仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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ちょっと今回キャラ崩壊があるかも。
苦手な人は、ごめんやで(´・ω・)


第25話 ケーキ (前編)

 

 

 

 

「ハグッ! あむっ!」

 

 

夜、ファミリーレストランでは佐倉杏子が一人で食事を行っていた。

ハンバーグをガツガツと貪り食う様は、まるで野獣だ。

周りの視線も気にせず、杏子は己の食欲を満たすために咀嚼を続けた。

 

 

「おいおい、もっと落ち着いて食えよ」

 

「あん?」

 

 

鞄が目の前に置かれ、杏子は反射的に視線を上げる。

するとそこには弁護士バッジをつけたスーツの男がいた。

 

 

「誰?」

 

 

杏子は首を傾げるが、男が緑色のデッキを見せると素早く理解したようだ。

 

 

「ああ、アンタ。あの馬鹿のパートナーか」

 

「そうだよ。お前らが殺した、美樹さやかのな」

 

 

北岡秀一は、杏子を見つけると同じテーブルにつく。

杏子も杏子で食事を中断してまで北岡に食いかかる理由はなかった。

ましてや騎士。浅倉とのゲームがあるため、杏子は危害を加える事はできない。

 

 

「なんか用? 馬鹿の復讐? なんなら浅倉呼ぶけど?」

 

「いいよ面倒だし。って言うかさ、お前って金持ってる訳?」

 

 

杏子は財布を取り出してみる。

 

 

「いい財布じゃん」

 

「適当にパクったんだよ」

 

「おい……、嘘だろ」

 

 

杏子は財布の中を探るが、眉を八の字にする。

 

 

「お菓子買っちまったから……」

 

「どうすんの? ここの支払い」

 

「逃げる。ってか、最悪殺せばいいし」

 

「はぁ。信じられないよ俺は」

 

 

北岡は財布を取り出すと、お札を適当に抜き出して杏子に投げ渡す。

 

 

「マジ? くれんの?」

 

 

杏子の言葉にうなずく北岡。

ここで無駄な血が流れるのは、北岡とて喜ばしくない状況なのだ。

 

 

「サンキュー! お礼に今回は見逃してあげるよ。なんなら食うかい?」

 

 

杏子は食いかけのハンバーグを北岡に差し出す。

北岡はそれを拒むと、椅子に深くもたれかかった。

 

 

「しかし本当、何しに来たんだ?」

 

 

杏子の睨みを、北岡は涼しげな表情で受け流す。

 

 

「別に。たまたまファミレスの前を通りかかったら、お前の姿が見えただけだ」

 

「モテるねぇ、アタシ」

 

「ちょっと聞きたいことがあってさ」

 

「あ?」

 

「お前、さやかが何で魔法少女になったか知ってるんだろ? 教えてよ」

 

 

鼻を鳴らす杏子。

 

 

「アタシも詳しくは知らねーよ。たしか、惚れたヤツのためとか言ってたな」

 

「へぇ」

 

「ほとほと反吐がでるよ。他人のために奇跡を祈るなんてさぁ」

 

 

北岡はそれを無表情で聞いている。

 

 

「年相応の願いとしては可愛いモンなんじゃないの? ま、俺には分からないけどさ」

 

 

さやかは他人の為に、地獄に足を踏み入れ、結果他人に絶望させられて死んだ。

文字にすれば最悪の人生だったろう。

結局想い人との進展など何も無かったのだから。

 

 

「死ぬべくして死んだんだよ、あの馬鹿は。協力なんて胸糞わりぃ」

 

「お前みたいなイカれた奴に言われるなんて。同情するよ俺は」

 

 

そこで大きく口を吊り上げる杏子。

 

 

「アタシから言わせれば狂ってんのはアイツ等の方だよ」

 

 

これは殺し合いのデスゲーム、生き残りを賭けたサバイバル。

 

 

「にも関わらず戦いを止め様だのと、ピーピーピーピーうるさい奴らだ」

 

 

ワルプルギスを倒せば複数人で生き残れる道もある様だが、そんなのはゴメンだと杏子は言った。イラつくだけ、杏子はすぐにその道を切り捨てる。

 

 

「じゃあさ、お前は何で魔法少女になったのよ」

 

「………」

 

 

不愉快そうな表情を浮かべる杏子。

ははあと唸る北岡、どうやら杏子もまた『馬鹿』だったらしい。

 

 

「俺もさ、馴れ合いなんて下らないと思ってるし、願いも自分のために使うつもりだよ」

 

 

そう言った面では、杏子の言い分も分かる。

しかしと、北岡は笑った。

 

 

「根本的に合わないわ、お前らとは。俺はやっぱりさやかの方がまともな人間だったと思うね」

 

「はぁ?」

 

「じゃあな。ちゃんと金は払えよ」

 

 

そう言って北岡はさっさと杏子の前から姿を消す。

 

 

「何なんだよアイツは」

 

 

杏子は舌打ちを行いながらテーブルを殴る。

何故か無性に負けた気がした。

 

 

「クソッ! イラつく!!」

 

 

いつか殺す!

杏子はそんな事を思いながら食事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

翌日。

 

 

「………」

 

 

手塚海之は、アパートの自室にて蝋燭を並べていた。

精神を集中させる。何も知らない人が見れば、確実にドン引きかもしれないが、コレはれっきとした占いである。

手塚はそのまま、炎の動きを観察していた。

 

 

「!」

 

 

朝、手塚はいつも自分の運勢を調べるのだが、今日は良くないようだ。

誰にでもそういった日はあるが、あまり嬉しくは無い。

手塚はため息をつくと、蝋燭を消して出発の準備を始める。

 

占いは絶対ではないが、注意に越した事はないだろう。

ただでさえ今はゲームの真っ最中。何が起こってもおかしくは無いのだから。

 

 

「じゃあ、行くか――」

 

 

手塚は不安を振り払う様に声を出し、家を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

そんな日の昼休み。

 

 

「手塚ぁ。お前な、これ本気なのか?」

 

「ええ、もちろんです。いけませんか?」

 

「ああいや、悪かった。ただなお前、なかなか厳しい道だぞ?」

 

 

見滝原高校職員室では、先ほどからチラホラと生徒達が出入りを繰り返していた。

理由は一年に与えられた進路相談の内容についてだ。

まだ早いと生徒達は言うかもしれないが、こういった事は定期的に調査を行っていく事が重要とされる。

 

今職員室に呼ばれているのは、気になった解答の生徒達だ。

たとえば白紙であったり、無茶な内容であったりという事。

手塚は紙に『占い師』と書いて提出したのだが……。

 

 

「しかも、お前これ独学だろ? 生計立てられるのか?」

 

「いずれ大きな所にいければなと」

 

「でもなぁ――」

 

 

手塚は内心うんざりだった。

占いには自信があったが、他人に説明するのはどうにも上手くいかない。

とは言え、他人から見れば随分フワフワしていると言うのも分かる。

 

 

(こんな事なら適当にごまかしておくんだったか……)

 

 

失敗した。手塚は苦い表情で教師の会話を受け流していく。

最初は進路の事だけだったのに。時間が経つにつれて話は次々と変化していき。

 

 

「そういえば最近お前休みがちだよな」

 

「す、すみません……」

 

 

F・Gは、つくづく協力派には厳しい環境である。

殺し合いをしろ言われても会社や学校が無くなる訳じゃない。

手塚としても言い訳はできず、結局教師の言葉を素直に聞くしかなかった。

 

 

「おいおい、お前なぁ! なんだよこの進路は」

 

「?」

 

 

すると横から同じような内容の会話が聞こえてきた。

手塚は誰とも知らぬ生徒に同情する。お互いもっと考えて書いていれば良かったのに。

 

 

「………」

 

 

しかし、こういった時ほど隣が気になるものだ。

手塚はチラリと目線を移動させて観察を行うことに。

 

まず見えたのは少し背の引くい少年だった。

確か隣のクラスにいた記憶がある。もちろん見たことがあるだけで、会話を交わしたことは無い。名前も知らない間柄だった。

 

手塚はそのまま少年の書いた進路を見る。

こういう覗き見は良くないと知りつつも、興味が勝ってしまった

 

 

「?」

 

 

一瞬、何が書いてあるのか分からなかった。漢字二文字だ。

 

 

(しかし、なんというか……)

 

 

手塚も人の事は言えないが、よく書けたものだと思ってしまう。

 

 

「はぁ」

 

 

結局あれからチクチク責められ、五分ほど経った後に解放される。

手塚はうんざりしながら職員室を後にした。

同じくして、少年も一緒に退出してきた。

 

 

(思い出した)

 

 

そう言えば、委員会の仕事で一緒になった事があった。

その時に名前も見た気がする。手塚は唸りながら記憶の鍵を探る。

そう、そうだ――! たしか彼の名前は。

 

 

東條(とうじょう)(さとる)。だったな)

 

 

手塚は進路に『英雄』と書いた東條を見つめる。

本気で書いたんだろうか? それともふざけて書いたんだろうか?

まあ、そんな事はどうでもいい。問題は、何か東條から異質なエネルギーを感じたことだ。

 

東條は手塚を見ることなく教室に戻っていく。

手塚は少し迷ったが、周りに誰もいない事を確認するとマッチを取り出して火をつけた。

占いの一つだ、マッチの火を通して人を見ると、人物像が視えてくるのである。

 

 

「………」

 

 

しかし、ここで手塚は自分を客観視してみる。

いきなりマッチに火をつけて、ぼんやりしている訳だ。

怪しい。怪しすぎる。しかもこういった占いの手法は見たことが無い。

つまり独学と言うわけ。だから困るのである。

 

 

(いや、いい。今は集中だ)

 

 

手塚は目を細め、炎を見つめた。

 

 

「!?」

 

 

ふと、手塚の表情が変わる。何が視えたのだろうか?

 

 

「アイツ、まさかな……」

 

 

考えすぎか?

手塚は火を消すと、気だるげに教室に戻っていった。

一方の東條は、空ろな目をして廊下を歩いていく。

進路に『英雄』と言う奇抜な事を書いた心情は、どの様なものなのだろう?

そんな中、ふいに携帯電話が音を立てる。

 

 

「はい」

 

 

画面をタッチして通話を開始する。

聞こえてくるのは女の子の声だ。

なんだか、ぎこちない雰囲気を向こうから感じた。

 

 

『ヒサシブリダネ、トージョー』

 

 

何故か片言で話し始める。感情を抑えているのか。

 

 

「……何かな?」

 

『テヅダッテ、ホシーコトガ、アルンダ』

 

 

東條は少しの間、少女の話を聞く。

しかし最終的な返事はノーだった。

 

 

「そんなの間違ってるよ」

 

『!』

 

「そうだよ、そんなの……、"英雄"のする事じゃないよ」

 

 

英雄らしくない。

東條は淡々と言い放つ。

すると電話の向こうにいる少女の雰囲気が変わった。

 

 

『――ァ』

 

「……?」

 

『アアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 

激情の声を上げる電話の相手。どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。

少女は声を荒げて、東條を罵倒し始める。

嫌いだの死ねだの、間違っているのはお前だのと、少女は次々に東條を責め立てた。

 

尤も、その東條は無表情で、特に効いている様子はないが。

ある程度そうやって一方的な罵倒が終わると、電話の相手はさっさと会話を終わらせてしまう。

 

 

『死ね! 死んじゃえバーカ!! だいッきらい! プン!!』

 

「やれやれ……、相変わらず下らない事で怒るんだから」

 

 

怒りや感情に身を任せるのは愚かな事だ。そうして自らの身を滅ぼす。

まさにそれは『英雄』とはかけ離れた行為じゃないか。

やはり話を断って正解だった。東條はそう思いながらポケットに手を入れる。

 

 

「この力は……、英雄になる為に使わないと」

 

 

決して人を傷つける為にではない。

東條は自己に言い聞かせると、それを――、紋章が描かれている"カードデッキ"を握り締めた。

 

 

「早く……、英雄になりたいな」

 

 

東條は笑みを浮かべると、デッキから手を離して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美穂先生、これ今日の保険日誌です」

 

「ん、サンキューまどかちゃん」

 

 

所変わって見滝原中学校の保健室。

まどかは保健係として、クラスの欠席状況や遅刻の有無を記載した『保健日誌』を美穂に提出していた。

 

 

「お仕事はどうですか?」

 

「あぁー、まあまあかな」

 

 

専門学校から連絡が来て、見滝原中学校といろいろ話し合いをした結果、実習は継続となった。

それだけじゃなく、採用試験も兼ねているらしい。

問題なしと判断されれば、養護教諭免許を取得できれば見滝原中学校で働けるのだ。

 

 

「本当ですか!」

 

「いやッ、って言うか……」

 

 

おそらくはジュゥべえが手回しをしてくれたのだろう。

いくら見滝原の教育が特殊だと言っても、いろいろ美穂にとっては都合が良すぎる。

なんでも専門学校側が美穂は優秀な生徒だと言っていたらしいが、全く心当たりがない。

 

 

(ま、まあいいや。甘えておこ。これで酒に溺れて留年(ダブ)った黒歴史を抹消できる)

 

 

就職第一だ。美穂はゲームで死ぬ気はない。

それからの生活を見据えて、今日も真面目に『保健室の先生代理』を務めるのだ。

 

 

「困った事があったらなんでも言ってくださいね!」

 

「あーん! 嬉しいまどかちゃーん! ギュってさせてー!」

 

「わわわわ!」

 

 

美穂はまどかを抱きしめると、背中を撫で始める。

 

 

「どう? やっぱり……、まだ考えちゃう?」

 

「そう――、ですね。やっぱり席がなくなったのは寂しくて」

 

 

さやかの席が無くなったのは、心に来るものがあった。

 

 

「もう元気に笑ってる人たちはいるんですけど、仁美ちゃんは今も元気が無くて……」

 

 

まどかも元気は無い。

美穂は思う。まどかは良くも悪くも背負いすぎる性格がある。

優しいが故に壊れやすい?

 

 

「でも、だからこそ仁美ちゃんを元気付けてあげたくて――!」

 

 

いや、違う。まどかは弱いだけじゃない。

弱さの中にある強さ、それは本当の優しさだ。

そこで何かを思いついた様に離れる美穂。彼女は手を叩いて、まどかに笑顔を向けた。

 

 

「そうだ! ケーキ作ろう!!」

 

「へ?」

 

 

いきなりケーキ?

ポカンとしているまどかを見て、美穂はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「ケーキ、ですか?」

 

「うん。さやかちゃん、好きだったでしょ?」

 

 

教室では、仁美が先ほどのまどかと同じような表情をしていた。

ケーキ作り。そのままの意味だ。皆で集まってお菓子を作ろうと言うのである。

もちろん今は時期が時期だ。そんな気分ではないと言うことは分かるが――

 

 

「さやかさんの為に……」

 

 

このケーキ作りには様々な意味があった。

さやかはいつも、マミが用意してくれるケーキを楽しみにしていた。

それは仁美も知っている。

 

あとは何といっても仁美やまどかの為だ。

彼女たちは自分を責めすぎている。

お菓子作りストレスを解消する効果があると聞いた。『さやかの為』を理由にして、元気になってもらおうと美穂は考えたのだ。

 

 

「………」

 

 

仁美もある程度は気遣いを感じたのだろう。

だがやはり気持ちが乗り切らないと言う事もある。

燻るように沈黙していたのだが、そこで上条に話しかけられた。

 

 

「鹿目さん、それ、僕も行っていいかな?」

 

「上条くん……!」

 

 

上条だけではなく、両隣には複雑な表情を浮かべている中沢と下宮もいた。

さやかを失って一番ショックを受けているのは上条だろう。

まどかも中沢たちも、上条がさやかへの想いに気がついた事は知っている。

 

 

「ごめん。少し話が聞こえてきて。さやかの為、なんだよね?」

 

「う、うん……」

 

「気分転換がしたいんだ。いつまでも引きずってたら、さやかに笑われるからね」

 

 

上条は困ったように笑った。

 

 

「空気が重いよね。中沢達も鹿目さん達も、僕の事を遣わないでよ」

 

「「え……!」」

 

 

同時に声を上げる中沢とまどか、正直に言えば正解である。

その様子を見て笑う上条。あまり悲しみの感情は感じなかった。

 

 

「僕は気づいたんだ――」

 

 

上条は自分の胸を押さえる。

 

 

「さやかはココにいる」

 

「っ?」

 

 

上条の瞳に影は無い。

それはある意味、不気味な程に。

 

 

「僕の心に彼女は生き続けている。だから僕は悲しんでられないんだ」

 

 

上条はもう一度言う。

自分にできる事は、天国にいるさやかに笑われない様な生き方をする事。

もう十分悲しんだ。だったら後は、さやかに見せても恥じない生き方をする事だと。

 

 

「だから気を遣うのは止めてよ。僕はもう大丈夫だからさ」

 

「は、はい!」

 

 

吹っ切れた。と、言う事なのだろう。

それを聞いて仁美の表情が変わった。

一番悲しいのは上条の筈。その彼が、悲しんでいられないと言うのだ。

 

 

「そう……、ですわね! さやかさんの為にも悲しんではいられませんわね!」

 

 

仁美は大きく頷くと笑みを浮かべて立ち上がる。

そして胸をポンと叩くと、まどかに先ほどの話を持ちかける。

つまりケーキ作りだ。

 

 

「作りましょう! 家の厨房を使ってもらって構いませんわ!」

 

「うん!」

 

「じゃあ、決まりだね。中沢と下宮もおいでよ」

 

「えッ、でも……!」

 

「どうぞどうぞ! 遠慮なさらず!」

 

 

そう言うので、お言葉に甘えることに。

結果、翌日の放課後に仁美の家でケーキ作りをする事になった。

 

 

「ケーキ? いいの? 行く行く!!」

 

 

かずみも誘い、さらに――

 

 

「ほむらちゃんもどう?」

 

「………」

 

 

沈黙するほむら。

しかし、かずみが飛びかかり、体を揺らす。

 

 

「行こうよ、ほむら!」

 

「………」

 

 

どうしたものか。

ほむらが沈黙していると、とんでもない言葉が聞こえてきた。

 

 

「そうですわね。お料理がお上手な方がいてくれた方が助かりますわ」

 

「!?」

 

 

仁美に視線を移すほむら。

料理が上手い? 誰の事を言っている?

戸惑うほむらへ、中沢が追撃の一言を。

 

 

「そうだった。暁美さんって自炊してるんだろ?」

 

「え?」

 

と言うのも、ほむらは家庭の事情で一人暮らしと言う情報がだいたいの人に知られている。

一人暮らし。そこから連想されるのは自炊だ。ましてやほむらはだ。先入観が生まれてしまうのは仕方ない。

 

 

「ね! 一緒に作ろうよほむらちゃん!」

 

「……え、ええ」

 

 

まどかに言い寄られて、戸惑いながらも了解をしてしまった。

サキも誘って、仁美の家にはまどか、ほむら、サキ、かずみ、仁美、上条、中沢、下宮が来る事になった。

後はそれぞれパートナーを誘いたかったら誘うと言う事で、解散となる。

 

 

「お、俺も行っていいのかな?」

 

「気にするなよ中沢。志筑さんと近づけるチャンスかもしれないじゃないか」

 

「そ、それはそうだけど!」

 

 

好きだった仁美の家に行けると言うのは、確かに嬉しい事である。

だが中沢としては、失恋したばかりの上条の前で浮かれるというのは流石に申し訳なく感じてしまう。

 

 

「ハハハ、そんな顔するなよ。さっきも言っただろ? 僕はもう乗り越えたんだ」

 

「で、でもぉ」

 

「気を遣われる方が嫌だよ。それより、貴重な好感度アップのチャンスだよ? しっかり志筑さんにアピールしたほうがいい」

 

「そ、そっか! そうだよな!」

 

 

上条に肩を叩かれ、中沢は笑顔を見せた。

中沢としても上条の事は心配だったが、この様子を見るに安心できそうだ。

悲しみを乗り越えて吹っ切れたんだろうと思う。

 

 

「………」

 

 

笑顔の中沢だが、相変わらず下宮の表情は暗い。

何も言わず、ただ一点を見つめ続ける。それは上条の背中、吹っ切れたと笑みを浮かべていた男の背中だ。

 

 

「………」

 

 

吹っ切れた? 彼女は胸の中で生きている?

 

 

(上条くん……)

 

 

本当に、そうなのか?

いつも一緒にいるからこそ、何か違和感を感じる。

しかしその理由を誰が想像できるだろうか?

さやかを生き返らせる気でいるから、落ち込んでない。なんて理由を。

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ明日、材料を各自持参して仁美の家に集合だ」

 

 

サキの言葉に頷くまどか、仁美、かずみ。

とりあえず各々、玉子やクリームを持ってくる事に落ち着いた。

 

 

「かずみは料理は?」

 

「結構得意だよ! お店も手伝ってるし!」

 

「なら安心だな。ほむらも相当だと聞いたが?」

 

「……そ、そんな事ないわ」

 

「またまた、謙遜を」

 

 

ならどうしろと!? ほむらはマジマジとサキを見つめる。

一人暮らしの女の子は料理が上手い。男女差別だの偏見だの叩かれる意見かもしれないが、事実ほむらは完璧超人だ。

欠点が無いと思われていたため、いつのまにか料理も上手いと誤解されていたらしい。

 

 

「ほむらちゃんが作るんだから、きっと凄いケーキなんだろうなぁ」

 

「う゛ッ」

 

 

まどかの目が輝いている。ああ、なんて純粋な悪意なんだ。

ほむらは再び口を閉じた。確実にまどかから尊敬のまなざしで見つめられている。

見られている。だから、だから――ッ!

 

 

「ええ、ああ。たいしたものじゃないけれど」

 

「凄いんだねほむらちゃん! 憧れるなぁ!!」

 

 

ほむらは頬を染めて小さく頷いた。

ノープラン。褒められたかったんだもの、仕方ない。

だからほむらは家に帰ると、すぐに冷蔵庫に駆け寄った。

 

 

「………」

 

 

迷うことなく冷蔵庫を開けと、大量のカロリーメイトと、適当に買ったスーパーの『お惣菜』が見えた。

それを手にとり、動きを停止させるほむら。

少し汗を浮かべて小さく呟く。

 

 

「……まずい」

 

 

お気づきだろうか?

暁美ほむらは何やら料理が上手いだの、自炊をしているだのと学校では言われている様だが、実際は生まれて今日まで料理を作った事など皆無なのである。

 

幼い頃はいろいろあって料理とは無縁だった。

成長した今も、食には全く興味が無いので適当に済ませていた。

つまりこの女は、まどか以下の初心者と言う事である。

そんなほむらがいきなりお菓子作り。果たしてうまくいくだろうか?

 

 

「………」

 

 

上手くいく訳が無い!

ほむらは立ち上がると、困ったように家の中をウロウロと歩き始めた。

 

 

(とにかく何としても、明日までにケーキの何たるかは学んでおいた方がいいわね)

 

 

とりあえず今日の夕飯は自分で作るべきだ。

なんだかんだ言って料理はキチンとして作れば失敗する事はないだろう。

ましてや今日日ネットの力もある。携帯で調べれば簡単なのだ。

幸いスーパーは遠くない。材料はすぐに集まる。

 

思い出すのは、先ほどの輝いたまどかの瞳だ。

おいしいケーキを作ってみせれば、まどかも元気を取り戻すだろう。

ならばやる事は一つだ。ほむらは頷くと、決意を固める。

 

 

(練習、しておこう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、帰宅した手塚は、鞄を放り投げて椅子に持たれかかる。

ここから何をしたものか。いろいろ考えていると、携帯が震える。

画面を確認すると、『暁美ほむら』とあった。珍しい事もあるものだ、手塚は訝しげな表情で通話を開始する。

 

 

「どうした?」

 

『………』

 

 

無言。何で電話をかけてきたのに黙るのか?

そこで表情を変える手塚。黙っていると言う事は、話せない事があると?

 

 

「まさか何かあったのか!」

 

『い、いえ……。そういう訳ではないのだけれど』

 

「???」

 

 

一瞬参加者に襲われただとか、誰かに何かあったのかと思ったが、そういう事ではないらしい。思えばトークベントでテレパシーを使えるのだから、電話の意味がない。

そうだ、意味がないのだ。なのに電話をかけてきたと言う事は――、どういう事なんだろうか?

 

 

『貴方、食事は?』

 

「……は?」

 

 

唐突である。

 

 

『もう食べたの?』

 

「いや……ッ」

 

 

しばしの沈黙。

 

 

『まだなの?』

 

「そう……、だな。まだ食べてない」

 

『食べるの?』

 

 

当たり前である。

 

 

「そ、そうだな。どうした? 何が言いたいんだ?」

 

『………』

 

 

何か様子がおかしい。

いつもは何でもズバズバと言ってくるのに、今はどもり、お茶を濁すばかりだ。

悪い報告では無いようなので、それは安心だが、違和感が強くて気持ちが悪い。

 

 

『手塚。もしよければ――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな」

 

「いいのよ、作り過ぎただけだから」

 

 

ほむらの家、そこに手塚はいた。

結局、電話の内容は、ほむらが夕食を作りすぎたから手塚に処理してもらおうとの事だった。

 

要するにご飯を一緒に食べようと言うお誘いだ。

手塚としても断る理由は無いし、パートナーとの交流は大切だ。

さらに言えば手塚も男である。美少女が手料理をご馳走してくれるというのだ、悪い気はしなかった。

 

 

「何を作ったんだ?」

 

「ええ、和食を」

 

 

そう言って台所に消えていくほむら。

手塚は手伝うと申し出たが、ほむらはそれを拒んだ。

ならば、やる事はない。手塚は鞄から占いの本を読んで、配膳を待つことに。

そのまましばらくすると、ほむらが料理を運んでくるのだが――。

 

 

「みそ汁よ」

 

「ああ、すまな――」

 

 

言葉を止める手塚。

目の前に置かれたみそ汁は何か――、非常に違和感があった。

そしてすぐに手塚は違和感の正体を突き止める。このみそ汁、具が入って無い。

 

 

「………」

 

「………」

 

 

バサッ。そんな音と共に、手塚は本を床に落とす。

首を傾げるほむら。なんだか料理を見た途端、手塚の様子が変になった気がする。

目を見開いて運んできた料理を凝視しているじゃないか。

 

 

「ちょ、ちょっと待て暁美」

 

「何?」

 

「――何だ、それ」

 

「?」

 

 

メニューのことか?

ほむらは自己解釈を行い、運んできた料理を説明する事に。

 

 

「貴方も料理の知識は薄いのね」

 

「……は?」

 

 

ほむらは少し優越感を感じてメニューを紹介する事に。

しかし手塚は困惑していた。ほむらはドヤ顔で料理を説明してくるが、全く理解できなかった。

 

何だ? 何を言っているんだコイツは?

手塚はもう一度ほむらが持ってきた料理に視線を戻す。

料理? それはどこにある? おい、おい! おい!!

 

 

「も、もう一度説明してくれないか?」

 

「だから言ったでしょ? かやくご飯よ」

 

「………」

 

 

かやくご飯。要するに炊き込みご飯、混ぜご飯の事である。

手塚はそれを聞いた上で、もう一度ほむらが運んできたご飯を確認する。

これか? もしかしてこの物体の事を彼女はそう言ったのか!?

 

手塚の全身から汗がにじみ出てくる。

ほむらが運んできたのは、真っ黒にすすこけたご飯である。

見た目で正体に気がついた手塚。念のため匂いを嗅いでみたが、それは確信へと変わるだけだった。

 

 

(暁美、これは火薬ご飯だ――ッッ!!)

 

 

夢か? 自分は夢を見ているのか?

手塚はそんな感覚に陥りながら目の前にある煤こけた物体を見ていた。

そして次に置かれるのはメインディッシュである焼き魚――らしい。

 

 

「ちょっと焦げてしまったけど――」

 

「………」

 

 

ちょっと? 手塚は目の前に置かれた『炭』を見て目を細める。

料理を運んで来る際、一瞬だけ台所の奥が見えたが、ソコに火炎放射器が置いてあったのはそういう事だったのか。

 

しかし手塚は次に置かれた料理を見て、今までの焦りを吹き飛ばす事になる。

それだけ認識が甘かったと言う事か。

ほむらは手塚の前に、油揚げを袋状にした料理を置いた。

見た目は一番まとも。しかし料理名を聞いた時に手塚は全てを察する。

 

 

「さいごに、"ばくだん"よ」

 

「―――」

 

 

手塚は無言で箸を持ち、油揚げを裂く。

袋の中に姿を見せたのは――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手榴弾だった。

 

 

「………」

 

 

手塚は夕飯に呼ばれた。しかし目の前には兵器が置かれている。

何を言っているのか分からないとは思うが、手塚も分からない。

あれか? ほむらは自分を消す気なのか?

パートナー同士は傷つけ合う事ができないと言うのを実験しようとしているのか?

 

手塚の箸を持つ手が震え始める。

コミックの世界にでも迷い込んだのだろうか?

だって今の時代、お料理サイトなんざ山ほどある。その上でコレである。

 

何だ? ほむらは自分に何を期待しているんだ!?

試されているのか? ここで『お口の中がハルマゲドンや~』なんて言えば和やかな雰囲気になるのか?

いや、いや、いや、ほむらと言う少女はそんなご機嫌な性格じゃない。

それは手塚もよく知っている。

 

分からない。

サッパリ分からない。

これは素なのか、それとも演技なのかが!

 

 

「ち、ちなみに……、味見とかって――?」

 

「………」

 

 

ほむらは、眉をひそめる。

まずい、地雷を踏んだか?手塚が焦りを感じた時、ほむらの口から衝撃の一言が。

 

 

「味見って、何かしら?」

 

 

確信する。

この女、料理とは何たるかを全く分かっていない!

手塚は短時間の内に迷い、そしてその決断を下した。

ほむらに、本当の事を言おうと。

 

 

「あ、暁美……。悪いがッ、これは食べれない」

 

「………」

 

 

その時、ほむらはシュンとなって、眉を八の字に。

悲しげな表情を浮かべると、手塚に差し出したおぼんを掴み取る。

その光景を見て、手塚は喉を鳴らした。何だ? 何でそんなに悲しそうな顔をする。

罪悪感を思い切り刺激され、手塚の心がズキズキと痛む。

 

 

「和食は嫌いだったのね――……」

 

 

違うそうじゃない! 手塚は叫びそうになるがグッとこらえる。

アレはそもそも食べ物じゃない、それを彼女に言えばいいだけだ。

何を迷っている手塚海之。言ってみればコレはほむらの為でもあるのだ。

あんなのを他に出したら死人が出るぞ。そうだ、当たり前なのだ。

 

 

「すぐに捨ててくるわ」

 

「ま、待て!!」

 

 

走り去ろうとしたほむらを、手塚は反射的に呼び止める。

 

 

「何……?」

 

「そ、そうじゃなくて。そのッ、なんだ。食べるのが勿体無いって意味だ!」

 

「!」

 

 

ほむらはそれを聞くと表情を元に戻して、再び手塚の前におぼんを置く。

ヤバイ、何を言っているんだ俺は。手塚はすぐに今の言葉を取り消そうと思ったが、そこでほむらと目が合った。

 

ほむらの目は笑っていないが、少しだけ口がつりあがっている。

そんな彼女にまた棄てて来いだなんて――

 

 

(い、言えない――ッッ!)

 

 

そうか、そういう事か。

まだ俺の不運は終わっていなかったんだな。これこそが占いの意味だったのだな。

手塚は覚悟を決めてほむらに曖昧な笑みを向ける。

 

いいんだろ? 食えばいいんだろ?

それでこの戦いが終わるのなら、俺は戦う!

手塚は覚悟を決めると、瞳に光を宿した。

 

 

「暁美。悪いが、お茶を持ってきてくれないか?」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

少し嬉しそうに台所に消えていくほむら。

これはチャンスだ。手塚は唸り声を上げて、再び目の前に置かれた兵器を直視した。

 

火薬ごはんは、文字通りごはんに火薬を混ぜただけの産物だろう。

占わなくても分かる、これは食えない。

 

では次に焼き魚を見てみよう。

火炎放射器で焼かれただけあって完全に炭となっている。

結果は、まあ食えない。

 

ではみそ汁は?

唯一見た目はまともだが、恐らくお湯に味噌を溶かしただけだろう。

結果は、まあ食える。

 

そして最後に爆弾だ。

分かる、食べたら死ぬ。

 

 

「………」

 

 

そもそも爆弾に関しては最悪自分以外にも危害が加わる可能性が高い。

今自分に課せられた使命はいかにしてこの兵器を処理するかだ。

悩む手塚、早くしないとほむらが戻ってくる!

 

 

「やむを得ないか……っ! 変身!」

 

 

ライアに変身する手塚。

ほとほと自分は何をしているんだと言う気持ちになる。

だが仕方ない、これもまた一つの運命だ。ライアはアドベントを発動すると、自分の分身であるエビルダイバーを召喚した。

 

大きな体のエビルダイバーは、なんとかほむらの部屋に入ったと言うくらいだ。

しかしすぐに飛び立とうとするエビルダイバー。

彼だって知能がある。自分が何故呼ばれたのか素早く察知した様だ。

しかしその前にライアが飛び乗って床に押さえつける!

 

 

「お前も俺の分身なら、分かってくれるなッ!?」

 

 

嫌々と体を振るエビルダイバーだが、ライアはさらに強く押さえ込む。

そして素早くエビルダイバーの口をこじ開けると、そこに料理を放り込んでいった。

 

 

「許せエビルダイバー、ばくだんに耐えられるのはお前しかいないんだ!」

 

「―――!!」

 

 

乱暴に料理を放り込み、最後に油揚げで包まれた手榴弾をほうりこむ。

ドン! と衝撃がして、エビルダイバーが浮き上がったが、見込みどおりそれだけで終わってくれた。

 

近づいてくる足音。

ライアはエビルダイバーを戻すと、自身は変身を解除してみそ汁に手を伸ばす。

 

 

「――ッ?」

 

「お、遅かったな暁美……!」

 

 

目を丸くするほむら。

お茶を手にして戻ってきてみれば。いつの間にかみそ汁以外の料理が消えているじゃないか。

 

 

「まさか、もう食べたの?」

 

 

ほむらの言葉に、手塚は曖昧な笑みを浮かべる。

 

 

「あ、ああ……。お腹が――、その、空いていたから」

 

「そう」

 

 

また少し嬉しそうに表情を和らげるほむら。

これでいいんだ。手塚はそう思いながら、出汁の無い味噌汁をすすっていた。

ほむらは頷くと再び手塚のおぼんを掴み取った。

 

 

「お、おい待て。どうした?」

 

「待っていて、おかわりもあるのよ。やっぱり男性は食べるのが早いのね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――」

 

 

真っ白になる手塚と、台所に消えていくほむら。

数十秒後には再び兵器の群れが手塚の前に並ぶ。

一度で終わると思っていた自分が馬鹿だった、手塚は再び震える手で箸を――

 

 

「暁美、マヨネーズが台所に無かったか?」

 

「どうだったかしら? ちょっと待っていて」

 

 

台所にほむらが(以下略

 

 

「へんしん!」『アドベント』

 

 

現れるエビルダイバー。逃げるエビルダイバー。取り押さえるライア。

ここまでのテンプレをクリアして、再びお口に兵器を流し込んでいく。

 

瞬時アドベントと変身を解除する手塚。

なんとかマヨネーズを片手に持ったほむらが来る前に、事を終わらせる事ができた。

 

 

「もう食べたの!? それに凄い汗よ」

 

「そ、そうだな。まあその――、ああ」

 

 

気にするなと手塚は笑う。

ほむらは不思議そうな表情をしていたが、要するに手塚はキチンと全部食べたと言う事実だけが重要の様だ。

ほむらは満足そうに頷くと、手塚の正面に座る。

 

 

「手塚……。その、正直に言ってもらいたいのだけど」

 

「なッ、なんだ? なんだ……?」

 

「おいしかったかしら?」

 

「ッッ!!」

 

 

どうする!?

手塚はしきりに痛みを放つ胃を抑えながら、迷いの檻に捉えられる。

目を見てハッキリといえるだろうか? いやいや、もうココまで突き通した嘘なんだから今更引き返せるか!

 

 

「お、おい……しいぞう」

 

「?」

 

 

だっさい噛み方をしてしまった気もするが、手塚はその言葉を口にして、すぐにほむらから目をそらす。

占いをするのはいいが、対策案も示せる様にならなければ今回の様な酷い目に――

 

 

「そう、じゃあ私も食べてみようかしら」

 

「………」

 

 

それを攻略する方法が何も思いつかなかった。

やはり今日の運勢は悪い。手塚はガックリとうな垂れ、真っ先に謝罪の言葉を口にするのだった。

 

 

「すまん、実は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その……、いろいろとすまなかった」

 

「いえ――っ! 私こそ……その、気を使わせてしまったみたいね」

 

 

二時間後、テーブルには先ほどとは打って変わって、本物のかやくごはん、焼き魚、みそ汁、ばくだんが並んでいた。

手塚は自らが隠した事実を全て打ち明け、二人で一からちゃんとした手順で料理を作り直したのだ。

 

 

「にしても、なんであんなに……。インターネットで調べなかったのか?」

 

「まずは何も調べず、自分がどこまでのレベルかを知りたかったの」

 

「だからって……」

 

「いい? 手塚。脳にはキャパシティがあるの。必要な情報をいくつも取り入れれば、不必要な情報は消えていくわ」

 

「へー」

 

「なに? その感情の無い返答は。文句があるのなら直接聞くわよ?」

 

「いや、いやいや。悪かった」

 

 

最初は不慣れ故に戸惑っていたほむらだが、手塚がちゃんと指導を行ったおかげで何の問題も無い出来に仕上がった。

時間はかかったが、やっと二人は夕食にありつけるという訳だ。

 

 

「………」

 

「うん、うまいじゃないか」

 

「ええ、そうね」

 

 

とはいえ、流石に本物の爆弾を使ったのは馬鹿としか言いようが無い。

ほむらは申し訳なさそうに手塚を見る。

手塚は先ほどとはうって変わって、涼しげな表情で料理を食べていた。

 

二人の間に会話は無いが、その間ほむらには募る疑問があった。

初めは聞かずに終わるつもりだったが、遂に耐えられず、ほむらは小さく声をあげる。

 

 

「ねえ」

 

「うん?」

 

「……聞かないの?」

 

「何を?」

 

 

言葉を止め、ほむらは下に向けていた視線を、手塚へと向ける。

 

 

「私が、"彼女"に拘る理由」

 

「………」

 

 

手塚だってもう気づいている。

暁美ほむらは、明らかに鹿目まどかに対して特別な想いを抱いている。

 

 

「そうだな――」

 

 

手塚としても、そこは疑問に思う所ではあった。

手塚がほむらと知り合った後に、ほむらはまどかと知り合っている筈だ。

にも関わらず、ほむらはまどかに対して異常とも言える執着を見せていた。

 

常にまどかの事を優先的に考え。

杏子がまどかに危害を加えたときは、本気で殺そうともしていた。

 

確かにまどかは優しくて良い娘だと手塚も思う。

よほどじゃない限り、嫌いになる人間はいないだろう。

とは言え、言い方を変えればそれだけだ。特別視する理由は分からない。

そうなると何か理由があるのだと考えるのは当然だ。

 

 

「聞いてほしいのか?」

 

「え?」

 

 

手塚は少し微笑んで、ほむらを見る。

 

 

「誰にだって言いたくない事はある。そうだろ?」

 

「ええ、まあ」

 

 

それはもちろん手塚にも。

 

 

「俺に話しても良いと思えた時、教えてくれればそれでいいさ」

 

「――ッ」

 

 

ほむらは無言で頷くと、手塚に頭を下げる。

手塚と知り合い、今までいろいろな事があった。

その中で少なくとも手塚海之という人間は悪人ではなく、むしろ信頼に足る人物であると考えていた。

 

しかし全てを打ち明けるにはまだ抵抗があった。

それはきっと手塚の考えと、ほむらの考えが根底の部分で違っていると言う事だ。

そこに、ほむらはある種の罪悪感、後ろめたさがあるのだろう。

 

手塚は戦いを止めたいと思っている。

どうにもならない敵に関しては命を奪う事も仕方ないと思っている様だが、それでもなるべく犠牲者は抑えようと思っている。

 

しかし、ほむらは違う。

まどかがいれば、他の人間がどうなったって構わないと思っているのだ。

状況によっては、全員を殺してもいいとすら思ってる。

だからこそ、頭が痛くなる。

 

 

「これは俺の考えだが、誰かに言ってしまえば自分が弱くなる気がするんだ」

 

「?」

 

 

人に打ち明ける事で頼ってしまう。甘えてしまう。

 

 

「だから胸に抱えた覚悟が緩んでしまって、弱くなる気がするんだ」

 

 

手塚は悲しげにそう言った。

そしてそれはほむらにも分かる事だ。何度、打ち明けたくなったか。

 

 

「打ち明けて協力してもらった方がずっといいのにな。それとは別のジレンマ、プライドがあるのかもしれない」

 

 

自分自身でケリをつけたいと思う気持ち。

他人にこの苦しみを分けてはいけないと思う遠慮。

 

 

「面倒な生き物だな、人間は」

 

「……かも、しれないわね」

 

 

絶対に諦めたく無いと思っている事に、本気で取り組めているのだろうか?

ほむらも手塚も引っ掛かる部分があるのかもしれない。

双方それを互いのパートナーに感じている。

 

ほむらがまどかに執着する理由。

手塚が騎士になった理由。それを知ることになるのはもう少し先になりそうだった。

 

 

「難しいな」

 

 

手塚は横においてある占いの本を見て呟いた。

 

 

「死んだほうが楽なんだろう。闇に堕ちた方が、楽なんだろう」

 

「……そうね」

 

「だが、俺には――、いや俺達にはやらなければならない事がある」

 

 

放棄したいと、投げ捨てたいと、思ったときもあるんじゃないか?

 

 

「面白いと思わないか? 人は自らの辿る道が決まっていると信じている」

 

「それを、運命というのね」

 

「ああ。運命って言葉は、真実であり都合のいい訳であり、逃げ道だ」

 

「………」

 

「だから俺は運命が知りたい。それを視たいんだ」

 

 

手塚は占いを始めた理由を端的にほむらへ告げる。

『全ては運命』、そんな便利な言葉で片付けられてしまう事が、手塚には許せなかった。

 

人が死ぬのはソイツの運命か?

魔法少女が絶望して魔女になるのは運命か?

騎士が願いを抱えて戦うのは運命か?

友達が疑いあい、傷つけ合う事は運命か?

そして、このゲームに飲み込まれる事は運命だったのか?

 

 

「違う。そんな下らない運命なんて認められるか」

 

 

だから知りたい、だから変えたい。

 

 

「必ず運命は変えられる。俺はそう信じている」

 

 

ほむらの胸に走る痛み。

本当に、そうだろうか? そうであってほしいとは思うが、やはり運命は決まっているんじゃないのか?

 

いや、駄目だ。

ほむらは首を振ると、一瞬抱いた想いを否定する。

 

 

「それより、明日はケーキを作るんだろう?」

 

「え?」

 

「この調子なら大丈夫そうだな」

 

 

目を丸くするほむら、そう言えばそうだった。

 

 

「貴方もよければどう?」

 

「いや、俺は遠慮するよ。お前達だけでやるといいさ」

 

「城戸真司や霧島美穂も来るみたいよ。それに私としては貴方がいてくれた方が……、いろいろと都合がいいのだけど」

 

 

ほむらは先ほど自分が作った産物を想像して引きつった表情を浮かべる。

明日も何かやらかしてしまう可能性もある。

そういう時に手塚にサポートをお願いしたいと言う事だった。

 

 

「だったら、まあ……」

 

 

手塚は渋々了解する。それを聞いて少し安心した様に微笑むほむら。手塚も苦笑交じりにため息をついた。

明日はうまくいくといいんだが、そんな思いを乗せて手塚は料理に手を伸ばしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。学校が終わり放課後、約束のとおり仁美の家に一同は集まる事に。

まどかは一度自宅に戻り、冷蔵庫にある卵をカバンに入れる。

 

 

「やあ、まどか。お友達の家に遊びにいくのかい?」

 

 

知久の言葉に頷くまどか。今日は詢子も仕事が終わったらしく、タツヤと一緒に絵を書いて遊んでいた。

どうやらタツヤは絵がうまい様で、詢子はしきりに『天才』だの『将来は画家』だのと、親バカっぷりを発揮している。

 

 

「じゃあ行ってきます」

 

「うん、気をつけてね」

 

 

まどかを送り出す知久。

それを確認して、詢子が声を声をかける。

 

 

「どう思う?」

 

「うーん、だいぶ良くなったけど、まだ少し元気が無いね」

 

「そりゃそうだよね、さやかちゃんの事があるんだもん……」

 

 

必死に生きようとしているまどかの姿は、どうしても少し悲しげに映ってしまう。

このケーキ作りも純粋な意味を持った物ではないと言う事は分かっていた。

 

 

「だけど、まどかは強いからね。きっとまどかなりの想いがあると思う」

 

「そだね、アタシらの娘だもん」

 

 

まどかの親として何もしてやれないのが歯がゆく、同時に悲しかった。

 

 

 

 

 

 

「おお、令子! 取材はどうだった?」

 

「はい、やっぱり警察も犯人は特定できてないそうです」

 

「かぁ~! まじかよ! ってかホント最近物騒だよなぁ」

 

 

BOKUジャーナルでは、取材から帰ってきた令子を編集長が出迎えていた。

編集長はマッサージ用具で肩を揉み解しており、デスクでは島田がものすごいスピードでキーボードを叩き、記事を作っていた。

 

隣ではポチポチとぎこちない真司のタイピング。

一言一言を呟きながら真司は金色の亀の情報を記載していた。

 

 

「なんか魔女とか怪しい研究してたオッサンだったしなぁ」

 

「不謹慎ですよ編集長」

 

 

二人の会話を耳に挟みながらタイピングを続ける真司。

 

 

「えー、こ・ん・じ・き・の・亀が・魔女で――……魔女!?」

 

 

ダンッ! と勢いよく立ち上がる真司。

 

 

「おわ! な、なんだよ真司」

 

「ま、魔女ってなんなんですか編集長! ねえ! 編集長ってば!!」

 

「待て待て! 落ち着けバカ! お前ニュース見てないのかよ!」

 

「え?」

 

「清明院大学の教授が殺されたんだよ!」

 

 

清明院大学は見滝原の外にある為、真司は取材に行く事ができない場所だった。

故に情報が薄かったが、話を聞けばそこにいる教授が魔女の研究を行っていたらしい。

秘密裏とまではいかないが、メディアには触れられない程度のものだったので、死体が発見されるまで担当者以外は研究の事を知らなかったらしい。

 

 

「しかも死体は矢で射抜かれていたんだぜ! 矢だぞ! このご時勢にわざわざ矢で殺すって、相当ヤバイ奴が関わってるんだろうな……!」

 

 

編集長は肩をすくめて身を震わせる。

対して真司は呻きながら椅子に座った。

やはり魔女は世界各地で発見されているのだろうか?

そしてやはりそれだけ迷信とは思わない人たちが現れる、と。

 

確かに真司だってまどか達に助けられた今があり、現に魔女の事を覚えているじゃないか。そういった人が他に現れてもおかしくない。

 

 

(でも……、矢で死ぬって?)

 

 

魔女に近づいた故に魔女に殺されたのだろうか?

しかしそれにしては殺害方法に違和感がある気がする。

魔女の口付けを受けての自殺ではなさそうだし、捕食もされていない。

文字通り矢で射抜かれて死んだだけ。真司はそこに強烈な違和感を覚えた。

 

 

(でも俺、見滝原から出られないし)

 

 

どうしたものか。真司はふと時計を見る。

 

 

「うわっ! やっべ!!」

 

「おわ!」

 

 

真司はすぐに荷物を纏めると、会社の冷蔵庫に入っている『クリームの素』や、『いちご』を手に取る。

何を? そんな視線を振り切って、真司はさっさと会社を後にする。

 

 

「ケーキの取材、行ってきます!!」

 

「……は?」

 

「早く行かないと遅刻だ遅刻!!」

 

 

真司はすぐにスクーターまで駆け抜ける。

待ってろよまどかちゃん! 今最高のクリームといちごを届けてやるからな!!

 

 

「ォ!!」

 

 

そこでバランスを崩す。

真司は勢い余っていちごを宙へと放り投げた。

そしてそのまま真っ赤ないちご達は――

 

 

「ああああああああああああああああああああ!!」

 

 

もはや何も言うまい。

真司は泣きながらスーパーに向かうのだった。

間に合うかな? あと結構いちごって高いんだよな。真司は渦巻く思いを胸にスクーターのスピードを上げたのだった。

 

 

 

 

 






飯といえば龍騎原作で、真司が豪勢に天丼食ってたのに、編集長がバナナだったの面白いシーンだなぁと思います。
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