仮面ライダー龍騎&魔法少女まどか☆マギカ FOOLS,GAME   作:ホシボシ

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第27話 芝浦淳 淳浦芝 話72第

 

 

ケーキ作りの次の日。学校が終わり、手塚は帰路についていた。

昨日の事があったからなのか、カードが増えたらしい。

それを取り出し、見つめながら歩く。そして人気の無い道に通りかかった時だ。

 

 

「グェエエッッ!!」

 

「!!」

 

 

声を上げて飛び掛ってくる影。

手塚はハッとして前を向く。見えたのは、襲い掛かって来る異形。

反射的に地面を転がって攻撃を回避すると、その姿を確認する。

 

 

(鳥? 魔女か?)

 

 

違和感を抱いたが、このままと言う訳にもいかない。

すぐにデッキを構えて、前に突き出した。

 

 

「変身!」

 

 

ライアに変わる。

丁度いい、新しいカードの性能を試す時が来た。

襲い掛かる異形、"ガルドサンダー"の攻撃をかわしながら、カードをバイザーにセットしていく。

 

 

『トリックベント』

 

 

ふと、ライアは動きを止めて直立不動に。

そこを狙わぬ理由はない。ガルドサンダーは口から火球を発射して攻撃を仕掛けた。

ライアはそれを回避するのではなく、むしろ手を広げて全身で炎を受け止めた。

 

すると異変はすぐに起きる。

炎を受けたライアの身体が、鏡が割れる音と共に文字通り『砕け散った』のだ。

 

 

「!」

 

 

そして残るのはトランプの『ジョーカー』だ。

ガルドサンダーは全く予想していなかった展開に怯み、動きを止める。

 

 

「ハアッッ!!」

 

「グガェ!」

 

 

背後から現れるライア。その拳をガルドサンダーに叩き込んだ。

トリックベント、その効果は相手の攻撃を無効化する事にあるらしい。

身代わりを作り出し相手の隙を誘い、本体は任意の場所にワープを行う。

倒れるガルドサンダーに、ライアは止めを刺すためファイナルベントのカードを用意するが――

 

 

「グェエエエエエエエエエ!!」

 

「!!」

 

 

ガルドサンダーは火の鳥に姿を変えると、飛び去ってしまった。

すぐに追おうとするライアだったが、相手は既に空の上。

ライアはファイナルベントのカードを戻してアドベントを引き抜いた。

それをバイザーにセットして、エビルダイバーを呼ぶ。そうやっている間に、敵は完全に姿を消してしまった。

 

 

(逃がしたか……)

 

 

しかし敵としても、襲い掛かってきた割には随分とあっさりした引き際である。

 

 

(嫌な予感がするな。杞憂であってくれればいいが……)

 

 

そして時間が経ち、場面は真司に移る。

仕事が終わり、家に帰るためスクーターを走らせていると、なんだか熱を感じた。

 

 

「グゲエエエエエエエ!!」

 

「ッ!?」

 

 

上空から火の鳥が襲来。

それは真司の前方に着弾して、小規模の爆発を起こす。

急ブレーキを行ったが、転げ落ちる真司。

 

 

「な、何だ?」

 

 

目を凝らすと、爆炎からガルドサンダーが飛び出してきた。

 

 

「ゲェエエ!!」

 

「おわわわわぁ!」

 

 

ガルドサンダーの蹴りを、寸での所で回避する。

焦りながらも反射的にデッキを取り出して、手を斜めに突き上げた。

 

 

「へッ、変身!!」

 

 

龍騎に変わる真司。

再び飛び掛ってくるガルドサンダーを投げ飛ばす。

 

 

「なにッ!? なんだよ!!」

 

 

カードを構える龍騎。

受身を行ったガルドサンダーは、立ち上がり様に火の鳥へ変わると、上空へ飛翔する。

 

 

「待て!」

 

 

声をあげて追いかける龍騎だが、既にガルドサンダーは空の彼方に。

 

 

「な、なんだったんだ……?」

 

 

変身を解除する真司。

アレは何だったんだ。真司は仲間たち全員に連絡を取る事に。

もしかしたら自分以外の誰かが襲われる可能性もある。

真司は電話で今あった事を告げ、注意を促す。

 

 

「あ、もしもし。まどかちゃん? 実は――」

 

『うん、わかったよ真司さん。心配してくれてありがとう』

 

 

次はサキ。

 

 

「あ、もしもしサキちゃん? 実は――」

 

『了解した。気をつけるよ』

 

 

次はかずみ。

 

 

「あ、もしもしかずみちゃん? 実は――」

 

『うん、わかったよ! 蓮さんにも伝えておくね!』

 

 

次はほむら。

 

 

「あ、もしもしほむらちゃん? 実は――」

 

『ええ、わかったわ』

 

 

次は美穂。

 

 

「あれ? 繋がらない……」

 

 

一旦飛ばして手塚へ。

 

 

「あ、手塚? 実は――」

 

『ああ、俺も襲われた』

 

「えっ! マジかよ!?」

 

 

手塚の話を聞くに、襲ってきたのは同じモンスターだと言う事が分かった。

そして何をする訳でもなく撤退していった点も同じだ。

魔女ではなく、使い魔としても違和感がある。

だとしたらミラーモンスターの可能性があると、手塚は言う。

 

 

『俺とアンタが襲われたなら、相手は騎士を狙っている可能性があるかもしれない』

 

「騎士を!?」

 

『あくまでも俺の予想さ。まだ二人しかアイツに会ってないからな。とにかくお互い気をつけよう』

 

 

そう言い、二人は電話を切った。

騎士狙いか。真司は少し考えてハッと顔を上げる。

そういえば美穂に電話が繋がらなかった。念のため、もう一度美穂にかけてみる事に。

 

 

「………!」

 

 

しかしまたも通話できず。

もう時間的には家に帰っている筈なのに。

 

 

「ま、まさか……!」

 

 

真司は表情を変えて、スクーターを発進させる。

スピードを上げて美穂の住んでいるアパートにやって来た。

無性に焦る心を落ち着かせ、真司は美穂の住んでいる部屋のインターホンを鳴らす。

 

 

「美穂っ! 美穂!?」

 

 

反応が無い。焦りが強くなって、扉を叩く。

やはり美穂もガルドサンダーに襲われたのかもしれない。

 

ヤツは奇襲交じりのやり方で襲いかかってきた。

真司も手塚もソレに反応できたからよかったものの、もしも気がつかなかったら生身の状態で攻撃を受ける筈だ。

変身していなければ騎士はただの人間。致命傷は避けられないだろう。

 

 

(う、嘘だろ? 美穂……ッ!!)

 

 

まさか――ッ! まさか!!

 

 

「美――ッッ!」

 

「うるせぇえええええええええええ!!」

 

「ボッ!」

 

 

扉が勢いよく開いて真司を吹き飛ばす。

真司は衝撃でしりもちをつく。部屋の中からはいつもと変わらぬ美穂が現れた。

 

 

「今何時だと思ってんだバカ! うっさいのよ!!」

 

「………」

 

 

お前もうるさいよ……。

真司はそう思いながらため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご、ごめーん! 心配してきてくれたとは。あは、あははは」

 

「………」

 

「馬鹿とか言ったけどッ、本当はそんな事思ってないから安心してね!」

 

「………」

 

「や、やだ真司ちゃんったら、顔が怖いわよ?」

 

 

どうやら美穂はただお風呂に入っていただけだったらしい。

真司から事情を聞くと、流石に申し訳ないと思ったのか、部屋に招いてコーヒーを淹れる事に。

 

真司はジットリと美穂を見つめる。

美穂はごまかす様に笑って、コーヒーを前に置いた。

どこか釈然としない気持ちに包まれながらも、お礼を言ってコーヒーに口をつける。

 

 

「おいしい?」

 

「インスタントだろ? 別に普通だよ」

 

「私が淹れたのよ?」

 

「だからなんだよ」

 

 

美穂はつまらなさそうに肩を竦めた。

 

 

「私の部屋入るの、久しぶりじゃない?」

 

「そう言えば……、そうか」

 

「興奮してる?」

 

「だ、誰がするか!」

 

「私、今お風呂はいったから良い匂いだよ。嗅ぐ?」

 

「嗅ぐわけないだろ!」

 

 

コーヒーを吹き出しそうになる真司。

しかし、美穂が変な事を言うものだから、変に意識をしてしまう。

 

 

「好きなら好きって、言ってもいいのよ?」

 

「は、はあッッ!?」

 

 

ニヤニヤと笑みを浮かべ、ささやく様に美穂は言う。

 

 

「好きなんだろ? 私のことが」

 

「ば、馬鹿言え! 誰が!!」

 

 

さっさと離れる真司。

美穂は少し残念そうな顔をしたが、すぐに自分のコーヒーに口をつけた。

 

 

「まあいろいろ言ったけど、心配して来てくれたんでしょ? ありがとう」

 

「あ、ああ。とにかく何か変なことをしようとしてるヤツがいるかもしれないから、気をつけろよ……」

 

「アンタこそ、気合入れなよ」

 

「え?」

 

「守れよ、あの娘だけは絶対に」

 

 

まどかである事は分かっていた。

 

 

「実はな、私まどかちゃんを一瞬だけ殺しちゃおうかなって思ったときが……、あるの」

 

「え? な、なんでだよ!?」

 

「私も分からない。ただ一つだけ言えるのは、理由は一つじゃないって事。そんな単純なものじゃないんだよ、人間って」

 

 

真司は黙った。よく分からないが、よく分かる。

真司には理解できないことが沢山起こった。いろいろな意味でだ。

 

 

「今はもちろんそんな事ないよ。そもそも私、まどかちゃん好きだし。アンタよりもずっと」

 

「おい! なんだよそれ!」

 

「聞いて。でもさ真司。私はまどかちゃんのパートナーじゃない。それはやっぱり大きいと思うの」

 

 

それはルール上の意味であったり、精神面であったり。

 

 

「でも俺、ちょっと思うんだ」

 

「?」

 

「まどかちゃんは凄い、気がする。俺なんかよりもずっと大きく見えるときがある」

 

「ああ、確かに」

 

 

美穂はそういうと、冷蔵庫を指差す。

 

 

「あそこにさ、今日買ったビール入ってる」

 

「それがなんだよ」

 

「私らはさ、もう酒飲めるじゃん。20代だし」

 

「まあな」

 

「でも大人になった自覚ってある?」

 

 

免許だってそうだ。

真司はスクーターを乗り回しているが、子供じゃ免許は取れない。

ならば真司は子供じゃないのだ。法律的にももう大人だ。

けれども、思う。心は学生のときから何か少しでも大きくなったのだろうか?

 

 

「私はファムになる前、ちょっといろいろおかしかった。それはやっぱり私がガキだったからなのよ」

 

 

未熟だったからゲームの恐怖に呑み込まれた。

殺されるなら殺しても良い。裏切りそうな先に裏切ってしまえばいい。

そんな考えが頭を取り巻いていた。

 

 

「そういうヤツらはコレから出てくると思う。やっぱり、デッキとか持ってると気分が大きくなるって言うか……」

 

 

法に縛られない圧倒的な力は人を変えるものだ。

だからこそ、まどかのようなプレイヤーの凄さが分かると言うもの。

 

参加者の中には戦いを止めようと言うのが下らないだの。ふざけてるだの。弱いだのと言う奴がいる。

しかし美穂はその言葉を発せられる者が、本当の強者だと考えていた。

 

美穂は弱かったから戦おうとして、傷つけあおうと言う判断を選ぶ所だった。

他の参加者だってそうだ。譲れない想いを抱えて戦っている者もいるだろう。

だが、だからといって人の命を奪っていいのか?

 

違う、それは結局『願い』を言い訳にしているだけだ。

だけどまどかは傷つきながらも、泣きながらも戦いを止めようとしている。

何故? それが正しいと彼女は知っているからだ。

 

 

「………」

 

 

真司は頷く。しかし――

 

 

「まどかちゃんだけじゃない。俺は、皆を守る」

 

「!」

 

「言っただろ。俺は蓮も美穂も、手塚も皆守りたいんだ。だから戦いなんて止めたい」

 

 

それが城戸真司の純粋なる願いである。

 

 

「だから絶対に戦いなんて止めような」

 

「うん」

 

 

真司は美穂の肩に手を置いて言った。

二人はしっかりと見つめあい、力強く頷く。

 

 

「………」「………」

 

 

見つめあったはいいものの。

いつ目を反らせばいいのか。二人は完全にタイミングを見失う。

しかも真司にいたっては美穂の手に肩を置いている状況だ。

さっさと離せばいいのに中々どうして、うまくいかない。

 

 

「あ……、えっと」

 

「――ッ」

 

 

赤面していく美穂。

真司も頬を赤く染めてカチカチに固まる。

 

 

「あの……、手」

 

「あ、ああ。悪い悪い」

 

「や、やっぱり待ってッ」

 

「え!?」

 

 

しかし美穂がその手を握り締める。

どういう事だ? どうなるんだ? そんな事を考えたとき、真司の携帯が勢い良く音を立てる。

二人ともビクリと肩を震わせて、少し沈黙。だがすぐに美穂が電話を取るように薦める。

 

 

「も、もしもし」

 

 

電話の相手は大久保編集長である。

日曜予定していた取材を令子の代わりに行ってほしいとの事だった。

何でも有名なゲームメーカーの社長の息子が中学生と言う年齢でゲームの製作に携わっているらしく、その息子を一度取材してみてほしいとの事だ。

 

 

『令子には、最近噂のスーパー弁護士ってヤツにインタビューを頼んだんだ』

 

 

こっちのほうが盛り上がりそうだからな、そう言って編集長は笑う。

しかし真司の心に浮かび上がるあの人を小ばかにした笑顔。

念のためその弁護士の名前を聞いてみる。

 

 

『なんだったかな、北岡――』

 

「も、もういいです!」

 

 

とにかく、そんな訳で真司に取材をお願いしたとの事。

真司としても仕事を任されたという責任と喜びで、勢い良く立ち上がる。

 

 

「はい、分かりました! ジャーナリストとしてしっかりやってきます!」

 

『気をつけろよ、どら息子ってもっぱらの噂だからな』

 

「あ、じゃあどら焼き買っていけばいいですね!」

 

『馬鹿、そっちのドラじゃねぇよ!』

 

 

切られた。真司達は汗を浮かべて電話を見ていた。

とは言え、電話がかかって来たおかげで冷静さを完全に取り戻した二人。

明日は取材だ、今日は帰ると真司は告げる。

 

 

「うん、じゃあね」

 

「おう!」

 

 

美穂が突き出した拳に、真司も軽く拳を合わせる。

真司はスクーターに乗りこむと、自分のアパートを目指した。

 

 

 

 

 

一方、佐野のアパートでは百合絵が訝しげな表情を浮かべていた。

どうやら先ほどから深刻な表情を浮かべている佐野が気になって仕方ない様だ。

最近、様子がおかしい事は常々感じていた。

いつも上の空で、笑顔もつくり笑いだ。

 

ずっと追い詰められた様に苦しそうな表情をしているじゃないか。

にも関わらず、詳細を聞いても教えてくれない。

思い出すのは、大金が入ると言った仕事の事だ。

やっぱり何かあるんじゃないかと、どうしても勘ぐってしまう。

 

 

「やっぱり、何か……、あるんですよね」

 

「な、なんでもないって!」

 

「でも佐野さん苦しそう!」

 

 

佐野は言葉を詰まらせる。

実は殺し合いのゲームをしてます。パートナーが小学生の女の子で、自分の知らない所で死んでました。

どうにかするには、50人ほど人を殺すしかありません。運がよければ2人で済みます。

こんな事を言える訳がないのだ。

 

 

「………」

 

 

もしもあの時、ゆまを置いていかなかったら。そんな事ばかりを考える。

いや、いや、それは言い訳か。

もっと目の前にある問題を直視したくないのだ。

 

 

「佐野さん……!」

 

「へ?」

 

 

百合絵は泣きそうな表情で佐野を見ている。彼女への罪悪感へも募ってしまう。

しかし全ては百合絵と一緒に過ごすためのものなのだ。

そのためならどんな事をしてもいい。幸せになりたい。それは佐野の純粋な願いだ。

 

 

「佐野さん! 私は――ッ、貴方とずっと一緒にいたいです」

 

「百合絵さん――!」

 

「だから、お金なんて無くても……ッ!」

 

 

佐野は百合絵を落ち着けて、偽りの無い笑顔を向けた。

彼女の気持ちは本当に嬉しい。自分にはもったいない程の女性だ。

だからこそ百合絵には不自由のない暮らしをしてもらいたい。

 

愛が全てなんて綺麗ごとだ。佐野はそれを知っている。

やっぱり、なんだかんだ金はあった方がいい。

だが、だからと言って百合絵を他の男に渡す気もない。

 

 

「本当に心配ないよ百合絵さん。ちょっと疲れてるだけだからさ」

 

「だったら……、いいんですけど」

 

 

幸せを手に入れるには、ゲームで生き残るしかない。

織莉子の実力は安定しているし。インペラーの力が弱いとも思わない。

 

 

(佐野さん、上条くんには鹿目まどかが魔法少女だと言う事は絶対に伏せておいてください)

 

「………」

 

 

新しく入った彼女のパートナーが気になるが、どんな裏があるにせよ上手く立ち回ればいいだけの話だ。

佐野は百合絵を送り届けた後、ジュゥべえの名前を呼んでみる。

はじめは無反応だったが、ゆまの蘇生の事を持ち出すと、ジュゥべえは暗闇から姿を見せた。

 

 

『なんだよ』

 

「蘇生方法を再確認したいんだけど……」

 

『仕方ねぇな。じゃあもう一回説明するぜ』

 

 

パートナーが死んだ場合は、その事実を妖精サイドが時間差で相棒に伝える。

これはパートナーと未契約の場合でも適応される。

佐野の場合はこれにあたると。

 

 

『ルールにより、魔法少女は二回、騎士は一度だけ復活できる』

 

 

蘇生方法は同じ。

誰でも良いから50人殺すか、ゲームの参加者を2人殺すかだ。

その条件を満たせばすぐに蘇生しなくてもストックされ、かつそれはパートナーが死ぬ以前から達成しても条件達成とみなされる。

 

 

「ちなみに、現在、蘇生を行ったヤツはいるのか?」

 

『いるぜ。いるいる。一人じゃねぇぞ』

 

「!!」

 

 

そういえばパチンコ店での集団失踪事件や、高速道路での大型バス爆破事件。

佐野の脳裏に様々な事件が浮かんでくる。

それがゲーム参加者の手によって行われているものだとすれば、ゾッとしてしまった。

もしかしたら無差別に殺していく中に、百合絵が入っていたかもしれないのだ。

 

 

『いい事じゃねぇか、それだけゲームに勝ちたいんだろ』

 

「ぐっ!」

 

 

ジュゥべえは笑みを浮かべる。

心がないと言っておきながら、焦りを焚きつける方法を熟知している様だ。

そんなわけで、早速佐野に選択を迫った。もちろんそれは佐野がゆまを蘇生させるのかどうかだ?

 

 

『テメェだって分かってる筈だ。このゲームでパートナーがいない事の不利さが』

 

「………」

 

『パートナーは仲良しの象徴じゃねぇ。スペアなんだよ。データが消えないようにバックアップを取るのと同じだ。保険だよ保険』

 

 

まあいいや。

話の続きだとジュゥべえは言う。

 

 

『騎士の蘇生システムについては、その細部が魔法少女とは大きく異なる』

 

「!」

 

 

騎士が復活できるのは一度だけだが、純粋な蘇生ではない。

 

 

『まず騎士が先に死んだ場合、如何なる状況においてもミラーモンスターが復活する』

 

 

デッキを破壊され様が、ミラーモンスターが死んでいた場合であろうがだ。

ジュゥべえは佐野の場合で説明を行う。佐野がゆまよりも先に死ねば、ギガゼールが蘇生されてゆまの命令に忠実に従う下僕となる。

 

 

『そして、蘇生させるまでにミラーモンスターが死ねばアウトだ』

 

 

指定人数の殺害に加え、蘇生までミラーモンスターを失わない事が条件とされる。

ミラーモンスターは常にアドベント状態となり、カードにして隠す事ができない。

では何故ミラーモンスターを失ってはいけないのか――?

 

 

『それは、ミラーモンスターが媒体となるからだ』

 

「?」

 

『ミラーモンスターはテメェらの分身、つまりは新しい身体となる』

 

 

だからこそ――

 

 

『騎士が復活した場合、テメェらは永遠に変身を解除する事ができない』

 

「は!?」

 

『お前だったら、一生インペラーの姿で暮らすのさ!』

 

「マジで!?」

 

『ああ。人間の姿を失うと言う事だ。食事もとらなくていい身体になる。便利だろ?』

 

 

ジュゥべえはそう言うが佐野にとっては頭が真っ白になる話しだ。

あまりにも魔法少女とは違っているリスク。ジュゥべえはそれが代価だといった。

 

 

『魔法少女の連中は既にもう死んでるのさ、だけどお前らは生きてる。このくらいの差があっても仕方ないだろ?』

 

 

それに魔法少女の方を蘇生させる回数を増やした方がよほどいいとジュゥべえは言う。

 

 

『宇宙のエネルギーを搾取するためにもな』

 

「くそっ! ふざけやがって!! 人の命をなんだと――」

 

『おいおい、冗談じゃないぜ。ナメてんのかテメェは』

 

「ッ!?」

 

『特に関わりもしなかったパートナーが死んだ途端、大人しくなりやがって。なんだ? 今になって中途半端な罪悪感かよ』

 

「それは……!」

 

『パートナーがガキだったって知ってどうなるよ? 今更どうなる? 第一、お前がゆまに何をしたんだよ。何もしてねぇだろ。関わることを放棄したくせに!』

 

「あ、あれはアイツに親がいると思って――」

 

『人間様お得意の言い訳だよな。全て結果論だぜ?』

 

「待てよ、それとコレとは違うだろ!」

 

『じゃあ良いじゃねぇか、さっさと蘇らせれば。そんで可愛がってやれよ』

 

 

もう既に蘇生を行った連中はいる。それに佐野は騎士だ、人間よりも優れた力を手にした存在。

つまり人間の上位となる位置に立っているのだ。食物連鎖はインペラーの下に『人』を示した、何もできない肉の塊なんて一撃で蹴り殺せる。

 

だったら佐野は50回蹴ればいいだけ、それで簡単にゆまを蘇生できる。

佐野は百合絵以外はどうなってもいいと言っていた。何を躊躇う必要があるのか、ジュゥべえには本気で理解できなかった。

 

 

『オイラはテメェにデッキをやった。それは結局テメェと言う人間を見てデッキを与えたのさ』

 

 

佐野満と言う人間は、今まで努力を怠ってきた。

勉強も適当、進路も適当、そのくせ自己主張だけは一人前に。

 

 

『努力もしないで生活だけは上の方を望みやがる。そんなのは普通に生きていれば不可能なんだよ』

 

 

普通に生きていれば。

 

 

『お前は騎士っていう力があんだろうが。金が欲しいならメガゼールに銀行でもなんでも襲わせればいい』

 

「ッッ!!」

 

 

そのとおりだ。金を手に入れようと思えばなんだってできた筈。

なのに佐野満は今までそれをしなかった。気がつかない馬鹿じゃない、明確な理由があって逃げてきた。

 

 

『なんでだ? 決まっている。お前は自分の手を汚すのが嫌なんだろ?』

 

 

そうだそうだ、そうに違いないとジュゥべえは笑う。

 

 

『お前、鹿目まどかを攻撃したときも、ライアを攻撃した時もそうだ』

 

 

本気で殺す気なんて無かった。

そしてそれは手加減をしたのではなく、殺せるだけの度胸が無かっただけだ。

 

 

『クソみたいな良心は捨てろ。モラルに縛られるな! まともなお頭じゃ50人も殺せねぇぞ』

 

 

手加減をした? 邪魔が入った? 

言い訳を並べているがそうじゃない。はじめから殺意なんてこれっぽっちもなかったのだ。

さやかを絶望させた時も、自分は手を下していないから悪くはないなんて心の中で『逃げ道』をつくってる。

 

 

『あの百合絵って女への罪悪感か? それとも決めきれてねぇのか?』

 

「俺は……、俺はただ――ッ」

 

『いいじゃねぇか。殺さなきゃ殺されるのがこのゲームだ』

 

 

誰も、お前を責めたりはしない。

ジュゥべえはこの部分を強調した。

 

 

『まあとは言え、オイラはお前の考えを尊重したいとは思うぜ』

 

 

ゆまを蘇生させないならそれでもいい。全ては佐野の自由だ。

そして去り際に一言。それは二回目の魔法少女の蘇生についてだ。

基本的には条件こそ同じだが、難易度は少し上がると言う。

参加者を二人殺せばいいのは変わらないが――

 

 

『一般人の場合、二回目は100人だ』

 

「!」

 

『そこまでして勝ちたいと思えるヤツを、オイラは応援したいね』

 

 

笑いながらジュゥべえは佐野の前から姿を消していく。

言いようのない焦燥感、佐野は畳を殴りつけて、歯を食いしばるしかできなかった。

 

 

翌日、土曜日。

佐野は百合絵に連れられて、少し大きめの公園にやって来た。

百合絵なりに佐野を元気付けたいらしく、なるべく一緒にいたいとの事だった。

 

快晴の空の下、二人は手を繋いで共に公園を散歩していく。

池にいる鯉に餌をやったり、ハトに餌をあげたりと特別刺激もない時間だったが、佐野は楽しかった。百合絵だって笑っていた。

 

 

「はい、どうぞ佐野さん」

 

「ありがとう」

 

 

百合絵が買ってきたジュースを受け取る。

二人はベンチに座ってしばらく何をするでもなく時間を過ごした。

チラチラと佐野の表情を伺いながらジュースを飲む百合絵。

対して佐野は、百合絵の視線には全く気づかず、ひたすらに今後の事について思考を巡らせる。

 

 

(なんでオレはこんなにビビッてんだ……)

 

 

そもそも今まではパートナー無しで十分うまくやってきたんだから、今更気にする事なんて何も無いはずだ。

ましてゆまは小さな子供。復活させた所で味方になるとは思えないし、なった所で戦力的な問題がある。

 

 

(そうだ、あんなガキ、気にする必要なんて無い)

 

 

そんな佐野の様子を、百合絵は悲しげな表情で見つめていた。

やはり佐野は何かに追い詰められている。百合絵はそう思い、なんとか気を紛らわせようと話題を探す。

こうしてコミュニケーションをとっていけば、佐野の方から頼ってくれるのではないかと思ったからだ。

 

 

「佐野さん、始めて会った時の事って覚えてますか?」

 

「え? あ、ああ。もちろん……!」

 

 

昔はあまり思い出したくない。淀んだ記憶ばかりだ

だけど百合絵と一緒にいる時間は輝いて見えた。物心ついたくらいから出会い、それから親達の事もあって、結婚を意識する様に育てられてきたっけ?

 

 

「だけどオレあんまり成績よくなかったでしょ? でも百合絵さんは優秀で」

 

「そ、そんな事……」

 

 

しかも百合絵は清楚、上品、まさに箱入り娘のお嬢様だ。

対して佐野は父親に反抗的だったり、自由に生きていったりと、百合絵と釣り合うとは到底思えなく成長していった。

佐野もそれは分かっていたのだろう。いつだったか百合絵に言った事がある。

 

 

『本当ゴメン。オレ百合絵さんを幸せにできる自信なんて無いよ』

 

『え?』

 

 

そんな事を言うと、百合絵は悲しそうな表情を浮かべた。

 

 

『いやいや。百合絵さんはずっとオレといるせいで、他の男の人と触れ合う機会が無かっただけだよ』

 

『ッ』

 

『ほら、世の中広いじゃん。オレみたいなヤツよりよっぽど百合絵さんと合ってるヤツが――』

 

『そ、そんな事ないです!!』

 

 

目を丸くする佐野。

百合絵が声を荒げるのは非常に珍しい事だった。

 

 

『私は佐野さんがいいんです!!』

 

『……ま、マジ?』

 

『そうです! 別に幸せじゃなくてもいいですから!!』

 

 

あの時は嬉しかったし、同時に百合絵を本当に幸せにしたいと思った。

だが現実はそんな簡単にはいってくれない。

結局は父親との縁を切り、百合絵からも距離を離す事に。

 

だから佐野は勝たなくてはいけないのだ。

 

ジュゥべえの言うとおり、金を手に入れるだけならば方法なんていくらでもあるだろう。

そこはやはり佐野の中途半端な罪悪感があるのかもしれない。

いや、違う。自分と言うよりは百合絵への罪悪感か。

 

 

(大丈夫、大丈夫だオレ)

 

 

織莉子に手を貸すと言う事は、自分の身を守る事にも繋がる。

佐野だって王蛇ペアやユウリの様なプレイヤーの危険性を理解しているつもりだ。

ヤツらの様な化け物は参加者の皆殺しを考えている。流石に一人じゃ彼らに勝つことは難しい。

 

 

「でもどうして百合絵さんはそこまでオレの事――」

 

 

百合絵は首を振る。

佐野は自分の事を卑下しすぎだと。

 

 

「私は佐野さんが優しい事を知っていますから」

 

「……優しい、か」

 

 

佐野はその言葉を受け止める事はできない。

きっとこれからも織莉子の害とされる参加者を傷つけていく筈だ。

そして最悪の場合、魔法少女や騎士、どちらかを殺す事になるのかもしれないのだ。

 

 

「ギィイイイイイイ」

 

「………」

 

 

佐野は水面に写るメガゼール達を見る。ガゼルモンスター、その性質は"絆"。

果たして今、佐野は誰との絆を求めている? 織莉子か? 千歳ゆまか?

ただ一つ分かるのならば、百合絵との絆だけは守らなければならないと言う事だ。

どんな事をしてでも――

 

 

「あ!」

 

「!」

 

 

声を上げる百合絵。

佐野が彼女の視線を追うと、そこには地面に倒れている小さな男の子が見えた。

きっとはしゃいでいる所で転んでしまったのだろう。

男の子は痛みからか、涙を浮かべて起き上がる。

 

 

「かわいそうに。ぼく、大丈夫?」

 

「あ……」

 

 

百合絵は男の子に駆け寄ると砂を落としてあげた。

怪我はしていない様なので、良かったと笑う。

 

 

「痛かったね。よしよし」

 

「うん……っ」

 

 

男の子を撫でる百合絵、佐野もやって来る。

 

 

「大丈夫? 気をつけなよ」

 

 

佐野はポンポンと男の子の頭を叩く。

 

 

「――っ」

 

 

その時、一瞬だけだが男の子の姿にゆまが重なった。

 

 

(そんな、馬鹿なッ)

 

 

佐野はすぐに頭を振ってその幻影を振り切る。

 

 

(あんなガキの事なんてどうでもいいだろ!?)

 

 

どうでもいいヤツなのにどうして自分は――!

 

 

「あ、ごめんなさい!!」

 

「え?」

 

「たっくん大丈夫?」

 

 

走ってくる女の子。どうやら男の子の姉らしい。

弟の無事を確認すると百合絵にお礼を告げる。

そして当然、佐野にも。

 

 

「ごめんなさい! わたしが目を離しちゃって――!」

 

「ああ、いや。別にいいんだけどさ」

 

 

佐野の目が見開かれる。

同時に少女も気がついたのか、驚きの表情を浮かべて固まった。

それもその筈だ、佐野の前にいるのは鹿目まどかだったのだから。

 

佐野は襲い掛かった身。

まどかは襲われた身。それぞれは最悪のエンカウントを果たしてしまった。

 

 

「えっと――っ」

 

 

緊張したように、まどかは震え始める。

佐野はすぐにこの場を離れようとするが、そこで百合絵が笑顔を浮かべた。

 

 

「もしかして佐野さんのお知り合いですか?」

 

「え?」

 

「!!」

 

 

百合絵はまどかに笑いかけて自己紹介を行う。

幼馴染である事、そして婚約者である事もだ。

その事実にまどかは驚き、もう一度佐野を見る。複雑な笑みを返された。

 

 

「あ、まあね。その――、ちょっと友達の友達、みたいな」

 

「へぇ、そうだったんですか! お名前は?」

 

「え、えっと! 鹿目ッ、まどか――! です!」

 

 

百合絵はまどかと握手をしている。

戸惑うまどか。視線を佐野に移すと、口ぱくでメッセージを送られる。

 

 

『ごめん』

 

「………!」

 

 

まどかは佐野の言葉に気がつくと、ほぼ無意識に声をあげる。

それは混じりけの無い、まどかの意思を示すものでもあった。

 

 

「少し、お話しませんか?」

 

「……ッ!!」

 

 

まどかの強い視線を感じて、佐野は目を反らす。

 

 

 

 

 

 

 

「………」「………」

 

 

水面を見つめたまま沈黙する佐野とまどか。

少し離れた所ではタツヤと百合絵が楽しそうに遊んでいる。

対して佐野達はやはり何も言わず、目も合わさず時間を過ごしていった。

しかしその内、その空気に耐えられなくなったのか、佐野の方からまどかに声をかける。

 

 

「オレ、怖い?」

 

「最初は……、ちょっと。でも今は大丈夫です」

 

 

まどかはそこでもう一度佐野を見る。

 

 

「佐野さんは、どうして騎士になったんですか?」

 

「聞いてどうすんのさ? やめておいた方がいいよ」

 

「知りたいんです。どうして佐野さんが、こんなゲームに参加するのか」

 

 

沈黙する佐野。

しかしそれは答えとしてまどかに写った様だ。

 

まどかも最初はこのゲームに参加する人たちの心が全く分からなかった。

しかし時間が経つにつれて、騎士達の懸ける想いに少しずつだが気がついてきた。

それは魔法少女として契約を果たした自分だってそうじゃないか。

 

 

「百合絵さんを守るためですか?」

 

「まあ、それもあるよ。それだけが理由じゃないけど」

 

「?」

 

「そんなに綺麗な理由じゃない」

 

 

佐野はそう言って自虐的な笑みを浮かべる。

きっとまどかは、佐野が戦わなければいけない状況にあるとでも思っているのだろう。

百合絵を守るために織莉子に協力せざるを得ない状況にあるとか、そんな『ありきたり』な予想を立てているのか?

 

 

「要するにさ、オレは自分のために騎士になったんだよね」

 

 

佐野はすぐにまどかが魔法少女になった理由を聞いた。

 

 

「わたしは、人を守りたいから……」

 

「ふーん。ってかさ、何でそんな事聞くの? 知ってキミはどうしたいのさ」

 

 

わざわざ襲い掛かってきた敵に近づいて話しを聞こうなんて危険にも程がある。

 

 

(まあ、攻撃しないオレもオレなんだろうけど……)

 

 

そういった事をまどかにぶつける佐野。

まどかは苦しそうに表情を変えて、しばらくは沈黙した。

 

 

「わたし……、戦う人達って、酷いって思ってました」

 

 

人の事なんて考えていない最低な連中、そんな事をさやかは言っていた。

まどかはそれを口では否定すれど、心の中では同じ事を思ってしまったのかもしれないと。さやかを殺し、ゆまの様な小さな娘を殺す。そんな人がゲームに参加しているという事実に、疑問と恐怖を抱く。

 

 

「千歳ゆま……」

 

「はい、わたしの友達です」

 

「……ッ」

 

 

しかしと、まどかは色々考えて考え抜いた。

そして少しだけ考え方を変えたのだと。

 

 

「もしかしたら皆、いろいろ事情があるんじゃないかって」

 

「は?」

 

「戦う人も、殺し合いを楽しむ人だって昔いろいろあったから……」

 

 

佐野は大きく首を振る。彼女は何を言っているんだ?

 

 

「そんなの知ってどうするんだよ! 何言ってるか分かってる?」

 

「わたしは止めたいんです。どうしても戦いを!」

 

「理由を知った所で戦いは止まらないよ。ソイツを理解した所で今更遅いんだ」

 

「そんな事……!」

 

 

まどかは口を閉じる。

まだ上手く口にはできないが、それを理解すれば、いずれ皆で協力できる鍵になるのではないかと思っているのだ。

 

 

「ふーん……」

 

 

馬鹿な娘だ。佐野は心の中でつくづくそう思う。

しかしそう思う中で、無意識に言葉を放つ。

 

 

「ゆま……」

 

「え?」

 

 

やばい。佐野は不思議そうな目で見てくるまどかに、苦笑いを向ける。

佐野は心にチラつく千歳ゆまの影を、未だに振り払う事ができない点を疑問としていた。

深く関わった人物ならまだしも、あんな数分会話しただけの子供に何故自分は……?

 

 

「ゆまちゃんが、どうかしたんですか?」

 

「一番小さい娘だとか聞いたんでさ。何か知ってるの?」

 

 

頷くまどか。そのまま佐野に軽くゆまの情報を告げた。

使い魔に襲われていたところを助けたが、実は魔法少女だったと言う事。

マミと共に暮らしていたが、ゲームに巻き込まれて色々心に傷を負ってしまった事。

佐野はその中で、またも反射的にまどかへ質問を投げ掛けていた。

 

 

「ゆまちゃんは、どうして魔法少女になったの?」

 

「それは――」

 

 

言葉を詰まらせるまどかと、何故かイライラしてしまう佐野。

どうしても知りたい、何故かそんな事を思ってしまう。

 

 

「オレ、アイツのパートナーなんだよ。だからさ、教えてくんない?」

 

「え! そうなんですか!!」

 

 

だったらと、まどかはゆまの事をより深く話し始める。

 

 

(ちょろいな)

 

 

佐野はそう思いながらも複雑な感情を膨らませる。

まどかはどうしてココまで人を信用できる?

パートナーだからなんなんだ。騙されると言う可能性を限りなく低く見ているとしか思えない。

 

 

「ゆまちゃん。実は――」

 

「………」

 

 

そこで佐野はゆまが両親に受けていた虐待の事を知る。

 

 

(親に……、受けた暴力って、なんだよ)

 

 

親を見限った自分と、親に見限られて育ったゆま。

根本的な部分に共通点があったのかもしれない。

佐野はますますどうしていいか分からなくなってしまう。

ゆまは一体何を望んで戦っていたのだろう? 自分の様に、ただ幸せになって――

 

 

「クソッ!」

 

「!」

 

 

柵を殴りつける佐野。もういい加減にしてくれ、そう叫びたかった。

今やっと理解できた、今やっと気づくことができた。

千歳ゆまが気になっていた理由も、鹿目まどかに苛立ちを覚えていた理由もよく分かる。

 

鹿目まどかの考えは。千歳ゆまの存在はあまりにも綺麗で。あまりも儚すぎる。

それはまるで百合絵のようだ。そうだ、綺麗なものは綺麗なものを身につければいい。

好きな人ならなおさらだ。綺麗な人に、汚いモノは相応しくない。

 

 

「うぉーい! まどかちゃーん!!」

 

「!!」

 

 

間抜けな声が(佐野視点)して、二人は声がした方向を見る。

そこには馬鹿みたいに(佐野視点)手を振ってコチラに走ってくるマヌケ(しつこい様ですが、佐野視点)そうな男が。

 

誰だ?

佐野は目を凝らして男を見る。

まどかの知り合いらしい。笑顔で手を振っているじゃないか。

 

 

「!!」「!?」

 

 

その男――、城戸真司と佐野満の視線がぶつかる。

双方しばしの沈黙。

 

 

「「あああああああああああああああ!!」」

 

「?」

 

 

互いを指差し後ずさる佐野と真司。

それが意味する所はつまり。

 

 

「お前ッ!!」

 

「先輩!!」

 

 

二人は知り合いと言う事だった。

 

 

 

 

 

真司は明日、この近くにあるカフェで取材があるらしく、場所を下見に来ていたらしい。

その帰り際にまどかを見つけたとの事だったが、まさかそこに過去の知り合いがいたとは思わなかったろう。

 

 

「へぇ、じゃあ二人は高校で?」

 

「まあ、サッカー部で少しだけ」

 

 

しかし佐野が先に辞めて、以後は連絡が途絶えたと。

少し前に連絡があって、話を聞いてみれば金を貸してくれだのと言ってきたのを覚えてる。

 

 

「そ、そりゃあ先輩が馬……、頼りになるからですよぉ! 嫌だなぁ!」

 

「お前今、馬鹿って言わなかったか!?」

 

 

いえいえと苦笑する佐野。

だが、すぐに強烈な違和感を覚える。

 

真司がココにいるのは何故だ? 

どうやらまどかの知り合いだった様だが、接点がまるで分からない。

そしてまどかは魔法少女、つまりそれは――

 

 

「佐野さんはゆまちゃんのパートナーなんです」

 

「お、おまえ騎士だったのか!」

 

「………」

 

 

やはり真司も騎士だった。佐野は表情を歪める。

あの赤い龍を使役した姿は、今も佐野の心に深く刻まれている。

薄々そんな気配はしていたが、まさか本当に知り合いが騎士になっているとは。

 

 

「お前ッ、まさか戦いに乗ろうとか思ってないだろうな!」

 

「え!? あ、えーっと――ッ! やだなぁ先輩! 当たり前じゃないですか!」

 

 

佐野は作り笑いを浮かべて真司のご機嫌を取る。

まどかには視線を移せない。少なくとも襲った事があるなんて言われたら、戦闘は避けられないだろう。

 

 

「ホントかぁ?」

 

「ほ、本当ですってばぁ!」

 

 

怪しいとばかりに睨んでくる真司を受け流し、佐野は笑みを深くする。

早く終わって欲しいと願うが、助け舟は意外なところから放たれた。

 

 

「本当だよ。佐野さんは優しい人ですから」

 

「!」

 

 

その言葉を言ったは紛れもなく鹿目まどかである。

真司はだったらと。佐野を疑う事を止めた様だが、肝心の本人は目を見開いてまどかを見ていた。

まさか助けたのか? まどかもインペラーの事を忘れた訳じゃあるまい。

 

佐野はしばし、信じられないといった表情でまどかを見ていた。

優しい? 何故そう思う? 佐野には分からなかった。

 

 

「………」

 

 

佐野はチラリと百合絵を見る。現在、まどかの弟と楽しそうに遊んでいた。

それを、まどかも嬉しそうに見つめていた。

佐野にとって、何故かそれが堪らなく不愉快だった。

 

 

「――よ」

 

「え?」

 

 

佐野はデッキを取り出すと、それを真司に向けて突きつける。

 

 

「オレ、まどかちゃんを殺そうとしたんですよ!」

 

「なッ!!」

 

「さ、佐野さん!?」

 

 

目の色を変える真司。

対してポーズを決める佐野。今の言葉に偽りなど無い。自分は鹿目まどかを襲った、ただそれだけだ。

 

 

「オレがゲームに勝ち残る為にね!」

 

「お前ッ!」

 

 

戦わなければまどかが傷つく。

真司は自らもデッキを取り出して前に突き出した。

 

 

「やめろッ! 俺達に戦う気なんてないんだ!」

 

「オレにはあるんすよねぇ」

 

「佐野さんッ!」

 

 

まどかの呼びかけには応えない。

真司は戦いが始まる事を予想して、まどかに魔法結界を張る様に頼む。

ココで戦う事になれば、公園に遊びに来ている他の人達に危害が加わるかもしれないからだ。

 

 

「………っ」

 

 

しかし、まどかは変身せずにジッと佐野を見つめるだけ。

不安そうな表情ながらも、目はしっかりと佐野の目を捉えている。

 

 

「まどかちゃん!?」

 

「佐野さん……」

 

「―――ッッ!」

 

 

まどかに呼ばれ、佐野の動きが止まる。

しばらく仮面の様な笑みを貼り付けたまま沈黙していた。

一体どういう状況なのか。真司はどうしていいか分からずに、二人を交互にみる。

まどかは相変わらずジッと佐野を見るだけだ。

それから十秒くらい経った頃だろうか?

 

 

「ちッ!」

 

 

佐野はばつが悪そうな表情を浮かべてデッキをしまう。

安心した様に笑みを浮かべるまどかと、意味が分かってない真司。

 

 

「ど、どういう事だよ!? おい!」

 

 

真司は佐野に掴み掛かかろうとするが、まどかがそれを制する事に。

 

 

「よかった……」

 

「何で、オレが戦わないって分かったの?」

 

「だって、百合絵さんを見てれば分かるから。佐野さんが優しい人だって事」

 

 

まどかの言葉に、佐野はまたも表情を歪ませる。

あまり良い気分では無かった。まどかは何か根本的なことを勘違いしていないか?

確かに佐野は百合絵に対しては優しさを見せるだろう。

しかしまどかに――、ゲーム参加者に対しては敵意を向けるだけ。

 

そこを無視して、『良い人』のレッテルを貼られるのは、佐野としてはどうにも苛立つ話だった。

が、しかし、ココで戦うのは百合絵を巻き込むことになる。

 

 

「まどかちゃんって、結構ウザいね」

 

「え……」

 

 

それは、やはり、佐野としては嬉しくない。

だから小さくまどかを『刺す』くらいしかできなかった。

 

 

「駄目だよ。人にはいろいろ踏み込んで欲しくない部分があるんだから」

 

「そんな、わたしは……」

 

「おい! なんてこと言うんだよ!」

 

 

ムッとして近づいてくる真司。

佐野は唇を吊り上げ、後ろに下がる。

 

 

「先輩はどうして戦ってるんですか?」

 

「ッ! 決まってるだろ、参加者同士の戦いを止める為だよ」

 

「……それだけですか?」

 

「それだけって。それが一番だろうが!」

 

「オレは、オレの大切な人のために戦ってます」

 

 

たった一人を守るために戦う佐野と、参加者全員を止めると言う真司。

佐野の理由が蓮に通じる所もあって、真司は思わず沈黙してしまう。

佐野はその間に言葉を続ける。

 

 

「つまり、先輩とオレじゃ、背負ってるモンが違うんですよ」

 

「!!」

 

 

そう言って佐野は百合絵の所へ走っていく。

真司とまどかは複雑そうな表情でそれを見つめていた。

まどかはどうか知らないが、真司には見ているだけしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

翌日の日曜日。

真司は約束のカフェで件の中学生を待っていた。

何でも見滝原中学校に通っているらしく、つまりはまどかの後輩と言う事になる。

そんな事を考えているとカフェの前に止まるタクシー、中から現れたのは噂の『どら息子』だ。

 

 

「あ、芝浦淳さんですか? BOKUジャーナルの城戸真司です」

 

「ああ、アンタが記者さん。ふーん、見えないね」

 

 

真司は特に気にする事なかったが、思い切りタメ口の芝浦。

彼は真司の前にドカッと座り込み、店員に注文をとった。

 

 

「あ、今日は俺がおごりますんで、好きなモン飲んでください」

 

「別にいいよー、おれ金持ってるし。むしろアンタに奢ってあげようか」

 

「あ、じゃあ――……いやいやいや!」

 

 

真司は首を振ってそれを断る。

成程、確かに生意気そうなガキじゃないか。

しかし仕事は仕事だ。真司もそこは割り切って取材を始める事に。

 

 

「芝浦くんは中学生なんですよね、俺も見滝原に友達がいるんですよ」

 

「ふーん。まあ、おれあんま行ってないんだけどね学校」

 

「え? どうして?」

 

「だってつまんないじゃん。周りは馬鹿ばっかで、キモイ奴しかいないしさ」

 

「はぁ」

 

 

まあ真司も昔は学校が退屈で仕方なかったし、たまにサボっていたりもしたので、何とも言えない立場である。

ましてや中学男子と言うのは常に反発心と言い様の無いモヤモヤを抱えているものだ。

真司は割り切って質問に入る。

 

 

「オリジナルゲームをつくっていると言う事ですが、どんな内容のゲームなんでしょう?」

 

 

それを聞くと、芝浦は少し身を乗り出して真司を見た。

 

 

「あんたさ、ウチ会社のゲームやったことある?」

 

「もちろん」

 

 

芝浦の会社は。『トラスト』と言う名前のゲームメーカだが、その人気はかなり高く、知らない人間はいないだろう。

主にファミリー向けのゲームを無数にヒットさせており、中でも『バレッド』と言うサイのキャラクターは、日本だけでなく世界に愛されるゲームキャラに上り詰めていた。

 

もちろん真司もゲームをやった事がある。

純粋な横スクロールでありながら、奥の深い作りにハマっていたものだ。

 

 

「はぁ、アンタあんな子供だましのクソゲーに満足してんだ。凄いね」

 

「んなっ!」

 

「あんな糞幼稚なの。面白いとか言ってるやつの気が知れないな」

 

 

コイツ、嫌なヤツだな。

真司はジットリとした目で芝浦を見る。

それに自社のゲームではないのか?

 

 

「親父さんが作ったゲームでしょ? 馬鹿にするのは良くないよ」

 

「何? 文句でもあるの? 別に取材、止めてもいいけど」

 

「あっ! ご、ごめんなさい!」

 

 

ぐぬぬぬ、真司は心の中で拳を握り締めて必死に耐える。

 

 

「だったら貴方はどんなゲームを作りたいんですか」

 

 

その言葉に芝浦は楽しそうに笑いながら話を続ける。

 

 

「おれが作るのはね、面白いよぉ。オープンワールドのゲームなんだけど……」

 

 

見滝原の町を完全に再現する。

入りたい所に入れ、住民の顔もなるべく本物に近づける。

まさにもう一つの見滝原をモデリングしようと言うのだ。

水の中にも入れるし、そこで食事や結婚だってできる様にすると言った。

 

 

「町は見滝原の開発事業に合わせて更新していく。新しい店ができれば、それを作るんだ」

 

「じゃあ家にいながら自由に見滝原の町を移動できるって事ですか?」

 

 

成程、まあ確かにそれは面白そうかもしれない。

要するにシュミレーションゲームと言う訳か。

自分のアバターを操作して、電脳世界の見滝原を自由に動き回る。

 

 

「でもね、ほんっとに面白いのはココから」

 

「?」

 

 

そこでウエイトレスが芝浦の注文したジュースを運んでくる。

注文の品を芝浦が受け取ると、ウエイトレスは一礼して戻っていった。

芝浦は真司に、ジェスチャーでウエイトレスを見るように指し示す。

 

 

「アイツ今ジュースもって来たじゃん」

 

「はあ」

 

「アイツをぶっ殺せる」

 

「!?」

 

 

ゲームでは自分の好きなタイミングで人を殺せる。

例えば今ジュースを運んできたウエイトレスと全く同じ顔をしたヤツを、ナイフで刺し殺す事が可能だと。

それだけじゃない、やろうと思えば保育園に爆弾を投げ込む事や、結婚式の最中に火炎放射器で全員黒こげにもできると。

 

 

「楽しそうじゃない? ガキ拉致って、のこぎりでバラバラにもできるんだぜ?」

 

「なッ! 悪趣味だよそんなの」

 

 

難色を示す真司に、芝浦はヤレヤレと首を振った。

 

 

「あんた、まさかゲームと現実ごっちゃにしてない?」

 

「えぇ?」

 

「割り切ろうよ、ゲームはゲームでしょ!」

 

 

芝浦は挑発的な笑みを浮かべて、真司を見る。

 

 

「現実世界では、人間は常に抑制という名の檻の中だ。だからストレスが溜まるし、異常な犯行を行う輩が現れる」

 

 

だけどゲームの中の『現実』で、好きな事をできたなら。

 

 

「きっと世の中は良くなる」

 

「………」

 

「アンタだって、コイツ気に入らないなーとか、ムカつくなぁって思うヤツはいるでしょ? そー言うヤツを好きにできるんだよ?」

 

 

芝浦は楽しそうに真司に言った。

芝浦は自分の言っている事が何も間違って無いと思っている。

 

真司にはその純粋な狂気に少し気圧されていた。

確かに真司も気に入らない事を抱えて世の中を生きているが、その不満を抑制する事も人の義務ではないか?

 

別に芝浦の言っている事はそこまでおかしくはない。

何に、どんな想いを抱こうが、どこに何を重ねようがそれは人の自由だ。

グロテスクな映画をどう楽しもうが、それは勝手である。

 

ただ、どうにもこの芝浦と言う少年からは危険な香りを感じた。

フィクションとリアルをごっちゃにするなとは言うが、彼自身がその危うさを抱いているように見えてしまうのだ。

 

 

「ルールに縛られる人生なんてつまらないじゃん」

 

「………」

 

 

その時だった、真司の脳を揺らす耳鳴りが。

 

 

(魔女!? こんなときに!)

 

 

真司はすぐに周りを見回し、異変を探ってみる。

同時に笑い始める芝浦。真司が反射的に目を向けると、既に立ち上がっていた。

 

 

「ねえ、面白いもの見せてあげようか」

 

「面白いもの?」

 

「そ、ついてきてよ」

 

 

芝浦はそう言って席を立つ。

何だ? 真司は取り合えず芝浦についていきながら、魔女の気配をたどる事に。

気配は微弱。まだ結界を本格的に展開していないのだろう。真司は汗を浮かべながら、おかしい所が無いかを探っていた。

 

 

「ど、どこに?」

 

 

芝浦はどんどん店の奥に入っていくじゃないか。

スタッフしか入れない場所に、勝手に入ってもいいものなのか。

しかし同時に強くなっていく魔女の気配。

 

 

「ほら、今からアイツ死ぬよ」

 

「!」

 

 

芝浦が入ったのは倉庫。

そこには何と、先ほどジュースを運んできたウエイトレスが立っていた。

厨房から持ってきたのか、鋭いナイフを首もとに当てているじゃないか。

すぐに走り出す真司、申し訳ないと思いつつも、タックルを当てて自殺を防ぐ。

 

 

「アンタ何やって――って、これ魔女の!!」

 

 

その時、真司はウエイトレスの手の甲に『魔女の口付け』があるのを発見する。

人を死に至らしめる絶望の刻印。これを受けてウエイトレスは洗脳されてしまったのか。

真司はすぐに気を失った女性を安全な場所に移動させると、魔女の結界を探す。

 

 

「!」

 

 

しかしふと脳裏によぎる光景。

何故、芝浦はウエイトレスの死に気がついたのか?

 

 

「へぇ、驚いたな。アンタも関係者なんだ」

 

「!!」

 

 

芝浦は相変わらず笑みを浮かべている。

そして理解した。芝浦はウエイトレスに刻まれた魔女の口付けに気がついていたのだ。

真司はその意味を察し、思わず芝浦につかみ掛かった。

 

 

「何で助けようとしなかったんだ!」

 

 

芝浦の方が身長は低いが、全く怯む素振りはない。

むしろ真司を見上げながら相変わらずニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

 

「ウザいなぁ。別にいいじゃん、こうする事で魔女が成長するんだから」

 

「ふざけんな!」

 

 

そこで変わる景色。

どうやら魔女は真司達を獲物として認識したらしい。

結界に引きずり込んで始末するようだ。

 

 

「ほらほら、とりあえず魔女倒さないと」

 

「お前なぁ!」

 

 

芝浦は真司の腕を払いのけると、ポケットからカードデッキを取り出して見せる。

真司としても魔女は倒しておきたい、芝浦への不信感はあれど、真司もデッキを取り出して前に突き出した。

 

 

「やっぱりアンタも騎士なんだ」

 

「ああ。そうだよ……」

 

 

斜めに手を上げる真司。

一方芝浦は、腕を振り出して半円を描くように、上から下へ曲げた肘を振り下ろす。

その腕構えはまるでサイの角を表しているようだった。

 

 

「変身ッ!」「変身!!」

 

 

龍騎と、新たに現れる騎士、『ガイ』。

小柄な芝浦とは裏腹に、ガイは重厚な鎧に包まれた戦士だった。

それだけじゃない、変身した途端、身長が伸びたではないか。

龍騎とそう変わらないシルエットになる。ジュゥべえのアシストだった。シルエットで変身者を特定されるのを防ぐためだ。

 

 

「来るよ」

 

 

ガイの言葉と共に、フィールドがライトアップされる。

 

 

『bbbbbbbbbbbbbbbb!!』

 

「ッ!!」

 

 

コンセントを龍にした様な形状。

雷鳴の魔女『Lavinaia(ラヴィーナ)』は、有無を言わさず龍騎たちへ襲い掛かる。

構える龍騎。すると隣にいたガイが肩を叩いてきた。

 

 

「何だよ!」

 

「アンタは見てていいよ。おれ一人であんなの十分だし」

 

 

そう言ってガイは龍騎を突き飛ばす。

咄嗟のことであっけに取られ、龍騎はしりもちをついてしまった。

そうしていると既に魔女は、その巨体でガイに向かって突進をしかけてくるところだった。

 

 

「危ない!!」

 

 

龍騎が叫ぶ。

だが、ガイは既にカードを抜いていた。あとはそれを肩に装備されているメタルバイザーに向かって投げればいいだけだ。

メタルバイザーは近くにカードが来ると自動で展開し、カードを吸い寄せてセットする。

後はバイザーを閉めればいい。他のバイザーよりも速くカードを発動できる利点があった。

 

 

「無駄なんだよ」『ガードベント』

 

 

光がガイを包む。

変化といえばそれだけだが……。

 

 

『biiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!』

 

 

ガイに直撃するラヴィーナ。何と、彼女の巨体をもってしてもガイを怯ませる事はできなかった。

それどころかガイの防御力に逆にダメージを受けてしまった様だ。

弾かれ、倒れるラヴィーナ。ガイはさらに別のカードを発動する。

 

 

『フリーズベント』

 

 

ガイの右腕が白く輝き、その手で地面を叩く。

すると冷気の衝撃波が発生してラヴィーナに命中。みるみる魔女の身体が凍り付いていき。数秒後には完全に凍結している状態へと変わった。

 

 

「すご……」

 

 

思わずつぶやく龍騎。あんな大きな魔女を一発で凍らせるなんて。

一方でガイは余裕の振る舞いを見せつつ、自身の紋章が刻まれたカードを発動した。

そこで。思い出したかの様に龍騎を見る。

 

 

「あ。そこ危ないよ」

 

「え?」

 

 

龍騎の背後を示すガイ。

 

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「お、おわあッッ!!」

 

 

鏡が割れる音と共に魔女結界が破壊される。

姿を見せたのはガイのミラーモンスターである『メタルゲラス』だった。

サイの姿をしており、その突進で魔女結界を粉々に破壊しながらやってきたのだ。

その性質は『真実』。メタルゲラスは前方にいた龍騎に構う事なく、ガイのもとへ向かってくる。

 

 

「あ、あっぶねぇ!」

 

「だから言ったじゃん」

 

 

龍騎はなんとか回避する事に成功したが、あのまま突っ立っていたらメタルゲラスの角で弾き飛ばされていたことだろう。

ガイは、メタルゲラスの頭部を模した『メタルホーン』を装備していた。本来はストライクベントを使用することで装備されるのだが、どうやらファイナルベントを使うと自動的に装備されるらしい。

ガイは気だるげに歩き、メタルゲラスの前に立った。

 

 

「絶望して脱落した弱小プレイヤーなんて、いらないんだよなぁ」

 

 

龍騎には聞こえなかった言葉。

どうやらガイは魔女の正体が何であるか理解していた様だ。

魔女になった者たちは絶望してゲームに負けた弱者だ。

 

 

「そんな雑魚は、おれみたいな強いヤツの経験値を上げるエネミー風情がお似合いなんだよ」

 

 

ガイはジャンプし、背後に立っているメタルゲラスの肩に足を置いた。

 

 

「っていう訳だから。じゃーねー」

 

 

走り出すメタルゲラス。

ガイは地面と平行になりながらメタルホーンを突き出す。

それはガイ自身が『角』となる事。メタルゲラスはそのまま猛スピードで氷付けになっているラヴィーナに突進していく。

 

 

『―――――』

 

 

メタルホーンが氷を打ち砕いた。

"ヘビープレッシャー"。ガイのファイナルベントが豪快にラヴィーナを破壊する。

粉々になり爆散する魔女。どうやら戦いは終わったようだ。

龍騎はそのまま変身を解除しようとするが――

 

 

「ちょっと待ってよ」

 

「?」

 

 

崩壊していく魔女結界。

そして、新たに構成される魔法結界。

 

 

「まだゲームは終わってないよ」

 

「は?」

 

 

その時ガイの隣にふわりと降り立つドレス姿の少女。

龍騎は彼女がガイのパートナーであると同時に、この結界を構築したのだと把握する。

そして何よりも龍騎には少女の姿に見覚えがあった。

 

 

「キミは――ッ」

 

「ふふ♪ 双樹あやせです」

 

 

あやせはドレスの両端をつかんでお辞儀を行う。

龍騎は不信感を募らせながらも、先ほどの言葉の意味を問うた。

まだゲームは終わっていない? どういう意味なのか。

するとニヤニヤと、あやせが笑い始める。

 

 

「まだこの場に敵が残っているじゃない。ね? 淳くん☆」

 

「まあ、そゆこと」

 

「敵? 魔女がまだ?」

 

「はぁ……。アンタってホント、トロいんだね。頭にちゃんと脳みそ入ってんの?」

 

「なっ!!」

 

 

その意味が示すのはただ一つ。

敵とは龍騎視点ではなく、ガイ視点での事である。

 

 

「アンタだよ」

 

「え?」

 

「だ・かぁ・らぁ! アンタなの! 分かる? おれの敵はお前」

 

「な、何言ってんだよ!」

 

「いやそれコッチの台詞だから! 忘れてた? コレ、殺し合いのデスゲームでしょ」

 

 

ガイはそう言いながら龍騎に向かって歩き出す。

 

 

「あやせ、見てなよ。今からコイツぶっ殺すから!」

 

「うん♪ 淳くん頑張れー!!」

 

「なっ!!」

 

 

メタルホーンを龍騎に向けて。

 

 

 

 

 






ユウリの固有魔法が変身なのはオリジナルです。

原作じゃ明かされませんでしたが、原作での『願い』と、一度里美に変身していたのを見て『変身』にしました
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