかの死によって邪魔されるとは、何とも悲しい話である。

 

 

「わたし、さやかちゃんを助けられなかったから。何も言えなくて……」

 

 

言う資格がない。

仁美にも、上条にも、さやかが死ぬのを見ていましたと。

 

 

「そんな事ないよ……!」

 

 

真司だって間に合わなかった後悔がある。

しかし言い方は悪いものの、どれだけ自分達が悲しもうが、さやかが死んだ事に変わりはない。

それを悩み、自己犠牲に走るのは違うと真司は思っていた。。

 

 

「わたし、魔法少女になって、みんなを助けられるって思ってた――!」

 

 

しかし、まどかにしてみればさやかは親友だ。

ましてや中学生と言う多感な時期に負う傷としては、あまりにも大きすぎる。

 

目を閉じれば未だにマミの最期が、さやかの最期が目に浮かぶ。

まどかの手の甲にポタリと落ちる雫。

泣いてどうにかなる訳じゃないと知っているのにそれでも涙が溢れてきた。

皆を幸せにしたい、皆で幸せになりたい。そう思っていたのに。

 

 

「まどかちゃん……」

 

「今でもこのゲームが嘘なんじゃないかって思う時があって……」

 

 

だけどソレは現実で。

 

 

「………」

 

 

真司は拳を握り締める。

確かに騎士や魔法少女が遊びで勤められるものではないというのは分かる。

魔女を倒す事は命がけ、それはマミも言っていた事だ。

 

それでも彼女達は自分の為に、他人の為に戦ってきた。

魔法少女の中には人知れず魔女との戦いで命を落とした物もいるだろう。

それは魔法少女として、騎士として歩む決めた者は覚悟していた筈。

 

しかし誰がこのゲームを予想していた?

魔法少女同士で潰しあい、騎士同士で殺しあうこのふざけたゲームを誰が。

 

 

(いる筈がない。誰も殺しあうために願いを求めた訳じゃない……!)

 

 

真司はもう一度、石を川面に投げた。

 

 

「大丈夫だよ」

 

「え?」

 

 

真司は未来を見据えて呟く。

人の命を弄ぶこのゲーム、必ず否定してみせると。

自分にできるかと聞かれれば難しい話なのかもしれない、しかし同じ様な考えを持った手塚がいる。仲間がいる。

 

多くの悲しみや、戦いがあろうとも。

まどかがココで流した涙を無駄にしてはいけない。

マミ達の命を無駄にしてはいけない。それが生き残った自分たちの責任だから。

 

 

「ゆまちゃんや、サキちゃん、ほむらちゃんだっているじゃないか」

 

 

それを言うと、まどかは少し元気を取り戻したのか、笑ってくれた。

それにと真司は付け加える、今はかずみも戻ってきた。

どうやらまだ学校には行っていない様だが、かずみだってまどかの友達なんだ。

 

 

「そういえば、真司さんと蓮さん達って、いつ知り合ったんですか?」

 

「あー、えっと、高校かな」

 

「へぇ、知りたいです! その時のこと!」

 

「え? あぁ、アハハ、別に面白い話じゃないよ」

 

 

いろいろ思い出したのか、真司は苦笑交じりに頭をかく。

 

 

「気になります! 教えて教えて!」

 

 

まどかの様子に気圧されたか、真司はまた笑う。

どうやら真司もまどかには甘いようだ。知りたいというので、教えてあげることに。

 

 

「………」

 

 

しかし真司は、そこで少しムッとした表情に変わる。

いろいろ、長い時間や、思い出があるらしい。

 

 

「最初はさ、すっげー仲悪かったんだぜ俺達」

 

「ええっ! そうなんですか!?」

 

「ああ、あれは――」

 

 

初めて会った入学式の日は簡単に思い出せる。同時にそれで腹が立つ。

真司はBOKUジャーナル編集長である大久保とは、中学校からの付き合いだった。

高校も大久保に誘われて同じ学校に行った。

 

とはいえ知り合いと言っても、大久保が近所に住んでいて仲良くなっただけで、年齢は一回りくらい離れている。

周りには知らない生徒達だらけで、真司は少し怯んだのを覚えている。

 

 

「どけ」

 

「は?」

 

 

高校に入って一番最初の会話がコレである。

真司は呆気に取られて背後を振り返る。

するとそこにはダルそうな雰囲気を全開にした秋山蓮が立っていたのだ。

 

後で聞いた話だが、蓮も特に知り合いはいなかったらしい。

にも関わらずこのふてぶてしい態度である。

扉の前に立っていた真司も真司だが、それにしたってだ。

 

 

「聞こえなかったのか、どけ」

 

「あ、ああ」

 

 

真司は言われた通り、扉から体をずらす。

蓮は鼻を鳴らすと、真司に目もくれず教室へ入ろうとする。

 

 

「いや、ちょっと待て! いくらなんでも言い方があるだろ!」

 

「………」

 

 

蓮を阻むため、真司は再び扉の前に立つ。

蓮はダルそうに真司を睨みつけた。

 

 

「なんだ?」

 

「なんだじゃない! むしろお前の方が何なんだよ!」

 

「聞こえなかったのか、どけと言ったんだ」

 

「いやッ、聞こえてるに決まってるだろ! 感じ悪いなお前!」

 

「フン、お前とつまらん会話を続けるつもりは――」

 

 

真司を避けるため、蓮は右から回り込む。しかし真司もまた右に。

ため息をついて蓮は左から回り込む。しかし真司もまた左へ。

 

 

「何だ! お前、何がしたい?」

 

「あ、謝れこのヤローっ!」

 

「下らん」

 

その一言で蓮は真司を突破しようとする。

しかしそれはそれで真司に火がついてしまったのか、意地でも避けようとはしなかった。

 

 

「ッ!」

 

 

蓮も蓮で譲れなくなったのか、二人はしばらく反復横跳びの様な動きを繰り返した。

蓮がどれだけ素早く動こうとも、真司はピッタリとついてくる。

蓮がフェイントを入れようとも、真司は適応して譲らない。

そうやってしばらく小競り合いを続けていると――

 

 

「ああああ! もうッ、お前ら二人とも邪魔なんだよ!!」

 

「「!」」

 

 

加わる怒号。

蓮の背後に一人の女生徒が見えた。

茶色の髪、腰に手を当てて偉そうに真司たちを見るのは霧島美穂。

これまた後から聞いた話だが、彼女もまた知り合いはいなかったそうな。

 

 

「つーかさ、さっさとど・け・よ! 教室に入れないでしょ」

 

「チッ、コイツに言え。俺は関係ない」

 

「なっ! 元はと言えばお前が悪いんだろ!!」

 

 

自分は悪くないですよオーラの蓮と、ますます興奮する真司。

それを見て美穂は舌打ち混じりに首を振る。

 

 

「どっちでもいいわ! 私にとっては両方邪魔なの。はけろはけろ」

 

「納得いかんな。第一、そんなに入りたいなら向こうの入り口から入ればいいだろ」

 

 

だいたいどこの教室も、出入り口は二つあるものである。

他のクラスメイトは真司たちを見て、汗を浮かべながらもう一つの入り口を使用している。

 

確実に関わったら面倒なやつ等だと認識されていたのだろう。

まあこの時点で三人は興奮している為、そんな事を気にする余裕など無かったが。

 

 

「そ、そうだそうだ! 別にあっちでもいいじゃんか!」

 

「ハァ!? 私はこっちから入るって決めたんだよ。ていうか何で私がアンタ等の為にわざわざアッチまで歩かないと駄目なの? ざけんなっての!」

 

 

尤もと言えば尤もだが、今の真司と蓮に素直に伝わる訳もなく。

結果、火に油を注ぐだけだった。

 

 

「無駄な時間を過ごすよりマシだがな。頭悪いのかお前?」

 

 

うんうんと頷く真司。だがすぐに動きを止めた。

 

 

「いや! それならお前もアッチから入ればよかっただろ!」

 

「ああああああメンドクセー!」

 

 

美穂は頭をかきむしる。

 

 

「どうしてこう男って奴は簡単な事でイライラするのやら!」

 

 

とはいえ美穂に妥協の文字は無い。

ここで真司達に従うのは非常に屈辱だったからだ。

 

 

「つうかまずアンタがどかないと話が進まないだろ。さっさとどけよ!」

 

「まったく、ガキばっかりだな」

 

 

と、蓮。

 

 

「「お前に言われたくねぇよッッ!!」」

 

 

と、真司と美穂。

 

 

「あの――、キミたち、もうどうでもいいから教室入ってもらっていいかな」

 

「「「ハァ!?」」」

 

 

三人が我に返ると、冷や汗を流してコチラを見ている先生と、同じく既に全員着席しているクラスメイト達が見えた、

 

時計を見れば、既に朝礼の時間が大幅に過ぎている。

どうやら数十分もくだらない反復横とびを続けていた様だ。

 

 

「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「すいませんでした」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんなんだよアイツ等は」

 

 

真司は小さく呟きながら、席を決めるくじを引いた。

今日から希望に満ちた高校生活が始まると思っていたのに、なんだかおかしなヤツ等がいるクラスになってしまった。

 

ムカつく男に、変な女。

まあしかしもう関わらなければいい話だ。

 

 

(できればアイツ等と離れた席でありますように!)

 

 

真司はそう思いながらくじを引いたのだが――

 

 

「………」

 

「げっ! お前が隣かよ!!」

 

 

美穂の嫌そうな表情を見ながら無言で席につく真司。

いや、まて! 真司は冷静に状況を分析してみる。

隣はまあ最悪まだマシとしても――

 

 

「うげ」

 

 

隣の美穂も気がついたのか声を漏らす。

同時に席に崩れ落ちる真司。

真司が座ったのは一番後ろの席だ。隣は美穂、だったら前は?

 

 

「………」

 

 

秋山蓮が真司の前方に座る。

こうして城戸真司、最悪の席替えは幕を閉じたのだ。

 

 

「えへへ! そうだったんだ」

 

 

話を聞いたまどかは、微笑ましいと笑った。

しかし真司の表情は複雑だ。とにかくこうやって距離が近づいてしまった真司たち。

 

当然平穏な毎日など過ごせる訳も無く。

そう、たとえば教科書を忘れた日があった。

 

 

「おい、ちょっと教科書忘れたから見せてくれよ」

 

「えー……」

 

 

自分の肩を抱き、嫌悪感を全身で表す美穂。

教科書を少しだけ移動させると、自分はむしろ真司から遠ざかっていく。

 

 

「おい! なんでそんな嫌そうなんだよ!!」

 

「なんか馬鹿が移りそうじゃん」

 

「ななななッッ!」

 

 

なんて失礼な奴だ!

真司がそう思った瞬間、前の席から吹き出す音が聞こえた。

真司も美穂も一瞬何が起こったか分からなかったが、蓮の肩が震えてるのを見て察した。

 

 

「おい! 何笑ってんだよ蓮!!」

 

「別に笑ってない、ほっとけ」

 

 

 

いつもどおりの様子であしらう蓮。

 

 

「いやいや明らかに笑ったでしょ」

 

 

美穂が食いつく。

 

 

「あーあー、素直に笑ったって言えばいいのにメンドクセー男だなおい!」

 

「かわいそうだと思ってな。馬鹿が移ると言った奴が、既に馬鹿だなんて滑稽だろ?」

 

「なッッ!! なんだとぉおおッ!?」

 

「ま、まあまあ、落ち着けよ美穂!」

 

 

身を乗り出す美穂を落ち着ける真司。

蓮は言葉を受け流すだけじゃなく、ほぼ確実に挑発のカウンターを仕掛けてくる。

ハッキリ言って美穂も真司も煽り耐性はゼロだ、ちなみにそれは蓮もだが。

とにかく何か言われれば何かを返す。そこに噛み付く、以下ループである。

 

 

「とにかくっ、くだらない事で喧嘩は止めろよ!」

 

「やれやれ、一番の馬鹿に説教されるなんてな」

 

「っていうか元々はアンタが教科書持ってくればよかった話だろうが!」

 

「なんだとぉぉぉぉ……ッッ!!」

 

「三人ともうるせぇよ! お前らマジで静かにしてくんねーかな!!」

 

 

最終的には先生に怒られて強制終了である。

しかし一回終了したくらいじゃ当然収まる訳も無く。

美穂に教科書を見せてもらう事になった真司は、席を近づけて美穂との距離を縮める訳だが。

 

 

(うぉ……! 美穂って結構いい匂いする)

 

 

しかもよく見ればかなり綺麗というか、可愛いと言うか。

 

 

(普段乱暴な言葉使いだったから気がつかなかった……)

 

「おい。今お前、私の胸見てなかったか?」

 

「……は!?」

 

「見てたろ! うっわヤラシー! 最低だわー!!」

 

「ななななな何言ってんだよ!!」

 

 

ハッキリと否定できないのが悲しいところだ。

しかし見ていないものは見ていない。真司は必死に美穂の誤解を解くことに。

そんな時、前方から聞こえる声。

 

 

「うるさい奴らだ。どうでもいいだろ、黙ってろ」

 

「ど、どうでもいいですって!?」

 

「とにかくっ! お、俺は見てないからな!!」

 

「はぁ、どうだか!?」

 

 

終わった?

いえいえ、これからですよ。

 

 

「ま、城戸に同意だな。相当な物好きくらいしかお前に興味は示さないだろ」

 

「んだとぉぉおッ?」

 

「おい蓮! 仮にも美穂は女なんだ、本当の事とは言えッ、それは失礼だぞ!」

 

「真司ぃ! 仮にもって何だよ、仮にもって! ふざけてんのか!?」

 

 

 

一分後、真司達は三人揃って教師に頭を下げる。

こんな感じで毎日一度は怒られる生活が続いたのだ。

それを聞いたまどかは、申し訳ないと思いつつも笑ってしまった。

 

 

「えへへ、ある意味仲がいい様にも思えるけど」

 

「そうなんだよ、同じ事を言ってくる奴もいたっけな」

 

 

なんだかんだで仲がいい?

いやいや、傍から見ればそう思う人もいるかもしれない。

しかし本人からしてみれば冗談がキツイものだ。

真司としては一刻も早くあの二人からサヨナラしたい所であった。

 

 

「でも、仲良くなれたんですよね?」

 

「まあ、うん。あれは漫画みたいな出来事だったよ」

 

 

いつの日だったか、放課後のことだ。

喉が渇いたからジュースでも買おうと、真司は学校近くのコンビニに寄った。

するとそこには雑誌を読んでいる蓮がいた。

 

 

「……蓮」

 

「お前か」

 

 

特に双方を気にかける事無く真司はジュース売り場へ。

蓮はそのまま雑誌の立ち読みを続ける。

しかしこいつら、磁石の特殊能力でもあるのか、数十秒後にはプリンを買いに来た美穂が来店ってなもんである。

脅威のエンカウント率である。

 

 

「う゛っ!」

 

 

美穂も気づいたが、すぐに真司達を無視してスイーツコーナーに。

店内は三人の他に、親子と店員だけ。

だがやはり三人は特に会話する事もなく。

 

そのまま真司はジュースを手に取り。

美穂はプリンを手に取り。蓮は雑誌を取り、レジへ向かおうと決めた。

その時だった。レジから大声が聞こえてきたのは。

 

 

「金を出せぇえッッ!!」

 

「「「!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

「ご、強盗!?」

 

「そう、まさかだよな」

 

 

驚くまどかを見て、当時の自分を思い出す真司。

まさかのまさかで強盗である。最初は何かの撮影かと思ったが、店員にナイフを突きつけている覆面の男を見て、考えが変わった。

 

マジだ。

真司達は同時にそれを理解して動きを止める。

 

 

「お前らも動いたらぶっ殺すからなッッ!!」

 

 

犯人の男は乱暴に言い放ち、店員から受け取った金を袋に素早く詰め込んでいく。

しかし向こうも焦っているのか、手が震えて金を取りこぼしたりと時間がかかっていた。

 

 

「!」

 

 

すると子供の泣き声が店内に響く。

親子、その女の子が恐怖で泣き出してしまったのだ。

犯人はすぐに泣き止めと叫ぶが、ますますそれで酷くなる事に。

 

焦りと不安から、犯人の苛立ちがどんどん募る。

なんと彼はナイフを構えて子供のところまで歩いていったのだ。

 

犯人は半錯乱状態だ。

かなりの確立で子供に危害が加わる可能性があった。

母親も子供を泣き止ませようと必死だが、無駄のようだった。

 

 

(どうする? どうすればいい!?)

 

 

真司は考える。既に犯人は子供の前に立っていた。

 

 

「うるせぇッ! 殺されたいのかよお前ぇッ!!」

 

 

犯人が子供の前に立つ。

金は手に入れたのだからそのまま逃げればいいものを。

このままだと泣き声を聞きつけた大人が集まると思ったのだろう。

犯人は激情に任せてナイフを振り上げる。

 

緊迫の状況だった。

戦慄が走る。母親は女の子を庇うが、それでどうにかなるとは思えなかった。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

 

 

だから、真司が走った。

 

 

「うがッッ!!」

 

 

犯人は小さく声をあげる。

というのも突如、『左右』から衝撃を感じたからだ。

衝撃の正体はタックルだ。右からの衝撃は真司。そして左からの衝撃は蓮だった。

 

二人は己の身で犯人に突進していったのだ。

興奮して周りが見えていなかった犯人は、真司達に気づく事はなかった。

そして動いたのは真司と蓮だけではない。美穂もまた走っていた。

 

美穂は犯人に攻撃をするのではなく、親子を庇うようにして立った。

犯人は真司たちが止めている。美穂はその隙に、親子を出口へ避難させたのだ。

 

 

「こ、このやろぉおおおおおおおおッッ!!」

 

「く、クソッ!!」

 

 

真司は持っていたカバンを振り回して犯人を何度も叩く。

さらに蓮は犯人が落としたナイフを拾って凶器を封じる。

 

こうすると犯人としても分が悪い。

特に反撃を行う事もなく、すぐにコンビニを飛び出して逃げていった。

 

それを呼吸を荒げながら見ている真司達。

心臓は破裂しそうな勢いで鼓動を鳴らしていた。

 

 

それから警察がやって来て、しばらく話をした後、それぞれは解散という事になった。

犯人はすぐに捕まった様で、親子も怪我はなかったようだ。

 

 

「あー、怖かった」

 

 

帰り際、真司は道路でへたり込み、空を見上げる。

 

 

「しかし、お前馬鹿か。いくらなんでも無謀すぎる」

 

「ハァ!?」

 

 

蓮が去り際に残した言葉。

 

 

「勇気と無謀は違う。覚えておくんだな」

 

「ちょっと待て待て! お前だって同じ事したじゃないか!」

 

「俺には考えがあった。お前が逆から突進してこなければもっとスムーズに事が終わったはずだ」

 

「な、なんだよソレ!!」

 

 

またいつもの言い合いに発展するかと思えば、二人の肩を美穂を叩く。

 

 

「まあまあ、無事だったからいいでしょ」

 

「まあ。そうだな」

 

 

疲労もあったか、真司は美穂の言葉に頷いた。

そこでふと思い出す光景、真司はニヤニヤしながら美穂を見る。

 

 

「でも、見直したよ」

 

「はぁ?」

 

「お前、あの娘かばってただろ」

 

「ああ、まあ……」

 

 

一歩間違えれば美穂が代わりにナイフを受けていただろう。

それでも美穂は迷いなく女の子を守りに走った。

 

 

「いい奴だったんだな、お前」

 

「はっ! 気がつくのがおっせぇよ!」

 

 

腕を組んで笑う美穂。

真司も笑みを返すと、そのまま蓮のほうへ。

 

 

「蓮も……。その、サンキューな」

 

「………」

 

「お前がいなかったら俺、犯人に負けてたかも」

 

 

フンと鼻を鳴らす蓮。

 

 

「付き合ってられん」

 

 

蓮はそう言って真司達に背を向けた。

いつもみたいに食いついてこないだけマシか?

真司と美穂がそう思った時、蓮は去り際の一言を。

 

 

「"またな"。城戸、霧島」

 

「「お!」」

 

 

そう言って蓮はスタスタと帰っていった。

真司と美穂はニヤニヤしながら互いに見合う。

 

 

「なんだよ、ツンデレかよ」

 

「じゃあアイツ明日からツンデ蓮って名前にしようか」

 

 

そう言って笑ったのは覚えている。

そんな事を真司はまどかに説明した。

 

 

「まあ次の日も同じような事しかしなかったけどさ、何か考え方が変わってさ」

 

「へぇ、じゃあその日からお友達なんですね」

 

 

まどかの言葉に頷く真司。

最初はふざけた奴らかと思ったが、なんだかんだで今の今まで付き合いがある。

あの後に、蓮の彼女である恵里とも知り合い、四人は仲良くやってきたと言う訳だった。

 

 

「………」

 

 

しかし皮肉なものだ。

戦いで仲良くなった自分達が、戦いで殺しあう事になるかもしれないなんて。

 

 

「とにかく、まどかちゃん。俺たちが絶対に皆を守ろう!」

 

「……はい!」

 

 

真司の笑みに、まどか笑みで返す。

 

 

(そうだ、俺を助けてくれたまどかちゃんの為にも負けられないんだ)

 

 

真司は胸に宿る決意を感じ、強くまどかを見つめるのだった。

一方、その蓮もまた、決意を胸に宿す。

 

 

「蓮さん……」

 

「かずみか」

 

 

立花は、何も言わずに蓮達を迎えてくれた。

アトリでは蓮が明日の準備をしている所だった。

しかしその表情は深刻。何か違う事を考えていたのだろう。

 

それを心配そうに見つめるかずみ。

原因は分かっていた。

 

 

「かずみ。俺は、決めた」

 

「………!」

 

 

蓮の言葉に、かずみは表情を暗くする。

蓮が何を言っているのか理解したようだ。

 

 

「いいの? 蓮さん――ッ」

 

「迷ったが、もう迷いぬいた。答えはもう決まっている」

 

 

悲しそうにうつむくかずみ。

それを見て、蓮は目を逸らす。

 

 

「かずみ、お前は――」

 

「ううん!」

 

「っ!」

 

 

かずみは蓮の言葉を遮って前に出る。

強い眼差しが、蓮を貫いた。

その迫力に蓮は思わず動きを止める。

 

 

「わたしも――ッ! 一緒だから!!」

 

「………」

 

 

蓮は何も言わずに、ただ頷く。

その表情は暗く、まだ若干の迷いが見えた。

 

 

 

 

 

 

その夜、サキの家

 

 

「………」

 

 

無言で扉を開けるサキ、するとパタパタと忙しい音をあげてゆまが走ってくる。

ゆまは目に涙を浮かべながらサキの体に強くしがみ付いた。

時計を見れば短い針は『2』を過ぎようとしているじゃないか。

 

 

「まだ寝てなかったのか」

 

「だってサキお姉ちゃんが帰ってこないから――」

 

 

ゆまは異変に気がついていた。

最近サキの帰りが明らかに遅いのだ。

いついつも帰ってくるのは深夜、食事は既に用意されているが、その間ずっとゆまは一人である。

 

まどかがよく家に来てくれるものの、さやかの事があってからは、彼会えていない日が続く。

 

 

「ゆま、寂しいよ……! どうしてもっと早く帰ってきてくれないの!?」

 

「すまない。君のグリーフシードを手に入れたり――、いろいろ忙しいんだ」

 

「………」

 

 

ゆまもパートナーを見つけていない身だ。

よってグリーフシードは必須となってくる。

それはゆまにも分かるのだが。

 

「サキお姉ちゃん。凄く、怖い顔してる」

 

「……気にするな」

 

 

そうは言っても声のトーンが暗い。

確実に何かがあったのだろうが、ゆまがそれを聞こうとする前にサキが口を開いた。

 

 

「もう遅い、部屋で寝よう」

 

「あ……! さ、サキお姉ちゃん」

 

「ん?」

 

 

ゆまは俯き、小さな声で縋る様にサキの手を握った。

小さな手だ。サキは複雑そうな表情を浮かべる。

 

 

「一緒に……、寝て。寂しいから」

 

「もう子供じゃないんだ。一人でいいだろう?」

 

 

ゆまの頭を撫でて微笑むサキ。

しかし明らかな作り笑顔が、ゆまの不安を掻き立てた。

確かに一人で眠れるのだが、ゲームの最中ということもあってか、誰かと一緒にいたいという思いがあるのだろう。

 

 

「駄目だ。一人で寝るんだ」

 

 

悪い意味じゃない。

サキはいつ死ぬか分からない。ゆまには一人で生きていく強さを身に着けてほしかった。

 

「でもっ、マミお姉ちゃんは一緒に寝てくれた……、よ?」

 

「………」

 

 

その時、サキの目が変わる。

全てはタイミングが悪かっただけだ。

いろいろ溜め込んでいたものが爆発してしまった。

サキはゆまの手を振り払うと、声を荒げる。

 

 

「私はマミじゃないんだッ!」

 

「っ!!」

 

 

そんなつもりで言ったんじゃない。ゆまはソレを伝えようとした。

しかしそれよりも早くサキは言葉を続ける。

 

もちろんサキだってゆまの気持ちを分かっていた。

しかし溢れる感情を抑えるために、ゆまを犠牲にするしかなかったのだ。

 

 

「マミはもう死んだんだ! もういないんだよッッ!!」

 

「っっ!」

 

「さやかも死んだ! 次は誰だ? キミか私か……ッッ?」

 

 

サキの怒号にへたり込むゆま。

それを見てやっとサキは我に返る事ができた。

すぐにゆまを強く、強く抱きしめる。

 

 

「す、すまない……! ちょっと苛立ってたんだ」

 

 

サキはハンカチでゆまの涙をぬぐい、頭を優しく撫でる。

その想いが伝わったのか、ゆまは泣きながらではあったがその手をサキの背中に回した。

 

 

「ゆまは……、マミお姉ちゃんも、サキお姉ちゃんも、さやかお姉ちゃんも大好きだよ」

 

「ああ。ありがとう――っ!」

 

「でも死んじゃった。それに、さやかお姉ちゃんには酷い事しちゃった」

 

 

杏子に襲われた時に逃げてしまった事、そして助けられなかった事だろう。

サキは気にするなと頭を撫でる。

 

 

「ゆま、キミが悪いんじゃない、全てはゲームに乗ったプレイヤーが悪いんだ」

 

 

サキはそれを必死に伝える、

そう。全てはゲームに乗る連中が――ッ!!

 

 

「でも、みんな死んじゃうッ!」

 

「大丈夫……、大丈夫だよ」

 

 

複雑な表情を浮かべるサキ、大丈夫? 何が? 誰が?

 

 

「今日は……いや、今日から一緒に寝よう」

 

「う、うん!」

 

 

二人はそのままサキの部屋に。

サキの言葉が嬉しかったのか、ゆまはベッドに寝転んだ直後眠ってしまった。

どれだけ絶望的な状況が続こうとも寝顔は普通の子供と変わらない、サキはゆまの寝顔を見ながらぼんやりとしている。

 

帰りが遅かったのは、本当はゆまより前に眠りたくなかったからだ。

もし自分が寝ている時にゆまがハンマーで自分を殴ればどうなる? 変身していない状況ならばすぐに殺されてしまうだろう。

 

 

「ゆま、すまない……」

 

 

そんな事を考えてしまう自分に嫌気がさす。

サキはゆまを疑ってしまった事と、ゆまへの申し訳なさで板ばさみになる。

 

 

「すまない……ッ!」

 

 

だからサキはゆまを抱きしめる。

サキは涙を流しながらゆまを抱きしめ続けた。

こんな小さな娘を疑わなければならない自分をどうか許してほしいと。

そして願わくばゆまを戦いから遠ざけたいと思った。

 

 

(こんな小さな子にはF・Gは精神的に厳しすぎる)

 

 

だからこそ、ゆまをゲームに巻き込むのは危険だ。

そう、思っていたのだが――

 

 

翌日、学校を終えたサキはまっすぐに自宅に戻った。

しかしそこにゆまの姿がない。

最初は遊びに行ったのかと思っていたが、夜になっても帰ってこないため、辺りを探す事に。

 

それでも見つからない為、サキはまどか達に事情を伝えて一緒に探してもらう事にした。ゆまの行きそうな場所を手当たりしだいに調べていたのだが、結局見つかる事はなかった。

 

では彼女はいったいどこへ消えたのか?

答えはジュゥべえを通して知る事になる。

ゆまを探すのを手伝っていた真司は、その途中で鼻歌を歌っているジュゥべえを見つけたのだ。

 

ジュゥべえは真司を見つけるとニヤリと笑う。

まるで真司がココに来ることを理解していた様に。

 

 

『おう、なんか大変みたいだな』

 

「ジュゥべえ! ゆまちゃんを探してるんだ! 何か知らないか!?」

 

『おお、知ってるぜ。だからお前らの近くに来てやったのよ。オイラは優しいからさぁ!』

 

「本当か!? じゃあ早く教えてくれ!」

 

 

それを聞いてジュゥべえは、あっさりとゆまの居場所を伝える。

 

 

『どこにもいねぇ』

 

「……は?」

 

『だからよ、もういねぇんだよ』

 

 

――この世には。

 

 

「お前ッ、何を言って……」

 

『千歳ゆまは"死"んだ、殺されたんだよ!』

 

「はぁッッ!?」

 

 

真司は頭が真っ白になる。

死んだ? ゆまが?

それはあまりにも一瞬、前触れもない死。

だって少し前までは生きてたのに。

 

 

「ちょっと待てよ! 何だよ死んだって! でたらめ言うなよッッ!!」

 

『だったら良かったのになぁ』

 

 

じゃあいつ? 誰に殺された!?

真司はジュゥべえに掴み掛かるが、軽快な身のこなしでかわされた。

 

 

『流石にそこまでは言えないな』

 

 

ジュゥべえは笑う。

しかし千歳ゆまが死んだ事は紛れもない真実、疑いようのない現実だと付け加えて。

 

 

「そんな――……」

 

 

崩れ落ちる真司、ゆまの笑顔が音を立てて崩れる。

こみ上げる吐き気を何とか抑えて、真司はジュゥべえに視線を合わせる。

 

 

『ハハハ! まあ気持ちは分かるぜ。だがよ、これがF・Gだ』

 

 

たとえ、ゆまが子供だったとして、敵は容赦なく殺す。

戦いを楽しむ為に。もしくは願いを叶える為に仕方なく。

ジュゥべえは言う、参加者はある程度『バランス』を考えて構成されている。

 

 

『お前みたいなヤツもいれば。人を殺すことを躊躇わない連中も多いのよ』

 

 

それが騎士になると言う事だ。

それがゲームの参加者であると言う事だ。

 

 

『まあアレだ、テメェもせいぜい気をつけろ。じゃあな、チャオ!』

 

 

消えていくジュゥべえ。

 

 

「………」

 

 

ゆまは子供だった。

虐待されてて、それが終わって、やっと幸せになれると思ったら。

死んだ。

 

 

「……嘘ッ! 嘘だッッ!!」

 

 

こんな。

 

 

「こんな簡単に人は死ぬのか!?」

 

 

真司は悲しみよりも、深い喪失感に心を喰われる。

真司はその場にへたり込んで動けなくなった。ずっと、その場に崩れていた。

自分に向って笑いかけてくれた千歳ゆまの幻影を抱きながら。

 

 

 

 

【千歳ゆま・死亡】【残り23人・12組】

 

 

 

 

 






百合絵さんの苗字は適当です。


あと、たぶん前の話まで『恵里』のこと、『恵理』って書いてるんで修正しておきます。
誤字だらけで、ごめんやで(´・ω・)
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