仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
翌日の事だった。
「うそ。ゆまちゃんが……」
「―――」
真司も迷ったが、これを伝えなければどうしようもなかった。
サキの家にいるのはサキ、まどか、ほむら、手塚、美穂、真司だ。
かずみと蓮にも連絡を取ったが、繋がらなかった。
一同はしばらくの間、真司が何を言っているのか理解できなかった。
少し前まで元気こそ無かったものの、ゆまはしっかりと生きていたのだ。
なのに突然、死んだと言われても。
それに、ゆまが狙われる理由が分からない。
本当に突然で意味が分からなかったのだ。
しかし次第に、一同は『意味』を理解していく。それは特別なことじゃない、ただ単にルールの下、ゆまは死んだというだけだ。
ゲームのあり方としては、何もおかしい物じゃない。
泣き崩れるまどか。青ざめる美穂。悔しそうに表情を歪める手塚。無言のほむら。
そして――
「――くれ」
「っ?」
サキは、その表情を鬼気迫る物に変えた。
「全員、出て行ってくれ……ッッ!!」
サキは理解した、サキは知った。
このゲームは結局こうなる運命だったのだと。
自分たちの様な考えを持つ事こそが愚かだったのだと。
サキは部屋にいる全員を睨みつける。
そこにいつものサキはいなかった。
いるのは恐怖と憎しみに染まったゲームの参加者だけだ。
「決めたよ……ッ! 私はゲームに乗るッッ!!」
正しい事をしていたつもりだった。
戦いを止め、みんなで生き残る事が一番だと思っていた。
しかし結果は、ことごとく裏目に出る。
もちろんサキだって、努力のすべてが報われる世の中ではないとは知っている。
しかし戦いを否定してきた自分たちと、ゲームに乗った参加者では明らかに心持ちが違うじゃないか
参戦派は笑い、協力派は嘆く。
そんな馬鹿な事があって言い訳が無い。
「結局、正しいのは佐倉杏子達の様な連中なんだよッ!」
「サキさん――! 違うよぉ!」
まどかはそれを否定する。
「たとえどんなに苦しくても、それだけは駄目だよ!」
しかし、そんなまどかの言葉もサキには届かなかった。
首を振るとまどかを睨みつける。初めて見るサキの殺意に、まどかは肩を震わせた。
「何が違う! 戦いは止められない、まどかだって分かるだろ!!」
サキは思い切り壁を殴りつけた。
「そうだ、間違っていたんだよ私たちは! 戦いが止まる事はない、我々が選ぶ道は否定ではなく適応だった!」
憎しみに心を預ける事が一番だった。
「憎しみや怒りを否定しても意味はない! 殺意に身を任せる事が正しいんだよ!」
「サキちゃん! それは間違って――」
そこで真司を止める手塚。
「何だよ!」
真司は叫ぶが、手塚は無言で首を振る。
同じく部屋の扉を開けるほむら。首を動かして、一同に『出て行こう』とジェスチャーを送った。
それを理解して部屋を出て行く美穂。
迷いながらも、ほむらに促されて渋々退出して行くまどか。
「城戸、今は従おう」
「……ッ!」
真司は納得できなかったが、kのまま食い下がれば戦闘の可能性も出てくる。
まどかや美穂を巻き込む訳にはいかない。真司は歯を食いしばって部屋を出て行くのだった。
残るは手塚とほむらだ。
二人は頷くと手塚が先に部屋をでる。
「浅海サキ……」
「ッ!」
最後はほむら、彼女はサキに背を向けたまま声をかける。
「貴女がどんな選択を取ろうとも、それは貴女の自由よ」
「………」
「でももしも、私やまどかに手を出すと言うのなら――」
「!」
「そのときは、殺すわ」
ほむらは淡々と言い放ち、部屋を出て行く。
サキはもう一度険しい表情で壁を殴った。
これでいい、これでいい筈なんだ。なのに気分は悪いまま。
胸に引っ掛かる想いは苦しいままに。
「俺……、間違えてたのかな――?」
真司は弱弱しくつぶやく。
しかしすぐに首を振って、その考えを否定する。
「いや、いやッ、やっぱりサキちゃんの考え方は間違っている。どんな状況だってさ、殺しあう事が正しい訳が無い!」
しかしそんな真司の言葉を、さらに美穂が打ち消す。
「ふざけんな……ッ! クソッ!!」
「美穂――」
全く意味の分からないゆまの死。そしてサキのゲーム参戦の意思。
このままならば死ぬ。美穂にはサキの言っている事が理解できた。
なぜならば美穂もまた、サキと同じ考えだったからだ。
「このゲームは協力なんて最初からできる訳ない、夢物語なのよ」
美穂はそんな事をつぶやいて背を向ける。
「お、おいどこいくんだよ!」
「……学校に戻る。仕事がまだ少しあるんだ。ほっとけよ」
もうすぐ研修も終わる時期だったからか、美穂は学校から一人で保健室を任された。
なんだか違和感もあったが、もはやそんな事を気にしている暇もない。
美穂はそれを受け入れたのだ。
「待てよ! おい美穂!」
真司は追いかけようと足を踏み出し――、止めた。
携帯が音をたてる。メールだ、真司はそれを確認すると表情を変えた。
「蓮からだ……!」
内容は、『話したいことがあるから、指定する場所に来てくれ』というものだ。
メールには今すぐにと書いてある。迷ったが、今の美穂には何を言っても同じの様な気がする。
だから真司は、蓮に会いに行く事を決めた。
メールにはかずみも一緒と言う事が書いてあった。
それを見てまどかもついて行きたいと申し出た。
「ゆまちゃんの事、かずみちゃんに話さないと……」
真司だけに辛い思いはさせられないと、まどかは言う。
真司もその思いを理解し、まどかと一緒に指定された場所に向かうことに。
場所は、見滝原の展望台、ここからそう遠くない場所だ。
とはいえ時間も惜しい、二人はすぐにそこへ向かう事に。
「………」
それをジッと見つめるほむら。
手塚はそれに気がつき、懐からコインを取り出してはじく。
「また占い?」
「ああ。俺の占いは、当たる」
「蓮!」
「かずみちゃん!!」
展望台についた時、街は美しい夕焼けに包まれていた。
そこで佇む蓮と、少し離れた所に座っているかずみ。
「来たか、城戸」
「まどか……」
何故か悲しそうな表情のかずみ。
しかしまどか達も同じような表情だったろう。
隠していても仕方ないので、早速ゆまの事を告げる。
「そうか……」
「ゆまちゃん――」
しかし二人の反応はずいぶんと落ち着いている物だった。
何かがおかしい。不思議に思う真司をよそに、蓮は展望台から見える景色に視線を戻した。
「よくココに恵里と二人で来た」
蓮は拳に力を入れて、言葉を紡ぐ。
「医者に言われた。恵里は、もう諦めろと」
「!」
病院が変わっても目覚める可能性は無かった。
いや、奇跡が起こったとしても重大な障害が残ることは必須だった。
いずれにせよ、元の恵里は絶対に帰ってこない。
恵里はもう目覚める事はなく。蓮と会話をする事も無くなる。
蓮にとってその言葉を告げられた時、どんな気持ちだったんだろう?
真司はその重さを考えて怯んでしまう。
「れ、蓮――ッ」
蓮は、展望台の手すりを殴りつける様に叩いた。
恵里は何もしてない、ただ普通に暮らして、ただ普通に笑って、ただ普通に――ッッ!
奇しくも、それは真司がさやかやゆまに思っていた事と同じだった。
理不尽に、人生を奪われる。
「そんな不条理な話があってたまるか!」
蓮は叫ぶ。
恵里とは幼馴染で、昔から一緒にいて、普通に恋をして、今まで幸せだった。
真司も知っている。いつもブスっとしていた蓮が、恵里と話す時は柔らかくなり、笑顔も見せていた。
「恵里は生きてる! なのに……! なのに話す事もできない!!」
一縷の望みは、まさに奇跡だ。
目覚める『かもしれない』、そんな都合のいい夢を抱きながら暮らすしかない。
その日々は蓮にとっては絶望だ。叶わない可能性に夢を抱きながら縋る毎日は地獄とも言える。
愛する人が目の前にいるのに話す事も、気持ちを共有する事も、笑いあう事もできない。
まして容態が急変して悪化する可能性だってある。
そんな心配を毎日抱きながら暮らしていかなければならないのだ。
「俺は恵里を愛してる……ッ!」
「蓮ッ! 諦めちゃ駄目だ! 必ず恵里は目覚めるさ!」
その言葉を聞いて蓮は声を荒げる。
「ならそれはいつだ!? 俺はもう待ち続けた!!」
「ッ!」
「待って、希望を抱いて、でも無理だった!」
蓮だってもう分かっている。恵里は目覚めない。
もしかしたら奇跡と言う奴は起きるのかもしれない。
しかしそれは文字通り、奇跡の確立でだ。
「いつか俺は恵里の笑顔を、恵里の声を忘れる時がくるかもしれない!」
それだけの間、蓮は一人の時を過ごさなければならない。
愛する人のの幻影を隣に抱いて、目覚めない恵里を見つめながら。
そんなのは嫌だ。愛する人と一緒にいたいと言う純粋な願いすら、蓮には叶わない。
「だったら――」
自分でその『奇跡』を掴み取る他無いだろう。
蓮は真司に背中を向けると、ゆっくり歩き出して距離を離していく。
もうずいぶん迷った。迷いに迷い、蓮はその方法を見出した。
「ずっと考えていた、恵里を助ける方法はないのかと」
思い出の場所をめぐった。
そして病院に行き、恵里の顔を見た時、蓮の心にその答えと『決意』が生まれた。
小川恵里を助ける方法は、ただ一つだけしか無いのだと。
「城戸、許せ」
「蓮ッ! お前まさか――ッッ!!」
そこで振り返る蓮、同時に目を見開く真司。
蓮はただ普通に振り向いたのではない。振り向きざまに手を突き出していた。
腰にはVバックルが装備され、手には紋章が刻まれたデッキがあった。
「俺は、F・Gに参加するッッ!!」
蓮は右の拳を握り締めて、肘を曲げたまま左に移動させる。
その時、全てを理解する真司。何故ココに呼ばれたのか理解した。
「俺は、恵里を助ける! 変身ッッ!!」
蓮はデッキをバックルにセットする。
すると鏡像が現れて彼の姿を騎士へと変身させた。
現れたのは闇を駆ける黒騎士。
ベルトについていた召喚剣・『ダークバイザー』を取り外すと、ソレを真司に向ける。
剣を向けられる。
その意味を理解できない真司ではない。
しかしそれでも否定したいと思うのが、人間なのだが。
「蓮――ッ!」
「城戸、お前は俺の友だ」
だからこそ、まずは真司を殺す。殺さなければならない。
騎士・『ナイト』は、自分の甘えを捨てる為、最初のターゲットを城戸真司にした。
「お前を殺した後は霧島を殺す。そうすれば、この戦いで迷う必要はなくなる!」
「本気なのかよ……!」
「悪いが、死んでくれッ!」
「蓮……ッ! お前は――!!」
ナイトは剣を構えて走り出す。
脱力する真司に、避ける気配は無い。
そのままナイトは剣を振り上げて、そのまま振り下ろした。
「危ないッ!!」
「「!!」」
だが、切りつけられたのは真司ではなくまどかだった。
魔法を発動して真司を庇ったのだ。しかし咄嗟のことで、結界を十分には展開できなかった。
だからまどかは剣の一撃を受けてしまう。
苦悶の表情をうかべながら、まどかは真司に声をかけた。
「変身してください! じゃないと――!」
「まどかちゃんッ、でも!」
蓮は親友だった。戦える訳が無い。
真司は情けなく、ナイトとまどかを交互に見る事しかできなかった。
だがそこで気づく、先ほどまでベンチにいたかずみが消えている事に。
どこに? 真司が辺りを探ると、その前に悲鳴が聞こえてくる。
「きゃあッ!」
「ッ! まどかちゃん!!」
再びまどかが切り裂かれる。
しかし攻撃を行ったのはナイトではない、かずみだ。
変身して、武器である十字架でまどかを切り裂いたのだ。
つまり、かずみもまた、蓮に賛同してゲームに乗ったと?
「ごめんねまどか! だけどね、だけど――!」
バックステップを行うナイトとかずみ。
そこで真司とまどかは、二つの事を発見する。
一つは、かずみのマントにナイトの紋章が刻まれていたと言う事。
つまり二人はパートナーだったと言う訳だ。
そしてもう一つ。
「だけどわたしは、蓮さんの味方をするって決めたから!!」
それは、かずみが泣いていると言う事だ。
「パロットラマギカ――」
かずみは、真司たちから距離をとり、十字架を振るう。
するとかずみを中心にして、無数の黒いマスケット銃が召喚された。
それを見てピクリと反応を示すまどか、黒いマスケット銃?
「その技は――!」
「エドゥン・インフィニータ!!」
「!!」
無数のマスケット銃から放たれる弾丸。
それらは真司たちに向かっていき、あっという間に爆炎で包み込んでしまった。
しばらくして、かずみは射撃を止める。
展望台には、かずみが張った魔法結界があるため周りには見えないだろうが、それでも凄まじい爆発だった。
「……!」
煙が晴れた時、そこには桃色のエネルギーを纏ったまどかが立っていた。
いや、それだけじゃない。ドラグシールドを二対構えた龍騎も立っていた。
「かずみちゃん……! 蓮――ッ!」
「そうだ、それでいい。城戸、俺と戦えッ!!」
剣を構え、走り出すナイト。
しかし龍騎の迷いが消えたわけではない。
向ってくるナイトを必死に止めようと、叫ぶ。
「蓮、俺はお前と戦いたくない!!」
「だったら、そのまま死んでくれるか!?」
剣を振るうナイト、龍騎はシールドで受け止めるしかなかった。
(どうして、どうしてこんな事になるんだ!? コッチはただ戦いを止めたいだけなのに!)
いや分かっている。
ナイトだって悩んだ末にこの答えを出した筈だ。
今更話し合いなんかで解決できる問題じゃないって事も。
だがそれを割り切って戦える程、龍騎は賢くない。
目の前にいる友と殺し合いを始めるなんて、できる訳がなかった。
「かずみちゃん! こんな事やめようよ!!」
それはまどかも同じだ。しかしかずみは違う。
「ごめんねまどか! でも、もうわたしは――」
かずみは、十字架を振るう。
すると今度は巨大な十字架が出現した。
しかもこの十字架、巨大な『筒』を十字状に組み合わせた形状をしている。
さらに筒の先端には巨大な穴が開いていた。
これは砲口だ。砲身の照準は、まどかに合わせる。
つまりこれは十字架型ののバズーカー。まどかは意味を理解して、すばやく魔法を発動させる。
「アイギス・アカヤー!」
まどかが両手を前にかざすと、そこに巨大な盾が出現した。
技名を呼称する事で、魔法のイメージを混乱させる事なく、スムーズに形にできる。
普段のまどかは恥ずかしさから技名を口にする事はないが、この余裕の無い時では仕方なかった。
まどかは理解したからだ。
あの十字架から放たれる攻撃は、恐らく通常の結界や、庇う程度では防ぎきれない事を。
「わたしは、戦うって決めたから!!」
かずみの叫びと共に、十字架の砲身が光り輝く!
「ティロ・フィナーレ!!」
「ッ!!」
十字架から黒い弾丸が放たれ、まどかの盾に直撃する。
衝撃がまどかを包み、盾を打ち破ろうと競り合いを始めた。
しかし驚くべきはその威力ではない。かずみが発動した魔法だ。
「これ――ッ! マミさんの!!」
些細な違いはあるものの、先ほどの『パロットラマギカ・エドゥン・インフィニータ』や、今の『ティロ・フィナーレ』はマミの技だ。
驚くべきはそれだけではない。
必死に耐えているまどかを見つめながら、かずみは指を鳴らす。
すると腕に装備されるのはダイアルがついた盾。
それはほむらの盾に似ていた。装飾をみるに、時計をイメージしている事が分かる。
かずみは盾についている十字架状のダイアルを反時計周りに回転させて、手を離す。
「クロックアップ」
ダイアルがカチカチと音を立てて時計周りに回転を始めた。
かずみは踏み込み、地面を蹴った。
「ごめんね」
「!」
あっと言う間だった。
背後から聞こえる声。まどかが振り向くと。そこには苦しそうな表情のかずみが見えた。
まどかが生み出した盾は、前方しか防御面がない。
だからかずみは大きく回りこんで距離を詰めたのだ。
かずみは十字架を模した剣を両手に構えて、まどかを思い切り蹴り上げる。
「きゃあッッ!!」
まどかは空に打ち上げられてしまう。
かずみも一緒に飛び上がり、追撃の斬撃を高速で叩き込んでいく。
攻撃をうけながら、まどかは強い既視感を覚えた。
間違いない、この攻撃はさやかがいつも使っていた攻撃だ。
思えばかずみの武器は現在剣になっている。さやかと同じ剣に。
「クッ! まどかちゃん!!」
かずみの攻撃を見て、焦りを覚える龍騎。
今すぐまどかを助けなければと思うが、その時体に走る衝撃。
「ウグッ!!」
「余所見をするなッ!!」
斬撃が龍騎の体を抉る。
体から散る火花、龍騎は膝をつき、ナイトは追撃を容赦なく打ち込んでいく。
龍騎はかろうじてシールドを構えるが、これではいつまでたっても攻撃を止める事はできない。
そうしている間にも、まどかは押されていく。
まどかとしても、かずみには攻撃はできない。
「蓮! 止めてくれ!!」
「戦え城戸! じゃないと、あの娘も死ぬぞ!!」
「ッッ!!」
そうだ。これは自分ひとりの問題ではない。
龍騎に、その事実が重く圧し掛かる。
このまま抵抗しなければ、まどかが傷つく一方じゃないか。
守ると約束したまどかが――ッッ!!
「ッ! 許せ、蓮!!」
「!」
龍騎は再びナイトの攻撃を受け止める。
しかし今度はただ受け止めるだけではない。
空からドラグレッダーが咆哮と共に飛来し、龍騎の周りを炎を纏いながら激しく旋回する。竜巻防御、これにナイトは弾き飛ばされてしまう。
さらにドラグレッダーはそのままかずみの所へ突進を仕掛けた。
「きゃッ!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
ドラグレッダーはまどかを背中に乗せると、同時に尾でかずみを弾き飛ばす。
地面に叩きつけられるかずみ。コレで大人しくなってもらえればどんなに楽だったか。
「来て!」『ユニオン』『アドベント』
かずみが叫ぶと、空から巨大な
ナイトのミラーモンスターである『ダークウイング』だ。
その性質は『決意』、まさに蓮の覚醒と共に現れた分身に相応しい。
「キィイイイイイ!!」
ダークウイングは素早い動きでドラグレッダーに攻撃を仕掛けていく。
そのスピード故に回避力も高く、ドラグレッダーの反撃を瞬時にかわしていった。
「クソッ! 戻れ!!」
龍騎はすぐにアドベントを解除して、ドラグレッダーを消し去る。
背中に乗せたまどかは地面に向かって落ちるが、そこはしっかりと龍騎がキャッチした。
「甘いな、城戸!」『ナスティベント』
攻撃は終わっていない。
ナイトがカードを装填すると、ダークウイングが再び鳴いた。
ただ鳴いただけじゃない。放たれる超音波・ソニックブレイカーが、二人の脳に直接ダメージを与える。
龍騎とまどかは、苦痛の声をあげて蹲る。
その隙だらけのチャンスを、ナイト達が逃す訳も無かった。
かずみは十字架を。ナイトはソードベントで現れた槍・ウイングランサーを構えて走り出す。
どうやらソニックブレイカーは発動者のナイトとかずみには影響を与えないらしい。
龍騎は頭が割れそうになる中、友が殺意を宿して走ってくるのが見えた。
「ハッ!!」
「タアアッッ!!」
二人の突きが龍騎たちを襲う。超音波に怯んでいる龍騎たちに、避ける術など無かった。
「ウワアアアアアアアアアアアッッ!!」
「キャアアアアアアアアアアアッッ!!」
「クッ! 嫌な予感はしていたが、まさか現実になるとはな!」
「今すぐ助けにいかないと!」
飛来してくるエビルダイバーから全ての情報を受け取った手塚達。
長い間連絡が取れなかった蓮からの召集。
ゲームの影がそこにちらつかない訳が無い。
手塚はこの呼び出しに嫌な予感を感じ、エビルダイバーを真司のもとへ向かわせていた。
そして結果はコレだ。エビルダイバーが見た景色を共有できる『ビジョンベント』を使い、手塚たちは蓮の参戦を知った。
「まどかが危ない――ッ!」
珍しく焦りの表情を浮かべるほむら。
すぐに展望台へ向かう為に走り出そうとしたが――
「待て!!」
「!」
その時、手塚がほむらの腕をつかむ。
「何ッ!?」
すぐに向かわなければならないのに。
ほむらは思わず、手塚を睨み付けてしまった。
「俺に考えがある!」
「ッ!?」
手塚にはある作戦があった。
もちろんそれが100%上手くいく保証は無い。むしろ危険な賭けである。
しかし、それを踏まえて尚、手塚はこの方法をほむらに提示する。
それだけ重要な事だからだ。
「断るわ。そんな時間、私には無いの!」
「分かってくれ暁美! 気持ちは分かるが、ココを逃せば戦いは悪化するだけだ!」
ライン――、これは境界線だ。戦いを止める為に、あえて危険な道を行く。
手塚としても今すぐに龍騎の所へ行きたいのだが、本当の意味で戦いを止める為にはこの方法しかないと言う。
だがソレは龍騎とまどかの危険を上げる作戦でもあった。
ほむらは当然否定する。
「嫌ッ! 離して!」
「頼むッ! 戦いを止めたいんだ!!」
「ッッ!!」
どうやら手塚が離してくれるつもりは無いらしい。
それを察し、ほむらは表情を変えた。
殺意に満ちたその表情に。
「ふざけないでッ!」
「クッ!」
ほむらは変身し、手塚の腕を振り払う。
それだけじゃない。盾から銃を抜き、それを手塚に突きつけた。
手塚は苦悶の表情を浮かべる。
「暁美……、そこまで拘るのか」
「悪く思わないで、邪魔するなら容赦はしないわ」
手塚は内ポケットにしまっていたデッキを手にする。
こんな事をしている場合ではないが、ここは手塚としても無茶を通したい場面であった。
『おいおい、ちょっと待てよお前ら』
「!!」「!!」
そこで二人の間に割り入る黒い影、ジュゥべえだ。
いつのまに? 驚く二人を尻目に、ジュゥべえはヤレヤレと首を振る。
自分から現れたと言う事は、つまり特殊ルールが告げられるという事だった。
『荒れてるねぇ。でもな、【パートナーは互いを傷つける事はできない】』
「何ッ!?」「ッ!」
それはつまり、パートナー間での殺し合いを禁ず。
危害を加える事も禁ずると言う意味だ。
『悲しいよオイラは。なんだって、この戦いにパートナーシステムを採用したと思ってる』
それは魔法少女と騎士が、孤独な存在だったからだ。
ただでさえ人知れず魔女と戦っていた魔法少女ならば特に。
『しかもこのゲームシステムなら疑心暗鬼は必須だろ。たとえチーム組もうが、ソイツが裏切らない可能性なんてどこにもねぇ』
しかしパートナーは違う。
攻撃を仕掛ける事もできない為、裏切る事は無い。
仮に他のペアに自分のパートナーの情報を売ろうとも、最後に生き残る者が一組ならばその可能性も低いだろう。
『極端だが、パートナーは自分にとって唯一の味方って言ってもいい』
少し言い方を変えるならば――
『パートナーは最後の希望だ』
「「………」」
『仲良くしろよ。絶望は希望があってこそ成り立つもんだ』
その言葉を言い残し、姿を消すジュゥべえ。微妙な空気が手塚とほむらに流れた。
とにかく、銃は意味がない。ほむらは手に持っていた武器を盾にしまう。
「暁美、頼むッ! 一言でいい。俺が今から言う事を彼女に伝えてくれ!」
「………」
動きを止めるほむら、先ほどの手塚の言葉がループする。
このまま行って、戦いを止める事はできるかもしれない。
しかしそれはあくまで一時的なもの。結果的に戦いは悪化するのだと。
ほむらは別に戦いを止めたいとは思わない。
純粋に、鹿目まどかを守れればそれで良かった。
「同じ魔法少女の言葉じゃないと届かない筈だ!」
「……一言だけでいいのね」
しかし戦いが悪化すれば、まどかが危険な目にあう確立も増える。
それはほむらとしても困る事だった。手塚としても妥協した部分はあるが、何もほむらに説得を頼むわけじゃない、ただ一言、伝言を頼んだだけだ。
「分かったわ」
故に、ほむらも妥協する。
「助かる! ありがとう」
「別に。私はただ、まどかを――」
そこでほむらは、手塚の目の前から消える。魔法を使ったのだろう。
手塚はすぐにエビルダイバーの背中に飛び乗る。
せっかくほむらが手伝ってくれたのだ。この作戦は必ず成功させなければならない。
手塚は神に祈る。
今までふざけた展開しかなかったんだ。
ココで一つ、希望って奴を見せてくれないと割に合わない。
「………」
皆がいなくなり、静かになった部屋。サキはそこでずっと俯いていた。
正しかったのか、コレよかったのか、答えを出せば楽になれると信じていたのに、結果がコレだ。
「迷っているの?」
「なっ!?」
いきなり声がして、サキは座っていた椅子から飛び上がる。
いつのまにかベッドの上にほむらが腰掛けていた。
ほむらは目を閉じ、腕を組み、足を組み揺らしている。相当焦っているようだ。
しかしサキにとってはどうでもいい事だった。
戦いにきたのか? 思わず変身して構えてしまう。
「構えを解いて、私はただ伝えに来ただけ」
「伝えに……?」
ほむらは手塚から伝えてほしいと言われた言葉を思い出す。
そしてそこに少しだけ、自分の意思で言葉を付け足した。。
「浅海サキ、迷う気持ちは分かるわ……」
確かに、この戦いで疑心暗鬼になるのは分かる。
死への恐怖、裏切りへの恐怖、受け入れがたい考え方への恐怖。
そう言ったものに呑み込まれるのは、仕方ない事かもしれない。
たがその前はどうだった? いつだって迷いながら鞭を振るっていたのか?
「浅海サキ、貴女は何故魔法少女になったの?」
「ッッ!!」
その時、サキの表情が変わる。
「貴女は、何を叶えたかったの? 何を守りたかったの?」
もちろんそれは、ほむらには分からない事だ。
しかしサキも魔法少女として覚醒したのならば、叶えた願いがあるのだろう。
それは中途半端なものではない。キュゥべえが選んだのだ、それなりの理由があったのだろうて。
「それをまず思い出して」
「………」
「私が言えるのは、それだけよ」
それだけを告げ、ほむらは一瞬で消えた。
サキは立ち上がると、一階のリビングへと移動した。
見たかった。思い出したかった。自分が何故魔法少女になったのかを。
「………」
そこにあったのは、ガラスケースに入ったスズランの植木鉢。
"あの日"から枯れる事は無い不死の花だった。
「待ってくれ!」
「!」
美穂は、言われたとおり足を止めた。
振り返ると、エビルダイバーから降りた手塚が見える。
「手塚――、だっけ? なんか用?」
「聞きたいことがある」
「?」
「お前は、騎士になりたいか?」
「なによいきなり……」
少し沈黙した後に美穂は答える。
「ごめんだね」
つまり騎士にはなりたくないと言う事だ。
手塚はすぐに次の質問を投げかける。
「何故? 何故騎士になりたくない?」
「怖いからだよ。こんな力を持ったら、嫌でも戦わなきゃいけないでしょ?」
それに、渦巻く黒い感情が、心を食ってしまうかもしれない。
憎い物を、嫉妬する物を、邪魔になる物を傷つけてしまうんじゃないか?
いや、違う。それを作ってしまうんじゃないかと。
「霧島、人を殺す一番の要因は何だと思う?」
「そんなの決まっているでしょ。力じゃないの?」
人を逸脱した力を手にすれば人はいつかその力に呑まれる。
死を恐れ、正当防衛と言い訳した暴力を振るうのだろうと。
「違う、力じゃない!」
「え……?」
人を殺すのは力じゃない。手塚はそれを知っている。
「それは殺意だ! 人の心なんだよ!」
「ッ!」
力は武器だ。そしてその武器を使うのは、人間だ。
包丁を料理に使うか、人を刺す為に使うのかは、全て持ち主の自由なのだから。
手塚はそれを美穂に説いた。
彼女はデッキの力を武器と言い。人を傷つけるものだと言ったが、手塚はそうは思わない。
「この力は希望だ、運命を変えるためのな!」
「!!」
このデッキは腐った運命を壊し、仲間を守り、人を救う力になれる筈だ。
デッキを手にしたのは偶然ではなく、必然のはずだ。
その力を振るうのは何の為に?
「お前は願いを叶えられると知った時、何を思った?」
「私は……」
「守りたい物はあるか? 失いたくない物はあるか!?」
「……ぅ」
手塚は声を荒げていた。
それだけ必死に美穂に言葉をぶつける。
美穂は怖いと言った。
だからゲームに乗ってしまえば楽になれるかもしれないと考えを抱いているのだろう。
「違う! お前と言う一人の人間の考えはどうなんだ!?」
たとえそれが叶わなくとも、どれだけ不利な展開が待っているとしても。
どんなに周りが嘲け笑おうとも。夢物語だと言われようとも。
手塚は何度だって言い続けるだろう。
「この戦いは間違っている! 人が傷つけ合う事に意味なんてない!!」
それは手塚自身が――
「俺の心がそう言っているからだ!!」
「!!」
「それを、伝えたかった……!」
時間が無い。手塚はエビルダイバーを呼び寄せて、背中に飛び乗る。
最後にもう一つ。手塚は美穂に考えをぶつけた。
美穂はデッキに紋章が刻まれない、つまり覚醒できない事を悩んでいたらしい。
「デッキに眠るのはミラーモンスター、つまり自分の鏡合わせの存在だ」
「………!」
「お前の本当の心と向き合え、そうすればデッキはお前に力を与える」
手塚はココで蓮が覚醒して真司に戦いを挑んだ事を告げる。
「蓮が!?」
その事実に驚く美穂。
手塚はもう一度、美穂に向かって強く言い放った。
「壊すのも、傷つけるのも、守るのも、救うのも、全ては力を振るう奴が決める!」
「………!」
「場所は展望台だ。運命は、お前が決めろ――ッ!」
手塚はエビルダイバーを発進させる。
残された美穂は、全身の力が抜けたようにしゃがみ込んだ。
何だ、手塚ってのはクールな奴かと思ってたら、中々どうして熱いらしい。
「守りたいものか。そりゃあるって、誰でもさ……」
美穂はため息をついて、空を見上げた。
昔は楽しかったもんだ。なんて思うのは、歳をとったからなんだろうか?
(いやいや、まだまだ若いのに何言ってんだか)
でも、時間が経てばみんな変わっていく。
それは仕方ない事で、当然の事だと思っていたけど、心の中では否定してきたっけ?
「なのに、アイツ等、変わってねぇな」
高校入学時と何も変わってない。
「少し大人になっても喧嘩ばっかりかよ。ちっとも成長してねぇ、馬鹿だ、大馬鹿だ!」
マジで終わってるわ。
付き合わされるまどかちゃん達が可哀想だっての。
「まどかちゃんか……」
繊細で、脆く儚い中にも優しい強さが見えた。
友達の為に泣いて、ゲームを止めようともがく。
いい娘だ、本当に――
(うわっ! もしかして私って……)
もしかしたら純粋な尊敬を抱いていたのかもしれない。
自己を犠牲にしたとして友人を想う少女。
あんな娘が泣いている所を見ていたらモヤモヤしていたと?
いや、どうだろう? わからない。自分の気持ちはまだ理解できない!
「……あああああ、もうめんどくせー!! 何か馬鹿らしくなっちゃたなぁ」
蓮までゲームに乗ってさぁ、私だけ取り残されちゃったよ。
変身できたって事は、蓮は答えを見つけたって事だろ?
なのに私はウジウジと燻って悩んで、こんなの私じゃないみたいで気持ち悪い!
「そういえば、あん時も迷ってたっけなぁ」
真司たちと仲良くなるきっかけだったコンビニ強盗。
犯人が女の子を狙ってるって気づき始めたときかから、美穂は自分がどうすればいいか必死に考えた。
でも駄目だった。
だって学校のテストと違って、明確な答えが用意されているものでもない。
だから美穂は足を進めたのだ。
答えなんて出ないって知ってたから、動くしかなかった。
(あれ? ひょっとして今も同じ状況?)
美穂は少し沈黙して、大きく首を振る。
「そういえば、私ってそんなに頭が良くないんだった。忘れてた」
それは真司も同じだろう。
「ああ、そっか。そういう事か」
最初から、あの時みたく動けばよかったんじゃん。
一方、サキは思い出す。自分が魔法少女になった訳を。
『見て見てサキちゃん! お花が咲いたよ!!』
『スズランだな。いい香りだね』
家の庭で必死に育てたスズランを、嬉しそうに持っていた。
まだ植木鉢に一つしか咲いていないが、『彼女』にとっては始めての事だったから、嬉しさも大きかったのだろう。
「美幸ね、スズランをたくさん咲かせて結婚式でブーケにするの」
「ブーケか……、それは叶わん夢だなぁ」
「えぇ! ど、どうしてぇ!?」
サキは胸を張って宣言する。
「美幸がどんな男を連れてきても認める気は無い!」
それを聞いた美幸は驚きながらも、すぐに笑顔になって、サキを強く抱きしめる。
「じゃあ美幸、サキちゃんと結婚するもん!!」
「えぇ? ボク達は姉妹なんだぞ!?」
「美幸、いつも正しいサキちゃんが大好き!!」
幸せだった。ずっと一緒にいられると思っていた。
だが。そんな日は長く続かなかった。原因はサキの両親の不仲だ、話し合いは結局無意味となり、姉妹にとって最悪の結末が訪れる。
「いやだよぉ! 美幸ッ、サキちゃんと別れたくないッ!!」
「わがままを言うな美幸。一緒に暮らせないだけで、お別れじゃないんだから」
とはいえ、サキもあの時は本当に辛かったし泣いていた。
両親は離婚し、話し合いの結果、母親にはサキが。
父親には美幸がついて行く事になった。
サキは母の実家がある見滝原に引っ越す事に。
美幸とは離れ離れになるが。子供である自分のわがままが通る訳もなく。成す術はなかった。
しかし幼い自分には割り切れない事でもある。
よく近くの公園で泣いていたものだ。ちょうどその時に出会ったっけ?
「ねえねえ、どうして泣いてるの?」
「え?」
「悲しいことがあるならね、笑うといいんだよ! こちょこちょ~!」
「わ! や、やめっ! あははは!!」
泣いているサキを元気付けてくれた少女が、鹿目まどかだった。
話を聞けば、家が近いことが分かった。
しかも、まどかは美幸と同じ年齢だった。雰囲気も随分似ていた。
「わっ!」
まどかが転ぶ。
「うええええええええええええん!!」
まどかが泣いてしまう。すると体が自然に動いていた。
サキはまどかを優しく抱き起こすと、すりむいた所を消毒してあげる。
それだけじゃなく、まどかが痛みに苦しまない様におまじないを掛けたりもしていた様な。
「いたいのいたいの、とんでけー!」
「とんでけー!」
それからだ、まどかとの交流ができたのは。
まどかとしても年上のサキと友達になれた事は、とても嬉しかったらしい。
まだ、まどかは一人っ子だった。姉妹と言うものに憧れがあったらしい。
「じゃあ、わたしがキミのお姉さんになってあげるよ!!」
「ほ、ほんとう!?」
「ああ、本当だとも! 今日からキミは私の妹だ!」
それを聞いたまどかは本当に嬉しそうに笑った。
それは本当に美幸に似ていて、サキは思わず彼女の姿をまどかに重ねてしまう程。
「うん! よろしくねサキお姉ちゃん!!」
こうやって心の支えもでき、サキの生活は安定と安息を手に入れる事となる。
まどかに妹の影を重ねてしまった事は申し訳ないが、まどかとはそれからずっと仲良くやっていけたから良しとしてほしい。
そして成長してくと共に、周りもまた変化を遂げていった。
ある日、妹に会えると言う日がやってきたのだ。
あの時の興奮と嬉しさは今も忘れる事ができない。
今まで電話でしかやり取りできなかった美幸に会えると言うのだから。
しかも家に泊まりに来てくれるのだ。
待っている時間は本当に苦痛だったものだ。
「き、緊張するな……」
母親に笑われたのを覚えている。
それくらい、本当にあの時は嬉しかったのだ。
久しぶりに顔を合わせる美幸は、さぞ綺麗になっている事だろう。
会ったら何をしよう? 何を話そう? 電話ではできない話もある。
恋はしているのだろうか? もしかしたらもう彼氏がいるかもしれない!
(いやいや、認めんぞぉおぉお!!)
などと思いつつも、とにかく楽しみだった。
早く会いたくて、サキは家の中をグルグルとした。
早く、早く妹に会いたい。何度も思った。
「え?」
しかし、サキが美幸と会う事はなかった。
覚えているのは、電話が掛かってきたと言う事だけ。
それ以後は、真っ白になってほとんど覚えていない。
あの日は、美幸の到着が遅れて。
それで電話が掛かってきたから、遅れている美幸からの電話なのかと思って。
それで――
『落ち着いて聞いてください』
だけど、電話の向こうから聞こえてきたのは知らない男の人の声。
『車が――事故――』
何も聞こえなかった。
ただ、言葉だけは形になって、頭の中に入ってきて。
サキはそれを機械的に並べるだけだった。妹と父親が乗った車が、他の車と衝突して。
「美幸は――」
『………』
妹に会えると思っていたのに。
『二人とも、即死でした』
何も考えられなかった。
言葉にすれば、あまりにも簡単な事だ。妹は交通事故で死んだ。
ただそれだけの事が、全く理解できなかった。
心の中で何度も否定した。
美幸は普通に生きて笑って、それでこの家に来てくれると信じた。
しかし時間が経てば。それは幻想だと嫌でも理解する。
美幸が――、妹が死んだ事をサキは受け入れなければならなかったのだ。
それはサキにとって大変辛い事だ。
だからサキはその悲しみと悔しさを、他の対象へぶつける事しかできなかった。
妹は交通事故で死んだ。それはつまり、他人の車とぶつかって死んだと言う意味だ。
(美幸――ッ!!)
それは純粋な狂気だった。虚構の復讐心かもしれない。
サキは妹を失った悲しみを、憎しみに変化させたのだ。
警察に話を聞けば、相手の車には生きている人物がいたと言う。
ならば全ての感情をソイツにぶつければいい、意地でも妹の敵を取る。
それがサキの『生き甲斐』に変わった瞬間だった。
都合がよかったのは、母が同時期に精神的な病を発祥してしまい、入院を余儀なくされた事だ。
どうやら妹の死が、重く響いていたのだろう。
母の両親も亡くなってしまい、家にはサキ一人の日が続く。
そしてサキは事故の事を調べ続けた。
見滝原は個人情報の保護を重要視していたが、それでもやはり、調べれば分かるのだ。
(まさか。こんなに近くにいたなんて――)
サキは見つけた。
そしてクラスメイトの一人に声を掛ける。
「やあ、一人かい?」
「え!?」
「私もいまから昼食なんだ。よければ一緒にどうかな?」
見つけた、遂に見つけた。
(巴マミ――ッ!)
クラスメイトである巴マミ。
彼女こそが、衝突した車にいた人物である。
そして事故の唯一の生き残りであった。
サキはマミを殺すつもりで近づいたのだ。
何故妹が死に、マミが生き残ったのか――?
どうせならばマミが死んでくれれば良かった。
そうだ、マミの家族さえいなければ、美幸が死ぬこともなかったのに。
「………」
歪んだ復讐心だった。
しかしサキは、その途中でマミの苦悩を知ってしまう。
一人だけ生き残った孤独、苦痛、罪悪感、そして何よりも大きいのは『そこ』じゃない。
あれはマミと知り合って少しした日だったか。
彼女と買い物をしている途中で、使い魔に襲われた。
そしてサキはマミの力を、魔法少女の事を知る事になった。
「き、キミはずっとそんな力を……」
「これでも、結構辛いのよ……」
「マミ――」
知らなかった。
それに言ってしまえば、マミも事故で両親を失い、かつ望まぬまま魔法少女となり人知れず異形と戦う日々を強いられている。
サキは悔しかった。
マミが人間として屑ならば躊躇いなく殺せたのに。
マミは優しい性格だ、それがサキを苦しめる事になる。
加えて、マミと過ごす内にいろいろな表情を見る事になる。
家で飲んだ紅茶、食べたケーキ、マミの笑顔、サキも笑っていただろう。
気づけば、サキの中でマミへの友情の気持ちが芽生えていた。
「私は……」
美幸への思い、マミへの思い、そして自分の気持ち。
整理には、長い時間が掛かった。その間にマミは杏子といろいろ大変なことになっていたみたいだが。
そして、ある時、キュゥべえが現れる。
『浅海サキ、君は多くの迷いを抱えている』
「!」
『だけど、それは願いとなり力に変える事ができるんだ!』
キュゥべえはサキの前に現れて、契約を持ちかけてきた。
魔法少女になる事は、つまり願いを叶えられると言う事。
サキにとっては魅力的な代価に見えただろう。
現にキュゥべえはそれを承知でサキに近づいたのだから。
『願い、それはキミが一番重く受け止められる筈だ』
憎しみを解き放ち、対象を殺す事もできる。
まして失った家族を蘇らせる事もできる。
『想像してごらん?』
キュゥべえは囁く。
また美幸との楽しい生活を取り戻す事ができるのだと。
言い方を変えれば、憎いマミを殺す事も可能である。
全てのしがらみからサキは逃れる事ができるのだ。
「………」
サキは沈黙する。どんな願いも叶えられるのだ。
迷った。迷い、迷いぬいてその答えをキュゥべえに叩きつけたのだ。
サキの願いはただ一つ。彼女が魔法少女になった理由は――
「………」
サキは回想を終えて目を開けた。
F・Gに勝ち残る事ができれば、美幸を蘇らせる事ができる。
「美幸、私は――」
サキはケース越しに、スズランの花を優しく撫でる。
美幸がそこにはいた。ありがとう、サキはつぶやいた。
「答えを、見つけたよ」
「ぐあああああああッッ!!」
「真司さん!!」
地面を転がる龍騎。その装甲には斬撃の痕が無数に残っていた。
同じくそれなりのダメージを負っているまどか。
龍騎はまどかを庇う様にして立ち上がる。
同時に発動するのはソードベント・ドラグセイバー。
龍騎はそれを構えてナイトの所へ走り出す。
「蓮ッ! 本気でお前はゲームに乗るつもりなのかッ!?」
「………」
一瞬の沈黙、それはナイトが迷っている証拠ではないだろうか。
しかしそれでナイトの攻撃が弱まる訳ではなかった。
ダークバイザーとウイングランサーを同時に構えて、龍騎にぶつかっていく。
少なくとも、決意は本物だった
ナイトは龍騎のドラグセイバーを簡単に弾き飛ばし、剣を振り上げた。
同時に動くまどか、今なら庇うスピードの方が速いと。
「うごかないで!」
「きゃ!」
しかしソレは、かずみが許さない。
十字架を振るうと、まどかの周りに黒い雷が降り注いでいく。
これは間違いなくサキの魔法だった。かずみは先ほどから、他の魔法少女の技を多様している。
そう、それこそが立花かずみの魔法形態なのだ。
かずみの魔法とは即ち『破戒』、守るべき掟を、理をも破壊する力なのだ。
簡単に言えば、かずみは一度見た魔法少女の力を破戒して自分の物にする事ができる。
相手の魔法形態、武器、それをアレンジして使用する事ができるのだ。
要するにコピー。かずみは、戦えば戦うほど強くなる。
「かずみちゃん! こんなの――ッ、おかしいよ!!」
「まどか! 戦わないと、死んじゃうよ!」
十字架の先端に光が見える。
かずみの必殺技、リーミティ・エステールニの発動予告と捉えていいだろう。
「かずみちゃん! お願い止めて!!」
「!」
まどかはソレを見て、両手を広げて立った。
全身で受け止めると? かずみはまどかの行動に、焦りの表情を見せる。
まどかは強い眼差しで、ジッとかずみを見つめていた。
その目に涙を乗せて。
「お願いッ、もうわたしは……! 友達を失いたくない!!」
「まどか……ッ!」
動きを止める二人。
しかしその間にも、ナイト達の戦いは続いている。
ナイトの激しい二刀流に、ついに龍騎のガードが打ち崩された。
「ハッッ!!」
「うわあああああああああッッ!!」
剣が胸を突いた。
一段と大きな火花を散らしながら、龍騎は吹き飛んでいく。
倒れ、転がり、すぐに力を込めて立ち上がろうとするが、ダメージが大きすぎて中々うまくいかない。
(息が――ッ、できない!)
再び崩れる様に倒れた龍騎。
そこへゆっくりとナイトが剣を構えて歩いてくる。
さらにデッキから引き抜くカードは、ナイトの紋章が刻まれている絵柄。
つまりファイナルベントのカード、必殺技だった。
ナイトは――、蓮は決着をつける気なのだ。
「蓮……ッッ!!」
「城戸――」
動きを止めるナイト。おそらく彼もまだ、迷いの中にいるのだろう。
ファイナルベントを装填しようとしている手が、確かに震えていた。
迷わない訳がない。親友をこの手で殺そうとしているのだから。
離れたところでは同じく必殺技を撃てない、かずみがいた。
彼女も、目の前にいるまどかを殺す事を躊躇っているのだろう。
「………」
そして、その様子を物陰から見ている人物がいた。
暁美ほむら、彼女はすでにこの展望台に駆けつけていたのだ。
正直、すぐにでもまどかを助けるつもりだった。
だが、またも手塚に止められた。
正直、殺してやりたかったが、ルール上そうもいくまい。
ましてや手塚は既に視えていた。
だからほむらも、渋々従ったのだ。
(今回は譲るわ……)
ほむらは悔しそうに目を閉じる。
その横では同じく駆けつけていた手塚がコインを弾いた。
手塚が得意とする占い。どうやら運命を壊す選択を――
「「ウオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」
彼女"達"は選んだ様だ。
「「「「!?」」」」
誰もが、驚く。
重なる咆哮、同時に姿を見せる二つの影。
猛スピードで走ってくるその姿に、ナイトとかずみは思わず動きを止めてしまった。
まして、その人物に怯む。
知り合いだ。ナイトとかずみは自分達に向かって走ってくる影の名前を漏らした。
「霧島――ッ!!」
「サキ……!!」
「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」
見事に雄たけびがシンクロしていた。
展望台に姿を見せたのは、霧島美穂と浅海サキの両名だった。
美穂はナイトへ、サキはかずみの所へそれぞれ全速力で向かう。
迫力に怯み、動きを止めていたナイトたち。そしてアクションは起こった。
「おんどりゃあああああああああッッ!!」
「!!」
美穂はドロップキックでナイトへ飛び込んでいった。
騎士の装甲があるため、ダメージは無くとも、衝撃を感じてナイトは数歩後ろへ後ずさる。
「み、美穂!?」
呆気に取られる龍騎。
いきなり美穂が現れたと思えば生身のままナイトにドロップキックである。
彼女は何がしたいのか?
一方のサキは、跳躍してまどかの前に着地する。
同時に鞭を伸ばして、かずみの十字架に絡ませた。
それぞれ、ナイトとかずみの動きを停止させたのだ。
「サキ、邪魔しないで!!」
「邪魔? 違うな、かずみ」
「え?」
「私は――、今度こそ答えを見つけたんだ」
サキは静かに言いながら、まどかに視線を移す。
まどかは何を言っていいか分からない。サキはいったいどんな答えを導き出したのか?
そうしていると美穂が立ち上がり、舌打ちを零す。
「おいおいッ、私を仲間外れにするとか良い根性してるじゃねぇか!!」
「仲間はずれって……、お前なぁ!」
龍騎が指差すと、美穂は鼻を鳴らしながら中指をおっ立てる。
なんて女だ……。思わず言葉を止める龍騎。
しかしナイトは違う様だ。剣を構えなおすと、ソレを美穂に向ける。
「霧島、これは殺し合いだ。戦う気がないならさっさと消えろ」
美穂だって分かっている。これがいつもの喧嘩では無いと言う事くらい。
ナイトとて、それを理解している上で剣を向けていた。
「………」
美穂は俯く。
殺し合いは怖い、裏切られるのが怖い、裏切る前に裏切れ。
嫉妬、恐怖、憤怒、混乱。それらは一つに固まり、美穂の心を容赦なく蝕む。
筈だった。
「あ゛ぁ?」
「!」
美穂はその全ての呪いを受け止め、ナイトを睨み返す。
戦う気が無いならさっさと消えろ? 美穂はそれを聴いて何度か頷く。
しかし頷くだけだった。振り返る素振りは見せない。
『霧島美穂ォ! テメェは姉貴が死んでるらしいなぁ!!』
広場を風が駆け抜け、美穂の茶色い髪を揺らした。
同じくして風に揺れる黒い尻尾。
美穂の背後にある街灯の上に、ジュゥべえが立っていた。
『願いは全ての概念を超越し、そして神をも超える力となる』
命を蘇らせる事など容易だと、ジュゥべえは言ってみせた。
つまり美穂の姉を再びこの世に回帰させる事も可能なのだ。
それだけじゃない愛だって手に入る。いやいや、愛だけじゃない。
奇跡の前に不可能はなし。手に入らない物など、一つもないのだ。
『裏切りが怖いなら、いっそ裏切る側に回れ!』
そうすれば願いを叶える資格が手に入る。
他社の命を奪い、ゲームに勝てば己の欲望を満たす事ができるのだ。
愛を得て、命を得て、心さえも手にする事ができるのだ!
「蓮ッ! 戦う気が無い? おいおい、誰に言ってんのよ!」
「何?」
「ジュゥべえェエエエッッ!!」
美穂は叫ぶ。
同時に反応を示すジュゥべえ。いつも通り、ニヤリと笑って美穂に問いかけた。
『理由は見つけたか? 答えは見つけたか! なあ、霧島美穂!!』
ジュゥべえの言葉に、今度は美穂がニヤリと笑う。
「決まってんでしょ。ンなもん、一つよ」
『じゃあ教えてくれよ。テメェはどんな想いをソイツに託す?』
美穂はそのままポケットに手を突っ込んだ。
そしてデッキを掴み、引き抜く。
「み、美穂!?」
「霧島ァア……ッ!」
意味を理解したのか、龍騎とナイトが声をあげた。
「「私の答えは――」」
その時、美穂とサキの言葉が完全に重なる。
今にして思えば、答えは最初からこの一つを除いてなかったのかもしれない。
それに気が付くのが、少し遅かっただけ。
「「この戦いを、止めてやるッッ!!」」
「「「「ッッ!!」」」」
デッキを突き出す美穂。同時にそこに刻まれていく紋章。
美穂は両腕をクロスし、鳥が翼を広げるようにして腕を左右へ広げていく。
そして一気に左手を左腰へ、右腕を左胸の位置へ移動させた。
「私はもう迷わない! 変身ッ!!」
美穂がバックルにデッキをセットすると、鏡像が現れて、その身に収束した。
姿を変える美穂。金色の装飾が入った、純白の騎士がそこに立っている。
ジュゥべえは美穂の答えを聞いて少し不満そうだが、それもまた一つの選択だと笑っていた。
『"ファム"、それがお前の騎士名だ』
「オッケー! じゃあ、行きますか!」
ファムはバックルに装備されている剣を取り外す。
ブランバイザー、召喚機であり武器である。ファムはそれをしっかりとナイトへ向けていた。
白と黒が対峙するフィールド。
『オセロみたいだな』
ジュゥべえはケラケラと笑っていた。
「お、おい! 美穂お前――ッ!」
「座ってな馬鹿、ボロボロじゃないの」
「アイデッ!!」
駆け寄る龍騎を、ファムはデコピンで弾き飛ばす。
しかし、優しい声で言葉を付け足した。
それは小さなもので、果たして龍騎に聞こえていたのかは微妙なラインだが。
「ごめんね真司。今になってアンタの馬鹿さが――、ううん、凄さが分かったよ」
「霧島、それがお前の答えか?」
ナイトもまたダークバイザーをファムに向ける。
剣を互いに向けあう。どちらも引く気などサラサラ無かった。
蓮は美穂の事も友人だと思ってる。
しかしそれでも、ファムが自分の前に立つのなら斬るつもりだった。
「俺はもう引けないんだ。恵里の為にッ!」
「蓮、考え直せ。恵里の為に!」
それが合図だった。
ナイトとファムは同時に走り出す。そして互いに真っ向から剣をぶつけ合った。
激しい火花が二人の間に舞い散る。間髪いれずに、そのまま連撃をぶつけ合っていく。
騎士の力が二人の剣技を上げる。
お互いの攻撃は、全ての想いを乗せて飛んでいくのだ。
「霧島! たとえ女のお前でも容赦はしないッ!」
「上等ッ! 今、私がお前の目を覚まさせてやるッッ!!」
ファムは真司が呟いた迷いを思い出す。
自分が選んだ道は間違っていた? 真司はすぐに否定したが、抱いてしまった思いは迷いとなって、心を蝕む毒になるかもしれない。
そんな事は――、させない。今分かったんだ。本当に正しいのは何かを。
(だから見てろよ真司、お前の選ぶ道が間違いなんかじゃないって証明してやるからさ!)
ファムは突きで一気にナイトの懐に入る。
「蓮! アンタッ、本当にこの選択が恵里の為だと思ってんの!?」
「当たり前だッ! 恵里を救うにはこの方法しかない!!」
「ふざけんなアアアアアアアアアアアアア!!」
「んなッ!」
ファムの渾身の叫びに動きを鈍らせるナイト。
「恵里のため? 違うッ、違うでしょ!!」
ファムはその言葉を全力で否定する。
確かに、恵里を助けるには願いを叶える力を使う事が最短なのだろう。
しかし、それは本当に恵里のためになるのか?
「まあッ、あの
オイッ!
龍騎が叫ぶが、そこは無視。
「だけどな! あの馬鹿も、私もッ! 恵里は友達だって言ってくれた!!」
真司は蓮の友人だが、同時に恵里の友人でもある。
恋人である蓮が真司を殺したと知れば。ましてやそれが自分のためと知れば、恵里は必ず深い悲しみに陥るだろう。
いや、言ってしまえばルールがある以上、恵里がそれを知る事は無いかもしれない。
しかし本当にそれでいいのか!?
「恵里はそれを望むのかよッ!?」
「クッ!!」
ナイトの脳裏に恵里の笑顔がチラつく。
ナイトだってコレが正しい事なのかと言われれば、そうじゃないと思う。
しかし、しかしだ。それでも恵里を助けるには方法が限られる。
「綺麗ごとじゃッ! 何も変わらんッッ!!」
「!」
剣を振るうナイト。
一方でサキも戦闘を開始した。
「まどか! すまないッ、私はどうかしていた!!」
かずみは十字架を構えなおし、サキに切りかかっていく。
サキはソレを真っ向から受け止める。そして改めて、自分の答えを強く言葉に乗せていった。
「かずみ! この戦いは間違っている!!」
「そんな事……ッッ!!」
無いと言いたかったが、かずみも言葉に詰まってしまう。
その隙に距離を詰めるサキ。激しい体術でかずみを押していく。
迷いが渦巻くかずみ。迷いを振り切ったサキ。
有利なのは明らかだった。
「人の命は重い! だから守らなければならないんだ!!」
サキは思い出す。
契約の誓い、自分が魔法少女になった理由を。
妹の死、マミへの復讐心、途方もない虚無感の中で、サキは折れそうになった。
楽になりたかったのだ。
だからキュゥべえに契約を持ちかけたれた時、何を願うのかいろいろと考えた。
だがマミの苦しみを知ってしまった。マミの願いを知ってしまった。
マミは、生きる願いを取るしかなかった。
そして待ち受けた未来に苦しんでいる事も。
そんなサキが迷いに迷いぬいた時、美幸の姿が目に浮かんだ。
妹は言ってくれた――
『美幸、いつも正しいサキちゃんが大好き!』
それがサキの願いを決めた。
「私が願ったのは、美幸が最初に咲かせたスズランの永遠!」
あの花が枯れないように、サキは願いを託す。
美幸を蘇らせるのではなく、マミに復讐するでもなく。
サキは美幸の残したスズランの永遠を願った。
そして手に入れたのだ、『成長』を司る魔法を。
(美幸、私は正しかったのかな?)
サキは想う。
キミを蘇らせる事はできた。しかしマミの事を知って、それを止めた。
彼女もできる事ならば、両親を蘇らせたかったろう。家族と一緒にいたかっただろう。
同情?
彼女の孤独を分かってあげる?
いや、それより大切な物を、スズランに見た気がしたんだ。
キュゥべえと契約した後も、本当にコレでよかったのかと迷う日もあった。
しかし魔法少女の力を手にした事は後悔していない。
私はこの力を使って正しい事を貫く。
美幸が、そんな私を好きだと言ってくれたから。
「私は大切な事を忘れていたよッッ! 自分の気持ちにも気がつかなかった!」
かずみは十字架を次々に発射して、サキを狙う。
しかしサキはそれら全てを見極めて回避を行っていった。
このゲームの恐怖で、美幸への想いを、みんなへの想いを忘れる所だった。
「私が一番怖かったのは殺される事でも、ゲームに呑まれることでもない! 仲間が傷つき、失われる事なんだッ!」
「サキ――!」
「この魔法少女の力は絶望に繋がる鍵じゃない! 希望を紡ぐ為の力だ!!」
「ッッ!!」
「だからこそ! みんなを絶望に沈めようとするこのゲームは、絶対に許さない!」
サキは強い眼差しでかずみを捉えた。
一瞬目を反らすかずみ。しかしすぐに負けない程強い眼光で、サキを睨んだ。
かずみだって、半端な覚悟じゃ嫌だった。
参戦派は悲しみを背負う事になる。友達を傷つける。
だが、それに負けない希望がその先にあるんだ。
「そう、それでも叶えたい願いがあるの!!」
「ッ!」
かずみは十字架を天にかざす。
何か来る? 身構えるサキ。
「イル・フラースッ!」
「何ッ!? それは――!」
かずみに黒い稲妻が直撃する。
すると背後、サキの背後にかずみの姿があった。
「ぐッ!」
待っていたのは無数の連撃だった。
黒い雷を全身に纏わせて、かずみはありったけの攻撃をサキにぶつけて行く。
イル・フラースはサキの切り札だが、これもまたコピーできるのだ。
成長魔法の究極奥義。
筋力、感覚、魔力、自らを流れる時間さえも急成長させる。
これがイル・フラースであった。
「ハアアアアアアアアアアアッッ!!」
「うぐぅッ! ッッッ!!」
サキはなんとかガードを行おうとするが、かずみはそれをも許さぬスピードで蹴りや斬撃を叩き込んでいく。
そしてフィニッシュだ。
かずみは強力な突きをサキの胴体に打ち込んだ。
そう、突き――、これはまだ布石でしかない。
集中していく光。間違いない、攻撃はまだ終わっていないのだ。
「サキお姉ちゃん! 危ない!!」
まどかが叫ぶがもう遅い。
「リーミティッ! エステールニ!!」
「ぐッ! トゥオーノ・アルマトゥーラ!」
落雷がサキに直撃。
電磁バリアを形成させるが、リーミティ・エステールニはそれを簡単に貫きサキを大きく吹き飛ばした。
バリアを張っていなかったら致命傷だったか?
だがそれでもダメージはかなり大きく、サキは地面を何度もバウンドしながら吹き飛んでいく。
そしてもう一つの戦いにも大きな変化が。
「フッ!」
「きゃ!」
ファムはナイトに比べてスピードがある。
ナイトはファムに比べてパワーがある。
両者の戦いは均衡を保っていたが、一瞬の隙を見てナイトの肘がファムの胴を捉えたのだ。ナイトはよろけたファムを蹴り飛ばして距離を離す。
「コッチは女だってのに容赦ねぇなクソ!」
ファムがそんな事を言いながら立ち上がるが、どこを見てもナイトの姿が無い。
「あ、あれっ!?」
「美穂ッ! 上見ろ!!」
龍騎の言葉に反応して上を見上げるファム。
するとそこには黒い翼を広げたナイトの姿があった。
契約モンスターのダークウイングが、マントとなってナイトに装備されている。
もちろんただのマントじゃない、それは空を駆ける翼にもなるのだ。
ナイトの手にはウイングランスと、自身の紋章が刻まれたカードがあった。
「霧島、まだ殺しはしないが――! ただでは済まんぞ!」『ファイナルベント』
「お、おい蓮ッ!!」
必殺技を発動したナイト、龍騎はすぐに止めようと動くが――
「ふんさ! ほいしょ!」
「うごぉッ!」
またファムのデコピン(二連発)が龍騎を弾く。
倒れる龍騎。何を!? 彼がファムを見ると。ヤレヤレと首を振っているのが見えた。
「今はまだ殺さない? おいおい冗談だろ!?」
ファムは両手を広げ、叫ぶ。
「蓮、殺す気で来いッ! そのマジの想いを乗せて来い!!」
ファムはデッキから自身の紋章が刻まれたカードを抜き取る。
そしてそれを迷わずバイザーへセットした。
殺意であったとしても、本気の思いじゃなければ意味がない。
だって、恵里を救いたいという気持ちは本物だろうから。
「だけど、それは間違ってるって教えてやる!!」『ファイナルベント』
「蓮! 美穂! 駄目だ危な――って、おわあああああああああ!!」
二人止めようと、立ち上がった龍騎。
その真下から、美しい鳴き声をあげて巨大な白鳥のモンスターが現れた。
衝撃で吹き飛ぶ龍騎、白鳥のモンスターはそのままファムの背後に着地する。
これはファムのミラーモンスター、『ブランウイング』だ。
ファムが睨む先には、既に必殺技が発動されたナイトが見える。
ウイングランサーを軸としてマントをドリル状に纏わせた。
生まれたのは巨大な漆黒の槍。
ナイトはそのまま回転しながらファムに突っ込んでいく。
「これが俺の想いだッ!!」
それを見て仮面の裏で笑う美穂。それでいい、本物には本物を。
「ハァアアアアア――……ッッ!!」
ブランウイングは、その体が少し後退する程の力を込めて、羽ばたいた。
巻き起こるのは光を纏った強風だ。それはブランウイングの羽を幾重にも乗せて、対象に強力な向かい風を送る。
同時に剣を構えるファム。
光が剣に集中して強化される。
ファムはそのまま地面を蹴って、強風の中へ飛び込んだ。
「ハァアアアアッッ!!」
追い風の勢いで放つ渾身の突き。
"ミスティースラッシュ"、ファムのファイナルベントが、ナイトのファイナルベントとぶつかり合う。
互いに均衡を保つ競り合い、両者の威力は互角――?
「こんな物かッ! 霧島ッッ!!」
「えっ!? クッ!!」
追い風なのにも関わらず、ナイトの飛翔斬は威力を上げていく。
それだけ想いの力が強いのだろう。蓮の心に共鳴して、ダークウイングはその力を増強していくのだから。
震え始めるファムの手、そして遂に――
「終わりだッッ!!」
「ぐっ! きゃあああああああああああああッッ!!」
飛翔斬がミスティースラッシュを打ち破り、ファムの体を大きく吹き飛ばす。
サキ同じく、地面をバウンドしながら近くの木に激突する。
「かずみ、決めるぞ!」
「……うん!」
並び立つナイトとかずみ、彼らは武器を構えてゆっくりと歩き出す。
一方で龍騎達は、倒れたファムとサキに駆け寄っ――
「ほっとッ!!」
「「!!」」
しかしファムは一人で飛び起きる。
もちろん大きなダメージを受けているが、それでもファムはしっかりと立った。
だってそうだろ? ココでまだ倒れる訳には行かないんだ。
あの馬鹿――、蓮とかずみの目を覚まさせてやる為にも。
「だろ? サキちゃんっ!」
ファムは丁度、隣に倒れていたサキに手を差し伸べる。
二人はもう既に、隠れた『一つの意味』を理解していた。
サキはファムの手を見ると、ニヤリと笑ってしっかりと頷く。
「ああ、お互い……! 手の掛かる友を持ったな!!」
サキはしっかりとファムの手を握って立ち上がった。
同時に迸る光。サキのベレー帽に、ファムの紋章が刻まれていく。
つまりサキがファムのパートナーだったと言う事だ。
二人は自信に満ち溢れた笑みを浮かべて、再びナイトたちを睨んだ。
「やるな、だが何度やっても同じ事だ!」
「イルッ、フラース!!」
黒い雷を纏ってかずみが走り出す。
それを見極めるサキ。イル・フラースは長い間未完成だった切り札だ。
しかし今ならば足りなかった最後のピースが理解できる。
魔法の源、それはココにあったじゃないか。
サキは胸を押さえて目を閉じる。
「やっと分かった――」
瞼の裏にあった美幸の笑顔。
そしてマミの、さやかの、ゆまの泣いている表情。
サキはその悲しみを砕く為、目を開けて最後の台詞を叫んだ。
自分の魔法に足りなかった最後のピース、それは揺ぎ無い意志と――
「心だ! イル・フラースッッ!!」
「!!」
天が割れて巨大な白い雷が降り注ぐ。
それはサキに直撃すると、巨大な翼へと形を変えた。
完全体。そうだ、イル・フラースはこの瞬間完成したのだ。
そのまま地面を蹴るサキ。
音速とも言えるスピードでかずみとぶつかり合う。
白と黒の雷が辺りに弾け飛び、フィールドを揺らす。
二人は高速の戦いを開始。
互いの全てを乗せてぶつかり合った。
拳がぶつかり、激しいスパークを起こす。
一発がぶつかったと思えば、二人は既に数十発を打ち込んでいた。
その中、ファムは走る。
サキともう一度、心と言葉を重ねて力を込める。
「もう迷わない!」
「もう悲しまない!」
声が、心がシンクロした。
「「絶対にッ、皆を救ってみせる!!」」