仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第26話 (編後)キーケ

 

 

見滝原中学校のチャイムが、授業の終了を知らせてから数分後。

放課後の校門付近は、それぞれ部活や、優雅な寄り道ライフを送るだろう生徒達であふれていた。

 

まどか達の様な者はさっさと家に帰り。部活をしている者は準備を行いに散らばっていく。

そんな中、門の先に一人で立っている制服姿の少女がいた。

 

気になるのは制服が見滝原中学校とは違う事だ。

見滝原には中学校が全部で三つある。まどか達が通うのは第一中学校、これが主に見滝原中学校と呼ばれている。

 

あとは第二中学校、第三中学校と分かりやすく区別されているのだが、門に立っているのは第二中学校の生徒の様だった。

知らない生徒。しかも女生徒が校門に立っている。

当然それは話題になる訳で。

 

 

「お、おい。あの娘可愛くね?」

 

「確かに、第二はお嬢様学校なんだろ? 清楚って感じだなー!」

 

 

ポニーテールの少女が玄関をチラチラ確認しながら待っていると言う状況。

なんともまあ青春である。きっと彼氏でも待っているのだろう。

羨ましいと、他の男子生徒達は口にしながら門を通り抜けていく。

 

 

「でも結構身長あるな、年上か?」

 

「服のラインで学年が分かるらしい。確か青色は三年だったかな」

 

「ふーん、しかし俺もあんな可愛い彼女が欲しいねぇ」

 

 

などと笑いながら生徒達は通り過ぎていく。

それを気にする事なく、尚も待ち続ける少女、

しかし遂に待っていた人が現れたようで。

 

 

「!」

 

 

少女の表情がパッと明るく変わる。

彼女はまだ他の生徒達がいるにも関わらず、笑顔で手を振りながら走り出した。

目指すのは玄関から出てきた少年。少女は人目もはばからず、愛する人の名前を呼んだ。

 

 

「おーいっ♪ 淳くーんっ☆」

 

 

"双樹あやせ"は、現れた男子生徒に駆け寄ると頬を赤らめて腕を組む。

ザワつきはじめる周りの生徒。アイツが彼氏なのか!? そんな空気が辺りをつつみ、少年も思わずため息をついた。

 

 

「あのさぁ。お前、周りとかって気にしないの?」

 

「だってぇ……! わたしずっと淳君の事ばっかり考えてて、それで……!」

 

 

あやせは捨てられた子犬のような表情で少年を見つめる。

腕を組んだまま歩く二人だが、身長差があった。あやせの方が少年より高いのだ。

元々少年の身長が低めと言う事もあるが、何より少年は一年生であやせが三年生と言うのも理由かもしれない。

 

 

「うざいなぁ」

 

 

しかし少年はあやせの事を先輩扱いしている訳ではない様だ。

腕を組んで擦り寄ってくる様を、『ウザい』の一言で切り捨てる。

今の言葉が相当ショックだったらしい。あやせは涙を浮かべて、少年にすがりつく。

 

 

「ご、ごめんね淳くん! お願いだから嫌いにならないで!! わたし、淳くんの為ならなんでもするから!」

 

「ふーん。ま、いいけど。慣れてるし」

 

 

それを聞いてまた笑顔に戻るあやせ。コロコロと表情を変えて、忙しいものである。

だが、あやせとしては今の言葉が相当嬉しかったらしい。

ますます少年にしがみ付いてボディタッチを増やす。

 

 

「許してくれるの?」

 

「うーん、どうしようかなぁ?」

 

「い、意地悪しないで!!」

 

「んー、じゃあ許すよ。あやせ」

 

「!!」

 

 

真っ赤になって頷くあやせ。

どうやら二人には明確な主従関係が成り立っている様だ。

あやせの方が年上で身長も高いが、立場は完全に下である。

尤も彼女はそれで満足の様なので、構わないと言えばそうなのだが。

 

 

「淳くん、だーいすき♪」

 

「はぁ」

 

 

呆れた様に、ため息を漏らす少年。

彼の名は――

 

 

「淳くぅん。ゲームの準備はどう?」

 

「いいんじゃない? もう少しでゲームがもっと面白くなる」

 

 

芝浦(しばうら)(じゅん)

双樹あやせのパートナーであり、彼もまたゲームの参加者である。

その心にあるのは純粋さ、故の狂気。芝浦は文字通りゲームを楽しみたいと動いている。騎士最年少でありながら、命のやり取りも彼にとっては楽しいゲームなのだ。

傍から見れ仲の良いカップルかもしれないが、そこには確かな悪意が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

一方の城戸真司はいちごを求め町を駆け抜けていた。

約束の時間まで猶予は無い。まずは一番近いスーパーに転げ込む様にして入店した。

いちごいちごいちごいちごいちご、ブツブツ呟きながら店内を徘徊する真司は完全に変態だろうが、一大事である。仕方ないのだ。

目指すは果物売り場、真司は赤い宝石をすぐに探――

 

 

「おおっ!」

 

 

いちごがあった。

だが運が悪いのか、良いのか。数はなんと一パックだけ。

真司はすぐに全速力で走り出し――、た所で、突然現れた男が真司のいちごを奪い取った。

 

 

「どあああああああああああああああ!!」

 

「ん?」

 

 

真司はすぐに立ち止まるが、勢い余って大きくよろけてしまう。

対していちごを取った男はノーリアクションでそれを見つめていた。

しかしピンと来たのか、ああと声をあげて真司を指差した。

 

 

「お前!」

 

「って、北岡さん!!」

 

 

いちごを取ったのは北岡弁護士その人である。

やはり見滝原から出られないとなると街中でのエンカウント率も上がるものだ。

まあ、それが参戦派で無い分マシと言うものだが。

 

 

「あ! そ、そのいちご……!」

 

「何、お前欲しいの?」

 

「ま、まあ、はい。くれるんですか!?」

 

 

嫌だよ、北岡はそういいながらさっさとレジへ向かう。

いやいや、そこはそこはと食いつく真司。

ココを逃せば本格的に遅刻の可能性が出てきてしまう。

 

という訳で北岡がレジを済ませた後も纏わり着く真司。

どうしてもいちごを渡してほしいと頼み込んだ。

 

 

「やれやれ、本当にしょうがないな」

 

「くれるんですか!!」

 

 

北岡は数回頷くと、いちごを取り出して真司に向ける。

手を伸ばす真司。しかし北岡はそれよりも早くパックを引っ込めると、そのまま封を開けていちごをむき出しに。

 

 

「?」

 

 

戸惑う真司。

北岡は頷き続けると、パックの中からいちごを一つ取り出して見せる。

それを無意識に目で追う。北岡は真司にいちごを見せびらかす様に動かすと、そのまま自分の口の中にいちごを入れた。

 

 

「うん。うまいうまい」

 

「………」

 

 

北岡はその調子でもう一ついちごを口の中へ。

 

 

「いやぁ、甘いね今の時期は」

 

「………」

 

 

ひょいひょいパクパク真司の前でいちごを食べていく北岡。

数秒後にはパックはいちごのヘタしか残っていない状態に。

北岡はハンカチで口をふくと、残骸と化したパック、いやゴミを真司の手に持たせる。

 

 

「ま、遠慮しないでよ。同じ騎士同士なんだ、困ったら助け合いだよね」

 

 

じゃ。

北岡はそう言うと、スタスタと歩き去った。

真司は無言のまま手に持っているゴミを、ゆっくりとゴミ箱に捨てた。

手には、北岡が食べたいちごの汁がちょっとついている。

 

 

 

「……きたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」

 

 

なんッッて嫌なヤツなんだ!!

っていうか割と本気で、あの時間は何だったのか。

真司は怒りの咆哮を上げながら、スクーターのスピードを全開にして、いちごを求めるのだった。

 

 

「ごめん、まどかちゃん!!」

 

「あ! 真司さん! こっちですよ!」

 

 

その後、まどかに書いてもらったメモを頼りに仁美の家にやってくる。

結局あれから他のスーパーに行っていた為、門の前には既に他のメンバーが集まっていた。

まどか達は笑顔で迎えてくれたが、そうで無い者も。

 

 

「おっそいなぁバカ! 何分待たせんのよ!」

 

「言ってやるな霧島、バカはメモが読めないんだ」

 

 

美穂と蓮のウェルカムディスに表情を歪める真司。

不本意である。確かに来るのは一番遅かったが、それでもまだ約束の五分前だ。

 

 

「ってあれ? 蓮も来てたのか」

 

「勘違いするな。俺は材料を届けに来ただけだ。すぐに帰らせてもらう」

 

 

そう言って蓮が踵を返した時、黒い影が飛び掛ってきた。

 

 

「うっ!」

 

「えー! 一緒に作ろうよ蓮さん!!」

 

 

背中に飛び乗るかずみ。

蓮は何とかして振り払おうとするが、マグネットの様にかずみはピッタリと張り付いて蓮の動きを拘束する。

蓮は尚も動きを速めて振り払おうとするが、かずみは意地でも離さぬようだ。

 

 

「いい加減にしろ! 俺にはまだ仕事が――!」

 

「もしもし立花さん? 蓮さんもケーキつくっていい!?」

 

 

既に携帯で立花に連絡を取っているかずみ、もはや音速である。

電話の向こうからは随分と軽い調子で立花の声が聞こえてきた。

 

 

『いいんじゃない? 別に今いるスタッフで何とかなるし』

 

「だってさ! 蓮さん!!」

 

「………」

 

「だってさ! 蓮さん!!」

 

「………」

 

「だってさ! 蓮――」

 

「聞こえてる!」

 

 

うな垂れる。どうやら逃げられないようだ。

しかし子供に混じって一緒にケーキを作るなんて、想像しただけで寒気がする。

蓮は何とかして帰ろうとするが、それを美穂に悟られた。

 

 

「くぁー! 何よ蓮、喫茶店で働いといてケーキも作れないのぉ?」

 

「……なんだと?」

 

 

ピクリと眉を動かす蓮。

美穂は手を組んで挑発的な笑みを浮かべてみせる。

 

 

「スライス秋山なんて大層な二つ名をもらっておきながら、大事な時にはこの体たらく。がっかりよねぇ」

 

 

煽る煽る。

拳を握り締める蓮、なにやらプライドが反応したのか、瞳にギラリとした光が。

 

 

「いいだろう、ケーキでも何でもすぐに作ってやる」

 

「わあ! さっすが蓮さん!」

 

 

蓮はブツブツいいながら材料を抱えて歩いていく。

背中のかずみは振り返ると、美穂に向かってコッソリとピースサインを送った。

美穂もウインクを返してピースを送る。

 

 

「蓮も単純だなぁ」

 

 

お前が言うなと言われそうだが、真司はつくづくそう思う。

その光景に手塚とまどかも笑みを浮かべた。

 

 

「いい友人を持ったな、羨ましいよ」

 

「え? そ、そうかな?」

 

「うん、そうですよ」

 

 

どこか悲しげに笑っている二人。

それを見て、真司は当たり前の様に言ってみせる。

 

 

「でも、手塚もまどかちゃんも友達だぜ?」

 

「そう、か」

 

「えへへ! そうですね!」

 

 

その言葉にまた笑みを浮かべる手塚と、嬉しそうに笑うまどか。

それにと真司は、ほむらの方に視線を送る。

 

 

「ほむらちゃんだって。あぁ、もちろんサキちゃんも」

 

「そう……」

 

 

ほむらは複雑な表情で頷いた。

すると腕に触れる手、ほむらはハッとして前を向く。

まどかだ。ほむらが持ってきた袋の中身を確認している。

 

 

「うまく作れるといいね、ほむらちゃん」

 

「え、ええ……!」

 

 

まどかの笑みに、ほむらもしっかりと笑顔で返す。

安心したような表情を浮かべる手塚。

いつも険しい表情を浮かべているほむらも、まどかといる時は暖かい表情を浮かべている。

それだけ鹿目まどかと言う人間はほむらにとって特別なのだろう。

 

 

「あ、皆さん! こちらですわ!」

 

「仁美ちゃん!」

 

 

丁度門の向こうから仁美がやってくる。

既に早く来ていた上条達とはココで合流と言う事になった。

美穂は学校にいるため全員と話した事があるが、真司や手塚は始めての会合となる。

 

上条恭介、中沢昴、下宮鮫一。

まどかのクラスメイトである事は真司も知っている。

同じく、中沢たちも真司たちの話は軽く聞いていた。

 

 

「城戸さん、ですよね」

 

「え!? あ、ああ……! うん、はじめまして」

 

 

上条は真司を見つけると笑顔で駆け寄ってくる。

しかし真司としては、さやかを守れなかった負い目がある分、上条の目を直視する事ができなかった。

だが上条は逆に、ある種の無邪気さを出して真司に笑いかける。

 

 

「さやかから話は聞いていました。面白い人だって。でも凄いなぁさやかは。霧島先生だけじゃなくて、カフェの店員さんと仲良くなったり、城戸さんだって」

 

 

 

「う、うん。あの――、さやかちゃんの事は……」

 

「気にしないでください。確かに悲しいけど、僕が悲しんでたら天国にいるさやかに笑われそうで」

 

「そっか……」

 

 

なんて強い子なんだ。

真司はくよくよと悩んでいた自分が恥ずかしく見えた。

さやかを失った一番悲しいのは上条の筈なのに、彼はしっかりと前を見て歩いているじゃないか。

真司は打ちのめされた感覚を覚え、同時に勇気をもらう。

 

 

「よし! じゃあ今日は美味いの作ろうか!」

 

「はい!」

 

 

真司は頷くと上条達と肩を組んで歩き出す。

 

 

「えーっと、二人の名前は?」

 

「あ、どうも中沢です」

 

「おっけ! メカ沢くんな! 何かなつかしい名前だな、しっかり覚えたぜ!」

 

「え? ちょ、速攻で間違って――」

 

「じゃあキミは?」

 

「下宮です。よろしくお願いします」

 

「うっしゃ、よろしく!!」

 

「城戸さんは鹿目さんのお知り合いなんですよね」

 

「んー、まあ本当に通い親戚みたいなもんかな? ハハハ、さあ行こう行こう!!」

 

 

そう言って真司達を先頭に、一同は仁美の家に入っていくのだった。

 

 

「ほえー」

 

 

美穂がマヌケな声を出すのは無理もない話しだった。

仁美の家の厨房は噂どおりに広く、一同が料理をできるには十分な程だった。

 

 

「お母様が料理に没頭していた時期がありまして。その際にリフォームしましたの」

 

 

仁美はサラリと言ってのけた。

とりあえず三つに別れてそれぞれケーキを作る事に。

真司のチームはまどか、手塚、ほむらである。

それぞれ作業に取り掛かる中、コチラもまずはスポンジを作る事に。

 

 

「じゃあわたし達はクリームを作るから、ほむらちゃんはスポンジをお願いね」

 

「わかったわ」

 

 

などとは言うが、ほむらはサッパリである。

手塚に視線を送るほむら、既にトークベントは発動済みなので、ココからは思念で会話する事に。

 

 

『どうすればいいのかしら』

 

『任せろ予習はしてきた。まずは卵を割ろう』

 

『わかったわ』

 

 

頷くほむら、彼女は卵を手にとり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐしゃ! どがっ! ばきっ!

 

 

『………』

 

『………』

 

 

そんな目で俺を見るな。

手塚は汗を浮かべて、中に混入しまくっている殻を取り出す作業に入る。

 

 

『卵、あまり割った事無いから……』

 

 

小さく呟くほむらに手塚は気にするなと。

そうこうしている内に殻は全て無くなり、白身を切る。

手塚はここで再びほむらにボウルを渡した。

 

 

『次はグラニュー糖を入れよう』

 

『………』

 

『どうした?』

 

『グラニュー糖とお砂糖は、何が違うのかしら?』

 

『………』

 

 

手塚、一瞬の沈黙。

 

 

『それは多分、砂糖よりも――、何か、こう……、その、グラニューな感じなんだろう』

 

『成程、納得だわ』

 

 

一体何に納得したというのか。

気になる所ではあるが、ほむらとしては満足した様だ。

すまん、俺も知らない。手塚は心の中で謝罪をすると、早速次の作業に移ることに。

 

 

『混ぜよう。ダマになる』

 

『………』

 

 

堕魔(だま)? 使い魔の一種かしら?

コレを混ぜないと使い魔が寄って来ると言う事ね。

ほむらは了解して、特に何も言わず卵を混ぜ始める。

 

しかし意外だった。

料理というのは魔女退治に関係していたのか。

だから巴マミはあんなに料理がうまかったのか。

 

 

(多分、アイツ何か勘違いしてるな)

 

 

ブツブツとテレパシーでほむらの考えが声に出ている。

しかし手塚は特に言及はせず、オーブンの準備を行っていた。

まあなんだ、その内気づいてくれるだろうから。

 

 

『終わったわ』

 

『よし、じゃあバターを湯煎しておいたから。それを交換させよう』

 

『……ッッ!!』

 

 

ほむらの表情が鬼気迫るものに変わった。

な、なんだ? 手塚は只ならぬ空気を感じて、チラリとほむらを見る。

ほむらは唇をわなわなと震わせ、汗を浮かべて手塚を見ていた。

 

 

『貴方……、今ッ、なんて――っ?』

 

『ゆ、湯煎してあるバターを――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()(せん)!? 貴方っ、戦いを楽しむと言うの!? このゲームに乗ると言うのッ!?』

 

『疲れてるんだよお前、今日は帰ったらすぐに休め』

 

 

手塚はほむらを落ち着けると湯煎の説明を一から行う。

それを聞いて頷くほむら。知ってたわ、アレは冗談よ等と言ってみせるが、手塚からしてみれば嘘つけよお前状態である。

 

 

『まあ、なんだ……、次に行こうか』

 

『え、ええ』

 

 

湯煎したバターやらを加えて、かき混ぜる。

しかしほむらが普通にかき混ぜ様とした所で、手塚が止めた。

 

 

『名前は知らないが、こういうのをかき混ぜる道具があった筈だ』

 

『道具?』

 

『ああ。高速回転する便利なヤツだ。あれなら疲れないし良い出来に仕上がる』

 

『ッ! それなら心当たりがあるわ』

 

 

ほむらはソウルジェムを取り出し、しゃがみ込んでコソコソと何かを行う。

そして立ち上がると手に持っていたのは巨大なドリル。

 

 

『高速回転、これの事ねきっと』

 

『………』

 

 

絶対違うと思う。

手塚も知らないが、それだけは無いと思えた。

というかそんなモンで混ぜたら仁美の家に穴が開く。

 

そもそも何でほむらはそんなドリルなんて持っているのか。どこで手に入れたのか。

いろいろと気になる所だったが手塚あえてのスルーである。

 

 

『………』『………』

 

 

とまあ、いろいろあったが。

何とか二人は出来上がった『素』を型に流し込むまで終了させる事ができた。

あとは真司たちが用意するクリームとフルーツを合わせれば、いちごケーキの完成だ。

 

 

「ま、まどかちゃん……」

 

「う、うん。すごいね」

 

 

一方の龍騎ペアは、先ほどから無言&無表情で作業を続けていくライアペアをポカンとした表情で見ていた。

 

真司達は手塚達がトークベントで会話しているのを知らない為、まるで二人がアイコンタクトだけで作業を行っている様に見えるのだ。

しかもほむらなんてドリルを取り出してして――、いやアレ何に使うんだよ!

 

 

「他のチームは……」

 

 

真司は他のチームを観察してみる。

美穂の所は、サキと中沢、仁美がいた。

仁美の隣と言う事もあってか、真っ赤になっている中沢くん。

初々しいものである。隣でニヤニヤと美穂とサキが笑っているのが気になるが。

 

 

「まあ中沢くん、お上手ですわね!」

 

「え! そ、そうかなぁ……、あはは」

 

 

中沢に笑いかける仁美、丁度そのタイミングでサキが口を開く。

 

 

「仁美は、料理が上手な男はどう思う?」

 

「ええ、素敵だと思いますわ」

 

「!!」

 

 

中沢は真っ赤になり、ますますサキは笑みを深める。

お次は美穂、真司曰くきったねぇ笑顔を浮かべて仁美を見ていた。

 

 

「仁美ちゃんはぁ、どんな男がタイプなのぉ?」

 

「!」

 

「そ、そうですわね……」

 

 

照れながら下を向く仁美。

その隙に美穂は中沢にサムズアップを行う。

 

 

(ええええ!?)

 

 

どうしていいか分からずに汗を浮かべる中沢。

そうこうしている内に仁美は答えを出した様で。

 

 

「優しい方は……、素敵だと思いますわ」

 

「へぇ」

 

 

一瞬だった。美穂とサキは真顔に戻ると互いに頷きあう。

そしてまた再び笑みに戻ると美穂はコッソリと自分が持っていた箸を――

 

 

「ああ! やっちった!!」

 

「え?」

 

 

美穂が持っていた箸が中沢の前に落ちる。

いや、落としたんじゃなくて投げたろお前。真司はそんな事を思いつつも、黙ってその後の光景を見てみる事に。

落ちたのは中沢の目の前だ。当然反射的にそれを拾うしかない。

 

 

「あー、ごめんねー。ちょっと手が滑っちゃって」

 

「まあ大丈夫でしたか?」

 

「あ、俺洗いますよ」

 

 

中沢は洗い場の前に立っていたので、美穂が落とした箸を洗う。

それを確認すると美穂は少し声を高めに。

 

 

「おお! やッさしいねぇ中沢君ってば、わざわざ拾ってくれるんなんて」

 

「へ?」

 

「しかも洗ってまでくれるなんて! くぁー、真司のバカなら拾ってさえくれなかったと思うわよ!」

 

 

オイッ! お前の消しゴム何回拾ってやったと思ってんだ!

真司がその事を言おうとした瞬間、まどかが待ったをかける。

 

 

「ちょっとまってね真司さんっ!」

 

 

まどかも意味を理解した様だ。

サキもまた、美穂の言葉に被せる様にして目を光らせる。

流石はパートナーと言うべきなのか、手塚達と違って完全にこいつ等は目だけで意思疎通してやがる。

 

 

「中沢は"優しい"と評判だからな! 私も耳にも、ちゃんと情報が入っているぞ!」

 

「うえっ!?」

 

「まあそうでしたの! 凄いですわ中沢くん!!」

 

 

優しいの部分を強く強調するサキ。

仁美は尊敬の眼差しを中沢に向けて微笑んだ。

 

その後仁美がオーブンの様子を見に行くと、中沢は無言で美穂とサキに頭を下げる。

90度のお辞儀に美穂とサキは気にするなと笑って腕を組んでいた。

なんなんだよ、誰だよお前ら。真司は引きつった表情でそれを見る。

 

 

「すごいな二人とも……」

 

 

次に真司は蓮達の方を見てみると――

 

 

「「………」」

 

 

口をあけてポカンとしている上条と下宮。

対してかずみは、凄い凄いと無邪気に笑って拍手を送っていた。

同じく言葉を失う真司とまどか。視線には非常に凄い光景が。

 

 

「す、すごいね上条くん……」

 

「う、うん」

 

「わーい! さっすが蓮さん!!」

 

「フッ、まあざっとこんなモンだ」

 

 

巨大なウエディングケーキが仁美家の厨房にそびえ立っていた。

いや、明らかに持ってきた材料と仕上がりの最終形態が比例して無いだろ。

真司は不思議な事もあるものだと汗を浮かべ、椅子に座っている蓮を見た。

 

してやったりの表情を浮かべている蓮。

やはりその名は伊達でないかスライス秋山ッ!

 

 

「しっかし本当に蓮が参加するなんてなぁ」

 

 

昔の蓮ならば、美穂に挑発されたとしても逆に言い返して帰っていったと思うが。

そこはやはり、かずみがいるからだろうか?

やっぱり何かしらパートナーとは『縁』があるのかもしれない。

 

真司だって優しいまどかがパートナーで本当に良かったと思うし。

サキと美穂も先ほど凄まじいコンビネーションを披露していたっけ?

 

手塚達はどうだ?

先ほどから一言も会話をしている様には見えないが、今現在二人はシンクロする様に同じ格好(体育座り)でスポンジが入ったオーブンを見つめている。

表情は見えないがピッタリと並んでいる為、仲は悪くない筈だ。

 

そう、手塚とほむら。

二人の様子を少しだけ覗いてみよう。

冷めた目でオーブンを見つめる手塚とほむら。まだトークベントは継続中である。

 

 

『………』

 

『………』

 

『『………』』

 

 

不動の二人だが。

 

 

『――暇ね』

 

『ああ。しりとりでもするか?』

 

『結構よ、そんなに暇じゃないの』

 

『そうか――……』(お前今、暇って……、まあいいか)

 

 

ジーッとオーブンを見つめる二人。

 

 

『………』

 

『………』

 

『『………』』

 

 

まだ時間は掛かる。

 

 

『――暇ね』

 

『………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結構よ』

 

(俺まだ何も言ってな――、まあ、いいか)

 

 

仲がいいのか悪いのか、よく分からない二人である。

 

 

「でも、俺ちょっと安心したよ」

 

「え?」

 

 

真司は再びクリームをかき混ぜる作業に戻った。

 

 

「安心した?」

 

 

まどがが言うと、真司は頷いて美穂達を見る。

 

 

「怖かったんだ。蓮達と戦う事になるんじゃないかって」

 

 

今になって思えば、蓮に呼び出された時なんとなく『あの状況』になる事を分かっていたのかもしれない。

だけどそれを認めたくなくて、必死に否定したくて。でも結局戦う事になってしまった。

自分はと言うと認めたくないから、何もしなかっただけだ。

 

 

「その分、手塚は凄いなって思う。手塚がいなかったら多分俺たちは駄目だった」

 

「真司さん……」

 

 

「俺、戦いを止めたいだとか言っておきながら、あんまり何かパッとした事してないって言うか……」

 

 

考え直せだのと言葉を投げかけるしかできない。

それじゃあ駄目だと心の中では分かっておきながらだ。

 

 

「それでも、言わないよりはずっといいと思います」

 

「え?」

 

「だって真司さんがそう言ってくれると、わたし安心するもん」

 

 

まどかは真司に微笑みかける。

この戦いの中で、絶対に信頼できるパートナーが『戦いを止めよう』と言ってくれる。

それがどれだけ心強い事か。まどかはもう一度、真司は間違っていないと説いた。

 

 

「どんなに辛いときも、真司さんがいれば大丈夫な気がしますっ!」

 

「ありがとう……! まどかちゃん」

 

 

そこで悲しげな表情に変わるまどか。

 

 

「それに……、怖かったのはわたしも同じだから」

 

 

まどかだって、真司と同じ考えをずっと言ってきた。

魔法少女同士で戦うのは間違っている。人を傷つけて叶える願いは間違っていると思っていた。

だけどその結果が今に至る。

 

目を閉じれば焼きついているのはさやかの泣いている姿。ゆまの泣いている姿。サキがゲームに乗ると告げた時の表情。

そして杏子の戦いを喜ぶ表情、あやせの言葉。

 

 

「怖かったんです。皆がバラバラになっていくのが」

 

「………」

 

「いつか友達と戦わなきゃいけないのかなって思うと……、本当に辛くて」

 

 

だけど、何もしなかった。

それを否定する言葉を羅列するだけ。

いや言葉すら無かったかもしれない。

 

苦しんでいるさやか、ゆまを救いたいと何度も思った。

だけど、拒絶されるのが怖くて、意見をハッキリ言えなかったかもしれない。

考えれば考えるほどに湧いてくる後悔、それがまどかを苦しめる。

 

 

「皆が仲良くなればいいって言っておきながら、わたしは皆と仲良くする勇気が無かったのかもって……」

 

 

もっとさやかに自分の想いをぶつければ良かったのかもしれない。

もっと苦しんでいるゆまに声をかけて上げれば良かった。

もっと皆がバラバラにならない様に頑張れば良かったと。

 

 

「みんな意見がいろいろあったから。だけど真司さんはいつもわたしと同じ気持ちでいてくれた。それが嬉しくて、心強くて。だから――」

 

「まどかちゃん……」

 

「だけど……、だけどわたし――!」

 

 

その時だった。強い耳鳴りが真司とまどかの脳を揺らしたのは。

 

 

「「!!」」

 

 

キィインと言う音、これが意味するのはただ一つ。

それを理解して表情を変える真司とまどか。彼らだけでなく、美穂やサキも反応を示す。

かずみのアホ毛が反応しているのは確定付ける証拠となった。

 

 

(魔女!)

 

 

そこで手塚が一同を制するジェスチャーを送る。

仁美達を巻き込む訳には行かない、まして今日はケーキ作りだ。

雰囲気を壊すわけにはいかない。

 

 

「すまない、電話をしないといけない用事があったんだ」

 

「……!」

 

 

その意味を理解する真司。

手塚と同じように携帯を取り出して慌て始める。

ただ慌て方が若干ぎこちない、だってこれは演技なのだから。

 

 

「そ、そういえば俺も編集長に大事な電話があったんだ!」

 

 

そう言って厨房を出て行く二人。

素早く状況を飲み込み、いち早くサキが口を開いた。

 

 

「じゃあ二人が戻ってくる前にカットを済ませておこうか」

 

「そうですわね。紅茶もありますわ」

 

 

一見は何事もなく済んだかに思えた状況。

 

 

「………」

 

 

ただ上条恭介だけは、真司たちが出て行った方をジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「反応が強いのは外からだったな!」

 

「ああ!」

 

 

反応を辿り、真司たちは外に出る。

そこで気づく。門から少し離れた所にあった木から禍々しい空間への扉が存在していた。

 

 

「成程、あれが魔女の結界へと続いているのか」

 

「じゃああそこを叩けば!」

 

 

二人はデッキを取り出して前へと突き出す。

真司は手を斜めに上げ。手塚は右手の親指、人差し指、中指を立てて正面に。

 

 

「変身!」「変身」

 

 

鏡像の姿が重なり合い、二人は龍騎とライアの姿に変身する。

結界の中へ飛び込んでいくライア。だが龍騎はそこで一旦立ち止まった。

思い出すのは、まどかが浮かべた悲しげな表情。

何もできないと嘆いた自分達、だがそうしている間にも悲しみに沈む人たちがいる。

 

 

「………」

 

 

拳を握り締める龍騎。

未だに迷って、答えは出ない。

しかしそれでも進まなければいけない。それが――

 

 

「ッしャあッッ!!」

 

 

騎士に選ばれた者の責任なのだと!

 

 

『ピィイイイイイイイイイ!!』

 

 

結界の中にあったのは巨大な螺旋階段、そしてそこを取り巻く無数の扉だ。

姿を見せるのは扉の魔女『Peggy(ペギー)』だ。

ペンギンかひよこを思わせる鳥の姿をしており、王冠とマントを見につけて、王様の様な格好をしている。

魔女はライア達を見つけると、早速使い魔である"チュリス"達を差し向けた。

 

 

「………」

 

 

ライアは、ほむらから聞いた『真実』を思い出す。

使い魔からの進化や、グリーフシードからの孵化という可能性もあるが、もしかしたらペギーは元魔法少女(オリジナル)だったかもしれない。

 

絶望のエネルギーがソウルジェムを濁し、やがては魔女になる。

それはとても辛いことだ。

 

 

(だが、俺は……)

 

 

ライアは決意を固める。

たとえそこにいる魔女がオリジナルだったとしても。

絶望を振りまく存在は、倒さなければならない。

 

 

(これも、運命か――ッ)

 

『『『『『ピピピピ!!』』』』』

 

 

チュリスは、ペギーから王冠とマントを取って小さくした姿だ。

槍を構えて一気にライア達に突進していく。

動きは早い。しかし直線的なので、二人はガードベントを発動して迎え撃った。

 

 

「よしっ!」

 

 

だが――

 

 

「うわっ!!」「ぐッ!」

 

 

二人の背中に走る衝撃。

背後を見ると、いつのまにかチュリスやペギーが刃を構えているじゃないか。

 

龍騎はすぐに蹴りで反撃にでるが、バックステップでそれをかわすペギー達。

それだけじゃない、魔女が向かう先には無数の扉の一つがあった。

 

 

「待てッ!」

 

 

ペギーたちはそれぞれ扉の中に入っていく。

するとライアの背後にある扉からペギーが飛び出して刃を振るった。

火花がライアの身体から散り、同時に冷静になる。

 

どうやらペギーたちは、無数にある扉を媒体にワープを行ってくる様だ。

魔女結界に設置された無数の扉は全てが繋がっている。つまり一つの扉に入れば、次はどこから飛び出してくるか分からないのだ。

 

龍騎達が拳を振るえば、ペギーは扉に入る。

当然そうなると魔女はいないので攻撃のしようがない。

そうすると別の扉からペギーが飛び出して奇襲をしかけてくる。

 

そのループだった。

このままではダメージが蓄積されていくだけである。

 

 

「くそーっ! こうなったら!!」

 

 

龍騎は少し助走をつけて螺旋階段からジャンプ。

どうやら自らが扉の中に入ってやろうと言う事だった。

しかし龍騎が浮いている扉に触れた瞬間、扉は消失してしまう。

 

 

「うッ、ウォオオオオオオオオ!?」

 

 

螺旋階段から落下する龍騎。

そのまま地面に叩きつけられ、凄まじい衝撃が走る。

 

 

「城戸! 大丈夫か!」

 

「い……ッッ!!」

 

 

そこで真司は見た。

先ほど入ろうとした扉が、再び現れるのを。

どうやら扉は魔女と使い魔だけのものらしい。入ったり攻撃しようとすれば、すぐに消えてなくなってしまうのだ。

 

 

「だったら――ッ!」『スイングベント』

 

 

ライアの手にエビルダイバーの尾を模した鞭、『エビルウィップ』が装備される。

それを振り回して使い魔や魔女をけん制する。

さらに鞭からは電撃を放つ事もできるようで、帯電させた鞭が使い魔たちを次々に打ち弾いていった。

 

 

『ピピピィイイイイイイイ!!』

 

「チッ!」

 

 

しかし、ペギーは鋭利な刃で鞭を切り裂いた。

魔女だけはレベルが違うようだ。さらにそのまま突進を受けてしまうライア。

もともと螺旋階段という足場が悪い状況、大きくよろけて足を踏み外す事に。

 

 

「させるか!」『アドベント』

 

 

ライアは落下しながらもカードを発動する。

エビルダイバーを呼んで受け止めてもらおうと言うのだ。

狙い通りすぐに出現するエビルダイバー。そのスピードがあれば地面に墜落する前に回収するのは容易だった。

 

 

「こっちだ! エビルダイバー!」

 

「……!」

 

 

エビルダイバー、ライアを発見。

 

そして、停止。

 

 

「え?」

 

 

ズドン!

大きな音を立ててライアは龍騎の隣に落下する。

 

 

「あぐぉ……ッ!」

 

 

痛い。しかし何故?

どうしてエビルダイバーは停止したんだ!?

ライアはすぐに起き上がると、空中に静止してるエビルダイバーの姿を確認する。

なぜだろうか? エビルダイバーはライアの方を向いていない。

後ろを見て、空中に漂っていた。

 

 

「エビルダイバー、こっちに来てくれ!」

 

「………」

 

 

エビルダイバーは無反応である。

 

 

「どうしたんだ!」

 

 

ライアは叫ぶが、それでも無反応でそっぽを向いている。

決して声が届いてない訳じゃないのに。

 

 

「もしかして、何かしたんじゃない?」

 

「はぁ?」

 

「ミラーモンスターも心があるんだろ? だったら、怒ってるじゃない?」

 

「俺は別に何も――」

 

 

そこでライアの記憶がフラッシュバックする。

あれは昨日の夕飯の――

 

 

『お前も俺の分身なら、分かってくれるな!』

 

「何も……」

 

 

呼ばれて、出てきて。

それでいきなり口の中に兵器を入れられる気分はどんなものなんだろう。

思えば、あの時エビルダイバーの目には涙が浮かんでいた様な……

 

 

『許せエビルダイバー、ばくだんに耐えられるのはお前しかいないんだ!』

 

「………」

 

 

まずい、"何もしてた"。

しかもそれだけじゃない。

ライアの記憶に次々とエビルダイバーとの思い出があふれていく。

そしてそのどれもが『アレ』である。ライアは思い出す限りの出来事を挙げていく事に。

 

 

「あ、あれか! お前にDVDを返しに行かせた事を怒ってるのか!」

 

 

仕方なかったんだアレは!

占いの勉強のためについ見すぎて返す期間を忘れてて、お前のスピードじゃ無かったら俺は延滞料金を払う事になっていたんだ。

だからお前に甘えたと言うか――!

 

 

「それとも遅刻しそうになるとお前に送ってもらっていた事か!?」

 

 

仕方なかったんだアレは!

夜遅くまで占いの勉強をしていると、どうしても朝が遅くなって。

それでお前のスピードがあればッ、家から学校まで一分で行けるから、ほぼ毎朝甘えていたと言うか――!

 

 

「ま、まさかお前! 俺がエイヒレを食べさせようとした事をまだ――!」

 

 

あれは本当にすまなかった、でも誤解なんだ!

俺も叔母さんから貰って食べただけで、あの時はまだエイヒレが何でできてるか知らなかったんだよ!

 

もちろん知ってたら絶対に食べさせなかったし、食べなかった!

だけど俺はお前に美味しい物を食べて欲しくて!!

直前で名前の違和感に気がついて本当に良かった!!

 

 

「結構、いろいろやってんたんだな手塚……」

 

 

出てくる出てくる。

ってか最後のは流石に怒るな。

龍騎はうんうんと頷いて、ライアの肩に手を置いた。

 

 

「とりあえず、魔女は俺が何とかするから。手塚は謝っておきなよ」

 

「え……?」

 

 

龍騎はそう言い残すと、ソードベントを発動させて螺旋階段を駆け上がっていく。

襲い掛かる使い魔を振り払いながら目指すのは、頂上でコチラを見下しているペギーだ。

 

全速力で駆け上がっていく龍騎。

既に、別の狙いが浮かんでいた。ある程度階段を上がると、ソードベントを解除してストライクベントを発動。ドラグクローを装備する。

 

そこで龍騎は立ち止まる。

使い魔やペギーはそれが隙だと勘違いして、一勢に襲い掛かってきた。

 

 

「ハァアアアアアアアア……ッッ」

 

『『『!!』』』

 

 

だがドラグレッダーが現れ。龍騎の周りを急旋回。使い魔やペギーを弾き飛ばして逆に隙を生ませる。

 

空中に放られたペギーに狙いを定める龍騎。

ドラグクローを突き出すと同時に、ドラグレッダーが巨大な火球を発射する『昇竜突破』が放たれた。

 

 

「オラァアア!!」

 

『ピピッ!』

 

 

しかしペギーはすぐに体勢を立て直すと、羽を動かした。

そう、魔女は鳥をモチーフにしている。その姿に偽りはなしだ。

羽ばたいて飛行すると、一番近くにあった扉へと逃げ込む。

 

おかげで火球を避ける事ができたが、龍騎としてはそれが狙いであった。

要するに、ペギーが炎を回避する事は始めから予想していたのだ。

 

 

「ドラグレッダー!」

 

「グオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

龍騎は昇竜突破の発動と同時に、ドラグレッダーをペギーの方へと向かわせていた。

何のために? 決まっている、魔女が扉を開けて中に逃げ込む事を予測していたからだ。

 

ドラグレッダーはペギーが扉を閉める前に、扉の中に火球を発射する。

その後、音をたてて閉まる扉。そうだ、たとえ扉が消えてしまうとしても、中に入るその一瞬だけは攻撃のチャンスがある。

 

直撃したかは確認できなかったが、火球は扉の中に入って言った。

おそらくはペギーに命中してくれた筈だ。

 

 

「!」

 

 

だがその時、龍騎の後ろにあった扉が開く。

中から現れるのは、先ほどドラグレッダーが放った火球だった。

 

 

「やべッ!!」

 

 

炎はペギーに命中する事は無く、逆に利用される形となったのだ。

まっすぐ龍騎に向かって飛んでいく炎。

駄目だ、避けられない! 龍騎はガードベントすら発動できずに、その場にうずくまるだけ。

 

 

「う、うわあああああああああ!」

 

 

そして爆発。

ペギーはその光景を上層から見ていた。

一人は減った。後はあの紫のヤツを倒せば終わりだ。

ペギーは刃を構えて――

 

 

『!』

 

 

だが爆炎が晴れたとき、そこには桃色の結界が。

 

 

「ま、まどかちゃん!」

 

「えへへ、間に合ってよかった!」

 

 

龍騎の前には笑みを浮かべるまどかが。

どうやら彼女も厨房を抜け出してコチラにやってきたようだ。

だってそうだろ?

 

 

「パートナーは、助け合いだもんね!」

 

「あ、ああ! サンキューまどかちゃん!」

 

 

それに駆けつけたのはまどかだけじゃない。

最下層では正座をしてライアがエビルダイバーに謝罪中の様だったが、そこへパートナーであるほむらが姿を見せる。

 

 

「何を……、してるの?」

 

「き、気にするな」

 

 

味方が増えて形成逆転か?

一同はそう思うが、ペギーもまた本気を出して侵入者を潰す事にしたらしい。

号令の合図を出すと、使い魔達は一勢に槍を扉の中へと投げこんだ。

 

すると龍騎たちの周りにある扉から、一勢に槍が飛び出してきたじゃないか。

すぐに一同は盾を出現させてそれを防ぐが、使い魔は槍を無尽蔵に生み出せるらしい。

そこらじゅうから飛んでくる槍。ペギーはその間を縫うようにして龍騎たちを切りつけていく。

 

 

「うぐっ!」

 

「きゃ!!」

 

 

このままでは危険か。

ほむらは唇をかんで盾に手を掛けた。

そしてその瞬間、ライアの雰囲気が変わる。

 

 

「エビルダイバー! 俺を後で何発でも攻撃していい!!」

 

「!」

 

「だからッ、今は力を貸してくれ!」

 

 

ライアは珍しく叫んだ。しかも張り裂けそうな程の声でだ。

 

 

「このままでは仲間が傷ついてしまう、それを守るにはお前の力が必要なんだ!」

 

 

その時、ほむらが声を上げる。視界を覆いつくす程の槍が降ってきたのだ。

 

 

「なんて数なの?」

 

 

ほむらは思わず後ずさり、汗を浮かべる。

迫る槍、上層では龍騎達がペギーに襲われている。

このままでは危険だった。

 

 

「エビルダイバーッッ!!」

 

「………」

 

 

仲間を守るために。

手塚の言葉を聞いて、エビルダイバーは龍騎を、まどかを、そしてほむらを見る。

 

 

「―――!」

 

 

そして、その目が光った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピィイイイイイイイイイイイイイ!!』

 

「!!」「!?」

 

 

龍騎とまどかは、一瞬何が起こったのか分からなかった。

ペギーが襲い掛かってきたと思ったら、次の瞬間ペギーが吹っ飛んだ。

 

何が起こったのか?

周りを確認すると、そこんはエビルダイバーの姿があった。

 

 

「おお!」

 

 

エビルダイバーは持ち前の加速力を活かして飛行。

ほむらにせまる槍を弾き飛ばし、使い魔を放電で攻撃し、そしてペギーを捉えたのだ。

 

 

生まれた隙はあまりにも大きい。

龍騎、ライア、まどか、ほむらの目が光る。

 

 

「ッしゃあ! いける!!」

 

 

龍騎の言葉に頷くライア。

 

 

「使い魔は俺が何とかする! 暁美は扉を頼む。あれが厄介なんだ」

 

 

扉がワープゲートの役割を果たしている為、かなり邪魔になっていると。

それを聞いてほむらはしっかりと頷いた。

 

 

「わかったわ。扉は私が何とかする」

 

「じゃあ魔女はわたし達が!」

 

 

頷きあう四人。

まず動いたのはライアだ。デッキからカードを抜き取り発動させる。

 

 

『コピーベント』

 

 

コピーベント。その能力は、ライアが一度見た事のある武器コピーできるという物だ。

ライアは早速、龍騎のドラグケープを手にして思い切り振るう。

赤いマントがヒラヒラと。それは使い魔たちを洗脳して、狙いをライア一点に集中させる。

 

とは言え、エビルダイバーの電撃を受けて使い魔達は麻痺をしている。

スピードは先ほどよりもずっと遅い。

ライアは隙だらけの使い魔たちを、全て真っ向から迎え撃つことに。

 

 

「これがお前の、運命だ!」『ファイナルベント』

 

 

瞬時にライアの元に戻ってくるエビルダイバー。

 

 

「いいのか?」

 

 

ライアが問いかけると、大きく頷くエビルダイバー。

 

 

「すまない! 助かる!」

 

 

ライアはすぐにエビルダイバーの背中に飛び乗った。

同時にエビルダイバーの背後から『紫色の水』がどこからともなく現れ、大量に迫ってきた。

 

 

「ハァアアアアアアッッ!!」

 

 

水はすぐに激流となり、ライアはエビルダイバーをサーフボードとして波乗りを行う。

さらにエビルダイバーは放電を開始。水流に電撃が纏わりつき、攻撃力を上昇させる。

 

ライア達はそのまま使い魔の群れに突撃。

電撃を纏ったエビルダイバーの突進と、付属する激流に巻き込まれる使い魔たち。

『ハイドベノン』、ライアのファイナルベントが使い魔を一掃した。

 

さらにそのままペギーへ向かうライア。

当然ペギーはそれを回避するために、扉へ逃げ込む。

 

 

「暁美!」

 

「ええ!」

 

 

ほむらが動くと、一瞬で全ての扉の前に爆弾が設置された。

いや、訂正しよう一つだけ爆弾が設置されていない扉があった。

 

そこで爆弾が爆発。

次々に扉は粉々になり、消滅していく。

とすると当然ペギーは、残された場所から出るしかなかった。

 

 

『ピィィィイイイイイッッ!!』

 

 

ペギーは扉から飛び出す。

しかしこれは罠だ。ペギーは凄まじい熱を感じて視線を移す。

するとそこに、『足裏』があった。

 

 

「ダアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

『ピギィイイイイイイイイイイイッッ!!』

 

 

炎の矢がペギーを貫く。

構えていた弓を下ろすまどか。地面に着地する龍騎。

二人の複合ファイナルベント、マギアドラグーンが魔女を貫いたのだ。

 

ペギーは一瞬で爆散し、崩壊していく魔女結界。

龍騎とまどかは笑い合うと、手叩き合わせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうおう、真司さんよ。アンタ確かいちごのケーキつくるんじゃなかったっけか?」

 

「……あの、申し訳ありませんでした」

 

 

厨房では皆のケーキが完成したのだが、真司達のつくったケーキの上には赤い宝石ではなく白い物体が。

 

 

「霧島、バカにはいちごとバナナの見分けもつかないらしい」

 

「し、仕方ないだろ! いちごが無かったんだから!!」

 

 

結局他のスーパーでもいちごは無く、妥協した真司はバナナを選んできた。

一瞬、真司がバナナといちごの区別もつかない危険な野郎なのかと思われたが、どうやら理由があった様なので、一同は妥協してバナナケーキを受け入れる事に。

 

しかし意外と時間が掛かってしまった。

いろいろあってか、外はもう暗くなっている。

遅くなると家族にも心配がかかるので、一同は自分の分を切り分けて持ち帰る事に。

 

 

「じゃあ、僕はコレをさやかの家に届けるね。お供えしたらきっと喜んでくれるよ」

 

 

そう言って上条が。

 

 

「今日は楽しかったです。おやすみなさい」

 

 

下宮が。

 

 

「あ、あの……! ま、ままままた明日! 志筑さん!」

 

 

中沢が。

 

 

「……邪魔したな」

 

 

蓮が。

 

 

「ばいばい! また明日!」

 

 

かずみが。

 

 

「厨房ありがとね、仁美ちゃん」

 

 

美穂が。

 

 

「いい経験になったよ。おやすみ仁美」

 

 

サキが。

 

 

「お菓子作りも面白いんだな。勉強になったよ」

 

 

手塚が。

 

 

「じゃあ、おやすみなさい」

 

 

ほむらが帰って行く。後はまどかと真司だけだ。

 

 

「ありがとうございました。まどかさん」

 

「え?」

 

「私を気遣ってこの会を開いてくださったんでしょう?」

 

 

まどかは少し沈黙したが、しっかりと頷いて仁美に笑いかける。

 

 

「仁美ちゃんも、わたしの大切な友達だから」

 

「………」

 

 

仁美は目を潤ませながら、笑みを返す。

それを見ながら真司も安心したように笑った。

 

 

「まどかさん! また明日!」

 

「うん! また明日!」

 

 

 

帰り道。

真司はまどかを送るのだが、その途中でふと思い出す事が。

 

 

「そういえば、まどかちゃんあの時……」

 

 

魔女(ペギー)の介入で会話が切れてしまったが、まどかは何かを告げようとしていた筈。

 

 

「うん。わたし……、決めたんです」

 

「決めた?」

 

「はい、!」

 

 

まどかは必死に考えた。そして気づいたのだ。

自分が目指す道は、やりたい事は、ただ一つしかない。

 

 

「わたしは、友達の為に戦いたい」

 

「………」

 

 

戦うと言う事は、人を傷つける事ではない。戦いを止める為に抗うという事だ。

それはつまり、まどかが戦うべき敵は『FOOLS,GAME』だと言う事。

 

 

「わたしは皆を守りたいって思ってました。でもどこかよそよそしくて、傷つけるのも傷つくのも怖くて動けなかった」

 

 

さやかが泣いていたなら、支えてあげなきゃいけなかった。

ゆまが泣いていたなら、支えてあげなきゃいけなかった。

自分は、逃げていただけだと。

 

 

「今更遅いって分かってます。でも、わたしは――ッ!」

 

 

まどかの目に、迷いは無かった。

 

 

「わたしは、このゲームに勝ちたい」

 

 

それは最後の一人に――、と言う事ではない。

このゲームの仕組み『そのものの』否定。

魔法少女同士が傷つけあうルールを否定すると、認めないと。サキやほむらを守りたいと。

 

魔法少女になれば、うまくいかない事は山ほどある。

辛い事だって沢山あるって分かってた。覚悟していた、だからこそ――!

 

 

「だからこそ、わたしは諦めたくないんです」

 

「ああ、俺もだよ」

 

 

迷い続けるかもしれない。だけど、その中で揺ぎない意思を貫きたい。

真司もまどかも同じ気持ちだった。この戦いの中で、揺ぎ無い絆がある。

守るべき友がいる。今はそれだけが希望だった。

 

 

「まどかちゃんがパートナーで良かったよ」

 

「わたしも、真司さんがパートナーでよかった!」

 

 

絶対に戦いを止めよう。真司はそう言って、手を出す。

 

 

「はい!」

 

 

まどかは強く頷くと、しっかりと握手を行うのだった。

ゲームを否定する事を決めた龍騎ペア。

しかし皮肉にも、その間にゲームの歯車は音を立てて回転していく。

 

 

例えば既に勝利を見据える者。

 

 

「どうでした?」

 

「ああ。城戸真司と手塚海之はゲーム参加者だろうね」

 

 

織莉子邸。

上条は織莉子が淹れてくれた紅茶に口をつけた。

さやかが魔法少女ならば、彼女の周辺に仲間や関係者がいるだろうと踏んだ。

 

結果は読みどおり。

共通点が見当たらない真司がまどかの友人であること、魔女の気配を感じた際に真司たちが退出したこと。

これだけで十分だった。

 

 

「こうなると鹿目まどか、志筑仁美も怪しいですね」

 

「ああ。だけど彼女たちはさやかの友人だ。なるべくなら死なせたくない」

 

 

とはいえど、魔法少女の中には確実に織莉子の言う絶望の魔女が潜んでいる。

何としてもその『元』となる魔法少女だけは殺さなければならない。

念を押すように織莉子はそれを告げる。

 

 

「そうだね、僕もその事に関しては仕方ないと思っている」

 

 

しかし――、と、上条はその表情を黒く歪ませる。

 

 

「先に王蛇ペア、リュウガペアを殺しておきたい」

 

「………」

 

 

そこで目を閉じる織莉子。

 

 

「そう遠くない内に大きなイベントが発生すると思います」

 

「イベント?」

 

 

上条が問いかけると、織莉子はその目を開ける。

すると両目が金色に染まっていた。

 

 

「成程、視たんだね。未来を」

 

 

未来予知の発動。

しばらくすると、織莉子の目の色が元に戻る。

 

 

「大丈夫、安心してください。未来は、私たちの手にあるのですから」

 

「フフフ」

 

 

上条と織莉子は、それぞれ含みのある笑みを浮かべるのだった。

 

 

そして暗躍する者。

 

 

「もうすぐみたいだよ、淳くん☆」

 

「ふーん、じゃあ明日か明後日くらいには、かもね」

 

 

芝浦淳は。両親にわがままを言って一人暮らしをさせてもらっている。

おまけに、一人で住むにしては広すぎる部屋。それが身分を物語っていた。

 

今現在はあやせを込みで二人暮らしだ。

ひと時もパートナーから離れたくはないらしい。

今もあやせは芝浦のために頑張って料理を作っているが、芝浦は興味がなさそうにゲームをしていた。

 

 

「あーあ」

 

 

画面の中では芝浦が操作するキャラクターがチェンソーを振り回して、町中の人たちを殺害していく。

飛び散る鮮血、舞い散る内臓と肉。

それを芝浦は楽しそうに見ていた。

 

 

「はやく本物で試したいなぁ」

 

「うん! わたしも楽しみ♪」

 

 

無邪気に笑う芝浦と、賛同するあやせ。

どうやら彼らには何確な計画があるようだった。

 

 

まして、純粋に戦いを求める者。

 

 

「あーあ、最近つまんねぇな」

 

「アァァァァァ……」

 

 

廃墟となった教会に杏子と浅倉はいた。

教会とは杏子にとって胸糞が悪い場所ではあるが、廃墟となっているのは逆に気分がいい。

それにココにやってくる人間など皆無といっていい。

結果二人はココをアジトにしているのだ。

 

杏子はしきりにつまらないとぼやいている。

浅倉としてもソレは同意できる意見であった。

 

 

「イライラする。どいつもコイツも戦う気がないのか?」

 

 

大きく舌打ちを放つ浅倉。だがそんなとき、デッキが光り輝く。

どうやら杏子との絆が一段階上がったようだ。新しいカードが増えた。

 

すぐにそれを確認する浅倉。

ジュゥべえのアシストによって、カードの絵柄を見ると能力が頭の中に入ってくる。

 

 

「成程、なかなか面白いカードだ」

 

「ふーん、よかったじゃん」

 

 

そう、だったらこの面白いカードを発動できる様に戦いたいものだ。

浅倉はニヤリと笑って戦いの開始を待つ。

 

 

 

 

 

そして、翻弄されるもの。

 

「はぁあああ!? なんだよソレ!」

 

『だから、キミのパートナーである千歳ゆまが死んだのさ』

 

 

佐野満は、ボロアパートでキュゥべえからその情報を知らされる。

初めて聞くパートナーの名前。そして一番驚いたのは、ゆまの姿を脳に叩き込まれた時だった。

 

 

「コイツ……!!」

 

 

間違いない、一度ゆまと会っているじゃないか。

思い出すのは定食屋で絡んできたガキ。

 

店を出た後もしつこく着いて来たので、ジュースを買って来てやると嘘をついて撒いた筈。

まさか彼女が自分のパートナーだったんて夢にも思わなかった。

だって、そうだろ?

 

 

「お前らッ、こんな小さな子供をゲームに巻き込んだのか!?」

 

『そうだけど、それがどうかしたのかい?』

 

 

さも当然に言ってのけるキュゥべえ。

佐野は全身の震えが止まらなかった。

そして確信する。あんな小さなゆまでさえ、舞台装置に変えてしまう絶望(システム)

 

 

「お前らイカレてるよ……!」

 

 

確かに佐野もゆまが面倒で関わりたくないと思った。

ゲームの参加者は死んでほしいと思ってる。

しかし流石に今回の事実を知れば、話は別だ。

 

 

「あの子、まだ小学校低学年くらいだろ? なのにお前ら――ッ!」

 

『うーん。キミ達はなぜか年齢の違いを重要視するね。ボクには分からないシステムだ』

 

 

首を振るキュゥべえ。

しかし変わらない事実は確かにある。

それは千歳ゆまが死んだと言う事だ。

 

 

『パートナーを蘇らせるには――』

 

 

蘇生方法を聞いて更に佐野は打ちのめされる。

ゆまを蘇らせるには50人殺すか、参加者を二人殺すかだ。

佐野だってまだ良心ってものがある。ゆまを助けられるならそうしようと考えていたが、これではどうしていいか。

 

 

「う、うそだろ……?」

 

『本当だよ』

 

 

キュゥべえの赤い瞳が、震える佐野をしっかりと捉えていた。

 

 

そう、このようにパートナーを失った者がいる。

一方でパートナーとの距離が少し縮まった者もいる。

 

手塚はほむらを送り届けた。

普段ならばそこでお別れだが、珍しくほむらが家に招いたのだ。

 

 

「どうした?」

 

「……エビルダイバーを呼んでくれないかしら」

 

 

手塚は少し疑問に思ったが、言われたとおり変身してアドベントを使った。

現れるエビルダイバー、ほむらはお礼を言うと、手に持っていた袋から今日作ったケーキを取り出した。

 

 

「貴方には、申し訳ない事をしたわね」

 

 

ほむらは微笑むと、エビルダイバーにケーキを差し出す。

少し戸惑った様にしていたエビルダイバーだが、ライアがほむらからのプレゼントだという事を伝えると、差し出されたケーキを食べた。

 

 

「ごめんね」

 

 

そう言いながらエビルダイバーを優しく撫でるほむら。

その声は何とも優しげな物だった。

失礼な言い方かもしれないが、意外も意外である。

 

 

「おいしい?」

 

 

ほむらの問いかけに、エビルダイバーは頷くように体を動かした。

どうやらミラーモンスターは人の言葉が完全に理解できる様だ。

そして心が確かに存在している。騎士の分身とは言え、完全に独立した生命体なのだ。

 

 

「♪」

 

 

エビルダイバーはほむらの心遣いが嬉しかったのか、彼女の周りをゆっくり旋回する。

懐かれたと言う事だろうか? ほむらは微笑みながらエビルダイバーを撫でていく。

 

 

「彼も大切なパートナーなんだから、大切にしないと駄目よ」

 

「そうだな、その通りだよ」

 

 

ライアは申し訳なさそうにうな垂れると、ほむらと一緒にエビルダイバーを撫でた。

許してくれたのか、エビルダイバーはライアの周りを同じように飛び回るのだった。

 

 

 

そして何を考えているのか分からない者もいる。

 

 

「あーっそこ、そこそこ! あああああ、いいよいいよ!」

 

 

高見沢邸ではニコがゲームを楽しんでいた。

背後ではミラーモンスターのバイオグリーザが、ニコの肩をマッサージしている。

 

ある時はゲームの相手をさせられ。

ある時はこうやってマッサージ。彼の苦労も耐えないものだ。

 

 

「さすがバイグリちゃん、マジいいわー。アヘりそう、ダブルピース余裕だわー」

 

「お前、何言ってんだ……」

 

 

高見沢は冷めた目でニコを見る。

どうやら仕事が終わって帰ってきたらしい。

ニコはゲームを一時中断して立ち上がる。相変わらずアンニュイな表情だが、今回はしっかりと笑みを浮かべていた。

 

 

「良い知らせと悪い知らせがある」

 

「なるほど、良い知らせは?」

 

「ゲーム参加者全員、レジーナアイに登録完了だべさ」

 

「ほう! よくやった!」

 

 

笑みを浮かべる高見沢。

どうやらただ毎日遊んでいるだけに見えて、ニコはやる事はしっかりとやっている様だ。

 

 

「これで誰がどこにいるのか、ソウルジェムの状態はどうか、持っているカードの情報全てが筒抜けってわけ」

 

「で、悪い知らせは?」

 

「優勝候補の二組が化けモン。クソゲーレベルだよ、本当」

 

 

オーディンペア、リュウガペアの異常性を伝えるニコ。

流石の高見沢も実力の差を知らされたようだ。正面での打ち合いはほぼ確実に負けると言っても良い。

 

 

「あと、多分、コイツ等が動く」

 

 

ニコは画面に映ったある一組をタッチして、高見沢に見せる。

 

 

「成程ぉ、まあコレくらいなら潰せるな」

 

「ええ。やっちゃいやしょうか、アニキ」

 

 

高見沢とニコはニヤリと笑う。

もともと彼らは真正面から勝つなんて考えてない。

闇に隠れつつ、相手の隙を狙って一瞬で殺す。

 

 

「それが、カメレオンの特性ってもんだろ」

 

 

高見沢はそう言って、笑った。

 

 

 

そして答えを出さぬ者。

 

 

「何か用?」

 

「これ、さやかちゃんの為に作って。アンタにも一応」

 

 

北岡法律事務所には真司の姿があった。

まどかを送った後、ココにやってきたのだ。

理由はケーキを届けるためだ。さやかの為につくったそれは、パートナーである北岡も食べる権利がある筈だ。

 

 

「お前らも暇なんだねぇ、本当に羨ましいよ」

 

「なっ!」

 

 

やっぱり嫌なヤツだな! 真司はそう思いながらも頭をかく。

 

 

「なんでアンタ、弁護士になろうとしたんだ?」

 

「カッコいいし、金になるんだよ」

 

 

今日もどこかでバカな人間が、これまたバカの作ったラインを踏み越えていく。

この世界は馬鹿ばっかりだ。だがおかげで仕事が減らない。

どいつもこいつもやりたい放題やって痛い目を見る。

我慢のできない猿ばかり、そんな奴らを弁護するのが仕事だと。

 

 

「いやッ、社会正義を守るとかそういうのないんですか?」

 

「無いよ、そういうの苦手でさ」

 

 

うな垂れる真司。

なんてヤツだ。そう思ったとき、北岡がまた口を開く。

 

 

「いや違うかな、俺は人の欲望ってやつを愛してるのさ」

 

「欲望、ですか?」

 

「そうさ、人として生まれたからには全ての欲望を充たしたい。お前だってそうだろ?」

 

 

北岡の言葉に真司は沈黙する。

 

 

「忍耐だの我慢だの、そんなものを有難がる人間は沢山いるけどさ、そういう奴に限って欲望を満たす才能も力も無いんだよ」

 

「それは、まあ……」

 

 

真司もジャーナリスト志望としていろいろ世の中の闇も見てきたもの。

中々否定しきる事もできない。かと言って全肯定と言う事もないが。

 

 

「でも欲望を全部叶えるなんてできないでしょ。ほら、欲は欲を生むっていうし!」

 

 

頷く北岡。

 

 

「馬鹿かと思ったがそれなりの考えは持っているらしいな」

 

「なッ! バカって言うな! バカって!」

 

「確かにお前の言う事は一理ある。人は満たされないから欲望を与えられるんだ、おそらく全てを叶えた人間はこの世にいないだろう」

 

 

満たされれば、新たな欲望が生まれる。

 

 

「でも、永遠の命があれば――」

 

「え、永遠の命?」

 

 

確かに永遠に生きられれば、それは叶え続けられるかもしれないが……。

 

 

「それに分かる筈だ。裏切りや悲しみ。報われない愛の意味も」

 

「え?」

 

 

北岡は真司が持ってきたケーキを見て呟く。

それはひょっとしてさやかの事を言っているのだろうか?

真司はそれを聞こうと思ったが、その前に北岡が再び口を開く。

 

 

「それだけじゃない――」

 

 

欲望の限りを尽くした時、その先には一体何がある?

魂のリアルを感じた時には一体全体、何が見えるというのか?

北岡はそれが知りたかった。

 

 

「モラルに縛られた現実なんて、泡みたいなもんよ」

 

 

だからこそ、永遠の命を手に入れたい。

それが北岡の望みであり願いだった。

 

しかし真司の反応は薄い。

北岡の言っている事自体は分からなくはないが、真司としてはどうにも分かりたくない物だったのだ。

 

 

「自分だけのために生きるのは、それはそれでつまらない気がする」

 

「はぁ?」

 

「俺はやっぱり、仲間とか友達の為に戦いたいって思うな」

 

 

時間だ。真司はそう言って北岡に別れを告げた。

何も言わない北岡。真司がいなくなって、やっと不快感を露にする。

 

 

「自分の為に生きる事はつまらない? 冗談だろ?」

 

 

不愉快だった。

 

 

「アイツも下らない人間の一人って事か。浅いんだよ」

 

 

人を守るとか、友達の為だとか。ああいうのが一番つまらない人間なんだ。

北岡はそう思いながら、真司が残していったケーキの箱を持つ。

そしてそのまま迷う事無く、ゴミ箱へ投げ込んだ。

 

 

「下らないな、本当に」

 

 

そこで思い出すのはさやかの顔。

 

 

『センセーは――』

 

「………」

 

 

下らないよ。

北岡はそう思いながら。ゴミ箱に捨てたケーキの箱を拾い上げる。

 

 

(確かさやかの為に作ったとか何とか言ってたっけ? だったらアイツにやるより、俺が食べたほうが世界のためになる)

 

 

北岡はそんな事を思いつつ、箱の中を空にする作業に入った。

 

 

 

そして、狂う者。

 

 

「何かな? こんな時間に。ボク、眠いんだけど」

 

「お、織莉子が……、ちゃんと会って……、話せって」

 

 

夜中の公園に呼び出された東條。

相手は呉キリカ、東條のパートナーだった。

 

キリカは夜中だと言うのに、東條の携帯に鬼のようなコールを続けた。

結果、引きずり出す形で東條を呼び出したのだ。

 

 

「トージョー、キミも……、やっぱり織莉子の仲間に」

 

「また? 前も言ったでしょ、嫌だよ」

 

「な、なんでだよぉッ!!」

 

 

声を荒げるキリカ。対して東條は冷めた目で彼女を見る。

前にも同じような事で話しかけられた気がする。

そしてその度に返す言葉は同じで、これも全部記憶どおりだ。

 

 

「美国さんの目指す道は、"英雄"らしくないんだよね」

 

「!!」

 

「僕、ああいうの好きじゃないかも」

 

 

うつむいて震えだすキリカ。

しかし東條は気にする事無く言葉を続ける。

 

 

「彼女は犠牲の上に成り立つ正義を提示してる。そんなの英雄のする事じゃないよ」

 

「―――」

 

 

英雄。やはりココでも彼の心を動かすのはその二文字だった。

東條は織莉子の考え方、作戦が英雄のそれとは違っていると説いた。だから協力する事はできないと。

 

 

「僕は英雄になるんだ。美国さんとは違ってね」

 

「―――ぅ」

 

 

東條は笑い、口にした。

そこでキリカの目が変わる。

織莉子を馬鹿にされたと、トリガーが引かれた。

 

 

「東條ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「………」

 

 

キリカは変身を済ませると、その爪で東條を引き裂こうと力を振るった。

しかし特殊ルールが発動する。パートナーであるが故、互いを傷つけ合う事はできない。

キリカの爪は確かに東條を通過するが、痛みも感触も何も無かった。

 

命よりも大切な織莉子を馬鹿にされたのに、何もできない。

キリカはそれが悔しくて、攻撃を止める代わりに号泣し始める。

 

 

「うぇええええええええええええええん!!」

 

「………」

 

 

それを悲しげな表情で見つめる東條。

女の子を泣かせてしまった。そんなの英雄のする事じゃない。

 

 

(ああ、ボクはまた英雄から遠ざかってしまったのか)

 

 

東條はそれを想像するとたまらなく悲しくなってしまう。

 

 

「泣かないでよキリカ……! 英雄になれないじゃないか。うぅう」

 

「うえぇええぇえぇえんッッ!!」

 

 

二人は涙を流しながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

そして、隠すもの。

 

 

「もう遅い、歯はちゃんと磨いて寝ろよ」

 

「はーい! わかったよ蓮さん。一緒に歯磨きしよ!!」

 

「はいはい」

 

 

蓮は適当にかずみをあしらって、さっさと部屋に行ってしまった。

ひどい。頬を膨らませるかずみ。

そのまま自室へ戻ろうとしたが――

 

 

「あ、立花さん!」

 

「ああ、もう寝るの?」

 

 

リビングではコーヒーを飲んでいる立花が。

かずみ今日あった出来事を細かく立花に伝えていく。

 

立花は無表情ながらも、相槌や返答でしっかり話を聞いてくれている。

だが話もそろそろ終わろうとした時だ。

 

 

「まだ、理由は教えてくれないのか?」

 

「……!!」

 

 

かずみの表情が変わる。

少し怯んだ様子で立花を見た。

 

 

「家出にしては随分と長い期間だぞ」

 

 

立花はかずみにそう言い聞かせる。

どういう事なのか? それはかずみが蓮についた嘘にある。

 

 

「まあ、言いたくないならいいけどさ。せめて苗字くらい」

 

「………」

 

 

そう、かずみの名前は『立花かずみ』では無い。

さらに蓮には、かずみが立花の遠い親戚であると告げているが、それも真っ赤な嘘である。

 

ある日、立花が店の掃除をしようと外に出ると、そこに女の子が倒れているのを見つけた。

救急車を呼ぼうとしたが、女の子はただお腹を空かして動けなくなっているだけだった。

 

だから立花は料理をご馳走したのだ。

それこそが彼女――、かずみである。

立花は、かずみから『蓮を探してココまでやってきた』と聞かされた。

 

理由は話せないが、どうしても蓮と一緒にいたいらしい。

さらに、かずみには帰る家がないらしく。暮らしていく場所も無いと。

 

 

「一応、気にする事無く住んでくれていいって言ったけどさ。せめて理由くらいは知りたいじゃない? 俺も」

 

 

結果、立花は行くあてのないかずみを、自分の家に住まわせたと言う事だ。

 

 

「ごめん、立花さん……! でも必ず理由は話すから――!」

 

「ああ、いや……、話したくないなら別にいいんだけど」

 

 

申し訳ないと頭を下げるかずみ。

しかし立花としてはいろいろ疑問が残るのだ。

 

かずみは何故蓮に拘るのか?

学校に通うための個人情報等はどうやって用意したのか?

疑問は残る。

 

 

 

そして望む者。

 

 

「………」

 

 

サキは自宅にて、ある写真を見ていた。

それはマミが生きている頃に皆で撮った写真だ。

そこに写っている自分達は楽しそうに笑っている。

 

しかし笑顔でいた彼女たちは最終的に悲しみの表情を浮かべて死んでいった。

それを認めていいのか? いや、いいはずが無い。

 

 

「必ず、否定してみせる」

 

 

そしてそれはサキだけじゃない、パートナーも同じ気持ちだ。

美穂は自宅でサキと同じ様に写真を見ていた。

高校時代に真司達と四人で撮った写真だ。

あの蓮でさえ、隣が恵里だからなのか笑みを浮かべている。

 

 

「………」

 

 

蓮は一時的に戦いを止めてくれているが、根本で問題が解決した訳じゃない。

戦いの中で恵里が目覚めなければ、また剣を取るのだ。

 

 

「くそっ! 必ず止めてやるからな!!」

 

 

サキと美穂、二人は改めて戦いの否定を望んだ。

 

 

 

 

 

そして――。

見滝原を一望できる展望台。その頂点で、少女が腕を組んで立っている。

強風が長いツインテールの髪を大きく揺らした。少女は先ほどジュゥべえから死者を復活させるルールを聞き出した。

 

 

「織莉子のヤツは……、多分復活したか!」

 

 

だったらまた殺せばいい。

ユウリはそう思いながらニヤリと笑う。

 

 

「しっかし霧島美穂ォ、アイツせっかく私がきっかけを与えてあげたのに」

 

 

負の感情に呑み込まれ、まどかを殺してくれると思ったが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。

 

 

「つまらないヤツ」

 

 

ユウリは思考をめぐらせる。

美穂に撒いた種は芽を出す事は無かった。

しかしもう一つの方は順調に育ってくれている様で。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

ドラグブラッカーが出現してユウリの周りを旋回する。

 

 

「そうだ、もう一つは芽を出す筈!」

 

 

そうなればゲームはもっと加速してくれる筈だ。

早くして欲しい。もうペコペコなんだ。我慢するのはイライラする。

まあいい。ユウリは口が裂けるように笑い、天を見上げた。

 

 

参加者達(おまえら)、いい夢を! 次はアタシが永遠の眠りにつかせてあげるからね!!」

 

 

ユウリはクスクスと笑いながら、夜の空に溶けていくのだった。

 

 

 






登場人物紹介は次回更新します
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