仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME 作:ホシボシ
魔力の源は魂――、心だ。
そしてイル・フラースはその影響を強く受ける魔法である。
感覚強化により、精神もまた鋭敏になる。
心に迷いがあったり、不安があれば、それだけ技の完成度も著しく下がり、性能は弱体化してしまう。
つまりイル・フラース同士の戦いならば、お互いの心の強さが勝敗を決めると言う事だった。それに加え、かずみのコピー技はオリジナルより性能が劣る。
今のサキとかずみ、優劣はすぐに出来上がった。
「私は今まで迷い、悩み、闇に染まろうとしてしまった!!」
「ッッ!!」
かずみの攻撃をことごとく回避しながら、サキは電気を纏わせた掌底を打ち込んでいく。
裏切られるのが怖く、傷つくのが怖く。魔法少女になった時点で茨の道とは思えど、心折られそうになったと。
「迷っている間に多くの仲間が傷ついた!!」
涙でぶれる視界。
もっと早くハッキリ意思を固めていれば、さやかやゆまを絶望させる事は無かったのかもしれない。
特にゆまには、本当に申し訳ない事をしてしまった。
ただ、戻りたかっただけだろう。
あの時の、楽しかった時に。
「なのに私は傷つけた! それは私が弱かったからだ!!」
すまない、ゆま。
もうその想いは届かぬと知りつつも、サキは謝罪の言葉をつぶやく。
そしてそれは、かずみの心にも刺さることなのか、動きが鈍っていく。
「もっと私が強ければッ、ゆまを悲しませる事も無かっただろうに!」
寂しい思いをさせる事も、なかったろうに。
サキはボロボロと涙を流して、なおも強い眼差しを向ける。
「だからもう私は迷わない! 迷っている間に傷つく仲間がいる!!」
絶対にこの戦いを否定してみせる。
サキは何度でもその言葉を叫ぶだろう。
そしてかずみには指摘をぶつける。
「キミはまだッ、悩んでいるのではないか!」
「そんな事ッ!」
「そうなんだろう? かずみ!」
「ッ! 違う!! 私は――! 私はぁあッッ!!」
かずみは十字架をサキに向ける。
「迷ってなんか無い! 迷ってなんかッ!!」
光が、溢れた。
「リーミティ・エステールニ!!」
巨大な光のレーザーが十字架から発射される。
「ウオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
サキもまた、両手を合わせ、掌から巨大な電磁砲を発射した。
ぶつかり合う二つのエネルギー。それらは互いを打ち消し合い、消滅する。
疲労が重なる。かずみはフラつきながら、呼吸を荒げていた。
なによりも、だ。
「ならばッ、どうしてキミはそんなに悲しそうな顔をしている!!」
「!!」
かずみは背後にサキの言葉を感じた。
やられた! すぐにマントで背後を切り裂くが、そこにサキはいない。
サキは更に高速移動を行い、かずみの前方に移動していた。
「私は、仲間が泣いているのはもう嫌なんだ!!」
それが一番苦しかった。それに気が付くのが遅すぎた。
だからこそ、もう二度と迷っていはいけないんだ。
サキはかずみを捕まえると、翼を広げて空に舞い上がる。
「エゴだろうな」
少し自虐的に笑う。
かずみ達は、何を犠牲にしても叶えたい願いがあるのだろう。
それは他の参加者にも同じ立場の者がいる筈。
殺したくないと思えども、叶えたい願いのために戦うことを決意した者がいる筈だ。
そしてサキ達は、そんな者たちの想いを知りながら戦いを止めると言う。
その者たちの願いを無視する事にあったとしてもだ。
だからこそコレはエゴ。正義感を振りかざしたワガママか。
「だが、このエゴだけは貫くッッ!!」
「くぅぅうッッ!!」
かずみは抵抗を示すが、サキはそれを許さない。
イルフラースは完全となりてサキに力を与えたのだ。
「なによりッ、かずみ! キミも、私の大切な仲間だからな!!」
「!!」
サキはありったけの電撃をかずみに送り込み、同時に投げ飛ばす。
「インバーシオ・トゥオーノ!!」
「きゃあああああああああああッッ!!」
電撃を纏いながら倒れるかずみ。
麻痺の効果があるのか、立ち上がろうとしてもうまくいかない。
かずみは複雑な表情で、サキを見た。
「わたし、わたし――……」
サキの目は綺麗だった。曇ってはいなかった。
かずみは何故か、たまらなく悔しくて、嬉しかった。
「かずみッ!」
ナイトは、パートナーが倒れた事に反応を示す。
しかし目の前にいるファムの攻撃が集中を乱していた。
一度は倒れながらも、ファムの攻撃はむしろ激しさを増しているではないか。
次々と迫る突きを切り払いながら、睨み合う。
「蓮! アンタに比べれば私の悩みなんてクソみたいな物だったよ!」
全部自分の事ばかり。
恵里の事で悩んでいた蓮、戦いの事で悩んでいた真司とは大きな違いだ。
しかもソレで自己嫌悪、まるで救えない。
「だけど思い返してみれば、戦う理由はすげぇ簡単だったよ!」
姉を蘇らせたいとか、いろいろ叶えたい願いはあった。
だけど一番守りたい物とか、一番叶えたい願いを考えてみたら答えは一つ。
美穂はその想いに向き合う事ができた。
だからこそココにいるのだ。
だからこそ戦う決意を固めたのだと。
「戻りたいんだよ。私は、楽しかった時に」
「ッ」
「つい最近じゃない。真司やまどかちゃん、皆笑ってただろ? なのにどうして今は泣いてんのよ?」
友達だったじゃないか。楽しく笑い合えてた筈じゃないか。
「霧島、人は変わる。それに恵里は奇跡を使わないと一生あのままかもしれないんだぞ!!」
確かに。ファムは仮面の奥で唇をかむ。
「そりゃあ私だって、また恵里に会いたいよ」
でも、だから引き下がらない。
「でも変わらない思いがある。アンタの恵里に対する思いがそうであるように」
だから蓮は戦いを選んだ。
「私のこの想いも、変わらない」
「!」
「ごめん。でも分かってよ。恵里、蓮」
みんなが笑いあえる未来を目指す為に、今はちょっと我慢してて。
ファムはますます剣のスピードを上げていった。
人を殺して叶える願い、その先には破滅しかない。
悲しみの上に立つ笑顔はいつか音をたてて崩れる筈だから。
「ごめん、お姉ちゃん――ッ」
願いがあれば、蘇らせる事もできるだろう。
(だけど、お姉ちゃんは言ったよね?)
美穂の脳に幼い頃の思い出が蘇る。
よくやんちゃして母親に怒られた時、姉は逆に褒めてくれた。
誰にでもありそうな思い出が、美穂の希望だった。
『美穂ちゃんは、好きな事をやってた方が輝いてるよ』
(嬉しかったよお姉ちゃん。だからごめん、私のワガママを突き通させて)
ファムはついに、突きをナイトの胴体にクリティカルヒットさせる。
ナイトの動きが止まった。ファムはさらに蹴りを決めると、その反動で後ろに跳んだ。
「蓮。アンタが恵里を助ける為に、皆を傷つけるっていうなら」
「………」
「私は、全力でアンタを止める」
ファムの雰囲気が変わった。決着をつけるつもりなのだろう。
しかしまだファイナルベントの再構築には時間がある。
まして先ほど、ファイナルベントの打ち合いにファムは負けていた。
ナイトに負ける気はなかった。
剣を構えてファムの攻撃を待つ。
隙を見て、反撃の一手を打ち込むつもりだったのだろう。
「悪いな、蓮」
「ッ?」
「私は、一人じゃないんだよ」『ユニオン』
「しまった!!」
ナイトはその意味を理解する。
そうだ、ファムは一人じゃない。ファムの背後には、浅海サキが立っていた。
そういう事か。
ナイトはすぐにかずみを呼ぶ。
しかし未だに痺れが残る状態。ましてやイルフラースの反動もある。
かずみは力を込めるが、体がビクともしなかった。
「ごめん蓮さんッ、体が動かないッッ!」
「クッ!」
振り返るナイト。
そこには並び立つファムとサキが見えた。
ユニオン、その魔法があればファイナルベントを連続で発動できる。
ファムとしても、できる事ならば一人で決着を付けたかった。
だがもうこの想いは自分だけの物じゃない。
「「戦いを止める」」『ファイナルベント』
またも二人の声が重なる。
そうだ、ファムだけの願いじゃない。
ファム達の願いなのだ。
「「皆を守るッッ!!」」
「くッ!!」
サキが地面を叩くと、ナイトの周りに雷の柱が次々に出現していった。
これは危険だ、ナイトはガードベントであるマント・"ウイングウォール"を発動して、回避に集中するのだが――
「甘いッ!」
「何ッ!!」
ブランウイングが出現すると、羽ばたきでナイトの動きを封じる。
それだけじゃない。風は円形状に並んだ雷の柱達を、移動させていく。
一点に収束していく雷の柱たち。
それはすぐに雷の檻へ変わり、ナイトの逃げ場を完全に断った。
いや、それだけじゃない。雷の柱はさらに移動を続け、完全にナイトへ重なった。
「グオオォオオォォォオオオッッ!!」
「安心しろよ、ちゃんと加減はしてあ・げ・る!」
雷に打たれ、ナイトの動きが完全に停止する。
ファムはマントを翻し、サキは腰を落とし、それぞれは同時に空へ跳び上がる。
「決める!」「ああ!」
二人はそのまま空中で一回転、そしてナイトへ狙いを定めた。
「「ハアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」
そして同時に、電撃を纏わせた飛び蹴りを放つ。
ダブルキックの軌跡は雷の残像を残し、まるで『剣』の様に見えた。
雷で相手の動きを封じて放つ二重の飛び蹴り。
これこそが二人の複合ファイナルベントである"ミスティック・セイヴァー"。
それは迷いを断ち切る白き一閃。蹴りはナイトに直撃して、大きく吹き飛ばす。
「グハッ! ウゥウゥゥッッ!」
帯電しながら転がって行くナイト。
立ち上がろうとするが、ダメージが大きいのかそれは叶わなかった。
そこへ歩いていくファム。彼女は変身を解除して、寂しげな表情を浮かべる。
「そんなに早く、答えを見つけなくてもいいじゃん……」
「何ッ?」
確かに今のままなら、恵里を救うためにはゲームに勝ち残るしかないのかも。
ワルプルギスの夜を倒した場合、叶えられるのは全員で一つの願いだ。
それを恵里のために使えるのかと聞かれれば、恐らく不可能だろう。
「でも、もしかしたらさ、ゲームの途中で恵里が目覚めるかもしれないだろ?」
そうでなくとも、目覚めさせるヒントが出てくるかもしれない。
希望が見えてくるかもしれない。難しい話か? 厳しい話か?
だろうな、あまりにも確立の低い考え方だ。
「でも、ゼロじゃない」
「……っ」
そこに1%でも可能性があるのなら、焦る事はないんじゃないかと美穂は言った。
人の命はそれだけの重さを持っている。それはナイトも承知の上だ。
戦いの途中で迷う事もよく分かる。ナイトは倒れているかずみを見て、深いため息をついた。
「いいだろう。今回は……、俺の負けだ」
ナイトは変身を解除して蓮の姿に戻った。
しかしと、鋭い眼光で美穂を睨む。
「今回は、だ」
「え?」
「ゲームに勝つしか方法が無いと分かったときには、俺は、戦う」
「……分かったわよ」
そこで美穂の肩に触れる手。
横を見れば。同じく変身を解除した真司が立っていた。
「蓮ッ、そん時は、俺が相手になってお前を止めてやる!」
「………」
蓮は、頷いた。
二人は真剣な表情でしばらく睨み合っていたのだが――
「だから私を置いてくなってのっ!!」
「ア゛ーッ!!」
美穂は真司の背中を思い切り叩く。
そして蓮を見た。
「どうしようも無くなった時は、私と
「……フン」
蓮は少し驚きつつも、唇を少し吊り上げた。
どうやら中身は変わっていなかったか。
蓮は倒れて身悶えている真司を見て、つくづくそう思う。
「うく……っ」
蓮から少し離れた所で力を込めるかずみ。
まだ、うまく立ち上がる事ができない。
蓮の役に立てなかった。敗北したという悔しさも相まって、涙が浮かんでくる。
「はい! かずみちゃん!」
「!」
しかし、そこへ差し伸べられる手。
かずみが視線を移すと、ソコには優しい笑顔を浮かべたまどかが立っていた。
優しさに釣られて、かずみも笑う。
だが忘れたわけじゃあるまい。そんなまどかを、かずみは殺そうとしたのだ。
許される訳がない。手を取る資格は無いと、かずみは目を反らす。
「わたしは気にしてないよ、かずみちゃん」
「!」
まどかは自分からかずみの手を握ると、ゆっくりと首を横に振る。
こんなゲームだ。途中で迷う事も、傷つけてしまう選択を取ってしまう事もあるだろう。
まどかは昔のかずみを。
楽しく皆で笑いあっていた頃のかずみを知っている。
決して殺し合いを望む性格では無いという事を知っているのだ。
「ま、まどか――ッ!」
ニコニコと笑うまどかを見て、かずみは涙を流しながら手を握り返した。
同時に優しく抱き起こされる。サキがかずみを支えていた。
「サキ……!」
「すまなかったな。投げ飛ばしたりして」
サキはまどかと同じく、優しい笑顔をかずみに向ける。
「キミの気持ちはよく分かるよ。私も、傷つけようと思っていた身だから」
だがほむらに言われた言葉で、何とか自分を取り戻す事ができた。
サキは同じ事をかずみに伝える。何の為に魔法少女になったのか?
それをよく考えてほしいと。
「悪いのはキミじゃない」
サキは鋭い眼光を『彼』に向ける。
「悪いのは、この腐ったゲームを考えた連中だ!!」
『………』
ジュゥべえはサキの眼光を感じて、ニヤリと笑う。
『言ってくれるぜ、悪いのはオイラ達か? いやいや、それは違うぜ』
ジュゥべえに悪びれる様子はない。
『このゲームは宇宙を救う為の儀式だ。ましてそこへ人類への救済を与えただけにしかすぎない』
願いと言う可能性を提示している分、良心的ではないか。
『強欲なテメェらに与えるご褒美だぜ? ククク!!』
「ふざけやがって――ッッ!!」
真司は思わずジュゥべえに掴みかかろうとするが、素早い身のこなしで交わされる。
ジュゥべえは街灯の上に飛び乗ると、再び参加者達に視線を送った。
真司、美穂、蓮の三人。どうやら一時的だが和解できた様だ。
『自分を殺そうとした相手を簡単に許すとは、オイラには理解できないな』
それは少し離れた所にいるまどかとかずみにも言える事だ。
サキを中心に立つ彼女達。そしてそんな彼らを観察する場所にいる手塚とほむら。
『オイラは結構気に入ってるんだけどな。お前らの事!』
「なに?」
『本気で戦いを止めようだなんて馬鹿な奴等だ。見ていて飽きないよ。コレで感情があれば最高だったろうぜ』
反論しようとした真司だが、そこで脳に直接語りかける声が聞こえた。
一同は集中して声の主を探る。間違いない、それはキュゥべえだった。
『やあ、お知らせだよ』
相変わらずの軽い声。
今回はルールではなくお知らせという事だった。
『今日、この日を以って、全ての騎士の覚醒が確認されたよ』
「!!」
それだけじゃ無く、相方が死んでいる場合を除いて、全てのパートナー契約が結ばれたとも付け加えられた。
これで全ての魔法少女が揃い、全ての騎士がそろい、全てのパートナー達が出会ったと。
『これは宇宙の運命を決める。"神のゲーム"さ』
『同時に、テメェらの欲望を叶えるゲームでもある』
ジュゥべえはその言葉を残すと消失、一同の目の前から完全に姿を消す。
『願いの為に、頑張ってね』
キュゥべえもまた、その言葉を残して消え去った。
「………」
一同はしばらく沈黙を続けていたが、そこで手塚とほむらが合流する。
ライアペアは、今までの戦いを見ていた事を素直に告げる。
駆け寄るのは美穂とサキ、二人は感謝の言葉を手塚達に投げかけた。
「助かったよ、手塚が教えてくれたおかげだ」
「ほむらも、本当にありがとう」
手塚は構わないと笑う。
「戦いの輪が広がらなくて幸いだった。友人同士が殺しあうなんて間違っている。そうだろ?」
手塚は蓮とかずみに視線を移す。
「………」
「答えを急ぐ必要は無い。運命は、希望も絶望も持っているからな」
「だと、いいがな」
蓮はそれだけ言って、かずみに向かっていく。
かずみは、まどか達に支えられている。蓮の視線に気が付くとすぐに謝罪を行った。
「わたし、パートナーなのに役に立てなくてごめんなさい……」
「気にするな、お前はよくやってくれた」
「!!」
蓮の言葉を聞いて、かずみは笑顔を浮かべる。
その様子にコソコソと話し合いを始める真司と美穂。
「あの蓮が恵里以外に優しくするとは珍しいな」
「流石の蓮も子供のかずみには優しいんじゃないのぉ?」
そこで美穂は目を細める。
そう言えばどことなくだが、恵里の面影がかずみにある様な気がするが――?
ぐぎゅるるるるるるぅぅぅう
「は?」
―――りゅりゅ
「………」
響く、腹の音。
誰もが、その音がした方向を見た。
そこには複雑そうな表情で腹を押さえる真司が。
「空気を読めコノヤローッ!」
美穂は真司の髪をクシャクシャと揉みしだく。
倒れる真司と、吹き出す手塚。
「龍騎の時とは大きなギャップがあるものだな」
サキもまた苦笑して提案を行った。
たまたま音を立てたのが真司なだけであって、別におかしな事ではない。
「皆で食事にしようか!」
「お、いいね! 流石私のパートナー!」
サキの言葉に指を鳴らす美穂。
戦いが終わって、お腹が空いていた所だ。
真司、まどか、美穂、サキ、蓮、かずみ達で食事にしようと言う。
もちろん手塚たちも入れて。
「せっかくだからご一緒するか?」
「そう……、ね」
手塚たちも断る理由はない。
じゃあ決まりと、美穂は笑う。
とてもじゃないが、先程まで迷いに迷っていたとは思えない。
切り替えしが早いのが美穂のスキルなのか、今は活き活きと輝いている。
「蓮の店ってまだ開いてんだろ? そこにしようぜ!!」
「奢らんぞ」
スタスタと歩いていく蓮。
「どケチーッ!」
美穂は叫びながら真司を強制的に叩き起こす。
「ねえ、真ちゃん」
「な、なんだよ」
美穂は猫なで声に変わり、真司に擦り寄る。
これには流石の真司もおかしいと、表情を引きつらせる。
美穂がこういう態度の時は、だいたいよからぬ事を考えている訳で。
「真司ぃ、私今月ピンチで――」
「お、俺は奢らないからな!」
「なんでだよ! 最低!」
「どこが! お前が最低だ!」
走り出す真司と、舌打ちの美穂。
そんな二人を見て、ニヒルに笑う蓮。
コレが、先ほどまで殺し合いがどうこう言っていた三人なのか?
ほむらは真司達の割り切り様にに思わず目を丸くした。
一方で美穂は、まどかの所へ向かう。
美穂は気づいたのだ。どこかぎこちない、まどかの笑みに。
「まどかちゃん! ちゅきー!」
「はい? って、わわわ!」
美穂はまどかを抱きしめる。
先ほど真司とじゃれ合っていた時とは別人の様だ。
それは全てを包み込む様な感覚。
ファムの鏡像であるブランウイングの性質とは『慈愛』。
それを証明するように、美穂は優しくまどかの頭を撫でていた。
「まずはさ、いろいろゴメンね」
「え? え? な、なにがですか?」
「いいからいいから、お詫びにおっぱい揉んでいいよ」
「えぇえぇ!?」
「よせよ美穂! なんて事言うんだ! まどかちゃんが汚れるだろ! ほら! 早く離れろ!!」
「うるせーッッ!!」
「ピンキーッ!!」
美穂が繰り出した掌底を受け、真司はよく分からない叫び声をあげて転がっていった。
一方で美穂はもう一度まどかを抱きしめる力を強めた。
「辛いよね? ゆまちゃんの事あるし」
「………」
無言で頷くまどか。
ゆまはどんな気持ちで死んだのだろう?
どうして助けてあげられなかったのだろう?
あまりにも早すぎる死。
まどかは言い様のない責任に押しつぶされそうになっていた。
「どうすればいいのかな? 美穂さん。わたし、なんて言うか……」
どんなテンションで生きていけばいいのか分からない。
今だって、みんなでご飯は嬉しいけれど、ふと思ってしまう。
笑っていいのか、みんな苦しんでいるのに、楽しいと一瞬想ってしまって――。
「わたしは、さやかちゃんも、ゆまちゃんも、マミさんだって助けられなかった。その上で楽しいなんて感情を抱くのは、とっても最低なことなんじゃないかって……!」
「そうね。だから私達は、コレからいっぱい食べなきゃいけない」
「え?」
「いっぱい怒って、いっぱい泣いて、いっぱい生きて――!」
亡くなった者達へ恥じない生き方を選ばなければいけないのだ。
引きずる事も、もちろん大切な事だ。だがそれはイコール自分を責める事ではないと、美穂は言う。
「ゆまちゃんの為に、さやかちゃんの為に、マミちゃんの為にも! まどかちゃんは生きなきゃいけない」
「………」
「まどかちゃんの友達はさ、友達の不幸を願う最低なヤツなの?」
「そんな事は!」
「そう、それ。だからいっぱい食って笑おうぜ! まどかちゃん!!」
「……ッ!」
まどかの目に浮かぶ涙、美穂はハンカチを取り出すとそれを拭ってあげる。
すぐに切りかえる事はできないかもしれない。
しかしそれでも自分達は前に進まなければならないのだ。
全ては選択と決断にある。
美穂はまどかの手を握ると、そのまま真司たちの所へと歩き出した。
「もう二度と、犠牲者は出さない。今はそれが大事」
「はい!」
まどかは頷くと、美穂と手をつないで歩いていった。
「………」
最後尾で、ほむらは唯一深刻な表情を浮かべていた。
(千歳ゆまは、希望とはなり得なかったか)
幼いゆまには気の毒な話だが、これもまた一つの運命。
(話を聞けば呉キリカもいる事だし、間違いなく"彼女"もいるのよね)
ほむらは過去のことを思い出して胸を押さえる。
あの時は、あと一歩の所で――
「………」
しかし気になるのはゆまを殺した犯人だ。
そう。誰がゆまを殺したのか?
答えは――、佐野が報酬を受け取り、織莉子のお茶会を断った時まで遡る。
佐野が家に帰り、百合絵に会っていた頃、織莉子とキリカはお茶会を楽しんでいた。
既に断っていた13番は屋敷の塀で相変わらず居眠りである。
そして更に時間が流れ、日は落ちる。
話し疲れたのか。キリカはすっかり満足して眠りこけてしまった。
「あらあら」
織莉子は困ったように笑い、キリカを屋敷へ運んだ。
そのままベッドに眠らせると、お茶の片づけをするために庭まで戻った。
そこで13番がやって来る。
「あら、どうしたんですか?」
「ちょっとコレからの事を聞いておこうって」
さやかを集中的に狙う様、作戦を立てたのは織莉子だ。
織莉子の魔法は『確立』魔法だ。美樹さやかが死ぬ事で、ゲームに勝利できる確立を跳ね上げる事ができる――、などと言っていたが、現状何かが変わった気はしない。
そのことに13番は疑問を感じたのだ。
「今は、まだ」
「ふぅん、まあいいけど」
少しの間、沈黙が続く。
ティーセットを片付ける音がだけが庭には聞こえ、それが終われば完全な沈黙が場を包んだ。
しかしこのままと言う訳にもいくまい。
織莉子は13番の雰囲気がいつもと違う事を指摘する。
「何かあったんですか?」
「アタシなりに考えてみた。これからの事を」
もう十分情報は集まったし。
もう十分織莉子たちの事も観察できた。
それは13番にとって何よりもいい経験になっただろう。
だからふと、13番は話題を変える。
「集会のアタシの演技、褒めてくれたよね?」
「ええ。あの発言で多くの参加者を混乱させる事ができました」
13番は魔法少女集会にて参戦派を名乗り、参加者を皆殺しにすると宣言してみせた。
それは織莉子の言うとおり、多くの参加者に影響を与えた発言だろう。
さやかの動揺も、これによって上乗せされたものだ。
「でもあれなぁ……」
ねっとりとした言葉で、13番はニヤリと笑う。
「演技でも何でもないんだけどねッッ!!」
「!!」
銃声。
13番は魔法少女に変身すると、武器である『銃』を迷わず発砲した。
だが直後、銃弾がガキンと何かにぶつかる音がする。
織莉子は超反応とも言える速度で変身すると、武器である球体状の宝石・『オラクル』で銃弾を防いだのだ。
オラクルは織莉子の周りに無数と出現。
織莉子を守る半自動的な装置となり、アシストを行う武器だった。
「何を……?」
「決まったんだろぉオ?」
銃を撃つという事は、対象を殺す為に他ならない。
13番には考えがあったのだ。さやかが死んでも織莉子が目立った動きをしていないのは、内緒で確立魔法を発動させていたからでは無いかと。
その確立とは――
「アタシが、裏切る確立!!」
「………」
13番は織莉子の仲間であった。
しかし最後までそれを突き通すつもりなど、さらさら無かったのだ。
織莉子を見つけて近づいたのは、13番からだ。
協力するという名目で、今まで織莉子の実力や考え方、作戦、行動方針を探ってきた。
「でももういい。もう十分、おなかいっぱい」
13番は『問題なし』という結論を導き出した。
本当ならばもう少し泳がせても良かったが、織莉子がパートナー契約を未だに結んでいないという点に注目する。
同時にそれが13番が織莉子に近づいた狙いであった。
多くの参加者がいる中、13番は『能力』を使いつつ、様々な魔法少女を調べてきた。
その中で織莉子を見い出し、集中的に調査を続けてきたのだ。
何故か? 決まっている。
それは織莉子がゲームにおいて最も脅威となりえたからだ。
「アンタを放置するのは、危険なわけで」
「………」
「そうだろ? 当たりを引いた、織莉子様? くフフフ!!」
「っ!」
13個あるデッキの内、『当たり』と呼ばれる物が存在する。
その一つが織莉子が持っている『力』のデッキだった。
13番はそれを見抜き、織莉子がどれだけゲームに影響力を齎すのかを確認してきた。
確かに織莉子自身は大きなプレッシャーを秘めている魔法少女だ。
だが気迫は凄くとも、魔法少女の実力としては限界がある。
しかもパートナーとは未だに接触できていない状況。
叩くなら今しかない。タイミングはバッチリではないか。
「いつ裏切るの? 今でしょ! あ、これもう古い?」
ハイテンションに笑いながら、13番は武器である二丁のハンドガン・"リベンジャー"の引き金を引く。
織莉子はオラクルを使い銃弾を防ぐ中、魔法結界を発動する。
広い庭を覆うようなドーム状の結界。
「わお、すごい!」
13番は賞賛の口笛を。
魔法結界が、僅かの間、まわりの景色を変化させる。
荒野が見えた。周りにはビルの残骸や、枯れ果てた草木が見える。
まるでそこは、世界の終わりの様だ。
「これは未来、変えるべき世界」
「はぁ?」
織莉子は壮大な雰囲気を醸し出し、13番を睨みつけた。
なんという威圧感だろうか。13番もその迫力には少し怯んでしまう。
織莉子が優勝候補というのは頷ける話だ。力のデッキを手にするには相応しい。
「まあでも、殺すけど!」
「残念です、同じ当たり引きなら、仲良くできると思っていたのに」
その言葉に13番は大笑い。
どうやら見抜かれていた様だ。尤も、派手な使い方だったから当然といえば当然だが。
そう、13番もまた二つある当たりを引いた存在。
つまり織莉子と対になる存在だった。
「『技』のデッキを持つ、この"ユウリ様"がお前を処刑してあ・げ・る!」
大きな魔女帽子。金髪のツインテール。
露出の多いピエロのような格好。全身をつつむ赤紫。
"魔法少女ユウリ"は、集会で宣言した信念を曲げた事は無い。
「つまり参加者全員、皆殺しだってのッッ!!」
景色が元に戻る。
ユウリは地面を蹴って宙返り、そのまま織莉子との距離を離す。
織莉子とは同じ『当たり』を引いた存在だが、決定的に違う部分が一つある。
それはパートナーと契約をしているかしていないかの差。
織莉子は未だにパートナーを探している状況だが、ユウリは違う。
身につけているスプーン状のペンダントには紋章が見えた。
それは歪な『龍』に見える。龍騎の物と似ている気がするが――?
「美国織莉子。契約してないお前とアタシ様ではッ、レベルが違うんだよ!!」
「っ」
ユウリが取り出してみせたのは、間違いない、騎士のデッキだった。
そこから三枚のカードを素早く抜き取ってみせる。
「なにを?」
織莉子は辺りを探るが、騎士の気配はない。
驚くのはここからだった。ユウリは手に持ったカードを宙へと放り投げる。
舞い上がるカード、同時にユウリは銃の標準を定める。
「来い! ステーシー! バージニア! ゲルトルート!」『『『アドベント』』』
引き金を引くユウリ。
リベンジャーの弾丸が、カードを貫いた。
すると濁った音声と共に、カードの効果が発動されたではないか。
技のデッキは、魔法少女の武器をカードバイザーに変える力を持っている。
ユニオンとの違いは、一切魔力を消費しない点だ。
これにより、常に騎士の力をフルに使っていける。
さらに驚くべきはアドベントの効果によって召喚されたモンスターである。
現れた異形は三体、そしてそれらはミラーモンスターでは無かった。
「魔女……ッ!!」
「ふははは! さあ殺せ殺せ! ブチ殺せェエエエエエ!!」
歪な猫の頭部が三つ組み合わさり、体は女性の体型を残し、体からは鋭利な爪が飛び出している猫の魔女・『
ダイアの頭部に巨大な一つ目。
体は大きく、鎧に包まれた鎧の魔女・『
そして薔薇の魔女ゲルトルート。
三体の魔女はユウリを守る様にして出現。
魔女達はユウリの命令どおり、一直線に織莉子を狙って動き出した。
「さあ始めよう。魔女と魔法少女、血みどろ
「くっ!」
「イカしてるね、イカレてる? あっは!」
ゲルトルートはまず、バラの蔓で織莉子の動きを封じようと動いた。
無数に迫る蔦だが、織莉子はオラクルを飛ばして次々に塞き止めていく。
一方でステーシーは走り、織莉子を直接狙った。
とは言えど、次々に迫るオラクルが直撃していき、動きが止まっていた。
バージニアはそれなりに硬く、大きい。
オラクルを強引に突破しながら、細長い腕を伸ばして織莉子を貫こうとする。
「くッ!」
織莉子は魔女の攻撃パターンを読んで回避を行っていくが、余裕とは言えなかった。
地中からは蔦が迫り、素早いステーシーを目で追い、迫ってくるバージニアからは距離を取らなければ。
「縛って縛って搾り取れ~♪ そしてら潰して引きちぎれー♪」
ユウリは庭においてあった椅子に腰掛けて、歌を口ずさむ。
随分と余裕な物だ。それもそうか、呼び出した魔女達は完全にユウリの犬と化している。魔女がユウリを狙う事は無い、完全な使い魔と成り果てているのだ。
「魔女狩りのユウリ、そんな名を聞いたことがあります」
「フッ! いいね。なかなかスパイシーな二つ名で」
とはいえ織莉子も負けてはいない。
オラクルは無数に展開され、織莉子を的確に守る様に高速で動いている。
さらに一部は自動で動いてくれるため、そこまで扱いに難しい訳でもない。
威力もそれなりにある。
織莉子はオラクルを次々に魔女達へぶつけていき、ダメージを与えていった。
オラクルは織莉子の意思一つで爆発させる事ができ、その衝撃も加わって三対一の状況を苦と感じさせない立ち回りを見せている。
「お前らッ! 囲め! 囲んでリンチコース!」
ユウリの怒号に反応する魔女達。
言われたとおり、織莉子を囲むように陣形を変えて攻撃をしかける。
織莉子も最初は攻撃を避け続けていたものの。流石に限界があったのか。
あっという間に魔女三体に取り囲まれて見えなくなってしまう。
「グローリーコメット!」
「!」
しかし光とともに魔女達が大きく吹き飛ぶ。
見れば織莉子の周りをオラクルが円形状に並び、高速回転を行っているじゃないか。
倒れる魔女達。
唯一バージニアのみが耐え切って立っていたが、織莉子はすぐに後退していき、仕切りなおす。
さらにそこで周りを見ていた。
ゲルトルートは体が大きいため、防御力もそれなりにあるらしい。
しかしスピードファイターのステーシーは違う。ダメージも大きいようで、立ち上がろうとしているが、大きくフラついていた。
「消えなさい!」
『ギニァアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
織莉子はグローリーコメットを発射。
円形状に回転するオラクルは、ギロチンとなりステーシーの胴体を真っ二つに切断する。
魔女は爆散し、グリーフシードをドロップした。
すると地中から蔦が伸び、グリーフシードを弾き飛ばす。そのままユウリの手に収まった。
「あッは! 酷い事をする。アイツも元は同じ魔法少女なのにさ」
「ええ、知っていますよ」
織莉子はゴミを見るような目でユウリ見ていた。
使役した魔女が一体死んだというのに、ユウリはまだまだ余裕のようだ。
しかしグローリーコメットはまだ継続中である。
ステーシーを切断した後は、猛スピードでユウリの元へ飛来していた。
ユウリは冷静だった。
デッキからカードを弾くと、それをリベンジャーで貫く。
「エルザマリア!」『アドベント』
ユウリの前に出現するのは影の魔女・エルザマリア。
魔女はユウリを後ろから抱きしめるようにすると、形状を変化させて、マントになった。
ユウリがマントを翻すと、マントから無数の黒い手が伸び、オラクルを止めようと向かう。
「無駄なことを!」
織莉子の言うとおりだ、オラクルは影を切り裂きながらユウリに向かう。
ならばと、ユウリはマントを広げて空に飛び上がった。
ナイトのように、マントが翼になるらしい。
とは言え、オラクルは執拗にユウリを狙う。
織莉子は背後から迫る魔女達を牽制しながら、オラクルの操作を続けた。
「しつこいねぇ」『フリーズベント』
通常のバイザー音声より濁った音が、カードの発動を告げる。
同じく濁った龍の咆哮が響き渡り、ユウリはリベンジャーをクロスさせて銃口から巨大な炎を発射する。
この黒い炎弾がオラクルに直撃した時、変化が起きた。
ビキビキと音を立ててオラクルが石化を始めたのだ。
あっと言う間にオラクルは石に変わる。
織莉子はオラクルを操作しようと力を込めるが、石になったオラクルが動くことは無かった。
そのままユウリの前に虚しく落ちるだけ。
ユウリはそのオラクルを踏み潰すと、舌を出して笑った。
「ざーんねん! アハハッ!」
「………」
織莉子の迫力にも、ユウリは全く動じなかった。
それが優勝候補たるユウリの実力なのだ。なによりも自信があった、パートナーと契約していない織莉子など、優勝候補として機能してないからだ。
「とりあえずお前を殺して、屋敷の中にいるキリカも殺してやるよ」
「随分な自信ね」
「当然、アタシは優勝するんだもん」
オラクルは、魔力を注げば新しく生み出せる。
織莉子はもう一度オラクルを乱射して魔女達を怯ませると、本体はそのまま上空へと飛び上がる。
見れば、織莉子は足裏にオラクルを忍ばせていた。
つまりオラクルに乗っているのだ。小さな球体だが、人を乗せたまま浮遊することなど造作も無いようだ。
織莉子は地面にいるユウリを睨む。
ユウリは不快感に表情を歪ませ、舌打ちを零した。
「チッ! ゴミが、見下してんじゃねぇぞッッ!!」
リベンジャーを連射するユウリ。
ちなみにこのハンドガン、篭められてるのは魔力でできた弾丸であり、リロードの必要はない。
ブローバックは行われるが、排出するのは薬莢ではなく、余剰エネルギーだ。これは自動的にユウリのソウルジェムへ戻り、再び弾丸を生成する魔力へなる。
ともあれ、その弾丸の威力は、やや抑え目である。
現に、全てオラクルに防がれてしまい無効化されていた。
下にいる魔女達も飛べはしない為、全ての攻撃が虚しく掠るだけ。
一方の織莉子はオラクルを地面のほうへ飛ばし、まるで隕石のように攻撃をしかけていく。
魔女の悲鳴が聞こえる。その中で、ユウリはまた笑った・
(案外弱そうに見えて厄介な武器だな)
エルザマリアのマントを盾にしながら、ユウリはフィールドを駆け回っていく。
フリーズベントの効果はまだ継続しているらしく、銃をクロスさせる事で石化弾を放っていった。
そうやってしばらく均衡の戦いを繰り広げていくが、結局は織莉子の攻撃を防いでいるだけである。
このまま織莉子の魔力切れを狙うのは味気ないし、どれだけ時間が掛かるのかも分からない。
故に、痺れを切らしたのか、ユウリがありったけの叫び声をあげる。
「来てよパートナァアア!!」
「!?」
聞こえる咆哮。
織莉子が後ろを振り向くと、そこには大口を開けた異形があった。
「クッ!!」
織莉子はすぐに足裏のオラクルを移動させ、空中をスライドする、
噛み付かれるのを防いだが、異形はすぐにその口から真っ黒の炎を発射する。
織莉子は瞬時に、全てのオラクルを自分の周りに収束させて炎を防御する。
しかし衝撃が強いのか、吹き飛ばされて地面に落ちることに。
「あぐっ!」
「ひゃっほう! 墜落ドーン!!」
両手でサムズダウンを行い、挑発するユウリ。
一方で織莉子は体を起こし、現れた異形を確認する。
思わず、冷や汗が浮かぶ。そこにいたのは真っ黒な、
「何て禍々しい――ッ!」
龍の全身から闇の波動を感じる。
血のように赤黒い目、濁りきった咆哮、そして気配、足音。
織莉子の背筋に寒いものが駆け巡っていく。
「これは一体?」
ニヤついているユウリは無視して、織莉子はすぐに足音の出所を探った。
するとすぐにそのシルエットを発見する。
織莉子に向ってゆっくりと歩いてくるのは闇。
ただの黒ではなく全ての飲み込むような闇の色をしていた。『彼』もまた龍と同じく、目だけは赤く光っている。
「あれは――っ!?」
織莉子は混乱する。
美樹さやかの仲間に、同じ姿の騎士がいたからだ。
「リュウガぁああ!!」
ユウリが名を呼んだ。『リュウガ』と呼ばれた騎士は、ゆっくりと顔を上げる。
そして跳躍、一気にユウリの元まで移動する気だ。
織莉子はすぐにオラクルを飛来させるが、ユウリはマシンガンを無数に召喚して全てのオラクルを妨害していった。
さらに継続されているアドベント。『邪龍・ドラグブラッカー』は、巨大な体で織莉子に突進をしかけていった。
「うッッ!!」
織莉子はオラクルにつかまり、右にスライドすることで回避したが。
既にリュウガはユウリのもとへ到着していた。
「はははははは!」
エルザマリアのマントを広げるユウリ。
そこに並ぶリュウガ。黒と黒が重なり合う。
織莉子は何か違和感を感じた。
鎧に覆われているため、あくまでもイメージの話だが、リュウガからは生命の脈動をまるで感じなかった。
まるでロボットの様だ。普通に人間ではないような、とにかく不気味な騎士だった。
「!」
リュウガが歩いてくる。
織莉子はすぐにオラクルを向かわせるが、一瞬だった、リュウガが両腕を振ると、オラクルを掴み取っていた。
「なッ!!」
リュウガは掴んだオラクルを一瞬で握りつぶし、また次のオラクルを掴み取る。
ならばと、織莉子はリュウガの下半身、とくに足にオラクルを向かわせるが――
そこで黒の残像。
リュウガがオラクルを蹴り飛ばした。さらに弾いたオラクルが、別のオラクルに直撃して破壊されていく。
ならばと複数のオラクルを纏めて向かわせるが、リュウガは回し蹴りで強引に蹴り飛ばしていく。
いくつかは命中しているものの、リュウガの歩みが止まることはない。
背後にはまだ二体の魔女が存在している。そちらを止めるためにもオラクルを向かわせており、当然操る側の負担も増える。
ましてやゲルトルートは地中からの蔦がある。
そこに気を取られていると、肉体的にも精神的にも疲労が重なるのだ。
「ッ」
織莉子とて人間だ。気を張ろうとも、集中力は切れていく。
だから気づかない。リュウガの背後に身を隠していたユウリに。
「ハハハハ!!」
ジリジリと迫ってくるリュウガ。
その肩を蹴り、ユウリは一気に前に出る。
地面を転がると、立ち上がりざまに射撃、そのまま走り出した。
「クッ!!」
疲労があれば、当然それだけオラクルの動きも悪くなる。
ユウリはそれを待っていた。二丁拳銃を連射して、オラクルの勢いを止めながら織莉子へ距離を詰める。
気づけば、二人の距離は間近に迫っていた。
ユウリは回転し、マントを払う。
それが織莉子の前に待機していたオラクルを吹き飛ばした。
さらにユウリは回転の勢いをつけて回し蹴りを繰り出していた。
織莉子は右腕を盾にして、その蹴りを受け止めるが――
「バーカ!」
「ッツ!」
「蹴りはフェ・イ・ク」
銃声。
ユウリはリベンジャーの引き金をひき、織莉子の足の甲を撃っていた。
織莉子は痛みに表情を歪ませるが、ここで怯んではいけない。
二発目は許さない。織莉子は両腕を前に出し、掌底を繰り出す。
が、しかし。
ユウリのマントが、一瞬でユウリを包み込み、身代わりとなった。
マントはすっぽりとユウリを包み込んで姿を隠す。
織莉子にはその意味が分かった。
マントは囮だ。素早く後ろに下がると、予想通りユウリがスライディングで突っ込んできた。
「やっぱりバレバレ!?」
「浅はかですね!」
「それはどうかな? 恥が熟れるね」
適当な造語。
織莉子は反撃を行おうとしたが、ユウリはウィンドミルのように体を回転させて蹴りを行う。
さらに銃も乱射しており、蹴りと弾丸に織莉子も動きを止めてしまう。
「リュウガ!!」
ユウリの声に反応し、リュウガは前宙で一気に距離をつめた。
リュウガはユウリの後方に着地すると、そのままユウリの脚を掴んで上に放り投げる。
騎士の力により、ユウリは一瞬で空高く舞い上がった。
「あは! いい眺め!」
ユウリはマシンガンを両肩の上に出現させ、リベンジャーを合わせて連射する。
降り注ぐ銃弾の雨。織莉子はオラクルを盾にして、それを防ぐが、そうするとまた集中力が欠如していく。
魔女を抑える分、盾にまわす分、攻撃に使う分。
それらを動かしながら敵の動きを把握するのは、無理がある。
ましてやリュウガはオラクルの動きを見切っていた。
「うっ!!」
だからこそ、織莉子はリュウガの拳を受けてしまう。
腹部に一発。呼吸が止まり、織莉子はヨロヨロと後退して行く。
一方でリュウガはデッキに手をかけ、カードを一枚引き抜いた。
いけない、織莉子はオラクルを向かわせようとするが――
「うア゛ッッ!!」
それよりも早く、リュウガは蹴りが織莉子の肩を打つ。
怯む織莉子。その隙にリュウガは、龍騎と同型の『ブラックドラグバイザー』を展開させる。
カードを使わせてはいけない。
織莉子は痛みを無視してオラクルの意識を注ぐ。
だが、その時、無数の『枝』が見えた。
「――ァ!」
マントで姿を隠したユウリは、それを囮にした。
そうなると当然、マントはその場に残る。そしてそのマントはただのマントじゃない。
魔女・エルザマリアはユウリの命令を受けて、攻撃を仕掛けたのだ。
エルザマリアは周囲の影に寄生し、そこから枝状の『槍』を生みだす。
織莉子も、自分の影には意識を向けていなかったようだ。
枝は織莉子に刺さり、また怯ませる。
動きを止めれば、リュウガを邪魔するものは何も無い。
カードは発動され、同じくしてユウリはリュウガの肩に着地する。
『ストライクベント』
ブラックドラグクローがリュウガに装備される。
同時に織莉子の体が宙に浮いた。
地面が割れ、そこからドラグブラッカーが現れたのだ。
邪龍は織莉子を噛み、そしてそのまま舞い上がる。
「やれ」
ユウリは足でリュウガの頭を軽く叩き、肩から降りる。
ぞんざいな扱いではあるものの、リュウガは命令どおり、構えを取った。
ブラックドラグクローに、黒い炎が集まっていく。
炎が溢れた。
ドラグブラッカーは織莉子を噛んだまま炎を発射する。
黒炎は織莉子を押し出しながら地面に飛んでいった。
だが、直撃はしない。
なぜなら同時にリュウガが腕を突き出したからだ。
昇竜突破。黒炎が黒炎に交わる。織莉子を包んでいた炎と、リュウガが発射した炎が交わり、爆発を起こした。
「ナイスパートナー」
ユウリが下卑た笑みを浮かべる。
織莉子は炎に包まれながら地面を滑っていった。
「ぅ……ッ! アァッ!」
織莉子は地面を転がり、自分を包む黒炎をかき消した。
呼吸を荒げてすぐに立ち上がるが、そこで激しい抵抗感を感じる。
見れば足に、腕に、バラの蔓が巻きついていたのだ。
ゲルトルートだ。すぐにオラクルを使って逃げ出そうとするが、ユウリの笑い声が聞こえてくる。
「フフフハハ……! クヒハハハ!!」
銃声。弾丸がオラクルを弾く。
そうしているうちに背後にはバージニアが。
「――ッ! アアアアアアアアアアッッ!!」
吹き出す鮮血。
バージニアの腕が、織莉子の背中から腹部を貫通し、さらに地面に突き刺さって、織莉子の動きを封じる。
まさに磔だ。
「ヒャハハハ! いいよぉ! アンタみたいな上品そうな奴が悲鳴あげるって興奮しちゃうね!」
腕を切り離すバージニア。すると新しい腕が生えてきて、再び織莉子を狙う。
「クッ! ォオオオオオオオオ!!」
このままやられる訳には行かない。
織莉子は大量の血を流しながらも、オラクルを操作、
バージニアに無数の連撃を当てて後退させていく。
その隙に逃げようと試みるが、槍の様なバージニアの腕はしっかりと地面に刺さっており、逃げられない状況だった。
「魔法少女の標本なんて可愛い!」
ユウリが指を鳴らすとバージニアが消滅。
しかし刺さった腕は消えず、織莉子はそのままだった。
ユウリはしばらく恍惚の表情を浮かべていたが、一瞬で殺意交じりの形相に変わる。
「もういい、飽きた。死ね」『ユニオン』『ファイナルベント』
リュウガは機械的な動きでユウリの前に立つ。
同時に咆哮を上げながら、ドラグブラッカーが二人の周りを激しく旋回する。
リュウガは両手を広げ、ゆっくりと上空へ浮き上がっていく。
その周りを飛びまわるドラグブラッカー。
すると黒く燃え上がる炎塊が13個、リュウガを中心にして、円形に並ぶ。。
「ステーキは焼き方が大事なの」
ユウリがリベンジャーを撃つと、光線が発射されて織莉子に命中した。
場所は足。痛みはほとんど無いが、そこで織莉子は気づいた。
光線があたった場所に、リュウガの紋章が浮かび上がっていた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「!!」
ドラグブラッカーが吼えると円形に並んだ炎の頂点、時計でいうなら12時の場所にあった炎塊が、発射された。
それは織莉子の足に直撃する。
絶大な痛みと苦痛に、声をあげる織莉子。
彼女はようやく紋章の意味が分かったようだ。
「血の滴るレアもいいけど、アタシはよく焼きが好みなの」
あれはマーカーだ。
ユウリはそのままポインターを連射して、織莉子の体中にリュウガの紋章を打ち込んでいく。
炎は、紋章に吸い寄せられるように着弾。
あっと言う間に13発の黒炎が織莉子を包む。
「あっはぁ! 綺麗だよ美国ィ、焼け焦げたアンタの姿!」
「………」
美しかった織莉子の魔法少女衣装が、炎を受けてボロボロになっている。
さらに石化効果が発動しているのか、織莉子の四肢や顔の一部が変色しているじゃないか。
織莉子は何も言わずジットリとユウリを睨みつけるだけ。
しかし既に虫の息と言ってもいいかもしれない。
ビキビキと音を立てて石化も進んでいく。
もはや勝負はついていた。
そして飛び上がるユウリ。
先頭をリュウガにして、中間にドラグブラッカー、後方にユウリの順で並ぶ。
リュウガはキックのポーズを。そしてユウリは銃をクロスさせて引き金を引いた。
「黒がお前を焼き尽くす!!」
「!!」
引き金を引いてもリベンジャーからは何も出ない。
代わりにドラグブラッカーが『炎の龍』に変わり、発射される。
黒炎龍は前方にいたリュウガを飲み込む様に通り過ぎる。
すると眼が赤く光り、炎が黒く発光を始める。
轟々と燃える黒龍は、そのまま一直線に織莉子まで飛んでいき、大口を開いた。
「バクッ! なんてね! くひゃははははははははは!!」
龍は、織莉子を飲み込む様にして着弾した。
黒い炎の中に消えていく織莉子。
そのまま大爆発が起きて、完全に闇の炎に包まれた。
「魂まで焦がす、"ウェルモルテ・ドラグーン"のお味はいかが?」
出来上がりましたのは、白い魔法少女のステーキにございます。
息絶えた織莉子の手が虚しく伸びてユウリを指し示している。
それを見て恍惚の表情を浮かべるユウリ。
「まずは一人」
舌なめずりを行う。
「お?」
間抜けな声をあげるユウリ。
気が付けば周りには綺麗な
「あ」
爆発。
「……忘れてた。爆発できるのね、あれ」
やられた。ユウリは不満げな表情でため息を漏らす。
織莉子は最期の最期でオラクルをユウリの着地地点に転がしていたのだろう。
何とかガードは成功したが、無駄なダメージを受けてしまった。
ユウリの魔法少女衣装はとにかく露出が多い。
オラクルの破片が素肌に突き刺さり、血が流れている。
耳鳴りも酷い。と言うより、耳が無くなっていた。
「こんなのすぐに治るけど……」
本当ならば、このままキリカも殺す予定だった。
しかしユウリはキリカの魔法を知っている。
傷を負った状態では、なるべく戦いたくない。
考えた結果、今日のところは撤退を選ぶ。
「まあ美国織莉子は殺せたし、十分かな」
ユウリはエルザマリアを再装備すると、それを翻して姿を消した。
これから全ての参加者を皆殺しにする戦いが始まるのだ。
心配は無い。
その為の力がユウリにはある。
きっと神様が勝てと言ってくれている。だから当たりを引けたのだと。
「ふは――ッ!」
勝つのは、アタシなんだよ!
ユウリは心の中でもう一度宣言して、歪に笑う。
「フハハハハ! アーッハハハハハハハハハハハハッッ!!」
【美国織莉子・死亡】【残り22人・12組】
しかしユウリは気が付いていなかった。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
街を駆けるは黒い影。
呉キリカは、ビルの屋上を伝いながら見滝原を駆け抜ける。
「ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ」
口にするのは呪詛の言葉。
おかしいと思うか? いやいや、愛する人が殺されれば誰だって世界を呪いたくなる。
全てが憎い、全てを殺す、闇に堕ちそうになる筈だ。
「でも私は狂わないよ織莉子!!」
キリカは笑った。全てを知りながら見滝原の街を駆ける。
そうだ、キリカは全てを知っていた。
先ほど織莉子邸の庭で何があったのか?
そしてどういった結末を迎えたのか? 全て知っているのだ。
「あいつ……! 織莉子に優しくされておきながらッ裏切るなんて!」
ユウリの顔を思い出して吐きそうになる。
アイツだけは絶対に許さないと、キリカは呪詛の言葉をぶつけ続けた。
しかしある意味では冷静な面がある。
普通ならばユウリを意地でも殺そうとする筈だが、今は違う。
キリカはユウリとは関係ない目的で移動しているのだ。
「待っててね織莉子~!」
何故なら、それは織莉子の指示だったからだ。
キリカはあらかじめ"全て"の内容を織莉子から聞いていた。
テンションが上がっているのか、キリカは誰もいないのに口を開く。
「デカ帽子の奴は大馬鹿だ! だってそうだろう? アイツは織莉子がわざと負けた事を知らないんだもん! 織莉子の嘘を見抜けてないんだ! 愛が足りないね、愛が!!」
キリカの言うとおり、織莉子は嘘をついていた。それは佐野とユウリに対してだ。
織莉子は自分の魔法を『確立魔法』だと予め伝えていた。
自分が知りたいものを提示すると、それがどれだけの確立なのかを教えてくれるというものだ。
例えば『今日魔法少女にあう確立は?』などといった質問に対して、パーセントで答えを知れるというもの。
「でもでも残念!」
それは嘘だ。織莉子の魔法は確立魔法などではない。
では美国織莉子の魔法形態とは何か?
「お! みつけたよぉ!!」
ニヤリと笑うキリカ。
どうやら目的の場所にたどり着いたらしい。
とにかく織莉子は、今この状況に陥る事を理解していた。
そしてその後の指示をキリカに任せていたのだ。
織莉子は自分が死んだ後の事をメモに書き、キリカに持たせていた。
キリカはそのメモに従うだけだ。
特に何も考えず、指示通りに動く。
「はろー! どもー! こんにちこんばんわー!」
キリカはドンドンと遠慮なく窓ガラスを叩いた。
ここは二階だ。いきなり窓ガラスを叩かれて、外を見ればキリカがいた時、人は何を思うのか?
まあそんな事はどうでもいい。
部屋の中にいた人物は、反射的に窓を開けてしまった。
そうするとキリカは部屋の中に転がり込む。
「キミは本当に人を愛した事があるのかい!!」
キリカは開口一番、愛を説き始めるのだった。
そして日は流れ、運命を大きく変える日がやって来る。
今日も今日とて見滝原ではF・Gが行われ、参加者達は疑心暗鬼や、激しい殺し合いを繰り広げるのだろうか?
しかしそのゲームとは別に、街を狙う悪意があった。
魔女は例外なく活動を行い、その使い魔もまた、誰かを狙う。
その日も、どこぞの使い魔が一人の少年を襲おうと牙をむいた。
普通の人間ではとてもじゃないが、化け物に対抗する事はできない。
ただ無残に殺されるだけ。
「てやあああっ!!」
「!」
しかし、そんな異形から人を守ってくれる存在がいた。
使い魔が人を食おうとした瞬間、大きなハンマーを抱えた少女が現れる。
女の子はまだ幼いが、侮る無かれ。
「こんのーっ!」
千歳ゆまのハンマーが、使い魔を捉えて吹き飛ばす。
魔法少女、魔女や使い魔を倒す正義のヒロイン。
ゆまは吹き飛んだ使い魔めがけて、トドメの一撃を食らわせた。
そこに迷いは無い。
まっすぐな一撃が、獲物を捕らえて爆発させる。
「き、キミは……」
呆気に取れている少年。
ゆまは安全になった事を確認すると、変身を解除してニコニコと少年に駆け寄っていく。
「えへへ、大丈夫~?」
幸い、少年には怪我は無かった。
しかし少年は、使い魔に襲われた事で精神的なダメージを負ったと言う。
それを聞いたゆまは、『じゃあお話しよう』と。少年の手を取って、公園のブランコに座るのだった。
「いやぁ、まさかそんな話があったなんて――」
「えへへっ、すごいでしょ!」
ブランコに座る二人。
少年は先ほどの光景が信じられないのか、ゆまに詳細を求めた。
ゆまも子供故の純粋さか、隠す事なく少年に全てを打ち明ける。
魔法少女の事や、魔女の事を全てだ。
「大変だねキミは。でも、どうして戦っているんだい?」
「ゆまね、決めたんだよ! みんなを守るって」
ゆまは悲しげにつぶやく。
最近は本当に辛くて、苦しくて、悲しい事ばかりだったと。
そしてそれが原因で、好きな人に酷い事をしてしまったのだと打ち明けた。
「だからね、ゆま、決めたんだ! みんなを守れる様に強くなろうって!!」
今日はその特訓だと胸を張った。
皆がもう苦しまない様にする為に、自分も頑張りたいとゆまは願ったのだ。
サキの帰りが遅いのはグリーフシードを見つける為だと言っていた。
だったら、ゆまが強くなって、一人でグリーフシードを確保できる様になれば、サキとの時間は増える筈だ。
(サキお姉ちゃん待っててね! ゆまがお姉ちゃんを助けてあげるから!)
それだけじゃない。強くなればまどかを守れる。戦いを終わらせる事ができる。
もう、さやかの様に傷つけてしまう事は無くなる筈だ。
だからゆまは強くなることを決めたのだった。
ただそれを知られたくないという思いもある。
強くなった所を皆に褒めてもらいたいと言う願望もあるのだ。
だからゆまは、一人でこっそりと特訓中という訳だった。
「この後もね、ぱとろーるして頑張るんだ!」
「偉いね。苦しくないの?」
ゆまは、その言葉に少し沈黙する。
「……うん。苦しいよ。でも苦しいけど、頑張るしかないから」
「そっか」
「ゆまはね、強くなるしかないの。そうすれば他の人が苦しくなくなるでしょ?」
それに頑張れば、いつかパートナーの騎士とも出会える筈だ。
どんな人なのか? ゆまは期待に胸を膨らませて、希望をそこに見ていた。
「だからね、ゆま……。頑張れるよ」
「………」
ゆまの笑顔に、少年も笑みで返す。
そして彼は一言。
「大丈夫、もう頑張らなくていいんだよ?」
「?」
「苦しいなら、僕が楽にしてあげるから」
「え? え……?」
「50人目が
彼は、今なんと――?
「変身」
光が、熱が、炎が、ゆまを優しく包み込んだ。
暖かい光が視界を覆う。だが痛みと衝撃は、使い魔の攻撃を受けたくらいの比ではない。
ゆまは全身を包む光を振り払おうと叫び声を上げていた。
それは断末魔。薄れいく意識の中で、ゆまは手を伸ばす。
(サ――キ――、お姉ちゃ――……ん)
ごめんね、最後まで役立たずで。
ごめんね、皆を助けられなくて。
ごめんね、最後まで迷惑をかけて。
ゆまは何度も何度も仲間達へ謝罪した。
幼いながら、自分がもう助からないと悟ったのだろう。
光はそんなゆまを優しく照らし、激しく命を削っていく。
(さやかお姉ちゃん……)
本当に、ごめんね。
(マミ……、お姉――)
今、ゆまもソッチに――。
そしたら、また遊んでくれる?
ゆまはもう何も考えられない。
伸ばした手は、誰も掴む事は無く。ゆまは孤独の炎に身を焼かれていくのだ。
既に意識は無いが、最後に搾り出す様に言葉を残した。
無意識な言葉は、本心だ。偽りなき想い。
「ゆまは……どうすれば――、幸せに――なれ―――………」
終わりだった。
光が晴れた時、そこにもう千歳ゆまの姿は無い。
文字通り、完全な消滅を遂げたのだ。
ゆまはパートナーを組んでいないため、存在は死して尚、現実に残る。
だが死体は消滅し、その死を知る人間はいないだろう。
なんとも悲しい話である。
そもそも死体が残ったとして、果たして誰がゆまの死体を引き取ってくれるのか。
何人の人間が悲しむのか。
「………」
辺りは、燃える様な夕焼けに照らされていた。
美しい白い髪、サイドテールの少女が、公園にやってくる。
目覚めてそれ程時間は経っていないが、公園に響く鎮魂曲が意識をハッキリとさせてくれた。
美しい曲だ。
少女はその演奏が終わるまで、少年に声をかける事を遠慮して、近くのベンチに腰掛ける。
「―――ぁ」
どれだけ時間が経ったろう?
少年は演奏を終えてゆっくりと目を開けた。
そこでベンチに座っている少女の姿を確認する事となる。
少女は立ち上がると、スカートの両端を摘んで上品なお辞儀を向けた。
「もういいのかい? 美国さん」
「ええ。あと、織莉子で構いません」
美国織莉子の言葉に頷く少年。
手に構えた楽器を下ろすと、目線を落として曖昧な笑みを浮かべた。
どこか、いや――、ハッキリとした闇が彼には見える。
「わかったよ、織莉子」
「……人数はどうやって?」
「高速道路を狙ったんだ。大型バスを数台。最後の一人は、たまたま出会った魔法少女だった」
織莉子はユウリによって殺された。しかし今、ココにしっかりと立っている。
決して亡霊ではない。ルールによって蘇ったのだ。
つまりパートナーによって蘇生させられたと言う事になる。
「50人殺しですか。被害者に、なによりも千歳ゆま。気の毒な事をしてしまいました」
「気にすることは無いさ。これは必要な犠牲だ」
表情を曇らせる織莉子だが、後悔はない。。
コレがあるべき姿なのだ、目指した金色の未来。
「話はキリカから聞いたよ。全てね」
「そうですか。では――」
織莉子はソウルジェムを取り出して、魔法少女の姿に変身する。
少年は頷くと、手に持っていた楽器を投げ捨てた。
そして、紋章が刻まれたデッキを突き出した。
装着されるVバックル。
右腕も同じように突き出し左腕と交差させる。
そのまま腕を旋回させ、無限大のマークを作りだした。
「変身」
デッキをセットすると、現れる鏡像。
それが重なり合い、少年は騎士へと変身する。
眩い金色の光が溢れ、美しい金色の羽が騎士の周りに降り注いでいく。
姿を見せるのは、黄金の騎士だった。
騎士は腕を重ね合わせて、腕を組むようなポーズを取る。
なぜだか分からないが、こうすると落ち着くらしい。
「感想は?」
「素晴らしいよ、全身から力が溢れてくる様だ」
「ええ、それに美しい……」
思わず織莉子は声を漏らす、黄金の騎士の肩に触れながら。
そして織莉子を駆け巡る光。帽子の中央に刻まれた不死鳥の紋章。
この瞬間、美国織莉子はパートナー契約を正式に結んだのだ。
「………」
騎士は腕を天に伸ばした。
すると光と共に、錫杖を模したバイザーが現れる。
それは騎士が投げ捨てた楽器の上に来ると、貫通して地面に刺さる。
それだけじゃない。
騎士のデッキから自動的にカードが抜き取られて、独りでにバイザーへセットされた。
『シュートベント』
音声と共に天が割れて、一筋の光が楽器を照らす。
先程ゆまを殺した技だ。同じように数秒後、その楽器は完全に消滅する事に。
「いいんですか? 大切にしていたのでしょう?」
「ああ。命と同じくらいにね。でももう必要ない」
騎士は淡々と告げる。
「何故か分かるかい?」
「いえ……」
首を振る織莉子に、騎士は少し笑みを浮かべて答えを告げる。
ずっと大切にしていた楽器を捨てる。それはもう大切ではないと言う事だ。
「もっと大切な物ができたからだよ。命よりももっと大切な、ね」
「大切な物ですか……」
「そう、だからもうアレはいらない。今の僕には必要ないんだ」
ある目標に向かって進むため、気を引くものを処分するのは珍しい話じゃない。
勉強に集中するため、漫画を押入れにしまうのと何も変わらない。
織莉子は目を閉じて、騎士の言葉を心へ刻む。
命よりも大切な物。それは織莉子にもよく理解できる。
織莉子は様々な想いや願いを胸にして、ゆっくりと目を開けた。
この目に飛び込む景色を守る為にも。騎士の様に覚悟を決めるべきなのだ。
「それが、彼方の覚悟なんですね」
「ああ、そうだね」
頷く織莉子。
「見事です。騎士・"オーディン"」
腕を組み、一点を見据えるのは不死鳥の騎士・オーディン。
全13個あるデッキの中で、当たりと呼ばれる一つ『力のデッキ』が生み出した最強の騎士だ。
オーディンの覚悟を聞いた織莉子は、唇を吊り上げる。
「いえ、言い方を変えましょう」
これは騎士オーディンの決意ではなく、変身した者の決意なのだから。
「ですよね?」
オーディンは頷くと変身を解除する。
尚も腕を組んで立つ少年の名は――
「"上条恭介"くん」
「………」
上条は、先程破壊したヴァイオリンには目もくれず一点だけを見ていた。
それは景色ではない、彼女の笑顔だ。
「そう、僕には
虚空を睨みつけて、そう宣言する。
さやかを失い、傷心状態にあった上条は、ヴァイオリンも手につかなくなってしまった。
恋心と言うノイズは、多感な時期には強い影響をもたらす。
ましてや、上条の人生は『順調』だった。
物欲はそれほど無かったが、家は裕福だ。欲しいものが手に入らなかったことはない。
さすがに怪我をした時は絶望もしたが、『奇跡』が起こって、腕は治った。
恵まれている。上条は自分でも想うようになっていた。
しかしそんな時に、最も欲しいものが手に入らなくなってしまった。
死者は蘇らない。死は神聖なものだ。
後悔、未練、そこに恋心が混ざれば歪な化学反応を起こす。
辛い時には笑いかけてくれ、自分の怒りや悲しみを受け止めてくれた美樹さやか。
しかしもう彼女はいない、彼女には会えない。その事実が上条の心に深い傷を残し、なによりも美樹さやかを神格化させたのだ。
「っ!!」
そんな時、窓がドンドンと音を立て始めた。
不思議に思ってカーテンを開けると、窓にベッタリと張り付いているキリカがいた。
本来ならばホラー顔負けのシチュエーションなのだろうが、キリカの顔が非常にマヌケだったため、恐怖心は起こらなかった。
「開けてくれないかぁ! 大事な話があるんだよぉ!!」
「あ……、え、えっと――」
戸惑う上条。どう考えても関わってはいけない奴である。
しかし彼女が次に言った言葉で上条の心は大きく揺れ動いた。彼女は、呉キリカは確かに言ったのだ。
「きみは! 美樹さやかを助けたいと思わないのか!!」
「さやかを……!!」
詳細を知りたかったら開けてくれとキリカは言う。
もうそこに迷いは無かった、助けられる訳が無いと知りつつも、上条は窓を開けてキリカを部屋へ招き入れる。
「キミは本当に人を愛した事があるのかい!!」
いきなり、キリカはそんな事を言う。
「な、なにを? それにさやかを助けるって……?」
「あー、それはねー」
そこで言葉を止めるキリカ。
いつのまにか、机の上にジュゥべえがいた。
「わ! な、なんだこの黒いの!」
『よお、オイラはジュゥべえだ』
「喋った!?」
後ずさる上条。
『上条恭介、オイラがお前の前に現れたのは――』
織莉子が死んだ事を告げるため。
しかしそれよりも早く、キリカが爪を伸ばした。
「全部私が説明してあげるよ、だからキミは休んでいたまえ!」
『は?』
ジュゥべえはキリカの狙いが分からなかった。
なんでも今から、ジュゥべえが行う説明を全てキリカが行うと言う。
『なんでだよ、オイラでいいだろ』
「これが織莉子の望んだ事なんだ。邪魔するならサイコロにしちゃうぞ!!」
『お、おいおいマジかよ……!』
「ッ???」
上条は絶句するしかない。
訳の分からない生き物が現れたかと思えば、目の前のキリカが変身して。
これは一体どういう事なのか? 混乱する上条だが、頭にあるのは先ほどの言葉のみ。
『チッ! じゃあ分かったよ。オイラは見てるだけにするから、さっさと説明しろってんだ!』
「おお! 感謝するよ黒すけちゃん!」
『誰だよ!』
どうやら話し合いは終わったようだ。
キリカは早速、上条の前に立つ。
「デッキは持ってる?」
「え? デッキ?」
「四角い箱みたいなヤツ」
ハッとする上条。彼は机の引き出しの中を探る。
すると見つけた、四角いカードデッキを。
「いつの間にか部屋にあって……」
「おお! じゃあ一回それをポイってしちゃおう!!」
「え?」
「さあさあ早く早く!」
キリカは上条を急かす。
上条は戸惑いながらも、言われたとおり窓の外へデッキを投げた。
するとすぐに感じる異物感。ポケットの中を探ると、そこには捨てた筈のデッキがあった。
「な、なんで……!?」
キリカは、織莉子に書いてもらった『台本』を読み始める。
それは魔法少女の事、騎士の事、そしてF・Gの事だった。
願いを叶えて、絶望と隣り合わせの戦いを挑む魔法少女。
願いを叶える為に、己が命を賭ける騎士。
そして双方が願いを叶えるために殺しあうフールズゲーム。
上条はそれを青ざめた表情で聞いていた。
初めは嘘だと思った言葉も、キリカやジュゥべえと言う『実物』がいる為に否定できない。
「美樹さやかも、ゲームの参加者だった」
「!!」
「彼女は魔法少女だったんだよ!!」
「そ、そんな……!!」
「嘘じゃないさ! 最近キミの周りでおかしな事はなかったかかい?」
魔法少女は奇跡を起こせる存在。
それを知れば、答えはおのずと見えてくる筈だ。
「奇跡は愛さ! たとえばそう! 動かなかったお手手が、また動く様になったとか!!」
「ま、まさか――ッッ」
両手を広げて跪くキリカ。
「そうとも! 愛は奇跡を呼び、それを具現化させたんだ!」
その言葉で、上条は全てを理解する。
土石流の様にさやかの笑顔が流れてきて、思わずその場にうずくまった。
「ありゃ? 大丈夫かい?」
「うぐッ! ぁあ゛あぁぁッッ!!」
それは果てしない感謝と、途方も無い罪悪感だった。
「さやかは、さやかは僕の為に命を削ったのか!?」
「………」
「僕の為に魔法少女になったと言うのか!?」
上条はどうしていいか分からなかった。
まさか、さやかがココまで自分の事を想っていてくれたなんて、夢にも思わなかった。
いろいろな感情が混ざり合い、爆発しそうになって、思わず頭を抱える。
「さやか……! さやか――ッッ!!」
だが同時に突きつけられる現実。
さやかはもういない。どんな想いだって伝える事はできないのだ。
感謝も、恋慕も、謝罪も全てだ。
狂いそうになる心。胸を押さえる上条。
それを落ち着ける様にし、キリカは上条の肩を叩く。
「言っただろう? キミが彼女を助けるんだ!!」
「ッ!?」
キリカはさらにメモに書いてあることを口にして行く。
それは参加者に与えられた蘇生の方法だ。パートナーが50人の命を奪うか、はたまた参加者を殺すのか。
もしくは純粋に勝利後の願いで蘇生させるのか。
「……!」
「気が付いたかい? つまりはね――」
美樹さやかは完全に死んだ訳ではない。
「つまりッ、さやかのパートナーが望めば彼女は蘇る!!」
「その通り! それが駄目なら、ゲームをクリアすればいいんだよ!」
希望は死んでいない!
キリカは上条の手を取ると、ブンブンと強引な握手を行う。
だがそこで、キリカは笑顔から一気に暗い表情に変わった。
「希望はあれど、その分の絶望も大きい」
「そ、それはどういう……」
「実はね」
メモどおりにキリカは言葉を紡いでいく。
それは魔法少女になる事に隠された本当の狙い。
つまりいずれは『魔女』になる
そしてゲームには危険な連中が参加している事を提示した。
「そ、そんな……」
「キミの愛する人も、意地悪な連中にいっぱい苛められたんだ」
「え?」
その時、上条の表情が変わる。
負の感情だ。それを確認してキリカはニヤリと笑った。
キリカは上条に、何故さやかが死んだのかを説明した。
「美樹さやかは正義感溢れる魔法少女だったんだけど……」
心無いゲーム参加者に標的とされて、一方的な暴力を浴びせられたのだと。
「かわいそーだよね、正しいのに殴られて切られて撃たれて……」
「さ、さやかが――ッ!?」
「そうだよ、私も後で知ったんだ」
彼女が襲われる姿を想像してしまい絶句する上条。
青ざめる上条の耳元で、キリカは囁く様に情報を追加する。
ああ、それはまさに文字通り、『魔女の囁き』だといっても過言ではない。
「苦しかったろうね。そんな彼女に、もっと辛い事が起きたんだ」
「……ッ」
「美樹さやかは、キミのことが本当に大好きだったんだよ」
仁美からもそんな事を聞いていた。
彼女の照れた表情を思い出して上条の瞳に光が宿る。
しかし――
「敵は、そんな彼女の恋心を利用したんだ!!」
「なんだって……っ?」
キリカは大げさに手振り身振りを加えて説明を行う。
敵は、さやかの恋心を否定し、傷つけ、肉体的にも精神的にもグチャグチャにしていったとか、なんとか。
「さらに変身魔法を使う参加者が! キミに変装したんだ!」
そして、さやかを騙したと。
「美樹さやかは愛するキミに罵倒される事で絶望、そして魔女に成り果てたと聞いている!」
結果、さやかは参加者に殺された。
「苦しかったろうねぇ、悲しかったろうねぇ」
「――ヵッッ!!」
上条はうずくまり、頭を抱えた。
心にドス黒い感情が湧き上がる。
知らなかった、さやかがそんなに苦しんでいたなんて。
そして、さやかを苦しめる奴等がいたなんて。
黒い感情は、上条の心をグチャグチャにかき回し、引き裂こうとする。
さやかの笑顔が濁っていき、絶望に満ちた表情を幾重にも映し出していく。
「美樹さやかはキミに好きと伝えたかっただけなのに。キミの想いを抱いたまま死んだんだ」
「さやか――ッッ!!」
上条はゴミ箱を引き寄せた。
さやかの遺体がフラッシュバックして、たまらず吐き出してしまう。
さやかがどんな想いだったのか、今の上条ならばよく理解できる。
同時に今まで気が付かなかった事への怒りが湧いてきた。
そして何より、さやかに対するゲームの仕打ちが許せなかった。
強いストレスが襲い掛かる。
今すぐさやかに会いたかった。
会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて会いたくて――。
狂いそうになる。
「ぐあぁああぁあああぁああッッ!!」
胸が強く痛む。
中学生の男が背負うには大きすぎる感情だった。
罪悪感や、恋慕だけじゃない。
なによりも、デッキを持っているということは、上条もまたゲームの参加者であると言うこと。
殺し合いに参加する。
その恐怖。なによりも、全く事情を知らなかった疎外感。
さやかへの恋慕――、罪悪感、恋慕。以下ループ・
最後に、湧き上がる憎しみがあった。
さやかを陥れた敵は、今ものうのうと見滝原の街にいるのだと。
許せない、絶対に許せなかった。
「殺してやる……ッ! 殺してやるッッ!!」
『あらあら、相当ハイになってるな』
「気持ちは分かるよ……! 私だって、織莉子を殺されたんだ」
キリカはポンポンと上条の頭を叩く。
「キミの気持ちはよく分かる……!!」
キリカの言葉は『本物』だった。
感情が爆発しそうになる声色に、浮かぶ涙。
それを見て、上条も心が動く。
「織莉子? その人は……、貴女の大切な人?」
上条の言葉に、キリカの目が見開かれる。
気が付けば、キリカは上条に掴みかかり、押し倒していた。
「違う! 違うッ! 違う!!」
怯む上条。
対してキリカは口調を荒げ、早口に変わる。
どうやら何か『トリガー』を引いてしまったらしい。
「好き? 違うッ! そんな軽々しいものじゃないぞ!!」
「え――?」
上条はさやかの気持ちに気づき、さやかの事が『好き』になった。
だがその感情を根本から否定された様な気がして、大きく怯んでしまう。
キリカも織莉子と言う人が殺されて悲しんでいたはずだ。
だったら、その感情は何なのか? 上条は答えを待つ。
「愛なんだよ! 愛ッッ!!」
「!!」
「愛は神となり、愛は人をつくり、愛は人を殺し、愛は世界を作る。愛は私にいろいろな事を教えてくれて、愛は私にいろいろな辛さを学ばせてくれる。愛はココにあるし、愛はココにない。愛は全ての人を愛し、愛は全ての人が求めて、愛は全てがつまって、愛は何も無いかもしれないけど、愛は全部知っていて、愛は確かにあって! 愛は見えなくて、愛はでもあって、愛は世界そのもので、つまり愛は全てだッッ!」
愛。その言葉が上条の胸を貫く。
「好きだの大好きだの! 愛を単位であらわす様な奴は愛の本質を知らないッ!!」
キリカは、自らの顔を上条の顔に触れるくらい近づける。
その迫力に上条は言葉を失った。キリカの瞳が、自分の瞳と重なり合う錯覚の中で、愛が視えた気がする。
その中、キリカは尚も話を続ける。
「だいたい上条! キミは本当の愛ってのを知ってるの!?」
「……ッ」
「知らないなら教えてあげるよ!!」
キリカは笑顔で言った。
「愛は――、"無限"に有限だよ」
「―――」
無限に有限。
キリカは興奮冷めやらぬのか、熱弁を続ける。
「全身を掻き毟りたくなるほどの愛が、この世界にはある」
愛は無限、愛は無限に有限なのだ。
だからこそ――
「私は、織莉子に無限に尽くす……!!」
恍惚の表情で笑みを浮かべるキリカ。
上条は、釣られて笑った。
「ああ、そういう事だったのか」
「およ!?」
上条はキリカを払いのけると、ゆっくりと立ち上がる。
ジュゥべえは目を細める。スイッチが入った瞬間を視たのだ。
「呉さん、感謝するよ」
「キリカでいいよ。だってキミは織莉子のパートナーなんだから。本当は私の名前を読んでいいのは織莉子だけだけど、特別特別」
「そう? じゃあ感謝するよキリカ。キミのおかげで、自分の気持ちにまた気づけた」
上条は静かに笑う。その瞳に迷いは無かった。
つまりこの短時間で、上条は自分のやるべき事を理解し、決断したと言う事だ。
そのあまりにも達観した選択にジュゥべえはニヤリと笑う。
なんだったら、擬似的な恐怖さえ感じた。
「そうだ――! これは愛だったんだよ!」
上条はデッキを手にして黒い笑みを浮かべた。
「待っててねさやか。もう少しの辛抱だよ。必ず僕がキミを助けてあげるからね――!!」
歪なパズルが完成した瞬間だった。
「僕はさやかを、無限に愛す……!」
デッキが光り、同時に刻まれる『無限』の紋章。
上条は、静かな笑みを浮かべたまま手にした『力』を噛み締める。
力のデッキは覚醒と共に、上条へ様々な情報を与える。
戦いのセンス、カードの情報、そして絶対の無限を。
自然に腕が動いた。二つの腕を重ねるようにして置く。
「さあ、まずは美国さんを蘇らせようか」
「おぉ!」
『おい、ちょっと待て』
ジュゥべえが口を挟む。
なにやら愛だの恋だので盛り上がっている所申し訳ないが、上条は織莉子を蘇らせると言う意味を理解しているのだろうか?
『蘇らせるには人を殺す必要がある。怪我や気絶じゃないぜ、命を奪う事だ』
「もちろん分かっているさ」
『にしては随分と落ち着いてるじゃねぇか。言っておくが例外は無いぜ? ちゃんとその手で殺――』
「キミは何か勘違いをしている」
『は?』
上条は、さも当たり前の様に笑い言い放った。
心に纏わりつく黒い感情。それは間違った覚醒だったのかもしれない。
しかし、今はそれでよかった。
「僕の世界には、さやかだけがいればいい」
『お前、何言ってんだ?』
「それに関係無いゴミ共は肥料と同じだ。僕とさやかの愛を育む為の踏み台さ」
だから何人死のうが構わないと言う。
言葉を止めるジュゥべえ、上条が何を言っているのか、全く分からなかった。
『ガキが偉そうに。テメェ少し前までは、あんな女どうだっていいとか思ってただろ!』
「……ハハ。哀れだねジュゥべえ、愛を知る事ができないなんて」
『はぁ?』
「感情の無いキミには一生理解できない話だろう」
確かに上条は、少し前まで美樹さやかの事を幼馴染程度にしか思っていなかった。
好意を抱いていたのは、むしろさやかの方だったのに。
「だが僕は分かったんだよ。このぽっかりと空いた心の穴を埋められるのは、さやかだけだ」
『………』
「僕を分かってくれるのは、彼女だけなんだよ……」
だから、さやかを生き返らせる為ならば何だってやる。
何を犠牲にしてもいい。そしてそれはもちろん自分もだ。
人を殺す事で、あの笑顔に近づけられるのなら。迷う理由なんてどこにもないだろう?
ましてや超能力が飛び交う殺し合いのゲームがあると分かって。
今更、ヴァイオリンを弾く人生には戻れなかった。
「僕の愛は無限だ。だから他人という別離された固体なんてどうでもいい」
これより先、上条の天秤にかけるものは全て答えの決まったものになる。
なぜならば片方に置かれたのは美樹さやかと言う
対になる所に何を入れようが。天秤は無限の方向に傾くだろう。
「これは最初の試練だ。50人を殺せば、さやかに近づける」
『お前……! マジか?』
「やれるよ僕は。だってさやかを愛しているんだ」
そう言って笑う上条、
それを見て。またもジュゥべえは擬似的な恐怖感を覚える。
偽りの心であっても、伝わる異常性があった。
やはり人間は危険な生き物かもしれない。
上条は簡単に狂ってしまった。それも原因は愛で。
美しいと言われている人間の『感情』で狂ったのだ。
だがそれは同時に、興味深い話でもあった。
『……おもしれぇ! 見せてもらおうか上条恭介、お前の愛とやらを』
「いいだろう。僕の愛を無限に示そうじゃないか」
黒く、濁りきった。
しかし迷い無い鮮明な笑みを浮かべて、上条は歩き出した。
無限の力が彼を狂わせたのか?
はたまた愛が彼を狂わせたのか?
いや、もしかしたら彼は狂ってなどいないのか。
それは上条だけが知る事だ。
いずれにせよ、彼は高速道路を走っているツアーバスを狙い49人の死亡を達成させた。
ラストはゆま。
本当はオーディンの力を試そうと思って、使い魔に近づいただけなのに。
まさか、ゆまから姿を見せてくれるとは。
そして今に至ると言う訳だ。
夕焼けに照らされる公園。カラスの鳴き声だけが街に響いて、悲しげな合奏を続ける。
これは上条が望むオーケストラなのだろうか?
「織莉子、僕は必ずさやかを助け出す――ッ!」
上条はただひたすらに一点を見つめ、拳を握り締める。
さやかを助け出す事に加え、もう一つ心に決めていた事があった。
それはキリカから聞いた『敵』の事だ。
「さやかを苦しめた奴は皆殺しだ! そして邪魔をする奴等も全員殺す……!」
これは復讐だ。
さやかの純粋な思いを踏みにじった奴等を、自分達の人生を穢した者を決して許しはしない。
苦しめて、恐怖に沈めて、絶対に殺す。
その言葉を聞いて、織莉子は悲しげにうつむいた。
「ええ。大変残念な事ですが、このゲームを肯定して楽しんでいる者たちがいます」
「キミもそうしたプレイヤーに?」
「ええ、殺されました。美樹さやかもそうなのでしょう。かわいそうに」
織莉子は涙を見せた。
「私は殺し合いなんて、望んでいないのですが――ッ。そうしたプレイヤーは説得を聞こうともしません」
「一部の屑が世界を濁すと言う訳か。気にいらない、実に気に入らないよ」
「残念ですが、腐った果実は放置できません」
つまり平和の邪魔となる参加者は、殺す事も仕方ないと言っているのだ。
「私はユウリと言う魔法少女に殺されました。佐倉杏子や浅倉威と言う危険人物も有名です。おそらく美樹さんも……」
織莉子の言葉はなぜか心を揺さぶる。
上条はうなずき、より一層炎を燃やしていく。
「分かったよ。そのペアは確実に殺す――ッ!!」
「……仕方ありませんね」
「協力してくれるかい?」
上条は手を差し出す。
「もちろんです。共に目的を達成させて、ゲームを終わらせましょう」
織莉子は笑みを浮かべ、上条の手を握る。
「美樹さんが蘇生できるように、私も全力を尽くします」
「ああ。ありがとう」
優勝候補の誕生であった。
そこで織莉子は、ひとつのお願いを。
「聞こうか。なんだい?」
「実は――」
上条の目指すエンディングは、さやかと共に生存する事だ。
つまりゲーム途中でさやかが蘇れば、ワルプルギスを倒して戦いを終わらせる。
さやかが蘇らなかった場合は、一旦参加者を皆殺しにして、二つの願いでさやかの蘇生&魔法少女を普通に人間に戻す。
これは織莉子も同意してくれた事だ。
対して織莉子が提示してきた条件は、キリカの生存だった。
これはどの様な道を辿ったとしても問題は無い筈。
キリカが死んだとしても、織莉子に与えられた願いでキリカを蘇生させればいいだけ。
「しかしソレとは別に、私にはゲーム中に絶対に達成させなければならない事があります」
「それは一体?」
「はい。簡単に言えば、"一人の魔法少女の殺害"です」
織莉子の目的は参加者の一人を殺す事。
しかし名前は分からない。
「それでも、絶対に見つけ出して殺さなければ――ッッ!!」
青ざめる織莉子。
それだけ重要な問題であると言う事は、すぐに分かった。
まして織莉子の『魔法』がある、上条はその詳細を既にキリカから聞いていた。
だからその意味を理解して、重みを理解する。
「その参加者を殺さなければ、大変な事になると言うわけかい?」
「はい、取り返しのつかない事になります」
「成る程、それがキミが視た"未来"か」
美国織莉子の魔法形態は、確立魔法などではない。その正体は"未来予知"である。
文字通り、その目に未来を映す事ができるのだ。
非常に強力な魔法の為、織莉子自身未だに使いこなせる代物ではないが。
その中でも、織莉子は様々な未来を視てきた。
「私が知ったのは見滝原の……。いえ、世界の終わりです」
全てが無になる光景だった。
その原因を起こしたのは、たった一人の魔法少女だと言う。
姿は見えなかったが、キュゥべえ達の会話が若干聞こえて、それがゲームに参加している魔法少女だと言う事が分かった。
「その魔法少女が魔女になった時、世界は終わりを告げる」
「つまり参加者の内、魔法少女を魔女化させずに殺せばいいと?」
「ですがそれは難しい事です。くれぐれも気をつけてください」
もうひとつ、注意してほしい事があると言う。
「美樹さんの為にも、騎士には注意を払わなければなりません」
騎士を誤って殺した場合、それがさやかのパートナーだと言う可能性もある。
「紋章を確認してください。魔法少女に刻まれた紋章と同じ物を持つ者は、美樹さんのパートナーではない」
幸いさやかが完全に敗北したと言うアナウンスは無い。
つまり彼女のパートナーは生存中という事だ。
「作戦は固まったね」
これより先、見つけ出すのは美樹さやかのパートナーと、世界の終わりを齎す魔法少女だ。
「最悪の場合。魔法少女はキリカ以外、皆殺しにしてくれても構いません」
「ああ、分かったよ。時期を見てそうしよう」
上条は命を奪うと事を簡単に了承した。
それだけ覚悟が強いのか? それとも命を軽視しているだけなのか?
静かに狂った上条の目には、もはや美樹さやか以外は映らないのかもしれない。
「来いッ! ガルドサンダー!!」
上条が叫ぶと、空から炎を纏った雷が落ちる。
それは上条の背後に直撃すると、すぐに一つのシルエットを映し出した。
鳳凰を模した人型のモンスター・『ガルドサンダー』、赤と金の装飾が圧倒的である。
そしてまだ上条は言葉を止めない。
特徴的な腕組をしながら、名前を叫ぶ。
「ガルドストーム!!」
風が巻き起こり、上条の背後に新たなモンスターが生まれた。
ガルドサンダー同様のカラーリングで、頭部に備えている派手な髪飾りがインディアンの印象を与える。
鳳凰型モンスター・『ガルドストーム』。
「ガルドミラージュ!!」
光と共に姿を見せるのは、鳳凰と孔雀を合わせた人型モンスター・『ガルドミラージュ』。
巨大な円形状の刃、チャクラムが特徴的である。
こうして瞬時に現れた三体のモンスター。
彼らはそれぞれ咆哮をあげると。すぐに上条に向って跪く。
それは敬意の表しだった。
三体のモンスターは上条の配下、使役されるモンスターなのだ。
上条に絶対的な忠誠を誓い、命令通りに動く駒である。
「ガルドサンダーは他の参加者を探れ!」
了解したのか、火の鳥となって空を駆けるガルドサンダー。
「ガルドミラージュは魔女を探し、織莉子のグリーフシードを確保するんだ!」
頷き、光となって消えるガルドミラージュ。
「ガルドストームは僕達とキリカの守護を頼む」
咆哮を挙げて風に消えるガルドストーム。
織莉子達の周辺に潜むと言う事なのだろう。
上条はもう一度笑みを浮かべると、空を見上げて手を広げる。
まるで空から降りてくる何かを抱きしめる様にして。
「さやか、待っててくれ。必ずキミを蘇らせてあげるからね――ッ!」
「………」
その様子を何も言わずに見ている織莉子。
狂った様に見える上条だが、特に驚く事は無い。
だってそうだろう?
(未来は、常に私の手に――!)
織莉子は、上条がこうなる様に仕組んだのだから。
そう、これこそが、織莉子陣営が美樹さやかを狙った理由だった。
織莉子は未来予知で、いち早く自分のパートナーが上条恭介である事を知った。
しかし未来の上条は、戦いに乗り気ではなく。力のデッキを活かせないまま敗北する結末だった。
そこで織莉子は、ありとあらゆる手を使って、上条をゲームに乗せる必要があったと言う事だ。
そして結果、美樹さやかの死を利用した方法を見出したのだ。
さやかを絶望させる事で得られる結末は今の状態。全ては計算どおりだ。
予知によりユウリの力を見抜き、裏切りをも見抜いた。
一度敗北したのも、全ては未来を導くためである。
さやかはどうなった? そうだ。可哀想なのだ!
多くの参加者に理不尽に狙われ、想い人とは結ばれず。
そんな可哀想なさやかを提示することが、未来の鍵だった。
世界はやさしい。
希望と絶望は表裏一体のようなものだ。
美樹さやかが苦しめば、それだけの希望も用意してくれる。
それは中途半端ではいけない。
世界に嘘はつけないのだ。だからこそ、全力さやかを潰すのは仕方ないことだった。
しかし結果として、こうなっている。
本物の言葉には本物が宿る。
嘘ではいけない。たとえ実際に現場を見ていなかったとしても、本当にさやかが苦しんだからこそ、上条も心動かされたのだ。
全ては織莉子の計算どおりだった。
(後は、美樹さやかの事を、悟られない様にすればいい)
途中で気づかれたとて、言い訳は考えてある。
仮にさやかが復活したとしても、カバーできる自信はあった。
それに今のままならば、何の問題もなく事は進むだろう。
織莉子は、いつでも未来を視れる訳ではないし、知りたい未来の場面を設定することもできない。
ましてや、他にもいくつかの不安要素がある。
だからこそ、まだ油断できない状態ではあった。
しかし――、どんな事があっても必ず目的は達成する。
「頑張りましょうね、上条くん」
「ああ」
織莉子は笑みを浮かべる。
悪く思わないでほしい――
(だってこれは、世界を救う為のなのだから)
そもそも普通もっと早くさやか選んどるやろ
何を考えとるんやアイツはホンマ(´・ω・)
次回あたり、登場人物紹介更新します。